憲法保障と憲法改正
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憲法保障の意義
憲法保障
定義憲法保障とは、憲法を壊す方向へ向かう政治の動きを止めるか立て直して、憲法が最高法規であり続けるように保つことです。
- 事前:壊れる前に、前もって止めます。
- 事後:起きてしまったあとに、立て直します。
注意事前・事後の2語が、第2節の分類の軸になります。
憲法保障の類型(明文の有無と事前・事後)
憲法保障には、事前に止める手段と事後に立て直す手段があります。
では、憲法保障の手段は、どのような軸で分類されるのでしょうか。

超憲法的保障と憲法内的保障
定義まず、明文があるかどうかで2つに分かれます。
- 超憲法的保障:憲法の外から、憲法秩序そのものを守る手段です。明文がありません(抵抗権・国家緊急権)。
- 憲法内的保障:憲法の内側に、あらかじめ仕組みとして用意された手段です。明文があります。
事前的手段と事後的手段
定義憲法内的保障は、さらに事前と事後に分かれます。
- 事前的手段:硬性憲法(96条)、尊重擁護義務(99条)、その土台の権力分立(41条・65条・76条1項)です。
- 事後的手段:違憲審査制(81条)です。
注意2つの軸は並列ではなく、段になっています。
明文がある側だけが、さらに事前と事後に分かれます。
抵抗権と国家緊急権は憲法の外側の話なので、事前・事後の物差しには乗りません。
各手段の持ち場
結論憲法保障という一語のもとに、次の手段が並びます。
- 違憲審査制:事後的手段です。日本の付随的審査制は、目の前の人の人権を守る場面に強い代わりに、憲法保障の役割では弱くなりがちです。その役割を、解釈で広げてきました。
- 権力分立:事前的手段です。権力を1か所に集めなければ、憲法を壊せるほどの力がそもそも生まれません。統治機構そのものが、憲法を守る手段です。
- 硬性憲法:事前的手段です。改正を難しくします(第6節)。
- 尊重擁護義務:事前的手段です。憲法を壊しうる立場の人たち自身に、壊さない義務を負わせます(第3節)。
41条|第四章 国会(41〜64条)国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
65条|第五章 内閣(65〜75条)行政権は、内閣に属する。
76条|第六章 司法(76〜82条)1項:すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
81条|第六章 司法(76〜82条)最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
公務員の憲法尊重擁護義務(99条)
明文のある事前的手段の1つが、公務員の尊重擁護義務です。
では、99条は、誰に憲法を守る義務を負わせているのでしょうか。
99条の名宛人
結論名宛人は、天皇・摂政・国務大臣・国会議員・裁判官その他の公務員です。
全員、権力を担う立場にいる人たちです。
国民は入っていません。
理由憲法は、国民を縛る法ではなく、国家権力を縛る法だからです。
注意国民のための法であることとは、矛盾しません。
国民のために、権力の側を縛っています。
98条との区別
注意条文番号を取り違えないでください。
- 98条:最高法規性です。
- 99条:尊重擁護義務です。
99条|第十章 最高法規(97〜99条)天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
98条|第十章 最高法規(97〜99条)1項:この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
抵抗権(明文のない保障1)
ここまでは、明文のある保障でした。
では、明文のない保障には、どのようなものがあるのでしょうか。
抵抗権
定義抵抗権とは、国家権力が国民に対して重大な人権侵害を重ねてきたとき、国民の側からそれを拒む権利です。
結論抵抗権の主体は国民です。
明文はどこにもありませんが、憲法保障の一類型(超憲法的保障)に数えます。
理由憲法そのものが壊されたときには、憲法の内側の仕組みはもう働かないからです。
そのときに憲法秩序を押し戻す力は、憲法の外側の国民の側にしか残りません。
国家緊急権(明文のない保障2)
明文のない保障の1つ目は、国民が主体の抵抗権です。
では、名前の似た国家緊急権は、抵抗権とどう違うのでしょうか。

国家緊急権
定義国家緊急権とは、ふだんの統治のしくみでは手に負えない事態で、国家権力が立憲的な憲法秩序をいったん止めて、非常の手段をとる権限です。
国という存在そのものを保つための権限です。
具体例大きな戦争、内乱、恐慌、大規模な自然災害です。
注意抵抗権の主体は国民、国家緊急権の主体は国家権力です。
似た名前で主体が正反対なので、短答で狙われます。
日本国憲法に規定はあるか
結論日本国憲法には、国家緊急権の規定がありません。
具体例明治憲法には、国家緊急権にあたる規定が、複数の条文にわたってありました。
- 緊急勅令:8条です。
- 戒厳宣告の権:14条です。
- 非常大権:31条です。
注意「すでに緊急事態条項がある」と考えるのは誤りです。
両面性
定義国家緊急権は、次の両面性を持ちます。
- 保持を図る面:国家存亡の危機で、憲法の保持を図ります。
- 濫用の危険:緊急事態を名目に、憲法秩序を破壊する方向で濫用されるおそれがあります。
結論改正して国家緊急権を書き込むとしても、歯止めなく使わせない統制の仕組みをセットで用意することが欠かせません。
理由国を守る力が、同時に憲法を壊す道具にもなりうるからです。
硬性憲法96条(守るしくみと変えるしくみの橋)
第5節までは、憲法を守るしくみでした。
では、守るしくみと、憲法を変えるしくみは、どこでつながるのでしょうか。

硬性憲法
定義硬性憲法とは、普通の法律より重い手続でしか変えられない憲法です。
結論守るしくみのうち、硬性憲法96条だけは、同時に変えるしくみでもあります。
理由憲法を改正しにくくしておくこと自体が、そのまま憲法を守ることになるからです。
具体例96条の手続は、次の3段です。
- 発議:国会が行います(第7節)。
- 承認:国民投票で、国民が行います(第8節)。
- 公布:天皇が行います(第9節)。
96条|第九章 改正(96条)1項:この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。2項:憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
手続1:国会による発議
96条の手続は、発議・承認・公布の3段です。
では、1段目の発議には、どれだけの賛成が要るのでしょうか。

総議員の3分の2
定義発議とは、国民に問う憲法改正案の中身を、国会が決めることです。
結論各議院で、その総議員の3分の2以上の賛成が必要です。
出席議員の3分の2ではありません。
具体例定数100人の議院で、70人が出席していた場合です。
- 出席議員の3分の2:47人で足ります。
- 総議員の3分の2:67人が必要です。欠席した30人は、賛成しなかった側に数えられるのと同じになります。
注意法律案の議決なら、出席議員の過半数で足りる場面が多いです。
憲法改正の発議は、それよりずっと重い、総議員基準の特別多数です。
「総議員」の意味
結論「総議員」が何人を指すかには、争いがあり、決着していません。
- 法定議員数説(有力):法律で定めた議員の定数を指します。手続に慎重さを求めるべきだ、という見地からです。
- 現在議員数説:現在の在職議員数を指します。欠員の分だけ分母が減るので、同じ人数の賛成でも3分の2に届きやすくなります。
注意どちらを採るかで必要な人数が変わるので、断定はできません。
国会法の要件(議員による原案の発議)
結論議員が改正案の原案を出すには、衆議院なら議員100人以上、参議院なら議員50人以上の賛成が必要です。
条文人数を定める国会法の条文は、次の2つです。
- 68条の2:原案の発議の要件です。
- 68条の4:原案の修正動議の要件です(同じ人数)。
注意いずれも国会法の要件であって、憲法96条自体の要件ではありません。
68条の2|国会法 第六章の二 日本国憲法の改正の発議(68条の2〜68条の6)議員が日本国憲法の改正案(以下「憲法改正案」という。)の原案(以下「憲法改正原案」という。)を発議するには、第五十六条第一項の規定にかかわらず、衆議院においては議員百人以上、参議院においては議員五十人以上の賛成を要する。
68条の4|国会法 第六章の二 日本国憲法の改正の発議(68条の2〜68条の6)憲法改正原案につき議院の会議で修正の動議を議題とするには、第五十七条の規定にかかわらず、衆議院においては議員百人以上、参議院においては議員五十人以上の賛成を要する。
内閣の発案権
結論憲法改正の原案について、内閣に発案権は無いとする見解(否定説)が有力です。
理由改正は、主権者である国民に提案するかどうかを決める場面です。
国民から選ばれた議員で構成される国会が決めるべきで、国会が作った内閣が口火を切る場面ではないからです。
注意学説の対立として押さえます。
- 法律案との違い:法律案なら、内閣が提出できます。混同しないでください。
- 政府解釈:一貫して肯定説を採っています。国会法も、この点を決めていません。
衆議院の優越
結論96条には、衆議院の優越はありません。
各議院が対等に、それぞれ総議員の3分の2以上の賛成を必要とします。
理由60条・61条との違いは、次のとおりです。
- 60条・61条:予算や条約は、決まらないままでは国政が止まってしまうので、衆議院を優先させます。
- 憲法改正:決まらなければ今の憲法が続くだけで、急いで決着させる必要がありません。むしろ、両院がそろって重い賛成を出すことに意味があります。
60条|第四章 国会(41〜64条)2項:予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
61条|第四章 国会(41〜64条)条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
手続2:国民の承認(過半数の意味)
発議の後、改正案は国民に提案されます。
では、国民投票で必要な「過半数」とは、何の過半数なのでしょうか。
過半数の3説
結論96条の文言だけからは、答えが1つに決まりません。
分母の取り方で、3つの説が対立していました。
- 有権者総数説:有権者全体を分母にします。
- 投票総数説:投票した人全体を分母にします。
- 有効投票総数説:有効な投票だけを分母にします。
具体例有権者1億人、投票5千万人、うち無効票5百万人で、賛成が2千3百万票の場合です。
- 有効投票総数説:有効な投票4千5百万票の過半数を超えるので、成立します。
- 有権者総数説:有権者1億人の過半数に届かないので、不成立です。
国民投票法による決着
結論平成19年にできた国民投票法が、有効投票総数の過半数と定めて決着させました。
- 順序:まず条文があり、そこに解釈の対立が生まれ、法律が決着させました。
- 投票権者:日本国民で満18年以上の者です。
注意法律の文言そのものは「投票総数」です。
その投票総数は、賛成の投票の数と反対の投票の数を合計した数と定義され、無効票や白票は分母に入りません。
だから実質的に、有効な票だけを分母にした過半数になります。
手続3:天皇による公布
国民投票で承認されると、改正が成立します。
では、3段目の公布は、誰がどのような形で行うのでしょうか。
「国民の名で」の公布
結論天皇が、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちに公布します(96条2項)。
条文7条1号にも、天皇が憲法改正を公布する国事行為が挙げられています。
理由公布するのは天皇ですが、天皇自身の意思としてではなく、国民の名で行われます。
改正の主体が国民であることが、この一言に表れています(国民主権)。
96条|第九章 改正(96条)2項:憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
7条(抜粋)|第一章 天皇(1〜8条)天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
憲法改正の限界(限界説)
96条に書いてあるのは、手続だけです。
では、96条の手続を踏めば、憲法はどんな中身にでも書き換えられるのでしょうか。

限界説(通説)
結論通説は、憲法改正には限界があると考えます(限界説)。
次の4つを改廃することは、96条の手続を経てもなお許されません。
- ①国民主権
- ②憲法改正国民投票制
- ③人権宣言の基本原則
- ④平和主義の原則
具体例「主権は天皇に属する」と書き換える改正は、96条の手続を全部踏んでもできません。
国民主権を書き換えることは、改正権自身の存在根拠を切ることになるからです。
注意手続さえ踏めば無限に変えられるという考え方(無限界説)は、通説ではありません。
4つのつながり(根・幹と枝)
結論4つは横に並んだ項目ではなく、①③が根・幹、②④がそこから直接伸びた太い枝という構造です。
理由それぞれの位置づけは、次のとおりです。
- ①国民主権:憲法改正権そのものの基盤です。改正権で改正すれば、改正権が自分の存在根拠を切り倒すことになります(改正権の自殺行為)。
- ③人権宣言の基本原則:憲法が何のためにあるのかを決める、根本規範にあたります。
- ②国民投票制:①国民主権から伸びています。廃止すれば、国民主権が揺らぎます。
- ④平和主義の原則:①や③から伸びています。戦争は国民の生命そのものを奪うので、③を国と国との関係の面で言い直したものといえます。
限界説と憲法保障
結論限界説は、変えるしくみの話に見えて、実は守るしくみの最後の一枚です。
理由96条の改正手続も、憲法の最高法規性を確保するしくみの一部です。
その手続を使って、憲法を最高法規たらしめている中身そのものを壊せば、守るべき憲法がその瞬間に消えてしまいます。
守るための手続で、その手続の土台そのものを壊すことはできません。
9条2項は改正できるか
結論限界にあたるのは平和主義の「原則」であって、9条2項という条文そのものではありません。
- 侵略戦争を許容する改正:原則そのものを切ることになるので、許されません。
- 戦力の不保持(9条2項)の見直し:平和主義の原則と必ずしも矛盾せず、可能と解されています。
注意「限界説だから9条は一切変えられない」というのは誤りです(よくある誤解)。
変えられないのは原則の部分であって、条文の組み方まで固定されているわけではありません。
9条|第二章 戦争の放棄(9条)2項:前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
8月革命説との関係
結論限界説を前提にすると、明治憲法73条の改正手続では、国民主権を柱とする日本国憲法の成立を説明できない断絶が生じます。
その断絶を埋める説明として、8月革命説がありました。