公務員と28条(交渉のテーブルが無い)
28条の物差しと公務員
定義28条が守るのは、労働条件について使用者と対等に交渉する力です。
結論この物差しは、公務員にはそのまま当たりません。
理由公務員が交渉する相手の政府には、勤務条件を決める権限がありません。
- 決めているところ:国会が、法律と予算という形で勤務条件を決めています。
- 国会を選ぶ人:国民が、選挙で代表を選んでいます。
注意政府を飛び越えて国会に直接迫ると、選挙で選ばれた代表の決定を、一部の集団の圧力で動かすことになります。

28条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
公務員への2つの制約
注意最高裁は、労働基本権の制約について、三度違う答えを出しました。
変遷の軸は、制限してよい理由をどこに置くかの一点です。
現行法の三つの層(争議権だけは全員一律に否定)
公務員の労働基本権は、民間の労働者より大きく制限されています。
では、今の制度では、誰にどの権利が否定されているのでしょうか。

層1(警察職員など)
結論警察職員・海上保安庁や刑事施設の職員・消防職員・自衛隊の隊員は、団結権も団体交渉権も争議権も否定されています。
労働組合そのものを作れません。
注意消防職員は、国家公務員法108条の2第5項に入っていません。
消防は地方公務員なので、根拠は地方公務員法52条5項です。
108条の2|国家公務員法5項:警察職員及び海上保安庁又は刑事施設において勤務する職員は、職員の勤務条件の維持改善を図ることを目的とし、かつ、当局と交渉する団体を結成し、又はこれに加入してはならない。
層2(非現業の一般公務員)
定義現業とは、権力的な行政事務ではなく、企業の経営に近い事務に携わる職員です。
非現業は、それ以外の一般の職員です(役職の上下とは関係ありません)。
結論非現業の一般公務員は、団結権はあり、団体交渉権は一部だけ認められ、争議権は否定されています。
- 団体交渉権:交渉には応じてもらえますが、団体協約を締結する権利はありません。
108条の5|国家公務員法2項:職員団体と当局との交渉は、団体協約を締結する権利を含まないものとする。
層3(現業の一般公務員)
定義同盟罷業はストライキ、怠業はサボタージュのことです。
結論現業の一般公務員は、団結権と団体交渉権はフルに認められますが、争議権だけは否定されます。
条文現業の職員には、行政執行法人の労働関係に関する法律が用意されています。
17条2項は、使用者の側の作業所閉鎖も禁じています(第6節の理由③で使います)。
98条|国家公務員法2項:職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。
17条|行政執行法人の労働関係に関する法律1項:職員及び組合は、行政執行法人に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。また、職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、唆し、又はあおつてはならない。2項:行政執行法人は、作業所閉鎖をしてはならない。
3つの層の共通点
結論争議権だけは、全員一律に否定されています。
なぜ争議権だけがここまで一貫して否定されるのかに、最高裁の三度の答えがあります。
第一期:政令二〇一号事件(標語で切った時代)
争議権は、どの層の公務員にも一律に否定されています。
最高裁が最初に示した、制限してよい理由は何だったのでしょうか。
政令二〇一号事件
定義政令二〇一号とは、占領下で法律と同じ強い効力を与えられた政令の一つです。
国家公務員の争議行為を禁じていました。
事案国鉄の機関区に勤務する職員たちが、国家公務員法の改正に反対して行動隊を作り、職場を離脱しました。
理由判決は、2つの言葉を並べて制限を正当化しました。
- 公共の福祉:国民の権利はすべて公共の福祉に反しない限りで最大の尊重を必要とするので、28条の権利も公共の福祉のために制限を受けるのはやむを得ない、としました。
- 全体の奉仕者:国家公務員は国民全体の奉仕者として(憲法15条)公共の利益のために勤務するので、一般の勤労者と違う特別の取扱いを受けるのは当然だ、としました。
注意判決文に「13条」という条番号は出てきません。
使っているのは13条後段の文言と、「(憲法一五条)」という括弧書きです。
政令二〇一号事件最高裁判所大法廷判決標語による正当化国民の権利はすべて公共の福祉に反しない限りにおいて立法その他の国政の上で最大の尊重をすることを必要とするのであるから、憲法二八条が保障する勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利も公共の福祉のために制限を受けるのは已を得ないところである。殊に国家公務員は、国民全体の奉仕者として(憲法一五条)公共の利益のために勤務し、且つ職務の遂行に当つては全力を挙げてこれに専念しなければならない(国家公務員法九六条一項)性質のものであるから、団結権団体交渉権等についても、一般の勤労者とは違つて特別の取扱を受けることがあるのは当然である。
13条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
この判決の弱さ
結論どこまで制限してよいかの目盛りがありません。
標語を掲げただけで、程度の問題には何も答えていません。
理由12条・13条を全人権への外側からの一般的な制約と読む、一元的外在制約説と同じ発想で切っているからです。
この説には、法律の留保に逆戻りしてしまう弱点があります。
第二期①:全逓東京中郵事件(公務員も「勤労者」である)
第一期の判決には、制限の程度を測る目盛りがありませんでした。
最高裁は、次にどのような目盛りを置いたのでしょうか。
全逓東京中郵事件
定義全逓とは、郵便局員たちの労働組合です。
当時の郵政職員は、現業の国家公務員でした。
事案郵政職員の争議行為を教唆した(そそのかした)人が、郵便法違反で起訴されました。
- 根拠法:現業の職員には、国家公務員法ではなく公共企業体等労働関係法が適用され、その17条1項が争議行為を禁止していました。
結論破棄差戻です(有罪も無罪も言い渡していません)。
目盛りは示しましたが、当てはめは下級審に戻されました。
全逓東京中郵事件最高裁判所大法廷判決保障は公務員にも及ぶ右に述べた労働基本権は、たんに私企業の労働者だけについて保障されるのではなく、公共企業体の職員はもとよりのこと、国家公務員や地方公務員も、憲法二八条にいう勤労者にほかならない以上、原則的には、その保障を受けるべきものと解される。「公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」とする憲法一五条を根拠として、公務員に対して右の労働基本権をすべて否定するようなことは許されない。
保障は公務員にも及ぶ
結論公務員も28条の勤労者にあたり、原則として労働基本権の保障を受けます。
15条を根拠に、公務員の労働基本権をすべて否定することは許されないとしました。
理由判決文は、労働基本権を「憲法二五条の生存権の保障を基本理念とし」たものと位置づけています。
注意政令二〇一号事件と同じ15条を、正反対の向きに使っています。
- 政令二〇一号事件:制限してよい理由に使いました。
- 全逓東京中郵事件:この条文だけを理由に全部否定するのは許されない、と名指しで否定しました。
公務員だから、でひとまとめにする全体の奉仕者説の弱点を突いた形です。
15条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)2項:すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
25条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
制約の四つの考慮点
定義代償措置とは、取り上げた権利の代わりに、別の仕組みを用意しておくことです。
結論制限してよい場合の目盛りとして、4つの考慮点を置きました。
- 必要最小限度:労働基本権を尊重する必要と国民生活全体の利益を比較衡量し、制限は合理性の認められる必要最小限度にとどめます。
- 公共性:職務の性質が公共性の強いもので、その停廃が国民生活に重大な障害をもたらすおそれがある場合に限って考慮します。
- 刑事制裁:刑事制裁は必要やむを得ない場合に限り、同盟罷業・怠業のような単純な不作為を処罰することには特別に慎重でなければなりません。
- 代償措置:制限がやむを得ない場合には、それに見合う代償措置を講じなければなりません。
注意代償措置は、全農林警職法事件の理由として紹介されがちです。
しかし、この判決ですでに4番目の考慮点として置かれています。
全逓東京中郵事件最高裁判所大法廷判決制約の四つの考慮点労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して、両者が適正な均衡を保つことを目途として決定すべきであるが……その制限は、合理性の認められる必要最小限度のものにとどめなければならない。制約の四つの考慮点のつづきとくに、勤労者の争議行為等に対して刑事制裁を科することは、必要やむを得ない場合に限られるべきであり、同盟罷業、怠業のような単純な不作為を刑罰の対象とするについては、特別に慎重でなければならない。
第二期②:都教組事件と全司法仙台事件(処罰される行為を二重に絞る)
全逓東京中郵事件は目盛りを示しましたが、当てはめは下級審に戻しました。
では、最高裁は目盛りを実際にどう使ったのでしょうか。
都教組事件
定義一斉休暇闘争とは、全員そろって有給休暇を取る形の争議行為です。
事案東京都の公立学校の教職員組合(非現業の地方公務員)が、勤務評定の実施に反対しました。
都の教育長が話し合いを拒んだため、組合は一斉休暇闘争の指令を出しました。
- 起訴された人:争議行為そのものではなく、指令を配布し、趣旨を組合員に伝えた執行委員長ら組合の幹部です。
- 根拠法:地方公務員法37条1項が争議行為等を禁じ、61条4号があおる行為を処罰しています。
結論破棄自判・無罪です(最高裁が自分で無罪の結論まで出しました)。
処罰される行為を、次の二段で絞りました。
- 一段目:争議行為自体の違法性が強いことです。
- 二段目:あおり行為が、争議行為に通常随伴する範囲を超えていることです。
理由地公法61条4号は、争議行為そのものではなく、あおり行為等に限って処罰しています。
その趣旨からも、争議行為に通常随伴して行われる行為は処罰の対象になりません。
具体例指令を配ったり、趣旨を説明したりするのは、争議行為にごく普通に伴う行為です。
注意「二重のしぼり」「合憲限定解釈」という言葉は、判決文には出てきません。
判決がしたことに、学説の側が後から付けた名前です。
また、条文に書かれていない線を、最終的には裁判所が引くことになります(第7節で問題になります)。
都教組事件処罰される行為を二段で絞るそれは、争議行為自体が違法性の強いものであることを前提とし、そのような違法な争議行為等のあおり行為等であつてはじめて、刑事罰をもつてのぞむ違法性を認めようとする趣旨と解すべきであつて……
37条|地方公務員法1項:職員は、地方公共団体の機関が代表する使用者としての住民に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をし、又は地方公共団体の機関の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。
全司法仙台事件

事案新安保条約に反対する職場大会が、裁判所の玄関前で開かれました。
呼びかけた側には、裁判所の職員団体と関係のない第三者(他の省庁の労組役員や外部から派遣された活動家)が含まれていました。
結論都教組事件と同じ日に、同じ大法廷が、同じ二段の絞りを使いましたが、有罪維持でした。
理由二段の絞りのどちらにも当たりませんでした。
- 一段目:政治目的の争議行為は、違法性が強いと評価されます。28条が守る、労働条件について対等に交渉する力を使う場面から外れているからです。
- 二段目:組合員でも職員でもない第三者による呼びかけは、争議行為に「通常」付き物とは言えません。
注意組合支部の執行委員長(都教組事件の被告人と同じ立場)も、有罪になりました。
外部の人たちと組んで動いた以上、通常随伴する行為とは認められないとされたからです。
- 教訓:絞りがあること自体は、被告人を必ず救うわけではありません。
第三期:全農林警職法事件(一律禁止を合憲とした四つの理由)
第二期は、処罰される行為を二段で絞っても、結論が事実によって分かれました。
最高裁は、三度目にどこへ理由を置いたのでしょうか。
全農林警職法事件
事案農林省の職員で組織する労働組合(非現業の国家公務員)の役員たちが起訴されました。
- 目的:賃上げではなく、内閣が国会に提出した警察官職務執行法の改正案に反対する統一行動でした(政治目的のスト)。
- 行為:参加を呼びかける指令を出し、庁舎の各入口に人垣を築いて扉を縛りつけ、職員およそ2500人を入庁させないようにしむけました。
- 職場大会:正面玄関前の職場大会に、2000人以上が参加しました。
結論棄却・有罪維持です。
最高裁は、争議行為の一律禁止を合憲としました。
注意判決が判断したのは、昭和40年改正前の国家公務員法です。

注意条文番号がずれたのは、判決の後の法律の改正で、条文の位置が動いたからです。
短答で条文番号を問われたら、現行は110条1項16号です。
全農林警職法事件最高裁判所大法廷判決保障は公務員にも及ぶ(維持)公務員は、私企業の労働者とは異なり、使用者との合意によつて賃金その他の労働条件が決定される立場にないとはいえ、勤労者として、自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において一般の勤労者と異なるところはないから、憲法二八条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶものと解すべきである。勤務条件は法律と予算で決まる公務員の給与をはじめ、その他の勤務条件は、私企業の場合のごとく労使間の自由な交渉に基づく合意によつて定められるものではなく、原則として、国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によつて定められることとなつているのである。……政府が国会から適法な委任を受けていない事項について、公務員が政府に対し争議行為を行なうことは、的はずれであつて正常なものとはいいがたく、……憲法の基本原則である議会制民主主義(憲法四一条、八三条等参照)に背馳し、国会の議決権を侵す虞れすらなしとしないのである。限定解釈への疑いいずれにしても、このように不明確な限定解釈は、かえつて犯罪構成要件の保障的機能を失わせることとなり、その明確性を要請する憲法三一条に違反する疑いすら存するものといわなければならない。
保障は公務員にも及ぶ(維持)
結論公務員も勤労者として労働の対価で生活しているので、28条の保障は公務員にも及ぶとしました。
注意この出発点は、第二期から変わっていません。
変わったのは、制限してよい理由の置き場所です。
勤務条件は法律と予算で決まる(理由の中心)
結論公務員の勤務条件は、労使の自由な交渉による合意ではなく、国会の制定した法律・予算によって定められます。
理由政府が国会から適法な委任を受けていない事項について、政府に争議行為をすることは、的はずれです。
押し切れば、議会制民主主義(41条・83条等)に背馳し、国会の議決権を侵すおそれすらあります。
注意この理屈は「勤務条件法定主義」と呼ばれることがありますが、その言葉は法廷意見にはありません。
中身は、判決自身の言葉(法律と予算で決まる・的はずれ・議会制民主主義に背馳)で押さえます。
41条|第四章 国会(41〜64条)国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
83条|第七章 財政(83〜91条)国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。
13条の使い方
結論この判決も13条に触れますが、中身が違います。
「公共の福祉」を、「勤労者たる地位にあるすべての者を包摂した国民全体の共同の利益」と言い換えています。
注意第一期は標語をそのまま置いただけでしたが、この判決は同じ条文の中身を具体的な理由に入れ替えています。
一律禁止を支える四つの理由
定義ロックアウトとは、使用者が事業所を閉めて、労働者を締め出す対抗手段です。
結論一律禁止を合憲とした理由は、次の4つです。
- ①地位の特殊性と職務の公共性:公務員の勤務は、国民全体の利益と直結しています。
- ②勤務条件は法律と予算で決まる:政府への争議行為は的はずれで、議会制民主主義に背馳します(理由の中心)。
- ③対抗手段と市場の抑制力が無い:私企業にある作業所閉鎖(ロックアウト)や市場からの抑制力が、公務員の場合には働きません。
- ④代償措置:勤務条件についての周到詳密な規定と、準司法機関的性格を持つ人事院が置かれています。
理由①〜④の中身は、次のとおりです。
- ①:警察職員や消防職員が一斉に持ち場を離れれば、困るのは職場ではなく国民です。
- ③対抗手段:行政執行法人の労働関係に関する法律17条2項が、作業所閉鎖を禁じています。地方の現業も、地方公営企業等の労働関係に関する法律11条2項に同じ定めがあります。
- ③市場:民間企業は値段や品質で顧客に選ばれないと立ち行かず、それが争議行為への歯止めになりますが、公務員の仕事には競争相手がいません。
- ④:代償措置は、人事院勧告と行政措置要求の二本立てです。
注意代償措置は、全逓東京中郵事件の4番目の考慮点から引き継がれたものです。
86条|国家公務員法職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関し、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により、適当な行政上の措置が行われることを要求することができる。
全会一致ではない
結論田中二郎裁判官ほか四名の意見は、結論には賛成しつつ、15条2項の「全体の奉仕者」を制約の理由に使うことに疑問を投げかけています。
注意一律禁止の合憲は、全会一致で決まった話ではありません。
二重のしぼりの否定(31条)
全農林警職法事件は、勤務条件の決め方に理由を置いて、一律禁止を合憲としました。
では、都教組事件の二段の絞りは、なぜ捨てられたのでしょうか。
限定解釈への疑い

結論不明確な限定解釈は、かえって犯罪構成要件の保障的機能を失わせ、明確性を要請する31条に違反する疑いすらある、としました。
理由「争議行為自体の違法性が強い」「通常随伴する範囲を超える」という絞りが、新しい読めない線を作るからです。
その線がある限り、何が処罰されるのか、誰にも予測がつきません。
注意明確性の原則は、ふつうは曖昧な条文の書きぶりを狙って使います。
ここでは、条文を救うために裁判所が後から加えた解釈のほうを切りました。
31条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
裁判官の意見の違い
結論31条を手がかりにしながら、意見が分かれました。
- 岸盛一・天野武一裁判官:法廷意見より踏み込み、この限定解釈は明らかに31条に違反すると述べました。
- 田中二郎裁判官ほか四名:限定解釈を維持すべきだという立場です。
変更された判決
結論全農林警職法事件が変更したのは、全司法仙台事件の判決です。
注意都教組事件ではありません。
都教組事件の無罪という結論は、ひっくり返っていません。
三度の変遷は何を探していたのか
全農林警職法事件は、全司法仙台事件の判決を変更しました。
第二期の他の判決はどうなり、三度の変遷全体から何が見えるのでしょうか。
第二期の三判決の変更
結論第二期の3つの判決は、第三期の3つの判決で一件ずつ変更されました。
- 全逓東京中郵事件(現業・公労法):全逓名古屋中郵事件で変更されました。
- 都教組事件(非現業・地公法):岩手県教組学テ事件で変更されました。
- 全司法仙台事件(非現業・国公法):全農林警職法事件で変更されました。
国家公務員も地方公務員も現業の職員も、同じ理由づけで塗り替えられました。
注意岩手県教組学テ事件と同じ日に、同じ大法廷が旭川学力テスト事件の判決も出しています。
事件としては別物なので、事件番号や当事者で見分けます。
理由の置き場所の移動

結論理由の置き場所は、だんだん具体的になりました。
代償措置だけが、第二期から第三期へそのまま引き継がれています。
理由公務員の労働基本権が制限される理由は、身分ではなく勤務条件の決め方にあります。
理由がそこにある以上、代わりの仕組みが働いていることが、制限を支える条件になります。
代償措置が機能しなければ違憲か

定義画餅とは、絵に描いた餅のことで、形だけあって実際には役に立たない状態を指します。
結論「代償措置が機能しなければ争議行為の禁止は違憲になる」というのは、法廷意見ではありません。
法廷意見が言ったのは、代償措置が設けられているという事実までです。
注意この補足意見自身が、「多数意見においてとくに言及されていない」と明記しています。
- 岩手県教組学テ事件:同じ裁判官が、同じ趣旨を繰り返しました。
- 全逓名古屋中郵事件:団藤重光裁判官の反対意見が、同じような指摘をしています。
いずれも法廷意見ではありません。
国民の義務(三つの条文)
公務員の労働基本権の制限は、勤務条件の決め方に理由がありました。
では、憲法が国民に向けている義務の条文は、どのように働くのでしょうか。
教育を受けさせる義務(26条2項前段)
結論義務を負うのは子ども自身ではなく、保護者です。
具体化する法律は、学校教育法です。
26条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)2項:すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
勤労の義務(27条1項)
結論勤労の義務には、法的な意味があるとされています。
働く意思も能力もあるのに、正当な理由なく働かない人には、25条の生存権や27条1項の勤労の権利の保障が及ばないという点です。
条文これを受け止めているのが、生活保護法4条1項の「能力」の活用という要件です。
注意この法的な意味づけは通説の説明で、判例が述べたものではありません。
27条1項の義務の定めが無くても、法律で同じ要件を置けるはずだ、という指摘もあります。
27条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
4条|生活保護法1項:保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
納税の義務(30条)
結論30条の「国民」は、国籍だけで区切られているわけではありません。
外国人や権利能力なき社団、天皇も、納税の義務を負いえます。
理由具体化する所得税法は、国籍ではなく日本に住んでいるか(居住者・非居住者)で納税義務を分けています。
具体例外国人技能実習生でも、日本で働けば所得税が天引きされます。
注意「国民は」「何人も」という条文の書き分けだけでは決まらない、という性質説と同じ構図です。
30条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
5条|所得税法1項:居住者は、この法律により、所得税を納める義務がある。2項:非居住者は、次に掲げる場合には、この法律により、所得税を納める義務がある。
義務の条文は、それだけでは効かない
結論3つの義務の条文は、それだけでは国民に義務を生じさせず、法律を通して初めて働きます。
- 26条2項前段:学校教育法
- 27条1項:生活保護法
- 30条:所得税法など
理由憲法は国家を縛るための法で、99条の尊重擁護義務の名宛人に国民は入っていません。
義務の条文は、法律で国民に課せる義務のうち、憲法が特に重いと見たものをあらかじめ書き出したものと説明されます。
注意この説明も、判例が正面から述べたものではなく、通説の理解です。
99条|第十章 最高法規(97〜99条)天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。