憲法ゼロから憲法#66

行政権と独立行政委員会

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内閣の位置づけ(明治憲法との対比)

明治憲法と日本国憲法の内閣の位置づけの対比(統治権の所在・大臣の責任・内閣の規定)

明治憲法のしくみ

定義明治憲法の2つの言葉は、次のとおりです。

  • 総攬:統治権の全部を掌握することです。
  • 輔弼:天皇に助言することです。

結論明治憲法では、天皇が統治権を総攬していました。

国務各大臣は天皇を輔弼し、単独でその責任を負っていました。

注意明治憲法には、内閣についての規定そのものが無かったのです。

日本国憲法の3つの柱

結論日本国憲法は、内閣について次の3点を定めました。

  • 行政権の主体:内閣に、行政権の主体としての地位を認めました。
  • 総理大臣:総理大臣を内閣の首長(内閣をまとめて率いる立場)に据え、強い権限をまとめて持たせました。
  • 議院内閣制:国会と内閣がどう向き合うかの形として、議院内閣制を採りました。

行政権の意義(控除説)

日本国憲法は、内閣に行政権の主体としての地位を認めました。
では、内閣に属する「行政権」とは、何を指すのでしょうか。

65条は行政権を定義していない

結論65条は「行政権は、内閣に属する」とだけ定め、行政権が何かは書いていません。

注意行政権の中身については、争いがあります。

65条|第五章 内閣(65〜75条)行政権は、内閣に属する。

控除説(通説)

控除説の沿革(君主の包括的支配権から立法権が議会に、司法権が裁判所に切り取られ、最後に残ったのが行政権)

定義控除説とは、全ての国家作用のうち、立法作用と司法作用を除いた残りの作用を行政とする考え方です。

結論控除説が通説です。

理由控除説の理由は2つです。

  • 歴史:国を動かす権限は、もともと君主が丸ごと握っていました。そこから立法権が議会に、司法権が裁判所に切り取られ、最後に残ったものが行政権だからです。
  • 多種多様な活動をまとめて捉えられる:積極的に定義しようとすると、必ず取りこぼしが出ます。立法や司法にも当てはまる定義になり、どこかで破綻します。

具体例道路を作る、年金を払う、営業許可を出す、税金を集める、災害に対応する、の5つには共通の積極的な定義をつけられません。

注意控除説は、国民との関係でどこまでが行政か、という話です。

内閣と国会のどちらが強いかといった、国家機関どうしの力関係を測る話ではありません(それは権力分立の側で測ります)。

行政を積極的に定義しようとする説もあります。

司法との違い

司法との対比(司法は終局性と受動性の縛りがあり、行政にはこの縛りが無い)

定義司法には、次の2つの縛りがあります。

  • 終局性:一度決まれば、それ以上は覆りません。
  • 受動性:訴えられて初めて動きます。

結論行政には、この2つの縛りがどちらもありません。

具体例行政は、誰かに訴えられなくても自分から動きます。

一度した処分を、自分で見直すこともできます。

独立行政委員会

行政権は、立法作用と司法作用を除いた残りの作用です。
では、その行政権を担うのは、内閣のもとにある機関だけなのでしょうか。

通常の行政機関と独立行政委員会の対比(内閣のコントロール下・独任制/内閣から独立・合議制)

通常の行政機関との違い

定義独立行政委員会とは、内閣から独立の地位で職権を行う、合議制の行政機関です。

  • 通常の行政機関:内閣のコントロール下にあり、大臣が一人で決める独任制です。
  • 独立行政委員会:内閣から独立しており、複数の委員が話し合う合議制です。

具体例人事院、公正取引委員会、国家公安委員会です。

原子力規制委員会や、個人情報保護委員会もそうです。

注意似た名前の「独立行政法人」とは、別物です。

必要とされる理由

結論独立行政委員会が必要とされる理由は、2つです。

  • 政治的中立性:選挙で多数を取った側の意向に左右されてはまずい領域があります。政権が代わるたびに判断基準が変われば、市場も治安も安定しません。
  • 技術的専門性:専門知識がないと判断できない領域があります。

具体例理由ごとの領域は、次のとおりです。

  • 政治的中立性:独占禁止法の運用や、警察行政です。
  • 技術的専門性:人事評価や、原子力規制です。

準立法権・準司法権

定義独立行政委員会は、規則を作ったり、審判をしたりもします。

これを準立法権、準司法権と呼びます。

注意そのため、権力分立との関係でも問題になりえます。

問題の所在

結論65条は「行政権は、内閣に属する」と定めています。

内閣から独立した機関が行政を行うことが、65条に反しないかが問題になります。

独立行政委員会の合憲性①(内閣のコントロール下という説明の限界)

独立行政委員会が65条に反しないかが問題になります。
まず、「結局は内閣のコントロール下にある」という説明は成り立つのでしょうか。

任命権・予算編成権でコントロール下とする説明を裁判所に当てはめた関係図(内閣から独立行政委員会へ任命権・予算編成権、同じ形の権限が裁判所にも及ぶ)

任命権・予算編成権による説明

結論内閣には委員の任命権と予算の編成権があるので、独立行政委員会も内閣のコントロール下にあり、65条に反しない、という説明があります。

注意この説明は採れません。

裁判所に当てはめると壊れる

結論任命権と予算権があればコントロール下だ、という基準は使えません。

理由同じ基準を裁判所に当てはめると、裁判所まで内閣のコントロール下になってしまうからです。

  • 任命:最高裁判所の長官は内閣が指名し、裁判官も内閣が任命します。
  • 予算:裁判所の予算も、内閣が編成します。

それでは司法権の独立が消えてしまい、明らかに妥当ではありません。

独立行政委員会の合憲性②(65条の文言)

内閣のコントロール下という説明では、65条との関係を説明できません。
では、65条の条文の書き方からは、何が読み取れるのでしょうか。

「すべて」の有無

結論65条は、行政権のすべてを内閣が独占するとまでは言っておらず、一定の例外を認める余地があります。

条文条文の書きぶりは、次の3つの型に分かれます。

  • 65条:「すべて」も「唯一」も無い型です。
  • 76条1項:「すべて司法権は」とする型です。
  • 41条:「国の唯一の立法機関」とする型です。

理由76条1項には「すべて」があり、65条にはありません。

書き分けている以上、その差に意味があると読めるからです。

注意「すべて」「唯一」「何も無し」の3つの型を混同しないでください。

76条|第六章 司法(76〜82条)1項:すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

41条|第四章 国会(41〜64条)国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

例外を検討する前提(必要性)

結論例外を検討するには、次の2つがそろう必要があります。

  • 必要性:政治的中立性や技術的専門性が要求される領域なので、独立行政委員会を認める必要があります。
  • 余地:65条の書き方から、例外を認める余地が生まれます。

注意余地があるだけでは、まだ結論は出ません。

余地の広さは、65条の趣旨で測ります。

独立行政委員会の合憲性③(65条の趣旨と処理)

65条には、例外を認める余地があります。
では、例外を認めてよい範囲は、65条の趣旨からどう決まるのでしょうか。

65条の趣旨2つと独立行政委員会への処理(趣旨①権力分立=主眼は内閣の権限の抑制/趣旨②民主的責任行政=ⓐ統制が直接及ぶ場合・ⓑなじまなければ独立性を積極的に正当化)

65条の2つの趣旨

定義民主的責任行政とは、内閣が行政権を行えば、その行使にも国会の民主的コントロールが及ぶ、という考え方です。

結論65条の趣旨は、次の2つです。

  • 権力分立:41条・76条1項とともに、権力分立を定めることです。
  • 民主的責任行政:民主的責任行政を実現することです。

理由内閣は、国会に対して連帯責任を負っています。

内閣に行政権を担わせておけば、国会の統制が行政権にも届きます。

66条|第五章 内閣(65〜75条)3項:内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

趣旨①権力分立との関係

結論65条の趣旨としての権力分立の主眼は、内閣の権限の抑制にあります。

そのため、内閣以外の機関が行政権を行使しても、権力分立には反しません。

理由65条は、行政権を内閣という1つの機関に集める条文です。

だから65条の趣旨として権力分立を語るときは、抑えられる相手が「内閣」になります。

注意行政国家現象が進んだ今、権力分立の主眼は、行政権全般の抑制に移っているとされます。

65条の場面では、抑える対象が内閣に絞られる点を取り違えないでください。

趣旨②民主的責任行政との関係

趣旨②の処理の2つの場合(ⓐ国会のコントロールが直接及ぶ=趣旨に反しない/ⓑ直接には及ばないが職務の性質上なじまない=独立性を積極的に正当化できる)

結論次のⓐかⓑに当たる場合は、独立行政委員会は65条に反しないと解されます。

  • ⓐ:国会のコントロールが、独立行政委員会に直接に及ぶ場合です。趣旨に反しません。
  • ⓑ:直接には及ばなくても、職務の性質上、民主的コントロールになじまない場合です。内閣からの独立性を、積極的に正当化できます。

具体例ⓐⓑの境界は、次のとおりです。

  • ⓐに当たる:国会への定期報告が義務づけられ、委員の解任も国会の決議でできる委員会です。
  • どちらにも当たらない:報告義務も解任への国会の関与も無く、専門性も中立性も要らない普通の事務です。65条に反する疑いが出てきます。

注意ⓑは「仕方なく認める」ではなく、「積極的に正当化できる」です。

準立法権と41条

結論準立法権を持つことも、41条後段(唯一の立法機関)には反しません。

理由どこまで任せるかを区切った、個別・具体的な委任なら41条後段に反しないのと、同じ理由で許されます。

議院内閣制と大統領制

日本国憲法は、国会と内閣の関係として議院内閣制を採りました。
では、議院内閣制は、大統領制と比べてどのような制度なのでしょうか。

大統領制と議院内閣制

結論2つの制度は、議会と政府の分離の度合いが違います。

  • 大統領制:行政を預かるのは大統領その人です。大統領も議会の議員もそれぞれ国民が直接選び、互いに任免権を持たないので、議会と政府が完全に分離しています。
  • 議院内閣制:行政を預かるのは内閣という合議体です。そのトップの総理大臣は議会で多数を占めた側から出るので、分離は一応の分離にとどまります。

理由一応の分離にとどまるので、政府には議会の側から民主的なコントロールが届きます。

4つの軸で比べる

大統領制と議院内閣制の4軸対比(権力分立との関係・破綻時の手段・議会との関係・民主的正統性の取り方)

注意③議会との関係は、内閣のメンバーが議会の中にいるかどうかの違いです。

  • 議院内閣制:国務大臣は議員から選ばれ、議会に出席して発言する権利も義務もあります。
  • 大統領制:閣僚は議員との兼職が禁止され、議会に出席する権利もありません。

協働の関係

議院内閣制の本当の対立軸(議会の中の与党と内閣がほぼ重なり、対立するのは与党と野党)

定義協働の関係とは、与党と政府がほぼ重なった状態で、議会と政府がお互いに協力し合って国政にあたる関係です。

結論議院内閣制で実際に対立しているのは、議会と政府ではなく、与党と野党です。

議会の中の与党と政府は、ほぼ重なっています。

理由一応の分離だからこそ、協働もできます。

注意いちばんよく間違えられるのが、「議会 対 政府」が対立軸だという理解です。

  • 政党国家現象との関係:対立の軸が国会対内閣から与党対野党へ移り、国会と内閣が多数派の政党で実質的に一体化する動きを、制度の側から見たものです。
  • 41条前段との関係:国権の最高機関は法的な中身を持たない政治的な呼び名で、国会も内閣の解散権などに抑制されています。分離しているから抑制し合い、一応の分離だから協力もする、という表裏の関係です。

議院内閣制の根拠規定と本質論

議院内閣制は、議会と政府の一応の分離と協働でできています。
では、日本国憲法のどこに定められ、その本質は何なのでしょうか。

根拠規定

結論「議院内閣制」という言葉は、憲法のどこにも出てきません。

複数の条文を読み合わせて、初めて読み取れる制度です。

条文根拠規定は、次のとおりです。

  • 65条:行政権は、内閣に属します。
  • 67条:内閣総理大臣は、国会が指名します。
  • 67条・68条:総理と国務大臣の過半数は、国会議員でなければなりません。
  • 66条3項:内閣は、国会に対し連帯して責任を負います(中核)。
  • 69条:衆議院の内閣不信任決議です。

67条|第五章 内閣(65〜75条)1項:内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。

68条|第五章 内閣(65〜75条)1項:内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。2項:内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。

66条3項が中核である理由

結論66条3項の連帯責任が、議院内閣制の中核です。

理由責任を負う相手が誰かで、制度の性格が決まるからです。

  • 明治憲法:各国務大臣が、天皇に対して単独で責任を負っていました。
  • 日本国憲法:内閣が、国会に対して連帯して責任を負います。

注意「単独から連帯へ」「天皇から国会へ」と、相手も負い方も変わっています。

内閣不信任決議(69条)

結論衆議院は、内閣不信任決議をすることができます。

注意これは衆議院にしかない権限です。

69条|第五章 内閣(65〜75条)内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

本質論(3説)

議院内閣制の本質論の三説(責任本質説=議会に対する責任/均衡本質説=責任+内閣の解散権/多様説〈近時有力〉=本質そのものが無い)

定義本質論とは、「これが無ければ議院内閣制と呼べない」という核があるか、という議論です。

  • 責任本質説:内閣が議会に対して負う責任こそが、本質だとします。
  • 均衡本質説:責任に加えて、内閣が議会を解散できることも本質だとします。
  • そもそも本質と呼べるものは無い、とする説:議院内閣制は国や時代によってかなり形が違うので、決め打ちできないとします。

結論近時は、本質と呼べるものは無いとする説が有力です。

注意この対立は、内閣の解散権の根拠を、議院内閣制という制度そのものに求める説を否定する場面で実益が出ます。

議院内閣制に決まった形が無いなら、制度そのものから解散権を導くこともできないからです。

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