憲法ゼロから憲法#68

内閣の権限

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73条の全体像

結論内閣は、一般の行政事務に加えて、73条が挙げる7つの事務を行います。

条文柱書の「他の一般行政事務の外」が、この構造を表しています。

行政権を持つ内閣の日々の仕事に、憲法が名指しした7つが上乗せされます。

注意7つは、どの号に何が書いてあるかを答えられれば十分です。

73条|第五章 内閣(65〜75条)内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。二 外交関係を処理すること。三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。五 予算を作成して国会に提出すること。六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。

1号(法律の誠実な執行と国務の総理)

73条は、一般の行政事務に7つの事務を上乗せしています。
その1号は、内閣にどのような権限と義務を与えているのでしょうか。

1号の性格

結論法律の執行は、内閣の権限であると同時に義務でもあります。

執行をやめるという選択肢は、認められません。

違憲だと判断した法律の執行義務

結論内閣は、自ら違憲だと判断した法律であっても、執行義務を免れません(通説)。

条文総理も国務大臣も、99条の憲法尊重擁護義務を負います。

そのため、違憲だと判じた法律まで執行するのはおかしい、という発想が生まれます。

理由合憲かどうかを最終的に見極める役目は、内閣の側には配分されていないからです。

  • 国会の判断:41条後段は、国会を「唯一の立法機関」と位置づけています。その国会が、すでに合憲だと判断して法律を制定しています。
  • 内閣の役目:内閣に配分されているのは、法律を執行する役目です。
  • 国会の地位:内閣の一存で国会の判断をひっくり返せるなら、国会に与えられた地位そのものが崩れます。

注意この結論は、条文から直接出てくるものではありません。

41条後段の趣旨から、解釈で組み立てた結論です。

99条|第十章 最高法規(97〜99条)天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

41条|第四章 国会(41〜64条)国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

最高裁が違憲と判断した法律(例外)

結論最高裁判所が違憲だと判断した法律については、内閣は執行義務を免れると解されます。

条文81条は、法律や命令などの合憲性を終局的に決める終審裁判所を、最高裁と定めています。

理由最高裁の判断は、司法権が下す終局的な判断です。

国会のように、「これから作る」段階の判断ではありません。

注意この例外は、原則の結論ほど固くはありません。

通説として固まっているのではなく、「そう解するのが妥当」という水準です。

「例外がある」という向きまで押さえれば十分です。

81条|第六章 司法(76〜82条)最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

国務を総理する

定義「国務を総理する」とは、国政全体が調和を保って進むよう、内閣が舵取りをする働きです。

具体例重要な政策の企画立案や、省庁間の調整も、ここに含まれます。

2号・3号(外交関係の処理と条約の締結)

1号は、法律の執行と国務の総理を内閣に与えています。
2号・3号の外交と条約について、内閣はどこまで一存で決められるのでしょうか。

条約と内閣の締結権

定義条約とは、国家同士が文書のかたちで結ぶ合意です。

国際法上の権利や義務を、新たに生み出したり書き換えたりします。

理由条約を結ぶ権限が内閣にあるのは、次の2つの事情によります。

  • 歴史:外交は、歴史的に政府の専権とされてきました。
  • 実務:相手国との折衝を担ううえで、内閣がもっとも適した組織です。

国会の承認

結論条約の締結には、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認が必要です(73条3号ただし書)。

条文承認の手続には、衆議院の優越が働きます(61条)。

61条は、予算についての60条2項を準用しています。

両院協議会を開いても意見が一致しなければ、衆議院の議決が国会の議決になります。

理由条約の影響は、国民生活の隅々にまで及びうるからです。

そこで、国民を代表する国会の民主的コントロールを及ぼします。

61条|第四章 国会(41〜64条)条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。

60条|第四章 国会(41〜64条)2項:予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

承認が要る「条約」の範囲

73条3号で承認が要る「条約」の範囲(名前を問わず国家間の文書による合意なら原則すべて対象/例外=委任の無い技術的・細目的な協定と、委任に基づく行政協定)

結論2つの例外は、原則として73条3号の対象から外れ、国会の承認は要りません。

理由実務の細かな取り決めまで一つずつ国会にかけていては、外交が動かなくなるからです。

具体例本体の条約が「実施の細かい手続は、あとで政府どうしで決めてよい」と委ねていたとします。

その委任に基づいて結ばれる取り決めが、行政協定です。

注意2つを見分ける基準は、条約による委任があるかどうかです。

73条3号と98条2項の「条約」

「条約」の範囲の対比(73条3号=狭義・国内の権限配分の問い/98条2項=広義・対外的な遵守義務の問い)

結論同じ「条約」という語でも、73条3号は狭義、98条2項は広義です。

理由2つの条文は、機能そのものが違うからです。

  • 73条3号:どこから国会の統制を及ぼすべきか、という国内の権限配分の線引きです。
  • 98条2項:日本が国際社会に負う約束を誠実に守るべきか、という遵守義務の対象を定めます。

注意条番号を言わずに「条約は」とだけ書くと、この区別がつかなくなります。

答案では、必ず条番号を添えます。

98条|第十章 最高法規(97〜99条)1項:この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。2項:日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

国会の承認を欠く条約の効力

条約の締結には、国会の承認が必要です。
では、国会の承認を得られなかった条約は、どう扱われるのでしょうか。

国内法上の効力

結論国会の承認を得られなかった条約は、国内法的には無効です。

国際法上の効力(条件付無効説)

結論国際法上の効力については、条件付無効説が妥当とされています(通説)。

  • 有効とする見解:相手国の信頼を保護すべきだとして、国際法上はなお有効とします。
  • 条件付無効説:承認権を定めた規定の意味が、国際的に広く知られた要件と受け止められている場合には、国際法上も無効とします。

理由その場合、相手国も承認の手続が要ることを知っていたはずです。

手続を経ていないかもしれないと分かったうえで、条約を結んだことになります。

そのため、相手国の信頼は、もはや保護に値しません。

日本国憲法での帰結

結論条件付無効説に立っても、日本国憲法のもとでは、承認を欠く条約の多くが国際法上なお有効になりやすいです。

理由承認を要する「条約」(73条3号)の範囲そのものが明確でないからです。

範囲があいまいだと、国際的に広く知られた要件とは言い切れません。

そのため、無効になる条件を満たしにくくなります。

注意「条件を満たせば無効」で終えず、2段階の流れをセットで押さえます。

結論だけを切り取ると、逆向きの説明になります。

国会の条約修正権と締結の手続

国会の承認を欠く条約は、国内法的には無効です。
では、国会は承認の際に条約を修正できるのか、そして条約はどのような手続で結ばれるのでしょうか。

国会の条約修正権

結論国会が条約に修正を加えることも認めてよい、とする見解が有力です。

理由条約にも国会の民主的コントロールを及ぼすべきだ、という憲法の趣旨によります。

注意修正の効果は、内閣に相手国との再交渉を義務づけるにとどまります。

条約は相手国との合意で成り立つので、条約の文言そのものが自動的に書き換わるわけではありません。

条約締結の手続

定義批准とは、国としてその条約を結び切る意思を、最後に書面で確かめる行為です。

結論条約締結の手続は、次のとおりです。

  • 交渉:内閣が相手国と交渉します。
  • 調印:内閣が任命した全権委員が、署名します。
  • 批准:内閣の批准で、締結の手続が完了するのが原則です。批准書には、天皇の認証が必要です(7条8号)。
  • 国会の承認:この過程のどこかで、事前または事後に国会の承認を経ます(73条3号ただし書・61条)。
  • 公布:条約が成立したら、天皇が公布します(7条1号)。

注意調印と批准は、段階が違います。

  • 調印:交渉担当者どうしが、いったん内容に合意した段階です。
  • 批准:それを国として最終的に確定させる、もう一段上の行為です。

7条(抜粋)|第一章 天皇(1〜8条)天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。

4号〜7号(官吏・予算・政令・恩赦)

1号から3号は、法律の執行と外交・条約でした。
残る4号から7号は、それぞれ何を内閣に委ね、どこに限界があるのでしょうか。

4号:官吏

定義官吏とは、公務員のことです。

結論内閣は、法律の定める基準に従って、官吏に関する事務を掌理します。

具体例その基準を具体化している法律が、国家公務員法です。

注意4号は「法律の定める基準に従ひ」とだけ定め、法律の名前までは書いていません。

5号:予算

結論予算は、内閣だけが作成できます。

国会が、最初から独自の予算案をまとめることはできません。

条文内閣が作成した予算は、国会に提出され、審議を経て86条の議決を受けて成立します。

86条|第七章 財政(83〜91条)内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。

6号:政令

結論内閣は、憲法を直接実施する政令は作れません。

政令は、あくまで法律を実施するための道具にとどまります。

条文6号の「憲法及び法律」は、切り離さず一体として読みます。

「憲法を実施するために作られた法律」を、さらに実施するための政令という意味です。

理由憲法そのものを直接実施できるのは、国会だけだからです。

国会が唯一の立法機関だという考え方が、ここにも表れています。

注意罰則は、罪刑法定主義から、法律で定めるのが原則です。

ただし、法律が範囲を具体的に委任していれば、政令にも罰則を置けます(6号ただし書)。

7号:恩赦

定義恩赦とは、罪を犯した者を赦す制度です。

結論恩赦を決定するのは、内閣です。

条文細かな種類や手続は、恩赦法に委ねられています。

73条以外の権限(8つ)

73条は、内閣の行政の仕事を列挙しています。
では、73条の外に定められた内閣の権限は、どのような性格を持つのでしょうか。

73条以外の8つの権限を相手ごとに束ねた図(天皇へ=助言と承認/国会へ=召集・衆議院解散・緊急集会/裁判所へ=最高裁長官指名・最高裁裁判官任命・下級裁判所裁判官任命/財政=予備費支出)

結論73条の外の8つは、内閣が他の機関に働きかける形の権限です。

行政の内側の仕事は、73条が引き受けています。

理由権力分立は、機関を切り離して終わりではありません。

互いに働きかける道を持たせて、初めて釣り合います。

この8つは、その道にあたります。

注意次の点を区別します。

  • 指名と任命:最高裁長官は内閣の「指名」(6条2項)、それ以外の最高裁判所裁判官は内閣の「任命」(79条1項)です。
  • 最高裁と下級裁:最高裁判所裁判官の任命(79条1項)と、下級裁判所裁判官の任命(80条1項本文前段)は、別の権限です。
  • 名簿による任命:下級裁判所の裁判官は、最高裁判所が指名した者の名簿によって、内閣が任命します。
  • 予備費:予算の不足に備えるお金で、支出したら事後に国会の承諾が必要です(87条)。
  • 衆議院の解散権:8つのうち、とりわけ重要な権限です。

6条|第一章 天皇(1〜8条)2項:天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

79条|第六章 司法(76〜82条)1項:最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。

80条|第六章 司法(76〜82条)1項:下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。

87条|第七章 財政(83〜91条)1項:予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。2項:すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

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