憲法ゼロから憲法#77

憲法判断の回避と合憲限定解釈

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憲法判断回避のルール

回避のルールの意義

定義憲法判断回避のルールとは、憲法判断が回避できるときは、憲法判断を回避するべきだという準則です。

結論付随的審査制の下では、基本的原則として適用されると解されています。

条文付随的審査制は、81条が定める違憲審査の仕組みです。

理由付随的審査制は、事件の解決に必要な限度でしか審査しない制度だからです。

法律の解釈だけで事件が解決できるなら、憲法問題に踏み込む必要はありません。

注意回避は、裁判所の消極さの表れではありません。

付随的審査制という制度そのものの作法です。

81条|第六章 司法(76〜82条)最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

恵庭事件(回避が実際に起きた場面)

付随的審査制の下では、法律問題で片づくなら憲法問題に踏み込みません。
では、実際の事件で、裁判所はどのように憲法判断を回避したのでしょうか。

恵庭事件

事案北海道恵庭町の住民が、自衛隊の演習で使う通信線を切断しました。

  • 起訴:自衛隊法121条の損壊罪で起訴されました。
  • 被告人側の主張:121条は違憲無効なので、無罪だと主張しました。憲法判断を正面から求めた主張です。

結論札幌地裁は、通信線は121条の客体にあたらないとして、無罪としました。

121条の合憲性には、立ち入りませんでした。

理由「その他の防衛の用に供する物」は、前に並ぶ武器、弾薬、航空機と同じ種類のものとして読むからです。

武器・弾薬・航空機は、直接、戦闘や防衛の行動そのものに使う装備です。

演習用の通信線は、演習を円滑に進めるための後方の設備にすぎず、同じ並びに入りません。

121条|自衛隊法 第九章 罰則(118〜126条)自衛隊の所有し、又は使用する武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物を損壊し、又は傷害した者は、五年以下の拘禁刑又は五万円以下の罰金に処する。

回避の構造

恵庭事件で憲法判断が避けられた流れ(通信線は121条の客体外で無罪→合憲性には立ち入らない)

結論無罪という結論は、条文の文言を読むだけで出ています。

法律問題のレベルで事件が解決したので、憲法問題には立ち入る必要がありません。

これが、憲法判断回避の実例です。

注意混同しやすい点が3つあります。

  • 合憲とは言っていない:この判決は、自衛隊が合憲だとも違憲だとも言っていません。
  • 呼び方:最高裁ではなく、札幌地方裁判所の判決です。最高裁の判決だけを判例と呼ぶので、「札幌地裁判決」と呼びます。
  • 統治行為との違い:統治行為は、裁判所が判断するのに適さないとして、入口そのものを閉じます。回避のルールは、そこまで行かなくても解けるので、入口の先に行かないだけです。

回避は絶対のルールではない(4要素)

恵庭事件では、法律問題で解決したので憲法判断が回避されました。
では、回避のルールは、どんな事件でも貫かれる絶対のルールなのでしょうか。

回避を破れる場合(通説)

結論回避は原則であって、絶対ではありません。

次の4要素を総合的に考慮し、十分な理由があると判断した場合は、回避のルールによらず憲法判断に踏み切ることができます(通説)。

  • ①事件の重大性:事件がどれだけ重大か。
  • ②違憲状態の程度:違憲の状態がどれだけひどいか。
  • ③影響の範囲:その影響が、どれだけ広く及ぶか。
  • ④権利の性質:事件で問題にされている権利が、どれだけ重いか。

理由回避のルールを絶対視すると、違憲審査制の憲法保障機能に反する場面が生じるからです。

憲法に反する法律が、ずっと放置される場面が出てきます。

注意回避のルールは、日本と同じ付随的審査制をとるアメリカの判例が育ててきた考え方です。

アメリカ由来だからといって、日本で頭ごなしに退けるべきものではありません。

4要素の使い方

結論4要素は、回避を破ってでも答えるべきかを測る1つの物差しです。

4つが大きいほど、憲法判断に踏み切るべき向きに傾きます。

具体例恵庭事件では、被告人は無罪で、事件の重大性も影響の範囲も大きくありません。

そのため、回避が維持されました。

もっと重大で広く影響が及ぶ事件なら、違う結論もありえます。

合憲限定解釈(違憲判断だけを回避する)

回避のルールは、原則として憲法判断そのものに踏み込まない準則です。
では、憲法判断を避けるもう一つの道具である合憲限定解釈は、回避とどう違うのでしょうか。

回避のルールとの違い

回避のルールと合憲限定解釈の対比(憲法判断そのものを回避/違憲判断だけを回避)

定義合憲限定解釈とは、言葉どおりに読むと違憲になりかねない幅広い法文の意味を絞り込むことで、違憲になる余地を消し、法令の効力を救済する解釈です。

結論回避のルールは、憲法判断そのものを回避します。

合憲限定解釈は、憲法判断そのものは行いますが、違憲判断だけを回避します。

2つの見分け方

2つの見分け方の表(判決文に「合憲」の2文字が出るか/誰を救っているか)

結論判決文を読んで迷ったときは、次の2つの点で見分けます。

  • 「合憲」の2文字:合憲限定解釈の判決には出てきますが、回避の判決には出てきません。
  • 誰を救うか:回避は目の前の被告人を法律問題で救い、合憲限定解釈は法令の効力を救います。

違憲と言わない3本の道

結論裁判所が「違憲」と言わない道は、3本あります。

  • ①回避のルール:そもそも答えません。
  • ②合憲限定解釈:答えますが、読み方を絞って合憲にします。
  • ③通常の合憲判断:答えて、そのまま合憲だと言います。

注意①と②は、どちらも「違憲」と言いませんが、止まっている位置が違います。

止まっている位置が違えば、答案で書くべきことも違います。

  • 恵庭事件:①です。合憲性の話に入っていません。
  • 税関検査事件:②です(第5節)。

憲法適合解釈

定義憲法適合解釈とは、憲法に沿うように、法律の要件を読む道具です。

注意合憲限定解釈とは、根っこの発想が近い道具です。

税関検査事件(合憲限定解釈が使われた場面)

合憲限定解釈は、法文の意味を絞り込んで法令の効力を救う解釈です。
では、実際の事件で、最高裁はどのように意味を絞り込んだのでしょうか。

税関検査事件

「風俗」の絞り方(刑法の規制はわいせつ物の罪だけ→専ら性的風俗→合憲)

事案当時の関税定率法21条1項3号は、「公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品」の輸入を禁止していました。

この「風俗」という文言が不明確で、憲法21条1項に違反しないかが問題になりました。

結論大法廷の判決は、「風俗」とは専ら性的風俗を意味し、輸入禁止の対象は猥褻な書籍、図画等に限られるとしました。

このような限定的な解釈が可能である以上、規定は何ら明確性に欠けるものではなく、憲法21条1項に反しない合憲的なものとしました。

理由最高裁は、法律の作りに注目しました。

  • 多義性:「風俗」という用語そのものは、性的風俗、社会的風俗、宗教的風俗等多義にわたり、文言自体から直ちに一義的に明らかとはいえないと認めています。
  • 法律の作り:旧刑法でも現行刑法でも、表現物で「風俗を害する」として規制されてきたのは、わいせつ物の罪だけです。

注意押さえる点は2つです。

  • 救った判決:限定解釈は、法律を叩いたのではなく救ったのです。広すぎれば違憲になっていたかもしれない規定が、絞ったことで効力を保ちました。
  • 使える条件:絞った意味が、一般人の理解で読み取れる場合に限り使えます。読み取れないときは限定解釈は使えず、明確性を欠くという話に戻ります。

税関検査事件最高裁判所大法廷判決限定解釈による結論この規定のうち、「風俗」という用語そのものの意味内容は、性的風俗、社会的風俗、宗教的風俗等多義にわたり、その文言自体から直ちに一義的に明らかであるといえないことは所論のとおりであるが、……したがつて、関税定率法二一条一項三号にいう「風俗を害すべき書籍、図画」等との規定を合理的に解釈すれば、右にいう「風俗」とは専ら性的風俗を意味し、右規定により輸入禁止の対象とされるのは猥褻な書籍、図画等に限られるものということができ、このような限定的な解釈が可能である以上、右規定は、何ら明確性に欠けるものではなく、憲法二一条一項の規定に反しない合憲的なものというべきである。

21条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

立法事実と審査基準

裁判所は、憲法判断に立ち入ると決めた場合、その法律の中身を審査します。
そのとき、法律の合理性を支える事実は、どこまで確かでなければならないのでしょうか。

立法事実

定義立法事実とは、法律の合理性を支える社会的・経済的事実です。

結論裁判所は、憲法判断に立ち入る場合、その法律の立法事実を検証します。

具体例ある業種の距離制限を定めた法律なら、距離を離さないと本当に危険が生じるのか、という事実です。

注意立法事実の確証度は、まちまちです。

確実な社会科学的データに根拠づけられたものから、単なる憶測にすぎないものまで幅があります。

審査基準との連動

結論審査基準は、次の2点で分類できます。

  • ①目的と手段:どんな目的で、どんな手段か。
  • ②確証度:その目的・手段の根拠となる立法事実に、どれだけの確証度を求めるか。

理由審査基準によって、立法事実に求める確証度が変わるからです。

  • 厳格な審査基準:立法事実に高い確証度が求められます。確実なデータで根拠づけられていなければ通りません。
  • 緩やかな基準:立法事実が推定されるものでもあれば足ります。

注意厳しく疑う場面ほど、目的も手段も立法事実の確からしさも、すべてより重いものが求められます。

立法事実の変化と司法事実

立法事実は、法律の合理性を支える社会的・経済的事実です。
では、この事実は、時代が変わっても同じなのでしょうか。

立法事実は時代で変わる

再婚禁止期間の100日超過部分(制定当時は合理性あり→現在は合理性なし)

結論立法事実は、時代によって変化します。

具体例女性にだけ課された再婚禁止期間の規定は、100日を超える部分が違憲と判断されました。

  • 制定当時:医療も科学技術も未発達で、父子関係を確かめるのが難しかったので、期間に幅を持たせることにも合理性がありました。
  • 現在:その理由が時代とともに消え、合理性がなくなったと判断されています。

注意条文の文言も、判断の枠組みも変わっていません。

それを支えていた社会的な事実のほうが動いたのです。

司法事実

定義司法事実とは、その事件で、誰が、誰に対して、何を、いつ、どこで、どのようになしたかという事実です。

結論立法事実とは別の概念で、裁判所は両方を別々に見ています。

  • 立法事実:制度全体を支える一般的な事実です。法律そのものの合理性を測るために見ます。
  • 司法事実:この事件、この人に固有の事実です。目の前の事件に法律をどう当てはめるかを決めるために見ます。

具体例再婚禁止期間の事件では、次のように分かれます。

  • 立法事実:父性の推定が重なるのを避ける必要が、今もどれだけあるか。
  • 司法事実:この原告が、いつ離婚して、いつ再婚しようとしたか。

特定の第三者の憲法上の権利の援用

裁判所は、事件を解くときに立法事実と司法事実を見ています。
では、当事者は、自分ではなく特定の第三者の権利の侵害を理由に、違憲を主張できるのでしょうか。

第三者所有物没収事件

定義付加刑とは、おもな刑に付け加えて科される刑で、没収がこれにあたります(判決文では「附加刑」と書かれています)。

事案被告人は、密輸貨物の没収判決を受けました。

  • 第三者の所有物:その貨物の中に、第三者Aの所有物がまじっていました。
  • 被告人の主張:没収はAの財産権(29条1項)を侵害し、違憲だと争いました。

結論大法廷の判決は、被告人は没収の違憲を理由に上告できるとしました。

理由判決は、次の2つを理由にしています。

  • 附加刑:没収は、たとえ第三者の所有物に関する場合でも、被告人に対する附加刑である以上、その違憲を理由に上告できるのは当然です。
  • 被告人自身の利害関係:被告人も、没収に係る物の占有権を剥奪されます。さらに、第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有することが明らかです。

注意この判決を「第三者の権利の援用が、一般に認められた判例」と読むのは誤りです。

判決が救っているのは、最後まで被告人自身の利害関係です。

財産権そのものの中身には立ち入らず、援用できるかだけを見ます。

第三者所有物没収事件最高裁判所大法廷判決被告人の上告適格……かかる没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であつても、被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは、当然である。のみならず、被告人としても没収に係る物の占有権を剥奪され、またはこれが使用、収益をなしえない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有することが明らかであるから、上告によりこれが救済を求めることができるものと解すべきである。……

29条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:財産権は、これを侵してはならない。

通説(原則不可+4要素)

結論原則として、特定の第三者の憲法上の権利を援用することはできません。

ただし、次の4要素などを考慮して、援用が許される場合があります。

  • ①訴訟における利益:当事者の訴訟における利益の程度です。
  • ②権利の性質:援用される憲法上の権利の性質です。
  • ③第三者との関係:援用者と第三者との関係です。
  • ④独立の主張の可能性:第三者が独立に憲法上の権利侵害を主張する実際的可能性です。

具体例ある法律が、特定の治療を行った医師を処罰するとします。

その治療でなければ助からない患者がいる場合、4要素は次のように援用を認める側に傾きます。

  • ①訴訟利益:医師は現に処罰される側で、訴訟での利益が大きいです。
  • ②権利の性質:患者の権利は、生命に関わる重い権利です。
  • ③関係:医師と患者は、診療という関係で直接つながっています。
  • ④主張の可能性:患者が病名を明かしてまで裁判を起こすのは難しいです。

注意4つを数えるのではなく、傾きを見ます。

どれかが弱ければ、原則どおり援用はできません。

  • 没収事件との関係:第三者所有物没収事件は、この例外に当たりません。4要素を使わず、被告人自身の利害だけで結論を出しています。

4要素は2組ある

2組の4要素の表(回避の4要素/援用の4要素と、それぞれが測るもの)

注意数が同じだけで、使う場面がまったく違います。

答案では、援用の4要素を「援用できるか」が問題になったときの物差しとして使います。

不特定の第三者の権利の援用

特定の第三者の権利は、原則として援用できません。
では、名前も分からない不特定の第三者の権利は、どこまで援用できるのでしょうか。

許される2つの場合

結論不特定の第三者の権利の援用が許されるのは、次の2つの場合に限られます。

  • ①表現の自由:表現の自由に対する、不明確または過度に広汎な制約の場合です。
  • ②刑罰法規:刑罰法規が不明確な場合です。

理由文面上無効の考え方と同じだからです。

条文の書きぶりが曖昧なせいで他の誰かが萎縮しているなら、その書きぶりだけを理由に条文そのものを争えます。

自分が取り締まられた事件でも、裁判所は自分の行為の当否を見ません。

注意「不特定の第三者なら、広く援用できる」と一般化してはいけません。

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