二院制と衆議院の優越
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二院制の型(貴族院型と民主的二院制)

貴族院型(明治憲法)
定義貴族院型とは、選ぶ人が違う2つの議院を置く二院制です。
結論明治憲法の帝国議会は、貴族院と衆議院の2つの議院で成り立っていました(明治憲法33条)。
- 衆議院議員:当時から民選でした。
- 貴族院議員:選挙ではなく、世襲や貴族の中からの互選などで選ばれました。
注意互選とは、その身分の人たちの中だけで代表を選び合うことです。
国民全体が選ぶわけではありません。
民主的二院制(日本国憲法)
定義民主的二院制とは、両方の議院を同じ国民が選ぶ二院制です。
結論日本国憲法の二院制は、民主的二院制です。
条文42条が、二院制そのものの根拠です。
43条1項により、衆議院も参議院も、全国民を代表する選挙された議員で組織されます。
理由選ぶ人が同じなので、選び方以外のところで2つの議院に違いを作る必要があります。
注意民主的二院制は、外国の憲法ではほとんど例をみない、珍しい型です。
憲法ができる過程で、マッカーサー草案は一院制でした。
42条|第四章 国会(41〜64条)国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
43条|第四章 国会(41〜64条)1項:両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
趣旨①:民意の多角的反映
日本国憲法の二院制は、同じ国民が両方の議院を選ぶ民主的二院制です。
では、2つの議院の違いは、どこで作られているのでしょうか。

任期と解散の違い
結論2つの議院の違いは、任期と解散の有無で作られています。
条文衆議院と参議院の任期は、次のとおりです。
- 衆議院:任期は4年です。解散されると、任期満了前に終わります(45条ただし書)。
- 参議院:任期は6年で、3年ごとに半数ずつ改選されます(46条)。解散はありません。
注意参議院は全員が一斉に入れ替わることが無く、常に半数は前の選挙で選ばれた議員が残ります。
45条|第四章 国会(41〜64条)衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
46条|第四章 国会(41〜64条)参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
短期的な民意と長期的な民意
定義民意の多角的反映とは、時間軸をずらして、同じ主権者から違う時点の声を2つ取り出すことです。
結論民主的二院制の最も重要な趣旨と位置づけられています。
- 衆議院:短期的な民意を映します。
- 参議院:長期的な民意を映します。
理由任期の長さと解散の有無が違うからです。
- 衆議院:任期が短く解散もあるので、選挙のたびに構成が変わり、直近の世の中の空気が反映されやすくなります。
- 参議院:半数ずつしか変わらず解散も無いので、急な空気の変化に左右されにくく、数年単位の傾向を映します。
注意「いろいろな民意を反映する」だけでは不正確です。
違いは、時間で作られています。
趣旨②③:議事の慎重と衆議院が動けないときの備え
民主的二院制の趣旨は、全部で3つあります。
民意の多角的反映のほかの2つは、何でしょうか。
趣旨②:議事を慎重にする
結論参議院が理性の府として、衆議院に抑制をかけます。
理由衆議院は任期が短く解散もあるので、その時々の勢いに引きずられて、決定が行き過ぎることがありえます。
そこで、任期が長く解散も無い参議院が、落ち着いて審議し直します。
注意最終的にどちらの判断を通すかは、別の問題です(第6節の優越)。
趣旨③:衆議院が活動能力を失っているときの備え
結論衆議院が活動能力を失っているときでも、参議院の手で国政を民主的に動かせるようにします。
条文この趣旨から生まれた制度が、参議院の緊急集会(54条2項ただし書)です。
内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができます。
理由衆議院が解散されると、新しい衆議院議員が決まるまで、衆議院そのものが存在しない期間ができるからです。
54条|第四章 国会(41〜64条)2項:衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
両院の活動の2つの原則(同時活動と独立活動)
二院制には、3つの趣旨があります。
では、2つの議院は、ふだんどのように動くのでしょうか。

同時活動の原則と独立活動の原則
定義2つの原則の中身は、次のとおりです。
- 同時活動の原則:両院は、同時に召集され、同時に開会し、同時に閉会します。
- 独立活動の原則:各議院は、独立して議事を行い、独立して議決します。片方の議決が、もう片方をそのまま拘束することはありません。
理由どちらも、二院制の趣旨から導かれる原則です。
注意2つの原則をひとまとめに定めた条文はありません。
54条2項や59条など、個別の条文から読み取れる原則です。
両院協議会
定義両院協議会とは、両院の意見が食い違ったとき、各議院から選ばれた委員が集まり、歩み寄れる案を作れないか話し合う場です。
結論両院協議会は、独立活動の原則の例外です。
理由各議院だけで議事を進めるという建前が、ここで崩れるからです。
注意合同で行うのは、案を作る話し合いだけです。
議決は、各議院が別々に行います。
衆議院にしかない権限(内閣不信任決議権と予算先議権)
2つの議院は、それぞれ独立して議事・議決を行います。
では、そもそも衆議院にしか認められていない権限は何でしょうか。
内閣不信任決議権(69条)
結論衆議院の不信任決議には、内閣に総辞職か解散かの二択を迫る法的な効果があります。
注意参議院にも、似た決議として問責決議があります。
しかし、問責決議には法的な効果がありません(政治的な意味だけです)。
- 順番:「参議院にも不信任決議がある」のではなく、「法的効果の無い決議なら参議院でもできる」と理解します。
69条|第五章 内閣(65〜75条)内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
予算先議権(60条1項)
定義予算先議権とは、予算を先に審議できる権限で、衆議院だけにあります。
結論予算は、必ず衆議院に先に提出され、衆議院から審議が始まります。
参議院に先議権はありません。
注意60条1項の先議権と、60条2項の議決の優越は、別の話です。
同じ条文でも、項が違えば中身が違います。
60条|第四章 国会(41〜64条)1項:予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
議決の優越(4つの場面)
第5節の2つは、参議院がそもそも持っていない権限でした。
では、両院が議決して中身が食い違ったとき、どちらの議決が国会の意思になるのでしょうか。
① 法律案(59条)
結論法律案は、衆議院の再議決で決着します。
条文59条の決着の付け方は、次のとおりです。
- 再議決:衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決すれば、法律になります(2項)。
- 両院協議会:開くことはできますが、任意的です(3項)。
- 60日:参議院が60日以内に議決しないときは、衆議院は、否決したものとみなすことができます(4項)。
注意60日を過ぎても、自動的に否決とみなされるわけではありません。
衆議院が「みなす」という行為を、自分でしなければなりません。
59条|第四章 国会(41〜64条)1項:法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。2項:衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。3項:前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。4項:参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
② 予算(60条2項)
結論次のどちらかに当たると、衆議院の議決が国会の議決になります。
- 両院協議会を開いても、意見が一致しないとき
- 参議院が、衆議院の可決した予算を受け取った後、30日以内に議決しないとき
条文法律案との違いは、次のとおりです。
- 再議決:不要です。衆議院は追加の議決をしなくても、自動的に衆議院の議決が国会の議決になります。
- 両院協議会:必要的です(開かなければなりません)。
- 日数:30日です(法律案は60日)。
注意法律案は「みなすことができる」、予算は「国会の議決とする」です。
60条|第四章 国会(41〜64条)2項:予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
③ 条約(61条)
結論条約の国会承認は、予算とまったく同じ決着の付け方をします。
- 両院協議会:必要的です。
- 再議決:不要です。
- 日数:30日です。
条文61条は、「前条第二項の規定を準用する」とだけ定めています。
前条とは60条で、その2項をそのまま条約に当てはめます。
注意61条だけを読んでも、30日も両院協議会も出てきません。
60条2項に戻って読みます。
61条|第四章 国会(41〜64条)条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
④ 内閣総理大臣の指名(67条)
結論首相指名も、予算と同じ型で決着します(両院協議会は必要的・再議決は不要)。
違うのは日数だけで、10日と4つの中でいちばん短くなっています(2項)。
注意1項の「他のすべての案件に先だつて」行うは、先議権ではありません。
- 先議権:衆議院が先に審議を始める権限で、予算だけに認められています。
- 1項の意味:首相指名という議題を、ほかのどの議題よりも優先して扱うということです。議院の間の優劣ではなく、議題どうしの優先順位の話です。
67条|第五章 内閣(65〜75条)1項:内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。2項:衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
4つの場面の一覧と2つの型

結論4つの場面は、2つの型に分けられます。
- 法律案だけの型:衆議院がもう一度議決し直して勝ちます。再議決が必要で、両院協議会は任意的です。
- 予算・条約・首相指名の型:参議院が動かなければ、自動的に衆議院の議決が国会の議決になります。再議決は不要で、両院協議会は必要的です。
注意日数が60・30・30・10とそろっていないことが、よく問われます。
- 日数の見方:国政に空白が許されない度合いの順に短くなっている、と読むことはできます。法律が決まらなくても国はすぐには止まりませんが、首相が決まらないと内閣が存在しない空白ができます。
- 位置づけ:条文の数字を並べて読み取れる整理であり、憲法自身がこの理由を説明しているわけではありません。
両院が対等な場面(4つ)
ほとんどの場面で、議決が食い違えば衆議院の議決が通ります。
では、衆議院の優越が働かず、両院が完全に対等な場面はあるのでしょうか。

対等な4つの場面
結論次の4つには、衆議院の優越が及びません。
- 皇室財産授受の議決:皇室への財産の譲渡、皇室による財産の譲受け・賜与(ただで与えること)には、国会の議決が要ります(8条)。
- 予備費の支出承諾:内閣は、予備費を支出したら、事後に国会の承諾を得なければなりません(87条2項)。
- 決算の審査:決算は、会計検査院が検査したうえで、内閣が国会に提出します(90条1項)。
- 憲法改正の発議:各議院の総議員の3分の2以上の賛成が要ります(96条1項)。
条文4つには、衆議院の議決だけで決められるという定めが置かれていません。
注意4つを貫く1つの理由を、憲法は書いていません。
共通しているのは、条文の形です。
8条|第一章 天皇(1〜8条)皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。
87条|第七章 財政(83〜91条)2項:すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
90条|第七章 財政(83〜91条)1項:国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
96条|第九章 改正(96条)1項:この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
予算と決算(事前と事後)

結論予算は衆議院が優越し、決算は両院が対等です。
理由お金を使う前は急いで決める必要がありますが、使った後の検証に急ぐ理由はない、と読むことができます。
注意これも、憲法自身がその理由を説明しているわけではありません。
2つの「3分の2」
結論同じ3分の2でも、母数が違います。
- 法律案の再議決(59条2項):出席議員の3分の2以上です。
- 憲法改正の発議(96条1項):総議員の3分の2以上です。
注意出席している人数を基準にするのか、議院に所属する全員を基準にするのかを混同しないようにします。