憲法ゼロから憲法#78

違憲判断の手法と違憲判決の効力

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法令違憲(全部違憲と部分違憲)

法令違憲

定義法令違憲とは、条文そのものを対象にして、規定自体を違憲と判断する手法です。

  • 全部違憲:法令の規定の全部を違憲・無効とします。
  • 部分違憲:規定のうち、問題のある一部分だけを違憲・無効とします。

具体例それぞれ、次の判決が当たります。

  • 全部違憲:尊属殺重罰規定違憲判決です。
  • 部分違憲:国籍法違憲判決です。

部分違憲の操作

定義部分違憲は、条文の中の、ある要件を課している部分だけを取り除く操作です。

具体例図書館の利用規約に「市内在住であること、かつ、満20歳以上であること」とあるとします。

年齢制限の部分だけが不合理なら、規約を丸ごと無効にする必要はありません。

年齢制限の一文だけを取り除けば、「市内在住であること」はそのまま使い続けられます。

適用違憲(定義と2段階の導き方)

法令違憲は、条文そのものを違憲とする手法です。
では、条文には手を触れずに違憲と判断する手法は、どのようなものでしょうか。

適用違憲

定義適用違憲とは、その事件で法令が実際に当てはめられた行為に目を向ける手法です。

行為が憲法上の保障の範囲内にあるのに、法令がそれを禁圧しようとしている場合に、その適用を違憲とします。

注意法令そのものには手を触れません。

条文は残したまま、この人へのこの適用だけを止めます。

2段階の導き方

結論答案で適用違憲を書くときは、次の2段階で進みます。

  • 第1段階:問題の行為が、憲法の保障する範囲に含まれると認めます。
  • 第2段階:その行為に、これを禁じる法律の規定を適用することは許されない、と判断します。

具体例公園の管理規則に「公園内でビラを配布してはならない」とあるとします。

  • 迷子の犬を捜すビラ:情報提供は、表現の自由として保障の範囲内の行為です。規則をこの行為に適用して規制することは許されません。
  • 情報の無い紙くず:誰かに何かを伝える行為ではないので、表現の自由として保障される行為とは言えません。規則をそのまま適用して規制できます。

注意2段階の順序は崩しません。

まず「保障される行為かどうか」で線を引きます。

法令違憲と適用違憲の対比

法令違憲と適用違憲の条文の帰趨の対比表

注意表の「消える」は、条文そのものを違憲の対象にするという意味です。

法令違憲の判決が出ても、条文が法令集から消えるわけではありません(第6・7節)。

猿払事件の第一審判決(適用違憲の典型)

適用違憲は、条文を残したまま、その行為への適用だけを違憲とする手法です。
では、実際にこの形で判断した判決は、どのようなものだったのでしょうか。

猿払事件の第一審判決

事案郵便局員が、勤務時間外に政治的な活動を行いました。

そのことを理由に、国家公務員法上の刑罰規定で起訴されました。

結論旭川地方裁判所は、被告人を無罪としました。

  • 規則への該当:郵便局員の行為は、人事院規則が定める政治的行為の禁止に該当すると認めました。
  • 重く見た点:勤務時間外に、国の施設も職務も利用せず、労働組合の活動の一環だった点です。
  • 違憲の判断:この行為に刑罰を科す国家公務員法の規定を適用する限度では、制裁として必要最小限度を超え、憲法21条と31条に違反するとしました。
  • 判断の形:法令そのものは無効にせず、この行為への適用だけを違憲とした形です。

猿払事件の第一審判決旭川地方裁判所判決適用違憲の当てはめ郵便局員の行為は、人事院規則が定める政治的行為の禁止に該当すると認めた。ただし勤務時間外に、国の施設も職務も利用せず、労働組合の活動の一環だった点も重く見た。この行為に刑罰を科す国家公務員法の規定を適用する限度では、制裁として必要最小限度を超え、憲法21条と31条に違反するとして、被告人を無罪とした。

21条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

31条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

典型と呼ばれる理由と、2段階の型との違い

結論この第一審判決は、適用違憲の典型として説明されます。

理由条文は残り、この行為への適用だけが違憲になる、という結論の形が同じだからです。

注意この判決は、第1段階(保障の範囲に入るという認定)を、正面からは立てていません。

  • 前提:政治活動の自由がとても重い権利だ、という前提は置いています。
  • 留保:この行為そのものを規制できるかどうかは、判断を留保しました。
  • 型と実例:2段階は答案で書くときの型で、判決の言葉の順番まで決めるものではありません。公園のビラは型どおりの例、この判決は同じ形に行き着いた実例です。

二重の罠

注意この事件には、混同しやすい点が2つあります。

  • 最高裁の結論:最高裁は、適用違憲ではなく合憲と判断しました。「猿払事件は適用違憲の判例」と覚えるのは誤りです。
  • 呼び方:「猿払事件」は、目的・関連性・均衡の3つの要素で審査した最高裁の判決を指す語として使われます。第一審の話は、必ず「第一審判決」「旭川地裁判決」と呼びます。
  • 「判例」と呼ばない:実務でふつう「判例」と言えば最高裁の判断を指すので、この第一審判決は「判例」とは呼びません。

文面上無効の判決

法令違憲と適用違憲は、違憲判断が「どこを狙うか」の分類です。
では、立法事実を検証せずに違憲だと言う判決は、どう位置づけられるのでしょうか。

文面上無効

定義立法事実とは、法律を支える社会的な事実です。

文面上無効とは、立法事実を拾い上げて理由づけすることをせず、条文の言葉づかいだけを見て違憲だと結論づける場合です。

違憲判断の特殊な類型です。

注意文面上無効は、法令違憲・適用違憲とは別の軸の分類で、3つ目の選択肢として同じ列に並べません。

  • どこを狙うか:法令違憲か、適用違憲かです。
  • どうやって言うか:文面上無効かどうかです。
  • 通常の判断との違い:通常は立法事実を検証してから違憲かどうかを判断しますが、文面上無効ではその検証を飛ばします。
  • 明確性との共通点:明確性の審査では、その事件で行為がどうだったかを見ません。見ないもの(行為か立法事実か)は違っても、見るのが文面だけという点は同じです。

文面上無効になる2つの例

具体例次の2つです。

  • 検閲:事前抑制の措置が「検閲」(21条2項前段)に当たる場合です。検閲は絶対的に禁止されているので、立法事実を問う必要がなく、文面上無効になります。
  • 明確性:刑罰法規の明確性が争われる場合です。その不明確さが、合理的な合憲限定解釈によっても解消できないなら、文面上無効になります。

21条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)2項:検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

合憲限定解釈との関係

定義合憲限定解釈は、憲法判断はしつつ、違憲だとは言わずに済ませる手法です。

結論合憲限定解釈は、文面上無効を回避する最後の関門です。

  • 関門を通れば:広すぎる文言でも、限定して読めば救え、法令は生き残ります。
  • 関門を通れなければ:文面のまま無効になります。

適用違憲の判決の効力

違憲判断の手法は、どこを狙うかと、どうやって言うかの2軸で整理できます。
では、違憲だと判断された法令は、その後どうなるのでしょうか。

効力は当該事案に限られる

結論最高裁が適用違憲と判断したときは、その事件でその法令を使うことだけが違憲として退けられます。

その判決の効力は、当然、当該事案に限られます。

理由そもそも法令には手を触れていないので、他の事件にまで効力が及びようがないからです。

注意この点には争いがありません。

争いがあるのは、法令違憲の判決の効力です(第6節)。

法令違憲の判決の効力(個別的効力説)

適用違憲の判決の効力は、当該事案に限られます。
では、最高裁による法令違憲の判決は、どのような効力を持つのでしょうか。

一般的効力説と個別的効力説

一般的効力説と個別的効力説〈通説〉の効力の対比表

結論通説は、個別的効力説です。

答案では、法令違憲の判決の効力は「当該事件に限って及ぶ」と書きます。

個別的効力説の理由

定義付随的審査制とは、目の前の事件を解決するのに必要な範囲だけ、違憲審査をする制度です。

結論個別的効力説は、次の2つの理由から、法令違憲の判決でも効力は当該事件に限って及ぶと考えます。

条文41条は、前段で国会を「国権の最高機関」、後段で「唯一の立法機関」と定めています。

理由理由は2本立てです。

  • 権力分立の側:効力を一般的に失わせると考えると、裁判所は、法律を作り替えるのに等しい消極的な立法権を持つことになります。これは、国会だけが法律を作れるとする41条後段の建前と衝突します。
  • 制度の側:付随的審査制のもとでは、事件の解決に必要な限度でしか違憲審査が行われません。そうであれば、判断の効力が及ぶ範囲も、その限度を超えません。

注意1本で済ませず、2本とも押さえます。

41条|第四章 国会(41〜64条)国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

刑法200条のゆくえ(違憲判決と条文の存続)

法令違憲の判決の効力は、当該事件に限って及びます。
では、最高裁に違憲とされた条文は、実際にどうなったのでしょうか。

刑法200条が違憲判決後も残り国会が削除するまでの流れ

刑法200条は20年以上残った

結論最高裁に違憲だと判断されても、条文は、その瞬間には消えません。

  • 当該事件:尊属殺重罰規定違憲判決は、当該事件においてのみ、刑法200条を無効とするにとどまります。
  • 別の事件:別の尊属殺の事件で見れば、刑法200条はなお生きた法律のままでした。
  • 削除:国会が削除したのは、違憲判決から20年以上たってからです。それまで、条文の効力は途切れることなく続いていました。

理由日本の違憲審査は、目の前の事件を解決するためだけに動く付随的審査制だからです。

注意「違憲判決が出れば条文は消える」というのは誤りです。

他の国家機関に期待される対応

結論個別的効力説に立っても、他の国家機関は、最高裁の違憲判断を十分に尊重するのが望ましいとされます。

  • 国会:早めに改正・廃止する対応が、憲法上望ましいこととして期待されている、と解されています。
  • 政府:その規定の執行を控える対応が、同じく期待されている、と解されています。

具体例刑法200条についても、判決から削除までの間、この規定では起訴せず、通常の殺人罪で起訴する運用がとられました。

注意「条文は消えないから、国会は放置してよい」という話ではありません。

ただし、条文そのものを消す力までは、判決にはありません。

判例の拘束力(判決理由と傍論)

違憲判断の効力は、目の前の事件までしか届きません。
では、判決で述べられたことは、どこまで次の事件に効くのでしょうか。

「判例」という語の2つの話

定義「判例」という語は、次の2つの別の話で使われます。

  • 呼び分け:どの裁判所の判断かの話です。実務でふつう「判例」と言えば最高裁の判断を指し、地裁のものは「第一審判決」と呼びます。
  • 言葉の広さ:広義では、およそ裁判例を指し、地裁の判決も含みます。狭義では、判決文のうち判決理由の部分だけを指します。

注意呼び分けの話と言葉の広さの話は、混ぜません。

判決理由と傍論

判決理由と傍論の意味の対比表

結論狭義の「判例」が指すのは、判決理由のほうです。

注意判決文に書いてあるからといって、何でも「判例はこう言っている」と使えるわけではありません。

どの部分が理由づけで、どの部分がついでの記述かを見分けます。

事実上の拘束力

結論最高裁の憲法判断は、のちの裁判所に対して、先例として事実上の拘束力を持つと解されています。

その拘束力が及ぶのは、判決理由の部分だけで、傍論には及びません。

理由「事実上の」と付くのは、日本は、先例に法的な拘束力を持たせる国ではないからです。

注意答案で判例を引くときは、結論を支えている理由づけの部分を引きます。

判例の変更(大法廷によらなければならない)

判例の拘束力は、法的なものではなく、事実上のものです。
では、判例を変えることはできるのでしょうか。

判例の変更と大法廷

結論理由がしっかりしていれば、判例を変更することはできます。

ただし、変更は大法廷でなければ扱えません。

条文根拠は、裁判所法10条です。

判例の変更は、前の最高裁の裁判に反する意見をとることそのものなので、10条の3号に当たります。

理由拘束力と変更の関係は、次のとおりです。

  • 変更の余地:拘束力が法的なものではなく事実上のものだからこそ、変更の余地があります。
  • 重い手続:誰でも簡単に変えられないよう、大法廷という重い手続を要求し、判例の安定性を保っています。

10条(抜粋)|裁判所法 第二編 最高裁判所(6〜14条の3)事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。三 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。

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