憲法ゼロから憲法#65

不逮捕特権と免責特権

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国会議員の3つの特権

国会議員の3つの特権の向き(不逮捕特権・免責特権=国家権力から守る/歳費受領権=経済的に支える)

3つの特権

定義国会議員には、次の3つの特権があります。

  • 不逮捕特権:50条です。
  • 免責特権:51条です。
  • 歳費受領権:49条です。

結論3つの特権は、どれも議員のためではなく、議院の審議のために置かれています。

  • 不逮捕特権:議員が議場にいられるようにします。
  • 免責特権:議員が自由に発言できるようにします。
  • 歳費受領権:生活を理由に議席を手放さずに済むようにします。

注意保護の範囲が限られているのも、この軸で説明できます。

  • 不逮捕特権:逮捕だけを防ぎ、起訴や裁判は防ぎません。
  • 免責特権:法的責任だけを免除し、政治的責任や院内の懲罰は免除しません。

不逮捕特権(会期中の不逮捕と2つの例外)

国会議員の特権の1つ目は、不逮捕特権です。
会期中の議員は、どんな場合なら逮捕できるのでしょうか。

日本国憲法50条の前段(会期中は原則として逮捕されない)と後段(会期前に逮捕された議員はその院の要求があれば会期中に釈放される)

50条前段

結論両議院の議員は、会期中は原則として逮捕されません。

条文例外は「法律の定める場合」です。

憲法の条文自体には、例外の中身が書かれていません。

その法律にあたるのが、国会法です。

50条|第四章 国会(41〜64条)両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

会期中に逮捕できる2つの場合(国会法33条)

結論会期中でも、次の2つの場合は逮捕できます。

  • 院外における現行犯罪:議事堂の外の現行犯罪です。
  • その院の許諾:捜査機関の求めを、議院が認めた場合です。

理由それぞれ、次の理由によります。

  • 院外に限る理由:院内で現行犯罪が起きたときは、議院自身が処理するからです(議院警察権)。
  • 議院が許諾する理由:許諾は議院自律権の一つだからです。他の機関から干渉されずに、自分の構成員に関わることを自分で決めます。

具体例委員会室の中で議員どうしが揉み合いになっても、まず動くのは議院自身です。

議事堂の外で同じことが起きれば、普通に警察の対象になります。

注意条文の言葉は「現行犯罪」で、「現行犯」ではありません。

  • 許諾の位置づけ:憲法が国会法に委ねた場面です。憲法が明文で置いた議院の権能の列挙に、項目が1つ加わる話ではありません。

33条|国会法 第四章 議員(33〜39条)各議院の議員は、院外における現行犯罪の場合を除いては、会期中その院の許諾がなければ逮捕されない。

法令名まで区別する

注意50条は憲法、33条は国会法です。

番号だけでなく、必ず法令名まで言えるようにします。

  • 具体例:56条は2つあります。国会法56条1項は議案を出すのに要る人数、憲法56条は会議を開いて決めるのに要る人数です。

56条|国会法 第六章 会議(55〜68条)1項:議員が議案を発議するには、衆議院においては議員二十人以上、参議院においては議員十人以上の賛成を要する。但し、予算を伴う法律案を発議するには、衆議院においては議員五十人以上、参議院においては議員二十人以上の賛成を要する。

56条|第四章 国会(41〜64条)1項:両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。2項:両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

会期前の逮捕と「訴追されない特権ではない」

会期中の議員は、原則として逮捕されません。
では、会期前に逮捕された議員はどうなり、不逮捕特権は何を免れさせるのでしょうか。

釈放要求(50条後段・国会法34条の3)

結論会期前に逮捕された議員は、その議院が要求すれば、会期中は釈放されます。

条文要求を発議するには、議員20人以上の連名が必要です。

理由1人の議員の思惑だけで、要求を出せないようにする歯止めです。

注意必要な人数は、場面ごとに考え方が違います。

  • 臨時会の召集要求:総議員の4分の1以上です。国会そのものを開かせる要求です。
  • 釈放要求の発議:議員20人以上の連名です。1人の議員の身柄を取り戻す要求で、どちらの院でも20人です。
  • 議案の発議:衆議院は20人以上、参議院は10人以上です(国会法56条1項)。

34条の3|国会法 第四章 議員(33〜39条)議員が、会期前に逮捕された議員の釈放の要求を発議するには、議員二十人以上の連名で、その理由を附した要求書をその院の議長に提出しなければならない。

訴追されない特権ではない

定義訴追とは、起訴されて、裁判にかけられることです。

結論不逮捕特権は、「訴追されない特権」ではありません。

免れるのは、逮捕という身柄拘束だけです。

起訴・裁判・有罪判決は、普通にありえます。

理由不逮捕特権が守っているのは、議員が議場にいられることです。

議員が罪を免れることではありません。

具体例会期が終われば、普通に逮捕されます。

取り調べを受け、証拠がそろえば起訴されます。

不逮捕特権の趣旨と許諾の判断

不逮捕特権は、逮捕という身柄拘束だけを防ぐ制度です。
では、その趣旨は何で、趣旨の違いは許諾の判断をどう変えるのでしょうか。

趣旨の2説

定義不逮捕特権の趣旨には、次の2つがあります。

  • 議員の身体の自由:議員を不当な逮捕から守ります。
  • 議院の審議権の確保:議員が欠けて、審議が止まらないようにします。

結論両方の要素からなると解するのが通説です。

注意通説は、どちらがより重要かまでは踏み込みません。

  • 別の見解:50条が「会期中」にこだわる以上、審議権の確保がより重要な趣旨だとみる見解があります。これは通説そのものではありません。

許諾の判断で見るもの

2説で許諾の判断の物差しが違う(身体の自由説=嫌疑が十分か/審議権確保説=抜けたら審議に支障が出るか)

結論どちらの説に立つかで、議院が許諾を判断するときに見るものが違います。

  • 身体の自由説:犯罪の嫌疑が十分かを見ます(裁判所と同じ発想)。
  • 審議権確保説:その議員が抜けたら、審議にどれだけ支障が出るかを見ます。罪を犯したかどうかは見ません。

結論が割れる場面

許諾の判断が割れる場面(嫌疑十分×支障大→身体の自由説は許諾/審議権確保説は不許諾)

結論嫌疑と支障が同じ向きなら、どちらの説でも結論は一致します。

  • 嫌疑十分×支障なし:どちらの説でも許諾します。
  • 嫌疑が薄い×支障大:どちらの説でも許諾しません。

具体例傷害の疑いで逮捕状が出た議員が、会期末の予算案の審議で質疑の中心を任されている場合です。

証拠がそろい、嫌疑は十分だとします。

  • 身体の自由説:嫌疑が十分なので、許諾します。
  • 審議権確保説:審議に大きな支障が出るので、許諾しません。

注意学説の対立は、言葉の違いだけでは終わりません。

実際に議院がすべき判断が変わります。

期限付き許諾

結論許諾は、期限を付けて出すことはできません。

出すか出さないかの二択です。

理由50条は会期中の逮捕を原則として禁じ、例外は法律に委ねています。

許諾は、その例外を認めるかどうかの判断です。

不必要な逮捕を拒み、高度の必要性を求める考え方の帰結です。

具体例「1週間だけ許諾する」というやり方は認められません。

免責特権(51条)

国会議員の特権の2つ目は、免責特権です。
免責特権は、どのような行為を、なぜ保護するのでしょうか。

3つの行為

定義免責特権とは、議院で行った演説・討論・表決について、院外で責任を問われないことです。

  • 演説:議場で発言することです。
  • 討論:意見を交わすことです。
  • 表決:賛否を示すことです。

結論対象は、院内での、職務としての行為です。

  • 含まれる:委員会での質疑、演説などに付随する行為です。
  • 含まれない:暴力行為、私語、野次です。発言の中身に関わる行為ではないからです。

具体例議事堂の廊下で、すれ違った記者に話した雑談は対象に入りません。

注意場所ではなく、職務としての発言かどうかで見ます。

51条|第四章 国会(41〜64条)両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。

趣旨

結論議員が国会の場で何を言うかについて、限界まで自由にしておくための制度です。

理由発言のたびに訴えられる心配があれば、権力者を追及するような際どい発言ができなくなるからです。

注意議員個人に得をさせる制度ではありません。

議員が萎縮せずに国政を追及できるようにする、国民のための制度です。

地方議会の議員

結論地方議会の議員には、免責特権はありません。

条文51条は、「両議院の議員」についてしか定めていません。

免責特権の二重の限定

免責特権は、議員が萎縮せずに発言できるようにする制度です。
では、免責される責任は、どこまでに限られるのでしょうか。

免責の対象を絞る2つの軸(責任の種類×場所の2×2で、免責されるのは法的責任×院外の1マスだけ)

責任の種類(法的責任だけ)

結論免責されるのは、法的責任(民事上・刑事上の責任)だけです。

政治的・道義的責任は、免責の対象になりません。

理由免責が守っているのは、議員が萎縮せずに発言できることだけだからです。

政治的責任まで免除すれば、有権者や政党が議員を律する手段が無くなります。

具体例討論で企業を名指しで批判した議員の場合は、次のとおりです。

  • 企業の訴え:名誉を傷つけられたとして議員個人を訴えても、認められません。
  • 政党の除名:同じ発言を理由に所属政党が除名しても、51条に反しません。

注意弁護士である議員が、発言を理由に弁護士法上の懲戒を受ける場合も、法的責任として免責されます。

  • 政党の限界:国会議員としての地位そのものを失わせるところまでは、政党もできません。

場所(院外の責任だけ)

結論免責されるのは、院外での責任だけです。

院内の懲罰(戒告・陳謝・登院停止・除名)は、免責の対象外です。

理由免除すると、議院が院内の乱れを自分で正す手段を失うからです。

院の中のことは議院自身が処理する、という院外の現行犯罪と同じ筋です。

注意2つの軸は、守ろうとしているものが違うので、別々に引かれています。

病院長自殺事件(議員の発言と国家賠償)

免責特権は、院外での法的責任を免除する制度です。
では、議員の発言で市民が傷ついたとき、誰が責任を負うのでしょうか。

病院長自殺事件の構図(議員が委員会の質疑で病院長を名指し→病院長が自ら命を絶つ→遺族が議員個人と国の両方を提訴)

事案

事案衆議院の委員会で、医療の法律案を審議している最中のことです。

  • 質疑:議員が、ある病院の運営の問題を取り上げて質疑をしました。問題のある病院をきちんと監督するよう、行政に求めるためのものでした。
  • 発言:その中で、病院長個人が重大な非行に及んでいる、という趣旨の指摘をしました。
  • その後:病院長は自ら命を絶ちました。
  • 訴え:遺族が、議員個人と国の両方を相手に、損害賠償を求めて訴えました。

議員個人への請求

結論議員個人への請求は、認められませんでした。

判決は、51条の「演説、討論又は表決」に当たるかどうかを論ずるまでもなく、請求は理由がないとしました。

理由根拠は、国家賠償法1条の解釈です。

職務を行うについてされた発言なら、国が賠償責任を負うことがあるのは格別、公務員個人は責任を負わないからです。

注意「免責特権があるから議員は責任を負わない」とまとめるのは誤りです。

この判決は、51条の免責特権が及ぶかどうかを検討していません。

病院長自殺事件議員個人の責任本件発言は、国会議員である被上告人Bによって、国会議員としての職務を行うにつきされたものであることが明らかである。そうすると、仮に本件発言が被上告人Bの故意又は過失による違法な行為であるとしても、被上告人国が賠償責任を負うことがあるのは格別、公務員である被上告人B個人は、上告人に対してその責任を負わないと解すべきである……。

国への請求

二つの請求の違い(議員個人への請求=国家賠償法1条の解釈で否定/国への請求=広範な裁量・違法又は不当な目的などの特別の事情が必要、どちらも51条は判断せず)

結論国の賠償責任が認められるには、特別の事情が必要です。

  • 特別の事情:議員が、職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示したことです。虚偽と知りながらあえて事実を摘示するなど、権限の趣旨に明らかに背いて行使したと認められる事情も含みます。
  • 本件:違法又は不当な目的も、発言内容が虚偽であることも認められず、国の責任も否定されました。

理由質疑で何を取り上げ、どう行うかは、議員の政治的判断を含む広範な裁量に委ねられているからです。

結果として個別の国民の権利が侵害されても、それだけで職務上の法的義務に違背したとはいえません。

裁判所が後から当否を持ち込めば、議員が萎縮せずに追及できるという狙いが崩れます。

具体例政策と無関係な個人的な恨みから、事実でないと分かっていながら誰かを名指しで中傷する場合です。

政治的判断とは呼べない動機なので、裁量の外に出ます。

注意「違法又は不当な目的」の「又は」は、違法な目的か不当な目的か、どちらかがあれば足りるという意味です。

  • 余地:「議員の発言には誰も責任を負わない」とまとめるのは誤りです。国が責任を負う道は残されていて、本件はその要件を満たさなかっただけです。

病院長自殺事件国の責任の規範質疑等においてどのような問題を取り上げ、どのような形でこれを行うかは、国会議員の政治的判断を含む広範な裁量にゆだねられている事柄とみるべきであって、たとえ質疑等によって結果的に個別の国民の権利等が侵害されることになったとしても、直ちに当該国会議員がその職務上の法的義務に違背したとはいえないと解すべきである。

歳費受領権(49条)

国会議員の特権の3つ目は、歳費受領権です。
額を決めるのが議員自身なのに、なぜ憲法はこの仕組みを認めたのでしょうか。

歳費の構造(日本国憲法49条=法律の定めるところにより相当額の歳費を受ける/国会法35条=一般職の国家公務員の最高の給与額より少なくない=下限だけを縛る)

歳費と額の決め方

定義歳費とは、議員に国庫から支払われる、給料のようなものです。

結論具体的な額は、法律で決めます。

その法律を作るのは国会議員自身なので、受け取る人と額を決める人が同じです。

条文国会法35条は、下限だけを定めています(上限の定めはありません)。

注意実際の金額は、改定されることがあります。

条文が定めているのは、下限の構造です。

49条|第四章 国会(41〜64条)両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。

35条|国会法 第四章 議員(33〜39条)議員は、一般職の国家公務員の最高の給与額(地域手当等の手当を除く。)より少なくない歳費を受ける。

趣旨

結論歳費受領権は、議員を経済的に支える制度です。

理由十分な歳費が無ければ、生活を誰かの援助に頼ることになり、その相手に従うことになるからです。

財産のある者しか議員になれなかった時代への反省でもあります。

注意誰でも被選挙権を持てる、という普通選挙の考え方と対になる制度です。

選挙の平等を、実質のあるものにしています。

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