違憲審査制の性格と審査の対象(81条)
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違憲審査制の意義と根拠
98条1項と違憲審査制
定義違憲審査制とは、法律や国の行為が憲法に反していないかを、決められた国家機関がチェックする仕組みです。
その国家機関は、多くの場合裁判所です。
結論98条1項の「最高法規」を現実に確保する装置が、違憲審査制です。
条文98条1項は、憲法に反する法律・命令等は効力を有しないと定めています。
しかし、効力が無いことを誰が言い渡すのかは、98条自身は定めていません。
理由言い渡す機関が無ければ、憲法に反する法律を誰も止められません。
「最高法規である」という宣言は、実現されないまま残ってしまいます。
98条|第十章 最高法規(97〜99条)1項:この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
3つの根拠
結論違憲審査制の根拠は、次の3つです。
- 最高法規性:98条1項の宣言を、現実のものにする装置が要ります。
- 人権尊重:憲法に反する法律で人権が侵害されているなら、それを救済しなければなりません。
- 権力分立:国会が法律を作り、内閣が執行します。この2つを外からチェックする目が要ります。
条文「誰が」審査するかの答えを定めているのが、81条です。
沿革と類型(誰が審査するか)
違憲審査制は、98条1項の最高法規性を現実に確保する装置です。
では、「誰が」審査するかを憲法に書いておくことは、当たり前なのでしょうか。
アメリカ(明文の規定が無い)
結論アメリカの合衆国憲法には、裁判所が法律を無効にできるという明文の規定がありません。
違憲審査制は、判例の積み重ねで確立しました。
具体例出発点は、マーベリー対マディソン事件の判決です。
マーシャル首席判事が、憲法に反する法律は無効で、それを判断するのは裁判所の職責だという理屈を示しました。
以後、判例が積み重なって、アメリカの違憲審査制が確立しました。
日本(81条という明文がある)
結論日本国憲法は、制定のときから81条という明文を持っています。
注意そのため日本では、「できるか」ではなく、「どこまで・どの場面でできるか」が論点になります。
4つの類型

結論日本は、アメリカと同じ司法裁判所型です(通常の裁判所が審査します)。
注意この4類型は、「誰が審査するか」という軸です。
第3節の抽象的審査制・付随的審査制(「どの場面で」審査するか)とは、別の軸です。
抽象的審査制と付随的審査制(どの場面で審査するか)
4つの類型は、「誰が」審査するかによる分け方です。
では、「どの場面で」審査するかで分けると、どのような型があるのでしょうか。

2つの型
定義2つの型は、次のとおりです。
- 抽象的審査制:特別に設けられた憲法裁判所が、具体的な争いとは関係なく、抽象的に違憲審査を行う方式です。
- 付随的審査制:通常の裁判所が、目の前の事件を解決するのに必要な範囲で、その事件に使う法律の憲法適合性を判断する方式です。
具体例抽象的審査制では、法律が成立した直後に、誰も訴えていなくても、憲法裁判所がその法律を審査できます。
違憲審査制の2つの役割
定義違憲審査制には、2つの役割があります。
- 個人の人権保障:裁判を通じて、各人の人権を実現することです。
- 憲法保障:憲法に反する法令を否定して、最高法規である憲法を保全することです。
結論抽象的審査制は憲法保障と、付随的審査制は個人の人権保障と、それぞれ親和的です。
理由抽象的審査制は、誰かの事件を待たずに、法律そのものを点検できるからです。
付随的審査制は、目の前の人の人権が侵害されていないか、という場面に強いからです。
注意付随的審査制は、憲法保障という役割では弱くなりがちです。
ただし今日では、どちらの審査制を採っていても、両方の目的が目指される傾向にあります。
81条の性格(付随的審査制)
違憲審査制には、抽象的審査制と付随的審査制の2つの型があります。
では、日本の81条は、どちらの型を定めているのでしょうか。

81条はどちらか
結論81条は、付随的審査制を定めた規定と解されます。
違憲審査のためだけの特別な手続きは無く、普通の裁判の中に付随して現れる権限です。
条文81条は、「第六章 司法」の章の中にあります。
理由条文の置き場所から、次のように導かれます。
- 司法権の一部:81条が司法の章にある以上、81条が与える権限も司法権の一部です。
- 司法権の意味:司法権は、具体的な争訟を裁定する国家の作用で、具体的な争訟が無ければ動きません。
- 帰結:81条の違憲審査権も、具体的な争訟の中でしか使えません。
具体例ある法律にもとづいて営業の許可を取り消された人が、取消しは違法だと裁判で争う場合です。
その裁判の中でなら、根拠の法律が憲法違反だと主張でき、裁判所も判断できます。
注意「この法律は憲法違反だ」というだけでは、具体的な争訟になりません。
誰かとの間で、具体的な権利義務が問題になっている必要があります。
81条|第六章 司法(76〜82条)最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
警察予備隊違憲訴訟
結論判例も、同じ結論に立っています。
- 具体的な紛争:「特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができる」としました。
- 根拠が無い:「具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない」としました。
注意具体的な争いが無ければ、違憲審査権そのものが動きません。
警察予備隊違憲訴訟最高裁判所大法廷判決結論の位置づけ「要するにわが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない。」
入口は狭いまま、中身は広げる
結論付随的審査制の下では、憲法保障の役割がどうしても弱くなりがちです。
しかし、それは憲法保障を軽視してよいという意味ではありません。
場面という入口は付随的審査制のまま動かさず、審査できる中身と窓口を解釈で広げていきます(第5〜8節)。
下級裁判所の違憲審査権(誰が審査できるか)
81条の違憲審査権は、具体的な争訟の中でしか使えません。
では、日本の裁判所のうち、下級裁判所も違憲審査をすることができるのでしょうか。
下級裁判所にも認められるか
結論下級裁判所にも、違憲審査権は認められます。
理由根拠は、別の系統の2本です。
- 裁判官の職責:裁判官はみな憲法と法律に拘束され(76条3項)、憲法を尊重し擁護する義務を負います(99条)。法令が憲法に適合するかの判断は、この義務から出てくる、全ての裁判官の職責です。
- 81条の置き場所:81条は「第六章 司法」の章にあります。司法権は、最高裁判所だけでなく下級裁判所にも属しています(76条1項)。
注意81条は「最高裁判所は」と書いているので、下級裁判所には無いとも読めます。
しかし、それは疑問の出発点で、結論ではありません。
「最高裁判所しかできない」という理解は誤りです。
76条|第六章 司法(76〜82条)1項:すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。3項:すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
99条|第十章 最高法規(97〜99条)天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
下級裁判所の違憲審査権についての判例
定義終審裁判所とは、最後に判断する裁判所です。
下級裁判所も判断できますが、最終的な決着をつけるのは最高裁判所です。
結論判例も、下級裁判所に違憲審査権を認めています。
理由判例は、次の2点を述べています。
- 裁判官の職責:裁判官は憲法及び法律に拘束され、憲法を尊重し擁護する義務を負います。だから、法令が憲法に適合するかの判断は、最高裁判所の裁判官か下級裁判所の裁判官かを問いません。
- 81条の意味:81条は、最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定です。下級裁判所の違憲審査権を否定する趣旨ではありません。
注意判例が述べている根拠は、1本目の裁判官の職責です。
2点目は、81条の「最高裁判所は」という書きぶり(反対説の入口)への答えです。
下級裁判所の違憲審査権最高裁判所大法廷判決憲法は国の最高法規であつてその条規に反する法律命令等はその効力を有せず、裁判官は憲法及び法律に拘束せられ、また憲法を尊重し擁護する義務を負うことは憲法の明定するところである。従つて、裁判官が、具体的訴訟事件に法令を適用して裁判するに当り、その法令が憲法に適合するか否かを判断することは、憲法によつて裁判官に課せられた職務と職権であつて、このことは最高裁判所の裁判官であると下級裁判所の裁判官であることを問はない。憲法八一条は、最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定であつて、下級裁判所が違憲審査権を有することを否定する趣旨をもつているものではない。
審査の対象①:条例
違憲審査は、最高裁判所だけでなく下級裁判所もできます。
では、81条に書かれていないものも、違憲審査の対象になるのでしょうか。

条例
定義条例とは、地方公共団体が、自治権にもとづいて作る自主的な法です(94条)。
結論条例は、「法律に準ずるもの」として、違憲審査の対象になると解されています。
条文81条が対象として挙げるのは「一切の法律、命令、規則又は処分」で、条例は書かれていません。
理由条例も、国民の権利義務を直接動かす法規範だからです。
法律と同じ働きをする以上、憲法に反していないかを点検できる必要があります。
具体例ある市が、条例で河川敷での火の使用を禁止したとします。
違反したとして取り締まられた人は、その裁判の中で条例が憲法違反だと主張でき、裁判所もその条例を点検できます。
94条|第八章 地方自治(92〜95条)地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
審査の対象②:条約(3段階)
条例は、法律に準ずるものとして違憲審査の対象になります。
では、条約はどうでしょうか(国内法的効力→憲法との優劣→審査の対象、の3段階で決まります)。
条約の国内法的効力
結論条約は、原則として、新たに法律を作らなくても国内法としての効力を持つと解されています。
理由根拠は、次の2つです。
- 誠実遵守:98条2項は、日本が締結した条約を誠実に遵守することを求めています。
- 民主的コントロール:条約には、国会の承認という民主的コントロールが及んでいます(61条・73条3号ただし書)。
注意国内法としての効力を否定する見解もあります。
効力があるからこそ、条約と憲法の矛盾抵触という次の問題が生まれます。
98条|第十章 最高法規(97〜99条)2項:日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
61条|第四章 国会(41〜64条)条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
73条(抜粋)|第五章 内閣(65〜75条)内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
条約と憲法の優劣
結論憲法が条約に優位します(憲法優位説)。
条文問題の入口は、最高法規を定めた98条1項に、「条約」が挙げられていないことです。
理由根拠は、次の2つです。
- 条約締結権の根拠:条約を結ぶ権限は、憲法(73条3号)にもとづきます。権限を使ってできたものは、もとの決まりの枠を超えられないので、締結も国会の承認も憲法の枠内でだけ許されます。
- 改正手続:憲法改正には、96条の重い手続が要ります。条約が優位すると、内閣の締結と国会の承認という軽い手続で、実質的に憲法を書き換えられ、国民主権原理が崩れかねません。
注意98条2項(条約を守れ)と98条1項(憲法が最高法規)を取り違えないでください。
反対の考え方として、条約優位説もあります。
96条|第九章 改正(96条)1項:この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
条約は違憲審査の対象になるか
結論条約の国内法としての側面は、81条の「法律」に準ずるものとして、違憲審査の対象になります。
条文条約は、81条に列挙されていません。
理由条約は、結ばれれば、そのまま国内で法律と同じように働くからです。
注意対象になるのは、条約そのものではありません。
条約は相手国のある国際法上の合意なので、日本の裁判所がその国際法上の効力を失わせることはできません。
日本の裁判所が点検できるのは、その条約が日本の国内でどう働くか、という側面だけです。
砂川事件
事案安全保障条約が争われた事件です。
結論判決は、高度に政治的な問題なので、「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外」としました。
その判断は、「第一次的には……内閣および……国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的批判に委ねらるべきもの」としています。
理由「認められない限り」という条件が付いていること自体が、条約が違憲審査の対象となる余地を、判例が認めていることの証拠です。
注意「対象になりうる」ことと、「違憲と判断された」ことは別です。
この判決は、条約を違憲と判断してはいません。
砂川事件最高裁判所大法廷判決対象となる余地「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外」であり、その判断は「第一次的には……内閣および……国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的批判に委ねらるべきもの」
客観訴訟における違憲審査
違憲審査の対象は、条例や条約の国内法としての側面まで広がります。
では、具体的な争訟ではない客観訴訟の中でも、違憲審査権を使えるのでしょうか。
客観訴訟
定義客観訴訟とは、具体的な権利義務のもめごとではないのに、法律が特別に訴えを認めている訴訟です。
- 民衆訴訟:選挙訴訟・住民訴訟などです。
- 機関訴訟:もう一つの類型です。
- 事件性:客観訴訟は、事件性の要件(法律上の争訟性)を前提としません。
注意そのため、客観訴訟の中での違憲審査は抽象的な審査にあたり、付随的審査制に反するのではないか、という疑問が出てきます。
客観訴訟でも違憲審査ができるか
結論客観訴訟であっても、違憲審査権の行使は妨げられません。
理由現行法上の客観訴訟は、いずれも国や地方公共団体が現に行った具体的な行為を土台にして争われます。
この点で、法律上の争訟と実質的な差は無いといえます。
具体例ある選挙の効力を争う訴訟には、現に行われた選挙という、公の機関の行為があります。
その選挙のしくみを定めた法律が憲法に違反しないかを、その訴訟の中で判断します。
抽象的に法律だけを点検しているのとは違います。
注意客観訴訟を裁判所に扱わせてよいか、という問いとは一段違う問いです。
ただし、答えの理屈は同じで、具体的な事実に法令をあてはめる作業は通常の訴訟と変わらない、という点にあります。
到達点(場面は狭く、対象と窓口は広い)
客観訴訟でも、違憲審査権の行使は妨げられません。
では、付随的審査制を採る81条の違憲審査は、結局どこが狭く、どこが広いのでしょうか。
場面と対象の非対称
結論81条の場面は狭く、対象と窓口は広いという非対称です。
- 場面:付随的審査制なので、具体的な訴訟の中でしか動きません。
- 主体:下級裁判所も審査できます(第5節)。
- 対象:条例も、条約の国内法としての側面も審査できます(第6・7節)。
- 客観訴訟:場面も少しだけ広がり、客観訴訟の中でも審査できます(第8節)。
理由付随的審査制という入口は動かさず、憲法保障も実現しようとして、審査できる中身と窓口を解釈で広げてきたからです。
注意「付随的だから、全部狭い」と丸めないでください。