憲法ゼロから憲法#79

立法不作為と国家賠償

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問題の所在(法律が無いせいで権利が使えない)

立法不作為

定義立法不作為とは、憲法上の権利を実現するのに法律が必要なのに、国会がその法律を作らないことです。

結論立法不作為で権利の実現を妨げられた人は、国家賠償請求訴訟で救済を求めることができます。

具体例海外に住む日本人が、国政選挙で投票するための法整備を、国会が行わない場合です。

選挙権は憲法で保障されていますが、投票するには公職選挙法のような手続の法律が要ります。

立法の作為

結論国会が権利を侵害する法律を作った場合も、同じ土俵で扱えます。

その法律を制定した行為(立法の作為)を理由に、国家賠償請求訴訟を起こせます。

注意作為でも不作為でも、勝つには同じ一点が必要です。

その立法行為が、国家賠償法1条1項の「違法」だと言えることです。

どの訴訟で争うのか(訴訟類型の選別)

立法不作為で権利を妨げられた人は、救済を求めることができます。
では、どの形の訴訟なら、裁判所に取り上げてもらえるのでしょうか。

付随的審査制

定義付随的審査制とは、具体的な権利や利益をめぐる争いのときだけ、裁判所が違憲審査をできる仕組みです。

注意抽象的に「この法律は違憲だ」と言うだけでは足りません。

違憲確認訴訟

定義違憲確認訴訟とは、「この立法不作為は違憲だ」と裁判所に確認してもらう訴訟です。

結論違憲確認訴訟は、通説上、できないとされています。

理由理由は2つです。

  • 権力分立:裁判所が「違憲だから立法せよ」と、国会に命じることになってしまいます。
  • 実効性がない:違憲だと確認されても、それだけでは国民の権利に直ちに何も起きません。

注意これは通説の考え方です。

判例がこの訴訟を否定したわけではありません。

国家賠償請求訴訟

結論国家賠償請求訴訟は、判例上、認められています。

理由お金の請求は、具体的な権利義務をめぐる争いです。

だから、付随的審査制の枠に乗ります。

注意本当に欲しいのは法律で、お金ではありません。

国家賠償請求訴訟は、いわば迂回路です。

確認を求める形

結論具体的な法律関係の確認を求める形なら、道はあります。

具体例在外国民選挙権事件では、「投票できる地位にあることの確認」が認められました。

注意要件の積み重ねが判例として残っているのは、国家賠償のルートです。

立法不作為そのものを違憲だと確認する形は、通説上難しいとされます。

国家賠償法1条1項(勝つために要るもの)

立法不作為を争う形は、国家賠償請求訴訟が中心です。
では、国家賠償請求で勝つには、何を満たす必要があるのでしょうか。

5つの要件

結論国家賠償法1条1項の要件は、次の5つです。

  • 公務員:公権力の行使にあたる公務員が、
  • 職務:その職務を行うについて、
  • 故意・過失:故意又は過失によって、
  • 違法:違法に、
  • 損害:他人に損害を加えたとき。

注意立法不作為で争われるのは、4つ目の「違法」の一点です。

条文は制定以来一度も改正されておらず、「当る」「よつて」の表記のままです。

1条|国家賠償法1項:国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

憲法17条との関係

結論国家賠償法は、憲法17条を具体化する法律です。

理由17条は、法律があって初めて動く権利だからです。

注意公務員個人は、被害者に対して直接には責任を負いません。

17条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

争点は「違法」だけ

結論国会議員の立法行為が「公権力の行使」にあたることは、争われていません。

当然の前提とされています。

注意争いはすべて、立法行為をどんなときに「違法」と評価するかに集中しています。

第4〜6節の3つの判例は、この「違法」の中身を少しずつ動かしてきました。

在宅投票制廃止事件(違憲性と違法性の区別)

立法不作為の国家賠償では、「違法」の一点が争われます。
では、最初の判例は、立法行為の違法性をどう捉えたのでしょうか。

事案

事案公職選挙法には、自宅で投票できる在宅投票制度がありました。

  • 廃止:不正利用が問題になり、制度は廃止されました。
  • 不作為:その後、国会は制度を復活させる法改正を、長い間しませんでした。
  • 提訴:身体の障害で投票所に行けなかった人が、国に精神的損害の賠償を求めました。
  • 主張:廃止とその後の立法不作為は、憲法15条1項などに違反し違法だと主張しました。

結論原告の請求は、認められませんでした。

15条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

違憲性と違法性の区別

違憲審査と国賠の違法が見ているものの対比表

結論立法行為の違法性は、立法の内容の違憲性とは区別されます。

  • 違法性の中身:「国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題」です。
  • 違憲との関係:立法の内容が憲法に違反していても、立法行為が「直ちに違法の評価を受けるものではない」とされました。

理由違憲審査と国家賠償の違法とでは、見ているものが違うからです。

憲法に対してダメなことと、賠償責任を負うほどダメなことは、別の物差しです。

注意「違憲なら当然に違法にもなる」わけではありません。

在宅投票制廃止事件最高裁判所第一小法廷判決違憲性と違法性の区別国家賠償法一条一項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。したがつて、国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であつて、当該立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉があるとしても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。

例外的な場合の定式

結論立法行為は、次のような場合でない限り、国家賠償法上違法の評価を受けません。

  • 一義的な文言:立法の内容が「憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず」、
  • あえて:国会があえてその立法を行う、という、
  • 例外:「容易に想定し難いような例外的な場合」です。

理由「一義的な文言に違反」とは、条文の読み方そのものが、憲法に真っ向から反している場合です。

しかも、「あえて」立法を行ったとまで言える場合に限られます。

注意「立法不作為では絶対に国家賠償できない」とまとめるのは誤りです。

  • 判例の強さ:立法不作為を争う道を、事実上閉ざしたというくらいです。
  • 道の幅:狭くしたのは道の幅であって、道そのものを無くしたわけではありません。

在宅投票制廃止事件最高裁判所第一小法廷判決例外的な場合の定式……国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。

在外国民選挙権事件(道を若干拡大する)

在宅投票制廃止事件の定式は、ごく狭い例外しか認めませんでした。
では、次の判例で、違法と評価される道は変わったのでしょうか。

事案

事案衆議院議員選挙のとき、国外に住んでいた人たちがいました。

当時の公職選挙法では、選挙権を行使できませんでした。

この原告らが、国に精神的損害の賠償などを求めました。

違法となる2つの場合

結論次の場合などには、例外的に、立法行為又は立法不作為は違法の評価を受けます。

  • ①明白な侵害:立法の内容又は立法不作為が、憲法上の権利を違法に侵害することが「明白な場合」です。
  • ②立法の必要:権利行使の機会の確保に、立法措置が「必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず」、国会がこれを怠る場合です。
  • ②の期間:②では、国会が「正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合」であることが要ります。

注意②の「正当な理由なく長期にわたって」は、①には付いていません。

在外国民選挙権事件最高裁判所大法廷判決……立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。

賠償の結論

結論この事件では、賠償が認められました(国は賠償を命じられました)。

満たしたのは、②の場合です。

理由一度は法案が出されながら成立せず、その後も長い間、何の措置もとられませんでした。

だから、「正当な理由なく長期にわたって怠った」と評価されました。

注意無条件に賠償が認められるわけではありません。

①か②を満たしたときだけです。

在宅投票制廃止事件との違い

在宅投票と在外の判断の軸の違いの表

結論違法となる場合の軸が変わりました。

  • 在宅投票制廃止事件:一義的な文言に違反しているかという、条文の読み方の話です。
  • 在外国民選挙権事件:権利を使わせるために立法措置が必要不可欠かという、必要性の話です。

理由軸が必要性に移ったので、立法不作為も正面から扱えるようになりました。

注意判例変更かどうかは、2つの見方を両方押さえます。

  • 最高裁:在宅投票制廃止事件の判決と「異なる趣旨をいうものではない」としています。
  • 有力な見解:実質的には判例変更だと捉えます。
  • 押さえ方:どちらか一方だけを正解にしません。

在外国民の国民審査

結論最高裁判所の裁判官の国民審査で、在外の人に投票を認めなかったことも、憲法違反と判断されました。

注意この事件でも、同じ枠組みが使われています。

女性再婚禁止期間違憲訴訟(明白性の場合にも「長期」が加わる)

在外国民選挙権事件は、違法と評価される道を広げました。
では、規定が違憲とされた事件で、国家賠償は認められたのでしょうか。

事案

事案女性の再婚禁止期間を定めていた民法の規定が、争われました。

この事件は、国を訴える国家賠償請求訴訟の形をとっていました。

違法となる場合の要件

結論違法の評価を受けるのは、次の2つがそろう場合などです。

  • 明白性:法律の規定が、権利利益を合理的な理由なく制約し、憲法に違反することが「明白であるにもかかわらず」、
  • 長期:国会が「正当な理由なく長期にわたって」その改廃等の立法措置を怠る場合です。

注意在外国民選挙権事件の①(明白な侵害)にも、「長期」の要件が上乗せされました。

在外の枠組みを、そのまま維持したのではなく、より狭く絞っています。

女性再婚禁止期間違憲訴訟最高裁判所大法廷判決要件もっとも,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである。結論以上によれば,上記当時においては本件規定のうち100日超過部分が憲法に違反するものとなってはいたものの,これを国家賠償法1条1項の適用の観点からみた場合には,憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない。したがって,本件立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないというべきである。

違憲だが賠償は棄却

違憲だが国賠請求は棄却の対比表

結論規定は違憲とされましたが、国家賠償請求は棄却されました。

  • 違憲:再婚禁止期間のうち100日を超える部分が、憲法14条1項と24条2項に違反するとされました。
  • 国家賠償:立法不作為は、国家賠償法上「違法の評価を受けるものではない」とされました。

理由違反が国会にとって明白だったとまでは言えないからです。

  • 明白性の測り方:「明白」かどうかは、国会の側から見て測ります。
  • 先行する判断:この規定については、以前、最高裁が別の事件で、例外的な場合にあたる余地はないと判断していました。
  • 当てはめ:最高裁自身がそう言っていた以上、国会の側で違憲だと分かっていたはずだ、とは言えません。

注意違憲と違法は別、という原則が、結論の形で実際に分かれた事件です。

14条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

24条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)2項:配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

判決を出した法廷

結論3つの判例の法廷は、次のとおりです。

  • 在宅投票制廃止事件:小法廷の判決です。
  • 在外国民選挙権事件:大法廷の判決です。
  • 再婚禁止期間:大法廷の判決です。

注意判決を出した法廷の種類も、短答で問われることがあります。

立法行為が違法となる場合(判例の到達点)

3つの判例は、立法行為が違法となる場合を少しずつ動かしてきました。
では、判例をまとめると、答案ではどのような規範になるのでしょうか。

2つの関門

結論立法行為は、次の2つの関門をくぐったとき、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けます。

  • 明白性の関門:権利侵害が明白な場合か、権利行使の機会の確保に立法措置が必要不可欠で、それが明白な場合です。
  • 時間の関門:国会が、正当な理由なく長期にわたって、改廃その他の所要の立法措置を怠ったことです。

理由2つの関門は、役割が違います。

  • 明白性:そもそも国会が動くべき場面かどうかを見ます。
  • 時間:動くべきなのに動かなかったと言えるほど、時間が経ったかを見ます。

注意明白性の関門のどちらかにあたるだけでは、足りません。

答案での使い方

結論立法不作為を争う問題では、まず違憲かどうかを論じます。

そのうえで、国家賠償法上の違法性を、もう一段のハードルとして別に論じます。

注意違憲の結論を、そのまま賠償の結論に流し込みません。

一票の格差の「違法」との違い

結論同じ「違法」でも、測っているものが違います。

  • 一票の格差:選挙という行為そのものが、法に反していたかという評価です。違法とされても、選挙の効力は維持されました。
  • 立法不作為の国家賠償:国が賠償責任を負うかどうかの評価です。

注意「規定は違憲でも選挙は有効」と、「違憲でも賠償は認められない」を、同じ話としてまとめません。

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