憲法ゼロから憲法#1

憲法とは何か

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憲法の名宛人

結論憲法は国民を縛る法ではなく、国家権力を縛る法です。

条文99条で尊重擁護義務を負うのは、天皇又は摂政・国務大臣・国会議員・裁判官その他の公務員です。

国民は列挙されていません。

つまり、国民は憲法の名宛人ではありません。

理由憲法は、国家権力を縛って人権を保障するための法だからです。

国民は憲法に守られる側であって、縛られる側ではありません。

99条|第十章 最高法規(97〜99条)天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

制限規範と授権規範

憲法は人権保障のために権力を縛る法なので、権力を縛る条文(制限規範)があります。
では、なぜ権力に権限を与える条文(授権規範)もあるのでしょうか。

制限規範

定義国家権力が、人権を侵す方向に使われないよう縛る条文です(人権規範)。

条文人権を保障する条文がこれにあたります。

代表格は11条・12条・13条です。

具体例21条1項は、表現の自由を保障しています。

国会が表現の自由を不当に狭める法律を作れば、その法律は制限規範に反します。

その法律がどうなるかは、第6節で見ます。

授権規範

定義国家機関に、仕事をする権限を与える条文です(いわば権力の設計図)。

条文3つの機関に、それぞれ権限を与えています。

  • 41条:国会に立法権
  • 65条:内閣に行政権
  • 76条1項:裁判所に司法権

これらの条文が無ければ、国会・内閣・裁判所は権限を持ちません。

41条|第四章 国会(41〜64条)国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

65条|第五章 内閣(65〜75条)行政権は、内閣に属する。

76条|第六章 司法(76〜82条)1項:すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

なぜ授権規範もあるのか

結論授権規範と制限規範は矛盾せず、セットです。

理由縛る対象である国会・内閣・裁判所の権限そのものを、憲法が与えているからです。

権限を与えるからこそ、暴走を防ぐ縛りも要ります。

権力分立

権力分立の相互監視図(A=国会・B=内閣・C=裁判所が互いを監視する)

定義権限を3つの機関に分けて与え、それぞれ独立させたうえで互いに監視させることです(権力分立)。

理由権限が1つの機関に集中すると、それを止める仕組みがなくなるからです。

暴走したときの歯止めが効かないので、「1つに集中させない」ようにしています。

2つの規範の関係

人権規範(目的)と授権規範(手段)の関係図

結論2つの規範は、目的と手段の関係でつながっています。

  • 目的:人権保障です。
  • 授権規範:その目的のために、統治のしくみという手段を用意します。
  • 制限規範:その手段の使い方を、人権保障の向きに縛ります。

「憲法」の意味(形式的意味と実質的意味)

第2節までは、憲法が何をする法か(役割)の話でした。
ここからは、「憲法」という言葉が何を指すのかを見ます。

憲法の意味の階層図(形式的意味/実質的意味〔固有の意味・立憲的意味〕)

形式的意味と実質的意味

定義何を基準に判定するかで、2つに分かれます。

  • 形式的意味の憲法:「憲法」という名前の付いた法典があるか。
  • 実質的意味の憲法:統治や人権保障という中身・働きを持つ法か。

具体例イギリスには、「憲法」という名の1つの法典がありません。

  • 形式的意味の憲法:ありません。
  • 実質的意味の憲法:統治や人権保障の中身は別の形で存在するので、あります。

固有の意味と立憲的意味

実質的意味の憲法は、しくみが「ある」かだけを見るか、人を守るように「縛られている」かまで見るかで、さらに2つに分かれます。

定義2つの意味の違いは、次のとおりです。

  • 固有の意味の憲法:国の統治のしくみを定めた法です。
  • 立憲的意味の憲法:統治のしくみが、個人の自由を守る向きに縛られていて初めて満たします。

結論日本国憲法は、立憲的意味の憲法(=近代的意味の憲法)に当たります。

具体例権力者がすべてを独断で決める国にも、「その人がすべてを決める」というルールはあります。

そのため、固有の意味の憲法はありますが、立憲的意味の憲法はありません。

権力者の意のままにすべてが決まる国権力の行使に手続的な歯止めがある国(例:法律を作るのに議会の議決が要る)
固有の意味の憲法あるある
立憲的意味の憲法ないある

憲法の分類(成文・硬性・民定)

「憲法」の意味が定まったので、実際の憲法を3つの軸で分類します。

憲法の分類を3つの軸(作られ方・改正手続・制定主体)で対比し、日本国憲法の位置(成文・硬性・民定)を示す表

具体例不文憲法の例は、第3節のイギリスです。

日本国憲法=成文・硬性・民定

結論日本国憲法は、成文・硬性・民定の憲法です。

条文96条1項の改正手続は、2段階です。

  • 発議:各議院の総議員の3分の2以上の賛成が要ります。
  • 承認:国民投票で過半数の賛成が要ります。

理由それぞれ次の理由によります。

  • 成文:1つの法典にまとまっているからです。
  • 民定:国民が定めた形をとるからです。
  • 硬性:改正に、普通の法律よりずっと重い手続(96条1項)が要るからです。

96条|第九章 改正(96条)1項:この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

近代的意味の憲法の3つの特質

分類は「どう作られたか」という外形の話でした。
ここからは中身に戻り、近代的意味の憲法に共通する3つの特質を見ます。

3つの特質の連関図(自由の基礎法→制限規範→最高法規)

結論3つの特質は、自由を守る → だから縛る → だから一番強くなければならない、という一本の流れでつながっています。

理由それぞれ、前の特質から導かれます。

  • 自由の基礎法:憲法は、個人の自由を守るための法です。核心にあるのは、13条の個人の尊重です。
  • 制限規範:自由を守るための法だから、権力を縛ります。
  • 最高法規:権力を縛る法が、その権力自身の作る法律に負けては意味がないからです。

注意自由の基礎法と制限規範は、同じことの裏表です。

形式的最高法規性(98条1項)

憲法が国家権力を縛る法でも、その縛りに実効性がなければ意味がありません。
そこで、最高法規であることを、形の面(本節)と中身の面(第7節)から見ます。

効力の序列(憲法>法律>命令・処分)

定義98条1項が定める効力の序列を、形式的最高法規性といいます。

  • 序列:憲法>法律>命令>処分
  • 効果:上位に反する下位のルールは、効力を持ちません。

条文本当に憲法違反かを判断する権限は、81条の定める裁判所が持っています。

具体例第2節の「表現の自由を不当に狭める法律」は、98条1項により効力を持ちません。

国会が制定した法律であっても、初めから無かったのと同じになります。

注意「形式的/実質的最高法規性」は、第3節の「形式的意味・実質的意味の憲法」とは別の区別です。

98条|第十章 最高法規(97〜99条)1項:この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

実質的最高法規性(97条):なぜ憲法だけが強いのか

第6節は、「憲法が一番強い」という形の話でした。
では、なぜ憲法だけが、そこまで強くなければならないのでしょうか。

最高法規性を支える3つのルート(硬性憲法・授権規範性・実質的最高法規性)

結論理由は3つのルートに分かれますが、突き詰めればすべて人権保障に行き着きます。

条文97条は、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」と定めています。

これが、実質的最高法規性の根拠です。

理由3つのルートは、次のとおりです。

  • 硬性憲法(第4節):改正手続が重いので、簡単には書き換えられません。
  • 授権規範性(第2節):国家権力を生み出す根拠が憲法にあり、生み出された側の法律が、生み出した側の憲法を上回ることはできません。
  • 実質的最高法規性:憲法は、人類が勝ち取ってきた侵すことのできない永久の権利を守るための法です。

改正しにくくするのも、権力を生み出す根拠を置くのも、突き詰めれば人権を保障するためです。

97条|第十章 最高法規(97〜99条)この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

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