憲法ゼロから憲法#62

議院自律権と国政調査権

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議院の権能(国会の権能との区別)

内向きの権能と外向きの権能

定義議院の権能は、向きが正反対の2つに分かれます。

  • 議院自律権:自分の内部を、自分で決める権能です(内向き)。
  • 国政調査権:他の機関を、自分で調べる権能です(外向き)。

結論どちらも国会の権能ではなく、各議院が単独で持つ権能です。

条文42条により、国会は衆議院と参議院の両議院で構成されます。

この構造が、各議院の権能の土台です。

注意証人喚問は、国政調査権の一場面です。

62条の主語は「国会」ではなく、「両議院は、各々」です(第6節)。

42条|第四章 国会(41〜64条)国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。

議院自律権(意義・趣旨・内容)

議院には、各議院が単独で行使する権能があります。
内向きの権能である議院自律権とは、何を指し、何が含まれるのでしょうか。

意義と趣旨

定義議院自律権とは、各議院が、監督や干渉を受けずに、内部組織や運営を自主的に決められる権能です。

  • 干渉を受けない相手:内閣や裁判所などの他の国家機関と、もう一方の議院です。

理由各議院に、憲法上独立した地位を持たせるためです(趣旨)。

衆議院と参議院が、互いに独立した機関として、自分の判断で動けるようにします。

注意「もう一方の議院からも」守られる点は、議院規則と法律の優劣(第5節)で効いてきます。

5つの権能

議院自律権の5つの権能と条文(釈放要求権50条後段・資格争訟の裁判権55条・役員選任権58条1項・議院規則制定権58条2項本文前段・議員懲罰権58条2項本文後段とただし書)

結論5つの権能は、各議院が単独で行使します。

国会全体の議決は要りません。

具体例衆議院のことは衆議院だけで、参議院のことは参議院だけで決めます。

釈放要求権と資格争訟の裁判権(50条後段・55条)

議院自律権には、5つの権能があります。
まず、議員の身柄と資格について、議院は何を自分で決められるのでしょうか。

釈放要求権(50条後段)

定義釈放要求権とは、会期前に逮捕された議員を、議院の要求により会期中は釈放させる権能です。

条文50条は、前段と後段に分かれます。

  • 前段:議員は、法律の定める場合を除いて、会期中は逮捕されません(不逮捕特権)。
  • 後段:会期前に逮捕された議員は、議院の要求があれば、会期中は釈放しなければなりません。

注意対象は、会期前に逮捕された議員です。

会期中は、前段により、原則として逮捕されないからです。

50条|第四章 国会(41〜64条)両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

資格争訟の裁判権(55条)

定義議員の資格とは、議員としての地位を保つために必要な条件です。

結論議員の資格に関する争訟は、裁判所ではなく、各議院が自ら裁判します。

理由議院の構成を、他の機関に決めさせないためです。

他の機関から干渉を受けずに自分のことを自分で決める、という議院自律権の趣旨につながります。

55条|第四章 国会(41〜64条)両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

資格を失う場合(3つだけ)

結論資格を失う場合は3つだけで、それ以外の理由では議席を失わせられません。

  • 兼職禁止:同時に両議院の議員にはなれない(憲法48条)のに、他の議院の議員になった場合です。国会法108条により、もとの議院の議員としては退職者になります。
  • 被選挙権の喪失:被選挙権を失った場合です(国会法109条)。
  • 比例代表選出議員の移籍:選挙のときとは別の政党などに移籍した場合です(国会法109条の2)。

条文資格を失わせて議席を失わせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決が必要です(55条ただし書)。

注意兼職禁止は、兼業(副業)の禁止ではありません。

二つの議院の議員を、同時に兼ねてはいけないという意味です。

48条|第四章 国会(41〜64条)何人も、同時に両議院の議員たることはできない。

役員選任権・議院規則制定権・議員懲罰権(58条)

資格争訟は、そもそも議員である資格が無い場合を扱います。
資格のある議員について、議院は院内の秩序をどう自分で守るのでしょうか。

58条の構造図(1項=役員選任権/2項本文前段=議院規則制定権/2項本文後段・ただし書=議員懲罰権)

役員選任権(58条1項)

定義役員選任権とは、各議院が、議長その他の役員を自分で選ぶ権能です。

議院規則制定権(58条2項本文前段)

定義議院規則制定権とは、各議院が、会議その他の手続と内部の規律に関する規則を、自分で定める権能です。

具体例会議の進め方を定める規則です。

注意58条2項は、国会以外が立法できる明文の例外(国会中心立法の原則の例外)でもあります。

同じ条文を、議院自身の側から見ているだけです。

議員懲罰権(58条2項本文後段・ただし書)

定義議員懲罰権とは、院内の秩序をみだした議員を、各議院が自分で懲罰する権能です。

条文懲罰の種類は、憲法ではなく国会法122条に定められています(軽い順)。

  • 戒告:公開の議場で、注意を受けることです。
  • 陳謝:公開の議場で、謝罪の意を述べさせられることです。
  • 登院停止:一定期間、登院を停止されることです。
  • 除名:最も重い懲罰です。

注意除名だけは、出席議員の三分の二以上の多数による議決が必要です(58条2項ただし書)。

58条|第四章 国会(41〜64条)1項:両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。2項:両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

122条|国会法 第十五章 懲罰(121〜124条)懲罰は、左の通りとする。一 公開議場における戒告二 公開議場における陳謝三 一定期間の登院停止四 除名

資格争訟による議席喪失と懲罰による除名

資格争訟による議席喪失(はじめから資格が無い・55条ただし書)と懲罰による除名(資格はあるが秩序を乱した・58条2項ただし書)の対比表

結論どちらも出席議員の三分の二以上ですが、根拠条文は別です。

理由問題にしていることが違うからです。

資格の有無の問題と、院内の秩序の問題なので、出発点が違います。

議院規則と法律の優劣

各議院は、議院規則を自分で定められます。
同じ事項を定める法律と食い違ったとき、どちらが優位するのでしょうか。

優劣が問題になる場面

結論議院の内部事項は、議院規則と国会法の両方に規定があり、中身が食い違うことがあります。

具体例会議の進め方は、58条2項で議院規則が定められる事項ですが、国会法にも規定があります。

法律優位説(従来の通説)

結論従来の通説は、法律が優位すると解します。

理由法律のほうが、より民主的な手続で定められた法規範だからです。

  • 法律:成立には、原則として両議院の議決が必要です(59条1項)。
  • 議院規則:一院の議決で足ります(58条2項)。

59条|第四章 国会(41〜64条)1項:法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。

議院規則優位説

結論これに対し、議院規則が優位すると解する立場があります。

理由法律優位だと、参議院の自律権が害されるおそれがあるからです。

  • 衆議院の優越:参議院が異なる議決をしても、衆議院が出席議員の三分の二以上で再可決すれば、法律になります(59条2項)。
  • 参議院の内部運営:その法律が規則に優位すると、参議院は、衆議院に押し切られた法律で内部運営を決められてしまいます。
  • もう一方の議院:議院自律権は、もう一方の議院からの干渉も受けない権能です(第2節)。

注意次の2点に気をつけます。

  • 理由の中心:衆議院と参議院の力関係です。「より民主的だから法律が勝つ」という発想とは、出発点が違います。
  • 3つ目の三分の二:59条2項の三分の二は、55条ただし書・58条2項ただし書とは別の条文です。

59条|第四章 国会(41〜64条)2項:衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。

2つの説の位置づけ

結論どちらも学説で、判例ではありません。

答案では、どちらの説に立ってもかまいません。

注意説と理由を、きちんと対応させます。

結論だけ覚えて、理由を混ぜないようにします。

前提の論点(法律で定められるか)

結論議院規則で定めるはずの事項も、国会は法律で定められると解されています。

理由41条後段の趣旨は、国民代表機関である国会に立法権を独占させ、民主的なコントロールを及ぼすことにあるからです。

注意最高裁判所規則と法律の関係は、これとは別の問題です。

41条|第四章 国会(41〜64条)国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

国政調査権の性質(62条)

第2〜5節は、内向きの権能である議院自律権でした。
外向きの権能である国政調査権は、どのような性質の権能なのでしょうか。

証人喚問を国会の権能とする誤解と、62条の主語は「両議院は、各々」で各議院が単独で持つ権能だという正しい理解の対比表

62条の主語と対象

結論国政調査権は、国会全体ではなく、各議院が単独で持つ権能です。

条文要求できるのは、証人の出頭・証言・記録の提出の3つです。

具体例証人喚問は、証人の出頭を実際に求めている場面です。

注意人口や世帯を数える「国勢調査」とは、読みが同じでも別の制度です。

国勢調査は、統計法にもとづく調査です。

62条|第四章 国会(41〜64条)両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

独立権能説

定義独立権能説は、国会が国権の統括機関である、という見解を前提にします。

統括とは、国政全体をまとめて指揮する立場にある、という意味です。

結論国政調査権は、国政全般を統括するために認められた独立の権能になります。

範囲には、原則として制限がありません。

独立権能説が採れない理由

結論41条前段の「国権の最高機関」は、政治的美称にすぎません。

国会は統括機関ではないので、独立権能説は採れません。

理由国会以外の機関にも、独立した大きな権限があるからです。

  • 内閣:衆議院の解散権が認められています(7条3号・69条)。
  • 裁判所:違憲審査権が認められています(81条)。

7条|第一章 天皇(1〜8条)天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。三 衆議院を解散すること。

69条|第五章 内閣(65〜75条)内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

81条|第六章 司法(76〜82条)最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

補助的権能説(通説)

定義補助的権能説は、国政調査権を、議院に与えられた権能を実効的に行使するための補助的な権能と解します。

結論補助的権能説が通説です。

範囲は議院の権能が及ぶ範囲に限られますが、純粋に私的な事項を除き、国政のほぼ全般に及びます。

理由議院に与えられた権能そのものが、非常に広汎だからです。

  • 議院の権能:立法、予算、行政の監督、条約の承認などです。

具体例証人の家庭の中のもめごとそのものは、純粋に私的な事項なので調べられません。

注意補助的権能説は「範囲が狭い説」ではありません。

「独立の権能ではない」という性質の説明です。

説を選ぶ意味

結論説の違いは、範囲の大きさではなく、調査権の位置づけに出ます。

  • 独立権能説:国政全般を統括するための、独立した権能と見ます。
  • 補助的権能説:議院がもともと持つ権能を、実際に使えるようにするための道具と見ます。

国政調査権の限界(4つの場面)

国政調査権は、国政のほぼ全般に及びます。
それでも踏み込めない場面は、どこにあるのでしょうか。

限界が出る4つの場面の表(司法権=司法制度の立法・予算のための調査は可、裁判内容を批判する目的の調査は確定後も不可・76条3項/一般行政権=全般に及ぶ・66条3項/検察権=原則及ぶが準司法的作用ゆえ3つの制約/人権=思想良心・自己負罪拒否を侵害する調査は不可・19条と38条1項)

限界の出どころ

結論4つの限界は、説の対立からは出てきません。

理由場面ごとに、別の憲法上の要請から出てくるからです。

司法権の独立、内閣の連帯責任、検察権の性質、人権がその出どころです。

司法権との関係

結論司法制度に関する立法や、司法関係の予算のための調査は許されます。

裁判の内容を批判する目的の調査は、確定する前はもちろん、確定した後でも許されません。

理由確定した後でも、裁判の内容をあれこれ批判されると、裁判官が委縮してしまうからです(76条3項)。

具体例目的で、次のように分かれます。

  • 許されない調査:ある地方裁判所の判決の中身そのものを、議院が調べて当否を批判することです。
  • 許される調査:刑事裁判の増加を踏まえ、裁判官の増員の予算を検討するために、審理の実情を調べることです。

注意「司法には一切及ばない」は誤りです。

目的が、裁判の内容の批判なのか、制度の運営なのかで分かれます。

76条|第六章 司法(76〜82条)3項:すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

一般行政権との関係

結論一般行政権には、全般にわたって調査できます。

理由内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負います(66条3項)。

国会は、内閣を監督する立場にあるからです。

具体例ある省庁の許認可の手続が遅れている点を、行政監督の一環として調べることは許されます。

66条|第五章 内閣(65〜75条)3項:内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

検察権との関係

定義この場面で使う2つの言葉は、次のとおりです。

  • 準司法的作用:裁判に近い働きです。起訴するかどうかの判断は、裁判の判断にかなり近い性質を持ちます。
  • 公訴の追行:起訴した後、裁判で有罪を求めていく活動です。

結論検察事務も行政権の作用なので、原則として調査の対象になります。

ただし、準司法的作用を理由に、次の3つの調査は許されません。

  • 政治的圧力:起訴・不起訴の判断に、政治的な圧力をかける目的と考えられる調査です。
  • 公訴追行の内容:起訴された事件に直接関係する事項や、公訴追行の内容そのものを対象とする調査です。
  • 捜査への支障:捜査の続行に、重大な支障を及ぼす方法による調査です。

理由3つとも、検察権の準司法的作用を守るためです。

具体例許される調査と許されない調査は、次のとおりです。

  • 政治的圧力:特定の事件の起訴・不起訴の判断そのものに、圧力をかける目的で調べることは許されません。
  • 公訴追行の内容:起訴した事件で、法廷でどんな証拠を出すつもりかを議院が問いただすことは許されません。
  • 捜査への支障:捜査が続いている事件で、関係者を次々に議院へ呼び出して捜査を止めることは許されません。
  • 許される調査:検察庁の人員配置や予算のあり方を、一般的に調べることは許されます。

注意「検察には及ばない」は誤りです。

司法権と同じく、制度の運営を調べるか、個別の判断に介入するかで分かれます。

人権との関係

結論人権を不当に侵害する調査は、許されません。

具体例次の2つです。

  • 思想の告白:証人に、支持する政党や信仰している宗教を答えさせることは、19条に反します。
  • 自己負罪拒否特権:証人に、自分が罪に問われるおそれのある事実について供述を強制することは、38条1項に反します。

19条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

38条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:何人も、自己に不利益な供述を強要されない。

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