憲法ゼロから憲法#59

国会の地位

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国会の3つの地位

3つの肩書き

定義国会には、条文上3つの肩書きがあります。

  • 国権の最高機関:41条前段です。
  • 唯一の立法機関:41条後段です。
  • 全国民の代表機関:43条1項です。

結論いちばん立派に聞こえる「国権の最高機関」は、法的な中身を持ちません。

法的に効いているのは、全国民の代表と唯一の立法機関の2つです。

注意「国権」とは、統治権全体を指す言葉です。

41条|第四章 国会(41〜64条)国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

43条|第四章 国会(41〜64条)1項:両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

国権の最高機関(統括機関説と政治的美称説)

国会の3つの肩書きのうち、1つは法的な中身を持ちません。
では、41条前段の「国権の最高機関」という文言は、どう読むのでしょうか。

統括機関説

抑制関係の図(内閣は解散権〔69条・7条3号〕で、裁判所は違憲審査権〔81条〕で国会を抑える)

定義41条前段の文言に法的な意味を認め、国会を国政全般の統括機関と解する見解です(統括機関説)。

国会を、内閣や裁判所より上に立つ機関と解します。

結論統括機関説は、あまり採られません。

条文権力分立の下で、国会は他の機関に抑えられる側にいます。

  • 内閣の解散権:69条・7条3号
  • 裁判所の違憲審査権:81条

理由内閣にも裁判所にも止められる機関を、上位の統括機関と呼ぶのは無理があるからです。

69条|第五章 内閣(65〜75条)内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

7条|第一章 天皇(1〜8条)天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。三 衆議院を解散すること。

81条|第六章 司法(76〜82条)最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

政治的美称説(通説)

国会の主な権限と根拠条文の一覧表(憲法改正の発議・法律の制定・条約の承認・予算の議決)

定義「国権の最高機関」は、国会の地位をまとめて呼んだ政治的美称にすぎないとする見解です(政治的美称説)。

結論通説は、政治的美称説です。

この文言そのものには、特段の法的意味はないと考えます。

理由国会は、国政で最も重要な権限の数々を、憲法から与えられています。

その地位をまとめて呼んだ言葉が、「国権の最高機関」だからです。

注意「特段の法的意味はない」は、国会の権限が小さいという意味ではありません。

この言葉そのものから、独立した権限や効果を導けないという意味です。

表の権限は、どれも41条前段からではなく、それぞれ別の条文が与えています。

全国民の代表(代表概念の歴史的展開)

「国権の最高機関」に法的な中身はなく、法的に効くのは残りの2つの肩書きです。
まず、「全国民の代表」の「代表」とは、どういう意味なのでしょうか。

「全国民の代表」の意味

結論「全国民の代表」とは、議員が選んだ人の言うとおりに動かなくてよいという意味です。

注意選挙区の意見を代わりに言う人、という意味ではありません。

ただし、これは法的な話で、民意を無視してよいという話ではありません(第4節)。

代表概念の三段階

代表概念の三段階のフロー図(近代以前=命令的委任→近代=自由委任・純粋代表→現代=半代表・社会学的代表)

定義代表の考え方は、次の3段階で変わってきました。

  • 命令的委任(近代以前):代表者は、選出母体の意思に法的に縛られます。
  • 自由委任・純粋代表(近代):代表者は、選出母体の指示に法的に縛られません。
  • 半代表・社会学的代表(現代):命令的委任の禁止は維持したまま、民意を事実上映すことが重視されます。

理由変化の軸は、国家の意思を誰が作っていたかです。

  • 近代以前:国全体の意思を作るのは王で、議会はまとまった意思を作る場ではありませんでした。代表が縛られていても、不都合がなかったのです。
  • 近代:市民革命を経て、国家の意思を作る役割が議会に移りました。代表が選出母体に縛られていては統一した意思を作れないので、縛りを外しました。
  • 現代:普通選挙で、選挙権を持つ人の範囲が大きく広がりました。法的な縛りはなくても、事実として民意を反映することが期待されるようになりました。

注意自由委任は考え方の名前で、純粋代表はその段階の代表の名前です。

日本国憲法の「代表」(二階建てと三分類)

代表の考え方は、命令的委任から自由委任、社会学的代表へと変わってきました。
では、日本国憲法の「全国民の代表」は、この流れのどこに立つのでしょうか。

43条1項の読み方

結論43条1項の「代表」は、半代表・社会学的代表と解するのが妥当です。

理由2つの点から、そう読めます。

  • 命令的委任の禁止:各選挙区の代表ではなく、「全国民」の代表と書かれています。
  • 普通選挙:日本国憲法も成年者による普通選挙を保障しており、現代の段階に立っています。

注意43条1項は、「国会議員は全国民の代表である」とは書いていません。

両議院の組織のしかたを定める規定で、そこから議員が全国民を代表すると読み取っています。

二階建ての構造

結論「全国民の代表」は、2つが積み重なった二階建てです。

  • 一階:法的には、選出母体に縛られません(自由委任)。
  • 二階:事実上は、民意に縛られます(社会学的代表)。

理由民意から離れた議員は、次の選挙で選ばれないからです。

法的な強制がなくても、選ぶ側が見ています。

注意自由委任だからといって、議員が何をしてもよいという意味ではありません。

代表の三分類(別の切り口)

代表の三分類の表(法的代表・政治的代表・社会学的代表〈通説〉の考え方と批判)

結論三分類のうち、社会学的代表が通説です。

歴史の三段階でたどり着いた先と、同じ言葉で一致します。

理由他の2つには、それぞれ批判があります。

  • 法的代表:国会が決めたことがそのまま国民の意思になるなら、国民主権とは言えなくなります。
  • 政治的代表:「反映しているとみなす」で済ませると、実際の民意と食い違っても代表だということになります。

具体例多くの国民が望まない増税を国会が決めても、国民の意思が反映されたとみなされてしまいます(政治的代表の弱点)。

注意次の2点を混同しないでください。

  • 切り口:三段階は時間の流れで見た整理で、三分類は「代表」という言葉そのものを3つに分ける整理です。
  • 向き:国民の意思が国会に映ることと、国会の意思を国民の意思とみなすこと(法的代表)は、逆向きです。

選挙制度への要求

結論社会学的代表の考え方は、選挙のしくみ自体が公正で民意を忠実に反映するものであることを求めます。

理由事実上民意を映すには、その前提となる選挙のしくみが公正でなければならないからです。

注意投票価値の平等の論点は、ここにつながっています。

党議拘束と党籍変動

「全国民の代表」の一階には、選出母体に法的に縛られない自由委任があります。
では、政党が議員を縛る党議拘束や、議員が党を移ることは、どう扱われるのでしょうか。

党議拘束

定義党議拘束とは、政党が所属議員の表決を拘束することです。

結論党議拘束は、自由委任の枠外にあるものとして、合憲と考えられています。

理由2つの面から説明されます。

  • 政党の役割:判例(八幡製鉄事件)は、政党を、議会制民主主義を支える不可欠の要素であり、国民の政治意思を形成する最も有力な媒体としています。
  • 代表の実質:国民の多様な意思は、まず政党にまとまります。議員は、所属政党の方針に従って動くことで、代表の実質を発揮できます。
  • 縛る向き:自由委任は、ばらばらの指示に縛られて議会が意思をまとめられなくなる事態を防ぐものです。党議拘束は、逆に意思をまとめる側に働きます。

注意一見すると、自由委任に反するように見えます。

また、党の方針に従わず除名されても、議員の資格そのものは失いません。

自由委任は、選出母体からの法的な責任追及を禁じるものだからです。

比例代表選出議員の党籍変動

結論比例代表で当選した議員が党を移って資格を失うのは、次の両方を満たす場合に限られます。

  • 移籍先:当選したときの所属政党とは、別の政党に移ったこと。
  • 競合政党:その政党が、同じ選挙で候補者名簿を出していた政党であること。

注意次の場合は、資格を失いません。

  • 離党:単なる離党や、無所属になる場合です。
  • 新党:当選後に結成された新党へ移る場合です。

この制度が自由委任とどこまで整合するかは、学説上なお議論があります。

唯一の立法機関の「立法」

残る肩書きは、41条後段の「唯一の立法機関」です。
では、国会だけが作れる「立法」とは、何を指すのでしょうか。

41条後段の趣旨

定義41条後段の趣旨は、次の3段でつながっています。

  • 独占:国民代表機関である国会に、立法権を独占させます。
  • 統制:それによって、立法に民主的コントロールを及ぼします。
  • 保障:その結果、国民の権利・自由をできる限り保障します。

注意「立法」を、単に国会が作る法律のことと読むと、答えになりません。

「立法」をめぐる学説

「立法」をめぐる学説の批判の流れ(形式的意味の立法説→法規説→一般的・抽象的法規範説〈通説〉)

結論通説は、一般的・抽象的法規範説です。

理由前の2説には、それぞれ批判があります。

  • 形式的意味の立法説:「国会が法律を作ることを立法と呼ぶ」という同語反復になります。41条後段は、せいぜい国会以外の機関が「法律」という名のものを作るのを禁じる意味しか持てません。
  • 法規説:明治憲法のもとで育った、議会が君主の権力を制限するという立憲君主政を前提にした考え方です。国民主権を採る日本国憲法の下では、「立法」の範囲が狭すぎます。

具体例生活に困った人に給付を行う法律は、権利を制限せず、義務も課しません。

法規説では、こうした法律が「立法」から外れてしまいます。

一般的・抽象的の意味

定義「立法」とは、国民の権利・義務に関する、一般的・抽象的な法規範の定立です。

  • 一般的:不特定多数の人を対象にすることです。
  • 抽象的:不特定多数の事案に、繰り返し適用されることです。

具体例道路の制限速度を定める法律は、両方を満たします。

  • 一般的:その道を走る人なら、誰にでも当てはまります。
  • 抽象的:道を走るたびに、何度でも当てはまります。

特定の会社1社だけを名指しして規律する法律は、一般的とは言えません。

注意「国民の権利・義務に関する」という限定が必ず付きます。

一般的・抽象的な規範なら何でもよい、というわけではありません。

必要的立法事項と任意的立法事項

定義通説からは、次の区別が出てきます。

  • 必要的立法事項:国民の権利義務に関する一般的・抽象的な法規範です。必ず国会が法律で定めなければなりません。
  • 任意的立法事項:この条件に当てはまらない規範です。法律で定めても、政令のような法律以外の形式で定めてもかまいません。

措置法と行政組織の大綱

必要的立法事項にあたらない規範は、任意的立法事項になります。
では、特定の人や事案だけを規律する法律は、そもそも作ってよいのでしょうか。

措置法

定義措置法(処分的法律)とは、特定の人または特定の事案だけを規律する法律です。

不特定多数を対象にしないので一般的とは言えず、必要的立法事項にはあたりません。

結論措置法は、2つの関門を通れば、任意的立法事項として定立することが合憲です。

  • 権力分立:国会と内閣の憲法上の関係が、決定的に壊されない限り反しません。
  • 平等原則:福祉国家にふさわしい、実質的・合理的な違いを設ける趣旨なら反しません(14条1項)。

理由それぞれ次のように考えます。

  • 権力分立:特定の人や事案を個別に扱うのは、本来は行政の仕事に近いものです。しかし、行政権が肥大化した今の社会では、権力分立の主眼は行政権を抑えることにあります。国会が行政の領域に少し手を伸ばしても、止めるべき相手を野放しにすることにはなりません。
  • 平等原則:福祉国家は、困っている人や地域に、国が積極的に手を差し伸べる国家のあり方です。事情に応じた合理的な違いなら、平等原則には反しません。

具体例特定の被災地だけを対象にした、復興のための法律です。

被災地だけを特別扱いすることは、その地域の事情に応じた合理的な違いだと言えます。

注意「立法にあたらない、だから作れない」と丸めると誤りです。

14条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

行政組織の大綱

結論行政組織の大綱を定める法律も、任意的立法事項と考えるのが妥当です。

理由国民の権利義務に直接関係するとまでは、言いにくいからです。

一般的・抽象的な法規範とも、言いがたいものです。

具体例各省の設置法です。

注意これを必要的立法事項だとする見解もあります。

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