憲法ゼロから憲法#84

条例制定権

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94条(地方公共団体の権能と条例制定権)

94条の構造

結論94条は、前段で地方公共団体の権能を、後段で条例制定権を定めています。

  • 前段:財産を管理し、事務を処理し、行政を執行する権能です。
  • 後段:法律の範囲内で条例を制定できる、という部分です。

注意「法律の範囲内」をどう読むかが、この論点の中心です(第6〜9節)。

94条|第八章 地方自治(92〜95条)地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

自治事務と法定受託事務

94条前段の「事務」の2種類(自治事務=地方の選挙・水道事業・ごみ処理事業/法定受託事務=国政の選挙・旅券の交付・国道の管理)

注意自治事務と法定受託事務の区別は、94条の文言ではなく、地方自治法が置いている分類です。

94条は「事務を処理し」とだけ書いています。

憲法のレベルと法律のレベルを、混同しないようにします。

条例の意義(最広義説)

94条後段は、地方公共団体に条例を作る力を認めています。
では、「条例」とは何を指すのでしょうか。

条例

定義条例とは、地方公共団体が、自治権に基づいて制定する自主法です。

国から与えられた法ではなく、地方公共団体が自分の権能として作る法です。

最広義説

結論議会が議決した条例だけでなく、長や各種委員会が定める規則も、広い意味の条例に含めます(最広義説)。

理由規則も、国の委任なしに、地方公共団体が自分の事務について定める法だからです。

作る主体が議会か長かは違っても、この性格は共通しています。

具体例教育委員会が定める規則も含まれます。

委任の要否(政令との違い)

条例は、地方公共団体が自分の権能として作る法です。
では、条例を作るのに、国の法令による委任は要るのでしょうか。

政令・省令の場合

結論国の行政機関が作る命令は、法律から委任を受けて初めて動けます。

  • 罰則:73条6号ただし書が、明文で委任を求めています。
  • 権利義務の規定:明文は無く、委任立法の考え方から委任が必要になります。

注意明文で限定しているのは、罰則の部分だけです。

出どころは違っても、どちらも委任が要るという同じ向きです。

73条(抜粋)|第五章 内閣(65〜75条)内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

条例の場合

委任の要否の対比(政令・省令=罰則は73条6号ただし書の明文で、権利義務の規定は委任立法の考え方から委任が必要/条例=国の法令による委任は不要)

結論条例の制定には、国の法令による委任は要りません。

理由条例は、民主的な立法だからです。

政令は、内閣という行政機関が作るので、法律の委任という歯止めが必要でした。

条例は、住民が直接選んだ議員で構成される議会が議決する、いわば地方版の法律です。

注意政令も条例も、国会が作った法律ではない点は同じです。

それでも、委任の要否の扱いはまったく異なります。

条例で制定できる事項

条例は、国の法令による委任なしに制定できます。
では、条例は何でも決められるのでしょうか。

結論条例で決められるのは、地方公共団体の事務に関する事項に限られます。

地域における事務に関することなら、条例で決められる余地があります。

条文地方公共団体が処理する事務は、地方自治法2条2項が定めています。

具体例外交や防衛、全国一律であるべき国の制度は、条例では扱えません。

2条|地方自治法 第一編 総則(1〜4条の2)2項:普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。

法律留保事項(罰則・租税・財産権)

条例は、地方公共団体の事務について、委任なしに制定できます。
では、憲法が明文で「法律」に委ねた事柄も、条例で定められるのでしょうか。

法律留保事項

定義法律留保事項とは、憲法が明文で「法律」に委ねている事柄です。

  • 財産権の制限:29条2項です。
  • 罰則:31条です。
  • 租税:84条です。

注意その「法律」に、条例が含まれるかが問題になります。

文言を厳格に読めば、条例では手が出せないはずだからです。

29条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)2項:財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

31条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

84条|第七章 財政(83〜91条)あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

罰則:判例(大阪市売春取締条例事件)

事案条例で罰則を定めるとき、法律の委任が必要かが争われました。

結論条例で罰則を定めるにも、法律の委任は必要だとされました。

  • 委任の程度:「法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりる」とされました。

理由条例は、行政機関である内閣が定める命令とは違い、住民代表の議会が議決するからです。

そのため、委任は必要としつつ、その厳格さは緩めてよいとされました。

注意命令への委任は、個別具体的に、範囲を限定して行うことが求められます。

条例への委任は、それより緩やかな程度で足ります。

大阪市売春取締条例事件最高裁判所大法廷判決条例による罰則の制定と法律の委任条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。

罰則:判例と通説

罰則の委任の判例と通説(判例=委任は必要・相当な程度に具体的で限定されていれば足りる/通説=委任は不要・条例は民主的な立法で法律に準ずる)

結論判例は委任必要説、通説は委任不要説で、出発点が逆です。

理由分かれているのは、条例の民主的な性格をどこまで徹底するか、という評価です。

注意どちらか一方だけを覚えると、短答で取り違えます。

両方をセットで押さえます。

租税

結論地方公共団体が、条例で税を課すこと自体は認められます。

条文地方公共団体の課税権の根拠は、92条の団体自治に求められます。

理由自分の財源を自分で持つことは、国からの独立という団体自治の中身そのものだからです。

また、住民が選んだ議会が定める以上、84条の「法律で決める」という要請は実質的に満たされています。

92条|第八章 地方自治(92〜95条)地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

財産権

結論29条2項も「法律で定める」と書いていますが、条例で財産権を制限できるというのが通説です。

理由条例は、住民が選んだ議会が議決する民主的な立法で、法律に準ずるものだからです。

憲法が「法律で定める」と書いた事柄でも、法律の委任を待たずに条例で定められます。

具体例ため池の土手(堤とう)を使うことを、条例で制限した事案があります。

注意罰則・租税・財産権のどれも、「法律と書いてあるから条例では一切ダメ」では終わりません。

3つとも、条例は民主的な立法だという同じ理由が効いています。

「法律の範囲内」の意味

条例は、委任なしに作れ、法律留保事項にも踏み込める場面があります。
では、94条の「法律の範囲内で」とは、何を意味するのでしょうか。

「法律の範囲内」の意味(誤り=条例の制定に法律の委任が必要という意味/正しい理解=条例と法律が矛盾抵触した場合に法律が優先されるという趣旨)

結論条例は法律の下に位置づけられ、内容がぶつかったときには法律のほうが勝ちます。

「法律の範囲内」は、それだけの意味です。

具体例県が条例で、工場の排出基準を定める場面です。

  • 作るとき:国の許可は要らず、県の判断で作れます。
  • ぶつかったとき:条例の中身が国の法律とぶつかれば、法律が優先します。

注意「法律の範囲内」を委任の話と取り違えると、「法律より厳しい条例は範囲外だから無効」と早合点します。

範囲内かどうかは、単純な文言の比較では決まりません。

上乗せ条例・横出し条例

「法律の範囲内」は、条例と法律がぶつかったときの優劣の話です。
では、国の法律と重なる規制をする条例には、どのような型があるのでしょうか。

上乗せ条例と横出し条例(上乗せ=国の法令より厳しい基準を定める条例/横出し=国が規制している対象事項以外の事項を規制する条例)

結論法律より厳しい基準を条例で定めてよいかは、上乗せ条例の問題です。

注意上乗せ条例は同じ対象で基準を厳しくし、横出し条例は対象そのものを広げます。

判断基準(徳島市公安条例事件)

上乗せ条例も横出し条例も、国の法令と重なる場面の条例です。
では、条例が国の法令に違反するかは、どう判断するのでしょうか。

判断の物差し

事案条例が国の法令に違反するか(94条)が争われました。

結論条例が国の法令に違反するかは、両者の間に矛盾抵触があるかで決めるとされました。

  • 判旨の前半:「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、
  • 判旨の後半:それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによつてこれを決しなければならない」。
  • 否定したもの:対象事項と規定文言を並べて、それだけで結論を出す考え方です。
  • 比べるもの:趣旨・目的・内容・効果の4つです。

理由文言の対比だけで決めると、どちらの向きにも94条の狙いから外れるからです。

  • 潰しすぎる:言葉が重なるだけで、国が邪魔だと思っていない条例まで無効になります。
  • 骨抜きを許す:言い回しをずらせば、国の規制を実質的に骨抜きにする条例が生き残ります。

注意同じ判決は、条例の文言が明確かどうかも論じています。

ここで扱うのは、条例が国の法令に違反するかという94条の側です。

徳島市公安条例事件最高裁判所大法廷判決条例が国の法令に違反するかどうかの判断基準条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによつてこれを決しなければならない。

明文の規定が無い場合

結論国の法令に規定が無くても、条例が国の法令に違反することがあります。

  • 違反するとき:法令全体から見て、規定の欠如が、その事項について規制をせず放置すべきものとする趣旨と解されるときです。

理由国があえて何も規制しないと判断した事柄に条例が割り込むと、国の判断そのものを覆すからです。

具体例国の法律が、ある物質について何の基準も置いていない場合です。

  • 規制しないと決めた:県が条例で基準を置けば、違反です。
  • 手が回っていない:条例は許されます。

注意同じ「書いてない」でも、国の法令の趣旨によって結論が逆になります。

両方に規定がある場合

結論国の法令と条例が併存しても、次の2つの場合は矛盾抵触がありません。

  • 別の目的:条例が別の目的で規律し、その適用が国の法令の目的や効果をなんら阻害しないときです。
  • 同じ目的:国の法令が全国一律に同じ内容の規制を施す趣旨ではなく、地方の実情に応じた別段の規制を容認する趣旨のときです。

具体例それぞれ、次のような場面です。

  • 別の目的:国の法律が大気の汚染を防ぐもので、条例が工場の騒音を抑えるものなら、共存できます。
  • 同じ目的:国の基準が全国どこでも最低限守るべき線なら、県が上乗せしても違反しません。

注意同じ数値でも、国の法律が「この線で全国そろえる」趣旨なら、上乗せは違反です。

境目は、数値の厳しさではなく、国の法令の趣旨です。

判断フロー(上乗せ条例は無効か)

判決は、明文の有無と目的の異同で場合を分けています。
では、法律より厳しい上乗せ条例は、無効になるのでしょうか。

判断フロー(明文の規定が無い場合=欠如が放置すべき趣旨なら違反・そうでなければ許される/ある場合=目的が異なれば阻害しない限り許される・同一なら全国一律の趣旨で違反、別段の規制を容認する趣旨なら許される)

結論上乗せ条例は、それだけでは無効とも有効とも決まりません。

  • 有効:国の法令の目的を阻害せず、国の法令が地方の実情に応じた上乗せを容認する趣旨と解されるときです。
  • 違反:国の法令が全国一律を求める趣旨と解されるときです。

注意「法律より厳しいから範囲外で無効」というのは誤りです。

国の法令の趣旨を読み解かなければ、答えは出ません。

条例による地域差と平等原則

条例は、地方公共団体ごとに内容が違います。
では、住む場所によって扱いが違うことは、平等原則に反しないのでしょうか。

東京都売春等取締条例事件

事案条例による地域差が、平等原則に反するかが問題になりました。

結論地域による差は、憲法みずから容認するものとされました。

  • 判旨:「憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によつて差別を生ずることは当然に予期されることであるから、かかる差別は憲法みずから容認するところであると解すべきである」。

理由憲法自身が94条で、地方公共団体ごとに条例を作る権能を認めているからです。

その結果として地域差が生じることは、はじめから織り込み済みです。

注意条例の地域差そのものを、14条1項の平等違反として問題にすることはできません。

「地域差があるから平等違反」とは書きません。

東京都売春等取締条例事件最高裁判所大法廷判決条例による地域差と平等原則憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によつて差別を生ずることは当然に予期されることであるから、かかる差別は憲法みずから容認するところであると解すべきである。

14条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

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