憲法ゼロから憲法#60

「唯一の立法機関」の意味と立法の委任

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「唯一」の分解(二つの原則)

問題の所在

定義立法とは、国民の権利や義務に関する、一般的で抽象的な法規範です。

国会だけが作れるのは、この形の規範です。

結論ところが、権利義務を左右する中身の多くは、政令や省令で定められています。

  • 政令:内閣が、憲法や法律の規定を実施するために定める決まりです。
  • 省令:各省の大臣が、法律にもとづいて定める決まりです。

具体例税金を計算するときの細かい取り扱いや、各種の届出に必要な書類の中身です。

注意問われるのは、政令・省令で決めてよい範囲の線がどこにあるかです。

国会中心立法と国会単独立法

41条後段の「唯一」を2つの原則に分けた表(国会中心立法の原則=誰が作るか・国会以外の機関が立法することを禁じる/国会単独立法の原則=どう作るか・国会の議決以外の関与を求めることを禁じる)

定義41条後段の「唯一」には、次の2つの原則が含まれています。

  • 国会中心立法の原則:国会以外の機関が立法することを禁じます(誰が作るか)。
  • 国会単独立法の原則:国会の議決だけで法律が成立し、他機関の承認を要求することを禁じます(どう作るか)。

注意名前が似ているので、「中心=誰が」「単独=どう」の対で覚えます。

以後の論点は、どちらの原則の問題かに置き直して整理します。

41条|第四章 国会(41〜64条)国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

国会中心立法の原則(明文の例外2つ)

「唯一」の1つ目は、誰が作るかについての禁止です。
国会中心立法の原則は何を独占させ、どんな例外を認めているのでしょうか。

国会中心立法を明治憲法と対比した表(緊急命令8条・独立命令9条はいずれも天皇が単独で発した/日本国憲法は明文の例外を除き国会以外は立法できない/明文の例外は議院規則58条2項・最高裁判所規則77条1項の2つだけ)

原則の中身

定義憲法が明文で認めた場合を除き、立法の権能を国会が独占するという原則です。

理由明治憲法では、議会を通さずに、天皇が単独で命令を出せました。

国民が選んだ議会が関わらないまま、国民の権利や義務が決められてしまう点が問題でした。

日本国憲法は、この姿を反省しています。

明治憲法の命令

定義明治憲法には、議会を通さない命令が2つありました。

  • 緊急命令(8条):帝国議会の閉会中に、天皇が単独で出す、法律に代わる命令です。
  • 独立命令(9条):法律の執行のためだけでなく、公共の安全や秩序を保つためなどの目的でも、天皇が単独で出せた命令です。

注意独立命令は、命令によって法律そのものを変更することまではできませんでした。

明文の例外(2つ)

結論国会中心立法の原則の明文の例外は、2つだけです。

  • 議院規則(58条2項):各議院が、会議その他の手続や内部の規律について、自ら規則を定めます。院内の秩序を乱した議員の懲罰も、この条文が定めています。
  • 最高裁判所規則(77条1項):最高裁判所が、訴訟の手続や裁判所の内部規律などについて、規則を定めます。

理由どちらも、その機関の内部運営に関わる事項です。

その機関の自主性に委ねるほうがふさわしい、と理解されています。

注意議院規則は、国会が法律で決めるのではなく、各議院が独自に定めるものです。

そのため、原則からすれば本来は許されないはずの立法です。

58条|第四章 国会(41〜64条)2項:両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

77条|第六章 司法(76〜82条)1項:最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。

国会単独立法の原則(明文の例外1つ)

「唯一」の2つ目は、どう作るかについての禁止です。
国会単独立法の原則は何を不要とし、どんな例外を認めているのでしょうか。

国会単独立法を明治憲法と対比した表(明治憲法=議会の議決に加えて天皇の裁可6条が必要/日本国憲法=国会の議決だけで成立し他機関の関与は不要/明文の例外は地方特別法の住民投票95条の1つだけ)

原則の中身

定義法律は国会の議決だけで成立するという原則です。

他機関の承認などは、一切不要です。

具体例明治憲法では、帝国議会が議決しても、それだけでは法律になりませんでした。

天皇の裁可(天皇の同意)が、別に必要でした。

明文の例外(1つ)

結論国会単独立法の原則の明文の例外は、地方特別法の住民投票(95条)の1つだけです。

一つの地方公共団体だけに適用される特別法は、その住民投票で過半数の同意を得なければ、国会は制定できません。

理由一つの地域だけを不利益に扱う法律が、国会の多数決だけで通ることを防ぐためです。

住民自身の同意を、追加の安全装置として置いています。

注意95条は、国会の力を弱める例外ではなく、狙い撃ちへの歯止めです。

  • 例外の数:中心立法は2つ、単独立法は1つです(非対称)。
  • 3つの例外の共通点:国会が譲ったのではなく、憲法があらかじめ認めたものです。

95条|第八章 地方自治(92〜95条)一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

立法の委任(なぜ許されるのか)

明文の例外は、議院規則・最高裁判所規則・住民投票の3つだけです。
その一覧に無い立法の委任は、なぜ、どこまで許されるのでしょうか。

立法の委任が合憲になる筋道(①41条後段の趣旨=国会に立法権を独占させ民主的コントロールを及ぼす→②許容の根拠=福祉国家が求める専門性・迅速性・中立性と73条6号ただし書の存在前提→③線引きの結論=個別・具体的な委任なら合憲)

立法の委任とは

定義立法の委任とは、国会が法律の中身を、行政などの他機関に委ねることです。

委任を受けて作られた規範を、委任命令(委任立法)と呼びます。

結論立法の委任は、国会中心立法(誰が作るか)の側の問題です。

注意明文の例外の一覧に無いから直ちに違憲、とはなりません。

41条後段が守ろうとしている中身が壊れていないかを、そのつど審査します。

41条後段の趣旨

結論国民代表機関である国会に立法権を独占させ、立法に民主的なコントロールを及ぼすことです。

その結果として、国民の権利や自由をできる限り保障します。

理由委任される事項も、国民の権利義務に関する一般的・抽象的な法規範(立法)です。

だからこそ、民主的コントロールが及ぶかどうかが問題になります。

委任が許される根拠

結論委任立法という手段自体は、次の2つの根拠から認められています。

  • 現代の要請:福祉国家では、法律で決めるべき事柄が非常に増えています。その中には、専門性・迅速性・中立性を持つ事項が多く、内閣などに委ねるのが適切です。
  • 73条6号ただし書:政令に罰則を置くには、特に法律の委任が必要だと定めています。この条文は、法律の委任というもの自体が存在することを前提にしています。

具体例現代の要請にあたる事項は、次の3つです。

  • 専門的・技術的な事項:国会議員が全員専門家とは限りません。
  • 迅速性を要する事項:状況の変化に素早く対応する必要があります。
  • 政治的中立性が特に要求される事項:政治的な場で細部まで決めると、公正さが揺らぎます。

注意73条6号ただし書は、「委任がなければ罰則を置けない」という制限です。

委任があれば、政令にも罰則を置けます(罰則を一切置けないという意味ではありません)。

73条|第五章 内閣(65〜75条)内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。(略)六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

委任の限界(個別・具体的な委任と白紙委任)

定義委任の種類は、次の2つです。

  • 個別・具体的な委任:何のために、何を、どこまで委ねるのかの3つが、法律の中で読み取れる委任です。
  • 白紙委任:この3つがまったく読み取れない委任(丸投げ)です。

結論個別・具体的な委任は合憲、白紙委任は許されません。

理由3つが読み取れれば、大まかな枠を決めた最終の決定者は国会のままです。

だから、民主的コントロールは切れていません。

白紙委任は、41条後段の趣旨を完全に壊してしまいます。

具体例委任の一般的な形と、白紙委任に近づく形は次のとおりです。

  • 一般的な形:「この法律の実施に関し必要な事項は、政令で定める」。法律が目的と大まかな枠を決め、政令がその枠の中で具体的な中身を定めます。
  • 白紙委任に近い形:「必要な事項は、政令で定める」とだけ書く。何について決めてよいかも読み取れません。

注意委任の合憲性は、法律の書き方そのものにかかっています。

委任の範囲の逸脱(児童扶養手当資格喪失処分取消事件)

個別・具体的な委任なら、委任そのものは合憲です。
では、合憲な委任で作られた命令なら、何でも有効なのでしょうか。

委任の二段階の審査

結論委任が合憲であることと、委任を受けた命令が有効であることは、別の問題です。

  • 委任自体の合憲性:41条後段の趣旨(民主的コントロール)が保たれているかを見ます(合憲性の問題)。
  • 委任命令の有効性:もとの法律の趣旨から見て、委任の範囲を逸脱していないかを見ます(違法性の問題)。

注意委任自体が合憲でも、委任命令の審査は独立して行われます。

この2つを混ぜると、答案が壊れます。

児童扶養手当資格喪失処分取消事件

定義認知とは、父が自分の子だと認めることです。

事案児童扶養手当法4条1項は、支給対象児童を列挙していました。

  • 1号〜4号:父母が婚姻を解消した児童、父が死亡した児童などです。
  • 5号:「その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」という委任です。
  • 施行令(当時):委任を受けて、「母が婚姻によらないで懐胎した児童(父から認知された児童を除く。)」を支給対象の一つにしていました。
  • 争い:子が父から認知を受けたことを理由に受給資格喪失処分を受けた母が、この括弧書きを争いました。

結論最高裁は、この括弧書きを、法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として、無効としました。

理由判断の筋道は、次のとおりです。

  • 法律の趣旨:1号〜4号の趣旨は、世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童を、支給対象児童とすることにあります。
  • 認知との関係:父から認知されれば、通常父による現実の扶養を期待することができるともいえません。
  • 帰結:認知された子を一律に外す政令は、法律が救おうとした児童まで切り捨てることになります。

注意これは違憲判決ではありません。

委任そのものは合憲という前提で、政令の中身が法律の趣旨からはみ出していた(違法)という判断です。

児童扶養手当資格喪失処分取消事件最高裁判所判決事案児童扶養手当法四条一項は、支給対象児童として「父母が婚姻を解消した児童」「父が死亡した児童」等を列挙したうえで、五号に「その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」と規定していた。この委任を受けた同法施行令一条の二は、支給対象の一つとして「母が婚姻によらないで懐胎した児童(父から認知された児童を除く。)」を規定していた。子が父から認知を受けたことを理由に受給資格喪失処分を受けた母が、この括弧書きを争った。判断法四条一項一号から四号までの規定の趣旨は、世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童を、支給対象児童とすることにある。父から認知されれば、通常父による現実の扶養を期待することができるともいえない。したがって、この括弧書きは、法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として、無効と解すべきである。

内閣の法律案提出権(単独立法の側の問題)

立法の委任は、国会中心立法(誰が作るか)の側の問題でした。
では、内閣が法律案を国会に提出することは許されるのでしょうか。

どちらの原則の問題か

結論内閣の法律案提出は、国会単独立法(どう作るか)の側の問題です。

委任(国会中心立法の問題)とは、別の列の話です。

注意法律案の提出は、法律の「議決」ではありません。

法律案を出すのが内閣でも、決めるのは国会の議決だけです。

通説の結論と4つの理由

結論通説は、内閣の法律案提出権を許容します。

理由4つの理由は、次のとおりです。

  • 議院内閣制:内閣は国会の信任のうえに成り立ち、国会と内閣の協働が求められます(66条3項参照)。
  • 国会の自由:国会は法律案を自由に審議し、修正も否決もできるので、内閣の提出を認めても特に不都合はありません。
  • 72条の「議案」:72条は、内閣総理大臣が議案を国会に提出すると定め、この「議案」に法律案も含まれると解されます。
  • 発案の性質:法律の発案は立法の準備行為にすぎず、立法作用そのものには当たりません。

注意内閣法5条は、内閣総理大臣が法律案を国会に提出する旨を明文で定めています。

これは通説の4つの理由とは別枠の、実定法の裏付けです。

66条|第五章 内閣(65〜75条)3項:内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

72条|第五章 内閣(65〜75条)内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。

最高裁判所の法律案提出権(通説は否定)

内閣の法律案提出権は、通説上許容されています。
では、最高裁判所は、自ら法律案を国会に提出できるのでしょうか。

通説の結論と2つの理由

結論通説は、最高裁判所の法律案提出権を否定します。

理由2つの理由は、次のとおりです。

  • 手がかりとなる規定がない:内閣の場合(72条)と違い、最高裁判所の提出を認める規定が憲法にありません。
  • 司法権の独立(76条3項):法律案の提出は非常に政治的な行為で、裁判所が政治色を帯びてしまいます。裁判所は政治から距離を置くからこそ、多数派に流されずに少数者の人権を守れます。

注意内閣の許容も、最高裁判所の否定も、どちらも判例ではなく通説です。

76条|第六章 司法(76〜82条)3項:すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

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