憲法ゼロから憲法#73

司法権の独立

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司法権の独立(2つの意味)

司法府の独立と裁判官の職権の独立

定義「独立」には、次の2つの意味があります。

  • 司法府の独立:裁判所という組織が、立法権・行政権から独立していることです(76条1項・広義)。
  • 裁判官の職権の独立:個々の裁判官が、裁判をするときに独立して判断することです(76条3項・狭義)。

結論司法権の独立の核心は、裁判官の職権の独立です。

理由組織が独立していても、中の裁判官が言いなりでは意味がないからです。

注意司法府の独立は、権力分立の当然の帰結です。

2つは別物として区別します。

76条|第六章 司法(76〜82条)1項:すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。2項:特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。3項:すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

76条の3つの項の役割

結論76条の各項は、次の話をしています。

  • 1項:司法府の独立と、裁判所の種類です。
  • 3項:裁判官一人ひとりの独立です。
  • 2項:独立を裏返しにした話です(特別裁判所の禁止・終審裁判の禁止)。

注意2項は、裁判を通常の裁判所の中だけで完結させるという要求です(第7〜10節)。

独立の趣旨

司法権の独立の核心は、裁判官の職権の独立です。
では、なぜ司法だけ、そこまで独立を大事にするのでしょうか。

非政治的な権力

結論司法は非政治的な権力なので、立法権・行政権より侵害される危険が大きいです。

理由国会や内閣は、選挙や世論という多数の支持で動く権力です。

裁判所は、多数の支持で動く権力ではありません。

具体例裁判所は、世論に左右されずに判断しなければなりません。

  • 有罪にできない場合:世論が誰かを強く非難していても、要件を満たさなければ有罪にはできません。
  • 違法と言う場合:どれだけ人気があっても、法に反すれば違法だと言わなければなりません。

少数者の保護と干渉の排除

結論裁判所は、多数決では守られない少数者を守るためにあります。

だから、外部・内部を問わず、干渉を排除する必要があります。

注意排除するのは外からの干渉だけではありません。

裁判所の中からの干渉も排除します(第3節)。

76条3項を言葉どおりに読む

独立は、外からも中からも干渉を排除するためにあります。
では、76条3項の文言は、何をどこまで排除しているのでしょうか。

「その良心に従ひ」

定義「良心」は、裁判官個人の主観的な良心ではなく、裁判官としての客観的な良心と解されています。

好き嫌いや個人的な信条ではなく、公正に判断する姿勢のことです。

理由個人の信条のことだとすると、自分の考えを理由に法を曲げてよいことになります。

それでは、同じ3項の「この憲法及び法律にのみ拘束される」とぶつかります。

注意「良心=裁判官個人の気持ち」と読むのは、よくある誤解です。

「独立してその職権を行ひ」

定義他の何ものの指示・命令も受けずに、自分の判断で職権を行うという意味です。

結論排除されるのは、次の2つです。

  • 外部:立法権や行政権からの指示・命令です。
  • 内部:裁判所の内部からの指示・命令も、同じように排除されます。

具体例先輩の裁判官が、後輩の担当している事件の結論を指示することは許されません。

注意一般的な法律の知識や、判例の読み方を教えることは問題ありません。

問題なのは、担当している事件の結論を指示することです。

事件を担当すれば、経験年数に関係なく、その判断は対等です。

例外に見えて例外でないもの

結論次の2つは、職権の独立の例外ではありません。

  • 上級審の拘束:上級審の判断は、その事件について下級審を拘束します(裁判所法4条)。
  • 国民からの批判:判決への批判そのものは、排除されません。主権者として意見を言う権利です。

理由それぞれ次の理由によります。

  • 上級審の拘束:3項は「この憲法及び法律にのみ拘束される」と定めており、従う根拠は裁判所法という法律だからです。
  • 国民からの批判:禁じられているのは、権力による指示・命令だけだからです。

裁判所の内部からの干渉が問題になった例

裁判所の内部からの指示・命令も、職権の独立で排除されます。
では、実際に内部からの干渉が問題になった場面では、何が起きたのでしょうか。

所長から裁判長への書簡の関係図(A=所長が決定告知前に個人的見解を記した書簡をB=担当の裁判長に交付/その後Bは訴追委員会の審査を経て罷免の訴追を猶予、Aは不訴追)

所長から裁判長への書簡

定義係属とは、その裁判所で事件の審理が進んでいることです。

裁判官訴追委員会は、裁判官に問題がなかったか審査し、弾劾裁判にかけるべきか判断する機関です。

事案ある地方裁判所に、大きな注目を集める事件が係属していました。

  • 書簡の交付:決定が出る前に、所長が、担当の裁判長に、事件についての所長個人の見解を書いた書簡を渡しました。求められてもいないものでした。
  • 書簡の扱い:書簡の取扱いは、裁判官会議で審議することになっていました。ところが裁判長は、東京のほかの裁判官たちに書簡のコピー数枚を送り、なりゆきにまかせました。
  • 報道:コピーの1通が新聞記者の手に渡り、テレビや新聞で報道されました。

結論所長と裁判長の両方が、裁判官訴追委員会の審査を受けました。

  • 所長:不訴追でした。
  • 裁判長:書簡の扱いが職務上の義務に著しく違反すると判断されたうえで、罷免の訴追を猶予されました。

注意不訴追と訴追猶予は別の結論です。

罷免の訴追がされなかった点は共通しています。

委員会による書簡の評価

結論委員会は、訴追を猶予する理由の1つとして、書簡を次のように評しました。

求めてもいないのに、所長の立場にある者から、決定告知前に交付されたものであるから、受け取る側としては、助言の域を超えた干渉ではないかと一応考えることも無理でない。

注意委員会は、「干渉だった」とは断定していません。

それでも、裁判所の中からの干渉が机上の心配ではないことを、国家機関自身の文書が認めています。

独立を守る3つの制度

独立して職権を行うというだけでは、まだ足りません。
判断の自由があっても、辞めさせられたり報酬を減らされたりしないために、憲法はどんな制度を置いているのでしょうか。

結論憲法は、次の3つの制度で、独立の実質を裏打ちしています。

  • 罷免事由の限定(78条前段)
  • 報酬の保障(79条6項・80条2項)
  • 懲戒の禁止(78条後段)

78条|第六章 司法(76〜82条)裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。

罷免事由の限定(78条前段)

結論裁判官が罷免されるのは、次の2つの場合だけです。

  • 心身の故障:裁判により、心身の故障で職務を執れないと決定された場合です(裁判所が行う分限裁判)。
  • 公の弾劾:弾劾裁判所による弾劾裁判です。

注意国会が、気に入らない裁判官を勝手に罷免することはできません。

報酬の保障(79条6項・80条2項)

結論裁判官は、定期に相当額の報酬を受け、その報酬は在任中、減額できません。

79条6項(最高裁判所の裁判官)と80条2項(下級裁判所の裁判官)が、同じ内容を定めています。

注意国家公務員全体の給与が財政上の理由で引き下げられる場合に、裁判官の報酬も一律に減らすことは許されると解されています。

禁じられているのは、特定の裁判官を狙い撃ちにした減額です。

一律にかかる減額は、独立を脅かすものではありません。

79条|第六章 司法(76〜82条)6項:最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

80条|第六章 司法(76〜82条)2項:下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

懲戒の禁止(78条後段)

結論行政機関は、裁判官を懲戒できません。

懲戒は、裁判所自身が分限裁判という手続で行います。

注意懲戒の中身は、戒告か1万円以下の過料に限られます。

減給も、停職も、免職もありません。

分限裁判の2つの役割

分限裁判の2つの役割の対比表(罷免の場面=心身の故障による職務執行不能を決め罷免できる/懲戒の場面=戒告または1万円以下の過料を決め罷免はできない)

結論「分限裁判だから罷免」ではなく、どの場面の分限裁判かで決められることが違います。

注意懲戒で裁判官を辞めさせることはできません。

裁判官を辞めさせられるのは、心身の故障の分限裁判と、弾劾裁判所の弾劾裁判の2つだけです。

弾劾裁判による罷免

懲戒のための分限裁判では、裁判官を罷免できません。
では、戒告を受けた裁判官が、最終的に職を失ったのはどの手続によるのでしょうか。

戒告処分を受けた裁判官が罷免されるまでの流れ(戒告処分の後も投稿を続けた→裁判官訴追委員会が罷免の訴追を決定→弾劾裁判所が罷免・これまでに罷免8件、不罷免2件)

戒告から罷免まで

事案投稿をめぐって、懲戒の分限裁判で戒告処分を受けた裁判官がいました。

  • 投稿の中身:担当していない事件について、当事者の感情を傷つける投稿でした。
  • その後:注意や戒告を受けたあとも投稿が重なり、罷免の訴追を受けました。

結論弾劾裁判所は、罷免の裁判を言い渡しました。

訴追された事由のうち、複数の行為が、裁判官弾劾法2条2号に当たるとされました。

注意この裁判官は、戒告の時点では罷免されていません。

罷免したのは、懲戒とはまったく別の手続である弾劾裁判です。

  • 用語:弾劾裁判所が言い渡すのは、条文上「判決」ではなく「罷免の裁判」です。

裁判官弾劾法2条2号

定義2号の罷免事由は、職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったときです。

結論私生活での行いでも、裁判官への信頼を壊すなら、非行に当たります。

弾劾による罷免の件数

結論日本国憲法のもとで、弾劾裁判で罷免された裁判官は、これまでに8人です。

注意訴追されても罷免に至らなかった例が2件あります(訴追=罷免ではありません)。

罷免された裁判官が、資格を取り戻す手続も法律にはあります。

裁判所の組織

ここまでは、独立を守る制度の話でした。
ここからは独立の裏返しとして、裁判所という仕組みそのものを、憲法と法律がどう分担して決めているかを見ます。

裁判所の組織図(76条1項の裁判所=最高裁判所と下級裁判所/下級裁判所は裁判所法2条で高等・地方・家庭・簡易の4種)

憲法が決めていること・法律が決めていること

結論憲法が決めているのは、最高裁判所と下級裁判所という大枠だけです(76条1項)。

  • 下級裁判所の種類:裁判所法2条が、高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所の4種と定めています。
  • 三審制:憲法ではなく、法律が決めています。

注意三審制も、下級裁判所が具体的に何かも、憲法が決めているのではありません。

特別裁判所の禁止(定義は2つの要素)

76条2項は、裁判を通常の裁判所の中だけで完結させる要求です。
では、2項前段が禁じる「特別裁判所」とは、どのような裁判機関を指すのでしょうか。

特別裁判所の定義

定義特別裁判所とは、次の2つの要素を満たす裁判機関です。

  • ①対象:特定の人・特定の事件について裁判するために設けられること。
  • ②系列:その判断について、通常の裁判所の系列内で上訴する道が閉ざされていること。

具体例典型例は、戦前の軍法会議です。

軍人だけを対象に、通常の裁判所とは別の系列で完結していました。

注意「特別な事件を扱う裁判所」という理解は、いちばんの誤解です。

②の「系列から切り離されているか」が、特別裁判所の本質です。

家庭裁判所・知的財産高等裁判所

家庭裁判所と知的財産高等裁判所の対比表(どちらも特別裁判所にあたらない/家庭裁判所=不服があれば通常の裁判所に上訴できる・知的財産高等裁判所=東京高裁の特別の支部で通常のルートで上訴できる)

結論家庭裁判所も知的財産高等裁判所も、特別裁判所にあたりません。

理由①には当てはまっても、通常の裁判所へ上訴できるので、②が欠けるからです。

注意「家族の特別な事件を扱うから特別裁判所」とするのは、よく出る誤りです。

終審裁判の禁止

特別裁判所は、通常の裁判所の系列から切り離されていることが本質でした。
では、2項後段は、行政機関が裁判をすることをどこまで禁じているのでしょうか。

「終審として」

定義終審とは、最後の、確定した判断のことです。

結論禁じられているのは、行政機関が終審として裁判を行うことだけです。

前審としての行政審判は許されます。

理由不服があれば、司法裁判所が後から見直せる形だからです。

注意境目は、「終審かどうか」だけです。

特許庁の審決

具体例特許を認めるかどうかで争いがあると、特許庁が審判を行い、審決という形で判断します。

  • 不服の行き先:審決に不服があれば、知的財産高等裁判所に訴えを起こせます。
  • 帰結:特許庁の審決は終審ではないので、76条2項に反しません。

注意以前は、公正取引委員会の審決も、裁判所が後から見直せる仕組みでした。

しかし、平成25年の改正で、独占禁止法の審判制度は廃止されました。

現在は、公正取引委員会の処分に不服があれば、まず東京地方裁判所に訴えます。

実質的証拠法則(事実認定は裁判所をどこまで縛れるか)

行政機関の審判は、前審としてなら許されます。
では、行政機関が認定した事実に、裁判所を拘束させる規定は合憲なのでしょうか。

問題の所在

事案平成25年改正前の独占禁止法80条が、公正取引委員会の事実認定に裁判所を拘束させる規定の実例です(現在は削られています)。

ここでいう事実認定とは、たとえば、ある会社同士が価格をつり上げる話し合いをしたかという認定です。

無条件に拘束する規定

結論行政機関が認定した事実に、裁判所が無条件で従わなければならないとする規定は、違憲です。

  • 反する条文:76条1項・2項と、裁判を受ける権利の32条に反します。

理由法を適用するには、その前提として事実を認定する作業が欠かせません。

つまり、事実認定も司法権のはたらきの一部です。

32条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。

合憲になる2つの条件

定義実質的証拠とは、合理的に考えて、その事実を認定してよいと言えるだけの証拠のことです。

結論次の2つの条件を定める規定(実質的証拠法則)は、合憲です。

  • ①判断者:実質的証拠の有無の判断を、裁判所自身が行うこと。
  • ②拘束の範囲:実質的証拠が存する場合にのみ拘束されること。

理由実質的証拠があるかを判断するのは、裁判所自身だからです。

証拠が足りないと裁判所が見れば、その事実認定に拘束されません。

事実認定という司法権のはたらきが、行政機関に渡ってしまわないのです。

具体例価格の話し合いの認定では、次のように分かれます。

  • 足りる:値上げの直前に各社の担当者が集まっていた記録や、そろって同じ幅で値上げした事実です。
  • 足りない:同じ時期にたまたま値上がりしていた、というだけの事実です。

注意専門技術的な事項や、迅速な判断が必要な事項では、行政機関の事実認定をある程度尊重するのが適切な場面もあります。

そのため、一律に違憲とはせず、この2つの条件で合憲になる形を組み立てます。

旧独占禁止法80条の対応

違憲になる形と合憲になる形の対比表(判断する人=行政機関自身/裁判所自身〈旧80条2項〉、拘束されるか=無条件で拘束/実質的証拠がある場合にのみ拘束〈旧80条1項〉)

結論旧独占禁止法80条は、2つの条件を条文にしていました。

  • 2項:条件①(実質的証拠の有無の判断は裁判所が行う)です。
  • 1項:条件②(実質的証拠があるときに限って拘束される)です。

注意条文の番号と、条件の番号は揃っていません。

2項で裁判所が判断し、1項でその場合だけ拘束される(判断が先、拘束が後)と読みます。

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