地方自治の本旨と地方公共団体
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地方自治を憲法で保障する意味(明治憲法との対比)

結論日本国憲法のもとでは、地方自治を法律だけで勝手に変えることはできません。
理由日本国憲法は、第八章を設けて地方自治を憲法のレベルで保障したからです。
注意明治憲法には、地方自治の規定がありませんでした。
地方自治は法律や勅令で定められ、国の一存でいつでも変えられる制度にすぎませんでした。
地方自治権の根拠(3つの学説)
地方自治は、法律より上の憲法のレベルで保障されています。
では、法律によっても動かせない地方自治権は、どこから来ているのでしょうか。
3つの学説
定義地方自治権の根拠について、次の3つの説が対立しています。
- 国法伝来説:地方自治は国法に由来する制度にすぎず、法律で廃止もできるとします(承認説)。
- 固有権説:自然人の自然権と同じく、地方公共団体にも固有の自治権があるとします。
- 制度的保障説:法律によっても侵せない核心を、憲法が保障しているとします。
結論制度的保障説が、通説であり判例の立場です。
理由ほかの2説には、それぞれ難点があります。
- 国法伝来説:いつでも法律で奪えることになり、憲法に章を新設した意味が消えます。
- 固有権説:地方公共団体は、国が領域や存在そのものを定める団体です。固有の権利とする説明には無理があります。
具体例国会が法律で、町村の議会を全部やめさせると決めた場合、答えが正反対になります。
- 国法伝来説:国の判断でできることになります。
- 制度的保障説:本旨という核心を侵すので、その法律のほうが憲法違反になります。
地方自治で制度的保障の理論が働く理由
結論地方自治の場面では、制度的保障の理論が本来の形で働きます。
理由この理論を使ってよい条件は、核心がはっきりしていることです。
地方自治では、核心の在りかを92条の「地方自治の本旨」が名指ししています。
注意核心さえ残せば足りるとすると、保障の中身が薄められかねない、という警戒があります。
本旨の中身をどう読み解くかは、解釈で詰めていきます。
地方自治の本旨(92条)
制度的保障説を採ると、法律によっても侵せない核心とは何かが問題になります。
92条は、その核心をどう定めているのでしょうか。
地方自治の本旨
結論92条の「地方自治の本旨」が、法律によっても侵せない核心の正体です。
条文地方公共団体の組織・運営は法律で定めますが、その法律は本旨に基づかなければなりません。
国会が自由に決めてよいわけではありません。
注意本旨は、団体自治と住民自治の2つの要素からできています(第4節)。
92条|第八章 地方自治(92〜95条)地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
団体自治と住民自治
地方自治の本旨は、法律を縛る核心です。
その中身である2つの要素は、それぞれ何を意味するのでしょうか。

団体自治
定義団体自治とは、地方自治を、国から独立した団体に委ねることです。
その団体が、自らの意思と責任のもとで地方自治を行います。
理由国という他者の手を離れる話なので、自由主義的・地方分権的な要素と呼ばれます。
自由主義は、国家から干渉されないという発想が先に立つからです。
住民自治
定義住民自治とは、地方自治が、住民の意思に基づいて行われることです。
理由「誰の意思で決めるか」を住民に置く話なので、民主主義的な要素と呼ばれます。
2つの要素の順序
結論団体自治が先、住民自治が後です。
理由国から独立していなければ、意思を反映する団体自体が国に従属したままだからです。
それでは、いくら住民に意思があっても、地方自治は動きません。
注意この順序は、取り違えやすいところです。
議会と長(93条)
地方自治の本旨は、団体自治と住民自治からできています。
この2つを支える組織の骨組みを、93条はどう定めているのでしょうか。
議会の設置(1項)
結論地方公共団体には、議事機関として議会が置かれます。
町村総会(地方自治法94条)
定義町村は、条例で議会を置かず、選挙権を持つ住民全員による総会を設けることができます。
結論この制度は、合憲と解してよいとされます。
理由人口の少ない町村なら、住民みんなで話し合うほうが、かえって住民自治に資するからです。
住民の直接選挙(2項)
定義吏員とは、地方公共団体の職員のことです。
結論長・議会の議員・法律の定めるその他の吏員は、住民が直接選挙します。
理由地方のことは住民自身の意思で決める、という住民自治の一番わかりやすい形だからです。
93条|第八章 地方自治(92〜95条)1項:地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。2項:地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
国と地方の統治のかたち
結論国と地方で、統治のかたちそのものが違います。
- 国の仕組み:内閣総理大臣を国民が直接選ばず、国会が指名します(議院内閣制)。
- 地方の仕組み:長も議員も住民の直接選挙で選ぶ、大統領制・首長制に近い仕組みです。
注意地方自治法178条には、議院内閣制に近い仕組みも一部残されています。
長と議会が対立したときの、不信任や解散の制度です。
「地方公共団体」の範囲(二段階制と道州制)
地方自治の本旨と93条の骨組みは、地方公共団体に及びます。
では、その「地方公共団体」とは、そもそも何を指すのでしょうか。

二段階制
定義二段階制とは、市町村と都道府県という2段階の地方公共団体の仕組みです。
現行の地方自治法は、この2段階を定めています。
結論通説は、二段階制そのものを憲法上の保障と考えます。
理由憲法が制定された当時、すでに市町村と都道府県の2段階の仕組みが存在していました。
憲法は、その歴史的な前提のうえに地方自治を保障したと解されます。
注意2段階制は法律で決まっているだけだ、という考え方もあります。
道州制
結論都道府県を維持するか、道州に再編するかは、立法政策の問題にすぎません。
道州で住民自治と団体自治が保障されている限り、道州制は憲法上可能です。
具体例いくつかの県がまとまって、1つの州になった場合です。
- 可能な形:州知事と州議会を住民が直接選び、州が自分の条例と財源を持つ場合です。
- 本旨に反する形:州の長官を国が任命し、お金も国が握って配るだけの場合です。名前は州でも、中身は国の出先機関です。
注意「道州制は違憲だ」と考えるのは誤りです。
2段階制は保障されていますが、その中身をどう区切るかは立法政策に委ねられています。
東京都特別区事件
市町村と都道府県が「地方公共団体」にあたることは、争いになりません。
では、都の中に置かれた特別区は、憲法上の「地方公共団体」にあたるのでしょうか。
地方公共団体にあたるための基準
定義判例は、単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず、次の2つを求めます。
- 社会的基盤:事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもつているという社会的基盤が存在すること。
- 自治の実質:相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であること。
理由2つの要件は、地方自治の本旨の裏返しです。
- 社会的基盤:住民自治が働く土台があるかどうかです。
- 自治の実質:団体自治の中身そのものです。
注意自治の実質は、沿革的にみても、現実の行政の上においても備えている必要があります。
東京都特別区事件最高裁判所大法廷判決憲法上の「地方公共団体」にあたるための基準地方公共団体といい得るためには、単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもつているという社会的基盤が存在し、沿革的にみても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とするものというべきである。
特別区は地方公共団体か
事案東京都の特別区(23区)の区長は、もともと住民の直接選挙で選ばれていました。
法改正により、東京都知事が区議会の同意を得て選任する方式に変わりました。
- 争点:この公選制の廃止は違憲でないか、その前提として特別区は93条2項の「地方公共団体」にあたるかです。
結論特別区は、93条2項の「地方公共団体」にあたらないとされました。
その長を住民の直接選挙で選ばなくても、93条2項には違反しません。
理由特別区が、相当程度の自主立法権・自主行政権・自主財政権という自治の実質を備えていたとまでは言えないからです。
今日の評価
結論判例の基準は今も生きていますが、特別区に当てはめた結論は問い直されています。
理由今日では、特別区の行政の権限や規模が広がっています。
自主立法権・自主行政権・自主財政権の実質を、すでに備えているとする見解が有力です。
注意判例の結論を、そのまま現在の到達点として語らないようにします。
判決が出た当時の判断だった、という限定つきで理解します。
地方特別法の住民投票(95条)
ここまでは、地方公共団体そのものの仕組みでした。
では、住民が地方自治を直接動かせる仕組みには、どのようなものがあるのでしょうか。
民主主義の学校
結論地方自治は、「民主主義の学校」と言われます。
理由国政に比べて住民が直接参加できる制度が多く、身近なところで民主主義を学べるからです。
地方特別法の住民投票
結論一の地方公共団体のみに適用される特別法は、国会の議決だけでは制定できません。
その地方公共団体の住民投票で、過半数の同意を得る必要があります。
理由国会が特定の地方を狙い撃ちにした不利な法律を、頭越しに作ることを防ぐためです。
住民自治の仕組みを使って、団体自治(国に自治権を侵させない)を守る場面です。
注意95条は、法律は国会だけで作れるという国会単独立法の原則の例外です。
95条|第八章 地方自治(92〜95条)一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
「一の」の意味
結論「一の」は、数が1つという意味ではなく、「特定の」という意味です。
具体例特定の複数の地方公共団体に適用される法律にも、95条は及びます。
注意「1つだけの場合に限る」と読まないようにします。
95条が適用されない3つの場合
結論次の3つの法律には、95条は適用されません。
- 有利に扱う法律:特定の地方公共団体を有利に扱う法律です。
- 関係のない法律:国の事務や組織を定めるだけで、地方公共団体の組織・運営・権能に関係のない法律です。
- 単なる地域の法律:国法上の地方公共団体にあたらない、単なる地域を対象とする法律です。
理由3つとも、自治権の侵害を防ぐという95条の趣旨から逆算して導かれます。
- 有利に扱う法律:侵害という問題自体が生じません。
具体例残りの2つには、次の例があります。
- 関係のない法律:北海道開発法です。北海道の開発を進める国の事務を定めるもので、地方公共団体の組織や権能には触れていません。
- 単なる地域の法律:大潟村の設置に関する特例法です。干拓でできた、法律上は地方公共団体として扱われていない地域が前提です。
地方自治法上の直接民主制
95条は、憲法が定める住民投票の仕組みです。
では、地方自治法には、住民が直接動かせるどのような仕組みがあるのでしょうか。
直接請求
結論地方自治法には、住民が直接、地方自治を動かせる請求がいくつも用意されています。
- 条例の制定改廃:条例の制定や改廃を求める請求です(74条)。
- 監査:監査を求める請求です(75条)。
- 議会の解散:議会の解散を求める請求です(76条)。
- 議員・長の解職:議員や長の解職を求める請求です(80条・81条)。
住民投票の拘束力
結論現行の地方自治法のもとでは、住民投票の結果に法的な拘束力はありません。
長や議会は、必ずしも結果に従わなくてかまいません。
注意「住民投票で決まったのだから長は従わなければならない」は、現行法の話ではありません。
- 法改正:結果に長や議会への法的拘束力を持たせることは、住民自治の見地から憲法上許されると解されています。