行政法 復習ノート全文

行政法の地図(条文から引く)→

第1章行政法の基礎

#1単独ページ動画

行政法とは何か

第1章 行政法の基礎 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

朝の身の回りに、法律はいくつある?

朝の身の回りと法律(蛇口の水=水道法/家の建築=建築基準法/ごみ出し=廃棄物処理法/飲食店の開業=食品衛生法)+どれの名前にも「行政法」は付かない 図:朝の身の回りと法律

  • 蛇口の水=水道法
  • 家の建築=建築基準法
  • ごみ出し=廃棄物処理法
  • 飲食店の開業=食品衛生法
  • どれの名前にも「行政法」は付かない

朝起きて、蛇口をひねると水が出ます。この水の水質や届け方を決めているのは、水道法という法律です。家を建てたいなら建築基準法、ごみを出すなら廃棄物処理法、飲食店を開くなら食品衛生法が関わります。そして4本とも、名前がぜんぶ違います。どれにも「行政法」とは付いていません。実は、「行政法」という名前の法律は、六法のどこを探しても無いんです。それなのに、司法試験の論文式にも予備試験にも、行政法は出題されます。今日の1問は、名前の付いた法律が無いのに行政法では何を学ぶのか、です。答えを先に言いますと、ばらばらの個別の法律に共通する考え方と、全分野に通用する少数の法律、この2つです。この回では、その2つが何なのかを渡します。あわせて、行政法の全体像と、事案を解く順番まで持ち帰ってもらいます。

「行政法」という法律は、どこにも無い

六法に載る法律と行政法(憲法/民法/刑法/商法/民事訴訟法/刑事訴訟法/「行政法」という名の法律は無い) 図:六法に載る法律と行政法

  • 憲法
  • 民法
  • 刑法
  • 商法
  • 民事訴訟法
  • 刑事訴訟法
  • 「行政法」という名の法律は無い

「行政法」という題名の法律は、ありません。憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法。ここまでは名前そのままの法律があります。けれども行政法だけは、そういう1冊の法律がありません。行政に関する法律は無いんですか。逆です。むしろ、ものすごく多いんです。現行の法律はおよそ2100本ありますが、その大部分が、何らかの形で行政に関わっています。しかも、ここに条例や政令、省令が加わります。条例は自治体が作るルール、政令は内閣が、省令は各省の大臣が定めるルールです。朝の4本を、場面ごとに見直しましょう。水道法は、水道の水質の基準や、水を届ける仕組みを決めています。建築基準法は、建物が安全の基準に合っているかを、建てる前に行政が確認する仕組みを決めています。廃棄物処理法は、ごみの収集や処理をどういう仕組みで行うかを決めていて、食品衛生法は、食べ物を出す店の営業に許可を求めています。

4本とも、動いているのは役所、つまり行政です。この感覚が大事です。ここで言葉を1つ整理します。水道なら水道、建築なら建築と、分野ごとに作られた法律を個別法と呼びます。そして行政法を学ぶというのは、この無数の個別法を相手にすることなんです。ただし、1本ずつ丸暗記するのではありません。丸暗記じゃないなら、何をするんですか。それが、次の話です。その前に、今日の道筋を1枚にしておきます。

この回の地図(1.身の回りと「行政法」という法律は無い/2.1つの科目になる理由/3.3本柱/4.手元に置く法律/5.民事法・刑事法との並び/6.事案を解く3段の順路/7.シリーズ20章の地図) 図:この回の地図

  • 1.身の回りと「行政法」という法律は無い
  • 2.1つの科目になる理由
  • 3.3本柱
  • 4.手元に置く法律
  • 5.民事法・刑事法との並び
  • 6.事案を解く3段の順路
  • 7.シリーズ20章の地図

今見たのが1番目です。この先、なぜ1つの科目になるのかを見て、行政法の中身を3本の柱で整理します。そのあと、手元に置く法律、民事法や刑事法との並び、事案を解く順番を見て、最後にシリーズ全体の地図で締めます。

それでも1つの科目になる理由

個別法と共通の考え方(個別法=水道法/建築基準法/廃棄物処理法/食品衛生法…を貫く共通の考え方=行政法の理論) 図:個別法と共通の考え方

  • 個別法=水道法
  • 建築基準法
  • 廃棄物処理法
  • 食品衛生法…を貫く共通の考え方=行政法の理論

個別法が2000本以上あるなら、行政法は結局、暗記量がとんでもない科目になりませんか。そこが、いちばんの勘違いポイントです。たとえば料理で考えてみてください。レシピ本を100冊、1冊ずつ丸暗記する人と、火加減、下ごしらえ、味つけの順序という共通の技術を身につけた人がいます。初めて開いたレシピ本で、作れるのはどちらでしょうか。共通の技術がある人ですね。個別法がレシピ本で、行政法の理論が共通の技術です。個別法の一つひとつは違っても、行政が国民に何かを命じる、許す、強制する、その仕組みには共通の型があります。朝の場面で確かめましょう。家は、建てる前に行政の確認が要りました。飲食店は、開く前に行政の許可が要りました。分野は違っても、始める前に行政のチェックを通す、という型は同じです。

個別法ごとに違うのは、何を基準にチェックするか、です。建物の安全なのか、食品の衛生なのか。そこは個別法ごとに違うので、条文を読んで確かめます。この共通の型、つまり共通の考え方を取り出して体系にしたものが、行政法という科目なんです。この理論には2つの働きがあります。1つ目は、まだ法律が無い場面での働きです。たとえば、これまでに無かった新しい商売が現れて、それを扱う法律がまだ無いとします。始める前に行政のチェックを通す型にするのか、始めたあとで問題が出たら止める型にするのか。どこまで行政に任せ、どんな手続を用意すべきか。その設計の指針になります。立法の指導原理です。2つ目は、すでに法律がある場面での働きです。たとえば条文に「公益上必要がある場合には、許可を取り消すことができる」と書いてあるとします。何が公益上必要なのかは、条文には書き切られていません。行政の判断に広く任せる趣旨なのか、狭くしか任せない趣旨なのか。その読み分けの指針になります。つまり解釈の指針です。

受験でも、初めて見る個別法が出るってことですか。そこが核心です。未知の個別法が出ても、条文を読み、共通の考え方で組み立てれば解けます。逆に、個別法を丸暗記しているだけでは、初見の法律には手も足も出ません。行政法は、ばらばらの個別法を、同じ道具で読むための科目です。この1文を、今日の軸にしてください。

行政法の中身は3本柱

行政法の3本柱(組織法=誰が行政をするか/作用法=行政が何をできるか/救済法=行政をチェックし被害を救う) 図:行政法の3本柱

  • 組織法=誰が行政をするか
  • 作用法=行政が何をできるか
  • 救済法=行政をチェックし被害を救う

大きく3本の柱で考えます。1本目が組織法。誰が行政をするのか、つまり、国や自治体の役所がどう作られ、誰がどんな権限を持つのかを扱います。2本目が作用法。作用というのは、行政が国民に対して行うことです。許可を出す、命令する、お金を給付する。行政が何をできるのか、どんなルールのもとでできるのかを扱います。3本目が救済法です。行政活動をチェックして、間違いを正し、被害を受けた人を救う仕組みです。行政救済法とも呼ばれます。この3本の柱の全体像を、一枚の絵にしてみましょう。

行政と私人の関係(A=行政(国・自治体)/B=私人(飲食店を開く人)+Aが法律を根拠にBへ許可・命令/Bが不服申立て・訴えで争う/Aが損害を賠償する) 図:行政と私人の関係

  • A=行政(国・自治体)
  • B=私人(飲食店を開く人)+Aが法律を根拠にBへ許可・命令
  • Bが不服申立て・訴えで争う
  • Aが損害を賠償する

Aが行政、Bが飲食店を開こうとする私人です。AがBに許可を出したり、命令したりします。これが作用法の世界です。その許可や命令に納得できないとき、Bは不服を申し立てたり、裁判所に訴えたりできます。さらに違法な行政で損害を受けたら、Aに賠償を求められます。ここが救済法です。組織法は、Aの内側にあります。Aという役所の中で、誰が決める権限を持つのか、という部分ですね。少し考えてみてください。ヒントは、建築確認のルールが、行政が国民に対して何をするものか、です。建築確認を受けなければ家を建てられないというルールは、行政が国民に対して行う活動のルールなので、作用法です。逆に、役所の中で誰が確認を担当するかは組織法、確認に不服があるときの手段は救済法になります。

同じ建築でも、見る角度で柱が変わるんです。そこに気づけたのは大きいです。以後の回は、いつも「いま、どの柱をやっているか」で位置づけていきます。なお、「行政」とは何か、「公法」という言葉をどう考えるかは、いずれも別の回で扱います。

手元に置く法律:通則的な法律6本と個別法

個別法と通則的な法律6本(上段=行政手続法/行政代執行法/情報公開法/行政不服審査法/行政事件訴訟法/国家賠償法/下段=個別法の例:水道法/建築基準法/廃棄物処理法/食品衛生法) 図:個別法と通則的な法律6本

  • 上段=行政手続法
  • 行政代執行法
  • 情報公開法
  • 行政不服審査法
  • 行政事件訴訟法
  • 国家賠償法
  • 下段=個別法の例:水道法
  • 建築基準法
  • 廃棄物処理法
  • 食品衛生法

ここで、もう1つの道具が出てきます。個別法の上に重なる、通則的な法律です。通則というのは、どの分野にも共通する、という意味です。代表的なものは6本あります。行政手続法、行政代執行法、行政機関の保有する情報の公開に関する法律、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法です。行政機関の保有する情報の公開に関する法律は、略して情報公開法と呼ばれることが多いです。役割を一言ずつ見ていきましょう。行政手続法は、許可の審査や、営業停止のような不利益な処分をするときに踏むべき手続の共通ルールです。行政代執行法は、行政が命じた義務を相手が果たさないときに、行政が代わりに実現する手続です。情報公開法は、行政が持つ文書を国民が開示請求できる仕組みです。行政不服審査法は、行政に不服を申し立てる手続です。行政事件訴訟法は、行政の活動を裁判所で争う手続です。国家賠償法は、違法な行政で生じた損害を賠償してもらう仕組みです。

個別法と通則法の関係を整理します。まず個別法が、どんなときに行政が何をできるのか、国民にどんな権利や義務が生じるのかを決めます。そこに通則法が、手続や強制、公開、救済の共通ルールを重ねるのです。飲食店で言えば、営業に許可が要ること自体は食品衛生法が決めます。その審査の手続には行政手続法が、不許可を裁判で争う場面には行政事件訴訟法が重なります。ほかにも、地方自治法や国家行政組織法、個人情報保護法のように、特定の分野に限られない法律があります。6本とは役割がそれぞれ違うので、扱う章で見ていきます。今は名前だけで結構です。実践的な助言を1つ。これらの通則的な法律は、ふつうの小型の六法に載っています。まず条文を手元に置いて、読みながら学んでください。

個別法の条文を1つ実際に読む

食品衛生法の営業許可(誰が=営業を営もうとする者/何をするとき=前条に規定する営業を営むとき/誰の許可=都道府県知事) 図:食品衛生法の営業許可

  • 誰が=営業を営もうとする者
  • 何をするとき=前条に規定する営業を営むとき
  • 誰の許可=都道府県知事

朝の場面に出てきた飲食店で見てみましょう。食品衛生法55条1項です。

条文食品衛生法55条1項

食品衛生法第55条第1項 前条に規定する営業を営もうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。

3つ読み取ってください。誰が、営業を営もうとする者が。何をするときに、前条に規定する営業を始めるときに。誰の許可が要るのか、都道府県知事の許可です。許可とは、法律で原則として禁止されていることを、特定の場合に解除する行為です。この営業は、許可を受けるまでやってはいけない状態に置かれています。もう1つ見てほしい点があります。「前条に規定する営業」や「厚生労働省令で定めるところにより」という言い方です。ここに出てくる営業の中身や申請の細かい方法は、法律から任された政令や省令が決めます。この法律の場合は、お店の施設の基準を、都道府県の条例が決めています。個別法は、法律1本だけでなく、こうしたルールと組み合わさって働くのです。ただし条例は、政令や省令とは性格が違います。法律から任されたときだけでなく、自治体が自分の判断で、法律の範囲内で作ることもできるルールです。この違いは、別の回で扱います。

この条文を実際にどう読むかは、別の回でじっくり見ていきます。今日は、個別法が「誰が、いつ、誰の許可」を1文で書いている、という感覚だけ持っておいてください。

民事法・刑事法と並ぶ位置

三大分野と憲法(憲法=理念/民事法=私人どうしの関係/刑事法=犯罪と刑罰/行政法=行政と国民の関係) 図:三大分野と憲法

  • 憲法=理念
  • 民事法=私人どうしの関係
  • 刑事法=犯罪と刑罰
  • 行政法=行政と国民の関係

法律の大きな分野は、民事法、刑事法、行政法の3つに分けて考えられます。民事法は私人どうしの関係、刑事法は犯罪と刑罰、行政法は行政と国民の関係を扱います。そしてこの3分野の上に憲法があります。憲法は国の最高法規で、国のあり方の理念を定めています。行政も、この憲法に縛られます。たとえば、憲法は営業の自由を保障しています。その自由を、どんな場合にどこまで制限してよいのかを法律で決めて、日々の許可や命令の場面で守らせる。行政法は、憲法の理念が日常の暮らしの中で形になる場面だと考えてください。朝の4場面そのものです。水も、家も、ごみも、お店も、行政が関わっていました。暮らしのあらゆる場面に行政が関わり、国の中で行政の役割が大きくなっていくことを、行政国家現象と呼びます。では、なぜそこまで行政が関わるのか。民事法や刑事法は、トラブルが起きてから裁判で解決するのが基本です。でも、食中毒が出てから店に賠償を求めたり、刑罰を科したりしても、お客さんの健康は元に戻りません。だから飲食店の営業許可は、お店を開く前に必要なのです。起きてからでは取り返しのつかない被害を、起きる前に防ぐ。そのために行政は、トラブルになる前に、先回りして動きます。これが行政法の特徴の1つです。

行政法は実体法と訴訟法を1科目で扱う

3分野×実体法/訴訟法(民事法=民法・商法/民事訴訟法、刑事法=刑法/刑事訴訟法、行政法=個別法・行政法総論/行政事件訴訟法)

  • 3分野×実体法
  • 訴訟法(民事法=民法・商法/民事訴訟法、刑事法=刑法/刑事訴訟法、行政法=個別法・行政法総論/行政事件訴訟法)

民法には民事訴訟法、刑法には刑事訴訟法という相棒がいますよね。行政法はどうなんですか。そこが、行政法の変わったところです。まず言葉を整理します。実体法は、権利や義務の中身を決める法律です。民法や刑法がそうです。訴訟法は、その権利を裁判で実現するための手続を決める法律で、民事訴訟法や刑事訴訟法がそうです。民事法と刑事法では、実体法と訴訟法が別の科目になっています。ところが行政法は、この両方を1つの科目の中で扱います。実体法にあたるのが、各分野の個別法と、その共通の考え方をまとめた行政法総論です。訴訟法にあたるのが、行政事件訴訟法です。名前の似た行政手続法は、裁判の手続ではなく、行政が処分をするときの手続を決める法律なので、こちらには入りません。

どうして、科目を分けないんですか。中身と争い方が、切り離しにくいからです。個別法は無数にありますが、行政の活動の違法を争う裁判の基本のルールは、どの分野でも行政事件訴訟法です。そして事案では、行政の活動が違法かどうかと、それを裁判でどう争うかが、セットで問われるのがふつうです。片方だけでは答えが出ないので、1つの科目の中で両方を学びます。行政事件訴訟法だけでは、訴訟のルールは完結しません。ここで条文を見ましょう。行政事件訴訟法7条です。

条文行政事件訴訟法7条

行政事件訴訟法第7条(この法律に定めがない事項) 行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。

この法律に定めがない事項は、民事訴訟の例による。つまり、行政事件訴訟法は完結した法典ではなく、足りない部分を民事訴訟のルールで補います。ただし、どの部分が行政事件訴訟法の独自ルールで、どの部分が民事訴訟のルールなのかは、後の回で整理します。今日は位置づけまでです。

事案を解く3段の順路

事案を解く3段の順路(1段目=訴訟類型を選ぶ/2段目=訴訟要件を検討する/3段目=行政活動の違法性を検討する) 図:事案を解く3段の順路

  • 1段目=訴訟類型を選ぶ
  • 2段目=訴訟要件を検討する
  • 3段目=行政活動の違法性を検討する

ここまでで道具は揃いました。次は、その道具を使って事案を解く順番を渡します。状況はこうです。Bさんが飲食店を開こうとして、食品衛生法の許可を申請したところ、Aである行政に、不許可と判断されました。Bさんは納得できず、裁判で争いたい。さて、答案では何から考えますか。まず違法性から、と考えたくなるのが自然です。でも少し立ち止まってください。最初に決めるのは、違法性ではありません。順番はこうです。1段目が、訴訟類型の選択。2段目が、訴訟要件の検討。3段目が、行政活動の違法性の検討です。訴訟類型とは、訴えの種類のことです。たとえば、不許可の判断を取り消してほしい訴えと、お金を払ってほしい訴えは、種類が違いますよね。行政の裁判には、目的に応じた訴えの型が用意されています。これを訴訟類型と呼び、名前を並べるのはまだ先です。

訴訟要件は、訴えが中身の審理に進むための関門です。たとえば、訴える資格があるか、期限を過ぎていないか。この関門を通れなければ、裁判所は中身を見ずに、門前払いにします。期限切れで訴えが門前払いなら、答案の違法性の議論は、一行も使われません。だから入口の訴訟類型と訴訟要件を先に決めて、そのあとで違法性に入るのです。入口の2つの中では、どうして訴訟類型のほうが先なんですか。訴えの型ごとに、通るべき関門が違うからです。取り消してほしい訴えと、お金を払ってほしい訴えとでは、確かめる関門の中身が別々に決まっています。先に訴訟類型を選ばないと、どの関門を検討すればよいのかが決まりません。

違法性が先だと感じるのには、理由があります。このシリーズで学ぶ順番は、行政の活動の中身が先で、争い方は後半に出てきます。学ぶ順と解く順は、逆になるんです。ちなみに、さきほどの不許可のように、行政が法律にもとづいて、国民の権利や義務を一方的に具体的に決める行為を、行政法では「処分」と呼びます。許可や営業停止命令もそうです。この順路は、論文の答案の骨格になります。選び方の細部は後の回に回して、今日は3段の順番だけ覚えてください。

行政法の学習目標と、試験での位置

学習の目標(個別法×共通の考え方×事案=行政活動が違法になるのはどんな場合か/訴訟等で争うにはどうするか)と試験での位置(司法試験=論文式の公法系科目/予備試験=短答式・論文式)

ゴールは、具体的な事案で2つを判断できるようになることです。1つは、個別法の仕組みのもとで、行政の活動が違法になるのはどんな場合か。もう1つは、それを訴訟などで争うにはどうすればよいか。そのために、共通の考え方と通則的な法律を使って個別法を読み解き、事案に当てはめます。個別法と理論と事案を、つなぐ科目なんです。判例もたくさん学びます。ただし判例は、特定の個別法と特定の事案についての判断です。同じ結論がほかの法律にそのまま通用するとは限りません。どこまで及ぶのか、つまり射程を見極める必要があります。

司法試験では、論文式の公法系科目、つまり憲法と行政法に関する分野の科目で出ます。予備試験では、短答式と論文式の両方に、行政法が入っています。

シリーズ全体の地図:20章の道のり

シリーズ20章の地図・前半(1.行政法の基礎/2.行政組織法/3.行為形式の地図と行政基準/4.行政行為/5.行政裁量/6.行政契約・行政指導・行政計画/7.行政調査・義務履行確保・行政罰/8.行政手続/9.情報公開・個人情報保護/10.行政不服申立て) 図:シリーズ20章の地図・前半

  • 1.行政法の基礎
  • 2.行政組織法
  • 3.行為形式の地図と行政基準
  • 4.行政行為
  • 5.行政裁量
  • 6.行政契約・行政指導・行政計画
  • 7.行政調査・義務履行確保・行政罰
  • 8.行政手続
  • 9.情報公開・個人情報保護
  • 10.行政不服申立て

では最後に、このシリーズ全体の地図です。20の章に分かれています。最初の章がこの回を含む行政法の基礎。次に、組織法にあたる行政組織法の章が来ます。そこから作用法の章が続きます。行為形式の地図、さきほど処分と呼んだ許可や命令を、学問の言葉で捉えた行政行為、行政裁量、契約や指導や計画、調査や強制や罰、そして行政手続です。行政が実際に動く場面は多いので、ここがいちばん厚くなります。情報公開と個人情報保護の章を挟んで、行政不服申立ての章から、救済法に入ります。

シリーズ20章の地図・後半(11.行政事件訴訟の全体像/12.処分性/13.原告適格/14.訴えの利益とその他の訴訟要件/15.取消訴訟の審理・判決・執行停止/16.取消訴訟以外の抗告訴訟と仮の救済/17.当事者訴訟・争点訴訟・住民訴訟/18.国家賠償/19.損失補償/20.総まとめ) 図:シリーズ20章の地図・後半

  • 11.行政事件訴訟の全体像
  • 12.処分性
  • 13.原告適格
  • 14.訴えの利益とその他の訴訟要件
  • 15.取消訴訟の審理・判決・執行停止
  • 16.取消訴訟以外の抗告訴訟と仮の救済
  • 17.当事者訴訟・争点訴訟・住民訴訟
  • 18.国家賠償
  • 19.損失補償
  • 20.総まとめ

後半は、争い方と救済です。行政事件訴訟の全体像のあとに続くのが、訴訟要件の章です。処分性は、そもそも訴えで争える行為か。原告適格は、訴える資格があるか。訴えの利益は、いま争う意味が残っているか。これが、さきほどの3段の順路の2段目にあたります。取消訴訟は、さきほどの「取り消してほしい訴え」のことです。その審理や判決、執行停止を扱う章があります。続いて、取消訴訟以外の訴えを扱う章があり、当事者訴訟や住民訴訟の章へと進みます。ここが1段目の、訴訟類型の選択につながります。そして、違法な行政による損害を埋める国家賠償と、道路を通すために土地を手放してもらう場合のように、適法な行政のために特定の人だけが負った損失を埋める損失補償の章で救済法を締めて、最後の章で、未知の個別法を相手に、3段の順路を通す総まとめをします。

3段目の違法性を学ぶのは、行政行為や裁量、手続といった、前半の作用法の章です。行政活動の違法性を考える材料は、ここで学ぶことになります。

今日の地図(保存版)

今日の地図・保存版(行政法=ばらばらの個別法を同じ道具で読む科目/道具=共通の考え方+通則的な法律6本/中身=組織法・作用法・救済法/解く順=訴訟類型→訴訟要件→違法性) 図:今日の地図・保存版

  • 行政法=ばらばらの個別法を同じ道具で読む科目
  • 道具=共通の考え方+通則的な法律6本
  • 中身=組織法・作用法・救済法
  • 解く順=訴訟類型→訴訟要件→違法性

最初の1問に戻ります。法律が無いのに、何を勉強するのか。ばらばらの個別法に共通する考え方と、全分野に通用する少数の法律、でした。行政法は、無数の個別法を同じ道具で読むための科目でした。道具は2つ。共通の考え方と、6本の通則的な法律です。中身は、組織法、作用法、救済法の3本柱。そして事案は、訴訟類型、訴訟要件、違法性の順で解いていきます。次の回からは、この地図のどこを歩いているかを確かめながら、行政法の最初の問い、行政はなぜ生まれ、なぜ私たちの生活に入り込むのか、から始めます。

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#2単独ページ動画

行政の存在理由①(認可制と届出制)

第1章 行政法の基礎 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

コーヒーは自由に値上げできるのに、運賃は?

駅前の喫茶店と山あいの町の鉄道(コーヒー1杯=店主が決める/X鉄道の運賃=会社が勝手には上げられない) 図:駅前の喫茶店と山あいの町の鉄道

  • コーヒー1杯=店主が決める
  • X鉄道の運賃=会社が勝手には上げられない

山あいの小さな町の駅前に、喫茶店があります。店主が、コーヒー1杯の値段を、明日から倍にしたとします。コーヒーの値段は、店主が自由に決めてよいのです。法律も、何も言いません。ところが同じ町を走るX鉄道が、来月から全区間の運賃を2倍にすると掲示したら、そうはいきません。同じ値上げなのに、どうして鉄道だけ違うんですか。鉄道会社は、運賃の上限を決めて国の認可、つまり事前のお墨付きを受けなければならないからです。民法では、契約は自由が原則だと習いますよね。値段も当事者が決めるはずなのに、法律がわざわざ行政を間に入れているのです。

しかも、入れ方には濃淡があります。運賃は認可、特急料金は届出だけ。なのに新幹線の特急料金は、また認可に戻ります。今日の1問は、当事者の合意と裁判があるのに、なぜ行政が要るのか、です。答えを先に言いますと、事後・個別の解決では間に合わない利益を、事前・一律に守るため。この意味を、鉄道の運賃で腹落ちさせます。

値段は本来、当事者の合意で決まる

契約自由と約款(コーヒー=店と客が値段で折り合う/鉄道=会社が決めた約款に、乗るか乗らないかだけ) 図:契約自由と約款

  • コーヒー=店と客が値段で折り合う
  • 鉄道=会社が決めた約款に、乗るか乗らないかだけ

まず原点を確認します。私人どうしの取引は、契約自由の原則に立ちます。自分のことは自分で決めてよいという、民法の前提です。値段も、売る側と買う側の合意で決まります。店が値段を付けて、客が高ければ別の店を選ぶ。選べる客がいる限り、店は高くしすぎられません。合意に任せて、ちゃんと回ります。そこで会社は、運賃などの条件をあらかじめ文書にしておきます。これを約款といいます。全員に同じ条件を一括で当てはめる契約書で、ネットの会員登録で、同意ボタンを押す利用規約のようなものです。利用者にできるのは、その条件を受け入れて乗るか、乗らないかの二者択一だけ。値段の中身を実質的に決めているのは、会社です。

他に乗る手段があれば、客が離れるので会社も無茶はできません。ところがX鉄道は、町で唯一の鉄道です。この前提が崩れると、話が変わってきます。

今日の地図(1.値段は合意で決まる/2.合意に任せると困る場面/3.上限を行政がチェック=認可/4.規制の濃淡=届出と変更命令・細目は省令へ/5.登場人物は何人か/6.民事・刑事・行政の比較/7.不満があるときの争い方) 図:今日の地図

  • 1.値段は合意で決まる
  • 2.合意に任せると困る場面
  • 3.上限を行政がチェック=認可
  • 4.規制の濃淡=届出と変更命令・細目は省令へ
  • 5.登場人物は何人か
  • 6.民事・刑事・行政の比較
  • 7.不満があるときの争い方

ここで今日の道筋を1枚にします。今が1番目です。次に、合意に任せると困る場面の条件を見ます。そのあと、法律が用意した上限の認可、規制の濃淡、登場人物は何人か、民事法・刑事法との比べ方を見て、最後に、行政の決定に不満があるときの争い方で締めます。

合意に任せると困る場面

合意に任せられない3条件(1.利用者に選ぶ余地がない/2.一人ひとりの損は小さいが全体では大きい/3.生活に不可欠でやめにくい)とコーヒーvs町の鉄道の対比 図:合意に任せられない3条件とコーヒーvs町の鉄道の対比

  • 1.利用者に選ぶ余地がない
  • 2.一人ひとりの損は小さいが全体では大きい
  • 3.生活に不可欠でやめにくい

乗らずに済むかどうかが、分かれ目です。合意に任せても適正な値段にならない場面には、3つの条件があります。重なるほど、任せられなくなります。1つ目は、利用者に選ぶ余地がないこと。代わりの手段がなく、地域に1社しかない状態です。2つ目は、一人ひとりの損は小さくても、全体では大きいこと。3つ目は、生活に不可欠で、やめにくいことです。コーヒーは、隣の店があるので選べます。やめても生活は困りません。値上げされても、1杯分の損にとどまります。3つとも当てはまりません。町の鉄道は、反対です。高校生は通学に、お年寄りは病院に使いますし、バスは本数が少ない。乗るのをやめる選択肢が、事実上ありません。

たとえば運賃が、1人1日100円上がったとします。1人にとっては痛くても、会社と争うには費用も手間もかかり、割に合いません。ところが住民が数千人いれば、会社には毎日、大きな増収になります。損をする側の一人ひとりは声を上げにくく、利益を得る側の会社だけがはっきり得をする。この、個人の手に負えない薄く広い損を放っておけないのが、行政が出てくる理由の出発点です。この3つは、条文に書かれた要件ではありません。規制の必要性を説明する、考え方です。答案では、行政が関与する理由を述べるときの背景になります。

法律の答えは「上限を行政がチェックする」

鉄道事業法の目的と、運賃が決まる流れ(1条=利用者の利益を保護/会社が上限を定める→大臣が審査して認可) 図:鉄道事業法の目的と、運賃が決まる流れ

  • 1条=利用者の利益を保護
  • 会社が上限を定める→大臣が審査して認可

では、法律はどう答えたのでしょうか。鉄道に関する法律が、鉄道事業法です。1条に、目的が書かれています。鉄道事業の運営を適正で合理的にすることで、輸送の安全を確保し、利用者の利益を保護する。ここが規制の出発点です。運賃については16条です。ここで、条文の読み方をひとこと。司法試験や予備試験の論文式の行政法では、分野ごとの法律、つまり個別法の関係条文の抜粋は、問題文に資料として付けられます。ですから、この回の条文は、覚えるためのものではありません。初めて見る条文から、誰が、どんなとき、何をするのか、認可か届出か、事前か事後かを読み取る練習です。

覚えるのは、条文の言葉ではなく、考え方のほうです。では1項を見ましょう。

条文鉄道事業法16条1項

鉄道事業法第16条第1項 鉄道運送事業者は、旅客の運賃及び国土交通省令で定める旅客の料金(以下「旅客運賃等」という。)の上限を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

鉄道会社は、運賃と、省令で定める料金について、その上限を定めて認可を受けなければなりません。変更するときも同じです。行政が事前に中身を審査して、よしと認めることです。お墨付きが出るまでは、その運賃を使えません。認可も、前回の飲食店の許可と同じ、事前のチェックの仲間です。2つの違いは、後の回で整理します。審査の物差しは、2項に書かれています。

条文鉄道事業法16条2項

鉄道事業法第16条第2項 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査して、これをしなければならない。

大臣は、能率的な経営のもとでの適正な原価に、適正な利潤を加えたものを超えていないかを審査します。超える上限は、認可されません。これが審査基準です。条文のこの言葉が、そのまま審査の物差しになっていると読み取ります。無駄の多い経営の費用を、そのまま運賃に乗せることはできない、ということです。能率的な経営のもと、という言葉が、まさにそこを押さえています。会社の言い値ではなく、効率的に運営した場合の費用が基準になります。なお、認可を申請するときは、国土交通省令により、申請書に原価の計算書を添える必要があります。原価の根拠を出させて審査する、ということです。ここで1問です。認可されるのは、運賃そのものでしょうか。それとも上限でしょうか。そして上限だとしたら、その範囲内の運賃は、誰が決めるでしょう。

条文のとおりです。行政が決めるのは上限まで、その中の具体的な値段は会社の自由です。この続きを、次に見ます。

範囲内の運賃は「届出」、行き過ぎは「変更命令」

運賃が決まるまでの流れ(上限を定めて認可→範囲内で運賃を定めて届出→問題があれば変更命令→従わなければ罰金) 図:運賃が決まるまでの流れ

上限の認可を受けた会社は、その範囲内で実際の運賃を定めます。そのときに必要なのが、届出です。3項を見ましょう。

条文鉄道事業法16条3項

鉄道事業法第16条第3項 鉄道運送事業者は、第一項の認可を受けた旅客運賃等の上限の範囲内で旅客運賃等を定め、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

認可は「お墨付きをもらう」もの、届出は「知らせる」ものです。認可は、それが出なければ進めません。届出は、行政に情報を集めておき、問題があれば後から改めさせる方式です。お墨付きと、お知らせ、と覚えてください。届出の一般的な話は、後の回で扱います。そこで、9項の変更命令があります。

条文鉄道事業法16条9項

鉄道事業法第16条第9項 国土交通大臣は、第三項若しくは第四項の旅客運賃等又は前項の旅客の料金が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該鉄道運送事業者に対し、期限を定めてその旅客運賃等又は旅客の料金を変更すべきことを命ずることができる。 一 特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。 二 他の鉄道運送事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものであるとき。

変更命令の理由は、2つです。特定の旅客に不当な差別的取扱いをしている場合と、他の鉄道会社との間に不当な競争を引き起こすおそれがある場合。どちらかに当たると大臣が認めるとき、期限を定めて運賃の変更を命じられます。X鉄道が、町の高校生にだけ極端に高い運賃を設定したら、不当な差別的取扱いに当たりえます。逆に、乗客を奪うために採算を無視した低運賃をぶつけて、他社を締め出そうとすれば、不当な競争のおそれです。境界も押さえておきます。全員に一律で、上限の範囲内で運賃を上げただけなら、この2つのどちらでもありません。値上げ自体は、変更命令の理由になりません。

規範というのは、条文に書かれていない、解釈で立てる基準のことです。これはそうではなく、条文に書かれた要件です。条文を読めば出てきますので、覚えるのではなく、条文から拾います。

特急料金は届出だけ、新幹線は認可に戻る

運賃と特急料金の規制の濃淡(運賃=上限認可+届出/在来線の特急料金・座席指定料金=届出のみ/どちらも変更命令の対象) 図:運賃と特急料金の規制の濃淡

  • 運賃=上限認可+届出
  • 在来線の特急料金・座席指定料金=届出のみ
  • どちらも変更命令の対象

運賃は、乗るための基本の値段です。これに対して、特急料金や座席指定料金は、別の価値に払う料金です。こちらは8項です。

条文鉄道事業法16条8項

鉄道事業法第16条第8項 鉄道運送事業者は、特別車両料金その他の客車の特別な設備の利用についての料金その他の国土交通省令で定める旅客の料金を定めるときは、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

条文の特別車両料金は、グリーン車のような特別な車両の料金です。在来線の特急料金や座席指定料金も、この8項の側に入ります。上限の認可はありません。会社が料金を定めて、あらかじめ届け出るだけです。行き過ぎには、先ほどの9項の変更命令が使えます。ここで1問です。特急列車の料金が運賃より軽い規制で済むのは、なぜでしょう。利用者に選ぶ余地があるので、先ほどの3条件の1つ目が弱い。会社が工夫して、多様なサービスと料金を出せるようにしてもよい、という考え方です。規制の濃淡は、選ぶ余地がどれだけあるかで決まります。

新幹線の特急料金が上限認可になるという結論は、条文で言い切れます。16条1項は、運賃のほかに、国土交通省令で定める料金も上限認可の対象にしています。その省令が、鉄道事業法施行規則の32条1項です。

条文鉄道事業法施行規則32条1項

鉄道事業法施行規則第32条第1項 法第十六条第一項の国土交通省令で定める旅客の料金は、特別急行料金、急行料金その他の運送の速達性を役務の基本とする料金(以下「特別急行料金等」という。)であつて、新幹線鉄道に係るものとする。

速達性、つまり速く着くことに払う料金で、新幹線鉄道に係るものは、運賃と同じ上限認可です。それ以外の特急料金や座席指定料金は、別の規定で届出の対象になっています。ですから、運賃は上限認可と届出、在来線の特急料金は届出だけ、新幹線の特急料金は上限認可、と整理できます。条文には書かれていません。新幹線では、他に乗り換えて済ませる選択肢が乏しいためだと考えられます。結論は条文に書いてあること、理由は選ぶ余地という考え方からの説明、と分けて押さえてください。規制の濃淡を表にすると、こうなります。上限認可は、事前に審査してお墨付きを与える方式で、上限までは行政、範囲内は会社が値段を決めます。届出と変更命令は、事前には知らせるだけで、問題があれば後から是正する方式で、値段は会社が決めます。最近の流れは、事前のお墨付き型から、届出型へ軽くなる方向です。とはいえ、選ぶ余地が乏しい運賃は、今も認可のままです。

法律は大枠だけ、細目は省令へ

法律から省令へ(鉄道事業法16条1項「国土交通省令で定める旅客の料金」→施行規則32条1項/66条=実施のため必要な手続その他は省令で定める) 図:法律から省令へ

  • 鉄道事業法16条1項「国土交通省令で定める旅客の料金」→施行規則32条1項
  • 66条=実施のため必要な手続その他は省令で定める

16条1項は「国土交通省令で定める旅客の料金」と書くだけで、どの料金かは書いていません。具体は、国土交通大臣が定める省令が決めていました。省令のように行政が作るルールを、まとめて命令と呼びます。さきほどの変更命令のような、個別の相手への指図とは別の意味です。法律から任されて作られる命令を、委任命令といいます。66条にも同じ型の規定があります。

条文鉄道事業法66条

鉄道事業法第66条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な手続その他の事項は、国土交通省令で定める。

法律が大枠を決め、細かいことは省令に落ちる。任せる理由は、2つあります。どの料金を認可の対象にするかは、鉄道の実情を知る役所のほうが、的確に決められます。それに、法律に書いてしまうと、事情が変わるたびに国会で改正しなければならず、見直しが間に合いません。ですから条文を読むときは、法律から省令の順に追いかけます。委任命令が許される条件や限界は、後の回で扱います。今は、名前と、任せる理由と、読み方の順序までです。

同じ道具は、別の法律にも出てくる

鉄道事業法16条と道路運送法9条の並べ読み(上限認可・届出・変更命令の三点セットは共通/道路運送法には変更命令の理由に「著しく不適切で旅客の利益を阻害するおそれ」が加わる) 図:鉄道事業法16条と道路運送法9条の並べ読み

  • 上限認可・届出・変更命令の三点セットは共通
  • 道路運送法には変更命令の理由に「著しく不適切で旅客の利益を阻害するおそれ」が加わる

ここで、同じ町のバスを見ます。乗合バスの運賃を定めているのは、道路運送法9条です。鉄道事業法と、ほとんど同じ作りをしています。1項は、運賃と料金の上限を定めて国土交通大臣の認可。2項は、審査の物差しが鉄道と同じ。3項は、範囲内で定めて届出。7項は、行き過ぎへの変更命令です。上限認可、届出、変更命令の三点セットです。条文では、乗合バスの事業を、一般乗合旅客自動車運送事業と呼んでいます。まず1項です。

条文道路運送法9条1項

道路運送法第9条第1項 一般乗合旅客自動車運送事業を経営する者(以下「一般乗合旅客自動車運送事業者」という。)は、旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める運賃及び料金を除く。以下この条、第三十一条第二号、第八十八条の二第一号及び第四号並びに第八十九条第一項第一号において「運賃等」という。)の上限を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

鉄道事業法は、省令で認可の対象を加える形でした。道路運送法は逆で、影響が比較的小さいものを省令で除く形です。同じ道具でも、書き方の向きが違います。もう1つの違いが、7項です。

条文道路運送法9条7項

道路運送法第9条第7項 国土交通大臣は、第三項若しくは第四項の運賃等又は前項の運賃若しくは料金が次の各号(第三項又は第四項の運賃等にあつては、第二号又は第三号)のいずれかに該当すると認めるときは、当該一般乗合旅客自動車運送事業者に対し、期限を定めてその運賃等又は運賃若しくは料金を変更すべきことを命ずることができる。 一 社会的経済的事情に照らして著しく不適切であり、旅客の利益を阻害するおそれがあるものであるとき。 二 特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。 三 他の一般旅客自動車運送事業者(一般旅客自動車運送事業を経営する者をいう。以下同じ。)との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものであるとき。

バスには、変更命令の理由に、社会的経済的事情に照らして著しく不適切で、旅客の利益を阻害するおそれがある場合が加わっています。ただし、どの運賃にも使えるわけではありません。条文は、相手を2つに分けています。「第三項若しくは第四項の運賃等」が、上限の範囲内で定めて届け出た運賃と、地域の協議会で話がまとまって届け出た運賃。「前項の運賃若しくは料金」が、上限の認可から外されて、届出だけで済むものです。かっこ書きは、前のほうに使えるのは2号と3号、つまり差別的取扱いと不当な競争のおそれだけだ、と言っています。1号まで使えるのは、後のほう、届出だけの運賃や料金です。事前の審査が無いぶん、後から直せる理由を広く取ってある、と考えられます。

個別法が違っても道具は同じ、というのが前回の軸でした。ただし、条文の細部は個別法ごとに違います。だから道具の型を見抜いたうえで、個別の条文で確かめるのです。水道でも同じです。水道法14条は、地方公共団体の水道事業は料金の変更を届出、それ以外の事業者は、料金を含む供給条件の変更に認可を求めます。同じ水道でも、事業の主体で濃淡が違います。

登場人物は何人か:二面関係と三面関係

二面関係(A=行政/B=X鉄道:Bが上限の認可を申請・届出/Aが認可・変更命令) 図:二面関係(A=行政/B=X鉄道:Bが上限の認可を申請・届出/Aが認可・変更命令)

道具の型は見えました。次は、その道具をめぐって誰が登場するかです。その前に、前回の復習を1問。行政法を3本の柱に分けたとき、行政が国民に何をできるかを扱うのは、どの柱だったでしょう?作用法です。組織法は誰が行政をするか、救済法は行政のチェックと救済、でした。今日の認可や届出、変更命令は、その作用法の中身です。ここで、登場人物が何人いるかを数えましょう。図のAが行政、BがX鉄道です。BがAに認可を申請し、Aが認可を出したり、変更命令を出したりします。このように、行政と、規制を受ける相手方の2者で成り立つ関係を、二面関係といいます。伝統的な行政法の関心は、行政の不当な介入から、相手方である私人を守ることでした。認可を断られたXが争う場面が、その典型です。

三面関係(A=行政/B=X鉄道/C=利用者(町の住民):BとCの間は運送契約/AはCの利益を守るため規制/CはAの決定を争えるか?) 図:三面関係

  • A=行政
  • B=X鉄道
  • C=利用者(町の住民):BとCの間は運送契約
  • AはCの利益を守るため規制
  • CはAの決定を争えるか?

そこで、Cを加えます。Cは、規制で利益を守られる利用者、つまり町の住民です。BとCの間には運送契約があり、AはCの利益を守るためにBを規制します。規制の相手方ではないのに、その規制から利益を受けたり害されたりする第三者が加わる関係を、三面関係といいます。運賃の認可は、AとBの間の行為ですが、Cの生活に直結します。認可が出たことに住民が不満なら、争えるんですか。そこが、三面関係の問題の所在です。規制の相手方ではない第三者に、争う資格が認められるのか。この原告適格という論点は、別の大きなテーマですので、後の回で扱います。ここでは、二面と三面を区別する視点だけ持ってください。以後の回で、何度も出てきます。

ほかの解き方では足りないのか

運賃が不当に高い問題を3つの法分野で解く(民事法=値上げ後に損をした個人が訴える/刑事法=違反後に処罰/行政法=値上げ前の審査と事後の変更命令・全利用者に一律) 図:運賃が不当に高い問題を3つの法分野で解く

  • 民事法=値上げ後に損をした個人が訴える
  • 刑事法=違反後に処罰
  • 行政法=値上げ前の審査と事後の変更命令・全利用者に一律

同じ問題を、3つの法分野で解いてみましょう。まず民事法です。値上げのあとで、損をした個人が、払いすぎた分の返還や、約款が無効だという確認を求めて訴えます。働くのは値上げの後、動くのは損をした個人、効くのは訴えたその人だけです。専門的な判断は、裁判所が個別に行います。弱点は、先ほどの1日100円の損です。一人ひとりの損が小さいと、訴える費用が見合わず、泣き寝入りになります。刑事法は、違反のあとで、検察と裁判所が動きます。ただ、刑罰は、人の自由や財産を奪う重い制裁です。だから、何をしたら罰せられるのかを、法律で前もってはっきり書いておかなければなりません。この原則を罪刑法定主義といい、はっきり書くことを、明確性の要請と呼びます。適正な原価に適正な利潤を加えたもの、という基準は、具体的な金額が条文から決まりません。会社から見ると、いくらを超えたら罰せられるのかが、前もって分かりません。これでは、超えたら即処罰、という規定を直接には書けません。

事後で、かつ個別なのが特徴です。前回、飲食店の営業許可で、被害が起きる前に防ぐために行政は先回りして動く、と見ました。運賃でも同じです。行政法は、値上げの前の認可や届出で、さらに後からの変更命令で関わります。動くのは行政自身で、効果は全利用者に一律です。原価の審査のような専門的な判断を、被害者個人ではなく専門の行政機関が引き受けます。事前・一律と、事後・個別。この対にして覚えてください。鉄道事業法には罰則が置かれています。行政が先に判断し、従わないときに罰則が後ろから支える形です。70条1項の3号と4号です。

条文鉄道事業法70条1項3号・4号

鉄道事業法第70条第1項(抜粋) 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、百万円以下の罰金に処する。 三 第十六条第三項若しくは第八項若しくは第三十六条の規定による届出をしないで、又はこれらの規定若しくは第十六条第四項の規定により届け出た運賃若しくは料金によらないで、運賃又は料金を収受したとき。 四 第十六条第九項の規定による命令に違反して、運賃又は料金を収受したとき。

3号は、条番号が多いので平たく言いますと、届出をしないか、届け出た運賃と違う運賃を取ったとき。4号は、変更命令に違反して運賃を取ったときです。どちらも、100万円以下の罰金です。罰則の詳しい話は、後の回で扱います。公営の水道のように、料金を条例で決める例はあります。自治体の使用料は、条例で定めるのが基本です。民営の鉄道で、運賃の金額を法律に書くと、物価や燃料費が動くたびに、国会で法律を改正しなければなりません。見直しが追いつきません。それに、前回触れたとおり、憲法は営業の自由を保障しています。値段を決めることは営業の中心ですから、金額まで国が決めるのは制約が大きすぎる、と考えられます。だから上限だけを行政が審査する形が選ばれています。喫茶店のコーヒーなら、客が隣の店に移るだけで済みました。町の鉄道では、それが効きません。事後・個別の解決では間に合わない利益を、事前・一律に守る。行政が要る理由は、ここにあります。

行政の決定に不満があるとき

行政の決定に不満があるとき(認可の拒否=X鉄道が争う/認可の付与=住民が争えるかが問題/争い方は救済法に別に用意されている) 図:行政の決定に不満があるとき

  • 認可の拒否=X鉄道が争う
  • 認可の付与=住民が争えるかが問題
  • 争い方は救済法に別に用意されている

行政に事前の判断を任せる以上、その判断が正しかったかを、後から争う道が要ります。それが、前回整理した3本柱のうちの、救済法です。認可や変更命令は、行政が法律にもとづき、国民の権利や義務を一方的に具体的に決める行為、つまり前回触れた「処分」にあたります。不満があるときの道は、2つあります。どちらも、前回名前を挙げた、6本の通則的な法律の中にあります。行政不服審査法による不服申立ては、行政の側に見直しを求める手続です。行政事件訴訟法による訴訟は、裁判所に訴える手続です。訴訟には、処分を取り消してもらう取消訴訟や、行政に処分をするよう命じてもらう義務付け訴訟があります。今は、名前と役割までで足ります。

X鉄道が値上げの認可を断られた場面は、二面関係の争いで、Xが争います。町の住民が、値上げが認可されたことに不満な場面は、三面関係で、争う資格があるかが問題になります。行政が利用者から意見を聴く仕組みや、第三者の争う資格を広げる工夫など、行政を見張る方策もあります。いずれも後の回で扱います。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(合意に任せられない3条件=選べない/薄く広い損/不可欠/規制は濃淡=上限認可+届出+変更命令・特急は届出/二面から三面へ/事前・一律と事後・個別) 図:今日のまとめ

  • 合意に任せられない3条件=選べない
  • 薄く広い損
  • 不可欠
  • 規制は濃淡=上限認可+届出+変更命令・特急は届出
  • 二面から三面へ
  • 事前・一律と事後・個別

最初の1問に戻ります。当事者の合意と裁判があるのに、なぜ行政が要るのか。事後・個別の解決では間に合わない利益を、事前・一律に守るため、でした。選べない、損が薄く広い、やめにくい。この条件が重なると、合意に任せても適正な値段になりません。そこで行政が、専門的な判断を引き受けて、事前に審査します。その関わり方には濃淡があって、運賃は上限を認可して範囲内は届出、行き過ぎは変更命令。特急料金は届出だけで、新幹線の特急料金は認可。濃淡は、利用者に選ぶ余地がどれだけあるかで決まります。最後に、条文の読み方です。細目は法律の委任を受けた省令に落ちるので、条文は法律から省令の順に読みます。道路運送法のように、道具が同じでも細部は個別法ごとに違います。次は、事前のチェックから命令、そして強制までの流れを見ていきます。

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#3単独ページ動画

行政の存在理由②(事前規制と行政上の強制)

第1章 行政法の基礎 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

隣の建物は、自分の手で壊せるのか

隣の違反建築(B=店主が確認を受けた図面より柱を減らして3階建てに/C=隣の住民は自分で壊せず裁判所に訴えるしかない/A=役所は命令を出し従わなければ自分の手で取り壊せる) 図:隣の違反建築

  • B=店主が確認を受けた図面より柱を減らして3階建てに
  • C=隣の住民は自分で壊せず裁判所に訴えるしかない
  • A=役所は命令を出し従わなければ自分の手で取り壊せる

山あいの町の駅前にある喫茶店が、店を3階建てに建て替えました。店主はBです。ところが工事の途中で費用を削り、役所の確認を受けた図面より、柱を減らして建ててしまいました。隣に住んでいるのが、Cです。大きな地震が来たら、柱の足りない建物が倒れてくるかもしれません。ではCは、自分の手で、その建物を壊しに行ってよいでしょうか。Cが自分の手で壊すことは、許されません。Cにできるのは、裁判所に訴えることまでです。ところが町の役所Aは、Bに命令を出し、Bが従わず、法律の要件を満たせば、自分の手で建物を取り壊すことができます。

前回、命令には2つの意味があると見ました。省令のように行政が作るルールと、個別の相手への指図です。ここでの命令は後者で、Bという特定の相手に、この柱を直しなさいと直接求めるものです。たとえ自分の権利でも、自分の手で実現してはいけない。これが法の大原則です。行政には、法律の根拠があれば、その例外が認められます。なぜ行政には許されるのか。今日の山場はここです。

行政の関わりの5段(1.始める前のチェック/2.始めた後の処分・命令/3.不利益な決定の前に言い分を聴く手続/4.従わないときの罰則/5.行政自身による強制) 図:行政の関わりの5段

  • 1.始める前のチェック
  • 2.始めた後の処分・命令
  • 3.不利益な決定の前に言い分を聴く手続
  • 4.従わないときの罰則
  • 5.行政自身による強制

今日の1問は、行政は、始める前から最後の強制まで、どう関わるのか、です。答えを先に言います。事前のチェック、違反への命令、言い分を聴く手続、罰則、行政自身による強制。この5段が、1本につながっています。1段目は、事業を始める前のチェックです。2段目は、始めた後に違反が出たときの、免許の取消しや是正命令といった処分。3段目は、そうした不利益な決定を出す直前に、相手の言い分を聴く手続です。4段目は、従わない人への罰則。5段目が、行政が自分の手で実現する強制です。3段目は、処分を出す直前の手続なので、2段目とセットで見てください。この5段を、運転の道路交通法と、建物の建築基準法の2つで見ます。3段目までは運転、建物の順に通し、4段目と5段目は2つを並べて見ます。個別の法律が違っても道具は同じだと、2つの法律で確かめます。

ここで、前回もお伝えした条文の読み方を、もう一度。司法試験や予備試験の論文式の行政法では、分野ごとの法律、つまり個別法の関係条文の抜粋は、問題文に資料として付けられます。ですから、これから見る道路交通法と建築基準法の条文は、覚えるためのものではなく、読み取る練習です。覚えるのは、条文の言葉ではなく、この5段と、その理由のほうです。

免許は「一律に禁止」から出発する

免許制(A=公安委員会/B=喫茶店の店主/免許のない人はだれでも運転できない=一律の禁止/試験に合格した人にだけ個別に解除) 図:免許制

  • A=公安委員会
  • B=喫茶店の店主
  • 免許のない人はだれでも運転できない=一律の禁止
  • 試験に合格した人にだけ個別に解除

店主のBは、町の端の家までテイクアウトを届けるため、配達を始めます。軽自動車を自分で運転したい。ここが1段目、始める前のチェックです。道路交通法84条1項を見ましょう。

条文道路交通法84条1項

道路交通法第84条第1項 自動車及び一般原動機付自転車(以下「自動車等」という。)を運転しようとする者は、公安委員会の運転免許(以下「免許」という。)を受けなければならない。

公安委員会は、都道府県に置かれた、運転免許を与える側の行政機関です。図のAにあたります。免許の仕組みを、法の形で言い直します。免許のない人は、だれであっても運転してはならない。これが一律の禁止です。町のだれにも例外なく、いったん運転できない状態から出発します。そのうえで、試験に合格した人にだけ、公安委員会が免許を与えます。一人ひとり、運転できると確かめて、禁止を解くので、これが個別の解除です。試験に合格した者には原則として免許を与えなければならないと、90条が定めています。解除の条件も、法律で決まっているのです。

免許も、認可や届出と並ぶ、事前のチェックの仲間です。型は、一律に禁止して、個別に解除する。前々回、飲食店の営業の許可で見た、禁止しておいて解除する仕組みと、同じ型です。Bは、試験に受かって初めて、軽自動車に乗れます。条文の言葉も確認しておきます。自動車等には、自動車と、一般原動機付自転車、つまり原付が入ります。電動キックボードのような特定小型原動機付自転車は、この条文の自動車等には入りません。条文に「一般」と付いているのは、この2つを分けるためです。

なぜ「事故の後」では足りないのか

免許が要る乗り物と要らない乗り物(自動車・原付=免許あり・一度の事故で人が死にうる/自転車=免許なし・同じ重さの被害になりにくい/どちらも事故の後の民事責任・刑事責任は共通) 図:免許が要る乗り物と要らない乗り物

  • 自動車・原付=免許あり・一度の事故で人が死にうる
  • 自転車=免許なし・同じ重さの被害になりにくい
  • どちらも事故の後の民事責任・刑事責任は共通

今も1段目です。始める前のチェックが、なぜ要るのかを確かめます。ここに入る前に、前回の復習を1問。鉄道の運賃で、上限を行政が認可したあと、その範囲内で運賃を決めた会社が行政に出すのは、お墨付きと届出のどちらだったでしょう?届出です。上限の認可がお墨付きで、範囲内の運賃は、行政へのお知らせだけでした。そうでした。認可は事前のお墨付き、届出は事前のお知らせ。今日の免許は、この2つの隣に並ぶ、事前のチェックです。事故の後に働く手当てが、2つあります。1つは、被害者に損害賠償を払う責任で、民事責任といいます。もう1つは、刑罰を受ける責任で、刑事責任といいます。どちらも、事故が起きてからの、個別の手当てです。前回の言葉では、事後・個別でした。ところが運転では、一度の事故で人が亡くなることがあります。賠償金を払っても、罰を科しても、命は戻りません。しかも、自分は大丈夫だと考える人は、必ず出てきます。取り返しのつかない被害が出うる活動は、始める前に、条件を満たす人だけに絞る。これが事前規制です。事後の手当てだけでは間に合わないから、免許があるのです。

免許が要る乗り物と、要らない乗り物を分ける物差しは、被害の重さです。自動車や原付は、一度の事故で人が死にうる。自転車は、同じ重さの被害にはなりにくい。だから自転車には事前のチェックを置かず、民事責任と刑事責任に委ねている、という考え方です。ここで1問です。自転車に免許が要らないのは、規制が無いからでしょうか?免許が要らないだけで、交通ルールは自転車にもあるはずです。道路交通法の交通ルールは、自転車にも適用されます。さらに2026年4月からは、16歳以上の自転車の運転者にも、交通反則通告制度、いわゆる青切符が適用されています。一定の違反は、反則金を納めれば、刑事手続に進みません。つまり自転車には、免許という事前のチェックが無いだけで、事後の手当ては組まれています。反則金の中身は、後の回で扱います。

免許を後から失わせる処分

免許の取消しと停止(A=公安委員会がBに/違反の積み重ね→免許の取消し、又は半年を超えない範囲の効力の停止/相手の権利を一方的に失わせる不利益な処分) 図:免許の取消しと停止

  • A=公安委員会がBに
  • 違反の積み重ね→免許の取消し、又は半年を超えない範囲の効力の停止
  • 相手の権利を一方的に失わせる不利益な処分

試験に受かって免許を得ても、違反を重ねる人は出ます。配達を急ぐあまり、Bが速度超過や一時不停止を繰り返したとします。事前のチェックをすり抜けた後の手当てが、2段目です。103条1項を見ましょう。

条文道路交通法103条1項

道路交通法第103条第1項(抜粋) 免許(仮免許を除く。以下第百六条までにおいて同じ。)を受けた者が次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、その者が当該各号のいずれかに該当することとなつた時におけるその者の住所地を管轄する公安委員会は、政令で定める基準に従い、その者の免許を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて免許の効力を停止することができる。ただし、第五号に該当する者が第百二条の二の規定の適用を受ける者であるときは、当該処分は、その者が同条に規定する講習を受けないで同条の期間を経過した後でなければ、することができない。 五 自動車等の運転に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこの法律の規定に基づく処分に違反したとき(次項第一号から第四号までのいずれかに該当する場合を除く。)。

取消しは、免許そのものを失わせます。停止は、免許は残したまま、半年を超えない範囲で期間を決めて、そのあいだだけ効力を止めます。どちらも、行政が相手の権利である免許を、一方的に失わせる不利益な処分です。5号の言葉には、命令の2つの意味が同居しています。この法律に基づく命令は、政令や府令のような、行政が作るルールの側。この法律の規定に基づく処分は、個別の相手への決定の側です。ただし書は、軽い違反のときの例外です。講習を受けないまま期間が過ぎた後でなければ処分できない、という条件で、中身には立ち入りません。本文が原則で、ただし書が例外や条件という読み方は、次の節で整理します。名前も出しておきます。免許の取消しは、学問上は、行政処分の撤回と呼びます。与えた時点では問題のなかった免許を、後からの違反を理由に失わせるからです。要件と限界は、後の回で扱います。

取消しは、悪いことをした罰なんですか。そこは、見方が2つあります。違反への制裁とみる見方と、懲らしめではなく、違反を重ねる人を免許制から外して、秩序を守るものとみる見方です。どちらにしても持ち帰るのは、取消しは、罰金や、刑務所に入る拘禁刑といった刑罰とは別の、行政の処分だということです。

処分の前に、言い分を聴く

意見の聴取(取消し又は90日以上の停止の前=公開の意見の聴取/期日の1週間前までに理由・期日・場所を通知し公示/本人又は代理人は意見を述べ有利な証拠を提出) 図:意見の聴取

  • 取消し又は90日以上の停止の前=公開の意見の聴取
  • 期日の1週間前までに理由・期日・場所を通知し公示
  • 本人又は代理人は意見を述べ有利な証拠を提出

取消しや長い停止は、仕事も暮らしも変えてしまいます。そこで、処分を出す前に、相手の言い分を聴く手続が入ります。3段目です。104条1項を見ましょう。

条文道路交通法104条1項

道路交通法第104条第1項 公安委員会は、第百三条第一項第五号の規定により免許を取り消し、若しくは免許の効力を九十日(公安委員会が九十日を超えない範囲内においてこれと異なる期間を定めたときは、その期間。次条第一項において同じ。)以上停止しようとするとき、第百三条第二項第一号から第四号までのいずれかの規定により免許を取り消そうとするとき、又は同条第三項(同条第五項において準用する場合を含む。)の処分移送通知書(同条第一項第五号又は第二項第一号から第四号までのいずれかに係るものに限る。)の送付を受けたときは、公開による意見の聴取を行わなければならない。この場合において、公安委員会は、意見の聴取の期日の一週間前までに、当該処分に係る者に対し、処分をしようとする理由並びに意見の聴取の期日及び場所を通知し、かつ、意見の聴取の期日及び場所を公示しなければならない。

ここで見るのは、重い処分の前には言い分を聴く場がある、という型です。対象は、取消し、または原則として90日以上の停止で、それより軽い停止は対象外です。手続は、期日の1週間前までに、処分の理由と期日と場所を本人に通知し、公示するというものです。数字は、条文から拾います。

条文道路交通法104条2項

道路交通法第104条第2項 意見の聴取に際しては、当該処分に係る者又はその代理人は、当該事案について意見を述べ、かつ、有利な証拠を提出することができる。

本人か代理人が、意見を述べ、有利な証拠を出せます。処分をされる側に、言い分を出す場が与えられるわけです。処分が出てから裁判で正すのでは、遅いのです。裁判には時間がかかり、そのあいだ、免許のない生活が続きます。違法な処分や不適切な処分は、出す前に防ぐほうがいい。これが、処分の前に聴く理由です。

行政手続の発想と特則(事後の裁判だけでは限界→あらかじめ手順を法律で定める/一般法=行政手続法/特則=道路交通法104条/113条の2=行政手続法第3章〔12条及び14条を除く〕は適用しない) 図:行政手続の発想と特則

  • 事後の裁判だけでは限界→あらかじめ手順を法律で定める
  • 一般法=行政手続法
  • 特則=道路交通法104条
  • 113条の2=行政手続法第3章〔12条及び14条を除く〕は適用しない

昔は、違法な処分が出てしまったら、あとから訴訟で正せば足りる、と考えられがちでした。けれど事後の裁判だけでは、限界があります。そこで、行政活動の手順を、あらかじめ法律で定めておく、という考え方が強くなりました。これが行政手続です。意見の聴取は、その一例です。行政手続には、共通のルールがあります。前々回、通則的な法律の1つとして名前が出た、行政手続法です。不利益な処分をするときに踏む手続の共通ルールで、一般法にあたります。これに対して道路交通法104条は、運転免許の場面だけの特別の定め、つまり特則です。113条の2が、行政手続法のうち、不利益な処分の手続を定めた第3章は適用しないと置いています。ただし、12条の処分基準、つまりどんな場合にどの処分をするかの物差しと、14条の理由の提示、つまり処分の理由を相手に示すことは、引き続き適用されます。注意が1つあります。ここでの意見の聴取は、道路交通法の手続です。行政手続法が定める言い分を聴く手続、つまり聴聞や弁明の機会の付与とは、別のものです。それぞれの中身は、後の回で扱います。

条文の住所の読み方

条文の住所(103条1項の見取り図=条・項・号の順に絞る/柱書〔号より前の部分〕/本文〔原則〕とただし書〔例外・条件〕/5号) 図:条文の住所

  • 103条1項の見取り図=条・項・号の順に絞る
  • 柱書〔号より前の部分〕
  • 本文〔原則〕とただし書〔例外・条件〕
  • 5号

3段目まで来ました。ここで5段をいったん離れて、ここまでの道路交通法の条文で、読み方を確かめます。条文は住所です。どの法律の、どの条の、どの項の、どの号か、で場所が決まります。条の中で、改行して書き始めた段落が項です。2項からは番号が付きます。最初の段落には番号が付かないので、84条の最初の文は、84条1項と数えます。号は、条や項の中で、一、二、三と並べた項目で、単独の条文ではなく、条文の一部です。103条1項5号は、103条の第1項の第5号。引用では「第」の字を省いて書きます。柱書は、号を並べる前の、各号に共通する頭の部分です。103条1項では、5号より前の部分が柱書で、号の上に立つ柱にあたります。その中に、原則を書いた本文と、ただし、で始まる例外のただし書が入っています。ここまでが条の中の話で、次は、条そのものの番号です。

枝番号(103条2項=103条の第2項/103条の2=別の条〔免許の効力の仮停止〕/113条の2=113条と114条の間に入った別の条/117条の2と117条の2の2=別の条〔117条の2の2第1項1号〕) 図:枝番号

  • 103条2項=103条の第2項
  • 103条の2=別の条〔免許の効力の仮停止〕
  • 113条の2=113条と114条の間に入った別の条
  • 117条の2と117条の2の2=別の条〔117条の2の2第1項1号〕

103条2項と、103条の2は、同じものですか。まったく別です。103条2項は、103条の中の第2項。103条の2は、免許の効力の仮停止を定めた、別の条です。既存の条の間に新しい条を差し込むとき、後ろの条番号を繰り下げずに済ませる工夫が、枝番号です。「の2」から始まり、「の1」はありません。枝番号の付いた条文は、元の条とは別の、独立した条です。先ほどの113条の2も、113条と114条の間に入った別の条で、113条の第2項ではありません。酒酔い運転などの罰則の条と、のちほど見る無免許運転の罰則の条も、枝番号の違う別の条です。枝番号が2つ付くこともあります。たとえば、無免許運転の罰則の条文は、117条の2の2です。その第1項を指すときには、117条の2の2第1項と、「第」の字を残して書きます。省くと、条の番号と項の番号が連なって、読めなくなるからです。押さえるのは3つです。条、項、号の順に住所を絞る。柱書は号の頭で、ただし書は例外。枝番号は別の条。条文を要件と効果に分けて読む手順は、後の回で扱います。

同じ流れを建物でもう一度——着工の前の確認

建築確認(B=店主が3階建てに建て替え→着工前にA=建築主事等へ計画を申請→確認済証の交付→工事/確認済証の前は工事できない/3階建てはこの2号に当たる) 図:建築確認

  • B=店主が3階建てに建て替え→着工前にA=建築主事等へ計画を申請→確認済証の交付→工事
  • 確認済証の前は工事できない
  • 3階建てはこの2号に当たる

運転で、3段目まで通しました。次は、店の建て替えで、同じ3段をもう一度通します。4段目の罰則と5段目の強制は、そのあと、運転と建物を並べて見ます。1段目の事前のチェックは、建築確認です。建築は財産権の行使として、ある程度は自由です。けれど地震で倒れる建物が建つと、周りの人の命や財産が危ない。そこで建築基準法は、最低の基準を定めています。一定の建築物は、工事に着手する前に、計画がその基準に適合するかの確認を受けなければなりません。条文では、建築基準法と関連する法令の基準をまとめて、建築基準関係規定と呼びます。6条1項です。

条文建築基準法6条1項(柱書第1文・2号)

建築基準法第6条第1項(抜粋) 建築主は、第一号若しくは第二号に掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号又は第二号に規定する規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第三号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事又は建築副主事(以下「建築主事等」という。)の確認(建築副主事の確認にあつては、大規模建築物以外の建築物に係るものに限る。以下この項において同じ。)を受け、確認済証の交付を受けなければならない。 二 前号に掲げる建築物を除くほか、二以上の階数を有し、又は延べ面積が二百平方メートルを超える建築物

Bの3階建ては、どの号に入るんですか。2号です。二以上の階数を有する、に当たります。決め手は、階数が2以上であることです。1号は、特殊建築物で床面積が大きいもの。飲食店も特殊建築物に入りますが、Bの店は、店の部分の床面積が200平方メートル以下なので、1号には入りません。3号は、都市計画区域などの中の建築物を、前の2つを除いて拾います。確認をするのは建築主事等、つまり建築主事と建築副主事で、どちらも自治体に置かれた担当者です。国や知事が指定した民間の機関が確認をする場合もあり、その確認は建築主事の確認とみなされます。Bの事例では、役所の建築主事が確認をする場合で考え、図のAで表します。続けて、8項です。

条文建築基準法6条8項

建築基準法第6条第8項 第一項の確認済証の交付を受けた後でなければ、同項の建築物の建築、大規模の修繕又は大規模の模様替の工事は、することができない。

確認済証を受けるまで、工事はできません。免許で見た段と同じ型です。いったん着工できない状態から出発し、確認を受けて初めて進める。審査は、3階建てのBの場合、申請書の受理から35日以内。適合を確認すれば確認済証が出て、適合しないときは、理由を書いた通知書が出ます。建ててから違反を直させるのでは、周りの住民には、遅すぎます。是正の前に、大地震が来るかもしれません。一度建てた建物を壊すのは、Bにも町にも大きな損失です。だから、工事の前に確認します。ただし、確認は計画の確認で、建築物そのものの確認ではありません。図面どおりに建たなければ、確認を通っていても違反は生じます。一定の小規模な建築には、確認が要らない場合もあります。事前のチェックだけでは、漏れが出る。そこで2段目です。

図面と違う建物には是正命令

確認は計画・命令は建物(確認を受けた図面=柱が十分/実際の建物=柱を減らした→構造耐力の基準に違反→特定行政庁Aが違反を是正するため必要な措置を命ずる) 図:確認は計画・命令は建物

  • 確認を受けた図面=柱が十分
  • 実際の建物=柱を減らした→構造耐力の基準に違反→特定行政庁Aが違反を是正するため必要な措置を命ずる

Bは確認済証をもらったのに、費用を削って、図面より柱を減らしました。構造の強さについての基準に反する建物です。2段目、始めた後の手当てが、9条1項の違反是正命令です。

条文建築基準法9条1項

建築基準法第9条第1項 特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主、当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる。

命じるのは、だれですか。特定行政庁です。建築主事などを置く市町村の区域ではその市町村長、それ以外の区域では都道府県知事です。いま見た9条1項の是正命令を出すのは、確認をする建築主事ではなく、特定行政庁です。どちらも役所の側なので、図では同じAで表しています。命じる相手は、建築主のほか、工事の請負人、現場管理者、建物の所有者や管理者、占有者です。命じる中身は、工事の施工の停止か、相当の猶予期限を付けた、除却つまり取壊し、修繕、使用禁止などの是正措置です。この命令は、免許の取消しと同じく、個別の相手への指図であり、行政が法律にもとづいて相手の義務を一方的に具体的に決める処分です。事前では対応しきれない違反を、事後で是正させる。これが違反是正命令です。

命じる前に、言い分を聴く

命令の前の手続(通知書の交付=命じようとする措置・事由・意見書の提出先と期限/意見書と有利な証拠を提出/通知書を受けた日から3日以内に請求→公開の意見の聴取) 図:命令の前の手続

  • 通知書の交付=命じようとする措置・事由・意見書の提出先と期限
  • 意見書と有利な証拠を提出
  • 通知書を受けた日から3日以内に請求→公開の意見の聴取

3段目は、免許のときと同じ発想です。命じる前に、言い分を聴きます。9条2項から見ましょう。

条文建築基準法9条2項

建築基準法第9条第2項 特定行政庁は、前項の措置を命じようとする場合においては、あらかじめ、その措置を命じようとする者に対して、その命じようとする措置及びその事由並びに意見書の提出先及び提出期限を記載した通知書を交付して、その措置を命じようとする者又はその代理人に意見書及び自己に有利な証拠を提出する機会を与えなければならない。

Aは、命じる前に、命じようとする措置とその事由、意見書の提出先と期限を書いた通知書を渡します。そして、意見書と有利な証拠を出す機会を与えなければなりません。書面ではなく、公開の場で言い分を述べたい人のために、3項があります。

条文建築基準法9条3項

建築基準法第9条第3項 前項の通知書の交付を受けた者は、その交付を受けた日から三日以内に、特定行政庁に対して、意見書の提出に代えて公開による意見の聴取を行うことを請求することができる。

通知書を受けた人は、3日以内なら、意見書の代わりに、公開の意見の聴取を請求できます。請求があったときの扱いが、4項です。

条文建築基準法9条4項

建築基準法第9条第4項 特定行政庁は、前項の規定による意見の聴取の請求があつた場合においては、第一項の措置を命じようとする者又はその代理人の出頭を求めて、公開による意見の聴取を行わなければならない。

請求があれば、Aは出頭を求めて、公開で意見の聴取を行わなければなりません。聴取では、証人を出席させて、自己に有利な証拠を出すこともできます。これは6項です。流れを整理すると、通知書、意見書、または3日以内の請求で公開の意見の聴取、という順です。9条のうち、3項から10項は、行政手続法の特則です。15項を見ましょう。

条文建築基準法9条15項

建築基準法第9条第15項 第一項、第七項又は第十項の規定による命令については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第三章(第十二条及び第十四条を除く。)の規定は、適用しない。

9条1項の命令には、行政手続法の第3章は適用されません。ただし12条と14条の規定は、引き続き適用されます。道路交通法の113条の2と同じ型です。なお、緊急の場合に手続を省く例外もありますが、ここでは、例外もある、というところまでにします。

従わなければ罰則——それでも動かなければ

罰則は命令・禁止を後ろから支える(無免許運転=3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金/是正命令違反=3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金/確認を受けずに着工=1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金) 図:罰則は命令・禁止を後ろから支える

  • 無免許運転=3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
  • 是正命令違反=3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金
  • 確認を受けずに着工=1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金

4段目は、罰則です。命令や禁止に従わない人に、刑罰を予告して、守らせます。罰則は、命令や禁止を、後ろから支えます。ここで見るのはこの型で、刑の重さの数字は、条文から拾います。まず運転から。免許を取り消された後も、Bが配達で運転を続けたら、無免許運転です。

条文道路交通法117条の2の2第1項1号(柱書・1号)

道路交通法の無免許運転の罰則 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。 一 法令の規定による運転の免許を受けている者(第百七条の二の規定により国際運転免許証等で自動車等を運転することができることとされている者を含む。)でなければ運転し、又は操縦することができないこととされている車両等を当該免許を受けないで(法令の規定により当該免許の効力が停止されている場合を含む。)又は国際運転免許証等を所持しないで(第八十八条第一項第二号から第四号までのいずれかに該当している場合又は本邦に上陸をした日から起算して滞在期間が一年を超えている場合を含む。)運転した者

免許を受けないで運転した者は、3年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金です。取消しの後の運転は、免許を受けないでの運転にあたり、停止されている間の運転も、かっこ書きで含まれています。建物のほうは、9条1項の命令に違反した場合の罰則が、98条1項にあります。

条文建築基準法98条1項(柱書・1号)

建築基準法第98条第1項(抜粋) 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。 一 第九条第一項又は第十項前段(これらの規定を第八十八条第一項から第三項まで又は第九十条第三項において準用する場合を含む。)の規定による特定行政庁又は建築監視員の命令に違反した者

9条1項の命令に違反した者は、3年以下の拘禁刑、または300万円以下の罰金です。事前の確認を怠った場合には、99条1項があります。

条文建築基準法99条1項(柱書・1号・2号)

建築基準法第99条第1項(抜粋) 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。 一 第六条第一項(第八十七条第一項、第八十七条の四又は第八十八条第一項若しくは第二項において準用する場合を含む。)、第七条の六第一項(第八十七条の四又は第八十八条第二項において準用する場合を含む。)又は第六十八条の十九第二項(第八十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者 二 第六条第八項(第八十七条の四又は第八十八条第一項若しくは第二項において準用する場合を含む。)又は第七条の三第六項(第八十七条の四又は第八十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定に違反した場合における当該建築物、工作物又は建築設備の工事施工者

1号は、6条1項に違反した者、つまり確認を受けずに着工した者です。2号の対象は、工事施工者です。6条8項に違反して、確認済証が出る前に工事をした場合です。どちらも刑は1年以下の拘禁刑か、100万円以下の罰金です。罰則があれば、柱の足りない建物は直るんですか。直りません。罰金を払っても、拘禁刑を科しても、柱の足りない建物は、そこに建ったままです。罰則は、やめさせることを保証しません。ここで1問です。隣のCは、柱の足りない建物を、自分の手で壊せるでしょうか? 役所のAは、どうでしょう。Cは壊せず、Aは法律の根拠があれば自分で実現できます。その理由こそ今日の山場ですので、まず、Aが自分で実現する仕組みから見ます。5段目、9条12項です。

行政代執行(Bが9条1項の命令を履行しない・十分でない・期限までに完了する見込みがない→Aが行政代執行法の定めに従い自ら行為をする又は第三者にさせる/費用は義務者から徴収) 図:行政代執行

  • Bが9条1項の命令を履行しない・十分でない・期限までに完了する見込みがない→Aが行政代執行法の定めに従い自ら行為をする又は第三者にさせる
  • 費用は義務者から徴収

条文建築基準法9条12項

建築基準法第9条第12項 特定行政庁は、第一項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、みずから義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。

命じられた者が、措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、履行しても期限までに完了する見込みがないとき。このどれかに当たれば、行政代執行法の定める手続に従って、Aは、みずから義務者のなすべき行為をし、または第三者にさせることができます。Bの建物なら、Aが自分で、あるいは業者に頼んで、補強や取壊しを行います。これが行政代執行です。相手が果たさない義務を、行政が自分の手で実現する仕組みを、まとめて行政上の強制執行といい、行政代執行はその一種です。

条文行政代執行法1条

行政代執行法第1条 行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。

行政代執行法は、行政上の義務を相手が果たさないとき、それを確保する仕組みの一般法です。代執行には、この法律が定める要件と手続があり、かかった費用は義務者から取ります。建築基準法9条12項は、このうち要件をゆるめた特別の定めです。一般の代執行では、ほかの手段では実現が難しいことと、放っておくと公益を大きく害することも、求められます。9条12項は、この二つを求めません。命令を履行しないなど三つの場合のどれかに当たれば足ります。ただし、他人が代わりにできる行為に限る点は、ゆるみません。Bの事例では、手続と費用の取り方は、行政代執行法に従います。中身は、後の回で扱います。

免許を失った人に運転をやめさせる場面には、代執行の定めがありません。免許を失った人が負うのは、運転しないという義務です。これは何かをする義務ではなく、しない義務なので、だれかが代わりに行う行為がそもそもありません。代執行が使えるのは、他人が代わりにできる、何かをする義務に限られます。運転をやめさせる役目は、罰則が間接的に支えます。

同じ5段を2つの法律で(1.始める前=84条の運転免許と6条の建築確認/2.始めた後=103条の取消し・停止と9条1項の是正命令/3.言い分=104条の意見の聴取と9条2項から4項/4.罰則=117条の2の2と98条・99条/5.強制=運転免許は定めなし・建築は9条12項の代執行) 図:同じ5段を2つの法律で

  • 1.始める前=84条の運転免許と6条の建築確認
  • 2.始めた後=103条の取消し・停止と9条1項の是正命令
  • 3.言い分=104条の意見の聴取と9条2項から4項
  • 4.罰則=117条の2の2と98条・99条
  • 5.強制=運転免許は定めなし・建築は9条12項の代執行

5段を、2つの法律で並べます。事前のチェックは、免許と建築確認。始めた後の処分は、取消しや停止と、是正命令。言い分を聴く手続は、意見の聴取と、通知書や意見書、それに公開の意見の聴取。罰則は、無免許運転と命令違反。最後の強制は、運転側は定めがなく、建築側に代執行です。道具は同じなのに、5段目だけ、運転の側は定めがないんです。それには、理由がありました。代わりにできる行為かどうかです。個別の法律ごとに、道具のどこが使えるかは変わります。だから、型を見抜いたうえで、個別の条文で確かめるのです。

なぜ行政は自分で強制できるのか

強制の2つの道筋(A=行政/B=建築主/C=隣の住民/Cの道筋=求める→訴える→裁判所の手で強制/Aの道筋=是正命令→言い分を聴く→自ら実現) 図:強制の2つの道筋

  • A=行政
  • B=建築主
  • C=隣の住民
  • Cの道筋=求める→訴える→裁判所の手で強制
  • Aの道筋=是正命令→言い分を聴く→自ら実現

山場です。まず原則から。私人は、たとえ自分の権利であっても、自分の力で実現してはならない。これを、自力救済の禁止といいます。図は、前回の三面関係と同じ配置です。Cが柱の足りない建物を直させたければ、裁判所に訴え、判決を得て、強制執行の手続を通すしかありません。強制執行は、裁判所の関与のもとで行われます。自分で壊せば、かえってCが、Bから損害賠償を請求される側になりかねません。自分の権利なのに、どうして自分の手ではいけないんですか。各自が自分の手で実現してよいことにすると、権利が本当にあるのかを、だれも確かめないまま、力の強い者の言い分がとおってしまうからです。そこで、中立の裁判所が権利を確かめてから、裁判所の手続で実現する。この順番を守らせるのが、自力救済の禁止です。

自力救済の禁止は、条文には、はっきりとは書かれていません。判例が、原則を示しています。

判例最判昭40・12・7 民集19巻9号2101頁

私力の行使が許される、例外の条件 私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によつたのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない。

判決のいう私力の行使が、自力救済です。原則は禁止です。例外が許されるのは、法律の手続では現状の維持が不可能か著しく困難な、緊急やむを得ない特別の事情があり、必要の限度を超えない場合だけです。事案は、敷地に所有者が板囲いを設けたのを、仮店舗の所有者が実力で撤去したもので、限界を超えると判断されました。ここで注意です。この判決が述べているのは、私人どうしの自力救済の限界です。行政が自分で実現してよい根拠ではありません。

行政に強制が許される理由(行政上の強制執行=自力救済禁止の例外/理由1=行政上の義務は公益にかかわる→確実な履行の確保が必要/理由2=行政機関は国家機関として法の執行を担う/ただし法律の根拠が要る=建築基準法9条12項と行政代執行法) 図:行政に強制が許される理由

  • 行政上の強制執行=自力救済禁止の例外
  • 理由1=行政上の義務は公益にかかわる→確実な履行の確保が必要
  • 理由2=行政機関は国家機関として法の執行を担う
  • ただし法律の根拠が要る=建築基準法9条12項と行政代執行法

行政上の強制執行は、自力救済禁止の例外です。行政は、法律の根拠があれば、裁判所を通さずに、自ら義務の実現を図れる場合があります。理由は2点です。1つ目は、行政上の義務は公益にかかわるため、円滑で確実な履行の確保が必要なこと。2つ目は、行政機関は、私人と違って、国家機関として法の執行を担っていることです。柱の足りない建物が倒れて危ないのは、隣のCだけではなく、前の道を通る町の人たちもです。Bひとりの都合に任せておけない義務なので、確実に直させる必要があります。これが1つ目です。そしてAは、自分の得のために動く私人ではなく、建築基準法を執行する役目を、法律で任された機関です。これが2つ目です。

私人に自分の手での実現を禁じたのは、権利が本当にあるのかを、だれも確かめないまま力が使われるからでした。行政の場合、Bが負う義務の中身は、Aが好きに決めたものではありません。建築基準法が定めた基準にもとづき、Bに言い分を述べる機会を与えたうえでの命令によって、具体的に決まっています。緊急の場合の例外は別です。その法律を実現する役目を任されたAが、法律の決めた手順で実現する。だから法律は、裁判所を通さない道を、行政に用意しているのです。行政でも、何でも自分で強制できるわけではありません。法律の根拠が要ります。今日の例では、建築基準法9条12項と、行政代執行法です。戦前は、行政が広く自分で執行できましたが、その反省から、いまは法律で厳しく絞られています。

私人の道筋と行政の道筋(最初の一手=Cは求めても義務は生まれない/Aは命令で義務が生まれる、命令前の手続=Cは定めなし/Aは言い分を聴く、応じないとき=Cは訴えて判決/Aは9条12項で自ら実現、強制するのは=裁判所の関与の下/行政自身、理由=自力救済禁止/例外) 図:私人の道筋と行政の道筋

  • 最初の一手=Cは求めても義務は生まれない/Aは命令で義務が生まれる
  • 命令前の手続=Cは定めなし/Aは言い分を聴く
  • 応じないとき=Cは訴えて判決/Aは9条12項で自ら実現
  • 強制するのは=裁判所の関与の下/行政自身
  • 理由=自力救済禁止/例外

2つの道筋を並べます。Cが「直して」と求めても、Bに法的な義務は生まれません。応じなければ、裁判所に訴えて判決を得て、裁判所の関与のもとでの強制執行です。Aは違います。是正命令で、Bに義務が一方的に生まれ、応じなければ、9条12項で、裁判所を通さずに自分で実現します。だからこそ、手前に歯止めが積まれています。言い分を聴く手続と、法律の根拠、そして要件、つまり、命令を履行しないときなど、法律が決めた強制してよい場合の条件です。裁判所を通さない強い力だから、手前に手続を置く。5段が1本につながっている理由は、ここにあります。自力救済禁止とその例外の理由は、論文でも、行政の強制を論じるときの背景になりえます。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(5段=事前のチェック→処分・命令→言い分を聴く手続→罰則→行政自身による強制/事前規制の理由=事後では間に合わない/免許=一律に禁止し個別に解除/最後の強制=自力救済禁止の例外・理由2点・法律の根拠) 図:今日のまとめ

  • 5段=事前のチェック→処分・命令→言い分を聴く手続→罰則→行政自身による強制
  • 事前規制の理由=事後では間に合わない
  • 免許=一律に禁止し個別に解除
  • 最後の強制=自力救済禁止の例外・理由2点・法律の根拠

最初の1問に戻ります。行政は、始める前から最後の強制まで、どう関わるのか。事前のチェック、命令、言い分を聴く手続、罰則、行政自身による強制の、5段が1本につながっている、でした。免許は、いったん一律に禁止して、試験に受かった人にだけ個別に解除する仕組みでした。事故の後の賠償や刑罰は、命を戻せない。だから、取り返しのつかない被害が出うる活動には、事前のチェックが置かれます。事前のチェックだけでは、漏れが出ます。違反が出たら、取消しや是正命令で正し、その前には、相手の言い分を聴く。従わなければ罰則が後ろから支え、それでも動かないとき、行政は法律の根拠にもとづいて、自分の手で実現できます。

行政にそれが認められるのは、公益にかかわる義務を確実に実現する必要があり、行政は法の執行を担う機関だからです。ただし、法律の根拠が要ります。運転と建物で道具の並びは同じでも、条文の細部は個別法ごとに違います。この道具を、後の回で、1つずつ詳しく見ていきます。

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#4単独ページ動画

行政の観念と分類(控除説・侵害行政と給付行政)

第1章 行政法の基礎 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ役場が、取り上げ、そして与える

町役場Aの1日(税の通知をBに出す/Bの店の建て替えを図面でチェック/病気で働けなくなったCの生活を支える/町の道路と図書館を維持する/Bの段差解消の工事費の一部を出す) 図:町役場Aの1日

  • 税の通知をBに出す
  • Bの店の建て替えを図面でチェック
  • 病気で働けなくなったCの生活を支える
  • 町の道路と図書館を維持する
  • Bの段差解消の工事費の一部を出す

山あいの町の役場、Aの1日を並べます。朝いちばんに、駅前の喫茶店の店主Bへ、税の通知を出します。昼には、Bの店の建て替えの図面をチェックして、基準に合わなければ、工事を止めます。午後は、病気で働けなくなった住民Cの生活を、支える手続をします。町の道路と図書館も、毎日、維持しています。夕方には、Bが店の入口の段差をなくす工事をするので、その費用の一部を出します。取り立てたり、止めたり、支えたり、お金を出したり。同じ役場なのに、ずいぶん違うことをしています。この5つは、どれも行政です。ここで問題です。では、行政とは何でしょうか。

仕事の例を並べることはできます。けれど、それは例であって、定義ではありません。学者の多くが支持する答え、つまり通説は、立法でも司法でもないもの、です。それだけですか。それだけです。行政法という科目の主役なのに、通説の定義は、引き算です。今日の1問は、行政とは何か、そして、ばらばらな行政をどう整理するか、です。答えを先に言います。通説では、行政の定義は引き算で、これを控除説と言います。ただ、引き算では中身が見えないので、中身で分けます。国民の権利や自由を制限する侵害行政と、便益を与える給付行政の2つです。

この仕分けを、今日の軸にします。

国の働きは、3つに分けられている

国の働きの割り振り(国の作用→立法=国会〔41条〕/行政=内閣〔65条〕/司法=裁判所〔76条1項〕) 図:国の働きの割り振り

  • 国の作用→立法=国会〔41条〕
  • 行政=内閣〔65条〕
  • 司法=裁判所〔76条1項〕

定義の話に入る前に、憲法を確認します。憲法は、国の働きを3つに分けて、3つの機関に割り振っています。まず41条です。

条文日本国憲法41条

日本国憲法第41条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

法律を作る働きを、国会が担います。唯一の立法機関とあるので、法律を作る働きは、国会に集められています。次に65条です。

条文日本国憲法65条

日本国憲法第65条 行政権は、内閣に属する。

本当に、これだけです。行政権が何かは、書いていません。この空白が、今日の最初の問いにつながります。3つ目は、76条1項です。

条文日本国憲法76条1項

日本国憲法第76条第1項 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

司法は、法律上の争いに法を当てはめて、解決する働きです。これを担うのが裁判所です。立法は国会、行政は内閣、司法は裁判所。この割り振りの考え方を権力分立と言い、三権分立とほぼ同じ意味で理解されます。力を分けて、互いに歯止めにする仕組みです。税の通知も、建築のチェックも、生活の支えも、法律を作る働きではなく、裁判でもありません。立法でも司法でもない、行政という種類の働きです。注意が1つあります。町は、内閣そのものではありません。地方公共団体の位置づけは、別の回で見ます。今日は、行政という種類の働きの話に絞ります。

今日の地図(1.国の働きを3つに分ける/2.行政の定義は引き算=控除説と積極説/3.引き算では足りない/4.侵害行政と給付行政/5.なぜ2つの型が生まれたか/6.きれいに分かれないもの/7.それでも区別が効く場面/8.給付行政の2つの型) 図:今日の地図

  • 1.国の働きを3つに分ける
  • 2.行政の定義は引き算=控除説と積極説
  • 3.引き算では足りない
  • 4.侵害行政と給付行政
  • 5.なぜ2つの型が生まれたか
  • 6.きれいに分かれないもの
  • 7.それでも区別が効く場面
  • 8.給付行政の2つの型

ここで、今日の道筋を1枚にします。今が1番目です。次に行政の定義、引き算では足りないこと、侵害行政と給付行政、2つの型が生まれた背景、きれいに分かれないもの、区別が効く場面、そして給付行政の2つの型です。

行政の定義は、引き算

引き算の図(国家の作用全体 − 立法作用 − 司法作用 = 行政〔強調〕) 図:引き算の図(国家の作用全体 − 立法作用 − 司法作用 = 行政〔強調〕)

65条は、行政権の中身を書いていません。その中身について、通説は控除説です。控除は、引き算のことです。国家の作用、つまり、国の働きの全体から、立法作用と司法作用を除いた、残りの作用。これが行政です。消極説とも呼びます。引き算の定義になった理由は2つあり、1つ目は歴史です。憲法の回で見たとおり、国を動かす権限は、もともと君主が丸ごと握っていました。そこから先に立法が、次に司法が切り出され、最後に残ったのが行政です。引き算の順番が、歴史そのものでした。2つ目は、行政の中身が多種多様で、引き算ならまとめて捉えられることです。今日の町役場の1日が、まさにそうです。税を取る仕事と、お金を出す仕事は、向きが逆です。この両方に当てはまる共通の特徴を、一言で言うのは難しいですよね。

たしかに、一言ではまとめられないです。正面から定義しようとした人は、いないんですか。います。積極説です。行政の中身を、言葉で正面から定義しようとする立場で、田中二郎が唱えた定義が有名です。

控除説と積極説(控除説=国家作用から立法と司法を除いた残り〔消極説〕・通説/積極説=行政の中身を正面から定義〔田中二郎〕:法の下で法の規制を受ける・現実具体的・国家目的の積極的実現をめざす・全体として統一性・継続的・形成的な国家活動) 図:控除説と積極説

  • 控除説=国家作用から立法と司法を除いた残り〔消極説〕・通説
  • 積極説=行政の中身を正面から定義〔田中二郎〕:法の下で法の規制を受ける・現実具体的・国家目的の積極的実現をめざす・全体として統一性・継続的・形成的な国家活動

要素を拾うと、法の下にあって法の規制を受ける。現実に具体的に行われる。国家の目的を積極的に実現しようとする。全体として統一性がある。継続的で、形成的な国家活動。こうやって、いくつもの特徴を重ねて、行政を正面から描こうとしました。暗記は要りません。積極説という立場があり、行政に特徴を重ねて定義しようとした、と押さえれば足ります。ただ、行政の仕事は幅が広すぎて、全部に共通する特徴を言い切ることができません。それなら、立法と司法を除いた残り、と定めるほうが確かです。だから控除説が通説です。正面からの定義が誤りだ、というのではありません。書き切れないので、引き算で足りる、という位置づけです。定義の優劣を競う話ではありません。

引き算の定義では足りない

引き算の定義の限界(残り全部=性質の違う活動がひとまとめ/行政法の範囲も特色もこの定義からは見えない→控除説で外側の線を引き、中身で分類する) 図:引き算の定義の限界

  • 残り全部=性質の違う活動がひとまとめ
  • 行政法の範囲も特色もこの定義からは見えない→控除説で外側の線を引き、中身で分類する

引き算の定義は、外側の線を引くには足ります。ただ、残り全部なので、性質の違う活動が、ひとまとめになります。税を取る仕事も、生活を支える仕事も、同じ行政です。しかも引き算は、行政が何でないかを言うだけで、行政が何であるかは言っていません。中身を言わない定義は、中身についての手がかりをくれません。税を取る仕事と、生活を支える仕事とで、必要なルールは同じなのか、違うのか。行政法がどこまでを扱うのかも、行政法にどんな特色があるのかも、この定義からは見えてこないのです。引き算の定義が無意味だ、というのではありません。行政法の守備範囲を画する道具にはならない、という意味です。そこで大事になるのが、行政の活動がどんな働きをしていて、どんな理由で正当化されるのかを考えることです。控除説で、行政の外側の線をざっと引いたうえで、中身で分類する。その代表が、これから見る侵害行政と給付行政の区別です。

侵害行政と給付行政

侵害行政と給付行政の比較(侵害行政〔規制行政〕=権利・自由を制限する。取る、止める、縛る向き。典型=課税、建築規制、交通規制、営業規制。町役場の例=税の通知、建築のチェック/給付行政=便益を提供する。与える、支える向き。典型=生活保護、補助金、道路・公園・学校。町役場の例=生活の支え、道路と図書館、補助) 図:侵害行政と給付行政の比較

  • 侵害行政〔規制行政〕=権利・自由を制限する。取る、止める、縛る向き。典型=課税、建築規制、交通規制、営業規制。町役場の例=税の通知、建築のチェック
  • 給付行政=便益を提供する。与える、支える向き。典型=生活保護、補助金、道路・公園・学校。町役場の例=生活の支え、道路と図書館、補助

まず侵害行政です。国民の権利や自由を制限する行政をいいます。規制行政とも呼ばれます。これまでの回で見てきた規制の手法は、この型に入ります。典型は、課税、建築規制、交通規制、営業規制です。課税は、財源をつくる行為でもあります。ただ、国民の財産を取り上げるので、権利の制限として、侵害行政の典型に入ります。次に給付行政です。国民に、金銭、物、サービス、施設という便益を提供する行政をいいます。典型は、生活保護、補助金、道路や公園や学校です。町の図書館も、同じ型です。物差しは、国民の権利や自由を制限する側なのか、便益を提供する側なのか、です。侵害行政は取る・止める・縛る向き、給付行政は与える・支える向きです。実際に分けてみましょう。町役場の1日の5つを、侵害か給付かに仕分けてください。税の通知、建築の図面のチェック、Cの生活の支え、道路と図書館の維持、段差解消の工事費の補助です。

分け方は合っています。税の通知と建築のチェックは侵害行政で、生活の支え、道路と図書館、補助は給付行政です。ただ、最後の補助は、条件が付くと話が変わります。この点はあとで見ます。

なぜ2つの型が生まれたのか

夜警国家から給付国家へ(19世紀=自由放任・国家の役割は小さい・秩序の維持〔警察作用〕・法は国家権力を縛る→侵害行政に関心/市場の失敗〔貧困・格差〕/20世紀=経済政策・社会政策・便益の提供→給付行政/憲法の跡=29条2項・25〜28条) 図:夜警国家から給付国家へ

  • 19世紀=自由放任・国家の役割は小さい・秩序の維持〔警察作用〕・法は国家権力を縛る→侵害行政に関心
  • 市場の失敗〔貧困・格差〕
  • 20世紀=経済政策・社会政策・便益の提供→給付行政
  • 憲法の跡=29条2項・25〜28条

そもそも、どうしてこの2つの型が出てきたんですか。国家の役割が変わったからです。19世紀、市民革命の後の近代国家では、経済は市場に任せるのがよい、と考えられました。自由放任です。国家の役割は、小さいほどよい。国家の仕事は、公共の秩序の維持にとどまる。夜回りだけをする番人にたとえて、これを夜警国家と呼びます。ここでいう秩序の維持は、警察署の仕事に限りません。公共の秩序を維持する作用一般を、理論の上では警察作用と呼びます。この時代、法律の役割は、国家権力を縛ることでした。だから行政法の関心も、侵害行政に集まりました。20世紀に入ると、資本主義の限界が見えてきます。市場に任せるだけでは解決しない貧困や格差が出てきた。これを市場の失敗と言います。たとえば、病気で働けなくなったCは、市場の中では、収入を得る手立てがありません。

そこで国家は、市場に手を入れる経済政策と、弱い立場の人を守る社会政策を行うようになります。これを給付国家と呼び、福祉国家や社会国家とも言います。道路、公園、橋、学校など、便益の提供にまで、国家の役割が及びます。これが給付行政です。憲法にも、その跡があります。まず、29条2項です。

条文日本国憲法29条2項

日本国憲法第29条第2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

かつて、財産権は絶対に不可侵のものとされました。それが、内容は公共の福祉に適合するよう法律で定める、と書かれた。財産権の制限が、正面から認められたわけです。これがなぜ、国家の役割が変わった跡なのか。夜警国家は、秩序を守るほかは、財産の使い方に口を出さないのが建前でした。役割が広がった国家は、与えるだけではありません。市場に手を入れる経済政策では、財産の使い方に、法律で縛りをかけます。与える仕事と一緒に、縛る仕事も広がったのです。29条2項は、縛る側が広がった跡です。憲法の跡の2つ目は、与える側が広がった跡で、社会権です。国に対して、人間らしい生活の支えを求める権利で、弱い立場の人を守る社会政策の土台になります。25条を見ます。

条文日本国憲法25条1項

日本国憲法第25条第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

条文日本国憲法25条2項

日本国憲法第25条第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

25条は生存権です。ほかの社会権も、条名と中身の一言だけ押さえましょう。26条は教育を受ける権利、27条は勤労の権利と義務、28条は団結権などの労働基本権です。日本国憲法は、この意味で20世紀型の憲法と言えます。憲法が、特定の給付を行政に直接命じている、とまでは言えません。25条2項が国に課しているのは、努める責務です。権利を具体的な制度にするのは、法律です。憲法に給付国家の跡がある、までにとどめます。もう1つ、補足します。行政法の関心が侵害行政に偏っていたのは、給付はもらえてありがたいもので、法で縛る必要が感じにくかったから、とも言われます。給付が増えると、その見方が崩れました。この点は、あとでもう一度出てきます。

きれいに分かれないもの

きれいに分かれない2つの類型(義務つき補助金=給付なのに受ける側に義務が付く〔町の例:一定期間は店を続ける・目的外に使わない・実績を報告する〕/誘導行政=経済的な得で行動を導く〔仮の例:省エネ型に買い替えた店は税を軽くする〕) 図:きれいに分かれない2つの類型

  • 義務つき補助金=給付なのに受ける側に義務が付く〔町の例:一定期間は店を続ける・目的外に使わない・実績を報告する〕
  • 誘導行政=経済的な得で行動を導く〔仮の例:省エネ型に買い替えた店は税を軽くする〕

現代の行政は、侵害と給付が混ざり合います。区別を徹底するのは難しい。それでも、行政の基本的な特徴の違いを意識することはできます。混ざる例を2つ見ます。1つ目は、義務つき補助金です。Bの段差解消の補助に、一定期間は店を続けること、目的外には使わないこと、実績を報告することという条件が付いたとします。給付であり、同時に縛りでもあります。条件にも歯止めがあります。国の補助金の場合、補助金等適正化法7条4項が、条件は公正でなければならないと定めています。

条文補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律7条4項

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第7条第4項 補助金等の交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、いやしくも補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない。

条件が補助の目的を達成するために必要な限度を超えて、不当に干渉するものであってはいけません。町が独自の財源で出すBへの補助は、この法律の対象ではありませんが、給付に条件が付くと、その条件にも歯止めが要る、という例として見てください。条件に違反したときに交付決定を取り消せる場合があることも、同じ法律の17条1項が定めています。取消しの中身は、後の回で扱います。2つ目は、誘導行政です。税の軽減や融資など、経済的な得で、人の行動をある方向へ導く手法です。仮の仕組みとして、省エネ型の機器に買い替えた店は、税を軽くする、という制度があるとします。命令も強制もしません。得になるから、自分で選ぶ。

買い替えない店も、この仮の仕組みでは、税が上がるわけではありません。得をする機会を使わなかっただけです。だから、権利を制限する侵害行政とも、便益を与える給付行政とも、型どおりには言いにくい。区別が難しいのは、こうした手法があるからです。暗記は2つです。義務つき補助金は、給付だが縛りがある。誘導行政は、経済的な得で行動を導く。

それでも区別が効く場面

区別が効く場面(問い=行政が動くのに法律の根拠はどこまで要るか/侵害行政=法律の根拠が要る点に争いなし/給付行政=考え方が分かれる〔この議論=法律の留保〕) 図:区別が効く場面

  • 問い=行政が動くのに法律の根拠はどこまで要るか
  • 侵害行政=法律の根拠が要る点に争いなし
  • 給付行政=考え方が分かれる〔この議論=法律の留保〕

ここで前回の復習を1問。行政が、自分の手で義務を実現する強制には、何が要るとされていたでしょう?法律の根拠です。行政代執行法などでした。そうでした。強制は、行政が力で、相手の権利や自由を制限する場面です。権利を制限する行政には、法律の根拠が要る。この線が、今日の区別とつながります。区別が効くのは、行政が動くのに、法律の根拠がどこまで要るのかを考えるときです。まず侵害行政です。Bに税をかけたり、Bの工事を止めたり、権利や自由を制限する行政に、法律の根拠が要る点は、どの立場でも争いがありません。権利や自由を取り上げられる側から見れば、国会が法律で認めた場合に限る、という歯止めが無いと、行政の判断ひとつで奪われてしまうからです。

前回の強制と同じ線ですね。では、与える側はどうなんですか。そこが問いです。与える行政は、権利を取り上げるわけではありません。だから、同じ歯止めがそのまま要るのかが問われます。町が、法律の定めなしに、Bへ補助を出してよいのか。ここで、考え方が分かれます。この議論を、法律の留保と呼びます。各説の中身は、後の回で扱います。今日は、問いの形までです。ここは論文で論点になりうる、とだけ覚えておいてください。もう1つ、問いを置きます。Bには補助が出て、隣の店Eは断られたとします。この配り方は、誰が、何に基づいて決めたのでしょうか。次に、給付行政の中身を見て、この問いに近づきます。

給付行政の2つの型

法律に基づく給付=Cの生活保護(憲法25条の理念→生活保護法/C→A〔町の福祉事務所に申請〕→A〔町長が要否・種類・程度・方法を決定〕→C〔書面で通知〕)

給付行政には、2つの型があります。法律に基づく給付と、法律に基づかない給付です。まず、法律に基づく給付から。Cの生活保護です。憲法25条の理念を受けて、生活保護法が制度にしました。1条を見ます。

条文生活保護法1条

生活保護法第1条 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

困窮の程度に応じて、必要な保護を行います。最低限度の生活を保障するだけでなく、自立を助長する、つまり自分の力で暮らせるよう助けることも目的に入っています。

生活保護法の条文(2条=要件を満たす限り無差別平等に受けられる/3条=健康で文化的な生活水準を維持できるもの/4条1項=補足性:利用し得る資産・能力その他あらゆるものを最低限度の生活の維持のために活用することが要件/25条1項=急迫のときは職権で決定し保護を開始) 図:生活保護法の条文

  • 2条=要件を満たす限り無差別平等に受けられる
  • 3条=健康で文化的な生活水準を維持できるもの
  • 4条1項=補足性:利用し得る資産・能力その他あらゆるものを最低限度の生活の維持のために活用することが要件
  • 25条1項=急迫のときは職権で決定し保護を開始

関連する条文を、3つ続けて見ます。2条は、要件を満たす限り、無差別平等に保護を受けられる、という定めです。受ける人の側の、権利の面が表れています。3条は、保障される生活が、健康で文化的な水準でなければならない、という定め。4条1項は補足性で、利用できる資産や能力を、まず生活の維持に活用することが、保護の要件になります。Cが保護を受けるには、どう進むんですか。7条です。

条文生活保護法7条

生活保護法第7条 保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる。

保護は、申請に基づいて始まります。要保護者は、保護を必要とする人のことです。ただし、急迫した状況のときは、申請がなくても必要な保護ができます。25条1項も、急迫のときは、職権で、つまり申請を待たずに行政の側から、決定して保護を開始する、と定めています。申請を受けて、決めるのはだれですか。19条1項です。

条文生活保護法19条1項

生活保護法第19条第1項(柱書・1号) 都道府県知事、市長及び社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に規定する福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という。)を管理する町村長は、次に掲げる者に対して、この法律の定めるところにより、保護を決定し、かつ、実施しなければならない。 一 その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者

福祉事務所は、生活保護などの福祉の事務を担当する、役所の組織です。保護を決めて実施するのは、都道府県知事、市長、そして福祉事務所を管理する町村長です。1号は、その福祉事務所の区域に居住地がある要保護者です。居住地がないか明らかでない人は、2号で、現在地がある場合が対象になります。Cの町は、福祉事務所を置いているので、決めるのは町長です。福祉事務所を置かない町村では、都道府県知事が決めることになります。決める内容は、どう伝えられるんですか。24条です。保護の開始を申請する人は、申請書を、保護を決めて実施する機関、つまり実施機関に出します。これが1項です。そのあとの流れが、3項です。

条文生活保護法24条3項

生活保護法第24条第3項 保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつて、これを通知しなければならない。

実施機関は、要否、種類、程度、方法の4つを決定して、書面で通知します。Cが申請書を出し、町長が決定し、書面で知らせる。法律の条文に沿って、申請から通知まで進みます。ここで特に重く問われるのは、法律がどこまで細かく定めているかと、受ける人の権利がどう守られるかです。憲法上の権利を、法律が制度にしたものだからです。

法律に基づかない給付=町の段差解消の補助(個別の根拠法なし/予算と要綱で配る/目的=段差のない店を増やす〔政策目標〕/それでも法の規律はある:自治体=地方自治法232条の2・国=補助金等適正化法の共通の手続と統制)

法律に基づかない給付の例が、Bの段差解消の補助です。町が、予算の範囲で、要綱に従って配ります。要綱は、行政が自分で決めた配り方のルール、つまり行政の内部の基準です。この補助を定めた個別の法律は、ありません。目的は、政策目標の実現です。段差のない店を増やす。生活保護のように、憲法上の権利を実現する制度ではありません。補助は、行政が思うままに配ってよいものではありません。法律に基づかない、というのは、その補助制度を定めた個別の法律が無い、という意味です。法の規律が何も無い、という意味ではありません。まず自治体の側から、地方自治法232条の2です。

条文地方自治法232条の2

地方自治法第232条の2 普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。

公益上必要がある場合に、補助ができる。補助できる場面を一般的に認める定めであると同時に、公益上の必要という歯止めでもあります。補助に使える予算の枠も、町役場だけでは決められず、町の議会の議決で決まります。地方自治法96条1項2号です。国の補助金は、少し構造が違います。個別の法律に基づく法律補助と、法律の根拠なく、予算だけで出す予算補助があります。後者が、法律に基づかない給付です。どちらにも、補助金等適正化法が、申請、決定、条件、取消し、返還などの、共通の手続と統制を定めています。統制は、使い方が正しいかを確かめて、外れていれば正す仕組みのことです。

条文補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律1条

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第1条 この法律は、補助金等の交付の申請、決定等に関する事項その他補助金等に係る予算の執行に関する基本的事項を規定することにより、補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止その他補助金等に係る予算の執行並びに補助金等の交付の決定の適正化を図ることを目的とする。

対象を決めている、2条1項を見ます。

条文補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律2条1項

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第2条第1項 この法律において「補助金等」とは、国が国以外の者に対して交付する次に掲げるものをいう。

適正化法が対象にするのは、国が国以外の者に交付する補助金等です。だから、町が独自の財源で出す段差補助には、適正化法は適用されません。町の補助は、地方自治法232条の2と、町の予算と、要綱など町が自分で定める決まりの世界です。それに、この適正化法は、補助の手続と統制の法律です。補助を出す権限や対象を定める法律ではありません。まとめると、個別の根拠法が無いまま、予算と要綱で配る補助金がある。だからといって、行政の自由に任せきりでよいわけではない。国の補助金には共通の手続と統制の法律があり、自治体には補助の一般的な定めがある。この3点です。

なぜ給付行政にも法の統制が問われるのか(1.もとは税金=行政の自由にしてはならない/2.配り方が不公平なら異議を述べる道が要る〔Bには出てEには出ない〕/3.そもそも行政がやるべきことか〔民間に任せてよいか〕) 図:なぜ給付行政にも法の統制が問われるのか

  • 1.もとは税金=行政の自由にしてはならない
  • 2.配り方が不公平なら異議を述べる道が要る〔Bには出てEには出ない〕
  • 3.そもそも行政がやるべきことか〔民間に任せてよいか〕

配り方を決めたのは町です。物差しは、町が自分で作った要綱の基準と、議会が決めた予算の枠でした。この補助の配り方を定めた個別の法律は、ありません。給付にも法の統制が問われる理由は、3つあります。1つ目は、給付の元手が税金だからです。行政の自由に、してはいけません。2つ目は、配り方が不公平なら、異議を述べる道が要ることです。Bには出て、Eには出ない。それが筋の通らない配り方なら、争う道が要ります。3つ目は、そもそも行政がやるべきことか、民間に任せてよいことか、が問われることです。だから給付行政は、侵害行政と並ぶ、重要な関心分野です。もっとも、争えるかどうかの結論や、具体的な統制の中身は、後の回で扱います。今日は、問題意識までです。

給付の2つの型の比較(法律に基づく給付〔生活保護〕:根拠=生活保護法+憲法25条の理念、目的=最低限度の生活の保障・自立の助長、配り方=法律の要件・申請→決定→書面通知、立場=要件を満たす限り受けられる=権利の面が強い/法律に基づかない給付〔段差解消の補助〕:根拠=個別の法律は無い・予算と要綱〔国は予算補助、町は一般の定め232条の2+予算〕、目的=政策目標の実現、配り方=要綱の基準と予算の枠、立場=予算の枠で配られる〔断られたときの争い方は後の回〕/共通の問い=法の統制をどう及ぼすか) 図:給付の2つの型の比較

  • 法律に基づく給付〔生活保護〕:根拠=生活保護法+憲法25条の理念
  • 目的=最低限度の生活の保障・自立の助長
  • 配り方=法律の要件・申請→決定→書面通知
  • 立場=要件を満たす限り受けられる=権利の面が強い/法律に基づかない給付〔段差解消の補助〕:根拠=個別の法律は無い・予算と要綱〔国は予算補助、町は一般の定め232条の2+予算〕
  • 目的=政策目標の実現
  • 配り方=要綱の基準と予算の枠
  • 立場=予算の枠で配られる〔断られたときの争い方は後の回〕/共通の問い=法の統制をどう及ぼすか

2つの型を、1枚で比べます。生活保護は、根拠が生活保護法と憲法25条の理念で、目的は最低限度の生活の保障と自立の助長です。配り方は、法律の要件に沿った申請、決定、書面での通知。受ける人は、要件を満たす限り受けられるので、権利の面が強くなります。段差解消の補助は、個別の根拠法が無く、予算と要綱で配ります。国なら予算補助、町なら、補助の一般的な定めである232条の2と予算。目的は政策目標の実現で、配り方は要綱の基準と予算の枠が決めます。断られたときの争い方は、後の回で見ます。共通の問いは、法の統制を、どう及ぼすか、です。もとは税金であること、配り方が公平であること、そもそも行政がやるべきことか。どちらの型にも、同じ問いが付いて回ります。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(定義=控除説:国家作用−立法−司法/積極説は書き切れない/分類=侵害行政〔権利・自由を制限〕と給付行政〔便益を提供〕/背景=夜警国家から給付国家へ〔29条2項・25〜28条〕/混ざるもの=義務つき補助金・誘導行政/区別が効く場面=法律の根拠はどこまで要るか/給付の2型=法律に基づく〔生活保護〕・基づかない〔要綱で配る補助金〕) 図:今日のまとめ

  • 定義=控除説:国家作用−立法−司法
  • 積極説は書き切れない
  • 分類=侵害行政〔権利・自由を制限〕と給付行政〔便益を提供〕
  • 背景=夜警国家から給付国家へ〔29条2項・25〜28条〕
  • 混ざるもの=義務つき補助金・誘導行政
  • 区別が効く場面=法律の根拠はどこまで要るか
  • 給付の2型=法律に基づく〔生活保護〕・基づかない〔要綱で配る補助金〕

最初の1問に戻ります。行政とは何か、そして、ばらばらな行政をどう整理するか。行政の定義は引き算で、控除説でした。国家の作用から立法と司法を除いた、残りです。ただ、引き算では中身が見えません。行政の中身は多種多様で、共通の特徴を書き切れないから、引き算になる。そのぶん、行政法の範囲も特色も、定義からは出てきません。だから、中身で分けます。国家が夜警国家から給付国家へ変わったことが、侵害行政と給付行政という2つの型の背景でした。憲法には、29条2項と社会権に、その跡があります。きれいに分かれないものも、あります。給付なのに義務が付く補助金と、経済的な得で行動を導く誘導行政です。

権利を制限する行政に、法律の根拠が要る点に争いはなく、給付はどうかで、考え方が分かれます。給付行政にも、法律に基づく給付と、基づかない給付があります。基づかない給付でも、行政の自由に任せきりではありません。法の統制をどう及ぼすか。その問いを抱えて、先の回に進みます。

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#5単独ページ動画

近代行政法の基本構造と現代の課題(二面関係から三面関係へ)

第1章 行政法の基礎 ⑤/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

建築のチェックに、Cの席はあるか

建築のチェックの登場人物(A=町役場がBの建て替えの図面をチェックして確認を出す、柱を減らしたら是正を命じる/B=駅前の喫茶店の店主/C=Bの店の隣に住む住民、倒れてこないか不安:Cの席は?) 図:建築のチェックの登場人物

  • A=町役場がBの建て替えの図面をチェックして確認を出す、柱を減らしたら是正を命じる
  • B=駅前の喫茶店の店主
  • C=Bの店の隣に住む住民、倒れてこないか不安:Cの席は?

山あいの町の駅前で、喫茶店を営むBが、店を3階建てに建て替えます。町役場のAは、図面が基準に合うかをチェックして、確認を出します。柱を減らして建ててしまえば、Aは是正を命じます。前に見た、建築のチェックの場面です。この場面の基本の登場人物は、チェックするAと、チェックされるBです。ここに、そのときの隣の住民、Cを加えます。Cは、Bの店の隣に住んでいます。柱の足りない建物が、地震で倒れてこないか、不安を抱えています。暮らしの上では、Cは当事者そのものです。けれど、建築のチェックを描いた法律関係の図に、Cの席はありません。Cの席は、設計図のどこにあるのでしょうか。行政法という法の組み立てを、ここでは設計図と呼びます。結論を先に言います。行政法の設計図に基本として描かれたのは、行政と、その相手方の2人でした。

どうして2人だったんですか。設計図が、国家権力から個人の自由と財産を守る盾として、組み立てられたからです。今日の1問は、なぜ設計図には2人が描かれたのか、そして今、その設計図のどこが足りなくなっているのか、です。前に、行政と相手方の2者の関係を二面関係、そこに第三者が加わる関係を三面関係と呼びました。今日は、その呼び名の裏にある、なぜを掘ります。

行政の基本の順番

民事・刑事・行政の比較(動く時期=民事は問題が起きてから裁判所へ、刑事は違反のあとに手続、行政は起きる前に介入もする/手続=民事と刑事は訴訟など裁判所の手続、行政は言い分を聴くなどの簡易な手続/判断の中心=民事と刑事は争いの決着を裁判所が、行政はまず行政機関が判断/行政への不服=行政の決定のあとから訴訟で争う) 図:民事・刑事・行政の比較

  • 動く時期=民事は問題が起きてから裁判所へ、刑事は違反のあとに手続、行政は起きる前に介入もする
  • 手続=民事と刑事は訴訟など裁判所の手続、行政は言い分を聴くなどの簡易な手続
  • 判断の中心=民事と刑事は争いの決着を裁判所が、行政はまず行政機関が判断
  • 行政への不服=行政の決定のあとから訴訟で争う

まず、設計図の下書きとして、行政の仕組みに共通する形を見ます。行政は、ある問題を個人どうしの問題として放っておかず、社会全体の問題、つまり公益の問題として、国家の機関が管理します。公共の福祉に関わる問題と言い換えてもかまいません。たとえば建物の安全は、BとCの間の問題にとどまりません。店の前の道を通る人にも関わります。民事の裁判も、刑事の手続も、裁判所や警察や検察という国家の機関が関わります。そこは行政と共通です。違いは、次の2つです。1つ目は、動く時期で、ここは前に見ました。民事も刑事も、問題が起きたあとで手続が動くのが基本です。行政は、起きる前に介入できます。社会全体に関わる問題は、起きてからでは取り返しがつかないことがあるからです。Bの建て替えで、工事の前に確認を受けるのが、その例です。2つ目は、手続です。今日、新しく足すのはここからです。行政は、訴訟ではなく、言い分を聴くなどの簡易な手続で、処理します。

裁判を待たずに、起きる前に動くのですから、最初に判断するのは行政機関になります。これが基本の形です。確認を出すかどうかを、まず役場Aが、法に照らして決めます。Bが不服なら、そのあとで、裁判所で争います。まず行政が決め、不服のある人があとから訴訟で争う。この順番が、行政の基本の順番です。民事や刑事では、争いに決着をつける判断を下すのは裁判所です。前に、行政は事前に一律に、民事や刑事は事後に個別に働く、という対を見ました。それは、いつ動き、だれに効くかの軸です。今日は、公益に関わる問題でだれが最初に判断するか、という軸を1つ足してください。行政の基本の順番に登場するのは、決める行政と、決められる相手方の2人です。設計図の2人が、ここにも顔を出しています。

今日の道筋(1.行政の基本の順番/2.国家と市民社会の二元論/3.町はどちら側か/4.設計図が描かれた時代/5.足りなくなった所 与える行政/6.足りなくなった所 3人目と二重効果/7.設計図の外へ 民間が担い、行政が見張る) 図:今日の道筋

  • 1.行政の基本の順番
  • 2.国家と市民社会の二元論
  • 3.町はどちら側か
  • 4.設計図が描かれた時代
  • 5.足りなくなった所 与える行政
  • 6.足りなくなった所 3人目と二重効果
  • 7.設計図の外へ 民間が担い、行政が見張る

今日の道筋を、1枚にします。今が1番目です。次に、設計図の前提になった国家と市民社会の二元論、町はどちら側に立つのか、設計図が描かれた時代を見ます。そのあと、足りなくなった所を、与える行政、3人目の順に見ます。最後に、設計図の外へ出る動きとして、民間が担い手になる場合を見ます。

国家と市民社会の二元論

国家と市民社会の二元論(国家=公の仕事を引き受ける/市民社会=個人の自由な意思に任される/その間にいた団体=公的な力をもつ地位が取り払われる〔中間団体の排除〕/個人のことは個人が決める=私的自治/行政法の中心課題=国家が外の私人に働きかける場面を、法的にコントロールする) 図:国家と市民社会の二元論

  • 国家=公の仕事を引き受ける
  • 市民社会=個人の自由な意思に任される
  • その間にいた団体=公的な力をもつ地位が取り払われる〔中間団体の排除〕
  • 個人のことは個人が決める=私的自治
  • 行政法の中心課題=国家が外の私人に働きかける場面を、法的にコントロールする

では、なぜ設計図は2人で描かれたのか。その前提にあるのが、国家と市民社会の二元論です。二元論は、世界を2つの領域に分けて考えることです。公の領域としての国家と、私的な領域としての市民社会です。近代国家ができると、2つのことが起きました。1つ目は、公的な仕事が国家に集められたことです。2つ目は、それ以外のことが、個人の自由な意思に任されたことです。たとえば、山あいの町で、昔は集落の寄り合いや同業の仲間が、道の手入れも、もめごとの仲裁も、商売の決まりも、まとめて決めていたとします。これは仮の例です。近代になると、公の性質をもつ仕事は国家に集められ、残りは個人どうしの契約に任されます。国家と個人の間にいた団体が、公的な力をもつことは、取り払われていきました。これを、中間団体の排除と言います。

団体が1つ残らず消えた、と言い切れるわけではありません。取り払われたのは、団体が公的な力をもつという地位です。2つ目の、個人のことは個人が自由な意思で決める原則を、私的自治と言います。契約が代表です。Bが客にコーヒーを売るのは、私的自治の世界の出来事です。この2つの組み合わせで、世界は、国家と、その外にいる人たちに分かれました。この見方では、公的な力は国家の側に集まります。だから、個人の自由と財産を守るには、国家の力を縛ることが、かなめになります。ここから、行政法の中心課題が定まります。国家が私人に働きかける場面、つまり行政作用を、法的にコントロールすることです。設計図の主役が、国家とその外の相手方の2人になった理由は、ここにあります。

私人というのは、私的な人、という意味ですか。違います。私人は、国家と向き合う側の個人と団体を指す言葉で、行政法学でよく使います。法令では、近い意味で国民や事業者といった言葉が多く使われます。事業をするBの店や会社も、私人に入ります。

町はどちら側か

国・地方公共団体・私人の位置(行政をする側=国、地方公共団体〔町役場A〕/行政をされる側=私人〔B、C〕/行政作用は、する側から私人へ向かう) 図:国・地方公共団体・私人の位置

  • 行政をする側=国、地方公共団体〔町役場A〕
  • 行政をされる側=私人〔B、C〕
  • 行政作用は、する側から私人へ向かう

前の回に言い残したことを、ここで回収します。町は、内閣そのものではない、と言いました。では町は、国家の側なのか、私人の側なのか。役場Aは、行政をする側です。町のような地方公共団体は、国とは別の主体です。ただ、私人の側ではなく、行政をする側に立ちます。その根拠の入口が、憲法92条です。

条文日本国憲法92条

日本国憲法第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

地方公共団体の組織と運営は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める、とあります。地方自治の本旨は、地域のことはその地域で決める、という考え方です。92条は、地方公共団体という仕組みを、憲法の上に置いています。次に、94条を見ます。

条文日本国憲法94条

日本国憲法第94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

94条は、地方公共団体が、行政を執行する権能をもつと定めています。だから地方公共団体は、憲法に位置づけられた、行政をする側の主体です。国と地方公共団体の関係も、行政法のテーマで、後の回で扱います。ただ、行政法の伝統的な関心は、国家の内側の関係よりも、国家が外の私人に及ぼす働きのほうに向いてきました。今日も、AとBの関係を軸にします。

設計図が描かれた時代

設計図の生まれ方(フランスで生まれる/ドイツを経由/近代化をめざす明治憲法のもとの日本に取り入れる〔継受〕/中央集権の近代国家で、役人の組織が国を動かす基盤としてつくられた=特定の時代の産物) 図:設計図の生まれ方

  • フランスで生まれる
  • ドイツを経由
  • 近代化をめざす明治憲法のもとの日本に取り入れる〔継受〕
  • 中央集権の近代国家で、役人の組織が国を動かす基盤としてつくられた=特定の時代の産物

設計図がいつ描かれたかに入る前に、前回の復習を1問。国家の仕事を秩序の維持に絞った、19世紀の夜警国家のもとで、法律の役割は何だと考えられていたでしょう?国家権力を縛ることでした。それで、権利や自由を制限する侵害行政に、関心が集まったんです。国家権力を縛るという発想が、設計図の出発点です。行政法は、中央集権的な近代国家で、役人の組織が国を動かす基盤として、歴史の中でつくられた法理論です。特定の時代の産物であって、いつの時代にも通用する自然な形ではありません。だから、今の社会に合っているかを問い続ける必要があります。流れだけ見ます。行政法の理論は、まずフランスで生まれ、ドイツを経て、近代化をめざす明治憲法のもとの日本に取り入れられたと説明されます。外国の制度や理論を取り入れて、自分のものにすることを、継受と言います。

明治憲法のもとは、どんな仕組みだったんですか。立憲君主制でした。君主がいるけれど、憲法と法律で縛る体制です。ただ、明治憲法のもとでは、国の政治のあり方を最終的に決める力である主権を、君主がもち、行政の権限も君主に属していました。そこで伝統的な行政法は、君主の側にある行政権の働きを、法律という形式で縛り、私人の自由と財産を国家権力から守るものとして組まれました。前に、伝統的な関心は行政の不当な介入から私人を守ることだと言ったのは、この事情によります。盾として作られた、ということです。争いを裁く場所も、今とは違いました。明治憲法61条を、当時の規定として、板に出します。

当時の規定 大日本帝国憲法61条(原文:行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別ニ法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判ニ属スヘキモノハ司法裁判所ニ於テ受理スルノ限ニ在ラス) 図:当時の規定 大日本帝国憲法61条

現代語の要旨で読みます。行政官庁の違法な処分で権利を傷つけられたとする訴訟のうち、別に法律で定める行政裁判所の裁判に属するものは、司法裁判所、つまり普通の裁判所は受け付けない、という定めです。行政裁判所というのは、普通の裁判所とは別のものなんですか。別です。行政裁判所は、司法の裁判所の系統ではなく、行政権の側に置かれた特別な裁判所でした。

争いを裁く場所の比較(明治憲法のもと=主権は君主、行政の争いは行政権の側に置かれた特別な裁判所〔行政裁判所〕が裁く/日本国憲法のもと=主権は国民、行政の争いは通常の裁判所が裁く/行政裁判所は廃止) 図:争いを裁く場所の比較

  • 明治憲法のもと=主権は君主、行政の争いは行政権の側に置かれた特別な裁判所〔行政裁判所〕が裁く
  • 日本国憲法のもと=主権は国民、行政の争いは通常の裁判所が裁く
  • 行政裁判所は廃止

日本国憲法になると、国民が主権をもつ国になり、行政裁判所は廃止されました。その憲法上の根拠が、76条2項です。

条文日本国憲法76条2項

日本国憲法第76条第2項 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。

司法権は裁判所に属する、と1項が定めています。そのうえで2項は、通常の裁判所の系統の外に置かれる特別裁判所を禁じています。さらに、行政機関が、終審、つまり最後の裁判として裁判を行うことも禁じています。だから、行政をめぐる争いも、通常の裁判所が扱います。ただし、憲法の構造が変わっても、行政法の理論の骨組みには、当時の発想が残っていると指摘されています。たとえば、設計図が、行政と相手方の2人を前提にしていることも、その1つと考えられます。行政裁判所から今の訴訟制度への移り変わりの細部は、後の回で扱います。

その設計図の、足りなくなった所は、どこに出てくるんですか。大きく2つあります。そこから、設計図の外へ出る動きが、もう1つあります。順に見ます。

与える行政の増大

設計図の向きと現実(設計図が主に描いた向き=奪う、止める〔侵害行政〕を縛る/現代=上下水道、病院、学校、社会保障など与える〔給付行政〕の重みが増す/盾の発想だけでは、与え方を縛る線が出てこない) 図:設計図の向きと現実

  • 設計図が主に描いた向き=奪う、止める〔侵害行政〕を縛る
  • 現代=上下水道、病院、学校、社会保障など与える〔給付行政〕の重みが増す
  • 盾の発想だけでは、与え方を縛る線が出てこない

1つ目は、与える行政の増大です。設計図は、権利や自由を制限する侵害行政を縛ることを、主に描いていました。ところが現代では、上下水道、病院、学校、社会保障のように、財貨やサービスを与える給付行政の重みが増しています。前の回で、給付にも法の統制が要る理由を、3つ見ました。元手が税金であること、配り方が公平であること、そもそも行政がやるべきことか、でした。盾は、奪われたり止められたりしないように、身を守る道具です。与える場面では、相手は奪われる側ではなく、受け取る側なので、盾を構える場面になりません。だから盾の発想だけでは、与え方をどう縛るかが出てきません。設計図には、与える側を縛る線が、足りないのです。

もう1つは、登場する人の数です。設計図に描かれた2人では、収まらない場面が出てきます。

3人目の登場と二重効果

二重効果の板(同じAの決定をBの欄とCの欄で読む/1.建て替えを認める確認=Bの欄はプラス、Cの欄はマイナス〔例:隣の日当たりが今より悪くなりうる〕/2.柱不足への是正命令=Bの欄はマイナス、Cの欄はプラス〔倒れる不安が減る〕/プラスとマイナスが人によって逆になる) 図:二重効果の板

  • 同じAの決定をBの欄とCの欄で読む
  • 1.建て替えを認める確認=Bの欄はプラス、Cの欄はマイナス〔例:隣の日当たりが今より悪くなりうる〕
  • 2.柱不足への是正命令=Bの欄はマイナス、Cの欄はプラス〔倒れる不安が減る〕
  • プラスとマイナスが人によって逆になる

2つ目は、3人目の登場です。同じAの決定、前に見た言葉でいえば処分を、Bから見た欄と、Cから見た欄に並べます。1つ目は、建て替えを認める確認です。Bには利益です。Cには、不利益になりえます。たとえば3階建てになって、隣の日当たりが今より悪くなる場合です。法律上どこまで保護されるかには、ここでは入りません。問題です。Aが、柱の足りない建物について、Bに是正命令を出したとします。Bの欄とCの欄は、プラスとマイナスのどちらでしょう?Bは工事をやり直すことになるのでマイナス、Cは倒れる不安が減るのでプラスです。確認とは逆になります。板の上で、同じ1つの決定が、人によってプラスにもマイナスにもなっています。このように、1つの決定が、ある人には利益、別の人には不利益になることを、二重効果と言います。前に見た鉄道の運賃も、値上げが認可されれば、会社には利益、利用者には不利益という、同じ形でした。関係者は3人です。行政のA、決定の直接の相手方である名宛人のB、そして、名宛人ではないけれど決定の影響を受ける第三者のC。この関係が、三面関係です。二重効果をもたない決定もあります。たとえば、役場AがBに町の税金を課す決定は、Bには不利益ですが、Cのような特定のだれかの利益にも不利益にも、ふつうはなりません。ただ、二重効果をもつ決定を考えなければならない場面が、現代では多くなっています。

国家と市民社会の二元論では、BとCの間は、私人どうしの関係です。前に見たとおり、CがBに建物を直させたければ、裁判所に訴えることになります。だから行政法の設計図には、AとBの2人が基本の登場人物として描かれ、Cの席がありませんでした。現代では、Cの席が要る場面があります。Cが決定を争えるかは、原告適格という論点で、後の回で扱います。今日は、設計図に席が足りない、というところまでです。

保障行政と公私協働

保障行政の関係図(A=町、住民の足を確保する側/D=町営バスを引き継ぐ民間のバス会社/C=住民/AからDへ=路線と便数の取り決め、赤字の一部の補助/DからCへ=運送の契約) 図:保障行政の関係図

  • A=町、住民の足を確保する側
  • D=町営バスを引き継ぐ民間のバス会社
  • C=住民
  • AからDへ=路線と便数の取り決め、赤字の一部の補助
  • DからCへ=運送の契約

最後に、設計図の外へ出る動きです。サービスの担い手が、行政から民間へ移ります。町が走らせていた町営バスをやめて、民間のバス会社Dが、路線を引き継いで走らせるとします。国や自治体の事業を民間の主体に移すことを、一般に民営化と言います。Dが事業ごと引き継ぐ今日の例は、こちらです。町が事業を続けたまま、運転だけをDに任せるなら、民間委託です。仕事は行政の責任のまま、実施を民間に任せる形です。町は、もうバスに関わらないんですか。関わり続けます。町がただ手を引けば、住民の足が途切れるおそれがあるからです。町は、Dと、路線と便数を守る取り決めを結び、赤字の一部を補助して、住民の足を確保する側に回ります。自分で提供するのをやめても、行政には、サービスがきちんと届くよう、規制や監督で担保する役割が残ります。担保するは、確実に行われるよう支える、という意味です。このスタイルを、保障行政と呼びます。登場人物は、A、D、Cの3人です。人数は、先ほどの三面関係と同じです。違うのはDで、もともと町がしていた仕事を引き受けた担い手です。Cは、ここでは、バスに乗る町の住民です。CがDのバスに乗るのは、運送の契約です。Aは、CとDの契約の当事者ではありません。AとDの間には、取り決めと、補助という給付があります。そこに、国の法律にもとづく規制や監督も重なります。

保障行政が型に収まりにくいのは、手法と内容の両方で、組み合わせが起きるからです。手法の面では、行政の一方的な決定と、契約が組み合わさります。今日の例では、町とDの取り決めが契約です。Dが安全の決まりを守らないときに、国などの行政が法律に基づいて出す命令が、一方的な決定です。内容の面では、縛る侵害行政と、与える給付行政が組み合わさります。前の回で、きれいに分かれないものがあると見ましたが、その延長にあります。公的な任務を、行政と私人が分け合って果たす形なので、公私協働とも呼ばれます。国家と市民社会をきれいに分ける前提そのものが、ここで問い直されていると言えます。バス事業を行うための法律の仕組みは別にありますが、今日は入りません。契約をどう統制するかや、事故が起きたときの責任は、後の回で扱います。

今日の地図(保存版)

設計図と現実の比較(登場人物=近代は行政と相手方の2人〔二面関係〕、現代は第三者が加わる3人〔三面関係〕で民間の担い手も加わる/行政の主な向き=近代は奪う、止める〔侵害行政〕、現代は与える、支える〔給付行政〕も増える/守られるもの=近代は相手方の自由と財産、現代は相手方に加えて第三者の利益や住民の暮らし/争いを裁く場所=明治憲法のもとは行政権の側の特別な裁判所、日本国憲法のもとは通常の裁判所) 図:設計図と現実の比較

  • 登場人物=近代は行政と相手方の2人〔二面関係〕、現代は第三者が加わる3人〔三面関係〕で民間の担い手も加わる
  • 行政の主な向き=近代は奪う、止める〔侵害行政〕、現代は与える、支える〔給付行政〕も増える
  • 守られるもの=近代は相手方の自由と財産、現代は相手方に加えて第三者の利益や住民の暮らし
  • 争いを裁く場所=明治憲法のもとは行政権の側の特別な裁判所、日本国憲法のもとは通常の裁判所

最初の1問に戻ります。なぜ設計図には、2人が描かれたのか。国家権力から、個人の自由と財産を守る盾として作られたからでした。近代国家では、公的な仕事が国家に集まり、公的な力をもつ中間団体が取り払われ、残りは私的自治に任されました。国家と、その外の私人。この2者が、行政法の設計図の主役になりました。今、足りなくなっている所は2つです。1つ目は、与える行政が増えたこと。2つ目は、二重効果によって、第三者の席が要ること。さらに、設計図の外へ出る動きとして、民間が担い手になり、行政が、サービスがきちんと届くよう担保する側に回る場面が出てきました。

明治憲法のもとでは、行政権の側に置かれた特別な裁判所が裁いていました。日本国憲法のもとでは、通常の裁判所です。それでも、理論の骨組みには当時の発想が残っていると指摘されています。行政法の中身は、特定の時代に形づくられたものです。この設計図が、今の社会に合っているかを問う目を持って、先の回に進みましょう。

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#6単独ページ動画

公法と私法(公法私法二元論)

第1章 行政法の基礎 ⑥/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ10万円、取り立て方が違う

2つの10万円の関係図(A=町役場/B=駅前の喫茶店の店主/C=Bの店の隣に住む住民/AからBへ=税10万円、法律の手続を踏めば町が自分で差押え/CからBへ=貸金10万円、裁判所に訴え、判決、強制執行) 図:2つの10万円の関係図

  • A=町役場
  • B=駅前の喫茶店の店主
  • C=Bの店の隣に住む住民
  • AからBへ=税10万円、法律の手続を踏めば町が自分で差押え
  • CからBへ=貸金10万円、裁判所に訴え、判決、強制執行

山あいの町の駅前で喫茶店を営むBは、2か所にお金を払えていません。1つは、町に納める税の10万円です。期限が過ぎても納めていないことを、滞納と言います。もう1つは、隣に住むCから借りた10万円です。Cは、Bの店のレジから10万円を取っていくことはできません。私人は、原則として、たとえ自分の権利であっても、自分の力で実現してはならないからです。Cは、裁判所に訴えて、判決を得て、強制執行の手続を通します。町役場のAは違います。税を滞納した人には、法律に手続が用意されています。督促は、期限を過ぎた人に、納めるよう文書で促すことです。督促などの手続を踏んでも払われなければ、財産の差押えに進めます。差押えは、その財産を勝手に処分できないようにして、そこから税に充てる入口です。法律の手続を踏めば、裁判所の判決を待たずに、町が自分で進められます。

同じお金を払ってもらう権利なのに、なぜ道筋が違うのか。昔の答えは、税は公法の世界の話で、貸金は私法の世界の話だから、というものでした。ところが、公法か私法かという分類だけから結論を引き出すやり方は、いまの行政法では採りません。それなのに、法律の条文には「公法上の法律関係」という言葉が残っています。しかも2004年に、この言葉の出番が増えました。ここから、今日の1問が出てきます。公法と私法を分ける考え方は、なぜ捨てられ、何が残ったのか。答えを先に言います。捨てられたのは、分類だけから結論を出すやり方です。残ったのは、法律が作った仕組みの違いを見分ける目と、行政事件訴訟法4条という救済の受け皿です。

Cと町の道筋の違いは、公法だから生まれたのではなく、法律がそういう仕組みを作っているから生まれた、と整理します。この言い方の意味は、今日の途中で回収します。今日は、行政法を3本の柱に分ける前の、土台の話です。今日の道筋を、1枚にします。

今日の道筋(1.同じ10万円、取り立て方が違う/2.公法私法二元論の中身 ラベルを貼って、ラベルから結論を出す/3.なぜ唱えられ、なぜ終わったか/4.条文に残った「公法上の法律関係」 行政事件訴訟法4条と2004年の改正/5.それでも残る違い 仕組みを見分ける目/6.憲法と行政法/7.民事法と行政法 契約に逃げても縛りは消えない/8.まとめ 捨てたもの・残ったもの) 図:今日の道筋

  • 1.同じ10万円、取り立て方が違う
  • 2.公法私法二元論の中身 ラベルを貼って、ラベルから結論を出す
  • 3.なぜ唱えられ、なぜ終わったか
  • 4.条文に残った「公法上の法律関係」 行政事件訴訟法4条と2004年の改正
  • 5.それでも残る違い 仕組みを見分ける目
  • 6.憲法と行政法
  • 7.民事法と行政法 契約に逃げても縛りは消えない
  • 8.まとめ 捨てたもの・残ったもの

今が1番目です。次に、昔の答えだった公法私法二元論の中身を見ます。3番目で、なぜ唱えられ、なぜ終わったかを見ます。4番目が、条文に残った「公法上の法律関係」、行政事件訴訟法4条と2004年の改正です。そのあと、それでも残る違い、憲法と行政法、民事法と行政法の順に見て、最後に、捨てたものと残ったものに戻ります。最初の回で、公法という言葉をどう考えるかは別の回で、と言いました。その回が今日です。

公法私法二元論の中身

ラベルを貼って、ラベルから結論を出す(1.場面を確認する/2.どちらの領域かを決める 公法の関係/3.公法の関係なら、条文が無くても民法を外す/ラベルから結論へ、矢印は一方向) 図:ラベルを貼って、ラベルから結論を出す

  • 1.場面を確認する
  • 2.どちらの領域かを決める 公法の関係
  • 3.公法の関係なら、条文が無くても民法を外す
  • ラベルから結論へ、矢印は一方向

昔の答えの名前は、公法私法二元論です。法の世界を、公法と私法の2つの領域に分けます。大まかには、行政と私人の関係が公法の領域、私人どうしの関係が私法の領域です。そして、ある法律関係が公法の関係に当たると判断されると、法律に明文が無くても、私法の関係とは違う特別の扱いを認めます。明文は、条文に書いてあることです。特別の扱いの典型が、民法を適用しない、というものです。前の回の二元論は、世界を国家と市民社会に分ける見方でした。今日の二元論は、法を公法と私法に分けて、どちらに当たるかから結論を出す考え方です。同じ二元論という名前でも、分けているものが違います。今日の二元論の特徴は、結論の出し方にあります。「どちらの領域か」という分類から、結論を引き出します。ラベルを貼って、ラベルから結論を出す。この流れを、具体例で見ます。仮の例です。前に見た、店の段差解消の工事費の補助で、町がBに、補助を払いすぎてしまったとします。町がBに返してもらうお金の権利は、何年で時効にかかるでしょうか。時効は、一定の年数、権利を使わないと、権利が消える仕組みです。民法で習います。昔の出し方は3段です。1つ目に、場面を確認します。町とBの間の、お金の関係です。2つ目に、どちらの領域かを決めます。町が私人に対してもつ権利なので、公法の関係だ、とラベルを貼ります。3つ目に、公法の関係の権利だから、民法の時効の規定は使わない、と考えられました。条文に書いていなくても、です。

昔の出し方では、公法の関係というラベルが貼られた時点で、結論が出ました。民法は、私人どうしの関係のための決まりで、公法の関係は、それとは別の領域なのだから、民法は当てはまらない、と考えられたのです。板の矢印は、一方向です。権利そのものにも、同じ発想が及びました。権利を、公法上の権利と、私法上の権利に分けます。前者を公権、後者を私権と言います。そして、公権は譲り渡せない、放棄できない、というように、性質の違いが、条文を離れて強調された時期がありました。これを公権論と呼びます。条文なしに民法を外せるのか、という疑問が、のちの批判の中心になります。ちなみに、「公法上の法律関係」という言葉は、いまも条文に残っています。二元論の根拠として挙げられた時期もありました。それは、4番目で見ます。

なぜ唱えられ、なぜ終わったか

二元論の役割と終わり(明治憲法のもと=公法の特殊さの強調が国家権力を正当化し、守る働きをした/行政裁判所と同じ時代の発想/日本国憲法のもと=行政の争いも通常の裁判所が裁く/公法だから、というだけで私法の適用を外す理由が弱まった) 図:二元論の役割と終わり

  • 明治憲法のもと=公法の特殊さの強調が国家権力を正当化し、守る働きをした
  • 行政裁判所と同じ時代の発想
  • 日本国憲法のもと=行政の争いも通常の裁判所が裁く
  • 公法だから、というだけで私法の適用を外す理由が弱まった

ここで、前の回の1問です。前の回で見た、行政の争いを裁いた特別な裁判所は、どんな裁判所だったでしょうか?行政裁判所です。司法の裁判所の系統ではなく、行政権の側に置かれた特別な裁判所でした。行政権の側に置かれた行政裁判所と、公法私法二元論は、同じ時代の発想の中にありました。明治憲法のもとで、私法とは違う公法の特殊さを強調することが、国家権力を正当化し、守る働きをした、と説明されています。正当化するは、正しいものとして支える、という意味です。前の回で見たとおり、国家と市民社会を分ける見方があり、行政の争いは行政権の側の裁判所が裁きました。そこに、公法の関係なら、条文に書いていなくても、私人どうしとは違う特別の扱いを認める、という考え方が重なります。条文に無い特別の扱いが、国家の側に認められる。それが、国家の側を守る働きをした、という説明です。

日本国憲法のもとで、国民が主権をもつ国になり、行政裁判所は廃止されました。憲法76条2項のもとで、行政の争いも、通常の裁判所が裁きます。私人どうしの争いを裁くのと、同じ裁判所です。裁く場所が分かれていた時代には、公法は私法とは別の世界だ、という見方の背景に、裁判の仕組みの違いがありました。日本国憲法のもとで、その違いが無くなりました。すると、公法の関係だから、というだけで、私法の適用を外す理由は、弱まりました。戦後、こうした考え方を批判する学説が続きました。いまは、明確な法律の根拠のないまま、公法の関係だから民法を外すのはおかしい、という点は、共通の理解になっています。

いまは、抽象的な分類だけに頼らず、その場面を規律している個々の法律の仕組みと趣旨を解釈して、答えを決めます。趣旨は、その法律がなんのために作られたか、ということです。払いすぎた補助の例で、いまの出し方を見ます。1つ目は、昔と同じで、場面を確認します。2つ目に、この場面を規律している個々の法律に、時効の定めがあるかを確かめます。3つ目に、定めがあれば、それに従います。定めのない部分は、その法律の仕組みと趣旨を解釈して、民法の考え方が使えるかを判断します。

昔といまの答えの出し方の比較(出発点=昔は公法か私法かという分類、いまはその場面を規律している個々の法律/条文が無いとき=昔は公法の関係なら書いていなくても民法を外す、いまは仕組みと趣旨を解釈して民法の考え方が使えるかを判断する/結論の決まり方=昔はラベルから、いまは個々の法律の仕組みと趣旨から) 図:昔といまの答えの出し方の比較

  • 出発点=昔は公法か私法かという分類、いまはその場面を規律している個々の法律
  • 条文が無いとき=昔は公法の関係なら書いていなくても民法を外す、いまは仕組みと趣旨を解釈して民法の考え方が使えるかを判断する
  • 結論の決まり方=昔はラベルから、いまは個々の法律の仕組みと趣旨から

2つを並べます。出発点は、昔は、公法か私法かという分類です。いまは、その場面を規律している個々の法律です。条文が無いときは、昔は、公法の関係なら、書いていなくても民法を外しました。いまは、仕組みと趣旨を解釈して、民法の考え方が使えるかを判断します。結論の決まり方は、昔はラベルから、いまは個々の法律の仕組みと趣旨からです。民法の考え方が使えるかは、公法の関係だから、という理由だけでは決めません。町がもつお金の権利だから、という分類だけでは、時効の定めは決まりません。いまは、ラベルからではなく、この権利に当たる法律の時効の定めを、その法律の仕組みと趣旨から確かめるところから始めます。年数そのものは個別の法律の細目なので、ここでは追いません。個別の判例も、個々の法律の仕組みの趣旨を解釈したものとして読める、と指摘されています。具体は後の回で見ます。

条文に残った「公法上の法律関係」

条文に残った言葉(二元論は終わった/条文には「公法上の法律関係」の言葉が残る/行政事件訴訟法4条=当事者訴訟の定義/2004年=確認の訴えが書き加えられた) 図:条文に残った言葉

  • 二元論は終わった
  • 条文には「公法上の法律関係」の言葉が残る
  • 行政事件訴訟法4条=当事者訴訟の定義
  • 2004年=確認の訴えが書き加えられた

二元論が終わっても、条文には「公法上の法律関係」という言葉が残っています。それが、行政事件訴訟法4条です。3本の柱でいえば、救済法に入る条文です。行政をチェックし被害を救う側の話です。4条は、当事者訴訟という訴えの定義です。全文を見ます。

条文行政事件訴訟法4条

行政事件訴訟法第4条 この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。

長い1文なので、前半と後半に切ります。

4条を前半と後半に切る板(前半=法令の規定により、当事者の間の法律関係を確認・形成する処分や裁決の争いを、当事者の一方を被告にする形で争うもの/後半=公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟 今日使う部分/2004年に書き加えられた言葉=公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の/改正前の後半=公法上の法律関係に関する訴訟) 図:4条を前半と後半に切る板

  • 前半=法令の規定により、当事者の間の法律関係を確認・形成する処分や裁決の争いを、当事者の一方を被告にする形で争うもの
  • 後半=公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟 今日使う部分
  • 2004年に書き加えられた言葉=公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の
  • 改正前の後半=公法上の法律関係に関する訴訟

前半は、個別の法律が、当事者の間の法律関係を確認したり形づくったりする処分や裁決について、その争いを、当事者の一方を被告にする形で争うものとして定めた訴えです。処分は、行政が個別の相手に対してする決定です。裁決は、不服の申立てに対して行政が出す判断です。後半が、公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の、公法上の法律関係に関する訴訟です。今日使うのは、後半です。後半は、行政の決定、つまり処分の取消しを求める形ではなく、権利や地位そのものを、当事者として争う訴えです。当事者訴訟の中身は、後の回で見ます。後半の中の確認の訴えは、権利や地位があるかないかを、はっきり確かめてもらう訴えです。公法上の確認訴訟とも呼ばれます。その他の、の前に置かれた確認の訴えは、例として挙げられています。これだけに限る、という意味ではありません。例として挙げることを、例示と言います。板で色を付けた部分が、2004年に書き加えられた言葉です。改正の前から、後半は条文にありました。改正の前の後半は、確認の訴えという言葉の入っていない形でした。

確認を求める訴えは、改正の前から、裁判で争われていました。改正で変わったのは、確認の訴えが、4条の例として書き加えられたことです。改正のねらいは、救済の受け皿の明確化です。受け皿は、受け止める入れ物のことです。確認の訴えという言葉が条文に無いと、この形で訴えられることが、条文からは読み取りにくくなります。そこで、名前を条文に出して、この形で争えることを、読めば分かるようにし、使いやすくしました。行政の決定の取消しという型に乗らない争いにも、裁判で救済を受ける道があることを、はっきりさせたわけです。この改正は、行政に処分をするよう命じてもらう義務付けの訴えや、処分をしないよう求める差止めの訴えを法律に定めることなども含む、救済の範囲を広げる改正の一部でした。それぞれの中身は、後の回で扱います。

確認の訴えで争われた3件(最大判昭41・7・20 民集20巻6号1217頁=許可や更新を受ける義務が無いことの確認、改正の前/最判平9・10・17 民集51巻9号3925頁=日本国籍をもつことの確認、改正の前/最大判平17・9・14 民集59巻7号2087頁 在外国民選挙権訴訟判決=国外に住む日本国民が次の選挙で投票できる地位にあることの確認、最高裁が適法と認めた、改正の後) 図:確認の訴えで争われた3件

  • 最大判昭41・7・20 民集20巻6号1217頁=許可や更新を受ける義務が無いことの確認、改正の前
  • 最判平9・10・17 民集51巻9号3925頁=日本国籍をもつことの確認、改正の前
  • 最大判平17・9・14 民集59巻7号2087頁 在外国民選挙権訴訟判決=国外に住む日本国民が次の選挙で投票できる地位にあることの確認、最高裁が適法と認めた、改正の後

確認の訴えで争われた事件を3件、名前と位置づけだけ見ます。1件目は、薬局の開設の規制を争った事件です。薬局の開設に許可と更新を求める制度のもとで、許可や更新を受ける義務が無いことの確認を求めました。2件目は、日本国籍をもつことの確認を求めた、国籍の確認の事件です。この2件は、改正の前から、確認を求める訴えの形で争われていました。のちに、法改正の議論の中で、公法上の当事者訴訟だったと見直されました。3件目が、在外国民選挙権訴訟判決です。国外に住む日本国民が、次の選挙で投票できる地位にあることの確認を求めた事件です。この事件も改正の前から争われていて、最高裁の判決が出たのは、改正の後でした。最高裁は、この訴えを、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法と認めました。憲法の分野でも出てくる判決です。3件とも、中身には入りません。確認の訴えがどんな場面で認められるかは、後の回で見ます。

3件に共通するのは、取消しを求めるのではなく、義務があるか、国籍や地位をもつかを、はっきり確かめる形の訴えだったことです。ここで1問です。2004年に4条に確認の訴えが書き加えられたのは、公法と私法を別世界とみる考え方に戻したということでしょうか?戻ったわけではないと思います。取消しの型に乗らない争いにも、救済を受ける道をはっきりさせた、救済の受け皿の明確化だからです。公法の関係だから民法を外す、という考え方に戻したわけではありません。書き加えられたのは、救済を受ける道をはっきりさせる言葉です。かつては、条文に「公法上の法律関係」という言葉があることが、二元論の法律上の根拠に挙げられた時期もありました。いまは、この言葉は、争いをどの訴えで受け止めるかを示す言葉として、条文に残っています。

それでも残る違い

2つの10万円の仕組みの比較(生まれ方=Cの貸金は合意〔契約〕で生まれる、Aの税は法律に基づいて町が課す〔合意は要らない〕/取り立ての道筋=貸金は裁判所に訴え、判決を得て、強制執行、税は法律の手続〔督促など〕を踏めば町が自分で財産を差し押さえる/違いの理由=貸金は民事の仕組み、税は法律がそういう仕組みを作っている) 図:2つの10万円の仕組みの比較

  • 生まれ方=Cの貸金は合意〔契約〕で生まれる、Aの税は法律に基づいて町が課す〔合意は要らない〕
  • 取り立ての道筋=貸金は裁判所に訴え、判決を得て、強制執行、税は法律の手続〔督促など〕を踏めば町が自分で財産を差し押さえる
  • 違いの理由=貸金は民事の仕組み、税は法律がそういう仕組みを作っている

最初の2つの10万円に戻ります。違いは、公法という分類から決まるのではありません。法律がそういう仕組みを作っているから、です。板で並べます。生まれ方から見ます。Cの貸金は、合意、つまり契約で生まれます。町の税は、法律に基づいて町が課すもので、Bの合意は要りません。税額を決めて課すことを賦課と言い、実際に取り立てることを徴収と言います。取り立ての道筋です。貸金は、払われなければ、裁判所に訴え、判決を得て、強制執行です。自力では取れません。税は、法律の手続、督促などを踏めば、町が自分で財産を差し押さえます。前に、自力救済の禁止の例外として、行政上の強制執行を見ました。この税の取り立てのような仕組みも、そこに含まれます。行政は、法律の根拠があれば、裁判所を通さずに、自ら義務の実現を図れる場合がある、というものでした。

貸金の側は、権利は裁判所が確かめてから実現する、という民事の仕組みです。税の側は、法律が、町に自分で進める手続を用意しています。どちらも、法律が作った仕組みです。分類だけから結論を出すのはやめましたが、仕組みの違いを見分けて語ることは、いまも有用です。公法の領域は、行政と私人の関係を作る法律の群れ、私法の領域は、私人どうしの関係を作る法律の群れ、と捉えます。これは認識のレベルの区別です。2つの10万円でいえば、税と貸金では仕組みが違う、と見分けて説明するのには使います。税は公法の関係だから民法は使わない、というように、法的な結論を、それだけで決める基準には使いません。境界線は、はっきり引けるわけではありません。2つの領域が、まったく別の種類の法だと言えるほどの、質的な差があるとまでは言えません。それでも、それぞれの根幹の特徴を語る意味は、失われません。

憲法と行政法

憲法と個々の法律(憲法=国の最高法規/個々の行政の法律=憲法の価値を具体化する/行政の決定=法律に基づいて行われる) 図:憲法と個々の法律

  • 憲法=国の最高法規
  • 個々の行政の法律=憲法の価値を具体化する
  • 行政の決定=法律に基づいて行われる

いまの出し方は、個々の法律の仕組みと趣旨を読むことでした。では、個々の法律は、憲法や民事法と、どうつながるのでしょうか。行政法と、ほかの法分野との関係を、2つ見ます。1つ目が、憲法との関係です。憲法は、国の最高法規でした。その根拠が、98条1項です。

条文日本国憲法98条1項

日本国憲法第98条第1項 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

条規は、条文の規定です。詔勅は、天皇の意思を示す文書です。国務に関するその他の行為は、国の政治に関わる行為のことです。憲法に反する法律などは、全部か一部が、効力を有しません。行政に関する個々の法律は、憲法の価値を具体的に実現するものです。具体化は、抽象的な価値を、実際に使える細かい決まりにすることです。実現は、憲法より下の法律に委ねられています。解釈の場面を見ます。町の段差解消の補助が、Bには出て、同じ条件の隣の店Eは断られた、前に見た場面です。補助の配り方の個別の決まりに書いていなくても、同じ条件の店を理由なく差別すれば、平等という憲法の価値に照らして、問題になりえます。憲法の条文を、解釈の手がかりに使えるわけです。平等原則と比例原則は、そうした手がかりとして使われる原則の名前です。ここでは名前だけにして、中身は後の回で見ます。

制度を作る場面でも、憲法の原理が指針になります。たとえば、町が住民の情報を集めて使う仕組みを作るなら、個人の私生活の秘密を守る、という憲法の考え方が指針になります。憲法の価値は、個々の法律が具体化するものです。そのうえで、解釈でも、憲法の価値を手がかりに使える場面がある。この位置づけで受け取ってください。

民事法と行政法

契約を選んだ行政の関係図(A=町/D=町営バスを引き継いだバス会社/C=住民/AとD=契約〔路線と便数を守る取り決め、赤字の一部の補助〕/DからC=運送の契約/Aには、公平に選ぶ・恣意的に決めない規律が残る) 図:契約を選んだ行政の関係図

  • A=町
  • D=町営バスを引き継いだバス会社
  • C=住民
  • AとD=契約〔路線と便数を守る取り決め、赤字の一部の補助〕
  • DからC=運送の契約
  • Aには、公平に選ぶ・恣意的に決めない規律が残る

2つ目の関係は、民事法との関係です。近ごろ、行政が、一方的な決定ではなく、契約や話し合いといった私法の道具を使う場面が増えています。これを、行政の私法化と言います。背景には、民営化、民間委託、規制の見直しがあります。契約を使う場面が増えたことは、私法化という現象の名前です。問題視されてきたのは、別のことです。一方的な決定で権利や自由を制限するには、法律の縛りがかかります。前に見たとおり、そうした行政には、法律の根拠が要るのでした。歯止めが無いと、行政の判断ひとつで奪われてしまうからです。その縛りを避けるために、契約や話し合いの形で、同じことを進める。これが、私法への逃避です。逃避は、避けて逃げ込むことです。法律による統制を、空洞にしかねません。空洞化は、形だけ残って中身が抜けることです。前の回の町営バスで考えます。町役場のAは、運行を民間のバス会社Dに任せました。AとDの間は、契約、つまり取り決めです。

契約の形を選んでも、行政は、私人と同じ自由を持つわけではありません。私人どうしの取引は、契約自由の原則に立ち、自分のことは自分で決めてよいのでした。でも町が契約を結ぶときの、相手の選び方には、法律に決まりがあります。公益を担う主体として、公平に選び、恣意的に決めない規律が要るからです。恣意的は、自分の好みでその場で決めることです。Dも、運賃や路線を好きに決めてよいわけではありません。運賃は、鉄道で見たように、公益を担う事業では、勝手には決められない仕組みがあります。路線と便数も、町が取り決めで守らせています。公益を担う仕組みである以上、契約という形でも、規律がかかります。前の回で見たとおり、民間が担い手になり、行政は、サービスがきちんと届くよう、規制や監督で支える側に回る。保障行政であり、公私協働でした。契約の形を選んでも、公益を担う主体としての規律は残ります。ここでも、契約という形だけから結論は出さず、仕組みを見るわけです。契約をどう統制するかの中身は、後の回で扱います。

今日の地図(保存版)

捨てたもの・残ったもの(捨てたもの1=公法の関係というラベルから、条文に無い特別扱いを引き出すやり方/捨てたもの2=「公権は譲り渡せない・放棄できない」と条文を離れて言い切る見方/残ったもの1=法律が作った仕組みの違いを見分ける目〔2つの10万円〕/残ったもの2=行政事件訴訟法4条という救済の受け皿/残ったもの3=科目・分類の呼び名としての「公法」〔公法系科目〕) 図:捨てたもの・残ったもの

  • 捨てたもの1=公法の関係というラベルから、条文に無い特別扱いを引き出すやり方
  • 捨てたもの2=「公権は譲り渡せない・放棄できない」と条文を離れて言い切る見方
  • 残ったもの1=法律が作った仕組みの違いを見分ける目〔2つの10万円〕
  • 残ったもの2=行政事件訴訟法4条という救済の受け皿
  • 残ったもの3=科目・分類の呼び名としての「公法」〔公法系科目〕

最初の1問に戻ります。公法と私法を分ける考え方は、なぜ捨てられ、何が残ったのか。捨てられたのは、公法の関係というラベルから、条文に無い特別扱いを引き出すやり方です。公権は譲り渡せない、放棄できない、と条文を離れて言い切る見方も、捨てられました。捨てられた大きな理由は、日本国憲法のもとで行政の争いも通常の裁判所が裁くようになり、公法だから、というだけで民法を外す理由が弱まったことです。いまは、その場面を規律している個々の法律の仕組みと趣旨から、結論を決めます。残ったものは3つです。1つ目は、法律が作った仕組みの違いを見分ける目です。2つの10万円の違いは、公法だからではなく、法律がそういう仕組みを作っているから、でした。2つ目は、行政事件訴訟法4条という救済の受け皿です。2004年に確認の訴えが書き加えられたのですが、二元論の復活ではありません。3つ目は、科目や分類の呼び名としての公法です。

公法という言葉は、法を分類して特徴を説明する呼び名として、いまも使われます。論文式の公法系科目は、憲法と行政法に関する分野の科目でした。刑法や刑事訴訟法も、国と国民の関係を規律しますが、一般には、公法、民事法、刑事法のように、刑事法として別に分けて語られることが多いです。途中で、ほかの法分野との関係も2つ見ました。個々の法律を解釈するとき、憲法の価値を手がかりに使える場面があります。契約の形を選んでも、公益を担う主体としての規律は残ります。どちらも、個々の法律の仕組みと趣旨を読む、いまの出し方につながる話でした。捨てたものは、ラベルから結論を出すやり方。残ったものは、仕組みを見分ける目と、4条の受け皿と、呼び名としての公法です。この仕分けを持って、先の回に進みましょう。

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#7単独ページ動画

法源と個別法の読み方

第1章 行政法の基礎 ⑦/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

初見の条文を、どこから読むか

窓口の相談(C=隣の住民が役所の窓口へ「柱が足りない気がする、何とかしてください」/A=役所の担当者はまず、この場面を定めた個別法の条文を開く/B=駅前の喫茶店の店主〔3階建てに建て替え中〕) 図:窓口の相談

  • C=隣の住民が役所の窓口へ「柱が足りない気がする、何とかしてください」
  • A=役所の担当者はまず、この場面を定めた個別法の条文を開く
  • B=駅前の喫茶店の店主〔3階建てに建て替え中〕

山あいの町の役所の窓口に、隣の住民のCが来ました。「駅前の喫茶店が、3階建てに建て替えている。柱が足りない気がする。なんとかしてください。」窓口の担当者は、役所のAです。Aは、その場で「分かりました、直させます」とは、すぐには言えません。まず開くのは、この場面を定めた個別法の条文、つまり建築を定めた法律です。誰が、どんな場合に、何をできるのか。この3つを、条文から取り出します。取り出す順番は、決まっています。先に結論です。個別法は、条文を覚える対象ではなく、読む素材です。初めて見る法律でも、読む順番は4つに決まっています。

論文式の問題文には、個別法の関係条文の抜粋が資料として付く、と前に言いました。付いている条文を正しく読めるか。その読み方を、今日渡します。どの分野にも共通する通則的な法律や憲法の条文は、手元の六法で読みながら覚えていく対象ですが、個別法は、読む順番を身につけておくほうが役に立ちます。前に、条文を要件と効果に分けて読む手順は、あとで、と言いました。その回が今日です。

個別法を読む4つの手順(1.目的規定=何を守る法律か/2.誰が・どんな要件で・何をできるか/3.手続=その前に何をしなければならないか/4.違反への対応=従わないとどうなるか/毎回=どの段〔法律・政令・省令・条例〕に書いてあるか/添え書き=建築基準法で実演) 図:個別法を読む4つの手順

  • 1.目的規定=何を守る法律か
  • 2.誰が・どんな要件で・何をできるか
  • 3.手続=その前に何をしなければならないか
  • 4.違反への対応=従わないとどうなるか
  • 毎回=どの段〔法律・政令・省令・条例〕に書いてあるか
  • 添え書き=建築基準法で実演

今日の1問は、初めて見る個別法を、どの順で読むか、です。答えを先に板で見せます。1つ目は目的規定です。その法律は何を守るためのものか、を見ます。2つ目は、誰が、どんな要件で、何をできるのか、です。要件は、その行政活動をするための条件です。3つ目は手続です。その前に何をしなければならないか、を見ます。4つ目は違反への対応です。従わないとどうなるか、を見ます。そして、どの手順でも毎回、いま読んでいる言葉が、どの段、つまり法律、政令、省令、条例のどこに書いてあるかを確かめます。これは、この講座での読み方の整理です。手順は覚える対象、個別法の条文は読む素材。今日は、前に5段の流れとして読んだ建築基準法を、この手順で読み直します。

手順の前に、土台が要ります。誰が何をできるかを読む手順と、毎回の確認は、どの段に何が書かれるのかを知らないと使えません。そこで、手順を支える土台を3つ置きます。まず、法がどんな形で存在するか。次に、憲法、法律、命令の上下。最後に、憲法の目と、行政法の目です。

法はどんな形で存在するか

行政法の法源(成文法源=憲法・条約・法律・命令・地方公共団体の自主法〔条例と規則〕/不文法源=慣習法・判例法・法の一般原則) 図:行政法の法源

  • 成文法源=憲法・条約・法律・命令・地方公共団体の自主法〔条例と規則〕
  • 不文法源=慣習法・判例法・法の一般原則

いま、土台の1つ目です。法源という言葉から。法源は、法の存在形式、つまり、法がどんな形で存在するか、という意味です。行政法では、行政と国民の間の争いで判断の基準になるルールの形を、一覧にしたものと考えてください。大きく、書かれているものと、書かれていないものに分かれます。書かれているものを成文法源、書かれていないものを不文法源と呼びます。成文法源は5つです。1つ目は憲法です。憲法は、行政の基本も定めています。2つ目は条約です。国際法の形式ですが、国内の行政法の法源にもなります。3つ目は法律で、国会が作ります。4つ目は命令で、行政機関が作ります。ここで言う命令は、省令のように行政が作るルールの意味です。前に見た、特定の相手への指図としての命令とは別です。5つ目が、地方公共団体の自主法で、条例と規則のことです。

2つの意味は名前が同じなので、法源の一覧に出てきたら、行政が作るルールの意味だと読んでください。次に、不文法源は3つです。最初は慣習法です。慣習のうち、人々が法として従うべきだという確信を得たものを言います。行政法では補充的な役割で、書かれた法が足りないときに、それを補う役割です。2つ目は判例法です。判例が法源かどうかは、議論があります。ただし実際には、判例が重要な意味をもつ場面が多くあります。3つ目は法の一般原則です。前の回に名前を出した平等原則と比例原則のほか、信義誠実の原則、権利濫用禁止の原則などがあり、ものの道理という意味で、条理とも呼ばれます。中身は、後の回で扱います。

判例は、裁判所が判決で示した判断で、法律のように条文の形で定められたものではありません。そこで、法源に含めるかどうかは議論があります。けれども行政法では、判例が大きな意味をもつ場面が多いので、一覧に入れておきます。法源の一覧は、覚える対象です。成文が5つ、不文が3つ。Bの建物でいえば、建築基準法が法律、柱の細かい基準を書く政令などが命令です。町が上乗せの決まりを作るなら、それが条例です。このうち、憲法、法律、命令には上下があります。次の土台です。ここでは、この3つの上下だけを見ます。

上下がある——制定法のピラミッド

制定法のピラミッド(憲法/法律=国会が作る/命令=政令〔内閣が作る〕・省令〔各省の大臣が作る〕など/「法令」=法律と命令にかけたくくり) 図:制定法のピラミッド

  • 憲法
  • 法律=国会が作る
  • 命令=政令〔内閣が作る〕・省令〔各省の大臣が作る〕など
  • 「法令」=法律と命令にかけたくくり

土台の2つ目です。上から、憲法、法律、命令の順に積み重なります。頂点の憲法から見ましょう。前の回にも読んだ、98条1項です。

条文日本国憲法98条1項

日本国憲法第98条第1項 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

憲法に反する法律や命令などは、全部か一部が、効力をもちません。ですから憲法が頂点です。法律を作るのは、国会です。41条を見ます。

条文日本国憲法41条

日本国憲法第41条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

法律という形のルールを作れるのは、国会だけです。内閣や大臣が作る命令は、国会が作るものとは別の、その下の段のルールになります。では、内閣は何を作れるのか。73条です。柱書と6号を見ます。

条文日本国憲法73条(柱書・6号)

日本国憲法第73条(柱書・6号) 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。 六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

内閣は、憲法と法律を実施するために、政令を作れます。政令に罰則を置けるのは、法律が特に委任したときだけ、という線も書かれています。委任は、任せることです。法律が、定めの一部を命令に任せるこの話は、憲法の勉強では、立法の委任と呼ばれます。この回は、法律が任せた場合に絞って見ます。法律が任せたなら、その範囲で、国民の権利義務にかかわる定めを政令に置けます。各省の大臣が出す省令も、法律や政令から任された範囲で作れます。このように法律から任されて作られる命令が、前に名前を出した委任命令です。すでに見たとおり、法律が大枠を決め、細かいことは任されて省令に落ちます。任せる理由は、実情を知る役所のほうが的確に決められることと、改正が間に合うことでした。ここで1問です。法律の委任がないのに、省令で、国民に義務を課す定めを置けるでしょうか?

置けないと思います。国民に義務を課すなら、法律か、法律の委任が要るはずです。命令で、国民に義務を課す、権利を制限する、罰則を置く。このどれにも、法律の委任が要ります。委任の範囲を超えた命令は、無効です。逆に、範囲の中なら、命令に、国民の権利義務にかかわる定めを置けます。国民の権利義務にかかわる定めを置く命令を、法規命令と呼びます。なお、行政機関が作るルールの形式を、学問上は行政立法とも呼びます。どちらも、いまは名前を聞いておけば足ります。命令の種類や、任せてよい限界は、後の回で扱います。多くの個別法では、法律と命令が一体になって、はじめて効果を生みます。そこで、法律と命令をあわせて、法令と呼ぶことがあります。ただし法令の範囲は、法律ごとに定義が置かれることがあります。たとえば行政手続法は、条例と規則まで含めて定義しています。法令という言葉に出会ったら、その法律の定義に注意してください。

どの段で何が決まっているか(法律の段=安全な構造でなければならない、という大枠/政令の段=細かい基準/上の段が決めていない部分→下の段が判断で埋める余地が生まれることがある=裁量〔中身は後の回〕) 図:どの段で何が決まっているか

  • 法律の段=安全な構造でなければならない、という大枠
  • 政令の段=細かい基準
  • 上の段が決めていない部分→下の段が判断で埋める余地が生まれることがある=裁量〔中身は後の回〕

ここからが、毎回使う着眼点です。読むたびに、どの段で何が決まっていて、何が決まっていないかを見ます。下の段が上の段を受けて、どう細かく決めているか。上の段に反していないか。この見方が、手順の毎回の確認になります。上の段では決まっていないことも、あります。たとえば法律が、建築物は安全な構造でなければならない、とだけ決めて、細かい基準は政令に任せたとします。法律の段では、どんな構造なら安全かは、決まっていません。上の段が決めていない部分には、下の段が自分の判断で埋める余地が、生まれることがあります。この判断の余地を、裁量と呼びます。中身は後の回で扱います。ここで持ち帰るのは、判断の余地が生まれうる場所を、段ごとに指差せるようになることです。ピラミッドの上下と、どの段で何が決まっているかを見る。覚える対象は、この見方です。

憲法の目と、行政法の目

憲法の目と行政法の目の違い(見る関係/見る問い/BとCの場面での使い方) 図:憲法の目と行政法の目の違い(見る関係/見る問い/BとCの場面での使い方)

土台の3つ目に入る前に、前の回の1問です。前の回、行政に関する個々の法律は、憲法に対して何をするものだと見ましたか?憲法の価値を具体化するもの、でした。抽象的な憲法の価値を、実際に使える細かい決まりにするのが、個々の法律でした。個々の法律は憲法より下にあるので、憲法の勉強と行政法の勉強では、見る場所が違ってきます。憲法の勉強で主に問うのは、法律が憲法に反していないか、です。行政法の勉強で主に問うのは、個別の行政活動が法律に反していないか、です。行政法の勉強でも、法律が憲法に反していないことは前提で、法律は、憲法の趣旨を踏まえて読みます。

Bには、建てる自由があります。財産権や営業の自由に当たります。Cには、安全に暮らす利益があります。憲法の言葉だけでは、どちらをどこまで優先するのかは決まりません。そこを決めているのが建築基準法です。最低の基準、工事の前に計画を確かめる建築確認、是正命令という仕組みで、調整を具体的に決めています。この場面に限りません。憲法の条文だけで結論が出る紛争は、まれです。ですから、個別法の仕組みを飛ばして、憲法論だけで片づけようとはしません。個別法が憲法に反しない限り、憲法に合うように読んで使います。前の回の、仕組みと趣旨で読む、の続きです。この違いが、読む手順を決めます。行政法の目で問うのは、個別の行政活動が法律に反していないか、でした。それを言うには、その法律が、誰に、どんな要件で、何をできると定めているのかを、先に読み取らなければなりません。ですから手順は、個別法の条文を読むところから始まります。憲法は、条文の言葉の意味に迷ったときの、読む手がかりとして使います。一方で、初めて見る法律でも、仕組みさえつかめば、細部を全部読み切る必要はありません。ここから、その仕組みの読み方、つまり手順に入ります。

条文の形——要件と効果

行政の根拠条文の形(決まった条件がそろったとき=要件→行政機関が行政活動をする・できる=効果/民事の要件=その事実があれば効果が生じる/行政の要件=行政が動いてよいための条件〔行為要件〕) 図:行政の根拠条文の形

  • 決まった条件がそろったとき=要件→行政機関が行政活動をする・できる=効果
  • 民事の要件=その事実があれば効果が生じる
  • 行政の要件=行政が動いてよいための条件〔行為要件〕

土台がそろいました。ここから、手順の2つ目を先に深く見ます。行政の活動の根拠になる条文は、基本的に、決まった形をしています。決まった条件がそろったときに、行政機関が、決まった行政活動をする、またはできる、という形です。この条件を要件、行政活動のほうを効果と呼びます。ただし、要件や効果をはっきり書いていない条文もあります。基本的に、という言い方は、そのためです。民事法にも、要件と効果があります。事案が要件を満たすかどうかを判断する枠組みは、行政法令と共通です。ただし性質が違います。民事の要件は、その事実があれば効果が生じる、という関係です。売買の合意があれば、代金を払う義務が生じる、という具合です。行政の要件は、行政が動いてよいための条件で、行為要件と呼ばれます。もう1つ違いがあります。民事法は、私人どうしの関係を直接決めます。行政法令が決めるのは、行政機関の活動です。行政の活動は、相手方だけでなく、周りの人の暮らしにも響くので、その利益も見る場面が多くなります。BとCとAの三面関係を思い出してください。実際の条文で確かめます。前に、是正命令の条文として読んだ、建築基準法の9条1項です。行政が何をできるかを定める条文です。3本の柱でいえば、作用法です。

条文建築基準法9条1項

建築基準法第9条第1項 特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主、当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる。

条文は、許可の条件に違反した場合や、敷地が違反している場合、請負人や所有者など建築主以外の人に命じる場合も含みます。ここでは、建物が基準に違反していて、建築主のBに命じる場合を読みました。命じる中身は、工事を止めさせる、または、期限を付けて、取壊し、つまり条文でいう除却や、修繕などの是正の措置をとらせる、の2つの型です。

要件と効果(9条1項を色分け=主語:特定行政庁/要件:建築基準法令の規定に違反した建築物/効果:施工の停止、または期限を付けた除却などの是正措置を命ずることができる) 図:要件と効果

  • 要件:建築基準法令の規定に違反した建築物
  • 効果:施工の停止、または期限を付けた除却などの是正措置を命ずることができる

板の色分けで読みます。主語は、特定行政庁。要件は、建築基準法令の規定に違反した建築物。効果は、施工の停止を命じる、または、期限を付けて除却などの是正措置を命ずることができる、です。特定行政庁は、前に見たとおり、市町村長か都道府県知事で、この場面では役所のAの側です。条文には、要件を満たしたら必ず命じなければならない、とは書かれていません。できる、と書いてあるだけです。命じるかどうか、何を命じるかが、条文で1つに決まっていない。ここは、判断の余地が生まれうる場所です。先ほどは、政令などのルールを作る側の余地でした。ここは、Bに是正を命じる場面の余地です。どちらも、同じ裁量という言葉で呼びます。

違法の典型と検討の出発点(典型=要件を満たさないのに満たすと判断して行政活動をした/出発点=根拠法令を見る→要件と効果を定めた条文を特定する→事案が要件を満たすかを見る/条文がはっきり定めていないとき→裁量などの理論〔後の回〕) 図:違法の典型と検討の出発点

  • 典型=要件を満たさないのに満たすと判断して行政活動をした
  • 出発点=根拠法令を見る→要件と効果を定めた条文を特定する→事案が要件を満たすかを見る
  • 条文がはっきり定めていないとき→裁量などの理論〔後の回〕

行政活動が違法になる典型は、事案が要件を満たさないのに、満たすと判断して、効果の行政活動をした場合です。たとえば、図面どおりに建っていて基準に反していない建物なのに、基準に違反していると判断して、是正を命じる場合です。最初の回に見た、事案を解く順路の、3つ目。行政活動の違法性を検討するところの中身が、これです。検討の出発点は、根拠法令を見て、要件と効果を定めた条文を特定し、事案が要件を満たすかを見ることです。法律や、任された命令が、要件も効果もはっきり定めていないことも、よくあります。そこで、裁量などの理論が必要になります。ただし、一般論を持ち出す前に、まず根拠条文の要件と効果です。ここまでで、読む順を決められる理由が見えました。行政の根拠条文は、要件がそろったときに行政が動ける、という形が中心にあります。その周りに、なんのための法律かという目的、動く前に踏む手続、従わないときの対応が付きます。形が決まっているので、読む順も決められます。目的を先に読むのは、要件の言葉を読む手がかりになるからです。

4つの手順で、建築基準法を読み直す

個別法を読む4つの手順(1.目的規定=何を守る法律か/2.誰が・どんな要件で・何をできるか/3.手続=その前に何をしなければならないか/4.違反への対応=従わないとどうなるか/毎回=どの段〔法律・政令・省令・条例〕に書いてあるか/添え書き=建築基準法で実演) 図:個別法を読む4つの手順

  • 1.目的規定=何を守る法律か
  • 2.誰が・どんな要件で・何をできるか
  • 3.手続=その前に何をしなければならないか
  • 4.違反への対応=従わないとどうなるか
  • 毎回=どの段〔法律・政令・省令・条例〕に書いてあるか
  • 添え書き=建築基準法で実演

いま、手順の実演です。前に、この建物の条文を、行政の関わりの5段の流れとして読みました。今回は、同じ条文を、読む手順として読み直します。まず、1つ目の手順、目的規定から。1条です。

条文建築基準法1条

建築基準法第1条 この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。

この法律は、建物の敷地や構造などの最低の基準を定めて、国民の生命、健康、財産を守る法律だ、と読めます。Cのような周りの人も、守られる側に入ります。目的規定は、要件の言葉の意味や、役所が考慮してよい事項を考える、手がかりにします。ただし、要件を定めた条文に書いていない事情を、目的規定の言葉だけで足すことはしません。行政が動いてよい条件を決めているのは、要件を定めた条文のほうだからです。目的規定は手がかりであって、決め手ではありません。次は、2つ目の手順、誰が、どんな要件で、何をできるか、です。これは、さっき読んだ9条1項です。特定行政庁が、建築基準法令の規定に違反した建築物について、是正を命ずることができる。ここで、毎回の確認を使います。要件の言葉、建築基準法令の規定は、どの段に書いてあるのか。9条1項の要件の言葉、建築基準法令の規定を、6条1項のかっこ書きが定義しています。前に読んだときは、読み飛ばした部分です。

条文建築基準法6条1項(柱書のかっこ書き)

建築基準法第6条第1項(柱書のかっこ書きの一部) この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)

建築基準法令の規定とは、この法律の規定、これに基づく命令の規定、これに基づく条例の規定、の3つです。1つの要件の言葉が、法律から、命令、条例へと降りていきます。

1つの言葉が段を降りる(要件の言葉=建築基準法令の規定→法律=安全な構造の大枠→政令=柱などの構造耐力上主要な部分・構造の種類ごとの技術的基準→大臣の定め=柱の大きさの割合など政令から任された細目/別枠=省令:申請の書類など手続の細目・条例:地方の上乗せ) 図:1つの言葉が段を降りる

  • 要件の言葉=建築基準法令の規定→法律=安全な構造の大枠→政令=柱などの構造耐力上主要な部分・構造の種類ごとの技術的基準→大臣の定め=柱の大きさの割合など政令から任された細目
  • 別枠=省令:申請の書類など手続の細目・条例:地方の上乗せ

柱を例に、降りてみます。法律は、建築物は地震などに対して安全な構造でなければならない、という大枠を定めて、細かい技術的基準は政令で定める、と任せます。政令は、柱などを構造耐力上主要な部分として挙げ、構造の種類ごとに基準を並べます。大きさの割合や計算の方法は、政令からさらに任されて、国土交通大臣が定めることがあります。申請の書類など、手続の細目は、省令が定めます。そして地方が、条例で上乗せして定める場合もあります。条例との関係は、後の回で扱います。条番号や数字を、覚える必要はありません。柱が足りるかどうかを測る細かい物差しは、法律ではなく、政令や、さらに大臣の定めに書かれています。法律だけ読んでも、足りるかどうかは決まりません。覚えるのは、要件の言葉に出会ったら、どの段に書いてあるかを降りて確かめる、という動きです。3つ目の手順は、手続です。要件と効果の後に読むのは、何を命じるのかが分からないと、その前に踏む手続も探せないからです。命じる前に、命じようとする措置とその事由を書いた通知書を渡して、意見書や有利な証拠を出す機会を与える。相手の言い分を聴くための定めで、前に見たものです。9条1項の命令には、手続の定めが付いている。それを見るのが、3つ目の手順です。どの段かといえば、通知書と、意見を出す機会は、法律に書いてあります。手続によっては、申請書の様式のような細目を、省令に任せているものもあります。

4つ目の手順は、違反への対応です。最後に読むのは、命じた後に、相手が従わないときの定めだからです。命令に従わなければ、罰則が予告されています。ただし罰則を科しても、柱の足りない建物は直りません。そこで、行政が自分で取壊しなどを行う、行政代執行の定めもあります。罰則も代執行も、法律に書かれています。罰則の重さなどの数字は、素材です。

4つの手順×建築基準法(1.目的規定→1条→法律の段/2.誰が・どんな要件で・何をできるか→9条1項と6条1項のかっこ書き→法律・政令・条例の段/3.手続→命じる前の通知書と意見書→法律の段/4.違反への対応→命令違反の罰則と行政代執行→法律の段) 図:4つの手順×建築基準法

  • 1.目的規定→1条→法律の段
  • 2.誰が・どんな要件で・何をできるか→9条1項と6条1項のかっこ書き→法律・政令・条例の段
  • 3.手続→命じる前の通知書と意見書→法律の段
  • 4.違反への対応→命令違反の罰則と行政代執行→法律の段

4つの手順を、建築基準法に当てはめた板です。見てほしいのは、右端の、どの段、の列です。目的規定と、命じる前の手続と、違反への対応は、法律の段で足ります。要件と効果は、法律から政令、条例まで降りないと、要件の言葉が埋まりません。前に読んだときは、条文を5段の流れに並べて、行政の関わり方を見ました。今回は、同じ条文を、誰が何をできるか、どの段に書いてあるか、という読み方で見ました。冒頭の窓口でAがすぐに答えられなかったのも、柱が基準に反するかは政令や大臣の定めまで降りないと決まらず、命じるとしても、その前に、Bの言い分を聴く手続を踏まなければならないからです。個別法が変わっても、この4つの手順と毎回の確認で、読み始められます。

争いが生まれる3つの場面

3つの場面×手順(1.要件に当たるか=要件の言葉の意味→手順2/2.考慮してよい事項=その法律の目的と仕組みから決まる→手順1と2/3.手続と実体の読み分け→手順3と2/手順4はこの回の3つの場面では扱わない) 図:3つの場面×手順

  • 1.要件に当たるか=要件の言葉の意味→手順2
  • 2.考慮してよい事項=その法律の目的と仕組みから決まる→手順1と2
  • 3.手続と実体の読み分け→手順3と2
  • 手順4はこの回の3つの場面では扱わない

手順に沿って読むと、争いが生まれる場所も見えてきます。3つの場面です。1つ目は、事案が要件に当たるか。要件の言葉の意味が問われます。2つ目は、行政が判断するときに、考慮してよい事項の範囲。3つ目は、手続の規定と、実体の規定の読み分けです。それぞれ、どの手順で出会うかも、あわせて見ます。事例は、Bの建物のままです。ここから、場面ごとに仮の枝を足します。枝は、1つ目と2つ目の場面に1つずつ、3つ目の場面に2つです。1つ目の場面、要件に当たるか、の枝です。仮に、町の条例が、建築基準法に基づいて、建物の安全のための追加の制限を定めていたとします。この枝では、柱の話はいったん脇に置いて、Bの建物は、法律と政令の基準は満たしていたけれど、この条例の制限には反していた、と仮定します。この条例の違反は、9条1項の要件に入るでしょうか?

見る場所は、要件の言葉です。建築基準法令の規定に違反した建築物。この言葉の中身は、6条1項のかっこ書きが定めていました。この法律に基づく条例も、入ります。この枝の条例は、建築基準法に基づくものと仮定したので、要件に当たります。逆に、建築基準法とは関係なく、町が独自に作った条例の違反は、この定義の言葉の外にあって、この要件には入りません。ただし、要件に当たることと、命令が適法であることは別です。命じるかどうか、何を命じるかは、効果の側の話で、判断の余地が生まれうる場所でした。この場面は、手順の2つ目で出会います。2つ目の場面、考慮してよい事項、の枝です。是正命令を出すかを決めるとき、役所が、Bは町の祭りに協力的だから、今回は見逃そう、と考えてよいでしょうか。

建築基準法の目的は、建物の最低の安全基準で、国民の生命、健康、財産を守ることでした。祭りへの協力は、その目的と関係のない事情です。是正を命じる力は、この目的のために、法律が役所に与えたものです。目的と関係のない事情で、命じるかどうかを決めれば、力を与えた目的から外れてしまいます。ですから、考慮の材料にしてはいけない、と考えます。逆に、柱の不足で建物がどれだけ危ないかは、建物の安全という目的にかかわる事情なので、考慮の材料になります。考慮してよい事項の範囲は、その法律の目的と仕組みから決まります。目的規定は手がかり、でした。命じるかどうかを決めるのは手順の2つ目、そこで手がかりにするのが手順の1つ目です。審査の仕方は、後の回で扱います。

手続と実体の読み分け(実体=命令の中身〔要件と効果〕/手続=踏むべき手順/仮の枝=通知書を渡さずに命令を出した→中身が正しくても問題になりうる/仮の枝=手続を任された省令に構造の基準を書き足した→任された範囲を超える) 図:手続と実体の読み分け

  • 実体=命令の中身〔要件と効果〕
  • 手続=踏むべき手順
  • 仮の枝=通知書を渡さずに命令を出した→中身が正しくても問題になりうる
  • 仮の枝=手続を任された省令に構造の基準を書き足した→任された範囲を超える

3つ目の場面は、手続と実体の読み分けです。実体は、命令の中身にあたる、要件と効果のことです。この場面の枝は2つです。まず、通知書を渡さずに、命令を出しました。命令の中身、つまり柱が基準に反している、という判断は、正しかったとします。それでも問題になるでしょうか?命令の中身の当否と、踏むべき手順を踏んだかは、別に見ます。通知書を渡して言い分を聴くことも、法律が、命じる前に踏むよう役所に求めた定めです。行政法の目で見るのは、行政活動が法律に反していないか、でした。要件に当たっていても、手続の定めに反していれば、法律に反した点が残ります。ですから、手続の定めに従わなかったこと自体も、問題になりえます。効果がどうなるかは、後の回で扱います。ここは手順の3つ目、手続で出会う場面です。この場面の、もう1つの枝です。申請の書類など、手続の細目は、省令に任されています。その省令の定めに、法律にない構造の基準が書き足されていたら、どうでしょう。

法律が省令に任せたのが、手続だけの場合を考えています。構造の基準が増えれば、建てる人が守らなければならない義務が増えます。命令で国民に義務を課すには、法律の委任が要りました。手続しか任されていない省令には、構造の基準についての委任がありません。ですから、その省令に構造の基準を書き足すのは、任された範囲を超えます。手続だけを任された省令で、実体の要件は足せません。ピラミッドの、委任の範囲を超えた命令は無効、に戻ります。手順の3つ目と2つ目が、ここで出会います。

3つの場面×手順(1.要件に当たるか=要件の言葉の意味→手順2/2.考慮してよい事項=その法律の目的と仕組みから決まる→手順1と2/3.手続と実体の読み分け→手順3と2/手順4はこの回の3つの場面では扱わない) 図:3つの場面×手順

  • 1.要件に当たるか=要件の言葉の意味→手順2
  • 2.考慮してよい事項=その法律の目的と仕組みから決まる→手順1と2
  • 3.手続と実体の読み分け→手順3と2
  • 手順4はこの回の3つの場面では扱わない

板の右の列が、出会う手順です。手順の4つ目、違反への対応は、この回の3つの場面には出てきません。

判例の重み

手本になる判例(納骨堂の経営許可を周辺住民が争った事件=最判令5・5・9 民集77巻4号859頁/護身用スプレー〔催涙剤の稀溶液〕の輸入業の登録拒否を争った事件=最判昭56・2・26 民集35巻1号117頁) 図:手本になる判例

  • 納骨堂の経営許可を周辺住民が争った事件=最判令5・5・9 民集77巻4号859頁
  • 護身用スプレー〔催涙剤の稀溶液〕の輸入業の登録拒否を争った事件=最判昭56・2・26 民集35巻1号117頁

最後に、判例の重みを確かめます。判例が法源かどうかは、議論がありました。けれども行政法は、個別法ごとに条文がばらばらで、通則的な条文が少ない法分野です。そのため、判例が、個別法の仕組みをどう読むかの手本になる場面が多くあります。判例を覚えるときも、その事件の個別法の仕組みから読みます。結論だけを切り離して覚えるより、どの法律のどの仕組みの話だったかと一緒に持っておくほうが、別の個別法に出会ったときに使えます。名前だけ、2件出します。1件目は、大阪市長がした納骨堂の経営許可に対して、周辺に住む人が取消しを求めた事件です。2件目は、催涙剤を薄めた液を噴射する護身用スプレーの輸入業の登録申請を、行政が拒否した事件です。どちらの事件も、判決は、許可や登録の要件が、法令のどこに、どう書かれているかを読むところから、結論を出しています。納骨堂の事件では、法律は許可の要件を特に書かず、市の規則が要件を具体的に定めていました。ここでも、どの段に書いてあるか、が効いています。護身用スプレーの事件では、法律が、登録を拒む場合として書いていたのは、設備が基準に合わない場合などでした。こちらは、要件に何が書かれているか、を読んだ例です。2件とも、判決が根拠として読んだのは、今日の手順の2つ目、誰が、どんな要件で、何をできるかと、その要件がどの段に書いてあるか、です。手本になるのは、結論よりも、この読む順です。

結論や理由づけは、別の回で扱います。今日持ち帰るのは、判例を読むときも、個別法の仕組みから始める、という姿勢です。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(4つの手順=目的規定→誰が・どんな要件で・何をできるか→手続→違反への対応〔毎回、どの段に書いてあるか〕/法源=成文5・不文3/ピラミッド=憲法・法律・命令〔法令〕/憲法の目と行政法の目/3つの場面=要件に当たるか・考慮してよい事項・手続と実体) 図:今日のまとめ

  • 4つの手順=目的規定→誰が・どんな要件で・何をできるか→手続→違反への対応〔毎回、どの段に書いてあるか〕
  • 法源=成文5・不文3
  • ピラミッド=憲法・法律・命令〔法令〕
  • 憲法の目と行政法の目
  • 3つの場面=要件に当たるか・考慮してよい事項・手続と実体

最初の1問に戻ります。初めて見る個別法を、どの順で読むか。読む順は、4つの手順です。まず目的規定。次に、誰が、どんな要件で、何をできるか。それから手続。最後に、違反への対応です。そして毎回、いま読んでいる言葉が、法律、政令、省令、条例のどの段に書いてあるかを確かめます。土台も3つありました。法源は、成文が5つ、不文が3つ。ピラミッドは、上から憲法、法律、命令で、読むたびに、どの段で何が決まっていて何が決まっていないかを見ます。法律と命令をあわせた法令は、範囲が法律ごとの定義で決まることがあります。憲法の目と行政法の目は、主に、法律が憲法に反しないかと、個別の行政活動が法律に反しないか、の違いでした。条文は、基本的に、要件と効果の形です。争いが生まれる場所は、3つの場面でした。事案が要件に当たるか。考慮してよい事項は何か。手続と実体の読み分け。判例を読むときも、個別法の仕組みから始めます。

個別法は、覚える対象ではなく、読む素材です。覚えるのは、この4つの手順と、読み方の土台です。通則的な法律や憲法の条文は、別に、読みながら覚えていく対象です。初めて見る個別法の前でも、この順で読み始められます。

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#8単独ページ動画

法律による行政の原理

第1章 行政法の基礎 ⑧/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ町で起きた3つの出来事

山あいの町で起きた3つの出来事(1つ目=税務署が、法律どおりに計算すれば10万円になるBの税を、「祭りに協力的だから」と判断で8万円にした/2つ目=ある省が、法律になんの定めも委任も無いまま、省令だけで全国の喫茶店に仕入れ額の届出を義務づけた〔仮の話〕/3つ目=国の役所が、法律になんの定めも無いまま、予算だけでBの店の段差をなくす工事に補助を出した) 図:山あいの町で起きた3つの出来事

  • 1つ目=税務署が、法律どおりに計算すれば10万円になるBの税を、「祭りに協力的だから」と判断で8万円にした
  • 2つ目=ある省が、法律になんの定めも委任も無いまま、省令だけで全国の喫茶店に仕入れ額の届出を義務づけた〔仮の話〕
  • 3つ目=国の役所が、法律になんの定めも無いまま、予算だけでBの店の段差をなくす工事に補助を出した

山あいの町で、国の役所が3つのことをしました。いずれも、喫茶店の店主のBに関わる話です。1つ目。税務署が、法律どおりに計算すれば10万円になるBの税を、「Bは町の祭りに協力的だから」と判断して、8万円にしました。相手が得をする行為でも、法律から外れていれば、違法になります。ここが、今日の入り口です。2つ目は、仮の話です。ある省が、法律になんの定めも委任も無いのに、省令だけで、全国の喫茶店に、毎月の仕入れ額を届け出るよう義務を課した、とします。3つ目。国の役所が、法律になんの定めも無いまま、予算だけで、Bの店の入口の段差をなくす工事に、補助を出しました。

3つの出来事は、どれも法律と行政の関係の話ですが、問題の種類は1つずつ違います。今日の1問は、行政の行為を見たとき、最初に何を確かめるか、です。答えを先に見せます。

最初に確かめること(その事柄に法律の定めがあるか→ある=行政がその定めから外れていないか〔法律の優位〕/無い=一般的なルール作りか〔法律の法規創造力〕・目の前の個別の行為か〔法律の留保〕) 図:最初に確かめること

  • その事柄に法律の定めがあるか→ある=行政がその定めから外れていないか〔法律の優位〕
  • 無い=一般的なルール作りか〔法律の法規創造力〕・目の前の個別の行為か〔法律の留保〕

答えは、その事柄について、法律の定めがあるか、です。定めがあるなら、行政がその定めから外れていないかを見ます。これが、法律の優位です。定めが無いなら、行政がしたのが、一般的なルール作りか、目の前の個別の行為かを見ます。ルール作りは法律の法規創造力、個別の行為は法律の留保の問題です。この3つが、法律による行政の原理の、3つの内容です。1つ目は、税の定めがあるのに外れたので、法律の優位です。2つ目は、定めも委任も無いのにルールを作ったので、法律の法規創造力です。3つ目は、定めが無いまま個別の補助を出したので、法律の留保が問われます。順に、中身を見ていきます。

法律による行政の原理とは

法律による行政の原理(行政活動は、法律に基づき、法律に従って行われなければならない/基づく=法律を根拠にする/従う=法律に反しない) 図:法律による行政の原理

  • 行政活動は、法律に基づき、法律に従って行われなければならない
  • 基づく=法律を根拠にする
  • 従う=法律に反しない

法律による行政の原理とは、行政活動は、法律に基づき、法律に従って行われなければならない、という原理です。行政法でいちばん土台になる原理です。法律による行政の原理と法治主義は、同じ原理を指す、2つの呼び名です。どちらの言い方も出てくるので、両方言えるようにしておいてください。

原理の呼び名と中身(法律による行政の原理=法治主義〔同じ原理を指す2つの呼び名〕/基づく=法律を根拠にする→法律の法規創造力・法律の留保へ/従う=法律に反しない→法律の優位へ/ここでの法律=国会が制定する法律) 図:原理の呼び名と中身

  • 法律による行政の原理=法治主義〔同じ原理を指す2つの呼び名〕
  • 基づく=法律を根拠にする→法律の法規創造力・法律の留保へ
  • 従う=法律に反しない→法律の優位へ
  • ここでの法律=国会が制定する法律

原理の中身を、2つの言葉に分けます。基づくは、法律を根拠にすること。従うは、法律に反しないことです。たとえば、Bの店に何かを命じるなら、命じる根拠になる法律があるのが、基づく。その法律が決めた条件や中身から外れないのが、従うです。基づくは、あとで見る法律の法規創造力と法律の留保に、従うは、法律の優位に、それぞれつながります。ここでの法律は、国会が制定する法律のことです。この回は、国会の法律と行政の関係で話します。町の条例が同じ働きをする場面は、後の回で扱います。

2つの局面と、憲法の4つの条文

原理の2つの局面(国会と行政の関係=国会が法律で、行政が守るべき行動の基準をあらかじめ決める/裁判所と行政の関係=行政が法律に反したとき、裁判所があとから正す) 図:原理の2つの局面

  • 国会と行政の関係=国会が法律で、行政が守るべき行動の基準をあらかじめ決める
  • 裁判所と行政の関係=行政が法律に反したとき、裁判所があとから正す

法律による行政の原理は、2つの局面でできています。1つ目は、国会と行政の関係です。国会が法律で、行政が守るべき行動の基準を、あらかじめ決めておきます。2つ目は、裁判所と行政の関係です。行政が法律に反したとき、裁判所が違法と判断して、適法な状態へ戻す仕組みが用意されています。あとから正す局面です。あらかじめ決めておくだけでは、足りません。基準があっても、行政が破ったときに誰も正せなければ、絵に描いた餅です。税務署が法律と違う額を決めても、違法だと判断して戻す仕組みが無ければ、基準は守られません。あらかじめ決める、あとから正す。2つがそろって、原理が働きます。この2つの局面を、憲法の4つの条文で確かめます。まず、あらかじめ決める側の1つ目、41条です。

条文日本国憲法41条

日本国憲法第41条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

行政が守る基準になる法律は、国会が決めます。次に、その法律を実行する側です。73条の柱書と、1号を見ます。

条文日本国憲法73条(柱書・1号)

日本国憲法第73条(柱書・1号) 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。 一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。

内閣は、一般の行政事務のほかに、法律を誠実に執行する仕事を持ちます。国会が決めた法律を、そのとおりに実行する役目です。この2つの条文が、あらかじめ決める局面にあたります。次は、その役目が内閣に置かれている土台です。

条文日本国憲法65条

日本国憲法第65条 行政権は、内閣に属する。

国の働きを3つに分けて、立法は国会、行政は内閣、司法は裁判所に割り振る。権力分立の考え方です。そして、あとから正す役目は裁判所です。76条1項を見ます。

条文日本国憲法76条1項

日本国憲法第76条第1項 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

違法かどうかを判断して正す役目は、裁判所にあります。ただし、裁判所が動くのは、訴えがあったときです。裁判所が自分から行政を見回って、違法を探すわけではありません。どんな訴えなら裁判所が扱えるかは、後の回で扱います。

2つの局面と憲法の言葉(あらかじめ決める=国会が法律で行動の基準を決める〔41条〕・内閣が法律を誠実に執行する〔73条1号〕/土台=行政権は内閣に属する〔65条〕/あとから正す=司法権は裁判所に属する〔76条1項〕) 図:2つの局面と憲法の言葉

  • あらかじめ決める=国会が法律で行動の基準を決める〔41条〕・内閣が法律を誠実に執行する〔73条1号〕
  • 土台=行政権は内閣に属する〔65条〕
  • あとから正す=司法権は裁判所に属する〔76条1項〕

整理します。あらかじめ決めるが、41条と73条1号。土台が、65条。あとから正すが、76条1項です。立法は国会、行政は内閣、司法は裁判所という役割分担から、この原理が出てきます。4つの条文は、覚える対象です。41条は国会、73条1号は内閣で、機関は違いますが、役目は同じ向きです。国会が基準を決め、内閣が実行する。どちらも、行政が動く前に、基準が先にあることを支える条文です。

法律という形と、その中身

形だけで足りるか(問い=法律という形さえあれば、それでよいのか/国会が作った法律に、行政が従っている→?) 図:形だけで足りるか

  • 問い=法律という形さえあれば、それでよいのか
  • 国会が作った法律に、行政が従っている→?

ここで、もう1つの問いです。法律という形さえあれば、それでいいのでしょうか。

法治主義の2つの見方(形式的法治主義=法律という形があるか/実質的法治主義=あらかじめ用意する基準の中身と、行政の誤りを正す仕組みの作り方) 図:法治主義の2つの見方

  • 形式的法治主義=法律という形があるか
  • 実質的法治主義=あらかじめ用意する基準の中身と、行政の誤りを正す仕組みの作り方

法律という形さえあれば、中身は問わない、という見方があります。形式的法治主義で、形式的法治国論とも呼ばれます。この見方では、中身が不当な法律でも、国会が決めたというだけで通ります。たとえば、理由なく特定の1軒だけを店じまいさせる法律でも、形が整っていれば、行政は法律に従っている、と言えてしまいます。そこで、いまは、あらかじめ用意する基準の中身と、行政の誤りを正す仕組みの作り方まで、問います。実質的法治主義です。基準の中身は、国民の自由や権利を、不当に縛っていないかを見ることです。物差しは、たとえば憲法が保障する自由や権利です。先ほどの、理由なく1軒だけを店じまいさせる法律は、形が整っていても、ここで通りません。正す仕組みの作り方は、行政が基準を破ったとき、実際に争って戻せる仕組みになっているかを見ることです。あらかじめ決める、あとから正す、のそれぞれの質を問う、ということです。

法の支配との関係(法の支配=権力を法で縛る、英米に由来する考え方で、法の内容の正しさまで求める/実質的法治主義=基準の中身を問う点で、法の支配に近づいている/両者の違い=相対的になっている) 図:法の支配との関係

  • 法の支配=権力を法で縛る、英米に由来する考え方で、法の内容の正しさまで求める
  • 実質的法治主義=基準の中身を問う点で、法の支配に近づいている
  • 両者の違い=相対的になっている

似た言葉に、法の支配があります。権力を法で縛る、英米に由来する考え方で、法の内容の正しさまで求めます。実質的法治主義は、基準の中身を問う点で、この法の支配に近づいていて、両者の違いは相対的になっています。行政法で持ち帰るのは、基準の中身と、正す仕組みの作り方が問われる、という点です。

法律があるとき——法律の優位

税務署とBの税(A=国の役所〔税務署〕/B=喫茶店の店主/法律どおりに計算した額=10万円/税務署が判断で決めた額=8万円) 図:税務署とBの税

  • A=国の役所〔税務署〕
  • B=喫茶店の店主
  • 法律どおりに計算した額=10万円
  • 税務署が判断で決めた額=8万円

ここから、原理の3つの内容を、最初の分かれ道の順に見ます。まず、法律があるときです。最初の出来事に戻ります。税務署が、法律どおりに計算すれば10万円になるBの税を、判断で8万円にしました。この税について、法律の定めは、あります。税務署は、そこから外れました。違法かどうかは、相手から苦情が出るかどうかでは決まりません。法律の定めがあるのに、そこから外れたこと自体が、違法です。税の額の基準は、国会があらかじめ法律で決めたものです。執行する側の税務署が、自分の判断で書き換えてよいなら、国会が基準を決めた意味がなくなります。内閣に課された、法律を誠実に執行する、という憲法73条1号の役目が、ここで効いてきます。得をする側であっても、同じです。この見方が、法律の優位です。

法律の優位(内容=法律があるとき、行政活動は法律に反してはならない/対象=行政活動の全部〔権利を制限する活動・利益を与える活動・行政が作る命令・個別の行政活動〕/向き=法律の優位は、してはならない、という消極の縛り・法律の留保は、動くのに法律の根拠を求める、積極の側の問い) 図:法律の優位

  • 内容=法律があるとき、行政活動は法律に反してはならない
  • 対象=行政活動の全部〔権利を制限する活動・利益を与える活動・行政が作る命令・個別の行政活動〕
  • 向き=法律の優位は、してはならない、という消極の縛り・法律の留保は、動くのに法律の根拠を求める、積極の側の問い

法律の優位の原理とは、法律があるとき、行政活動はそれに反してはならない、という内容です。対象は、行政活動の全部です。Bの権利を制限する活動に限りません。利益を与える活動でも、法律の定めから外れることは許されません。行政が作る命令も、個別の行政活動も、法律に反すれば違法です。向きの違いを1つ。法律の優位は、してはならない、という消極の縛りです。法律の留保は、動くのに法律の根拠を求める、積極の側の問いです。税を判断で減らせないことには、法律の優位に加えて、税ならではの理由もあります。その中身は、後の回で扱います。今日は、法律の定めがあるのに外れた、というところまでです。

法律でしか決められないこと——法規と法律の法規創造力

前の回の復習(命令で国民に義務を課す→要るもの=?) 図:前の回の復習(命令で国民に義務を課す→要るもの=?)

次は、法律でしか決められないことの話です。その前に、前の回の1問です。前の回、命令で国民に義務を課すには、何が要るとされていましたか?命令で国民に義務を課すには、法律の委任が要る。委任は、法律が、定めの一部を命令に任せることでした。この内容に付いた名前が、3つの内容の2つ目、法律の法規創造力です。名前の前に、法規という言葉を用意します。

法規の歴史(王が税を取るには議会の同意=法律が要る→租税法律主義〔憲法84条〕はその名残り→国民の自由を制約し義務を課す定め全体へ→法規=国民の権利義務に関する一般的・抽象的な定め) 図:法規の歴史

法規とは、国民の権利義務に関する、一般的で抽象的な定めです。一般的とは、相手が不特定多数であること。抽象的とは、起こりうる出来事を類型で定めていることです。法規と法律は、別の言葉です。法規は、中身で見た呼び名。法律は、国会が作る形で見た呼び名です。法規の歴史から見ます。議会の力は、税の問題から育ちました。王が税を取るには、議会の同意、つまり法律が要る。この沿革の名残りが、憲法84条の租税法律主義です。

条文日本国憲法84条

日本国憲法第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

議会の力が広がると、法律で決める範囲は、税から、国民の自由を制約し義務を課す定め全体へ広がりました。負担を受ける国民が、代表である議会を通じて同意する、という考え方です。だから、法規のうち、国民の自由を制約し、義務を課す定めは、必ず法律で、という点に、争いがありません。憲法41条の立法に、少なくともこの、自由を制約し義務を課す定めが含まれることにも、争いがありません。41条の立法は、少なくとも法規を含みます。ほかに何を含むかは、見解が分かれます。行政組織の定めを含むとする見解もあり、あとで触れます。

法律の法規創造力(法規を作れるのは法律だけ/行政が命令で、新たに国民に義務を課し、権利を制限する→法律の委任が要る/法律を実施するための細かい手続や様式を定める命令=新たな義務を作るものではないので、別に扱う) 図:法律の法規創造力

  • 法規を作れるのは法律だけ
  • 行政が命令で、新たに国民に義務を課し、権利を制限する→法律の委任が要る
  • 法律を実施するための細かい手続や様式を定める命令=新たな義務を作るものではないので、別に扱う

法規を作れるのは法律だけ。これが、法律の法規創造力の原理です。行政が命令で、新たに国民に義務を課し、権利を制限するには、法律の委任が要ります。前の回の委任命令の話に、名前が付いた、ということです。なお、法律を実施するための細かい手続や様式を定める命令は、新たな義務を作るものではないので、別に扱います。命令の種類や、任せてよい限界は、後の回で扱います。

省令だけの届出義務(A=国の省→B=全国の喫茶店/省令=毎月の仕入れ額の届出を義務づける/法律の定め=無し/法律の委任=無し) 図:省令だけの届出義務

  • A=国の省→B=全国の喫茶店
  • 省令=毎月の仕入れ額の届出を義務づける
  • 法律の定め=無し
  • 法律の委任=無し

2つ目の出来事です。ある省が、法律になんの定めも委任も無いまま、省令だけで、全国の喫茶店に、毎月の仕入れ額を届け出るよう義務を課した、という仮の話でした。反する法律は、確かにありません。問題は、法律の無いところで、行政が法規を作ったことです。相手は、全国の喫茶店という不特定多数なので、一般的です。毎月の仕入れという、これから起こる出来事を型で決めているので、抽象的です。届出の義務という、権利義務に関わる定めなので、これは法規です。法規を作れるのは法律だけなので、法律の優位ではなく、法律の法規創造力の問題になります。当然のこととして認められているのは、ここまでの、優位と法規創造力です。学説でいちばん議論されてきたのは、3つ目です。

法律が無いとき——問いは憲法へ上がる

法律が何も定めていないとき(問い=行政は自由に動いてよいのか/法律の定め=無し→?) 図:法律が何も定めていないとき

  • 問い=行政は自由に動いてよいのか
  • 法律の定め=無し→?

法律が何も定めていないとき、行政は自由に動いてよいのでしょうか。法律が無ければ、何をしても、法律に反することにはなりません。法律の優位は、働きません。ただ、法律に反しないことと、動いてよいことは、別の話です。動いてよいかは、憲法が、法律の定めなしに行政が動くことを禁じているか、という問いに移ります。

憲法が禁じているか(法律の定め=無し→憲法が、定めなしに動くことを禁じているか→一般的なルール作り=41条が禁じる〔法律の法規創造力〕/個別の行為=41条だけでは決まらず憲法全体の趣旨から考える〔法律の留保〕) 図:憲法が禁じているか

  • 法律の定め=無し→憲法が、定めなしに動くことを禁じているか→一般的なルール作り=41条が禁じる〔法律の法規創造力〕
  • 個別の行為=41条だけでは決まらず憲法全体の趣旨から考える〔法律の留保〕

分かれ道は2つです。1つ目は、命令で法規を定める、一般的なルール作りです。ここでいうルールは、国民の権利義務に関わるルール、つまり法規のことです。前に町の補助で見た要綱のように、国民の権利義務を直接には決めない、行政の内部の基準は、ここには入りません。法律の定めなしに、法規を命令で定めることは、41条が禁じます。立法は国会、と定める条文だからです。先ほどの、法律の法規創造力です。2つ目は、目の前の1人に命じる、与える、という個別の行政活動です。こちらは、必ずしも立法とはいえないので、41条だけからは答えが出ません。41条や65条をはじめ、憲法全体の趣旨から、どんな性質の行政活動に法律の根拠が要るかを考えます。この問いが、法律の留保です。

補助と法律の留保(3つ目の出来事=国の役所が、法律の定めなしに、Bの店に補助を出してよいか/権利を制限する行政=法律の根拠が要る〔どの立場でも争いなし〕/補助のような与える行政=同じ歯止めがそのまま要るのかで、考え方が分かれる) 図:補助と法律の留保

  • 3つ目の出来事=国の役所が、法律の定めなしに、Bの店に補助を出してよいか
  • 権利を制限する行政=法律の根拠が要る〔どの立場でも争いなし〕
  • 補助のような与える行政=同じ歯止めがそのまま要るのかで、考え方が分かれる

3つ目の出来事が、この問いにあたります。国の役所が、法律の定めなしに、Bの店に補助を出してよいか。まず、権利を制限する行政に法律の根拠が要る点は、どの立場でも争いがありません。国会が法律で認めた場合に限る、という歯止めが無いと、行政の判断ひとつで、権利や自由が奪われてしまうからです。補助のような与える行政は、権利を取り上げるわけではありません。だから、同じ歯止めがそのまま要るのかで、考え方が分かれます。各説の中身は、後の回で扱います。今日は、問いの形までです。

どれの問題かを見分ける練習

見分ける練習1と2(1問目=町の役場が、建築基準法の基準どおりに審査して適合を確かめたのに、「隣のCが反対しているから」と確認済証は出さないと決め、Bに伝えた/2問目=内閣が、法律に定めも委任も無いまま、政令だけで全国の喫茶店に営業日の掲示を義務づけ、守らない店には過料を科すと定めた〔仮の話〕/見る順=その事柄に法律の定めはあるか→ある=外れたか/無い=ルール作りか、個別の行為か) 図:見分ける練習1と2

  • 1問目=町の役場が、建築基準法の基準どおりに審査して適合を確かめたのに、「隣のCが反対しているから」と確認済証は出さないと決め、Bに伝えた
  • 2問目=内閣が、法律に定めも委任も無いまま、政令だけで全国の喫茶店に営業日の掲示を義務づけ、守らない店には過料を科すと定めた〔仮の話〕
  • 見る順=その事柄に法律の定めはあるか→ある=外れたか
  • 無い=ルール作りか、個別の行為か

練習です。出来事を1つずつ見せます。見る順番は決まっています。まず、その事柄に法律の定めがあるか。あれば、外れたか。無ければ、ルール作りか、個別の行為か。この順で、どの問題かを答えてください。1問目です。この町の役場には、建築の計画を確かめる担当者の、建築主事が置かれているとします。役場は、Bの建て替え計画を、建築基準法の基準どおりに審査して、基準に適合していることを確かめました。ところが、「隣のCが反対しているから」という理由で、工事を始めるのに要る確認済証は、出さないと決めて、Bにそう伝えました。2問目は、仮の話です。内閣が、法律になんの定めも委任も無いのに、政令だけで、全国の喫茶店は店先に営業日を掲示せよ、守らない店には過料を科す、と定めたとします。過料は、金銭を納めさせる制裁です。

答え合わせ1と2(1問目=法律の定めがある→基準に適合しているのに、法律に無い理由で拒んだ→法律の優位/2問目=法律の定めも委任も無い→全国の喫茶店に義務を課す一般的なルール作り→法律の法規創造力) 図:答え合わせ1と2

  • 1問目=法律の定めがある→基準に適合しているのに、法律に無い理由で拒んだ→法律の優位
  • 2問目=法律の定めも委任も無い→全国の喫茶店に義務を課す一般的なルール作り→法律の法規創造力

1問目は、法律の優位です。建築基準法は、基準に適合していると確かめたときは、確認済証を出さなければならない、と定めています。定めがあるのに、法律に無い、隣の反対という理由で拒みました。外れています。税の例は、Bが得をする側でした。こちらは、Bが不利益を受ける側です。優位は、どちらにも働きます。2問目は、法律の法規創造力です。法律に定めも委任も無いのに、全国の喫茶店に、掲示の義務と、過料という不利益を課しました。一般的で抽象的な定め、つまり法規を、法律の無いところで行政が作っています。決め手は、法律の定めが無い点と、相手が全国に及ぶ一般的なルール作りである点です。

見分ける練習3と4(3問目=国の役所が、法律になんの定めも無いまま、1軒の喫茶店Bにだけ、予算で運営費を出した/4問目=国の役所が、法律になんの定めも無いのに、Bの店に「来週1週間、営業をやめよ」と命じた/見る順=その事柄に法律の定めはあるか→ある=外れたか/無い=ルール作りか、個別の行為か) 図:見分ける練習3と4

  • 3問目=国の役所が、法律になんの定めも無いまま、1軒の喫茶店Bにだけ、予算で運営費を出した
  • 4問目=国の役所が、法律になんの定めも無いのに、Bの店に「来週1週間、営業をやめよ」と命じた
  • 見る順=その事柄に法律の定めはあるか→ある=外れたか
  • 無い=ルール作りか、個別の行為か

3問目です。国の役所が、法律になんの定めも無いまま、1軒の喫茶店のBにだけ、予算で運営費を出しました。4問目です。国の役所が、法律になんの定めも無いのに、Bの店に、来週1週間、営業をやめよ、と命じました。

答え合わせ3と4(3問目=法律の定めが無い→1軒への、与える個別の行為→法律の留保〔考え方が分かれる〕/4問目=法律の定めが無い→1軒への、制限する個別の行為→法律の留保〔法律の根拠が無いので違法〕) 図:答え合わせ3と4

  • 3問目=法律の定めが無い→1軒への、与える個別の行為→法律の留保〔考え方が分かれる〕
  • 4問目=法律の定めが無い→1軒への、制限する個別の行為→法律の留保〔法律の根拠が無いので違法〕

3問目も4問目も、法律の留保の問題です。定めが無く、目の前の1軒への個別の行為だからです。2問目と4問目は、定めが無く、Bの側に不利益が及ぶ点が似ています。分かれ目は、全国の喫茶店に当てはまる一般的なルールか、目の前の1軒への個別の行為か、です。ただし、結論の確かさは違います。3問目は、与える行政です。法律の根拠が要るかは、考え方が分かれるので、ここでは結論を言いません。4問目は、権利を制限する行政です。国会の法律という歯止めが要る場面で、この点は、どの立場でも争いがありません。法律の根拠が無いので、違法です。4問を並べ直します。定めがあって外れた1問目が、法律の優位。定めが無く、ルールを作った2問目が、法律の法規創造力。定めが無く、個別に動いた3問目と4問目が、法律の留保。どの問いでも、最初に確かめたのは、その事柄に法律の定めがあるか、でした。

法律で定めるのが望ましい事項——行政組織

置いたままの問い(問い=41条の立法は、法規だけか/材料=行政組織の定め=どんな役所を置き、何を担当させるか、という定め) 図:置いたままの問い

  • 問い=41条の立法は、法規だけか
  • 材料=行政組織の定め=どんな役所を置き、何を担当させるか、という定め

最後に、法規のところで置いたままの問いに戻ります。41条の立法は、法規だけか、でした。材料は、行政組織の定めです。どんな役所を置き、何を担当させるか、という定めです。

行政組織の定めと法律(中身=国民の権利義務を直接に決める定めではないので、法規ではない/それでも=行政全体の形を決める事柄→国民の代表である国会が決めるのがふさわしい→主な組織は法律で定めるのが望ましい〔国家行政組織法・各省の設置法〕/41条の立法に組織の定めも含まれるとする見解も有力/憲法が法律で定めると書いている組織=内閣・会計検査院) 図:行政組織の定めと法律

  • 中身=国民の権利義務を直接に決める定めではないので、法規ではない
  • それでも=行政全体の形を決める事柄→国民の代表である国会が決めるのがふさわしい→主な組織は法律で定めるのが望ましい〔国家行政組織法・各省の設置法〕
  • 41条の立法に組織の定めも含まれるとする見解も有力
  • 憲法が法律で定めると書いている組織=内閣・会計検査院

行政組織の定めは、中身としては法規ではありません。国民の権利義務を直接に決める定めではないので、自由を制約し義務を課す定めのように、争いなく、必ず法律で、とは言えません。それでも、どんな役所が何を担当するかは、行政全体の形を決める事柄です。国民の代表である国会が決めるのがふさわしい。これが、民主主義の見地から、主な組織は法律で定めるのが望ましい、という考え方です。実際に、国家行政組織法や、各省の設置法といった法律があります。望ましい、にとどまらず、憲法41条の立法に、組織の定めも含まれるとする見解も有力です。さらに、憲法自身が、法律で定めると書いている組織があります。たとえば、内閣と会計検査院です。憲法が命じているので、これらは法律で定めます。

法律との関係(法規=必ず法律で/憲法が法律で定めると書いている組織=法律で〔たとえば内閣の組織=66条1項・会計検査院の組織=90条2項〕/その他の主な行政組織=法律で定めるのが望ましい〔国家行政組織法・各省の設置法〕) 図:法律との関係

  • 法規=必ず法律で
  • 憲法が法律で定めると書いている組織=法律で〔たとえば内閣の組織=66条1項・会計検査院の組織=90条2項〕
  • その他の主な行政組織=法律で定めるのが望ましい〔国家行政組織法・各省の設置法〕

3つに分けて持ち帰ります。法規は、必ず法律で。憲法が法律で定めると書いている組織は、法律で。その他の主な行政組織は、法律で定めるのが望ましい。組織の定めの種類や、役所の編成と法律の関係は、後の回で扱います。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(法律による行政の原理=法律に基づき、法律に従う/あらかじめ決める+あとから正す/法律の定めがあるとき=法律の優位/無いとき=一般的なルール作りは法律の法規創造力・目の前の個別の行為は法律の留保) 図:今日のまとめ

  • 法律による行政の原理=法律に基づき、法律に従う
  • あらかじめ決める+あとから正す
  • 法律の定めがあるとき=法律の優位
  • 無いとき=一般的なルール作りは法律の法規創造力・目の前の個別の行為は法律の留保

最初の1問に戻ります。行政の行為を見たとき、最初に何を確かめるか。確かめるのは、その事柄に法律の定めがあるか、です。定めがあれば、行政がその定めから外れていないかを見ます。これが法律の優位で、利益を与える活動でも、外れれば違法です。定めが無ければ、一般的なルール作りか、個別の行為かを見ます。ルール作りは、法規を作れるのは法律だけ、という法律の法規創造力。個別の行為は、法律の根拠がどこまで要るかを問う、法律の留保です。原理全体は、国会が法律であらかじめ決め、裁判所があとから正す、この2つの局面でできています。内容は、法律に基づき、法律に従う、でした。4つの条文は、41条、73条1号、65条、76条1項です。当然とされているのは、優位と法規創造力。いちばん議論されてきたのは、留保です。

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#9単独ページ動画

法律の留保と侵害留保説

第1章 行政法の基礎 ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

命じたいのに、法律が無い

国の役所が動く2つの場面(場面=国の役所が、法律の定めなしに動こうとしている/1つ目=Bの店の看板の照明を、夜10時以降は消すよう命じる/2つ目=Bの店の入口の段差をなくす工事に、補助を出す/問い=法律の定めが無いとき、動いてよいかを、何を基準に分けるか) 図:国の役所が動く2つの場面

  • 場面=国の役所が、法律の定めなしに動こうとしている
  • 1つ目=Bの店の看板の照明を、夜10時以降は消すよう命じる
  • 2つ目=Bの店の入口の段差をなくす工事に、補助を出す
  • 問い=法律の定めが無いとき、動いてよいかを、何を基準に分けるか

山あいの町の駅前に、喫茶店があります。店主はBです。国の役所が、省エネの方針を進めたくて、Bの店の看板の照明を、夜10時以降は消させたいと考えました。ところが、仮の話として、そう命じてよいと定めた法律が、無いとします。役所の判断だけでは、命じられません。Bの自由に踏み込む命令には、法律の根拠が要ります。国会が法律で認めた場合に限る、という歯止めが無いと、役所の判断ひとつで、自由が奪われてしまうからです。ここは、どの考え方をとっても、争いがありません。では、同じ役所が、同じく法律の定めなしに、Bの店の入口の段差をなくす工事に、補助を出したいとします。

補助も、命じるときと同じく、法律が無ければ出せない、と考えたくなります。ところが、ある考え方では、命じることはできないのに、補助を出すことはできる、と扱われます。同じ、法律の定めが無い場面なのに、扱いが分かれます。今日の1問です。法律の定めが無いとき、行政が動いてよいかを、何を基準に分けるのか。答えを先に見せます。

分かれ目(その活動は、私人の自由と財産を侵害するか→侵害する=法律の根拠が要る/侵害しない=この説では法律の根拠は要らない) 図:分かれ目

  • その活動は、私人の自由と財産を侵害するか→侵害する=法律の根拠が要る
  • 侵害しない=この説では法律の根拠は要らない

答えは、その活動が、私人の自由と財産を侵害するかどうか、です。侵害するなら、法律の根拠が要ります。侵害しないなら、この考え方では、法律の根拠は要りません。照明を消すよう命じるのは侵害に当たり、補助を出すのは侵害に当たらない。だから、扱いが分かれます。侵害という言葉の意味は、あとで確かめます。ここでは、自由や財産を、取る、止める、縛る向きの働きかけ、と押さえてください。線の理由が、今日の中心です。この考え方の中身、侵害という言葉の意味、線が侵害に引かれた由来の順に見て、最後に、侵害かどうかを見分ける練習をします。

法律の留保とは何を問う議論か

前の回の復習(法律による行政の原理の3つの内容のうち、行政が動くのに法律の根拠を求める、積極の側の問い=?) 図:前の回の復習

本題の前に、前の回の復習を1問。法律による行政の原理の3つの内容のうち、行政が動くのに法律の根拠を求める、積極の側の問いは、どれでしたか?

法律の留保(問い=どんな性質の行政活動に、法律の根拠が要るか/留保=その事柄を法律に取っておく〔法律の定めが無ければ、行政は動けない〕) 図:法律の留保

  • 問い=どんな性質の行政活動に、法律の根拠が要るか
  • 留保=その事柄を法律に取っておく〔法律の定めが無ければ、行政は動けない〕

動くのに法律の根拠を求める側の問いは、法律の留保でした。留保とは、その事柄を法律に取っておく、という意味です。取っておかれた事柄は、法律が定めていなければ、行政は動けません。照明を消せと命じることが、法律に取っておかれた事柄なら、法律が無いかぎり、役所は命じられません。法律の留保が問うのは、どんな性質の行政活動に、法律の根拠が要るのか、です。法律に従うは、法律に反しないことで、法律の優位の話です。法律の根拠が要るは、動く前に、法律に基づく必要があることです。照明の場面では、反する法律がそもそもありません。問われるのは、命じる根拠になる法律が無いことです。今日扱うのは、こちらの、根拠の話です。取る・止める・縛る向きの行政に、法律の根拠が要る点は、争いがありません。残るのは、与える向きの行政にも要るのか、です。この問いへの答えの候補が、この回から並びます。今日は1つ目です。ほかの考え方は、後の回で扱います。

侵害留保説の内容

侵害留保説(私人の自由と財産を侵害する行為=法律の根拠が要る/それ以外の行政活動=この説では法律の根拠は要らない/別名=伝統的な考え方) 図:侵害留保説

  • 私人の自由と財産を侵害する行為=法律の根拠が要る
  • それ以外の行政活動=この説では法律の根拠は要らない
  • 別名=伝統的な考え方

1つ目の考え方は、私人の自由と財産を侵害する行為には法律の根拠が要り、それ以外の行政活動には、法律の根拠は要らない、というものです。これを侵害留保説と呼びます。伝統的な考え方、とも呼ばれます。前半は、どの考え方をとっても争いがない部分です。この説の特徴は後半、それ以外は要らない、と線を引くところにあります。要らない、の意味を絞ります。法律の根拠が無くても、行政の判断でできる、と言っているだけです。具体的には、段差の工事の補助なら、補助を定めた法律が無くても、役所の判断で出せる、ということです。補助について定めた法律があれば、役所はそれに従います。使えるお金の枠を決める予算の議決や、同じ条件の相手を理由なく別に扱わないという平等原則など、ほかの縛りも残ります。縛りの内容は、後の回で扱います。

向きで仕分ける(税を課す〔取る〕=法律の根拠が要る/店の営業を止めさせる〔止める〕=法律の根拠が要る/義務を課す〔縛る〕=法律の根拠が要る/補助を出す〔与える〕=この説では要らない/図書館や公園をつくる〔支える〕=この説では要らない) 図:向きで仕分ける

  • 税を課す〔取る〕=法律の根拠が要る
  • 店の営業を止めさせる〔止める〕=法律の根拠が要る
  • 義務を課す〔縛る〕=法律の根拠が要る
  • 補助を出す〔与える〕=この説では要らない
  • 図書館や公園をつくる〔支える〕=この説では要らない

板で仕分けます。税を課す、店の営業を止めさせる、義務を課す。取る・止める・縛る向きなので、侵害に当たり、法律の根拠が要ります。補助を出す、図書館や公園をつくる。与える・支える向きなので、この説では、法律の根拠は要りません。条件の付いた補助のように、きれいに分かれない型があることは、前に見ました。今日は、典型の型で、線がどこに引かれるかを見ます。

「侵害」は悪いという意味ではない

税をかけること(問い=税をかけることは、悪いことか/税を課す=Bから取る向きの行政活動) 図:税をかけること

  • 問い=税をかけることは、悪いことか
  • 税を課す=Bから取る向きの行政活動

侵害と聞くと、悪いことのように聞こえます。ここで1問。税をかけることは、悪いことなのでしょうか?

侵害は向きの言葉(取る・止める・縛る向き〔税を課す・営業を止める〕=侵害〔許されないという意味ではない〕/与える・支える向き〔補助を出す・図書館をつくる〕=侵害ではない) 図:侵害は向きの言葉

  • 取る・止める・縛る向き〔税を課す・営業を止める〕=侵害〔許されないという意味ではない〕
  • 与える・支える向き〔補助を出す・図書館をつくる〕=侵害ではない

税をかけることは、悪いことではありません。社会に必要な、正当な活動です。それでも、典型的な侵害です。侵害は、悪いという意味の言葉ではなく、向きの言葉だからです。私人の自由や財産に対して、行政の働きが、取る・止める・縛る、マイナスの向きに働くことを指します。侵害の概念は、向きで押さえます。行政法の侵害は、許されるかどうかではなく、向きを言う言葉です。税のように正当な活動も、侵害に含まれます。では、なぜ侵害には法律の根拠を求めるのか。正当であっても、自由や財産に重く関わるからです。国会が法律で認めた場合に限る、という歯止めをかけます。与える・支える向きは、取り上げる向きではないので、侵害ではありません。

なぜ「侵害」だけなのか——由来

時代の比較(立憲君主制のもと〔明治憲法のもと〕=行政の権限は君主に属する/議会が関われた範囲=私人の自由と財産を侵害する行為だけ/日本国憲法のもと=主権は国民にある/どこまでに法律の根拠が要るかが、問い直される) 図:時代の比較

  • 立憲君主制のもと〔明治憲法のもと〕=行政の権限は君主に属する
  • 議会が関われた範囲=私人の自由と財産を侵害する行為だけ
  • 日本国憲法のもと=主権は国民にある
  • どこまでに法律の根拠が要るかが、問い直される

なぜ線が侵害に引かれたのか。答えは歴史にあります。この考え方は、立憲君主制のもとで生まれました。前に見た、君主がいるけれど、憲法と法律で縛る体制です。そこでは、行政の権限も君主に属していました。国の仕事は元々すべて君主の権限、という前提です。議会は、国民の代表です。君主の行政が、私人の財産を取る、私人の活動を止める、縛る。その場面でだけは、国民の代表の同意、つまり議会の法律が要る、とされました。私人の自由と財産を、国家権力から守るためです。それ以外の国の仕事は、君主の権限のまま残りました。

侵害だけ、という線の由来(君主が行政の権限をもつ→私人の自由と財産を侵害する行為にだけ、議会の法律が要る→「侵害だけ」という線) 図:侵害だけ、という線の由来

流れで整理します。君主が行政の権限をもつ。自由と財産を侵害する行為にだけ、議会の法律が要る。これが、侵害だけ、という線です。つまり、侵害だけ、は、議会の関与が認められた範囲の線でした。寮に置き換えます。ある寮では、決まりごとを、すべて寮の持ち主が決めていました。そこへ、寮生の代表の集まりができて、持ち主に認めさせます。寮生の持ち物を取り上げる、外出を止める。この向きの決まりだけは、代表の集まりの同意が要る、と。備品を買い足す、食事のおかずを増やす、といった与える向きは、持ち主の判断のままでした。

寮の持ち主が君主、代表の集まりが議会、代表の集まりの同意が法律に当たります。侵害だけ、という線も、議会の関与が届いた範囲を表しています。なお、この考え方はドイツで成立し、明治憲法のもとの日本の学説に取り入れられた、と説明されます。

2つの法律の留保(憲法の歴史の法律の留保=良い面〔権利を制限するには法律の根拠が要る〕/悪い面〔法律さえあれば権利を削れる〕/行政法の法律の留保=行政活動のどこまでに法律の根拠が要るか) 図:2つの法律の留保

  • 憲法の歴史の法律の留保=良い面〔権利を制限するには法律の根拠が要る〕
  • 悪い面〔法律さえあれば権利を削れる〕
  • 行政法の法律の留保=行政活動のどこまでに法律の根拠が要るか

ここで、憲法の歴史の回で聞いた、法律の留保との関係を整理します。憲法の歴史の回では、明治憲法の法律の留保に、2つの顔があると話しました。権利を制限するには法律の根拠が要るという良い面と、法律さえ作れば権利をいくらでも削れるという悪い面です。憲法の歴史の回の留保は、権利の保障に、法律という条件を付ける、という意味でした。今日の留保は、事柄を法律に取っておく、という意味です。言葉の使い方は違いますが、行政法の法律の留保は、良い面と同じ方向を向いています。制限するには議会の法律が要る、という考えを、行政活動の側から見て、どこまでの活動に要るのか、と考えるものです。悪い面は、法律の中身を憲法がどう縛るか、という憲法の側の話で、この回には入りません。

なぜ「侵害」だけなのか——今の説明と実務

今の説明(侵害〔取る・止める・縛る〕=自由主義の見地から、法律の根拠で縛る/与える活動=法律で縛らず、すぐ対応できる余地を残す) 図:今の説明

  • 侵害〔取る・止める・縛る〕=自由主義の見地から、法律の根拠で縛る
  • 与える活動=法律で縛らず、すぐ対応できる余地を残す

由来とは別に、今の説明もあります。侵害は、自由主義の見地から、法律の根拠で縛る必要がある、と説明されます。自由主義は、個人の自由を守るべきだ、という考え方です。これに対して、利益を与える活動は、法律で縛らずに行政が動ける余地を残したほうが、必要なときにすぐ対応できて、国民のためになる、と説明されます。段差の工事の補助なら、法律ができるのを待たずに始められる、ということです。由来は、線がなぜここに引かれたのかの説明です。今の説明は、いまもこの線を使う理由の説明です。与える活動が不公平になる心配は、確かにあります。その点は、この回の最後の問いにつながります。ここでは、この説の理由づけを押さえるところまでです。

日本国憲法のもとで(君主を前提にした線引き→国民主権のもとで、そのまま使ってよいのか?→立法の実務・行政の実務は、いまも侵害留保説に立っていると説明される) 図:日本国憲法のもとで

ここで疑問が出ます。日本国憲法は、国民主権です。君主を前提にした線引きを、そのまま使ってよいのでしょうか。この疑問から、別の考え方も出てきました。後の回で扱います。それでも、法律を作る現場と行政を動かす現場、つまり立法の実務と行政の実務は、いまも侵害留保説に立っている、と説明されます。立っている、とは、実際の動き方がこの線のとおりだ、ということです。照明を消せと命じるような、侵害に当たる活動は、法律の根拠が無ければ、すぐには行いません。段差の工事の補助のような、与える活動は、その補助を定めた法律が無くても、おこなっています。これが、実務の姿です。では、侵害に当たる活動が必要になったとき、行政はどうするのでしょうか。

根拠が無いとき、行政はどうしているか

根拠が無いとき(侵害に当たる活動が必要になった→法律の根拠は無い→役所はどうする?) 図:根拠が無いとき

最初の場面に戻ります。国の役所は、Bの店の看板の照明を消させたい。命じるのは、侵害に当たる活動です。仮の話では、法律の根拠は、ありません。役所は、どうするのでしょうか。

3つの道(1つ目=法律が無いから、何もしない/2つ目=必要だから、命じてしまう〔根拠が無いので、してはならない〕/3つ目=実務の姿〔侵害に当たらない手段として、相手の任意の協力を求める/法律を作る、または改めることで対応する〕) 図:3つの道

  • 1つ目=法律が無いから、何もしない
  • 2つ目=必要だから、命じてしまう〔根拠が無いので、してはならない〕
  • 3つ目=実務の姿〔侵害に当たらない手段として、相手の任意の協力を求める/法律を作る、または改めることで対応する〕

道は3つ考えられます。1つ目は、法律が無いから、で何もしない。2つ目は、必要だから命じてしまう。根拠が無いので、これはしてはなりません。実務の姿は、3つ目です。侵害に当たらない手段、つまり相手の任意の協力を求める働きかけで対応するか、法律を作る、または改めることで対応する。侵害に当たる活動は、根拠が無ければ、すぐには行いません。照明の場面なら、消してもらえませんか、とお願いします。応じるかどうかは、相手が決めます。こうした、相手に任意の協力を求める働きかけは、行政指導と呼ばれます。中身は後の回で扱います。任意の協力を求める働きかけは、一般に、法律や条例に基づかずに行われています。地方公共団体では、行政が自分で決める要綱、つまり行政の内部の基準に基づくことが、しばしばあります。どうしても命じる必要があるなら、照明を消すよう命じてよい、と定める法律を、国会が作ります。法律ができれば、役所は、その法律を根拠に命じられます。

前の回は、国会が制定する法律に絞って話しました。法律の留保でいう法律には、町や県の議会、つまり住民の代表が作る条例も含まれます。町が人に義務を課し、権利を制限するときは、原則として条例が根拠になります。中身は後の回で扱います。

これは侵害か——境界の練習

練習1と2(1問目=夜10時以降は看板の照明を消すよう命じる文書を送った。従わなければ店の営業を止めさせる、と書いてある/2問目=「消してもらえませんか」という文書を送った。応じなくても、Bには何も起きない/問い=侵害に当たり、法律の根拠が要るか) 図:練習1と2

  • 1問目=夜10時以降は看板の照明を消すよう命じる文書を送った。従わなければ店の営業を止めさせる、と書いてある
  • 2問目=「消してもらえませんか」という文書を送った。応じなくても、Bには何も起きない
  • 問い=侵害に当たり、法律の根拠が要るか

練習です。見る点は1つです。命じる、つまり従う義務を負わせ、従わなければ不利益や強制が待つのか。それとも、任意の協力を求める、つまり応じるかどうかを決める自由が相手に残るのか。命じるなら侵害に当たり、法律の根拠が要ります。問いは、侵害に当たり、法律の根拠が要るか、です。1問目です。国の役所が、Bに、夜10時以降は看板の照明を消すよう命じる文書を送りました。文書には、従わなければ店の営業を止めさせる、と書いてあります。2問目です。国の役所が、Bに、消してもらえませんか、という文書を送りました。応じなくても、Bには何も起きません。

答え合わせ1と2(1問目=命じる+従わなければ営業の停止が待つ、と告げている→侵害に当たる→法律の根拠が要る/2問目=応じるかどうかはBが決める→任意であるかぎり侵害に当たらない→この説では法律の根拠は要らない/決め手=従う義務を負わせるか、応じるかを決める自由が相手に残るか) 図:答え合わせ1と2

  • 1問目=命じる+従わなければ営業の停止が待つ、と告げている→侵害に当たる→法律の根拠が要る
  • 2問目=応じるかどうかはBが決める→任意であるかぎり侵害に当たらない→この説では法律の根拠は要らない
  • 決め手=従う義務を負わせるか、応じるかを決める自由が相手に残るか

1問目は、侵害に当たります。命じていて、従わなければ営業の停止が待つ、と告げているからです。Bの意思にかかわらず、照明を消す義務を課す内容です。縛る向きです。法律の根拠が要ります。2問目は、応じるかどうかをBが決めるので、任意であるかぎり、侵害に当たらないと扱われます。消すかどうかを決める自由が、Bに残っているからです。この説では、法律の根拠は要りません。決め手は、従う義務を負わせているのか、応じるかどうかを決める自由が相手に残っているのか、です。

練習3(国の役所が、Bに、「消してもらえませんか」とお願いした。ただし「応じなければ、店の名前を公表します」と書き添えた/形はお願い/問い=これは侵害に当たるか) 図:練習3

  • 国の役所が、Bに、「消してもらえませんか」とお願いした。ただし「応じなければ、店の名前を公表します」と書き添えた
  • 形はお願い
  • 問い=これは侵害に当たるか

3問目です。国の役所が、Bに、消してもらえませんか、とお願いしました。ただし、応じなければ店の名前を公表します、と書き添えました。形はお願いです。これは、侵害に当たるでしょうか。

練習3の見る点(3問目=形はお願い/義務は無いが、断りにくい/どう扱うかは、後の回の問い/見る点=応じなかったとき、実際に何が待っているか) 図:練習3の見る点

  • 3問目=形はお願い
  • 義務は無いが、断りにくい
  • どう扱うかは、後の回の問い
  • 見る点=応じなかったとき、実際に何が待っているか

2問目と同じかどうかは、ここでは結論を出しません。形はお願いなので、Bに、照明を消す義務は生じていません。けれども、公表が待つとなれば、断る自由は、実際には狭くなります。義務は無いのに、断りにくい。これを侵害と見るかどうかは、後の回の問いです。見る点だけ置いておきます。応じなかったとき、実際に何が待っているか、です。3つの問いは、どれも同じことを確かめていました。その活動が、私人の自由と財産を侵害するか、です。命じるのか、応じるかを相手が決めるのかは、侵害かどうかを見分ける手がかりでした。侵害するなら、法律の根拠が要ります。

残る問い——補助金

残る問い(補助金=一般に、その補助を定めた法律や条例に基づかずに出されている/Bには出て、隣の店Eは断られた〔決めたのは町/よりどころは要綱と予算の枠〕/侵害留保説=法律の根拠は要らない→それでよいのか?) 図:残る問い

  • 補助金=一般に、その補助を定めた法律や条例に基づかずに出されている
  • Bには出て、隣の店Eは断られた〔決めたのは町/よりどころは要綱と予算の枠〕
  • 侵害留保説=法律の根拠は要らない→それでよいのか?

最後に、侵害に当たらない活動の代表が、補助金です。国や地方公共団体の補助金は、一般に、その補助を定めた法律や条例に基づかずに出されています。法律に基づく補助金もありますが、予算と要綱で配られることが多い、ということです。与える活動は、法律の根拠が無くても行う。先ほど見た実務の姿が、ここに表れています。前に、町の補助の場面で、こう問いました。Bには補助が出て、隣の店Eは断られた。この配り方は、誰が、何に基づいて決めたのか。そのときの答えは、決めたのは町で、よりどころは、町が自分で作った要綱と、予算の枠、でした。この補助の配り方を定めた個別の法律は、ありませんでした。侵害留保説のもとでは、それでも法律の根拠は要らない、で終わってしまいます。

補助金が、一般に、その補助を定めた法律や条例に基づかずに出されている現実。それでよいのか。これが、次の回の問いです。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(法律の留保=どんな性質の行政活動に法律の根拠が要るか/侵害留保説=私人の自由と財産を侵害する行為には法律の根拠が要り、それ以外は要らない/侵害=向きの言葉〔取る・止める・縛る向き〕/なぜ侵害だけ=由来〔君主の行政権と議会〕と今の説明〔自由主義〕/実務=立法の実務・行政の実務は侵害留保説に立つと説明される/根拠が無いとき=任意の協力か、法律を作る・改める/残る問い=補助金) 図:今日のまとめ

  • 法律の留保=どんな性質の行政活動に法律の根拠が要るか
  • 侵害留保説=私人の自由と財産を侵害する行為には法律の根拠が要り、それ以外は要らない
  • 侵害=向きの言葉〔取る・止める・縛る向き〕
  • なぜ侵害だけ=由来〔君主の行政権と議会〕と今の説明〔自由主義〕
  • 実務=立法の実務・行政の実務は侵害留保説に立つと説明される
  • 根拠が無いとき=任意の協力か、法律を作る・改める
  • 残る問い=補助金

最初の1問に戻ります。法律の定めが無いとき、行政が動いてよいかを、何を基準に分けるか。侵害するかどうかで分ける。これが、侵害留保説の答えです。法律の留保は、どんな性質の行政活動に法律の根拠が要るかを問う議論でした。侵害留保説は、私人の自由と財産を侵害する行為には法律の根拠が要り、それ以外は要らない、とする考え方です。侵害は向きの言葉で、取る・止める・縛る向きを指します。なぜ侵害だけなのか。由来は、君主が行政の権限をもつ体制で、議会が関与できた範囲が、侵害だけだったことです。今の説明は、侵害は自由主義の見地から縛り、与える活動はすぐ対応できる余地を残す、というものです。実務は、立法の実務も行政の実務も、侵害留保説に立っている、と説明されます。根拠が無いときは、任意の協力を求めるか、法律を作る、改める。従う義務を負わせるのか、応じるかを相手が決められるのかが、侵害かどうかを見分ける手がかりでした。残る問いは、補助金です。

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#10単独ページ動画

法律の留保と全部留保説・重要事項留保説

第1章 行政法の基礎 ⑩/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

要綱だけで出される補助金

要綱だけで出される補助(場面=町が、条例を作らず、要綱と予算の枠だけで、Bの店の段差解消の工事費に補助を出した/隣の店Eは断られた/問い=この補助の根拠を、法律や条例に求めるのか/線の引き方の候補=侵害かどうか・すべての行政活動か・権力的な形式か・社会給付か・重要かどうか) 図:要綱だけで出される補助

  • 場面=町が、条例を作らず、要綱と予算の枠だけで、Bの店の段差解消の工事費に補助を出した
  • 隣の店Eは断られた
  • 問い=この補助の根拠を、法律や条例に求めるのか
  • 線の引き方の候補=侵害かどうか・すべての行政活動か・権力的な形式か・社会給付か・重要かどうか

山あいの町の駅前に、喫茶店があります。店主はBです。町は、入口の段差をなくす工事の費用を、Bに補助しました。隣の店Eは、断られました。仮の話として、この補助を定めた条例は、町に無いとします。よりどころは、役場が自分で決めた要綱と、議会が決めた予算の枠です。要綱は、行政が自分で決めた配り方のルール、つまり行政の内部の基準です。補助を出すのは町なので、根拠になるのは、国の法律か、町の条例です。侵害留保説は、前の回で見たとおり、私人の自由と財産を侵害する行為には法律の根拠が要り、それ以外は要らない、とする考え方です。補助金が、一般に、その補助を定めた法律や条例に基づかずに出されている現実。それでよいのか。前の回の最後に置いた問いが、今日の出発点です。先に、意外なことをひとつ。すべての行政活動に法律の根拠を求める考え方は、国民主権から考えると、いちばん筋がとおって見えます。ところが、法律を作る現場と行政を動かす現場、つまり立法の実務と行政の実務は、いまも侵害だけに根拠を求めている、と説明されます。

筋がとおって見えるのに、なぜ実務は侵害だけなのか。それが今日の中心です。先に言うと、すべてに根拠を求める線にも難点が挙げられ、線の引き方も1つではないからです。補助の話に入る前に、町に補助を認める定めを確かめます。前に見た、地方自治法232条の2です。

条文地方自治法232条の2

地方自治法第232条の2 普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。

この一文は、公益上必要がある場合に補助ができる、と、補助できる場面を一般に認める定めです。けれども、段差解消の補助を、誰に、どんな条件で出すかは、書いていません。だから、今日の問いは、この一文とは別に、その配り方を定めた法律や条例が要るか、です。

要綱だけで出される補助(場面=町が、条例を作らず、要綱と予算の枠だけで、Bの店の段差解消の工事費に補助を出した/隣の店Eは断られた/問い=この補助の根拠を、法律や条例に求めるのか/線の引き方の候補=侵害かどうか・すべての行政活動か・権力的な形式か・社会給付か・重要かどうか) 図:要綱だけで出される補助

  • 場面=町が、条例を作らず、要綱と予算の枠だけで、Bの店の段差解消の工事費に補助を出した
  • 隣の店Eは断られた
  • 問い=この補助の根拠を、法律や条例に求めるのか
  • 線の引き方の候補=侵害かどうか・すべての行政活動か・権力的な形式か・社会給付か・重要かどうか

どんな基準で線を引くかによって、答えが変わります。候補は5つです。侵害かどうか。すべての行政活動か。権力的な形式か。社会給付か。重要かどうか。前の回で見たのは、このうち、侵害かどうかです。残る4つが、今日の中身です。

なぜ侵害留保説に疑問が出るのか

侵害だけの線への疑問(君主が行政の権限をもつ体制=議会が関与できた範囲は侵害だけ/国民主権=行政の権限の出どころは国民/疑問=与える活動にも、国民の代表が決めた根拠が要るのではないか) 図:侵害だけの線への疑問

  • 君主が行政の権限をもつ体制=議会が関与できた範囲は侵害だけ
  • 国民主権=行政の権限の出どころは国民
  • 疑問=与える活動にも、国民の代表が決めた根拠が要るのではないか

まず、なぜ侵害留保説に疑問が出るのかを見ます。前の回で見たとおり、侵害だけに線を引く考え方は、君主が行政の権限をもつ体制で、議会が関与できた範囲が侵害だけだったことに由来します。前の回の寮の喩えです。持ち主が君主、寮生の代表の集まりが議会です。取り上げる、止める向きの決まりにだけ、代表の集まりの同意、つまり法律が要りました。ここで、その寮が、持ち主のものから、寮生みんなのものになったとします。これが国民主権に当たります。決める立場にいるのは、もう持ち主ではなく、寮生の代表の集まりです。そうなると、備品を買う、おかずを増やす、という与える向きの決まりにも、代表の集まりの決めた根拠が要るのではないか。そういう疑問が出ます。

国民主権のもとでは、行政の権限の出どころが国民です。出どころが国民なら、与える活動も、国民の代表が決めた根拠をもつべきではないか。疑問は、ここから出ます。ただし、国民主権だから根拠が要る、と決まるわけではありません。疑問が出る、というところまでです。

2つの見地(自由主義=私人の自由と財産を守る→侵害する行為を縛る方向に働く/民主主義=国民の代表が決める→侵害でない活動にも、代表の決めた根拠を求める方向に働く) 図:2つの見地

  • 自由主義=私人の自由と財産を守る→侵害する行為を縛る方向に働く
  • 民主主義=国民の代表が決める→侵害でない活動にも、代表の決めた根拠を求める方向に働く

疑問の出どころは、2つの見地で整理できます。自由主義は、私人の自由と財産を守る見地で、侵害する行為を縛る方向に働きます。前の回で見た、侵害は法律の根拠で縛る、という説明は、こちらの見地でした。民主主義は、国民の代表が決める見地で、侵害でない活動にも、代表の決めた根拠を求める方向に働きます。今日出てくる各説は、この疑問への答え方の違い、と見てください。

全部留保説

全部留保説(内容=行政活動のすべてに法律の根拠が要る/理由=国民主権のもとで、あらゆる行政活動に民主的な正当性をもたせる/補助金=要綱だけの補助は許されない/難点=素早く対応できない・広く任せるだけの定めが増える) 図:全部留保説

  • 内容=行政活動のすべてに法律の根拠が要る
  • 理由=国民主権のもとで、あらゆる行政活動に民主的な正当性をもたせる
  • 補助金=要綱だけの補助は許されない
  • 難点=素早く対応できない・広く任せるだけの定めが増える

1つ目は、全部留保説です。行政活動のすべてに、法律の根拠が要る、とする考え方です。ここでいう法律には、条例も含まれます。理由は、国民主権です。国民が主権者なら、あらゆる行政活動が、国民の代表の決めた根拠をもつべきだ。この、代表の決めた根拠をもつことを、民主的な正当性と呼びます。この説では、補助にも根拠が要ります。Bへの補助は、条例が無く、要綱だけで出されました。だから、この説では許されません。出すには、まず、補助を定めた法律か条例が要ります。難点として挙げられる点を、ここでは2つ見ます。1つ目は、素早く応えられないことです。根拠が無いと許されない説なので、段差解消の補助が必要だと分かっても、条例ができるまで始められません。2つ目は、すべての活動に根拠をそろえようとすると、どんなことでもできる、と広く任せるだけの定めが増えて、かえって、法律で縛る効果が薄れる、と指摘されることです。根拠は有っても、中身は行政が決めることになるからです。この具体例は、あとで、仮の条例を使って見ます。もう1つの難点は、侵害留保説の側の反論として、あとで扱います。

権力留保説

権力留保説(同じ補助=段差解消の補助/町長が一方的に決めて通知〔行政処分の形〕→この説では根拠が要る/町とBが契約〔申込みと承諾・贈与の契約など〕→この説では根拠は要らない/この説の答え=形式しだい) 図:権力留保説

  • 同じ補助=段差解消の補助
  • 町長が一方的に決めて通知〔行政処分の形〕→この説では根拠が要る
  • 町とBが契約〔申込みと承諾・贈与の契約など〕→この説では根拠は要らない
  • この説の答え=形式しだい

2つ目は、権力留保説です。この説は、活動の中身ではなく、形式で線を引きます。行政が権力的な形式で活動するときは、侵害でなくても、法律の根拠が要る、とする考え方です。ここでいう権力的な形式とは、行政処分のことです。前に、処分という名前で見ました。行政が、法律にもとづいて、相手の権利や義務を、一方的に、具体的に決める行為のことです。一方的に権利や義務を動かす形式なので、議会の関与が要る、というのが、この説の理由です。同じ段差解消の補助を、2とおりの形で出すとします。条例なし、要綱だけの町です。1つ目は、町長が、Bに補助を出すと一方的に決めて、通知する形です。行政処分の形で出す、ということです。この説では、この形で出すなら、法律の根拠が要ります。

2つ目は、町とBが、申込みと承諾で契約を結ぶ形です。ただで与える約束、つまり贈与の契約のような形です。この説では、契約の形なら、法律の根拠が無くても出せます。つまりこの説は、補助を出してよいかに、形式しだい、と答えます。

契約の形でも残る縛り(法律の優位=法律があるとき、行政の活動はそれに反してはならない/予算の議決=町議会が予算を議決する/平等原則=同じ条件の相手を理由なく別に扱わない) 図:契約の形でも残る縛り

  • 法律の優位=法律があるとき、行政の活動はそれに反してはならない
  • 予算の議決=町議会が予算を議決する
  • 平等原則=同じ条件の相手を理由なく別に扱わない

ただし、契約の形なら町の自由、というわけではありません。前に見たとおり、契約の形を選んでも、行政は、私人と同じ自由を持つわけではありませんでした。法律があるとき、行政の活動はそれに反してはならない、という法律の優位や、予算の議決、同じ条件の相手を理由なく別に扱わないという平等原則など、ほかの縛りは残ります。

権力留保説(同じ補助=段差解消の補助/町長が一方的に決めて通知〔行政処分の形〕→この説では根拠が要る/町とBが契約〔申込みと承諾・贈与の契約など〕→この説では根拠は要らない/この説の答え=形式しだい) 図:権力留保説

  • 同じ補助=段差解消の補助
  • 町長が一方的に決めて通知〔行政処分の形〕→この説では根拠が要る
  • 町とBが契約〔申込みと承諾・贈与の契約など〕→この説では根拠は要らない
  • この説の答え=形式しだい

町長が形を選べば行政処分になる、とは言えません。ある決定が行政処分に当たるかどうかは、町長がどんな形を選ぶかではなく、法律や条例の定め方で決まります。その中身は、後の回で扱います。ここでは、行政処分の形で出すなら、という前提で見ています。

問う場所のずれ(侵害留保説=この活動に根拠が要るかを問う/権力留保説=この形式を使うのに根拠が要るかを問う) 図:問う場所のずれ

  • 侵害留保説=この活動に根拠が要るかを問う
  • 権力留保説=この形式を使うのに根拠が要るかを問う

侵害留保説との関係も整理します。侵害留保説が問うのは、この活動に根拠が要るか、です。権力留保説が問うのは、この形式を使うのに根拠が要るか、です。正面からぶつかる説というより、問う場所がずれている、と整理されます。補助を契約の形で出すなら、この説の答えも、要らない、になり、侵害留保説の答えと同じです。

社会留保説

社会留保説(給付行政が広がる→給付を受けられるかどうかが生活を左右する→社会給付活動にも法律の根拠が要る〔社会留保説〕) 図:社会留保説

3つ目は、社会留保説です。社会保障などの、社会給付活動にも、法律の根拠が要る、とする考え方です。理由づけの方向は、現代では、便益を与える行政、つまり給付行政が広がり、給付を受けられるかどうかが生活を左右するようになったので、侵害だけでは足りない、というものです。生活保護のような制度は、社会給付の典型です。条例なし、要綱だけのこの補助に根拠が要るかは、この説の中身だけからは決まりません。段差解消の補助が、社会給付に当たるかしだいだからです。前に、この補助の目的は、段差のない店を増やすという政策目標の実現で、生活保護のように、憲法上の権利を実現する制度ではない、と見ました。その違いを踏まえても、社会給付に当たるかどうかは、ここでは決めません。

重要事項留保説

重要事項留保説(内容=重要な事項は、議会が自分で法律や条例によって決める/別称=本質性理論/重要さの見方①権利を守る側=侵害とは扱われてこなかった活動でも、基本的人権の保障にとって重要なら、根拠を求める/②民主主義の側=基幹的な制度・基本的な計画など、行政の仕組みの基本を決める事柄に、根拠を求める) 図:重要事項留保説

  • 内容=重要な事項は、議会が自分で法律や条例によって決める
  • 別称=本質性理論
  • 重要さの見方①権利を守る側=侵害とは扱われてこなかった活動でも、基本的人権の保障にとって重要なら、根拠を求める
  • ②民主主義の側=基幹的な制度・基本的な計画など、行政の仕組みの基本を決める事柄に、根拠を求める

4つ目に入る前に、1問、思い出してください。前に、誘導行政を見ました。どんな手法でしたか?この手法を、このあと、補助に当てはめるときに使います。4つ目は、重要事項留保説です。重要な事項は、議会が自分で、法律や条例によって決めなければならない、とする考え方で、本質性理論とも呼ばれます。有力な説の1つとされます。侵害かどうかではなく、重要かどうかで線を引きます。見方は2つあります。1つ目は、権利を守る側の見方です。これまで侵害とは扱われてこなかった活動でも、基本的人権の保障にとって重要なら、根拠を求めます。2つ目は、民主主義の側の見方です。基幹的な制度や基本的な計画など、行政の仕組みの基本を決める事柄には、根拠を求めます。基幹的とは、土台になる、という意味です。補助への当てはめは、一律に要る、要らない、とはなりません。その補助の制度が重要かどうかで分かれます。条例なし、要綱だけの段差解消の補助で、材料を2列に並べます。

重要と見る材料・見ない材料(重要と見る材料=①たまたまの1回の給付ではなく、段差のない店を増やす目標を立てて作った制度〔民主主義の側の見方〕②金額しだいで、店の行動を強く誘導する〔権利を守る側の見方〕/重要とまでは言えないと見る材料=町の数ある政策の1つにすぎない・補助の金額も大きくない) 図:重要と見る材料・見ない材料

  • 重要と見る材料=①たまたまの1回の給付ではなく、段差のない店を増やす目標を立てて作った制度〔民主主義の側の見方〕②金額しだいで、店の行動を強く誘導する〔権利を守る側の見方〕
  • 重要とまでは言えないと見る材料=町の数ある政策の1つにすぎない・補助の金額も大きくない

重要と見る材料から。1つ目は、これがたまたまの1回の給付ではなく、段差のない店を増やすという目標を立てて作った制度であることです。制度の基本を決める事柄と見るので、民主主義の側の見方です。2つ目は、金額しだいで、店の行動を強く誘導することです。誘導行政は、経済的な得で行動を導く手法でした。補助は、前に、便益を与える給付行政に入れました。その補助も、金額が大きければ、同じ働きをします。店は補助を得るために、行動を変えることがあるからです。命令ではなくても、店が自分で決める自由に、実際には響きます。だから、権利を守る側の見方から、重要と見る材料です。重要とまでは言えない、と見る材料は、町の数ある政策の1つにすぎないこと、補助の金額も大きくないことです。

この説に立っても、重要と見る材料も、見ない材料も出てきます。だから、結論が分かれうる。これが、この説の難点です。重要という基準があいまいで、線が引きにくいのです。

侵害留保説の側の反論

民主的な統制の手段(法律の根拠=議会が法律や条例で決める/予算の議決=町議会が予算を議決する〔補助にいくら使えるかの枠〕/行政の民主的な基盤=国は国会の多数派を基礎とする内閣・町は住民が直接選ぶ町長) 図:民主的な統制の手段

  • 法律の根拠=議会が法律や条例で決める
  • 予算の議決=町議会が予算を議決する〔補助にいくら使えるかの枠〕
  • 行政の民主的な基盤=国は国会の多数派を基礎とする内閣・町は住民が直接選ぶ町長

ここまで、侵害留保説の線に疑問を向ける考え方を見ました。今度は、侵害留保説の側の反論です。民主的な統制の手段は、法律だけではない、というものです。だから、法律の根拠を求めなくても、民主主義の要請には応えうる、と反論されます。1つ目は、予算の議決です。補助金には、予算の議決を通じて、議会の統制が及びます。町なら、町議会が予算を議決します。地方自治法の96条です。

条文地方自治法96条1項2号

地方自治法第96条第1項(柱書・2号) 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。 二 予算を定めること。

町の議会は、予算を定めることを議決します。補助にいくらまで使ってよいか、という枠は、議会の議決で決まります。

民主的な統制の手段(法律の根拠=議会が法律や条例で決める/予算の議決=町議会が予算を議決する〔補助にいくら使えるかの枠〕/行政の民主的な基盤=国は国会の多数派を基礎とする内閣・町は住民が直接選ぶ町長) 図:民主的な統制の手段

  • 法律の根拠=議会が法律や条例で決める
  • 予算の議決=町議会が予算を議決する〔補助にいくら使えるかの枠〕
  • 行政の民主的な基盤=国は国会の多数派を基礎とする内閣・町は住民が直接選ぶ町長

2つ目は、行政の側にも民主的な基盤があることです。国では、国会の多数派を基礎とする内閣のもとに、行政機関が置かれます。町では、町長を住民が直接選びます。行政の側も、国民や住民との結びつきをもっている、という見方です。この2つは、全部留保説への言い返しにもつながります。全部留保説は、国民主権だから、すべての行政活動に法律の根拠が要る、と考えました。けれども、予算の議決と、行政の民主的な基盤によって、法律の根拠を求めなくても民主主義の要請に応えうるのなら、国民主権から、すべてに法律の根拠を、という結論が、当然に出てくるわけではない、とも言われます。全部留保説のところで、あとで扱うとした、もう1つの難点は、これです。

予算の議決だけで足りるかどうかが、争いのあるところです。予算の議決で決まるのは、一般に、補助にいくらまで使えるか、という枠です。誰に、どんな条件で配るかは、一般に、予算の議決そのものが決めるものではありません。この町でも、配り方の物差しは要綱でした。それでも、民主的な統制として足りるのか。足りると見るか、足りないと見るかが、説の分かれ目の1つです。

比べる——同じ補助に全部当てる

同じ補助に5つの説を当てる(前提=町が、条例を作らず、要綱だけで、段差解消の工事費を補助する/侵害留保説=侵害かどうか/全部留保説=すべての行政活動か/権力留保説=権力的な形式か/社会留保説=社会給付か/重要事項留保説=重要かどうか) 図:同じ補助に5つの説を当てる

  • 前提=町が、条例を作らず、要綱だけで、段差解消の工事費を補助する
  • 侵害留保説=侵害かどうか
  • 全部留保説=すべての行政活動か
  • 権力留保説=権力的な形式か
  • 社会留保説=社会給付か
  • 重要事項留保説=重要かどうか

同じ補助に、5つの説を全部当てます。事例は1つ。町が、条例を作らず、要綱だけで、段差解消の工事費を補助する、です。問いです。この補助に、法律や条例の根拠は要る? 要らない? 5つの説は、それぞれどう答えるでしょう。

結論の列(前提=条例なし・要綱だけ/この補助に根拠は要るか=侵害留保説は要らない・全部留保説は要る・権力留保説は形式しだい〔行政処分の形なら要る・契約の形なら要らない〕・社会留保説は社会給付に当たるかしだい・重要事項留保説はその補助制度が重要かしだい) 図:結論の列

  • 前提=条例なし・要綱だけ
  • この補助に根拠は要るか=侵害留保説は要らない・全部留保説は要る・権力留保説は形式しだい〔行政処分の形なら要る・契約の形なら要らない〕・社会留保説は社会給付に当たるかしだい・重要事項留保説はその補助制度が重要かしだい

答えを確かめます。侵害留保説は、補助は侵害に当たらないので、要りません。全部留保説は、すべてに根拠が要るので、要ります。権力留保説は、形式しだいで、行政処分の形で出すなら要り、契約の形なら要りません。ここまでの3つは、合っています。残る2つは、補助だから、というだけでは、要る、とは決まりません。社会留保説は、段差解消の補助が社会給付に当たるかしだいです。重要事項留保説は、その補助の制度が重要かしだいで、重要と見る材料も、そうでない材料もありました。どの結論も、条例なし、要綱だけという前提でのものです。条例があれば、別の話です。

線を引く基準が違うので、同じ補助でも答えが分かれます。その理由と難点も、1枚にそろえます。

5つの説の比較(侵害留保説=侵害かどうか・理由は自由主義・要らない・難点は民主的な統制が足りないのではないか/全部留保説=すべての行政活動か・理由は国民主権から民主的な正当性・要る・難点は素早く対応できない、広く任せるだけの定めが増える/権力留保説=権力的な形式か・理由は一方的に権利や義務を動かす形式だから議会の関与が要る・形式しだい・難点は契約の形にすれば根拠が要らなくなる/社会留保説=社会給付か・理由は給付が生活を左右する・社会給付に当たるかしだい・難点はここでは挙げない/重要事項留保説=重要かどうか・理由は重要な事項は議会が決める・その補助制度が重要かしだい・難点は重要があいまい) 図:5つの説の比較

  • 侵害留保説=侵害かどうか・理由は自由主義・要らない・難点は民主的な統制が足りないのではないか
  • 全部留保説=すべての行政活動か・理由は国民主権から民主的な正当性・要る・難点は素早く対応できない、広く任せるだけの定めが増える
  • 権力留保説=権力的な形式か・理由は一方的に権利や義務を動かす形式だから議会の関与が要る・形式しだい・難点は契約の形にすれば根拠が要らなくなる
  • 社会留保説=社会給付か・理由は給付が生活を左右する・社会給付に当たるかしだい・難点はここでは挙げない
  • 重要事項留保説=重要かどうか・理由は重要な事項は議会が決める・その補助制度が重要かしだい・難点は重要があいまい

理由から。侵害留保説は自由主義で、侵害は縛り、与える活動は素早く対応できる余地を残す、という理由です。全部留保説は、国民主権から、民主的な正当性を求めます。権力留保説は、一方的に権利や義務を動かす形式なので、議会の関与が要る、という理由です。社会留保説は、給付が生活を左右するからです。重要事項留保説は、重要な事項は議会が決めるべきだ、という理由です。難点です。侵害留保説には、民主的な統制が足りないのではないか、という疑問が向けられます。全部留保説は、素早く対応できない、広く任せるだけの定めが増える。重要事項留保説は、重要があいまいです。権力留保説は、同じ補助でも、契約の形にすれば根拠が要らなくなり、形式しだいで答えが変わります。

正しさを決めるのが、今日の目的ではありません。どの説に立つかで答えが変わる。その理由まで言い分けられることが大切です。冒頭の疑問に戻ると、いちばん筋がとおって見える全部留保説にも、素早く応えられない、広く任せるだけの定めが増える、という難点が挙げられ、侵害留保説の側からは、民主的な統制は法律だけではない、という反論がありました。位置づけとしては、立法の実務と行政の実務が、いまも侵害留保説に立っている、と説明されます。

誰が、どう争えるか

誰が、どう争えるか(B〔補助を受けた店〕=不満が無いので、争わない/E〔断られた店〕=争えるかは、後の回の問い/C〔町の住民〕=住民訴訟の道がある/町議会=特別の定めが無いかぎり、「この補助には根拠が無い」と裁判所に訴えることはできない) 図:誰が、どう争えるか

  • B〔補助を受けた店〕=不満が無いので、争わない
  • E〔断られた店〕=争えるかは、後の回の問い
  • C〔町の住民〕=住民訴訟の道がある
  • 町議会=特別の定めが無いかぎり、「この補助には根拠が無い」と裁判所に訴えることはできない

条例なし、要綱だけの補助は、全部留保説に立つか、重要事項留保説に立ってこの補助の制度を重要と見れば、根拠が要るのに欠いているので、違法になります。では、誰が、どう争えるのか。4者で並べます。Bは、補助を受けた店です。不満が無いので、争いません。町の住民のCには、住民訴訟という道があります。住民訴訟は、住民が、自分の権利や利益とは関係なく、自分の町の違法な公金の使い方を、裁判で争える仕組みです。要件があり、その中身は後の回で扱います。町議会は、特別の定めが無いかぎり、この補助には根拠が無い、と裁判所に訴えることはできません。裁判所が扱うのは、原則として、誰かの具体的な権利や義務をめぐる争いだからです。町議会が、根拠が無い、と訴えても、町議会自身の権利や義務の争いにはなりません。住民訴訟は、法律が特別に置いた道なので、住民は争えるのです。

Eが争えるかは、後の回の問いです。配り方を決める手続や、先ほど名前を出した平等原則、つまり配り方が公平かといった、別の論点が絡むので、ここでは答えを出しません。根拠を欠く補助が、特定の誰かの権利を害するとは限りません。だから、法律の留保が裁判で争われる場面は、限られている、と説明されます。争えない、ではなく、争える場面が限られる、です。

この議論の働き方(裁判の物差しというより①議会と行政に向けた行動の指針〔根拠が要るとする説に立てば、議会は法律や条例で定めよ・行政は根拠なしに出すな〕②今ある法律の作りを読む手がかり〔実務が侵害留保説に立つので、侵害の定めと、与える活動の定めとでは、置かれた理由と性格が違う〕) 図:この議論の働き方

働き方は2つあります。1つ目は、議会と行政に向けた行動の指針です。根拠が要るとする説に立てば、議会は法律や条例で定めよ、行政は根拠なしに出すな、という指針になります。2つ目は、今ある法律の作りを読む手がかりです。実務は侵害留保説に立つと説明されます。そうすると、店に営業を止めさせる命令のような、侵害を定めた法律は、それが無ければ行政が動けない根拠です。補助のような、与える活動を定めた法律や条例には、無くても行えるところに置かれた定めがあります。同じ法律でも、置かれた理由と性格が違う。そう読むための手がかりになります。5つの説は、どれも、憲法の同じ問いへの答え方の違いです。前に見たとおり、どんな性質の行政活動に法律の根拠が要るかは、憲法全体の趣旨から考えるのでした。

根拠があれば足りるのか——規律密度

規律密度(仮の条例「町長は、必要と認める補助をすることができる」→根拠は有る→誰に・どんな条件で配るかは行政が決める→どこまで条例自身が決めておくべきか=規律密度) 図:規律密度

最後に、根拠が有れば足りるのか、を考えます。仮の条例として、「町長は、必要と認める補助をすることができる」とだけ書いた条例があるとします。根拠は、有ります。けれども、誰に、どんな条件で配るかは、結局、行政が決めることになります。先ほどの全部留保説の難点、どんなことでもできると広く任せるだけの定め、と同じ根です。そこで、根拠が有るかどうかだけでなく、どこまで細かく、法律や条例自身が決めておくべきかも問われる、と説明されます。これを、規律密度と呼びます。関わりが深いのは、重要事項留保説です。この説は、根拠を置くだけでなく、重要な部分は法律や条例自身が決めておくべきだ、と考えます。段差解消の補助の制度を重要と見るなら、誰に、どんな条件で配るかの基本は、要綱ではなく、条例自身が決めておくことになります。もっとも、金額の細目や手続まで、すべてを法律や条例が決めきることまでは、法律の留保は求めない、とされます。どこまで行政に任せてよいかは、後の回で扱います。

残る問い——組織と担当を決めた定め

残る問い(ここまで=権限を与える定めを根拠として考えてきた/問い=役所の組織と担当を決めた定めを根拠にできるか/できるなら、組織の定めさえあれば、どんなことでもできることにならないか) 図:残る問い

  • ここまで=権限を与える定めを根拠として考えてきた
  • 問い=役所の組織と担当を決めた定めを根拠にできるか
  • できるなら、組織の定めさえあれば、どんなことでもできることにならないか

ここまでの根拠は、行政に、これこれの場合に、これをしてよい、と権限を与える定めを念頭に置いてきました。では、この役所は、この仕事を担当する、と決めた定めがあれば、それを根拠にできるのでしょうか。どんな役所を置き、何を担当させるか、という、前に見た行政組織の定めです。担当を決めた定めを根拠にできるなら、組織の定めさえあれば、どんなことでもできることにならないか。これが、次の回の問いです。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(法律の留保=どんな性質の行政活動に法律の根拠が要るか/侵害留保説=侵害だけ/全部留保説=すべて/権力留保説=権力的な形式/社会留保説=社会給付/重要事項留保説=重要かどうか/難点=全部留保説は素早く対応できない・重要事項留保説は重要があいまい/権力留保説=形式しだいで答えが変わる/侵害留保説の側の反論=予算の議決・行政の民主的な基盤/争える場面は限られる/規律密度=どこまで細かく決めておくか/残る問い=組織と担当を決めた定め) 図:今日のまとめ

  • 法律の留保=どんな性質の行政活動に法律の根拠が要るか
  • 侵害留保説=侵害だけ
  • 全部留保説=すべて
  • 権力留保説=権力的な形式
  • 社会留保説=社会給付
  • 重要事項留保説=重要かどうか
  • 難点=全部留保説は素早く対応できない・重要事項留保説は重要があいまい
  • 権力留保説=形式しだいで答えが変わる
  • 侵害留保説の側の反論=予算の議決・行政の民主的な基盤
  • 争える場面は限られる
  • 規律密度=どこまで細かく決めておくか
  • 残る問い=組織と担当を決めた定め

最初の問いに戻ります。条例なし、要綱だけの補助に、法律や条例の根拠は要るか。法律の留保は、どんな性質の行政活動に法律の根拠が要るかを問う議論です。今日見た線の引き方は5つあり、どの線に立つかで、この補助の答えが変わります。侵害留保説は侵害だけ、全部留保説はすべて、権力留保説は権力的な形式、社会留保説は社会給付、重要事項留保説は重要かどうかです。全部留保説には、素早く対応できない、という難点が、重要事項留保説には、重要があいまい、という難点が挙げられました。権力留保説は、形式しだいで答えが変わります。立法の実務と行政の実務は、侵害留保説に立つと説明されます。侵害留保説の側は、民主的な統制は法律だけではない、と反論します。予算の議決と、行政の民主的な基盤です。ただし、予算の議決が決めるのは一般に枠で、それで配り方の統制まで足りるかは、説の分かれ目の1つでした。根拠を欠く補助を争える場面は限られ、町なら住民訴訟の道があります。この議論は、議会と行政に向けた行動の指針であり、今ある法律の作りを読む手がかりです。根拠が有るかどうかだけでなく、どこまで細かく決めておくかが、規律密度でした。最後に残った問いは、組織と担当を決めた定めを、根拠にできるのか、です。

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#11単独ページ動画

組織規範・根拠規範・規制規範

第1章 行政法の基礎 ⑪/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

止められた車

止められた車(場面=山あいの町の幹線道路で、Bの車が警察官に止められた/違反の覚えは無い/「交通の取締りのため、通る車を全部止めています」/3つの問い=①誰が担当か ②何をしてよいか ③どうやってやるか) 図:止められた車

  • 場面=山あいの町の幹線道路で、Bの車が警察官に止められた/違反の覚えは無い/「交通の取締りのため、通る車を全部止めています」/3つの問い=①誰が担当か
  • ②何をしてよいか
  • ③どうやってやるか

山あいの町の幹線道路を、駅前の喫茶店の店主Bが、車で走っています。前方で、警察官が手を挙げました。Bは車を止めます。「交通の取締りのため、通る車を全部止めて、短く質問しています」。Bに、違反をした覚えはありません。警察の仕事を決めた法律があるなら止めてよいのか。そこが、今日の入口です。警察の仕事を決めた法律は、あります。それでも、止めてよい法律の根拠がある、とは、すぐには言えません。担当を決めた定めと、権限を与える定めは、別物だからです。行事の係決めに喩えます。係の名簿に名前が載っていることと、人の荷物を預かってよいという許可があることは、別です。名簿があっても、許可が無ければ、他人の荷物には手を出せません。前の回の最後に、問いを残しました。役所の組織と担当を決めた定めがあれば、それを根拠にできるのか。できるなら、組織の定めさえあれば、どんなことでもできることにならないか。今日は、この問いに答えます。先に、答えの一部を言います。法律の根拠がある、と言えるのは、その活動をしてよいと権限を与える定めがあるときです。これを、根拠規範と呼びます。順に見ていきます。

条文を3つの働きで分ける

3つの規範(組織規範=問い〔誰が担当か〕・働き〔どんな機関を置き、何を担当させるか〕・これだけでは足りないこと〔相手の権利を制限し義務を課す力は与えない〕/根拠規範=問い〔何をしてよいか〕・働き〔どんな要件のときに、何をしてよいか、権限を与える〕/規制規範=問い〔どうやってやるか〕・働き〔その活動をするなら、どんな手続・条件・基準でするか〕・これだけでは足りないこと〔その活動をしてよいという権限は与えない〕) 図:3つの規範

  • 組織規範=問い〔誰が担当か〕・働き〔どんな機関を置き、何を担当させるか〕・これだけでは足りないこと〔相手の権利を制限し義務を課す力は与えない〕
  • 根拠規範=問い〔何をしてよいか〕・働き〔どんな要件のときに、何をしてよいか、権限を与える〕
  • 規制規範=問い〔どうやってやるか〕・働き〔その活動をするなら、どんな手続・条件・基準でするか〕・これだけでは足りないこと〔その活動をしてよいという権限は与えない〕

1つの行政活動には、3つの問いがあります。誰が担当か。何をしてよいか。どうやってやるか。法律の条文を、この3つのどれに答えているか、という働きで分けます。通説的な整理です。1つ目は、組織規範です。どんな機関を置き、何を担当させるか、という定めです。担当の中身は、任務や所掌事務と呼ばれます。所掌事務は、その機関が受け持つ仕事のことです。前に見た、行政組織の定めです。2つ目は、根拠規範です。その機関が、どんな要件のときに、何をしてよいか、を定めて、権限を与える定めです。要件は、どんな場合に、という条件。効果は、そのとき何をしてよいか、です。要件と効果が書いてある、と押さえてください。3つ目は、規制規範です。その活動をするなら、どんな手続や条件や基準でしなければならないか、という、やり方を縛る定めです。活動ができることを前提に、やり方を決めます。最初の行事の喩えに戻せば、係の名簿が組織規範、荷物を預かってよいという許可が根拠規範、預かるなら札を付けて番号を控える、と決めた進行表が規制規範です。進行表は、預かってよいとは言っていません。預かるなら、こう預かれ、と決めているだけです。

組織規範は、事務を機関に割り振る定めです。担当者がした行為を、その人個人のものではなく、国や町の行為として扱わせる働きもあります。けれども、相手の権利を制限したり、義務を課したりする力は与えません。前に見たとおり、組織の定めは、国民の権利義務を直接決める法規ではありませんでした。もう1点、大事な注意です。この3つは、法律の種類の分け方ではなく、条文の働きの分け方です。1つの法律の中に、複数の働きの条文が並ぶことがあります。あとで、例を見ます。

3つを具体の条文で見る

条文を読むときの3つの問い(①この条文は、誰が担当かを決めているか ②何をしてよいかを決めているか ③どうやってやるかを決めているか/読み方=その条文の働きを見る) 図:条文を読むときの3つの問い

  • ①この条文は、誰が担当かを決めているか
  • ②何をしてよいかを決めているか
  • ③どうやってやるかを決めているか/読み方=その条文の働きを見る

実際の条文で確かめます。条文は、素材です。条番号や文言を覚える必要はありません。見るのは、その条文が3つの問いのどれに答えているか、です。まず、財務省の任務を定めた条文です。

条文財務省設置法3条1項

財務省設置法第3条第1項 財務省は、健全な財政の確保、適正かつ公平な課税の実現、税関業務の適正な運営、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図ることを任務とする。

問いです。この条文は、担当、権限、やり方のどれを決めていますか。財務省は課税の実現を任務とする、とあります。誰が担当か、を決めている、と思います。ここには、どんな場合に誰へ課税してよいか、という要件も効果も書かれていません。担当を決めるだけです。次は、警察の責務を定めた条文です。

条文警察法2条1項

警察法第2条第1項 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。

警察の責務の中に、交通の取締が入っています。この条文は、3つの問いのどれでしょう。これも、警察は何を担当するか、を決めているので、担当だと思います。担当を決めた、組織規範です。ここで、Bが止められた場面を思い出してください。警察には、交通の取締という担当があります。では、それが、車を止めてよい権限になるのか。それは、あとで見ます。先に、権限を与える条文を見ます。警察官職務執行法の、職務質問の条文です。

条文警察官職務執行法2条1項

警察官職務執行法第2条第1項 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。

この条文は、3つの問いのどれでしょう。要件があって、停止させて質問することができる、という効果が書いてあります。何をしてよいか、だと思います。異常な挙動などから、疑うに足りる相当な理由のある者、という要件のときに、停止させて質問することができる、という効果。権限を与える、根拠規範です。最後は、補助金の条文です。前に見た、補助金等適正化法です。

条文補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律6条1項

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第6条第1項 各省各庁の長は、補助金等の交付の申請があつたときは、当該申請に係る書類等の審査及び必要に応じて行う現地調査等により、当該申請に係る補助金等の交付が法令及び予算で定めるところに違反しないかどうか、補助事業等の目的及び内容が適正であるかどうか、金額の算定に誤がないかどうか等を調査し、補助金等を交付すべきものと認めたときは、すみやかに補助金等の交付の決定(契約の承諾の決定を含む。以下同じ。)をしなければならない。

この条文は、どれでしょう。申請があれば審査して、交付すべきものと認めたら決定をしなければならない。補助金の出し方を決めているので、やり方だと思います。申請から決定までの手続を定めた、規制規範です。補助金を出してよい、という権限を与える働きではありません。この点は、あとで詳しく見ます。

4つの条文の振り分け(財務省設置法3条1項=担当を決める→組織規範/警察法2条1項=担当を決める→組織規範/警察官職務執行法2条1項=要件と、できることを決める→根拠規範/補助金等適正化法6条1項=申請から決定までのやり方を決める→規制規範) 図:4つの条文の振り分け

  • 財務省設置法3条1項=担当を決める→組織規範
  • 警察法2条1項=担当を決める→組織規範
  • 警察官職務執行法2条1項=要件と、できることを決める→根拠規範
  • 補助金等適正化法6条1項=申請から決定までのやり方を決める→規制規範

4つを振り分けると、組織規範が2つ、根拠規範が1つ、規制規範が1つです。

留保でいう法律は根拠規範

組織の定めだけを根拠にしたら(仮の場面=警察官が、警察の責務を定めた条文だけを根拠に、Bの店に営業を止めよと命じる/警察の責務を定めた条文には、どんな場合に命じてよいかの要件も、命じるという効果も書かれていない/問い=これは、法律の根拠のある措置と言えるか) 図:組織の定めだけを根拠にしたら

  • 仮の場面=警察官が、警察の責務を定めた条文だけを根拠に、Bの店に営業を止めよと命じる
  • 警察の責務を定めた条文には、どんな場合に命じてよいかの要件も、命じるという効果も書かれていない
  • 問い=これは、法律の根拠のある措置と言えるか

ここで、前の回の内容を思い出してください。法律の留保は、どんな性質の行政活動に、法律の根拠が要るか、という問いでした。では、そこで求める法律の根拠とは、どんな定めのことでしたか?行政に、これこれの場合に、これをしてよい、と権限を与える定めでした。この言葉で、前の回の問いの前半に答えられます。仮の話です。警察官が、警察の責務を定めた条文だけを根拠に、Bの店に、営業を止めよ、と命じたとします。責務の条文は、担当を決めているだけです。どんな場合に営業を止めさせてよいか、という要件も、止めさせるという効果も、書かれていません。相手の権利を制限する力は、与えられていないのです。

留保でいう法律(法律の留保で求める「法律の根拠」=根拠規範/組織規範=担当を決めるだけで、権利を制限し義務を課す要件と効果は定めていない→これだけでは足りない/営業を止めさせる命令のような措置=要件と効果を定めた根拠規範が別に要る) 図:留保でいう法律

  • 法律の留保で求める「法律の根拠」=根拠規範
  • 組織規範=担当を決めるだけで、権利を制限し義務を課す要件と効果は定めていない→これだけでは足りない
  • 営業を止めさせる命令のような措置=要件と効果を定めた根拠規範が別に要る

整理します。法律の留保で求める法律の根拠は、根拠規範です。組織規範だけでは足りません。担当を決めただけの定めには、相手の権利を制限し義務を課す要件と効果がないからです。侵害留保説は、相手の自由や財産を侵害する行為には、法律の根拠が要る、とする説でした。この説に立てば、店に営業を止めさせるような措置は侵害に当たるので、要件と効果を定めた根拠規範が、別に要ります。前の回で、侵害は自由主義の見地から縛る、と説明しました。自由主義は、個人の自由を守るべきだ、という考え方です。店の営業を止めさせるような、自由を取り上げる向きの活動は、どんな場合に何をしてよいかを、国会が法律で先に決めた場合に限る。そうしておけば、行政が、その場の判断だけで、Bの店を止めさせることはできません。この歯止めの役目を果たすのが、要件と効果を定めた根拠規範です。反対に、同じ警察官が、Bに、店の前の車を少し動かしてもらえませんか、とお願いするだけなら、話が違います。応じるかどうかはBが決められるので、権利を制限していません。前の回で見たとおり、侵害留保説では、こうした任意の協力を求める働きかけに、法律の根拠は要りません。どこまで許されるかは、このあと、一斉検問で見ます。

分かれる例と同居する例

働きで見る(別の法律に分かれる例=警察法〔警察の責務・都道府県警察を置く=担当〕と警察官職務執行法〔職務質問の要件と効果=権限〕/1つの法律に同居する例=私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の27条1項〔公正取引委員会を置く=担当〕と7条1項〔違反行為があるとき、必要な措置を命ずることができる=権限〕/補助金等適正化法=申請・決定の手続〔やり方〕と、17条1項の交付決定の取消し〔権限〕が並ぶ) 図:働きで見る

  • 別の法律に分かれる例=警察法〔警察の責務・都道府県警察を置く=担当〕と警察官職務執行法〔職務質問の要件と効果=権限〕
  • 1つの法律に同居する例=私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の27条1項〔公正取引委員会を置く=担当〕と7条1項〔違反行為があるとき、必要な措置を命ずることができる=権限〕
  • 補助金等適正化法=申請・決定の手続〔やり方〕と、17条1項の交付決定の取消し〔権限〕が並ぶ

3つの働きは、条文の働きなので、法律ごとに1つ、とは限りません。まず、別の法律に分かれる型です。警察の責務や都道府県警察を置くことは、警察法が定めます。職務質問の要件と効果は、警察官職務執行法が定めます。担当と権限が、別の法律に置かれています。次に、1つの法律に同居する型です。私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律には、27条1項に、公正取引委員会を置く、という担当の定めがあります。7条1項には、違反行為があるときに、必要な措置を命ずることができる、という権限を与える定めがあります。1つの法律の中に、担当と権限が並んでいます。行事の喩えなら、係の名簿と許可が、別々の紙に書かれることもあれば、1枚の紙に並ぶこともある、ということです。

交付決定を取り消すことができる、と書いた17条1項があります。この条文は、補助金をほかの用途に使ったときなど、どんな場合に取り消してよいかを定めて、いったん決めた交付を取り消す権限を、国の側に与えています。だから、働きは、権限を与える定めです。このように、法律の名前ではなく、条文ごとに働きを見ます。

見分けの練習(次の3つの一文は、担当・権限・やり方のどれを決めているか/①「警察官は、…停止させて質問することができる。」②「…公正取引委員会を置く。」③「補助金等の交付の申請をしようとする者は、…申請書に…添え、…提出しなければならない。」) 図:見分けの練習

  • 次の3つの一文は、担当・権限・やり方のどれを決めているか
  • ①「警察官は、…停止させて質問することができる。」②「…公正取引委員会を置く。」③「補助金等の交付の申請をしようとする者は、…申請書に…添え、…提出しなければならない。」

練習です。3つの一文を見せます。それぞれ、担当、権限、やり方のどれを決めているでしょう。1つ目は、警察官は、停止させて質問することができる。2つ目は、公正取引委員会を置く。3つ目は、補助金等の交付の申請をしようとする者は、申請書に書類を添え、提出しなければならない。

見分けの練習の答え(①「警察官は、…停止させて質問することができる。」=根拠規範〔何をしてよいか〕/②「…公正取引委員会を置く。」=組織規範〔誰が担当か〕/③「補助金等の交付の申請をしようとする者は、…提出しなければならない。」=規制規範〔どうやってやるか〕/目安=「置く・任務とする」は組織、「することができる」は根拠、「しなければならない」は規制/ただし目安は目安=法律の名前や述語でなく、条文が何を決めているかで見る) 図:見分けの練習の答え

  • ①「警察官は、…停止させて質問することができる。」=根拠規範〔何をしてよいか〕
  • ②「…公正取引委員会を置く。」=組織規範〔誰が担当か〕
  • ③「補助金等の交付の申請をしようとする者は、…提出しなければならない。」=規制規範〔どうやってやるか〕/目安=「置く・任務とする」は組織、「することができる」は根拠、「しなければならない」は規制/ただし目安は目安=法律の名前や述語でなく、条文が何を決めているかで見る

答え合わせです。1つ目は、何をしてよいか、の根拠規範。2つ目は、誰が担当か、の組織規範。3つ目は、どうやってやるか、の規制規範です。見分けの目安は、述語です。置く、任務とする、は組織。することができる、は根拠。しなければならない、は規制です。ただし、あくまで目安です。先ほどの17条1項のように、やり方を定める法律の中にも、権限を与える条文があります。法律の名前や述語だけでなく、その条文が何を決めているかを見てください。手続を定める法律も、働きは規制規範です。行政手続法がその例ですが、中身は後の回で扱います。

規制規範があっても根拠があるとは限らない

補助金の出し方と出す根拠(A〔国〕→B〔店〕に補助金を出す/補助金等適正化法=申請・決定・条件・取消しの共通のやり方を定める/問い=この法律があるから、国は補助金を出してよいのか) 図:補助金の出し方と出す根拠

  • A〔国〕→B〔店〕に補助金を出す
  • 補助金等適正化法=申請・決定・条件・取消しの共通のやり方を定める
  • 問い=この法律があるから、国は補助金を出してよいのか

次に、つまずきやすい点です。国が国以外の者に交付する補助金について、前に見た補助金等適正化法は、申請、決定、条件、取消しなどの、共通のやり方を定めています。そこで、思い出してください。国の補助金のうち、法律の根拠なく、予算だけで出す補助を、何と呼びましたか?予算補助です。それを踏まえて、問いです。補助金等適正化法があるのだから、国が補助金を出してよい根拠も、あるのではないでしょうか。取り違えやすいところです。6条1項などの手続や条件の条文は、規制規範の働きです。補助を出してよいと権限を与える働きではありません。補助を出すことが許されることを前提に、出し方を適正にする定めです。たとえば、国が、Bの店の設備の改修に、予算補助で補助金を出すとします。適正化法が決めるのは、Bが申請書を出し、国が審査して交付を決める、というやり方です。国がBに補助金を出してよい、とは、どこにも書いていません。

規制規範と根拠(規制規範=補助金等適正化法の手続・条件の条文=出し方を縛る→出してよいという権限は与えない/前の回の整理=侵害留保説に立てば、給付である補助金に法律の根拠は要らない/予算補助=法律の根拠なく予算だけで出す補助/結論=出す根拠が無くても出せる補助がある。出すなら、出し方の規制は守る) 図:規制規範と根拠

  • 規制規範=補助金等適正化法の手続・条件の条文=出し方を縛る→出してよいという権限は与えない
  • 前の回の整理=侵害留保説に立てば、給付である補助金に法律の根拠は要らない
  • 予算補助=法律の根拠なく予算だけで出す補助
  • 結論=出す根拠が無くても出せる補助がある。出すなら、出し方の規制は守る

前の回の整理と、つなげます。侵害留保説が法律の根拠を求めるのは、相手の自由や財産を侵害する行為だけでした。補助金は、相手から取り上げるのではなく、与える給付なので、侵害に当たらず、この説では法律の根拠は要りません。与える活動は、法律を待たずにすぐ対応できる余地を残したほうがよい、という理由でした。だから、国が予算補助で出すこと自体は、許されます。そのうえで、出すなら、適正化法の手続や条件を守る。出す根拠の問いと、出し方の問いは、別の問いです。手続や条件に反すれば、違法になりえます。法律があるとき、それに反してはならない、という、法律の優位の側の問いです。定めがあるとき外れてよいか、が優位でした。定めが無いとき動けるか、が留保でした。補足です。権力留保説は、行政が権力的な形式で活動するときに、法律の根拠を求める説でした。この説に立つと、交付の決定を行政処分とする法律の定めが、根拠になりうる、という見方もあります。ここでは、一言だけです。交付決定が処分に当たるかは、後の回で扱います。

組織規範だけで動ける場面はあるか

自動車の一斉検問(場面=交通違反の予防・検挙のため、警察官が通る自動車に、外観上の不審の有無を問わず短い時間の停止を求め、運転者に必要な事項を質問する/問い=警察の責務を定めた組織の定めだけで、止めて質問してよいか) 図:自動車の一斉検問

  • 場面=交通違反の予防・検挙のため、警察官が通る自動車に、外観上の不審の有無を問わず短い時間の停止を求め、運転者に必要な事項を質問する
  • 問い=警察の責務を定めた組織の定めだけで、止めて質問してよいか

Bが止められた場面に戻ります。これは、自動車の一斉検問です。交通違反の予防や検挙のために、通る自動車に、外観上の不審な点があるかどうかにかかわらず、短い時間の停止を求めて、運転者に必要な事項を質問します。職務質問の条文は、異常な挙動などの要件を定めていました。一斉検問は、不審な点の有無を問わず止めます。だから、職務質問の要件を満たす形では、ありません。問いです。警察の責務を定めた、組織の定めだけで、止めて質問してよいでしょうか。最高裁は、この問いに、2段で答えました。1段目は、任意の手段なら、一般的に許される、という原則。2段目は、それでも無制限ではない、という限定です。判示を見ます。

判例最決昭55・9・22 刑集34巻5号272頁

任意手段の許容と限界 警察法二条一項が「交通の取締」を警察の責務として定めていることに照らすと、交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容されるべきものであるが、それが国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項にかかわる場合には、任意手段によるからといつて無制限に許されるべきものでないことも同条二項及び警察官職務執行法一条などの趣旨にかんがみ明らかである。

ここまでが、原則と限定です。続きが、一斉検問そのものへの答えです。

判例最決昭55・9・22 刑集34巻5号272頁

一斉検問が適法となる条件 しかしながら、自動車の運転者は、公道において自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものであること、その他現時における交通違反、交通事故の状況などをも考慮すると、警察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである。

一斉検問の判示(挙げた条文=警察法2条1項〔交通の取締を責務とする〕/警察の活動=強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容される/ただし=国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項は、任意手段でも無制限には許されない/一斉検問=相手方の任意の協力を求める形で、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法) 図:一斉検問の判示

  • 挙げた条文=警察法2条1項〔交通の取締を責務とする〕
  • 警察の活動=強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容される
  • ただし=国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項は、任意手段でも無制限には許されない
  • 一斉検問=相手方の任意の協力を求める形で、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法

判示が使った条文は、警察法の2条1項です。警察官職務執行法の2条1項ではありません。担当を決めた、組織の定めです。この責務に照らすと、警察の活動は、強制力を伴わない任意の手段による限り、一般的に許される、としました。ただし、限定が付いています。国民の権利や自由の干渉にわたるおそれのある事項は、任意の手段でも、無制限には許されません。一斉検問は、相手の任意の協力を求める形で、自動車の利用者の自由を不当に制約しない方法、態様で行われる限り、適法、とされました。なぜ、任意なら許されるのか。応じるかどうかを相手が決められるなら、権利を制限していないからです。では、自由に関わる一斉の停止が、なぜ許されるのか。判示は、公道で車を使うことを許されている以上、運転者は、必要な限度の交通の取締りに協力すべきだ、という点を挙げています。

判示の限定のもとでは、適法です。強制ではなく、運転者の協力を求める形で、短い停止と質問にとどまる場合です。協力すべき、という点は、停止を求めてよい理由です。それでも判示は、相手方の任意の協力を求める形で行われる限り、と限っています。整理します。判例は、任意の手段に限って、組織の定めを手がかりに、許しました。強制にわたるなら、根拠規範が要ります。ここは論文でも論点になりえます。検問の適法性の判断の枠組みなどは、後の回で扱います。

組織法を根拠にすることへの批判

組織の定めを根拠にすることへの批判(見解=組織の定めを、法律の留保の根拠にできる場合があるとする〔全部留保説の、素早く応えられない難点に応える形で出た〕/批判=組織の定めさえあれば、どんな行政活動も認められてしまい、個人の自由を守る歯止めが薄れる/再批判=規律密度を、要件と効果がまるごと抜け落ちるところまで下げてよいのか/整理=組織規範で行えるのは、権利を制限せず義務を課さない任意の活動) 図:組織の定めを根拠にすることへの批判

  • 見解=組織の定めを、法律の留保の根拠にできる場合があるとする〔全部留保説の、素早く応えられない難点に応える形で出た〕
  • 批判=組織の定めさえあれば、どんな行政活動も認められてしまい、個人の自由を守る歯止めが薄れる
  • 再批判=規律密度を、要件と効果がまるごと抜け落ちるところまで下げてよいのか
  • 整理=組織規範で行えるのは、権利を制限せず義務を課さない任意の活動

前の回の問いの後半です。担当を決めた定めを根拠にできるなら、組織の定めさえあれば、どんなことでもできることにならないか。学説には、組織の定めを、法律の留保の根拠にできる場合がある、という見解があります。前の回の全部留保説、つまり、すべての行政活動に法律の根拠が要る、という説には、素早く応えられない、という難点がありました。問題が起きるたびに、どんな場合に何をしてよいかを、前もって全部、法律に書いておくことはできないからです。そこで、この説に立つ論者の一部から、場合によっては、要件と効果を定めた根拠規範でなくても、担当を決めた組織規範で足りる、という見解が出されました。

この見解は、批判されます。組織の定めさえあれば、事実上、どんな行政活動も認められてしまいます。国家権力から個人の自由を守る、という法律の留保の問題意識が、薄れてしまう。これが批判です。たとえば、さっきの、Bの店に営業を止めよと命じる場面も、警察の責務の条文だけで、できることになってしまいます。再批判もあります。前の回で、どこまで細かく、法律自身が決めておくべきかを、規律密度と呼びました。根拠規範なら、どんな場合に何をしてよいか、という要件と効果を、法律が決めます。組織規範は、担当を決めるだけです。組織規範で足りるとすれば、法律が決めておく中身は、少し粗くなるのではなく、要件と効果がまるごと抜け落ちます。Bの店なら、どんな場合に営業を止めさせてよいかを、法律は何も決めていないことになる。規律密度を、そこまで下げてよいのか、という問いです。前の回の問いに答えます。組織の定めがあれば、何でもできる、のではありません。組織規範は担当を決めるだけなので、権利を制限し、義務を課す活動はできません。組織規範で行えるのは、相手の権利を制限せず、義務を課さない、任意の活動に限られる、と整理されます。一斉検問の判示が、強制力を伴わない任意の手段に限定していたのも、この整理と合っています。

任意の活動は、行えます。できないのは、権利を制限し、義務を課す活動です。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(「根拠はあるか」と問われたら=①その活動を許す根拠規範を探す〔要件と効果を定めて、権限を与える定め〕②無ければ、組織規範だけで足りる任意の活動かを見る〔強制力を伴わず、相手の協力を求める形〕③根拠規範があっても、規制規範の手続・条件を守っているかは別に問う〔法律の優位の側〕/3つの規範=組織規範〔誰が担当か〕・根拠規範〔何をしてよいか〕・規制規範〔どうやってやるか〕) 図:今日のまとめ

  • 「根拠はあるか」と問われたら=①その活動を許す根拠規範を探す〔要件と効果を定めて、権限を与える定め〕②無ければ、組織規範だけで足りる任意の活動かを見る〔強制力を伴わず、相手の協力を求める形〕③根拠規範があっても、規制規範の手続・条件を守っているかは別に問う〔法律の優位の側〕
  • 3つの規範=組織規範〔誰が担当か〕・根拠規範〔何をしてよいか〕・規制規範〔どうやってやるか〕

最初の問いに戻ります。Bが一斉検問で止められました。法律の根拠はあるのか。法律の根拠はあるか、と問われたら、3段で考えます。1段目は、その活動を許す根拠規範を探します。要件と効果を定めて、権限を与える定めです。2段目は、無ければ、組織規範だけで足りる任意の活動かを見ます。強制力を伴わず、相手の協力を求める形か、です。一斉検問は、判示の限定のもとで、この形でした。3段目は、根拠規範があっても、規制規範の手続や条件を守っているかは、別に問います。法律の優位の側の問いです。3つの規範は、組織規範が、誰が担当か。根拠規範が、何をしてよいか。規制規範が、どうやってやるか、でした。法律の留保で求める法律の根拠は、根拠規範です。組織規範だけでは、権利を制限し義務を課す活動はできません。規制規範は、出し方を縛る定めで、出す根拠とは別の問いです。分けるのは、法律の種類ではなく、条文の働きです。

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#12単独ページ動画

緊急の措置・公表・租税の減免

第1章 行政法の基礎 ⑫/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

大雨の前の夜

大雨の前の夜(場面=山あいの町の取水堰の水路を、誰かが無断で置いた資材がふさぎ、下流の集落にあふれそう/町長A=独断で資材を撤去/町にその権限を与える定めは無い/問い=よくやった、と言えるか。根拠が無い、とも言えないか) 図:大雨の前の夜

  • 場面=山あいの町の取水堰の水路を、誰かが無断で置いた資材がふさぎ、下流の集落にあふれそう
  • 町長A=独断で資材を撤去
  • 町にその権限を与える定めは無い
  • 問い=よくやった、と言えるか。根拠が無い、とも言えないか

大雨の前の夜です。山あいの町の取水堰の水路に、誰かが無断で置いた資材が引っかかり、水の流れをふさいでいます。このままだと、下流の集落に水があふれます。町長のAは、独断で資材を撤去させました。町に、その権限を与える定めは、ありません。どちらも言えそうなところが、今日の入口です。ここで、問いを2つに分けます。1つ目は、法律が無いときに、行政が目の前の個別の行為をしてよいか。これが法律の留保でした。2つ目は、法律があるときに、行政はそこから外れてよいか。これが法律の優位でした。定めが無いままルールを作るのは、法規創造力の問いでしたが、今日の4つの場面は、どれも個別の行為です。町長の撤去は、1つ目の問いです。

2つの問い(法律が無いとき、動けるか=法律の留保/法律があるとき、外れてよいか=法律の優位/今日の4つの場面=緊急の措置〔無いとき〕・公表〔無いとき〕・料金を取る作用〔無いとき〕・租税の減免〔あるとき〕) 図:2つの問い

  • 法律が無いとき、動けるか=法律の留保
  • 法律があるとき、外れてよいか=法律の優位
  • 今日の4つの場面=緊急の措置〔無いとき〕・公表〔無いとき〕・料金を取る作用〔無いとき〕・租税の減免〔あるとき〕

今日は、この2つの問いを、行政が実際に迷う場面で使い分けます。場面は4つです。緊急の措置、公表、料金を取る作用、租税の減免。最後の1つだけ、実は2つ目の問いです。得をさせる行為なのに、行政が勝手にはできない。その理由を見ます。実際に最高裁まで争われた事件があります。そこから見ます。

緊急の措置

事案の図(A=町長/C=杭を不法に打ち込んだ設置者/D=住民/漁港の区域内の川に、鉄道のレール約100本、全長約750メートルの杭/船の航行の妨げ・夜間と干潮時の危険/設置者に撤去を求めたが応じない/A=町として強制撤去を決め、業者と請負契約〔130万円〕を結ぶ/町には漁港管理規程が制定されていなかった/D=公金の違法な支出だとして、町長Aに賠償を求める) 図:事案の図

  • A=町長
  • C=杭を不法に打ち込んだ設置者
  • D=住民
  • 漁港の区域内の川に、鉄道のレール約100本、全長約750メートルの杭
  • 船の航行の妨げ・夜間と干潮時の危険
  • 設置者に撤去を求めたが応じない
  • A=町として強制撤去を決め、業者と請負契約〔130万円〕を結ぶ
  • 町には漁港管理規程が制定されていなかった
  • D=公金の違法な支出だとして、町長Aに賠償を求める

前の回を思い出してください。権限を与える定めを、何と呼びましたか?根拠規範です。では事件です。漁港の区域内の川に、不法に鉄道のレールの杭が、約100本、全長約750メートルにわたって打ち込まれました。船の航行の妨げになり、夜間と干潮時は危険です。町が県に撤去を要請しても、県はすぐには動けません。県も、杭を打った設置者Cに、至急の撤去を求めましたが、応じません。数日後には、ヨット約70隻が、この杭に係留される予定でした。町長Aは、町として強制撤去を決めました。業者に請け負わせ、代金130万円を払って撤去させます。ところが町には、漁港の管理規程が制定されていませんでした。管理規程があれば、それに基づく管理の権限で撤去できます。無かったので、撤去を命じる根拠規範が見当たりません。住民Dは、法律の根拠の無い違法な撤去で、公金の違法な支出だとして、町長に賠償を求めました。住民訴訟です。要件は後の回で扱います。

問いにします。裁判所は、この撤去を、適法と認めたでしょうか。そして、町長は賠償責任を負ったでしょうか。この2つは、別の問いです。順に、判決の言葉で見ます。

判例最判平3・3・8 民集45巻3号164頁

管理規程が無かった点 しかし、当時、c町においては漁港管理規程が制定されていなかったのであるから、上告人がd漁港の管理者たる同町の町長として本件鉄杭撤去を強行したことは、漁港法の規定に違反しており、これにつき行政代執行法に基づく代執行としての適法性を肯定する余地はない。

1つ目の答えは、ここに出ています。管理規程が無かったので、撤去は漁港法に違反します。代執行として適法とする余地もない、という判断です。代執行は、法律に基づく命令があって初めて使えます。その命令の根拠が無かったのです。代執行の中身は、後の回で扱います。続きが、2つ目の答えです。なお、次のカードの最後に出てくる浦安市は、事件当時は町だった、同じ自治体です。のちに市になったので、呼び名が変わっています。

判例最判平3・3・8 民集45巻3号164頁

適法とは認められない、しかし賠償責任は負わない そうすると、上告人がc町の町長として本件鉄杭撤去を強行したことは、漁港法及び行政代執行法上適法と認めることのできないものであるが、右の緊急の事態に対処するためにとられたやむを得ない措置であり、民法七二〇条の法意に照らしても、c町としては、上告人が右撤去に直接要した費用を同町の経費として支出したことを容認すべきものであって、本件請負契約に基づく公金支出については、その違法性を肯認することはできず、上告人が浦安市に対し損害賠償責任を負うものとすることはできないといわなければならない。

判決の読み方3点(①撤去そのもの=漁港法及び行政代執行法上、適法とは認められない/②否定されたもの=公金支出の違法性、つまり町長の損害賠償責任/③民法720条=「適用」ではなく「法意に照らして」。撤去する権限を与える定めではない/結論=根拠規範が無い緊急の撤去を適法にした判決ではない) 図:判決の読み方3点

  • ①撤去そのもの=漁港法及び行政代執行法上、適法とは認められない
  • ②否定されたもの=公金支出の違法性、つまり町長の損害賠償責任
  • ③民法720条=「適用」ではなく「法意に照らして」。撤去する権限を与える定めではない/結論=根拠規範が無い緊急の撤去を適法にした判決ではない

読み方は3点です。1点目、撤去そのものは、適法と認められていません。判決自身が、適法と認めることのできないもの、と書いています。2点目、否定されたのは、公金支出の違法性、つまり町長の損害賠償責任です。緊急の事態に対処するための、やむを得ない措置だったので、町が撤去の費用を負担することは容認すべきだ、という理由でした。緊急の場合は、法律の根拠が無くても行政は動いてよい、と最高裁が認めたことになりませんか。なりません。認められたのは、動いてよいことではなく、賠償を負わなくてよいことです。権限があったから許されたのではなく、権限は無かったが責任は問わない、という結論です。この違いが、今日いちばんのつまずきどころです。3点目に、民法720条との関係です。条文を見ます。

条文民法720条1項

民法第720条第1項 他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。

他人の不法行為から権利を守るために、やむを得ず加害行為をした人は、損害賠償の責任を負わない、という定めです。私人どうしの定めで、責任を免れさせる働きです。他人の財産を撤去してよい、という権限を与える定めではありません。判決も、720条を適用した、とは言っていません。720条の法意に照らして、と述べています。条文そのものではなく、その趣旨を借りて、責任を否定したのです。借りたのは責任の側であって、権限の側ではありません。なぜ責任を負わせないのか。危険から守るために、ほかに手が無く、やむを得ずした行為なら、その人を責めるのは筋が違う。720条は、私人どうしでこの考えを定めています。判決は同じ考えで、町の危険を除くために直接要った費用は、町が持つべきだ、と見たのです。

根拠が無ければ違法。ただし、緊急のやむを得ない措置なら、責任は別に考える。この2段です。緊急に備えて、あらかじめ根拠を置く仕組みは、後の回で扱います。冒頭の町長の撤去も同じです。町に権限を与える定めが無い以上、撤去は違法のままです。責任をどうするかは、別に問われます。

公表

前に残した問い(山あいの町/A=国の役所/B=駅前の喫茶店の店主/AがBに、看板の照明を消してもらえませんか、とお願い。ただし「応じなければ、店の名前を公表します」と書き添えた/義務は無いのに、断りにくい/問い=応じなかったとき、実際に何が待っているか) 図:前に残した問い

  • 山あいの町
  • A=国の役所
  • B=駅前の喫茶店の店主
  • AがBに、看板の照明を消してもらえませんか、とお願い。ただし「応じなければ、店の名前を公表します」と書き添えた
  • 義務は無いのに、断りにくい
  • 問い=応じなかったとき、実際に何が待っているか

次は公表です。前に、こういう場面を見ました。国の役所Aが、喫茶店のBに、看板の照明を消してもらえませんか、とお願いします。ただし、応じなければ店の名前を公表します、と書き添えました。形はお願いで、義務はありません。けれども断りにくい。侵害かどうかは、結論を保留していました。今日、答えます。答えの軸は、その公表が何として働くか、です。公表は、2種類に分けて考えます。1つ目は、情報提供や注意喚起を主な目的にする公表。2つ目は、制裁や義務の履行確保として働く公表です。

公表の2種類(情報提供・注意喚起として働く公表=目的は知らせて注意を促すこと/法律の根拠=要らない/例=町が「この水は飲まないで」と知らせる。制裁・義務履行確保として働く公表=目的は従わせること、懲らしめること/法律の根拠=要ると考えられる〔侵害に当たる〕/例=町の条例に基づき、勧告に従わない店の名前を公表する) 図:公表の2種類

  • 情報提供・注意喚起として働く公表=目的は知らせて注意を促すこと
  • 法律の根拠=要らない
  • 例=町が「この水は飲まないで」と知らせる。制裁・義務履行確保として働く公表=目的は従わせること、懲らしめること
  • 法律の根拠=要ると考えられる〔侵害に当たる〕
  • 例=町の条例に基づき、勧告に従わない店の名前を公表する

町の看板に例えます。町が、この井戸の水は飲まないでください、と貼り出すのは、住民に注意を促す公表です。誰かを従わせる仕掛けではありません。ところが、町の勧告に従わない店の名前を貼り出す、と決めておくのは、従わせるための仕掛けです。従わなければ名前を出す、と先に決めておくことで、従うように仕向けているのです。後者は、制度として制裁の働きをするように仕組まれているので、侵害に当たります。侵害留保説に立てば、法律の根拠が要ると考えられます。前者は、知らせるだけなので、根拠は要りません。では3問です。1問目、町が、水質の悪化に気づき、この水は飲まないで、と住民に知らせる。2問目、町の条例に、勧告に従わない店の名前を公表できる、と定めがあり、その条例に基づいて公表する。3問目、条例に何の定めも無いのに、町が、従わない店の名前を公表する。それぞれ、どちらの公表か。根拠は要るか。要るなら、あるか。

練習の問い(1=町が「この水は飲まないで」と住民に知らせる/2=町の条例に定めがあり、勧告に従わない店の名前を、その条例に基づいて公表する/3=条例に定めが無いまま、町が、従わない店の名前を公表する/各問い=情報提供か、制裁か。根拠は要るか、あるか) 図:練習の問い

  • 1=町が「この水は飲まないで」と住民に知らせる
  • 2=町の条例に定めがあり、勧告に従わない店の名前を、その条例に基づいて公表する
  • 3=条例に定めが無いまま、町が、従わない店の名前を公表する
  • 各問い=情報提供か、制裁か。根拠は要るか、あるか

3問とも、情報提供か制裁かの見分けも、根拠が要るかどうかの結論も、合っています。

練習の答え(1=情報提供・根拠不要/2=制裁・根拠が要る。条例の定めがあるので、適法となる前提がある/3=制裁・根拠が要るのに、無い。侵害留保に反し、違法/見分ける軸=その公表が、従わせる仕掛けとして働くか) 図:練習の答え

  • 1=情報提供・根拠不要
  • 2=制裁・根拠が要る。条例の定めがあるので、適法となる前提がある
  • 3=制裁・根拠が要るのに、無い。侵害留保に反し、違法
  • 見分ける軸=その公表が、従わせる仕掛けとして働くか

1問目は、情報提供で根拠不要。2問目は、制裁で、根拠があります。3問目は、制裁なのに根拠が無く、侵害留保に反して違法です。軸は、その公表が、従わせる仕掛けとして働くかどうかです。最初の場面に戻ります。国の役所が、応じなければ店の名前を公表する、と添えたお願いです。形はお願いでも、応じない者に公表という不利益を待たせて従わせる仕組みなら、制裁として働く公表です。その場合は、根拠が要ると考えられます。

情報提供でも無制約ではない(東京高裁の判断の2段=①公表に、明示の法的根拠は不要〔制裁など、法律上の不利益を課すことを予定していない。売上の激減は事実上の不利益で、公表の法的効果ではない〕/②でも、公表は何の制限も受けないわけではない〔目的・方法・生じた結果から是認できることが必要。注意義務に違反すれば、国家賠償法1条1項の責任〕) 図:情報提供でも無制約ではない

  • 東京高裁の判断の2段=①公表に、明示の法的根拠は不要〔制裁など、法律上の不利益を課すことを予定していない。売上の激減は事実上の不利益で、公表の法的効果ではない〕
  • ②でも、公表は何の制限も受けないわけではない〔目的・方法・生じた結果から是認できることが必要。注意義務に違反すれば、国家賠償法1条1項の責任〕

情報提供の側の代表例を見ます。ある地域で、O157による集団下痢症が起きました。国は、記者会見で、原因食材の可能性がある、として、貝割れ大根を公表しました。売上が激減した業者が、国に賠償を求めた事件です。

判例東京高判平15・5・21 判時1835号77頁

根拠は不要 本件各報告の公表は,現行法上,これを許容し,又は命ずる規定が見あたらないものの,関係者に対し,行政上の制裁等,法律上の不利益を課すことを予定したものでなく,これをするについて,明示の法的根拠を必要としない。本件各報告の公表を受けてされた報道の後,貝割れ大根の売上が激減し,これにより控訴人らが不利益を受けたことも,前記(原判決157頁以下)のとおりであるが,それらの不利益は,本件各報告の公表の法的効果ということはできず,これに法的根拠を要することの裏付けとなるものではない。本件各報告の公表について法律上の根拠を要することを前提とする控訴人らの主張は,前提を欠き,また,憲法29条2項違反をいう点も,採用の限りではない。

決め手は、この公表が制裁などの法律上の不利益を課すものではなく、売上の激減は事実上の不利益にとどまる、という点です。法的な効果ではないので、根拠は要らないとされました。客が減ることは、どちらでも起きます。違いは、公表が何のために置かれているかです。制裁の公表は、従わないことへの報いとして、不利益を与えるために仕組まれています。貝割れ大根の公表は、知らせることが目的で、売上の激減は、その結果として起きたものでした。だから、法律の根拠は要らないとされたのです。情報提供なら何でも公表してよい、というわけではありません。そこが落とし穴です。続きを見ます。

判例東京高判平15・5・21 判時1835号77頁

無制約ではない しかしながら,本件各報告の公表は,なんらの制限を受けないものでもなく,目的,方法,生じた結果の諸点から,是認できるものであることを要し,これにより生じた不利益につき,注意義務に違反するところがあれば,国家賠償法1条1項に基づく責任が生じることは,避けられない。

根拠が要らないことと、何をしてもよいことは、別です。判決は、公表の目的、方法、結果から是認できることを求めました。そのうえで、何について注意を促し、どう行動してほしいのかが不明のまま、曖昧な内容をそのまま公表し、貝割れ大根が原因だと疑われている、という誤解を広く生じさせた点を問題にしました。公表の方法は違法で、請求は一部が認められました。根拠が不要でも、やり方次第で、国家賠償の責任を負うのです。根拠の問題は、法律の留保の問いでした。やり方の相当性は、別の問いです。

条文食品衛生法69条

食品衛生法第69条 厚生労働大臣、内閣総理大臣及び都道府県知事は、食品衛生上の危害の発生を防止するため、この法律又はこの法律に基づく処分に違反した者の名称等を公表し、食品衛生上の危害の状況を明らかにするよう努めるものとする。

食品衛生法には、違反した者の名称等を公表し、危害の状況を明らかにするよう努める、という定めがあります。条文は暗記しなくて構いません。見る点は2つです。1つ目。違反した者の名前を出すのに、制裁ではないのか。条文の目的は、食品衛生上の危害の発生を防ぎ、危害の状況を明らかにすることです。主な目的が知らせて守ることにあるので、情報提供の側に入ります。名前を出すかどうかではなく、何のための公表かで分けます。2つ目。この定めは、公表してよいという権限を与える根拠規範ではなく、規制規範の働きをするものと解されます。前の回で、やり方を縛る定めを、規制規範と呼びました。公表できることは前提のまま、公表するときの目的や心がまえを示している、という見方です。命じる書き方ではなく、努めるものとする、という促す書き方なのも、その見方と合います。

食品衛生法がなければ、公表できないのですか。違います。情報提供の公表は、根拠が無くても行えます。この定めは、そのうえで、積極的に公表するよう促しているのです。公表の分類の細かい議論は、後の回で扱います。

料金を取る作用

水道代と下水道代(どちらも使った分を払う/問い=法律の根拠が要るのは、下水道の使用料と上水道の料金の、どちらか/ヒント=侵害留保説の物差し〔義務を課す作用か〕) 図:水道代と下水道代

  • どちらも使った分を払う
  • 問い=法律の根拠が要るのは、下水道の使用料と上水道の料金の、どちらか
  • ヒント=侵害留保説の物差し〔義務を課す作用か〕

次は、お金を取る作用です。山あいの町が、水道の料金と下水道の使用料を取るとします。どちらも、使った分を払う点は同じに見えます。問いです。法律の根拠が要るのは、どちらでしょうか。物差しは、侵害に当たるか、でした。お金の場面では、払う義務を課す作用かどうかが分かれ目です。水道料金と下水道使用料では、根拠が要るかどうかが分かれます。まず下水道です。下水道の供用が始まると、排水区域内の土地の所有者らは、排水設備を設置しなければなりません。

条文下水道法10条1項

下水道法第10条第1項 公共下水道の供用が開始された場合においては、当該公共下水道の排水区域内の土地の所有者、使用者又は占有者は、遅滞なく、次の区分に従つて、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管、排水渠その他の排水施設(以下「排水設備」という。)を設置しなければならない。ただし、特別の事情により公共下水道管理者の許可を受けた場合その他政令で定める場合においては、この限りでない。

条文下水道法20条1項

下水道法第20条第1項 公共下水道管理者は、条例で定めるところにより、公共下水道を使用する者から使用料を徴収することができる。

教える点は2つだけです。1つ目、排水設備を設置する義務が、法律で課されていること。2つ目、使用料の徴収は、条例の定めによること。つまり、接続を義務づけたうえで、使用料を徴収する仕組みです。義務を課す作用なので、法律の根拠が要ります。実際に、法律が徴収を条例の定めに委ねています。駅前の喫茶店のBで考えます。町に下水道が通ると、Bは、店の排水を下水道へつなぐ工事をしなければなりません。つないだ以上、流した分の使用料がかかります。Bには、つながない、払わない、という選択がありません。だから、義務を課す作用なのです。上水道は、違います。利用を望む者が、自由に契約を結び、料金は契約に基づく対価として払います。Bが、井戸の水だけで店をやっていくと決めれば、契約しなくて構いません。払うかどうかの入口を、B自身が選べるのです。義務を課す作用ではありません。侵害留保説の物差しでは、契約の対価として取る限り、法律の根拠は要りません。水道法には、給水契約の申込みを、正当な理由なく拒んではならない、という定めもあります。拒めないのは水道の側で、使う側ではありません。

対比表(下水道=排水設備の設置を義務づける→使用料を徴収する→義務を課す作用→法律の根拠が要る〔徴収は条例の定めによる〕/上水道=利用を望む者が契約を結ぶ→料金は契約に基づく対価→義務を課す作用ではない→侵害留保の物差しでは法律の根拠は要らない/注意=上水道は何の定めも要らない、という意味ではない。物差しの上での整理) 図:対比表

  • 下水道=排水設備の設置を義務づける→使用料を徴収する→義務を課す作用→法律の根拠が要る〔徴収は条例の定めによる〕
  • 上水道=利用を望む者が契約を結ぶ→料金は契約に基づく対価→義務を課す作用ではない→侵害留保の物差しでは法律の根拠は要らない
  • 注意=上水道は何の定めも要らない、という意味ではない。物差しの上での整理

上水道には何の定めも要らない、とまでは言えません。侵害留保説の物差しで、契約の対価として取る限り、義務を課す作用ではないので、法律の根拠は要らない、という整理です。料金の決め方を条例でどう定めるか、といった仕組みの話は別で、今日は広げません。日常では同じに見える二つが、義務を課すかどうかで分かれる。そこを持ち帰ってください。

租税の減免

町の担当の決定(A=町の担当/B=駅前の喫茶店の店主/Aが「Bの店は町の顔だから、固定資産税を半分にまけてやる」と決める/町の条例に、減免の定めは無い/問い=得をさせるだけの行為に、法律の根拠は要るか) 図:町の担当の決定

  • A=町の担当
  • B=駅前の喫茶店の店主
  • Aが「Bの店は町の顔だから、固定資産税を半分にまけてやる」と決める
  • 町の条例に、減免の定めは無い
  • 問い=得をさせるだけの行為に、法律の根拠は要るか

最後の場面です。町の担当のAが、駅前の喫茶店のBの店は町の顔だから、固定資産税を半分にまけてやる、と決めました。町の条例に、減免の定めはありません。問いです。得をさせるだけの行為に、法律の根拠は要るでしょうか。侵害留保説の物差しだけを当てると、根拠は要らないように見えます。けれども答えは、要ります。しかも、理由が違います。留保の問題ではなく、優位の問題だからです。順に組み立てます。まず、租税を課す根拠から見ます。

条文日本国憲法84条

日本国憲法第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

租税を課すには、法律が要ります。租税法律主義です。税は、国民の財産を取り上げる侵害の典型なので、国会が法律で先に決める。これが1つ目です。2つ目。84条の考えを徹底すると、法律で定まった税は、行政の判断で、取るかどうかを選べません。前に、税を判断で減らせないことには、税ならではの理由もある、と後に残しました。それが、これです。84条が、誰からいくら取るかを法律で決めさせたのは、それを行政の判断に任せないためです。行政が、取るか取らないかを選べるなら、誰がいくら払うかを、結局は行政が決めることになります。それでは、法律で決めた意味がありません。必ず賦課し、徴収しなければなりません。行政に、取らないという選択の自由は、無いのです。町内会の会計係が、規約で額の決まった会費を、気に入った人だけ半額にするのと同じです。額を決めたのは規約であって、会計係ではありません。3つ目。だから、担当のAが独自の判断でまけることは、法律で定まった額から外れることになります。定めが無いのに動いたのではなく、定めがあるのに外れたのです。これは法律の優位に反します。減免したいなら、法律や条例の減免の定めが要ります。

優位は、得をする側にも働きます。前に、税務署が、法律どおりなら10万円になるBの税を、判断で8万円にした例を見ました。あれも、Bが得をする側でした。固定資産税の減免については、地方税法に、条例の定めるところにより市町村長が減免できる、という趣旨の定めがあります。減免できるのは、法律と条例が認めたときだけです。個別法なので、暗記は要りません。災害の被害者への国税の減免も、特別の法律に基づきます。同じBの店でも、町の条例に、天災で被害を受けた者は減免できる、という定めがあり、大雨で店が水に浸かったので、その定めに基づいて半額にするなら、定めの内側で動いています。外れていないので、問題はありません。違法かどうかを分けるのは、得をさせるかどうかではなく、定めから外れたかどうかです。

租税の減免の論理(①課税には法律の根拠が要る〔憲法84条〕→②法律で定まった税を、賦課・徴収しない自由が行政には無い→③行政の判断でまけることは、定めから外れる=法律の優位に反する→減免にも法律や条例の定めが要る/留保の問題ではなく優位の問題) 図:租税の減免の論理

  • ①課税には法律の根拠が要る〔憲法84条〕→②法律で定まった税を、賦課・徴収しない自由が行政には無い→③行政の判断でまけることは、定めから外れる=法律の優位に反する→減免にも法律や条例の定めが要る
  • 留保の問題ではなく優位の問題

84条について、最高裁大法廷の判決も引いておきます。国民健康保険の保険料に関する事件です。保険料は税ではありませんが、84条の趣旨が及ぶかが問われました。

判例最大判平18・3・1 民集60巻2号587頁

84条の趣旨(租税の減免を判断した判決ではない) もっとも,憲法84条は,課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり,直接的には,租税について法律による規律の在り方を定めるものであるが,同条は,国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである。

借りるのは、この1箇所だけです。84条は、義務を課し権利を制限するには法律の根拠が要る、という原則を、租税について厳格に明文化したものだ、という理解です。注意点があります。この判決は、租税の減免を判断したものではありません。減免に法律が要るとした判決ではないのです。賦課の要件の明確性などの中身は、後の回で扱います。課税の根拠、徴収の義務、だから勝手な減免は定めから外れる。定めが無いのに動けるか、ではなく、定めがあるのに外れてよいか。留保ではなく、優位の問いです。

今日の地図(保存版)

2つの問いへの振り分け(法律が無いとき、動けるか=法律の留保:緊急の措置〔措置は適法と認められず、責任だけ別〕・公表〔制裁として働くなら根拠が要る。情報提供なら不要だが、やり方が相当でないと国賠違法〕・料金〔義務を課すなら根拠が要る。下水道は要る・上水道は物差しの上では要らない〕/法律があるとき、外れてよいか=法律の優位:租税の減免〔徴収しない自由が無い。得をさせる行為でも外れてはならない〕) 図:2つの問いへの振り分け

  • 法律が無いとき、動けるか=法律の留保:緊急の措置〔措置は適法と認められず、責任だけ別〕・公表〔制裁として働くなら根拠が要る。情報提供なら不要だが、やり方が相当でないと国賠違法〕・料金〔義務を課すなら根拠が要る。下水道は要る・上水道は物差しの上では要らない〕
  • 法律があるとき、外れてよいか=法律の優位:租税の減免〔徴収しない自由が無い。得をさせる行為でも外れてはならない〕

大雨の前の夜に戻ります。町長が根拠なく撤去したのは、法律が無いときに動けるか、の問いでした。動けません。撤去は違法です。ただし、緊急のやむを得ない措置なら、賠償責任は別に考えられます。適法にした判決ではありません。2つの問いに振り分けます。法律が無いときに動けるか。これが法律の留保です。緊急の措置は、根拠が無ければ違法。公表は、制裁として働くなら根拠が要り、情報提供なら不要ですが、やり方が相当でなければ国家賠償の責任が生じます。料金は、義務を課す作用なら根拠が要ります。下水道は要り、上水道は侵害留保の物差しの上では要りません。法律があるときに外れてよいか。これが法律の優位です。租税の減免は、法律で定まった税を徴収しない自由が行政に無いので、得をさせる行為でも、定めから外れてはなりません。

場面が出たら、まず、定めが無いのか、あるのか、を見るのですね。無いなら、動いてよいかを見ます。あるなら、外れていないかを見ます。通常の答案では、法律の規定に反するから違法、と書けば足り、優位という言葉は必須ではありません。大事なのは、問いを取り違えないことです。

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#13単独ページ動画

適正手続の原則と説明責任の原則

第1章 行政法の基礎 ⑬/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

条文どおりなのに

営業停止の通知(山あいの町/A=町の担当/B=駅前の喫茶店の店主/町の条例=基準を満たさない店の営業を止められる/Bの店は形のうえで基準を満たしていないと見える/AはBに理由も告げず、言い分も聞かず、営業停止の通知を郵送した/BからAへの矢印は無い) 図:営業停止の通知

  • 山あいの町
  • A=町の担当
  • B=駅前の喫茶店の店主
  • 町の条例=基準を満たさない店の営業を止められる
  • Bの店は形のうえで基準を満たしていないと見える
  • AはBに理由も告げず、言い分も聞かず、営業停止の通知を郵送した
  • BからAへの矢印は無い

山あいの町に、条例があります。基準を満たさない店は、営業を止められる、という定めです。駅前の喫茶店の店主Bの店は、形のうえで、基準を満たしていない、と見える状態です。町の担当のAは、Bに理由を告げず、言い分も聞かず、営業を止める通知を、郵送しました。この条例にも、ほかの決まりにも、止める前に店主の言い分を聞く、という定めは無いとします。要件を満たしていれば、結論は正しいので問題は無い。Bは、そう思っていません。Bが問題にしているのは、結論ではありません。聞いてもらえなかったことです。結論が正しいかもしれない。条文の要件にも当てはまる。それでも、なお問題が残ることがあります。今日の1問は、これです。条文どおりの行政を、条文のほかに、何で縛るのか。

法律に違反していなければ違法にはならない、とは限りません。そこが、今日いちばん直感に反する点です。法律の条文に違反していなくても、行政活動は違法になりうる、と考えられています。その働きをするのが、一般原則です。今日は、一般原則のうち、手続の側の適正手続の原則と、情報の側の説明責任の原則を見ます。

一般原則とは何か

一般原則の使う順序(事案→①法令の要件・効果を当てる→明確で妥当な結論なら、そこで終わり/規定が明確でない、または形式的に当てると正義に反する結論になるなら→②一般原則を考える) 図:一般原則の使う順序

  • 事案→①法令の要件・効果を当てる→明確で妥当な結論なら、そこで終わり
  • 規定が明確でない、または形式的に当てると正義に反する結論になるなら→②一般原則を考える

前の回までは、法律による行政の原理を見ました。法律の優位は、定めがあるときに、そこから外れていないか、を見る物差しでした。Bの場面は、条例の要件に当てはまっているので、この物差しでは問題が出ません。一般原則は、その先で出番がある物差しです。法律による行政の原理のほかに、行政法の全体を通じて通用する原則のことです。どうして、条文に反していないのに、違法になるのですか。条文が、いちばん大事なのではないのですか。条文は、多数の場合を思い浮かべて、一般的に書かれるからです。町の図書館に、館内は飲食禁止、という決まりがあるとします。せき止めの飴を1つなめた人にまで、形どおりに当てはめて退出させたら、どうでしょう。決まりの文言には当てはまっても、決まりを作った目的からは、行き過ぎです。条文は、すべての個別の事情を書き尽くせません。形式どおりに当てはめると、不当な結果になることが、出てきます。その調整役が一般原則です。

条文を飛ばして、いきなり一般原則を使ってもよいのですか。違います。順序があります。板のとおり、まず、法令の要件と効果の規定を当てます。その結論が明確で妥当なら、そこで終わりです。規定が明確でない場合や、形式どおりに当てると正義に反する場合に、はじめて一般原則を考えます。条文を飛ばして一般原則、ではありません。

一般原則の顔ぶれ(行政法全体に通じる原則=適正手続・説明責任・公正性と透明性・国民参加・効率性・補完性。うち適正手続と説明責任は憲法の観点からも重要/法の一般原則で、法源に含まれるもの=信義則・権利濫用禁止・比例原則・平等原則/何を一般原則に数えるかは学説上一致しない) 図:一般原則の顔ぶれ

  • 行政法全体に通じる原則=適正手続・説明責任・公正性と透明性・国民参加・効率性・補完性。うち適正手続と説明責任は憲法の観点からも重要/法の一般原則で
  • 法源に含まれるもの=信義則・権利濫用禁止・比例原則・平等原則/何を一般原則に数えるかは学説上一致しない

顔ぶれを見ます。1つ目のまとまりは、行政法全体に通じる原則です。このうち、適正手続と説明責任は、憲法の観点からも重要だとされています。顔ぶれは、適正手続、説明責任、公正性と透明性、国民参加、効率性、補完性。2つ目のまとまりは、法の一般原則で、法源に含まれるものです。信義則、権利濫用の禁止、比例原則、平等原則です。何を一般原則に数えるかは、学説上、一致していません。この顔ぶれは、1つの整理だと思ってください。今日は、1つ目のまとまりのうち、適正手続と説明責任、そして、これに関連する公正性と透明性、国民参加を見ます。2つ目のまとまりは、次の回以降です。

今日は、全部を覚える必要はありません。持ち帰るのは2つです。一般原則は、法律の明文に反しない行政活動でも、違法とされうる、という働き。もう1つは、条文を当てたあとに考える、という順序です。

適正手続の原則

Bの営業停止(店は基準を満たしていないと見える=営業停止の要件に当てはまる/聞かずに決めた/営業停止の結論は正しいかもしれない/問い=結論が正しいなら、聞かなくても問題は無いか) 図:Bの営業停止

  • 店は基準を満たしていないと見える=営業停止の要件に当てはまる
  • 聞かずに決めた
  • 営業停止の結論は正しいかもしれない
  • 問い=結論が正しいなら、聞かなくても問題は無いか

Bの場面に戻ります。さっきの順序で言えば、1段目の条例は当てました。営業停止という結論は出ます。ただ、言い分を聞く定めも無いまま、形どおりに当てて終わりでよいのか。ここが、2段目の一般原則の出番です。最初の問いは、こうです。Bの営業停止の結論が正しいなら、聞かなくても問題は無いでしょうか。

2つの発想の対比(実体中心の発想=内容が正しければよい/法律の要件に合った内容の活動が行われることを重視/裁判所の審査も内容の正しさを見る想定/手続にも価値を置く発想=内容が正しいだけでなく、手続的に適正なプロセスを経ていること自体に独自の価値がある/憲法31条に象徴されるデュー・プロセスの考え方/戦後に入った) 図:2つの発想の対比

  • 実体中心の発想=内容が正しければよい
  • 法律の要件に合った内容の活動が行われることを重視
  • 裁判所の審査も内容の正しさを見る想定
  • 手続にも価値を置く発想=内容が正しいだけでなく、手続的に適正なプロセスを経ていること自体に独自の価値がある
  • 憲法31条に象徴されるデュー・プロセスの考え方
  • 戦後に入った

結論が正しいなら聞かなくてもよい。その考え方には、名前があります。内容が正しければよい、という実体中心の発想です。法律による行政の原理は、もともと、法律の要件に合った内容の活動が行われることを重視してきました。裁判所の審査も、内容が正しいかを見るもの、と想定されていました。ところが、戦後、日本国憲法のもとで、考え方が変わります。憲法の31条に象徴される、デュー・プロセス、つまり適正な手続の考え方が入りました。行政の活動は、内容が正しいだけでなく、手続的に適正なプロセスを経ていること自体に、独自の価値がある、と考えられるようになったのです。まず、憲法の条文を見ます。

条文日本国憲法31条

日本国憲法第31条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

憲法の回で見たとおり、31条が求める適正な手続の中核は、告知と聴聞です。不利益を受ける人が、事前に何をされようとしているかを知らされ、言い分を述べる機会が与えられる、という考え方でした。内容が正しいか、手続を踏んだか。この2つは、別の軸です。板で並べます。

実体の正しさと、手続の適正(縦軸=内容は正しいか/横軸=手続を踏んだか/内容が正しい×手続を踏んだ=問題が出にくい/内容が正しい×手続を踏んでいない=結論は正しくても、適正手続の原則の問題が残る/内容が誤り×手続を踏んだ=手続は踏んだが、内容に問題が残る/内容が誤り×手続を踏んでいない=両方に問題が残る) 図:実体の正しさと、手続の適正

  • 縦軸=内容は正しいか
  • 横軸=手続を踏んだか
  • 内容が正しい×手続を踏んだ=問題が出にくい
  • 内容が正しい×手続を踏んでいない=結論は正しくても、適正手続の原則の問題が残る
  • 内容が誤り×手続を踏んだ=手続は踏んだが、内容に問題が残る
  • 内容が誤り×手続を踏んでいない=両方に問題が残る

2つの軸を掛け合わせると、4つの場合が出ます。Bの場面は、内容は正しいかもしれないが、手続を踏んでいない場合です。法律の優位は、主に内容の軸を見ます。手続の定めがあれば、それに外れることも法律の優位の問題です。Bの場面には、その定めがありません。適正手続の原則は、手続の軸を、独立に見ます。だから、内容が正しいかもしれなくても、手続の側の問題は消えません。Bの目線で考えます。同じ営業停止でも、事前に理由を告げられ、自分の言い分を聞かれたうえで決まった場合と、何も聞かれないまま郵便で届いた場合とでは、受け止めが全く違います。理由は、少なくとも2つ考えられています。1つ目は、誤りを防ぐ働きです。Bの言い分を聞けば、基準を満たしていないと見えた店が、実は満たしていたと分かるかもしれません。聞かなければ、行政が事実を取り違えていても、誰も気づけません。2つ目は、納得です。結論が同じでも、聞かれてから決まったのなら、受け入れやすい。

手続を踏まなかった処分が必ず取り消される、とは言えません。手続に不備があったとき、処分がどうなるかは、別の論点です。今日の話は、手続を踏むこと自体が原則として大事だとされる、という位置づけまでです。取消しとの関係は、後の回で扱います。この考え方は、法律の整備が進むなかで、法律による行政の原理のなかにも取り込まれてきました。その例が、行政手続法です。1条1項を、全文で読みます。行政手続全体の目的を定めた条文です。

条文行政手続法1条1項

行政手続法第1条第1項 この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。

見る点は2つです。目的に、行政運営における公正の確保と、透明性の向上が掲げられていること。そして、透明性とは、行政上の意思決定の内容と過程が、国民にとって明らかであることだ、と書かれていること。適正手続の理念が、公正性と透明性という言葉で、法律のなかに入っているのです。実際、適正手続の原則と、公正性・透明性の原則は、内容が実質的に重なるところがある、と整理されています。手続を定める規定は、規制規範にあたります。その活動をするなら、こういう手続でしなければならない、とやり方を縛る定めなので、規制規範です。個々の手続の中身は、後の回で扱います。最初の問いに戻します。条文の要件に当てはまっていても、手続を飛ばした問題は、内容の正しさとは別に残ります。条文のほかに行政を縛るもの、その1つ目が、この適正手続の原則です。

行政手続の重要性を示した判例の流れ

これまでの確認(行政法の回と、憲法の回)(法律による行政の原理=法律の優位/憲法31条=もともと刑事手続の条文/問い=法律の優位は何を見る物差しか。31条は行政手続にも及びうるか/答えは次の表で) 図:これまでの確認

  • 行政法の回と、憲法の回
  • (法律による行政の原理=法律の優位/憲法31条=もともと刑事手続の条文/問い=法律の優位は何を見る物差しか。31条は行政手続にも及びうるか/答えは次の表で)

判例を見る前に、思い出してください。法律による行政の原理で、法律の優位は何を見る物差しでしたか? そして、憲法の回で見た31条は、行政手続にも及びうるのでしょうか?法律の優位は、定めがあるときに、そこから外れていないかを見る物差しでした。31条は、刑事手続ではないというだけで、枠の外に出るわけではなく、及びうる、でした。及んだとして、何を要求するかは、権利利益と公益とを比べる、総合較量で決まります。及びうる、というところが大事です。当然に及ぶ、と言い切るのではありません。では、行政手続の重要性が語られてきた判例を、見ていきます。ここでは、事案の中身は語りません。どの場面で、どの方向に続くかを、位置づけとして押さえます。

判例4件の位置づけ(個人タクシー事件=個人タクシーの免許申請の審査/審査の手続に瑕疵があれば、却下処分の違法事由になりうる〔最判昭46・10・28〕/群馬中央バス事件=バスの免許と審議会への諮問/諮問を経ても、審議・答申の過程に重大な瑕疵があれば処分は違法になりうる。事案では違法なしで棄却〔最判昭50・5・29〕/成田新法事件=工作物の使用禁止命令と、事前の告知・弁解・防御の機会/31条の保障は行政手続にも及びうる。何を要求するかは総合較量〔最大判平4・7・1〕/象のオリ訴訟=駐留軍用地の暫定使用〔処分を介さず権原が生じる規定〕と31条/成田新法の考え方は、行政処分による制限に限らず広く行政手続に及びうる。結論は法意に反しない〔最判平15・11・27〕) 図:判例4件の位置づけ

  • 個人タクシー事件=個人タクシーの免許申請の審査
  • 審査の手続に瑕疵があれば、却下処分の違法事由になりうる〔最判昭46・10・28〕
  • 群馬中央バス事件=バスの免許と審議会への諮問
  • 諮問を経ても、審議・答申の過程に重大な瑕疵があれば処分は違法になりうる。事案では違法なしで棄却〔最判昭50・5・29〕
  • 成田新法事件=工作物の使用禁止命令と、事前の告知・弁解・防御の機会
  • 31条の保障は行政手続にも及びうる。何を要求するかは総合較量〔最大判平4・7・1〕
  • 象のオリ訴訟=駐留軍用地の暫定使用〔処分を介さず権原が生じる規定〕と31条
  • 成田新法の考え方は、行政処分による制限に限らず広く行政手続に及びうる。結論は法意に反しない〔最判平15・11・27〕

表の上から順に、位置づけを言います。4件は、2つずつ組になります。前の2件は、手続の過程に欠陥があれば、処分そのものが違法になりうる、と示した組です。なぜか。適正手続の原則のところで見たとおり、言い分を聞かず、審議を尽くさなければ、行政は誤りに気づきにくい、と考えられるからです。後の2件は、憲法の31条が、行政手続にどこまで及ぶかを示した組です。個人タクシー事件は、個人タクシーの免許の申請を、どう審査するかが問題になった場面です。免許の許否を決める行政庁は、公正な手続で審査すべきで、審査の手続に瑕疵、つまり欠陥があれば、却下の処分、つまり申請を退ける処分が違法になりうる、という方向を示しました。群馬中央バス事件は、バスの免許と、審議会への諮問、つまり行政が処分の前に審議会に意見を求める手続の場面です。諮問を経ていても、審議や答申の過程に重大な瑕疵があれば、処分は違法になりうる、という考え方を示しました。ただし、この事案では、違法とは言えず、請求は棄却、つまり訴えた側の言い分は認められませんでした。

2つとも請求が退けられた、というわけではありません。個人タクシー事件は、申請した側の言い分が通った事件です。却下処分を違法とした原審、つまり1つ前の裁判所の判断を、そのまま認めました。群馬中央バス事件は、考え方は示したものの、事案では違法なしです。結論は別ですが、どちらも、手続の過程そのものが、処分の違法につながりうる、という方向を示した点で並びます。次の成田新法事件は、工作物の使用禁止命令を出すとき、事前の告知や弁解、防御の機会が要るか、という場面です。憲法で見た、行政手続にも及びうる、総合較量という枠組みです。最後の象のオリ訴訟は、駐留軍用地の暫定使用で、処分を介さずに、土地を使う法的な根拠、つまり権原が生じる規定の合憲性が問題になりました。成田新法の考え方は、行政処分による制限に限らず、広く行政手続に及びうる、とされましたが、結論は法意に反しない、でした。

象のオリ訴訟では、31条違反とされたのですか。違います。法意に反しない、つまり違反とはされていません。位置づけは、成田新法の枠組みを、処分以外の場面にも広げて考えた点にあります。4つの判決の中身は、それぞれ別の回で扱います。

説明責任の原則

町の予算の使い道(山あいの町/町が公共工事の予算の使い道を、住民に知らせないまま決めた/住民=何に使われるかを知らない/問い=知らされないまま、住民は賛成も反対も判断できるか) 図:町の予算の使い道

  • 山あいの町
  • 町が公共工事の予算の使い道を、住民に知らせないまま決めた
  • 住民=何に使われるかを知らない
  • 問い=知らされないまま、住民は賛成も反対も判断できるか

次は、情報の側です。町が、公共工事の予算の使い道を、住民に知らせないまま決めた場面を考えます。問いです。知らされないままで、住民は、賛成も反対も判断できるでしょうか。何に使われるか分からなければ、賛成も反対もできません。ここに、説明責任の原則の核心があります。政府は、国民に、自分のしていることを説明する責任を負う、という原則です。アカウンタビリティとも呼ばれます。会社に例えます。経営者が、決算を株主に一切見せないまま、会社のお金を使い続けたら、株主は、この経営者に任せ続けてよいのか、判断できません。国では、主権者は国民です。行政は、国民から任されて動く側です。任された経営者が、何をしているかを報告するのは、任せた側の判断の材料を渡すためです。

説明責任の原則のつながり(①国民主権→②主権者が国政について的確に判断するには、有用な情報が適時適切に提供される必要がある→③政府には、情報を提供し、事態を説明する責任がある=説明責任の原則→④情報公開法制は、その具体化/根拠は国民主権。情報公開法はそれを具体化した制度) 図:説明責任の原則のつながり

  • ①国民主権→②主権者が国政について的確に判断するには、有用な情報が適時適切に提供される必要がある→③政府には、情報を提供し、事態を説明する責任がある=説明責任の原則→④情報公開法制は、その具体化
  • 根拠は国民主権。情報公開法はそれを具体化した制度

責任の根拠は、国民主権です。主権者である国民が、国政について的確に判断するためには、有用な情報が、適切な時に与えられなければなりません。そうだとすれば、政府には、情報を提供し、事態を説明する責任がある。これが、説明責任の原則です。説明責任の根拠は、情報公開法ではないのですか。逆です。根拠は国民主権です。情報公開法は、それを具体化した制度です。法律があるから責任がある、のではありません。責任が先にあって、法律がそれを形にしたのです。1条を板に出します。個別法なので、暗記は要りません。

条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律1条

行政機関の保有する情報の公開に関する法律第1条 この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。

見る点は2つだけです。1つ目、国民主権の理念にのっとり、と書いてあること。法律の根拠が、国民主権に置かれています。2つ目、国民に説明する責務が全うされるように、と書いてあること。説明責任という言葉が、条文の目的に出てきます。町の予算の話も、同じ構造です。町が使い道を知らせなければ、住民は判断できません。国も同じです。説明することで、国民は、行政を理解し、批判することができます。情報公開制度の中身は、後の回で扱います。

国民参加の原則

国民参加の仕組み3つ(行政文書の開示請求権=情報公開/命令等を定める場合の意見公募手続=行政手続法/行政計画の策定への参加=パブリック・インボルブメント/いずれも、説明を受けた国民が行政過程に関わる) 図:国民参加の仕組み3つ

  • 行政文書の開示請求権=情報公開
  • 命令等を定める場合の意見公募手続=行政手続法
  • 行政計画の策定への参加=パブリック・インボルブメント
  • いずれも、説明を受けた国民が行政過程に関わる

説明を受けた国民は、そのあと、何をするでしょうか。町の計画を、住民が事前に知らされ、意見を言える場合と、完成してから初めて知る場合とを比べてください。前者なら、住民は、行政に働きかけ、行政を監視する側に回れます。このように、説明責任が果たされると、国民が行政過程に関わり、積極的に参画することが要請される、と整理されます。これが、国民参加の原則です。国民参加の具体的な仕組みは、板の3つです。1つ目、行政文書の開示請求権。国民が、行政の持つ文書を見せるよう求められます。2つ目、命令等を定めるときの意見公募手続。行政が、命令を作る前に、国民の意見を募ります。3つ目、行政計画の策定への参加。計画を作る過程に、住民が関わる仕組みです。名前と位置づけだけで構いません。

国民主権から、説明責任、そして国民参加へ。説明を受けた国民が、行政に関わる。この一本の流れです。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(一般原則の使う順序=①法令の要件・効果を当てる→②不明確、または形式的に当てると正義に反するとき一般原則/適正手続の原則=手続を踏むこと自体に独自の価値がある。内容が正しいかもしれなくても、手続の側の問題は残る/説明責任の原則=根拠は国民主権。情報公開法はその具体化/国民参加の原則=説明を受けた国民が、行政過程に関わる) 図:今日のまとめ

  • 一般原則の使う順序=①法令の要件・効果を当てる→②不明確、または形式的に当てると正義に反するとき一般原則
  • 適正手続の原則=手続を踏むこと自体に独自の価値がある。内容が正しいかもしれなくても、手続の側の問題は残る
  • 説明責任の原則=根拠は国民主権。情報公開法はその具体化
  • 国民参加の原則=説明を受けた国民が、行政過程に関わる

営業停止の場面に戻ります。町の担当のAが、Bの店に条例を当てたのは、法律の優位の問題としては、外れていません。それでも、理由を告げず、言い分も聞かずに決めたことは、適正手続の原則の問題として残ります。条文どおりでも、違法になりうるのは、このためです。町が、予算の使い道を住民に何も説明しない場面は、説明責任の原則の問題でした。根拠は、国民主権です。情報公開法は、その具体化です。そして、説明を受けた国民が、行政に関わるのが、国民参加の原則です。一般原則は、条文を当てたあとの、第二の物差し、ということですね。まず、法令の要件と効果を当てます。それで足りないときに、一般原則を考えます。使う順序を、持ち帰ってください。

今日は、手続と説明の2つを見ました。一般原則の顔ぶれのうち、法の一般原則の側にある、信義則から、次の回で見ていきます。

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#14単独ページ動画

信義則と信頼保護

第1章 行政法の基礎 ⑭/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

信じたのに

待合所の約束(山あいの町/A=町の担当/B=駅前の喫茶店の店主/AがBに「駅前に観光バスの待合所を作る。そこで軽食を出してほしい。冷蔵設備と厨房機器を入れて待っていて。町も全面的に協力する」と何度も頼む/町議会も賛成/Bは機器を発注し、店を改装/町長選挙で計画に反対する人が当選し、計画は中止/契約書は無い/Bの出費は戻らない) 図:待合所の約束

  • 山あいの町
  • A=町の担当
  • B=駅前の喫茶店の店主
  • AがBに「駅前に観光バスの待合所を作る。そこで軽食を出してほしい。冷蔵設備と厨房機器を入れて待っていて。町も全面的に協力する」と何度も頼む
  • 町議会も賛成
  • Bは機器を発注し、店を改装
  • 町長選挙で計画に反対する人が当選し、計画は中止
  • 契約書は無い
  • Bの出費は戻らない

山あいの町で、駅前に観光バスの待合所を作る計画が持ち上がりました。町の担当のAは、駅前の喫茶店の店主Bに、こう頼みます。待合所ができたら、そこで軽食を出してほしい。冷蔵設備と厨房機器を入れて、待っていてほしい。町も全面的に協力する。Aはこれを何度も繰り返し、町議会も計画に賛成しました。Bは機器を発注し、店を改装して待ちました。ところが、町長選挙で、この計画に反対する人が当選します。待合所の計画は、中止になりました。契約書は、ありません。Bが払った出費は、戻ってきません。納得できるかどうかだけでは、法律の答えになりません。もう1つ、場面を出します。

申告書の受付印のあとで(国の役所/A=役所の担当/B=申告をする人/BがAに申告書を出す→Aは数年にわたり受け取り、税額も受け取り、用紙も送ってくる/数年たってからAが「あの申告は認められない」と言い、税を上乗せした) 図:申告書の受付印のあとで

  • 国の役所
  • A=役所の担当
  • B=申告をする人
  • BがAに申告書を出す→Aは数年にわたり受け取り、税額も受け取り、用紙も送ってくる
  • 数年たってからAが「あの申告は認められない」と言い、税を上乗せした

国の役所の担当のAが、Bの出した申告書を、数年にわたって受け取ってきました。税額も、受け取ってきました。申告書には、毎年、受付印が押されていました。ところが、数年たってから、Aは言いました。あの申告は、認められません。そして、税を上乗せしました。どちらも、役所の言葉や態度を信じて動いた人の話です。ところが、答えは同じになりません。今日の1問は、これです。役所を信じた人が守られるのは、いつで、守られないのは、いつか。信じた人が守られるのは当然、と考えたくなります。ただ、そこが今日いちばん直感に反する点です。信じただけでは、守られません。しかも、守ると法律に反する結果になるときは、守ることが、さらに難しくなります。分かれ目は、信頼を守ることが、法律に反する結果になるかどうか、です。この物差しで、2つの場面を見ていきます。

信義則の行政法での姿

信義則と呼び名(民法の信義則=民法1条2項・相手の正当な期待を裏切らない/行政上の法律関係にも及ぶ〔法の一般原則なので争いは無い〕/行政法での呼び名=信義則〔条文上の名前〕・信頼保護原則〔信頼した私人の側から整理した呼び方〕/信義則から生まれた考え方=禁反言〔自分がいったん示した態度と矛盾する主張は許されない〕/どれも守るのは相手の正当な期待) 図:信義則と呼び名

  • 民法の信義則=民法1条2項・相手の正当な期待を裏切らない
  • 行政上の法律関係にも及ぶ〔法の一般原則なので争いは無い〕
  • 行政法での呼び名=信義則〔条文上の名前〕・信頼保護原則〔信頼した私人の側から整理した呼び方〕
  • 信義則から生まれた考え方=禁反言〔自分がいったん示した態度と矛盾する主張は許されない〕
  • どれも守るのは相手の正当な期待

前の回で見た、法の一般原則の顔ぶれのうち、今日は信義則です。民法の回で、信義則を見ました。相手の正当な期待を、裏切らない、という考え方です。条文は、民法1条2項でした。全文で読みます。

条文民法1条2項

民法第1条第2項 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

民法では、約束を撤回して、相手の期待を裏切る人に、この考え方が働きました。待合所の場面は、その裏切る側に立つのが、役所になっただけです。民法の条文でも、行政に使えます。信義則は、法律関係の全体に通用する、法の一般原則だからです。民法の規定のうち、こうした一般原則や、期間の計算のような決まりは、行政上の法律関係にも適用されることに、争いはありません。行政の場面でも、信義則は、裁判所が判断の拠り所にする法源として、しばしば働きます。板の呼び名を見ます。民法の条文上の名前は、信義則です。行政法では、これを、信頼した私人の側から整理して、信頼保護原則と呼ぶことがあります。もう1つ、民法の回で、信義則から生まれた考え方として見た、禁反言があります。自分がいったん示した態度と、矛盾する主張は許されない、という考え方です。行政が、前に示した態度と矛盾することを言い出す場面で働きます。どれも、守っているのは、相手の正当な期待です。

民法と同じ扱いにできるかどうかに、行政ならではのつまずきがあります。民法は、私人どうしの話です。信頼を守っても、その結果が法律に反することは、まずありません。行政は、法律による行政の原理の下にあります。法律の優位は、定めがあるとき、そこから外れていないかを見る物差しでした。信頼を守った結果が、その定めから外れることが、行政では起こるのです。例を作ります。窓口のAが、Bに、この営業に許可は要りません、と間違って案内したとします。法律は、許可を要求しています。Bが信じて営業を始めたとき、Bを守れば、許可の無い営業を認めることになります。信頼は守りたい。でも、法律の定めからは外れる。ここで、1つの物差しが要ります。

分岐の物差し(信頼を守ると、法律〔の明文や課税の定め〕に反する結果になるか/反しない→守っても法律に反しない場面=施策の変更と責任の問い〔待合所〕/反する→守ると法律に反する場面=慎重な検討が要る〔申告の否認〕) 図:分岐の物差し

  • 信頼を守ると、法律〔の明文や課税の定め〕に反する結果になるか
  • 反しない→守っても法律に反しない場面=施策の変更と責任の問い〔待合所〕
  • 反する→守ると法律に反する場面=慎重な検討が要る〔申告の否認〕

物差しは1つです。さっきの法律の優位を、信頼を守った結果に当てます。信頼を守ると、法律の明文や課税の定めに、反する結果になるか。反しないなら、1つ目の場面です。待合所は、こちらです。反するなら、2つ目の場面で、慎重な検討が要ります。申告の否認は、こちらです。法律に反する結果になるとき慎重さが要る理由は、同じ法律の下にいる、ほかの人との公平が崩れるからです。1人だけを守って法律から外れれば、外れてもらえなかった人が、不公平を受けます。この理由は、2つ目の場面で、判決の言葉で確かめます。まず、反しない場面から見ます。

守っても法律に反しない場面

Bの待合所の問い(契約は無い/選挙で町の方針が変わった/問い=Bは町に損害賠償を求められるか/守っても法律に反しない場面) 図:Bの待合所の問い

  • 契約は無い
  • 選挙で町の方針が変わった
  • 問い=Bは町に損害賠償を求められるか
  • 守っても法律に反しない場面

Bの場面に戻ります。契約は無い。選挙で、町の方針が変わった。Bは、町に損害賠償を求められるでしょうか。この場面を扱ったのが、村が製紙工場の誘致を決めた事件の判決です。事案は、Bの場面とよく似ています。

製紙工場の誘致の事案(村/村長が議会の賛成の下に工場建設に全面的に協力すると言う/会社は敷地を整え機械設備を発注/村長は融資を促す依頼の文書まで出す/村長選挙で反対派が当選し協力を拒む/会社は断念し代金など実際の損害の賠償を求める/原審=住民の意思に沿うので違法でない) 図:製紙工場の誘致の事案

  • 村
  • 村長が議会の賛成の下に工場建設に全面的に協力すると言う
  • 会社は敷地を整え機械設備を発注
  • 村長は融資を促す依頼の文書まで出す
  • 村長選挙で反対派が当選し協力を拒む
  • 会社は断念し代金など実際の損害の賠償を求める
  • 原審=住民の意思に沿うので違法でない

村長が、議会の賛成の下に、工場の建設に全面的に協力すると言いました。会社は、敷地を整え、機械設備を発注しました。村長は、融資を促す依頼の文書まで出しています。ところが、村長選挙で工場に反対する人が当選し、新しい村長は協力を拒みました。会社は工場の建設を断念し、機械設備の発注で負担した代金など、実際に出た損害の賠償を求めました。原審は、協力拒否は住民の意思に沿うものだから違法とは言えない、として請求を退けました。契約が無ければ約束を守る義務は生じず、方針の変更も民意しだいだという考えは、判決の1つ目の判断と同じです。判決は、4つの段で答えます。施策を変えること自体は違法か。それでも守られる信頼はあるか。守られるなら、どんなときに責任が生じるか。そして、選挙で方針が変わったことは、やむをえない事情になるか。まず1つ目を、カードで見ます。

判例最判昭56・1・27 民集35巻1号35頁

施策の変更と拘束 地方公共団体の施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則は地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則であり、また、地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたつて継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動等に伴つて変更されることがあることはもとより当然であつて、地方公共団体は原則として右決定に拘束されるものではない。

住民自治の原則は、施策を住民の意思に基づいて行う、という基本原則です。社会情勢が変われば施策が変わるのは当然で、地方公共団体は、原則として、決定に拘束されません。決め手は、住民自治です。選挙で方針が変わること自体は、違法ではありません。Bは、計画を続けろ、とは求められないのです。判決は、ここで、しかし、と続けます。

判例最判昭56・1・27 民集35巻1号35頁

保護される信頼 しかし、右決定が、単に一定内容の継続的な施策を定めるにとどまらず、特定の者に対して右施策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘を伴うものであり、かつ、その活動が相当長期にわたる当該施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる性質のものである場合には、右特定の者は、右施策が右活動の基盤として維持されるものと信頼し、これを前提として右の活動ないしその準備活動に入るのが通常である。このような状況のもとでは、たとえ右勧告ないし勧誘に基づいてその者と当該地方公共団体との間に右施策の維持を内容とする契約が締結されたものとは認められない場合であつても、右のように密接な交渉を持つに至つた当事者間の関係を規律すべき信義衡平の原則に照らし、その施策の変更にあたつてはかかる信頼に対して法的保護が与えられなければならないものというべきである。

信頼が保護される2つの条件(1=特定の者に活動を促す個別的・具体的な勧告や勧誘を伴う/2=その活動が相当長期の施策の継続を前提に初めて資金・労力に見合う効果が出る性質/そろえば契約が無くても信義衡平の原則で信頼は法的に保護) 図:信頼が保護される2つの条件

  • 1=特定の者に活動を促す個別的・具体的な勧告や勧誘を伴う
  • 2=その活動が相当長期の施策の継続を前提に初めて資金・労力に見合う効果が出る性質
  • そろえば契約が無くても信義衡平の原則で信頼は法的に保護

長い文ですが、骨格は2つの条件です。1つ目は、決定が、特定の者に、その施策に合った活動を促す、個別的、具体的な勧告や勧誘を伴っていること。2つ目は、その活動が、施策が相当長く続くことを前提にして初めて、投入した資金や労力に見合う効果が出る性質のものであること。この2つがそろうと、相手は、施策が土台として維持されると信頼して、活動に入るのが通常です。契約が無くても、密接に交渉した当事者の関係を規律する信義衡平の原則に照らして、信頼は法的に保護されます。境界のペアで確かめます。Aが何度も頼み、機器まで入れさせたBは、さきほどの二つの条件に、どちらも当たります。では、町の観光計画が新聞に載ったのを読んで、Bが、誰にも頼まれずに、自分の判断で店を改装した場合は、どうでしょう。

勧誘が無い以上、条件には当たりません。Bが一方的に施策が続くと信じただけでは、守られません。決め手は、行政の側が、相手を動かしたかどうかです。では、信頼が保護されるとき、責任はどう生じるのでしょうか。

判例最判昭56・1・27 民集35巻1号35頁

責任が生じる場合 すなわち、右施策が変更されることにより、前記の勧告等に動機づけられて前記のような活動に入つた者がその信頼に反して所期の活動を妨げられ、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任を生ぜしめるものといわなければならない。

責任が生じる3つの条件(積極的損害=社会観念上看過できない程度/代償的措置を講じないまま施策を変更/やむをえない客観的事情によるのではない→違法性・不法行為責任) 図:責任が生じる3つの条件

  • 積極的損害=社会観念上看過できない程度
  • 代償的措置を講じないまま施策を変更
  • やむをえない客観的事情によるのではない→違法性・不法行為責任

条件は3つです。社会観念上、見過ごせない程度の積極的損害を受けたこと。補償などの代償的措置を講じないまま、施策を変えたこと。それが、やむをえない客観的事情によるのではないこと。積極的損害とは、機器の代金のように、実際に出ていった損害のことです。そろえば、信頼関係を不当に破壊するものとして違法になり、不法行為責任が生じます。最後に、1つ問います。選挙で方針が変わった、という理由は、やむをえない客観的事情として通るでしょうか。判決の答えは、逆です。

判例最判昭56・1・27 民集35巻1号35頁

政治情勢の変化 そして、前記住民自治の原則も、地方公共団体が住民の意思に基づいて行動する場合にはその行動になんらの法的責任も伴わないということを意味するものではないから、地方公共団体の施策決定の基盤をなす政治情勢の変化をもつてただちに前記のやむをえない客観的事情にあたるものとし、前記のような相手方の信頼を保護しないことが許されるものと解すべきではない。

政治情勢の変化だけでは、やむをえない客観的事情になりません。住民自治は、住民の意思に基づいて動けば、法的責任が一切無い、という意味ではないからです。

判断の流れ(1段目=住民自治の原則→施策の変更そのものは原則違法でない〔地方公共団体は原則として決定に拘束されない〕/2段目=個別的・具体的な勧誘+長期の継続を前提とした活動→契約が無くても信義衡平の原則で信頼は法的保護/3段目=社会観念上看過できない積極的損害+代償的措置なし+やむをえない客観的事情でない→違法・不法行為責任/4段目=政治情勢の変化だけではやむをえない客観的事情にならない) 図:判断の流れ

  • 1段目=住民自治の原則→施策の変更そのものは原則違法でない〔地方公共団体は原則として決定に拘束されない〕
  • 2段目=個別的・具体的な勧誘+長期の継続を前提とした活動→契約が無くても信義衡平の原則で信頼は法的保護
  • 3段目=社会観念上看過できない積極的損害+代償的措置なし+やむをえない客観的事情でない→違法・不法行為責任
  • 4段目=政治情勢の変化だけではやむをえない客観的事情にならない

流れを板で通します。施策の変更は、原則として違法ではない。勧誘と継続の前提がそろえば、信頼は保護される。代償的措置の無い変更は、違法になる。選挙だけでは、言い訳にならない。この4段です。注意点が1つあります。判決は、施策の変更そのものを違法としたのではありません。変更は原則として適法で、勧誘で信頼を生じさせたのに、代償的措置を取らないまま変えたことが、違法性を帯びて、責任の原因になります。

要素のチェック表とBの当てはめ(保護の2条件+責任の3条件=5つの問い/問い1=個別的・具体的な勧誘があったか→Aが何度も頼んだ=あり/問い2=相当長期の施策の継続を前提とする活動か→機器の発注と改装=あり/問い3=社会観念上看過できない程度の積極的損害か→出費の額次第/問い4=代償的措置があったか→補償の申し出は無い/問い5=やむをえない客観的事情があるか→選挙だけでは足りない) 図:要素のチェック表とBの当てはめ

  • 保護の2条件+責任の3条件=5つの問い
  • 問い1=個別的・具体的な勧誘があったか→Aが何度も頼んだ=あり
  • 問い2=相当長期の施策の継続を前提とする活動か→機器の発注と改装=あり
  • 問い3=社会観念上看過できない程度の積極的損害か→出費の額次第
  • 問い4=代償的措置があったか→補償の申し出は無い
  • 問い5=やむをえない客観的事情があるか→選挙だけでは足りない

保護の2つの条件と、責任の3つの条件を合わせて、5つの問いにすると、整理しやすくなります。Bに当てはめます。1つ目、個別的、具体的な勧誘があったか。Aが何度も頼んだので、あります。2つ目、長期の継続を前提とした活動か。機器の発注と改装は、待合所が続くことが前提なので、あります。3つ目、見過ごせない積極的損害か。出費の額次第です。4つ目、代償的措置があったか。補償の申し出は無いので、ありません。5つ目、やむをえない客観的事情があるか。選挙だけでは、足りません。勝てる、とは言えません。この判決自身、会社の請求を、そのまま認めたのではありません。協力拒否の違法を原因とする部分を破棄して、差し戻しました。勧誘と継続の前提は事実関係から満たされると見たうえで、損害の程度や、やむをえない客観的事情、因果関係、損害額は、さらに審理させたのです。信頼が守られるのは、行政が相手を動かし、相手が長期の継続を前提に資金と労力を投じたときです。そして、そのときも、勝つかどうかは、残りの問いしだいです。

実質は損失補償に近い、という見方もあります。ただ、補償の根拠になる法律が無いので、違法な行為の損害を賠償させる、国家賠償法の不法行為の形をとったと考えられます。判決自身は、不法行為責任と言うだけです。計画の変更と責任の全体像は、別の回で扱います。ここでは、守っても法律に反しない場面の、信義則の働き方を押さえてください。

守ると法律に反する場面

前に見た租税の減免の問い(税を担当者の判断でまけることが許されないのは何の問題か/答えは次の板) 図:前に見た租税の減免の問い

  • 税を担当者の判断でまけることが許されないのは何の問題か
  • 答えは次の板

申告の否認の場面に入る前に、思い出してください。担当者の判断で、税をまけることが許されないのは、何の問題でしたか?法律の優位の問題でした。法律で定まった税を、徴収しない自由が、行政には無いからです。根にあるのは、憲法の租税法律主義です。税は、法律で決まった額を、決まったとおりに集めるもので、税務署長に選択の余地はありません。1人の信頼を守って税をまければ、同じ法律の下にいる、ほかの納税者との平等と公平が崩れます。守ると法律に反する、典型の場面です。判決を読む前に、税の仕組みを、骨格だけ押さえます。日本の税の多くは、申告納税方式です。条文は覚えません。2つを板に出します。

条文国税通則法16条1項1号

国税通則法第16条第1項第1号 申告納税方式 納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とし、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつた場合その他当該税額が税務署長又は税関長の調査したところと異なる場合に限り、税務署長又は税関長の処分により確定する方式をいう。

条文国税通則法24条

国税通則法第24条 税務署長は、納税申告書の提出があつた場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する。

骨格は2つです。納付する税額は、納税者の申告で確定するのが原則であること。申告が法律に従っていなければ、税務署長が調査して、更正という処分で正せること。更正とは、申告の内容を正す処分のことです。青色申告は、承認を受けた人だけが使える、特典の付いた申告です。特典の中身は、今日は要りません。承認を受けた人だけの申告、という点を押さえてください。承認を受けていない人の申告は、白色申告として扱われます。事案です。納税者が、青色申告の承認を受けていないのに、青色申告書で確定申告をしました。税務署長は、承認の有無を確かめないまま申告書を受け取り、翌年からは青色申告用の用紙も送り、税額も受け取りました。のちに、承認が無いことを指摘して、白色申告として扱う更正処分をしました。原審は、承認の有無の確認を怠って、承認申請が無かったという一事で青色申告を否認するのは、信義則に違反する、と言いました。

役所の対応を信じた納税者を守るかどうかが争点です。判決は、2段で考えます。

判決の判断の流れ(まず制度の確認=青色申告の承認は、承認によって初めて資格が生じる設権的な処分/承認申請書を出さず承認を受けていないなら、青色申告として扱う余地は無い→白色申告として扱う/次に信義則=租税法律関係では慎重→特別の事情があるときに初めて適用の是非を考える→少なくとも3つの考慮は不可欠→当てはめ=受理・収納は是認ではない→公的見解の表示に反する処分とは言えない→信義則を適用する余地は無い) 図:判決の判断の流れ

  • まず制度の確認=青色申告の承認は、承認によって初めて資格が生じる設権的な処分
  • 承認申請書を出さず承認を受けていないなら、青色申告として扱う余地は無い→白色申告として扱う
  • 次に信義則=租税法律関係では慎重→特別の事情があるときに初めて適用の是非を考える→少なくとも3つの考慮は不可欠→当てはめ=受理・収納は是認ではない→公的見解の表示に反する処分とは言えない→信義則を適用する余地は無い

まず、制度の確認です。青色申告の承認は、承認によって初めて資格が生じる、設権的な処分です。設権的とは、資格を新しく作り出す、という意味です。承認の申請を出さず、承認を受けていないなら、青色申告として扱う余地は無く、白色申告として扱う、というのが出発点です。そのうえで、信義則を考えます。枠組みのカードです。

判例最判昭62・10・30 判時1262号91頁

信義則の適用に慎重 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たつては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになつたものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない。

3つの層で読みます。1つ目の層。信義則で課税処分を取り消せる場合があるとしても、租税法律主義が貫かれるべき租税法律関係では、慎重でなければならない。租税では信義則は適用されない、とは言っていません。慎重、です。2つ目の層。平等、公平を犠牲にしてもなお、納税者の信頼を保護しなければ正義に反する、と言えるような特別の事情があるときに、初めて適用の是非を考える。そして3つ目の層。その特別の事情の判断では、少なくとも、板の3つの問いの考慮が不可欠です。

特別の事情の判断で不可欠な3つの考慮(①役所が信頼の対象になる公的見解を表示し、納税者がそれを信頼して行動したか/②のちに、その表示に反する課税処分が行われ、そのために経済的不利益を受けたか/③信頼して行動したことについて、納税者の責めに帰すべき事由が無いか/判決は「少なくとも」と言う=この3つで尽きるとは言っていない) 図:特別の事情の判断で不可欠な3つの考慮

  • ①役所が信頼の対象になる公的見解を表示し、納税者がそれを信頼して行動したか
  • ②のちに、その表示に反する課税処分が行われ、そのために経済的不利益を受けたか
  • ③信頼して行動したことについて、納税者の責めに帰すべき事由が無いか/判決は「少なくとも」と言う=この3つで尽きるとは言っていない

3つの問いを言います。1つ目、役所が、信頼の対象になる公的見解を表示して、納税者が、それを信頼して行動したか。次に2つ目、のちに、その表示に反する課税処分が行われ、そのために、経済的な不利益を受けたか。最後に3つ目、信頼して行動したことについて、納税者の責めに帰すべき事由が無いか。判決は、少なくとも、と言っています。この3つで尽きる、とは言っていません。当てはめの前に、問いです。税務署長は、申告書を受け付け、毎年、税額を受け取ってきました。これは、信頼の対象になる、公的見解の表示でしょうか?判決の答えは、逆です。

判例最判昭62・10・30 判時1262号91頁

受理・収納の意味 税務署長による申告書の受理及び申告税額の収納は、当該申告書の申告内容を是認することを何ら意味するものではない(同法二四条参照)。

決め手は、申告納税方式の仕組みです。申告は、納税者が自分で税額を確定させる行為です。税務署長は、そのあとで調査して、必要なら更正で正せます。受け取っただけでは、中身を認めたことになりません。さっき見た24条が、その仕組みの根拠です。青色申告用の用紙を送ったことも、承認をしたという表示ではありません。

判例最判昭62・10・30 判時1262号91頁

結論 そうすると、原審の確定した前記事実関係をもつてしては、本件更正処分が上告人の被上告人に対して与えた公的見解の表示に反する処分であるということはできないものというべく、本件更正処分について信義則の法理の適用を考える余地はないものといわなければならない。

結論です。公的見解の表示に反する処分とは言えないので、信義則を適用する余地は無い、とされました。原審の判断は誤りとされ、原判決は破棄されて、差し戻されました。

受付印だけの場合と、書面で確かめた場合(場合1=受付印を押されただけ→判決のとおり、公的見解の表示と言えない/場合2=Bが書面で事前に問い合わせ、役所が書面で「この取扱いで差し支えない」と答えた→公的見解の表示の入口に立つ/ただし入口=担当者に権限があったか・答えの内容が具体的か・Bに落ち度は無いか、は事案ごとに見る/Bが守られるとは言えない) 図:受付印だけの場合と、書面で確かめた場合

  • 場合1=受付印を押されただけ→判決のとおり、公的見解の表示と言えない
  • 場合2=Bが書面で事前に問い合わせ、役所が書面で「この取扱いで差し支えない」と答えた→公的見解の表示の入口に立つ
  • ただし入口=担当者に権限があったか・答えの内容が具体的か・Bに落ち度は無いか、は事案ごとに見る
  • Bが守られるとは言えない

Bの場面で、少し変えてみます。1つ目は、受付印を押されただけの場合です。判決のとおり、公的見解の表示とは言えません。2つ目は、Bが、書面で事前に問い合わせ、役所が、書面で、この取扱いで差し支えありません、と答えた場合です。こちらは、1つ目の問いの入口に立ちます。ただし、入口です。答えた担当者に権限があったか、答えの内容が具体的だったか、Bに落ち度は無いか。ここから先は事案ごとの判断で、Bが守られる、とは言えません。板で並べます。

2つの判決の比べ方(待合所の判決=守ろうとするもの:施策が続くという信頼/法律との関係:守っても法律に反しない/判断の枠:勧誘・継続の前提・損害・代償的措置・客観的事情/責めに帰すべき事由:判決に出てこない/租税の判決=守ろうとするもの:公的見解の表示への信頼/法律との関係:守ると法律に反する〔租税法律主義・平等公平〕/判断の枠:特別の事情があるときに初めて考える/責めに帰すべき事由:不可欠の考慮として出てくる) 図:2つの判決の比べ方

  • 待合所の判決=守ろうとするもの:施策が続くという信頼
  • 法律との関係:守っても法律に反しない
  • 判断の枠:勧誘・継続の前提・損害・代償的措置・客観的事情
  • 責めに帰すべき事由:判決に出てこない
  • 租税の判決=守ろうとするもの:公的見解の表示への信頼
  • 法律との関係:守ると法律に反する〔租税法律主義・平等公平〕
  • 判断の枠:特別の事情があるときに初めて考える
  • 責めに帰すべき事由:不可欠の考慮として出てくる

待合所の判決には、責めに帰すべき事由の考慮が、書かれていません。租税の判決では、不可欠の考慮として出てきます。決め手は、法律との関係です。守ると法律に反する分、特別の事情が要り、考慮も増える、と整理されます。ただし、待合所のほうが条件が緩い、と言えるわけではありません。待合所の判決は、その点を取り上げていないだけで、要らない、とまでは言っていません。

明文があっても主張を許さない場面

通達で打ち切った給付と時効(山あいの町/A=町の担当/B=高齢者/町の条例で、高齢者に給付/町の通達(実は条例のどこにも根拠が無い)が「町外へ引っ越したら失権」と扱う/Aは支給を打ち切った/数年後に通達の誤りが明らかに/町は支払いを再開/ただし「5年より前の分は時効で消えた」と言う) 図:通達で打ち切った給付と時効

  • 山あいの町
  • A=町の担当
  • B=高齢者
  • 町の条例で、高齢者に給付
  • 町の通達(実は条例のどこにも根拠が無い)が「町外へ引っ越したら失権」と扱う
  • Aは支給を打ち切った
  • 数年後に通達の誤りが明らかに
  • 町は支払いを再開
  • ただし「5年より前の分は時効で消えた」と言う

守ると法律に反する場面には、もう1つの形があります。法律の明文が、はっきり答えを決めている場面です。町の条例で、高齢者に給付が出ているとします。ところが、町の通達が、町の外へ引っ越した人は失権する、つまり、受給の権利を失う、と扱いました。通達とは、上の機関が下の機関に出す、取扱いの指針のことです。この取扱いは、実は、条例のどこにも根拠がありません。Aは、Bの給付を打ち切りました。数年後に、通達の誤りが明らかになり、町は、支払いを再開しました。ただし、5年より前の分は、時効で消えた、と言います。時効は法律の明文で決まっています。それでも、町が時効を主張することを、信義則で止められるのか。これが次の問いです。

明文と信義則の問い(地方公共団体の・地方公共団体に対する金銭債権=5年で時効消滅〔自治法236条1項〕/援用は要らず・利益を放棄もできない〔同条2項〕/明文がそう言うのに、信義則で「時効を主張するな」と言えるか/守ると法律の明文に反する場面) 図:明文と信義則の問い

  • 地方公共団体の・地方公共団体に対する金銭債権=5年で時効消滅〔自治法236条1項〕
  • 援用は要らず・利益を放棄もできない〔同条2項〕
  • 明文がそう言うのに、信義則で「時効を主張するな」と言えるか
  • 守ると法律の明文に反する場面

地方公共団体が受け取る側のお金の権利も、払う側のお金の権利も、5年で当然に、つまり、誰も時効だと言わなくても、消えます。Bの給付は、払う側です。明文があるのに、信義則で、時効を主張するな、と言えるでしょうか。条文を板に出します。個別法なので、暗記は要りません。

条文地方自治法236条2項

地方自治法第236条第2項 金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利の時効による消滅については、法律に特別の定めがある場合を除くほか、時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。

見る点は1つです。時効の援用が要らず、利益を放棄もできない、という点です。民間の時効は、援用、つまり、時効で消えたと主張して初めて効きます。地方公共団体には、援用が要らず、放棄もできません。事務処理を簡単にして、住民を平等に扱うためです。だから、この明文を信義則で崩すことは、極めて難しいのです。判決の事案です。原爆の被爆者が、法律に基づく健康管理手当の受給権を得たあと、海外に出国しました。手当の支給の事務は、国から委任を受けるなどして、県がおこなっていました。国の通達が、国外に居住地を移したら失権する、と定めていて、県も、それに従って支給を打ち切りました。この通達は、法律の解釈を誤った、違法なものでした。のちに通達は廃止され、県は支給を再開しましたが、訴えを起こした時点で5年を過ぎていた分は、地方自治法の時効で消滅した、と主張しました。

判旨の流れ(1段目=通達は法的効力を持たないが、法令上の根拠があるという推測を国民に与える→失権の扱いを受けた者に権利行使を期待するのは極めて困難/2段目=県が時効を主張することは、違法な通達で権利行使を困難にした国から事務の委任を受け、自らも違法な事務処理をしていた県が、権利の不行使を理由に支払義務を免れようとするに等しい/3段目=特段の事情〔権利行使が合理的に期待できる事情〕がない限り、信義則に反し許されない) 図:判旨の流れ

  • 1段目=通達は法的効力を持たないが、法令上の根拠があるという推測を国民に与える→失権の扱いを受けた者に権利行使を期待するのは極めて困難
  • 2段目=県が時効を主張することは、違法な通達で権利行使を困難にした国から事務の委任を受け、自らも違法な事務処理をしていた県が、権利の不行使を理由に支払義務を免れようとするに等しい
  • 3段目=特段の事情〔権利行使が合理的に期待できる事情〕がない限り、信義則に反し許されない

判決は、3つの段で考えます。通達が、権利の行使をどれだけ難しくしたか。その中で時効を言うのは、何に等しいか。そして、特段の事情が無い限り許されない、という結論です。そのあとで、時効の明文の趣旨との関係を確かめます。まず、通達の働きを見ます。通達は法的な効力を持ちませんが、法令に根拠があるという推測を、国民に与えます。失権の扱いを受けた人に、自分で権利を行使することを期待するのは、極めて困難です。そのうえで、結論のカードです。

判例最判平19・2・6 民集61巻1号122頁

信義則に反し許されない 以上のような事情の下においては,上告人が消滅時効を主張して未支給の本件健康管理手当の支給義務を免れようとすることは,違法な通達を定めて受給権者の権利行使を困難にしていた国から事務の委任を受け,又は事務を受託し,自らも上記通達に従い違法な事務処理をしていた普通地方公共団体ないしその機関自身が,受給権者によるその権利の不行使を理由として支払義務を免れようとするに等しいものといわざるを得ない。そうすると,上告人の消滅時効の主張は,402号通達が発出されているにもかかわらず,当該被爆者については同通達に基づく失権の取扱いに対し訴訟を提起するなどして自己の権利を行使することが合理的に期待できる事情があったなどの特段の事情のない限り,信義則に反し許されないものと解するのが相当である。

決め手は、違法な取扱いをしていた行政自身が、権利が行使されなかったことを理由に、支払いを免れようとしている点です。ただし、特段の事情があれば別です。たとえば、失権の扱いを受けたあとで、訴訟を起こすなどして、自分の権利を行使することが合理的に期待できたような事情です。判決は、その点を次のカードで答えます。

判例最判平19・2・6 民集61巻1号122頁

236条2項の趣旨との関係 このような趣旨にかんがみると,普通地方公共団体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は,極めて限定されるものというべきである。 しかしながら,地方公共団体は,法令に違反してその事務を処理してはならないものとされている(地方自治法2条16項)。この法令遵守義務は,地方公共団体の事務処理に当たっての最も基本的な原則ないし指針であり,普通地方公共団体の債務についても,その履行は,信義に従い,誠実に行う必要があることはいうまでもない。

続きです。

判例最判平19・2・6 民集61巻1号122頁

236条2項の趣旨との関係(続き) そうすると,本件のように,普通地方公共団体が,上記のような基本的な義務に反して,既に具体的な権利として発生している国民の重要な権利に関し,法令に違反してその行使を積極的に妨げるような一方的かつ統一的な取扱いをし,その行使を著しく困難にさせた結果,これを消滅時効にかからせたという極めて例外的な場合においては,上記のような便宜を与える基礎を欠くといわざるを得ず,また,当該普通地方公共団体による時効の主張を許さないこととしても,国民の平等的取扱いの理念に反するとは解されず,かつ,その事務処理に格別の支障を与えるとも考え難い。したがって,本件において,上告人が上記規定を根拠に消滅時効を主張することは許されないものというべきである。

前半は、信義則で時効の主張が許されないとされる場合は、極めて限定される、と言っています。そのうえで、後半です。地方公共団体は、法令に違反して事務を処理してはならない、という義務を負います。その義務に反して、国民の重要な権利の行使を積極的に妨げ、著しく困難にしたあげく、時効にかからせた、という極めて例外的な場合には、時効の援用を要らなくして事務処理を簡単にする、という便宜を与える基礎を欠きます。時効の主張を許さなくても、平等的取扱いに反せず、事務処理にも格別の支障は無い。だから、主張は許されません。言い切りに注意してください。地方公共団体は時効を主張できない、とは言えません。特段の事情が無く、しかも、極めて例外的な場合に限って、許されないのです。

租税の判決との違い(租税の判決=納税者が役所の表示を信頼して行動した→信頼を守ると平等・公平を崩さないか/被爆者手当の判決=受給者は信頼して行動したのではない・行政自身の違法な取扱いで権利行使を妨げられた→行政が自分の違法を利用して義務を免れようとする型/信義則の働き方は1つではない/被爆者手当の判決が租税の判決の3つの考慮で判断されたとは言えない) 図:租税の判決との違い

  • 租税の判決=納税者が役所の表示を信頼して行動した→信頼を守ると平等・公平を崩さないか
  • 被爆者手当の判決=受給者は信頼して行動したのではない・行政自身の違法な取扱いで権利行使を妨げられた→行政が自分の違法を利用して義務を免れようとする型
  • 信義則の働き方は1つではない
  • 被爆者手当の判決が租税の判決の3つの考慮で判断されたとは言えない

租税の判決と並べます。租税では、納税者が、役所の表示を信頼して行動しました。問題は、守ると、平等と公平を崩さないか、でした。この判決は違います。受給者は、役所の言葉を信頼して行動したのではありません。行政自身の違法な取扱いによって、権利の行使を妨げられたのです。行政が、自分の違法を利用して、義務を免れようとする型です。この判決が、租税の判決の3つの考慮で判断されたとは言えません。信義則の働き方は、1つではありません。信頼して行動した人を守る型と、行政が自分の違法を利用することを許さない型です。どちらも、守ると法律に反するように見える場面で、極めて例外的に、信義則が前に出ました。

信義則が顔を出す場面

信義則と、民法の考え方が及ぶ例(段1=信義則が顔を出す場面:最判昭50・2・25=国の公務員に対する安全配慮義務〔ある法律関係に基づく特別な社会的接触関係の当事者が信義則上負う付随義務を、国と公務員の間にも認めた〕/最判昭59・12・13=公営住宅の使用関係〔公営住宅法・条例が優先。特別の定めが無ければ民法・借家法が適用され、信頼関係の法理も働く〕/最判平8・7・2=在留期間更新の不許可〔裁量処分でも、経緯からみて信義則上必要な機会を与えなかった点で裁量権の逸脱濫用〕/段2=民法の考え方が行政に及ぶ例:最判昭49・3・8=課税後の貸倒れと過納金〔判決の言葉は「正義公平の原則」。課税処分が有効でも、一定の場合に不当利得として返還を認めた〕/最判平30・9・25=源泉所得税の納税告知と錯誤〔信義則ではなく民法の錯誤の規定が源泉所得税にも及ぶ。納期限が過ぎた一事で主張できなくなるのではない〕) 図:信義則と、民法の考え方が及ぶ例

  • 段1=信義則が顔を出す場面:最判昭50・2・25=国の公務員に対する安全配慮義務〔ある法律関係に基づく特別な社会的接触関係の当事者が信義則上負う付随義務を、国と公務員の間にも認めた〕
  • 最判昭59・12・13=公営住宅の使用関係〔公営住宅法・条例が優先。特別の定めが無ければ民法・借家法が適用され、信頼関係の法理も働く〕
  • 最判平8・7・2=在留期間更新の不許可〔裁量処分でも、経緯からみて信義則上必要な機会を与えなかった点で裁量権の逸脱濫用〕
  • 段2=民法の考え方が行政に及ぶ例:最判昭49・3・8=課税後の貸倒れと過納金〔判決の言葉は「正義公平の原則」。課税処分が有効でも、一定の場合に不当利得として返還を認めた〕
  • 最判平30・9・25=源泉所得税の納税告知と錯誤〔信義則ではなく民法の錯誤の規定が源泉所得税にも及ぶ。納期限が過ぎた一事で主張できなくなるのではない〕

ここまでの判決のほかにも、信義則や、民法の考え方が、行政の場面に顔を出す例があります。持ち帰る点は1つです。信義則は、役所を信じた人を守るだけでなく、国に義務を生んだり、役所の判断を違法にしたりもします。中身は後の回なので、名前と位置づけだけ、板で押さえます。上段は、信義則が顔を出す場面、下段は、民法の考え方が行政に及ぶ例です。上段の1つ目は、国の公務員に対する安全配慮義務です。公務員の生命や健康を、危険から守るよう配慮する義務です。ある法律関係に基づいて、特別な社会的接触の関係に入った当事者が、信義則上負う付随義務、つまり、契約書などに書かれていない周辺の義務を、国と公務員の間にも認めました。2つ目は、公営住宅の使用関係です。公営住宅法や条例が優先しますが、特別の定めが無ければ、民法や借家法が適用され、信頼関係の法理も働きます。借り手に違反があっても、信頼関係を壊すほどでなければ、契約は解除できない、という考え方です。3つ目は、在留期間の更新の不許可です。裁量処分、つまり、法律が役所に判断の幅を認めた処分でも、経緯から見て、信義則上必要な機会を与えなかった点で、裁量権の逸脱濫用とされました。

下段の1つ目は、課税のあとの貸倒れの場面です。判決が使った言葉は、信義則ではなく、正義公平の原則です。課税処分が有効でも、一定の場合に、不当利得、つまり、法律上の原因なく得た利益として、返還を認めました。2つ目は、源泉所得税の納税告知の場面です。源泉所得税は、給料などを払う側が、差し引いて納める税で、納税告知は、その納付を求める通知です。信義則ではなく、民法の錯誤、つまり、勘違いに自分で気づいていない意思表示の規定が、源泉所得税にも及ぶ例です。納期限が過ぎたという一事で、主張できなくなるわけではありません。どの場面の中身も、後の回で扱います。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ(物差し=信頼を守ると、法律に反する結果になるか/反しない場面=待合所:施策の変更は原則適法→個別的・具体的な勧誘+長期の継続を前提とした投下+代償的措置なし+やむをえない客観的事情なし→不法行為責任/反する場面=申告の否認:租税法律関係では特別の事情が要る→受理・収納は公的見解の表示と言えない/明文の時効があっても、違法な取扱いで権利行使を困難にした行政が時効を主張することは、特段の事情が無い限り信義則に反し許されない〔極めて例外〕) 図:今日のまとめ

  • 物差し=信頼を守ると、法律に反する結果になるか
  • 反しない場面=待合所:施策の変更は原則適法→個別的・具体的な勧誘+長期の継続を前提とした投下+代償的措置なし+やむをえない客観的事情なし→不法行為責任
  • 反する場面=申告の否認:租税法律関係では特別の事情が要る→受理・収納は公的見解の表示と言えない
  • 明文の時効があっても、違法な取扱いで権利行使を困難にした行政が時効を主張することは、特段の事情が無い限り信義則に反し許されない〔極めて例外〕

導入の2つの場面に戻ります。待合所の場面は、守っても法律に反しない場面でした。施策の変更そのものは、原則として適法です。ただ、個別的な勧誘と、長期の継続を前提とした投下があり、代償的措置も無く、やむをえない客観的事情も無ければ、不法行為責任が生じます。選挙で方針が変わっただけでは、やむをえない客観的事情になりません。申告の否認の場面は、守ると法律に反する場面でした。租税法律関係では、慎重さが求められ、平等と公平を犠牲にしてもなお信頼を守らなければ正義に反する、特別の事情があるときに、初めて適用を考えます。受付印と税額の受け取りは、申告を認めた意味を持たず、公的見解の表示とは言えませんでした。

物差しは、信頼を守ると、法律に反する結果になるか、でしたね。反する場面は慎重で、特別の事情や、極めて例外的な場合が要ります。最後の時効の判決は、信頼して行動した人を守る型とは別に、行政が自分の違法を利用して義務を免れることを許さない型がある、と示しました。信じただけでは、守られないけれど、行政が相手を動かしたときや、行政の違法が原因のときは、守られることもあるのですね。法の一般原則の顔ぶれは、まだ残っています。次の回で、続きを見ていきます。

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#15単独ページ動画

権限濫用の禁止

第1章 行政法の基礎 ⑮/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

要件は満たしたのに

隣に急いで申請した図書室(山あいの町/A=町の担当/B=駅前に貸しホールの開業を計画する人/C=県/周りの住民が反対/条例で、図書館その他の施設の近くでは貸しホールの営業許可を出さない/Aは予定地の隣の町有の空き家を急いで図書室として認可を申請する/Cが異例の早さで認可/Bの営業許可は出せなくなった/図書室を作る必要も急ぎの事情もほとんど無い/申請は図書室の要件を全部満たしている) 図:隣に急いで申請した図書室

  • 山あいの町
  • A=町の担当
  • B=駅前に貸しホールの開業を計画する人
  • C=県
  • 周りの住民が反対
  • 条例で、図書館その他の施設の近くでは貸しホールの営業許可を出さない
  • Aは予定地の隣の町有の空き家を急いで図書室として認可を申請する
  • Cが異例の早さで認可
  • Bの営業許可は出せなくなった
  • 図書室を作る必要も急ぎの事情もほとんど無い
  • 申請は図書室の要件を全部満たしている

山あいの町で、Bが、駅前に貸しホールを開く計画を立てました。町の条例では、図書館などの施設の近くでは、貸しホールの営業許可を出さないと決まっています。周りの住民は、開業に反対しています。町の担当のAは、条例を直している時間が無いと考えました。そこで、Bの予定地の隣にある町有の空き家を、急いで図書室として認可を申請します。県は、この申請を、異例の早さで認可しました。町に、図書室を作る必要は、ほとんどありません。急ぎの事情も、ありません。ただ、申請の中身は、図書室の要件を、全部満たしています。その結果、Bの貸しホールには、営業許可が出せなくなりました。

今日の1問は、これです。要件を満たした認可は、それでも違法になるのか。要件を満たしていれば適法、と考えるのが自然です。ただ、法律に反していない行為でも違法になりうる、というのは、適正手続の回で見たとおり、一般原則という第二の物差しの働きでした。前の回の信義則に続いて、今日は、権利濫用の禁止です。使い道が、制度の趣旨とずれていたらどうなるか。これが分かれ目になります。ただし、そう簡単には認められない、という点も、最後に確かめます。

権利濫用の原則と2つの向き

権利濫用と2つの向き(民法の権利濫用=権利はあるが通らない/行政上の法律関係にも及ぶ〔争いは無い〕/私人の側=申請権の濫用・開示請求権の濫用/行政の側=権限濫用〔行政権の濫用とも言う〕/問われるのは、権利や権限の使い道が許されるか) 図:権利濫用と2つの向き

  • 民法の権利濫用=権利はあるが通らない
  • 行政上の法律関係にも及ぶ〔争いは無い〕
  • 私人の側=申請権の濫用・開示請求権の濫用
  • 行政の側=権限濫用〔行政権の濫用とも言う〕
  • 問われるのは、権利や権限の使い道が許されるか

民法の権利濫用を思い出します。民法の回では、権利はある、それでも通らない、という場面を見ました。条文は、民法1条3項です。

条文民法1条3項

民法第1条第3項 権利の濫用は、これを許さない。

短い条文ですが、働きは大きいです。権利を持っていても、その使い方が許されないときは、行使の効果が認められません。民法の回の判断は、利益の釣り合いなど、客観的な事情が主役でした。害意のような主観は、あとから加わる要素です。民法の条文ですよね。行政にも使えるのですか。使えます。信義則と同じで、権利濫用の禁止は、法の一般原則だからです。民法の規定のうち、こうした一般原則は、行政上の法律関係にも適用されることに、異論はありません。行政の場面では、この原則が問題になる向きは、2つあります。1つは、私人の側です。私人が持つ請求の権利が、濫用だと言われる場合です。もう1つは、行政の側です。行政が持つ権限が、濫用だと言われる場合です。行政の側の濫用は、権限濫用とも、行政権の濫用とも言います。

民法の、権利はあるが通らない、を、行政の権限に置き換えます。権限はある。それでも、その使い方では通らない。導入の図書室の話は、この行政の側の問題です。先に、私人の側から見ます。

私人の側の濫用

繰り返し・大量の請求(山あいの町/A=町の担当/B=毎日同じ文書の開示を請求する人/D=一度に数万点もの文書の開示を請求する人/開示請求は理由を問わず誰でもできる制度/だからこそ、繰り返しや大量の請求が権利の濫用か、が問題になる) 図:繰り返し・大量の請求

  • 山あいの町
  • A=町の担当
  • B=毎日同じ文書の開示を請求する人
  • D=一度に数万点もの文書の開示を請求する人
  • 開示請求は理由を問わず誰でもできる制度
  • だからこそ、繰り返しや大量の請求が権利の濫用か、が問題になる

私人の側には、2つの例があります。1つ目は、申請権の濫用です。許可を求める申請という形で出される行為が、権利の濫用にあたる場合を、あらかじめ想定した規定を置く個別法があります。ここでは、個別法がそうした規定を置くことがある、という点だけ押さえてください。2つ目は、情報公開の開示請求です。役所が持っている文書を見せてほしい、と求める権利です。この権利は、請求の目的を問わず、誰でも使えます。理由を言う必要がありません。制度としては、そのとおりです。ただ、だからこそ、使い方が問題になります。たとえば、同じ請求者が、毎日、同じ文書の開示を求めたとします。あるいは、一度に数万点もの文書の開示を求めたとします。役所は、その処理に追われて、ほかの仕事ができなくなります。

境目のペアで考えます。ある文書について、前の請求から内容が変わって、新しい事情が出たので、改めて請求した場合は、どうでしょう。事情が変わっているのですから、繰り返しには当たらないと思います。正当な請求です。決め手は、回数ではありません。同じ内容を、理由もなく繰り返し求めて、役所の事務を妨げることだけが目的になっているかどうかです。毎日同じ文書を求める人は、その意味で、濫用に近づきます。規定の有無を整理します。地方公共団体の情報公開条例には、濫用の禁止や、適正に権利を使う責務を定めるものがあります。国の情報公開法には、濫用的な請求に直接対応する規定は、ありません。大量の請求については、期限の特例を置く条文があります。板に出します。個別法なので、暗記は要りません。

情報公開法11条(開示決定等の期限の特例)(開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため、開示請求があった日から六十日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合には、前条の規定にかかわらず、行政機関の長は、開示請求に係る行政文書のうちの相当の部分につき当該期間内に開示決定等をし、残りの行政文書については相当の期間内に開示決定等をすれば足りる。この場合において、行政機関の長は、同条第一項に規定する期間内に、開示請求者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。/一 本条を適用する旨及びその理由/二 残りの行政文書について開示決定等をする期限/→期限を分ける規定にとどまる〔濫用を理由に請求を断る規定ではない〕) 図:情報公開法11条

  • 開示決定等の期限の特例
  • (開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため、開示請求があった日から六十日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合には、前条の規定にかかわらず、行政機関の長は、開示請求に係る行政文書のうちの相当の部分につき当該期間内に開示決定等をし、残りの行政文書については相当の期間内に開示決定等をすれば足りる。この場合において、行政機関の長は、同条第一項に規定する期間内に、開示請求者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。/一 本条を適用する旨及びその理由/二 残りの行政文書について開示決定等をする期限/→期限を分ける規定にとどまる〔濫用を理由に請求を断る規定ではない〕)

骨格は1つです。請求が著しく大量で、期限内に全部を処理すると事務に著しい支障が出るおそれがあるとき、相当の部分を先に決定し、残りは相当の期間内でよい、というものです。つまり、期限を分ける規定にとどまります。濫用を理由に請求を断る、という規定ではありません。規定が無くても、断る道はあると考えられています。明文が無くても、法の一般原則としての権利濫用の禁止は及ぶ、と考えられています。適正手続の回で見た、明文に書かれていなくても働く第二の物差し、と同じ形です。開示請求の手続そのものは、後の回で扱います。

行政の側の濫用

余目町事件の流れ(営業を計画した業者に住民の反対運動/当時の法律は、児童福祉施設から一定の距離の内側では個室付浴場の営業を禁止/町は県・県警察本部と協議し、その示唆を受ける/予定地から約134.5メートルの町立の児童遊園について、業者の営業の規制を主たる動機として児童福祉施設の設置認可を申請/県知事は経緯を知りつつ認可〔営業許可の51日前〕/業者は営業を始め、営業停止処分/国賠と刑事の2つの裁判に) 図:余目町事件の流れ

  • 営業を計画した業者に住民の反対運動
  • 当時の法律は、児童福祉施設から一定の距離の内側では個室付浴場の営業を禁止
  • 町は県・県警察本部と協議し、その示唆を受ける
  • 予定地から約134.5メートルの町立の児童遊園について、業者の営業の規制を主たる動機として児童福祉施設の設置認可を申請
  • 県知事は経緯を知りつつ認可〔営業許可の51日前〕
  • 業者は営業を始め、営業停止処分
  • 国賠と刑事の2つの裁判に

導入の図書室は、架空の話でした。実際に最高裁まで行った事件があります。余目町の事件で、個室付浴場、つまり、当時の営業類型の1つを開く業者をめぐる争いです。流れを見ます。業者が、営業を計画すると、住民の反対運動が起きました。当時の法律は、児童福祉施設の近くでは、個室付浴場の営業を禁止していました。子どもが通う施設の周りに、そうした店を置かないための規制です。児童福祉施設から、一定の距離の内側が対象で、どこでも禁止されるわけではありません。町は、県や県警察本部と協議して、その示唆を受けます。そして、業者の予定地から、約134.5メートルの場所にある町立の児童遊園について、児童福祉施設としての設置認可を申請しました。申請の主たる動機は、業者の営業を規制することでした。県知事は、その経緯を知りながら、認可しました。営業許可が出る51日前です。

導入の話は、この事件を自前の場面に置き換えたものです。ただ、先に注意があります。この判決は、営業の良し悪しを言う判決ではありません。個室付浴場の営業を認めるべきか、という立法政策とは、別の問題です。ここで、1つ止まって考えます。児童遊園の認可は、児童福祉法の要件を、全部満たしていました。それでも違法になるとすれば、何が理由でしょうか?動機は大事な手がかりですが、それだけでは決まりません。まず、児童遊園の認可は、本来、何のための制度なのかを見ます。条文を板に出します。

条文児童福祉法40条

児童福祉法第40条 児童厚生施設は、児童遊園、児童館等児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、又は情操をゆたかにすることを目的とする施設とする。

児童遊園は、子どもに健全な遊びを与えて、健康と情操を育てる施設です。これが、この制度の趣旨です。認可の申請も、認可も、この趣旨に沿ってされるべきものです。趣旨に沿っていなかったのが、この事件です。判断の流れを板で見ます。

違法と判断された理由の流れ(①児童遊園の認可には制度の趣旨がある〔子どもの健康と情操〕=申請も認可もその趣旨に沿うべき/②町は業者の営業の規制を主たる動機として申請/③営業の規制以外に、児童遊園を無認可から認可施設に整える必要性・緊急性は見当たらない/④県知事は経緯を知りつつ認可/→制度の趣旨に反し、行政権の濫用に相当する違法性) 図:違法と判断された理由の流れ

  • ①児童遊園の認可には制度の趣旨がある〔子どもの健康と情操〕=申請も認可もその趣旨に沿うべき
  • ②町は業者の営業の規制を主たる動機として申請
  • ③営業の規制以外に、児童遊園を無認可から認可施設に整える必要性・緊急性は見当たらない
  • ④県知事は経緯を知りつつ認可/→制度の趣旨に反し、行政権の濫用に相当する違法性

4つの段です。1つ目、認可には制度の趣旨がある。2つ目、町は、業者の営業の規制を主たる動機として、申請した。3つ目、営業の規制以外に、児童遊園を無認可から認可施設に整える必要性も、緊急性も、見当たらない。4つ目、県知事は、その経緯を知りながら認可した。ここまでそろうと、制度の趣旨に反する認可だと言えます。大事なのは、判決が、主たる動機と、必要性、緊急性が無いことを、セットで見ている点です。害意だけで決めているのではありません。民法の権利濫用で、客観が主役、主観は加重、と見たことと響き合います。ただ、行政法では、どんな目的や動機で権限を使ったかという、主観的な目的が、前面に出てきます。導入の図書室に、事実を1つずつ当てます。図書室は、子どもの読書のための施設という趣旨があります。担当のAは、貸しホールの規制を主たる動機として申請しました。規制以外に、図書室を急いで作る必要は、ありません。県は、その経緯を知って認可しました。4つとも、そろっています。

図書室を作る本当の理由が別にあるなら、規制が主たる動機とは言いにくく、規制以外の必要性もあります。判決の4つの段がそろわないので、この型の濫用には当たりにくいです。分かれ目は、規制のほかに、図書室を作る本当の理由があるかどうかです。入場券に例えます。半券が揃っているかを数えるのが、要件の検査です。でも、半券を揃えたこと自体が、特定の人を入れないための工作だったなら、半券の枚数を数えても、答えになりません。使い道の検査が、別に要ります。要件を満たした認可は、一連の経緯や動機から切り離して見れば、違法ではありません。むしろ、拒否できないとも考えられます。この認可は、施設が法律の決めた要件を満たすかを確かめる仕組みで、満たした申請を、知事が自分の判断で断る幅は、ほとんど無いとも考えられるからです。形式的には違法でないとき、一般原則の出番になります。

同じ事件の2つの判決

2つの判決の比べ方(国賠の判決=事件:業者が県に損害賠償を求めた/判断:認可は行政権の著しい濫用によるものとして違法・認可とそれを前提にした営業停止処分による損害に相当因果関係がある/結果:上告棄却〔賠償を認めた原審が確定〕/刑事の判決=事件:営業した業者の刑事事件/判断:認可は行政権の濫用に相当する違法性があり営業を規制する効力が無い→児童福祉施設の存在の証明を欠く/結果:原判決・一審判決を破棄して無罪〔破棄自判〕/時系列は国賠が先・刑事が後) 図:2つの判決の比べ方

  • 国賠の判決=事件:業者が県に損害賠償を求めた
  • 判断:認可は行政権の著しい濫用によるものとして違法・認可とそれを前提にした営業停止処分による損害に相当因果関係がある
  • 結果:上告棄却〔賠償を認めた原審が確定〕
  • 刑事の判決=事件:営業した業者の刑事事件
  • 判断:認可は行政権の濫用に相当する違法性があり営業を規制する効力が無い→児童福祉施設の存在の証明を欠く
  • 結果:原判決・一審判決を破棄して無罪〔破棄自判〕
  • 時系列は国賠が先・刑事が後

この事件では、最高裁の判決が、2つあります。同じ事件の別の判決で、取り違えやすいところです。板で並べます。1つ目は、国家賠償、略して国賠の判決です。業者が県に、損害の賠償を求めた事件です。そして、2つ目は、刑事の判決です。営業を行った業者の、刑事事件です。時系列は、国賠のほうが先で、刑事のほうが後です。刑事の判決は、国賠の判決がすでに確定していることを、自分で言及しています。国賠の判決の結論を、カードで見ます。

判例最判昭53・5・26 民集32巻3号689頁

国賠の判決 本件児童遊園設置認可処分は行政権の著しい濫用によるものとして違法であり、かつ、右認可処分とこれを前提としてされた本件営業停止処分によつて被上告人が被つた損害との間には相当因果関係があると解するのが相当であるから、被上告人の本訴損害賠償請求はこれを認容すべきである。

認可は、行政権の著しい濫用によるものとして違法です。そして、認可と、それを前提とした営業停止処分による損害との間に、相当因果関係があります。相当因果関係とは、その原因から、その損害が生じるのが普通だと言える、つながりのことです。だから、賠償の請求が認められます。結果は、上告棄却です。県の不服が退けられ、賠償を認めた原審、つまり1つ前の裁判所の判断が、確定しました。決め手は、認可の違法が、営業停止処分につながる原因になっていた点です。次に、刑事の判決です。

判例最判昭53・6・16 刑集32巻4号605頁

刑事の判決 本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操をゆたかにすることを目的とする施設(児童福祉法四〇条参照)なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に沿つてなされるべきものであつて、 ……(略)……本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり、 ……(略)……これを規制しうる効力を有しないといわざるをえない

認可は、制度の趣旨に沿ってされるべきなのに、行政権の濫用に相当する違法性がある。そのため、営業を規制する効力を持たない、と言います。業者が問われたのは、児童福祉施設の近くで営業した、という罪でした。認可に規制する効力が無ければ、法律の上では、近くに児童福祉施設があった、と言えません。罪の条件の証明が欠けるので、業者は、無罪になりました。原判決と一審判決が破棄され、最高裁が自分で無罪を言い渡しました。言い方が違う点にも注意してください。国賠は、行政権の著しい濫用です。刑事は、行政権の濫用に相当する違法性です。どちらも、行政権の濫用による違法、という中身は同じで、言葉は、それぞれの判決の原文のままです。だから、どちらの判決が何を言ったのか、板の2列で、事件、判断、結果の3行を、取り違えないようにしてください。

刑事の判決には、もう1つの論点があります。違法な行政処分の効力と、刑事訴訟の関係です。取り消されるまで有効、という考え方と、今日の無罪の結論がどうつながるか、という問題で、後の回で扱います。今日は、違法な認可が、営業を規制する効力を持たないと判断された、という点まで押さえてください。

行政権の濫用と裁量権の濫用

2つの濫用の比べ方(行政権の濫用=対象:裁量が無い処分にも認められうる/認められる頻度:例外的で判例上は稀/裁量権の濫用=対象:裁量のある処分/「裁量権の逸脱又は濫用」の形で判例上は逸脱と明確に区別されていない/認められる頻度:稀ではない/余目町の認可は要件を満たせば拒否できないとも考えられる=裁量が乏しいと考えられる処分で濫用が問題になった/行政権の濫用の例として説明されることが多い一方、裁量権の濫用の例とみる整理もある) 図:2つの濫用の比べ方

  • 行政権の濫用=対象:裁量が無い処分にも認められうる
  • 認められる頻度:例外的で判例上は稀
  • 裁量権の濫用=対象:裁量のある処分
  • 「裁量権の逸脱又は濫用」の形で判例上は逸脱と明確に区別されていない
  • 認められる頻度:稀ではない
  • 余目町の認可は要件を満たせば拒否できないとも考えられる=裁量が乏しいと考えられる処分で濫用が問題になった
  • 行政権の濫用の例として説明されることが多い一方、裁量権の濫用の例とみる整理もある

似た言葉に、裁量権の濫用があります。行政権の濫用とは、同じではありません。板で比べます。裁量とは、前の回でも触れた、法律が役所に認めた判断の幅のことです。行政権の濫用は、裁量が無い処分でも、認められうるものです。ただし、認められるのは例外的で、判例上は稀です。裁量権の濫用は、裁量のある処分で、裁量権の逸脱又は濫用という形で問題になります。逸脱とは、その判断の幅の外に出ることです。判例上、濫用は、この逸脱と明確に区別されておらず、認められる例は、稀ではありません。前の回の在留期間の更新の不許可は、裁量のある処分で、裁量権の逸脱濫用とされた例でした。

児童遊園の認可は、さきほど見たとおり、要件を満たせば拒否できないとも考えられる処分です。知事に、断るかどうかを選ぶ幅、つまり裁量が、乏しいと考えられます。それでも、主たる動機と、必要性の欠如から、濫用が問題になりました。だから、行政権の濫用の例として説明されることが多い一方、裁量権の濫用の例とみる整理もあります。裁量権の逸脱や濫用の審査は、後の回で扱います。ここでは、分けて押さえてください。

条例で新しい規制をかけたとき

水源保護条例の事案(町の水道水源を守る条例/A=町長/B=産廃処理施設の設置を計画する事業者/C=県/Bが県の窓口に計画を出し許可の手続を進める/Aは計画を知り、水源保護条例を制定してBの予定地を含む区域を水源保護地域に指定/条例は事前協議と住民説明会を義務づけ、町長が審議会の意見を聴いて規制対象事業場に認定/認定されると設置は禁止〔違反は罰則つき〕/県の設置許可があっても建てられない/Aは認定→原審は適法→最高裁は破棄差戻し) 図:水源保護条例の事案

  • 町の水道水源を守る条例
  • A=町長
  • B=産廃処理施設の設置を計画する事業者
  • C=県
  • Bが県の窓口に計画を出し許可の手続を進める
  • Aは計画を知り、水源保護条例を制定してBの予定地を含む区域を水源保護地域に指定
  • 条例は事前協議と住民説明会を義務づけ、町長が審議会の意見を聴いて規制対象事業場に認定
  • 認定されると設置は禁止〔違反は罰則つき〕
  • 県の設置許可があっても建てられない
  • Aは認定→原審は適法→最高裁は破棄差戻し

もう1つ、よく似た場面があります。既存の仕組みを本来と違う目的で使ったのではなく、新しい条例を作って規制した場合です。この場合は、行政権の濫用とは異なる、と整理されています。行政権の濫用は、すでにある権限を、その趣旨と違う目的に使うことでした。事案です。産業廃棄物の中間処理施設を建てようとした事業者が、県の窓口に計画を出して、許可の手続を進めていました。計画を知った町は、水道水源の保護条例を作ります。そして、事業者の予定地を含む区域を、水源保護地域に指定しました。条例の仕組みは、こうです。対象事業を行う者は、町長と事前に協議をして、住民への説明会を開く。町長は、審議会の意見を聴いて、その事業を規制対象事業場に認定するかを決める。認定されると、その地域では施設の設置が禁止され、違反には罰則があります。県の設置許可を受けていても、建てられません。町長は、事業者の施設を、規制対象事業場に認定しました。原審は適法としましたが、最高裁は、その判断を破棄して、審理をやり直させるために差し戻しました。

水源を守ること自体は、問題にされていません。判決は、条例そのものの違法も、言っていません。見たのは、認定の手続の中で、町長が何をすべきだったか、です。3つの段で見ます。

判決の3つの段(①協議の手続は、条例の中で重要な地位を占める〔認定が事業者の権利に重大な制限を課すため〕/②事業者は条例制定前にすでに許可申請の手続を進めており、町長はそれを知っていた+水源保護と施設設置の必要性を調和させる措置を検討する機会があった/③町長は、事業者と十分な協議を尽くし、適切な指導をし、事業者の地位を不当に害しないよう配慮する義務があった→義務に違反した認定は違法) 図:判決の3つの段

  • ①協議の手続は、条例の中で重要な地位を占める〔認定が事業者の権利に重大な制限を課すため〕
  • ②事業者は条例制定前にすでに許可申請の手続を進めており、町長はそれを知っていた+水源保護と施設設置の必要性を調和させる措置を検討する機会があった
  • ③町長は、事業者と十分な協議を尽くし、適切な指導をし、事業者の地位を不当に害しないよう配慮する義務があった→義務に違反した認定は違法

1つ目、協議の手続は、条例の中で重要な地位を占めます。認定が、事業者の権利に重大な制限を課すからです。2つ目、事業者は、条例ができる前から、許可申請の手続を進めていました。町長はそれを知っていて、調和させる機会もありました。この点を、カードで確認します。

判例最判平16・12・24 民集58巻9号2536頁

条例制定前の手続 被上告人は,上告人が本件条例制定の前に既に産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る手続を進めていたことを了知しており,また,同手続を通じて本件施設の設置の必要性と水源の保護の必要性とを調和させるために町としてどのような措置を執るべきかを検討する機会を与えられていたということができる。

町長は、事業者が許可の手続を進めていたことを知っていました。しかも、水源の保護と施設の必要性を、どう調和させるかを検討する機会もありました。前の回で見た、役所を信じて動いた人と、似た場面です。そのうえで、3つ目の結論です。

判例最判平16・12・24 民集58巻9号2536頁

配慮義務 被上告人としては,上告人に対して本件処分をするに当たっては,本件条例の定める上記手続において,上記のような上告人の立場を踏まえて,上告人と十分な協議を尽くし,上告人に対して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし,上告人の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があったものというべきであって,本件処分がそのような義務に違反してされたものである場合には,本件処分は違法となるといわざるを得ない。

骨格は、3つです。事業者と十分な協議を尽くすこと。取水量を適正なものに改めるよう、適切に指導すること。事業者の地位を不当に害しないよう、配慮すること。この義務に違反して認定をしたなら、認定は違法になります。原審は、この観点を審理していなかったので、審理不尽、つまり、調べるべき点を調べ尽くしていない、とされました。判決は、配慮義務に違反した認定は違法、という組み立てで、濫用の語は使っていません。信義則や、権利濫用の言葉を、この判決に重ねてはいけません。条例そのものの法律適合性は、後の回で扱います。

余目町の事件のような、主観的な意図は、見られないのですか。そこは区別されます。条例を作ることは、一般に、行政権の濫用とは考えられない作用です。しかもこの事件は、特定の事業者を狙い撃ちにしたというより、同種の施設を広く規制しようとした事案だ、と整理されることもあります。余目町の事件では、主たる動機が前面に出ましたが、この判決では、手続の中の配慮が決め手になりました。

最後の手段

最後の手段(順番=①まず個別法の仕組みから違法と言えないかを検討/②届かないときだけ、一般原則〔権限濫用・信義則など〕/安易に持ち出すと法律による行政を崩すおそれ〔法律の優位〕/判例上、認められたのは稀/余目町は、要件を満たす形を行政機関が巧妙につくった特殊な事案) 図:最後の手段

  • 順番=①まず個別法の仕組みから違法と言えないかを検討
  • ②届かないときだけ、一般原則〔権限濫用・信義則など〕
  • 安易に持ち出すと法律による行政を崩すおそれ〔法律の優位〕
  • 判例上、認められたのは稀
  • 余目町は、要件を満たす形を行政機関が巧妙につくった特殊な事案

まとめの前に、問いを1つ。民法の回を、思い出してください。そこで見た一般条項は、先に使う道具でしょうか、最後に使う道具でしょうか?最後の道具でした。まず、個別の条文を探して、それで足りないときに開ける引き出しです。行政権の濫用も同じです。まず、個別法の仕組みから、違法と言えないかを検討します。届かないときに、いわば最後の手段として、一般原則を使います。適正手続の回で見た、まず法令の要件と効果、次に一般原則、という順序と同じです。この順序を守るのは、安易に持ち出すと、法律による行政を崩すおそれがあるからです。法律による行政の回で見たとおり、行政は、法律に基づき、法律に従って動くのが原則です。要件を満たした行為を、抽象的な原則で簡単に違法にできるなら、法律が引いた線が、意味を失います。判例上、認められたのは稀です。余目町の事件は、法律の要件はそろえつつ、特定の営業ができない状況を、役所の側が意図して作り出した、特別な事案です。応用できる場面は、少ないと考えておいてください。

今日のまとめ

今日のまとめ(私人の側=申請権・開示請求権の濫用/行政の側=余目町事件:趣旨に反し、主たる動機+必要性・緊急性なし+知りつつ認可→行政権の濫用に相当する違法/国賠=損害賠償を認める・刑事=規制効力なしで無罪/行政権の濫用と裁量権の濫用は別物/条例による新規制=協議の中で事業者の地位を不当に害しない配慮義務/最後の手段=まず個別法・次に一般原則/一般原則は法令に反しない活動を違法にしうる強力な武器だが、要件は比較的厳格) 図:今日のまとめ

  • 私人の側=申請権・開示請求権の濫用
  • 行政の側=余目町事件:趣旨に反し、主たる動機+必要性・緊急性なし+知りつつ認可→行政権の濫用に相当する違法
  • 国賠=損害賠償を認める・刑事=規制効力なしで無罪
  • 行政権の濫用と裁量権の濫用は別物
  • 条例による新規制=協議の中で事業者の地位を不当に害しない配慮義務
  • 最後の手段=まず個別法・次に一般原則
  • 一般原則は法令に反しない活動を違法にしうる強力な武器だが、要件は比較的厳格

導入の図書室に戻ります。担当のAは、貸しホールを規制することを主たる動機として、図書室の認可を申請しました。規制以外に、必要性も緊急性もありません。県は、その経緯を知って認可しました。趣旨に反するので、行政権の濫用で違法になる可能性があります。ただし、要件を満たす形をつくった特殊な事例で、実際に認められるのは稀です。要件を満たしていても違法になるけれど、簡単には認められない、ということですね。条文だけを見れば違法とは言えない行政の行為でも、一般原則を持ち出して違法と判断できる場合がある、ということです。私人にとって、強力な武器です。ただ、内容が抽象的で、微妙な判断になるため、判例も、要件を比較的厳格に見ています。

結論と理由を組にして押さえておけば足ります。一般原則の顔ぶれは、まだ残っています。次は、やりすぎを止める物差しを見ていきます。

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#16単独ページ動画

比例原則

第1章 行政法の基礎 ⑯/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

少しはみ出しただけなのに

はみ出した屋台と営業許可の取消し(A=市/B=駅前の歩道で屋台を出す店主/Bの屋台が歩道に約20センチはみ出していた/違反は違反/根拠の法律は違反があれば営業許可を取り消せると定める/Aは是正を求めず営業許可そのものを取り消した/取消しの要件は満たしている/軽い手段=是正命令・指導も使えた) 図:はみ出した屋台と営業許可の取消し

  • A=市
  • B=駅前の歩道で屋台を出す店主
  • Bの屋台が歩道に約20センチはみ出していた
  • 違反は違反
  • 根拠の法律は違反があれば営業許可を取り消せると定める
  • Aは是正を求めず営業許可そのものを取り消した
  • 取消しの要件は満たしている
  • 軽い手段=是正命令・指導も使えた

駅前の歩道で屋台を出しているBがいます。ある日、屋台が歩道に、約20センチはみ出していることが分かりました。歩道に物を置いてはいけない決まりがあるので、違反は違反です。屋台の営業許可の根拠になる法律は、違反があれば、許可を取り消せると定めています。市のAは、はみ出しを直すように求めることもなく、いきなり営業許可そのものを取り消しました。取消しができる要件は、満たしています。今日の1問は、これです。権限があって、要件も満たしているのに、その使い方が重すぎるという理由で、違法になるのか。先に答えを言うと、違法になりえます。

気持ちの問題にしないために、物差しがあります。前の回の権限濫用は、権限を使う目的や動機がゆがんでいないか、を見ました。今日の物差しは、動機は正当でも、手段が目的に比べて重すぎないか、を見ます。権限の使い方の量を測る物差しで、名前を比例原則と言います。この回の終わりには、4つの問いで当てはめる型と、懲戒処分が重すぎると主張する方法まで、持ち帰れるようにします。

比例原則とは

比例原則の定義と由来(比例原則=行政目的を達成するのに必要な範囲でだけ行政権限を用いることができる/由来=警察比例の原則:①必要性の原則=そもそも権限を使う必要がある場面でなければならない/②過剰規制の禁止=必要がある場面でも手段の大きさが目的に見合っていなければならない/ここでの警察=社会の安全や秩序を守るための行政活動のすべて〔歩道での屋台の取締りのように道路の使い方を規制する場面も含む〕/組織としての警察に限らない/明文の表れ=警察官職務執行法1条2項) 図:比例原則の定義と由来

  • 比例原則=行政目的を達成するのに必要な範囲でだけ行政権限を用いることができる
  • 由来=警察比例の原則:①必要性の原則=そもそも権限を使う必要がある場面でなければならない
  • ②過剰規制の禁止=必要がある場面でも手段の大きさが目的に見合っていなければならない
  • ここでの警察=社会の安全や秩序を守るための行政活動のすべて〔歩道での屋台の取締りのように道路の使い方を規制する場面も含む〕
  • 組織としての警察に限らない
  • 明文の表れ=警察官職務執行法1条2項

定義から入ります。比例原則とは、行政が権限を使うとき、行政の目的を達成するのに必要な範囲でだけ、使うことが許される、という原則です。ハエを叩くのに、金づちは要りません。ハエを退治するという目的は正当でも、金づちを振るえば壁に穴があきます。目的が正しくても、手段が重すぎれば許されない。これが比例原則の骨格です。由来は、警察比例の原則と呼ばれるものです。2つの内容があります。1つ目は、必要性の原則です。そもそも権限を使う必要がある場面でなければ、権限を使えません。2つ目は、過剰規制の禁止です。必要がある場面でも、手段の大きさが目的に見合っていなければなりません。

屋台で考えます。歩道のはみ出しを直させる必要は、確かにあります。1つ目の必要性は、そこで満たされます。けれど、直させる手段が営業許可の全面取消しなら、20センチのはみ出しに対して、手段が大きすぎます。必要はあるのに、相応していない。これが2つ目の、過剰規制の禁止にあたる場面です。ここでいう警察は、組織の名前ではありません。社会の安全や秩序を守るための行政活動のすべてを指します。歩道での屋台の取締りのように、道路の使い方を規制する場面も含まれます。組織としての警察に限らない、という点が、短答で問われます。明文の表れもあります。警察官職務執行法の1条2項です。個別法なので、暗記は要りません。条文を板に出します。

条文警察官職務執行法1条2項

警察官職務執行法第1条第2項 この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあつてはならない。

骨格は、法律に規定した手段は、目的のために必要な最小の限度で用いるべきで、濫用にわたってはならない、というものです。警察の権限は、人の身体や自由に直接かかわるので、この考え方がはっきり条文に書かれました。この条文は、1つの表れです。一般原則としての根拠は、憲法13条に求める見解があります。人の自由を尊重する憲法の考え方から、必要以上の制限は許されない、と導くものです。憲法13条の中身は憲法の回で扱ったので、ここでは、根拠に挙げられることがある、という点を押さえてください。

当てはめの4つの問い

当てはめの4つの問い(目的は何か→その手段は目的に役立つか〔適合性〕→もっと軽い手段は無いか〔必要性〕→得られる利益と失われる利益は釣り合うか〔均衡性〕/前の3つ=手段が目的に見合うか/最後の1つ=利益のバランス/屋台:目的=歩道の通行確保→取消しは役立つ→是正命令・指導という軽い手段がある→20センチのはみ出しと営業の全部を失うことは釣り合わない) 図:当てはめの4つの問い

  • 目的は何か→その手段は目的に役立つか〔適合性〕→もっと軽い手段は無いか〔必要性〕→得られる利益と失われる利益は釣り合うか〔均衡性〕
  • 前の3つ=手段が目的に見合うか
  • 最後の1つ=利益のバランス
  • 屋台:目的=歩道の通行確保→取消しは役立つ→是正命令・指導という軽い手段がある→20センチのはみ出しと営業の全部を失うことは釣り合わない

定義だけでは、答案にも事例にも使えません。比例原則は、4つの問いを順に当てて使います。1つ目、行政の目的は何か。2つ目、その手段は、目的の達成に役立つか。3つ目、もっと軽い手段は無いか。4つ目、得られる利益と失われる利益は、釣り合っているか。2つ目を適合性、3つ目を必要性、4つ目を均衡性と呼びます。憲法の回で、ドイツ型の審査として紹介した、適合性、必要性、均衡性と、同じ3つの物差しです。刑事訴訟法の任意捜査では、必要性に見合った相当なものか、という形で出てきました。同じ考え方が、科目ごとに、少しずつ形を変えて現れています。前の3つは、手段が目的に見合うかを見ます。最後の1つは、手段で得られる利益と、手段で失われる利益のバランスを見ます。分けて覚えると、混ざりません。1つ注意します。由来で見た必要性の原則と、3つ目の必要性は、同じ言葉でも、問いが違います。必要性の原則は、そもそも権限を使う必要があるか。3つ目の必要性は、もっと軽い手段で足りないか。屋台なら、はみ出しを直させる必要はある、が前者で、取消しまでは要らない、が後者です。屋台を当てはめます。1つ目、目的は、歩道の通行を確保することです。2つ目、営業許可を取り消せば、屋台は歩道から消えます。目的に役立ちます。3つ目、是正命令や、はみ出しを直す指導という、軽い手段があります。これで十分に目的を達成できる以上、全面取消しは必要とは言えません。4つ目、得られる利益は20センチ分の通行の確保で、失われる利益は店主の営業のすべてです。釣り合っていません。

事情が変われば結論も変わります。屋台が歩道を半分ふさいで、何度命じても動かさない、という場合は、軽い手段では目的を達成できないので、重い手段が必要になる余地が出てきます。分かれ目は、軽い手段で足りるかどうかです。ここで、1つ確認します。屋台の取消しを軽くするとしたら、4つの問いのどこで引っかかるでしょうか?3つ目のもっと軽い手段、だと思います。是正命令や指導で足りるのに、取消しにしたので、必要性が無いことになります。軽い手段の存在を示せることが、重すぎるという主張の中心になります。

権力的な作用全般に及ぶ

比例原則の広がりと裁量(当初=警察作用/今=事実行為を含む権力的な作用全般・人の権利自由へのあらゆる制限に妥当/目的と手段のバランスを要請する原則/法令の文言が選択肢の1つとして認めていても比例原則に反すれば違法/何が比例するかは一義的に明確でない→行政に裁量→社会観念上著しく妥当を欠くとき裁量の逸脱・濫用として違法) 図:比例原則の広がりと裁量

  • 当初=警察作用
  • 今=事実行為を含む権力的な作用全般・人の権利自由へのあらゆる制限に妥当
  • 目的と手段のバランスを要請する原則
  • 法令の文言が選択肢の1つとして認めていても比例原則に反すれば違法
  • 何が比例するかは一義的に明確でない→行政に裁量→社会観念上著しく妥当を欠くとき裁量の逸脱・濫用として違法

比例原則は、もともと警察作用の原則でした。今は、警察作用に限りません。事実行為、つまり命令のように義務を課すのではなく、職員が実際に屋台を運び出すように、行政が実際に手を動かす行為も含めて、権力的な作用全般、つまり人の権利や自由を制限するあらゆる場面に、妥当すると考えられています。目的と手段のバランスを求める原則として、行政法の全体に広がりました。法令の文言が、その手段を選択肢の1つとして認めていても、比例原則に反すれば、違法になります。導入の屋台の取消しは、まさにこの形です。文言どおりだから適法、とは言えません。

重すぎるかどうかを裁判所が自分で決めることには、少し慎重です。何が比例するのかは、一義的に明確ではありません。そこで、行政には判断の幅、つまり裁量が認められます。その幅の中なら、違法にはなりません。社会の常識から見て、著しく妥当を欠くとき、つまり社会観念上著しく妥当を欠くとき、はじめて裁量の逸脱や濫用として、違法になります。この審査の詳しい形は、後の回で扱います。

懲戒処分での使われ方

懲戒処分の4種類と判断のしくみ(地方公務員法29条1項=処分の種類を並べるだけ:戒告→減給→停職→免職/どの処分を選ぶかの基準は書かれていない/→選び方は一般原則で統制される/懲戒権者は諸般の事情を考慮して処分を選ぶ裁量を有する/社会観念上著しく妥当を欠くと違法) 図:懲戒処分の4種類と判断のしくみ

  • 地方公務員法29条1項=処分の種類を並べるだけ:戒告→減給→停職→免職
  • どの処分を選ぶかの基準は書かれていない
  • →選び方は一般原則で統制される
  • 懲戒権者は諸般の事情を考慮して処分を選ぶ裁量を有する
  • 社会観念上著しく妥当を欠くと違法

比例原則の考え方が、実際の判決にどう現れるかを見ます。公務員の懲戒処分です。その前に、前の回の内容を1つ思い出します。要件を満たしていても権限濫用になるのは、どんなときだったでしょうか?前の回の答えは、権限を制度の趣旨と違う目的で使ったとき、つまり動機がゆがんでいるときでした。今日は、動機ではなく、処分の重さが問題です。条文を板に出します。個別法なので暗記は要りません。

条文地方公務員法29条1項

地方公務員法第29条第1項 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。 一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれらに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合 二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合 三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

骨格は、1つです。戒告、減給、停職、免職の4種類を並べているだけで、どれを選ぶかの基準は、書いていません。号の列挙は、懲戒事由が3つあることを示すだけなので、読み飛ばして構いません。基準が書かれていない以上、文言だけを見れば、免職を選んでも違法とは言えないように見えます。ただ、文言が選択肢を認めていても、比例原則に反する選び方は違法になる。これが、先ほど見たとおりの話です。判例が、どう組み立てたかを見ます。

判決の3つの段(事案=卒業式の国歌斉唱で起立を命じる職務命令に従わなかった教員/減給処分/①懲戒権者の裁量の枠組み=社会観念上著しく妥当を欠くと違法/②戒告を超えて減給を選ぶ追加の条件=規律の必要性と不利益の権衡→相当性を基礎づける具体的な事情/③当てはめ=服装の戒告1回だけ→減給は違法・戒告は適法) 図:判決の3つの段

  • 事案=卒業式の国歌斉唱で起立を命じる職務命令に従わなかった教員/減給処分
  • ①懲戒権者の裁量の枠組み=社会観念上著しく妥当を欠くと違法
  • ②戒告を超えて減給を選ぶ追加の条件=規律の必要性と不利益の権衡→相当性を基礎づける具体的な事情
  • ③当てはめ=服装の戒告1回だけ→減給は違法・戒告は適法

事案です。公立学校の教員が、卒業式で国歌を斉唱するときに起立するよう命じる職務命令に、従いませんでした。教育委員会は、この教員を減給処分にしました。教員が、処分の取消しを求めた事件です。思想や良心の自由への間接的な制約が問題になる事案でもありましたが、その点は憲法の回で扱いました。この回の焦点は、処分の重さの選び方です。判決の判断は、3つの段に分かれます。1つ目は、懲戒権者の裁量の一般的な枠組み。2つ目は、戒告を超えて減給を選ぶときの追加の条件。3つ目は、この事件への当てはめです。まず1つ目、裁量の枠組みです。

判例最判平24・1・16 集民239号253頁

裁量の枠組み 懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解される

懲戒権者は、行為の原因や動機、態度、処分歴など、諸般の事情を考えて、処分を選ぶ裁量を持ちます。ただし、社会観念上著しく妥当を欠くときは、違法です。ここまでは、裁量の一般的な枠組みです。2つ目です。判決は、戒告より重い処分を選ぶときの、追加の条件を示しました。比例原則の考え方が出てくる部分です。

判例最判平24・1・16 集民239号253頁

減給を選ぶための規範 不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えて減給の処分を選択することが許容されるのは,過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為等の前後における態度等(以下,併せて「過去の処分歴等」という。)に鑑み,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解すべきである。

判決の多数意見は、比例原則という言葉を使っていません。ただ、規律や秩序の保持の必要性と、処分による不利益の内容を、権衡、つまり釣り合いの観点で見る、という形は、比例原則の考え方に沿った判断です。そして、この規範が働くのは、戒告を超えて、減給以上を選ぶときです。戒告までは特別な条件が要らないのは、不利益の大きさが違うからです。戒告は、将来を戒める最も軽い処分で、処分それ自体が直接に給与を減らすものではありません。減給は、処分によって給与が直接に減ります。不利益が大きくなるぶん、それに見合う高い必要性を、具体的な事情で示す必要が出てきます。釣り合いの片方の皿が重くなるので、もう片方にも、重い事情を載せなければなりません。では、具体的な事情とは、どの程度のものでしょうか。判決は、続けて、例を挙げています。

判例最判平24・1・16 集民239号253頁

具体的な事情の程度 例えば過去の1回の卒業式等における不起立行為等による懲戒処分の処分歴がある場合に,これのみをもって直ちにその相当性を基礎付けるには足りず,上記の場合に比べて過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなど,過去の処分歴等が減給処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するというべきである。

足りない場合と、足りうる場合を、並べます。過去に1回、処分を受けた歴があるだけでは、減給を選ぶ理由として足りません。一方、過去の非違行為、つまり処分の理由になった過去の非行が、内容や頻度の点で、規律や秩序を害する程度が相応に大きければ、減給の必要性を基礎づけうる、ということです。処分歴の有無ではなく、その中身と、減給という不利益との釣り合いが、決め手になります。

判決の当てはめと射程(過去の処分歴=服装の戒告1回だけ→給与が減る減給の不利益を支える必要性は示されていない→期間・割合にかかわらず減給は違法/戒告=処分それ自体は直接の給与上の不利益を及ぼさない最も軽い処分→昇給・勤勉手当への影響も勘案した上で、処分歴の有無にかかわらず基本的に裁量の範囲内=適法/組=戒告は適法・減給は違法/射程=不起立に対する懲戒で戒告を超えて減給を選ぶ場面の規範・ほかの懲戒に使えるのは必要性と不利益を釣り合いで測る考え方) 図:判決の当てはめと射程

  • 過去の処分歴=服装の戒告1回だけ→給与が減る減給の不利益を支える必要性は示されていない→期間・割合にかかわらず減給は違法
  • 戒告=処分それ自体は直接の給与上の不利益を及ぼさない最も軽い処分→昇給・勤勉手当への影響も勘案した上で、処分歴の有無にかかわらず基本的に裁量の範囲内=適法
  • 組=戒告は適法・減給は違法
  • 射程=不起立に対する懲戒で戒告を超えて減給を選ぶ場面の規範・ほかの懲戒に使えるのは必要性と不利益を釣り合いで測る考え方

3つ目、この事件への当てはめです。

判例最判平24・1・16 集民239号253頁

減給は違法 過去に入学式の際の服装等に係る職務命令違反による戒告1回の処分歴があることのみを理由に同第1審原告に対する懲戒処分として減給処分を選択した都教委の判断は,減給の期間の長短及び割合の多寡にかかわらず,処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き,上記減給処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れないと解するのが相当である。

カードの、同第1審原告は、この教員のこと、都教委は、東京都の教育委員会のことです。この教員には、過去に、服装に関する職務命令違反で、戒告を1回受けた歴がありました。減給の理由は、その1点だけです。判決は、これだけでは、減給の相当性は基礎づけられないとして、減給を違法としました。過去の処分は、服装に関する戒告が1回だけです。規律を害する程度が大きいとは言えず、給与が実際に減るという不利益を支えるほどの必要性は、示されていません。だから、期間や割合を小さくしても、減給という種類を選んだこと自体が、重すぎたのです。

戒告は、懲戒権者の裁量の範囲内として、適法とされました。判決が挙げた理由は、3つです。1つ目は、職務命令の遵守を確保して、学校の規律と秩序を保つ必要があること。2つ目は、戒告が、規律に違反した責任を確認して、将来を戒める処分であること。3つ目は、処分それ自体は、直接の給与上の不利益を及ぼさないことです。将来の昇給や勤勉手当への影響があることも、判決は考えた上で、なお裁量の範囲内としました。これを釣り合いの皿に例えると、不利益の皿が軽いので、規律の必要性の皿と釣り合う、と見ることができます。ただし皿はあくまで理解のための比喩で、判決の言葉ではありません。だから判決は、戒告を選ぶことは、過去の処分歴の有無にかかわらず、基本的に裁量の範囲内に属する事柄だ、としました。結論は、戒告は適法、減給は違法、という組です。条文が減給を選べると書いていても、同じ不起立行為に対して、軽い処分は許され、重い処分は、具体的な事情が無いと許されない。その分かれ目が、必要性と不利益の釣り合いでした。射程も確認します。この判決が示したのは、卒業式などでの不起立に対する懲戒で、戒告を超えて減給を選ぶ場面の規範です。懲戒処分の全部について、減給以上には特別な事情が要る、と決めたわけではありません。ほかの懲戒にも使えるのは、必要性と不利益を釣り合いで測る、という考え方のほうです。

重すぎると具体的に言う方法

重すぎる処分を言う2本の物差し(設例:市の職員Aが昼休み明けに庁舎のコピー機で私用の資料を数枚コピーした→懲戒免職/非行のはしご=私用コピー数枚→備品の無断持ち出し→公金の着服/処分のはしご=戒告→減給→停職→免職/①もっと重い非行との釣り合い:いちばん軽い段階にいちばん重い処分/②ほかの処分例との比較:同種の私用コピーは戒告・減給が多数/免職だけが飛び出している) 図:重すぎる処分を言う2本の物差し

  • 設例:市の職員Aが昼休み明けに庁舎のコピー機で私用の資料を数枚コピーした→懲戒免職/非行のはしご=私用コピー数枚→備品の無断持ち出し→公金の着服/処分のはしご=戒告→減給→停職→免職
  • ①もっと重い非行との釣り合い:いちばん軽い段階にいちばん重い処分
  • ②ほかの処分例との比較:同種の私用コピーは戒告・減給が多数/免職だけが飛び出している

判例の規範を見たところで、今度は、重すぎると主張する側の、組み立て方を考えます。ただ、公益上の必要に比べて処分が重い、と言うだけでは、弱いことがあります。相手から、それ自体が重大な非行だ、と返されれば、水掛け論で終わるからです。設例で考えます。市の職員Aが、昼休み明けに、庁舎のコピー機で、私用の資料を数枚コピーしました。市は、これを理由に、Aを懲戒免職にしました。私用でコピー機を使えば服務規律に反する、という点は、市も反論として挙げてきます。私用コピーは、それ自体が服務規律違反だ、と。だから、重すぎると言うための物差しが、さらに要ります。2本あります。1本目は、もっと重い非行との釣り合いです。非行には、軽い段階から重い段階まで、はしごのように段があります。この設例なら、私用コピーが数枚、その上に備品の無断持ち出し、さらに上に公金の着服、という並びです。処分にも段があって、戒告、減給、停職、免職の順です。Aの非行は、非行のはしごの、いちばん下の段です。そこに、処分のはしごの、いちばん上の段を当てています。もっと重い非行にも使う免職を、最も軽い非行にも使うのは、釣り合いが取れていません。2本目は、ほかの処分例との比較です。同じ程度の非行に対して、これまで、どの処分が選ばれてきたかを見ます。この市で、同種の私用コピーは、戒告や減給が大多数だったとします。そうだとすると、Aだけが免職というのは、飛び抜けています。同じような非行は同じように扱う、という要請は、次の回で扱う平等原則とも、つながっています。処分の基準が定められているなら、その基準との関係も検討します。

違反があること自体は争わないまま、非行のはしごの最下段にあることと、過去の例では軽い処分が普通だったことを、並べて示せます。重すぎる、という抽象的な主張が、具体的な事実で支えられます。1つ、区別しておきます。最高裁が示した規範は、先ほどの、不起立に対する懲戒で減給以上を選ぶには相当性を基礎づける具体的な事情が要る、という部分です。この2本の物差しは、判例が立てた規範ではありません。重すぎるという主張を具体的にするための、整理です。答案では、両者を混ぜずに、規範と、当てはめの工夫として書き分けます。

足りなさすぎを問う余地

二面関係と三面関係(A=行政/B=規制を受ける事業者/C=規制で守られる近隣住民/二面関係:A→B の規制が強すぎる=過剰規制の禁止/三面関係:A→C の守りが足りない=規制しない・弱すぎる/過小な規制の禁止として使われる余地がある〔確立した規範ではない〕) 図:二面関係と三面関係

  • A=行政
  • B=規制を受ける事業者
  • C=規制で守られる近隣住民
  • 二面関係:A→B の規制が強すぎる=過剰規制の禁止
  • 三面関係:A→C の守りが足りない=規制しない・弱すぎる
  • 過小な規制の禁止として使われる余地がある〔確立した規範ではない〕

最後に、比例原則の向きを変えて見ます。ここまでの話は、行政と、規制を受ける相手方との、二面関係でした。規制が強すぎないか、という、過剰規制の禁止です。三面関係を考えます。Aは行政、Bは規制を受ける事業者、Cは、規制によって守られる近隣の住民です。Aが規制を強くしすぎれば、Bとの関係で、比例原則が問題になります。では、逆に、Aが規制をほとんどしないか、弱すぎる場合はどうでしょう。たとえば、深夜まで大音量で営業する店Bがあって、近所の住民Cが眠れない。行政Aが何の対応もしなければ、Cの側から見ると、規制が足りなさすぎる、という問題になります。

住民Cの側から比例原則を使う余地があると言われています。理由は、比例原則が、目的と手段の釣り合いを見る物差しだからです。三面関係では、規制の目的は、Cの利益を守ることそのものです。釣り合いは、手段が重すぎても崩れますが、守るべき利益に比べて手段が軽すぎても、崩れます。そこで、守るべき人の利益に対して、規制が過小になっていないか、という問いにもなります。過小な規制の禁止として使われうる、という考え方です。ただし、確立した規範とまでは言えないので、そのような余地がある、という程度に押さえてください。規制権限を使わなかったことの違法は、後の回で、国家賠償と合わせて扱います。

今日のまとめ

今日のまとめ(定義=行政目的の達成に必要な範囲でだけ権限を使える/由来=警察比例の原則〔必要性の原則・過剰規制の禁止〕・警察官職務執行法1条2項・憲法13条に根拠を求める見解・今は権力的な作用全般/4つの問い=目的→適合性→必要性〔もっと軽い手段〕→均衡性/懲戒=29条1項は種類を並べるだけ・不起立の事件で減給以上を選ぶには必要性と不利益の権衡から相当性を基礎づける具体的な事情が要る〔戒告は適法・減給は違法〕/2本の物差し=非行のはしごとの釣り合い・ほかの処分例との比較/三面関係=足りなさすぎを問う余地) 図:今日のまとめ

  • 定義=行政目的の達成に必要な範囲でだけ権限を使える
  • 由来=警察比例の原則〔必要性の原則・過剰規制の禁止〕・警察官職務執行法1条2項・憲法13条に根拠を求める見解・今は権力的な作用全般
  • 4つの問い=目的→適合性→必要性〔もっと軽い手段〕→均衡性
  • 懲戒=29条1項は種類を並べるだけ・不起立の事件で減給以上を選ぶには必要性と不利益の権衡から相当性を基礎づける具体的な事情が要る〔戒告は適法・減給は違法〕
  • 2本の物差し=非行のはしごとの釣り合い・ほかの処分例との比較
  • 三面関係=足りなさすぎを問う余地

導入の屋台に戻ります。Bの屋台は、歩道に20センチはみ出していました。市のAは、是正を求めずに、営業許可を取り消しました。目的は、歩道の通行の確保で、取消しは役に立ちます。でも、是正命令や指導という、もっと軽い手段があります。20センチの通行確保と、営業のすべてを失うことは、釣り合いません。取消しは、権限があって要件を満たしていても、重すぎるので、違法になりえます。要件を満たしていても、重すぎれば違法になる。そのとき、4つの問いで、軽い手段が無いかを探せばいい、ということですね。そして、懲戒処分は、29条1項が種類を並べるだけなので、選び方が一般原則で統制されます。判例の事件では、減給以上を選ぶには、規律の必要性と不利益の釣り合いから、相当性を基礎づける具体的な事情が要る。重すぎると主張するときは、非行のはしごとの釣り合いと、ほかの処分例との比較で、具体的に示します。

規範は判例、物差しは主張の組み立ての工夫、と分けておけば、答案が安定します。やりすぎを止める物差しは、これで1つ手に入りました。次は、同じ一般原則の仲間のうち、同じ扱いを求める物差しと、残りの原則を見ていきます。

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#17単独ページ動画

平等原則

第1章 行政法の基礎 ⑰/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

隣にだけ出た補助金

断熱改修の補助金と不交付(A=市/B=申請者P〔補助を受けた〕/C=申請者Q〔同じ条件のはずなのに断られた〕/補助は法律にも条例にも書かれていない・市が要綱と予算で決めた制度/問い①=不公平だから違法と言えるか/問い②=Pが本当は要件を満たしていなかったら、Pと同じに扱えと言えるか) 図:断熱改修の補助金と不交付

  • A=市
  • B=申請者P〔補助を受けた〕
  • C=申請者Q〔同じ条件のはずなのに断られた〕
  • 補助は法律にも条例にも書かれていない・市が要綱と予算で決めた制度
  • 問い①=不公平だから違法と言えるか
  • 問い②=Pが本当は要件を満たしていなかったら、Pと同じに扱えと言えるか

市のAが、住宅の断熱改修に補助金を出しています。隣の家のPは、この補助を受けられました。同じ条件のはずの、Qは、断られました。この補助は、法律にも条例にも書かれていません。市が、要綱と予算で決めた制度です。今日の1問は、これです。法律の根拠が無い補助金でも、不公平だから違法、と言えるのか。さらに、Pが本当は要件を満たしていなかったと分かったら、Qは「Pと同じに扱え」と言えるのか。先に答えを言います。1つ目は、言えます。法律の根拠が無い給付でも、不公平は違法になりえます。2つ目は、原則として言えません。違法な扱いを自分にも、とは求められないのです。

前の回で、処分の重さをほかの処分例と比べたとき、同じような非行は同じように扱う、という要請は、次の回の平等原則とつながる、と話しました。その平等原則の回です。この回では、不公平を止める物差しと、法律による行政の原理との、ぶつかり方を見ます。あわせて、一般原則の顔ぶれで残っていた、補完性の原則と効率性の原則を、名前と骨格まで押さえます。

平等原則とは

平等原則の定義と根拠(平等原則=行政は合理的な理由なく国民を区別して〔別扱いして〕はならない/根拠=憲法14条1項/問いはいつも「区別に合理的な理由があるか」/行政法で足すもの=①行政活動のあらゆる場面で効く一般原則 ②法律による行政の原理との関係 ③法律が具体化している場面がある) 図:平等原則の定義と根拠

  • 平等原則=行政は合理的な理由なく国民を区別して〔別扱いして〕はならない/根拠=憲法14条1項/問いはいつも「区別に合理的な理由があるか」/行政法で足すもの=①行政活動のあらゆる場面で効く一般原則
  • ②法律による行政の原理との関係
  • ③法律が具体化している場面がある

定義から入ります。平等原則とは、行政は、合理的な理由なく、国民を区別してはならない、という原則です。区別とは、ある人を別扱いすることです。根拠は、憲法14条1項に求められます。

条文日本国憲法14条1項

日本国憲法第14条第1項 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

憲法14条の中身、つまり、区別が合理的かを審査するときの枠組みや、後段に列挙された事由の意味は、憲法の平等の回で扱いました。行政法で足すものだけを、3つ持ち帰ります。1つ目。この原則は、補助金でも許可でも課税でも、行政活動のあらゆる場面で効く一般原則です。2つ目。法律による行政の原理との関係が、独特です。これが今日の中心です。3つ目。法律が、この原則を具体的な規定にしている場面があります。問いは、いつも1つに帰着します。その区別に、合理的な理由があるか、です。比べる相手がいて、扱いに差がある。その差に、筋の通った理由があるのか。この問いを、場面ごとに当てていきます。

対立しない場面=補助金

補助金は贈与ではない(侵害留保説=侵害に当たらない補助金に法律の根拠は不要→私人が補助を受ける権利を憲法や法律から直接導くのは難しい/しかし公金を使う行政活動=私人の贈与と違い平等原則に縛られる/合理的な理由なく一方に給付し他方に給付しないのは違法になりうる/法律で権利として定められた給付〔生活保護〕とは出発点が違う/勝負どころ=PとQを区別する理由が補助の目的に沿うか) 図:補助金は贈与ではない

  • 侵害留保説=侵害に当たらない補助金に法律の根拠は不要→私人が補助を受ける権利を憲法や法律から直接導くのは難しい
  • しかし公金を使う行政活動=私人の贈与と違い平等原則に縛られる
  • 合理的な理由なく一方に給付し他方に給付しないのは違法になりうる
  • 法律で権利として定められた給付〔生活保護〕とは出発点が違う
  • 勝負どころ=PとQを区別する理由が補助の目的に沿うか

導入の補助金から考えます。その前に、前の回までの回収です。法律の留保で、侵害に当たらない補助金には法律の根拠は要らない、としたのは、何説だったでしょうか?侵害留保説です。国民の権利を侵害する行政活動にだけ、法律の根拠が要る、という考え方でした。ですから、補助金は、法律の根拠が無くても出せます。すると、Qが、補助を受ける権利を、憲法や法律から直接に導くのは、難しくなります。法律に権利として定められた、生活保護のような給付とは、出発点が違います。市の自由にはなりません。ここが、この回の最初の山です。私人が自分のお金で友人にプレゼントをするなら、誰にあげても、理由を説明する必要はありません。贈与は、持ち主の自由だからです。けれど、市が配るのは、公金です。町内会費で買った景品を配る係が、気に入った人にだけ渡していたら、会員は怒りますよね。それと同じです。市の公金は、住民から集めた税金です。市は、それを住民全体のために預かって使う立場にあります。だから、配り方にも、住民の誰に対しても説明できる理由が要ります。公金を使う行政活動は、法律の根拠が無くても、平等原則に縛られます。つまり、根拠が無い、は、縛られない、という意味ではありません。根拠が無くても、合理的な理由なく、一方に給付して他方に給付しなければ、違法になりうるのです。

補助の目的との関係で見ます。この補助の目的は、住宅の断熱による省エネです。PとQを区別した理由が、その目的に沿っているかを問います。公金による給付については、最高裁も、同じ見方をとっています。持続化給付金の事件で、給付の対象とされた事業者と、そうでない事業者を区別することに、不合理な点がないかが問われました。

判例最判令7・6・16 民集79巻4号1523頁

公費給付と区別の合理性 本件各取扱いについては、本件各給付金が一定の政策目的をもって公費により給付されるものであることを踏まえた上で、給付対象となる事業者と本件特殊営業を行う事業者を区別することが不合理であるといえない限り、同項に違反するものではないというべきである。

区別の理由は補助の目的に沿うか(最判令7・6・16=公費による給付は政策目的を踏まえ、区別が不合理といえない限り憲法14条1項に違反しない/設例=住宅の断熱による省エネの補助/Qは数年前に同種の補助で改修済み=目的に沿う=合理的な理由/Qは町内会に入っていない=省エネと無関係=合理的な理由とは言いにくく違法の可能性) 図:区別の理由は補助の目的に沿うか

  • 最判令7・6・16=公費による給付は政策目的を踏まえ、区別が不合理といえない限り憲法14条1項に違反しない
  • 設例=住宅の断熱による省エネの補助
  • Qは数年前に同種の補助で改修済み=目的に沿う=合理的な理由
  • Qは町内会に入っていない=省エネと無関係=合理的な理由とは言いにくく違法の可能性

本件特殊営業とは、店舗を持たない形の、性風俗に関わる特殊な営業のことで、同項とは、憲法14条1項のことです。公費による給付では、政策の目的を踏まえて、区別が不合理といえるかを見る、ということです。PとQの補助でいえば、省エネという目的に照らして、区別の理由が筋の通るものかを見ます。理由が2つ挙がったとします。まず、Qは数年前に、同じ種類の補助を受けて、すでに改修を済ませていた。これは、省エネの目的に沿います。すでに目的が達成された家に、重ねて出さない、というのは、筋が通ります。合理的な理由です。2つ目、Qは町内会に入っていないから。これは、断熱による省エネと、関係がありません。目的に沿わない理由で区別したのですから、合理的な理由とは言いにくく、違法になる可能性があります。

区別の理由が、補助の目的と結びついているかどうかで、分かれます。注意点が1つあります。補助金の場面は、微妙な判断が多くなります。抽象的な法律論だけでは答えが出ないので、補助の目的を押さえて、理由との関係を具体的に見ることです。なお、補助を受けられなかった人が、どんな訴えで争うかは、後の回で扱います。ここまでは、法律による行政の原理と、平等原則が、ぶつからない場面でした。法律の根拠が無い、あるいは、どちらの扱いをしても法律に反しない場面だからです。次は、ぶつかる場面を見ます。

対立する場面=違法の平等は無い

飲食店の営業許可と「Pと同じに」(A=許可庁/B=施設P〔基準に合わないのに誤って許可〕/C=施設Q〔同じ仕様で申請→基準に合わず不許可〕/根拠の法律=基準に合わない施設は許可してはならない/Qの主張=Pを許可したのだから自分も許可せよ→通らない/法律による行政の原理が勝つ/Pの許可こそ見直すべき) 図:飲食店の営業許可と「Pと同じに」

  • A=許可庁
  • B=施設P〔基準に合わないのに誤って許可〕
  • C=施設Q〔同じ仕様で申請→基準に合わず不許可〕
  • 根拠の法律=基準に合わない施設は許可してはならない
  • Qの主張=Pを許可したのだから自分も許可せよ→通らない
  • 法律による行政の原理が勝つ
  • Pの許可こそ見直すべき

導入の問い②を考えるために、設例を、要件が法律で決まっている場面に変えます。ある法律が、基準に合わない施設は許可してはならない、と定めている、飲食店の営業許可です。Pの施設は、基準に合っていなかったのに、誤って許可されました。Qが、同じ仕様の施設で申請すると、基準に合わないので、不許可になりました。Qは言います。Pを許可したのだから、自分も許可しろ、と。気持ちはよく分かります。けれど、これは通りません。法律が、基準に合わない施設は許可してはならない、と決めているからです。Qを許可すれば、また1つ、違法な処分が増えます。法律による行政の原理は、行政に、法律に従うことを求めます。違法な処分を求める根拠には、平等原則を使えません。直すべきなのは、Pの許可のほうです。この結論を、違法の平等は無い、と言います。他人が違法に有利に扱われたことを理由に、自分にも同じ扱いを求めることは、原則としてできない、という意味です。信号無視をした隣の車が見逃されたから、自分も見逃せ、とは言えないのと同じです。信義則の回の租税の判決も、守ると法律に反する場面でした。あちらは役所の言葉を信頼した人を守るか、こちらはほかの人と同じ扱いを求めるか、が違います。どちらも、法律に反する扱いを求める以上、原則として通りません。

働き方を整理します。平等原則が働くのは、Qに処分Aをしても、処分Bをしても、根拠になる法令との関係で適法な場面です。つまり、処分をするかしないか、あるいはどちらの処分にするかが、行政庁の裁量に委ねられている場面です。その中で、合理的な理由なく扱いを分けるときに、違法になります。先ほどの補助金は、まさにこの場面でした。補助を出しても出さなくても、法律には反しません。だから、Pへの補助が要件どおりなら、同じ条件のQが、Pと同じに扱え、と求めることは、通りうるのです。許可の設例は、要件を満たさないものを求めているので、通りません。ここで1つ、確認します。補助金の場面では、Pと同じに、が通りうるのに、許可の場面では通らないのは、なぜでしょうか。自分の言葉で言ってみてください。

板に整理します。

2つの場面の整理(対立しない場面=法律の根拠が無い/どちらの扱いをしても適法〔裁量の場面〕→平等原則が働く→Pと同じ扱いを求めうる/対立する場面=要件を満たさないものを求める→法律による行政の原理が勝つ→違法の平等は無い・平等原則は働かない/見分けの問い=Qが求める扱いは、根拠法令に照らして適法か) 図:2つの場面の整理

  • 対立しない場面=法律の根拠が無い
  • どちらの扱いをしても適法〔裁量の場面〕→平等原則が働く→Pと同じ扱いを求めうる
  • 対立する場面=要件を満たさないものを求める→法律による行政の原理が勝つ→違法の平等は無い・平等原則は働かない
  • 見分けの問い=Qが求める扱いは、根拠法令に照らして適法か

見分けの問いは、1つです。Qが求めている扱いは、根拠法令に照らして、適法か。適法なら、平等原則が働く土台があります。違法なら、法律による行政の原理が勝ちます。

それでも平等原則が勝った裁判例

平等原則が勝った下級審① 物品税(大阪地判昭45=物品税/古いゴルフボールの再生販売/国税の通達=消費者から提供された古物の加工は製造として扱わない/通達どおりの取扱いが一般に行われている→通達の要件を満たす部分にまで課税→公平負担の原則に反し違法・その部分を取消し/通達は本来行政の内部の取り決め→平等原則を通して通達どおりの取扱いが求められた形) 図:平等原則が勝った下級審① 物品税

  • 大阪地判昭45=物品税
  • 古いゴルフボールの再生販売
  • 国税の通達=消費者から提供された古物の加工は製造として扱わない
  • 通達どおりの取扱いが一般に行われている→通達の要件を満たす部分にまで課税→公平負担の原則に反し違法・その部分を取消し
  • 通達は本来行政の内部の取り決め→平等原則を通して通達どおりの取扱いが求められた形

原則は、違法の平等は無い、です。けれど、法律上は正しい処分を、平等の考え方から違法とした下級審が、2つあります。どちらも、事案が特殊な例として読みます。1つ目は、物品税の事件です。古いゴルフボールを集めて再生し、販売していた業者への、課税処分です。裁判所は、加工を製造と解して、課税の対象になること自体は認めました。ところが、国税の通達、つまり、上の機関が下の機関に出す、取扱いの指針は、消費者から提供された古物に加工する場合は、製造として扱わない、という内容でした。そして、その通達どおりの取扱いが、税務の現場で一般に行われていました。

判例大阪地判昭45・5・12

通達と公平負担 通達によつて示達された内容が税務行政の執行一般において実現されているに拘らず、しかも或る個別的具体的場合につき右通達が定める要件を充足しているものに対し通達に反して納税者に不利益な課税処分をするならば、……租税法の基本原則の一つである公平負担の原則にも違背することになり違法な処分といわなければならない。

通達の要件を満たす部分、つまり、古いボールを預かって、同じ数を納める取引にまで課税したのです。裁判所は、公平負担の原則に反して違法だ、として、その部分の課税を取り消しました。公平負担の原則は、判決の言葉で、租税法の基本原則の1つです。通達は、本来は行政の内部の取り決めです。けれど、ほかの納税者は、通達どおりに扱われていました。その中で、この業者にだけ通達から外れた課税をすれば、同じ立場の納税者の間に、扱いの差が生まれます。その差に、合理的な理由はありません。通達そのものに外への力があるのではなく、皆が通達どおりに扱われている、という事実を通して、平等原則が、通達どおりの扱いを求めたのです。通達が外部に及ぼす効果そのものは、後の回で扱います。

平等原則が勝った下級審② 関税(大阪高判昭44=関税/ガラス小球を塗布したシート/神戸税関30%・横浜・大阪の税関20%/法律の解釈としては30%が正しい/多数が軽減した税率・追徴の見込み無し→超過10%部分は違法・ただし取り消しうるにすぎず無効ではない→返還請求は棄却/共通=多数の取扱いと違う・是正の見込みが無い等の特殊な事情) 図:平等原則が勝った下級審② 関税

  • 大阪高判昭44=関税
  • ガラス小球を塗布したシート
  • 神戸税関30%・横浜・大阪の税関20%
  • 法律の解釈としては30%が正しい
  • 多数が軽減した税率・追徴の見込み無し→超過10%部分は違法・ただし取り消しうるにすぎず無効ではない→返還請求は棄却
  • 共通=多数の取扱いと違う・是正の見込みが無い等の特殊な事情

2つ目は、関税の事件です。ガラス小球を塗布したシートの課税で、神戸税関は、税率30パーセントで課税しました。一方、横浜と大阪の税関は、同じような物品に20パーセントで課税していました。裁判所は、まず、法律の解釈としては、30パーセントのほうが正しい、としました。そのうえで、判決は、こう述べます。

判例大阪高判昭44・9・30

課・徴税平等の原則 租税法律主義の当然の帰結である課・徴税平等の原則は、憲法一四条の課・徴税の面における発現であると言うことができる。

全国の税関の大多数が、事実上、軽減した税率で課税し、差額を追徴、つまり、足りない税を後から取り立てた形跡も、追徴する見込みも無い。そういう状況では、課税の平等により、軽減された税率のほうが、実定法、つまり、現に効力を持っている法のうえで、正当とされ、超過の10パーセント部分は違法になる、としました。多数の扱いのほうが優先される、という点が、この判決の特殊だと言われる理由です。多数が長く同じ取扱いをしていて、是正される見込みも無い。そういう状況だからです。是正の見込みが無いなら、直すべき多数の扱いは、実際には直りません。それなのに正しい税率を押しつければ、重い負担は、この1人だけに残ります。それを避けるために、平等のほうが優先された、という理屈です。しかも、結論には、続きがあります。違法な部分は、取り消しうるにすぎず、当然に無効ではない、とされました。当然に無効とまでは言えないのは、平等の要請を通して後から生じた違法であり、その瑕疵、つまり欠陥が、誰の目にも明らかとは言えないからです。取り消しうる処分は、決められた期間内に取消しを求めて争わない限り、効力が残ります。この事件は、取消しの訴えではありませんでした。処分は無効だから、払ったお金は法律上の原因なく得た利益、つまり、不当利得だとして、返還を求める請求でした。無効とは、処分が初めから効力を持たないことです。けれど、この処分は取り消しうるにすぎず、有効なまま残ります。だから、返還の請求は棄却されました。納税者は、払ったお金を取り戻せなかったのです。平等原則が勝ったといっても、その勝ち方は限られていました。

相続税の評価通達と平等原則(最判令4・4・19 民集76巻4号411頁/通達どおり画一的に評価されている中で特定の者の財産だけ通達を上回る評価=合理的な理由が無い限り平等原則に反する/通達どおりの評価では実質的な租税負担の公平に反する事情がある=合理的な理由あり) 図:相続税の評価通達と平等原則

  • 最判令4・4・19 民集76巻4号411頁
  • 通達どおり画一的に評価されている中で特定の者の財産だけ通達を上回る評価=合理的な理由が無い限り平等原則に反する
  • 通達どおりの評価では実質的な租税負担の公平に反する事情がある=合理的な理由あり

もう1つ、名前だけ挙げます。相続税の評価通達をめぐる最高裁の判決です。通達どおりに画一的に評価されているのに、特定の人の相続財産だけ、通達を上回る評価にするのは、合理的な理由が無い限り、平等原則に違反します。ただし、通達どおりの画一的な評価が、実質的な租税負担の公平に反する事情があれば、合理的な理由があるとされます。借入れと不動産の購入で、相続税の負担を大きく減らす意図の事案では、課税庁が勝ちました。平等原則は、通達の取扱いを求める力にも、通達どおりでない取扱いを正当化する力にもなる、ということです。まとめます。平等原則が、法律による行政の原理に勝つのは、多数が同じ取扱いをしていて、是正の見込みが無いなど、特殊な事情があるときです。原則は、違法の平等は無い、のままです。

法律が具体化した場面

地方自治法244条と別荘の水道料金(公の施設=住民の福祉を増進する目的でその利用に供する施設/3項=住民が公の施設を利用することについて不当な差別的取扱いの禁止=憲法14条1項の具体化/答案の順序=まず244条3項→足りなければ憲法14条/全文は板に表示・読み上げは骨格だけ) 図:地方自治法244条と別荘の水道料金

  • 公の施設=住民の福祉を増進する目的でその利用に供する施設
  • 3項=住民が公の施設を利用することについて不当な差別的取扱いの禁止=憲法14条1項の具体化
  • 答案の順序=まず244条3項→足りなければ憲法14条
  • 全文は板に表示・読み上げは骨格だけ

次は、法律が、平等原則を具体的な規定にしている場面です。この場合は、一般原則に飛びつく前に、まず、その規定の当てはめから検討します。答案の順序は、具体化した規定が先、足りなければ憲法14条、です。条文を板に出します。個別法なので、暗記は要りません。

条文地方自治法244条1項・2項・3項

地方自治法第244条 普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。 普通地方公共団体(次条第三項に規定する指定管理者を含む。次項において同じ。)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。 普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならない。

骨格は、公の施設の利用で、住民への不当な差別的取扱いは禁止、という3項です。公の施設は、住民の福祉のための施設で、水道や公民館などが当たります。公の施設そのものは、別の回で扱います。

別荘の水道料金の事件(町営の簡易水道/別荘の給水契約者の基本料金=別荘以外の契約者との大きな格差〔口径13ミリ=別荘5,000円・それ以外1,400円〕に改定/別荘の所有者=住民基本台帳に記録されていない/判断は2段=①3項は住民でない別荘の所有者に及ぶか ②及ぶなら料金の格差に合理的な理由があるか) 図:別荘の水道料金の事件

  • 町営の簡易水道
  • 別荘の給水契約者の基本料金=別荘以外の契約者との大きな格差〔口径13ミリ=別荘5,000円・それ以外1,400円〕に改定
  • 別荘の所有者=住民基本台帳に記録されていない
  • 判断は2段=①3項は住民でない別荘の所有者に及ぶか ②及ぶなら料金の格差に合理的な理由があるか

判例を見ます。町が経営する簡易水道の事件です。町は、別荘の給水契約者の基本料金を、それ以外の給水契約者より、大きく高い額に改定しました。たとえば口径13ミリでは、別荘が5,000円、それ以外が1,400円です。別荘の所有者は、住民基本台帳に記録されていない人たちです。この条例の規定が、差別的な取扱いではないか、が争われました。判決の判断は、2段です。3項が、住民ではない別荘の人にも及ぶか。及ぶなら、料金の差に、合理的な理由があるか。住民ではない別荘の人にも3項が及ぶかどうか、これが1つ目の判断です。まず、判決は、簡易水道の施設が公の施設に当たり、3項が不当な差別的取扱いを禁じている、と確認します。

判例最判平18・7・14 民集60巻6号2369頁

3項の位置づけ 同項が憲法14条1項が保障する法の下の平等の原則を公の施設の利用関係につき具体的に規定したものであることを考えれば,上記のような住民に準ずる地位にある者による公の施設の利用関係に地方自治法244条3項の規律が及ばないと解するのは相当でなく,これらの者が公の施設を利用することについて,当該公の施設の性質やこれらの者と当該普通地方公共団体との結び付きの程度等に照らし合理的な理由なく差別的取扱いをすることは,同項に違反するものというべきである。

住民に準ずる地位にある者、というのは、住民ではないが、その区域内に事務所や事業所、家屋や敷地、寮などを持ち、地方税を納める義務を負う人などのことです。別荘の所有者は、別荘を使う間は住民と変わらない生活をする人なので、これに当たる、とされました。3項は、憲法14条1項の平等原則を、公の施設の利用関係で具体的に規定したものです。だから、住民そのものでなくても、住民に準ずる人には、規律が及びます。そして、合理的な理由なく差別的に扱えば、3項に違反します。

格差の根拠=料金の決め方(別荘の基本料金を高めにすること自体=許される〔夏に使用が集中・最大使用量に耐える施設が要る〕/町の決め方=別荘以外の契約者〔ホテル等の大口を含む〕の平均額と別荘の負担額をほぼ同水準に→格差を正当化できない/原則=水道料金は給水に要する個別原価に基づいて設定/結論=3項違反で条例の規定は無効・憲法14条1項は判断するまでもない)

別荘の料金を高めに設定すること自体には、裁量が認められます。別荘は、使用が夏の時期に集中します。最大の使用量に耐える施設が要るので、別荘の基本料金を高めに設定すること自体は、許されます。問題は、その高さの決め方です。町は、大口の需要者のホテルなどを含む、別荘以外の契約者の平均額と、別荘の負担額を、ほぼ同じ水準にする、という設定方法をとりました。判決は、これを認めませんでした。

判例最判平18・7・14 民集60巻6号2369頁

水道料金の決め方 公営企業として営まれる水道事業において水道使用の対価である水道料金は原則として当該給水に要する個別原価に基づいて設定されるべきものであり,このような原則に照らせば,上告人の主張に係る本件改正条例における水道料金の設定方法は,本件別表における別荘給水契約者と別荘以外の給水契約者との間の基本料金の大きな格差を正当化するに足りる合理性を有するものではない。

水道料金は、原則として、その給水にかかる個別の原価に基づいて決めるべきものです。別荘以外の契約者の平均に合わせる、という決め方は、この原則に照らして、格差を正当化できません。だから、条例の規定は、3項に違反して無効になりました。判決の結論は、憲法14条1項の違反などは、判断するまでもない、というものです。まず、具体化した規定で決着をつけたのです。答案の勘どころは、ここです。見るのは、格差そのものではありません。格差の根拠にした理屈、つまり料金の決め方に、合理性があるか、です。別荘だから高い、では足りません。なぜその額なのか、という説明が、原価の考え方と合っているかを見ます。

一般会計からの繰入れなどの事情を挙げても、判決は、それを格差を正当化するものとは見ませんでした。決め方の合理性が、中心です。なお、同じ判決は、条例を定めること自体が処分に当たるか、も判断していますが、その点は、後の回で扱います。

公にした処分基準と平等な取扱いの要請(行政庁が処分基準を定めて公にしている→基準と異なる取扱いをするには特段の事情が要る/理由=裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請・基準の内容に係る相手方の信頼の保護等/法律による行政の原理と抵触しない適法な基準の適用の場面) 図:公にした処分基準と平等な取扱いの要請

  • 行政庁が処分基準を定めて公にしている→基準と異なる取扱いをするには特段の事情が要る
  • 理由=裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請・基準の内容に係る相手方の信頼の保護等
  • 法律による行政の原理と抵触しない適法な基準の適用の場面

もう1つ、名前だけ出します。処分の基準を公にしている場合の判決です。

判例最判平27・3・3 民集69巻2号143頁

公にした処分基準 裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護等の観点から,当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り,そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることとなる

処分基準は、法律の条文ではありません。行政が自分で定めて公にした基準です。たとえば、営業停止の日数を、過去の処分の回数に応じて何日、と決めて公表している場合です。公にした基準と違う扱いを、ある人にだけすれば、基準どおりに扱われたほかの人との間に差が出ます。だから、行政庁が、行政手続法の処分基準を定めて公にしていて、過去の処分を理由に処分を重くする定めがある場合は、基準と異なる取扱いをするには、特段の事情が要ります。理由の1つが、公正で平等な取扱いの要請です。これは、法律による行政の原理とぶつからない、適法な基準を適用する場面です。

補完性の原則と効率性の原則

補完性原則と効率性原則(補完性原則=行政の役割は必要最小限にとどめ民間の活動を補う役割に徹する=民間でできることは民間で〔官民の役割分担・小さな政府の文脈〕/効率性原則=ある目的を達成するのに最少の費用でまかなう〔経済性原則とも〕/条文=地方財政法4条1項・行政機関が行う政策の評価に関する法律3条1項/実務の現れ=費用便益分析) 図:補完性原則と効率性原則

  • 補完性原則=行政の役割は必要最小限にとどめ民間の活動を補う役割に徹する=民間でできることは民間で〔官民の役割分担・小さな政府の文脈〕
  • 効率性原則=ある目的を達成するのに最少の費用でまかなう〔経済性原則とも〕
  • 条文=地方財政法4条1項・行政機関が行う政策の評価に関する法律3条1項
  • 実務の現れ=費用便益分析

一般原則の顔ぶれを、2つのまとまりに分けたのを覚えていますか。平等原則は、2つ目の、法の一般原則のまとまりでした。補完性と効率性は、1つ目の、行政法全体に通じる原則のまとまりで、まだ見ていなかった最後の2枚です。裁判で正面から使われることは、多くありません。だから、名前と中身の骨格を押さえます。1つ目は、補完性の原則です。行政の役割は必要最小限にとどめて、民間の活動を補う役割に徹する、という原則です。短く言えば、民間でできることは民間で、です。なぜ原則と言えるのか。行政が動けば、税金を使い、ときに市民の活動を狭めます。民間で足りる仕事まで行政が抱えれば、そのぶん税金も規制も増えます。だから、行政が出るのは、民間では足りないところに限る、というのです。ある事業を、民営化するか、民間に委託するか、を考えるときに、顔を出す考え方です。たとえば、市が配食サービスを始めるとき、地域に民間の業者が十分あるなら、まず民間に任せられないかを考える、という発想です。

地方自治の文脈で、近いところで決めるという意味で語られることがあります。ここでは、官民の役割分担の意味だけで使います。混ぜないでください。2つ目は、効率性の原則です。行政の費用に関して、同じ目的を果たすなら、かかるお金は少ないほうを選ぶ、という原則です。行政の費用は、すべて税金です。同じ目的を安く達成できるのに高い方を選べば、差額は、ほかの行政に使えたはずのお金の無駄になります。経済性の原則とも呼ばれます。条文を2つ、板に出します。個別法なので、暗記は要りません。

条文地方財政法4条1項

地方財政法第4条第1項 地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。

骨格は、経費は、目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えて支出してはならない、です。同じ品質で公民館の屋根を直せるなら、高い工法ではなく安い工法を選ぶ、ということです。

条文行政機関が行う政策の評価に関する法律3条1項

行政機関が行う政策の評価に関する法律第3条第1項 行政機関は、その所掌に係る政策について、適時に、その政策効果(当該政策に基づき実施し、又は実施しようとしている行政上の一連の行為が国民生活及び社会経済に及ぼし、又は及ぼすことが見込まれる影響をいう。以下同じ。)を把握し、これを基礎として、必要性、効率性又は有効性の観点その他当該政策の特性に応じて必要な観点から、自ら評価するとともに、その評価の結果を当該政策に適切に反映させなければならない。

こちらの骨格は、政策を、必要性、効率性、有効性の観点から、行政機関が自ら評価して、その結果を政策に反映させる、というものです。効率性は、その観点の1つとして出てきます。費用便益分析が、効率性の原則の具体的な現れだと理解されています。政策にかかる費用と、得られる便益を比べて、見合うかを見る手法です。

今日のまとめ

今日のまとめ(平等原則=合理的な理由の無い区別の禁止・根拠は憲法14条1項・問いは区別に合理的な理由があるか/対立しない場面=法律の根拠が無い補助金でも公金を使う以上は縛られる/対立する場面=違法の平等は無い・働くのはどちらの処分も適法な裁量の場面/それでも勝った例=多数の取扱い・是正見込み無し等の特殊な事情/法律が具体化していればまずその規定=自治法244条3項・別荘の水道料金の判決=格差の根拠である料金の決め方/公にした処分基準/補完性=民間でできることは民間で・効率性=最少の費用) 図:今日のまとめ

  • 平等原則=合理的な理由の無い区別の禁止・根拠は憲法14条1項・問いは区別に合理的な理由があるか
  • 対立しない場面=法律の根拠が無い補助金でも公金を使う以上は縛られる
  • 対立する場面=違法の平等は無い・働くのはどちらの処分も適法な裁量の場面
  • それでも勝った例=多数の取扱い・是正見込み無し等の特殊な事情
  • 法律が具体化していればまずその規定=自治法244条3項・別荘の水道料金の判決=格差の根拠である料金の決め方
  • 公にした処分基準
  • 補完性=民間でできることは民間で・効率性=最少の費用

導入の補助金に戻ります。PとQは、同じ条件のはずでした。補助は、法律の根拠が無い制度ですが、公金を使う活動なので、平等原則に縛られます。区別の理由が、補助の目的に沿っていなければ、Qの断られ方は、違法になりえます。では、Pが本当は要件を満たしていなかったら、どうか。そのときQが求めているのは、要件を外れた扱いを自分にも、ということです。許可の設例と同じで、直すべきなのはPの扱いのほうです。Pと同じに、とは言えません。違法の平等は無い、です。区別に合理的な理由があるか、が問いで、Qが求める扱いが適法かどうかを、先に見るのですね。そして、法律が平等原則を具体化していれば、まずその規定です。別荘の水道料金の判決では、格差そのものではなく、料金の決め方に、合理性が無いとされました。例外的に平等原則が勝った下級審は、事案の特殊性で読みます。補完性は、民間でできることは民間で、効率性は、最少の費用で、という骨格でした。これで、不公平を止める物差しと、一般原則の残りの2枚が、手に入りました。

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#18単独ページ動画

行政上の法律関係と民法

第1章 行政法の基礎 ⑱/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ177条なのに結論が逆になる畑

畑の設例(A=買主〔代金を払ったが未登記〕/B=売主〔登記名義はBのまま〕/C=行政〔場面1=国がBの畑として強制的に買収/場面2=税務署がBの滞納税のために差押え〕/場面1=Aは登記がなくても勝つ/場面2=原則としてAが負ける/問い=同じ177条なのになぜ分かれるのか) 図:畑の設例

  • A=買主〔代金を払ったが未登記〕
  • B=売主〔登記名義はBのまま〕
  • C=行政〔場面1=国がBの畑として強制的に買収/場面2=税務署がBの滞納税のために差押え〕
  • 場面1=Aは登記がなくても勝つ
  • 場面2=原則としてAが負ける
  • 問い=同じ177条なのになぜ分かれるのか

Aさんは、Bさんから畑を買い、代金も払いました。ところが、登記の名義は、Bさんのままです。ここへ、行政が2通りの形で出てきます。1つ目は、国です。農地を強制的に買い上げる制度で、この畑をBさんの畑として、買収する手続を進めてきました。2つ目は、税務署です。Bさんが納めていない税金の代わりに、この畑を差し押さえました。登記がなければ第三者に対抗できない、という民法の原則だけで考えれば、Aさんは、どちらの場面でも負けるはずです。けれど、結論は分かれます。国の買収では、Aさんは、登記がなくても勝ちます。税務署の差押えでは、原則として、Aさんが負けます。どちらも、同じ177条の話です。今日の1問は、同じ民法の条文が、行政の関わる場面で働いたり働かなかったりするのは、なぜか、です。持ち帰るものは2つです。分かれ目の見つけ方と、それを、時効、公営住宅、境界ぎわの建築にも使えるようにすることです。公法と私法の回で出した結論を、1文だけ受けます。どの法律が働くかは、ラベルからではなく、個々の法律の仕組みと趣旨から決める、という結論でした。あの回で残した、払いすぎた補助を返してもらう権利の時効は何年か、という問いも、今日、答え合わせをします。

読み方の物差し

地図=4つの場面(民法177条×農地買収・滞納処分/消滅時効×会計法・自治法/公営住宅の使用関係×民法・借地借家法/民法234条1項×建築基準法63条)/どの場面も同じ3手順=①競合する規定を並べる→②各規定の趣旨・目的・働き→③適用関係を決める〔そのまま適用/適用排除/特別法が先に効き残りは民法〕 図:地図

  • 4つの場面(民法177条×農地買収・滞納処分/消滅時効×会計法・自治法/公営住宅の使用関係×民法・借地借家法/民法234条1項×建築基準法63条)
  • どの場面も同じ3手順=①競合する規定を並べる→②各規定の趣旨・目的・働き→③適用関係を決める〔そのまま適用/適用排除/特別法が先に効き残りは民法〕

先に、物差しを渡します。行政と国民の関係には、民法がそのまま使われる場面もあれば、民法と違うルールが使われる場面もあります。どちらになるかは、公法か私法かという分類で決まるのではありません。場面ごとに、競合する規定の趣旨と働きを見比べて決めます。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例の積み重ねから導く読み方):民法などの適用関係は、根拠法の趣旨や仕組みに即して、個別の場面ごとに判断する (短答・論文共通)

3つの手順にします。1つ目は、その場面で、どの法律の規定がぶつかっているかを並べます。2つ目は、それぞれの規定が、何のために、何をする規定かを確かめます。3つ目は、その2つの相性から、適用関係を決めます。民法がそのまま使えるか、使えないか、特別な法律が先に効いて、残りは民法か、のどれかになります。公法と私法の回で、補助の時効について見た3段も、この手順を時効に当てはめたものです。たとえば、学校の校則と市の条例が、同じ場面に重なったとします。どちらがどこまで効くかは、どちらが偉いかではなく、それぞれが何のためのルールかで決まります。それと同じ考え方です。今日は、4つの場面でこの手順を使います。最初は、冒頭の畑です。

農地買収には177条が働かない

農地買収と177条(民法177条=登記がなければ第三者に対抗できない・取引の安全のための公示の仕組み/農地買収=戦後の農地改革で国が不在地主などの農地を強制的に買い上げる処分/買収の基準=不在地主か自作かなど現実の事実関係/最大判昭28・2・18=177条は適用されず真実の所有者から買収) 図:農地買収と177条

  • 民法177条=登記がなければ第三者に対抗できない・取引の安全のための公示の仕組み
  • 農地買収=戦後の農地改革で国が不在地主などの農地を強制的に買い上げる処分
  • 買収の基準=不在地主か自作かなど現実の事実関係
  • 最大判昭28・2・18=177条は適用されず真実の所有者から買収

民法の側から確認します。

条文民法177条

民法第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

買主は、登記がなければ、登記を備えた第三者に対抗できません。対抗とは、自分の物だ、と相手に主張することです。この第三者とは、登記がないことを主張する正当な利益を持つ人です。同じ畑を二重に買った人や、差押えをした債権者が、典型です。国も、その第三者になるのではないですか。そこが争われた事件です。戦後の農地改革で、国は、不在地主などの農地を強制的に買い上げ、耕作する人に売り渡しました。その買収の計画に対して、登記簿上の所有者ではなく、本当の所有者だと名乗る人が、異議を述べました。農地委員会、つまり買収計画を立てる機関が、登記がないという理由で、その異議を退けてよいかが問題になりました。

判例最大判昭28・2・18 民集7巻2号157頁

農地買収と177条 政府の同法に基く農地買収処分は、国家が権力的手段を以て農地の強制買上を行うものであつて、対等の関係にある私人相互の経済取引を本旨とする民法上の売買とは、その本質を異にするものである。従つて、かかる私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法一七七条の規定は、自作法による農地買収処分には、その適用を見ないものと解すべきである。

判決の言う自作法とは、この農地改革の法律のことです。理由を、噛み砕きます。177条は、登記という公示を信じて取引する人を守る、取引の安全のための規定です。一方、農地買収は、国が権力的に行う買い上げで、対等な私人どうしの取引ではありません。もっと決め手になるのは、買収の基準です。この制度は、農地制度を民主化して、耕作する人の地位を安定させるためのものでした。そして、買うかどうかは、不在地主の農地か、自分で耕している農地か、という現実の事実関係で決まります。たとえば、登記は不在のBさん名義のまま、実際には、畑がとっくにAさんのもので、Aさん本人が耕しているとします。登記簿の名前に合わせて買収すると、自作農のAさんの畑を、不在地主の畑として買い上げてしまいます。制度の目的に反します。登記簿の名前より、真実の所有者を基準にしなければ、この制度が成り立たないのです。ただし、大量の農地を扱う制度なので、一応、登記簿に従って買収の計画を立てること自体は、認められます。結論は、真実の所有者が異議を述べたときに、効いてきます。実際に所有者かどうかを審査して、是正しなければなりません。登記がないことを理由に、異議を退けることは、許されません。登記簿どおりに計画を立てるのは許されても、異議を受けたあとに登記を盾にするのは許されない、という線です。なお、この判決には、177条の適用を認める少数意見もついています。

滞納処分の差押えには177条が働く

滞納処分と177条(税務署長が滞納会社名義の土地を差押え→公売→競落人が登記を取得/買主〔差押えより前に買い受け・登記は会社名義のまま・自分の財産として財産税を申告納付〕が公売は無効と主張/最判昭31・4・24=滞納処分でも177条は適用/例外=登記がないと主張することが信義に反する事由があるとき) 図:滞納処分と177条

  • 税務署長が滞納会社名義の土地を差押え→公売→競落人が登記を取得
  • 買主〔差押えより前に買い受け・登記は会社名義のまま・自分の財産として財産税を申告納付〕が公売は無効と主張
  • 最判昭31・4・24=滞納処分でも177条は適用
  • 例外=登記がないと主張することが信義に反する事由があるとき

次は、税務署の差押えです。国税を滞納した会社の土地を、税務署長が差し押さえ、公売、つまり、税務署長が差し押さえた財産を入札などで売って滞納税に充てる手続にかけて、買い受けた人が、登記を得ました。ところが、その土地は、差押えより前に会社から買い受けていた人の物でした。登記は、会社名義のままです。買主は、買ってすぐ、自分の財産として、財産税を申告して納めていました。買主は、公売は無効だ、と争いました。この判決は、2段で答えています。1段目は、滞納処分に177条が働くか。2段目は、働くとして、国が登記のなさを主張できないのはどんなときか、です。

判例最判昭31・4・24 民集10巻4号417頁

滞納処分と177条 国税滞納処分においては、国は、その有する租税債権につき、自ら執行機関として、強制執行の方法により、その満足を得ようとするものであつて、滞納者の財産を差し押えた国の地位は、あたかも、民事訴訟法上の強制執行における差押債権者の地位に類するものであり、租税債権がたまたま公法上のものであることは、この関係において、国が一般私法上の債権者より不利益の取扱を受ける理由となるものではない。それ故、滞納処分による差押の関係においても、民法一七七条の適用があるものと解するのが相当である。

農地買収と、比べて考えます。滞納処分の国は、真実の所有者を探して買う立場ではありません。すでにある租税債権を、滞納者の財産から取り立てる立場です。民事の強制執行で差押えをする債権者と、立場が同じです。民法では、差押債権者は177条の第三者になる、と習いました。国も、同じ立場に立つので、同じ扱いになります。2段目です。

判例最判昭31・4・24 民集10巻4号417頁

国が第三者に当たらない場合 ここに、第三者が登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有しない場合とは、当該第三者に、不動産登記法四条、五条により登記の欠缺を主張することの許されない事由がある場合、その他これに類するような、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事由がある場合に限るものと解すべきである。

先に、判決の言う欠缺は、欠けていること、つまり、登記がないことです。判決が挙げた2つの条文の中身は、いまの不動産登記法では、5条にまとめて定められています。民法で見た、2つのパターンです。1つめは、詐欺や強迫で、他人の登記の申請を妨げた人です。2つめは、他人のために登記を申請する義務を負う人です。そういう人が、登記がないことを主張するのは、許されません。それに類する、信義に反する事情があるときだけが、例外になります。根っこは同じです。背信的悪意者とは、先に買った人がいると知ったうえで、嫌がらせや高値での売りつけのような、信義に反する目的で登記を得た人で、177条の第三者から外れます。どちらも、信義に反して、登記のなさを主張する人は、第三者から外れる、という考え方です。ただ、この事件では、国が知っていたかだけでなく、国自身が買主を所有者として扱ってきたかが問われました。そして、買主が自分で財産税を申告して納めただけでは足りない、とされました。例外になるには、たとえば、税務署長が、買主の意に反してでも、この土地を買主の所有だと積極的に認定したり、その後も買主の所有を前提に、徴税を続けてきたりした、という特段の事情が要ります。国自身が、買主を所有者として扱ってきたのに、あとで、登記がないと言うのは、信義に反するからです。買主が自分で申告しただけなら、例外にならず、国が買主を所有者として扱ってきたなら、例外になりえます。その線の外か内かを、審理していなかった原審は、破棄されて、差し戻されました。

ここで1問です。農地買収では、177条は適用されず、滞納処分では適用される。国の立場の、何が違ったのでしょうか。先に、自分の言葉で考えてみてください。板に整理します。

177条の分かれ目(農地買収=国は処分の相手方として真実の所有者を探す立場→登記簿に合わせる理由が無い→登記がないと主張できない/滞納処分の差押え=国は債権者として取り立てる立場→差押債権者と同じ→第三者になりうる〔例外=登記のなさを主張することが信義に反する事由〕/分かれ目=国の立場が、取引の安全を守る私人間の関係に似ているか、公益実現のための強制取得か) 図:177条の分かれ目

  • 農地買収=国は処分の相手方として真実の所有者を探す立場→登記簿に合わせる理由が無い→登記がないと主張できない
  • 滞納処分の差押え=国は債権者として取り立てる立場→差押債権者と同じ→第三者になりうる〔例外=登記のなさを主張することが信義に反する事由〕
  • 分かれ目=国の立場が、取引の安全を守る私人間の関係に似ているか、公益実現のための強制取得か

分かれ目は、国の立場です。取引の安全を守る私人間の関係、つまり債権者の立場に似ていれば、177条が働きます。公益を実現する強制取得の処分で、真実の所有者を基準にする制度なら、働きません。民法の条文が働くかどうかを、国が公法上の主体だからでは決めず、国が、その場面でどんな立場に立っているかで決めたのです。

消滅時効は会計法・自治法か民法か

払いすぎた補助の時効(町が払いすぎた補助を返してもらう権利=金銭債権/時効の定めが働くか=会計法30条〔国〕・自治法236条1項〔自治体〕の5年か民法か/答えは個別の法律の仕組みと趣旨から/自治法236条2項=援用不要・放棄不可〔信義則の回で確認〕) 図:払いすぎた補助の時効

  • 町が払いすぎた補助を返してもらう権利=金銭債権
  • 時効の定めが働くか=会計法30条〔国〕・自治法236条1項〔自治体〕の5年か民法か
  • 答えは個別の法律の仕組みと趣旨から
  • 自治法236条2項=援用不要・放棄不可〔信義則の回で確認〕

公法と私法の回で残した問いに入ります。町が、払いすぎた補助を返してもらう権利は、何年で時効にかかるのか。その前に、信義則の回の確認です。地方自治法236条2項は、時効について、どんな特徴を定めていたでしょうか?時効の援用が要らず、利益を放棄することもできない、でした。民間の時効は、時効で消えたと主張して、初めて効きます。自治体の金銭債権は、主張しなくても当然に消えます。今日は、その手前の、時効の年数を決める条文を見ます。条文は2つ、板に出します。個別法なので、暗記は要りません。

条文会計法30条

会計法第30条 金銭の給付を目的とする国の権利で、時効に関し他の法律に規定がないものは、これを行使することができる時から五年間行使しないときは、時効によつて消滅する。国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。

条文地方自治法236条1項

地方自治法第236条第1項 金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関し他の法律に定めがあるものを除くほか、これを行使することができる時から五年間行使しないときは、時効によつて消滅する。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。

骨格は、国や自治体が持つ金銭の権利と、国や自治体に対する金銭の権利は、5年で消える、というものです。時効について、ほかの法律に定めがあれば、そちらが先です。一方、民法の時効は、こちらです。

条文民法166条1項

民法第166条第1項 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

国や自治体が相手のお金の権利なら、全部、会計法や自治法の5年なのではありませんか。そこが、この回の分かれ目です。かつては、公法上の金銭債権というラベルで、会計法の5年を考えました。いまは、ラベルではなく、どの金銭債権に会計法30条が適用されるのかを、個別に解釈します。そこで、1問です。会計法の5年が働くのは、どんな債権だと思いますか。最高裁は、会計法30条の5年について、国の権利義務を早期に決済する必要があるなど、行政上の便宜を考慮した規定だ、と見ました。そこから、規範が出てきます。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例):会計法30条の5年は、行政上の便宜を考慮する必要がある金銭債権で、他に時効期間の特別の規定がないものに適用される (短答)

事件を2つ見ます。1つ目は、自衛隊の車両整備工場で、隊員が事故で亡くなった事件です。遺族が、国の安全配慮義務違反を理由に、損害賠償を求めました。安全配慮義務が、信義則を根拠にすることは、信義則の回で、名前だけ見た判決です。ここでの問いは、その損害賠償の請求権の時効が、会計法の5年か、民法か、です。

判例最判昭50・2・25 民集29巻2号143頁

会計法30条の適用範囲 会計法三〇条が金銭の給付を目的とする国の権利及び国に対する権利につき五年の消滅時効期間を定めたのは、国の権利義務を早期に決済する必要があるなど主として行政上の便宜を考慮したことに基づくものであるから、同条の五年の消滅時効期間の定めは、右のような行政上の便宜を考慮する必要がある金銭債権であつて他に時効期間につき特別の規定のないものについて適用されるものと解すべきである。

判例最判昭50・2・25 民集29巻2号143頁

国の安全配慮義務違反の損害賠償 国が、公務員に対する安全配慮義務を懈怠し違法に公務員の生命、健康等を侵害して損害を受けた公務員に対し損害賠償の義務を負う事態は、その発生が偶発的であつて多発するものとはいえないから、右義務につき前記のような行政上の便宜を考慮する必要はなく、また、国が義務者であつても、被害者に損害を賠償すべき関係は、公平の理念に基づき被害者に生じた損害の公正な填補を目的とする点において、私人相互間における損害賠償の関係とその目的性質を異にするものではないから、国に対する右損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法三〇条所定の五年と解すべきではなく、民法一六七条一項により一〇年と解すべきである。

決め手は、2つです。1つ目は、発生の仕方です。国が義務違反で損害賠償を負う事態は、偶発的で、多発しません。毎年、大量に出てくる債権を、画一的に早く片づけたい、という要請がありません。2つ目は、性質です。被害者の損害を公正に填補するという目的は、国が相手でも、私人どうしの損害賠償と変わりません。だから、会計法ではなく、民法です。2つ目の事件は、公立病院の診療費です。

判例最判平17・11・21 民集59巻9号2611頁

公立病院の診療債権 公立病院において行われる診療は,私立病院において行われる診療と本質的な差異はなく,その診療に関する法律関係は本質上私法関係というべきであるから,公立病院の診療に関する債権の消滅時効期間は,地方自治法236条1項所定の5年ではなく,民法170条1号により3年と解すべきである。

決め手は、診療の性質です。公立でも私立でも、患者に診療して、診療費をもらう関係は同じです。多数の債権を早く片づける公的な事情が働く場面ではなく、私人間と同じ性質の債権なので、自治法ではなく、民法です。判決が「私法関係」という言葉を使うのは、ラベルから結論を出したからではありません。診療の中身を私立病院と比べ、違いがないと確かめた結果を、その言葉で表しただけです。先の自衛隊の事件の物差し、行政上の便宜が要るかで見ても、同じ答えになります。公法と私法の回で見たとおり、分類だけから結論を出さず、個々の法律の仕組みと趣旨から決めています。

大事なところです。判決の結論は、いまも変わりません。会計法や自治法ではなく、民法によります。変わったのは、民法側の年数です。民法の時効の回で見たとおり、民法の改正で、診療債権のような、職業ごとの短期消滅時効は廃止されました。債権の消滅時効は、先ほどの166条1項に一本化されています。カードの、167条1項の10年も、改正前の条文です。いまの167条は、中身が違います。人の生命や身体を害した損害賠償だけ、166条1項2号の10年を、20年に延ばす条文です。

条文民法167条

民法第167条 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「二十年間」とする。

だから、現行法で同じ事案を書くなら、公立病院の診療債権は、民法166条1項で、知った時から5年、行使できる時から10年です。隊員が亡くなった、安全配慮義務違反の損害賠償は、生命の侵害なので、166条1項に167条を合わせて、知った時から5年、行使できる時から20年です。判決の年数を、答案に書き写してはいけません。

時効の分かれ目(金銭債権→行政上の便宜〔早期決済・多数の債権の画一処理〕が要る?→要る=会計法30条・自治法236条1項の5年・援用不要・放棄不可/要らない=民法〔現行166条1項・生命身体の損害賠償は167条も〕/例=便宜が要る側=国の補助金の返還〔適正化法の交付決定・返還命令=処分〕/民法側=診療費・安全配慮義務違反の損害賠償・要綱で配る町の補助の返還〔契約〕/判決当時の年数〔診療3年・損害賠償10年〕は答案に書かない) 図:時効の分かれ目

  • 金銭債権→行政上の便宜〔早期決済・多数の債権の画一処理〕が要る?→要る=会計法30条・自治法236条1項の5年・援用不要・放棄不可
  • 要らない=民法〔現行166条1項・生命身体の損害賠償は167条も〕
  • 例=便宜が要る側=国の補助金の返還〔適正化法の交付決定・返還命令=処分〕
  • 民法側=診療費・安全配慮義務違反の損害賠償・要綱で配る町の補助の返還〔契約〕
  • 判決当時の年数〔診療3年・損害賠償10年〕は答案に書かない

見分ける物差しは、板のとおり、1つです。行政上の便宜、つまり、早期に決済して画一的に処理する必要があるか、です。必要な側の例は、国の補助金の返還請求です。国は、補助金を交付の決定という処分で出し、返還も処分で命じます。法律が組んだ公的な仕組みの債権です。必要でない側は、診療費や事故の損害賠償のように、私人間にもある性質の債権です。公法と私法の回で残した問いの答え合わせです。町は、店の段差をなくす工事に、同じ要件で、町内の何十もの店に補助を出しています。この補助が払いすぎだったとき、返してもらう権利の時効は、どちらでしょうか。「自治体の補助だから自治法236条」と、ラベルで決めてはいけません。仕組みを見ます。この町の補助は、個別の法律ではなく、予算と要綱で配っています。補助金適正化法も、町独自の補助には及びません。要綱で配る補助は、町と店の合意、つまり条件付きで贈る契約として扱われます。だから、払いすぎた分を返してもらう請求も、私人間にもある性質の請求です。答えは民法の側です。166条1項の、知った時から5年、行使できる時から10年で、援用も要ります。対比です。補助金の交付の決定と返還の命令を、法律や条例が処分として組んでいるなら、話が変わります。国の補助金がこの型で、返還請求は会計法30条の5年です。自治体が条例でこの型に組んだ補助なら、自治法236条1項の5年です。どちらも、援用は要りません。そして、どの場合も、個別の法律に時効の定めがあれば、それが先です。

どちらの時効に乗るかで、援用が要るかどうかまで変わります。なお、国や自治体の持ち物のうち、公物の時効取得は、別の回で扱います。ここまでは、177条と消滅時効で、論文でも論点になりうる範囲です。

公営住宅の使用関係

公営住宅の使用関係(入居許可の段階=公法的な面/使用関係の設定後=私人間の家屋の賃貸借と基本的に異ならない/公営住宅法・条例=特別法として優先→定めが無いところは民法・借地借家法→信頼関係の法理も働く/最判昭59・12・13=無断増築でも信頼関係を破壊しない特段の事情があれば明渡し請求できない) 図:公営住宅の使用関係

  • 入居許可の段階=公法的な面
  • 使用関係の設定後=私人間の家屋の賃貸借と基本的に異ならない
  • 公営住宅法・条例=特別法として優先→定めが無いところは民法・借地借家法→信頼関係の法理も働く
  • 最判昭59・12・13=無断増築でも信頼関係を破壊しない特段の事情があれば明渡し請求できない

3つ目の場面です。これも、信義則の回で、名前だけ出した判決です。公営住宅は、国の補助を受けて、自治体が、住宅に困る低所得者に貸す住宅です。入居の許可を受ける段階は、公法的な面があります。けれど、使用関係が設定されたあとは、基本的に、私人間の家屋の賃貸借と変わりません。事案です。入居者が、許可なく、住宅を増築しました。事業主体の東京都は、使用許可を取り消して、明渡しを求めました。公営住宅法は、入居者が住宅を模様替えしたり増築したりすることを、原則として禁じています。条文を板に出します。

条文公営住宅法27条4項

公営住宅法第27条第4項 公営住宅の入居者は、当該公営住宅を模様替し、又は増築してはならない。ただし、事業主体の承認を得たときは、この限りでない。

無断の増築は、明渡しの請求ができる事由の1つに当たります。そこで、入居者は、事由には当たるが、信頼関係を破壊しない特段の事情がある、と争いました。民法の賃貸借の考え方、つまり信頼関係の法理を、公営住宅にも使えるか、が問題です。

判例最判昭59・12・13 民集38巻12号1411頁

公営住宅の使用関係 公営住宅の使用関係については、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法に優先して適用されるが、法及び条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法及び借家法の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである。

判決の言う借家法は、いまの借地借家法に引き継がれています。適用の順番は、3段です。まず、公営住宅法と条例が、特別法として先に効きます。定めのないところは、一般法の民法と借地借家法が及びます。そして、その契約関係には、信頼関係の法理が働きます。賃借人に違反があっても、賃貸人との信頼関係を壊すほどでなければ、契約は解除できない、という考え方です。公営住宅にも、働きます。

判例最判昭59・12・13 民集38巻12号1411頁

信頼関係を破壊しない特段の事情 公営住宅の使用者が法の定める公営住宅の明渡請求事由に該当する行為をした場合であつても、賃貸人である事業主体との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情があるときには、事業主体の長は、当該使用者に対し、その住宅の使用関係を取り消し、その明渡を請求することはできないものと解するのが相当である。

この入居者は、明渡しを免れたのですか。違います。結論に注意してください。明渡しの請求は、認められました。信頼関係の法理は適用されるのに、この事件では、特段の事情に当たらなかったのです。増築は、鉄骨造の堅固で大規模なものでした。原状に戻すことが容易ではなく、住宅の保存にも適しません。事後に許されたとも、認め難い。だから、信頼関係を破壊しないとは言えませんでした。境界のペアで考えます。原状回復が簡単で、住宅の使い方もほとんど変わらない、小さな模様替えなら、信頼関係を壊すとは言いにくい余地があります。一方、元に戻せない大規模な増築は、住宅の保存と、ほかの入居者との公平を損ないます。決め手は、事業主体との信頼を壊すほどの違反か、です。もう1件です。ただし、同じ読み方でも、答えが逆になる事件です。改良住宅、つまり、住宅地区改良事業で住宅を失った人の居住を安定させるための住宅で、入居者が亡くなりました。同居していた相続人は、承認の申請をしていませんでしたが、使用する権利を承継した、と主張しました。民法の相続の規定が及ぶか、が問題です。

判例最判平29・12・21 民集71巻10号2659頁

改良住宅の使用権の承継 国の補助を受けて建設された改良住宅の入居者が死亡した場合における使用権の承継については、民法の相続の規定が当然に適用されるものと解することはできない。そして、上記の場合における使用権の承継について、施行者が、法の規定及びその趣旨に違反しない限りにおいて、法29条1項、公営住宅法48条に基づき、改良住宅の管理について必要な事項として、条例で定めることができるものと解される。

判決は、承継を認めませんでした。改良住宅は、住宅を失った人の居住の安定のための住宅で、住宅に困る低所得者一般のための公営住宅とは、趣旨が違います。この住宅は、事業で住まいを失った人に、住まいを用意する仕組みです。誰を住まわせるかは、施行者が、その目的に沿って決めます。入居は、権利の補償ではなく、事業で住まいを失った人の居住の安定のために用意されるものです。だから、民法の相続の規定は、当然には働かず、承継は、施行者が、法の趣旨に反しない範囲で、条例で定めることになります。市の条例は、死亡時に同居していた人だけが、市長の承認を得て、住み続けられる、と定めていました。この条例は、法の趣旨に照らして不合理ではないので、有効です。

公営住宅のまとめ(昭59=公営住宅法・条例が特別法として先→定めが無ければ民法・借地借家法→信頼関係の法理も働く→この事件は鉄骨造の大規模増築=特段の事情なし→明渡し請求OK/平29=改良住宅は居住の安定のための住宅→民法の相続規定は当然には適用されない→条例の定めに従う→承継を認めない/共通=根拠法の趣旨で適用関係が決まる) 図:公営住宅のまとめ

  • 昭59=公営住宅法・条例が特別法として先→定めが無ければ民法・借地借家法→信頼関係の法理も働く→この事件は鉄骨造の大規模増築=特段の事情なし→明渡し請求OK
  • 平29=改良住宅は居住の安定のための住宅→民法の相続規定は当然には適用されない→条例の定めに従う→承継を認めない
  • 共通=根拠法の趣旨で適用関係が決まる

2件を並べると、同じ読み方です。公営住宅の使用関係は、契約として、民法と借地借家法が及びますが、法と条例が先に効きます。ただし、民法のどの規定が及ぶかは、その住宅の趣旨で決まります。先ほどの増築の事件では、賃貸借の信頼関係の法理が働き、改良住宅の事件では、相続の規定が当然には働きませんでした。

境界ぎわの建築と民法234条

接境建築(民法234条1項=建物は境界線から50センチメートル以上離す/建築基準法63条=防火地域・準防火地域内で外壁が耐火構造の建築物は外壁を隣地境界線に接して設けることができる〔判決当時は65条・現行63条〕/最判平元・9・19=建基法の規定は民法234条1項の特則・民法の適用を排除/耐火構造=火災に耐える性能のある壁) 図:接境建築

  • 民法234条1項=建物は境界線から50センチメートル以上離す
  • 建築基準法63条=防火地域・準防火地域内で外壁が耐火構造の建築物は外壁を隣地境界線に接して設けることができる〔判決当時は65条・現行63条〕
  • 最判平元・9・19=建基法の規定は民法234条1項の特則・民法の適用を排除
  • 耐火構造=火災に耐える性能のある壁

最後の場面です。民法と建築基準法が、同じ境界ぎわで、ぶつかります。民法の側から、全文を読みます。

条文民法234条1項

民法第234条第1項 建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない。

隣の家との境界から、建物を50センチメートル以上離す、という規定です。ただし、民法236条は、これと異なる慣習があれば、その慣習に従う、と定めています。そこへ、建築基準法の規定がぶつかります。個別法ですが、短いので、全文を読みます。

条文建築基準法63条

建築基準法第63条 防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。

耐火構造とは、火災に耐える性能のある構造のことです。判決文の65条は、改正前の番号です。答案には、いまの63条を書きます。事案です。準防火地域で、外壁が耐火構造の3階建ての建物を、隣の人が、境界線から50センチメートル未満に建て始めました。隣地の所有者は、民法234条を理由に、境界側の部分の収去、つまり、取り壊して取り除くことを求めました。原審は、境界に接して建てることを許す合理的な理由、たとえば、合意や慣習があるときに限って、建築基準法の規定が優先する、として、収去を認めました。

判例最判平元・9・19 民集43巻8号955頁

接境建築と民法234条1項 建築基準法六五条は、防火地域又は準防火地域内にある外壁が耐火構造の建築物について、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる旨規定しているが、これは、同条所定の建築物に限り、その建築については民法二三四条一項の規定の適用が排除される旨を定めたものと解するのが相当である。

特則とは、一般のルールに対して、決まった場面だけ別の扱いを定めて、そちらを優先させる規定です。公営住宅で、特別法が先に効いたのと同じ関係を、条文どうしで言う言葉です。この判決にも、そういう反対意見が1名からついています。けれど、多数は、2つの理由で、特則と見ました。1つ目は、規定の趣旨です。耐火構造の外壁は、防火上望ましく、防火地域などで、土地を合理的で効率的に使うために、隣どうしの関係を定める趣旨だ、と見ます。2つ目は、規定の文言です。この規定は、建築確認の審査基準とは読めず、ほかに、境界との距離を直接規制する原則規定も、見当たりません。具体的に考えます。建築基準法の中には、境界から何センチ離せ、という原則がありません。禁止されていないことを、わざわざ、境界に接して設けることができる、と書いても、建築基準法の中では、何も変わりません。この、できる、が意味を持つ相手は、50センチメートル離せと定める、民法234条1項だけです。だから、234条1項の特則と読んで、初めて、この規定に意味が出る、というのです。結論は、建築は許され、収去の請求は棄却されました。境界のペアです。防火地域や準防火地域で、外壁が耐火構造なら、境界に接して建てられます。同じ場所でも、外壁が耐火構造でなければ、民法234条1項が、そのまま適用されます。防火地域などの外なら、同じく、民法の50センチメートルです。判決は、同条所定の建築物に限り、と言っています。

177条の2つの判決と、並べてみます。どの場面でも、見たのは同じです。両方の規定の趣旨、目的、働きです。公法だから民法は使わない、でも、民法が一般法だから民法が勝つ、でもありません。規定の趣旨と働きを見て、適用関係が決まります。

今日のまとめ

今日のまとめ(物差し=競合する規定を並べる→各規定の趣旨・目的・働き→適用関係/民法177条=農地買収は適用なし〔真実の所有者から買収〕・滞納処分の差押えは適用あり〔国は差押債権者に類する立場・例外=登記のなさを主張することが信義に反する事由〕/消滅時効=行政上の便宜が要る金銭債権は会計法30条・自治法236条1項の5年〔援用不要〕・要らない債権は民法〔現行166条1項・生命身体の損害賠償は167条も・要綱で配る補助の返還も〕/公営住宅=法・条例が特別法として先・定めが無ければ民法と借地借家法・信頼関係の法理・改良住宅の承継は民法の相続が当然には及ばない/接境建築=建築基準法63条が民法234条1項の特則) 図:今日のまとめ

  • 物差し=競合する規定を並べる→各規定の趣旨・目的・働き→適用関係
  • 民法177条=農地買収は適用なし〔真実の所有者から買収〕・滞納処分の差押えは適用あり〔国は差押債権者に類する立場・例外=登記のなさを主張することが信義に反する事由〕
  • 消滅時効=行政上の便宜が要る金銭債権は会計法30条・自治法236条1項の5年〔援用不要〕・要らない債権は民法〔現行166条1項・生命身体の損害賠償は167条も・要綱で配る補助の返還も〕
  • 公営住宅=法・条例が特別法として先・定めが無ければ民法と借地借家法・信頼関係の法理・改良住宅の承継は民法の相続が当然には及ばない
  • 接境建築=建築基準法63条が民法234条1項の特則

冒頭の畑に戻ります。Aさんは、国の買収には、登記がなくても勝ち、税務署の差押えには、原則として負けました。分かれ目は、公法か私法かではありません。買収は、真実の所有者を基準にする処分で、登記簿に合わせる理由がありません。滞納処分は、債権者として取り立てる立場で、差押債権者と同じです。国の立場が、分かれ目でした。時効は、行政上の便宜があるかです。早期に決済する公的な仕組みの債権は、会計法や自治法の5年で、援用も要りません。診療費や事故の損害賠償、それに、要綱で配る町の補助の返還は、民法です。判決の年数ではなく、現行の166条1項で書きます。

公営住宅は、法と条例が先で、足りないところは民法と借地借家法で、信頼関係の法理も働きました。ただし、改良住宅の承継では、民法の相続が当然には及びませんでした。接境建築は、建築基準法63条が、民法234条1項の特則です。4つの場面で、見たものは同じです。競合する規定の趣旨と働きを並べて、適用関係を決めることです。行政法規に違反した契約の効力は、別の回で扱います。

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#19単独ページ動画

行政法規違反の契約の効力と行政上の権利

第1章 行政法の基礎 ⑲/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

違反を盾に払わない買主

無許可の買主の設例(A=買主〔必要な許可を取らずに肉の小売を始めた〕/B=売主〔卸売〕/A→B=肉の売買/A「許可がないから無効だ。払わない」/C=行政〔許可制度・Aへの制裁〕はAとBの契約の当事者ではない) 図:無許可の買主の設例

  • A=買主〔必要な許可を取らずに肉の小売を始めた〕
  • B=売主〔卸売〕
  • A→B=肉の売買
  • A「許可がないから無効だ。払わない」
  • C=行政〔許可制度・Aへの制裁〕はAとBの契約の当事者ではない

Aさんは、必要な許可を取らないまま、肉の小売を始めました。肉は、卸売のBさんから仕入れています。ところが、代金を請求されると、Aさんは、こう言い出しました。「私は許可を取っていない。だから、この売買は、法律違反で無効だ。払わない」。違反したのは、Aさん自身ですよね。自分の違反を盾にして、払わずに済むのですか。そこが今日の入口です。ただ、同じように法律に違反していて、契約が本当に無効になる場面もあります。統制のあった時代の物資の売買や、違法な建物を建てる工事の請負、免許の名義貸しです。今日の1問です。行政法規に違反した契約は、有効か、無効か。何で分かれるのか。答えを先に言います。違法かどうかでは決まりません。決めるのは、違反した法規の趣旨と目的、それに、取引の中身です。見る点を、板に3つ出します。

無効になるかを決める3つの問い(①規定の趣旨・目的=取引の効力を否定する向きか/行為者を取り締まる向きか ②違反の程度・悪質性・当事者の関与 ③無効にする必要と、無効にして害される者) 図:無効になるかを決める3つの問い

  • ①規定の趣旨・目的=取引の効力を否定する向きか/行為者を取り締まる向きか
  • ②違反の程度・悪質性・当事者の関与
  • ③無効にする必要と、無効にして害される者

1つ目は、その規定が、取引の効力を否定する向きかどうか。2つ目は、違反の程度と悪質さ。3つ目は、無効にする必要と、無効にして困る人がいないかです。本編で、判決を通して、1つずつ確かめます。最後にもう1つ、答え合わせがあります。公権、つまり公法上の権利は譲り渡せない、と条文を離れて言い切る見方が、公法と私法の回で捨てられました。では、今は何で決めるのか。それも、判決で見ます。

制裁と契約の効力は別の層

2つの層(行政法規に違反→〔行政上の層〕罰則・監督処分・許可の取消し/〔私法上の層〕契約の効力=民法91条・90条と、違反した法規の趣旨・目的・働きを並べて決める/行政上の制裁があることだけでは契約の効力は決まらない) 図:2つの層

  • 行政法規に違反→〔行政上の層〕罰則・監督処分・許可の取消し
  • 〔私法上の層〕契約の効力=民法91条・90条と、違反した法規の趣旨・目的・働きを並べて決める
  • 行政上の制裁があることだけでは契約の効力は決まらない

まず、全体の形です。許可を取らずに営業した人には、行政上の制裁があります。罰則や、営業停止のような監督処分です。けれど、行政法規は、ふつう、そこまでしか定めていません。契約が有効か無効かという、私法上の効力は、直接は定めていないのです。たとえば、スピード違反で罰金を取られても、その日に買った中古車の売買が無効になるわけではありません。罰則は、運転した人に向いているからです。違反に制裁があることと、契約が無効になることは、別の層の話です。2つの層をつなぐのは、民法の規定です。民法の条文を、全文で読みます。

条文民法91条

民法第91条 法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。

公の秩序に関しない規定とは異なる意思なら、そのとおりに通る。裏返すと、公の秩序に関する規定に反する意思は通らず、契約は無効になります。公の秩序に関する規定が、強行規定でした。

条文民法90条

民法第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

民法で学んだことを、1文で受けます。強行規定に違反する契約は無効。取締規定、つまり、営業する人に決まりを守らせるための規定に違反しても、効くのは行政の側で、契約は有効。そして、条文が禁じていなくても、社会が許さない契約には、90条の網がかかる。以上です。今日足すのは、行政法の側です。前回は、ぶつかる規定を並べ、それぞれの趣旨と働きから、適用関係を決める物差しを持ちました。そこで残した、違反した契約の効力に、同じ物差しを当てます。違反した行政法規が、何のための、どんな働きの規定なのか。それを民法の規定と並べて、契約の効力を決めます。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例の積み重ねから導く読み方):行政法規に違反してされた契約の効力は、民法90条・91条と、違反した行政法規の趣旨・目的・働きを並べて決める。違反に行政上の制裁があることだけでは、契約の効力は決まらない (短答・論文共通)

契約の効力を直接定めた条文も、少数ですが、あります。農地法3条6項は、許可を受けないでした行為は、その効力を生じない、と書いています。この場合は、条文のとおりです。けれど、こういう明文は多くありません。宅建業法が、その例です。免許制度、監督処分、罰則は定めていますが、免許を持たない者がした取引が有効か無効かは、書いていません。条文が語らないとき、効力は、規定の趣旨と取引の中身から決めることになります。

古典的な整理 強行規定なら無効・取締規定なら有効

2つの判決の対比(統制物資の売買=機構を通す取引だけに効力を認める→無資格者の取引は無効/無許可者の食肉の買入れ=営業許可は営業者の管理の制度→取引の効力は否定されない→有効/どちらも無資格・無許可の者が関わる売買なのに結論が逆) 図:2つの判決の対比

  • 統制物資の売買=機構を通す取引だけに効力を認める→無資格者の取引は無効
  • 無許可者の食肉の買入れ=営業許可は営業者の管理の制度→取引の効力は否定されない→有効
  • どちらも無資格・無許可の者が関わる売買なのに結論が逆

昔から使われてきた整理を、2つの判決で見ます。1つ目です。戦後の統制の時代、煮干しいわしのような物資は、決められた集荷、荷受、登録小売の機構を通して流す決まりでした。その機構を通さない、無資格者による売買が、代金をめぐって争われました。

判例最判昭30・9・30 民集9巻10号1498頁

統制物資の売買 同規則二条によつて指定された煮乾いわし等の物資については法定の除外事由その他特段の事情の存しない限り同規則三条以下所定の集荷機関、荷受機関、登録小売店舖等の機構を通ずる取引のみの効力を認め右以外の無資格者による取引の効力を認めない趣意であつて、右法令は此の意味に於ける強行法規であると解される

決め手は、法令が、取引の効力そのものを、機構の中だけに限っていると読めたことです。行為者を罰するだけの規定ではなく、取引の通り道を限る規定でした。だから、通り道の外の取引は、効力を認められず、無効です。2つ目は、冒頭のAさんの場面に近い事件です。食肉の買入れの契約で、買主は、食品衛生法の営業許可を受けていませんでした。許可がないことが、契約の効力に響くのかが問われました。条文を、板に出します。

条文食品衛生法55条1項(現行)

食品衛生法第55条第1項 前条に規定する営業を営もうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。

骨格は、営業を営もうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない、という許可の制度です。

判例最判昭35・3・18 民集14巻4号483頁

無許可者の食肉の買入れ 本件売買契約が食品衛生法による取締の対象に含まれるかどうかはともかくとして同法は単なる取締法規にすぎないものと解するのが相当であるから、上告人が食肉販売業の許可を受けていないとしても、右法律により本件取引の効力が否定される理由はない。

判決の言う強行法規と取締法規は、民法で学んだ強行規定と取締規定と同じものです。許可の制度は、営業者を管理するための制度で、取引を取り上げる制度ではありません。だから、許可がなくても、取引の効力は否定されません。冒頭のAさんの答えは、契約は有効。代金は、払わなければなりません。許可がなかったことは、行政上の制裁の問題として残ります。ここで1問です。どちらも、無資格や無許可の者が関わった売買です。それなのに、結論は逆でした。規定の、どこが違ったのでしょうか。先に、自分の言葉で考えてみてください。統制の法令は、取引できる通り道を限っていました。食品衛生法の許可は、営業する人を管理する制度で、取引そのものを取り上げてはいませんでした。規定が、取引の効力を限る向きか、営業者を取り締まる向きか。これが、分かれ目でした。

見分ける基準ははっきりしない 3つの問い

手順のフロー(①明文の効力規定があれば従う〔農地法3条6項〕→②明文がなくても趣旨から強行規定と読んで無効〔統制物資・均等法9条3項違反の措置〕→③取締規定にとどまるなら有効が原則〔無許可者の買入れ〕→④ただし公序良俗違反なら無効〔民法90条〕→⑤相手方との契約まで無効かは別に判断) 図:手順のフロー

ある行政法規が強行規定か取締規定かは、条文を見れば分かるのですか。分かりません。民法の強行規定の条文に、強行規定と書いていないのと同じです。条文の顔だけで見分ける基準は、はっきりしないのです。結局、個々の法令の趣旨と目的、それに、個々の取引の中身ごとに、有効か無効かを決めます。手順にします。1つ目。明文で効力を定めた規定があれば、それに従います。2つ目。明文がなくても、規定の趣旨から、強行規定と読んで、無効にする道があります。統制物資の事件がそうでした。雇用の場面では、妊娠や出産を理由とする不利益な取扱いを禁じた、雇用機会均等法9条3項を、最高裁が強行規定と読み、違反する措置は無効と判断しています。なぜ、強行規定と読めたのか。この法律の目的は、雇用の場で、男女に均等な機会と待遇を確保することです。妊娠や出産を理由に降格や解雇をしても、その措置が有効のまま残るなら、目的は果たせません。だから、違反する措置そのものを許さない規定だ、と読みました。統制物資と同じで、違反した行為の効力まで否定しないと、規定の目的が届かない向きの規定です。3つ目。取締規定にとどまるなら、契約は有効が原則です。無許可の買入れの事件がそうでした。ただし、4つ目。取締規定に違反していても、公序良俗に反するなら、民法90条で無効になります。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例の積み重ねから導く読み方):ある法令の違反行為が無効かどうかは、その法令の趣旨・目的を踏まえ、個々の取引関係ごとに有効か無効かを判断する。取締規定に違反していても、公序良俗に反するなら無効となる (短答・論文共通)

この判断で、判決が見てきた点を束ねると、冒頭の3つの問いになります。まず、1つ目の、規定の趣旨は、ここまでの2件で見ました。残る2つ目と3つ目を、次の判決で見ます。民法で見た三枚の網とは、別のものです。網は、契約の中身が通る関門の並びでした。3つの問いは、行政法規に違反した契約が、91条や、最後の砦の90条の網にかかるかを決めるときに、判決が見る点です。

取締規定でも公序良俗違反で無効になるとき

違法建築の事案(A=注文者〔法令を守ると貸室が減る→確認申請用と実施用の別の図面を用意〕/B=請負人〔計画の詳しい説明を受け全部了承して契約・施工〕/C=行政〔建築確認・検査済証を詐取される〕/本工事=無効/追加変更工事=別評価〔違法を是正しない一部変更があるかで分かれる〕) 図:違法建築の事案

  • A=注文者〔法令を守ると貸室が減る→確認申請用と実施用の別の図面を用意〕
  • B=請負人〔計画の詳しい説明を受け全部了承して契約・施工〕
  • C=行政〔建築確認・検査済証を詐取される〕
  • 本工事=無効
  • 追加変更工事=別評価〔違法を是正しない一部変更があるかで分かれる〕

事案です。賃貸マンション2棟の建築でした。注文者は、法令どおりに建てると、貸す部屋の数が減って、採算が合わない、と考えました。そこで、建築の確認を受けるための図面と、実際に施工する図面を、別に用意します。確認と検査を通したあとで、違法な図面のとおりに施工する計画でした。工事を請け負った建築業者は、この計画の詳しい説明を受けて、全部了承したうえで、契約し、工事をしました。違反したのは、耐火構造の規制や、北側斜線制限、日影規制、容積率と建ぺい率の制限などです。どれも、建物の燃えにくさや、高さ、大きさを決める規制です。業者は、注文者に残りの代金を請求しました。裁判の途中で業者が破産し、破産した人の財産を管理して債権者に分ける管財人が、その裁判を引き継ぎました。条文を、板に出します。

条文建築基準法6条1項(抜粋)

建築基準法第6条第1項 建築主は、第一号若しくは第二号に掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号又は第二号に規定する規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第三号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事又は建築副主事(以下「建築主事等」という。)の確認(建築副主事の確認にあつては、大規模建築物以外の建築物に係るものに限る。以下この項において同じ。)を受け、確認済証の交付を受けなければならない。

骨格は、建築主は、工事の前に、計画が基準に合うことについて、確認の申請をして、確認済証の交付を受けなければならない、というものです。この確認を、図面のすり替えでくぐり抜けたのが、この事件です。判決の結論は、工事ごとに2つに分かれます。もとの本工事と、途中で別に合意した追加変更工事です。まず、本工事から、判決の言葉を見ます。

判例最判平23・12・16 集民238号297頁

違法建築の請負契約 計画の悪質性 上記の計画は,確認済証や検査済証を詐取して違法建物の建築を実現するという,大胆で,極めて悪質なものといわざるを得ない。

判例最判平23・12・16 集民238号297頁

違法建築の請負契約 違法の程度 その違法の程度は決して軽微なものとはいえない。

判例最判平23・12・16 集民238号297頁

違法建築の請負契約 本工事の結論 以上の事情に照らすと,本件各建物の建築は著しく反社会性の強い行為であるといわなければならず,これを目的とする本件各契約は,公序良俗に反し,無効であるというべきである。

本工事への当てはめ(①規定の趣旨=確認と検査は建物の安全を事前に確かめる仕組み→詐取して潜脱/②違反の程度=生命・身体の安全に関わり、あとから直すことも難しい違反を含む/請負人は計画を全部知っていて従属的でもない/結論=本工事の契約は公序良俗に反し無効) 図:本工事への当てはめ

  • ①規定の趣旨=確認と検査は建物の安全を事前に確かめる仕組み→詐取して潜脱
  • ②違反の程度=生命・身体の安全に関わり、あとから直すことも難しい違反を含む/請負人は計画を全部知っていて従属的でもない/結論=本工事の契約は公序良俗に反し無効

3つの問いに順に当てはめます。まず1つ目、規定の趣旨。確認と検査は、建物の安全を事前に確かめる仕組みです。それを詐取して潜脱した。潜脱とは、制度の抜け道を作って、実質的には、その適用を免れることです。2つ目、違反の程度。生命や身体の安全に関わり、あとから直すことも難しい違反を含みます。そして、請負人は、計画を全部知っていて、従属的な立場でもありませんでした。だから、本工事の契約は、公序良俗に反し、無効です。無許可の買入れとの違いは、許可の単なる欠如ではなく、制度を潜脱する悪質さにあります。ここで1問です。同じ事件の、追加変更工事は、なぜ、無効と言い切れないのでしょうか。追加変更工事とは、工事の途中で、当局の是正の指示や近隣の苦情を受けて、別に合意した工事で、違法部分を是正する工事も含みます。判決は、こう言います。

判例最判平23・12・16 集民238号297頁

違法建築の請負契約 追加変更工事 そうでなければ,これを反社会性の強い行為という理由はないから,その施工の合意が公序良俗に反するものということはできないというべきである。

本工事と追加変更工事(本工事=図面のすり替えの計画そのもの→公序良俗に反し無効/追加変更工事=途中で別に合意した工事〔違法部分の是正も含む〕→別に評価〔違法を直さず一部変えるだけの工事があるかで分かれる〕/差戻しで無効と確定したわけではない) 図:本工事と追加変更工事

  • 本工事=図面のすり替えの計画そのもの→公序良俗に反し無効
  • 追加変更工事=途中で別に合意した工事〔違法部分の是正も含む〕→別に評価〔違法を直さず一部変えるだけの工事があるかで分かれる〕
  • 差戻しで無効と確定したわけではない

「そうでなければ」の中身を補います。追加変更工事は、図面のすり替えの計画そのものではなく、あとから別に合意した工事です。だから、基本的には、本工事の一環とはいえず、本工事の悪質さを、そのまま持ち込めません。しかも、違法な部分を直す工事は、法令に近づける工事で、制度をくぐり抜けてはいません。ただし、違法を直さずに、違法な部分を一部変えるだけの工事があれば、違法な建物づくりの続きなので、別に評価します。そうでなければ、反社会性の強い行為とは言えません。判決は、追加変更工事についての判断を誤りとし、本工事の代金と区別できないため、請負人の側が負けた部分をまとめて破棄して、差し戻しました。無効と確定したわけではありません。差し戻しとは、上の裁判所が、判断をやり直させるために、事件を前の裁判所に返すことです。同じ事件でも、工事ごとに、結論が分かれたのです。もう1件です。無免許の者が、特定の不動産取引の1件だけ、免許を持つ宅建業者の名義を借りて取引をしました。名義貸し料を渡し、残りの利益は、無免許者が受け取る合意をしていました。その合意に基づく支払をめぐる争いです。宅建業法の目的の条文と、禁止の条文を、板に出します。

条文宅地建物取引業法1条

宅地建物取引業法第1条 この法律は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的とする。

条文宅地建物取引業法12条1項

宅地建物取引業法第12条第1項 第三条第一項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。

条文宅地建物取引業法13条1項

宅地建物取引業法第13条第1項 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。

骨格は、免許制度で、業務の適正と取引の公正を確保する。免許のない者は営んではならず、業者は名義を貸してはならない、というものです。

名義貸しの事案(A=無免許者/B=宅建業者〔名義を貸す〕/取引先=Bの名義で取引/A→B=名義貸し料/Aが残りの利益を受け取る合意/名義を借りる合意と利益を分配する合意は一体/行政の免許制度を潜脱) 図:名義貸しの事案

  • A=無免許者
  • B=宅建業者〔名義を貸す〕
  • 取引先=Bの名義で取引
  • A→B=名義貸し料
  • Aが残りの利益を受け取る合意
  • 名義を借りる合意と利益を分配する合意は一体
  • 行政の免許制度を潜脱

判例最判令3・6・29 民集75巻7号3340頁

名義貸しと免許制度の目的 同法が宅地建物取引業を営む者について上記のような免許制度を採用しているのは,その者の業務の適正な運営と宅地建物取引の公正とを確保するとともに,宅地建物取引業の健全な発達を促進し,これにより購入者等の利益の保護等を図ることを目的とするものと解される(同法1条参照)。

判例最判令3・6・29 民集75巻7号3340頁

名義貸しは免許制度を潜脱する 宅建業者が無免許者にその名義を貸し,無免許者が当該名義を用いて宅地建物取引業を営む行為は,同法12条1項及び13条1項に違反し,同法の採用する免許制度を潜脱するものであって,反社会性の強いものというべきである。

判例最判令3・6・29 民集75巻7号3340頁

利益分配の合意 無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者からその名義を借り,当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は,同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして,公序良俗に反し,無効であるというべきである。

決め手は、名義貸しが、免許制度そのものを潜脱するところです。名義を借りる合意と、利益を分ける合意は、一体のものとして、制度の趣旨に反する、と見ました。結論の細部に注意してください。この判決は、本件の合意が無効だ、と確定したのではありません。本件の合意が、そうした計画の一環としてされたもので、条文の趣旨に反する疑いがある、として、その点を審理しなかった原審を破棄し、差し戻しました。境界のペアで考えます。無許可の者が肉を買う。これは、許可の単なる欠如で、制度を潜脱してはいません。一方、名義貸しは、免許制度の仕組みをくぐり抜けるために、他人の名義を使います。同じ無免許や無許可でも、潜脱の度合いと悪質さで、取締規定違反が、公序良俗違反になるかが分かれます。違法かどうかではなく、規定の趣旨と目的、それに取引の中身で決まる。冒頭で先に言った答えが、ここで確かめられました。

相手方との契約まで無効にするか

委任契約と和解契約(A=依頼者〔のちに破産〕/B=認定司法書士〔扱える額を超える140万円超の過払金の和解を代理〕/C=貸金業者/A–B=委任契約〔民法90条に照らし無効〕/B→C=裁判外の和解契約〔委任契約とは別に判断〕/無効にする必要は?/無効にすると害される者は?) 図:委任契約と和解契約

  • A=依頼者〔のちに破産〕
  • B=認定司法書士〔扱える額を超える140万円超の過払金の和解を代理〕
  • C=貸金業者
  • A–B=委任契約〔民法90条に照らし無効〕
  • B→C=裁判外の和解契約〔委任契約とは別に判断〕
  • 無効にする必要は?
  • 無効にすると害される者は?

3つ目の問いに入ります。違反した契約が無効でも、その違反を前提にして、別の相手方と結ばれた契約まで、自動的に無効になるのでしょうか。事案です。司法書士が、扱える額、140万円を超える過払金、つまり、払いすぎた利息を取り戻せるお金について、依頼者を代理して、貸金業者と、裁判外の和解をしました。これは、弁護士法72条の違反です。依頼者は、のちに破産し、管財人が、和解は無効だとして、過払金の返還を求めました。条文を、板に出します。

条文弁護士法72条

弁護士法第72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

骨格は、弁護士でない者は、報酬を得る目的で、法律事務を取り扱うことを業としてはならない、というものです。判決は、2つの契約を分けます。司法書士と依頼者の委任契約は、民法90条に照らして無効です。けれど、その結果として貸金業者と結んだ和解契約の効力は、別に判断します。

判例最判平29・7・24 民集71巻6号969頁

和解契約の効力は別に判断する その和解契約の効力については,委任契約の効力とは別に,同条の趣旨を達するために当該和解契約を無効とする必要性があるか否か等を考慮して判断されるべきものである。

判例最判平29・7・24 民集71巻6号969頁

直ちに無効にすると害される者 同条に違反することから直ちに当該和解契約の効力を否定するとすれば,紛争が解決されたものと理解している当事者の利益を害するおそれがあり,相当ではないというべきである。

判例最判平29・7・24 民集71巻6号969頁

特段の事情がない限り無効にならない 認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが同条に違反する場合であっても,当該和解契約は,その内容及び締結に至る経緯等に照らし,公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り,無効とはならないと解するのが相当である。

3つ目の問いに当てはめます。無効にする必要があるか。処罰や懲戒があり、委任契約も無効で、報酬は得られません。これで、禁止の実効性は確保できます。無効にして害される者はいるか。和解で、紛争が片づいたと考えている相手方がいます。割り勘の食事会で、幹事の違反を理由に、全員の会計をやり直すと、無関係な人が困ります。それと同じです。だから、和解契約は有効です。ただし、内容や経緯から、公序良俗違反の性質を帯びるような特段の事情があれば、別です。

手順の整理(①明文があれば従う/②趣旨から強行規定と読んで無効〔統制物資・均等法9条3項〕/③取締規定なら原則有効〔無許可者の買入れ〕ただし公序良俗違反なら無効〔違法建築の本工事・名義貸しと利益分配〕/④違反した当事者間の契約が無効でも、取引の相手方との契約まで無効かは別に判断〔和解契約〕) 図:手順の整理

  • ①明文があれば従う
  • ②趣旨から強行規定と読んで無効〔統制物資・均等法9条3項〕
  • ③取締規定なら原則有効〔無許可者の買入れ〕ただし公序良俗違反なら無効〔違法建築の本工事・名義貸しと利益分配〕
  • ④違反した当事者間の契約が無効でも、取引の相手方との契約まで無効かは別に判断〔和解契約〕

手順を、4つにそろえます。明文があれば従う。趣旨から強行規定と読めば無効。取締規定なら有効が原則で、公序良俗違反なら無効。そして、違反した当事者間の契約が無効でも、取引の相手方との契約は、別に判断します。ここまでは、論文でも論点になりうる範囲です。

行政上の権利は譲り渡せるか

公権の譲渡(議員報酬を受け取る権利=公法上の権利/民法466条1項=債権は譲り渡せる〔性質が許さないときを除く〕/法令に定めがあればそれに従う→なければ趣旨・目的から譲渡性を判断/地方自治法・地方公務員法に譲渡禁止の規定はない) 図:公権の譲渡

  • 議員報酬を受け取る権利=公法上の権利
  • 民法466条1項=債権は譲り渡せる〔性質が許さないときを除く〕
  • 法令に定めがあればそれに従う→なければ趣旨・目的から譲渡性を判断
  • 地方自治法・地方公務員法に譲渡禁止の規定はない

最後の答え合わせです。公法と私法の回を思い出してください。そこで捨てられた見方は、公権について、何を言い切るものでしたか?公権は譲り渡せない、放棄できない、と、条文を離れて言い切る見方でした。では、今は、何で決めるのでしょうか。具体の判決で見ます。民法の原則から、全文で確認します。

条文民法466条1項

民法第466条第1項 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

債権は、原則として、譲り渡せます。その性質が許さないときだけ、例外です。事案です。市議会の議員が、自分の議員報酬を受け取る権利を、他人に譲渡しました。その譲渡が有効かが争われました。議員報酬は、地方自治法が定める、公法上の権利、つまり公権です。譲渡とは、たとえば、お金を借りた議員が、返済にあてるために、来月からの報酬を受け取る権利を、貸した人に移すことです。移せるとすれば、報酬を受け取る権利は、貸した人のものになります。

条文地方自治法203条1項

地方自治法第203条第1項 普通地方公共団体は、その議会の議員に対し、議員報酬を支給しなければならない。

判例最判昭53・2・23 民集32巻1号11頁

議員報酬請求権の譲渡 普通地方公共団体の議会(以下、地方議会という。)の議員の報酬請求権は、公法上の権利であるが、公法上の権利であつても、それが法律上特定の者に専属する性質のものとされているのではなく、単なる経済的価値として移転性が予定されている場合には、その譲渡性を否定する理由はない。

判例最判昭53・2・23 民集32巻1号11頁

条例に譲渡禁止がなければ譲渡できる したがつて、地方議会の議員の報酬請求権は、当該普通地方公共団体の条例に譲渡禁止の規定がないかぎり、譲渡することができるものと解すべく

規範にまとめます。次の読み方は通説です。先ほどの判決は、この読み方を議員報酬で具体化しました。条例などに禁止が無ければ譲渡できる、としたのです。一身専属性とは、その人だけに結びついていて、ほかの人に移らない性質のことです。

⭐ 論文で書く規範:規範(通説で立てる):公法上の権利でも、法令に定めがあればそれに従い、定めがなければ、その権利に関する法令の趣旨・目的から、譲渡性・一身専属性の有無を判断する (短答・論文共通)

議員報酬請求権を譲渡できるとした理由は、2つです。1つ目。地方自治法や地方公務員法に、議員報酬請求権の譲渡や差押えを禁じる規定がありません。差押えとは、裁判所の手続で、借金を返さない人の財産を、勝手に処分できないよう押さえることです。2つ目。市役所の職員のような一般職の公務員は、法律で、職務に専念する義務を負い、ほかの仕事を兼ねることも制限されます。給料は、その暮らしを支えるものなので、仕事を滞りなく続けてもらうために、生活を守る必要があります。生活を守る必要が強い権利なら、他人に移すと本人の暮らしが立たなくなるので、移せないとする理由になります。議員は、特定の公職との兼職の禁止などを除けば、こうした拘束から離れています。だから、報酬について、生活を守る必要は薄い。条例に譲渡禁止の定めがない限り、譲渡できます。対比です。同じように、お金を借りた人が、生活保護の支給を受ける権利を、貸した人に移そうとしても、移せません。生活保護法59条が、明文で譲渡を禁じているからです。

条文生活保護法59条

生活保護法第59条 保護又は就労自立給付金若しくは進学・就職準備給付金の支給を受ける権利は、譲り渡すことができない。

明文があれば、それに従います。明文がなければ、趣旨と目的で決めます。結論の限定です。この判決の結論は、議員報酬請求権は譲渡できる、までです。公権のすべてが譲渡できるわけではありません。権利ごとに、法令の規定と趣旨で決めます。今日の契約の効力と、同じ読み方でした。

今日のまとめ

今日のまとめ(3つの問い=規定の趣旨・目的/違反の程度・悪質性/無効にする必要と害される者/判例の結論=統制物資は無効・無許可者の買入れは有効・違法建築の本工事は無効〔追加変更工事は別〕・名義貸しと利益分配の合意は趣旨に反し無効〔本件は差戻し〕・和解契約は特段の事情がない限り有効・議員報酬請求権は条例に禁止がなければ譲渡できる) 図:今日のまとめ

  • 3つの問い=規定の趣旨・目的
  • 違反の程度・悪質性
  • 無効にする必要と害される者
  • 判例の結論=統制物資は無効・無許可者の買入れは有効・違法建築の本工事は無効〔追加変更工事は別〕・名義貸しと利益分配の合意は趣旨に反し無効〔本件は差戻し〕・和解契約は特段の事情がない限り有効・議員報酬請求権は条例に禁止がなければ譲渡できる

冒頭のAさんに戻ります。無許可で肉を買ったAさんは、代金を払わなければなりません。許可の制度は、営業者を管理する制度で、取引を取り上げる制度ではないからです。許可がなかったことは、行政上の制裁の問題として残ります。同じ違反でも、無効になる場面もありました。統制物資のように、規定が取引の効力を限っているとき。違法建築や名義貸しのように、制度を潜脱する悪質なとき。見たのは、違法かどうかではなく、規定の趣旨と目的、違反の程度、無効にする必要と害される者でした。契約が無効でも、相手方との契約まで無効になるとは限らないのですね。和解契約のように、別に判断します。そして、公権の譲渡も、同じ読み方でした。法令の定めがあればそれに従い、なければ趣旨と目的で決めます。ラベルではなく、個々の法令からです。許可を受けずにした行為への制裁の中身は、別の回で扱います。

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#20単独ページ動画

公物の管理と使用関係

第1章 行政法の基礎 ⑳/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

駅前の市道の3人

駅前の市道の3人(A=通行人〔許可なしで歩く=一般使用〕/B=カフェの店主〔歩道にテーブルを出したい=許可を願い出る〕/C=電力会社〔電柱を立てて長く使う=特別の許可〕/D=市〔道路管理者〕/E=警察/DとEの間=協議/近所の人の物置で道がふさがれたら?) 図:駅前の市道の3人

  • A=通行人〔許可なしで歩く=一般使用〕
  • B=カフェの店主〔歩道にテーブルを出したい=許可を願い出る〕
  • C=電力会社〔電柱を立てて長く使う=特別の許可〕
  • D=市〔道路管理者〕
  • E=警察
  • DとEの間=協議
  • 近所の人の物置で道がふさがれたら?

駅前の市道に、3人がいます。Aさんは、通勤で歩いているだけです。許可は要りません。Bさんは、カフェの店主で、歩道にテーブルを出したいと、市に願い出ています。Cさんは、電力会社で、電柱を立て続けています。長く、特別に使う権利をもらっています。どれも同じ、市の道です。それなのに、使い方によって、扱いが違います。さらに、近所の人が、道に物置を建てて、通れなくなったら、誰が、何を言えるのでしょうか。3人の扱いの違いを、今日の1問にします。道路や公園は、誰が、どんな資格で使えるのか。使えなくなったとき、何が争えるのか。答えを先に言います。公物は、何のために供されているのか、どう使うのか、で扱いが変わります。見分ける物差しを持ち帰ります。物差しを、4つの問いにして、板に出します。

公物の4つの問い(①何が公物か=定義と分類/②いつ始まり、いつ終わるか=公用開始・公用廃止/③誰が管理するか=機能管理・財産管理・公物警察/④どう使えるか=一般使用・許可使用・特許使用・目的外使用許可) 図:公物の4つの問い

  • ①何が公物か=定義と分類
  • ②いつ始まり、いつ終わるか=公用開始・公用廃止
  • ③誰が管理するか=機能管理・財産管理・公物警察
  • ④どう使えるか=一般使用・許可使用・特許使用・目的外使用許可

1つ目は、何が公物か。2つ目は、いつ始まり、いつ終わるか。3つ目は、誰が管理するか。最後の4つ目は、どう使えるか。この順で、判決を通して見ていきます。

公物とは何か 4つの切り口

公物の分類(定義=国・公共団体等が直接公の目的のために供用している個々の有体物/目的=公共用物〔道路・河川・海岸・公園〕・公用物〔庁舎〕/成り立ち=自然公物〔河川・海岸〕・人工公物〔道路・公園・庁舎〕/所有者=国有・公有・私有/管理者=自有公物・他有公物) 図:公物の分類

  • 定義=国・公共団体等が直接公の目的のために供用している個々の有体物
  • 目的=公共用物〔道路・河川・海岸・公園〕・公用物〔庁舎〕
  • 成り立ち=自然公物〔河川・海岸〕・人工公物〔道路・公園・庁舎〕
  • 所有者=国有・公有・私有
  • 管理者=自有公物・他有公物

まず定義です。公物とは、国や公共団体などが、直接、公の目的のために供している、個々の有体物です。有体物とは、形のある物のことです。道路も、公園も、役所の庁舎も、これに当たります。見分ける切り口が4つあります。1つ目は、目的です。一般の人が使うための物を公共用物といい、道路、河川、海岸、公園が当たります。役所が自分で使うための物を公用物といい、庁舎と、その敷地が当たります。国有財産法では、公共用財産、公用財産と呼ばれます。2つ目は、成り立ちです。河川や海岸のように、自然のままで存在する物を、自然公物といいます。道路や公園や庁舎のように、人が造って供する物を、人工公物といいます。3つ目は、所有者です。国のものなら国有、自治体のものなら公有、私人のものでも公物になる場合があり、これが私有です。4つ目は、管理する人と所有する人の関係です。同じなら自有公物、別なら他有公物です。国が所有して、市が管理する道路は、他有公物です。後で、この形の事件を見ます。

住民の福祉のための施設が公の施設です。公民館や体育館のように、公共用物と重なる部分が大きい。公の施設の中心は、地方自治法244条です。この条文は、別荘の水道料金の回で見ました。当てはめます。市立体育館は、公共用物で、人工公物で、公の施設です。河原は、公共用物で、自然公物です。市役所の会議室は、公用物です。ここで、公物の背骨になる点があります。公物は、民法だけでは動かない物だ、ということです。道路の敷地は、所有権はありますが、私権を行使できません。河川の流水は、私権の目的になりません。条文を見ます。

条文道路法4条

道路法第4条 道路を構成する敷地、支壁その他の物件については、私権を行使することができない。但し、所有権を移転し、又は抵当権を設定し、若しくは移転することを妨げない。

条文河川法2条2項

河川法第2条第2項 河川の流水は、私権の目的となることができない。

骨格は、道路の敷地は、私権を行使できない、ただし、所有権の移転などは妨げない。河川の流水は、私権の目的にならない、というものです。道路の敷地には、物置を建てたり、売り物の花を並べたりして、勝手に使うことができません。所有者であっても、道路として供されている間は、道路の用を妨げることができないのです。では、ただし書は、なぜ売ることを許すのか。縛っているのは、使い方だからです。持ち主が替わっても、道路として使われ続けるなら、公の用は害されません。だから、所有権の移転や、抵当権の設定は、妨げないのです。公物を、民法の所有権だけで考えない。ここが、今日の背骨です。

いつ始まり、いつ終わるか 公物の時効取得

公物の始まりと終わり(自然公物=自然の状態で公物/人工公物=公用開始〔供用開始〕で始まり、公用廃止で終わる/問い=公用廃止の手続がないまま、他人が長く占有したら時効取得できるか/民法162条) 図:公物の始まりと終わり

  • 自然公物=自然の状態で公物
  • 人工公物=公用開始〔供用開始〕で始まり、公用廃止で終わる
  • 問い=公用廃止の手続がないまま、他人が長く占有したら時効取得できるか
  • 民法162条

ここで1問です。民法の取得時効は、国や自治体の持ち物にも及ぶのでしょうか。民法が行政の場面で働くかを見た回の、規定を並べて、趣旨から決める物差しを、ここで公物に当てます。自然公物は、自然の状態で公物です。始まりも終わりもありません。人工公物は違います。道路を造って、公衆に使わせ始めることを、公用開始といいます。使わせるのをやめることを、公用廃止といいます。どちらも、公衆に向けた行為と考えられます。では、公用廃止の手続を何も踏んでいないのに、いつのまにか、国の水路が、人の田になっていたら、どうでしょうか。民法の条文を、全文で確認します。

条文民法162条

民法第162条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

時効の中身は、民法の回で見たとおりです。ここでは、公物に特有の問いだけを扱います。公物は、公の目的のために供されています。個人が取得してしまうと、公の目的が害されるのではないか。事案です。登記所に備え付けの古い地図、公図の上では、国のものだった水路が、古くから田やあぜ道に作りかえられ、水路の外観を失っていました。農地改革で、その土地の売渡しを受けた人が、田と一緒に、自分のものだと信じて、占有を続けていました。国は、水路は公物だから時効にかからない、と争いました。判決の言葉です。

判例最判昭51・12・24 民集30巻11号1104頁

公共用財産の取得時効 公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置され、公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなつた場合には、右公共用財産については、黙示的に公用が廃止されたものとして、これについて取得時効の成立を妨げないものと解するのが相当である。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例で立てる):公共用財産が、①長年公の目的に供されず、形態・機能を全く失い、②他人の平穏公然の占有が継続し、③実際上公の目的が害されず、④維持すべき理由がなくなったときは、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の成立を妨げない (短答・論文共通)

公用廃止の手続が無いのに、廃止されたことにするのですか。そこが、この判決の工夫です。手続による廃止は無い。けれど、実態から見て、廃止があったものとみなします。無い廃止を、あったとみなす。このやり方を、擬制といいます。学説は、これを擬制的な構成と呼びます。決め手は、公物が公の目的のために守られているのは、公の目的があるからだ、という点です。目的がもう実際に失われているなら、時効だけを禁じ続ける理由がありません。4つの条件を、境界で確かめます。水路が、まだ水を流していて、近所の田に水を送っているなら、形態も機能も失っていません。時効は成立しません。草に埋もれ、田に作りかえられ、誰も困らない水路なら、4つがそろいます。この結論は、国の持ち物でも、変わりません。

時効取得に関する判例の一行(昭51の規範を竣功認可前の埋立地にも適用=公有水面埋立ての竣功認可がない土地でも、同じ要件で黙示の公用廃止、取得時効の対象/海はそのままの状態では所有権の客体たる土地に当たらない=自然の状態のまま一般公衆の共同使用に供されてきた公共用物/普通河川=河川法の適用も準用も受けない河川の例) 図:時効取得に関する判例の一行

  • 昭51の規範を竣功認可前の埋立地にも適用=公有水面埋立ての竣功認可がない土地でも、同じ要件で黙示の公用廃止、取得時効の対象
  • 海はそのままの状態では所有権の客体たる土地に当たらない=自然の状態のまま一般公衆の共同使用に供されてきた公共用物
  • 普通河川=河川法の適用も準用も受けない河川の例

板に、関連する判決を3つ、名前だけ並べます。埋立ての工事が終わったと認める竣功認可が、まだ無い土地でも、同じ要件で、黙示の公用廃止から時効取得が認められました。一方、海は、そのままの状態では、所有権の対象になる土地に当たりません。自然のまま、公衆の共同使用に供されてきたからです。もう1つ、用語です。道路法や河川法などの法律の適用を受けない公物を、法定外公共用物といいます。たとえば、河川法の適用も準用も受けない、普通河川です。歴史の中で、事実上、存在してきた公物です。条例との関係は、別の回で扱います。

誰が管理するか 機能管理・財産管理・公物警察

管理の2つの面と公物警察(機能管理=公物の効用を保つ〔道路法・河川法・海岸法など公物管理法〕/財産管理=財産的価値を維持する〔国有財産法・地方自治法の財産規定〕/公物警察=公物で展開される一般の警察作用〔道路交通法〕/公の施設=管理条例〔自治法244条の2第1項〕) 図:管理の2つの面と公物警察

  • 機能管理=公物の効用を保つ〔道路法・河川法・海岸法など公物管理法〕
  • 財産管理=財産的価値を維持する〔国有財産法・地方自治法の財産規定〕
  • 公物警察=公物で展開される一般の警察作用〔道路交通法〕
  • 公の施設=管理条例〔自治法244条の2第1項〕

管理には、2つの面があります。1つ目は、機能管理です。道路として通れる、河川として流れる、という、公物の働きを保つことです。主に、道路法や河川法のような、公物管理法が担います。2つ目は、財産管理です。公物の財産としての価値を保つことで、主に、国有財産法や地方自治法の財産の規定が担います。国有財産は、法律ではなく、管理規則という、役所内部の決まりで管理される例も珍しくありません。一方、公の施設は、管理条例が要ります。条文を、全文で読みます。

条文地方自治法244条の2第1項

地方自治法第244条の2第1項 普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。

骨格は、公の施設の設置と管理は、条例で定める、というものです。公民館を、誰が、いつ、どう使えるかは、市の条例で決まります。次に、公物警察です。公物の上で行われる、一般の警察の作用を指します。道路で交通の安全を守る道路交通法が、代表です。道路法が公物の管理で、道路交通法が公物警察、と、おおまかに分かれます。

歩道のテーブルと2つの許可(B=店主/D=市〔道路法の占用の許可=管理〕/E=警察〔道路交通法の道路使用の許可=公物警察〕/DとEの間に協議の規定がある) 図:歩道のテーブルと2つの許可

  • B=店主
  • D=市〔道路法の占用の許可=管理〕
  • E=警察〔道路交通法の道路使用の許可=公物警察〕
  • DとEの間に協議の規定がある

冒頭の店主に戻ります。歩道にテーブルを出すとき、市の道路管理者の許可と、警察の許可の、両方が関わることがあります。道路を使えるようにする話と、交通の安全の話が、重なるからです。そのため、両者の間には、調整のための協議の規定があります。庁舎の管理者は、庁舎の管理権に基づいて、外部の人に退去を求めることはできます。応じない人を外へ押し出す程度の排除まで、管理権に含まれるとした高裁の判決もあります。ただ、管理権は、庁舎を管理するための権限で、警察権そのものではありません。だから、それを超える強い実力の行使は、警察の役割です。では、市は、道路の管理権とは別に、民法の権利で道路を守れるのでしょうか。事案です。市が、国から無償で借りた道路敷の上にある市道を、道路管理者として、現に管理してきました。ところが、登記の名義を得た業者らが、道路敷の所有者だと言って、通行を妨げるようになりました。

管理権がなくても占有権(A=国〔所有者〕/B=市〔無償で借りた道路敷を管理〕/C=業者〔登記名義を得て通行を妨害〕/A→B=無償貸付/C→通行を妨害/B→C=占有権に基づく妨害予防請求) 図:管理権がなくても占有権

  • A=国〔所有者〕
  • B=市〔無償で借りた道路敷を管理〕
  • C=業者〔登記名義を得て通行を妨害〕
  • A→B=無償貸付
  • C→通行を妨害
  • B→C=占有権に基づく妨害予防請求

占有権とは、物を、事実上、支配している状態に、民法が与える権利です。市は、占有権に基づいて、妨害を予防するよう、求めました。原審は、道路管理権は、道路法が独自に与えた権限で、民法の占有権の根拠にならない、として、請求を退けました。最高裁は、こう言いました。

判例最判平18・2・21 民集60巻2号508頁

道路を管理する地方公共団体の占有権 地方公共団体が,道路を一般交通の用に供するために管理しており,その管理の内容,態様によれば,社会通念上,当該道路が当該地方公共団体の事実的支配に属するものというべき客観的関係にあると認められる場合には,当該地方公共団体は,道路法上の道路管理権を有するか否かにかかわらず,自己のためにする意思をもって当該道路を所持するものということができるから,当該道路を構成する敷地について占有権を有するというべきである。

占有権は、事実上の支配に与えられる権利でした。だから、市が、道路を現に管理して、道路として使わせているなら、法律上の管理権があるかどうかに関係なく、占有権があります。結論の細部に注意してください。最高裁は、請求を認めたのではありません。原審を破棄して、事実の審理をやり直させ、差し戻しました。ここから分かることは、1つです。公物管理法の措置のほかに、所有権や占有権といった、民法上の権利に基づく妨害排除の道も、排除されません。公物は、民法だけでは動きませんが、民法が、まったく働かないわけでもないのです。道路などの設置や管理に不備があって、人が怪我をしたときの責任は、別の回で扱います。

使用関係の3類型 一般・許可・特許

使用関係の3類型(一般使用〔自由使用〕=誰でも許可なしで本来の目的に沿って使う〔例=歩く・ベンチで本を読む〕/許可使用=一般的な禁止を申請で解除〔例=道路上のロケ撮影・祭りの行列〕/特許使用=特定の人に独占的な使用権を認める〔例=電柱・ガス管・露店・流水占用〕) 図:使用関係の3類型

  • 一般使用〔自由使用〕=誰でも許可なしで本来の目的に沿って使う〔例=歩く・ベンチで本を読む〕
  • 許可使用=一般的な禁止を申請で解除〔例=道路上のロケ撮影・祭りの行列〕
  • 特許使用=特定の人に独占的な使用権を認める〔例=電柱・ガス管・露店・流水占用〕

使用関係の3類型です。1つ目は、一般使用、自由使用ともいいます。公共用物を、誰でも、許可なしで、本来の目的に沿って使います。歩く、自転車で通る、公園のベンチで本を読む。公物の、いちばん基本の使い方です。2つ目は、許可使用です。法律が、一般的に禁じていることを、申請があったときに解除して、認める使い方です。一般使用の枠の中にあるけれど、通常と違う使い方なので、利用の調整のために、許可が要ります。道路上の映画撮影や、祭りの行列です。3つ目は、特許使用です。占用とは、道路に物を設けたり、川の水を引いたりして、特定の人が、継続して使うことです。特定の人に、公物の、独占的な使用権を認めます。電柱、ガス管、露店のための、道路の占用の許可、河川の流水の占用の許可が、代表です。ここで1問です。電力会社が電柱を立てるのと、歩道にテーブルを出す店主と、通勤で歩く人。それぞれ、どの使用でしょうか。少し考えてください。

電柱は、長く独占して使うので特許使用、歩くだけの通勤は、許可の要らない一般使用です。テーブルも、道路の上に物を置いて継続して使うので、占用に当たり、特許使用です。条文を、板に出します。

条文道路法32条1項(抜粋)

道路法第32条第1項(抜粋) 道路に次の各号のいずれかに掲げる工作物、物件又は施設を設け、継続して道路を使用しようとする場合においては、道路管理者の許可を受けなければならない。 一 電柱、電線、変圧塔、郵便差出箱、公衆電話所、広告塔その他これらに類する工作物 二 水管、下水道管、ガス管その他これらに類する物件 三 鉄道、軌道、自動運行補助施設その他これらに類する施設 四 歩廊、雪よけその他これらに類する施設 五 地下街、地下室、通路、浄化槽その他これらに類する施設 六 露店、商品置場その他これらに類する施設 七 前各号に掲げるもののほか、道路の構造又は交通に支障を及ぼすおそれのある工作物、物件又は施設で政令で定めるもの

骨格は、電柱や水道管のような物を設けて、継続して道路を使うなら、道路管理者の許可が要る、というものです。条文は、許可と書いています。ここに、注意が1つあります。条文が許可と書いていても、中身が許可使用か特許使用かは、個別の条文の趣旨を読んで決めます。実際の法律は、両者を区別せず、許可と書くことが多いからです。両者の違いは、相対的です。手がかりは、まず1つ目の、みんなの通行の中での調整か、特定の人に独り占めの地位を与えるか、です。これに加えて、長く続くか、取り消されたとき何を失うか、も判断の材料になります。祭りの行列は、その日だけの、通行との調整です。取り消されても、その日に行列ができないだけです。電柱は、電力会社に、何十年も、場所を独り占めさせます。取り消されれば、立てた設備ごと、使い方を失います。だから、同じ許可という言葉でも、与えた地位の重さで、読み分けます。

一般使用は権利か(原審=反射的な利益 ↔ 最高裁=使用の自由権/妨害=不法行為・続けば排除/供用が廃止されたら言えない) 図:一般使用は権利か

  • 原審=反射的な利益 ↔ 最高裁=使用の自由権
  • 妨害=不法行為・続けば排除
  • 供用が廃止されたら言えない

一般使用は、権利なのでしょうか。それとも、ただ、使えているだけですか。事案です。村道のそばに住む村民らが、日々の通行に使ってきた村道に、他の村民が物置を建てたり、柵を設けたりして、通れなくなったと主張しました。そして、妨害をやめさせるよう求めました。原審は、村道を使えるのは、村の施設が開設されていることの、反射的な利益にすぎない、として、妨害排除を認めませんでした。反射的な利益とは、行政の仕組みの結果、たまたま受けている利益で、法律が守るべき権利とまでは言えないものです。最高裁は、こう言いました。

判例最判昭39・1・16 民集18巻1号1頁

村道の使用の自由権 地方公共団体の開設している村道に対しては村民各自は他の村民がその道路に対して有する利益ないし自由を侵害しない程度において、自己の生活上必須の行動を自由に行い得べきところの使用の自由権(民法七一〇条参照)を有するものと解するを相当とする。

判例最判昭39・1・16 民集18巻1号1頁

妨害は不法行為・継続すれば排除を求められる 故に一村民がこの権利を妨害されたときは民法上不法行為の問題の生ずるのは当然であり、この妨害が継続するときは、これが排除を求める権利を有することは、また言を俟たないところである。

決め手は、生活に欠かせない通行を、他人の妨害から守る必要があることです。反射的な利益で片づけず、使用の自由権という、法的に守られる権利を認めました。妨害されたら不法行為になり、続けば排除を求められます。ただし、判決も、差し戻しています。上告人らの主張が事実であれば、という前提です。それから、一般使用は、利用権ではありません。道路が供用されていることが前提なので、供用そのものが廃止されたら、文句は言えません。

特許使用の限界(流水の占用=特許使用/目的に必要な限度で排他的/第三者の排水まで直ちには禁じられない) 図:特許使用の限界

  • 流水の占用=特許使用
  • 目的に必要な限度で排他的
  • 第三者の排水まで直ちには禁じられない

次に、特許使用の限界です。流水の占用は、特許使用の代表です。では、許可を受けた人は、川の水を、独り占めできるのでしょうか。

条文河川法23条

河川法第23条(本文) 河川の流水を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。

判例最判昭37・4・10 民集16巻4号699頁

公水使用権の限界 公水使用権は、それが慣習によるものであると行政庁の許可によるものであるとを問わず、公共用物たる公水の上に存する権利であることにかんがみ、河川の全水量を独占排他的に利用しうる絶対不可侵の権利ではなく、使用目的を充たすに必要な限度の流水を使用しうるに過ぎないものと解するのを相当とする

判例最判令元・7・18 集民262号11頁

取水した水が流れる水路 その水について当該目的を満たすために必要な限度で排他的に使用する権利を有するとはいえるものの,直ちに第三者に対し本件水路への排水を禁止することができるとはいえない。

事案です。土地改良区が、河川法23条の許可を受けて取水し、灌漑に使う水が流れる水路がありました。そこへ周辺の住民が、浄化槽の排水を流しました。土地改良区は、無断の排水で、水路を独占的に管理する権利が害されたとして、使用料に当たる額の支払を求めました。最高裁は、取水した水が流れているからといって、直ちに第三者の排水を禁止できるとはいえない、として請求を退けました。特許使用は、独占的な権利です。けれど、無制限ではありません。判決の言う公水使用権とは、川の水を使う権利のことです。なぜ無制限でないのか。川の流水は、もともと、みんなのための公共用物です。その上に乗った権利なので、使う目的に必要な限度でしか、排他的に使えません。だから、許可に基づいて取水した水が流れる水路でも、第三者の排水まで、直ちに禁じられるとは限りません。庁舎や学校のような公用物の場合は、利用者が、職員や生徒のように、限られます。一般の人が、その場所を使いたいときは、どうなるのか。次の節です。

目的外使用許可と公の施設 裁量の型

目的外使用の3つの問い(①その物は公共用物か公用物か→②その使用は目的内か目的外か→③どんな場合に認められるか/目的内=原則認める〔公の施設なら正当な理由がなければ拒めない〕/目的外=用途・目的を妨げない限度で許可できる・許可するかは管理者の裁量) 図:目的外使用の3つの問い

  • ①その物は公共用物か公用物か→②その使用は目的内か目的外か→③どんな場合に認められるか
  • 目的内=原則認める〔公の施設なら正当な理由がなければ拒めない〕
  • 目的外=用途・目的を妨げない限度で許可できる・許可するかは管理者の裁量

ここで1問です。別荘の水道料金の回で見た、地方自治法244条3項は、公の施設について、何を禁じていましたか?公の施設の利用で、住民への不当な差別的取扱いを禁じていました。その同じ244条は、2項で、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない、と定めます。これが、公の施設の、目的に沿った使用についての原則です。今日の節の中心は、その反対側です。行政財産の、目的以外の使用です。行政財産とは、国有財産法や自治法の語で、公用や公共用に供する財産のことです。条文を、全文で読みます。

条文国有財産法18条6項

国有財産法第18条第6項 行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる。

条文地方自治法238条の4第7項

地方自治法第238条の4第7項 行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。

骨格は、行政財産は、用途や目的を妨げない限度で、使用を許可できる、というものです。国でも、自治体でも、同じ形です。これが、目的外使用許可です。判断の枠組みを、3つの問いにします。1つ目。その物は、公共用物か、公用物か。2つ目。その使用は、目的内か、目的外か。3つ目。どんな場合に認められるか。目的内なら、原則として認められます。公の施設なら、正当な理由がなければ拒めません。目的外なら、用途や目的を妨げない限度で許可でき、許可するかどうかは、管理者の裁量です。当てはめます。市立体育館で、バドミントン大会を開くのは、目的内の使用です。市役所の会議室を、市と対立している団体が、集会に使いたい。これは、公用物の目的外使用で、許可するかは、裁量です。

学校施設の事案(A=教職員の職員団体〔教育研究集会の会場に中学校の体育館などを借りたい〕/B=校長〔いったん了承〕/C=市の教育委員会〔右翼団体の街宣による混乱を理由に不許可〕) 図:学校施設の事案

  • A=教職員の職員団体〔教育研究集会の会場に中学校の体育館などを借りたい〕
  • B=校長〔いったん了承〕
  • C=市の教育委員会〔右翼団体の街宣による混乱を理由に不許可〕

最初の判決です。事案は、教職員の職員団体が、教育研究集会の会場として、市立中学校の体育館などを借りたい、と申し出たことです。校長は、いったん了承しました。ところが、市の教育委員会が、右翼団体の街宣による混乱を理由に、使用を不許可としました。まず、学校施設の性質について、判決は、こう言います。

判例最判平18・2・7 民集60巻2号401頁

学校施設の性質 学校施設は,一般公衆の共同使用に供することを主たる目的とする道路や公民館等の施設とは異なり,本来学校教育の目的に使用すべきものとして設置され,それ以外の目的に使用することを基本的に制限されている

判例最判平18・2・7 民集60巻2号401頁

目的外使用は管理者の裁量 学校施設の目的外使用を許可するか否かは,原則として,管理者の裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。

判例最判平18・2・7 民集60巻2号401頁

支障がなくても当然には許可しなくてはならない 学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかであるが,そのような支障がないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく,行政財産である学校施設の目的及び用途と目的外使用の目的,態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるものである。

決め手は、学校施設が、道路や公民館とは違い、学校教育のために設置され、それ以外の使用を、基本的に制限されていることです。だから、支障が無くても、当然、許可しなくてはならない、とはなりません。裁量があるなら、不許可は、違法にならないのではありませんか。そこが、結論の細部です。最高裁は、裁量を認めたうえで、本件の不許可は、裁量の逸脱だ、と判断しました。

判例最判平18・2・7 民集60巻2号401頁

本件不許可処分は裁量の逸脱 本件不許可処分は,重視すべきでない考慮要素を重視するなど,考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており,他方,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,その結果,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。

裁量があることと、不許可が常に適法なことは、別です。裁量があっても、考慮すべきでない事情を重く見て、考慮すべき事情を十分見なければ、違法になります。この審査の仕方は、裁量の回で扱います。

一般公共海岸の事案(A=採石業者〔岩石を搬出する桟橋を設けたい〕/B=海岸管理者〔海岸法の占用の許可を不許可〕/場所=国有の一般公共海岸区域=海岸保全区域に入っていない海岸) 図:一般公共海岸の事案

  • A=採石業者〔岩石を搬出する桟橋を設けたい〕
  • B=海岸管理者〔海岸法の占用の許可を不許可〕
  • 場所=国有の一般公共海岸区域=海岸保全区域に入っていない海岸

次の判決です。事案は、採石業者が、岩石を搬出するための桟橋を、国有の一般公共海岸の区域に設けたいと、海岸法の占用の許可を申請しましたが、不許可になった、というものです。一般公共海岸区域とは、国や自治体の海岸のうち、堤防などで守る海岸保全区域に入っていない区域です。判決は、2段で言います。

判例最判平19・12・7 民集61巻9号3290頁

用途又は目的を妨げるとき 一般公共海岸区域の占用の許可の申請があった場合において,申請に係る占用が当該一般公共海岸区域の用途又は目的を妨げるときには,海岸管理者は,占用の許可をすることができないものというべきである。

判例最判平19・12・7 民集61巻9号3290頁

妨げないときでも裁量 申請に係る占用が当該一般公共海岸区域の用途又は目的を妨げないときであっても,海岸管理者は,必ず占用の許可をしなければならないものではなく,海岸法の目的等を勘案した裁量判断として占用の許可をしないことが相当であれば,占用の許可をしないことができるものというべきである。

判例最判平19・12・7 民集61巻9号3290頁

本件不許可処分は違法 本件不許可処分は,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるものというべきである。

型は、学校施設と同じです。妨げるなら許可できない。妨げないときでも、裁量で不許可にできる。ただし、本件は、考慮すべきでない事情を考慮し、考慮すべき事情を十分考慮していないので、裁量の逸脱で違法です。海岸法には、許否の要件の明文が無く、行政財産の使用許可の要件と同じ読み方をしました。目的外使用許可の型は、占用許可でも同じです。

判決の結論の対比(学校施設の目的外使用=許可するかは原則管理者の裁量→本件不許可は裁量の逸脱で違法/一般公共海岸の占用=妨げるなら不可・妨げなくても裁量→本件不許可は裁量の逸脱で違法/どちらも「裁量を認めたうえで、逸脱を認めた」) 図:判決の結論の対比

  • 学校施設の目的外使用=許可するかは原則管理者の裁量→本件不許可は裁量の逸脱で違法
  • 一般公共海岸の占用=妨げるなら不可・妨げなくても裁量→本件不許可は裁量の逸脱で違法
  • どちらも「裁量を認めたうえで、逸脱を認めた」

許可を取り消せる場合も、条文にあります。自治法238条の4第9項は、公用や公共用に供するため必要が生じたときなどに、許可を取り消せる、と定めます。

条文地方自治法238条の4第9項

地方自治法第238条の4第9項 第七項の規定により行政財産の使用を許可した場合において、公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき、又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは、普通地方公共団体の長又は委員会は、その許可を取り消すことができる。

取り消された人に補償があるかについて、最高裁は、使用の権利そのものに、その財産本来の用途や目的のために必要が生じれば消える、という制約が、はじめから付いている、と見ました。だから、原則として補償は要らない、とされました。取消しの制限と、補償の要否は、別の回で扱います。最後に、公の施設の利用拒否の限界です。市民会館のような、集会のための施設の使用を、どこまで拒めるか。市民会館を集会に使うのは、施設の目的に沿った使用です。学校施設とは、2つ目の問いの答えが違います。だから、広い裁量の話ではなく、正当な理由が無ければ拒めない、の側で考えます。公の施設の利用を拒める正当な理由の限界は、集会の自由との関係で、憲法の回で詳しく見た、泉佐野市民会館事件が示しています。なお、国有の公園である皇居外苑についても、使用の許否は管理権者の単なる自由裁量ではない、と述べた判決があります。ただし、その事件の不許可自体は適法とされました。これで、今日の物差しがそろいました。同じ公の物でも、何のために供されているかで、扱いが変わります。目的に沿う使い方なら、原則として使わせる。目的の外なら、用途や目的を妨げない限度で、管理者の裁量です。

今日のまとめ

今日のまとめ(4つの問い=①公物=公共用物・公用物/自然・人工/自有・他有 ②始まりと終わり=公用開始・公用廃止・黙示の公用廃止で時効取得 ③管理=機能管理・財産管理・公物警察・管理権がなくても占有権 ④使用=一般・許可・特許、目的外使用許可は用途・目的を妨げない限度で裁量) 図:今日のまとめ

  • 4つの問い=①公物=公共用物・公用物/自然・人工/自有・他有
  • ②始まりと終わり=公用開始・公用廃止・黙示の公用廃止で時効取得
  • ③管理=機能管理・財産管理・公物警察・管理権がなくても占有権
  • ④使用=一般・許可・特許、目的外使用許可は用途・目的を妨げない限度で裁量

駅前の市道に、戻ります。通勤のAさんは、一般使用です。許可は要りません。もし、物置で道をふさがれたら、使用の自由権が妨害されたとして、不法行為になり、排除も求められます。カフェのBさんは、テーブルを出すなら、道路の占用です。市の許可に加え、警察の許可も関わりえます。電力会社のCさんの電柱は、特許使用で、独占的な権利です。ただし、無制限ではありません。4つの問いで回収します。何が公物か。目的で、公共用物と公用物に分かれました。いつ始まり、いつ終わるか。人工公物は、公用開始と公用廃止です。ただし、実態が失われきれば、黙示の公用廃止で、時効取得もありえます。誰が管理するか。機能管理と財産管理、それに公物警察は別で、管理権が無くても、占有権はあります。どう使えるか。一般、許可、特許の3つです。目的外使用は、用途と目的を妨げない限度で、許可は管理者の裁量です。

使えなくなったとき、争えるのは、使用の自由権の妨害と、裁量の逸脱です。この読み方は、裁量の回で、さらに深まります。

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第2章行政組織法

#21単独ページ動画

行政主体

第2章 行政組織法 ㉑/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

拒否の通知書の差出人

建築確認を断られたAさん(A=建築主〔家を建てたい〕/B=民間の株式会社〔指定確認検査機関〕/C=市/D=国/A→B=建築確認の申請/B→A=拒否の通知書/問い=C・D・Bのどれを相手に何を争うか) 図:建築確認を断られたAさん

  • A=建築主〔家を建てたい〕
  • B=民間の株式会社〔指定確認検査機関〕
  • C=市
  • D=国
  • A→B=建築確認の申請
  • B→A=拒否の通知書
  • 問い=C・D・Bのどれを相手に何を争うか

家を建てようとしたAさんが、建築確認を申請しました。しばらくして、通知書が届きます。結果は、確認できない、という拒否でした。ところが、差出人の欄を見ると、市役所ではありません。民間の株式会社でした。建築確認は役所の仕事、と感じるのが普通です。ところが、法律が、民間の会社にも確認を任せているのです。さて、Aさんは納得がいきません。争うなら、国を相手にするのか、市を相手にするのか、それとも、この会社なのか。何を争えばよいのでしょうか。ここから、行政組織法の章に入ります。最初の回で、行政法を、誰が行政をするのか、どう行うのか、救済はどうか、の3つの柱で見ました。この章は、1つ目の柱、誰が行政をするのか、つまり、組織法です。その一番外側の輪、法人から入ります。今日の1問です。行政をする誰かは、国と自治体だけなのか。そうでない誰かが混じると、何が変わるのか。答えを先に言います。行政をする主体には、国と自治体の外側の法人がいます。その見分け方の物差しと、法人が違うと変わる4点、監督、手続、被告、情報公開を持ち帰ります。冒頭の会社が何者かは、最後に回収します。4つの問いを、板に出します。

行政主体の4つの問い(①権利義務は誰のものか=法人と機関/②国と自治体の外側に誰がいるか/③どう見分けるか=設立の仕方・担う事務・私人への強制/④法人が違うと何が変わるか=監督・手続・被告・情報公開) 図:行政主体の4つの問い

  • ①権利義務は誰のものか=法人と機関
  • ②国と自治体の外側に誰がいるか
  • ③どう見分けるか=設立の仕方・担う事務・私人への強制
  • ④法人が違うと何が変わるか=監督・手続・被告・情報公開

1つ目は、権利と義務は、誰のものか。2つ目は、国と自治体の外側に、誰がいるか。3つ目は、どう見分けるか。4つ目は、法人が違うと、何が変わるか。この順で見ていきます。

法人と機関 行政主体という道具

法人と機関(A=町〔法人=権利義務の帰属先〕/B=町長〔機関=町のために意思を決め表示する地位〕/C=土地の売主/B→C=町の名で売買契約/効果はAに帰属/民法33条1項=法人は法律の規定によらなければ成立しない/民法34条=法令・定款の目的の範囲内で権利を有し義務を負う) 図:法人と機関

  • A=町〔法人=権利義務の帰属先〕
  • B=町長〔機関=町のために意思を決め表示する地位〕
  • C=土地の売主
  • B→C=町の名で売買契約
  • 効果はAに帰属
  • 民法33条1項=法人は法律の規定によらなければ成立しない
  • 民法34条=法令・定款の目的の範囲内で権利を有し義務を負う

まず、言葉を2つ定義します。最初は、法人です。法人とは、独立の権利の主体になる資格を、法律によって認められた団体のことです。自分の名前で契約し、権利を持ち、義務を負います。株式会社や、一般社団法人が、身近な例です。民法の法人の回で見たとおり、法人は、法律の規定によらなければ成り立ちません。2つ目は、機関です。機関とは、法人のために意思を決めて、行動する、人や会議体の地位のことです。法人は、体を持ちません。だから、誰かの意思と行為を、法人のものとして扱う必要があります。株式会社なら、代表取締役が、その席に座っています。例で見ます。町長が、町の名で、土地を買う契約を結びました。この契約の当事者は、誰でしょうか。

町長個人ではありません。買主は、町、という法人です。代金を払う義務を負うのも町で、土地を手に入れるのも町です。町長は、町のために意思を決めて、示す機関です。前の章で、組織規範を見たときに、担当者がした行為を、その人個人のものではなく、国や町の行為として扱わせる働き、という話をしました。その働きの正体が、これです。行為の効果が、機関の背後にいる法人に帰属する、という考え方です。席に座る人が替わっても、契約の名義人は、町のまま変わりません。ここで、今日の主役の言葉を定義します。行政主体とは、行政上の権利義務を負い、自己の名と責任で、行政活動を行う法人のことです。暗記する定義です。さきほどの町で言えば、町長が町の名でした行為の効果は、町長個人ではなく、町に帰属します。国でも同じで、大臣の行為の効果は、国に帰属します。

普通の会社も、法人です。わざわざ、行政主体という別の名前を立てる意味は何ですか。国の仕事をする法人を、民間の会社や団体と区別して、違う扱いをするためです。どんな違う扱いがあるかは、後半で4つ見ます。ここでは、行政主体は、扱いが違う法人に付ける名前だ、と覚えてください。

内部法と外部法(内部法=行政主体の内部の関係を規律〔上級機関と下級機関/国と国の機関〕/外部法=行政主体と私人の関係を規律〔許可を出す国と申請者〕/喩え=家の中の決まりと、家と隣人の約束) 図:内部法と外部法

  • 内部法=行政主体の内部の関係を規律〔上級機関と下級機関/国と国の機関〕
  • 外部法=行政主体と私人の関係を規律〔許可を出す国と申請者〕
  • 喩え=家の中の決まりと、家と隣人の約束

もう1組、言葉があります。行政主体の中だけの関係を律する法を、内部法といいます。たとえば、上級の機関と下級の機関の関係です。これに対して、行政主体と私人の関係を律する法を、外部法といいます。許可を出す国と、申請する人の関係です。家の中の決まりと、家と隣人の約束、と考えると、区別しやすいです。なぜ区別するのか。この見方は、後半の1点目で、実際に結論を左右します。覚えておいてください。ここで1問です。町、総務大臣、神奈川県、横浜市長のうち、法人はどれでしょうか。町と神奈川県が法人です。大臣と市長は、機関だと思います。町と神奈川県が法人で、総務大臣と横浜市長は、その法人のために動く機関です。ここまでの要点は、帰属先が法人、動くのが機関、でした。

統治団体 国と地方公共団体

統治団体(統治団体=国と地方公共団体/行政主体の典型/憲法92条=地方公共団体の組織・運営は地方自治の本旨に基づき法律で定める/地方自治法2条1項=地方公共団体は法人とする/区の対比=東京の特別区は特別地方公共団体で独立の法人・政令指定都市の区は市の内部の区域で法人ではない) 図:統治団体

  • 統治団体=国と地方公共団体
  • 行政主体の典型
  • 憲法92条=地方公共団体の組織・運営は地方自治の本旨に基づき法律で定める
  • 地方自治法2条1項=地方公共団体は法人とする
  • 区の対比=東京の特別区は特別地方公共団体で独立の法人・政令指定都市の区は市の内部の区域で法人ではない

行政主体の典型は、国と地方公共団体です。この2つを、統治団体といいます。国は、統治団体として、最も重要な行政主体です。前の章で、町は内閣そのものではない、と言いました。では、町と国は、どんな関係でしたか?町は、国とは別の主体で、それでも、行政をする側に立つ、という話でした。今日は、その別の主体の正体を見ます。地方公共団体は、国から独立した統治団体で、国とは別の法人です。根拠を見ます。まず憲法です。

条文日本国憲法92条

日本国憲法第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

地方公共団体の存在を前提に、組織と運営は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める、という条文です。地方自治の中身は、憲法の回で見ました。そして、法人であることの明文の根拠は、地方自治法にあります。

条文地方自治法2条1項

地方自治法第2条第1項 地方公共団体は、法人とする。

短い条文です。地方公共団体は、法人とする。だから、都道府県も市町村も、国とは別の権利義務の主体で、行政主体です。地方公共団体には、都道府県と市町村の普通地方公共団体と、特別区などの特別地方公共団体があります。種類や組織は、別の回で見ます。ここでは、法人かどうかの見分けを練習します。ここで1問です。東京の、新宿区という区と、横浜市の、中区という区は、どちらも法人でしょうか。同じ区だから、どちらも法人ではないですか。違います。まず、東京の特別区の条文です。

条文地方自治法1条の3第3項

地方自治法第1条の3第3項 特別地方公共団体は、特別区、地方公共団体の組合及び財産区とする。

骨格は、特別区は、組合や財産区と並ぶ、特別地方公共団体だ、です。地方公共団体ですから、2条1項で、独立の法人です。では、政令指定都市の区はどうでしょうか。こちらの条文です。

条文地方自治法252条の20第1項

地方自治法第252条の20第1項 指定都市は、市長の権限に属する事務を分掌させるため、条例で、その区域を分けて区を設け、区の事務所又は必要があると認めるときはその出張所を置くものとする。

骨格は、市長の事務を分担させるために、条例で市の区域を分けて、区を置く、です。地方公共団体として挙げる条文ではありません。だから、2条1項は及ばず、法人ではありません。同じ区という名前でも、根拠の条文が違います。名前でなく、法律が地方公共団体として定めているかを見て決めるのです。なお、憲法の回で、特別区は、憲法93条2項の地方公共団体には当たらない、とした判例を見ました。あれは、長を住民が直接選ぶ団体か、という憲法の問いです。法律の上で法人かどうかとは、別の問いです。

国と自治体の外側の法人たち

見分ける物差し3つ(①誰がどう設立したか=法律で直接/特別の法律による特別の設立行為/民間が発起し行政庁が認可/民間法人を行政庁が指定・登録 ②何を担うか=公権力の行使を含むか ③私人に強制できるか=強制加入・強制徴収) 図:見分ける物差し3つ

  • ①誰がどう設立したか=法律で直接/特別の法律による特別の設立行為/民間が発起し行政庁が認可/民間法人を行政庁が指定・登録
  • ②何を担うか=公権力の行使を含むか
  • ③私人に強制できるか=強制加入・強制徴収

国と自治体の外側にも、行政の事務を担う法人がいます。種類が多くて、混乱しやすいところです。そこで、名前の暗記から入らず、物差しを3つ持ちます。1つ目は、誰が、どう設立したか。法律が直接つくったのか、民間が発起して行政が認可したのか、既にある民間の法人を、行政が指定したのか。2つ目は、何を担うか。公権力の行使、つまり、相手が同意しなくても、一方的に権利や義務を決める力を含むかどうかです。3つ目は、私人に強制できるか。強制的に加入させたり、お金を強制的に徴収したりできるか、です。この物差しで、強制が一番強い公共組合から始めて、外側に行くほど民間の色が濃くなる順に、見ていきます。最初は、公共組合です。特別の法律に基づいて、公共の事業のために、一定の人を組合員として組織する法人です。土地区画整理組合、土地改良区、健康保険組合が例です。特色は4つです。強制加入、国の監督、業務に公権力性があること、組合費の強制徴収です。

公共組合の強制加入(土地区画整理組合=施行地区内の宅地の所有者・借地権者は全員組合員/設立=7人以上が共同して定款・事業計画を定め都道府県知事の認可/4つの特色=強制加入・国の監督・公権力性・強制徴収/最判昭60・12・17=設立認可は処分) 図:公共組合の強制加入

  • 土地区画整理組合=施行地区内の宅地の所有者・借地権者は全員組合員
  • 設立=7人以上が共同して定款・事業計画を定め都道府県知事の認可
  • 4つの特色=強制加入・国の監督・公権力性・強制徴収
  • 最判昭60・12・17=設立認可は処分

土地区画整理組合で見ます。土地区画整理事業とは、道路や公園を整えながら、土地の区画を整理し直す事業です。その組合を設立するには、7人以上が共同して、都道府県知事の認可を受けます。そして、条文はこう定めます。

条文土地区画整理法25条1項

土地区画整理法第25条第1項 組合が施行する土地区画整理事業に係る施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、すべてその組合の組合員とする。

骨格は、施行地区の宅地の所有者と借地権者は、全員、組合員になる、です。入りたくなくても、組合員になります。結社の自由、つまり、団体に入るか入らないかを自分で決める自由を、押さえ込む形です。それが許されるのは、公共の事業のために、法律そのものが強制加入を定めているからです。この点を、最高裁も述べています。組合の設立の認可は、施行地区の宅地の所有者などを、すべて強制的にその組合員とする公法上の法人を成立させ、事業を施行する権限を与える効力がある、だから、抗告訴訟、つまり、取消訴訟などの、行政の処分を争う訴えの対象となる処分だ、と判断しました。組合の設立の効力を争った事件です。処分かどうかの詳しい話は、別の回で扱います。ここでは、公共組合は、強制的に組合員をつくる法人だ、と確認できれば十分です。次は、特殊法人です。法律によって直接設立された法人、または、特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人のうち、次に見る独立行政法人を除いたものです。特別の設立行為とは、たとえば、国が設立委員を任命して、その委員に設立の手続を進めさせるような、国の側が主導する設立のやり方です。民間が自分から発起するのとは違います。かつては、日本国有鉄道や日本電信電話公社のように、国の事業を担う特殊法人がありました。のちに民営化などで姿を変えています。今の例は、NHKこと日本放送協会や、日本中央競馬会です。

最近の実例があります。日本学術会議は、2026年10月1日から特殊法人になりました。日本学術会議法3条は、会議は、法人とする、と定めます。以前は、国の機関でした。機関が、法人になったわけです。先ほどの、機関と法人の区別が、そのまま現代の出来事になっています。

独立行政法人(国の行政組織のうち政策の実施部分を切り離して法人格を与える/企画立案と実施の分離/通則法2条1項の3要素=①公共上の見地から確実に実施される必要がある事務・事業②国が自ら主体となって直接実施する必要がない③民間に委ねると実施されないおそれ又は一の主体に独占して行わせる必要/3類型=中期目標管理法人・国立研究開発法人・行政執行法人/国立大学法人・地方独立行政法人は別の法律) 図:独立行政法人

  • 国の行政組織のうち政策の実施部分を切り離して法人格を与える
  • 企画立案と実施の分離
  • 通則法2条1項の3要素=①公共上の見地から確実に実施される必要がある事務・事業②国が自ら主体となって直接実施する必要がない③民間に委ねると実施されないおそれ又は一の主体に独占して行わせる必要
  • 3類型=中期目標管理法人・国立研究開発法人・行政執行法人
  • 国立大学法人・地方独立行政法人は別の法律

次は、独立行政法人です。国の行政組織のうち、政策を実施する部分を切り離して、独立の法人格を与えたものです。政策の企画立案は国、実施は法人、と分ける発想です。通則法の定義を、板に出します。

条文独立行政法人通則法2条1項

独立行政法人通則法第2条第1項 この法律において「独立行政法人」とは、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるもの(以下この条において「公共上の事務等」という。)を効果的かつ効率的に行わせるため、中期目標管理法人、国立研究開発法人又は行政執行法人として、この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人をいう。

長い条文ですから、骨格だけです。1つ、公共上の見地から確実に実施される必要がある事務と事業であること。2つ、国が自ら直接実施する必要がないこと。3つ、民間に任せると実施されないおそれがあるか、1つの主体に独占して行わせる必要があること。この3つです。3つ目が要です。民営化は、事業を株式会社に移して、国は経営から手を引きます。独立行政法人は、法人にしても、主務大臣が目標を示して、その達成ぶりを評価します。民間に任せると実施されないおそれがある仕事だから、国の目的のもとに置き続けるのです。もうかるから任せる、という話ではありません。種類は3つあります。中期目標管理法人、国立研究開発法人、行政執行法人です。通則法の2条2項から4項に定義があります。自主性を発揮して、中期的に運営する法人。研究開発を、中長期的に行う法人。国の関与のもとで、確実に執行する法人。名前と一言ずつを、押さえてください。共通のルールは通則法、個別の法人は、それぞれの設立法に定められています。国立大学は別です。学問の自由と大学の自治に配慮して、通則法とは別の、国立大学法人という類型になっています。国立大学法人法2条1項は、国立大学を設置することを目的として、この法律の定めるところにより設立される法人を、国立大学法人という、と定めます。自治体が設立する法人は、地方独立行政法人といい、地方独立行政法人法に定めがあります。ここで1問です。国立印刷局、国立大学、NHK、JR東日本のうち、通則法の独立行政法人はどれでしょうか。

国立印刷局だけだと思います。国立大学は国立大学法人で、NHKは特殊法人です。JR東日本は株式会社です。国立印刷局は、行政執行法人です。判断の根拠は、それぞれの設立の法律でした。

認可法人・指定法人・登録法人(認可法人=特別の法律に基づき民間人が発起人となって自主的に設立・設立に行政庁の認可〔日本銀行・日本赤十字社・預金保険機構〕/特殊法人との違い=特別の設立行為が要るか/指定法人=行政庁が指定した私法上の法人〔指定確認検査機関〕/登録法人=行政庁の登録を受けた法人に公共性のある事務を委ねる) 図:認可法人・指定法人・登録法人

  • 認可法人=特別の法律に基づき民間人が発起人となって自主的に設立・設立に行政庁の認可〔日本銀行・日本赤十字社・預金保険機構〕
  • 特殊法人との違い=特別の設立行為が要るか
  • 指定法人=行政庁が指定した私法上の法人〔指定確認検査機関〕
  • 登録法人=行政庁の登録を受けた法人に公共性のある事務を委ねる

次は、認可法人です。特別の法律に基づきますが、民間の人が発起人になって、自主的に設立します。そして、設立のときに、行政庁の認可が要ります。日本銀行、日本赤十字社、預金保険機構が例です。特殊法人との違いを確認します。特殊法人は、法律が直接つくるか、特別の設立行為でつくります。認可法人は、民間が発起して、認可を受けてつくります。違いは、特別の設立行為が要るか、民間の発起と認可か、です。一番外側にいるのが、指定法人と登録法人です。指定法人は、特別の法律に基づいて、試験、検査、検定、登録などの特定の業務を行う者として、行政庁に指定された、私法上の法人です。登録法人は、法律に基づいて行政庁の登録を受け、その法律の定める公共性のある事務を担う法人です。冒頭の会社が、この指定法人の一種です。指定確認検査機関といいます。条文を見ます。

条文建築基準法6条の2第1項

建築基準法第6条の2第1項 前条第一項各号に掲げる建築物の計画(前条第三項各号のいずれかに該当するものを除く。)が建築基準関係規定に適合するものであることについて、第七十七条の十八から第七十七条の二十一までの規定の定めるところにより国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者の確認を受け、国土交通省令で定めるところにより確認済証の交付を受けたときは、当該確認は前条第一項の規定による確認と、当該確認済証は同項の確認済証とみなす。

骨格は、国土交通大臣や知事が指定した者の確認を受けて、確認済証の交付を受けたときは、それを、行政庁の確認と同じものとみなす、です。民間の会社なのに、建築確認という、行政の判断をする権限を持っています。

法人の類型の比較表(公共組合=特別の法律・強制加入あり/特殊法人=法律で直接又は特別の設立行為/独立行政法人=通則法と個別法で設立・国立大学法人・地方独立行政法人は別法/認可法人=民間が発起し行政庁が認可/指定法人=既存の私法上の法人を行政庁が指定/登録法人=行政庁に登録/暗記する列=設立の仕方) 図:法人の類型の比較表

  • 公共組合=特別の法律・強制加入あり
  • 特殊法人=法律で直接又は特別の設立行為
  • 独立行政法人=通則法と個別法で設立・国立大学法人・地方独立行政法人は別法
  • 認可法人=民間が発起し行政庁が認可
  • 指定法人=既存の私法上の法人を行政庁が指定
  • 登録法人=行政庁に登録
  • 暗記する列=設立の仕方

比較表にまとめます。暗記する列は、設立の仕方です。公共組合は、特別の法律で、強制加入です。特殊法人は、法律が直接か、特別の設立行為です。独立行政法人は、通則法と個別法です。認可法人は、民間の発起と認可です。指定法人は、既にある法人を指定します。登録法人は、登録です。外側に行くほど、民間の色が濃くなります。残りの2つの物差しは、見分けの補助です。私人に強制できるのは、強制加入と強制徴収を持つ公共組合。公権力の行使を担うのは、建築確認をする指定確認検査機関のように、法律が権限を渡した法人です。

法人が違うと何が変わるか 4つの扱い

4つの扱い(①監督の手段としての認可は内部の行為か=処分ではない/②行政手続法の適用除外/③処分をした行政庁自身が被告/④情報公開の対象法律が違う) 図:4つの扱い

  • ①監督の手段としての認可は内部の行為か=処分ではない
  • ②行政手続法の適用除外
  • ③処分をした行政庁自身が被告
  • ④情報公開の対象法律が違う

行政主体として扱われる法人は、民間の会社や団体と、違う扱いを受けます。4点を、順に見ます。その前に、1問考えてください。さきほどの会社が、建築確認を断りました。取消しを求める訴えの被告は、国と市と会社の、どれでしょうか。答えは、3つ目で出します。1つ目は、国と法人の監督の関係は、内部の行為か、です。事案です。新幹線の工事を担う特殊法人、当時の日本鉄道建設公団が、工事実施計画を作りました。所管の大臣が、全国新幹線鉄道整備法9条1項に基づいて、これを認可しました。この認可の取消しを求めて、訴えが起こされました。

新幹線の工事実施計画の認可(A=運輸大臣〔上級行政機関〕/B=日本鉄道建設公団〔下級行政機関=特殊法人〕/C=認可の取消しを求めた人々/A→B=認可〔監督手段〕は「内部」の枠の中/C→認可の取消しを求める線は内部に届かない) 図:新幹線の工事実施計画の認可

  • A=運輸大臣〔上級行政機関〕
  • B=日本鉄道建設公団〔下級行政機関=特殊法人〕
  • C=認可の取消しを求めた人々
  • A→B=認可〔監督手段〕は「内部」の枠の中
  • C→認可の取消しを求める線は内部に届かない

最高裁は、こう言いました。

判例最判昭53・12・8 民集32巻9号1617頁

新幹線の工事実施計画の認可 本件認可は、いわば上級行政機関としての運輸大臣が下級行政機関としてのD建設公団に対しその作成した本件工事実施計画の整備計画との整合性等を審査してなす監督手段としての承認の性質を有するもので、行政機関相互の行為と同視すべきものであり、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、また、これによつて直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

判決は、大臣を上級の機関、公団を下級の機関のように扱いました。公団は、別の法人ですが、鉄道を建設させるために、国が法律でつくった特殊法人で、計画にも、大臣の認可が要ります。そこで、大臣と公団のあいだの認可を、行政機関どうしの行為と同じに見たのです。決め手は、認可が、監督の手段としての承認で、外部に対する効力が無く、直接、国民の権利義務を決めるものでもない、という点です。取消訴訟で争える処分ではない、という結論です。同じ認可でも、区画整理組合の設立の認可は処分で、新幹線の計画の認可は処分ではありません。分かれ目は、認可が、誰に効くかです。組合の設立の認可は、反対する土地の所有者まで、組合員にしてしまいます。私人の権利義務が、直接変わります。新幹線の計画の認可は、大臣と公団の間で、計画を確かめるだけで、住民の権利義務は、まだ何も決まりません。認可が私人に直接効くかどうかで、結論が分かれたのです。ここで、先ほどの内部法と外部法が効きます。この認可は、内部法の側の行為だ、ということです。ただし、独立の法人格を与えた以上、国との関係にも、公正さと透明性が求められるはずだ、という批判があります。機関どうしの行為の処分性は、別の回で整理します。なお、判決当時の運輸大臣は、今は国土交通大臣です。公団も、のちに解散して、業務は独立行政法人に引き継がれました。2つ目は、行政手続法の適用除外です。条文は、4条の2項と3項です。まず2項です。

条文行政手続法4条2項

行政手続法第4条第2項 2 次の各号のいずれかに該当する法人に対する処分であって、当該法人の監督に関する法律の特別の規定に基づいてされるもの(当該法人の解散を命じ、若しくは設立に関する認可を取り消す処分又は当該法人の役員若しくは当該法人の業務に従事する者の解任を命ずる処分を除く。)については、次章及び第三章の規定は、適用しない。  一 法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人  二 特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政庁の認可を要する法人のうち、その行う業務が国又は地方公共団体の行政運営と密接な関連を有するものとして政令で定める法人

続けて、3項です。

条文行政手続法4条3項

行政手続法第4条第3項 3 行政庁が法律の規定に基づく試験、検査、検定、登録その他の行政上の事務について当該法律に基づきその全部又は一部を行わせる者を指定した場合において、その指定を受けた者(その者が法人である場合にあっては、その役員)又は職員その他の者が当該事務に従事することに関し公務に従事する職員とみなされるときは、その指定を受けた者に対し当該法律に基づいて当該事務に関し監督上される処分(当該指定を取り消す処分、その指定を受けた者が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる処分又はその指定を受けた者の当該事務に従事する者の解任を命ずる処分を除く。)については、次章及び第三章の規定は、適用しない。

骨格は、本則から読みます。法人に対する、監督のための処分は、申請に対する処分の章と、相手に、直接、義務を課したり、権利を制限したりする、不利益処分の章の規定を、適用しない。次に、括弧書きです。解散、認可の取消し、役員の解任は、除外の除外で、手続法が適用されます。3項は、指定を受けて、公務に従事する職員とみなされる者の、監督処分で、指定の取消しを除いて、同じ扱いです。つまずきやすい点があります。除外されるのは、法人に対する、監督に関する法律の特別の規定に基づく処分だけです。法人が申請者として許可を求めるような、通常の場面は、除外されません。趣旨は、1点目と同じで、国と法人の監督関係を内部の関係と見る考え方です。これにも、透明性の面から、疑問が出されています。手続法の適用除外の全体は、別の回で扱います。3つ目です。先ほどの問いに戻ります。まず、条文を確認します。

条文行政事件訴訟法11条2項

行政事件訴訟法第11条第2項 処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属しない場合には、取消訴訟は、当該行政庁を被告として提起しなければならない。

全文を読みます。処分をした行政庁が、国や公共団体に所属しないときは、取消訴訟は、その行政庁を被告にする、です。1項は、行政庁が国や公共団体に所属するなら、国や公共団体が被告になる、という定めです。行政庁とは何かは、次の回で扱います。ここでは、処分をした主体だと思ってください。

被告は誰か(A=建築主/B=指定確認検査機関〔建築確認の処分については行政庁として扱われる〕/C=市/D=国/A→B=取消訴訟〔実線〕/C・Dには矢印を引かない/行訴法11条2項) 図:被告は誰か

  • A=建築主
  • B=指定確認検査機関〔建築確認の処分については行政庁として扱われる〕
  • C=市
  • D=国
  • A→B=取消訴訟〔実線〕
  • C・Dには矢印を引かない
  • 行訴法11条2項

指定確認検査機関は、民間の会社ですが、建築確認については、行政庁として扱われます。そして、国にも市にも所属していません。国や市の中の役所ではなく、大臣や知事から指定を受けた、民間の会社そのものだからです。だから、建築確認の拒否の取消訴訟の被告は、その会社になります。国でも市でもありません。被告の定め方の詳しい話は、別の回で扱います。4つ目は、情報公開です。国の行政機関が持つ情報は、行政機関情報公開法の対象です。これに対し、独立行政法人と、別表第一に挙がった特殊法人や認可法人などが持つ情報は、別の法律、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律の対象で、国の機関の情報とほぼ同じ扱いになります。その2条1項を、全文で見ます。

条文独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律2条1項

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律第2条第1項 この法律において「独立行政法人等」とは、独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人及び別表第一に掲げる法人をいう。

独立行政法人等とは、通則法の独立行政法人と、別表第一に掲げる法人です。別表第一には、日本銀行、日本中央競馬会、そして日本学術会議などが並んでいます。日本学術会議は、国の機関だった時は行政機関情報公開法、法人になった今は、こちらの法律の対象です。法人になっても、情報公開から外れるわけではありません。国の仕事を担う法人は、国と同じように、国民に説明する責任を負うからです。変わるのは、どの法律で、誰に請求するかです。国の機関の情報は、その行政機関の長に、法人の情報は、その法人自身に、開示を請求します。開示制度の中身は、別の回で扱います。

4つの扱いの整理(①監督=監督の手段としての認可は内部の行為〔最判昭53・12・8〕②手続=監督処分は行手法の第2章・第3章を適用しない〔4条2項・3項〕③被告=処分をした行政庁が国・公共団体に所属しなければ行政庁自身〔行訴法11条2項〕④情報公開=国の機関は行政機関情報公開法・独立行政法人等は独法等情報公開法〔2条1項〕) 図:4つの扱いの整理

4点を整理します。1つ目、監督の手段としての認可は、内部の行為で、処分ではありません。2つ目、監督処分には、手続法の2つの章が適用されない。3つ目、処分をした行政庁自身が、被告になる。4つ目、情報公開は、別の法律の対象になる。1つ目と3つ目が、特に重要です。

今日のまとめ

今日のまとめ(①法人=権利義務の帰属先/機関=動く地位/行政主体=行政上の権利義務を負い自己の名と責任で行政活動を行う法人 ②統治団体=国と地方公共団体/外側の法人=設立の仕方で見分ける ③法人で変わる4点=監督・手続・被告・情報公開) 図:今日のまとめ

  • ①法人=権利義務の帰属先/機関=動く地位/行政主体=行政上の権利義務を負い自己の名と責任で行政活動を行う法人
  • ②統治団体=国と地方公共団体/外側の法人=設立の仕方で見分ける
  • ③法人で変わる4点=監督・手続・被告・情報公開

冒頭に戻ります。Aさんに届いた通知書の差出人は、民間の株式会社でした。この会社は、建築基準法に基づいて、国土交通大臣や知事に指定された、指定確認検査機関です。会社の確認は、法律によって、行政庁の確認とみなされます。だから、拒否は、会社が、行政庁としておこなった処分です。取消訴訟の被告は、その会社です。国でも、市でもありません。持ち帰りは3つです。1つ目。権利義務の帰属先が法人で、実際に動くのが機関。行政主体は、行政上の権利義務を負い、自己の名と責任で行政活動を行う法人です。2つ目。国と自治体の外側の法人は、設立の仕方で見分ける。3つ目。法人が違うと、監督、手続、被告、情報公開の4点が変わる。

法人のために意思を決める機関がどう分かれているかは、次の回で扱います。機関のうち、処分をする者を、行政庁と呼びます。行政機関の種類と、役割を見ていきます。

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#22単独ページ動画

行政機関とは何か

第2章 行政組織法 ㉒/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

市長名の命令書

市長名の命令書(A=建築主〔物置を建てた〕/B=市長〔差出人欄の名義人〕/C=担当課の職員〔起案・決裁をした〕/D=市/C→B=起案・決裁/B→A=施工停止の命令書/問い=この命令は誰がしたことになるのか) 図:市長名の命令書

  • A=建築主〔物置を建てた〕
  • B=市長〔差出人欄の名義人〕
  • C=担当課の職員〔起案・決裁をした〕
  • D=市
  • C→B=起案・決裁
  • B→A=施工停止の命令書
  • 問い=この命令は誰がしたことになるのか

Aさんが、敷地に物置を建てました。ところが、これが建築基準法の基準に違反していました。そこへ、市から命令書が届きます。工事の施工を停止せよ、という命令です。差出人の欄には、「なになに市長」と書いてあります。なお、この市は、建築主事、つまり建築確認を担当する専門の職員を置く市とします。不審に思ったAさんが、市役所で事情を聞くと、書類を作ったのは担当課の係員でした。課長と部長が決裁をして、市長は、命令書の中身を見てもいません。しかも、市長は、先月の選挙で交代したばかりです。市長が見てもいない命令なのに、市長の名前で届くんですか。そこが今日の出発点です。この命令は、誰がしたことになるのか。市長が替わったら、命令は消えるのか。争うなら、書類を作った係員を相手にするのか。この3つを、順に解いていきます。前の回で、行政をするのは法人で、法人のために意思を決めて動くのが機関だ、と見ました。今日は、その機関がどう分かれていて、命令を出す者はどこにいるのかを見ます。これまで、役所くらいの意味で何気なく使ってきた、行政機関という言葉も、今日、きちんと定義します。今日の1問です。処分をするのは、法人の中の誰なのか。答えを先に言うと、条文が主語に置いた地位、行政庁です。そして、行政機関という言葉は、実は2つの意味で使われています。命令書の問いは、最後に回収します。3つの問いを、板に出します。

行政機関の3つの問い(①組織の編成は法律で決めるのか=官制大権から65条・73条6号へ/②機関はどう分かれ、処分をするのは誰か=行政庁・補助機関・諮問機関・参与機関・執行機関/③「行政機関」という語は何を指すか=作用法的と事務配分的) 図:行政機関の3つの問い

  • ①組織の編成は法律で決めるのか=官制大権から65条・73条6号へ
  • ②機関はどう分かれ、処分をするのは誰か=行政庁・補助機関・諮問機関・参与機関・執行機関
  • ③「行政機関」という語は何を指すか=作用法的と事務配分的

1つ目は、役所の組織の作り方を、法律で決めるのか。2つ目は、機関はどう分かれて、処分をするのは誰か。3つ目は、行政機関という言葉は、何を指すのか。この順で見ていきます。

組織の編成と法律

組織の編成と法律(明治憲法10条=官制大権〔天皇が行政各部の官制を定める〕→日本国憲法で消滅/憲法は編成権の所在を明言せず→65条〔行政権は内閣に属する〕・73条6号〔政令の制定〕で法律事項と政令事項の振り分けが解釈問題/法治主義説・民主的統治構造説/どちらも細部は行政に委ねてよい) 図:組織の編成と法律

  • 明治憲法10条=官制大権〔天皇が行政各部の官制を定める〕→日本国憲法で消滅
  • 憲法は編成権の所在を明言せず→65条〔行政権は内閣に属する〕・73条6号〔政令の制定〕で法律事項と政令事項の振り分けが解釈問題
  • 法治主義説・民主的統治構造説
  • どちらも細部は行政に委ねてよい

最初に、組織を、誰がどう決めるのかを掘り下げます。その前に1問です。以前、組織の定めのうち、憲法が、法律で定めると書いている組織は、何と何でしたか?内閣と、会計検査院でした。その上で、そのほかの役所の組織は、法律で決めなければならないのか、という問題が残ります。そこで、主な組織は法律で定めるのが望ましい、と言いました。今日は、その中身を見ます。昔の憲法、明治憲法の10条は、行政各部の官制、つまり役所の組織を定める権限を、天皇に与えていました。これを、官制大権といいます。役所の編成は、法律ではなく天皇が決める。国民の権利や利益とは関係がないので、行政の側が、自分で決めてよい、という考え方です。日本国憲法では、この官制大権は、なくなりました。ところが、新しい憲法は、行政組織を誰がどう決めるのか、はっきりとは書いていません。手がかりは、2つの条文です。まず、65条です。

条文日本国憲法65条

日本国憲法第65条 行政権は、内閣に属する。

次に、73条です。柱書と6号を読みます。

条文日本国憲法73条(柱書・6号)

日本国憲法第73条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。  六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

行政権は内閣のもの。内閣は、法律を実施するために政令を作れる。そうすると、役所の組織の編成は、法律で決める事項なのか、それとも内閣が政令で決めてよい事項なのか。この振り分けが、解釈の問題として残ります。

2つの考え方(法治主義説=法律による行政の原理を組織にも当てる/民主的統治構造説=41条・国会が中心→編成権も国会/結論は近い=細部は行政へ) 図:2つの考え方

  • 法治主義説=法律による行政の原理を組織にも当てる
  • 民主的統治構造説=41条・国会が中心→編成権も国会
  • 結論は近い=細部は行政へ

考え方は2つあります。1つ目は、法治主義説です。官制大権がなくなった以上、役所の組織を決めるときにも、法治主義、つまり前に見た法律による行政の原理が、そのまま当てはまる。国民との間の法律関係に影響する権限をもつ機関を置いたり廃止したりするのは、法律で、という考え方です。2つ目は、民主的統治構造説です。憲法41条は、国会を、国権の最高機関で、国の唯一の立法機関としています。国の仕組みの中心が国会なら、行政組織の骨組みを決める権限も、国会にある。前に、41条の立法に組織の定めも含まれるとする見解がある、と触れたのは、この方向の考え方です。組織を決める規範も、原則として法律で定める。今は、こちらの考え方が有力です。

2つの説は、理由は違いますが、結論は近いです。どちらの説でも、組織の細部まで、全部を法律で決めるわけではありません。細かい部分は、行政が自分で決めてよい。ここが暗記の中心です。

法律と政令の振り分け(省・委員会・庁の設置廃止=法律〔国組法3条2項〕/官房・局・部・課の設置と所掌=原則として政令〔国組法7条〕/なぜ=組織の手直しのたびに国会の議決では追いつかない) 図:法律と政令の振り分け

  • 省・委員会・庁の設置廃止=法律〔国組法3条2項〕
  • 官房・局・部・課の設置と所掌=原則として政令〔国組法7条〕
  • なぜ=組織の手直しのたびに国会の議決では追いつかない

実際の法律を、1行だけ見ます。省と、委員会と、庁の設置と廃止は、法律で決めます。これに対して、官房、局、部、そしてその下の課の設置と、それぞれの仕事の範囲は、原則として政令で決めます。国家行政組織法の3条2項と7条の振り分けです。中身は、国の組織の回で見ます。ここで1問です。省の内部に課を新設するのに、個別の法律の改正は要るでしょうか。課は細かい単位だから、法律を変えなくても、政令でいいのかなと思います。省の設置は法律ですが、内部の課の設置は、原則として政令で定められます。なぜ細部は任せてよいのか。省の中の課を1つ作り直すたびに国会の議決が要るとしたら、仕事の変化に追いつけません。国民の権利に響く骨組みを国会が決めておけば、民主的な統制としては足りる、という考え方です。つまずきやすい区別があります。今日の話は、役所の組織を、誰が決めるかです。これに対して、国民の権利を制限する行政活動には、法律の根拠が要る、という話がありました。法律の留保です。組織の定めを法律でするかということと、活動に法律の根拠が要るかということは、別の問題です。

行政機関と行政庁

行政機関と機関の分類(行政機関=行政主体の内部組織を構成する基礎単位〔権限の範囲内の行為の効果は行政主体に帰属〕/機関は地位であって人ではない/行政庁を中心に、補助機関・諮問機関〔拘束するなら参与機関〕・執行機関を配置) 図:行政機関と機関の分類

  • 行政機関=行政主体の内部組織を構成する基礎単位〔権限の範囲内の行為の効果は行政主体に帰属〕
  • 機関は地位であって人ではない
  • 行政庁を中心に、補助機関・諮問機関〔拘束するなら参与機関〕・執行機関を配置

ここから、本題の機関です。まず、行政機関を定義します。行政機関とは、行政主体の内部の組織を構成する、基礎になる単位のことです。行政主体は、法人という、頭の中で考えられた存在です。実際に動くことはできません。そこで、権限を割り振られた単位、つまり機関が動きます。そして、機関が権限の範囲内でした行為の効果は、行政主体に帰属します。大事なのは、機関は地位であって、そこに座る人ではない、という点です。冒頭の、市長が交代した件に答えます。市長が替わっても、前の市長が出した命令の効力は、変わりません。市長という機関は同じで、座る人が替わっただけだからです。会社の契約書で考えると分かりやすいです。担当者が替わっても、契約は会社のものとして続きます。機関には、役割による分け方があります。行政法の中心の課題は、国が私人に対してする行政作用、とりわけ行政処分を、法的に捉えることです。だから、処分をする機関を真ん中に置いて、その周りに、ほかの機関を並べる見方をとります。真ん中に置かれるのが、行政庁です。行政庁とは、行政主体のために意思を決定して、それを外部に表示する権限をもつ機関のことです。暗記する定義です。私人に対して、法律行為、とりわけ行政処分を、自分の名で行う権限を与えられた機関ともいえます。各省の大臣、都道府県知事、市町村長が典型です。

実際の事務は、多数の職員が行います。大臣や知事は、最後に確認をするだけ、ということも多いです。それでも、法律の上では、処分をしたのは行政庁です。ここが、一番つまずきやすいところです。その見分け方を教えます。条文の主語を見る、です。法律は、国と私人の関係を単純にするために、組織全体ではなく、1つの点を主語に置きます。その主語が、行政庁です。この読み方は、被告を決めるときや、処分の主体を特定するときに使います。ここは、論文でも論点になりうる部分です。では、前に主語・要件・効果に色分けして読んだ条文で練習します。

条文の主語を見て行政庁を特定する(建築基準法9条1項〔特定行政庁は、…命ずることができる〕=独任制/建築基準法2条35号〔建築主事を置く市町村ではその長・その他の市町村では都道府県知事〕/道路交通法84条1項〔公安委員会の運転免許〕=合議制・警察法38条2項〔5人または3人の委員〕/建築基準法6条1項〔建築主事等の確認〕=独任制) 図:条文の主語を見て行政庁を特定する

  • 建築基準法9条1項〔特定行政庁は、…命ずることができる〕=独任制
  • 建築基準法2条35号〔建築主事を置く市町村ではその長・その他の市町村では都道府県知事〕
  • 道路交通法84条1項〔公安委員会の運転免許〕=合議制・警察法38条2項〔5人または3人の委員〕
  • 建築基準法6条1項〔建築主事等の確認〕=独任制

1つ目は、建築基準法9条1項です。違反した建築物について、工事の施工の停止を命じることができる者は、特定行政庁、と書いてあります。この特定行政庁が、まさに行政庁です。建築主事を置く市町村では、その長が特定行政庁で、置かない町村では、都道府県知事です。冒頭の「なになに市長」は、これに当たります。2つ目は、運転免許です。条文を読みます。

条文道路交通法84条1項

道路交通法第84条第1項 自動車及び一般原動機付自転車(以下「自動車等」という。)を運転しようとする者は、公安委員会の運転免許(以下「免許」という。)を受けなければならない。

免許を与える主語は、公安委員会です。これも行政庁です。ただし、大臣や市長と違って、単独で決めるのではありません。警察法38条2項で、都道府県の公安委員会は、5人または3人の委員で組織されます。ここで、2つの型が出てきました。1人で担う型を、独任制といいます。大臣、知事、市町村長が、これです。複数の人が合議して、1つの行為をする型を、合議制といいます。公安委員会が、これです。合議制でも、実際の事務をこなすのは職員で、その点は同じです。3つ目は、建築確認です。建築基準法6条1項は、建築主事、または建築副主事の確認、と定めています。ここでは、職員が主語になっています。職員の多くは、次に見る補助機関です。しかし、法律が確認の権限を直接与えているなら、その職そのものが行政庁です。建築主事は、市町村の長が命ずる職員で、4条6項に定めがあります。

委員会という名前がついていれば、行政庁と考えてよいのですか。違います。名前では決まりません。委員会でも、自分の名で処分をする、合議制の行政庁があります。公安委員会です。一方、意見を述べるだけの機関もあります。審議会がそうです。名前ではなく、権限の中身、つまり、処分をするのか、意見を述べるのか、で見分けます。地方公共団体の側も、見ておきます。地方自治法の138条の4第1項は、普通地方公共団体には、執行機関として、長のほか、法律の定めるところにより、委員会または委員を置く、と定めています。この執行機関は、自治法での呼び名です。このうち処分の権限をもつものは、作用法の意味では、行政庁に当たります。教育委員会や選挙管理委員会が例です。種類と組織の中身は、地方の回で扱います。最後に1つだけ。行政庁になれるのは、人や合議体だけではありません。法人が行政庁になる例も、わずかにあります。たとえば、弁護士会が、弁護士に懲戒処分をする場合です。前回、指定確認検査機関が、建築確認では行政庁として扱われる、と見ました。同じ型の話です。このときは、弁護士会という法人そのものが、法律から処分の権限を直接与えられて、行政庁の席に座っている、と考えます。ここまでをまとめます。処分をするのは、条文が主語に置いた者、つまり行政庁です。多くは、法人の中の地位です。人でも、名前でもなく、条文の主語で見つけます。

補助機関と執行機関

補助機関と執行機関(補助機関=行政庁の意思決定を補助する機関〔職員の多く・副知事・副市町村長〕外部に対して自分の名で処分する権限はもたない/執行機関=実力行使を担う機関〔警察官・消防職員・徴税職員・自衛官・海上保安官〕/自治法上の「執行機関」とは別の意味) 図:補助機関と執行機関

  • 補助機関=行政庁の意思決定を補助する機関〔職員の多く・副知事・副市町村長〕外部に対して自分の名で処分する権限はもたない
  • 執行機関=実力行使を担う機関〔警察官・消防職員・徴税職員・自衛官・海上保安官〕
  • 自治法上の「執行機関」とは別の意味

行政庁の周りの機関に入ります。まず、補助機関です。補助機関とは、行政庁の意思の決定を補助する任務をもつ機関のことです。中央省庁や、県庁、市役所で働く職員の多くが、これに当たります。副知事や副市町村長も、補助機関です。地方自治法の167条1項には、「補助機関である職員」という言葉が、そのまま出てきます。補助機関は、行政庁の指揮と監督を受けながら、行政庁が権限を使うのを助けます。そして、外部に対して、自分の名で処分をする権限はもちません。冒頭の係員、課長、部長は、ここに入ります。ここで、冒頭の3つ目の問いに、先に半分答えておきます。争う相手は、書類を作った係員ではありません。係員は補助機関で、処分をする権限をもっていないからです。命令書は、市長という行政庁の処分として外に出ていて、その効果は、さきほど見たとおり、行政主体である市に帰属します。争う対象は、係員の作業ではなく、市長の処分なのです。誰を被告にするかは、最後に回収します。補助機関が決裁をしても、行政庁の名前で外に出る。この仕組みと、権限そのものを移す委任との違いは、次の回で扱います。次は、執行機関です。執行機関とは、実力を行使する機関です。警察官、消防職員、税金を取り立てる徴税職員、自衛官、海上保安官などです。代執行、直接強制、即時強制といった、実力の行使を担当します。直接強制は、義務を守らない人の体や物に、直接、力を加えること。即時強制は、義務を課す時間もない急場で、いきなり実力を使うことです。

ここに注意が1つあります。同じ執行機関という言葉でも、地方自治法の執行機関とは、別の意味です。自治法の執行機関は、長、委員会、委員のことで、138条の4第1項に出てきたとおりです。これは、今日の分類では、多くが行政庁に当たります。今日の執行機関は、実力行使をする機関の意味で、別の言葉です。ここで1問です。市の税務課の職員、市長、税の滞納処分で差押えに赴く徴税職員は、それぞれ何機関でしょうか。税務課の職員は補助機関で、市長は行政庁です。差押えに行く人は、実力を使うので、執行機関だと思います。同じ市役所の中でも、役割によって、機関の種類が分かれます。

諮問機関と参与機関

諮問機関と参与機関(A=行政庁/B=審議会/C=私人/A→B=諮問/B→A=答申〔拘束しない=諮問機関〕/同意・議決の場合 B→A=拘束する=参与機関/区別の基準は拘束力の有無) 図:諮問機関と参与機関

  • A=行政庁
  • B=審議会
  • C=私人
  • A→B=諮問
  • B→A=答申〔拘束しない=諮問機関〕
  • 同意・議決の場合 B→A=拘束する=参与機関
  • 区別の基準は拘束力の有無

ここで、また1問です。以前、審議会に諮問を経ても、処分が違法になりうるのは、どんなときだったか、覚えていますか?審議のやり方や答申に、重大な問題があったときでした。今日は、審議会という機関の位置づけを整理します。諮問機関とは、審議会や調査会のように、行政庁の諮問に応じて、意見を述べる機関です。意見は、行政庁を拘束しません。これに対して、参与機関とは、行政庁の意思の決定を拘束する、議決や同意を行う機関です。区別の基準は、拘束力の有無です。暗記してください。会社で考えると、契約を結ぶ権限をもつ部長が行政庁です。「念のため法務部に相談しておこう」の法務部が諮問機関で、意見を聞いても、従うかどうかは部長が決めます。社内の規則で「法務部の承認がなければ契約できない」となっていれば、法務部は部長を縛るので、参与機関です。

同じ審議会なのに、拘束するものとしないものがあるんですか。あります。同じ機関でも、扱う事務によって、諮問機関にも参与機関にもなります。たとえば、電波監理審議会です。審査請求の裁決をするときは、審議会の議決が、総務大臣を拘束します。条文はこうです。

条文電波法94条1項

電波法第94条第1項 総務大臣は、第九十三条の四の議決があつたときは、その議決の日から七日以内に、その議決により審査請求についての裁決をする。

総務大臣は、議決によって裁決をします。議決に従うしかないので、この場面の審議会は、参与機関です。一方、99条の11に定める事項では、総務大臣は審議会に諮問しますが、その答えに縛られません。同じ審議会でも、こちらは、諮問機関です。

建築審査会の2つの役割(建築基準法78条1項=①同意と審査請求の裁決の議決〔参与機関〕②特定行政庁の諮問に応じて重要事項を調査審議〔諮問機関〕/48条15項=特例許可は建築審査会の同意が要る〔原則・16項に例外〕) 図:建築審査会の2つの役割

  • 建築基準法78条1項=①同意と審査請求の裁決の議決〔参与機関〕②特定行政庁の諮問に応じて重要事項を調査審議〔諮問機関〕
  • 48条15項=特例許可は建築審査会の同意が要る〔原則・16項に例外〕

もっと身近な例が、建築審査会です。建築基準法の78条1項を読みます。

条文建築基準法78条1項

建築基準法第78条第1項 この法律に規定する同意及び第九十四条第一項前段の審査請求に対する裁決についての議決を行わせるとともに、特定行政庁の諮問に応じて、この法律の施行に関する重要事項を調査審議させるために、建築主事を置く市町村及び都道府県に、建築審査会を置く。

条文の中に、2つの役割が入っています。1つ目は、同意と、審査請求の裁決についての議決を行う役割です。これは、参与機関です。2つ目は、特定行政庁の諮問に応じて、重要事項を調査審議する役割です。これは、諮問機関です。同意の例を、もう1つ見ます。建築基準法の48条15項です。

条文建築基準法48条15項

建築基準法第48条第15項 特定行政庁は、前各項のただし書の規定による許可(次項において「特例許可」という。)をする場合においては、あらかじめ、その許可に利害関係を有する者の出頭を求めて公開により意見を聴取し、かつ、建築審査会の同意を得なければならない。

特例許可とは、たとえば住宅街には原則として建てられない工場を、例外として建ててよいと認める許可です。特定行政庁は、建築審査会の同意を得なければ、この特例許可を出せません。つまり、行政庁を拘束する形です。なお、16項に例外がありますので、原則として、と覚えてください。ここで1問です。審議会の同意を得なければ、許可してはならない、と書く条文の審議会は、諮問機関でしょうか、参与機関でしょうか。同意がないと許可できないので、参与機関です。一方で、諮問に応じて意見を述べる、とだけ書いてあれば、諮問機関です。見るのは名前ではなく、拘束するかどうかです。

審議会等の条文上の位置(国=国家行政組織法8条1項〔法律又は政令で合議制の機関を置ける=8条機関〕/地方=地方自治法138条の4第3項〔法律又は条例で執行機関の附属機関を置ける〕/私的諮問機関=法律・政令に基づかない) 図:審議会等の条文上の位置

  • 国=国家行政組織法8条1項〔法律又は政令で合議制の機関を置ける=8条機関〕
  • 地方=地方自治法138条の4第3項〔法律又は条例で執行機関の附属機関を置ける〕
  • 私的諮問機関=法律・政令に基づかない

では、こうした審議会は、法律のどこに根拠があるのでしょうか。国の場合は、国家行政組織法8条1項です。条文を読みます。

条文国家行政組織法8条1項

国家行政組織法第8条第1項 第三条の国の行政機関には、法律の定める所掌事務の範囲内で、法律又は政令の定めるところにより、重要事項に関する調査審議、不服審査その他学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどらせるための合議制の機関を置くことができる。

骨格は、法律または政令の定めで、重要事項の調査審議や不服審査などをする、合議制の機関を置ける、です。この8条に基づく機関が、審議会等と呼ばれるものです。地方公共団体の場合は、自治法138条の4第3項です。

条文地方自治法138条の4第3項

地方自治法第138条の4第3項 普通地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより、執行機関の附属機関として自治紛争処理委員、審査会、審議会、調査会その他の調停、審査、諮問又は調査のための機関を置くことができる。ただし、政令で定める執行機関については、この限りでない。

骨格は、法律または条例の定めで、執行機関の附属機関として、審議会や調査会などを置ける、です。国では法律か政令、地方では法律か条例、という違いがあります。なお、法律や政令に基づかず、大臣の決裁などで置かれる諮問機関も、数多くあります。これを、私的諮問機関といいます。法律上の根拠をもたないことだけ、覚えておいてください。最後に、この分類が、何の役に立つのかを見ます。群馬中央バス事件です。前に適正手続の回で、名前と結論だけ触れました。バス会社が路線の免許を申請し、陸運局長が利害関係人や参考人から意見を聴く聴聞をし、運輸審議会が公聴会を開いて答申をしたうえで、運輸大臣が申請を退けた事件です。判決は、バス事業の免許について、運輸審議会は運輸大臣の諮問機関だと位置づけました。ここから見る点は3つです。諮問機関の位置づけ、諮問を経ることの重さ、そして、補助機関との違いです。

群馬中央バス事件〔判旨〕(運輸審議会=運輸大臣から独立した第三者的機関〔諮問機関〕/陸運局長=運輸大臣の純然たる補助機関/審議会が公聴会を開く場合、陸運局長の聴聞は簡略で補充的・従たる意義しかない=その瑕疵は取消事由にならない/諮問機関の審理・答申の過程の重大な法規違反は処分を違法にする) 図:群馬中央バス事件〔判旨〕

  • 運輸審議会=運輸大臣から独立した第三者的機関〔諮問機関〕
  • 陸運局長=運輸大臣の純然たる補助機関
  • 審議会が公聴会を開く場合、陸運局長の聴聞は簡略で補充的・従たる意義しかない=その瑕疵は取消事由にならない
  • 諮問機関の審理・答申の過程の重大な法規違反は処分を違法にする

1つ目から見ます。判決は、まず、こう述べました。

判例最判昭50・5・29 民集29巻5号662頁

群馬中央バス事件(諮問機関の位置づけ) 法は、運輸大臣が運輸審議会の決定を尊重すべきことを要求するにとどまり、その決定が運輸大臣を拘束するものとはしていないから、運輸審議会は、ひつきよう、運輸大臣の諮問機関としての地位と権限を有するにすぎないものというべきであるが

判決は、続けてこう述べます。

判例最判昭50・5・29 民集29巻5号662頁

群馬中央バス事件(諮問を経ることの重さ) 一般に、行政庁が行政処分をするにあたつて、諮問機関に諮問し、その決定を尊重して処分をしなければならない旨を法が定めているのは、処分行政庁が、諮問機関の決定(答申)を慎重に検討し、これに十分な考慮を払い、特段の合理的な理由のないかぎりこれに反する処分をしないように要求することにより、当該行政処分の客観的な適正妥当と公正を担保することを法が所期しているためであると考えられるから、かかる場合における諮問機関に対する諮問の経由は、極めて重大な意義を有するものというべく、したがつて、行政処分が諮問を経ないでなされた場合はもちろん、これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が右諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、これを経てなされた処分も違法として取消をまぬがれないこととなるものと解するのが相当である。

決め手を整理します。答申は拘束しません。しかし、諮問を要求している趣旨は、行政庁に答申を十分に考慮させて、処分の適正さを担保することにあります。だから、諮問を経ない処分は違法で、諮問を経ていても、審理や答申の過程に重大な法規違反があれば、処分も違法として取り消されます。2つ目は、補助機関との違いです。同じ判決が、こう述べています。

判例最判昭50・5・29 民集29巻5号662頁

群馬中央バス事件(補助機関との違い) すなわち、運輸審議会が機構的に運輸大臣から独立した地位と構成をもつ第三者的機関であるのに対し、陸運局長は運輸大臣の純然たる補助機関であり、 …… そうすると、陸運局長の聴聞が右のような従たる意義しかもたない場合には、たとえその聴聞手続に瑕疵があつたとしても、最終的な運輸大臣の許否の決定自体を取り消さなければならないほどの違法があるものとするには足りないと解するのが相当である。

陸運局長は、運輸大臣の補助機関です。判決は、審議会への諮問で公聴会が開かれる場合には、陸運局長の聴聞に瑕疵があっても、それだけでは処分の取消事由にならない、としました。なぜか。この聴聞は、公聴会よりも簡略な手続で、補充的で、従たる意義しかもたないからです。これに対して、諮問機関は、大臣から独立した第三者の立場で審理させることで、処分の公正さを外から支えるために置かれています。だから、その審理に重大な瑕疵があれば、処分が違法になります。つまり、どの機関の手続かによって、瑕疵の重さが違うのです。分類は、暗記のためではなく、結論を分けるために使います。

もう1つの行政機関概念

2つの行政機関概念(作用法的行政機関概念=処分をする側〔行政庁〕から見て周りの機関を位置づける〔点としての地位〕/事務配分的行政機関概念=仕事の割り振りの単位となる組織体〔省・委員会・庁〕/現行法は両者を組み合わせて使う/読み方=処分をする話か、組織の話か) 図:2つの行政機関概念

  • 作用法的行政機関概念=処分をする側〔行政庁〕から見て周りの機関を位置づける〔点としての地位〕
  • 事務配分的行政機関概念=仕事の割り振りの単位となる組織体〔省・委員会・庁〕
  • 現行法は両者を組み合わせて使う
  • 読み方=処分をする話か、組織の話か

ここまでの行政機関は、処分をする行政庁から見て、周りの機関を位置づける見方でした。点としての地位を、並べていたのです。これを、作用法的行政機関概念といいます。処分をする側から見た機関、ということです。ところが、法律には、別の意味の行政機関があります。仕事の割り振りの単位としての組織体です。人の集まりとしての、組織全体を指します。これを、事務配分的行政機関概念といいます。国家行政組織法の3条2項を読みます。

条文国家行政組織法3条2項

国家行政組織法第3条第2項 行政組織のため置かれる国の行政機関は、省、委員会及び庁とし、その設置及び廃止は、別に法律の定めるところによる。

ここでの行政機関は、省と、委員会と、庁です。つまり、なになに省を、全体として行政機関と呼んでいます。この見方では、行政機関と呼ぶのは組織全体なので、大臣という1つの職は、それだけでは行政機関と呼ばれません。大臣は、その省を率いる立場の職です。作用法の見方では、同じ大臣が、行政庁という機関でした。物差しが違うので、呼び方が変わるのです。機関が地位であることは、どちらでも変わりません。

会社で見る2つの見方(営業部が担当する=組織全体=事務配分/値引きを決められるのは営業部長=1つの席=作用法) 図:会社で見る2つの見方

  • 営業部が担当する=組織全体=事務配分
  • 値引きを決められるのは営業部長=1つの席=作用法

会社でいえば、「営業部が新しい商品を担当する」と言うときの営業部は、仕事を割り振られた組織全体です。これに対して、「値引きを決められるのは営業部長だけ」と言うときは、決める権限をもつ1つの席を指しています。前者が事務配分の見方、後者が作用法の見方です。行政手続法の2条5号も、同じ組織体の意味です。国家行政組織法3条2項の機関などを挙げたうえで、これらの機関の職員で、法律上、独立に権限を行使することを認められた職員も含めています。作用法的な見方との接点です。そして、地方公共団体の機関も、議会を除いて、ここに含まれます。情報公開法の2条1項も、組織体の意味です。長い条文なので、骨格だけ読みます。まず、一号から三号です。

条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律2条1項(一号から三号)

行政機関の保有する情報の公開に関する法律第2条第1項 この法律において「行政機関」とは、次に掲げる機関をいう。  一 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関  二 内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項及び第二項に規定する機関(これらの機関のうち第四号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)  三 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関(第五号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)

続きの、四号から六号です。

条文行政機関の保有する情報の公開に関する法律2条1項(四号から六号)

行政機関の保有する情報の公開に関する法律第2条第1項(続き)  四 内閣府設置法第三十九条及び第五十五条並びに宮内庁法(昭和二十二年法律第七十号)第十六条第二項の機関並びに内閣府設置法第四十条及び第五十六条(宮内庁法第十八条第一項において準用する場合を含む。)の特別の機関で、政令で定めるもの  五 国家行政組織法第八条の二の施設等機関及び同法第八条の三の特別の機関で、政令で定めるもの  六 会計検査院

骨格は、内閣に置かれる機関、内閣府や宮内庁、国家行政組織法の3条2項の機関、会計検査院などの、組織を並べている、です。情報を持っている、組織の単位を指しています。以前見た、政策の評価に関する法律の3条や、情報公開法の題名にも出てくる行政機関も、同じ組織体の意味です。大事なのは、どちらが正しいのか、ではないことです。現行法は、この2つを組み合わせて使っています。行政手続法の中でも、使い分けがあります。2号と6号を読みます。

条文行政手続法2条2号・6号

行政手続法第2条(2号・6号)  二 処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。  六 行政指導 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。

行政手続法の使い分け(2号 処分=行政庁=作用法/6号 行政指導=行政機関=事務配分/見分け=処分の話か、組織の所掌・保有・窓口の話か) 図:行政手続法の使い分け

  • 2号 処分=行政庁=作用法
  • 6号 行政指導=行政機関=事務配分
  • 見分け=処分の話か、組織の所掌・保有・窓口の話か

処分は、行政庁の処分です。処分をする点が主語なので、作用法の見方です。行政指導は、行政機関がする指導です。指導は、処分のように、1つの点が権限を持っているとは限らず、組織としての任務や所掌事務の範囲で行うので、事務配分の見方です。1つの法律の中で、使い分けているのです。だから、条文を読むときの手順は、1つです。行政機関や行政庁という言葉を見たら、処分をする話か、それとも、組織としての所掌や、保有や、窓口の話か、を確かめます。前者なら行政庁の意味、後者なら組織体の意味です。練習問題です。4つ出します。まず、建築基準法9条1項の特定行政庁は、どちらの意味でしょうか。

命令を出す側なので、作用法の意味です。次に、国家行政組織法3条2項の省は、どうでしょうか。組織全体を指しているので、事務配分の意味です。3つ目、情報公開法2条1項の行政機関は、情報を持っている組織の単位なので、事務配分の意味です。4つ目、行政手続法2条2号の行政庁は、処分をする点なので、作用法の意味です。

今日のまとめ

今日のまとめ(①組織の編成は原則法律・細部は行政へ ②行政庁=条文の主語/周りに補助・諮問〔拘束するなら参与〕・執行機関 ③行政機関という語は作用法的と事務配分的の2つの意味) 図:今日のまとめ

  • ①組織の編成は原則法律・細部は行政へ
  • ②行政庁=条文の主語/周りに補助・諮問〔拘束するなら参与〕・執行機関
  • ③行政機関という語は作用法的と事務配分的の2つの意味

冒頭の命令書に戻ります。差出人の「なになに市長」は、建築基準法9条1項の特定行政庁で、行政庁です。書類を作った係員と、決裁した課長、部長は、補助機関です。係員を相手に争うのではありません。前の回で見た行政事件訴訟法11条1項のとおり、市長は市に所属する行政庁なので、処分の効果が帰属する市、つまり行政主体が、被告になります。前の回の会社のように、どこにも所属しない行政庁なら、行政庁自身が被告でした。分かれ目は、所属の有無です。市長が替わっても、市長は機関で、地位ですから、命令の効力は変わりません。市長が見ていないのに、市長の名前で出る仕組みは、次の回の、専決と委任です。持ち帰りは3つです。1つ目。組織の編成は、原則として法律で決めますが、細部は、行政に任せてよい。2つ目。行政庁は条文の主語で、周りに、補助機関、諮問機関、執行機関がいます。拘束するなら、参与機関です。3つ目。行政機関という言葉には、2つの意味があり、条文ごとに、処分の話か、組織の話かを確かめます。次の回は、機関どうしの関係です。上級の機関が下級の機関を指揮し、監督する仕組みと、権限を他の機関に任せる、委任、代理、専決を見ていきます。

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#23単独ページ動画

指揮監督と権限の委任・代理

第2章 行政組織法 ㉓/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

3通の許可通知書

3通の許可通知書の名義欄(A=市長/B=課長〔補助機関〕/C=副市長/D=支所長/E=申請者/1通目 A→E=許可〔B が決裁〕/2通目 C→E=許可〔A の職務を代理〕/3通目 D→E=許可〔点線 A→D=権限を任せている〕/問い=権限が動いたのはどれか) 図:3通の許可通知書の名義欄

  • A=市長
  • B=課長〔補助機関〕
  • C=副市長
  • D=支所長
  • E=申請者
  • 1通目 A→E=許可〔B が決裁〕
  • 2通目 C→E=許可〔A の職務を代理〕
  • 3通目 D→E=許可〔点線 A→D=権限を任せている〕
  • 問い=権限が動いたのはどれか

A市に、3人の人が、同じ種類の許可を申請しました。どれも、市長の権限に属する許可です。数日後、3人のもとに、許可の通知書が届きました。中身は同じ許可です。ところが、差出人の欄が、3通とも違います。1通目の差出人は、「A市長」です。ただ、実際に決めたのは担当課長で、市長は、書類を見てもいません。2通目は、「A市長職務代理者 副市長」です。市長が、長期入院中だからです。3通目は、「A市 支所長」です。市長が、条例で設けた支所の長に、この許可の権限を任せています。3通とも有効です。問題は、名義欄の下に隠れている、権限の所在です。今日の1問は、これです。3通のうち、権限が市長から動いたのはどれか。権限を使った人が違うなら、争うときの被告も、3通とも別になるのか。そして、名義が違うと、法律の根拠が要るものと、要らないものが出るのか。前の回の最後に、委任、代理、専決を次に見ると言いました。そのうち1通目の仕組み、専決は、次の動画の主役です。今日は、その手前の、2通目と3通目、つまり代理と委任から片づけて、答えを出します。先に、答えの形だけ言います。見るのは、名義欄ではなく、権限が、もとの市長から動いたかどうかです。そして、名義欄が違っても、被告は変わりません。

今日の3つの問い(①上下の関係=上級機関は下級機関に何ができるか/②横の関係=対等な機関はどう協力するか/③権限を代わりに使う仕組み〔代理と委任〕=名義・権限の移動・法律の根拠で見分ける/専決と、機関に座る人の側の法は次の動画) 図:今日の3つの問い

  • ①上下の関係=上級機関は下級機関に何ができるか
  • ②横の関係=対等な機関はどう協力するか
  • ③権限を代わりに使う仕組み〔代理と委任〕=名義・権限の移動・法律の根拠で見分ける/専決と、機関に座る人の側の法は次の動画

順番は、板のとおりです。1つ目は、上下の関係。上の機関は、下の機関に何ができるのか。次に2つ目は、横の関係。対等な機関は、どう協力するのか。3つ目が、権限を代わりに使う仕組みのうち、代理と委任です。ここが山場です。専決と、機関に座る人の側の法、つまり公務員法は、次の動画で見ます。

上下の関係

上下の関係(階層制=同じ行政主体の中の機関は上級・下級のピラミッド/上級機関は下級機関に指揮監督権をもつ〔上命下服〕/範囲の注意=国と地方公共団体は別の主体で上下ではない・独立して職権を行使する行政委員会は指揮監督を受けない) 図:上下の関係

  • 階層制=同じ行政主体の中の機関は上級・下級のピラミッド
  • 上級機関は下級機関に指揮監督権をもつ〔上命下服〕
  • 範囲の注意=国と地方公共団体は別の主体で上下ではない・独立して職権を行使する行政委員会は指揮監督を受けない

本編に入る前に、1問です。前の回で、条文が主語に置いて、処分を自分の名で行う機関を、何と呼びましたか?行政庁です。今日は、その行政庁を含めた機関どうしが、どんな関係にあるのかを見ます。最初は、上下の関係です。同じ行政主体の中の機関は、原則として、上級と下級のピラミッドをつくります。これを、階層制といいます。市長の下に支所長がいて、大臣の下に局長がいる形です。そして、上級の機関は、下級の機関に対して、指揮監督権をもちます。上の命令に下が従う関係なので、上命下服ともいいます。範囲を、2つ区切っておきます。1つ目。国と地方公共団体は、別々の行政主体です。国が上で、市が下、という関係ではありません。国と地方の関与の仕組みは、地方の回で見ます。2つ目。公安委員会のように、複数の委員の合議で決め、独立して職権を行使する行政委員会は、上級の機関の指揮監督を受けません。この点は、後で、所轄という言葉と一緒に見ます。

指揮監督権の5つ(①監視権=事務処理の状況を調べる〔例:市長が支所に報告を求める〕/②同意・承認権=権限行使に上級の同意や承認を受けさせる〔例:支所長が運用細則を決める前に市長の承認を要する〕/③訓令権=訓令・通達の形で命令・指示する/④取消停止権=下級機関の行為を取り消し・停止する/⑤権限争議裁定権=下級機関どうしの権限の争いに決着をつける) 図:指揮監督権の5つ

  • ①監視権=事務処理の状況を調べる〔例:市長が支所に報告を求める〕
  • ②同意・承認権=権限行使に上級の同意や承認を受けさせる〔例:支所長が運用細則を決める前に市長の承認を要する〕
  • ③訓令権=訓令・通達の形で命令・指示する
  • ④取消停止権=下級機関の行為を取り消し・停止する
  • ⑤権限争議裁定権=下級機関どうしの権限の争いに決着をつける

指揮監督権は、1つの権限ではなく、5つの働きの束です。暗記してください。1つ目、監視権。下級機関の事務の処理状況を調べる権限です。市長が、支所に、処理状況の報告を求めるのが例です。2つ目、同意・承認権。下級機関が権限を使うときに、上級機関の同意や承認を受けさせる権限です。たとえば、支所長が運用の細則を決める前に、市長の承認を要する、と定める場合です。3つ目、訓令権。下級機関の権限の行使について、訓令や通達という、組織の内側に向けた文書の形で、命令や指示をする権限です。次に、4つ目、取消停止権。下級機関のした行為を、上級機関が取り消し、停止する権限です。5つ目、権限争議裁定権。下級機関どうしの権限の争いに、上級機関が決着をつける権限です。

動詞で覚えると楽です。調べる、同意を求める、命じる、取り消す、決着をつける。この、5つの動作です。明文の条文を、2つ見ます。取消停止権から、地方自治法の154条の2です。

条文地方自治法154条の2

地方自治法第154条の2 普通地方公共団体の長は、その管理に属する行政庁の処分が法令、条例又は規則に違反すると認めるときは、その処分を取り消し、又は停止することができる。

長は、自分の管理に属する行政庁の処分が、法令などに違反すると認めたとき、取り消したり、停止したりできる、です。市長が、福祉事務所長のように、管理に属する行政庁のした処分を取り消す場面が、これです。国の側にも、同じ型の条文があります。内閣法の8条です。

条文内閣法8条

内閣法第8条 内閣総理大臣は、行政各部の処分又は命令を中止せしめ、内閣の処置を待つことができる。

総理大臣は、行政各部の処分や命令を中止させて、内閣の判断を待つことができます。取消停止権の仲間です。次は、権限争議裁定権です。内閣法の7条を読みます。

条文内閣法7条

内閣法第7条 主任の大臣の間における権限についての疑義は、内閣総理大臣が、閣議にかけて、これを裁定する。

大臣どうしの権限の争いは、総理大臣が裁定します。ここで1問です。市長が、支所長のした許可を、法令に違反すると考えて取り消しました。5つのうち、どれでしょうか。取り消しているので、取消停止権です。では、2つの支所の間で、どちらの担当かをめぐる争いが起きて、市長が決着をつけました。なお、総理大臣の指揮監督権の本体は、国の行政組織の回で見ます。今日は、条文の位置を知っておけば足ります。

訓令・通達と告示(国家行政組織法14条=1項 告示〔公示を必要とするとき〕/2項 訓令・通達〔所管の諸機関・職員に命令・示達をする〕/告示=国民に知らせる形・訓令通達=組織の内側への命令の形/通達=上級機関が下級機関を名宛人にその職務権限の行使を指揮するもの・個々の職員に直接義務を課すものではない) 図:訓令・通達と告示

  • 国家行政組織法14条=1項 告示〔公示を必要とするとき〕
  • 2項 訓令・通達〔所管の諸機関・職員に命令・示達をする〕
  • 告示=国民に知らせる形・訓令通達=組織の内側への命令の形
  • 通達=上級機関が下級機関を名宛人にその職務権限の行使を指揮するもの・個々の職員に直接義務を課すものではない

3つ目の訓令権を支える条文を見ます。国家行政組織法の14条です。1項は告示、2項は訓令と通達です。1項は骨格だけ、2項を読みます。

条文国家行政組織法14条

国家行政組織法第14条 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる。 2 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。

骨格は、大臣などは、所管の機関や職員に対して、命令や示達、つまり指示を伝えるために、訓令や通達を出せる、です。1項の告示は、国民に知らせる形です。これに対して、訓令や通達は、組織の内側に向けた、命令や指示の形です。宛先が、国民か、組織の内側か。ここが違います。最高裁は、通達について、こう位置づけました。通達は、上級の機関が、下級の機関を名宛人にして、その職務権限の行使を指揮するために出すものです。個々の職員を名宛人にして、それだけで具体的な義務を課すものではありません。信義則の回で、町が通達で給付を打ち切った話を見ました。あの通達も、組織の内側に向けた指示でした。通達の法的性質と、国民への効力は、行政立法の回で扱います。次に、代行です。下級機関がするべき行為をしないとき、上級機関が、代わって執行することを、代行といいます。名前が似ていますが、前に見た行政代執行とは別物です。あれは、義務を果たさない私人に代わって、行政がやる仕組みでした。今日の代行は、行政の機関どうしの話です。命じることと、代わりにやることを、分けて考えてください。

命令できても、代わりにやってよいことにはなりません。会社で考えます。部長が課長に、「この件を処理しなさい」と命じるのは、指揮です。ところが、課長が動かないからと、部長が課長の机から判を出して、自分で押してしまう。これは、仕事の割り振りそのものを変えることです。そこで、代行は、特別の法律の根拠がある場合にだけ認められます。下級機関に割り振られた権限を、上級機関が直接使うのは、実質的に、権限配分の変更になるからです。どの機関に、どの権限を割り振るかは、組織規範、つまり法律が決めています。法律が決めた割り振りを変えるのだから、法律の根拠が要るのです。国と地方の場面の代執行は、地方の回で扱います。暗記します。命じることは、指揮監督権でできる。代わりにやることは、特別の法律の根拠が要る。ここが、あとの委任や代理にも響く考え方です。

統轄と所轄(統轄=上級機関が複数の下級機関を総合調整しつつ指揮監督する〔国組法3条3項・自治法147条〕/所轄=組織上、形式的に別の機関の下に属することを示す言葉・職権行使への指揮監督は含まない〔警察法38条1項〕・独立性を保つ趣旨) 図:統轄と所轄

  • 統轄=上級機関が複数の下級機関を総合調整しつつ指揮監督する〔国組法3条3項・自治法147条〕
  • 所轄=組織上、形式的に別の機関の下に属することを示す言葉・職権行使への指揮監督は含まない〔警察法38条1項〕・独立性を保つ趣旨

最後に、似た言葉を、ひと組、見分けます。統轄と、所轄です。まず、統轄。上級の機関が、複数の下級機関を、総合調整しながら指揮監督することです。たとえば、国家行政組織法の3条3項は、省が、内閣の統轄の下に置かれる、と定めています。地方自治法の147条を読みます。

条文地方自治法147条

地方自治法第147条 普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を統轄し、これを代表する。

長は、団体全体を統轄します。上から全体を束ねる、強い言葉です。これに対して、所轄は、違う言葉です。警察法の38条1項を読みます。

条文警察法38条1項

警察法第38条第1項 都道府県知事の所轄の下に、都道府県公安委員会を置く。

公安委員会は、知事の所轄の下に置かれます。前の回で見た、合議制の行政庁です。所轄は、組織の上で、形式的にどこかの下に属することを示す言葉です。具体的な職権の行使について、知事が指揮監督することは、含みません。むしろ、公安委員会の独立性を保つために使われる言葉です。知事は、公安委員会の個々の判断にまでは指揮監督が及ばない、と説明されます。統轄は、上から総合調整して指揮監督する。所轄は、形式上の所属で、職権行使への指揮監督は含まない。この違いを覚えてください。なお、所轄という言葉がなくても、独立性が否定されるわけではありません。行政委員会の本体は、国の組織の回で見ます。

横の関係

横の関係の5つの型(共管=複数の機関が共同で1つの意思決定をする/協議=権限を使う際に他の機関と協議する/同意=権限を使う際に他の機関の同意が要る/共助=対等で独立した機関どうしの援助・協力/勧告・要請=他の機関が権限をもつ機関に勧告・要請する) 図:横の関係の5つの型

  • 共管=複数の機関が共同で1つの意思決定をする
  • 協議=権限を使う際に他の機関と協議する
  • 同意=権限を使う際に他の機関の同意が要る
  • 共助=対等で独立した機関どうしの援助・協力
  • 勧告・要請=他の機関が権限をもつ機関に勧告・要請する

次は、横の関係です。上下ではなく、対等な機関どうしの調整と協力です。型は5つあります。見分けの軸は、相手の機関が、こちらの決定に、どこまで関わるかです。共管は、複数の機関が、共同で1つの意思決定をすること。たとえば、法律が2人の大臣に共同で担わせた事務について、2人が連名で1つの省令を出す場合です。協議は、権限を使う前に、ほかの機関と話し合うこと。たとえば、大臣が基準を決める前に、別の省の大臣と協議する、と法律が定める場合です。同意は、決めるのは自分ですが、ほかの機関の同意がなければ、権限を使えないこと。共助は、決定には加わらず、対等で独立した機関どうしが手を貸し合うこと。たとえば、市長の求めに応じて、市の教育委員会が、災害のときに学校の体育館を避難所に使えるよう協力する場合です。勧告と要請は、ほかの機関が意見を言うだけで、決めるのは、権限をもつ機関です。実例を2つ、条文で確かめます。同意から。建築基準法の93条1項です。ただし書は、骨格では読みません。

条文建築基準法93条1項

建築基準法第93条第1項 特定行政庁、建築主事等又は指定確認検査機関は、この法律の規定による許可又は確認をする場合においては、当該許可又は確認に係る建築物の工事施工地又は所在地を管轄する消防長(消防本部を置かない市町村にあつては、市町村長。以下同じ。)又は消防署長の同意を得なければ、当該許可又は確認をすることができない。ただし、確認に係る建築物が防火地域及び準防火地域以外の区域内における住宅(長屋、共同住宅その他政令で定める住宅を除く。)である場合又は建築主事等若しくは指定確認検査機関が第八十七条の四において準用する第六条第一項若しくは第六条の二第一項の規定による確認をする場合においては、この限りでない。

骨格は、特定行政庁などは、許可や確認をするとき、消防長か消防署長の同意を得なければできない、です。消防長は、確認をする建築主事の上級機関でも部下でもありません。建築とは別の、消防の系統の機関です。だから、これは横の同意です。場面にします。A市で、ある人が、店を建てようと、建築確認を申請しました。市の建築主事は、消防署長の同意をもらうまで、確認を出せません。同意は、2つの場面で出ます。下級機関が、上級機関の同意を要する。これは縦です。上下の関係にない別の機関の同意を要する。これは横です。見分けは、相手が上級かどうか、だけです。次に、勧告です。地方自治法の180条の4第1項を、骨格で読みます。

条文地方自治法180条の4第1項

地方自治法第180条の4第1項 普通地方公共団体の長は、各執行機関を通じて組織及び運営の合理化を図り、その相互の間に権衡を保持するため、必要があると認めるときは、当該普通地方公共団体の委員会若しくは委員の事務局又は委員会若しくは委員の管理に属する事務を掌る機関(以下本条中「事務局等」という。)の組織、事務局等に属する職員の定数又はこれらの職員の身分取扱について、委員会又は委員に必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。

骨格は、長は、必要があると認めるときは、委員会や委員に、必要な措置を講ずべきことを勧告できる、です。長と委員会は対等なので、命令ではなく、勧告です。

権限を代わりに使う代理と委任

権限を代わりに使う3つの仕組み(代理・委任・専決/見分ける3つの軸=名義は誰か・権限は動くか・法律の根拠は要るか/今回は代理と委任・専決は次の動画) 図:権限を代わりに使う3つの仕組み

  • 代理・委任・専決
  • 見分ける3つの軸=名義は誰か・権限は動くか・法律の根拠は要るか
  • 今回は代理と委任・専決は次の動画

ここから、今日の山場です。行政庁の権限を、別の機関が代わって使う。この仕組みが、3つあります。代理と、委任と、専決です。なぜ、こんな仕組みが要るのか。行政庁が、膨大な事務を、全部自分で判断することは、現実にはできないからです。3つを見分ける軸も、先に出しておきます。名義は誰か。権限は動くのか。法律の根拠は要るのか。この3つです。今日は、代理と委任を見ます。専決は、次の動画です。

代理(本人の名に代理である旨を添えて行う・行為は本人の行為として効力が生じる〔顕名〕・権限は動かない/法定代理=狭義の法定代理〔要件が生じれば当然〕・指定代理〔指定によって決まる〕/授権代理=授権を受けて代理する・法律の根拠は不要〔通説〕) 図:代理

  • 本人の名に代理である旨を添えて行う・行為は本人の行為として効力が生じる〔顕名〕・権限は動かない
  • 法定代理=狭義の法定代理〔要件が生じれば当然〕・指定代理〔指定によって決まる〕
  • 授権代理=授権を受けて代理する・法律の根拠は不要〔通説〕

まず、代理です。別の機関が代理機関となって、もとの機関の名で、権限を使います。行為は、もとの機関の行為として効力が生じます。本人の名に、代理であることを添えて出すことを、顕名といいます。そして、権限そのものは動きません。持ち主は、あくまで本人です。これを、権限の代理と呼びます。代理には、2つの種類があります。1つ目は、法定代理です。法律の定める要件が生じたときの代理です。さらに2つに分かれます。要件が生じれば、法律上当然に代理関係が生じるものが、狭義の法定代理です。要件が生じたとき、もとの機関の指定によって、代理する者が決まるものが、指定代理です。地方自治法の152条が、両方の例です。

条文地方自治法152条1項・2項

地方自治法第152条(第1項・第2項) 普通地方公共団体の長に事故があるとき、又は長が欠けたときは、副知事又は副市町村長がその職務を代理する。この場合において副知事又は副市町村長が二人以上あるときは、あらかじめ当該普通地方公共団体の長が定めた順序、又はその定めがないときは席次の上下により、席次の上下が明らかでないときは年齢の多少により、年齢が同じであるときはくじにより定めた順序で、その職務を代理する。 2 副知事若しくは副市町村長にも事故があるとき若しくは副知事若しくは副市町村長も欠けたとき又は副知事若しくは副市町村長を置かない普通地方公共団体において当該普通地方公共団体の長に事故があるとき若しくは当該普通地方公共団体の長が欠けたときは、その補助機関である職員のうちから当該普通地方公共団体の長の指定する職員がその職務を代理する。

骨格を読みます。1項は、長に事故があるとき、または長が欠けたときは、副市長が職務を代理する、です。副市長が当然に代理するので、狭義の法定代理です。2項は、副市長にも事故があるときなどは、長の指定する職員が代理する、です。長の指定で決まるので、指定代理です。冒頭の2通目は、1項の代理です。市長が入院中で、副市長が、市長の職務を代理した。だから、名義が、市長職務代理者、なのです。2つ目は、授権代理です。本来の権限をもつ機関が、授権をして、他の機関に代理させるものです。地方自治法の153条の1項を読みます。

条文地方自治法153条1項

地方自治法第153条第1項 普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務の一部をその補助機関である職員に委任し、又はこれに臨時に代理させることができる。

長は、権限に属する事務の一部を、補助機関の職員に、臨時に代理させることができます。この授権代理には、法律の根拠は不要と解されています。理由は、権限が動かないからです。権限はそのまま長にあって、長の指揮監督も残ります。法律が決めた割り振りは変わらないので、根拠までは要りません。条文には、委任とも書かれています。1項には、補助機関の職員への委任と、臨時の代理が、並んで書かれています。見分けは、条文の言葉ではなく、権限が動くかどうかです。次の委任で、その差を見ます。

委任(権限の一部が受任庁に移る・委任庁は権限を失い受任庁が自己の名と責任で使う・法律の根拠が必要/「委任」の3つの意味=民法の委任・法律から命令への委任・権限の委任/読む手順=法律が委任できると置く→政令・省令で範囲が決まる→受任庁が行政庁) 図:委任

  • 権限の一部が受任庁に移る・委任庁は権限を失い受任庁が自己の名と責任で使う・法律の根拠が必要
  • 「委任」の3つの意味=民法の委任・法律から命令への委任・権限の委任
  • 読む手順=法律が委任できると置く→政令・省令で範囲が決まる→受任庁が行政庁

次は、委任です。委任とは、ある機関の権限の一部を、別の機関に任せて、使わせる仕組みです。ただし、代理と決定的に違うのは、権限そのものが、受任機関に移ることです。任せた側の委任庁は、その権限を失います。任された側の受任庁が、自分の名と責任で、権限を使います。会社で言えば、さっきの部長が課長に、『この種の契約は、君の名前で結んでよい』と、判の持ち主ごと渡すのが、委任です。ここで、言葉を切り分けます。委任という言葉には、3つの意味があります。1つ目は、民法の委任。人に仕事を頼む契約で、頼んだ側は、自分の権利を失いません。2つ目は、前に見た、法律が政令や省令に定めを任せる委任です。今日の委任は、3つ目の、権限の委任です。権限そのものが移るので、委任した側は、その権限を失います。名義も、委任した側ではなく、受任庁の名が出ます。法律の根拠は、必要です。法律が与えた権限が、別の機関に移るので、移すこと自体に、法律の根拠が要るのです。冒頭の3通目は、この型です。地方自治法の153条1項を、もう一度、前半だけ読みます。

条文地方自治法153条1項

地方自治法第153条第1項 普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務の一部をその補助機関である職員に委任し、又はこれに臨時に代理させることができる。

長は、権限に属する事務の一部を、補助機関である職員に委任できます。条例で設けた支所の長は、市長の補助機関である職員です。市長が、条例で設けた支所の長に、許可の権限を委任した。これで、3通目の許可は、受任庁である支所長の名で出ます。委任したことを理由にしては、出せません。権限の行使の責任は、受任庁が負うからです。ただし、市長は、支所長の上級機関でもあります。上級機関としての指揮監督権は、別に残ります。先ほど見た5つの働きは、今も市長にあります。委任は、一部に限られます。条文も、事務の一部、と書いています。また、委任を受けた庁が、さらに別の機関に委任する、多段階の仕組みもあります。たとえば、法務大臣から出入国在留管理庁の長官へ、さらに地方の出入国在留管理局長へ、という流れです。ここで、条文の読み方を1つ。法律の主語の大臣を、そのまま処分庁だと考えてはいけません。法律が、委任できる、と定める。政令や省令などで、実際に委任された範囲が決まる。その範囲の処分は、受任庁が行政庁になる。この順で読みます。前の回の、条文の主語を見る読み方の、一歩先です。根拠のない委任は、どうなるか。有名な判決があります。近鉄特急料金の事件です。

近鉄特急料金認可処分取消事件(私鉄の特急料金改定の認可を大阪陸運局長がした/陸運局長に権限を移す根拠だった戦時の特別法〔措置法・措置令〕は認可当時すでに失効/根拠法令なし=無権限=違法/ただし取消しで混乱が生じるため事情判決〔行訴法31条1項〕) 図:近鉄特急料金認可処分取消事件

  • 私鉄の特急料金改定の認可を大阪陸運局長がした
  • 陸運局長に権限を移す根拠だった戦時の特別法〔措置法・措置令〕は認可当時すでに失効
  • 根拠法令なし=無権限=違法
  • ただし取消しで混乱が生じるため事情判決〔行訴法31条1項〕

私鉄の特急料金を値上げする認可を、大阪陸運局長がしました。陸運局長に認可の権限を移す根拠は、戦時の特別法でした。ところが、その法律は、認可のときには、すでに効力を失っていた。そこで、認可の取消しが求められました。判決は、こう述べます。

判例大阪地判昭57・2・19

近鉄特急料金認可処分取消事件(根拠を欠く委任) 以上のいずれの理由によつても、措置法は、本件認可処分当時、その効力がなかつたから、措置法を受けて制定された措置令も、その効力を肯定することができないことに帰着する。したがつて、被告陸運局長が本件認可処分をする権限を根拠づける法令上の根拠はないのであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件認可処分は違法といわざるをえない。

続けて、こうも述べています。

判例大阪地判昭57・2・19

近鉄特急料金認可処分取消事件(事情判決) 本件認可処分は、それをした被告陸運局長が無権限である点で違法である。しかし、本件認可処分を、このことを理由に取り消すことにすると、利用者が一日約一〇万人にものぼる近鉄特急の運行に多大の混乱を惹起するばかりか、特急料金を徴収している他の私鉄(名鉄、小田急、西武、東武、南海など)にも影響を及ぼしかねない。

決め手を整理します。権限を移す委任には、法律の根拠が要ります。根拠がなければ、受け取った側は、権限を持っていません。その人がした処分は、無権限で、違法です。ただし、この事件では、取り消すと混乱が大きいので、行政事件訴訟法の31条1項の、事情判決になりました。事情判決とは、処分は違法だと宣言しつつ、取消しの請求は退ける判決です。違法でも、取り消されるとは限りません。次に、争う相手です。行政主体の回で、取消訴訟の被告は、処分をした行政庁の所属する主体だと見ました。確認の1問です。以前、処分をした行政庁が、国にも公共団体にも所属しないとき、被告は誰でしたか?

行政庁自身でした。では、条文を全文で読みます。11条の1項です。

条文行政事件訴訟法11条1項

行政事件訴訟法第11条第1項 処分又は裁決をした行政庁(処分又は裁決があつた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁。以下同じ。)が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない。  一 処分の取消しの訴え 当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体  二 裁決の取消しの訴え 当該裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体

全文を読みました。処分の取消しの訴えの被告は、処分をした行政庁の所属する国または公共団体です。所属しないなら行政庁自身が被告、というのが、いま答えてもらった2項でした。最後に、4項です。

条文行政事件訴訟法11条4項

行政事件訴訟法第11条第4項 第一項又は前項の規定により国又は公共団体を被告として取消訴訟を提起する場合には、訴状には、民事訴訟の例により記載すべき事項のほか、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める行政庁を記載するものとする。  一 処分の取消しの訴え 当該処分をした行政庁  二 裁決の取消しの訴え 当該裁決をした行政庁

国や公共団体を被告にするときは、訴状に、処分をした行政庁を書きます。これで、委任の場面が整理できます。委任があると、処分をした行政庁は、受任庁になります。ところが、被告は、その受任庁の所属する主体です。市長がしても、支所長がしても、所属するのはA市です。委任の前も後も、被告は変わりません。変わるのは、訴状に書く処分庁です。支所長に委任したなら、訴状には、支所長と書きます。国にも公共団体にも所属しない私人が受任者なら、その私人が行政庁として扱われ、2項により、その人自身が被告です。以前に見た、指定確認検査機関と同じ型です。注意点が1つあります。被告が主体になるからといって、行政庁を特定しなくてよいわけではありません。まず、委任の規定を探して、処分庁を特定する。それから、その所属主体を見る。この手順です。被告適格の詳しい話は、別の回で扱います。ここで1問です。長が、補助職員に、臨時に代理させました。これは、代理でしょうか、委任でしょうか。法律の根拠は要りますか。

臨時に代理させるので、授権代理です。権限は動かないので、根拠は要りません。では、条例で設けた支所の長に、権限を任せました。

代理と委任の比較(名義=代理はもとの行政庁の名+代理である旨〔顕名〕・委任は受任庁の名/権限は動くか=代理は動かない・委任は動き委任庁は失う/法律の根拠=法定代理は法律そのもの・授権代理は不要〔通説〕・委任は必要/市長の指揮監督=授権代理は残る・委任は上級機関としてなら残る/被告=どちらも所属主体のA市) 図:代理と委任の比較

  • 名義=代理はもとの行政庁の名+代理である旨〔顕名〕・委任は受任庁の名
  • 権限は動くか=代理は動かない・委任は動き委任庁は失う
  • 法律の根拠=法定代理は法律そのもの・授権代理は不要〔通説〕・委任は必要
  • 市長の指揮監督=授権代理は残る・委任は上級機関としてなら残る
  • 被告=どちらも所属主体のA市

名義と、権限の移動と、根拠。3つの軸で答えられました。

前編のまとめ

3通の名義欄の中間整理(2通目=法定代理〔自治法152条1項〕:名義は市長職務代理者・権限は動かない・根拠は法律そのもの/3通目=委任〔自治法153条1項〕:名義は支所長・権限は動く・根拠が要る・訴状の処分庁は支所長/被告は2通ともA市〔行訴法11条1項〕/1通目=次の動画) 図:3通の名義欄の中間整理

  • 2通目=法定代理〔自治法152条1項〕:名義は市長職務代理者・権限は動かない・根拠は法律そのもの
  • 3通目=委任〔自治法153条1項〕:名義は支所長・権限は動く・根拠が要る・訴状の処分庁は支所長
  • 被告は2通ともA市〔行訴法11条1項〕
  • 1通目=次の動画

冒頭の3通のうち、2通を片づけます。2通目は、法定代理でした。名義は、市長職務代理者の副市長。権限は動かず、根拠は、法律そのものです。地方自治法の152条1項が、副市長の代理を定めています。3通目は、委任でした。名義は支所長。権限が動いたのは、この3通目です。法律の根拠が要り、153条1項の前半があります。訴状に書く処分庁は、支所長です。そして、被告は、2通とも、A市です。名義欄が違っても、行政事件訴訟法11条1項のとおり、被告は、処分をした行政庁の所属する主体です。残る1通目、市長が見ていないのに、市長の名前で出る許可は、権限が動くのか。法律の根拠は要るのか。それが、次の動画の主役、専決です。

前編のまとめ(①指揮監督権は5つ・命じることはできても代行には特別の法律の根拠が要る/②代理と委任は名義・権限の移動・法律の根拠で見分ける/③被告は処分庁の所属主体・変わるのは訴状に書く処分庁) 図:前編のまとめ

  • ①指揮監督権は5つ・命じることはできても代行には特別の法律の根拠が要る
  • ②代理と委任は名義・権限の移動・法律の根拠で見分ける
  • ③被告は処分庁の所属主体・変わるのは訴状に書く処分庁

持ち帰りは3つです。1つ目。指揮監督権は5つ、監視、同意承認、訓令、取消停止、権限争議裁定。命じることはできても、代行には、特別の法律の根拠が要る。2つ目。代理と委任は、名義と、権限の移動と、法律の根拠で見分ける。3つ目。被告は、処分をした行政庁の所属する主体で、変わるのは、訴状に書く処分庁です。次の動画は、専決と代決、そして、機関に座る人の側の法、公務員法です。

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#24単独ページ動画

専決・代決と公務員法の基礎

第2章 行政組織法 ㉔/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

残る1通の許可

3通の名義欄(A=市長/B=課長〔補助機関〕/C=副市長/D=支所長/E=申請者/1通目 A→E=許可〔B が決裁・強調〕/2通目 C→E=許可〔前の動画で回収済み・薄く〕/3通目 D→E=許可〔前の動画で回収済み・薄く〕/問い=1通目は誰がした許可か) 図:3通の名義欄

  • A=市長
  • B=課長〔補助機関〕
  • C=副市長
  • D=支所長
  • E=申請者
  • 1通目 A→E=許可〔B が決裁・強調〕
  • 2通目 C→E=許可〔前の動画で回収済み・薄く〕
  • 3通目 D→E=許可〔前の動画で回収済み・薄く〕
  • 問い=1通目は誰がした許可か

前の動画の3通の許可通知書のうち、2通は片づきました。市長職務代理者の名で出た2通目と、支所長の名で出た3通目です。残るのは、1通目だけです。板の強調された1通を見てください。差出人の欄は、「A市長」です。ところが、実際に決めたのは担当課長で、市長は、書類を見てもいません。それでも通知書には市長の名前が載り、市長の許可として、外に出ました。名義は市長なのに、決めたのは課長という食い違いが、今日の入口です。問いは3つあります。この許可は、法的には誰がしたことになるのか。課長に、権限が移ったのか。そして、課長に任せるのに、法律の根拠は要るのか。答えの形だけ、先に言います。課長が決めても、権限は、市長から動いていません。だから、市長の許可で、法律の根拠も要りません。

今日の2つの問い(①専決とは何か・委任や代理とどこが違うか/②機関に座る人=公務員の法はどこから始まるか) 図:今日の2つの問い

  • ①専決とは何か・委任や代理とどこが違うか
  • ②機関に座る人=公務員の法はどこから始まるか

今日は、2つの問いで進めます。1つ目は、専決とは何か、委任や代理と、どこが違うのか。2つ目は、機関に座って働く人、つまり公務員の法は、どこから始まるのか。以前、職員の多くは補助機関で、自分の名で処分をする権限をもたない、と見ました。その補助機関が決裁をしても、行政庁の名で外に出る仕組み。これを、次の回で扱うと予告しました。それが、これから見る専決です。

専決と代決

専決・代決(専決=補助機関が決裁する・外へは行政庁の名で出る・権限は動かない・法的には行政庁の行為/代決=本来の決裁権者の不在時に指定された者が決裁・事後に報告/どちらも内部の規程で足りる) 図:専決・代決

  • 専決=補助機関が決裁する・外へは行政庁の名で出る・権限は動かない・法的には行政庁の行為
  • 代決=本来の決裁権者の不在時に指定された者が決裁・事後に報告
  • どちらも内部の規程で足りる

まず、なぜこんな仕組みが要るのか。市長が、許可を全部、自分で読んで判断するのは、現実にはできません。ここで、行政庁だけが処分をする、というたてまえと、現場の実態が離れます。そこで、補助機関が決裁をして、外へは行政庁の名で出す、という処理が生まれました。日常の例で言います。店長の名前で出す領収書があるとします。店長が、毎回、自分でハンコを押すわけではありません。経理の担当者が、決められた範囲の領収書に、店長印を押して出します。押す手は経理担当者です。でも、領収書の出し手は、あくまで店長の店です。これが、専決の感覚です。定義を読みます。専決とは、法律で権限を与えられた行政庁の権限を、補助機関が決裁することです。最終的な決裁は補助機関が行いますが、外へは行政庁の名で出て、法的には、本来の権限をもつ行政庁の行為になります。専決は内部委任、代決は内部代理と呼ぶこともあります。ただ、権限が移る本当の委任でも、代理であることを示す本当の代理でもありません。内部の割り振りなので、内部、とつくのです。

決めるのは補助機関でも、権限をもっているのは、行政庁のままだからです。補助機関は、行政庁の代わりに決裁印を押すだけで、権限を受け取ったのではありません。ここが、前の動画の委任との決定的な違いです。

架空の事務決裁規程(例)(第3条 許可の決裁は、別表に掲げる事項について、課長が専決する/第4条 専決権者が不在のときは、あらかじめ指定された者が代決し、事後に報告する/※架空の例) 図:架空の事務決裁規程

  • 例
  • (第3条 許可の決裁は、別表に掲げる事項について、課長が専決する/第4条 専決権者が不在のときは、あらかじめ指定された者が代決し、事後に報告する/※架空の例)

具体的に、A市の決裁規程で考えます。板は、私が作った架空の例です。第3条。許可の決裁は、別表の事項について、課長が専決する。これが専決です。決裁権者と、決裁する事項が、あらかじめ規程で定まっています。第4条は、代決です。専決権者が不在のときは、あらかじめ指定された者が代わって決裁し、事後に報告する。代決は、原則として、本来の決裁権者が不在のときに、直下の近い者が決裁するものです。具体的な事項は、特定されません。冒頭の1通目は、この第3条の型です。許可は、別表の事項で、課長が専決し、市長名で出しました。だから、外から見れば、市長の許可なのです。

理屈の上では、専決は恒常的な処理、代決は不在のときの処理、と分けます。ただ、実務では、不在でなくても、軽微な事案で代決が広く行われています。そのため、違いは相対的で、まとめて、専決・代決と呼ぶのが普通です。試験では、専決・代決の定義を押さえれば足ります。

専決は権限が動かない(専決=補助機関が決裁し外へは行政庁の名/権限は行政庁のまま・法律の根拠は不要・訓令などの内部規程で足りる/権限の配分を法律で決める考え方を貫けば疑問もありうるが、権限が動かない以上、根拠は不要と考えられている) 図:専決は権限が動かない

  • 専決=補助機関が決裁し外へは行政庁の名
  • 権限は行政庁のまま・法律の根拠は不要・訓令などの内部規程で足りる
  • 権限の配分を法律で決める考え方を貫けば疑問もありうるが、権限が動かない以上、根拠は不要と考えられている

次に、法律の根拠です。専決には、法律の根拠は要りません。理由は、権限が動かないからです。権限の配分は、法律が決めています。専決は、その配分を変えず、ハンコを押す手を、内部で割り振っただけです。だから、訓令などの内部の規程で、足ります。権限の配分を法律で決めるという考え方を貫くなら、法律なしの専決は問題になりえます。けれども、権限が動かない以上、法律の根拠までは要らないと考えられています。結論の暗記ではなく、権限が動くか動かないか、そこから導いてください。動かないなら、根拠は要らない。前の動画の、授権代理と同じ筋です。争うときは、どうなるか。専決は、委任のように、処分をする行政庁が変わるわけではありません。ですから、行政救済法の面では、原則として影響がありません。1通目の許可の取消訴訟は、被告がA市で、訴状に書く処分庁は、市長です。被告は、処分をした行政庁の所属する主体、という前の動画の、行政事件訴訟法11条のとおりです。

代決と法定代理の区別が、つまずきどころです。法定代理は、法律が代理人を決めて、代理人であることを示して行います。顕名です。2通目の名義は、市長職務代理者でした。代決は、内部の決裁規程によるもので、外へは、行政庁の名で出ます。臨時に任される授権代理も、代理であることを示すので同じです。名義欄を見れば、区別できます。なお、専決が、例外的に結論に響く場面があります。職員個人の責任が追及される場面です。これは、あとの場面で見ます。

委任・授権代理・専決の見分け

3段の見分け(①名義は誰か→②権限は動いたか→③法律の根拠は要るか/受け取った側の名=委任・もとの行政庁の名=代理か専決〔代理=本人の名+代理である旨(顕名)/専決=行政庁の名だけ〕) 図:3段の見分け

  • ①名義は誰か→②権限は動いたか→③法律の根拠は要るか
  • 受け取った側の名=委任・もとの行政庁の名=代理か専決〔代理=本人の名+代理である旨(顕名)/専決=行政庁の名だけ〕

見分けに入る前に、1問です。前の動画で、委任と授権代理は、どこが違うと言いましたか?委任は権限が移って、法律の根拠が要ります。授権代理は権限が動かないので、根拠が要りません。それを、専決にも広げます。見分け方は、前の動画で先に出した3つの軸を、この順に当てる3段です。1段目、名義は誰か。受け取った側の名なら、委任です。もとの行政庁の名なら、代理か専決です。代理は、本人の名に、代理であることを添えて出します。顕名です。専決は、行政庁の名だけで出ます。2段目、権限は動いたか。委任は動きます。授権代理と専決は動きません。3段目、法律の根拠は要るか。委任は要ります。授権代理と専決は要りません。

委任・授権代理・専決の比較(名義/権限は動くか/法律の根拠/取消訴訟の被告/訴状に書く処分庁/委任=受任庁〔支所長〕・動く・要る・受任庁の所属主体〔A市〕・支所長/授権代理=本人〔市長〕+代理である旨(顕名)・動かない・不要・A市・市長/専決=行政庁〔市長〕の名だけ・動かない・不要・A市・市長/法定代理は名義が本人+代理である旨・権限は動かない・根拠は法律そのもの) 図:委任・授権代理・専決の比較

  • 名義
  • 権限は動くか
  • 法律の根拠
  • 取消訴訟の被告
  • 訴状に書く処分庁
  • 委任=受任庁〔支所長〕・動く・要る・受任庁の所属主体〔A市〕・支所長
  • 授権代理=本人〔市長〕+代理である旨(顕名)・動かない・不要・A市・市長
  • 専決=行政庁〔市長〕の名だけ・動かない・不要・A市・市長
  • 法定代理は名義が本人+代理である旨・権限は動かない・根拠は法律そのもの

比較表です。暗記の中心になります。名義、権限、根拠の3列は、いま見た3段のとおりです。右に2列を足しました。取消訴訟の被告と、訴状に書く処分庁です。法定代理は、授権代理と同じく、名義は本人の名に代理であることを添えた形で、権限は動きません。根拠は、法律そのものです。3つは、同じ軸でつながっています。権限が動くとは、法律が割り振った配分を変えることです。だから、根拠が要ります。動かないなら、持ち主の行政庁が、指揮監督のもとで使うだけです。だから、根拠は要りません。取消訴訟の被告は、委任でも、授権代理でも、専決でも、処分をした行政庁の所属する主体です。ここは、変わりません。変わるのは、訴状に書く処分庁です。委任なら支所長、授権代理と専決なら市長です。

委任と専決は何に基づくか(委任=権限が移る・規則などの法令に基づく・受任庁の名〔例=市の規則で支所長に許可の権限を任せる〕/専決=権限が動かない・訓令など内部の規程で足りる・行政庁の名〔例=市の決裁規程で課長に決裁させる〕) 図:委任と専決は何に基づくか

  • 委任=権限が移る・規則などの法令に基づく・受任庁の名〔例=市の規則で支所長に許可の権限を任せる〕
  • 専決=権限が動かない・訓令など内部の規程で足りる・行政庁の名〔例=市の決裁規程で課長に決裁させる〕

紛らわしい場面を1つ。委任と専決は、何に基づくかも違います。委任は、権限が移るので、規則などの法令に基づきます。専決は、権限が動かないので、決裁規程のような内部の訓令で足ります。市の規則で支所長に許可の権限を任せれば委任、市の決裁規程で課長に決裁させれば専決。名義も、委任は受け取った支所長の名、専決は市長の名です。前の動画の近鉄特急料金の事件のように、権限を移すのに法令の根拠がなければ、受け取った側の処分は無権限で違法になります。専決で根拠が要らないのは、権限が移らないからでした。

見分け練習の5問(①県知事が政令に基づき地方事務所長に許可の権限を任せ所長名で許可/②市長が補助職員に臨時に許可を代理させ「市長代理人」の名義で出した/③決裁規程で毎回課長が決裁し通知は市長名/④局長の不在時に指名された次長が決裁し局長名で通知/⑤市の事務決裁規程〔訓令〕で課長に許可を専決させている場合、権限の配分は動くか) 図:見分け練習の5問

  • ①県知事が政令に基づき地方事務所長に許可の権限を任せ所長名で許可
  • ②市長が補助職員に臨時に許可を代理させ「市長代理人」の名義で出した
  • ③決裁規程で毎回課長が決裁し通知は市長名
  • ④局長の不在時に指名された次長が決裁し局長名で通知
  • ⑤市の事務決裁規程〔訓令〕で課長に許可を専決させている場合、権限の配分は動くか

練習です。名義、権限、根拠の、3つで答えてください。1問目。県知事が、法律の委任を受けた政令に基づいて、地方事務所長に許可の権限を任せ、事務所長の名で許可をした。2問目。市長が、補助職員に、臨時に許可を代理させました。通知は、「市長代理人」の名義です。3問目。決裁規程で、毎回課長が決裁することになっていて、通知は市長名で出ました。4問目。局長が休暇のあいだ、指名された次長が決裁して、局長名で通知しました。5問目。市の事務決裁規程、つまり訓令で、課長が許可を専決することになっています。法令ではない訓令で定めて、権限の配分は動きませんか?

動きません。専決は権限が動かないので、訓令で足ります。法律や規則の根拠は要りません。名義を見る。権限が動いたかを見る。根拠を見る。この3段で、全部答えられました。冒頭の1通目も、同じです。名義は市長、権限は動かず、根拠は不要です。

専決が効いてくる場面

水道事業の専決をめぐる最高裁判決の事案(大阪府の水道事業の管理者/訓令にあたる事務決裁規程で、一件100万円未満の支出は総務課長の専決/総務課長が、開かれない会議接待を仮装して約67万円を支出/住民が管理者個人の責任を問う住民訴訟/争点=専決させていた管理者は、課長の違法な支出で賠償責任を負うか) 図:水道事業の専決をめぐる最高裁判決の事案

  • 大阪府の水道事業の管理者
  • 訓令にあたる事務決裁規程で、一件100万円未満の支出は総務課長の専決
  • 総務課長が、開かれない会議接待を仮装して約67万円を支出
  • 住民が管理者個人の責任を問う住民訴訟
  • 争点=専決させていた管理者は、課長の違法な支出で賠償責任を負うか

専決が、実際に結論に響く場面を、1つ見ます。大阪府の水道事業の事件です。水道事業の管理者の権限に属する支出のうち、1件100万円未満のものは、訓令にあたる事務決裁規程で、総務課長の専決とされていました。ところが、総務課長が、実際には開かれていない会議の接待を仮装して、約67万円の公金を支出させました。そこで、住民が、管理者個人の責任を問う、住民訴訟を起こしました。住民訴訟の仕組み自体は、住民訴訟の回で見ます。今日は、専決との関係だけを見ます。争点は、こうです。専決させていた管理者は、課長の違法な支出について、賠償責任を負うのか。最高裁の答えは、2つに分かれます。1つ目は、管理者が、そもそも住民訴訟で賠償の責任を問われる側、判決の言葉でいう当該職員にあたるか。2つ目は、どんなときに、実際に賠償責任を負うか。読みます。

判例最判平3・12・20

水道事業の専決と管理者の責任(その1) …右財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている以上、右財務会計上の行為の適否が問題とされている当該代位請求住民訴訟において、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するものと解すべきである。そして、右専決を任された補助職員が管理者の権限に属する当該財務会計上の行為を専決により処理した場合は、管理者は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体に対し、右補助職員がした財務会計上の違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である。

骨格を読みます。専決させていても、管理者は、権限を法令上本来的に有している。だから、住民訴訟の当該職員にあたる。ただし、補助職員が専決で違法な行為をした場合、管理者が賠償責任を負うのは、阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意または過失で阻止しなかったときに限る、です。常に負わないわけではありません。阻止すべき義務に違反して、故意か過失があるなら、負います。ここで大事なのは、理由です。続けて読みます。

判例最判平3・12・20

水道事業の専決と管理者の責任(その2) けだし、管理者が右訓令等により法令上その権限に属する財務会計上の行為を特定の補助職員に専決させることとしている場合においては、当該財務会計上の行為を行う法令上の権限が右補助職員に委譲されるものではないが、内部的には、右権限は専ら右補助職員にゆだねられ、右補助職員が常時自らの判断において右行為を行うものとされるのであるから、右補助職員が、専決を任された財務会計上の行為につき違法な専決処理をし、これにより当該普通地方公共団体に損害を与えたときには、右損害は、自らの判断において右行為を行った右補助職員がこれを賠償すべきものであって、管理者は、前記のような右補助職員に対する指揮監督上の帰責事由が認められない限り、右補助職員が専決により行った財務会計上の違法行為につき、損害賠償責任を負うべきいわれはないものというべきだからである。

決め手を整理します。専決では、権限は課長に委譲されません。だから、管理者は、当該職員にあたります。しかし、内部では、実際の判断は課長にゆだねられ、課長が自分の判断でおこなっています。だから、管理者は、指揮監督上の落ち度がなければ、責任を負いません。ここで、最高裁自身が、専決は権限の委譲ではない、と書いています。ここまで見てきた、権限は動かない、という軸が、そのまま判決に出ています。誤読に注意してください。この裁判で訴えられたのは管理者で、課長ではありません。最高裁は、理由の中で、損害は自分の判断で支出した課長が賠償すべきもの、と述べていますが、それは管理者の責任を絞る理由づけで、課長に賠償を命じた判決ではありません。原審を破棄し、管理者に落ち度があったかを審理させるため差し戻しました。現在の条文の形や、職員の責任の議論は、住民訴訟の回で扱います。1問です。専決させていた管理者は、課長の違法な支出について、常に賠償責任を負うでしょうか。

常には負いません。阻止すべき指揮監督上の義務に違反して、故意か過失で阻止しなかったときに限ります。

公務員法の基礎

公務員の種類(国家公務員/地方公務員×一般職/特別職/公務員法は一般職に適用・特別職には原則として適用しない〔国公2条5項・地公4条2項〕/特別職の例=大臣・議員・地方の審議会の非常勤委員など) 図:公務員の種類

  • 国家公務員
  • 地方公務員×一般職
  • 特別職
  • 公務員法は一般職に適用・特別職には原則として適用しない〔国公2条5項・地公4条2項〕
  • 特別職の例=大臣・議員・地方の審議会の非常勤委員など

ここまでは、機関という地位の話でした。ここからは、機関に実際に座って働く人、公務員の法です。入口だけを、骨組みで見ます。公務員は、国家公務員と地方公務員に分かれます。さらに、それぞれ、一般職と特別職があります。特別職は、法律が1つずつ挙げた職で、一般職は、それ以外のすべての職です。公務員法が適用されるのは、一般職です。特別職には、原則として、適用されません。国家公務員法の2条5項を読みます。

条文国家公務員法2条5項

国家公務員法第2条第5項 この法律の規定は、この法律の改正法律により、別段の定がなされない限り、特別職に属する職には、これを適用しない。

骨格は、この法律は、特別職には適用しない、です。特別職の例は、大臣、議員、そして地方では審議会の非常勤の委員などです。地方の審議会の非常勤の委員は、ここに出てきます。なぜ外すのか。大臣は政治の判断で選ばれ、議員は選挙で選ばれます。審議会の委員は、ほかに本業をもったまま務めます。このあと見る、能力の実証で採る任用や、意に反して辞めさせない身分の保障は、こうした職には合いません。だから、公務員法は、一般職に向けて作られています。地方公務員法も、4条2項に同じ型の規定があります。

任用と欠格事由(任用=受験成績・人事評価その他の能力の実証に基づく〔国公33条1項・地公15条〕/欠格事由=拘禁刑以上の刑に処せられ執行を終わるまで等・懲戒免職から2年を経過しない者など〔国公38条・地公16条〕) 図:任用と欠格事由

  • 任用=受験成績・人事評価その他の能力の実証に基づく〔国公33条1項・地公15条〕
  • 欠格事由=拘禁刑以上の刑に処せられ執行を終わるまで等・懲戒免職から2年を経過しない者など〔国公38条・地公16条〕

次に、任用です。公務員の採用や昇任は、受験成績、人事評価、その他の能力の実証に基づいて行います。縁故や好き嫌いではなく、能力で決める。そのための原則です。そして、官職に就く能力をもたない人、つまり欠格事由が決まっています。国家公務員法の38条1項です。

条文国家公務員法38条1項

国家公務員法第38条第1項 次の各号のいずれかに該当する者は、人事院規則で定める場合を除くほか、官職に就く能力を有しない。  一 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者  二 懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者  三 人事院の人事官又は事務総長の職にあつて、第百九条から第百十二条までに規定する罪を犯し、刑に処せられた者  四 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者

1号と2号だけ読みます。拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでの者。懲戒免職の処分を受けて、2年を経過しない者。この2つは、官職に就く能力がありません。3号と4号は、今日は読みません。2号は、あとで、懲戒免職と当然失職を分けるところで効いてきます。覚えておいてください。

服務の義務(全体の奉仕者として勤務・職務に専念〔国公96条1項・地公30条〕/法令に従い上司の職務上の命令に忠実に従う義務〔国公98条1項・地公32条〕/信用失墜行為の禁止〔国公99条〕/秘密を守る義務〔国公100条・地公34条〕/争議行為の禁止〔国公98条2項・地公37条〕) 図:服務の義務

  • 全体の奉仕者として勤務・職務に専念〔国公96条1項・地公30条〕
  • 法令に従い上司の職務上の命令に忠実に従う義務〔国公98条1項・地公32条〕
  • 信用失墜行為の禁止〔国公99条〕
  • 秘密を守る義務〔国公100条・地公34条〕
  • 争議行為の禁止〔国公98条2項・地公37条〕

採用された人には、勤務のしかたの義務があります。服務といいます。全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、職務に専念する。信用を傷つける行為をしない。職務上知った秘密を守る。争議行為をしない。この中で、答案に出てきやすいのが、法令と上司の職務上の命令に従う義務です。国家公務員法の98条1項と、地方公務員法の32条を読みます。

条文国家公務員法98条1項

国家公務員法第98条第1項 職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。

条文地方公務員法32条

地方公務員法第32条 職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。

骨格は、法令に従い、上司の職務上の命令に忠実に従う、です。地方の側は、条例や規則、機関の定める規程まで並びます。守秘義務の中身は、別の回で見ます。ここで、前の動画の、訓令や通達と、職務命令を区別します。訓令や通達は、上級の機関が、下級の機関の権限行使を指揮する命令です。これに対して、職務命令は、上司が、個々の職員に、職務に関して出す命令です。服務の義務の面の話です。2つが重なる場面もあります。通達を受けた校長が、教職員に職務命令を出す場合です。通達や職務命令が処分にあたるかは、別の回で扱います。

おおまかには、宛先が組織か、個々の職員か、で分けてかまいません。

責任追及の3路線(懲戒=勤務秩序の維持のため個別の行為の責任を追及する制裁/分限=懲戒以外の身分の不利益な変動・責任追及の要素なし・制裁ではない/当然失職=処分を介さず当然に職を失う) 図:責任追及の3路線

  • 懲戒=勤務秩序の維持のため個別の行為の責任を追及する制裁
  • 分限=懲戒以外の身分の不利益な変動・責任追及の要素なし・制裁ではない
  • 当然失職=処分を介さず当然に職を失う

公務員が職を失ったり、不利益を受けたりする道は、3つに分かれます。ここが、今日の公務員法の山場です。1つ目、懲戒。勤務秩序を保つために、個別の行為の責任を追及する、制裁です。2つ目、分限。懲戒以外の、身分の不利益な変動です。責任追及の要素はありません。制裁ではありません。3つ目、当然失職。処分を介さず、当然に職を失います。覚え方を、スポーツで言います。懲戒は、反則を取られて退場する。分限は、けがで交代する。当然失職は、そもそも出場資格を失う。反則かどうか、が懲戒と分限の分かれ目です。懲戒の種類は、以前、地方公務員法29条1項で、戒告、減給、停職、免職の4つと見ました。国家公務員法も、同じ4つです。事由を、国家公務員法の82条1項で読みます。

条文国家公務員法82条1項

国家公務員法第82条第1項 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。  一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合  二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合  三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

骨格は、法律に違反した場合、職務上の義務に違反したり職務を怠った場合、国民全体の奉仕者にふさわしくない非行があった場合に、懲戒処分ができる、です。地方公務員法の29条1項も、1号から3号まで同じ型です。どの処分を選ぶかの裁量は、以前、比例原則の回で入口を見ました。その続きは、別の回で扱います。次は、分限です。降任や免職になる事由を、国家公務員法の78条1項で読みます。

条文国家公務員法78条1項

国家公務員法第78条第1項 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、人事院規則の定めるところにより、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。  一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合  二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合  三 その他その官職に必要な適格性を欠く場合  四 官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合

骨格は、勤務実績がよくない、心身の故障で職務に支障がある、適格性を欠く、廃職や過員が生じた。この場合に、本人の意に反して、降任か免職にできる、です。ここに、責任追及の色合いはありません。職務を続けられない事情や、組織の都合です。続けて、休職を、79条1項で読みます。

条文国家公務員法79条1項

国家公務員法第79条第1項 職員が、左の各号の一に該当する場合又は人事院規則で定めるその他の場合においては、その意に反して、これを休職することができる。  一 心身の故障のため、長期の休養を要する場合  二 刑事事件に関し起訴された場合

骨格は、心身の故障で長期の休養が必要なとき、刑事事件で起訴されたときに、本人の意に反して休職にできる、です。起訴されたからといって、職を失うわけではありません。休職です。ただし、懲戒も分限も、法定の事由がなければできません。身分保障の規定を、75条1項で読みます。

条文国家公務員法75条1項

国家公務員法第75条第1項 職員は、法律又は人事院規則で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、休職され、又は免職されることはない。

骨格は、法律か人事院規則で定める事由がなければ、意に反して、降任も休職も免職もされない、です。懲戒でも分限でもない、第3の型が、当然失職です。76条1項を読みます。

条文国家公務員法76条1項

国家公務員法第76条第1項 職員が第三十八条各号(第二号を除く。)のいずれかに該当するに至つたときは、人事院規則で定める場合を除くほか、当然失職する。

骨格は、38条の欠格事由に該当するに至ったとき、2号を除いて、当然失職する、です。先ほどの、拘禁刑以上の刑で執行が終わるまで、が典型です。ここには、処分がありません。法律の定めで、そのまま職を失います。

懲戒免職と分限免職(懲戒免職=制裁・処分の日から2年は官職に就く能力を失う〔国公38条1項2号・地公16条1項2号〕/分限免職=制裁でない・この欠格にならない/当然失職の欠格事由は38条1項2号を除く=懲戒免職は含まれない) 図:懲戒免職と分限免職

  • 懲戒免職=制裁・処分の日から2年は官職に就く能力を失う〔国公38条1項2号・地公16条1項2号〕
  • 分限免職=制裁でない・この欠格にならない
  • 当然失職の欠格事由は38条1項2号を除く=懲戒免職は含まれない

ここで、深く効く区別が1つあります。懲戒免職と分限免職です。どちらも職を失います。でも、懲戒免職は制裁で、処分の日から2年は、官職に就く能力を失います。さっきの38条1項2号です。地方公務員法は16条1項2号で、当該地方公共団体で懲戒免職を受けたとき、です。分限免職は、制裁ではないので、この欠格にはなりません。2号に当たるのは、懲戒免職の処分を受けた人です。その人は、懲戒免職の時点で、もう職を失っています。職に就いたまま2号に当たることは起こらないので、当然失職の事由から外してあるのです。懲戒免職は、処分で職を失い、欠格だけが残る。この流れです。

判別練習の8問(①窓口で扱った個人情報を知人に話した/②上司の職務命令を正当な理由なく無視し続けた/③勤務時間外に飲酒運転をした/④ストライキを行った/⑤長期の病気で職務に支障/⑥刑事事件で起訴された/⑦組織の改廃で職が廃止/⑧拘禁刑に処せられ執行を終わるまで) 図:判別練習の8問

  • ①窓口で扱った個人情報を知人に話した
  • ②上司の職務命令を正当な理由なく無視し続けた
  • ③勤務時間外に飲酒運転をした
  • ④ストライキを行った
  • ⑤長期の病気で職務に支障
  • ⑥刑事事件で起訴された
  • ⑦組織の改廃で職が廃止
  • ⑧拘禁刑に処せられ執行を終わるまで

練習です。懲戒か、分限か、当然失職か。型で答えてください。1問目。窓口で扱った個人情報を、知人に話した。2問目。上司の職務命令を、正当な理由なく無視し続けた。3問目。勤務時間外に、飲酒運転をした。4問目。ストライキを行った。5問目。長期の病気で、職務に支障が出た。6問目。刑事事件で起訴された。7問目。組織の改廃で、職そのものが廃止になった。8問目。拘禁刑に処せられ、その執行を終わるまでの間にある。当然失職です。処分を介さずに、欠格事由に当たるので。制裁か、制裁でない身分の変動か、処分を介さないか。この3つで割れば、迷いません。

3通の最終回収とまとめ

3通の最終回収(①専決:名義=市長・権限は動かない・根拠は不要・被告A市・訴状の処分庁は市長/②法定代理:名義=市長職務代理者・権限は動かない・根拠は法律そのもの・被告A市/③委任:名義=支所長・権限は動く・根拠が要る・被告A市・訴状の処分庁は支所長/権限が動いたのは③だけ・被告は3通ともA市) 図:3通の最終回収

  • ①専決:名義=市長・権限は動かない・根拠は不要・被告A市・訴状の処分庁は市長
  • ②法定代理:名義=市長職務代理者・権限は動かない・根拠は法律そのもの・被告A市
  • ③委任:名義=支所長・権限は動く・根拠が要る・被告A市・訴状の処分庁は支所長/権限が動いたのは③だけ・被告は3通ともA市

冒頭の問いに答えます。1通目の許可は、法的には、市長がした処分です。課長に、権限は移っていません。課長に任せるのに、法律の根拠は要りません。内部の決裁規程で足ります。3通を並べます。1通目は専決。名義は市長、権限は動かず、根拠は不要。2通目は法定代理。名義は市長職務代理者、権限は動かず、根拠は法律そのもの。3通目は委任。名義は支所長、権限は動き、根拠が要る。権限が動いたのは、3通目だけです。そして、被告は、3通ともA市です。

後編のまとめ(①専決=補助機関が決裁・外へは行政庁の名・権限は動かない・根拠不要〔代決は不在時〕②名義・権限・根拠の3段で委任・授権代理・専決を見分ける/専決は権限の委譲ではない〔最高裁〕③懲戒=制裁/分限=制裁でない/当然失職=処分を介さない) 図:後編のまとめ

  • ①専決=補助機関が決裁・外へは行政庁の名・権限は動かない・根拠不要〔代決は不在時〕②名義・権限・根拠の3段で委任・授権代理・専決を見分ける
  • 専決は権限の委譲ではない〔最高裁〕③懲戒=制裁
  • 分限=制裁でない
  • 当然失職=処分を介さない

持ち帰りは3つです。1つ目。専決は、補助機関が決裁し、外へは行政庁の名で出て、権限は動かない。だから、法律の根拠は不要です。代決は、不在のときの処理です。2つ目。名義、権限、根拠の3段で、委任、授権代理、専決を見分ける。最高裁も、専決は権限の委譲ではない、と述べました。3つ目。懲戒は制裁、分限は制裁でない身分の変動、当然失職は処分を介さない。次の動画は、国の行政組織です。内閣と、内閣総理大臣を見ます。

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#25単独ページ動画

内閣と内閣総理大臣

第2章 行政組織法 ㉕/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ日の、総理の3つの場面

同じ日の総理の3つの場面(A=総理/B=閣議〔内閣〕/C=省の大臣/D=内閣府の職員/A→B=閣議で案件を発議する/A→C=閣議で決めた方針に沿って進めてほしいと求める/A→D=事務の運用を命じる通達を出す/問い=3つの権限は同じ肩書きから出ているのか) 図:同じ日の総理の3つの場面

  • A=総理
  • B=閣議〔内閣〕
  • C=省の大臣
  • D=内閣府の職員
  • A→B=閣議で案件を発議する
  • A→C=閣議で決めた方針に沿って進めてほしいと求める
  • A→D=事務の運用を命じる通達を出す
  • 問い=3つの権限は同じ肩書きから出ているのか

ある日の、総理大臣を追いかけます。朝は閣議です。総理は「この法案を、国会に出したい」と、案件を出しました。昼前には、閣議で決まった方針に沿って、総理が省の大臣に「この方針を、進めてほしい」と求めました。午後には、内閣府の職員に向けて、事務の運用を命じる通達を出しました。同じ人が、同じ日に、3つの場面で動いています。同じ総理大臣なんですから、3つとも、同じ権限なんじゃないですか。そう考えたくなります。ところが、3つの権限は、別々の条文から出ています。同じ肩書きの下に、資格が3つ重なっているのです。今日の1問は、これです。総理のこの権限は、どの資格で、どの条文から出ているのか。内閣そのものは、憲法の動画で見ました。今日は、その内閣を、内閣法などの条文から、組織として見直します。

今日の2つの問い(①内閣はどう組み立てられ、総理はどの資格で何ができるか/②内閣を助ける役所〔内閣官房・内閣府・デジタル庁〕は、なぜ省と違う形なのか/おまけ=内閣から独立した会計検査院の位置づけ) 図:今日の2つの問い

  • ①内閣はどう組み立てられ、総理はどの資格で何ができるか
  • ②内閣を助ける役所〔内閣官房・内閣府・デジタル庁〕は、なぜ省と違う形なのか/おまけ=内閣から独立した会計検査院の位置づけ

問いは2つです。1つ目は、内閣はどう組み立てられていて、総理はどの資格で何ができるのか。2つ目は、内閣を助ける役所、つまり内閣官房、内閣府、デジタル庁は、なぜ省とは違う形をしているのか。最後に、内閣から独立している会計検査院も、位置づけだけ見ます。先に、答えの形だけ言います。総理の資格は、3つあります。そして、大臣には、2つの顔があります。この2つを使って、権限の出どころを見分けます。

内閣という機関

内閣の組み立て(合議体=首長たる総理+総理が任命する国務大臣/内閣が職権を行うのは閣議による/各行政機関は内閣の統轄の下/国務大臣の数は本則14人以内・特別に必要なら3人を限度に増やして17人以内) 図:内閣の組み立て

  • 合議体=首長たる総理+総理が任命する国務大臣
  • 内閣が職権を行うのは閣議による
  • 各行政機関は内閣の統轄の下
  • 国務大臣の数は本則14人以内・特別に必要なら3人を限度に増やして17人以内

本編に入る前に、1問です。憲法の動画で見ました。内閣は、誰の集まりで、決定はどうやってするのでしたか?総理大臣と国務大臣の合議体で、閣議で決めます。この2つが、条文でどう書かれているのかを見ます。まず、組織から。内閣法の2条です。

条文内閣法2条

内閣法第2条 内閣は、国会の指名に基づいて任命された首長たる内閣総理大臣及び内閣総理大臣により任命された国務大臣をもつて、これを組織する。 2 前項の国務大臣の数は、十四人以内とする。ただし、特別に必要がある場合においては、三人を限度にその数を増加し、十七人以内とすることができる。

骨格は、内閣は、首長である総理と、総理が任命した国務大臣で組織する、です。首長という言葉の理由は、憲法の動画で見ました。まとめ役の総理に、大臣を任命し罷免する強い権限を集めて、内閣を一体にし、国会への連帯責任を実際に働かせるためでした。人数は、本則で14人以内。特別に必要なら、3人を限度に増やして、17人以内です。国会が指名するのは総理だけで、国務大臣は、総理が任命します。国民から国会へ、国会から総理へ、総理から大臣へ。この線は、あとで1本の図にします。次は、内閣が実際に動く手続です。内閣法の4条です。

条文内閣法4条

内閣法第4条 内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。 2 閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する。この場合において、内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議することができる。 3 各大臣は、案件の如何を問わず、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めることができる。

骨格は3つです。1項、内閣が職権を行うのは閣議による。2項、閣議は総理が主宰して、総理は重要政策の基本方針などの案件を発議できる。3項、各大臣は、どんな案件でも、総理に提出して、閣議を求められる。例で言います。ある大臣が、自分の省の仕事について、内閣として決めてほしいことが出てきました。大臣は、その案件を総理に提出して、閣議を求めます。閣議が開かれ、内閣としての意思が決まります。内閣の職権は、こうして、閣議を通して行われます。憲法の動画で見たとおり、全員一致という言葉は、条文のどこにもありません。長年の実務が積み重ねた慣習です。閣議の決定には、閣議決定と閣議了解という呼び名があります。どちらも、閣議で決まる内閣の意思の呼び名です。試験では、名前を知っていれば足ります。

統轄の下にある行政機関(国家行政組織法2条2項/内閣府設置法5条2項/デジタル庁設置法5条2項=各行政機関は内閣の統轄の下に、相互の調整と連絡を図り、一体として行政機能を発揮する/統轄=総合調整しながら指揮監督すること) 図:統轄の下にある行政機関

  • 国家行政組織法2条2項
  • 内閣府設置法5条2項
  • デジタル庁設置法5条2項=各行政機関は内閣の統轄の下に、相互の調整と連絡を図り、一体として行政機能を発揮する
  • 統轄=総合調整しながら指揮監督すること

次は、内閣と行政機関の関係です。復習です。前の動画で、統轄と所轄は何が違うと言いましたか?統轄は、総合調整しながら指揮監督すること。所轄は、形式上の所属を示すだけで、職権行使への指揮監督は含みません。この統轄が、内閣と各行政機関をつなぐ言葉です。省も、内閣府も、デジタル庁も、内閣の統轄の下で、互いに調整と連絡を図りながら、一体として行政の機能を発揮するものとされています。根拠の条番号は、板にまとめました。

国民から行政までの線(国民が選挙で国会を作る→国会が総理を指名〔憲法67条〕→総理が国務大臣を任免〔68条〕→内閣は国会に連帯責任〔66条3項〕→大臣が各省を分担管理→各省が国民に処分をする/作用の側のコントロール〔法律による行政〕とは別に組織の側にも国民につながる線がある) 図:国民から行政までの線

  • 国民が選挙で国会を作る→国会が総理を指名〔憲法67条〕→総理が国務大臣を任免〔68条〕→内閣は国会に連帯責任〔66条3項〕→大臣が各省を分担管理→各省が国民に処分をする
  • 作用の側のコントロール〔法律による行政〕とは別に組織の側にも国民につながる線がある

ここで、国民から行政までの線を、1本の図にします。国民が選挙で国会をつくり、国会が総理を指名する。総理が国務大臣を任命する。内閣は、国会に連帯責任を負う。大臣が各省を分担管理し、つまり省ごとに仕事を受け持ち、各省が国民に処分をする。これまで見てきた法律による行政は、行政の作用の側から、行政を縛る考え方でした。ところが、行政の組織の側にも、国民につながる線があります。省がする処分は、大臣を通じて内閣につながり、内閣は国会に責任を負い、国会は国民が選んでいます。次の節で見ます。その前に、この仕組みの弱点を1つ。各省が自分の分担管理の事務に強い自律性をもつと、省をまたぐ案件を、誰も調整できなくなります。縦割り行政です。たとえば、会社の事業部が、自分の数字だけを追うと、事業部をまたぐ案件が、誰の仕事でもなくなります。そこで、2001年の中央省庁改革では、内閣を助ける機構を強めて、内閣の側から調整する形にしました。その機構が、あとで見る内閣官房と、内閣府です。

大臣の2つの顔

大臣の2つの顔(国務大臣=内閣の一員として閣議に座る/主任の大臣=役所の長として行政事務を分担管理する〔行政大臣ともいう〕/ほとんどの大臣は両方を兼ねる=国務大臣・行政長官同一人制/憲法74条=法律・政令には主任の国務大臣が署名し総理が連署する) 図:大臣の2つの顔

  • 国務大臣=内閣の一員として閣議に座る
  • 主任の大臣=役所の長として行政事務を分担管理する〔行政大臣ともいう〕
  • ほとんどの大臣は両方を兼ねる=国務大臣・行政長官同一人制
  • 憲法74条=法律・政令には主任の国務大臣が署名し総理が連署する

内閣の次は、内閣を構成する大臣です。大臣には、2つの顔があります。1つ目は、内閣の一員としての顔です。閣議に座って、内閣の意思を一緒に決める立場で、国務大臣といいます。2つ目は、役所の長としての顔です。財務省なら財務省という役所を預かり、その行政事務を管理する立場で、主任の大臣といいます。行政大臣と呼ぶこともあります。会社に置き換えます。取締役が、取締役会のメンバーであると同時に、自分の事業部の責任者でもある形です。取締役会に座る顔と、事業部を預かる顔。この両方を、ほとんどの大臣が兼ねています。これを、国務大臣・行政長官同一人制といいます。名前は板に出しますが、覚えるのは、2つの顔を兼ねる、という中身です。

兼ねさせる理由は、内閣で決めた方針が、役所の運用に届くようにするためです。もし役所の長が、内閣の外の人なら、閣議で決めたことと、役所の現場の動きが、離れてしまいます。内閣の一員が役所の長を務めるから、政治の決定が、行政の現場へそのまま届くのです。条文で確かめます。内閣法の3条です。

条文内閣法3条

内閣法第3条 各大臣は、別に法律の定めるところにより、主任の大臣として、行政事務を分担管理する。 2 前項の規定は、行政事務を分担管理しない大臣の存することを妨げるものではない。

骨格は、各大臣は、主任の大臣として、行政事務を分担管理する、です。分担管理とは、役所ごとに仕事を分けて、それぞれの大臣が管理する、という意味です。これを、分担管理原則といいます。2項は、分担管理しない大臣がいてもよい、と言っています。役所を預からず、閣議にだけ出る大臣。これを、無任所大臣と呼びます。省の場合は、国家行政組織法の5条が、長を決めています。1項と3項を読みます。2項は、各省大臣が自分の省に関わる重要政策の企画や総合調整も担う、という定めです。今日は、読みません。

条文国家行政組織法5条

国家行政組織法第5条 各省の長は、それぞれ各省大臣とし、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣として、それぞれ行政事務を分担管理する。 2 各省大臣は、前項の規定により行政事務を分担管理するほか、それぞれ、その分担管理する行政事務に係る各省の任務に関連する特定の内閣の重要政策について、当該重要政策に関して閣議において決定された基本的な方針に基づいて、行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務を掌理する。 3 各省大臣は、国務大臣のうちから、内閣総理大臣が命ずる。ただし、内閣総理大臣が自ら当たることを妨げない。

骨格は、各省の長は各省大臣で、内閣法にいう主任の大臣として、行政事務を分担管理する。各省大臣は、国務大臣のうちから総理が命じる。ただし、総理が自ら当たってもよい、です。つまり、各省大臣は、必ず国務大臣です。そして、総理が財務大臣を自分で兼ねることも、条文の上でできます。憲法の動画で、総理の連署として、74条に触れました。74条では、法律と政令に、主任の国務大臣が署名し、総理が連署します。署名をするのは、役所の長の顔です。憲法の動画のとおり、署名と連署は、その法律の執行に責任を持つ人をはっきりさせるためのものでした。執行を担うのは、主任の大臣が預かる役所だからです。総理は、内閣の首長として、署名に並べて名前を書きます。これが連署です。

総理は、全部の省に命令できるんでしょうか。そこが、次の節の話です。もし総理が、一人で、どの省にも何でも命令できるなら、役所ごとに分担管理する意味が崩れます。逆に、総理に何もできないなら、内閣は一体になれません。この釣り合いをとる条文が、次の節の内閣法6条です。

練習:大臣の顔を見分ける(①財務大臣/②役所を預からず閣議にだけ出る大臣/③総理が財務大臣も自分で兼ねる/答え方=国務大臣だけ・主任の大臣も兼ねる) 図:練習:大臣の顔を見分ける

  • ①財務大臣
  • ②役所を預からず閣議にだけ出る大臣
  • ③総理が財務大臣も自分で兼ねる/答え方=国務大臣だけ・主任の大臣も兼ねる

練習です。国務大臣だけか、主任の大臣も兼ねているか、で答えてください。1つ目。財務大臣は、どうでしょう。閣議にも出るし、財務省の長でもあるので、両方を兼ねています。2つ目。特定の役所を預からず、閣議にだけ出る大臣は?国務大臣だけです。無任所大臣ですね。3つ目。総理が、財務大臣も自分で兼ねることは、できますか?国家行政組織法5条3項のただし書で、できます。国務大臣ではない人が各省大臣になることはなく、各省大臣は、必ず国務大臣の中から選ばれます。

総理の3つの資格

総理の3つの資格(資格=内閣の首長/行政各部を指揮監督する立場/内閣府〔とデジタル庁〕の長/権限の例=首長は国務大臣の任免・閣議の主宰と発議・内閣を代表して議案を国会に提出/指揮監督は閣議にかけて決定した方針に基づく指揮監督・権限争議の裁定・処分や命令の中止/内閣府の長は内閣府の事務の統括・内閣府令・訓令と通達/条文=憲法66条1項・68条・内閣法4条2項・5条/憲法72条・内閣法6条・7条・8条/内閣府設置法6条・7条・デジタル庁設置法6条・7条) 図:総理の3つの資格

  • 資格=内閣の首長
  • 行政各部を指揮監督する立場
  • 内閣府〔とデジタル庁〕の長
  • 権限の例=首長は国務大臣の任免・閣議の主宰と発議・内閣を代表して議案を国会に提出
  • 指揮監督は閣議にかけて決定した方針に基づく指揮監督・権限争議の裁定・処分や命令の中止
  • 内閣府の長は内閣府の事務の統括・内閣府令・訓令と通達
  • 条文=憲法66条1項・68条・内閣法4条2項・5条
  • 憲法72条・内閣法6条・7条・8条
  • 内閣府設置法6条・7条・デジタル庁設置法6条・7条

ここから、今日の山場です。総理の権限を、3つの資格に分けて見ます。板の3列です。1つ目、内閣の首長。2つ目、行政各部を指揮監督する立場。3つ目、内閣府、それからデジタル庁の長。暗記する中心は、この3つの資格です。権限の条文は、その資格の根拠として、あとから付いてきます。憲法の動画では、総理の権限は、どれも首長という一本の理由から出ている、と見ました。今日の3つは、その理由ではなく、根拠の条文で分けた区別です。1つ目の首長は、憲法の動画で見たので、確認だけにします。首長としての総理は、国務大臣を任命し、罷免します。閣議を主宰して、案件を発議します。内閣を代表して、議案を国会に提出します。どれも、内閣という合議体をまとめる役割です。2つ目が、行政各部の指揮監督です。憲法72条のとおり、総理は、内閣を代表して、行政各部を指揮監督します。条文を見ます。内閣法の6条です。

条文内閣法6条

内閣法第6条 内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する。

行政各部の指揮監督(内閣法6条=閣議にかけて決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督する/縛りの理由=合議体の内閣と各大臣の分担管理を崩さない/7条=主任の大臣の間の権限争議は総理が閣議にかけて裁定/8条=行政各部の処分や命令を中止させ内閣の処置を待つ/方針が無いとき=内閣の明示の意思に反しない限り指導・助言等の指示ができる〔最大判平7・2・22〕・ただし事実上の指示にとどまる) 図:行政各部の指揮監督

  • 内閣法6条=閣議にかけて決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督する
  • 縛りの理由=合議体の内閣と各大臣の分担管理を崩さない
  • 7条=主任の大臣の間の権限争議は総理が閣議にかけて裁定
  • 8条=行政各部の処分や命令を中止させ内閣の処置を待つ
  • 方針が無いとき=内閣の明示の意思に反しない限り指導・助言等の指示ができる〔最大判平7・2・22〕・ただし事実上の指示にとどまる

総理は、閣議にかけて決定した方針に基づいて、行政各部を指揮監督する、です。この、閣議にかけて決定した方針に基づいて、という縛りに注目します。さきほどの釣り合いが、答えです。内閣は合議体で、各大臣は役所を分担管理しています。総理が閣議を通さず、自分の考えだけで各省に命令できるなら、合議体の意味も、分担管理の意味も崩れます。そこで、内閣全体で決めた方針に基づいて、という縛りを置きました。閣議で、ある政策の方針が決まったとします。総理は、その方針に沿って、関係する省の大臣に、進めるよう求められます。冒頭の2つ目の場面は、これです。前の動画で見た、内閣法の7条と8条も、この資格の権限です。指揮監督権の5つでいえば、7条は権限争議裁定権で、大臣どうしの権限の争いを、総理が閣議にかけて裁定する。8条は取消停止権の仲間で、行政各部の処分や命令を中止させて、内閣の処置を待つ。8条の最後に注目してください。総理は、中止させるだけで、あとは内閣の処置を待ちます。一人で結論を出さず、最後は内閣の判断へ戻す形になっています。

憲法の動画で見た、ロッキード事件の最高裁判決が、この問いに答えています。方針が無くても、内閣の明示の意思に反しない限り、総理は行政各部に、指導や助言などの指示を与える権限をもつ、と判断しました。首長として内閣をまとめる総理が、変わり続ける行政の需要に、遅れずに応じられるようにするためです。ただし、6条の指揮監督とは、法的な強さが違います。憲法の動画で見たとおり、6条の指揮監督には、主任の大臣が従う法的な義務がありますが、方針が無いときの指導や助言は、事実上の指示にとどまります。ここは、論文で論点になりうる部分です。この指示の向き先は、行政各部です。民間の事業者への働きかけが、どこまで許されるかは、行政指導の回で扱います。また、行政事件訴訟で、執行停止に対して総理が異議を述べる権限も、総理の権限のひとつですが、これは別の回で扱います。

内閣府の長としての総理(内閣府の長=総理〔内閣府設置法6条〕/デジタル庁の長=総理〔デジタル庁設置法6条〕/省の長=各省大臣〔国家行政組織法5条1項〕/つまずき=内閣の首長〔憲法66条1項〕と内閣府の長は別の資格・根拠の条文が違う) 図:内閣府の長としての総理

  • 内閣府の長=総理〔内閣府設置法6条〕
  • デジタル庁の長=総理〔デジタル庁設置法6条〕
  • 省の長=各省大臣〔国家行政組織法5条1項〕
  • つまずき=内閣の首長〔憲法66条1項〕と内閣府の長は別の資格・根拠の条文が違う

3つ目は、内閣府の長としての資格です。ここで、つまずきを先に言います。総理は、内閣の首長です。そして、同時に、内閣府の長でもあります。この2つは別の資格で、根拠の条文も違います。首長は、憲法66条1項。内閣府の長は、内閣府設置法の6条です。

条文内閣府設置法6条

内閣府設置法第6条 内閣府の長は、内閣総理大臣とする。 2 内閣総理大臣は、内閣府に係る事項についての内閣法にいう主任の大臣とし、第四条第三項に規定する事務を分担管理する。

骨格は、内閣府の長は総理で、総理は内閣府について、内閣法にいう主任の大臣となる、です。さきほどの2つの顔でいえば、総理は、内閣府という役所の、主任の大臣です。次に、7条1項です。

条文内閣府設置法7条1項

内閣府設置法第7条第1項 内閣総理大臣は、内閣府の事務を統括し、職員の服務について統督する。

総理は、内閣府の事務を統括し、職員の服務について統督します。統括は、事務をまとめて取り仕切ること。服務は、職員としての勤めぶり、統督は、それをまとめて監督することです。ほかにも、内閣府の所掌事務について、内閣府令、つまり、省でいう省令にあたる内閣府の命令を出したり、所管の機関や職員に、訓令や通達を出したりできます。冒頭の3つ目の場面、内閣府の職員に事務の運用を命じる通達は、この資格です。デジタル庁も同じ型で、デジタル庁の長も総理です。省の長は各省大臣、内閣府とデジタル庁の長は総理です。ここが、省との大きな違いです。なぜそうなっているのかは、次の節で見ます。

練習:6つの行為を3つの資格に振り分ける(①閣議で案件を発議する/②国務大臣を罷免する/③閣議で決めた方針に沿って省の大臣に実施を求める/④2つの省の大臣の権限争いを閣議にかけて裁定する/⑤内閣府の事務について内閣府令を出す/⑥内閣府の職員に訓令を出す/答え方=首長・指揮監督・内閣府の長) 図:練習:6つの行為を3つの資格に振り分ける

  • ①閣議で案件を発議する
  • ②国務大臣を罷免する
  • ③閣議で決めた方針に沿って省の大臣に実施を求める
  • ④2つの省の大臣の権限争いを閣議にかけて裁定する
  • ⑤内閣府の事務について内閣府令を出す
  • ⑥内閣府の職員に訓令を出す/答え方=首長・指揮監督・内閣府の長

練習です。6つの行為を、首長、指揮監督、内閣府の長、のどれかで答えてください。まず1つ目。閣議で案件を発議する。2つ目。国務大臣を罷免する。3つ目。閣議で決めた方針に沿って、省の大臣に実施を求める。4つ目。2つの省の大臣の、権限の争いを、閣議にかけて裁定する。5つ目。内閣府の事務について、内閣府令を出す。6つ目。内閣府の職員に、訓令を出す。全部、正解です。1つ目と2つ目は首長、3つ目と4つ目は指揮監督、そして5つ目と6つ目は内閣府の長です。行為を見たら、まず資格を決める。それから、その資格の条文を引く。この順番が、答案でも使えます。

内閣を補助する機構

内閣を助ける機構の入口(省=自分の事務を分担管理する/内閣官房・内閣府・デジタル庁=内閣の側で企画・調整を助ける/縦割り行政への対応として内閣の機能を強化) 図:内閣を助ける機構の入口

  • 省=自分の事務を分担管理する
  • 内閣官房・内閣府・デジタル庁=内閣の側で企画・調整を助ける
  • 縦割り行政への対応として内閣の機能を強化

次は、2つ目の問いです。内閣を助ける機構を見ます。内閣は、閣僚の会議体です。日々の企画や調整を担う手足が、要ります。省は、自分の事務を分担管理するだけです。さきほどの会社でいえば、事業部をまたぐ案件のために、社長の横に、事業部を横断して調整する社長室を置く形です。内閣官房と内閣府は、この社長室にあたります。さきほどの縦割り行政への対応です。最初は、内閣官房です。内閣法の12条1項と、13条です。

条文内閣法12条1項

内閣法第12条第1項 内閣に、内閣官房を置く。

内閣に、内閣官房を置く、です。長については、13条です。

条文内閣法13条

内閣法第13条 内閣官房に内閣官房長官一人を置く。 2 内閣官房長官は、国務大臣をもつて充てる。 3 内閣官房長官は、内閣官房の事務を統轄し、所部の職員の服務につき、これを統督する。

骨格は、内閣官房の長は内閣官房長官で、国務大臣が充てられる。官房長官は、内閣官房の事務を統轄し、職員の服務を統督する、です。ここでは、内閣官房の事務をまとめて取り仕切る、という意味です。

内閣官房(内閣法12条=内閣に置く/12条2項=閣議事項の整理その他内閣の庶務・重要政策の基本方針の企画立案と総合調整・各省の施策の統一のための企画立案と総合調整ほか/長=内閣官房長官〔国務大臣〕/内閣人事局=内閣官房に置かれ幹部職員の人事を一元的に管理/内閣官房の中の局や官は改正のたびに増える=列挙しない) 図:内閣官房

  • 内閣法12条=内閣に置く
  • 12条2項=閣議事項の整理その他内閣の庶務・重要政策の基本方針の企画立案と総合調整・各省の施策の統一のための企画立案と総合調整ほか
  • 長=内閣官房長官〔国務大臣〕
  • 内閣人事局=内閣官房に置かれ幹部職員の人事を一元的に管理
  • 内閣官房の中の局や官は改正のたびに増える=列挙しない

内閣官房の仕事は、板のとおりです。閣議事項の整理や、内閣の庶務。重要政策の基本方針の、企画立案と総合調整。各省の施策を統一するための、企画立案と総合調整。内閣官房の仕事は、内閣の側からの調整です。危機管理、安全保障、情報、サイバー、人事などの部署が置かれています。ただ、改正のたびに増えているので、個々の名前は覚えなくて構いません。ひとつだけ、内閣人事局は押さえてください。内閣官房に置かれて、幹部職員の人事を、一元的に管理します。幹部の人事を、省ごとではなく内閣の側でまとめて扱うことで、縦割りを、人事の面から調整する仕組みです。

内閣に置かれる、ほかの機関(内閣法制局=内閣に置かれ法律案・政令案の審査ほかを行う〔内閣法制局設置法1条・3条〕/国家安全保障会議=内閣に置かれ安全保障の重要事項を審議〔同会議設置法1条〕/国家情報会議=内閣に置かれる〔国家情報会議設置法2条〕/人事院=内閣の所轄の下〔国家公務員法3条1項〕) 図:内閣に置かれる、ほかの機関

  • 内閣法制局=内閣に置かれ法律案・政令案の審査ほかを行う〔内閣法制局設置法1条・3条〕
  • 国家安全保障会議=内閣に置かれ安全保障の重要事項を審議〔同会議設置法1条〕
  • 国家情報会議=内閣に置かれる〔国家情報会議設置法2条〕
  • 人事院=内閣の所轄の下〔国家公務員法3条1項〕

内閣には、ほかにも機関が置かれています。内閣法制局は、法律案や政令案の審査などを行います。国家安全保障会議は、安全保障の重要事項を審議します。国家情報会議も、内閣に置かれます。これらは、名前と位置づけを知っておけば足ります。もうひとつ、人事院は、内閣の所轄の下に置かれます。所轄は、前の動画の語です。人事院は、節の最後に、もう一度見ます。次は、内閣府です。条文は、2条と3条1項です。

条文内閣府設置法2条

内閣府設置法第2条 内閣に、内閣府を置く。

内閣に、内閣府を置く、です。任務は、3条1項です。

条文内閣府設置法3条1項

内閣府設置法第3条第1項 内閣府は、内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることを任務とする。

内閣府の任務は、内閣の重要政策に関する、内閣の事務を助けることです。ここで、言葉を2つ使います。内閣を助ける仕事を、内閣補助事務。内閣府が自分の役所として預かる仕事を、分担管理事務と呼びます。

内閣府の二本立て(内閣補助事務=内閣の重要政策に関する内閣の事務を助ける〔内閣府設置法3条1項〕/分担管理事務=内閣府が自分の事務として分担管理する〔設置法3条2項・4条3項=栄典や公式制度など国として行うべき事務など〕/所掌は改正が頻繁=列挙しない/長・主任の大臣は総理) 図:内閣府の二本立て

  • 内閣補助事務=内閣の重要政策に関する内閣の事務を助ける〔内閣府設置法3条1項〕
  • 分担管理事務=内閣府が自分の事務として分担管理する〔設置法3条2項・4条3項=栄典や公式制度など国として行うべき事務など〕
  • 所掌は改正が頻繁=列挙しない
  • 長・主任の大臣は総理

内閣府は、二本立てです。ひとつは、内閣を助ける顔。もうひとつは、自分の役所の仕事を預かる顔。後者は、たとえば栄典や公式制度のような、国として行うべき事務です。内閣府の所掌は、改正が多いので、板でも並べません。覚えるのは、二本立てという形です。省は、自分の事務を分担管理するだけでしたよね。内閣府は、省と同じ仲間じゃないんですか。そこが、2つ目の問いの核心です。国家行政組織法の1条を見ます。

条文国家行政組織法1条

国家行政組織法第1条 この法律は、内閣の統轄の下における行政機関で内閣府及びデジタル庁以外のもの(以下「国の行政機関」という。)の組織の基準を定め、もつて国の行政事務の能率的な遂行のために必要な国家行政組織を整えることを目的とする。

この法律が対象にする行政機関は、内閣の統轄の下にある行政機関のうち、内閣府とデジタル庁以外のものです。つまり、内閣府とデジタル庁は、原則として、国家行政組織法の外に置かれています。理由は、内閣府が、省と横並びの役所ではないからです。国家行政組織法は、省や委員会や庁のように、自分の事務を分担管理する役所に、共通の組織の基準を決める法律です。内閣府も、分担管理事務を持ちます。ただ、主な仕事は、内閣の側に立って、省どうしの調整を助けることです。調整される側の省と同じ基準で作ると、内閣府も、省の一つとして横に並んでしまいます。社長室を、事業部の一つとしては作らないのと同じです。そこで、内閣を助ける性格を重視して、省と同じ組織の基準には入れませんでした。デジタル庁も、同じ考え方です。近く、ここは変わります。11月2日から、防災を担う防災庁が、内閣に置かれます。国家行政組織法1条も、内閣府、デジタル庁及び防災庁以外のもの、という文言になります。今見た条文は、施行前の今の文言です。11月2日からは、防災庁を加えた新しい文言で答えます。防災庁の長と主任の大臣も、総理になります。内閣府の運営も見ておきます。実際の事務の統括は、官房長官が、総理の指示を受けて行います。さきほどの、総理の統括を、官房長官が、総理の指示を受けて実際に動かす、という関係です。また、特命担当大臣という職があります。重要政策のために特に必要があるときに、総理が内閣府に置く職で、国務大臣が充てられます。特命担当大臣は、総理を助けて事務を掌理し、つまり受け持って取り仕切り、関係する行政機関の長に、資料の提出を求めたり、勧告をしたりできます。

重要政策に関する会議も、内閣府に置かれます。経済財政諮問会議と、総合科学技術・イノベーション会議です。どちらも、議長は総理です。名前だけ、知っておいてください。特命担当大臣が、内閣府の主任の大臣なんですか。違います。ここは間違えやすい点です。内閣府の主任の大臣は、総理です。設置法の6条2項のとおりです。特命担当大臣は、総理を助けて、その指示を受けて事務を掌理する職です。主任の大臣とは、別です。

デジタル庁(内閣府と同じ型/デジタル庁設置法2条=内閣に置く/3条1号=デジタル社会の形成に関する内閣の事務を内閣官房と共に助ける〔内閣補助事務〕/3条2号=行政事務の迅速かつ重点的な遂行〔分担管理事務〕/長・主任の大臣は総理〔6条〕/デジタル庁令〔7条3項〕/デジタル大臣〔8条=国務大臣〕) 図:デジタル庁

  • 内閣府と同じ型
  • デジタル庁設置法2条=内閣に置く
  • 3条1号=デジタル社会の形成に関する内閣の事務を内閣官房と共に助ける〔内閣補助事務〕
  • 3条2号=行政事務の迅速かつ重点的な遂行〔分担管理事務〕
  • 長・主任の大臣は総理〔6条〕
  • デジタル庁令〔7条3項〕
  • デジタル大臣〔8条=国務大臣〕

デジタル庁も、同じ型です。条文は、2条と6条です。

条文デジタル庁設置法2条

デジタル庁設置法第2条 内閣に、デジタル庁を置く。

内閣に、デジタル庁を置く、です。長は、6条です。

条文デジタル庁設置法6条

デジタル庁設置法第6条 デジタル庁の長は、内閣総理大臣とする。 2 内閣総理大臣は、デジタル庁に係る事項についての内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣とし、第四条第二項に規定する事務を分担管理する。

骨格は、デジタル庁の長は総理で、総理が主任の大臣になる、です。任務は、3条に2つあります。1号が、デジタル社会の形成に関する内閣の事務を、内閣官房と共に助けること。これが内閣補助事務です。2号が、デジタル社会の形成に関する行政事務の、迅速で重点的な遂行。これが分担管理事務です。内閣府と同じ、二本立てです。注意が1つあります。デジタル庁は、国家行政組織法の庁、つまり、省の外局として置かれる庁とは違います。外局は、省に属しながら、省の内部の局とは別に、ある程度独立して仕事をする組織です。外局の庁は、省の下にあります。デジタル庁は、内閣に置かれます。ほかの庁との違いは、次の動画で見ます。

内閣を助ける機構の比較(内閣官房=設置の根拠は内閣法12条/長は内閣官房長官〔国務大臣〕/国組法の対象ではない〔内閣法が定める内閣の補助部局〕・内閣府=内閣府設置法2条/長は総理〔6条1項〕/内閣府令〔7条3項〕/国組法の対象外・デジタル庁=デジタル庁設置法2条/長は総理〔6条1項〕/デジタル庁令〔7条3項〕/国組法の対象外・省=各省設置法・国組法3条/長は各省大臣〔国組法5条1項〕/省令/国組法の対象) 図:内閣を助ける機構の比較

  • 内閣官房=設置の根拠は内閣法12条
  • 長は内閣官房長官〔国務大臣〕
  • 国組法の対象ではない〔内閣法が定める内閣の補助部局〕・内閣府=内閣府設置法2条
  • 長は総理〔6条1項〕
  • 内閣府令〔7条3項〕
  • 国組法の対象外・デジタル庁=デジタル庁設置法2条
  • 長は総理〔6条1項〕
  • デジタル庁令〔7条3項〕
  • 国組法の対象外・省=各省設置法・国組法3条
  • 長は各省大臣〔国組法5条1項〕
  • 省令
  • 国組法の対象

比較表で整理します。内閣官房は、内閣法12条を根拠にして、長は官房長官。国家行政組織法の対象ではなく、内閣法が定める内閣の補助部局です。内閣府は、内閣府設置法2条。長は総理で、命令の名は内閣府令。国家行政組織法の対象外です。デジタル庁は、デジタル庁設置法2条。長は総理で、命令の名はデジタル庁令。同じく対象外です。一方、省は、各省設置法と、国家行政組織法3条を根拠にして、長は各省大臣。命令の名は省令。国家行政組織法の対象です。3条2項は、行政機関という言葉の意味を見た回で、一度読みました。

練習:条文の置き場所(①内閣府に特命担当大臣を置けるという定め/②デジタル庁が内閣に置かれるという定め/③内閣府に外局として委員会や庁を置けるという定め/答え方=国家行政組織法か・内閣府設置法か・デジタル庁設置法か/条番号まで暗記する問いではない) 図:練習:条文の置き場所

  • ①内閣府に特命担当大臣を置けるという定め
  • ②デジタル庁が内閣に置かれるという定め
  • ③内閣府に外局として委員会や庁を置けるという定め/答え方=国家行政組織法か・内閣府設置法か・デジタル庁設置法か/条番号まで暗記する問いではない

練習です。どの法律に書いてあるかで、答えてください。国家行政組織法か、内閣府設置法か、デジタル庁設置法か。1つ目。内閣府に、特命担当大臣を置けるという定めは?内閣府設置法です。2つ目。デジタル庁が、内閣に置かれるという定めは?デジタル庁設置法です。2条でした。3つ目。内閣府に、外局として委員会や庁を置けるという定めは?内閣府設置法は、国家行政組織法に当たる、外局の組織の基準も、自分で定めています。外局の中身は、次の動画で見ます。

内閣から独立した会計検査院

会計検査院(憲法90条=決算は会計検査院が検査・組織と権限は法律で定める/会計検査院法1条=内閣に対し独立の地位を有する/2条=3人の検査官の検査官会議と事務総局/4条1項=検査官は両議院の同意を経て内閣が任命/20条1項=決算の検査のほか法律に定める会計の検査) 図:会計検査院

  • 憲法90条=決算は会計検査院が検査・組織と権限は法律で定める
  • 会計検査院法1条=内閣に対し独立の地位を有する
  • 2条=3人の検査官の検査官会議と事務総局
  • 4条1項=検査官は両議院の同意を経て内閣が任命
  • 20条1項=決算の検査のほか法律に定める会計の検査

最後に、内閣の統轄にも、所轄にも入らない機関を、ひとつ見ます。会計検査院です。行政機関の回でも、憲法に書かれた機関として、内閣と並んで名前が出ました。憲法の動画で、決算の検査を見ました。憲法90条は、決算を誰が検査すると書いていましたか?会計検査院です。組織と権限は、法律で定める、とありました。条文を見ます。

条文日本国憲法90条

日本国憲法第90条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。 2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。

決算を検査するのは会計検査院で、内閣は、検査報告とともに決算を国会に提出する。組織と権限は、法律で定める、です。その法律が、会計検査院法です。1条を読みます。

条文会計検査院法1条

会計検査院法第1条 会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する。

会計検査院は、内閣に対し、独立の地位を有する、です。なぜ独立なのか。決算の検査は、予算を使った側のお金の使い方を、調べる仕事です。予算を執行するのは、内閣と、その統轄の下の行政機関です。調べられる側の統轄の下に、調べる機関がいたら、検査の中立は保てません。自分の財布を、自分で監査するようなものです。組織と権限は、名前と位置づけまでで足ります。3人の検査官で構成する検査官会議と、事務総局で組織されます。検査官は、両議院の同意を経て、内閣が任命します。決算の検査のほか、法律に定める会計の検査も行います。ここで、さっき後回しにした人事院です。国家公務員法の3条1項です。

条文国家公務員法3条1項

国家公務員法第3条第1項 内閣の所轄の下に人事院を置く。人事院は、この法律に定める基準に従つて、内閣に報告しなければならない。

内閣の所轄の下に、人事院を置く、です。1問です。人事院が内閣の所轄の下に置かれているとき、内閣は、人事院の個々の判断まで、指揮監督できるでしょうか?できません。所轄は、形式上の所属で、職権行使への指揮監督は含まないからです。ここまでの3つの距離を、板に並べます。

内閣との3つの距離(内閣の統轄の下=省・内閣府・デジタル庁〔総合調整しながら指揮監督する〕/内閣の所轄の下=人事院〔形式上は内閣の下・職権の行使は独立〕/内閣に対し独立=会計検査院〔会計検査院法1条・憲法90条〕/独立行政委員会・行政審判は別の回) 図:内閣との3つの距離

  • 内閣の統轄の下=省・内閣府・デジタル庁〔総合調整しながら指揮監督する〕
  • 内閣の所轄の下=人事院〔形式上は内閣の下・職権の行使は独立〕
  • 内閣に対し独立=会計検査院〔会計検査院法1条・憲法90条〕
  • 独立行政委員会・行政審判は別の回

1つ目、内閣の統轄の下。省と、内閣府と、デジタル庁です。内閣は、総合調整もし、指揮監督もします。2つ目、内閣の所轄の下。人事院です。形式の上では、内閣の下ですが、職権の行使は独立しています。そして3つ目、内閣に対し独立。会計検査院です。内閣の下にさえ、入りません。独立行政委員会や、行政審判は、別の回で扱います。

3つの場面の回収とまとめ

冒頭の3つの場面を資格に戻す(A=閣議で案件を発議する→内閣の首長〔内閣法4条2項〕/B=閣議で決めた方針に沿って大臣に求める→行政各部の指揮監督者〔内閣法6条〕/C=内閣府の職員に通達を出す→内閣府の長〔内閣府設置法7条〕/同じ総理でも権限の出どころは3つ) 図:冒頭の3つの場面を資格に戻す

  • A=閣議で案件を発議する→内閣の首長〔内閣法4条2項〕
  • B=閣議で決めた方針に沿って大臣に求める→行政各部の指揮監督者〔内閣法6条〕
  • C=内閣府の職員に通達を出す→内閣府の長〔内閣府設置法7条〕
  • 同じ総理でも権限の出どころは3つ

冒頭の、3つの場面に戻ります。閣議で案件を発議するのは、内閣の首長としての資格で、根拠は内閣法4条2項でした。閣議で決めた方針に沿って、大臣に求めるのは、行政各部の指揮監督者としての資格で、根拠は内閣法6条でした。内閣府の職員に通達を出すのは、内閣府の長としての資格で、根拠は内閣府設置法の7条でした。同じ総理でも、権限の出どころは、3つに分かれていました。肩書きではなく、どの資格で動いたのかを見る。これが、今日の答えです。

今日のまとめ(①総理の3つの資格=内閣の首長/行政各部の指揮監督者〔内閣法6条の閣議にかけて決定した方針〕/内閣府・デジタル庁の長/②大臣の2つの顔=国務大臣〔内閣の一員〕と主任の大臣〔役所の長・分担管理〕/③内閣官房・内閣府・デジタル庁は内閣を助ける機構・内閣府とデジタル庁は国組法の外で長は総理・会計検査院は内閣に対し独立) 図:今日のまとめ

  • ①総理の3つの資格=内閣の首長/行政各部の指揮監督者〔内閣法6条の閣議にかけて決定した方針〕/内閣府・デジタル庁の長
  • ②大臣の2つの顔=国務大臣〔内閣の一員〕と主任の大臣〔役所の長・分担管理〕
  • ③内閣官房・内閣府・デジタル庁は内閣を助ける機構・内閣府とデジタル庁は国組法の外で長は総理・会計検査院は内閣に対し独立

持ち帰りは、3つです。1つ目。総理の資格は3つ。内閣の首長、行政各部の指揮監督者、内閣府とデジタル庁の長。指揮監督は、閣議にかけて決定した方針に基づきます。2つ目。大臣には2つの顔があります。内閣の一員としての国務大臣と、役所の長としての主任の大臣です。3つ目。内閣官房、内閣府、デジタル庁は、内閣を助ける機構です。内閣府とデジタル庁は、原則として国家行政組織法の外にあり、長は総理で、内閣を助ける仕事と自分の役所の仕事の二本立てです。会計検査院は、内閣に対し独立しています。次の動画は、国の行政組織の続きで、省、委員会、庁です。今日、国家行政組織法の外と言った内閣府と見比べながら、国家行政組織法の中の組織を見ます。

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#26単独ページ動画

省・委員会・庁

第2章 行政組織法 ㉖/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

法務省の周りの5つの名前

法務省の周りの5つの名前(A=法務省/B=公安調査庁/C=検察庁/D=司法試験委員会/E=東京法務局/表にもう1つ=刑務所/A→B・C・D・E=箱は何か/どれも法務省の仲間だが国家行政組織法は同じ箱に入れていない) 図:法務省の周りの5つの名前

  • A=法務省
  • B=公安調査庁
  • C=検察庁
  • D=司法試験委員会
  • E=東京法務局
  • 表にもう1つ=刑務所
  • A→B・C・D・E=箱は何か
  • どれも法務省の仲間だが国家行政組織法は同じ箱に入れていない

司法試験を受ける人なら、見覚えのある名前を5つ並べます。公安調査庁。検察庁。司法試験委員会。東京法務局。そして、刑務所。どれも、法務省の仲間です。ところが、国家行政組織法は、この5つを、同じ箱には入れていません。今日の最初の問いは、これです。5つの名前は、それぞれ、どの箱に入るのか。法務省の下にあるなら、全部、同じ「法務省の一部」じゃないんですか。そう考えたくなります。「庁」と付けば庁、「委員会」と付けば委員会だ、と名前で決めたくもなります。けれども、箱は名前では決まりません。決めるのは、条文です。前の動画で、内閣府とデジタル庁は、国家行政組織法の外にあると見ました。今日は、その内側です。あのとき、宿題を3つ残しました。外局は、省の内部の局と、どこが違うのか。デジタル庁は、国家行政組織法の庁と、どう違うのか。内閣府設置法が定める外局の中身。今日、この3つを回収します。

今日の3つの問い(①国家行政組織法は国の行政機関をどんな箱に分けるか=箱は名前でなく条文で決まる/②省と外局〔委員会・庁〕と内部部局はどう違うか/③各省設置法は何を決めているか/5つの名前の答えは順に1つずつ出して最後に全部を板に並べる) 図:今日の3つの問い

  • ①国家行政組織法は国の行政機関をどんな箱に分けるか=箱は名前でなく条文で決まる
  • ②省と外局〔委員会・庁〕と内部部局はどう違うか
  • ③各省設置法は何を決めているか/5つの名前の答えは順に1つずつ出して最後に全部を板に並べる

問いは3つです。1つ目、国家行政組織法は、国の行政機関を、どんな箱に分けるのか。2つ目、省と、外局である委員会や庁と、省の内部の局は、どう違うのか。3つ目、各省の設置法は、何を決めているのか。5つの名前の答えは、このあと、1つずつ出していきます。最後に、全部を1枚の板に並べます。

国家行政組織法が用意する箱

国家行政組織法の5つの箱(3条機関=省・委員会・庁〔3条2項・設置廃止は法律・別表第一〕/8条機関=審議会等〔8条・法律か政令〕/施設等機関〔8条の2〕/特別の機関〔8条の3〕/地方支分部局〔9条〕/入れ子=省の中に官房・局・部・課/省の外に外局〔委員会・庁〕/対象外=内閣府・デジタル庁〔11月2日から防災庁も〕) 図:国家行政組織法の5つの箱

  • 3条機関=省・委員会・庁〔3条2項・設置廃止は法律・別表第一〕
  • 8条機関=審議会等〔8条・法律か政令〕
  • 施設等機関〔8条の2〕
  • 特別の機関〔8条の3〕
  • 地方支分部局〔9条〕
  • 入れ子=省の中に官房・局・部・課
  • 省の外に外局〔委員会・庁〕
  • 対象外=内閣府・デジタル庁〔11月2日から防災庁も〕

本編の前に、復習を1問。国家行政組織法の対象にならない、内閣の統轄の下の機関は、何でしたか?内閣府と、デジタル庁です。1条は前の動画で読んだので、今日は読みません。ひとつだけ足します。前の動画で言ったとおり、11月2日から、防災庁が内閣に置かれます。これも、国家行政組織法の外です。その内側に、国家行政組織法が用意している箱を、板に並べます。5つあります。まず、省と、委員会と、庁。2つ目は、審議会などの合議制の機関。3つ目は、試験研究機関のような施設。4つ目は、特別の機関。5つ目は、国の出先にあたる地方支分部局です。それぞれの条文は、順番に読みます。今は、箱が5つある、とだけ覚えてください。1つ目の箱から見ます。省と、委員会と、庁は、国家行政組織法の3条2項に書かれています。この条文は、行政機関という言葉の意味を見た動画で、一度読みました。ここで、呼び名を決めます。国家行政組織法3条2項の、省と、委員会と、庁を、3条機関と呼びます。設置と廃止は、法律で決めます。

国家行政組織法の別表第一に、並んでいます。板に、現物を出します。

別表第一に掲げる省(総務省/法務省/外務省/財務省/文部科学省/厚生労働省/農林水産省/経済産業省/国土交通省/環境省/防衛省〔11省〕/委員会・庁は各省の外局として別表第一に掲げられる=例:法務省の外局は公安調査庁・出入国在留管理庁・公安審査委員会/財務省の外局は国税庁) 図:別表第一に掲げる省

  • 総務省
  • 法務省
  • 外務省
  • 財務省
  • 文部科学省
  • 厚生労働省
  • 農林水産省
  • 経済産業省
  • 国土交通省
  • 環境省
  • 防衛省〔11省〕
  • 委員会・庁は各省の外局として別表第一に掲げられる=例:法務省の外局は公安調査庁・出入国在留管理庁・公安審査委員会
  • 財務省の外局は国税庁

省は、現在、11あります。委員会と庁も、省ごとに別表第一に並んでいます。覚えるのは、3条機関は、この別表に載っている、ということです。次に、3条3項を読みます。省と、委員会と庁の関係が、書いてあります。

条文国家行政組織法3条3項

国家行政組織法第3条第3項 省は、内閣の統轄の下に第五条第一項の規定により各省大臣の分担管理する行政事務及び同条第二項の規定により当該大臣が掌理する行政事務をつかさどる機関として置かれるものとし、委員会及び庁は、省に、その外局として置かれるものとする。

骨格は、省は、内閣の統轄の下で、大臣が分担管理する事務と、大臣が掌理する事務をつかさどる。委員会と庁は、省に、外局として置かれる、です。「掌理」は、受け持って取り仕切る、という意味です。後半の、大臣が掌理する事務は、次の節で見ます。注目するのは、あとの半分です。委員会と庁は、省に、外局として置かれる。つまり、国家行政組織法の委員会と庁は、どこかの省にぶら下がっています。ぶら下がり方は、あとで詳しく見ます。名前に「庁」と付いていれば、この3条機関の庁なんですか。違います。ここが、今日いちばん大事な、つまずきです。前に、委員会と名前が付いていても、行政庁になる委員会がある、と見ました。それと同じ型の話です。たとえば、検察庁は、庁と付いていますが、3条機関の庁ではありません。法務省の別の箱に入っています。どの箱かは、このあと見ます。名前で決めない。どの条文に置かれた箱かで決める。今日は、この軸で通します。

省の組み立て

省の姿(長=各省大臣〔5条1項〕/大臣を助ける政治の側=副大臣・大臣政務官〔16条・17条〕・必要なら大臣補佐官〔17条の2〕/事務の組織=内部部局〔官房・局・部・課〕/省は二本立て=分担管理する事務+内閣の重要政策に関する総合調整) 図:省の姿

  • 長=各省大臣〔5条1項〕
  • 大臣を助ける政治の側=副大臣・大臣政務官〔16条・17条〕・必要なら大臣補佐官〔17条の2〕
  • 事務の組織=内部部局〔官房・局・部・課〕
  • 省は二本立て=分担管理する事務+内閣の重要政策に関する総合調整

省の中を見ます。省は、3段で組み立てられています。一番上が、長の各省大臣。前の動画で見た、主任の大臣です。2段目が、大臣を助ける、政治の側の人たち。副大臣と、大臣政務官です。必要なら、大臣補佐官も置かれます。3段目が、実際に事務を進める組織、内部部局です。政治の側で大臣を支える人たちです。副大臣は、大臣を助けて省の仕事をまとめ、大臣が不在のときは、職務を代わって行います。大臣政務官は、大臣を助けて、特定の政策に加わります。副大臣の任免は、大臣の申出により内閣が行い、天皇が認証します。16条5項です。会社でいえば、取締役の下の、役員補佐のようなものです。

大臣の権限を条文順に(10条=事務の統括・職員の服務の統督/11条=法律・政令の案を閣議に求める/12条=省令を発する/14条=告示・訓令通達〔前に全文を読んだ〕/15条=関係機関に資料の提出・説明を求める/暗記しない=骨格の地図/省令の中身は別の回) 図:大臣の権限を条文順に

  • 10条=事務の統括・職員の服務の統督
  • 11条=法律・政令の案を閣議に求める
  • 12条=省令を発する
  • 14条=告示・訓令通達〔前に全文を読んだ〕
  • 15条=関係機関に資料の提出・説明を求める
  • 暗記しない=骨格の地図
  • 省令の中身は別の回

大臣の権限を、条文の順に並べます。暗記はしません。骨格の地図として見てください。10条。事務を統括し、職員の服務を統督する。11条。法律や政令の案を、閣議に求める。12条。省令を発する。14条。告示と、訓令や通達を出す。15条。関係する機関に、資料の提出や説明を求める。読むのは、10条と12条1項です。14条は、機関どうしの関係の動画で、全文を読みました。まず、10条です。

条文国家行政組織法10条

国家行政組織法第10条 各省大臣、各委員会の委員長及び各庁の長官は、その機関の事務を統括し、職員の服務について、これを統督する。

内閣府設置法で見た、総理の統括と統督と同じ型です。省だけでなく、外局の長にも、同じ定めがあります。次は、12条1項です。

条文国家行政組織法12条1項

国家行政組織法第12条第1項 各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、それぞれその機関の命令として省令を発することができる。

骨格は、各省大臣は、法律や政令を施行するため、または特別の委任に基づいて、その機関の命令として、省令を出せる、です。省令の効力や、罰則の限界は、法形式の回で扱います。ここでは、省令は、大臣が出す命令の名前、と押さえてください。ここで、前の動画で、内閣府に二本立てがあると言ったことを、思い出してください。実は、省にも、二本立てがあります。5条2項です。前の動画では、読みませんでした。

条文国家行政組織法5条2項

国家行政組織法第5条第2項 各省大臣は、前項の規定により行政事務を分担管理するほか、それぞれ、その分担管理する行政事務に係る各省の任務に関連する特定の内閣の重要政策について、当該重要政策に関して閣議において決定された基本的な方針に基づいて、行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務を掌理する。

骨格は、各省大臣は、自分の省の分担管理のほかに、その分野に関連する内閣の重要政策について、施策の統一のための企画立案と総合調整の事務も受け持つ、です。つまり、省は、自分の事務を分担管理する顔と、内閣の重要政策を助ける顔の、二本立てです。内閣府と同じ型です。この総合調整のために、関係機関に資料を求めたり、勧告したりする権限が、15条の2にあります。省の事務は、分担管理だけではありません。条文には、もう1本あります。同じ型だと分かると、内閣府の二本立ても、見分けやすくなります。

内部部局(官房・局=7条1項/部=7条2項〔特に必要な場合〕/官房・局・部の設置と所掌事務の範囲は政令〔7条4項〕/課・室=その下/官房と局の総数には法律上の上限がある〔23条〕/個々の省の編成=各省組織令〔政令〕例=法務省組織令) 図:内部部局

  • 官房・局=7条1項
  • 部=7条2項〔特に必要な場合〕
  • 官房・局・部の設置と所掌事務の範囲は政令〔7条4項〕
  • 課・室=その下
  • 官房と局の総数には法律上の上限がある〔23条〕
  • 個々の省の編成=各省組織令〔政令〕例=法務省組織令

3段目の内部部局に移ります。7条です。

条文国家行政組織法7条

国家行政組織法第7条 省には、その所掌事務を遂行するため、官房及び局を置く。 2 前項の官房又は局には、特に必要がある場合においては、部を置くことができる。 4 官房、局及び部の設置及び所掌事務の範囲は、政令でこれを定める。

骨格は、省には官房と局を置き、特に必要なら部を置ける。官房、局、部の設置と所掌事務の範囲は、政令で定める、です。その下に、課と室が置かれます。これも政令です。振り分けは、行政機関の動画で見た、省は法律、官房や局は政令、のとおりです。手直しのたびに国会の議決が要るのでは、組織が追いつかないからでした。ただし、野放しではありません。官房と局の総数には、法律で上限があります。数字は覚えなくて構いません。個々の省の内部の編成は、各省の組織令という政令が定めます。法務省なら、法務省組織令です。名前だけ知っておいてください。練習です。答えは、条文から導けます。1つ目。副大臣は、誰が任免しますか。

大臣の申出により、内閣が行います。天皇の認証も要ります。2つ目。省の課を新しく作るときと、法務局を新しく作るときは、それぞれ、どんな形式でしょうか。課は政令、でいいです。法務局は、今は予告だけにします。国の出先機関のところで、答え合わせをします。3つ目。官房と局の数は、自由に増やせますか。法律に上限があるので、自由には増やせません。省は、大臣と、政務の人たちと、内部部局。内部部局の設置は政令。そして、二本立て。これが、省の形です。

外局=委員会と庁

外局の独立3点(①長が別=委員会は委員長・庁は長官〔6条〕/②規則その他の特別の命令を法律が認めれば自ら発することができる〔13条1項〕/③設置と廃止は法律〔3条2項〕/外局の長は省令を自分では出せず大臣に求める〔12条2項〕/内部部局の長は規則を出せない) 図:外局の独立3点

  • ①長が別=委員会は委員長・庁は長官〔6条〕
  • ②規則その他の特別の命令を法律が認めれば自ら発することができる〔13条1項〕
  • ③設置と廃止は法律〔3条2項〕/外局の長は省令を自分では出せず大臣に求める〔12条2項〕/内部部局の長は規則を出せない

ここから、外局です。前の動画の宿題の、1つ目。その前に、復習を1問。前の動画で、統轄と所轄は何が違うと言いましたか?統轄は、総合調整しながら指揮監督すること。所轄は、形式上の所属を示すだけで、職権行使への指揮監督は含みません。この所轄という言葉が、このあと出てきます。外局とは、前の動画で言ったとおり、省に属しながら、省の内部の局とは別に、ある程度独立して仕事をする組織です。今日は、どこが独立なのかを、3点に分けます。板のとおりです。1点目。長が別です。内部の局の長は、局長です。外局は、委員会なら委員長、庁なら長官が、長になります。6条です。

条文国家行政組織法6条

国家行政組織法第6条 委員会の長は、委員長とし、庁の長は、長官とする。

骨格は、委員会の長は委員長、庁の長は長官、です。2点目。規則その他の特別の命令を、法律が認めれば、自分で出せます。3点目。設置と廃止が、法律で決まります。これは、3条2項でした。2点目を条文で見ます。13条1項です。

条文国家行政組織法13条1項

国家行政組織法第13条第1項 各委員会及び各庁の長官は、別に法律の定めるところにより、政令及び省令以外の規則その他の特別の命令を自ら発することができる。

省の局長には、このような権限は、法律上ありません。外局の長が、自分の名前で、命令を出せる。これが、独立の中身です。それなら、外局の長も、省令を出せるんですか。出せません。条文で確認します。12条2項です。

条文国家行政組織法12条2項

国家行政組織法第12条第2項 各外局の長は、その機関の所掌事務について、それぞれ主任の各省大臣に対し、案をそなえて、省令を発することを求めることができる。

骨格は、外局の長は、自分の事務について、案を付けて、主任の大臣に、省令を発することを求められる、です。自分で出すのではなく、大臣に求める、という形にしています。省令は、あくまで大臣の命令です。外局の長は、規則などの特別の命令は法律が認めれば自分で出し、省令は大臣に求める。ここは、短答で聞かれます。会社でいえば、事業部の中に置かれた、独立性の高い部門です。部門長がいて、会社のルールが認めた範囲で、部門の規則を自分で出せます。事業部の中の普通の部長には、それがありません。けれども、事業部としての規程は、担当の取締役に出してもらいます。部門長が外局の長、担当の取締役が大臣、事業部としての規程が省令にあたります。委員会と庁の違いも、押さえます。委員会は、委員長と委員で構成する、合議体です。庁は、長官が長で、1人の長が率います。委員会の設置法には、独立して職権を行う、と定めるものがあります。たとえば、公正取引委員会は独占禁止法の28条、原子力規制委員会は、原子力規制委員会設置法の5条です。独立性が高いので、政治の影響を受けにくい。そのかわり、一人の大臣の指揮では動きません。行政委員会の趣旨や、行政審判は、別の回で扱います。最初の問いを、1つ回収します。法務省の外局は、板のとおり、公安調査庁と、出入国在留管理庁と、公安審査委員会です。つまり、公安調査庁は、答えが出ました。省の外局の庁で、3条機関です。

内閣府の外局(内閣府設置法49条1項=内閣府には外局として委員会及び庁を置くことができる/3項=設置及び廃止は法律で定める/64条の表に外局が並ぶ=例:公正取引委員会・国家公安委員会・個人情報保護委員会・金融庁・消費者庁・こども家庭庁ほか/所掌は載せない/国家行政組織法の外だが同じ型の外局を内閣府設置法が自分で用意) 図:内閣府の外局

  • 内閣府設置法49条1項=内閣府には外局として委員会及び庁を置くことができる
  • 3項=設置及び廃止は法律で定める
  • 64条の表に外局が並ぶ=例:公正取引委員会・国家公安委員会・個人情報保護委員会・金融庁・消費者庁・こども家庭庁ほか
  • 所掌は載せない
  • 国家行政組織法の外だが同じ型の外局を内閣府設置法が自分で用意

次は、宿題の3つ目です。内閣府設置法が定める外局です。前の動画で、内閣府設置法は、外局の組織の基準も自分で定めている、と言いました。49条です。

条文内閣府設置法49条

内閣府設置法第49条 内閣府には、その外局として、委員会及び庁を置くことができる。 3 前二項の委員会及び庁(以下それぞれ「委員会」及び「庁」という。)の設置及び廃止は、法律で定める。

国家行政組織法の3条とそっくりです。内閣府は国家行政組織法の外にありますが、同じ型の外局を、内閣府設置法が、自分で用意しています。どんな外局があるかは、64条の表に並んでいます。公正取引委員会。国家公安委員会。個人情報保護委員会。金融庁。消費者庁。こども家庭庁。ほかにもあります。名前だけ、見覚えを作ってください。ここで、所轄が出てきます。公正取引委員会は、独占禁止法の27条2項で、内閣総理大臣の所轄に属します。所轄は、形式上の所属、でした。つまり、公正取引委員会は、内閣府の外局として置かれつつ、職権の行使は、総理の指揮監督を受けずに行います。

外局の長は、必ず委員長か長官なんですか。大臣が長の外局はありませんか。あります。国家公安委員会です。警察法6条1項で、委員長は、国務大臣をもって充てるとされています。長が国務大臣である、内閣府の外局です。長が、いつも官僚とは限りません。

庁の置かれ方3通り(①省の外局の庁=国税庁・公安調査庁〔国家行政組織法3条2項・別表第一〕/②内閣府の外局の庁=消費者庁・こども家庭庁・金融庁〔内閣府設置法49条・64条〕/③内閣に置かれる庁=デジタル庁〔デジタル庁設置法2条・国家行政組織法の庁ではない〕・11月2日から防災庁/名前は同じ庁でも根拠・長・命令の名前が違う) 図:庁の置かれ方3通り

  • ①省の外局の庁=国税庁・公安調査庁〔国家行政組織法3条2項・別表第一〕
  • ②内閣府の外局の庁=消費者庁・こども家庭庁・金融庁〔内閣府設置法49条・64条〕
  • ③内閣に置かれる庁=デジタル庁〔デジタル庁設置法2条・国家行政組織法の庁ではない〕・11月2日から防災庁/名前は同じ庁でも根拠・長・命令の名前が違う

宿題の2つ目、庁の違いです。庁には、置かれ方が3通りあります。板のとおりです。1つ目。省の外局の庁です。国税庁は財務省の、公安調査庁は法務省の外局で、国家行政組織法の3条と、別表第一が根拠です。2つ目。内閣府の外局の庁です。消費者庁、こども家庭庁、金融庁。内閣府設置法の49条と64条が根拠です。3つ目。内閣に置かれる庁です。デジタル庁は、デジタル庁設置法の2条で、内閣に置かれます。国家行政組織法の庁ではありません。11月2日からは、防災庁も、この3つ目の仲間になります。庁という名前は同じでも、置く根拠、長、使う命令の名前が違います。デジタル庁の長は総理で、命令はデジタル庁令でした。国税庁の長官は、法律が認めれば、規則などの特別の命令を自ら発することができます。名前で決めない、が、ここにも効きます。練習です。国税庁と、消費者庁と、デジタル庁は、それぞれ、どの法律に設置の根拠がありますか。条番号は、いりません。

ひとまとめにします。外局は、省または内閣府に置かれても、長と、規則を出す権限と、設置の法律が、内部の局とは別です。庁は、置き方が3通り。

8条機関・施設等機関・特別の機関

3条機関と8条機関の比較(設置=3条機関は法律〔3条2項〕/8条機関は法律か政令〔8条〕/性格=3条機関は行政事務をつかさどり重い権限を持つことが多い/8条機関は調査審議・不服審査など合議制で処理する事務〔諮問機関が多い〕/区別が効く場面=①設置の形式②意見を述べる側か処分をする側か③条文の「省・委員会・庁」と「審議会等」の指す先) 図:3条機関と8条機関の比較

  • 設置=3条機関は法律〔3条2項〕
  • 8条機関は法律か政令〔8条〕
  • 性格=3条機関は行政事務をつかさどり重い権限を持つことが多い
  • 8条機関は調査審議・不服審査など合議制で処理する事務〔諮問機関が多い〕
  • 区別が効く場面=①設置の形式②意見を述べる側か処分をする側か③条文の「省・委員会・庁」と「審議会等」の指す先

2つ目の箱に移ります。8条の審議会等です。これを、8条機関と呼びます。8条は、行政機関の動画で全文を読みました。法律または政令の定めで、重要事項の調査審議や不服審査などをする、合議制の機関を置ける、でした。3条機関と8条機関の違いを、表にします。設置の形式。3条機関は、法律でなければ置けません。8条機関は、法律か政令で置けます。性格。3条機関は、行政事務をつかさどり、省令や処分のような重い権限を持つことが多い。8条機関は、調査審議や不服審査のように、合議制で処理する事務を持ち、諮問機関であることが多い。会社でいえば、3条機関は、組織図に載る事業部と、その中の独立性の高い部門です。8条機関は、そこに置かれる会議体です。会議体でも、実際の仕事を任されることがあります。このあと、身近な例で見ます。

3条機関と8条機関を分けると、3つの場面で効きます。1つ目、設置の形式です。審議会を置くのに、法律の改正が要るか、政令でよいか。2つ目、意見を述べる側か、処分をする側かです。行政庁、補助機関、諮問機関という、前に見た分類につながります。最後に3つ目、条文の読み方です。条文に、省と、委員会と、庁、と書いてあるのか、審議会等、と書いてあるのかで、指す先が違います。ここで、受験生に身近な例を見ます。司法試験委員会です。法務省設置法の5条は、司法試験委員会を、審議会等として置いています。名前に委員会と付いても、3条の委員会ではありません。置いている条文が審議会等なので、8条機関です。

8条を、もう一度見ます。

条文国家行政組織法8条

国家行政組織法第8条 第三条の国の行政機関には、法律の定める所掌事務の範囲内で、法律又は政令の定めるところにより、重要事項に関する調査審議、不服審査その他学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどらせるための合議制の機関を置くことができる。

審議会等は意見を述べるだけ、と覚えてしまうと、足をすくわれます。8条は、調査審議と不服審査のほかに、学識経験のある人たちの合議で処理するのがふさわしい事務、とも書いています。試験を行う事務も、学識経験のある人たちの合議で処理するのがふさわしい事務の1つです。8条の枠に収まるので、司法試験委員会に、試験を行う事務も持たせることができます。実際に、司法試験法12条2項は、持たせています。審議会等は、意見を言うだけとは限りません。8条機関は諮問だけ、と覚えないでください。もうひとつ。行政機関の動画で見た、議決や同意で行政庁を拘束する参与機関も、審議会等として置かれることがあります。8条機関には、諮問機関も、参与機関も入ります。ここまでで、司法試験委員会の答えが出ました。8条機関です。

施設等機関と特別の機関(8条の2=法律の定める所掌事務の範囲内で法律又は政令により置く=試験研究機関・検査検定機関・文教研修施設・医療更生施設・矯正収容施設・作業施設/8条の3=特に必要がある場合に法律で置く/法務省の例=刑務所・少年院ほか〔法務省設置法8条1項・施設等機関〕・検察庁〔14条1項・特別の機関〕/「庁」と付いても3条の庁ではない) 図:施設等機関と特別の機関

  • 8条の2=法律の定める所掌事務の範囲内で法律又は政令により置く=試験研究機関・検査検定機関・文教研修施設・医療更生施設・矯正収容施設・作業施設
  • 8条の3=特に必要がある場合に法律で置く
  • 法務省の例=刑務所・少年院ほか〔法務省設置法8条1項・施設等機関〕・検察庁〔14条1項・特別の機関〕
  • 「庁」と付いても3条の庁ではない

3つ目と4つ目の箱です。8条の2と、8条の3を読みます。まず、8条の2です。

条文国家行政組織法8条の2

国家行政組織法第8条の2 第三条の国の行政機関には、法律の定める所掌事務の範囲内で、法律又は政令の定めるところにより、試験研究機関、検査検定機関、文教研修施設(これらに類する機関及び施設を含む。)、医療更生施設、矯正収容施設及び作業施設を置くことができる。

骨格は、3条機関には、法律または政令の定めるところにより、施設を置ける、です。試験研究、検査検定、文教研修、医療更生、矯正収容、作業の施設が並びます。これを、施設等機関と呼びます。法務省なら、刑務所や少年院などの、矯正収容施設です。法務省設置法の8条1項に書かれています。刑務所の答えが出ました。施設等機関です。次は、8条の3です。

条文国家行政組織法8条の3

国家行政組織法第8条の3 第三条の国の行政機関には、特に必要がある場合においては、前二条に規定するもののほか、法律の定める所掌事務の範囲内で、法律の定めるところにより、特別の機関を置くことができる。

骨格は、特に必要がある場合に、8条と8条の2のほかに、法律の定めるところにより、特別の機関を置ける、です。法務省の特別の機関は、検察庁です。法務省設置法14条1項に、書かれています。検察庁は、庁と付いても、3条の庁ではありません。法務省の、特別の機関です。最初に言った、検察庁のつまずきの答えです。法律や政令に根拠のない、私的諮問機関は、並びの末尾に、名前だけ置きます。行政機関の動画で見ました。国家行政組織法の箱には入りません。練習です。検察庁、司法試験委員会、刑務所を、それぞれ、国家行政組織法のどの箱か、答えてください。

5つの名前のうち、4つが埋まりました。残りは、東京法務局です。次に見ます。

地方支分部局

地方支分部局(国家行政組織法9条=3条の国の行政機関が所掌事務を分掌させる必要がある場合に法律の定めるところにより置く/国の出先機関〔例=法務局・国税局〕/法務局の名称・位置・管轄区域は政令〔法務省設置法18条〕/税務署は国税局の下) 図:地方支分部局

  • 国家行政組織法9条=3条の国の行政機関が所掌事務を分掌させる必要がある場合に法律の定めるところにより置く
  • 国の出先機関〔例=法務局・国税局〕
  • 法務局の名称・位置・管轄区域は政令〔法務省設置法18条〕
  • 税務署は国税局の下

5つ目の箱、地方支分部局です。その前に、復習を1問。機関どうしの関係の動画で、権限の委任には、何が必要だと言いましたか?法律の根拠が必要です。大臣の権限を、地方支分部局の長に委任する形もあります。委任そのものは、その動画で済んでいます。今日は、地方支分部局の箱だけを見ます。9条です。

条文国家行政組織法9条

国家行政組織法第9条 第三条の国の行政機関には、その所掌事務を分掌させる必要がある場合においては、法律の定めるところにより、地方支分部局を置くことができる。

分掌は、仕事を分けて受け持たせる、という意味です。つまり、国の出先機関です。本社が地方に置く、支店のようなものです。法務省なら、法務局です。法務省設置法15条に書かれています。名称や位置、管轄区域は、同じ法律の18条に基づいて、政令で定められます。最初の問いの答え、東京法務局は、地方支分部局です。財務省の外局の国税庁なら、国税局。税務署は、国税局の下に置かれる、と押さえておけば足ります。県庁の中にある保健所とかも、国の出先機関ですか。ここが、つまずきです。都道府県にも、出先機関があります。けれども、それは、国の地方支分部局とは別です。地方自治法の156条1項を読みます。

条文地方自治法156条1項

地方自治法第156条第1項 普通地方公共団体の長は、前条第一項に定めるものを除くほか、法律又は条例で定めるところにより、保健所、警察署その他の行政機関を設けるものとする。

これは、地方公共団体の機関です。国の機関ではありません。国と地方は、別の行政主体でした。国の地方支分部局が、地方公共団体の組織の中に入ることはありません。見分ける基準は、名前でも、所在地でもありません。設置の根拠法です。国家行政組織法9条なら国、地方自治法156条なら地方です。もうひとつ、4項です。

条文地方自治法156条4項

地方自治法第156条第4項 国の地方行政機関(駐在機関を含む。以下この項において同じ。)は、国会の承認を経なければ、設けてはならない。国の地方行政機関の設置及び運営に要する経費は、国において負担しなければならない。

国が出先を作るときは、国会の承認が要り、費用は国が持ちます。地方に押し付けられない、という形になっています。練習です。法務局、県の保健所、県内の警察署のうち、国の機関はどれですか。法務局だけです。保健所と警察署は、条文に書いてあるとおり、県の機関です。さきほど予告した、法務局の答え合わせも済みました。法務局は、法務省設置法という法律で置かれています。地方支分部局は、法律で置く、でした。これで、5つの名前が、全部埋まります。次は、3つ目の問い、各省設置法の中身です。

各省設置法の構造

国家行政組織法と設置法の分担(国家行政組織法=国の行政機関の共通の基準〔箱と組み立て〕/各省設置法=その省の設置・任務・所掌事務〔3条2項と4条を受ける〕/組織令・組織規則=内部部局の編成〔7条を受ける・政令・省令〕/所掌事務=その役所がやる仕事の範囲) 図:国家行政組織法と設置法の分担

  • 国家行政組織法=国の行政機関の共通の基準〔箱と組み立て〕
  • 各省設置法=その省の設置・任務・所掌事務〔3条2項と4条を受ける〕
  • 組織令・組織規則=内部部局の編成〔7条を受ける・政令・省令〕
  • 所掌事務=その役所がやる仕事の範囲

最後の問い、各省設置法です。まず、役割分担を見ます。国家行政組織法は、国の行政機関に共通の基準です。箱と、組み立てを決めます。各省設置法は、その省の設置と、任務と、所掌事務を決めます。所掌事務とは、その役所がやる仕事の範囲です。内部部局の編成は、さらに下の、組織令や組織規則が決めます。たとえるなら、マンション全体の管理規約が国家行政組織法で、各部屋の使い方を決める入居契約が、各省の設置法です。共通のルールの上に、個別の決まりが乗っています。国家行政組織法の側にも、この関係を書いた条文があります。4条です。

条文国家行政組織法4条

国家行政組織法第4条 前条の国の行政機関の任務及びこれを達成するため必要となる所掌事務の範囲は、別に法律でこれを定める。

この、別の法律が、各省設置法です。3条2項は、省を置くのは法律、と言い、4条は、任務と所掌事務は別の法律、と言っています。この2つを受けて、設置法が、設置、任務、所掌事務の順に書いてあります。

法務省設置法を1つ読む(2条1項=国家行政組織法3条2項に基づき法務省を設置→3条1項=任務→4条1項=所掌事務〔柱書+4号=司法試験に関すること〕→5条=審議会等〔司法試験委員会〕→8条=施設等機関→14条=特別の機関〔検察庁〕→15条=地方支分部局〔法務局〕/対応=国組法3条2項↔2条・4条↔3条と4条・8条↔5条・8条の2↔8条・8条の3↔14条・9条↔15条) 図:法務省設置法を1つ読む

  • 2条1項=国家行政組織法3条2項に基づき法務省を設置→3条1項=任務→4条1項=所掌事務〔柱書+4号=司法試験に関すること〕→5条=審議会等〔司法試験委員会〕→8条=施設等機関→14条=特別の機関〔検察庁〕→15条=地方支分部局〔法務局〕
  • 対応=国組法3条2項↔2条・4条↔3条と4条・8条↔5条・8条の2↔8条・8条の3↔14条・9条↔15条

法務省設置法を、実際に1つ読みます。2条1項です。

条文法務省設置法2条1項

法務省設置法第2条第1項 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項の規定に基づいて、法務省を設置する。

設置法の最初は、設置の宣言です。次は、任務です。3条1項です。

条文法務省設置法3条1項

法務省設置法第3条第1項 法務省は、基本法制の維持及び整備、法秩序の維持、国民の権利擁護、国の利害に関係のある争訟の統一的かつ適正な処理並びに出入国及び外国人の在留の公正な管理を図ることを任務とする。

骨格は、基本法制の維持と整備、法秩序の維持、国民の権利擁護、国の争訟の統一的な処理、出入国と在留の公正な管理を図る、です。任務は、その役所の大きな目的です。3条2項は、内閣の重要政策に関する、内閣の事務を助ける任務です。省の組み立てで見た、二本立ての、もう1本が、設置法にも書いてあります。次が、所掌事務、4条1項です。

条文法務省設置法4条1項

法務省設置法第4条第1項 法務省は、前条第一項の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。 … 四 司法試験に関すること。

骨格は、法務省は、任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる、です。ほかの号は読みません。4号だけ見ます。司法試験に関すること。受験生にとっては、自分の試験が、条文に載っている瞬間です。ここから、最初の5つの名前が、全部、設置法に載っています。5条が審議会等の司法試験委員会。8条が刑務所などの施設等機関。14条1項が特別の機関で、検察庁。そして、15条が地方支分部局です。14条1項と、15条を、確認します。

条文法務省設置法14条1項

法務省設置法第14条第1項 別に法律で定めるところにより法務省に置かれる特別の機関で本省に置かれるものは、検察庁とする。

条文法務省設置法15条

法務省設置法第15条 本省に、次の地方支分部局を置く。

15条の列挙には、法務局と地方法務局が並んでいます。板で、国家行政組織法の条と、設置法の条の対応を見てください。3条2項は2条。4条は3条と4条。8条は5条。8条の2は8条。8条の3は14条。9条は15条。条番号は、暗記しません。対応の形を見てください。設置法に「司法試験に関すること」と書いてあるなら、法務省は、司法試験について、何でも決められるんじゃないんですか。そこが、設置法のいちばん大事な注意です。設置法は、組織の規範です。その役所に、どんな仕事を割り振るかを決める法律です。ところが、受験資格や、試験の方法や、合格の決め方は、司法試験法という、別の法律に書いてあります。さきほどの、試験を行う委員会の事務も、司法試験法12条2項でした。所掌事務に書いてあることは、国民の権利義務を決める根拠ではありません。第1章で見た、組織規範と根拠規範の区別です。組織規範は、事務を割り振るだけです。相手に義務を課す力を与えるのは、根拠規範のほうです。係の名簿に名前が載っても、人の荷物を預かってよいことにはならない、でした。練習です。ある省の所掌事務に、「〜に関すること」と書いてあるとします。それだけで、国民に許可を取らせる義務を課せますか。

課せません。許可を取らせるには、権限を与える根拠規範が要ります。設置法に書いてあるのは、役所の仕事の範囲です。国民に義務を課す根拠は、別に必要です。

5つの名前の答えとまとめ

5つの名前の仕分け(公安調査庁=省の外局の庁〔3条機関〕/検察庁=特別の機関〔8条の3〕/司法試験委員会=審議会等〔8条機関〕/東京法務局=地方支分部局〔9条〕/刑務所=施設等機関〔8条の2〕/同じ法務省でも箱が5つ) 図:5つの名前の仕分け

  • 公安調査庁=省の外局の庁〔3条機関〕
  • 検察庁=特別の機関〔8条の3〕
  • 司法試験委員会=審議会等〔8条機関〕
  • 東京法務局=地方支分部局〔9条〕
  • 刑務所=施設等機関〔8条の2〕
  • 同じ法務省でも箱が5つ

最初の問いに戻ります。5つの名前を、1枚の板に並べました。公安調査庁は、省の外局の庁で、3条機関です。検察庁は、法務省の特別の機関で、8条の3の箱です。司法試験委員会は、審議会等で、8条機関です。東京法務局は、地方支分部局で、9条の箱です。刑務所は、施設等機関で、8条の2の箱です。同じ法務省の周りでも、箱は5つに分かれていました。検察庁は、庁と付いても、3条の庁ではありませんでした。司法試験委員会は、審議会等でも、試験を行う事務を持っていました。名前では決まらない。どの条文に置かれた箱か。これが、今日の答えです。

今日のまとめ(①箱は名前でなく条文で決まる=3条機関〔省・委員会・庁・設置は法律〕と8条機関〔審議会等・法律か政令〕/施設等機関・特別の機関・地方支分部局/②省・外局・内部部局・地方支分部局の位置関係=外局は長・規則を出す権限・設置の法律が内部部局と別/庁は3通り/③設置法は組織規範=設置→任務→所掌事務・処分の根拠は別の法律) 図:今日のまとめ

  • ①箱は名前でなく条文で決まる=3条機関〔省・委員会・庁・設置は法律〕と8条機関〔審議会等・法律か政令〕/施設等機関・特別の機関・地方支分部局
  • ②省・外局・内部部局・地方支分部局の位置関係=外局は長・規則を出す権限・設置の法律が内部部局と別/庁は3通り
  • ③設置法は組織規範=設置→任務→所掌事務・処分の根拠は別の法律

持ち帰りは、3つです。1つ目。箱は、名前ではなく、条文で決まります。省と、委員会と、庁は3条機関で、設置は法律。審議会等は8条機関で、法律か政令。ほかに、施設等機関と、特別の機関と、地方支分部局があります。2つ目。省は、大臣と、政務の人たちと、内部部局で組み立てられ、分担管理と総合調整の二本立てです。外局は、長と、規則を出す権限と、設置の法律が、内部部局とは別です。庁の置かれ方は、3通りあります。国の地方支分部局は、都道府県の出先機関とは別です。3つ目。各省設置法は、国家行政組織法の共通の基準を受けて、設置、任務、所掌事務を定めます。ただし、組織の規範で、国民の権利義務を決める根拠ではありません。次の動画から、国の組織を離れて、地方公共団体の組織に入ります。国と地方は別の行政主体でした。今日の最後に見た、国の出先機関と県の出先機関の区別は、次の動画の入口になります。

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#27単独ページ動画

議会と長

第2章 行政組織法 ㉗/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

ねじれの市

ねじれの市(A=住民/B=市長〔改革派〕/C=市議会〔反対派が多数〕/D=予算案/A→B=市長選で選ぶ/A→C=市議会選で選ぶ/B→C=予算案を出す/C→B=否決する) 図:ねじれの市

  • A=住民
  • B=市長〔改革派〕
  • C=市議会〔反対派が多数〕
  • D=予算案
  • A→B=市長選で選ぶ
  • A→C=市議会選で選ぶ
  • B→C=予算案を出す
  • C→B=否決する

国の組織を見終えたので、今日は地方の側、市や県の組織に入ります。ある市で、市長選と市議会選が同じ日に行われました。住民が選んだ市長は、改革を掲げる候補でした。ところが市議会では、改革に反対する会派が多数になりました。市長は、改革を盛り込んだ予算案を議会に出しました。結果は否決です。住民が選んだ人たちなのに、市長と議会がぶつかるんですか。そこが今日の入口です。国で同じことが起きるかを考えます。国の首相は、国会が指名します。つまり国会の多数派の代表です。首相の出した予算が、与党が多数の国会で否決される。これは普通は起きにくいですね。

市では、なぜ起きるんですか。先に一言で言うと、市では、住民が市長と議員を別々に選ぶからです。もうひとつ。起きてしまったとき、法律は誰にどんな手を残しているのか。答えは、長にも議会にも、相手に使える手が渡されている、です。中身を順に見ていきます。

今日の3つの問い(①市長と議会は、国の内閣と国会と同じ関係か/②市の行政は、全部、市長の下にあるか/③長と議会が対立したら、法律はどうほどくか/答えは順に1つずつ出して最後に全部を板に並べる) 図:今日の3つの問い

  • ①市長と議会は、国の内閣と国会と同じ関係か
  • ②市の行政は、全部、市長の下にあるか
  • ③長と議会が対立したら、法律はどうほどくか/答えは順に1つずつ出して最後に全部を板に並べる

問いは3つです。1つ目。市長と議会は、国の内閣と国会と同じ関係でしょうか。2つ目。市の行政は、全部、市長の下にあるのでしょうか。3つ目。対立したとき、法律はどうほどくのでしょうか。答えは1つずつ出して、最後にまとめて板に並べます。

2つの自治が組織に現れる

2つの自治と今日の見方(団体自治=国から独立した団体が自分の事務を処理する→何が地方公共団体か、という種類の話/住民自治=住民の意思で決める→住民が選ぶ議会と長の話/憲法92条=組織及び運営に関する事項は地方自治の本旨に基づいて法律で定める→その法律の中心が地方自治法) 図:2つの自治と今日の見方

  • 団体自治=国から独立した団体が自分の事務を処理する→何が地方公共団体か、という種類の話
  • 住民自治=住民の意思で決める→住民が選ぶ議会と長の話
  • 憲法92条=組織及び運営に関する事項は地方自治の本旨に基づいて法律で定める→その法律の中心が地方自治法

憲法の回で、地方自治の本旨には2つの柱があると見ました。確認です。国からの独立を意味するのは、団体自治と住民自治のどちらでしたか?団体自治です。住民自治は、地方の政治を住民の意思で決める、という柱でした。団体自治は、地方公共団体が国とは別の団体として、自分の事務を自分で処理することでした。前の動画で読んだ自治法2条1項の、地方公共団体は法人、つまり独立の権利の主体になる団体だ、という定めと結びつきます。憲法92条は、地方公共団体の組織と運営は法律で定める、と言っていました。その法律の中心が地方自治法です。今日読む条文は、ほとんどが自治法です。今日の見方を決めます。団体自治は、地方自治が国から独立した団体に委ねられる、という柱でした。だから、どの団体が国とは別の地方公共団体として立っているのか、という種類の話に出てきます。住民自治は、地方自治が住民の意思に基づいて行われる、という柱でした。だから、その意思を受け止める、住民が選ぶ議会と長の話に出てきます。国とは別の家を構えても、その中身を住民が決めなければ地方自治にはなりません。2つがそろって初めて地方自治なので、組織もこの2つの目で見ていきます。

憲法が理念を言い、自治法が組織の形を決めています。

地方公共団体の種類

地方公共団体の種類(地方公共団体〔どれも法人〕/普通地方公共団体=都道府県・市町村/特別地方公共団体=特別区・地方公共団体の組合・財産区/1条の3) 図:地方公共団体の種類

  • 地方公共団体〔どれも法人〕
  • 普通地方公共団体=都道府県・市町村
  • 特別地方公共団体=特別区・地方公共団体の組合・財産区
  • 1条の3

議会と長の前に、地方公共団体には何があるのかを整理します。団体自治の側の話です。種類は1条の3に書かれています。

条文地方自治法1条の3第1項・2項

地方自治法第1条の3 地方公共団体は、普通地方公共団体及び特別地方公共団体とする。 2 普通地方公共団体は、都道府県及び市町村とする。

地方公共団体は、普通と特別の2系統です。普通は都道府県と市町村です。3項の特別区と組合と財産区は、前の動画で条文を読みました。中身は、このあと1つずつ見ます。この3つが特別地方公共団体です。都道府県は市町村を包括する、と聞きました。県が上で、市が下ということですか。そう読みたくなります。ここがつまずきです。条文を読みます。

条文地方自治法2条3項・5項

地方自治法第2条第3項・第5項 3 市町村は、基礎的な地方公共団体として、第五項において都道府県が処理するものとされているものを除き、一般的に、前項の事務を処理するものとする。 5 都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、第二項の事務で、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものとする。

骨格は、市町村は住民に最も身近な団体として地域の事務を一般的に処理する。都道府県は、広域にわたる事務と市町村の連絡調整と、一般の市町村では処理が適当でない事務を処理する、です。「包括する」は、区域を含むという意味です。上司という意味ではありません。ごみの収集や小学校の運営のような身近な事務は、まず市町村です。県道の管理や市と市の連絡調整は県です。担当が違うだけです。

都道府県と市町村(A=都道府県〔法人〕/B=市町村〔法人〕/C=国の法務局〔国の機関〕/A―B=横並びの別々の法人で役割が違う/国→C=国の一部/市町村は都道府県の出先ではない/2条6項=事務の処理で互いに競合しないようにする) 図:都道府県と市町村

  • A=都道府県〔法人〕
  • B=市町村〔法人〕
  • C=国の法務局〔国の機関〕
  • A―B=横並びの別々の法人で役割が違う
  • 国→C=国の一部
  • 市町村は都道府県の出先ではない
  • 2条6項=事務の処理で互いに競合しないようにする

境界のすぐ外を見ます。前の動画で、法務局は国の出先機関でした。国の機関ですから、法務大臣の下にある国の一部です。これに対して市は、県の出先ではありません。県とは別の法人で、市長は知事の部下ではありません。2条6項は、都道府県と市町村は事務を処理するときに互いに競合しないようにしなければならない、と言っています。上下の関係ではなく、役割分担です。事務の中身や国との関わり方は、別の回で扱います。法律上は同じ市で、普通地方公共団体です。ただし大都市の特例があります。人口50万以上で政令で指定された市を、指定都市と言います。都道府県が処理する事務の一部、たとえば児童福祉に関する事務を処理できます。中核市は人口20万以上で、特例の範囲が少し小さくなります。人口の数字は暗記しなくて構いません。大事なのは、特例を受けても市のままだということです。指定都市の区は、前の動画で読んだとおり法人ではありません。市の内部の組織です。区に代えて、区の長に任せる仕事を広げた総合区を置く道もあり、その長は市長が議会の同意を得て選任します。

特別区の言い方(法律上は特別地方公共団体で独立の法人/憲法93条2項の地方公共団体かは別の問い→判例は当たらないとした〔憲法の回〕/281条1項=都の区を特別区という/281条の2第1項=都は特別区を包括する広域の地方公共団体として一体的に処理が必要な大都市の事務も処理する) 図:特別区の言い方

  • 法律上は特別地方公共団体で独立の法人
  • 憲法93条2項の地方公共団体かは別の問い→判例は当たらないとした〔憲法の回〕
  • 281条1項=都の区を特別区という
  • 281条の2第1項=都は特別区を包括する広域の地方公共団体として一体的に処理が必要な大都市の事務も処理する

次は特別区です。東京の区のことです。281条1項と281条の2第1項を読みます。

条文地方自治法281条1項

地方自治法第281条第1項 都の区は、これを特別区という。

条文地方自治法281条の2第1項

地方自治法第281条の2第1項 都は、特別区の存する区域において、特別区を包括する広域の地方公共団体として、第二条第五項において都道府県が処理するものとされている事務及び特別区に関する連絡調整に関する事務のほか、同条第三項において市町村が処理するものとされている事務のうち、人口が高度に集中する大都市地域における行政の一体性及び統一性の確保の観点から当該区域を通じて都が一体的に処理することが必要であると認められる事務を処理するものとする。

骨格は、都の区が特別区です。都は特別区を包括する広域の団体として、県の事務に加えて、大都市として一体で処理する必要のある市の事務も処理する、です。ここでも包括は上下ではなく、役割の分担です。特別区は、基礎的な地方公共団体として身近な事務を処理します。特別区は、法律上は特別地方公共団体で、独立の法人です。ただし憲法93条2項の地方公共団体に当たるかは、法人かどうかとは別の問いで、判例は当たらないとしました。憲法の回で見たとおりです。法律で見る目と憲法で見る目を分けておきます。

組合と財産区(地方公共団体の組合=一部事務組合・広域連合〔284条1項〕/財産区=市町村及び特別区の一部で財産を有し若しくは公の施設を設けているもの〔294条1項〕/例=ごみ処理を複数の市で共同する一部事務組合/山林を持つ集落の財産区/町内会は地方公共団体ではない) 図:組合と財産区

  • 地方公共団体の組合=一部事務組合・広域連合〔284条1項〕
  • 財産区=市町村及び特別区の一部で財産を有し若しくは公の施設を設けているもの〔294条1項〕
  • 例=ごみ処理を複数の市で共同する一部事務組合
  • 山林を持つ集落の財産区
  • 町内会は地方公共団体ではない

残りの2つです。まず地方公共団体の組合です。284条1項は、一部事務組合と広域連合を挙げています。たとえば隣り合う3つの市が、ごみ処理場を別々に作ると無駄が大きい。そこで、ごみ処理の事務だけを共同で処理する団体を作ります。これが一部事務組合です。広域連合は、より広い範囲で計画をもとに事務を処理する団体です。組合は、参加した団体とは別の独立の法人です。前の動画の公共組合、たとえば土地区画整理組合とは別物です。あちらは特別の法律で人を組合員にする法人で、こちらは地方公共団体どうしが作る団体です。もうひとつは財産区です。市町村の一部の区域が、山林や公の施設を持っていることがあります。その財産の管理と処分のために、法律が認めた団体です。

町内会や自治会は、この仲間に入りますか。入りません。町内会は、市町村長の認可を受けると、権利を有し義務を負う団体になれます。けれども地方公共団体ではありません。行政組織の一部になるわけでもありません。練習です。政令指定都市の区と東京の特別区と広域連合のうち、特別地方公共団体で独立の法人はどれでしょうか。特別区と広域連合です。指定都市の区は市の内部の組織で、法人ではありません。ここまでで、地方公共団体の種類が整いました。次は、市長や知事と並ぶもうひとつの顔、議会です。

議会

議会のあらまし(議事機関〔89条1項〕=住民が選挙した議員で組織/議員の任期は4年〔93条1項〕/町村は条例で議会に代えて町村総会を置ける〔94条〕/議会の権限=議決〔96条〕・選挙〔97条1項〕・検閲検査〔98条〕・意見書〔99条〕・調査〔100条〕・長の不信任〔178条〕) 図:議会のあらまし

  • 議事機関〔89条1項〕=住民が選挙した議員で組織
  • 議員の任期は4年〔93条1項〕
  • 町村は条例で議会に代えて町村総会を置ける〔94条〕
  • 議会の権限=議決〔96条〕・選挙〔97条1項〕・検閲検査〔98条〕・意見書〔99条〕・調査〔100条〕・長の不信任〔178条〕

議会から見ます。89条1項です。

条文地方自治法89条1項

地方自治法第89条第1項 普通地方公共団体に、その議事機関として、当該普通地方公共団体の住民が選挙した議員をもつて組織される議会を置く。

骨格は、普通地方公共団体には、議事機関として、住民が選挙した議員で組織する議会を置く、です。議事機関は、議論して物事を決める機関のことです。ここに住民自治が現れています。住民が直接選んだ人たちが、地域の重要なことを決めるのです。議員の任期は、93条1項で4年です。町村は、条例で議会を置かずに、選挙権のある人の総会を開くこともできます。町村総会です。これは憲法の回で見ました。国会は国権の最高機関で、立法権を持ちます。地方の議会は、そのような最高機関ではなく、その団体の議事機関です。条例は議会が決めますが、条例を執行するのは、長の役目です。議会が議決する事件の筆頭は、条例を作ることです。

議決事件(96条1項=次の事件を議決しなければならない〔一 条例を設け又は改廃すること/二 予算を定めること/三 決算を認定すること/四〜十五号まで全15号〕/96条2項=条例で議決事件を追加できる) 図:議決事件

  • 96条1項=次の事件を議決しなければならない〔一 条例を設け又は改廃すること/二 予算を定めること/三 決算を認定すること/四〜十五号まで全15号〕
  • 96条2項=条例で議決事件を追加できる

議会が議決する事件は、96条1項に並んでいます。

条文地方自治法96条1項(柱書・1号〜3号。全15号)

地方自治法第96条第1項(抜粋) 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。 一 条例を設け又は改廃すること。 二 予算を定めること。 三 決算を認定すること。 …

骨格は、議会は条例の制定改廃と予算と決算の認定を議決する、です。全部で15号あります。4号以下には、一定額以上の契約を結ぶことや、財産の処分などが並びます。たとえば大きな工事の請負契約は、条例が定める基準を超えると、議会の議決が要ります。暗記は要りません。96条2項は、これらのほかにも、条例で議決事件を追加できると定めています。議会の仕事の範囲は、条例で広げられます。議決のほかに、議会は調べる権限も持っています。98条は、書類を検閲して、長や委員会の報告を求め、事務の管理と出納を検査することを認めています。99条は、国会や関係する行政庁に意見書を出せると定めています。そして100条1項です。

条文地方自治法100条1項

地方自治法第100条第1項 普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務(自治事務にあつては労働委員会及び収用委員会の権限に属する事務で政令で定めるものを除き、法定受託事務にあつては国の安全を害するおそれがあることその他の事由により議会の調査の対象とすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く。次項において同じ。)に関する調査を行うことができる。この場合において、当該調査を行うため特に必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。

骨格は、議会は、その団体の事務について調査ができる。特に必要なときは、関係人の出頭と証言と記録の提出を請求できる、です。括弧書きは、調査の対象にしない事務の除外です。この調査のための委員会は、条文の番号から百条委員会と呼ばれます。請求を受けた人が正当な理由なく出頭しなかったり証言を拒んだりすると、100条3項に罰則があります。拘禁刑か罰金です。議会の調べる力は、そこまで強いということです。議員の懲罰と、その司法審査は、別の回で扱います。市長の出した予算案を、議会が直して可決することはできるんですか。97条2項です。

条文地方自治法97条2項

地方自治法第97条第2項 議会は、予算について、増額してこれを議決することを妨げない。但し、普通地方公共団体の長の予算の提出の権限を侵すことはできない。

読むとおりです。議会は予算を増額して議決しても構いません。ただし長の予算の提出の権限を侵すことはできません。

予算は誰が作るか(長=予算を調製し執行する〔149条2号〕・議案として提出する/議会=提出された予算案を議決する・増額修正はできる〔97条2項本文〕/ただし長の提出の権限を侵す修正はできない〔ただし書〕/議会の招集は長が行う〔101条1項〕) 図:予算は誰が作るか

  • 長=予算を調製し執行する〔149条2号〕・議案として提出する
  • 議会=提出された予算案を議決する・増額修正はできる〔97条2項本文〕
  • ただし長の提出の権限を侵す修正はできない〔ただし書〕
  • 議会の招集は長が行う〔101条1項〕

ここで決め手を言います。予算を作って責任を持つのは、長の側です。149条2号が、予算の調製、つまり予算案を作ることと、その執行を長の仕事にしています。議会が予算を一から作ってしまうと、誰がその予算の責任を持つのか分からなくなります。議会は、長が出した予算案を議決で縛る立場です。境界をペアで見ます。長が出した図書館の予算の金額を、議会が増やして可決する。これは増額修正で、認められます。これに対して、長の予算案に無い新しい事業、たとえば長が計画していない市民ホールの建設費を、議会が丸ごと書き加える。予算の組み立てを議会が長に代わって決めることになり、長の提出の権限を侵すと考えられます。どこまでが侵害かは条文では決まらず、予算の趣旨を損なうかどうかで個々に判断します。

条文が先回りしています。101条1項は、議会を招集するのは長だと定めています。けれども、議長や議員の定数の4分の1以上の人は、長に、決まった時期に開く定例会とは別の、臨時会の招集を請求できます。長が20日以内に招集しなければ、議長が招集できる場合があります。長と議会が互いに握っている手は、ここにも出てきます。練習です。予算案を議会が増額して可決することはできるでしょうか。できないとすれば、何を侵すからでしょうか。増額はできます。ただし、長の予算の提出の権限を侵す増額はできません。議会は、議決する、調べる、長を辞めさせることもできる。けれど予算を出すのは、長の側です。

執行機関——長と委員会・委員

長に集中しつつ薄める(A=住民/B=長/C=教育委員会/D=選挙管理委員会/E=議会/A→B=選挙で選ぶ/B⇢C・B⇢D=所轄の下・総合調整〔点線=指揮監督ではない〕/C・Dの職権行使は長から独立) 図:長に集中しつつ薄める

  • A=住民
  • B=長
  • C=教育委員会
  • D=選挙管理委員会
  • E=議会
  • A→B=選挙で選ぶ
  • B⇢C・B⇢D=所轄の下・総合調整〔点線=指揮監督ではない〕
  • C・Dの職権行使は長から独立

次は議会と並ぶもうひとつの顔、執行機関です。その前に、復習を1問。前の動画で、統轄と所轄は何が違うと言いましたか?統轄は、総合調整しながら指揮監督すること。所轄は、形式上の所属を示すだけで、職権行使への指揮監督は含みません。今日はこの所轄が、地方の組織を読む鍵になります。まず言葉です。執行機関には2つの意味があると前に言いました。今日の執行機関は自治法の意味の方、つまり長と委員会と委員です。実力行使を担う機関の方ではありません。138条の4第1項を読みます。

条文地方自治法138条の4第1項

地方自治法第138条の4第1項 普通地方公共団体にその執行機関として普通地方公共団体の長の外、法律の定めるところにより、委員会又は委員を置く。

骨格は、執行機関として、長のほかに法律により委員会または委員を置く、です。まず長の方から見ます。147条の、長は統轄し代表する、は前に読みました。次の148条です。

条文地方自治法148条

地方自治法第148条 普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体の事務を管理し及びこれを執行する。

長は、その団体の事務を管理して執行します。149条は、その事務の例を並べています。

長が担任する事務(149条=概ね次の事務を担任する〔一 議案の提出/二 予算の調製及び執行/三 地方税の賦課徴収・分担金等の徴収・過料/四 決算を議会の認定に付す/五 会計の監督/六 財産の取得・管理・処分/七 公の施設の設置・管理・廃止/八 証書及び公文書類の保管/九 前各号に定めるものを除く外、当該団体の事務の執行〕) 図:長が担任する事務

議案の提出。予算の調製と執行。税を課して集める賦課徴収と、義務違反に金銭の制裁を科す過料。決算を議会の認定に付すこと。会計の監督。財産の管理。公の施設の設置と管理。証書や公文書の保管。そして9号の、その他の事務の執行です。9号は受け皿です。つまり、その団体の事務は原則として長のもの、という構えです。事務の原則を長に集める点が、国との違いです。国は各大臣が事務を分担管理して、内閣がそれを束ねました。地方は長が全体を統轄します。住民から見れば窓口が長の下にまとまっています。教育も福祉も道路も、1人の長の下で一緒に考えられます。これを総合行政と呼ぶことがあります。ただ、全部が長1人に集まると危ない仕事があります。市長の選挙を管理する選挙管理委員会が市長の部下なら、公正に管理できるでしょうか。教育の内容が市長が代わるたびに変わってよいでしょうか。市長自身の仕事を調べる監査が市長の部下で足りるでしょうか。そこで、長とは別に、独立した委員会や委員を置きます。これが執行機関の多元主義です。長への集中を、独立の委員会で薄める仕組みです。

委員会・委員の一覧(180条の5=全団体に置く:教育委員会/選挙管理委員会/人事委員会又は公平委員会/監査委員・都道府県に置く:公安委員会/労働委員会/収用委員会/海区漁業調整委員会/内水面漁場管理委員会・市町村に置く:農業委員会/固定資産評価審査委員会/暗記しない=教育・選挙・公安・監査の4例を押さえる) 図:委員会・委員の一覧

  • 180条の5=全団体に置く:教育委員会
  • 選挙管理委員会
  • 人事委員会又は公平委員会
  • 監査委員・都道府県に置く:公安委員会
  • 労働委員会
  • 収用委員会
  • 海区漁業調整委員会
  • 内水面漁場管理委員会・市町村に置く:農業委員会
  • 固定資産評価審査委員会
  • 暗記しない=教育・選挙・公安・監査の4例を押さえる

委員会の一覧は180条の5に並んでいます。板のとおりです。全団体に置くものに、教育委員会と選挙管理委員会と、人事委員会または公平委員会と、監査委員があります。都道府県に置くものに公安委員会などがあり、市町村に置くものに農業委員会などがあります。全部の名前は暗記しません。教育と選挙と公安と監査の4つを、例として押さえてください。独立しているなら、予算も自分で組むんですか。そこが落とし穴です。180条の6を読みます。

条文地方自治法180条の6

地方自治法第180条の6 普通地方公共団体の委員会又は委員は、左に掲げる権限を有しない。但し、法律に特別の定があるものは、この限りでない。 一 普通地方公共団体の予算を調製し、及びこれを執行すること。 二 普通地方公共団体の議会の議決を経べき事件につきその議案を提出すること。 三 地方税を賦課徴収し、分担金若しくは加入金を徴収し、又は過料を科すること。 四 普通地方公共団体の決算を議会の認定に付すること。

骨格は、委員会と委員は、予算の調製と執行、議案の提出、税の賦課徴収と過料、決算を議会の認定に付すこと、の4つの権限を持たない。ただし法律に特別の定めがあれば別、です。

委員会の独立と長の手(委員会が独立している=自分の職務についての判断/180条の6=委員会・委員は4つの権限を有しない〔予算の調製と執行/議案の提出/地方税の賦課徴収と過料/決算を議会の認定に付すこと〕ただし法律に特別の定があるものは別/お金の財布と議会への提出は長の手を通る/財布が委員会ごとに分かれると市全体でいくら使うかを責任を持って決める人がいなくなる) 図:委員会の独立と長の手

  • 委員会が独立している=自分の職務についての判断
  • 180条の6=委員会・委員は4つの権限を有しない〔予算の調製と執行/議案の提出/地方税の賦課徴収と過料/決算を議会の認定に付すこと〕ただし法律に特別の定があるものは別
  • お金の財布と議会への提出は長の手を通る
  • 財布が委員会ごとに分かれると市全体でいくら使うかを責任を持って決める人がいなくなる

つまり、委員会が独立しているのは自分の職務についての判断です。お金の財布と議会への提出は、長の手を通ります。なぜ委員会に財布を持たせないのか。財布が委員会ごとに分かれると、市全体でいくら使うかを、責任を持って決める人がいなくなります。議会のところで見たとおり、予算を作って責任を持つのは、長の側でした。委員会の独立は、お金の責任までは分けないのです。委員会は独立していても、バラバラでは行政になりません。それを束ねるのが138条の3です。

条文地方自治法138条の3第1項〜3項

地方自治法第138条の3第1項〜第3項 普通地方公共団体の執行機関の組織は、普通地方公共団体の長の所轄の下に、それぞれ明確な範囲の所掌事務と権限を有する執行機関によつて、系統的にこれを構成しなければならない。 2 普通地方公共団体の執行機関は、普通地方公共団体の長の所轄の下に、執行機関相互の連絡を図り、すべて、一体として、行政機能を発揮するようにしなければならない。 3 普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体の執行機関相互の間にその権限につき疑義が生じたときは、これを調整するように努めなければならない。

委員会を束ねる138条の3(1項=執行機関の組織は長の所轄の下に系統的に構成/2項=執行機関は長の所轄の下に、相互の連絡を図り一体として行政機能を発揮/3項=権限に疑義が生じたときは長が調整するよう努める) 図:委員会を束ねる138条の3

  • 1項=執行機関の組織は長の所轄の下に系統的に構成
  • 2項=執行機関は長の所轄の下に、相互の連絡を図り一体として行政機能を発揮
  • 3項=権限に疑義が生じたときは長が調整するよう努める

骨格は、執行機関は長の所轄の下に系統的に構成する。執行機関は長の所轄の下に、相互に連絡して一体として行政機能を発揮する。長は、執行機関どうしの権限の疑義を調整するよう努める、です。

長が委員会に持つ手(所轄=形式上の所属・職権行使への指揮監督は含まない/長に認められる=総合調整〔138条の3第3項〕と勧告〔180条の4第1項〕/命令ではなく、調整と勧告) 図:長が委員会に持つ手

  • 所轄=形式上の所属・職権行使への指揮監督は含まない
  • 長に認められる=総合調整〔138条の3第3項〕と勧告〔180条の4第1項〕
  • 命令ではなく、調整と勧告

長が委員会に命令することはできません。147条で長は団体全体を統轄しますが、委員会との関係について、138条の3はわざわざ所轄と書き分けています。所轄は形式上の所属で、職権行使への指揮監督は含みませんでした。長に認められているのは総合調整です。138条の3第3項は、執行機関の間で権限に疑義が生じたときは、長が調整するように努めなければならない、と定めています。180条の4第1項は、委員会の事務局の組織や定数について、長が必要な措置を勧告できる、と定めています。命令ではなく、調整と勧告です。さらに138条の2の2です。

条文地方自治法138条の2の2

地方自治法第138条の2の2 普通地方公共団体の執行機関は、当該普通地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務及び法令、規則その他の規程に基づく当該普通地方公共団体の事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務を負う。

骨格は、執行機関は、議会の議決に基づく事務も法令に基づく事務も、自らの判断と責任において誠実に管理し執行する義務を負う、です。長も委員会も同じです。議会が決めたから、長が言ったから、と言って責任を人に預けることはできません。

教育の場面(教科書その他の教材の取扱い=教育委員会の仕事〔180条の8〕・市長の所管ではない/教育の予算=長が議案を作って議会に出す〔180条の6〕・教育委員会は出せない/作るときは別の法律で教育委員会の意見を聴く/独立しているのに、お金は長の手を通る) 図:教育の場面

  • 教科書その他の教材の取扱い=教育委員会の仕事〔180条の8〕・市長の所管ではない
  • 教育の予算=長が議案を作って議会に出す〔180条の6〕・教育委員会は出せない
  • 作るときは別の法律で教育委員会の意見を聴く
  • 独立しているのに、お金は長の手を通る

ここまでをねじれの市に当てはめます。市長が教育委員会に、この教科書を使えと命じられるでしょうか。所轄は命令を含まないので、命じられません。180条の8は、教育委員会の仕事に、教科書その他の教材の取扱いを入れています。市長の所管ではありません。ただし教育の予算は、長が議案を作って議会に出します。180条の6のとおり、教育委員会はそれを出せません。作るときには、別の法律で教育委員会の意見を聴くことになっています。独立しているのに、お金は長の手を通る。180条の6の落とし穴が、教育の場面に出てきました。練習です。長が委員会に対して持っているのは、命令する権限でしょうか。総合調整の権限でしょうか。

総合調整の権限です。138条の3と180条の4です。2つ目の問いの答えが出ました。市の行政は、長を中心にまとまっています。けれども全部が長の下にあるわけではありません。長とは別に、独立した委員会があり、それを長の所轄の下で一体として束ねています。

二元代表制と議院内閣制

誰が誰を選ぶか(国=国民が衆議院・参議院の議員を選ぶ→国会が内閣総理大臣を指名する→内閣は国会に連帯して責任を負う/地方=住民が長を選ぶ・住民が議員を選ぶ〔どちらも直接〕→長と議会は別々の選挙・別々の任期/二元代表制〔首長制〕と議院内閣制) 図:誰が誰を選ぶか

  • 国=国民が衆議院・参議院の議員を選ぶ→国会が内閣総理大臣を指名する→内閣は国会に連帯して責任を負う
  • 地方=住民が長を選ぶ・住民が議員を選ぶ〔どちらも直接〕→長と議会は別々の選挙・別々の任期
  • 二元代表制〔首長制〕と議院内閣制

1つ目の問いに答えます。国の議院内閣制から整理します。国民は国会議員を選びます。国会が内閣総理大臣を指名します。内閣は国会に対して連帯して責任を負います。選ばれ方が、国会を経由してつながっています。地方は違います。17条を読みます。

条文地方自治法17条

地方自治法第17条 普通地方公共団体の議会の議員及び長は、別に法律の定めるところにより、選挙人が投票によりこれを選挙する。

骨格は、議員と長は選挙人が投票で選挙する、です。憲法93条2項も同じことを言っていました。長も議員も住民が直接選びます。これを二元代表制と呼びます。憲法の回で、地方は大統領制・首長制と呼ばれる仕組みに近い、と見ました。その仕組みを自治法の側から呼んだ名前です。二元代表制では、長と議会は別々の選挙で別々に選ばれます。任期も別です。長の任期も議員の任期も4年ですが、始まりの日は同じとは限りません。二元代表制がわかったところで、冒頭のねじれの市の問いに戻ります。市長と議員は別々の選挙で選ばれます。だから住民が、市長には改革派を、議会には反対派を選ぶということが、制度の上で起こりえます。国では、首相は国会の多数派から出るので、原則として起きにくい。市では、長と議会が別々に正統性を持っているので、食い違いうるのです。

国と地方の比較(長の選ばれ方=国は国会が首相を指名/地方は住民が直接選挙・議会との関係=国は内閣が国会の信任に依存/地方は別々の選挙・別々の任期・兼職=国務大臣の過半数は国会議員/長は議員と兼ねられない〔141条〕・不信任と解散=国は衆議院の内閣不信任と衆議院の解散〔憲法69条〕/地方は議会の長不信任と長の議会解散〔178条〕) 図:国と地方の比較

  • 長の選ばれ方=国は国会が首相を指名
  • 地方は住民が直接選挙・議会との関係=国は内閣が国会の信任に依存
  • 地方は別々の選挙・別々の任期・兼職=国務大臣の過半数は国会議員
  • 長は議員と兼ねられない〔141条〕・不信任と解散=国は衆議院の内閣不信任と衆議院の解散〔憲法69条〕
  • 地方は議会の長不信任と長の議会解散〔178条〕

比較の表を見ます。上から2つは、いま見たとおりです。3つ目は兼職です。141条を読みます。

条文地方自治法141条

地方自治法第141条 普通地方公共団体の長は、衆議院議員又は参議院議員と兼ねることができない。 2 普通地方公共団体の長は、地方公共団体の議会の議員並びに常勤の職員及び短時間勤務職員と兼ねることができない。

骨格は、長は国会議員とも地方議会の議員とも常勤の職員とも兼ねられない、です。長と議会は、人も分かれています。国は反対です。国務大臣の過半数は、国会議員でなければなりません。内閣と国会は、人も重なっています。練習です。市長が市議会議員を兼ねられるでしょうか。国務大臣が国会議員を兼ねられるでしょうか。市長は兼ねられません。国務大臣は兼ねられます。むしろ過半数は国会議員です。4つ目の違いに入る前に、復習を1問。憲法の回で見た、国の議院内閣制で、内閣不信任が可決されたら、内閣は何日以内にどうしなければなりませんか?

10日以内に衆議院を解散するか、総辞職しなければなりません。地方は、長と議会が別々に選ばれる点では国と違いますが、不信任と解散については、議院内閣制に近い仕組みを折衷的に取り入れています。憲法の回で、議院内閣制に近い仕組みが一部残ると言いました。その中身が次です。大統領制との違いも確認します。大統領制は、行政のトップを議会とは別に国民が直接選ぶ仕組みです。大統領制には、議会による不信任と、大統領による議会の解散がありません。地方は首長制を基調にしながら、不信任と解散の手を両方に持たせているのです。これが1つ目の問いの答えです。市長と議会は、国の内閣と国会と同じではありません。別々に選ばれ、別々の任期を持ちます。ただし対立をほどく手は用意されています。

長と議会の対立をほどく手

対立をほどく3つの手(再議=長が議決を突き返す〔長の手〕/不信任=議会が長を辞めさせる〔議会の手〕/解散=長が議会を解散する〔長の手〕/専決処分は別の回) 図:対立をほどく3つの手

  • 再議=長が議決を突き返す〔長の手〕
  • 不信任=議会が長を辞めさせる〔議会の手〕
  • 解散=長が議会を解散する〔長の手〕
  • 専決処分は別の回

3つ目の問いです。ねじれの市で議会が市長に反対したとき、法律は誰にどんな手を残しているのでしょうか。持ち帰るのは条文の番号ではなく、3つの型です。1つ目、長が議決を突き返す。再議です。2つ目、議会が長を辞めさせる。不信任です。3つ目、長が議会を解散する。解散です。再議から見ます。ねじれの市で、議会が、市長の進める再開発を止める条例を可決したとします。市長はその条例に異議がある。176条1項です。

条文地方自治法176条1項〜3項

地方自治法第176条第1項〜第3項 普通地方公共団体の議会の議決について異議があるときは、当該普通地方公共団体の長は、この法律に特別の定めがあるものを除くほか、その議決の日(条例の制定若しくは改廃又は予算に関する議決については、その送付を受けた日)から十日以内に理由を示してこれを再議に付することができる。 2 前項の規定による議会の議決が再議に付された議決と同じ議決であるときは、その議決は、確定する。 3 前項の規定による議決のうち条例の制定若しくは改廃又は予算に関するものについては、出席議員の三分の二以上の者の同意がなければならない。

骨格は、議決に異議があるとき、長は10日以内に理由を示して再議に付せる。再議の結果、同じ議決がされれば確定する。ただし条例と予算については、出席議員の3分の2以上の同意が要る、です。再議は長の側の手です。議会が再議を求めるのではありません。長が、もう一度考えてください、と議会に突き返すのです。決め手があります。もし再議決も過半数で足りるなら、最初の議決と同じ票で同じ議決が繰り返されるだけです。長の再議は何の意味も持たなくなります。3分の2を求めることで、再議を本当に重い異議申立てにしています。境界をペアで見ます。条例を再議決するとき、過半数では確定しません。3分の2以上が要ります。これに対して、条例や予算でない議決、たとえばある契約を結ぶことを承認する議決を再議決するときは、過半数で足ります。練習です。長が再議に付した条例の議決を、議会が出席議員の過半数で再び同じ内容で議決しました。確定するでしょうか。

条例だから3分の2が要ります。過半数では確定しません。3分の2に届かなければ、その条例の議決は確定しません。

義務的な再議(176条4項=議決又は選挙が権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、長は理由を示して再議に付し又は再選挙を行わせなければならない/なお違反すると認めるときは総務大臣又は都道府県知事に審査を申し立て〔5項〕→取り消す旨の裁定〔6項〕→出訴〔7項・8項〕/177条1項=義務に属する経費・非常災害の経費の削除減額は再議に付さなければならない) 図:義務的な再議

  • 176条4項=議決又は選挙が権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは、長は理由を示して再議に付し又は再選挙を行わせなければならない
  • なお違反すると認めるときは総務大臣又は都道府県知事に審査を申し立て〔5項〕→取り消す旨の裁定〔6項〕→出訴〔7項・8項〕
  • 177条1項=義務に属する経費・非常災害の経費の削除減額は再議に付さなければならない

再議にはもうひとつの型があります。付すことができる場合ではなく、付さなければならない場合です。176条4項は、議決や選挙が権限を超えたり法令に違反したりすると認めるときは、長は理由を示して再議に付すか再選挙を行わせなければならない、と定めています。それでも違反だと認めるときは、5項から8項に、総務大臣や知事への審査の申立てと、裁判所への出訴の道があります。ここは骨格だけ押さえます。もうひとつ、177条です。

条文地方自治法177条1項〜3項

地方自治法第177条第1項〜第3項 普通地方公共団体の議会において次に掲げる経費を削除し又は減額する議決をしたときは、その経費及びこれに伴う収入について、当該普通地方公共団体の長は、理由を示してこれを再議に付さなければならない。 一 法令により負担する経費、法律の規定に基づき当該行政庁の職権により命ずる経費その他の普通地方公共団体の義務に属する経費 二 非常の災害による応急若しくは復旧の施設のために必要な経費又は感染症予防のために必要な経費 2 前項第一号の場合において、議会の議決がなお同号に掲げる経費を削除し又は減額したときは、当該普通地方公共団体の長は、その経費及びこれに伴う収入を予算に計上してその経費を支出することができる。 3 第一項第二号の場合において、議会の議決がなお同号に掲げる経費を削除し又は減額したときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決を不信任の議決とみなすことができる。

骨格は、法令により負担する義務の経費や、非常災害の応急復旧の経費や感染症予防の経費を議会が削ったときは、長は再議に付さなければならない、です。それでも削られたときは、義務の経費は長が予算に計上して支出できます。災害や感染症予防の経費は、その議決を不信任の議決とみなせます。理由ははっきりしています。法律が払わなければならないと決めた費用や、災害の復旧費用を議会が削ってしまうと、行政が成り立ちません。議会の議決権にも限界がある、ということです。扱いが分かれる理由は、こう整理すると分かりやすいです。義務の経費は払う中身が法令で決まっているので、長が自分で計上しても、議会の判断を奪うことにはなりにくい。災害や感染症予防の経費は何にいくら使うかに判断が入るので、長に押し切らせる形にはせず、不信任とみなして議会を解散し、住民に問う道を開いている、という見方です。再議の次は議会の手です。不信任と解散です。ねじれの市で予算案の否決が続き、議会の多数派が市長を辞めさせたいと考えたとします。178条です。

条文地方自治法178条1項〜3項

地方自治法第178条第1項〜第3項 普通地方公共団体の議会において、当該普通地方公共団体の長の不信任の議決をしたときは、直ちに議長からその旨を当該普通地方公共団体の長に通知しなければならない。この場合においては、普通地方公共団体の長は、その通知を受けた日から十日以内に議会を解散することができる。 2 議会において当該普通地方公共団体の長の不信任の議決をした場合において、前項の期間内に議会を解散しないとき、又はその解散後初めて招集された議会において再び不信任の議決があり、議長から当該普通地方公共団体の長に対しその旨の通知があつたときは、普通地方公共団体の長は、同項の期間が経過した日又は議長から通知があつた日においてその職を失う。 3 前二項の規定による不信任の議決については、議員数の三分の二以上の者が出席し、第一項の場合においてはその四分の三以上の者の、前項の場合においてはその過半数の者の同意がなければならない。

骨格は、議会が長の不信任を議決すると、長は10日以内に議会を解散できる。解散しなければ、または解散後に初めて招集された議会で再び不信任の議決があれば、長は職を失う、です。

不信任と解散の流れ(議会が長の不信任議決〔議員数の3分の2以上が出席・その4分の3以上の同意〕→長は通知から10日以内に議会を解散できる→①解散しない→10日が過ぎた日に失職/②解散→選挙で新しい議会→初めて招集された議会で再び不信任〔3分の2以上が出席・過半数の同意〕→通知の日に失職/再び不信任がなければ長は続投) 図:不信任と解散の流れ

  • 議会が長の不信任議決〔議員数の3分の2以上が出席・その4分の3以上の同意〕→長は通知から10日以内に議会を解散できる→①解散しない→10日が過ぎた日に失職
  • ②解散→選挙で新しい議会→初めて招集された議会で再び不信任〔3分の2以上が出席・過半数の同意〕→通知の日に失職
  • 再び不信任がなければ長は続投

流れを板で確認します。不信任の議決は、議員数の3分の2以上が出席して、その4分の3以上の同意が要ります。議員40人の議会で全員が出席したなら、30人以上の賛成が要るという数です。かなり重い要件で、国の内閣不信任よりずっと重くなっています。なぜ国より重いのか。国の首相は国会が指名した人なので、衆議院で出席議員の過半数が不信任を決めれば足ります。地方の長は、住民が直接選んだ人です。その長を議会だけで辞めさせるのですから、入口を狭くしてあるのです。長には2つの道があります。解散しないなら、10日が過ぎた日に職を失います。解散すれば、住民が選び直した議会に判断を委ねることになります。新しい議会が最初に開かれたとき再び不信任を議決すれば、長は職を失います。今度は過半数の同意で足ります。

決め手は、住民の判断が入ったことです。最初の不信任は、前の選挙で選ばれた議会の判断です。解散で選挙をやり直して、それでも新しい議会が不信任を出すなら、住民の意思が議会の側にあると見てよい。だから要件が軽くなります。

国と地方の不信任(国=衆議院が内閣不信任を可決〔過半数〕→10日以内に衆議院を解散しない限り総辞職〔憲法69条〕/地方=議会が長を不信任〔3分の2出席・4分の3同意〕→10日以内に議会を解散しない限り失職〔178条〕/国は総辞職で責任をとる・地方は失職) 図:国と地方の不信任

  • 国=衆議院が内閣不信任を可決〔過半数〕→10日以内に衆議院を解散しない限り総辞職〔憲法69条〕
  • 地方=議会が長を不信任〔3分の2出席・4分の3同意〕→10日以内に議会を解散しない限り失職〔178条〕
  • 国は総辞職で責任をとる・地方は失職

国との違いを並べます。国は、衆議院が内閣を不信任すると、10日以内に衆議院を解散しない限り、内閣は総辞職します。出席議員の過半数で足ります。地方は、議会が長を不信任すると、10日以内に議会を解散しない限り、長は失職します。特別多数が要ります。国は内閣全体が総辞職して責任をとります。地方は長1人が失職します。長は1人で、内閣のような合議体ではないからです。ねじれの市に戻ります。議会が市長の進める再開発を止める条例を可決した。市長は10日以内に理由を示して再議に付す。議会が出席議員の3分の2以上で再び可決すれば、条例は確定し、市長は従います。予算案の否決が続いて行政が止まりそうなときは、議会が市長を不信任できます。市長は解散か失職かを選びます。議会の側にも市長の側にも、相手に使える手が用意されています。ほかにも道があります。議会が議決すべき事件を議決しないときなどに、長が代わりに処分する専決処分は、別の回で扱います。前の動画の専決は、補助機関が決裁して、外へは行政庁の名で出すだけで、権限は動きませんでした。専決処分は、議会が決めるはずのことを長が決める制度で、名前は似ていても別物です。住民が直接請求で議会の解散や長の解職を求める道もあります。これも別の回で扱います。これで3つ目の問いの答えが出ました。法律は、再議と不信任と解散という、互いに握り合う手を残しています。

3つの問いの答えとまとめ

3つの問いの答え(①二元代表制=長も議員も住民が直接選ぶ→ねじれが起きうる〔国は議院内閣制:国会が首相を指名〕/②執行機関の多元主義=長に集中しつつ、独立の委員会・委員を置く→長の所轄の下で一体として行政機能を発揮〔束ねるのは命令でなく総合調整〕/③再議・不信任と解散=長と議会が互いに握る手) 図:3つの問いの答え

  • ①二元代表制=長も議員も住民が直接選ぶ→ねじれが起きうる〔国は議院内閣制:国会が首相を指名〕
  • ②執行機関の多元主義=長に集中しつつ、独立の委員会・委員を置く→長の所轄の下で一体として行政機能を発揮〔束ねるのは命令でなく総合調整〕
  • ③再議・不信任と解散=長と議会が互いに握る手

冒頭の問いに戻ります。3つの問いに順に答えます。1つ目。市長と議会は、国の内閣と国会と同じ関係でしょうか。違います。国は、国会が首相を指名する議院内閣制です。地方は、長も議員も住民が直接選ぶ二元代表制です。だから、ねじれの市のように色が食い違うことが起こりえます。2つ目。市の行政は、全部、長の下にあるのでしょうか。長が全体を統轄する点で、国の分担管理と違います。けれども、選挙や教育や警察や監査のように、長に集中させては困る仕事は、独立した委員会や委員に任せています。これが執行機関の多元主義です。それを長の所轄の下で一体として束ねます。束ねる手段は、命令ではなく総合調整です。3つ目。対立したとき、法律はどうほどくのか。長には再議があります。条例や予算の再議決には3分の2が要ります。議会には不信任があります。3分の2が出席して4分の3の同意が要ります。長は10日以内に議会を解散できます。解散しなければ失職し、解散後の議会が再び不信任なら、やはり失職です。長と議会が別々に住民から選ばれる以上、ぶつかることは制度が織り込んでいます。そのうえで互いに使える手を、条文があらかじめ渡しているのです。

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#28単独ページ動画

事務の2区分と国の関与

第2章 行政組織法 ㉘/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

みなと県に届いた2通の文書

みなと県に届いた2通の文書(A=担当大臣/B=みなと県/C=子育て支援金〔県が独自に運営〕/D=旅券の交付〔県の窓口で処理〕/A→B=文書1 Cについて「運用の是正を求める」/A→B=文書2 Dについて「こう改めよと指示する」) 図:みなと県に届いた2通の文書

  • A=担当大臣
  • B=みなと県
  • C=子育て支援金〔県が独自に運営〕
  • D=旅券の交付〔県の窓口で処理〕
  • A→B=文書1 Cについて「運用の是正を求める」
  • A→B=文書2 Dについて「こう改めよと指示する」

地方公共団体の組織を見終えました。今日は、その団体の仕事と、国との関わりを見ます。みなと県に、担当大臣から文書が2通届きました。1通目は、県が独自に運営している子育て支援金について、運用が法令に反しているとして、その是正を求める文書です。2通目は、県の窓口で処理している旅券の交付について、扱いが法令に反しているとして、こう改めるよう指示する文書です。どちらも、理由を書いた文書でした。旅券は、憲法の回で出てきた、あの旅券の交付です。名前が違います。1通目は是正の要求、2通目は是正の指示で、法律は別々の手として用意しています。名前が違えば、使える相手も、従わなかったときに続く手も違います。県は、2通とも従わなければならないのでしょうか。従わなかったら、大臣は何ができるのでしょうか。設例を一つ置いておきます。この回では、子育て支援金を県の自治事務として扱います。実際にある制度がどちらの事務にあたるかは、その制度の法律ごとに決まります。支援金だから必ず自治事務、という意味ではありません。

今日の2つの問い(①県の仕事は、国の仕事の代行なのか/②国は県にどんな手を、どこまで使えるのか/国と地方は上下ではない別の主体→その関係の中身を今日は条文で見る) 図:今日の2つの問い

  • ①県の仕事は、国の仕事の代行なのか
  • ②国は県にどんな手を、どこまで使えるのか/国と地方は上下ではない別の主体→その関係の中身を今日は条文で見る

今日の問いを整理します。1つは、県の仕事は、国の仕事の代行なのかどうか。もう1つは、国は県にどんな手を、どこまで使えるのか、です。国と地方公共団体は別々の行政主体で、国が上、地方が下という関係ではない、と前に見ました。国と地方の関わり方は、地方の回で見ますと言っていました。その別々の主体の間の関係の中身を、今日は条文で見ていきます。答えの形だけ、先に言っておきます。県の仕事は、国の仕事の代行ではありません。そして、どちらの事務かという性質が、国の使える手の強さを決めます。

事務の2区分——機関委任事務から自治事務・法定受託事務へ

国と地方の役割分担(1条の2第1項=地方公共団体は地域における行政を自主的かつ総合的に広く担う/2項=国は国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねる) 図:国と地方の役割分担

  • 1条の2第1項=地方公共団体は地域における行政を自主的かつ総合的に広く担う
  • 2項=国は国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねる

最初の問いから入ります。まず、国と地方の役割分担を決めている条文を読みます。1条の2です。

条文地方自治法1条の2第1項・2項

地方自治法第1条の2 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。 2 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。

地方は地域の行政を広く担い、国は国にしかできない役割を重点的に担う。身近な行政は、できる限り地方にゆだねる。この分け方が出発点です。国が本来果たすべき役割とは、国際社会での国家の存立にかかわる事務や、全国で統一して定めるのが望ましい基準に関する事務などです。次の条文は、その分担を法令の作り方に反映させる定めです。

条文地方自治法2条11項・13項

地方自治法第2条第11項・第13項 11 地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づき、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえたものでなければならない。 13 法律又はこれに基づく政令により地方公共団体が処理することとされる事務が自治事務である場合においては、国は、地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理することができるよう特に配慮しなければならない。

間の12項は、この趣旨に沿って法令を解釈し運用する義務を定めています。自治事務は、地域の特性に応じて処理するものだと、法律が先に宣言しているわけです。国が本来果たすべき役割、というと、結局は国の仕事のことですよね。地方がやる国の仕事、というのは何なんですか。そこが今日の中心です。順に説明します。その前に、昔の制度を見ます。

機関委任事務の廃止(旧=知事・市町村長が国の機関として国の事務を処理・主務大臣の包括的な指揮監督〔通達〕・地方の事務ではない/1999年の地方分権改革で廃止→2000年4月施行/現行=自治事務・法定受託事務〔どちらも地方公共団体の事務〕/旧三分類=公共事務・団体委任事務・行政事務・機関委任事務〔名前だけ〕) 図:機関委任事務の廃止

  • 旧=知事・市町村長が国の機関として国の事務を処理・主務大臣の包括的な指揮監督〔通達〕・地方の事務ではない
  • 1999年の地方分権改革で廃止→2000年4月施行
  • 現行=自治事務・法定受託事務〔どちらも地方公共団体の事務〕
  • 旧三分類=公共事務・団体委任事務・行政事務・機関委任事務〔名前だけ〕

かつて、機関委任事務という制度がありました。知事や市町村長が、国の仕事をするときだけは、国の機関という立場に立つ制度です。みなと県の旅券の交付のような仕事を、知事が国の機関として処理していました。この制度では、主務大臣が知事を、包括的に指揮監督できました。通達で、こう処理せよと直接言えたのです。実際に働くのは県の職員ですが、仕事は地方公共団体の事務ではなく、長が国の機関として担う事務という扱いでした。県の議会は口を出しにくく、住民のコントロールも及びにくい。地方が、国の縦割り行政の下請けのようになる、と批判されました。この制度は、1999年の地方分権一括法で廃止が決まり、2000年4月に廃止されました。廃止された機関委任事務の多くは、自治事務と法定受託事務に振り分けられました。改革前の事務の分類は、板に名前だけ並べておきます。公共事務、団体委任事務、行政事務です。機関委任事務と合わせて、名前を知っておく程度で構いません。大臣の通達が知事や市町村長に向けて出されていた事件の例として、墓地埋葬通達事件があります。古い判例で、通達が知事や市町村長を縛る場面が出てきたら、当時は機関委任事務の時代で、長が国の機関だったからだ、と読んでください。通達の法的性質は別の回で扱います。

2つの事務区分の定義(自治事務=法定受託事務以外の地方公共団体の事務〔控除的定義=原則は自治事務〕/法定受託事務=国〔または都道府県〕が本来果たすべき役割に係り、その適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律・政令に特に定めたもの/第1号=国→都道府県・市町村・特別区/第2号=都道府県→市町村・特別区) 図:2つの事務区分の定義

  • 自治事務=法定受託事務以外の地方公共団体の事務〔控除的定義=原則は自治事務〕
  • 法定受託事務=国〔または都道府県〕が本来果たすべき役割に係り、その適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律・政令に特に定めたもの
  • 第1号=国→都道府県・市町村・特別区
  • 第2号=都道府県→市町村・特別区

では、現在の2つの区分を、条文で確認します。2条8項と9項です。

条文地方自治法2条8項・9項

地方自治法第2条第8項・第9項 8 この法律において「自治事務」とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものをいう。 9 この法律において「法定受託事務」とは、次に掲げる事務をいう。 一 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第一号法定受託事務」という。) 二 法律又はこれに基づく政令により市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、都道府県が本来果たすべき役割に係るものであつて、都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第二号法定受託事務」という。)

読み飛ばした部分に、法定受託事務の大事な要素があります。国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして、法律や政令に特に定めたもの、という部分です。国が本来果たすべき役割に係るから、適正な処理を特に確保したい。この考え方が、あとで見る国の関与の強さにつながります。もう一つのポイントは、自治事務が控除的に定義されていることです。法定受託事務以外は全部、自治事務です。事務の原則は自治事務で、法定受託事務が例外です。法定受託事務には2種類あります。第1号は、国が本来果たすべき役割に係る事務で、都道府県、市町村、特別区が処理するもの。第2号は、都道府県が本来果たすべき役割に係る事務で、市町村と特別区が処理するもの、つまり県と町の役割分担の話です。どの事務が法定受託事務かは、自治法の別表第一・別表第二や、政令に書かれています。別表に載っていなくても、政令で法定受託事務と定められているものがあります。法定受託事務と定められていなければ、自治事務になります。

設例の仕事を当てはめる(みなと県=A 子育て支援金の運営〔設例上は自治事務〕/B 旅券の交付〔旅券法に基づく県の事務→第1号法定受託事務〕/あおば町=C 戸籍の届出の受理〔戸籍法に基づく町の事務→第1号法定受託事務〕/D 県議会議員選挙の町の選挙事務〔公職選挙法に基づく町の事務→第2号法定受託事務〕/E 町道の管理〔別表にも政令にも定めなし→控除的に自治事務〕) 図:設例の仕事を当てはめる

  • みなと県=A 子育て支援金の運営〔設例上は自治事務〕
  • B 旅券の交付〔旅券法に基づく県の事務→第1号法定受託事務〕
  • あおば町=C 戸籍の届出の受理〔戸籍法に基づく町の事務→第1号法定受託事務〕
  • D 県議会議員選挙の町の選挙事務〔公職選挙法に基づく町の事務→第2号法定受託事務〕
  • E 町道の管理〔別表にも政令にも定めなし→控除的に自治事務〕

設例の仕事を当てはめます。みなと県の旅券の交付は、旅券法に基づく県の事務で、第1号法定受託事務です。あおば町の戸籍の届出の受理は、戸籍法に基づく町の事務で、やはり第1号です。あおば町が県議会議員選挙のために行う選挙の事務は、第2号です。県議会の選挙は県の選挙なので、その事務は本来、県の役割に係ります。そのうち町が受け持つ部分を、町が処理するからです。一方、町道の管理は、別表にも政令にも法定受託事務として定められていないので、控除的に自治事務になります。憲法の回では、地方選挙は自治事務、国政選挙は法定受託事務、と大づかみに例を挙げました。県が自分の議会の選挙を管理する事務は、そのとおり県の自治事務です。今日は、その選挙のために町が受け持つ事務まで、精密に分けました。同じ選挙でも、誰の役割の事務を、誰が処理するかで、区分が変わります。

第2号は県と町の間の話で、国は直接には出てきません。町の事務に国がどう関わるかは、あとで県と町の二層として見ます。確認です。前の動画で読んだ議会の調査権、100条1項には括弧書きがありました。あの括弧書きは何を除いていましたか?調査の対象にしない事務の除外でした。自治事務と法定受託事務で、書き分けていた気がします。今日、その意味が回収されます。ここからが、この回で一番つまずきやすいところです。

法定受託事務も、地方公共団体の事務

つまずきどころ(憲法の回の入口=国の仕事を地方が代わりに担うイメージ→精密化=国が本来果たすべき役割に係るから適正な処理を特に確保したい。ただし処理するのは地方公共団体自身の事務〔138条の2の2=自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行〕/例え=受託製造〔依頼元から品質を特に厳守と頼まれても、作るのは自社工場・自社の責任〕) 図:つまずきどころ

  • 憲法の回の入口=国の仕事を地方が代わりに担うイメージ→精密化=国が本来果たすべき役割に係るから適正な処理を特に確保したい。ただし処理するのは地方公共団体自身の事務〔138条の2の2=自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行〕
  • 例え=受託製造〔依頼元から品質を特に厳守と頼まれても、作るのは自社工場・自社の責任〕

憲法の回で、法定受託事務は、本来は国の事務で、国の仕事を地方が代わりに担うイメージだと説明しました。入口のイメージとしては悪くありません。ここで、本来は国の事務、という部分を精密にします。法定受託事務を処理する主体は、国ではなく、地方公共団体です。本来は国の、と言えるのは、事務そのものではなく、役割のほうです。国が本来果たすべき役割に係るものなので、適正な処理を特に確保したい。だから国の関与が強くなります。けれども、処理するのは、あくまで地方公共団体自身です。喩えで考えます。メーカーが、取引先から、この商品は衛生基準を特に厳守で作ってほしい、と受託製造を頼まれたとします。依頼元は、品質について強く口を出せます。けれども、作るのは自社の工場で、責任も自社が負います。依頼元の工場ではありませんし、依頼元が工場の従業員に直接命令するわけでもありません。法定受託事務は、これに近い関係です。前の動画で、自治法138条の2の2を読みました。執行機関は、自らの判断と責任において、誠実に管理し執行する義務を負う、という条文です。これは法定受託事務にも当てはまります。県知事が旅券の交付をするとき、それは国の機関としてではなく、県の知事としてです。

法定受託事務も地方の事務だと、何が変わるか(国の包括的な指揮監督は無い→関与は法律の根拠が要る/通達はそのまま拘束しない〔大臣と知事は上級・下級でない〕/条例の対象になる/議会の調査・検閲・監査委員の監査の対象になる) 図:法定受託事務も地方の事務だと、何が変わるか

  • 国の包括的な指揮監督は無い→関与は法律の根拠が要る
  • 通達はそのまま拘束しない〔大臣と知事は上級・下級でない〕
  • 条例の対象になる
  • 議会の調査・検閲・監査委員の監査の対象になる

この考え方から、帰結が出てきます。順に見ます。まず、大臣に、知事に対する包括的な指揮監督はありません。国が関与するには、法律の根拠が要ります。このあと詳しく見ます。次に、通達が、そのまま県を拘束するわけではありません。前に、通達は上級機関から下級機関への命令だと見ました。大臣と県知事は、上級と下級の関係にありません。機関委任事務の時代は、知事が国の機関だったので、通達が効きました。今は国と県が別々の行政主体なので、上下の命令としての通達では縛れません。ただし法定受託事務については、法律に根拠を置いて、大臣が処理の基準を定める仕組みが別にあります。さらに、法定受託事務も、条例の対象になります。どこまで条例で決められるかは、別の回で扱います。最後に、議会の調査や検閲、監査委員の監査の対象にもなります。先ほどの100条1項の括弧書きの話です。

除外の範囲の違い(調査〔100条1項〕・検閲検査〔98条1項〕・監査の請求〔98条2項〕・監査〔199条2項〕に同じ型の括弧書き/自治事務=労働委員会・収用委員会の権限に属する事務で政令で定めるものを除く/法定受託事務=国の安全を害するおそれがあることその他の事由により対象とすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く/どちらも原則は対象) 図:除外の範囲の違い

  • 調査〔100条1項〕・検閲検査〔98条1項〕・監査の請求〔98条2項〕・監査〔199条2項〕に同じ型の括弧書き
  • 自治事務=労働委員会・収用委員会の権限に属する事務で政令で定めるものを除く
  • 法定受託事務=国の安全を害するおそれがあることその他の事由により対象とすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く
  • どちらも原則は対象

100条1項の括弧書きは、自治事務については、労働委員会と収用委員会の権限に属する事務で、政令で定めるものを除いていました。法定受託事務については、国の安全を害するおそれがあることなどの事由で、調査の対象にするのが適当でないとして、政令で定めるものを除いていました。除く範囲が違うのです。議会の検閲・検査を定める98条1項、議会が監査委員に監査を求める98条2項、監査委員の監査を定める199条2項にも、同じ型の括弧書きがあります。いずれも、原則は法定受託事務も対象で、除かれるのは政令で定めたものだけ、という構えです。練習です。法定受託事務の処理について、みなと県の議会は調査できるでしょうか。

法定受託事務も県自身の事務だから、議会の調査は及びます。例外は、政令で除かれたものだけです。これで、最初の問いの中身が見えました。法定受託事務は、国の事務の代行ではなく、地方公共団体自身の事務です。

2つの事務の共通点と相違点(共通=地方公共団体の事務/条例制定権の対象/相違=国の関与の強さ〔自治事務は是正の要求まで・法定受託事務は是正の指示・代執行まで〕/議会の調査・検閲の除外の範囲/監査委員の監査の除外の範囲/処分の審査請求先〔法定受託事務は所管大臣や知事へ・255条の2〕) 図:2つの事務の共通点と相違点

  • 共通=地方公共団体の事務
  • 条例制定権の対象
  • 相違=国の関与の強さ〔自治事務は是正の要求まで・法定受託事務は是正の指示・代執行まで〕
  • 議会の調査・検閲の除外の範囲
  • 監査委員の監査の除外の範囲
  • 処分の審査請求先〔法定受託事務は所管大臣や知事へ・255条の2〕

共通点と相違点を、板にまとめます。共通するのは、どちらも地方公共団体の事務であること、そして条例制定権の対象になることです。違うのは、国の関与の強さ、議会の調査や検閲の除外の範囲、監査委員の監査の除外の範囲です。最後の行に、法定受託事務についての処分に不服がある人が、見直しを求める審査請求は、所管の大臣や知事に行く、という点を一行入れてあります。審査請求先の一般論は別の回で扱います。国の関与の強さは、このあと条文で読みます。

国の関与の枠組み——類型・法定主義・強さの段階

国の関与とは(国または都道府県の機関が、普通地方公共団体の事務の処理に関し行う次の行為/固有の資格において名宛人となるものに限る/1号=イ助言・勧告 ロ資料の提出の要求 ハ是正の要求 ニ同意 ホ許可・認可・承認 ヘ指示 ト代執行/2号=協議/3号=具体的かつ個別的に関わる行為) 図:国の関与とは

  • 国または都道府県の機関が、普通地方公共団体の事務の処理に関し行う次の行為
  • 固有の資格において名宛人となるものに限る
  • 1号=イ助言・勧告 ロ資料の提出の要求 ハ是正の要求 ニ同意 ホ許可・認可・承認 ヘ指示 ト代執行
  • 2号=協議
  • 3号=具体的かつ個別的に関わる行為

もう1つの問いです。国は県にどんな手を、どこまで使えるのか。まず、国の関与という言葉の意味を条文で確認します。245条です。長いので、3枚に分けて読みます。

条文地方自治法245条(柱書の国の行政機関の列挙は…で省略)

地方自治法第245条(柱書・1号イ・ロ) この章並びに第二百五十二条の二十六の三第一項及び第二項において「普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与」とは、普通地方公共団体の事務の処理に関し、…又は都道府県の機関が行う次に掲げる行為(普通地方公共団体がその固有の資格において当該行為の名宛人となるものに限り、国又は都道府県の普通地方公共団体に対する支出金の交付及び返還に係るものを除く。)をいう。 一 普通地方公共団体に対する次に掲げる行為  イ 助言又は勧告  ロ 資料の提出の要求

国の関与とは、地方公共団体の事務の処理に関して、国や都道府県の機関が行う行為です。括弧書きに、固有の資格という言葉があります。国が地方公共団体を、私人でも立ちうる立場で相手にする行為は、関与に当たりません。たとえば、町が公営のバスを走らせるために、民間のバス会社と同じ許可を受ける場面です。町は私人と同じ立場で許可の相手になっているので、この許可は関与に当たりません。固有の資格の一般論は、別の回で扱います。1号の最初は、助言または勧告、資料の提出の要求です。続きを読みます。

条文地方自治法245条(1号ハ〜ト)

地方自治法第245条(1号ハ〜ト)  ハ 是正の要求(普通地方公共団体の事務の処理が法令の規定に違反しているとき又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害しているときに当該普通地方公共団体に対して行われる当該違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことの求めであつて、当該求めを受けた普通地方公共団体がその違反の是正又は改善のため必要な措置を講じなければならないものをいう。)  ニ 同意  ホ 許可、認可又は承認  ヘ 指示  ト 代執行(普通地方公共団体の事務の処理が法令の規定に違反しているとき又は当該普通地方公共団体がその事務の処理を怠つているときに、その是正のための措置を当該普通地方公共団体に代わつて行うことをいう。)

関与は、助言から代執行まで幅のある総称です。その中で、是正の要求だけは、定義の中に、受けた団体が必要な措置を講じなければならないもの、と入っています。ここが、助言や勧告との大きな違いです。聞こえは似ています。けれども助言は、従う義務がありません。是正の要求は、受けた団体が措置を講じなければなりません。みなと県に届いた1通目が、後者でした。残りの2号と3号です。

条文地方自治法245条(2号・3号)

地方自治法第245条(2号・3号) 二 普通地方公共団体との協議 三 前二号に掲げる行為のほか、一定の行政目的を実現するため普通地方公共団体に対して具体的かつ個別的に関わる行為(相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的としてされる裁定その他の行為(その双方を名宛人とするものに限る。)及び審査請求その他の不服申立てに対する裁決、決定その他の行為を除く。)

関与の類型と義務(助言・勧告=従う義務なし/資料の提出の要求/是正の要求=受けた団体が措置を講じなければならない〔定義に入っている〕/同意・許可・認可・承認=得なければ進めない手/指示・代執行=強い手〔あとで見る〕/協議=話し合い/3号=その他の具体的かつ個別的な関わり) 図:関与の類型と義務

  • 助言・勧告=従う義務なし
  • 資料の提出の要求
  • 是正の要求=受けた団体が措置を講じなければならない〔定義に入っている〕
  • 同意・許可・認可・承認=得なければ進めない手
  • 指示・代執行=強い手〔あとで見る〕
  • 協議=話し合い
  • 3号=その他の具体的かつ個別的な関わり

3号は、1号と2号に当てはまらない関わりを拾う受け皿です。類型を板に並べました。このあと、強い順に並べ替えて読みます。その前に、そもそも国は、何を根拠にこれらの手を使えるのか。245条の2です。

関与の法定主義(245条の2=法律又はこれに基づく政令によらなければ関与を受けず、要することとされない/通達や告示で関与は作れない/境界のペア=旅券法に承認の定めがある場合は許される・通達だけで承認を求めるのは反する) 図:関与の法定主義

  • 245条の2=法律又はこれに基づく政令によらなければ関与を受けず、要することとされない
  • 通達や告示で関与は作れない
  • 境界のペア=旅券法に承認の定めがある場合は許される・通達だけで承認を求めるのは反する

条文は、次のとおりです。

条文地方自治法245条の2

地方自治法第245条の2 普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとされることはない。

地方公共団体は、法律かそれに基づく政令によらなければ、国の関与を受けることも、要することとされることもない。これを関与の法定主義と呼びます。決め手は、地方の自主性を守ることです。機関委任事務の時代は、大臣が通達で地方に細かく指示できました。通達は国の内部の文書で、地方はその内容を決める場に加われません。関与を、法律という公開の場で決めさせることで、通達による関与を排除したのです。境界のペアで見ます。仮に、旅券法が、県は旅券の交付について大臣の承認を受けなければならない、と定めているとします。承認を要することの根拠が法律にあるので、許されます。これに対して、法律にも政令にも根拠がないのに、大臣が通達で、承認を受けるよう県に求める。これは、承認を要することとされる関与を、法律でも政令でもないもので作るので、245条の2に反します。

大臣が決めること自体が、だめなのではありません。法律や政令の根拠が無いのが、だめなのです。告示という形で、そこが争われた判例があります。順に説明します。

泉佐野市の事件(ふるさと納税の対象にできる団体を総務大臣が指定する制度が法律で導入された→大臣は、制度の導入前に返礼品で多額の寄附を集めていたことなどを理由に泉佐野市を指定しなかった→指定の基準は大臣が告示で定めていた→その基準の効力が争われた/判旨=告示の指定基準は国の関与にあたる基準→策定には法律上の根拠を要する→委任の範囲を逸脱する部分は効力を有しない) 図:泉佐野市の事件

  • ふるさと納税の対象にできる団体を総務大臣が指定する制度が法律で導入された→大臣は、制度の導入前に返礼品で多額の寄附を集めていたことなどを理由に泉佐野市を指定しなかった→指定の基準は大臣が告示で定めていた→その基準の効力が争われた
  • 判旨=告示の指定基準は国の関与にあたる基準→策定には法律上の根拠を要する→委任の範囲を逸脱する部分は効力を有しない

ふるさと納税の対象にできる団体を総務大臣が指定する制度が、法律で導入されました。大臣は、泉佐野市が制度の導入前に返礼品で多額の寄附を集めていたことなどを理由に、同市を指定しませんでした。指定の基準は、大臣が告示で定めていました。その基準の効力が争われた事件です。判旨を読みます。

判例最判令2・6・30 民集74巻4号800頁

関与の法定主義 地方自治法245条の2は、普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律又はこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与(同法245条)を受け、又は要することとされることはないとする関与の法定主義を規定するところ、本件告示2条3号は、普通地方公共団体に対する国の関与に当たる指定の基準を定めるものであるから、関与の法定主義に鑑みても、その策定には法律上の根拠を要するというべきである。 そうすると、本件告示2条3号の規定が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱するものである場合には、その逸脱する部分は違法なものとして効力を有しないというべきである。

指定を受けられないと、市はふるさと納税の対象から外れます。判決は、その指定の基準を、国の関与にあたる基準だと見ました。だから、その策定には法律上の根拠が要ります。そして、法律の委任の範囲を逸脱する部分は、効力を持たない、と述べました。通達だけでなく、告示という形でも、法律の根拠なしに関与は作れない、というのがこの判旨の読み方です。授権の趣旨をどう読むかという委任命令の論点は、別の回で扱います。

国の関与の基本原則(245条の3第1項=必要な最小限度のもの・自主性及び自立性に配慮/2項=自治事務は代執行・その他の関与〔3号〕をできる限り避ける/法定受託事務は3号の関与をできる限り避ける/3項=協議を要することとしない〔事務一般・調整が必要な場合を除く〕/4項=同意を要することとしない〔自治事務・例外あり〕/5項=許可・認可・承認を要することとしない〔自治事務・例外あり〕/6項=指示に従わなければならないこととしない〔自治事務・緊急等を除く〕) 図:国の関与の基本原則

  • 245条の3第1項=必要な最小限度のもの・自主性及び自立性に配慮
  • 2項=自治事務は代執行・その他の関与〔3号〕をできる限り避ける
  • 法定受託事務は3号の関与をできる限り避ける
  • 3項=協議を要することとしない〔事務一般・調整が必要な場合を除く〕
  • 4項=同意を要することとしない〔自治事務・例外あり〕
  • 5項=許可・認可・承認を要することとしない〔自治事務・例外あり〕
  • 6項=指示に従わなければならないこととしない〔自治事務・緊急等を除く〕

関与を法律で決めるとき、無制限でよいわけではありません。245条の3第1項です。

条文地方自治法245条の3第1項

地方自治法第245条の3第1項 国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない。

国が関与を定めるときは、目的を達成するために必要な最小限度のものにして、地方の自主性と自立性に配慮しなければならない。法定主義が、関与に法律の根拠を求める定めなら、こちらは、その法律の中身を絞る定めです。2項以下は板に骨格を並べました。自治事務については、代執行と、その他の具体的かつ個別的な関与を、できる限り避けます。同意と、許可・認可・承認を要することとはしません。指示に従わなければならないこととはしません。ただし、それぞれに例外があります。4項の同意は、国の施策と地方の施策の整合性を確保しないと、実施に著しく支障が生ずる場合などです。5項の許可・認可・承認は、特別の法律で法人を設立する場合のように、ほかの方法では処理の適正を確保しにくい場合などです。6項の指示は、国民の生命などを守るため緊急に必要な場合などです。法定受託事務は、その他の関与をできる限り避けます。協議を要することとしないのは、事務一般についてで、国と地方の施策の調整が必要な場合は別です。ここから出てくる帰結が大事です。自治事務について避けるとされたのは、同意、許可・認可・承認、指示、代執行のように、国が結論を決めたり、代わりにやったりする手でした。残るのは、助言、資料の提出の要求、是正の要求です。是正の要求は、直すことは求めますが、直し方までは決めないので、自主性への配慮と両立します。協議は、義務づけることは原則しませんが、国と地方の施策の調整が必要な場面では使えます。個別の法律に特別の定めがある場合は別です。

強さの段階(弱→強:技術的な助言・勧告・資料の提出の要求=従う義務なし/是正の要求=自治事務・措置を講じる義務/是正の指示=法定受託事務/代執行=法定受託事務・高等裁判所の裁判を挟む/自治事務はここまで〔是正の要求まで〕) 図:強さの段階

  • 弱→強:技術的な助言・勧告・資料の提出の要求=従う義務なし
  • 是正の要求=自治事務・措置を講じる義務
  • 是正の指示=法定受託事務
  • 代執行=法定受託事務・高等裁判所の裁判を挟む
  • 自治事務はここまで〔是正の要求まで〕

国の手は、強さの順に段階があります。いちばん弱いのが、技術的な助言と勧告と資料の提出の要求です。次が、自治事務に対する是正の要求。その上が、法定受託事務に対する是正の指示。いちばん強いのが、法定受託事務に対する代執行です。1段ずつ、条文で見ていきます。

助言の段(助言・勧告・資料の提出の要求=従う義務なし〔245条の4第1項〕/従わなくても不利益な取扱いを受けない〔247条3項〕/令2判決=助言等に従って事務を処理すべき法律上の義務を負わない) 図:助言の段

  • 助言・勧告・資料の提出の要求=従う義務なし〔245条の4第1項〕
  • 従わなくても不利益な取扱いを受けない〔247条3項〕
  • 令2判決=助言等に従って事務を処理すべき法律上の義務を負わない

いちばん弱い段の根拠は、245条の4第1項です。

条文地方自治法245条の4第1項(括弧書きは…で省略)

地方自治法第245条の4第1項 …又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関は、その担任する事務に関し、普通地方公共団体に対し、普通地方公共団体の事務の運営その他の事項について適切と認める技術的な助言若しくは勧告をし、又は当該助言若しくは勧告をするため若しくは普通地方公共団体の事務の適正な処理に関する情報を提供するため必要な資料の提出を求めることができる。

国の機関や県の機関は、地方公共団体に、技術的な助言や勧告をして、必要な資料の提出を求めることができます。ここには、従え、という言葉がありません。助言に従わなかった団体の扱いは、247条3項に書いてあります。

条文地方自治法247条3項

地方自治法第247条第3項 国又は都道府県の職員は、普通地方公共団体が国の行政機関又は都道府県の機関が行つた助言等に従わなかつたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

泉佐野市の判決も、この趣旨を述べています。

判例最判令2・6・30 民集74巻4号800頁

助言に従わないことと不利益取扱い 同法247条3項は、国の職員は普通地方公共団体が国の行政機関が行った助言等に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないと規定するところ、その趣旨は、普通地方公共団体は助言等に従って事務を処理すべき法律上の義務を負わず、これに従わなくても不利益な取扱いを受ける法律上の根拠がないため、その不利益な取扱いを禁止することにあると解される。

判決は、地方公共団体は助言等に従って事務を処理する法律上の義務を負わない、と言いました。助言は、受け手を縛らないのです。話を告示の基準に戻します。この基準は、制度の導入前の募集実績を理由に指定を受けられないとする趣旨のものでした。指定を受けられないという不利益を定める側面を持つので、判決は、いまの247条3項の趣旨も考慮して、次のように述べました。

判例最判令2・6・30 民集74巻4号800頁

不利益を定める基準と授権の趣旨 ……同項の趣旨も考慮すると、本件告示2条3号が地方税法37条の2第2項の委任の範囲を逸脱したものではないというためには、前記(ア)のような趣旨の基準の策定を委任する授権の趣旨が、同法の規定等から明確に読み取れることを要するものというべきである。 …… 本件告示2条3号の規定のうち、本件改正規定の施行前における寄附金の募集及び受領について定める部分は、地方税法37条の2第2項及び314条の7第2項の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。

不利益な取扱いを定める側面を持つ基準が委任の範囲内だと言うには、授権の趣旨が法律の規定などから明確に読み取れることを要する、としたのです。結論は、導入前の募集実績を理由にする部分は、委任の範囲を逸脱して無効、というものでした。最高裁は、原判決を破棄し、不指定の決定を取り消しました。

是正の要求の段(245条の5=各大臣が都道府県の自治事務の処理について/要件=法令違反、又は著しく適正を欠き、かつ明らかに公益を害する/効果=求めを受けた団体は必要な措置を講じなければならない〔5項〕/冒頭の1通目はこれ) 図:是正の要求の段

  • 245条の5=各大臣が都道府県の自治事務の処理について
  • 要件=法令違反、又は著しく適正を欠き、かつ明らかに公益を害する
  • 効果=求めを受けた団体は必要な措置を講じなければならない〔5項〕
  • 冒頭の1通目はこれ

次の段は、是正の要求です。245条の5です。

条文地方自治法245条の5第1項・5項

地方自治法第245条の5第1項・第5項 各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該自治事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。 5 普通地方公共団体は、第一項、第三項又は前項の規定による求めを受けたときは、当該事務の処理について違反の是正又は改善のための必要な措置を講じなければならない。

大臣は、都道府県の自治事務の処理が法令に違反していたり、著しく適正を欠いて明らかに公益を害していたりするときは、是正のために必要な措置を求められます。求めを受けた団体は、措置を講じなければなりません。みなと県に届いた1通目が、これです。要件にも注目してください。支援金の配り方が法令どおりで、大臣が別のやり方を好むだけ、では足りません。法令違反か、著しく適正を欠いて明らかに公益を害している、という重い要件です。強い手には、重い要件が付いています。

是正の指示の段(245条の7=各大臣が所管する法律・政令に係る都道府県の法定受託事務の処理について/要件は是正の要求と同じ型/要求と指示の違い=対象事務/自治事務に是正の指示は出せない〔個別の法律に特別の定めがある場合を除く〕/冒頭の2通目はこれ) 図:是正の指示の段

  • 245条の7=各大臣が所管する法律・政令に係る都道府県の法定受託事務の処理について
  • 要件は是正の要求と同じ型
  • 要求と指示の違い=対象事務
  • 自治事務に是正の指示は出せない〔個別の法律に特別の定めがある場合を除く〕
  • 冒頭の2通目はこれ

その上の段が、是正の指示です。245条の7です。

条文地方自治法245条の7第1項

地方自治法第245条の7第1項 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。

大臣は、所管する法律や政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が、同じ要件にあたるときは、必要な指示ができます。みなと県の旅券の交付についての2通目が、これです。是正の要求と是正の指示は、要件の書き方がそっくりです。違うのは対象です。要求は自治事務、指示は法定受託事務です。対象の事務の性質が、手の名前と強さを分けています。では、指示の何が強いのか。是正の要求は、さきほど見たとおり、直すことは求めても、どう直すかは県が決める手でした。是正の指示は、講ずべき措置に関し、必要な指示をする手です。どう直すかの中身まで、大臣が示せます。法定受託事務は、国が適正な処理を特に確保したい事務なので、直し方まで指示できる。自治事務は、地域の特性に応じて処理する事務なので、直し方は県に任せる。これが、1段の差です。練習です。自治事務に、大臣は是正の指示を出せるでしょうか。

原則として、自治事務に是正の指示は出せません。指示は法定受託事務への手です。ただし、個別の法律に特別の定めがある場合は別です。自治事務は要求まで、法定受託事務は指示と代執行まで、と押さえてください。

代執行の前提(命じることと代わりにやることは別/対等な国と県・最も強い手→代わりにやる前に高等裁判所の裁判を挟む/自治法の代執行は行政代執行法の代執行とは別の制度) 図:代執行の前提

  • 命じることと代わりにやることは別
  • 対等な国と県・最も強い手→代わりにやる前に高等裁判所の裁判を挟む
  • 自治法の代執行は行政代執行法の代執行とは別の制度

最後の段、代執行に入る前に、確認です。前に、命じることと代わりにやることは、何が違うと言いましたか?命じるのは指揮監督権でできます。代わりにやるには、特別の法律の根拠が要りました。ここでの代執行は、その代行の延長です。ただし国と県は対等な主体です。そのうえで、国が県に代わってやる前に、高等裁判所の裁判を挟みます。決め手は、国が一人で決めないことです。代執行は、県の判断を国が丸ごと置き換える、いちばん強い手です。だから、第三者の裁判所が、これは行うべき事項だと命じてから初めて、代わって行える形にしています。ここで使う代執行は、自治法の代執行です。前に見た、私人の義務を行政が代わりに実現する行政代執行とは、名前が同じだけの別の制度です。行政代執行の要件と手続は、別の回で詳しく扱います。

代執行の手続(要件=他の方法で是正を図ることが困難+放置すれば著しく公益を害することが明らか→①文書で勧告〔期限を定める〕→②文書で指示〔期限を定める〕→③高等裁判所に「行うべきことを命ずる旨の裁判」を請求→④裁判に従わない→⑤大臣が知事に代わって行う〔日時・場所・方法を事前に通知〕/口頭弁論は提訴から15日以内・上告期間は1週間) 図:代執行の手続

  • 要件=他の方法で是正を図ることが困難+放置すれば著しく公益を害することが明らか→①文書で勧告〔期限を定める〕→②文書で指示〔期限を定める〕→③高等裁判所に「行うべきことを命ずる旨の裁判」を請求→④裁判に従わない→⑤大臣が知事に代わって行う〔日時・場所・方法を事前に通知〕
  • 口頭弁論は提訴から15日以内・上告期間は1週間

流れは板のとおりです。勧告、指示、裁判の請求、裁判に従わないとき代わりに行う、の順です。条文は、245条の8です。1枚ずつ読みます。まず勧告です。

条文地方自治法245条の8第1項

地方自治法第245条の8第1項 各大臣は、その所管する法律若しくはこれに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項から第八項までに規定する措置以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときは、文書により、当該都道府県知事に対して、その旨を指摘し、期限を定めて、当該違反を是正し、又は当該怠る法定受託事務の管理若しくは執行を改めるべきことを勧告することができる。

法定受託事務の管理や執行が違法または怠られていて、ほかの方法では是正が困難で、放置すれば著しく公益を害することが明らかなとき。この重い要件がそろって初めて、文書で勧告ができます。ここまでは、あくまで勧告です。従わなければ、次は指示と裁判の請求です。みなと県が、2通目の是正の指示を受けても、旅券の交付を法令に反する扱いのまま続けたとします。それでも大臣は、すぐに窓口を代わりに動かせるわけではありません。代わりにやるには、245条の8が専用の手順を用意しています。これから出てくる指示は、その手順の2段目で、2通目の是正の指示とは、条文も役目も別のものです。いま読んだ勧告から、一つずつ踏みます。

条文地方自治法245条の8第2項・3項

地方自治法第245条の8第2項・第3項 2 各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに同項の規定による勧告に係る事項を行わないときは、文書により、当該都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを指示することができる。 3 各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに当該事項を行わないときは、高等裁判所に対し、訴えをもつて、当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができる。

勧告に従わなければ指示、指示にも従わなければ、高等裁判所に、行うべきことを命ずる裁判を請求します。ここで初めて、裁判所が出てきます。裁判所の手続は急がされていて、口頭弁論は提訴から15日以内、上告期間は1週間です。請求に理由があれば、高等裁判所は、期限を定めて、行うべきことを命じる裁判をします。次の条文に出てくる第6項の裁判は、これのことです。それでも知事が従わないとき、いよいよ代わりに行う段階です。

条文地方自治法245条の8第8項

地方自治法第245条の8第8項 8 各大臣は、都道府県知事が第六項の裁判に従い同項の期限までに、なお、当該事項を行わないときは、当該都道府県知事に代わつて当該事項を行うことができる。この場合においては、各大臣は、あらかじめ当該都道府県知事に対し、当該事項を行う日時、場所及び方法を通知しなければならない。

裁判に従わないときに限って、大臣が知事に代わって行えます。しかも代わって行う前に、日時、場所、方法を通知します。勧告、指示、裁判と、何重にも手順を踏む。これが、対等な主体に対する最も強い手の姿です。要件が重く、手順も重い。この対応は、段階全体に通じています。

県と町の二層(A=担当大臣/B=みなと県/C=あおば町/町の自治事務の是正の要求=A→B「町に求めよ」と指示→B→C 求める〔245条の5第2項・3項〕・緊急その他特に必要なときだけA⇢C 直接〔4項〕/町の自治事務への県の手=是正の勧告〔245条の6〕/町の法定受託事務の是正の指示=B→C〔245条の7第2項〕・第1号法定受託事務はA→Bの指示も可〔3項〕・緊急時はA⇢C〔4項〕/町長の法定受託事務の代執行=県知事が主体〔245条の8第12項〕) 図:県と町の二層

  • A=担当大臣
  • B=みなと県
  • C=あおば町
  • 町の自治事務の是正の要求=A→B「町に求めよ」と指示→B→C 求める〔245条の5第2項・3項〕・緊急その他特に必要なときだけA⇢C 直接〔4項〕
  • 町の自治事務への県の手=是正の勧告〔245条の6〕
  • 町の法定受託事務の是正の指示=B→C〔245条の7第2項〕・第1号法定受託事務はA→Bの指示も可〔3項〕・緊急時はA⇢C〔4項〕
  • 町長の法定受託事務の代執行=県知事が主体〔245条の8第12項〕

ここまでは、大臣と県の話でした。あおば町が登場すると、手が二層になります。町の事務に対する関与は、原則として、県を通ります。たとえば、あおば町の町道の管理が法令に反していて、大臣が直させたいとします。町道の管理は自治事務でした。大臣は、みなと県に、町に是正を求めるよう指示し、県があおば町に求めます。大臣が直接町に求めるのは、緊急その他、特に必要があるときだけです。県が自分の判断で町の自治事務に出せる是正の手は、是正の勧告です。町の法定受託事務への是正の指示は、県が町に出します。第1号法定受託事務については、大臣が県に指示することもできて、緊急のときは直接も可能です。町長の法定受託事務の代執行は、県知事が主体になります。大臣が町に直接、という形が原則ではありません。国と地方の間の手続のルールも、自治法は用意しています。

関与の手続(助言・勧告・資料要求を書面によらずに行ったとき→相手が求めれば趣旨・内容を記載した書面を交付〔247条1項・248条〕/是正の要求・指示→同時に内容及び理由を記載した書面を交付〔249条1項・差し迫った必要があれば後で〔2項〕〕/協議は誠実に〔250条〕/許認可等の審査基準の設定・公表〔250条の2〕/標準処理期間〔250条の3〕/拒否処分・取消しの理由を記載した書面〔250条の4〕/届出は到達で履行〔250条の5〕/国の行政機関が自治事務と同一の事務を自ら処理するときは事前通知〔250条の6〕) 図:関与の手続

  • 助言・勧告・資料要求を書面によらずに行ったとき→相手が求めれば趣旨・内容を記載した書面を交付〔247条1項・248条〕
  • 是正の要求・指示→同時に内容及び理由を記載した書面を交付〔249条1項・差し迫った必要があれば後で〔2項〕〕
  • 協議は誠実に〔250条〕
  • 許認可等の審査基準の設定・公表〔250条の2〕
  • 標準処理期間〔250条の3〕
  • 拒否処分・取消しの理由を記載した書面〔250条の4〕
  • 届出は到達で履行〔250条の5〕
  • 国の行政機関が自治事務と同一の事務を自ら処理するときは事前通知〔250条の6〕

板の表は、暗記用ではありません。形を見てください。助言などを口頭でしたときは、相手が求めれば書面を渡します。是正の要求と指示は、内容と理由を記載した書面を同時に渡します。差し迫った必要があるときだけ、後からでも構いません。協議は誠実に行います。許可や認可などを出すかどうかの物差しである審査基準を定めて公表し、結論までにかかる目安の期間である標準処理期間は、定めるよう努めて、定めたら公にし、拒否のときは理由を書面で示します。行政手続法の審査基準、標準処理期間、理由の提示と、同じ発想のルールです。行政手続法は国と地方の間のやりとりには及ばない場面があるので、自治法が国と地方の間に同じ型のルールを置いているのです。行政手続法の側は、後の回で見ます。みなと県に届いた2通が、書面で理由付きで届いていたのも、この249条のおかげです。

国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の特例(2024年の改正で第14章に追加/資料・意見の提出要求〔252条の26の3〕/事務処理の調整の指示〔26の4〕/生命等の保護の措置に関する指示〔26の5=他の法律に基づき指示できる場合を除き・閣議の決定を経て・必要な限度で/指示したときは国会に報告〕/応援の要求・指示〔26の6〜26の8〕/職員派遣〔26の9・26の10〕) 図:国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の特例

  • 2024年の改正で第14章に追加
  • 資料・意見の提出要求〔252条の26の3〕
  • 事務処理の調整の指示〔26の4〕
  • 生命等の保護の措置に関する指示〔26の5=他の法律に基づき指示できる場合を除き・閣議の決定を経て・必要な限度で/指示したときは国会に報告〕
  • 応援の要求・指示〔26の6〜26の8〕
  • 職員派遣〔26の9・26の10〕

最後に、2024年の改正で加わった特例を位置づけます。大規模な災害や感染症のまん延のような、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に、国が地方公共団体に指示できる特例です。第14章に、資料の提出の要求、事務処理の調整の指示、応援の要求と指示、職員の派遣などが並びます。その中心が252条の26の5です。

条文地方自治法252条の26の5第1項・4項

地方自治法第252条の26の5第1項・第4項 各大臣は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の規模及び態様、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に係る地域の状況その他の当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する状況を勘案して、その担任する事務に関し、生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため特に必要があると認めるときは、他の法律の規定に基づき当該生命等の保護の措置に関し必要な指示をすることができる場合を除き、閣議の決定を経て、その必要な限度において、普通地方公共団体に対し、当該普通地方公共団体の事務の処理について当該生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。 … 4 各大臣は、第一項の指示をしたときは、その旨及びその内容を国会に報告するものとする。

生命等の保護の措置を的確かつ迅速に実施するため特に必要があるときに、大臣が、閣議の決定を経て、必要な限度で指示できます。指示をしたときは、その旨と内容を国会に報告します。条文の言い方は、他の法律の規定に基づき指示ができる場合を除き、です。個別の法律に指示の定めが無い場面を、自治法という一般法が補う形なので、補充的な指示と呼ばれることがあります。通称で、条文の文言ではありません。位置づけとして大事なのは、これも法定主義の線の上にあることです。根拠は自治法という法律にあり、閣議決定と国会への報告という歯止めが付いています。ここまでで、国の手の枠組みがそろいました。

2つの問いの答えとまとめ

2つの問いの答え(①法定受託事務も地方公共団体自身の事務〔国の事務の代行ではない〕・違いは国の関与の強さと議会・監査の除外の範囲/②国の関与は法律の根拠が要り〔法定主義〕必要最小限度・強さの段階=助言<是正の要求〔自治事務〕<是正の指示〔法定受託事務〕<代執行〔法定受託事務〕) 図:2つの問いの答え

  • ①法定受託事務も地方公共団体自身の事務〔国の事務の代行ではない〕・違いは国の関与の強さと議会・監査の除外の範囲
  • ②国の関与は法律の根拠が要り〔法定主義〕必要最小限度・強さの段階=助言<是正の要求〔自治事務〕<是正の指示〔法定受託事務〕<代執行〔法定受託事務〕

冒頭の問いに戻ります。順に答えます。1つは、県の仕事は、国の仕事の代行なのか。違います。法定受託事務も、国が本来果たすべき役割に係るから適正な処理を特に確保したいだけで、処理するのは地方公共団体自身の事務です。自治事務との違いは、国の関与の強さと、議会の調査や監査の除外の範囲です。もう1つは、国は県にどんな手を、どこまで使えるのか。関与には法律の根拠が要り、必要最小限度で、強さに段階があります。助言には従う義務がありません。自治事務には是正の要求まで、法定受託事務には是正の指示と、裁判を挟んだ代執行まで使えます。最初の2通の文書に戻ります。1通目の是正の要求は、自治事務への手で、受けた県が措置を講じなければならない力を持っています。2通目の是正の指示は、法定受託事務への手で、助言ではなく、より強い手です。従わなかったときに、大臣が取れる手の上限は、自治事務なら是正の要求まで、法定受託事務なら代執行までです。同じ直せでも、事務の性質が、国の手の強さを分けていたのです。県が納得できないときに、裁判所で争う道は、次の回で見ます。

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#29単独ページ動画

国地方係争処理と訴え

第2章 行政組織法 ㉙/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

納得できない県はどうするか

みなと県に届いた2通の文書(A=担当大臣/B=みなと県/C=子育て支援金〔県が独自に運営〕/D=旅券の交付〔県の窓口で処理〕/A→B=文書1 Cについて「運用の是正を求める」/A→B=文書2 Dについて「こう改めよと指示する」) 図:みなと県に届いた2通の文書

  • A=担当大臣
  • B=みなと県
  • C=子育て支援金〔県が独自に運営〕
  • D=旅券の交付〔県の窓口で処理〕
  • A→B=文書1 Cについて「運用の是正を求める」
  • A→B=文書2 Dについて「こう改めよと指示する」

県が、国から届いた文書にどうしても納得できないとき、どこで誰が決めるのでしょうか。今日は、この問いに答えます。板は、前回の終わりのみなと県です。担当大臣から2通の文書が届いています。1通目は、県が独自に運営している子育て支援金について、運用の是正を求める文書です。2通目は、県の窓口で処理している旅券の交付について、こう改めるよう指示する文書です。確認から入ります。前回の終わりに、大臣の手を強さの順に並べました。自治事務に対して、大臣が出せる一番強い手は何でしたか?是正の要求です。法定受託事務なら、その上の是正の指示があって、さらに代執行まで使えます。1通目が自治事務への是正の要求で、2通目が法定受託事務への是正の指示でした。今日は、その先を見ます。県が文書に納得できない場合があります。逆に、県が文書に従わない場合もあります。前者は県が国を争う場面で、後者は国が県を争う場面です。どちらも、手を出し合うだけでは終わりません。

最後に大臣が決めるわけではありません。国と地方公共団体は別々の行政主体で、上下の関係ではないと、前に見ました。上下でないなら、国が自分で自分の争いの判定者になるのは筋が通りません。だから、第三者が決める仕組みが用意されています。

今日の問い(③争いはどこで誰が決めるのか/出口は3本=地方から国へ〔審査の申出→国地方係争処理委員会→高等裁判所〕・国から地方へ〔不作為の違法確認の訴え・代執行訴訟〕・県と町の間〔自治紛争処理委員〕/審査の基準も事務で変わる) 図:今日の問い

  • ③争いはどこで誰が決めるのか
  • 出口は3本=地方から国へ〔審査の申出→国地方係争処理委員会→高等裁判所〕・国から地方へ〔不作為の違法確認の訴え・代執行訴訟〕・県と町の間〔自治紛争処理委員〕
  • 審査の基準も事務で変わる

前回は、2つの問いに答えました。今日の問いは、その続きの3つ目です。争いは、どこで誰が決めるのか。答えは、出口が3本あるという形で出ます。地方から国へ向かう道、国から地方へ向かう道、県と町の間の道です。最後に、実際の事件でこの道を一周してみます。

争いの出口——係争処理と訴え

出口は3本(A=国〔大臣〕/B=都道府県/C=市町村/D=国地方係争処理委員会/E=高等裁判所/B→D〔審査の申出〕・B→E〔訴え〕=地方から国へ(審査の申出→勧告→訴え)/A→E=国から地方へ〔不作為の違法確認訴訟・代執行訴訟〕/C→(自治紛争処理委員)→E=県と町の間) 図:出口は3本

  • A=国〔大臣〕
  • B=都道府県
  • C=市町村
  • D=国地方係争処理委員会
  • E=高等裁判所
  • B→D〔審査の申出〕・B→E〔訴え〕=地方から国へ(審査の申出→勧告→訴え)
  • A→E=国から地方へ〔不作為の違法確認訴訟・代執行訴訟〕
  • C→(自治紛争処理委員)→E=県と町の間

国の関与は、法律の根拠があって初めて使えるものでした。ただ、枠を決めるだけでは足りません。枠が守られているかを、誰かが判定しなければ、枠は絵に描いた餅になります。その判定の仕組みが、今日の3本の出口です。1本目は、地方から国へ。国地方係争処理委員会に審査を申し出て、そこで解決しなければ高等裁判所に訴える道です。2本目は、国から地方へ。県が従わないときに、大臣が高等裁判所に起こす、不作為の違法確認の訴えです。県が措置を講じないこと、つまり不作為が違法だと、裁判所に確かめてもらう訴えです。もう1つが、前回見た代執行の手順の中で、大臣が高等裁判所に裁判を求める訴えで、代執行訴訟と呼びます。3本目は、県と町の間。事件のたびに任命される、自治紛争処理委員が処理します。順に見ます。まず1本目の入口、委員会の根拠条文です。

条文地方自治法250条の7

地方自治法第250条の7 総務省に、国地方係争処理委員会(以下本節において「委員会」という。)を置く。 2 委員会は、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち国の行政機関が行うもの(以下本節において「国の関与」という。)に関する審査の申出につき、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理する。

総務省に委員会が置かれ、国の行政機関が行う関与について、審査の申出を処理します。委員は5人で、両議院の同意を得て総務大臣が任命し、任期は3年です。数字の暗記は要りません。ここで持ち帰るのは、国の機関ではあっても、大臣とは別に置かれた第三者の機関だという点です。では、誰が、何について、委員会に申し出られるのでしょうか。

条文地方自治法250条の13第1項(号は…で省略)

地方自治法第250条の13第1項 普通地方公共団体の長その他の執行機関は、その担任する事務に関する国の関与のうち是正の要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるもの(次に掲げるものを除く。)に不服があるときは、委員会に対し、当該国の関与を行つた国の行政庁を相手方として、文書で、審査の申出をすることができる。 …

長その他の執行機関は、公権力の行使に当たる国の関与に不服があるとき、文書で審査の申出ができます。申出の相手方は、関与をした国の行政庁です。期間もあります。

条文地方自治法250条の13第4項

地方自治法第250条の13第4項 4 第一項の規定による審査の申出は、当該国の関与があつた日から三十日以内にしなければならない。ただし、天災その他同項の規定による審査の申出をしなかつたことについてやむを得ない理由があるときは、この限りでない。

関与があった日から30日以内です。争いを長く宙に浮かせないための短い期間です。

審査の申出の読み取りどころ(①対象=公権力の行使に当たる関与〔是正の要求・是正の指示=措置を講じる義務を負う〕/助言・勧告は対象外〔従う義務がない〕②除外=代執行の手順の中の指示と代行〔高等裁判所の裁判で決着〕③自治事務・法定受託事務のどちらの関与でも申出できる=分かれるのは審査の中身/期間=関与があった日から30日以内) 図:審査の申出の読み取りどころ

  • ①対象=公権力の行使に当たる関与〔是正の要求・是正の指示=措置を講じる義務を負う〕
  • 助言・勧告は対象外〔従う義務がない〕②除外=代執行の手順の中の指示と代行〔高等裁判所の裁判で決着〕③自治事務・法定受託事務のどちらの関与でも申出できる=分かれるのは審査の中身
  • 期間=関与があった日から30日以内

読み取りどころが3つあります。1つ目。対象は、是正の要求や許可の拒否など、公権力の行使に当たるものです。公権力の行使に当たるとは、相手の同意がなくても、一方的に義務や効果を生じさせる、ということです。是正の要求や是正の指示を受けた県は、措置を講じる義務を負います。だから、みなと県の文書1と文書2は、どちらも申出の対象になります。一方、大臣からの助言や勧告は、従う義務がもともとありません。争う必要がないので、条文の文言どおり、対象に含まれません。2つ目は、除外があることです。省略した号の中に、前回見た代執行の手順のうち、勧告のあとに大臣が出す指示と、最後に大臣が知事に代わって行う代行が入っています。この指示は、2通目の是正の指示とは別のものです。是正の指示は申出の対象で、代執行の手順の中の指示は対象外です。代執行は、指示のあとに高等裁判所の裁判を挟む手続なので、争いはその裁判で決着します。委員会に先に行く必要がありません。3つ目は、自治事務と法定受託事務のどちらの関与でも、申出ができることです。申出ができるかは、事務の種類では分かれません。分かれるのは、次の審査の中身です。

条文地方自治法250条の14第1項

地方自治法第250条の14第1項 委員会は、自治事務に関する国の関与について前条第一項の規定による審査の申出があつた場合においては、審査を行い、相手方である国の行政庁の行つた国の関与が違法でなく、かつ、普通地方公共団体の自主性及び自立性を尊重する観点から不当でないと認めるときは、理由を付してその旨を当該審査の申出をした普通地方公共団体の長その他の執行機関及び当該国の行政庁に通知するとともに、これを公表し、当該国の行政庁の行つた国の関与が違法又は普通地方公共団体の自主性及び自立性を尊重する観点から不当であると認めるときは、当該国の行政庁に対し、理由を付し、かつ、期間を示して、必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告の内容を当該普通地方公共団体の長その他の執行機関に通知し、かつ、これを公表しなければならない。

自治事務の関与について、委員会は、違法でなく、かつ、自主性と自立性を尊重する観点から不当でもないと認めれば、そう通知して公表します。違法または不当と認めれば、国の行政庁に勧告します。ここでの勧告は、さっきの大臣からの勧告とは別のもので、必要な措置を講じるよう、委員会が国の行政庁に求めることです。

条文地方自治法250条の14第2項

地方自治法第250条の14第2項 2 委員会は、法定受託事務に関する国の関与について前条第一項の規定による審査の申出があつた場合においては、審査を行い、相手方である国の行政庁の行つた国の関与が違法でないと認めるときは、理由を付してその旨を当該審査の申出をした普通地方公共団体の長その他の執行機関及び当該国の行政庁に通知するとともに、これを公表し、当該国の行政庁の行つた国の関与が違法であると認めるときは、当該国の行政庁に対し、理由を付し、かつ、期間を示して、必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告の内容を当該普通地方公共団体の長その他の執行機関に通知し、かつ、これを公表しなければならない。

法定受託事務の関与は、違法かどうかだけを見ます。違法でなければ通知して公表し、違法なら勧告します。

審査の基準(自治事務の関与=違法・不当を審査〔自主性及び自立性を尊重する観点から不当かどうかも見る〕→違法でなく不当でない=通知・公表/違法又は不当=勧告/法定受託事務の関与=違法だけを審査→違法でない=通知・公表/違法=勧告/委員会は90日以内に審査〔250条の14第5項〕/勧告を受けた国の行政庁は勧告に即して必要な措置を講じ委員会に通知〔250条の18第1項〕) 図:審査の基準

  • 自治事務の関与=違法・不当を審査〔自主性及び自立性を尊重する観点から不当かどうかも見る〕→違法でなく不当でない=通知・公表
  • 違法又は不当=勧告
  • 法定受託事務の関与=違法だけを審査→違法でない=通知・公表
  • 違法=勧告
  • 委員会は90日以内に審査〔250条の14第5項〕
  • 勧告を受けた国の行政庁は勧告に即して必要な措置を講じ委員会に通知〔250条の18第1項〕

自治事務は違法と不当、法定受託事務は違法だけ。ここは、2つの事務を比べて問われやすいところです。理由を考えます。自治事務は、地方が自分で決める余地が大きい事務です。だから国の関与が、違法ではなくても、地方の自主性を不当に損なっていないかまで見ます。法定受託事務は、国が適正な処理を特に確保したい事務です。審査は、違法かどうかで線を引きます。みなと県の2通で言います。1通目の子育て支援金なら、大臣の要求が法律の範囲内でも、県が独自に決めた支給のやり方まで細かく揃えさせるものなら、不当として勧告されることがありえます。2通目の旅券の交付なら、同じように細かい指示でも、違法でない限り、勧告は出ません。手続の流れも押さえます。委員会は、申出から90日以内に審査します。勧告を受けた国の行政庁は、勧告に即して必要な措置を講じ、委員会に通知します。審査の申出を受けた委員会が、相当と認めるときは、自分から調停案を作って双方に示し、受け入れを勧めることもできます。練習です。自治事務の関与について、委員会が審査するのは違法性だけでしょうか。

違法に加えて、自主性と自立性を尊重する観点から不当かどうかも見ます。法定受託事務は違法だけです。委員会の結論に不服なら、次の段が裁判所です。

出口は3本(A=国〔大臣〕/B=都道府県/C=市町村/D=国地方係争処理委員会/E=高等裁判所/B→D〔審査の申出〕・B→E〔訴え〕=地方から国へ(審査の申出→勧告→訴え)/A→E=国から地方へ〔不作為の違法確認訴訟・代執行訴訟〕/C→(自治紛争処理委員)→E=県と町の間) 図:出口は3本

  • A=国〔大臣〕
  • B=都道府県
  • C=市町村
  • D=国地方係争処理委員会
  • E=高等裁判所
  • B→D〔審査の申出〕・B→E〔訴え〕=地方から国へ(審査の申出→勧告→訴え)
  • A→E=国から地方へ〔不作為の違法確認訴訟・代執行訴訟〕
  • C→(自治紛争処理委員)→E=県と町の間

委員会の先にあるのが、裁判所です。出口の図でいえば、県から高等裁判所へ進む矢印です。

条文地方自治法251条の5第1項(柱書)

地方自治法第251条の5第1項(柱書) 第二百五十条の十三第一項又は第二項の規定による審査の申出をした普通地方公共団体の長その他の執行機関は、次の各号のいずれかに該当するときは、高等裁判所に対し、当該審査の申出の相手方となつた国の行政庁(国の関与があつた後又は申請等が行われた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁)を被告として、訴えをもつて当該審査の申出に係る違法な国の関与の取消し又は当該審査の申出に係る国の不作為の違法の確認を求めることができる。ただし、違法な国の関与の取消しを求める訴えを提起する場合において、被告とすべき行政庁がないときは、当該訴えは、国を被告として提起しなければならない。

柱書の骨格は、審査の申出をした長その他の執行機関は、高等裁判所に、違法な国の関与の取消しなどを求める訴えを起こせる、です。どんな場合に起こせるかは、各号に並んでいます。

条文地方自治法251条の5第1項(各号)

地方自治法第251条の5第1項(各号) 一 第二百五十条の十四第一項から第三項までの規定による委員会の審査の結果又は勧告に不服があるとき。 二 第二百五十条の十八第一項の規定による国の行政庁の措置に不服があるとき。 三 当該審査の申出をした日から九十日を経過しても、委員会が第二百五十条の十四第一項から第三項までの規定による審査又は勧告を行わないとき。 四 国の行政庁が第二百五十条の十八第一項の規定による措置を講じないとき。

4つの場合を順に言います。委員会の結果や勧告に不服があるとき。国の行政庁の措置に不服があるとき。90日を過ぎても委員会が何もしないとき。国の行政庁が措置を講じないとき。求められるのは、違法な国の関与の取消しなどです。

条文地方自治法251条の5第3項

地方自治法第251条の5第3項 3 第一項の訴えは、当該普通地方公共団体の区域を管轄する高等裁判所の管轄に専属する。

この訴えは、その団体の区域を管轄する高等裁判所の専属です。みなと県なら、みなと県を管轄する高等裁判所です。

国の関与に関する訴え(原告=審査の申出をした長その他の執行機関/被告=関与をした国の行政庁/裁判所=その団体の区域を管轄する高等裁判所〔専属〕/提訴期間=原則として委員会の通知から30日以内〔申出は関与があった日から30日以内=数え始めが違う〕/提訴から15日以内に口頭弁論・上告期間1週間/機関どうしの争い=機関訴訟の例) 図:国の関与に関する訴え

  • 原告=審査の申出をした長その他の執行機関
  • 被告=関与をした国の行政庁
  • 裁判所=その団体の区域を管轄する高等裁判所〔専属〕
  • 提訴期間=原則として委員会の通知から30日以内〔申出は関与があった日から30日以内=数え始めが違う〕
  • 提訴から15日以内に口頭弁論・上告期間1週間
  • 機関どうしの争い=機関訴訟の例

要点は、委員会への申出が先にあることです。いきなり訴えるのではなく、委員会の手続を通ったあとで訴えます。被告は関与をした国の行政庁です。提訴の期間は、原則として、委員会から審査の結果などの通知があった日から30日以内です。申出の30日は関与があった日から、訴えの30日は委員会の通知から、と数え始めが違います。提訴から15日以内に口頭弁論の期日が開かれ、上告期間も1週間です。前回の代執行訴訟と同じく、ここも急がされています。取消しの判決は、関係する行政機関に対しても効力を持ちます。この訴えは、国の機関と地方の機関という、機関どうしの争いです。行政の機関どうしの権限をめぐる訴訟を、機関訴訟といいます。この訴えは、その具体例として挙げられますが、訴訟の類型の話は別の回で扱います。1本目の道は、これで終わりです。次は国から起こす道です。その前に、前回の確認をします。是正の要求と是正の指示は、それぞれどちらの事務に対して出せましたか?

是正の要求は自治事務で、是正の指示は法定受託事務です。どちらも、都道府県に対して各大臣が出します。では、そのどちらかを受けた県が、申出もせず訴えもせず、何もしなかったらどうでしょうか。大臣の側の道を見ます。

条文地方自治法251条の7第1項(柱書)

地方自治法第251条の7第1項(柱書) 第二百四十五条の五第一項若しくは第四項の規定による是正の要求又は第二百四十五条の七第一項若しくは第四項の規定による指示を行つた各大臣は、次の各号のいずれかに該当するときは、高等裁判所に対し、当該是正の要求又は指示を受けた普通地方公共団体の不作為(是正の要求又は指示を受けた普通地方公共団体の行政庁が、相当の期間内に是正の要求に応じた措置又は指示に係る措置を講じなければならないにもかかわらず、これを講じないことをいう。以下この項、次条及び第二百五十二条の十七の四第三項において同じ。)に係る普通地方公共団体の行政庁(当該是正の要求又は指示があつた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁)を被告として、訴えをもつて当該普通地方公共団体の不作為の違法の確認を求めることができる。

柱書の骨格は、是正の要求や指示をした各大臣は、高等裁判所に、県の不作為の違法の確認を求める訴えを起こせる、です。ただし、次の各号のいずれかに当たるときです。不作為とは、括弧書きにあるとおり、要求や指示を受けた団体が、相当の期間内に措置を講じなければならないのに、講じないことです。県は措置を講じる義務を負う、という前提が、ここに現れています。

条文地方自治法251条の7第1項(2号は…で省略)

地方自治法第251条の7第1項(1号) 一 普通地方公共団体の長その他の執行機関が当該是正の要求又は指示に関する第二百五十条の十三第一項の規定による審査の申出をせず(審査の申出後に第二百五十条の十七第一項の規定により当該審査の申出が取り下げられた場合を含む。)、かつ、当該是正の要求に応じた措置又は指示に係る措置を講じないとき。 二 …

1号は、県が審査の申出をせず、かつ、必要な措置も講じないときです。申出をしたのに勝てず、訴えも措置もしない場合は、省略した2号が受けます。同じ条の2項が、申出や訴えの期間が過ぎるまでは、大臣は提訴できないと定めています。県にも、争う機会を先に与える作りです。町の場合は、少し違います。前回の二層を思い出してください。町の自治事務に是正を求めるときは、大臣が県に指示して、県が町に求めるのでした。県が自分の判断だけで出せるのは、是正の勧告まででした。252条が定めていますが、条文は読みません。場面は2つです。1つは、大臣の指示を受けた県が、町の自治事務に是正の要求をした場面です。町が申出もせず従いもしないときは、大臣が県に提訴するよう指示し、県が町を相手に高等裁判所に訴えます。もう1つは、県が町の法定受託事務に是正の指示を出した場面です。町が従わないときは、指示をした県が自分で訴えます。出口の先が高等裁判所である型は同じです。

係争処理の通し(国の関与〔是正の要求・指示〕→県が措置を講じる/県が不服→審査の申出〔30日以内〕→委員会の審査〔90日以内〕→通知〔違法でない〕または勧告→国の措置→県が高等裁判所に国の関与に関する訴え〔通知から30日以内・専属〕/県が申出も訴えもせず措置も講じない→大臣が251条の7の訴え〔不作為の違法確認〕) 図:係争処理の通し

  • 国の関与〔是正の要求・指示〕→県が措置を講じる
  • 県が不服→審査の申出〔30日以内〕→委員会の審査〔90日以内〕→通知〔違法でない〕または勧告→国の措置→県が高等裁判所に国の関与に関する訴え〔通知から30日以内・専属〕
  • 県が申出も訴えもせず措置も講じない→大臣が251条の7の訴え〔不作為の違法確認〕

通しで見ます。大臣が是正の要求や指示を出します。県が従うなら、措置を講じて終わりです。県が不服なら、30日以内に審査の申出をします。委員会が90日以内に審査して、違法でないと通知するか、勧告します。県は、結果や国の措置に不服があるとき、高等裁判所に訴えます。県が申出も訴えもせず、措置も講じないときは、大臣が不作為の違法確認の訴えを起こします。地方に出口があり、国にも出口がある。両側から、争いが裁判所に届く形になっています。

県と町の間の出口(国と地方の係争処理と同じ型/設例=大臣の指示を受けた県が町道の管理について町に是正の要求→町が不服/都道府県の関与に関する争い→自治紛争処理委員〔251条・事件のたびに総務大臣または知事が任命〕→町長等は総務大臣に審査に付すことを求める申出〔251条の3〕→委員の審査・勧告→町が高等裁判所に都道府県の関与に関する訴え〔251条の6〕/常設の委員会5人と事件ごとの委員の違い) 図:県と町の間の出口

  • 国と地方の係争処理と同じ型
  • 設例=大臣の指示を受けた県が町道の管理について町に是正の要求→町が不服
  • 都道府県の関与に関する争い→自治紛争処理委員〔251条・事件のたびに総務大臣または知事が任命〕→町長等は総務大臣に審査に付すことを求める申出〔251条の3〕→委員の審査・勧告→町が高等裁判所に都道府県の関与に関する訴え〔251条の6〕
  • 常設の委員会5人と事件ごとの委員の違い

3本目は、県と町の間です。あおば町の町道の管理は自治事務でした。この管理について、さっきの二層のとおり、大臣の指示を受けたみなと県が、運用を改めるよう是正の要求をしたとします。町が納得できないとき、国地方係争処理委員会は出てきません。委員会が扱うのは、国の機関の関与だからです。県の関与に関する争いは、自治紛争処理委員が処理します。町長などは、審査に付すよう求める申出をします。委員の審査と勧告のあと、町は高等裁判所に、都道府県の関与に関する訴えを起こせます。国と地方の係争処理と同じ型で、国の機関が県の機関に替わっただけです。違うのは委員の置き方です。国地方係争処理委員会は常設の機関です。自治紛争処理委員は、事件のたびに任命される臨時の委員で、人数は3名です。この委員は、行政機関の回で、附属機関を置ける条文に、名前だけ出てきました。その中身が、ここで分かります。

前回の事件が通った経路(総務大臣の不指定の決定〔国の関与〕→市が250条の13第1項の審査の申出→委員会が250条の14第1項で勧告〔再検討して結果を通知せよ〕→大臣は再検討の結果として判断を維持〔250条の18第1項の措置〕→市が251条の5第1項2号の訴えを高等裁判所に提起→請求棄却→上告→最高裁が原判決を破棄して不指定の決定を取り消した/事案の経過の整理であり、判旨ではない) 図:前回の事件が通った経路

  • 総務大臣の不指定の決定〔国の関与〕→市が250条の13第1項の審査の申出→委員会が250条の14第1項で勧告〔再検討して結果を通知せよ〕→大臣は再検討の結果として判断を維持〔250条の18第1項の措置〕→市が251条の5第1項2号の訴えを高等裁判所に提起→請求棄却→上告→最高裁が原判決を破棄して不指定の決定を取り消した
  • 事案の経過の整理であり、判旨ではない

前回に読んだ、ふるさと納税の事件が、この出口をどう通ったかを流れ図にします。判旨ではなく、事案の経過の整理です。総務大臣が、ある市を制度の対象に指定しないと決める。これが国の関与です。市が、250条の13第1項の審査の申出をします。委員会が250条の14第1項で、再検討して結果を通知するよう勧告します。大臣は、再検討の結果として判断を維持しました。これが、勧告を受けた国の行政庁の措置です。市は、その措置に不服があるとして、251条の5第1項2号に基づき、高等裁判所に訴えました。請求は棄却され、市が上告します。最高裁は、原判決を破棄して、不指定の決定を取り消しました。判旨の部分は、前回読んだとおりです。ここでは、条文の1つ1つが、事件の1段階ずつに対応していることを見てください。大臣が自分で決着をつけたのではありません。委員会と裁判所という第三者を通って、決まりました。地方から国へも、国から地方へも、出口の先にいるのは第三者です。

実例で一周する——沖縄の2件

埋立承認取消しの経路(県知事が公有水面埋立ての承認を取り消す〔法定受託事務〕→国が代執行訴訟〔245条の8第3項〕→和解で取下げ→大臣が是正の指示〔245条の7第1項〕→県が審査の申出〔250条の13第1項〕→委員会が協議による解決を促す見解の決定→県は30日以内に251条の5の訴えを起こさず指示に従わない→大臣が251条の7第1項の訴え→請求認容) 図:埋立承認取消しの経路

国の側から起こす道が、実際に使われた事件を見ます。沖縄県の埋立ての事件です。県知事が、公有水面の埋立ての承認を取り消しました。公有水面とは、海や川のように、国が持つ公共の水面です。国がそこを埋め立てるときは、知事の承認が要ります。この承認は、法定受託事務です。国は、まず代執行訴訟を起こしましたが、和解で取り下げられました。次に、大臣が是正の指示を出しました。県は審査の申出をしました。委員会の結論は、違法でないという通知でも、勧告でもありませんでした。国と県が真摯に協議することが、解決への最善の道だ、という見解を、審査の結論とする決定です。県は、30日以内に高等裁判所へ訴えを起こさず、指示にも従いませんでした。そこで大臣が、251条の7第1項の訴えを起こしました。判旨を読みます。事実とは分けて、最高裁がここで述べたことだけを見ます。

判例最判平28・12・20 民集70巻9号2281頁

是正の指示 地方自治法245条の7第1項は、各大臣(内閣府設置法4条3項に規定する事務を分担管理する大臣たる内閣総理大臣又は国家行政組織法5条1項に規定する各省大臣)は、所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認める場合に是正の指示をすることができる旨を定めるところ、その趣旨は当該法定受託事務の適正な処理を確保することにあると解される。 …… 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認める場合には、当然に地方自治法245条の7第1項に基づいて是正の指示をすることができる。

判旨の読み方は2点です。1つ目。是正の指示の趣旨は、法定受託事務の適正な処理の確保です。2つ目。各大臣は、法令違反と認める場合には、当然に是正の指示ができます。当然に、と言える理由は、1つ目の趣旨にあります。法定受託事務は、国が適正な処理を特に確保したい事務でした。だから、法令違反と認めれば、ほかの条件を足さなくても、大臣は指示を出せます。ここで言えるのは、指示を出せることだけです。承認の取消しが違法だったかどうかは、別の問題で、別の回で扱います。手続の面も、判決は述べています。相当の期間は、国から起こす訴えの条文の括弧書きにあった言葉で、条文に何日とは書かれていません。この事件で指示が求めていたのは、承認の取消しを取り消すという、県の意思表示でした。しかも、前の代執行訴訟でも、承認の取消しが適法かどうかは既に争われていました。判決は、こうした経過を勘案して、指示から1週間が過ぎたことで、相当の期間が経過したとしました。結論は、大臣の請求を認める、というものでした。県は、委員会の決定を受けて、国に協議を申し入れていました。これについての判決の理由は短いものです。県は、指示された措置、つまり承認の取消しを取り消すことをしていない。だから不作為の違法は明らかで、協議を申し入れたことは結論を左右しない、というものでした。条文の作りから見ても、不作為の違法確認を止める道として用意されているのは、審査の申出と訴えで、協議の申入れはその中に入っていません。

出口の2本が両方使われた例(平28=国から地方へ〔251条の7の不作為の違法確認〕→請求認容/令3=地方から国へ〔サンゴ採捕の特別採捕許可をしない→大臣が是正の指示→県が審査の申出→委員会は違法でないと判断→県が251条の5第1項1号の訴え→高等裁判所が請求棄却→県が上告→最高裁も上告棄却・最高裁判決に2名の反対意見〕/「法令の規定に違反」の中身は裁量権の逸脱・濫用の判断になる) 図:出口の2本が両方使われた例

  • 平28=国から地方へ〔251条の7の不作為の違法確認〕→請求認容
  • 令3=地方から国へ〔サンゴ採捕の特別採捕許可をしない→大臣が是正の指示→県が審査の申出→委員会は違法でないと判断→県が251条の5第1項1号の訴え→高等裁判所が請求棄却→県が上告→最高裁も上告棄却・最高裁判決に2名の反対意見〕
  • 「法令の規定に違反」の中身は裁量権の逸脱・濫用の判断になる

もう1件、沖縄県のサンゴの採捕の事件があります。サンゴの採捕は、県の規則で全面的に禁止されていて、試験研究などのために知事から個別に許可を受けたときだけ、例外的に許されます。この許可を、特別採捕許可といいます。県が法定受託事務である特別採捕許可をしないでいたところ、大臣が是正の指示を出しました。県は審査の申出をして、委員会は、指示は違法でないと判断しました。県は、251条の5第1項1号の訴えを高等裁判所に起こしましたが、請求は棄却されました。県は上告しましたが、最高裁も上告を棄却しました。反対意見が2名付いているのは、この最高裁の判決です。先ほどの埋立ての事件は、国から起こす訴えでした。こちらは、県から起こす取消しの訴えです。出口の2本が、両方使われた例です。では、指示が法令の規定に違反しているかどうかは、どう決まるのか。判決は、特別採捕許可を出すかどうかは、専門技術的な知見を踏まえた知事の裁量に委ねられている、としました。裁量とは、法律が行政に任せた判断の幅です。幅の中の判断は違法になりません。幅を超えたり、濫用したりしたときに、規則と法律に違反することになり、そのとき初めて、是正の指示の要件である、法令の規定に違反している場合に当たる、とされました。裁量の中身は別の回で扱います。

問いの答えとまとめ

問い③の答え(地方から=審査の申出→国地方係争処理委員会→高等裁判所〔国の関与に関する訴え〕/国から=不作為の違法確認の訴え・代執行訴訟/県と町=自治紛争処理委員→高等裁判所/審査の基準=自治事務は違法・不当・法定受託事務は違法のみ) 図:問い③の答え

  • 地方から=審査の申出→国地方係争処理委員会→高等裁判所〔国の関与に関する訴え〕
  • 国から=不作為の違法確認の訴え・代執行訴訟
  • 県と町=自治紛争処理委員→高等裁判所
  • 審査の基準=自治事務は違法・不当・法定受託事務は違法のみ

冒頭の問いに戻ります。県が国の文書に納得できないとき、どこで誰が決めるのか。地方から国へは、30日以内の審査の申出から、国地方係争処理委員会の審査と勧告、そして高等裁判所への訴えへと進みます。国から地方へは、不作為の違法確認の訴えと、前回見た代執行訴訟です。県と町の間は、自治紛争処理委員が処理します。審査の基準は、自治事務が違法と不当、法定受託事務が違法だけでした。最初の2通の文書に戻ります。1通目の是正の要求も、2通目の是正の指示も、県は措置を講じる義務を負います。前回見た、大臣からの助言や勧告なら、従う義務はありませんでした。委員会が国に出す勧告とは、別のものです。県が納得できなければ、30日以内に審査の申出をして、委員会の審査、高等裁判所の訴えへと進めます。申出も訴えもせず、措置も講じなければ、大臣が不作為の違法確認の訴えを起こせます。国と地方は上下の関係ではないので、最後は、どちらの手でもない第三者が決める形になっていました。

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#30単独ページ動画

住民の権利と直接請求

第2章 行政組織法 ㉚/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

選んだあとの4年間

ひばり市の公用車契約(A=住民〔有権者約24万〕/B=市長/C=市議会/D=業者/B→D=公用車の買い替え契約を相場より高い値で結ぶ/A→B・A→C=4年に1度の選挙で選ぶ/A⇢B・A⇢C=選挙のあいだは?) 図:ひばり市の公用車契約

  • A=住民〔有権者約24万〕
  • B=市長
  • C=市議会
  • D=業者
  • B→D=公用車の買い替え契約を相場より高い値で結ぶ
  • A→B・A→C=4年に1度の選挙で選ぶ
  • A⇢B・A⇢C=選挙のあいだは?

今日は、地方の組織の最後に、住民の側から見ます。まず、議会と長の回の確認です。議会が市長の不信任を議決したとき、市長が取れる道は何でしたか?10日以内に議会を解散するか、解散しなければ失職する、でした。市長が議会を解散する道は、長の側にある道でした。今日は、その反対側を見ます。板は、ひばり市です。人口は約30万人で、選挙権を持つ人は約24万人います。この市が、公用車の買い替え契約を、特定の業者と結びました。値段は、相場よりかなり高い。市長も議会も、問題にしようとしません。住民には、次の選挙を待たずに動かせる道があります。憲法の回で、地方自治の本旨の住民自治を見ました。そこでは、住民が自分の手で動かす道があるとだけ紹介して、中身は別の機会に、と送っていました。今日は、その道を条文で開けます。

今日の問い(①住民が自分の手で動かせる道は何本あるか/②それぞれ、最後に決めるのは誰か/③名前の似た2つの監査請求はどう違うか) 図:今日の問い

  • ①住民が自分の手で動かせる道は何本あるか
  • ②それぞれ、最後に決めるのは誰か
  • ③名前の似た2つの監査請求はどう違うか

問いは3つです。1つ目。住民が自分の手で動かせる道は何本あるか。2つ目。それぞれの道で、最後に決めるのは誰か。3つ目。名前の似た2つの監査請求は、どう違うのか。持ち帰ってほしいのは、条文の番号ではなく、骨組みです。

住民とは誰か

3つの輪(A=住民〔区域内に住所がある〕/B=日本国民たる住民/C=選挙権を有する者〔日本国民・満18歳以上・引き続き3か月以上住所〕/C⊂B⊂A の入れ子/ひばり市=A約30万人・C約24万人) 図:3つの輪

  • A=住民〔区域内に住所がある〕
  • B=日本国民たる住民
  • C=選挙権を有する者〔日本国民・満18歳以上・引き続き3か月以上住所〕
  • C⊂B⊂A の入れ子
  • ひばり市=A約30万人・C約24万人

道に入る前に、言葉を分けます。住民と、日本国民たる住民と、選挙権を有する者は、別のものです。ここを混ぜると、あとの署名の話が崩れます。まず住民から。

条文地方自治法10条1項・2項

地方自治法第10条 市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。 2 住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。

骨格は、市町村の区域内に住所がある人が、その市町村の住民で、同時にそれを包括する県の住民でもある、です。住所とは、生活の本拠のことです。国籍も年齢も、条文のどこにも書かれていません。2項は、住民の地位です。役務の提供、つまり公共サービスをひとしく受ける権利があり、その費用の負担を分け合って担う義務があります。分任とは、分け合って担うことです。住所がなくても、関わりの深い人は、住民に準ずる地位にある者として、公の施設の利用で差別されない、と前に見ました。今日は、住所のある人に絞って進めます。次に、選挙権です。

条文地方自治法18条

地方自治法第18条 日本国民たる年齢満十八年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有するものは、別に法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。

骨格は、日本国民で、満18年以上で、引き続き3か月以上その市町村に住所がある人が、議員と長の選挙権を持つ、です。ひばり市で数えます。住民は約30万人で、選挙権を持つ人は約24万人です。差の約6万人には、18歳未満の人と、外国籍の住民と、引っ越してきて3か月に満たない人が入っています。この6万人も、ひばり市の住民です。選挙の投票だけが、できません。これから見る直接請求は、条文が日本国民たる住民の権利と書き、署名できる人も選挙権を有する者と決めています。だから、外国籍の住民は、署名の数には入りません。ただし、あとで見る住民監査請求は、住民としか書かれていません。この違いが、2つの監査請求を分ける決め手になります。覚えておいてください。

直接請求の全体像

4つの見分け方(直接請求の4種〔条例の制定改廃/事務の監査/議会の解散/解職〕を、①何を求めるか②署名の数③誰に出すか④その後、誰が決めるか、の4つで見分ける/署名の数は2段階=50分の1・3分の1) 図:4つの見分け方

  • 直接請求の4種〔条例の制定改廃/事務の監査/議会の解散/解職〕を、①何を求めるか②署名の数③誰に出すか④その後、誰が決めるか、の4つで見分ける
  • 署名の数は2段階=50分の1・3分の1

住民が動かす道は、法律が4つに具体化しています。入口は12条と13条です。

条文地方自治法12条1項・2項

地方自治法第12条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものを除く。)の制定又は改廃を請求する権利を有する。 2 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の事務の監査を請求する権利を有する。

条文地方自治法13条1項・2項

地方自治法第13条 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の解散を請求する権利を有する。 2 日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の議会の議員、長、副知事若しくは副市町村長、第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市の総合区長、選挙管理委員若しくは監査委員又は公安委員会の委員の解職を請求する権利を有する。

骨格は、条例の制定や改廃を求める道と、事務の監査を求める道が12条です。議会の解散を求める道と、議員や長や副市長などの解職を求める道が13条です。合わせて4つの道になります。解職の請求は、通称リコールと呼ばれます。13条3項には、教育長と教育委員の解職の請求もあります。これは教育行政の法律に定めがあるので、今日は名前だけにします。この4つを、板の4つの問いで見分けます。何を求めるのか。署名は何分の1か。誰に出すのか。その後、誰が決めるのか。覚えるのは数字の羅列ではありません。この4つの問いに、理由で答えられるようにします。

理由は、求める重さが違うからです。条例を作ってほしい、事務を調べてほしい、という請求は、議会や監査委員に、判断してくださいと促すだけです。促すのに必要な数は、有権者の50分の1です。ひばり市なら4800人です。一方、議会を解散する、市長を辞めさせる、という請求は、いまその職にある人から、地位を奪う話です。議会の解散なら、議員全員が一度に職を失います。判断を促すだけの請求より、ずっと重いので、有権者の3分の1です。ひばり市なら8万人です。数字を暗記する前に、軽い請求と重い請求に分かれる、と覚えてください。軽いほうは、決めるのが議会や監査委員です。重いほうは、決めるのが住民の投票です。例外が1つあります。あとで出します。

4つの道をひとつずつ

直接請求の出し先(A=住民〔署名する有権者〕/B=長/C=選挙管理委員会/D=監査委員/E=議会/A→B=条例の制定改廃〔50分の1〕→B→E 付議/A→D=事務の監査〔50分の1〕→公表/A→C=議会の解散・議員と長の解職〔3分の1〕→住民の投票/A→B=主要公務員の解職〔3分の1〕→B→E 議会が決める) 図:直接請求の出し先

  • A=住民〔署名する有権者〕
  • B=長
  • C=選挙管理委員会
  • D=監査委員
  • E=議会
  • A→B=条例の制定改廃〔50分の1〕→B→E 付議
  • A→D=事務の監査〔50分の1〕→公表
  • A→C=議会の解散・議員と長の解職〔3分の1〕→住民の投票
  • A→B=主要公務員の解職〔3分の1〕→B→E 議会が決める

1つずつ見ます。最初は、ひばり市の公用車の契約を透明にする条例を、住民が求める場面です。

条文地方自治法74条1項・3項

地方自治法第74条第1項・第3項 普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者(以下この編において「選挙権を有する者」という。)は、政令で定めるところにより、その総数の五十分の一以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものを除く。)の制定又は改廃の請求をすることができる。 3 普通地方公共団体の長は、第一項の請求を受理した日から二十日以内に議会を招集し、意見を付けてこれを議会に付議し、その結果を同項の代表者(以下この条において「代表者」という。)に通知するとともに、これを公表しなければならない。

骨格は、選挙権を有する者のうち50分の1以上が連署して、代表者から長に、条例の制定や改廃を請求できる、です。連署とは、請求の書面に並べて署名することです。代表者とは、署名を集めて請求書を出す役の人です。請求を受けた長は、20日以内に議会を招集し、意見を付けて議会に付議します。付議とは、議会の議題にのせることです。ひばり市なら、署名を4800人分集めて、市長に出します。市長は、20日以内に議会を開き、意見を付けて議題にのせます。賛成すれば条例になり、反対すれば条例になりません。住民が条例を直接つくるのではなく、議会の議題にのせる権利です。最後に決めるのは議会です。括弧書きにも注意してください。地方税の賦課徴収と、分担金と、使用料と、手数料の徴収に関する条例は、この請求の対象外です。分担金は、特定の人が得をする事業の費用を、その人たちから集めるお金です。使用料は、市民プールのような施設を使った対価、手数料は、住民票の写しの交付のような事務の対価です。負担を決める条例は、財政の根幹です。署名で発議できるとすると、負担を軽くする案が出やすくなります。負担を下げれば収入が減り、ほかの仕事の財源をどうするかが残ります。その全体の釣り合いに責任を負うのは、予算を組む長と、それを議決する議会です。そこで、この2つが決める形にしてあります。条例の審議や公布の手続は、別の回で扱います。

事務の監査請求の流れ(A=住民4800人〔50分の1〕/D=監査委員/A→D=公用車の管理を調べるよう請求/D→監査して結果を公表/D→議会・長に結果を提出/ここで終わり=是正の命令は出ない) 図:事務の監査請求の流れ

  • A=住民4800人〔50分の1〕
  • D=監査委員
  • A→D=公用車の管理を調べるよう請求
  • D→監査して結果を公表
  • D→議会・長に結果を提出
  • ここで終わり=是正の命令は出ない

2つ目は、事務の監査の請求です。市の公用車の管理が、全体として適正かを調べさせたい場面です。

条文地方自治法75条1項

地方自治法第75条第1項 選挙権を有する者(道の方面公安委員会については、当該方面公安委員会の管理する方面本部の管轄区域内において選挙権を有する者)は、政令で定めるところにより、その総数の五十分の一以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の監査委員に対し、当該普通地方公共団体の事務の執行に関し、監査の請求をすることができる。

骨格は、50分の1以上の連署で、代表者から監査委員に、事務の執行に関して監査を請求できる、です。監査委員とは、地方公共団体の事務や財務を点検する、独立の機関です。市長の部下ではありません。請求を受けた監査委員は、請求された事項を監査し、結果の報告を決めて、代表者に送り、公表し、議会と長などに提出します。75条3項が定めています。ここで、この道は終わります。調べて公表するところまでが仕事で、この契約をやめなさいという命令までは出ません。結果を受けて動くかどうかは、議会と長の判断です。財務に限らず、一部の例外を除いて事務全般が対象になる広い道です。広いけれど、結末が軽い。この組み合わせを覚えておいてください。あとの比較で効きます。

署名数の段階(有権者が40万以下=総数の3分の1/40万超80万以下=40万を超える部分は6分の1/80万超=80万を超える部分は8分の1/各段階を積み上げて合算/ひばり市〔24万〕=8万人/有権者100万人=13万3千人強+6万6千人強+2万5千人=約22.5万人/条例の制定改廃と事務の監査〔50分の1〕にこの段階は無い) 図:署名数の段階

  • 有権者が40万以下=総数の3分の1
  • 40万超80万以下=40万を超える部分は6分の1
  • 80万超=80万を超える部分は8分の1
  • 各段階を積み上げて合算
  • ひばり市〔24万〕=8万人
  • 有権者100万人=13万3千人強+6万6千人強+2万5千人=約22.5万人
  • 条例の制定改廃と事務の監査〔50分の1〕にこの段階は無い

3つ目の議会の解散の前に、議会と長の回を思い出してください。市長が議会を解散できたのは、どんな議決を受けたときでしたか?議会が市長の不信任を議決したときです。市長の側から解散できるのは、不信任を受けたときだけです。住民の側から解散を求める道は、そうした条件なしに、署名で始まります。

条文地方自治法76条1項・3項

地方自治法第76条第1項・第3項 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の議会の解散の請求をすることができる。 3 第一項の請求があつたとき、委員会は、これを選挙人の投票に付さなければならない。

骨格は、3分の1以上の連署で、代表者から選挙管理委員会に、議会の解散を請求できる。請求があれば、委員会は、これを選挙人、つまり選挙権を有する者の投票に付す、です。選挙管理委員会とは、選挙の事務を担当する機関です。出し先が長でなく、選挙管理委員会であることに注意してください。投票を実際に行うのが、この委員会だからです。括弧書きは、大きな団体の緩和です。有権者が40万人以下なら、3分の1です。40万人を超える部分は6分の1にして、80万人を超える部分は8分の1にして、段階ごとに積み上げます。有権者が100万人なら、約22万5千人です。ひばり市は24万人なので、そのまま3分の1の8万人です。

条文地方自治法78条

地方自治法第78条 普通地方公共団体の議会は、第七十六条第三項の規定による解散の投票において過半数の同意があつたときは、解散するものとする。

署名が集まっただけでは解散しません。署名で決まるのは、投票にかけるところまでです。投票で過半数の同意があって、はじめて議会は解散します。決めるのは、住民の投票です。長も議会も、これを止められません。憲法の回で、住民投票の結果には法的な拘束力がない、と見ました。あれは、原発や基地をめぐって行われるような、結果の効力を法律が定めていない住民投票の話です。解散の投票は違います。78条が、過半数の同意があれば解散する、と結果そのものに効力を与えています。

条文地方自治法79条

地方自治法第79条 第七十六条第一項の規定による普通地方公共団体の議会の解散の請求は、その議会の議員の一般選挙のあつた日から一年間及び同条第三項の規定による解散の投票のあつた日から一年間は、これをすることができない。

期間の制限があります。議員の一般選挙、つまり議員全員を選ぶ選挙のあった日から1年間と、解散の投票のあった日から1年間は、請求できません。選ばれたばかりの議会に、仕事をする時間を与える趣旨です。

解職の2系統(長・議員=選挙で選ばれた者→選管へ〔3分の1〕→住民の投票で過半数→職を失う/議員は所属の選挙区の有権者で数え、その選挙区の投票〔選挙区が無いときは全体〕/主要公務員〔副市長・選管委員・監査委員・公安委員会委員など〕=住民の選挙でなく、議会が選任に関わる者→長へ〔3分の1〕→議会が決める) 図:解職の2系統

  • 長・議員=選挙で選ばれた者→選管へ〔3分の1〕→住民の投票で過半数→職を失う
  • 議員は所属の選挙区の有権者で数え、その選挙区の投票〔選挙区が無いときは全体〕
  • 主要公務員〔副市長・選管委員・監査委員・公安委員会委員など〕=住民の選挙でなく、議会が選任に関わる者→長へ〔3分の1〕→議会が決める

4つ目は解職請求です。まず、市長の解職から見ます。

条文地方自治法81条1項

地方自治法第81条第1項 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。

条文地方自治法83条

地方自治法第83条 普通地方公共団体の議会の議員又は長は、第八十条第三項又は第八十一条第二項の規定による解職の投票において、過半数の同意があつたときは、その職を失う。

骨格は、3分の1以上の連署で、選挙管理委員会に、長の解職を請求できる。投票で過半数の同意があれば、長はその職を失う、です。解散の請求と同じ形です。ひばり市なら、8万人の署名で、市長の解職が投票にかけられます。議員の解職は80条にあります。形は同じですが、議員は1人ずつ請求の対象になります。数える有権者は、その議員の所属する選挙区の有権者で、投票もその選挙区で行います。選挙区がないときは、全体で数えます。

条文地方自治法84条

地方自治法第84条 第八十条第一項又は第八十一条第一項の規定による普通地方公共団体の議会の議員又は長の解職の請求は、その就職の日から一年間及び第八十条第三項又は第八十一条第二項の規定による解職の投票の日から一年間は、これをすることができない。ただし、公職選挙法第百条第六項の規定により当選人と定められ普通地方公共団体の議会の議員又は長となつた者に対する解職の請求は、その就職の日から一年以内においても、これをすることができる。

解散と同じく、就職の日から1年間と、解職の投票の日から1年間は、請求できません。ただし書きは、投票をせずに当選が決まった人、いわゆる無投票当選の人には、就職から1年以内でも請求を認めるものです。選挙で住民の判断を受けていないからです。ここで、立ち止まって考えてください。議会の解散と、長の解職は、住民の投票で決まりました。では、ひばり市の副市長の解職は、誰が決めると思いますか。住民の投票ですか。それとも議会ですか。住民の投票ではありません。副市長の解職を決めるのは議会です。条文で確かめます。

条文地方自治法86条1項

地方自治法第86条第1項 選挙権を有する者(第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市(以下この項において「指定都市」という。)の総合区長については当該総合区の区域内において選挙権を有する者、指定都市の区又は総合区の選挙管理委員については当該区又は総合区の区域内において選挙権を有する者、道の方面公安委員会の委員については当該方面公安委員会の管理する方面本部の管轄区域内において選挙権を有する者)は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の長に対し、副知事若しくは副市町村長、指定都市の総合区長、選挙管理委員若しくは監査委員又は公安委員会の委員の解職の請求をすることができる。

条文地方自治法87条1項

地方自治法第87条第1項 前条第一項に掲げる職に在る者は、同条第三項の場合において、当該普通地方公共団体の議会の議員の三分の二以上の者が出席し、その四分の三以上の者の同意があつたときは、その職を失う。

骨格は、3分の1以上の連署で、今度は選挙管理委員会ではなく、長に、副市長や監査委員などの解職を請求する。長は、これを議会に付議する。議会の議員の3分の2以上が出席し、その4分の3以上が同意すれば、その職を失う、です。86条に並ぶ、副市長、選挙管理委員、監査委員、公安委員会の委員を、まとめて主要公務員と呼びます。どれも、住民が選挙で選んだのではなく、議会が選任に関わって選ばれた役職です。監査委員や選挙管理委員は、職権の行使は長から独立していましたが、それは仕事のやり方の話で、どう選ばれるかとは別です。長が議会に付議するところまでが86条3項、議決の要件が87条1項です。理由は、選ばれ方にあります。長と議員は、住民が選挙で選んだ人です。だから、辞めさせるのも住民の投票です。副市長は、住民が選んだのではなく、市長が議会の同意を得て選んだ人です。選んだ側が議会の同意を得ていたので、辞めさせるときも議会が決めます。任命の道筋を、逆にたどる形です。出席が3分の2以上、同意が4分の3以上という、議決の要件は重いです。解職の議決は、簡単には通らないようになっています。

直接請求の比較表(条例の制定改廃〔74条〕=50分の1・長へ・長が20日以内に議会を招集して付議→議会が決める/事務の監査〔75条〕=50分の1・監査委員へ・監査して結果を公表し議会と長に提出/議会の解散〔76条・78条〕=3分の1・選管へ・住民の投票で過半数/長・議員の解職〔80条・81条・83条〕=3分の1・選管へ・住民の投票で過半数/主要公務員の解職〔86条・87条〕=3分の1・長へ・議会で3分の2以上出席・4分の3以上の同意/欄外=有権者40万・80万の段階/解散・長と議員の解職は就職・選挙・投票から1年は不可) 図:直接請求の比較表

  • 条例の制定改廃〔74条〕=50分の1・長へ・長が20日以内に議会を招集して付議→議会が決める
  • 事務の監査〔75条〕=50分の1・監査委員へ・監査して結果を公表し議会と長に提出
  • 議会の解散〔76条・78条〕=3分の1・選管へ・住民の投票で過半数
  • 長・議員の解職〔80条・81条・83条〕=3分の1・選管へ・住民の投票で過半数
  • 主要公務員の解職〔86条・87条〕=3分の1・長へ・議会で3分の2以上出席・4分の3以上の同意
  • 欄外=有権者40万・80万の段階
  • 解散・長と議員の解職は就職・選挙・投票から1年は不可

4つの道を、1枚の表にまとめます。見分けるときの順番は、決めるのは誰か、です。議会が決める道は2つあります。条例の制定改廃と、主要公務員の解職です。住民の投票が決める道も2つあります。議会の解散と、長や議員の解職です。監査委員が調べて公表する道は、事務の監査です。署名の数は、決めるのが誰かではなく、求める重さで決まります。判断を促すだけなら50分の1です。職にある人の地位を奪うなら3分の1です。主要公務員の解職も、人の地位を奪う請求なので、決めるのが議会でも、署名は3分の1です。署名の数は重さで、決める人は選ばれ方で決まる。軸が2本あるので、ここだけ食い違って見えるのです。出し先も、選管でなく長に出す点で、長・議員の解職とは違います。

名前の似た2つの監査請求

2つの監査請求(事務の監査請求〔75条〕=選挙権を有する者の50分の1以上の署名・事務の執行全般〔一部除外あり〕・期間制限なし・結末=監査して結果を公表・その先の道はない/住民監査請求〔242条〕=住民なら1人でも・国籍も選挙権の有無も問わない・財務会計上の行為と怠る事実だけ・行為から1年・結末=理由ありなら措置の勧告、理由なしなら通知と公表・先に住民訴訟が控える) 図:2つの監査請求

  • 事務の監査請求〔75条〕=選挙権を有する者の50分の1以上の署名・事務の執行全般〔一部除外あり〕・期間制限なし・結末=監査して結果を公表・その先の道はない
  • 住民監査請求〔242条〕=住民なら1人でも・国籍も選挙権の有無も問わない・財務会計上の行為と怠る事実だけ・行為から1年・結末=理由ありなら措置の勧告、理由なしなら通知と公表・先に住民訴訟が控える

ここまでに出てきた事務の監査請求と、名前のよく似た制度があります。住民監査請求です。まず条文を読みます。

条文地方自治法242条1項・2項

地方自治法第242条第1項・第2項 普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体の被つた損害を補塡するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。 2 前項の規定による請求は、当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

骨格は、住民が、長や職員の違法または不当な公金の支出、契約の締結などについて、監査委員に、監査と必要な措置を請求できる、です。公金の支出や契約の締結のような、お金や財産に関わる行為を、財務会計上の行為と呼びます。怠る事実とは、やるべきことをやらない状態です。たとえば、市が業者に請求できる代金を、請求しないまま放っておく場合です。これも対象になります。括弧書きにある通り、まだ行われていない行為でも、相当の確実さをもって予測されるなら、請求できます。契約を結ぶ直前に、止めさせる道もあるということです。2項は期間です。行為のあった日か、終わった日から1年を過ぎると請求できません。ただし、正当な理由があれば別です。

請求できる人です。事務の監査請求は、選挙権を有する者の50分の1以上の署名が要りました。住民監査請求の条文は、住民としか書いていません。選挙権を有する者という限定も、署名の数の定めもありません。だから、住民が1人でも請求できます。なぜ、1人でよいのですか。制度の趣旨が違うからです。住民監査請求は、地方公共団体のお金の使い方を、住民が正すための仕組みです。公金の不正に気づくのは、ごく少数の人ということがあります。署名を集める条件を付けると、気づいた人が動けなくなります。だから、1人でもよい作りです。代わりに、対象は狭くなっています。財務会計上の行為と怠る事実だけです。1人で出せる代わりに、的を絞る形です。逆に、事務の監査請求は、事務全般という広さを得た代わりに、署名が必要で、結末も調べて公表するだけでした。境界で確かめます。公用車の契約は、契約の締結なので、財務会計上の行為です。住民監査請求の対象になります。一方、市の保育の方針が気に入らない、という不満は、お金の支出や契約の話ではありません。住民監査請求の対象外で、事務の監査請求の出番になります。決め手は、お金や財産に関わる行為かどうかです。結末も違います。242条5項は、監査委員が監査をして、請求に理由がなければ、理由を付けて通知し、公表すると定めます。理由があれば、議会や長に、期間を示して必要な措置を勧告します。事務の監査請求の結果が、調べて公表するだけだったのと違い、措置の勧告まで進みます。

4項には、さらに強い手があります。違法と思われる行為で、回復の難しい損害を避ける緊急の必要があるときは、監査委員が、手続が終わるまで、その行為を停止するよう勧告できます。ただし、停止の勧告で、人の命や体に重大な危害が生じるなど、公共の福祉を著しく損なうおそれがあるときは、出せません。6項は、監査と勧告を、請求から60日以内に行うと定めています。

ひばり市で2つを使い分ける(A=住民1人〔契約から1年以内〕/B=署名した住民4800人〔50分の1〕/D=監査委員/E=公用車の高値契約〔財務会計上の行為〕/B→D=公用車の管理体制を全体として調べさせたい→事務の監査請求/A→D=この契約の差止めと、すでに払った分の損害の補塡を求めたい→住民監査請求) 図:ひばり市で2つを使い分ける

  • A=住民1人〔契約から1年以内〕
  • B=署名した住民4800人〔50分の1〕
  • D=監査委員
  • E=公用車の高値契約〔財務会計上の行為〕
  • B→D=公用車の管理体制を全体として調べさせたい→事務の監査請求
  • A→D=この契約の差止めと、すでに払った分の損害の補塡を求めたい→住民監査請求

ひばり市で、一周します。市の公用車の管理体制を、全体として調べさせたい。この場合に使うのは、事務の監査請求です。有権者の50分の1にあたる署名を4800人分集めて、監査委員に出します。結果は公表されて、議会と市長に提出されます。もう1つ。この高い契約そのものを止めさせたい。すでに払った分の損害も取り戻したい。この場合に使うのは、住民監査請求です。ひばり市の住民が1人で、契約から1年以内に、監査委員に請求できます。同じ監査委員に出す、よく似た名前の請求でも、出す人の範囲と、署名の数と、対象の広さと、結末が違います。名前でなく、この4つで見分けてください。

住民監査請求から住民訴訟へ

住民監査請求から住民訴訟へ(A=住民/D=監査委員/F=裁判所/A→D=住民監査請求〔まず先に〕→D=監査して60日以内に結論/理由あり→措置の勧告/理由なし→通知と公表/A→F=監査の結果や勧告・措置に不服がある、または監査委員が60日以内に動かない・勧告を受けた者が措置を講じない→住民訴訟〔監査請求を先に経ることが必要=監査請求前置〕) 図:住民監査請求から住民訴訟へ

  • A=住民
  • D=監査委員
  • F=裁判所
  • A→D=住民監査請求〔まず先に〕→D=監査して60日以内に結論
  • 理由あり→措置の勧告
  • 理由なし→通知と公表
  • A→F=監査の結果や勧告・措置に不服がある、または監査委員が60日以内に動かない・勧告を受けた者が措置を講じない→住民訴訟〔監査請求を先に経ることが必要=監査請求前置〕

住民監査請求には、続きがあります。監査委員が、請求に理由がないと判断したらどうなるか。あるいは、60日たっても何もしなかったらどうなるか。その先に、裁判所の道があります。

条文地方自治法242条の2第1項(柱書)

地方自治法第242条の2第1項(柱書) 普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第五項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第五項の規定による監査若しくは勧告を同条第六項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。

骨格は、住民は、住民監査請求をした場合に、その結果などに不服があるとき、または監査委員が期間内に動かないときに、裁判所に訴えを起こして、一定の請求ができる、です。これが住民訴訟です。住民訴訟の名前は、これまでにも出てきました。専決の回で、住民が水道事業の管理者個人の責任を問うた裁判も、住民訴訟でした。その入口が、この条文です。大事なのは順番です。住民は、先に住民監査請求をしていなければ、訴えられません。これを、監査請求前置と呼びます。まず行政の内側で、監査委員に正してもらう。それで足りないときに、外側の裁判所に出る。二段構えです。

住民が、公用車の契約について住民監査請求をします。監査委員が、理由なしと判断した。あるいは、60日たっても結論を出さない。この場合、請求をした住民は、裁判所に訴えを起こせます。この訴えで何を請求できるか、訴えを起こせる期間は、住民訴訟の中身にあたります。後の回で扱います。今日は、位置を押さえるところまでです。

問いの答えとまとめ

今日の答え(住民の道は4本+お金の使い方を正す道/決めるのは議会〔条例・主要公務員の解職〕・住民の投票〔解散・長と議員の解職〕・監査委員〔事務の監査〕/署名=判断を促すだけなら50分の1・職にある人の地位を奪うなら3分の1/住民監査請求=1人でも・財務会計上の行為と怠る事実だけ→住民訴訟へ) 図:今日の答え

  • 住民の道は4本+お金の使い方を正す道
  • 決めるのは議会〔条例・主要公務員の解職〕・住民の投票〔解散・長と議員の解職〕・監査委員〔事務の監査〕
  • 署名=判断を促すだけなら50分の1・職にある人の地位を奪うなら3分の1
  • 住民監査請求=1人でも・財務会計上の行為と怠る事実だけ→住民訴訟へ

冒頭の問いに戻ります。選んだあとの任期の間、住民は黙って見ているしかないのか。1つ目の問いの答えです。道は全部で4本あります。条例を求める道、事務を調べさせる道、議会を解散させる道、長や議員や主要な役職員を辞めさせる道です。これに加えて、お金の使い方を正す道として、住民監査請求がありました。2つ目の問いの答えです。最後に決めるのは、議会か、住民の投票か、監査委員か、で見分けます。条例の制定と、副市長などの解職は、議会が決めます。議会の解散と、長や議員の解職は、住民の投票が決めます。事務の監査は、監査委員が調べて公表して終わります。署名の数は、求める重さで説明できました。判断を促すだけなら50分の1です。ひばり市で4800人です。職にある人の地位を奪うなら3分の1です。副市長の解職も、ここに入ります。ひばり市で8万人です。3つ目の問いの答えです。事務の監査請求は、選挙権を有する者の50分の1以上の署名が要り、事務全般が対象で、結末は調べて公表するところまででした。住民監査請求は、住民なら1人でも出せますが、対象は財務会計上の行為と怠る事実だけで、行為から1年という期間があり、措置の勧告まで進みます。最後の手段は、裁判所です。条例は議会が決めますし、監査請求は命令までは出せません。その先に、住民訴訟があります。ひばり市の住民は、見ているだけではなく、動かせる道を持っています。

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#31単独ページ動画

条例で決められること

第2章 行政組織法 ㉛/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

規則で罰金は取れるか

みなと町の問い(A=町長/B=空き家の持ち主/C=浜辺で花火をする人/D=町議会/A→B=町長の規則で修理を命じる?/A→C=町長の規則で花火を禁止し違反者から罰金を取る?/D=この計画に関わっていない) 図:みなと町の問い

  • A=町長
  • B=空き家の持ち主
  • C=浜辺で花火をする人
  • D=町議会
  • A→B=町長の規則で修理を命じる?
  • A→C=町長の規則で花火を禁止し違反者から罰金を取る?
  • D=この計画に関わっていない

今日は、地方公共団体が自分でつくる決まり、条例を見ます。板は、海沿いのみなと町です。この町の浜辺では、夜になると花火をする人が増えて、燃えがらとごみが砂に残っています。町の奥には、屋根が落ちかけた空き家があって、近所の人が怖がっています。町長が言いました。「町長の規則で、空き家の持ち主に修理を命じよう。浜辺の花火は禁止して、守らない人からは罰金を取ろう」。気持ちはわかります。けれど、この進め方は、そのままでは通りません。空き家には国の法律との関係もありますが、それは次の回で触れます。今日は、持ち主に義務を課す例として使うだけです。通らない理由は2つあります。そして、通る形にするには、町は何をどう作ればよいのか。これが今日の話です。

今日の問い(①条例は何でも決められるのか/②人に命じる・罰を科す=なぜ条例でなければならないのか/③条例は誰が、どういう順で作るのか) 図:今日の問い

  • ①条例は何でも決められるのか
  • ②人に命じる・罰を科す=なぜ条例でなければならないのか
  • ③条例は誰が、どういう順で作るのか

問いは3つです。1つ目。条例は、何でも決められるのか。2つ目。人に命じたり、罰を科したりするのは、なぜ条例でなければならないのか。3つ目。条例は、誰が、どういう順で作るのか。持ち帰ってほしいのは、条文の番号ではなく、骨組みです。

条例で決められる範囲

決められること・決められないこと(決められる=浜辺の花火の禁止・空き家の管理・町の公園の使い方/決められない=外交や防衛などの国の事務そのもの・町の区域の外の出来事/法令に違反しない限りで/自治事務も法定受託事務も対象) 図:決められること・決められないこと

  • 決められる=浜辺の花火の禁止・空き家の管理・町の公園の使い方
  • 決められない=外交や防衛などの国の事務そのもの・町の区域の外の出来事
  • 法令に違反しない限りで
  • 自治事務も法定受託事務も対象

まず、条例とは何かです。条例は、地方公共団体が、自分の議会の議決でつくる決まりです。国の法律に対して、地方公共団体の自主法と呼びます。自主法とは、自分たちで決めて、自分たちの区域に適用する法、という意味です。憲法の回では、長や委員会の規則まで広く条例に含める見方も見ましたが、今日の条例は、議会が議決する狭い意味のものです。条例の出どころも、憲法の回で見ました。憲法94条が、地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定できる、と定めていました。国の政令は、法律の委任がなければ、罰則も、国民の権利や義務にかかわる定めも置けません。条例は、制定そのものに、国の法令の委任が要りません。住民が選んだ議会が議決する、民主的な立法だからです。

条文地方自治法14条1項

地方自治法第14条第1項 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。

骨格は、法令に違反しない限りにおいて、2条2項の事務に関し、条例を制定できる、です。枠は、2つあります。事務の枠と、法令の枠です。事務の枠から見ます。2条2項の事務は、憲法の回で見たとおり、地域における事務と、法律や政令で処理することとされた事務でした。ここで、事務の2区分の回で見た、自治事務と法定受託事務が効いてきます。どちらも地方公共団体の事務ですから、どちらについても条例を作れます。法定受託事務は国から任された事務ですが、戸籍の届出の受理のように、処理するのは町で、町の事務です。かつての機関委任事務、つまり長が国の機関として国の仕事をする制度では、条例の対象外でしたが、その制度はもうありません。

条例にできない事柄もあります。国の事務そのものは対象外です。外交や防衛は、国が国として行う事務で、町の事務ではないからです。境界で確かめます。みなと町が「浜辺で花火をしてはならない」と決めるのは、町の区域の問題ですから、条例の範囲内です。「外国と条約を結ぶ」と決めるのは、範囲外です。もう1つの枠は、法令に違反しない限りという部分です。これは、法律による行政の原理の、法律の優位の地方版です。条例は、法律や政令に負けます。何が違反にあたるかの判断の仕方は、次の回で詳しく見ます。最後に、条例の効力が及ぶ範囲です。条例は、その町の区域の中で、住民かどうかを問わず及びます。隣の町の人が、みなと町の浜辺で花火をすれば、みなと町の条例が適用されます。逆に、みなと町の住民が、隣の町の浜辺で花火をしても、みなと町の条例は及びません。区域の外の出来事だからです。

条例は人に付くのではなく、場所に付く決まりです。この性質を、属地的といいます。

義務を課すには条例が要る

法律による行政の原理の3つ、地方版(法規創造力=国は法律/地方は条例・優位=国は法律が命令に優先/地方は法令が条例に優先〔14条1項〕・留保=国は法律の根拠が要る/地方は条例の根拠が要る〔14条2項〕) 図:法律による行政の原理の3つ、地方版

  • 法規創造力=国は法律
  • 地方は条例・優位=国は法律が命令に優先
  • 地方は法令が条例に優先〔14条1項〕・留保=国は法律の根拠が要る
  • 地方は条例の根拠が要る〔14条2項〕

ここで、行政法の最初のほうで見た、法律による行政の原理を思い出してください。国民に義務を課して権利を制限するには、何が必要だと見ましたか?法律の根拠です。法律の留保でした。あの原理には、3つの内容がありました。法律の法規創造力と、法律の優位と、法律の留保です。条例は、この3つの地方版として読めます。

条文地方自治法14条2項

地方自治法第14条第2項 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。

骨格は、義務を課し、権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除いて、条例による、です。法律の留保の、地方版です。国では、国民の権利を制限するのに国会の法律が要りました。地方では、住民の権利を制限するのに、議会の条例が要ります。3つを並べます。留保は、この14条2項です。優位は、さっきの14条1項の、法令に違反しない限りにおいて、です。法規創造力は、法規、つまり人を法的に縛る一般的な決まりを作れるのは、地方では条例だ、という形で重なります。14条2項は、町が一般的な決まりで義務を課す場面にも、目の前の1人に命じる場面にも掛かります。だから、法規創造力と留保の両方が、地方では条例に重なります。

規則では足りません。規則は、町長が一人で決められるからです。条例は、議会の議決を通ります。住民の代表が公開の場で審議して、賛成を得る。住民に義務を課すなら、そこを通すべきだ、という考えです。要綱も同じです。要綱は、役所の内部の取り決めで、住民を法的に縛る力がありません。例外は、条文の中の、法令に特別の定めがある場合です。法律が直接、住民に義務を課している場合や、法律が規則に任せている場合がそうです。

条例と、規則・要綱の仕分け(義務を課す・権利を制限する→条例=花火の禁止・空き家の持ち主への修理の命令・浜辺の利用の許可制/義務を課さない→規則・要綱でも足りる=花火大会の開催・清掃キャンペーンの呼びかけ・「ごみは持ち帰りましょう」の看板/決め手=守らなかったとき町が法的に責められるか) 図:条例と、規則・要綱の仕分け

  • 義務を課す・権利を制限する→条例=花火の禁止・空き家の持ち主への修理の命令・浜辺の利用の許可制
  • 義務を課さない→規則・要綱でも足りる=花火大会の開催・清掃キャンペーンの呼びかけ・「ごみは持ち帰りましょう」の看板
  • 決め手=守らなかったとき町が法的に責められるか

みなと町に当てはめます。花火を禁止するのは、住民の自由を制限しますから、条例です。空き家の持ち主に修理を命じるのも、義務を課すので、条例です。一方、町が花火大会をひらく、清掃キャンペーンを呼びかける、といったことは、誰にも義務を課しません。規則や要綱でも足ります。境界のペアで確かめます。浜辺に「ごみは持ち帰りましょう」と看板を立てるのは、お願いです。規則や要綱でも足ります。「ごみは持ち帰らなければならない」と定めて、守らなければ制裁を科すなら、義務を課すので条例です。決め手は、守らなかったときに、町が法的に責められるかどうかです。ここは、論文でも論点になりえます。

罰則と、財産権・課税

条例で定められる罰——刑罰と過料の違い(刑罰=2年以下の拘禁刑・100万円以下の罰金・拘留・科料・没収→裁判所が刑事手続で科す/行政上の秩序罰=5万円以下の過料→長が科す/規則で置ける罰=過料まで) 図:条例で定められる罰——刑罰と過料の違い

  • 刑罰=2年以下の拘禁刑・100万円以下の罰金・拘留・科料・没収→裁判所が刑事手続で科す
  • 行政上の秩序罰=5万円以下の過料→長が科す
  • 規則で置ける罰=過料まで

次は罰です。町長は、守らない人から罰金を取ろう、と言いました。条例なら、どこまでの罰を置けるのでしょうか。

条文地方自治法14条3項

地方自治法第14条第3項 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の拘禁刑、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

骨格は、条例の中に、違反した者への罰を置ける。刑罰は、2年以下の拘禁刑、100万円以下の罰金、拘留、科料、没収。それとは別に、5万円以下の過料、です。刑罰の中身を一言ずつ。拘禁刑は、刑事施設に拘禁して、身体の自由を奪う刑です。罰金は、お金を納めさせる刑、科料は、それより少額のお金を納めさせる刑です。拘留は短い期間の拘禁、没収は物を取り上げる刑です。上限が条文に書いてあることに注目してください。これは、憲法の回の話とつながります。罪刑法定主義は、何が犯罪で、どんな刑かを、先に法で定めておく原則でした。条例で刑罰を定めてよいかについて、判例は、法律の授権、つまり法律が条例に任せることが要るが、相当な程度に具体的で限定されていれば足りる、としました。判例の立場に立てば、この14条3項が、まさにその授権にあたると読めます。刑の種類と上限を、法律が先に決めているからです。もう1つの罰が、過料です。過料は刑罰ではありません。行政上の秩序罰といって、行政の決まりを守らせるための、金銭の制裁です。刑罰と過料の違いは、誰が科すかです。刑罰は、裁判所が、刑事裁判の手続で科します。過料は、町長が科します。議会と長の回で見た149条の3号が、長の仕事として、過料を科すことを挙げています。過料の手続の中身は、後の回で見ます。

罰金も過料も、どちらも条例に置けます。軽い違反は過料にして、悪質なものは罰金にする、という使い分けができます。ただし、罰金を科すなら、町長ではなく、裁判所の手を通ります。町長が罰金を取るという発想は、条例にしても成り立たないことになります。次に、財産権です。たとえば、空き家の持ち主に、建物を修理する義務を課すのは、財産権の制限です。憲法29条2項は、財産権の内容は法律で定める、と書いています。けれど、条例でも制限できる、というのが通説でした。条例も、住民が選んだ議会がつくる民主的な立法で、土地ごとの事情にも機動的に応じられるからです。憲法の回で見たため池の堤とうでの耕作を禁じた条例の事件も、条例による規制が争われた例です。判決は、そもそも財産権の保障の範囲外の行為だ、という筋で決着させ、条例だから駄目だとは言いませんでした。

地方税の条例主義(地方税法3条1項=税目・課税客体・課税標準・税率その他賦課徴収は条例によらなければならない/国=法律/地方=条例/住民の請求の対象外〔住民の請求の回〕) 図:地方税の条例主義

  • 地方税法3条1項=税目・課税客体・課税標準・税率その他賦課徴収は条例によらなければならない
  • 国=法律
  • 地方=条例
  • 住民の請求の対象外〔住民の請求の回〕

条例で定めるものとして、課税もあります。

条文地方税法3条1項

地方税法第3条第1項 地方団体は、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定をするには、当該地方団体の条例によらなければならない。

骨格は、地方団体が地方税の税目、課税客体、課税標準、税率などを定めるには、条例によらなければならない、です。課税客体は、税をかける対象、課税標準は、税額を計算する元になる金額や数量、税率は、それにかける率です。空き家にもかかる固定資産税の税率も、町の税条例が定めています。国は、法律がなければ税をかけられません。租税法律主義で、憲法84条が定めています。この3条1項は、その地方版です。税は、住民の財産を直接取りますから、住民の代表の同意が要る、という趣旨でした。前の回の住民の請求で、地方税の賦課徴収に関する条例は、請求の対象外でした。負担を決める条例は、財政の根幹で、議会と長が責任を持つからです。ここで同じ線がつながっています。地方税法と条例がぶつかるときの話は、次の回で扱います。

条例ができるまで

条例ができるまで(A=議員/B=長/C=議会/D=住民/A→C=提案〔議員定数の12分の1以上の賛成〕/B→C=提案/(議会の委員会も所管事務について提案できる)/C→議決〔出席議員の過半数〕/C→B=議長が長に送付〔3日以内〕/B→公布〔送付から20日以内〕→施行〔公布の日から起算して10日を経過した日〕/例外=D→B 請求→C が決める・B 専決処分→C に事後の報告と承認) 図:条例ができるまで

  • A=議員
  • B=長
  • C=議会
  • D=住民
  • A→C=提案〔議員定数の12分の1以上の賛成〕
  • B→C=提案
  • (議会の委員会も所管事務について提案できる)
  • C→議決〔出席議員の過半数〕
  • C→B=議長が長に送付〔3日以内〕
  • B→公布〔送付から20日以内〕→施行〔公布の日から起算して10日を経過した日〕
  • 例外=D→B 請求→C が決める・B 専決処分→C に事後の報告と承認

条例は、どうやって生まれるのでしょうか。その前に、議会と長の回を思い出してください。条例を作ることを議決するのは、地方の誰の仕事でしたか?議会です。議会の議決事件の中に、条例の制定や改廃が入っていました。流れの骨格は、提案、議決、送付、公布、施行の順です。提案できるのは、まず長と議員です。長の仕事としては149条1号、議員の提案は112条が根拠で、議員定数の十二ぶんの一以上の賛成が要ります。このほか、議会の委員会も、その部門の事務について、議案を出せます。提案された案を、議会が議決します。議決は、特別の定めがなければ、出席議員の過半数で成立します。

条文地方自治法16条1項・2項・3項

地方自治法第16条第1項〜第3項 普通地方公共団体の議会の議長は、条例の制定又は改廃の議決があつたときは、その日から三日以内にこれを当該普通地方公共団体の長に送付しなければならない。 2 普通地方公共団体の長は、前項の規定により条例の送付を受けた場合は、その日から二十日以内にこれを公布しなければならない。ただし、再議その他の措置を講じた場合は、この限りでない。 3 条例は、条例に特別の定があるものを除く外、公布の日から起算して十日を経過した日から、これを施行する。

骨格は、議長が議決を長に送り、長が公布し、公布から一定の日数を経過した日に施行する、です。日数は板に書いてあります。覚えるのは、順番と、議会が決めて長が公布するという役割分担です。みなと町なら、議会が花火禁止の条例を可決すると、議長が町長に送り、町長が公布し、公布から10日を経てから施行されます。夏の浜辺に間に合わせたいなら、その日数を逆算して議会にかけることになります。公布は、決まった条例を住民に知らせる行為です。施行は、条例が実際に効力を持ち始めることです。公布と施行の間に日数を置くのは、住民が知る時間をつくるためです。条例に特別の定があれば、施行の日は別に決められます。

送付を受けたら、定めの日数以内に公布する義務があります。ただし書きに、再議その他の措置を講じた場合は別、とあります。長は、議会の議決に異議があるとき、再議に付して、もう一度考えてもらう道を持っていました。議会と長の回で見た道です。

通常の流れの2つの例外(①住民の制定改廃請求=請求しても決めるのは議会・条例を直接つくる権利ではない/②長の専決処分=議会が成立しない・特に緊急で招集する時間がない等のとき長が処分→次の会議で議会に報告して承認を求める・承認されなくても処分の効力はそれだけでは失われない/補助機関の専決とは別物) 図:通常の流れの2つの例外

  • ①住民の制定改廃請求=請求しても決めるのは議会・条例を直接つくる権利ではない
  • ②長の専決処分=議会が成立しない・特に緊急で招集する時間がない等のとき長が処分→次の会議で議会に報告して承認を求める・承認されなくても処分の効力はそれだけでは失われない/補助機関の専決とは別物

この通常の流れには、2つの例外があります。1つ目は、住民の請求です。前の回で見た、条例の制定改廃の請求です。ここで押さえるのは、請求があっても、決めるのは議会だということです。請求は、議題にのせる権利で、条例にする権利ではありません。請求のあとの審議や公布も、いま見た通常の流れをたどります。2つ目が、長の専決処分です。議会と長の回で名前だけ出た、議会が決めるはずのことを長が代わりに決める仕組みです。

条文地方自治法179条1項

地方自治法第179条第1項 普通地方公共団体の議会が成立しないとき、第百十三条ただし書の場合においてなお会議を開くことができないとき、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる。ただし、第百六十二条の規定による副知事又は副市町村長の選任の同意及び第二百五十二条の二十の二第四項の規定による第二百五十二条の十九第一項に規定する指定都市の総合区長の選任の同意については、この限りでない。

骨格は、議会が成立しないとき、特に緊急で議会を招集する時間がないことが明らかなとき、議会が議決すべき事件を議決しないときなどは、長がその事件を処分できる、です。1項には、副知事や副市長の選任の同意などは除く、というただし書きが付いています。処分したあとの手続は、3項と4項にあります。

条文地方自治法179条3項・4項

地方自治法第179条第3項・第4項 3 前二項の規定による処置については、普通地方公共団体の長は、次の会議においてこれを議会に報告し、その承認を求めなければならない。 4 前項の場合において、条例の制定若しくは改廃又は予算に関する処置について承認を求める議案が否決されたときは、普通地方公共団体の長は、速やかに、当該処置に関して必要と認める措置を講ずるとともに、その旨を議会に報告しなければならない。

3項の骨格は、処分したら、次の会議で議会に報告して、承認を求める、です。4項は、承認されなかったときの定めで、このあと見ます。場面で考えます。台風が町を直撃して、議会が開けない中で、被災した人の手数料を免除する条例の改正を急ぎたい。議会の議決を待てないので、長が改正を決めます。これが、条例の専決処分です。無効にはなりません。承認が得られなくても、処分の効力は、それだけでは失われないと解されています。条文は、承認が得られなければ無効になる、とは定めていません。すでに手数料の免除を受けた人の扱いを、後からひっくり返すと混乱します。あとに残るのは、長の政治的な責任です。承認は、議会が長の判断をあとから点検する手続です。4項は、条例の制定改廃や予算の処置が承認されなかったとき、長は、必要と認める措置を講じて、議会に報告する、と定めます。たとえば、条例案を改めて議会に出し直す、といった措置が考えられます。名前の注意です。ここでの専決処分は、補助機関が長に代わって決裁する専決とは、名前が似ているだけの別物です。議会が決めるはずのことを、長が決める話です。

規則

条例・長の規則・委員会の規則の違い(条例=議会が作る・義務を課せる・刑罰も過料も可/長の規則=長が作る・長の権限に属する事務・条例の委任がなくても可・過料まで〔5万円以下〕/委員会の規則=委員会が作る・その権限に属する事務・法律の定めるところにより) 図:条例・長の規則・委員会の規則の違い

  • 条例=議会が作る・義務を課せる・刑罰も過料も可
  • 長の規則=長が作る・長の権限に属する事務・条例の委任がなくても可・過料まで〔5万円以下〕
  • 委員会の規則=委員会が作る・その権限に属する事務・法律の定めるところにより

町長の発言に出てきた規則を、見ます。

条文地方自治法15条1項・2項

地方自治法第15条第1項・第2項 普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。 2 普通地方公共団体の長は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、普通地方公共団体の規則中に、規則に違反した者に対し、五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

骨格は、長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定できる。規則には、5万円以下の過料を置ける、です。長の規則は、条例の委任がなくても、長の権限に属する事務について作れます。議会と長の回で見た二元代表制のとおり、長も住民が直接選ぶからです。町の公園の管理の細かい手順や、役場の事務の取扱いは、規則で足ります。制裁は、過料までです。刑罰は、規則には置けません。ここに、町長の発言が通らない、もう一方の理由があります。罰金は刑罰ですから、条例でなければ置けません。刑罰は、人の自由や財産を奪う、いちばん重い制裁です。何が犯罪かを町長一人で決められるとすると、議会の審議を通らないまま犯罪が生まれてしまいます。だから法律は、刑罰を置ける場所を、議会が議決する条例に限っています。

条文地方自治法138条の4第2項

地方自治法第138条の4第2項 普通地方公共団体の委員会は、法律の定めるところにより、法令又は普通地方公共団体の条例若しくは規則に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則その他の規程を定めることができる。

長の規則のほかに、委員会の規則もあります。骨格は、委員会は、法律の定めるところにより、法令や条例や規則に違反しない限りで、その権限に属する事務に関し、規則などを定められる、です。教育委員会の規則が、身近な例です。委員会は、長から独立した機関ですから、自分の権限の範囲で規則を持ちます。似ていますが、同じとは言い切れません。国の命令は、法律の委任がなければ、国民に義務を課せません。規則は、さっき見たとおり、長の権限の範囲なら委任なしで作れます。ただし、同じ事項を条例と規則が違う内容で定めたときは、条例が優先すると解されています。議会が条例で決める仕組みを、地方自治法が重んじているからです。条例が優先すると定めた条文はありません。義務を課す領域は、条例のものです。14条2項があるので、規則は、法令や条例が任せた場合を除いて、住民に義務を課せません。ここで、立ち止まって考えてください。町長は、花火を禁止して、守らない人から罰金を取ると言いました。町長の規則では通らない理由が、2つあります。何と何でしょうか。

1つ目は、人に義務を課すのは条例だからです。2つ目は、罰金は刑罰で、規則には過料までしか置けないからです。花火の禁止は条例で定める。その条例に罰を置くとき、刑罰なら裁判所を通り、過料なら町長が科す。これが、町長の発言を、通る形に直した姿です。

自主条例と委任条例

自主条例と委任条例の区別(自主条例=法律の委任なしに自治体の事務について作る・例=花火の禁止/委任条例=法律が「条例で定める」と任せた事項を定める・例=国民健康保険の保険料/委任条例は法律の下位法令の顔を持つ→委任の範囲を超えれば無効/割り切れない場合=墓地の経営の許可の要件など) 図:自主条例と委任条例の区別

  • 自主条例=法律の委任なしに自治体の事務について作る・例=花火の禁止
  • 委任条例=法律が「条例で定める」と任せた事項を定める・例=国民健康保険の保険料
  • 委任条例は法律の下位法令の顔を持つ→委任の範囲を超えれば無効
  • 割り切れない場合=墓地の経営の許可の要件など

最後に、条例の分け方を1つ見ます。自主条例と委任条例です。自主条例は、法律の委任なしに、地方公共団体が自分の事務について作る条例です。みなと町の花火の禁止条例が、その例です。委任条例は、法律が、この事項は条例で定める、と任せた事項を定める条例です。たとえば、国民健康保険法が、保険料の額などを条例で定めるとしています。委任条例は、法律の下位法令としての顔を持ちます。任せてくれた法律の範囲の中で作る条例だからです。範囲を超えれば、無効になります。自主条例で問題になるのは、法令にぶつかるかどうかです。委任条例で問題になるのは、委任の範囲に収まるかどうかです。超えたかの判断の仕方は、後の回で見ます。ただし、この二分法で割り切れない場合もあります。たとえば、墓地の経営の許可のように、法律は許可という枠しか定めていないのに、具体的な許可の要件を条例や規則で補うことが前提になっていると読める場合です。墓地の法律は、経営には許可が要る、とだけ定めて、どんな墓地なら許可するかは書いていません。そこで、住宅からの距離などの要件を、条例で決めている自治体があります。法的な性格には議論があるので、割り切れない場合がある、と知っておけば十分です。

旭川市の国民健康保険条例(A=条例〔保険料の総額の算定基準を定める〕/B=市長〔保険料率を決めて告示する〕/C=被保険者〔保険料を払う〕/A→B=率の決定と告示を任せる/B→C=保険料率を告示/問い=条例が率の数字を自分で書かなかったことは許されるか) 図:旭川市の国民健康保険条例

  • A=条例〔保険料の総額の算定基準を定める〕
  • B=市長〔保険料率を決めて告示する〕
  • C=被保険者〔保険料を払う〕
  • A→B=率の決定と告示を任せる
  • B→C=保険料率を告示
  • 問い=条例が率の数字を自分で書かなかったことは許されるか

委任条例の代表例を、判例で見ます。国民健康保険の保険料を、条例がどこまで決めておくべきか、が争われた事件です。国民健康保険は、市町村が運営する医療保険です。保険料は強制的に集められますが、租税そのものではありません。前の租税の回では、この判決の、憲法84条は、法律の根拠が要るという原則を税について厳しく明文化したものだ、という一節を見ました。今日は、その続きの部分です。事案を、わかりやすく置き換えます。旭川市の条例は、保険料の総額、つまり賦課総額の算定基準を、定めていました。見込みの費用から見込みの収入を引く、といった形です。けれど、保険料率、つまり実際の率の数字は、条例に書きませんでした。率を決めて告示することは、市長に任せたのです。条例が率の数字を自分で書かなかったことが、国民健康保険法や84条の趣旨に反しないか、が問題にされました。判決の文中の、法は国民健康保険法のこと、本件条例は旭川市の条例のこと、被上告人市長は旭川市長のことです。予定収納率は、保険料のうち実際に納められると見込む割合、告示は、役所が決めたことを公に知らせる形式です。判決の答えは、2段に分かれます。1段目で、条例がどこまで明確に決めておくべきかの物差しを立てます。2段目で、旭川市の条例をその物差しに当てます。

判例最大判平18・3・1 民集60巻2号587頁

84条は直接は適用されないが趣旨が及ぶ──では、どこまで明確に定めるか 市町村が行う国民健康保険は,保険料を徴収する方式のものであっても,強制加入とされ,保険料が強制徴収され,賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから,これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが,他方において,保険料の使途は,国民健康保険事業に要する費用に限定されているのであって,法81条の委任に基づき条例において賦課要件がどの程度明確に定められるべきかは,賦課徴収の強制の度合いのほか,社会保険としての国民健康保険の目的,特質等をも総合考慮して判断する必要がある。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例で立てる):委任条例で賦課要件をどの程度明確に定めるべきかは、賦課徴収の強制の度合いのほか、制度の目的・特質等を総合考慮して判断する (短答・論文共通)

読み方です。保険料は、強制加入で強制徴収ですから、租税に似ています。だから84条の趣旨が及びます。ただし、保険料の使い道は、国民健康保険の事業の費用に限られています。そこで、どこまで明確に書くべきかは、強制の度合いだけでなく、制度の目的や特質も合わせて、総合的に判断する。これが、判決の立てた枠です。厳しく見る材料と、緩く見る材料が、両方あります。租税に似ていることは厳しく、使い道が限られていることは緩く働きます。

判例最大判平18・3・1 民集60巻2号587頁

算定基準は条例、細目は市長の合理的な選択 このように,本件条例は,保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を明確に規定した上で,その算定に必要な上記の費用及び収入の各見込額並びに予定収納率の推計に関する専門的及び技術的な細目にかかわる事項を,被上告人市長の合理的な選択にゆだねたものであり,また,上記見込額等の推計については,国民健康保険事業特別会計の予算及び決算の審議を通じて議会による民主的統制が及ぶものということができる。そうすると,本件条例が,8条において保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を定めた上で,12条3項において,被上告人市長に対し,同基準に基づいて保険料率を決定し,決定した保険料率を告示の方式により公示することを委任したことをもって,法81条に違反するということはできず,また,これが憲法84条の趣旨に反するということもできない。

結論は、反しない、です。決め手は3つあります。1つ目。条例が、賦課総額の算定基準を、明確に定めていたこと。2つ目。市長に任せたのは、見込額の推計という、専門的で技術的な細目だけだったこと。3つ目。その推計は、予算と決算の審議を通じて、議会の民主的統制が及ぶこと。判決は、数字そのものは市長が決めても、その元になる見込額は、予算と決算の審議にかかる、と見ました。つまり、議会は、率の数字ではなく、その土台を毎年点検できます。ここから持ち帰る形は、条例が基準を定め、技術的な細目だけを長に任せるのは許される、です。逆に、基準まで丸ごと長に任せる形なら、この理由は使えず、さっきの総合考慮の物差しで、明確さが足りるかを一から量ることになります。ここも、論文でも論点になりえます。

問いの答えとまとめ

今日の答え(①決められる範囲=自治事務も法定受託事務も・国の事務そのものは不可・区域内なら誰にでも・法令に違反しない限り/②義務を課す・権利を制限する→条例〔14条2項〕・刑罰は条例・規則は過料まで/③議会が議決→長が公布→施行・例外は住民の請求と専決処分/④条例の種類=自主条例と委任条例〔委任の範囲が問題〕) 図:今日の答え

  • ①決められる範囲=自治事務も法定受託事務も・国の事務そのものは不可・区域内なら誰にでも・法令に違反しない限り
  • ②義務を課す・権利を制限する→条例〔14条2項〕・刑罰は条例・規則は過料まで
  • ③議会が議決→長が公布→施行・例外は住民の請求と専決処分
  • ④条例の種類=自主条例と委任条例〔委任の範囲が問題〕

冒頭の問いに戻ります。町長の、規則で修理を命じ、花火を禁止し、罰金を取る、という計画は、なぜ通らないのか。どう作ればよいのか。1つ目の問いの答えです。条例が決められるのは、自治事務と法定受託事務のどちらも含む、町の事務です。国の事務そのものは決められません。効力は、区域の中で、住民かどうかを問わず及びます。そして、法令に違反しない限りです。2つ目の問いの答えです。住民に義務を課して権利を制限するのは、条例です。法律の留保の地方版でした。罰は、条例なら刑罰も過料も置けて、刑罰は裁判所が、過料は町長が科します。規則は、過料までです。花火の禁止も、空き家の持ち主への命令も、町長の規則ではなく、条例で定める。これが、通る形です。3つ目の問いの答えです。条例は、長や議員などが提案して、議会が議決して、議長が長に送り、長が公布して、施行されます。例外が2つあって、住民の請求があっても決めるのは議会で、専決処分は、承認を得られなくても、効力は当然には失われないと解されています。最後に、自主条例は、法令にぶつからないかが問題になり、委任条例は、委任の範囲に収まるかが問題になる。旭川市の事件は、基準を条例が定め、細目だけを長に任せる形を認めました。

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#32単独ページ動画

法律と条例がぶつかるとき

第2章 行政組織法 ㉜/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

空き家条例は国の法律に負けるか

みなと町の問い(A=町の空き家条例/B=国の空き家の法律/C=空き家の持ち主/A→C=町は修理を命じる/B→C=国の法律も措置を定める/問い=町のほうが厳しい部分があるとき、どちらが勝つ?) 図:みなと町の問い

  • A=町の空き家条例
  • B=国の空き家の法律
  • C=空き家の持ち主
  • A→C=町は修理を命じる
  • B→C=国の法律も措置を定める
  • 問い=町のほうが厳しい部分があるとき、どちらが勝つ?

条例の続きです。まず、前の回の確認から入ります。条例が守らなければならない枠の1つは、何でしたか?法令に違反しない限り、という枠です。今日は、その枠の中身を掘り下げます。板は、前の回と同じ、海沿いのみなと町です。みなと町は、屋根が落ちかけた空き家の持ち主に、修理を命じる条例を作りました。ところが、空き家については、国にも法律があります。そして、町の条例のほうが、国の法律より厳しいところがあるとします。国の法令と町の条例が食い違うとき、どちらが優先するのか。それが今日の問いです。町の条例は、国の法律に負けて、無効になるのでしょうか。

今日の問い(①条例が国の法令に違反するとは、何と何を比べて決めるのか/②同じ物差しで、条例が勝つ場合と負ける場合はどう分かれるのか) 図:今日の問い

  • ①条例が国の法令に違反するとは、何と何を比べて決めるのか
  • ②同じ物差しで、条例が勝つ場合と負ける場合はどう分かれるのか

問いは2つです。1つ目。条例が国の法令に違反するとは、何と何を比べて決めるのか。そして2つ目。同じ物差しで、条例が残る場合と負ける場合は、どう分かれるのか。持ち帰ってほしいのは、条文の番号ではなく、物差しの使い方です。

ぶつかるとは何か

法律と命令・法律と条例の関係(命令=法律の委任の範囲内で作る→上下/条例=委任なしに作れる自主法→役割分担/それでも条例は法令に違反しない限り〔憲法94条・自治法14条1項〕=役割分担がぶつかったときの調整の原理) 図:法律と命令・法律と条例の関係

  • 命令=法律の委任の範囲内で作る→上下
  • 条例=委任なしに作れる自主法→役割分担
  • それでも条例は法令に違反しない限り〔憲法94条・自治法14条1項〕=役割分担がぶつかったときの調整の原理

まず、そもそも何がぶつかるのかです。国の命令、たとえば政令は、法律の委任がなければ、国民に義務を課せません。法律の下にいて、委任の範囲の中で作るものです。ここは、法律と命令の上下の関係でした。条例は違います。前の回で見たとおり、条例は委任なしに作れる自主法です。憲法94条が、法律の例外として、地方に自分で決める力を認めているからです。ですから、条例は、命令のように、法律の委任を受けて、その範囲の中で作る、という意味での上下の関係にはありません。作るのに、法律の許しは要らないのです。ただし、作った条例の中身が法律とぶつかったときは、法律が勝ちます。憲法の回で、条例は法律の下に位置づけられる、と言ったのは、この、ぶつかったときの順位のことでした。

委任が要らなくても法律が勝つのは、憲法自身が、そう順位を決めているからです。94条は、条例を、法律の範囲内で作れる、と定めました。国全体の法の秩序を、1つに保つためです。前の回で見た、法律の優位の地方版が、14条1項の、法令に違反しない限り、です。ですから、法令が勝つのは、命令のように、法律から作る力をもらっているからではありません。憲法が決めた役割分担の中での、ぶつかったときの順位だからです。そして、国の法令と地方の条例は、同じ場面に同時に出てくることがあります。どこからが、ぶつかったことになるのか。それを決めるのが、この94条と14条1項です。問題は、何が違反なのかです。ここで、かつての考え方を1つ見ます。法令先占論です。法令先占論は、国の法令がすでに規制している事項には、条例を作れない、という考え方です。国が先に占めた領域だから、地方は入れない、とみるわけです。

法令先占論とその難点(考え方=国の法令が規制している事項には条例を作れない/難点=法令は自治事務にも幅広く及ぶ→条例の余地がほとんど残らない/例=国の基準が全国の平均に合わせた緩い線→海沿いのみなと町の事情に合わせた規制を足せない) 図:法令先占論とその難点

  • 考え方=国の法令が規制している事項には条例を作れない
  • 難点=法令は自治事務にも幅広く及ぶ→条例の余地がほとんど残らない
  • 例=国の基準が全国の平均に合わせた緩い線→海沿いのみなと町の事情に合わせた規制を足せない

困る場面を、みなと町で考えます。国の法律が、全国の平均に合わせて、緩めの基準を定めているとします。海沿いのみなと町は、浜辺の事情から、もっと厳しい基準が欲しい。ところが先占論だと、国が基準を定めた分野には、町は一切、手を出せません。今は、法令が自治事務にまで幅広く及んでいます。先占論をとると、地域の実情に応じた条例を作れる領域が、ほとんど残りません。そこで最高裁は、先占論をとりませんでした。文言が重なっているかではなく、国の法令の趣旨を見て決める。この考え方に進みました。次の節で、その物差しを手元に出します。

物差しと3つの型

判断フロー(憲法の回の想起:国の法令に明文の規定がある?→〔無い〕放置する趣旨か→違反/→〔ある〕目的は同じか→〔別目的〕目的・効果を阻害しなければ違反しない/→〔同じ目的〕全国一律の趣旨でなく、各地の事情に合わせて国と別の規制を置くことを認める趣旨なら違反しない/最大判昭50・9・10) 図:判断フロー

  • 憲法の回の想起:国の法令に明文の規定がある?→〔無い〕放置する趣旨か→違反
  • →〔ある〕目的は同じか→〔別目的〕目的・効果を阻害しなければ違反しない
  • →〔同じ目的〕全国一律の趣旨でなく、各地の事情に合わせて国と別の規制を置くことを認める趣旨なら違反しない
  • 最大判昭50・9・10

物差しは、憲法の回で、もう手に入れています。徳島市公安条例事件の一般論です。板に、その流れを1枚にしました。ここで、憲法の回を思い出してください。条例が国の法令に違反するかは、何と何を比べて決めるのでしたか?対象事項と文言を見比べるだけではなく、趣旨、目的、内容、効果を比べて、矛盾抵触があるかで決める、でした。矛盾抵触とは、2つの決まりが、両方は生かせない形でぶつかることです。板の流れの順に、確かめます。国の法令に明文の規定がありますか。ないなら、国が放置する趣旨でしょうか。放置する趣旨とは、国があえて何も規制しないと決めた、という意味です。あるなら、目的は同じでしょうか。別の目的なら、国の法令の目的や効果を妨げないかを見ます。同じ目的なら、国の法令が全国一律の趣旨か、各地の事情に合わせて、国と別の規制を置くことを認める趣旨かを見ます。ちなみに、憲法の回では、同じ事件を、条例の文言が明確かという面から見ました。今日は、国の法令との関係の面から見ます。この流れを、整理して使うために、3つの型に分けます。ただし、これは学説の整理で、判決自身の分類ではありません。

3つの型と確かめる点(別目的の条例=条例の適用が国の法令の目的と効果を阻害しないか/横出し条例=国の法令が対象外の事項への規制の横出しを許容する趣旨か/上乗せ条例=国の法令が地方による上乗せを容認する趣旨か〔全国一律の趣旨でないか〕/例:大気汚染防止法4条1項=都道府県が、国の基準では足りない区域について、条例でより厳しい排出基準を定められる) 図:3つの型と確かめる点

  • 別目的の条例=条例の適用が国の法令の目的と効果を阻害しないか
  • 横出し条例=国の法令が対象外の事項への規制の横出しを許容する趣旨か
  • 上乗せ条例=国の法令が地方による上乗せを容認する趣旨か〔全国一律の趣旨でないか〕
  • 例:大気汚染防止法4条1項=都道府県が、国の基準では足りない区域について、条例でより厳しい排出基準を定められる

別目的の条例、横出し条例、上乗せ条例です。上乗せと横出しは、憲法の回で見た言葉です。みなと町で言えば、国の法律と同じ空き家を、より厳しく扱うのが上乗せ条例。国の法律が対象にしていない空き家にまで広げるのが横出し条例。浜辺の花火のように、国の法律とは違う目的で規制するのが別目的の条例です。行政法で大事なのは、型ごとに確かめる点が違うことです。別目的の条例では、条例の適用が、国の法令の目的と効果を阻害しないかを見ます。横出し条例では、国の法令が、対象外の事項に規制を広げる横出しを許す趣旨かを見ます。上乗せ条例では、国の法令が、地方による上乗せを認める趣旨か、つまり全国一律の趣旨ではないかを見ます。

一番わかりやすいのは、法律が自分で書いている場合です。行政法の最初のほうで、建物の柱を例に、法令の段を降りたとき、地方が条例で上乗せして定める場合もある、と触れました。その代表例です。

条文建築基準法40条

建築基準法第40条 地方公共団体は、その地方の気候若しくは風土の特殊性又は特殊建築物の用途若しくは規模に因り、この章の規定又はこれに基く命令の規定のみによつては建築物の安全、防火又は衛生の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、建築物の敷地、構造又は建築設備に関して安全上、防火上又は衛生上必要な制限を附加することができる。

骨格は、法律の規定だけでは安全などの目的を十分に達し難いと認める場合は、地方公共団体が条例で必要な制限を付け加えられる、です。法律が、上乗せしてよいと明文で言っています。この場合、上乗せは、国の法令の趣旨に沿うので、違反しません。板の下の1行にも、同じ型の例を置きました。大気汚染防止法では、都道府県が、国の排出基準では足りない区域について、条例でより厳しい基準を定められます。40条と同じく、法律自身が、条例で厳しくしてよい、と書いている例です。難しいのは、明文が無いときです。そのとき、趣旨を、法律全体の仕組みから読み取ります。これからの3つの事件は、その練習です。

徳島市公安条例と道路交通法

事案の図(A=徳島市の条例〔地方公共の安寧と秩序の維持〕/B=道路交通法〔道路交通秩序の維持〕/C=道路での集団行進/D=公安委員会/A→C=届出制・守るべき事項・違反に罰則/B→C=許可制〔公安委員会が定めた行為だけ〕/B→D=どの行為を許可制にするかを任せる/問い=同じ場面を2つの法が規制する) 図:事案の図

  • A=徳島市の条例〔地方公共の安寧と秩序の維持〕
  • B=道路交通法〔道路交通秩序の維持〕
  • C=道路での集団行進
  • D=公安委員会
  • A→C=届出制・守るべき事項・違反に罰則
  • B→C=許可制〔公安委員会が定めた行為だけ〕
  • B→D=どの行為を許可制にするかを任せる
  • 問い=同じ場面を2つの法が規制する

当てはめの1つ目は、徳島市公安条例事件です。物差しを作った事件そのものを、国の法律との関係で見ます。事案です。徳島市の条例は、道路での集団行進を届出制にして、守るべき事項を定め、違反に罰則を置いていました。一方、同じ道路での行為には、道路交通法の、道路使用の許可の制度もあります。同じ場面を、2つの法がともに規制している。条例は、道路交通法に違反しないか、が問題になりました。判決は、2段で比べます。1つ目は目的、2つ目は国の法律の趣旨です。まず、目的です。

判例最大判昭50・9・10 刑集29巻8号489頁

目的を比べる このように、道路交通法は道路交通秩序の維持を目的とするのに対し、本条例は道路交通秩序の維持にとどまらず、地方公共の安寧と秩序の維持という、より広はん、かつ、総合的な目的を有するのであるから、両者はその規制の目的を全く同じくするものとはいえないのである。

読み方です。道路交通法は、道路の交通秩序を守る法律です。条例は、それにとどまらず、地方の安寧と秩序を守るという、より広い目的を持ちます。目的が全く同じとは言えません。ですから、型でいえば、別目的の条例に近づきます。交通秩序の面で重なる部分は、確かにあります。判決も、重なる部分があることは認めます。ただ、重なるから直ちに違反、とはしません。物差しに戻って、国の法令の趣旨を読みます。次の2つ目は、道路交通法の趣旨を読む部分です。

条文道路交通法77条1項

道路交通法第77条第1項 次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(……)を受けなければならない。 一 …… 二 …… 三 …… 四 前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者

条文道路交通法77条3項

道路交通法第77条第3項 3 第一項の規定による許可をする場合において、必要があると認めるときは、所轄警察署長は、当該許可に係る行為が前項第一号に該当する場合を除き、当該許可に道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な条件を付することができる。

骨格は、祭礼行事のように一般交通に著しい影響を及ぼす通行の形態などで、公安委員会が、その土地の道路や交通の状況によって定めたものは、警察署長の許可を受ける、です。注目するのは、公安委員会が、その土地の状況によって定める、という部分です。

道路交通法の作りと条例の比較(道路交通法=目的は道路交通秩序の維持/どの行為を許可制にするかは各公安委員会が地域の状況に応じて決める→全国一律を避けている/徳島市条例=目的は交通秩序にとどまらない地方公共の安寧と秩序/集団行進を届出制にして守るべき事項を定める/罰則は道路交通法より重い) 図:道路交通法の作りと条例の比較

  • 道路交通法=目的は道路交通秩序の維持
  • どの行為を許可制にするかは各公安委員会が地域の状況に応じて決める→全国一律を避けている
  • 徳島市条例=目的は交通秩序にとどまらない地方公共の安寧と秩序
  • 集団行進を届出制にして守るべき事項を定める
  • 罰則は道路交通法より重い

判例最大判昭50・9・10 刑集29巻8号489頁

国の法令の趣旨を読む 道路交通法七七条一項四号は、同号に定める通行の形態又は方法による道路の特別使用行為等を警察署長の許可によつて個別的に解除されるべき一般的禁止事項とするかどうかにつき、各公安委員会が当該普通地方公共団体における道路又は交通の状況に応じてその裁量により決定するところにゆだね、これを全国的に一律に定めることを避けているのであつて、このような態度から推すときは、右規定は、その対象となる道路の特別使用行為等につき、各普通地方公共団体が、条例により地方公共の安寧と秩序の維持のための規制を施すにあたり、その一環として、これらの行為に対し、道路交通法による規制とは別個に、交通秩序の維持の見地から一定の規制を施すこと自体を排斥する趣旨まで含むものとは考えられず、……

読み方です。道路交通法は、どの行為を許可制にするかを、全国で一律に決めていません。各地の公安委員会が、その地域の道路や交通の状況に応じて決めるように任せています。国の法律自身が、地域の実情に応じて決める作りになっているのです。この態度から、判決は、条例が別個に交通秩序の面の規制をすることを、排斥する趣旨までは含まない、と読みました。続きで、判決はこう結論します。両者の内容に矛盾抵触がなく、条例の重複規制に、それ自体としての特別の意義と効果があり、合理性が認められるなら、道路交通法の規制は、条例の規制が及ばない範囲で適用される。だから、条例を道路交通法に違反するものとはできない、です。言い換えると、条例の規制にも、それ自体の意味と効き目があって、筋が通っているなら、2つは重なっても並んで立てます。道路交通法は、条例の規制がかからない残りの部分を受け持つ、という整理です。

問題になりました。条例は、道路交通法より重い刑を定めています。けれど判決は、違反とはしませんでした。道路交通法の罰則は、許可制の実効性を担保するために、一般的な違反の可能性や危険を考えて定められたものです。条例の罰則は、集団行進の特殊性から、地方の安寧と秩序が侵される可能性を、全体として考えて定めたものです。目的が違うので、重くても合理性があります。そして、道路交通法が条例による別個の規制を認める以上、合理的な罰則を定めることまで否定する趣旨ではない、と見ました。結論は、条例は道路交通法に違反せず、有効、です。立ち止まって考えてください。条例のほうが重い罰を定めていても、違反にならないとされました。国の法律が、条例による別個の規制について、どういう態度だったからでしょうか?

許可制にするかどうかを、公安委員会に、つまり地域の状況に任せていて、全国一律に定めることを避けていたからです。持ち帰る形は3つです。1つ目。目的が全く同じでなくても、重なる部分があるなら、そこは、国の法令が全国一律の趣旨かを確かめる。2つ目。国の法令自身が、地方の実情に応じて決める作りになっていることが、条例を許す趣旨を読み取る手がかりになる。3つ目。併存しても、矛盾抵触がなければ、条例は有効です。ここは、論文でも論点になりえます。逆に、国の法律が、全国一律にこれで終わり、という作りなら、同じように重なる条例でも、残れません。その向きに出たのが、次の普通河川です。

普通河川と河川法

河川の3区分(①適用河川=河川法の適用を受ける一級・二級河川/②準用河川=河川法を準用する・市町村長が指定/③普通河川=どちらでもない/③でも必要が生じればいつでも指定して適用・準用の対象にできる) 図:河川の3区分

  • ①適用河川=河川法の適用を受ける一級・二級河川
  • ②準用河川=河川法を準用する・市町村長が指定
  • ③普通河川=どちらでもない
  • ③でも必要が生じればいつでも指定して適用・準用の対象にできる

当てはめの2つ目は、普通河川の事件です。今度は、普通河川を条例でどこまで管理してよいか、国の法律に、はっきりした明文が無い場面です。河川には、3つの区分があります。河川法がそのまま適用される、一級河川と二級河川。河川法を準用する、準用河川。そして、どちらでもない、普通河川です。準用河川は、市町村長が指定したものです。準用とは、そのまま当てはめるのではなく、必要な読み替えをして当てはめることです。

条文河川法100条1項前段

河川法第100条第1項前段 一級河川及び二級河川以外の河川で市町村長が指定したもの(以下「準用河川」という。)については、この法律中二級河川に関する規定(政令で定める規定を除く。)を準用する。

骨格は、一級河川と二級河川以外で、市町村長が指定したものを準用河川とし、二級河川の規定を準用する、です。大事なのは、普通河川でも、河川法と同じ程度の管理が必要になれば、いつでも指定して、適用か準用の対象にできる、という点です。事案です。高知市は、河川法の適用も準用も受けない普通河川の管理について、条例を作りました。この条例は、護岸などの施設を、誰が設けたか、管理者の同意があるかを問わず、管理の対象に含めるようにも読めました。市は、河川法に定めの無い普通河川を、市の条例で、河川法より強く管理できるのか、が問題になりました。

普通河川と市条例(A=市の条例/B=河川法/C=普通河川/B→C=適用も準用もしない〔必要なら指定の途がある〕/A→C=管理の定めを置く/×=適用河川等に対する管理以上に強力な管理は定められない) 図:普通河川と市条例

  • A=市の条例
  • B=河川法
  • C=普通河川
  • B→C=適用も準用もしない〔必要なら指定の途がある〕
  • A→C=管理の定めを置く
  • ×=適用河川等に対する管理以上に強力な管理は定められない

判例最判昭53・12・21 民集32巻9号1723頁

普通河川 このように、河川の管理について一般的な定めをした法律として河川法が存在すること、しかも、同法の適用も準用もない普通河川であつても、同法の定めるところと同程度の河川管理を行う必要が生じたときは、いつでも適用河川又は準用河川として指定することにより同法の適用又は準用の対象とする途が開かれていることにかんがみると、河川法は、普通河川については、適用河川又は準用河川に対する管理以上に強力な河川管理は施さない趣旨であると解されるから、普通地方公共団体が条例をもつて普通河川の管理に関する定めをするについても(……)、河川法が適用河川等について定めるところ以上に強力な河川管理の定めをすることは、同法に違反し、許されないものといわなければならない。

定めが無いから自由、という筋は通りそうです。けれど判決は、そう読みませんでした。判決の答えは2段です。1段目は河川法の趣旨、2段目は、それでも条例を生かす読み方です。河川法という一般的な定めがあり、必要なら普通河川も適用や準用の対象にする道が開かれている。そうであるのに、普通河川には、適用河川や準用河川以上に強力な管理は施さない趣旨だと読んだのです。明文が無くても、法全体の仕組みから、それ以上はしない趣旨を読む。これが、趣旨を読むということです。条例で普通河川の管理を定めること自体はできますが、河川法が適用河川等について定める以上に強力な管理は、定められません。区別を、境界で確かめます。国の法令に規定が無いだけで、まだ手が回っていない場合は、地方が先に条例で手を打てます。今回は違います。河川法は、強い管理が必要なら、指定という別の道を用意しています。だから、規定が無いのは、手が回っていないからではありません。それ以上はしない、と決めた趣旨なのです。板の流れでいえば、明文が無いときに、規定が無いこと自体に国の意図を読む枝です。ただ、何も規制しない、ではなく、ここまでなら、という意図を読んだので、条例で管理すること自体はできます。

普通河川の条例は、残りました。ここは間違えやすい点です。判決は、条例を無効とはしませんでした。条例の規定は、可能な限り法律と調和するように、合理的に解釈すべきだとしました。そして、条例が護岸などの施設を対象にするのは、河川管理者が設けたものか、設けた人などの同意を得たものに限る、と読みました。そう読んでいなかった原審を破棄して、差し戻したのです。理由は、同意を得ずに、設けた人の施設を河川管理に服させる定めは、河川法が、管理する権原、つまり、その施設についての法律上の権利、のある人の同意を要するとしている趣旨、つまり財産権への配慮に反するからです。持ち帰る形は2つです。1つ目。明文が無い場面でも、法全体から、それ以上はしない趣旨を読む。分類名に無理に当てはめず、条例が上乗せすることを許さない趣旨、と言えれば十分です。2つ目。ただし、法律と調和するように読めるなら、条例を生かす道も探る。普通河川の管理そのものは、後の回で見ます。

法定外税の条例と地方税法

前の回の想起(地方税法3条1項=税目・課税客体・課税標準・税率は条例による/国=法律〔憲法84条〕/地方=条例) 図:前の回の想起

  • 地方税法3条1項=税目・課税客体・課税標準・税率は条例による
  • 国=法律〔憲法84条〕
  • 地方=条例

当てはめの3つ目は、課税です。前の回で、課税も条例で定める、と見ました。ここで、前の回を思い出してください。地方の税目や税率を決めるのは、何によるのでしたか?条例です。地方税法が、条例によらなければならない、と定めていました。では、条例で何でも課税できるのでしょうか。事案です。神奈川県は、財政が苦しい中で、県の条例で臨時特例企業税という税を作りました。この税は、法定外普通税です。法定外普通税とは、地方税法に決まった税目のほかに、自治体が自分で起こす、使い道を決めない税、つまり普通税のことです。資本金が大きい法人に課しました。一方、法人事業税は、都道府県が、会社の事業に課す、地方税法に決まった税です。県の新しい税は、課税標準、つまり前の回で見た、税額を計算する元になる金額を、法人事業税の所得の計算で、赤字を繰り越して引いた額に連動させました。赤字の繰越控除を、実質的に一部、なかったことにする税です。ある会社が、地方税法に違反して無効だ、と争いました。繰越控除は、前の年度の赤字を、後の年度の黒字から差し引ける仕組みです。数字で見ます。赤字を全額差し引ける会社で、去年は300万円の赤字、今年は500万円の黒字なら、今年の所得は、差し引いた額の200万円で計算されます。県の税は、この、差し引いた300万円の部分に、別に税をかけるような作りでした。この仕組みがどこから来るのか、条文の連鎖を見ます。

条文の連鎖(A=県の条例〔臨時特例企業税〕/B=地方税法72条の23〔法人事業税の所得は法人税の所得の計算の例による〕/C=法人税法57条〔過去の欠損金額は損金に算入〕/A→B=法定外普通税の根拠は地方税法4条3項/B→C=計算の例による/C→B=繰越控除が事業税の所得の計算にも及ぶ/A×C=繰越控除を一部排除する) 図:条文の連鎖

  • A=県の条例〔臨時特例企業税〕
  • B=地方税法72条の23〔法人事業税の所得は法人税の所得の計算の例による〕
  • C=法人税法57条〔過去の欠損金額は損金に算入〕
  • A→B=法定外普通税の根拠は地方税法4条3項
  • B→C=計算の例による
  • C→B=繰越控除が事業税の所得の計算にも及ぶ
  • A×C=繰越控除を一部排除する

条文地方税法4条3項

地方税法第4条第3項 道府県は、前項各号に掲げるものを除くほか、別に税目を起こして、普通税を課することができる。

骨格は、道府県は、決まった税のほかに、別に税目を起こして、普通税を課せる、です。これが、法定外普通税の根拠です。県は、この条文を使って、新しい税を作りました。

条文地方税法72条の23第1項

地方税法第72条の23第1項 第七十二条の十二第三号の各事業年度の所得は、次の各号に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定めるところにより算定するものとする。 一 内国法人 各事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額によるものとし、この法律又は政令で特別の定めをする場合を除くほか、当該各事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例により算定する。

骨格は、法人事業税の所得は、特別の定めが無い限り、法人税の所得の計算の例によって算定する、です。益金は、売上など、入ってくる側の額、損金は、費用や損失など、出ていく側の額です。差し引いた残りが、所得です。ここで、法人税の計算がそのまま事業税に持ち込まれます。

条文法人税法57条1項本文

法人税法第57条第1項本文 内国法人の各事業年度開始の日前十年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(……)がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

骨格は、過去の赤字は、後の年度の所得の計算上、損金に算入する、です。つまり、赤字を繰り越して、後の黒字から差し引ける、という仕組みです。連鎖を、まとめます。法人事業税の所得は、法人税の計算の例による。法人税の計算には、赤字の繰越控除がある。だから、法人事業税の所得の計算でも、繰越控除は必ず適用されます。例外を作れるのは、条文のとおり、この法律か政令だけで、条例は入っていません。県の条例は、その繰越控除を、実質的に一部排除しようとしたのです。

判決の筋は3段(①自治体の課税権=憲法上予定されている/②地方税法の読み分け=標準税率など別段の定めは変えてよい・強行規定は変えられない/③実質で見る=形が別の税でも強行規定を実質的に変えれば負ける) 図:判決の筋は3段

  • ①自治体の課税権=憲法上予定されている
  • ②地方税法の読み分け=標準税率など別段の定めは変えてよい・強行規定は変えられない
  • ③実質で見る=形が別の税でも強行規定を実質的に変えれば負ける

判決の筋は3段です。課税権の位置づけ、地方税法の読み分け、そして実質で見ることです。まず、自治体は、国とは別に、課税権の主体になることが、憲法上、予定されています。ただし、憲法は課税権の中身までは定めていません。国民全体の税負担の調整などの観点から、法律で、準則、つまり、自治体が課税するときに従う基本のルールを定めることが予定されています。

判例最判平25・3・21 民集67巻3号438頁

準則 普通地方公共団体が課することができる租税の税目,課税客体,課税標準,税率その他の事項については,憲法上,租税法律主義(84条)の原則の下で,法律において地方自治の本旨を踏まえてその準則を定めることが予定されており,これらの事項について法律において準則が定められた場合には,普通地方公共団体の課税権は,これに従ってその範囲内で行使されなければならない。

読み方です。自治体の課税権には、憲法上の根拠があります。けれど、法律が準則を定めたら、課税権は、その範囲内で行使しなければなりません。変えてよい部分と、変えられない部分があります。分ける基準は、地方税法自身が、条例で違う定めをしてよい、と書いているかです。建築基準法40条と同じく、法律が自分で書いている場合です。その代表が、標準税率です。標準税率とは、自治体がふつうはこれによる税率で、財政上の必要などがあれば、これによらなくてよい、と地方税法が定めている税率です。地方税法は、法定の税について、課税標準や税率などを、細かく具体的に定めています。ですから判決は、標準税率のような、別段の定めのあるもの以外は、任意規定ではなく、強行規定だと見ました。任意規定とは、条例で違う定めをしてよい規定。強行規定とは、条例で変えられない規定のことです。課税標準の計算は、法人税の計算の例による、と定められていて、条例で変えてよいとは書かれていません。だから、変えられません。これが、上乗せを容認する趣旨を、読み分けた結果です。

判例最判平25・3・21 民集67巻3号438頁

実質的な変更も許されない したがって,法定普通税に関する条例において,地方税法の定める法定普通税についての強行規定の内容を変更することが同法に違反して許されないことはもとより,法定外普通税に関する条例において,同法の定める法定普通税についての強行規定に反する内容の定めを設けることによって当該規定の内容を実質的に変更することも,これと同様に,同法の規定の趣旨,目的に反し,その効果を阻害する内容のものとして許されないと解される。

読み方です。法定普通税の強行規定を、条例で変えることができないのは当然です。そして、法定外普通税の条例で、強行規定に反する内容を設けて、実質的に変えることも許されません。ここで、物差しの、目的と効果を阻害しないか、が出てきます。

繰越控除と県の税(全額差し引ける会社で、去年300万円の赤字・今年500万円の黒字→繰越控除で今年の所得は200万円/県の税=差し引いた300万円の部分に別に税をかける作り→繰越控除を実質的に一部排除/文言は繰越控除に触れなくても実質で見られる) 図:繰越控除と県の税

  • 全額差し引ける会社で、去年300万円の赤字・今年500万円の黒字→繰越控除で今年の所得は200万円
  • 県の税=差し引いた300万円の部分に別に税をかける作り→繰越控除を実質的に一部排除
  • 文言は繰越控除に触れなくても実質で見られる

繰越控除の趣旨は、事業年度ごとの所得の変動にかかわらず、税負担をできるだけ均等にして、公平な課税をすることです。県の条例は、課税標準の文言を一見すると、繰越控除に触れていません。けれど、実質は繰越控除を一部排除し、その適用を遮断するために作られていました。そこで判決は、条例は、地方税法の趣旨や目的に反し、効果を阻害するもので、強行規定と矛盾抵触する、として、違法で無効と判断しました。形は別の税でも、実質が法定税の強行規定を変えるなら、負けます。ここが核心です。文言ではなく実質で見る。徳島市公安条例の、目的と効果を阻害しないか、という考え方が、税で現れたものです。持ち帰る形は2つです。1つ目。地方税法には、条例が変えてよい部分と、変えられない部分がある。2つ目。自治体の課税権には憲法上の根拠があるが、法律の準則に従う、です。ここも、論文でも論点になりえます。

みなと町の回収とまとめ

みなと町の確認表(空き家条例と空家法=目的は同じ方向〔周辺の生活環境の保全〕/空家法は措置の段階と手続を定める〔助言・指導→勧告→命令→代執行・命令の前に意見を述べる機会〕/確かめる点=①条例による別段の定めを許容する趣旨か②上乗せか横出しか③手続が趣旨を妨げないか/浜辺の花火の条例=目的が違えば別目的の型/課税=法定外税の手続と準則に反しないこと) 図:みなと町の確認表

  • 空き家条例と空家法=目的は同じ方向〔周辺の生活環境の保全〕
  • 空家法は措置の段階と手続を定める〔助言・指導→勧告→命令→代執行・命令の前に意見を述べる機会〕
  • 確かめる点=①条例による別段の定めを許容する趣旨か②上乗せか横出しか③手続が趣旨を妨げないか
  • 浜辺の花火の条例=目的が違えば別目的の型
  • 課税=法定外税の手続と準則に反しないこと

冒頭の問いに戻ります。みなと町の空き家条例は、国の法律に負けるのか。物差しを当てて、何を確かめるかを整理します。空家法の目的は、周辺の生活環境の保全です。町の条例と、目的は同じ方向です。別目的の型ではありません。そして、空家法は、特に問題のある空き家について、助言や指導から勧告、命令、代執行という段階と、意見を聴く手続を、詳しく定めています。しかも、空家法の条文には、条例という語が出てきません。明文が無い場面ですから、法律全体の趣旨から読みます。確かめる点は3つです。1つ目。空家法は、条例による別段の定めを許す趣旨か、それとも全国一律の手続を定める趣旨か。2つ目。町の条例のどこが空家法と重なる上乗せで、どこが空家法の対象に至らない空き家への横出しか。3つ目。町の条例の手続は、空家法の手続の趣旨を妨げないか。結論は、条例の内容次第です。法令の趣旨の読み方が、持ち帰りです。

花火を一般的に規制する国の法律があるか、まず確かめます。火薬類の規制は、別の目的です。目的が違えば、別目的の型です。国の法律が、花火について放置する趣旨とは、考えにくいところです。ここも、確かめる点として押さえておけば十分です。町が花火の客に、浜辺の独自の税を課すなら、法定外税の手続と、地方税法の準則に反しないことが要ります。今日見た、臨時特例企業税の事件の筋です。もう1つ。新しく条例で規制するとき、すでに手続を進めていた事業者の地位を不当に害さない配慮が要る、という水道水源保護条例の判例は、権限の濫用の回で、新しい条例で規制した場面として見ました。みなと町なら、空き家条例を作る前から計画していた人への配慮です。

今日の答え(①違反かどうかは、文言の見比べではなく、目的・内容・効果を比べて国の法令の趣旨を読む/②3件=目的は一部重なっても、国の法律が全国一律を避ける作りで共存〔道路交通法と公安条例〕/明文が無くても、それ以上はしない趣旨で負ける〔普通河川〕/形を変えても、実質が強行規定の変更なら負ける〔法定外税〕/条例は命令と法律のような上下ではなく、役割分担の調整) 図:今日の答え

  • ①違反かどうかは、文言の見比べではなく、目的・内容・効果を比べて国の法令の趣旨を読む
  • ②3件=目的は一部重なっても、国の法律が全国一律を避ける作りで共存〔道路交通法と公安条例〕/明文が無くても、それ以上はしない趣旨で負ける〔普通河川〕/形を変えても、実質が強行規定の変更なら負ける〔法定外税〕/条例は命令と法律のような上下ではなく、役割分担の調整

問いの答えです。1つ目。条例は、法令に負けます。ただし、命令のように、法律の委任で作る上下ではありません。憲法が決めた役割分担の中での、ぶつかったときの順位です。負けるかどうかは、文言の比較ではなく、目的、内容、効果を比べて、国の法令の趣旨を読んで決めます。2つ目。同じ物差しで、結論は両方向に出ます。道路交通法は、地域の状況に応じて決める作りだったので、条例が残りました。普通河川は、明文が無くても、それ以上はしない趣旨だったので、強い管理の条例は許されませんでした。法定外税は、形が別の税でも、実質が強行規定の変更だったので、負けました。行政の行為の形を、地図にして見ていきます。

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第3章行為形式の地図と行政基準

#33単独ページ動画

行為形式の地図と行政処分の3つの特徴

第3章 行為形式の地図と行政基準 ㉝/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

役所の1日、4つの顔

役所の1日(朝=県の知事が喫茶店Bに営業の許可を出す/昼=町役場の課長が窓口の運用ルールを文書にして部下に配る/午後=町が道路の補修を業者と契約する/夕方=町が騒音を出す工場に「音を小さくしてもらえませんか」と頼む/問い=どれも行政の活動。法的には同じか) 図:役所の1日

  • 朝=県の知事が喫茶店Bに営業の許可を出す
  • 昼=町役場の課長が窓口の運用ルールを文書にして部下に配る
  • 午後=町が道路の補修を業者と契約する
  • 夕方=町が騒音を出す工場に「音を小さくしてもらえませんか」と頼む
  • 問い=どれも行政の活動。法的には同じか

ここから、第3章に入ります。行政の行為の形を、地図にして見ていきます。まず、ある町を舞台にした、役所の1日を見てください。朝、県の知事が、喫茶店Bに、営業の許可を出します。昼、町役場の課長が、窓口の運用ルールを文書にして、部下に配ります。午後、町が、道路の補修を、工事の業者と契約します。夕方、町が、騒音を出している工場に、音を小さくしてもらえませんか、とお願いします。役所の仕事という点では同じです。けれど、法的には、まったく違う顔をしています。ここで、1つ問いを置きます。夕方の工場へのお願いを、工場の経営者が、裁判で取り消してほしい、と言い出したら、通るでしょうか。

工場へのお願いが、なぜ裁判の対象にならないのか。その理由を言葉にすることが、今日の中身です。

今日の問い(①行政の活動は、法的にどんな型に分けられるのか/②そのうち「処分」を、ほかの型とどう見分けるのか) 図:今日の問い

  • ①行政の活動は、法的にどんな型に分けられるのか
  • ②そのうち「処分」を、ほかの型とどう見分けるのか

問いは2つです。まず、行政の活動は、法的に、どんな型に分けられるのか。次に、そのうち、処分という型を、ほかの型とどう見分けるのか。持ち帰ってほしいのは、型の地図1枚と、見分けるための3つの物差しです。権利義務に直接関わるか、具体的に決めるか、公権力か、の3つです。

なぜ型で見るのか

行為形式=行政の活動を、法的に特徴のある部分で切り出した型(型が決まると→当てはめるルールと→争い方が決まる/たとえ=医者は「風邪・骨折・糖尿病」と型に分けて診る)

最初に、なぜ型で見るのかです。行政の活動は、実に多様です。許可を出す日もあれば、計画を立てる日も、契約を結ぶ日もあります。毎日、形を変えます。その全部を、ひとまとめにして、法で縛ったり、裁判で争ったりすることはできません。そこで、行政の活動のうち、法的に見て特徴のある部分を切り出して、型にします。この型を、行為形式と呼びます。医者にたとえます。患者さんの訴えは、人の数だけあります。けれど医者は、風邪、骨折、糖尿病と型に分けて診ます。型が決まれば、どの検査をして、どの薬を使うかが決まるからです。行為形式も同じです。型が決まれば、どの法的なルールを当てはめるか、どう争うかが決まります。

法律による行政は、行政は法律に従わなければならない、という大きな原則でした。ただ、大きな原則のままだと、目の前の具体的な活動に当てはめられません。型に分けると、この活動には、この形で法律の縛りがかかる、と言えるようになります。行為形式は、原則を具体的な活動に当てはめるための道具です。ここは覚えてください。行為形式とは、行政の活動を、法的に特徴のある部分で切り出した型です。

5つの型と、型の外側

行為形式の地図(行政処分=個別の相手の権利義務を一方的に決める〔許可・免許・認可・取消し〕/行政基準=一般的なルール〔外向け=政令・省令/内向け=通達〕/行政計画=将来の目標と手段をまとめた方針〔道路をどこに通すか〕/行政契約=私人と合意で結ぶ契約〔道路補修の請負〕/行政指導=任意の協力を求める働きかけ/型の外側=内部行為〔役所の内側だけのやりとり〕) 図:行為形式の地図

  • 行政処分=個別の相手の権利義務を一方的に決める〔許可・免許・認可・取消し〕
  • 行政基準=一般的なルール〔外向け=政令・省令/内向け=通達〕
  • 行政計画=将来の目標と手段をまとめた方針〔道路をどこに通すか〕
  • 行政契約=私人と合意で結ぶ契約〔道路補修の請負〕
  • 行政指導=任意の協力を求める働きかけ
  • 型の外側=内部行為〔役所の内側だけのやりとり〕

型は5つです。板に、地図にしました。1つずつ、一言で言います。1つ目は、行政処分です。行政が、個別の相手の権利や義務を、一方的に決める行為です。第1章で、処分と呼びました。営業の許可、運転免許の取消しや停止、運賃の上限の認可、どれもこの型です。第1章で、学問の言葉では行政行為と呼ぶ、と名前だけ出しました。2つはほぼ重なります。条文と判例が使う言葉は、処分のほうです。重なりきらない部分は、後の回で整理します。今日は、同じものを指している、と思っておいてください。2つ目は、行政基準です。行政機関が定める、一般的なルールです。国民に向けたものは、政令や省令です。役所の内側に向けたものには、通達があります。鉄道事業法の回で、省令に委ねられた手続を見ました。3つ目は、行政計画です。行政が、将来の目標と、そこへ行く手段をまとめた方針です。たとえば、町が、道路をどこに通すかを決める計画です。4つ目は、行政契約です。行政が、私人と、合意で結ぶ契約です。午後の、道路補修の請負がそうです。5つ目は、行政指導です。相手に、任意の協力を求める働きかけです。夕方の、音を小さくしてもらえませんか、がそうです。第1章で、役所が喫茶店の看板の照明を夜に消させたい、という場面で、名前が出ました。消すよう命じるのか、消してもらえませんか、とお願いするのか、の違いも見ました。

昼の運用ルールは、5つの型のどれでもありません。型の外側です。役所の組織の内側だけで行われるやりとりを、内部行為と呼びます。上級の機関から下級の機関への通達や、上司が部下に仕事のやり方を命じる職務命令が、その代表です。課長が部下に配った運用ルールは、これです。通達は、内側に向けたルールなので、行政基準の一種でもあり、同時に内部行為の代表でもあります。二重の顔を持つ、と覚えてください。通達が法的な力を持たない、という話は、前に見ました。中身は後の回で扱います。もう1つ大事な注意です。どの型かは、名前ではなく、中身で決まります。看板の照明の場面を思い出してください。あのときは、法律の根拠が要るかを分けるために、従う義務を負わせているのか、応じるかどうかを決める自由が相手に残っているのか、を見ました。型を見分けるときも、この見方が効きます。名前がお願いでも、個別の相手に従う義務を負わせる中身なら、型は処分です。逆に、命令のように見える文書でも、役所の内側にしか向いていなければ、内部行為です。5つの型の中身は、それぞれ、後の回で掘り下げます。今日は、その入口の地図です。その中でも、処分は、特に大事な型です。裁判で争う入口になるからです。次の節から、処分の見分け方に入ります。

処分の定式と、その事案

処分の定式を3つに割る(「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為」=③公権力性の入口/「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定する」=①権利義務との関わり・②具体性/「法律上認められているもの」=③公権力性の核心/第1章の一言との対応:法律にもとづく→「法律上」/国民の権利義務→①/一方的→③/具体的→②) 図:処分の定式を3つに割る

  • 「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為」=③公権力性の入口
  • 「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定する」=①権利義務との関わり・②具体性
  • 「法律上認められているもの」=③公権力性の核心
  • 第1章の一言との対応:法律にもとづく→「法律上」
  • 国民の権利義務→①
  • 一方的→③
  • 具体的→②

第1章で、処分を、こう説明しました。行政が、法律にもとづいて、国民の権利や義務を、一方的に、具体的に決める行為。許可や営業停止命令もそうだ、と言いました。この説明を、最高裁の言葉で、正確に言い直します。これが、処分の定式です。

判例最判昭39・10・29 民集18巻8号1809頁

処分の定式 公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの

読み方です。この、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが、法律上認められているもの。これを、処分と呼びます。暗記してください。論文でも、使い続ける言葉です。板のとおり、3つに割れます。まず、直接国民の権利義務を形成し、または範囲を確定する、の部分です。国民の権利や義務に、直接関わること。これが1つ目の物差しです。形成する、というのは、権利や義務を新しく生み出すことです。範囲を確定する、というのは、権利や義務がどこまで及ぶかを、はっきり決めることです。税務署長が、Bの今年の税額はいくらだ、と決めるのが、その例です。どちらも、誰の、どの権利義務かが決まって、初めてできます。誰にでも当てはまる形で定めるだけでは、まだ誰の権利も、生まれも、決まりもしません。ですから、この部分は、個別の人の権利義務を決めることを求めています。これが2つ目の物差しの、具体性です。3つ目は、公権力の主体たる、と、法律上認められている、の部分です。法律が、行政に、相手の同意が無くても決めてよい、と認めている。だから、行政は一方的に決められます。これが、公権力の面です。第1章の説明にあった、一方的に、がここに当たります。

法律上認められているもの、の部分です。処分は、法律がそうする力を認めているから処分なのです。ここが一番の核心で、あとで掘り下げます。なお、ここで言う法律は、条例も含めて読むのが一般的な整理です。この定式が出てきた事件を、一言で見ます。事案は、東京都が、ごみ焼却場を設置したというものです。近くの住民が、その設置行為は無効だ、として、処分の無効確認、つまり、その行為は初めから効力が無い、と確かめてもらう訴えを起こしました。最高裁は、この設置行為を、処分には当たらない、としました。

焼却場の事案(A=東京都/C=近くの住民/A→土地=私人から買って都の土地にした/A→焼却場=私人と対等の立場で結んだ私法上の契約で設置/都議会に計画案を出した行為=都の内部的な手続/結論=処分に当たらない) 図:焼却場の事案

  • A=東京都
  • C=近くの住民
  • A→土地=私人から買って都の土地にした
  • A→焼却場=私人と対等の立場で結んだ私法上の契約で設置
  • 都議会に計画案を出した行為=都の内部的な手続
  • 結論=処分に当たらない

迷惑かどうかは、処分かどうかを決めません。判決が見たのは、焼却場がどういう形で作られたかです。判決は、この焼却場が、都が私人から買った都の土地の上に、私人と対等の立場で結んだ、私法上の契約、つまり私人どうしが結ぶのと同じ、ふつうの契約で設置されたものだと見ました。都議会に計画案を出した行為も、都の内部の手続にとどまる、と見ました。だから、都が公権力を使って、住民の権利義務を直接決めた場合には当たらない、としたのです。ここで、先の3つが、すでに顔を出しています。契約で作ったから、公権力ではありません。内部の手続だから、国民の権利義務に直接関わりません。第2章の、新幹線の工事の計画の認可を、覚えていますか。大臣が公団に出した認可は、監督の手段で、内部の行為だから、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものではない、とされました。あの判決の言葉は、この定式の後半です。この事案には、あとで戻ります。なお、この判決は、当時の法律の、行政庁の処分という言葉について判断したものです。今の行政事件訴訟法3条2項にも、行政庁の処分という言葉が、そのまま受け継がれています。ですから、条文の処分に当たるかどうかは、この定式で判断します。

物差し1 国民の権利義務に直接関わるか

物差し①=国民の権利義務に直接関わるか(関わらない=行政指導〔応じるかは相手が決める〕・内部行為〔通達・職務命令〕/関わる=許可・免許・一部の認可〔受けずにやると禁止+罰則〕・給付の決定〔決定で初めて受ける権利が生じる〕)

1つ目の物差しです。国民の権利義務に、直接関わるか。権利義務を生じさせない行為は、処分ではありません。例を2つ出します。まず、行政指導です。夕方の、音を小さくしてもらえませんか、というお願いは、相手に法的な義務を課していません。応じるかどうかは、相手が決めます。応じなくても、法的には何も起きません。どうしても従わせたいなら、命じてよい、と定める法律が要ります。命令と指導は、別の型です。次に、内部行為です。課長が部下に配った運用ルールは、役所の組織の内側のものです。部下には守る義務が生じるかもしれませんが、それは組織の内側の話です。窓口に来る国民に、直接、義務が生じるわけではありません。

通達は、下級の機関を縛ります。けれど、国民との間の権利義務を、直接形づくるわけではありません。通達が法的な力を持たない、と前に見たのは、この意味です。反対側も見ます。許可や免許は、受けずにやると、法的に禁止されていて、違反には罰則があります。法律によっては、一部の認可も同じです。喫茶店Bが、許可を受けずに営業すれば、罰則の対象です。運転免許を受けずに運転するのも、同じです。許可や免許があるかないかで、Bの法的な立場が変わります。つまり、権利義務を直接形づくっています。給付の決定は、決定によって初めて、お金などを受ける権利が生じます。これも、権利を形づくっています。注意点は、直接、という言葉です。その行為によって、初めて法的な地位が変わるか、と読んでください。たとえば、応じなければ後で命令する、と匂わせる指導があります。指導の段階では、法的な地位は変わっていません。変わるのは、命令が出た段階です。この指導は、指導の段階では、処分ではないことが多いのです。細かいところは、後の回に回します。ここで1問です。課長が部下に出した、窓口の運用ルールの文書。国民に義務は生じますか?

直接は生じないと思います。役所の内側の話なので、内部行為です。1つ目の物差しで、指導と内部行為が落ちました。

物差し2 具体的に決めるか、なぜ行政の決定を挟むのか

2段構え(1段目=法令:誰にでも当てはまる形で定める〔一般的・抽象的〕→2段目=行政の決定:A〔知事〕がB〔喫茶店〕の店について審査して決める〔具体的〕/その決定に不服があれば裁判所へ/具体性=決定の及ぶ人または対象の事実が特定されていること) 図:2段構え

  • 1段目=法令:誰にでも当てはまる形で定める〔一般的・抽象的〕→2段目=行政の決定:A〔知事〕がB〔喫茶店〕の店について審査して決める〔具体的〕
  • その決定に不服があれば裁判所へ
  • 具体性=決定の及ぶ人または対象の事実が特定されていること

2つ目の物差しです。具体的に決めるか。ここが、今日の中心です。そして、なぜ、という問いにも答えます。食品衛生法は、営業の許可について、営業しようとする者は知事の許可を受けなければならない、という形で定めています。誰にでも当てはまる形です。一般的で、抽象的、と言います。法律に書いてあるだけでは、Bは営業できません。そこが落とし穴です。法律は、営業の許可を受けた者は営業できる、と言っているにすぎません。喫茶店Bの店が、衛生の基準に合っているかは、法律を読んでもわかりません。知事が、Bの店について審査して、許可を出して、初めてBに、営業できる具体的な権利が生まれます。運転免許も同じです。免許の仕組みは、一律の禁止のあとに、個別の解除がありました。法令は、誰も免許なしに運転してはならない、と一律に禁止します。そのうえで、試験に合格した個々の人について、行政がその禁止を解きます。整理します。法令は、誰にでも当てはまる形で定めます。そこに、行政の決定が入ります。誰の、どの事実について、が特定されます。この、決定の及ぶ人や対象の事実が特定されていることを、具体性と呼びます。

法令が最初から一律に認めてしまわず、行政の決定を挟む理由は2つあります。1つ目。法令だけでは、あらゆる個別の事情を、具体的に書き切れません。Bの店の厨房の広さや、衛生設備が基準に合っているか。町中の全部の店について、あらかじめ法律に書くことは、できません。誰かが、個別に当てはめて確かめる必要があります。2つ目。では、権利義務が決まるたびに、裁判所へ行かないと決まらない仕組みにしたら、どうでしょう。開業するたびに裁判をして、判決を待つことになります。これも、不便です。だから、こう決めました。まず、行政が、法令を個別の事情に当てはめて、具体的に決める。その決定に不服がある人は、裁判所で争える。法令で一般的に定め、行政の決定で具体的にする、この2段構えにしておけば、書き切れない問題も、毎回裁判所へ行く不便も、避けられます。大学の入学で言い換えます。入学の条件は、一般的に定められています。けれど、合格通知を受け取って初めて、あなたに入学できる具体的な権利が生じます。条件を知っただけでは、入れません。この、合格通知にあたる部分、行政の決定を捕まえて、型にしたのが、処分です。第1章で見た3段の順路の中で、訴訟要件の1つが、この、処分に当たるかどうかでした。その見分けの入口が、今日の3つの物差しです。ただ、本格的な当てはめは、後の回で扱います。ここで、行政基準との違いも押さえます。政令や省令は、一般的なルールです。誰にでも当てはまる形のままで、特定の人に向けたものではありません。具体的に決める処分とは、ここで分かれます。

物差し3 公権力は力の大きさではない

契約と処分の違い(契約=AとBが合意で権利義務を生む〔道路補修の請負:合意が要る〕/処分=Aが法令に照らして一方的に決める〔許可:申請はきっかけにすぎない〕) 図:契約と処分の違い

  • 契約=AとBが合意で権利義務を生む〔道路補修の請負:合意が要る〕
  • 処分=Aが法令に照らして一方的に決める〔許可:申請はきっかけにすぎない〕

3つ目に入る前に、1つ復習です。免許の取消しは、行政が、相手の同意なしに、権利を失わせる処分でした。この、同意なしに、一方的に決める力を、前に何と呼びましたか?公権力の行使です。3つ目の物差しは、これと同じ言葉を使います。公権力性です。まず、契約です。町が、道路の補修を、業者に請け負わせる契約を結びました。この契約も、町と業者の権利義務を、直接形づくります。業者は工事をする義務を負い、町は代金を払う義務を負います。1つ目の物差しは、満たしています。処分ではありません。権利義務が、合意で生まれているからです。町が一方的に決めたのではなく、業者も同意しています。業者が同意しなければ、契約は成立しません。さきほどの、焼却場の事案も、これでした。

判例最判昭39・10・29 民集18巻8号1809頁

焼却場は契約で設置された 本件ごみ焼却場は、被上告人都がさきに私人から買収した都所有の土地の上に、私人との間に対等の立場に立つて締結した私法上の契約により設置されたものである

読み方です。被上告人というのは、この裁判の相手方の当事者で、東京都のことです。都は、私人から土地を買い、私人との間に対等の立場に立って、私法上の契約で焼却場を設置しました。対等の立場、というところが、判断の材料です。都が上から一方的に決めたのではなく、相手と合意で作ったのです。判決は、下の裁判所が認めた事実を、そのまま受けています。一方、処分は、行政の一方的な判断で決まります。喫茶店Bが申請した場合を考えます。申請は、きっかけにすぎません。許可を出すか、どんな内容にするかは、行政が、法令に照らして決めます。Bと条件を交渉して、折り合いをつけるのではありません。Bが申請したことで、知事が許可に合意したことにはなりません。申請があっても、決めるのは行政の一方的な判断です。ここが、契約との違いです。次に、公権力という言葉の意味です。公権力と聞くと、政治的な力の強さや、動かすお金の大きさを想像する人が多いと思います。

公権力は大きさで決まらない——比較(10億円の道路工事=契約→処分ではない/喫茶店Bの営業許可=手数料もわずかな手続→処分/決め手=法律が行政に一方的に決める権限を与えているか) 図:公権力は大きさで決まらない——比較

  • 10億円の道路工事=契約→処分ではない
  • 喫茶店Bの営業許可=手数料もわずかな手続→処分
  • 決め手=法律が行政に一方的に決める権限を与えているか

違います。公権力とは、法律が、行政に、相手の同意が無くても一方的に決めてよい権限を与え、その決定に相手を従わせる仕組みを定めているか、の問題です。食品衛生法は、許可を受けなければ営業してはならない、許可するかどうかは知事が決める、と定めています。Bが納得しなくても、知事の決定で、Bが営業できるかどうかが決まります。法律がこういう仕組みを定めている行為が、処分です。定式の、法律上認められている、は、この意味でした。比べてみます。町が、10億円を動かす道路工事を、業者と契約しました。金額は巨大です。けれど、契約なので、処分ではありません。反対に、喫茶店Bの営業許可は、手数料もわずかな、小さな手続です。けれど、許可するかどうかを知事が一方的に決める、と法律が定めているので、処分です。大きさでは決まりません。ここで1問です。町が、市民会館を建てるために、何十億円もかけて、地主と話し合って土地を買い取りました。これは、公権力ですか?

金額は大きくても、話し合いで買う契約なので、公権力ではありません。法律が、一方的に決める権限を与えているかで決まります。そして、処分が、形式と呼ばれる理由も、ここにあります。行為の中身の大きさではなく、法律が一方的に決める形式を定めているかで、処分かどうかが決まるからです。形式の名前のとおりです。補足を1つ。一方的、優越的という言葉で、処分と契約を本当にきれいに分けられるのか、近年は疑問も出ています。とくに、補助金のように、行政がお金を渡す決定の場面で、はっきりしなくなります。次の節で見ます。

区別の実益、つまずき、まとめ

型で争い方が変わる(処分=抗告訴訟〔行政庁の公権力の行使に関する不服の訴え〕で争う/処分でない=別の道/行政事件訴訟法3条1項/役所の1日=工場へのお願い〔行政指導〕→処分ではない→取り消しを求める訴えの対象にならない) 図:型で争い方が変わる

  • 処分=抗告訴訟〔行政庁の公権力の行使に関する不服の訴え〕で争う
  • 処分でない=別の道
  • 行政事件訴訟法3条1項
  • 役所の1日=工場へのお願い〔行政指導〕→処分ではない→取り消しを求める訴えの対象にならない

最後に、型を見分ける実益です。処分なら、争い方が決まります。処分に当たる行為は、抗告訴訟で争います。抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴えのことです。行政事件訴訟法3条1項が、そう定めています。代表は、処分を取り消してほしい、と求める取消訴訟です。中身は、後の章で見ます。処分でなければ、別の道になります。冒頭の問いに戻ります。工場へのお願いを、裁判で取り消してほしい、と言えるか。お願いは、行政指導です。応じるかどうかは、相手が決めます。権利義務に直接関わらないので、処分ではありません。だから、処分を取り消してほしい、という形の訴えの対象には、なりません。争い方は、別の道を探すことになり、これも後の回で見ます。

つまずきどころ(給付の決定〔補助金の交付決定が微妙/生活保護の決定は処分として確立〕=国民に具体的な権利が生じる→処分に近い/お金を渡す贈与に近い面も→契約か?/処分か契約かが微妙→「公権力」とは何かも微妙/答えは後の回) 図:つまずきどころ

  • 給付の決定〔補助金の交付決定が微妙/生活保護の決定は処分として確立〕=国民に具体的な権利が生じる→処分に近い
  • お金を渡す贈与に近い面も→契約か?
  • 処分か契約かが微妙→「公権力」とは何かも微妙
  • 答えは後の回

きれいに分かれない場面が、1つあります。給付の決定です。生活保護の決定は、処分として扱うことで、固まっています。微妙なのは、補助金の交付決定です。決定によって、国民に具体的な権利が生じます。1つ目、2つ目の物差しは、満たしています。ところが、お金を渡すという面では、贈与のような契約に近いようにも見えます。処分なのか、契約なのか。そうなると、公権力とは何かも、微妙になります。ここは、問題の所在を知っておくところまでです。答えは、後の回で扱います。

今日の地図(保存版)(行為形式=活動を法的に特徴のある部分で切り出した型/5つの型+内部行為/処分の定式=公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの/物差し①権利義務に直接関わるか→指導・内部行為と違う/物差し②具体的に決めるか→法令・行政基準と違う/物差し③公権力=法律が行政に一方的に決める権限を与えているか→契約と違う) 図:今日の地図

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  • (行為形式=活動を法的に特徴のある部分で切り出した型/5つの型+内部行為/処分の定式=公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの/物差し①権利義務に直接関わるか→指導・内部行為と違う/物差し②具体的に決めるか→法令・行政基準と違う/物差し③公権力=法律が行政に一方的に決める権限を与えているか→契約と違う)

問いの答えです。1つ目。行政の活動は、行政処分、行政基準、行政計画、行政契約、行政指導の5つの型に分けて見ます。それに加えて、型の外側に、役所の内側だけの、内部行為があります。型は、名前ではなく、中身で決まります。2つ目。処分は、定式で見分けます。公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが、法律上認められているもの。これを3つの物差しに割ります。1つ目。国民の権利義務に、直接関わるか。関わらない指導や内部行為は、処分ではありません。2つ目。具体的に決めるか。法令や行政基準は、誰にでも当てはまる形で、行政の決定が個別の人に当てはめて、初めて具体的になります。書き切れないこと、そして毎回裁判所へ行く不便さがあるから、行政の決定が挟まります。3つ目。公権力か。合意でなく一方的に決めるもので、力の大きさではなく、法律が行政に一方的に決める権限を与えているかです。

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#34単独ページ動画

行政処分を軸にした体系

第3章 行為形式の地図と行政基準 ㉞/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ工場への3つの働きかけ

ある町の騒音の工場への3つの働きかけ(勧告=「音を小さくしてください」と文書で伝える/命令=「改善しなさい」と命じる/罰則=命令に従わないと刑罰/問い=手続は同じか・争い方は同じか) 図:ある町の騒音の工場への3つの働きかけ

  • 勧告=「音を小さくしてください」と文書で伝える
  • 命令=「改善しなさい」と命じる
  • 罰則=命令に従わないと刑罰
  • 問い=手続は同じか・争い方は同じか

前回は、行政の活動を5つの型に分けて、処分を見分ける3つの物差しを見ました。今日は、型が分かると何が決まるのかを、地図にします。ある町の町長が、騒音を出している工場に、まず文書で、音を小さくしてください、と勧告しました。聞き入れられないので、次に、改善しなさい、と命令しました。それでも従わなければ、罰則があります。一つの工場の騒音という点では、確かに同じ話です。けれど、法的な扱いは、まるで違います。手続も、争い方もです。工場の経営者が裁判で争うなら、どれを、どう争うのでしょうか。1つにまとめて争えない点が、分かれ目です。今日の答えを先に言います。どの型かで、行政が使える道具と、国民が使える手続や争い方が、まとめて決まります。その中心にいるのが、処分です。この工場の話には、最後に戻ってきます。

「処分」は3つの法律に共通の入口

3つの法律の入口は同じ言葉(行政手続法=行政が動く前の手続/行政不服審査法=行政の中での不服申立て/行政事件訴訟法=裁判所への訴え/どれも入口は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」) 図:3つの法律の入口は同じ言葉

  • 行政手続法=行政が動く前の手続
  • 行政不服審査法=行政の中での不服申立て
  • 行政事件訴訟法=裁判所への訴え
  • どれも入口は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」

行政の活動の中から、処分を取り出して、横断的に捉えることには、意味が2つあります。1つ目は、条文の上での意味です。行政が国民に何かをするとき、国民を守る一般的な法律が3つあります。行政手続法と、行政不服審査法と、行政事件訴訟法です。順に、行政が動く前の手続、行政の中での不服申立て、裁判所での訴えを受け持ちます。3つの法律に共通点はあります。3つとも、入口の言葉が処分なのです。行政手続法は、2条2号で処分を定義していました。行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為、でした。残りの2つを、条文で確かめます。まず、行政事件訴訟法3条2項です。

条文行政事件訴訟法3条2項

行政事件訴訟法第3条第2項 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

取消訴訟が対象にするのは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為です。かっこの中の裁決は、審査請求に対する行政庁の判断のことです。これらは別に定められているので除いて、残りを単に処分と呼ぶ、という意味です。次に、行政不服審査法1条2項です。

条文行政不服審査法1条2項

行政不服審査法第1条第2項 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。

行政の中での不服申立ては、処分についてのものなら、この法律で行う、という条文です。法律は別々でも、入口の言葉はそろえてあります。ですから、ある行為が処分に当たるかどうかで、この3つの制度が使えるかどうかが、一度に決まります。具体例で見ます。県の知事が、法律にもとづいて、喫茶店Bに、営業停止を命じたとします。これは処分です。命じる前に、Bの言い分を聞く手続があります。命じられたあとは、Bは審査請求ができ、取消訴訟も起こせます。一方、同じ知事が、Bに、営業時間を短くしてもらえませんか、とお願いしただけなら、処分ではありません。処分としての手続も、審査請求も、取消訴訟も、この形では使えません。同じBへの働きかけでも、ここで分かれます。なお、処分の効力を否定したいときは、原則として取消訴訟という道を通すことになっています。その理由は、後の回で見ます。

定式は、この処分という言葉の中身を、判例が言葉にしたものです。3つの法律に共通の入口の言葉があって、その中身を決めるのが定式、という関係です。本格的な判断は、後の章で扱います。今は、処分は3つの法律に共通の入口、と置いてください。

法律、処分、強制の3段

行政の側の3段と、私人の側の2本の道(A=議会→B=行政庁:法律で根拠を与える/B→C=私人:処分で具体的に決める/B→C:義務に従わなければ強制執行〔根拠法がある場合だけ〕/C→B:不服申立て/C→D=裁判所:取消訴訟) 図:行政の側の3段と、私人の側の2本の道

  • A=議会→B=行政庁:法律で根拠を与える
  • B→C=私人:処分で具体的に決める
  • B→C:義務に従わなければ強制執行〔根拠法がある場合だけ〕
  • C→B:不服申立て
  • C→D=裁判所:取消訴訟

2つ目の意味は、理論上の意味です。行政の活動を、型というパーツに分けて、仕組みを読むための道具にする、ということです。その中でも、処分は特別です。行政が、一方的に、国民の具体的な権利や義務を動かす場面だからです。法的に特に重要な節目なので、行政法は、昔から処分を中心に置いてきました。板の骨格を見てください。行政の側は、3段です。1段目は、法律です。行政は法律に従う、という原則でした。条例も含めて読みます。2段目が、処分です。法律は、誰にでも当てはまる形で決めます。それを個別の国民に当てはめて、具体的にするのが処分でした。前回の、2段構えです。3段目は、第1章で見た、行政上の強制執行です。処分で義務を課したのに、相手が従わないとき、行政が裁判所の力を借りずに、自分の力で実現する仕組みです。

民間では、金銭の取り立てに裁判が要ります。けれど行政は、法律で認められたときに限って、自力で実現できます。税金で見ます。法律が、税の仕組みを決めます。これが1段目です。Bの申告が誤っていれば、税務署長が、正しい税額はいくらだ、と決めます。これが2段目の処分です。決まった税額を期限までに払わなければ、税務署が財産を差し押さえます。滞納処分と呼ばれる、3段目です。法律の根拠が無ければ、行政は強制できません。強制は、国民の自由に最も強く踏み込む力だからです。法律の根拠が、特に厳しく求められる場面です。強制執行の種類は、後の回で見ます。次に、国民の側です。違法な処分に対抗する道は、2本あります。1本目は、不服申立てです。行政の中で、処分を見直してもらうよう求める手続です。その中心が、行政不服審査法による審査請求です。簡易迅速に進むのが長所です。反面、行政の内部での判断なので、中立性は裁判所に劣ります。2本目は、取消訴訟です。行政事件訴訟法による、裁判所への訴えで、最後の手段になります。審査請求を先に済ませなくても、原則として、直ちに訴えられます。勝てば、その処分は、出された時にさかのぼって、なかったことになります。ここまでで、今日いちばんの要点です。

処分に当たるかどうかで分かれること(当たる=根拠法があれば強制執行できる/審査請求と取消訴訟で争える/当たらない=強制執行できない/審査請求・取消訴訟の対象にもならない/ただし別の争い方はある) 図:処分に当たるかどうかで分かれること

  • 当たる=根拠法があれば強制執行できる
  • 審査請求と取消訴訟で争える
  • 当たらない=強制執行できない
  • 審査請求・取消訴訟の対象にもならない
  • ただし別の争い方はある

処分に当たる行為は、2つのことができます。根拠となる法律があれば、行政が強制執行できます。国民は、不服申立てと取消訴訟で争えます。処分に当たらない行為は、強制執行もできませんし、取消訴訟や審査請求の対象にもなりません。行政法の体系が、処分を中核に組み立てられているのは、このためです。処分でない行為が、争えなくなるわけではありません。取消訴訟や審査請求とは別の道があります。次の節で見ます。なお、審査請求の対象には、処分のほかに、申請に行政が答えないことも含まれます。細かい点は、後の章です。ここで1問です。町が、喫茶店Bに、看板の照明を夜は消してもらえませんか、とお願いしました。Bが応じないので、町の職員が、夜中に看板の電源を切ってしまいました。許されますか。

許されないと思います。お願いは行政指導なので、Bには従う義務がありません。強制するには、処分で義務を課して、根拠になる法律も要るはずです。従う義務がなく、義務を課す処分もないのに、実力で実現することはできません。強制には、法律の根拠が要ります。

型ごとの事前の手続と、事後の争い方

前回の3つの物差し(権利義務に直接関わるか/具体的に決めるか/公権力か=法律が一方的に決める権限を与えているか/当てはまらない例=行政指導・内部行為・法令や行政基準・契約) 図:前回の3つの物差し

  • 権利義務に直接関わるか
  • 具体的に決めるか
  • 公権力か=法律が一方的に決める権限を与えているか
  • 当てはまらない例=行政指導・内部行為・法令や行政基準・契約

表に入る前に、前回の復習です。町が部下に配った、窓口の運用ルールの文書は、3つの物差しのどれで、処分から外れましたか?国民の権利義務に直接関わらないからです。役所の内側の話なので、内部行為でした。ここから、型が決まると何が決まるのかを、表にします。

型ごとの事前の手続と事後の争い方①(処分=行手法の処分手続+取消訴訟・審査請求/行政基準=意見公募手続+確認訴訟など/行政指導=行手法の規律〔自治体は自ら定める〕+確認訴訟などの可能性) 図:型ごとの事前の手続と事後の争い方①

  • 処分=行手法の処分手続+取消訴訟・審査請求
  • 行政基準=意見公募手続+確認訴訟など
  • 行政指導=行手法の規律〔自治体は自ら定める〕+確認訴訟などの可能性

規制の方法は、2通りあります。事前と事後です。事前は、行為ができあがるまでの手続を、法律で決めておく方法です。一般的な法律は、行政手続法です。事後は、できあがった行為が法律に合っているかを、あとから審査する方法です。一般的な法律は、行政不服審査法と、行政事件訴訟法です。型ごとに、事前と事後を見ます。行ごとに上から読みます。ここで言うのは、あくまで一般的な整理です。個別の行為が処分に当たるかどうかは、後の章で別に判断します。1行目は、処分です。事前は、行政手続法に、2種類の手続があります。営業許可のような、申請に対する処分の手続と、相手に、直接、義務を課したり、権利を制限したりする、不利益処分の手続です。さっきの喫茶店Bの営業停止は、不利益処分なので、命じる前に、Bの言い分を聞きます。事後は、取消訴訟と審査請求です。事前も事後も、一般的な法律が整っています。2行目は、政令や省令などの行政基準です。事前は、意見公募手続です。ルールを定める前に、広く国民の意見を募ります。事後は、確認訴訟などの道があります。

たとえば、省令が事業者に新しい義務を定めたとします。省令は、誰にでも当てはまる一般的なルールなので、ふつうは処分に当たらず、取消訴訟では争えません。そこで、その事業者が、その義務を負わない立場にあることの確認を、裁判所に求めます。取り消すのではなく、自分の法的な立場を確認してもらう訴えです。3行目は、行政指導です。事前は、行政手続法の行政指導の章に、規律があります。任意の協力が前提であること、趣旨や内容を示すこと、応じなくても不利益に扱ってはならないこと、などです。この規律が直接及ぶのは国の機関の行政指導です。自治体の行政指導は、自治体が自分で定めます。多くは条例です。事後は、確認訴訟などの可能性があります。行政指導は、もともと相手に義務を課しません。確認してもらうべき義務が、ふつうは見当たらないので、確認訴訟が使えるかどうかは、場面によります。

型ごとの事前の手続と事後の争い方②(行政計画=事前の一般法なし+確認訴訟など〔処分と認められれば取消訴訟〕/行政契約=事前の一般法なし+民事訴訟/処分だけ事前も事後も一般法が揃う) 図:型ごとの事前の手続と事後の争い方②

  • 行政計画=事前の一般法なし+確認訴訟など〔処分と認められれば取消訴訟〕
  • 行政契約=事前の一般法なし+民事訴訟
  • 処分だけ事前も事後も一般法が揃う

4行目は、行政計画です。事前の一般的な法律は、ありません。個別の法律に、計画の作り方が定められていることがあるだけです。事後は、確認訴訟などです。たとえば、道路の計画で土地の利用が制限される地主が、制限に従う義務のないことの確認を求める、といった形が考えられます。計画が処分と認められる場合には、取消訴訟になります。5行目は、行政契約です。事前の一般的な法律は、やはりありません。事後は、民事訴訟です。たとえば、町が工事の代金を払わないとき、業者は、民事訴訟で支払いを求めます。契約は、行政と私人が対等な立場で結ぶものなので、ふつうの民事の争いと同じ形で扱えます。

計画と契約には、事前の一般的な法律は今もありません。個別の法律で手当てされることはありますが、一般的な法律は、まだ整っていません。

型ごとに事前の手続が違う理由——比較(処分=特定の人の権利義務を直接動かす→その人の言い分を聞く/行政基準=不特定多数に向けたルール→広く意見を募る/行政指導=従うかどうかを相手が選べる→無理強いにならない歯止め) 図:型ごとに事前の手続が違う理由——比較

  • 処分=特定の人の権利義務を直接動かす→その人の言い分を聞く
  • 行政基準=不特定多数に向けたルール→広く意見を募る
  • 行政指導=従うかどうかを相手が選べる→無理強いにならない歯止め

手続が型ごとに違うのは、相手と、効き方が違うからです。処分は、特定の人の権利義務を直接動かします。だから、その人の言い分を聞く手続が中心になります。行政基準は、不特定多数に向けたルールです。特定の人に聞くのではなく、広く意見を募ります。行政指導は、相手が従うかどうかを選べます。ただ、行政から言われると、事実上は断りにくいものです。だから、無理強いにならないための歯止めが中心です。事前の手続は、その型の危うさに合わせて作られている、と読んでください。

落とし穴(確立したルートは処分→取消訴訟だけ/ほかの型の確認訴訟などは可能性にとどまる・要件は判例と学説・確認の利益が要る/契約は昔から民事訴訟) 図:落とし穴

  • 確立したルートは処分→取消訴訟だけ
  • ほかの型の確認訴訟などは可能性にとどまる・要件は判例と学説・確認の利益が要る
  • 契約は昔から民事訴訟

落とし穴を、2つ挙げます。まず1つ目。確立したルートは、処分から取消訴訟に至る道だけです。ほかの型の確認訴訟などは、認められる可能性がある、という程度です。要件は条文に書かれていなくて、判例と学説に委ねられています。確認訴訟には、確認の利益、つまり確認を求めるだけの法的な必要が要ります。2つ目。契約は、民事訴訟で争う道が昔からありました。覚えるのは、これです。型ごとに、事前と事後の道具が違います。処分だけが、事前も事後も揃っています。

整備の歴史:事後から事前へ、処分から他の型へ

整備の広がり方(縦=事後から事前へ:1993年に行政手続法を制定/横=処分から他の型へ:行政指導の規律〔行政手続法〕・2005年の行政手続法改正で意見公募手続・2004年の行政事件訴訟法改正で確認訴訟を明示/中心=処分と取消訴訟) 図:整備の広がり方

  • 縦=事後から事前へ:1993年に行政手続法を制定
  • 横=処分から他の型へ:行政指導の規律〔行政手続法〕・2005年の行政手続法改正で意見公募手続・2004年の行政事件訴訟法改正で確認訴訟を明示
  • 中心=処分と取消訴訟

この表は、最初からこうだったわけではありません。少しずつ整ってきた結果です。昔の行政法は、処分と取消訴訟に、ほぼ目を向けていました。処分が行政の節目なので、そこを裁判所が取り消せば、国民の権利が守られ、行政が適法に動くことも保てる、という発想です。そこから、2つの方向に広がりました。まず、縦に伸びました。事後から事前へ、です。裁判になる頃には、営業を止められるなど、もう損害が出ています。取り消されても、失った時間は戻りません。出す前に、言い分を聞くといった手順を決めておくほうが、早く確実に守れます。そこで、1993年に、行政手続法が制定されました。次に、横に広がりました。処分から、ほかの型へ、です。処分だけを捕まえても、多様な行政の活動には、網が掛かりません。行政手続法には、制定のときから、行政指導の規律が置かれました。行政基準については、2005年の行政手続法の改正で、意見公募手続が整備されました。さらには、事後の訴えの側にも、2つの方向があります。これは地図として押さえてください。1つ目は、処分性を広げる方向です。処分に当たることを、処分性がある、と言います。処分の概念を広げて、計画や行政指導の一部にも、処分性を認めます。そうして、取消訴訟で争えるようにする工夫を、判例と学説が積み重ねてきました。広げることの意味と限界は、後の章で見ます。2つ目は、確認訴訟を使う方向です。第1章で、行政事件訴訟法4条の当事者訴訟を見ました。処分の取消しを求めるのではなく、権利や地位そのものを、当事者として争う訴えでした。2004年の改正で、その4条に、確認の訴えが例として書き加えられました。処分に当たらない行為でも、自分の立場を確かめてもらえれば、救済につながります。そこで、無理に処分の範囲を広げるよりも、この確認訴訟を活用する方向が示されたのです。

確認訴訟が何でも通るわけではありません。先ほどの確認の利益が要ります。取消訴訟のように、要件が固まってはいません。本格的な中身は、後の章です。事前の手続も、その後に育っています。2014年の行政手続法の改正で、行政指導の中止を求める手続と、処分をしてほしいと求める手続が加わりました。中身は、後の回です。縦にも横にも、広がりの中心にいるのは処分です。さっきの表の1行目が、いちばん整っているのは、そのためです。

型の組み合わせで個別法を読む

騒音規制法の仕組み(法律が特定施設を定める〔どの施設かは政令に委ねる=行政基準〕→市町村長が期限を定めて改善を勧告〔行政指導〕→従わないとき期限を定めて改善を命令〔処分〕→命令に違反すると罰則〔刑罰は裁判所が科す〕/各段で手続と争い方が違う) 図:騒音規制法の仕組み

  • 法律が特定施設を定める〔どの施設かは政令に委ねる=行政基準〕→市町村長が期限を定めて改善を勧告〔行政指導〕→従わないとき期限を定めて改善を命令〔処分〕→命令に違反すると罰則〔刑罰は裁判所が科す〕
  • 各段で手続と争い方が違う

冒頭の工場に戻ります。実際の個別法は、1つの型で完結しません。複数の型を組み合わせています。型は、仕組みを読むための、文法のようなものです。騒音規制法を素材にします。個別の法律の条番号や文言は、覚える必要はありません。仕組みの流れだけ、板で追ってください。法律は、著しい騒音を出す施設を、特定施設と呼びます。どの施設かは、政令で定めます。政令は行政基準です。命令などを定めるときは、意見公募手続を経ます。次に、市町村長は、規制基準、つまり守るべき騒音の大きさの上限に合わない工場があって、周りの生活環境が損なわれると認めるとき、その工場に、期限を定めて、改善を勧告できます。これが、町長の勧告です。勧告は行政指導です。相手を法的に縛るものではなく、応じるかどうかは任意です。勧告に従わないと、市町村長は、期限を定めて、改善を命令できます。命令は処分です。不利益処分ですから、言い分を述べる機会を与える手続の対象になりますし、取消訴訟や審査請求の対象にもなります。

この法律では、命令は、勧告に従わなかったときに限って出せる形になっています。穏やかな手段で解決できるなら、そのほうが双方に負担が少ないからです。強い手段ほど、国民の権利を直接動かします。だから、処分として、手続と争い方が用意されます。命令に違反すると、罰則があります。罰則は、行政の型ではありません。刑罰を科すのは裁判所です。けれど、この仕組みの重要な一部です。勧告に、行政手続法の指導の規律はそのまま使えません。町がする行政指導の手続は、行政手続法ではなく、町が自分で定めます。多くは条例です。行政手続法は、自治体の機関がする行政指導を、行政指導の章の対象から外しています。地方自治を尊重して、自治体が自分で定めるように任せているのです。ただし、任意の働きかけだという性質は、同じです。冒頭の問いに答えます。工場の経営者が、裁判で争えるのは、命令です。命令は処分なので、取消訴訟と審査請求の対象になります。勧告は、一般には処分ではなく、取消訴訟の対象になりません。例外として、勧告に処分性が認められた例もありますが、それは後の章で扱います。基準となる政令は、意見公募手続を経て作られます。型が違えば、手続も争い方も違うのです。型の見方は、仕組みを分析する役に立ちます。全体像が見え、各段階で国民にどんな手続と争い方があるかが分かります。新しい仕組みを設計するときの部品にもなります。ここで1問です。命令に従わず、罰則を科されそうな工場が、命令は違法だった、と主張したいとします。どの型の争い方を使うのが原則ですか。

命令は処分なので、取消訴訟で、命令を取り消してほしいと争うのが原則だと思います。命令が違法なら、取り消してもらいます。刑事裁判の中で、命令の違法を主張できるかどうかは、別の問題です。これも後の回で見ます。

行政行為と処分(行政行為=学問上の概念〔この語を使う法律はない〕/処分=実定法上の概念〔行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法の入口〕/観点が違う/もとは範囲が一致→訴訟での救済のため処分の範囲を広げた→完全には重ならない) 図:行政行為と処分

  • 行政行為=学問上の概念〔この語を使う法律はない〕
  • 処分=実定法上の概念〔行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法の入口〕
  • 観点が違う
  • もとは範囲が一致→訴訟での救済のため処分の範囲を広げた→完全には重ならない

最後に、用語を1つ整理します。行政行為と処分です。行政行為は、学問上の概念です。この言葉を使う法律はありません。処分は、実定法上の概念で、学問上の行政行為をもとに作られました。見ている観点が違います。行政手続法や、行政不服審査法、行政事件訴訟法の適用を論じるときは、処分の語を使います。もとは、2つの範囲は一致していました。けれど、訴訟で国民を救済するために、処分の範囲が広げられてきました。ですから、今は完全には重なりません。中身は、後の回で扱います。

今日のまとめ

今日の地図(保存版)(処分で横断して捉える意味=3つの法律の入口/行政過程を読む道具/骨格=法律→処分→強制、私人は不服申立てと取消訴訟/処分に当たらないと強制も取消訴訟もない/型ごとの事前・事後=処分だけ両方揃う・計画と契約は事前の一般法なし/広がり=事後から事前へ・処分から他の型へ〔1993・2005・2004〕/個別法は型の組み合わせ=基準→指導→処分→罰則) 図:今日の地図

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  • (処分で横断して捉える意味=3つの法律の入口/行政過程を読む道具/骨格=法律→処分→強制、私人は不服申立てと取消訴訟/処分に当たらないと強制も取消訴訟もない/型ごとの事前・事後=処分だけ両方揃う・計画と契約は事前の一般法なし/広がり=事後から事前へ・処分から他の型へ〔1993・2005・2004〕/個別法は型の組み合わせ=基準→指導→処分→罰則)

冒頭の問いの答えを、まとめます。どの型かで、行政が使える道具と、国民が使える手続や争い方が、まとめて決まります。1つ目。処分で横断して捉える意味は2つです。行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法の3つが、処分を入口にしていること。そして、行政の過程を読む道具になることです。2つ目。骨格は、法律、処分、強制の3段です。国民の側には、不服申立てと取消訴訟があります。処分に当たらない行為は、強制執行もできず、取消訴訟や審査請求の対象にもなりません。ただし、別の争い方はあります。3つ目。型ごとに、事前と事後の道具が違います。処分だけが両方揃い、計画と契約には、事前の一般的な法律がありません。4つ目。整備は、事後から事前へ、処分からほかの型へと広がってきました。1993年の行政手続法、2005年の意見公募手続、そして、2004年の確認訴訟の明示です。5つ目。個別法は、型の組み合わせです。基準、指導、処分、罰則の順に、型が違うので、手続も争い方も違います。

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#35単独ページ動画

行政基準とは何か

第3章 行為形式の地図と行政基準 ㉟/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ役所から届いた3枚の紙

同じ省から出た3枚の紙(架空の許可制度=冷凍保管施設の許可/①官報に載った施行令〔許可を受ける施設の床面積の下限〕②職員の机にだけ回覧された審査の手順書〔記載漏れは電話で確認してから受理〕③大臣告示〔許可の判断に使う庫内温度の数値の基準〕/問い=国民を縛る力は同じか) 図:同じ省から出た3枚の紙

  • 架空の許可制度=冷凍保管施設の許可
  • ①官報に載った施行令〔許可を受ける施設の床面積の下限〕②職員の机にだけ回覧された審査の手順書〔記載漏れは電話で確認してから受理〕③大臣告示〔許可の判断に使う庫内温度の数値の基準〕
  • 問い=国民を縛る力は同じか

今日が、その1回目です。前回は、行政の活動を型に分けると、手続も争い方も、型ごとに決まる、という表を作りました。ここからは、その型の中身に入っていきます。最初に、架空の話をします。ある省が、冷凍保管施設の許可制度を運用しているとします。実在の制度とは関係がありません。許可を受けたい事業者の机に、同じ省から出た紙が、3枚並びました。1枚目は、官報に載った、その法律の施行令です。許可を受ける施設は、床面積が最低でもこれだけ必要だ、と定めています。2枚目は、省の職員の机にだけ回覧された、審査の手順書です。申請書に記載漏れがあれば、まず申請者に電話で確認してから受理する、といった手順が書いてあります。3枚目は、大臣の告示です。許可の判断に使う、庫内の温度の数値の基準が載っています。法律は、この温度の基準を、大臣が告示で定める、と任せています。

3枚とも、行政が作った、一般的なルールです。ここまでは共通しています。けれど、国民を縛る力は、まるで違います。第3章の最初の回で、型は、名前ではなく、中身で決まる、と言いました。行政基準の中でも、同じことが言えます。同じ行政基準の中に、国民を直接縛るものと、縛らないものが、混ざっています。今日は、その見分ける物差しを手に入れます。1枚目と2枚目は、途中で分類できるようになります。3枚目の告示は、最後に答えを出します。

なぜ行政がルールを作るのか

行政基準——なぜ作る・呼び名(法律は抽象的=「安全な施設」→行政が床面積・庫内温度の数値にして具体化/かつての呼び名=行政立法〔名前だけ前に出た〕→行政基準〔別名=行政準則〕/理由=行政規則は国民を直接縛らない内部のルール→憲法41条の「立法」ではない/処分=個別・具体、行政基準=一般・抽象) 図:行政基準——なぜ作る・呼び名

  • 法律は抽象的=「安全な施設」→行政が床面積・庫内温度の数値にして具体化
  • かつての呼び名=行政立法〔名前だけ前に出た〕→行政基準〔別名=行政準則〕
  • 理由=行政規則は国民を直接縛らない内部のルール→憲法41条の「立法」ではない
  • 処分=個別・具体、行政基準=一般・抽象

まず、そもそも、なぜ行政がルールを作るのか、という素朴な疑問から始めます。権力分立の基本形は、国会が法律を作り、行政がそれを執行する、というものでした。ただ、これは単純化した説明です。法律は、細かいところまでは決めきれないのです。たとえば、法律が、冷凍保管施設は安全でなければならない、とだけ書いたとします。では、安全とは、床面積がどれだけで、庫内の温度が何度までを指すのか。法律には書いてありません。そこを数値にして、初めて、許可の審査ができます。その数値を決めるのが、行政の側です。行政の役割が広がって、国民生活の細かいところまで、行政が決めるようになりました。この現象は、第1章で、行政国家現象として見ました。行政が作るルールは、数が多く、内容も詳しく、国民生活への影響は、法律に劣りません。だから、どう分類して、どう統制するかが、問題になります。今日は分類と形式を見ます。統制は、後の回です。

行政立法という名前は、前に出てきました。ただ、今の学説では、行政立法ではなく、行政基準と呼ぶことが増えています。理由があります。このあと見る行政規則は、国民を直接縛らない、役所の内部のルールです。ところが、憲法41条は、国会を、唯一の立法機関としています。第1章で、ここでいう立法は、少なくとも、国民の権利義務に関わる一般的な定め、つまり法規を含む、と見ました。内部のルールまで立法と呼ぶと、国会だけができる立法を、行政がしているように聞こえて、ずれてしまいます。そこで、行政が定める一般的な基準を、広く行政基準と呼びます。行政準則という別名もあります。注意が1つあります。今も、行政立法という呼び名は使われます。問題文で出てきても、同じものを指すと思ってください。行政手続法は、また別の言葉で、命令等と呼んでいます。これは、あとで見ます。位置づけを一言、足します。第3章の最初の回の、2段構えを思い出してください。処分は、特定の人に当てはめる、個別・具体の決定でした。行政基準は逆で、不特定多数に当てはまる、一般・抽象の定めです。

法規命令と行政規則——二分と物差し

行政基準の位置(法律→〔法律の委任が要る〕→法規命令→国民を直接縛る/法律→〔委任は要らない〕→行政規則→行政の内部だけ/点線枠=行政基準全体) 図:行政基準の位置

  • 法律→〔法律の委任が要る〕→法規命令→国民を直接縛る
  • 法律→〔委任は要らない〕→行政規則→行政の内部だけ
  • 点線枠=行政基準全体

行政基準は、大きく2つに分かれます。ここが、今日の中心です。1つ目は、法規命令です。法規とは、国民の権利義務に関わる一般的な定めのことです。その定めを置く行政基準が、法規命令です。行政の外にいる国民を直接縛るので、第2章で見た言葉では、外部法です。国民を直接縛る、と言い換えて構いません。2つ目は、行政規則です。行政の内部で使う基準です。国民の権利義務を、直接には動かしません。同じく、内部法の側です。見分ける物差しは、1つだけです。国民と行政の関係を、直接規律するか、です。名前では決めません。施行令だから、通達だから、基準だから、ではなく、中身で見ます。

法規命令と行政規則の比較(国民を直接縛るか=法規命令〔縛る・外部法〕/行政規則〔縛らない・内部法〕/法律の委任=要る/要らない/裁判所=有効なら従う/内容に縛られず自分で判断/例=施行令・施行規則/通達・審査基準・処分基準・行政指導指針) 図:法規命令と行政規則の比較

  • 国民を直接縛るか=法規命令〔縛る・外部法〕
  • 行政規則〔縛らない・内部法〕
  • 法律の委任=要る
  • 要らない
  • 裁判所=有効なら従う
  • 内容に縛られず自分で判断
  • 例=施行令・施行規則
  • 通達・審査基準・処分基準・行政指導指針

冒頭の紙に当てはめます。1枚目の施行令です。床面積が足りない施設には、許可が下りません。事業者の権利に直接関わります。国民を直接縛るので、法規命令です。2枚目の審査の手順書です。電話で確認してから受理する、という段取りは、職員が従う手順です。事業者に義務を課すものではありません。国民を直接縛らないので、行政規則です。代表は、通達です。上級の機関が、下級の機関に宛てて、仕事の進め方を指示するものでした。第2章で、国家行政組織法14条2項として見ました。通達それ自体は法的な効力を持たない、という話も、前に出ています。第3章の最初の回で、通達は、行政基準の一種であり、同時に、内部行為の代表だ、と言いました。課長が部下に配った窓口の運用ルールも、2枚目の手順書も、同じです。組織の内側のやりとりとして見れば内部行為、内側に向けた一般的なルールとして見れば行政規則です。ほかに、申請を許可するかどうかの判断に使う審査基準、不利益処分をするかどうかの判断に使う処分基準、行政指導をするときの共通の指針なども、行政規則です。通達の法的な力は、後の回で詳しく見ます。

二分の実益(法律の委任=法規命令で義務・権利制限をするには要る〔内閣法11条・憲法73条6号ただし書〕/行政規則は要らない/裁判所=法規命令は法令の一部→有効なら従う/行政規則は法令ではない→内容に縛られず自分で判断/形が省令でも委任がなければ義務は課せない) 図:二分の実益

  • 法律の委任=法規命令で義務・権利制限をするには要る〔内閣法11条・憲法73条6号ただし書〕
  • 行政規則は要らない
  • 裁判所=法規命令は法令の一部→有効なら従う
  • 行政規則は法令ではない→内容に縛られず自分で判断
  • 形が省令でも委任がなければ義務は課せない

二分の、いちばん大きな実益は、法律の委任が要るかどうかです。国民に新しく義務を課したり、権利を制限したりするのは、法律の仕事でした。法律の法規創造力として、第1章で見ました。行政が勝手にやると、国会の役割を奪ってしまいます。ですから、法規命令で国民の権利を制限するには、法律の委任が要ります。内閣法11条です。

条文内閣法11条

内閣法第11条 政令には、法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない。

政令の条文ですが、府令や省令も、同じ考え方です。あとで確かめます。憲法73条6号のただし書も、同じ筋でした。政令には、法律の特別の委任がなければ、罰則を設けられない、という定めです。行政規則は、委任がなくても作れます。国民を直接縛らないからです。職員の手順書を作るのに、国会の許しは要りません。むしろ、審査基準のように、行政手続法が、定めることを求めている場合もあります。もう1つ、裁判所との関係です。法規命令は、法令の一部です。裁判所は、法令に従って裁判をします。ですから、有効な法規命令なら、裁判所もそれに従います。冒頭の例なら、床面積の下限は、裁判所も前提にして判断します。行政規則は、行政の内部の基準で、法令ではありません。ですから、裁判所は、2枚目の手順書のような内容に縛られず、法律と施行令に照らして、自分で判断できます。なお、法規命令にも、種類があります。法律から任されて中身を定める委任命令と、法律を実施するための手続などの細目を定める執行命令です。違いと限界は、後の回で扱います。ここで1問です。省の大臣が、法律の委任なしに、省令で、国民に新しい義務を課したら、どうなるでしょうか。

形が省令でも、委任がなければ、国民に義務を課す力はありません。大事なのは、形があるかどうかではなく、法律の裏付けがあるかどうかです。

二分の揺らぎ——内部基準の外部化と「命令等」

二分の揺らぎ(理論=行政規則は国民を直接縛らない/現実=公表された審査基準・手順書が、申請者の許可の可否を左右する→内部法の外部化/行政手続法2条8号「命令等」=イ法律に基づく命令・規則/ロ審査基準/ハ処分基準/ニ行政指導指針→法規命令と行政規則を一括して意見公募手続へ/解釈基準〔解釈通達〕は列挙にない) 図:二分の揺らぎ

  • 理論=行政規則は国民を直接縛らない
  • 現実=公表された審査基準・手順書が、申請者の許可の可否を左右する→内部法の外部化
  • 行政手続法2条8号「命令等」=イ法律に基づく命令・規則
  • ロ審査基準
  • ハ処分基準
  • ニ行政指導指針→法規命令と行政規則を一括して意見公募手続へ
  • 解釈基準〔解釈通達〕は列挙にない

本題の前に、前回の復習です。前回の、型ごとの事前の手続と事後の争い方の表で、行政基準を定めるときの事前の手続は、何でしたか?意見公募手続です。広く国民の意見を募る手続でした。今日は、その意見公募手続の対象が、どこまでかという、入口の話にだけ触れます。中身は、後の回です。さて、行政規則は、理論上は、国民を直接縛りません。ところが、現実は、それほど単純ではありません。気にしなくて済まないのが、現実です。冒頭の制度で考えます。省が、法律の言う安全な施設を具体化して、非常用の電源を備えていること、という審査の基準を定め、公表したとします。施行令には、そんな定めはありません。それでも職員は、基準どおりに審査します。すると、非常用の電源が無い事業者は、事実上、許可をもらえません。法的には内部のルールでも、外の国民の扱いを決めてしまうのです。これを、内部法の外部化と呼びます。内部の基準が、外へ効いてくる、という意味です。通達でも起こります。課税の取扱いを定めた解釈の通達は、その典型です。結論です。二分は、考えを整理する出発点として有用です。しかし、現実には、境目が相対化しています。それでも、答案では、二分が出発点になります。法規命令か行政規則かで、委任が要るか、裁判所が従うかが、変わるからです。この相対化は、法律の中にも表れています。行政手続法2条8号です。意見公募手続の対象を決める定義で、命令等を定めています。

条文行政手続法2条8号

行政手続法第2条第8号  八 命令等 内閣又は行政機関が定める次に掲げるものをいう。   イ 法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。次条第二項において単に「命令」という。)又は規則   ロ 審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)   ハ 処分基準(不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。)   ニ 行政指導指針(同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項をいう。以下同じ。)

イは、法律に基づく命令、つまり法規命令です。ロの審査基準、ハの処分基準、ニの行政指導指針は、行政規則です。法規命令と行政規則が、命令等という一つの包みに、まとめて入っています。同じ意見公募手続に乗せる、という意味です。二分の相対化を、法律のレベルでも認めたもの、と読めます。全部ではありません。ここは大事です。ロからニに並んでいるのは、審査基準、処分基準、行政指導指針の3つだけです。解釈基準、つまり解釈の通達は、ここに列挙されていません。行政規則は全部が対象、とは言えません。前回の表は、政令や省令を例に、行政基準の事前の手続を整理したものです。行政規則まで広げると、対象は、ここに並ぶものに限られます。審査基準などの中身は、後の回で見ます。

命令の形式の一覧——政令から規則まで

命令の形式の一覧①国の命令(政令=内閣・憲法73条6号・内閣法11条/内閣府令=内閣総理大臣・内閣府設置法7条3項/デジタル庁令=内閣総理大臣・デジタル庁設置法7条3項/省令=各省大臣・国家行政組織法12条1項/外局の規則その他の特別の命令=委員会・庁の長官・国家行政組織法13条1項/人事院規則=人事院・国家公務員法16条1項/会計検査院規則=会計検査院・会計検査院法38条) 図:命令の形式の一覧①国の命令

  • 政令=内閣・憲法73条6号・内閣法11条
  • 内閣府令=内閣総理大臣・内閣府設置法7条3項
  • デジタル庁令=内閣総理大臣・デジタル庁設置法7条3項
  • 省令=各省大臣・国家行政組織法12条1項
  • 外局の規則その他の特別の命令=委員会・庁の長官・国家行政組織法13条1項
  • 人事院規則=人事院・国家公務員法16条1項
  • 会計検査院規則=会計検査院・会計検査院法38条

次は、法規命令の入れ物を、一覧にします。誰が、どんな名前で、ルールを定めるのかです。その前に、言葉を整理します。命令とは、法令用語として、行政機関が定める一般的なルールの形式の総称です。法律と合わせて、法令と呼ばれます。行政手続法の定義では、法令に、条例や規則まで含みます。個別の人に命じる処分の命令とは、別のものです。次の節で、改めて比べます。板の上から順に見ます。条番号を暗記する必要はありません。誰が定めるのか、という見取り図をつかんでください。政令は、内閣が定めます。閣議で決めます。根拠は、憲法73条6号と、さきほどの内閣法11条です。冒頭の1枚目の、施行令が、これです。内閣府には、内閣府令があります。内閣総理大臣が、内閣府の事務について発します。条文を見ます。

条文内閣府設置法7条3項・4項

内閣府設置法第7条第3項・第4項  3 内閣総理大臣は、内閣府に係る主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、内閣府の命令として内閣府令を発することができる。  4 内閣府令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。

4項が要点です。内閣府令にも、政令と同じ縛りがあります。法律の委任がなければ、罰則も、義務も、権利の制限も置けません。デジタル庁にも、同じ型の定めがあります。内閣総理大臣が、デジタル庁令を発します。板で指すだけにとどめます。省には、省令があります。各省の大臣が、その省の事務について発します。これは、第2章で国家行政組織法12条1項として見ました。同じ12条の3項に、省令には法律の委任がなければ罰則や義務などを置けない、という定めもあります。内閣府令の4項と、同じ内容です。外局は、省に属しながら、ある程度独立して仕事をする、委員会や庁でした。外局には、委員会や庁の長官が定める規則その他の特別の命令があります。これも、国家行政組織法13条1項で、前に見ました。法律に別の定めがあるときに、できる形です。そのほかに、内閣の所轄の下に置かれた人事院と、内閣に対し独立の地位を持つ会計検査院が定める規則があります。人事院規則と、会計検査院規則です。それぞれ、国家公務員法と会計検査院法に根拠があります。

命令の形式の一覧②別枠と序列と共通の縛り(長の規則は国の命令ではない=普通地方公共団体の長・地方自治法15条1項/序列=政令が最上位、府令・省令がその下、外局の規則がさらに下/人事院規則・会計検査院規則は別枠/どの形式も法律の委任がなければ義務・権利制限・罰則は設けられない/題名と種類は一致しない=施行令は政令、施行規則は府令・省令・外局の規則のどれか) 図:命令の形式の一覧②別枠と序列と共通の縛り

  • 長の規則は国の命令ではない=普通地方公共団体の長・地方自治法15条1項
  • 序列=政令が最上位、府令・省令がその下、外局の規則がさらに下
  • 人事院規則・会計検査院規則は別枠
  • どの形式も法律の委任がなければ義務・権利制限・罰則は設けられない
  • 題名と種類は一致しない=施行令は政令、施行規則は府令・省令・外局の規則のどれか

板の下の段です。まず、線の下に、長の規則が別に置いてあります。地方公共団体の長が、地方自治法15条1項に基づいて定める規則です。第1章では、地方公共団体の自主法として、国の法とは別の枠に置きました。国の命令とは区別します。条例との関係は、第2章で見ました。基本は、政令が最上位です。さきほどの内閣府設置法の条文にも、政令を施行するため、また政令の委任に基づいて府令を発する、とありました。府令や省令は、政令を施行する形で定められるので、政令の下に位置づけます。外局の規則は、省の下に置かれた委員会や庁の長官が定めるので、さらにその下、と考えます。人事院規則と会計検査院規則は、省や外局とは別の系統の機関が定める規則なので、別枠です。序列を、一列で言い切らないようにしてください。共通点も大事です。どの形式の命令も、法律の委任がなければ、罰則を設け、義務を課し、国民の権利を制限することはできません。政令に罰則を置けるのも、法律の特別の委任があるときだけです。さきほどの、委任の要否を、形式ごとに確かめたことになります。もう1つ、実用的な知識です。題名と種類は、一致するとは限りません。何々法施行令は、政令です。ところが、何々法施行規則は、府令のこともあれば、省令のことも、外局の規則のこともあります。題名だけでは決まりません。種類は、法令番号で分かります。何々省令第何号、と書いてあるからです。ここで1問です。何々法施行規則は、行政規則ですか?

名前が規則なので、行政規則だと思いかけましたが、違いますよね。府令や省令なら、国民を直接縛る法規命令のはずです。名前に規則とあっても、国民を直接縛るなら、法規命令です。次の節で、この混同を整理します。

つまずき——「命令」「規則」の多義性

「命令」と「規則」の多義性(命令=①法令用語の命令〔一般的なルールの形式・今日の主題〕②処分としての命令〔特定の人に作為・不作為を命じる=営業停止命令・是正命令〕/規則=施行規則〔府省令〕・外局の規則・人事院規則・会計検査院規則・長の規則→法規命令または自主法/学問上の行政規則=内部基準〔実定法の語ではない〕/名前で決めず、誰がどんな根拠で定め、国民を直接縛るかで見る) 図:「命令」と「規則」の多義性

  • 命令=①法令用語の命令〔一般的なルールの形式・今日の主題〕②処分としての命令〔特定の人に作為・不作為を命じる=営業停止命令・是正命令〕
  • 規則=施行規則〔府省令〕・外局の規則・人事院規則・会計検査院規則・長の規則→法規命令または自主法
  • 学問上の行政規則=内部基準〔実定法の語ではない〕
  • 名前で決めず、誰がどんな根拠で定め、国民を直接縛るかで見る

この分野には、言葉のつまずきが2つあります。順に整理します。1つ目は、命令です。命令には、意味が2つあります。第1章で、紛らわしいと一度触れました。1つは、今日の主題の、法令用語としての命令です。政令や省令のような、行政機関が定める一般的なルールの形式です。もう1つは、処分としての命令です。特定の人に、あることをしなさい、あるいはしてはいけない、と命じるものです。営業停止命令や、違反の是正命令が、この例です。見るのは、一般的か、特定の相手か、です。不特定多数に向けたルールの形式なら、法令用語の命令です。特定の人に向けて、これをしなさいと命じているなら、処分としての命令です。法令に命令とあるときは、後者のことも、よくあります。2つ目は、規則です。規則も、多義的です。何々法施行規則と呼ばれる、府令や省令。これは、法規命令です。外局の委員会や庁の長官が定める規則も、法規命令です。人事院規則と会計検査院規則も、命令の一種で、法規命令です。ここまでの国の規則は、どれも、国民を直接縛り得ます。地方公共団体の長が定める規則は、国の命令ではなく、自主法です。第2章で見たとおり、住民に義務を課すには、原則として、長の規則ではなく、条例が要ります。一方で、学問上の行政規則は、法的な性質に着目した言葉です。国民を直接縛らない、内部の基準を指します。実定法の用語ではありません。法令の題名に行政規則と書いてあるわけではないのです。

さらに、名前が規則でも、内部の取扱いを定めるだけのものがあります。たとえば、補助金の交付の手続を定める、内部の規程です。組織の編成を定める、組織規則もあります。これらは、国民を直接縛らない内部のものです。誰が、どんな根拠で定め、国民を直接縛るのか、で見ます。何々施行規則は行政規則、と答案に書くと、誤りになります。ついでに、要綱や、ガイドラインや、手順書と呼ばれるものも、国民を直接縛らない内部の基準です。学問上は、行政規則に分類します。

告示——入れ物の名前で中身は決まらない

告示の4つの顔(告示=大臣・委員会・庁の長官が公示が必要なときに発する形式〔国家行政組織法14条1項〕=中身は決まっていない/㋐事実の周知/㋑処分の効力発生の要件=帰化の許可は告示の日から効力〔国籍法10条〕/㋒行政内部の規定の公示/㋓法規命令として機能=不公正な取引方法の指定は告示〔独占禁止法72条〕) 図:告示の4つの顔

  • 告示=大臣・委員会・庁の長官が公示が必要なときに発する形式〔国家行政組織法14条1項〕=中身は決まっていない
  • ㋐事実の周知
  • ㋑処分の効力発生の要件=帰化の許可は告示の日から効力〔国籍法10条〕
  • ㋒行政内部の規定の公示
  • ㋓法規命令として機能=不公正な取引方法の指定は告示〔独占禁止法72条〕

最後に、冒頭の3枚目、大臣の告示です。告示は、第2章で、国家行政組織法14条1項として見ました。大臣や委員会や庁の長官が、所掌事務について、公示が必要なときに発する形式です。国民に知らせる形、と説明しました。内閣府やデジタル庁にも、同じ趣旨の定めがあります。ここで大事なのは、告示は、知らせる形であって、中身が決まっていない、という点です。入れ物の名前なのです。中身は、大きく4つに分かれます。1つ目は、単に事実を周知するものです。2つ目は、処分の効力が生じる要件になるものです。たとえば、帰化の許可は、官報に告示され、その告示の日から効力が生じます。国籍法10条です。3つ目は、行政内部の規定を公示するものです。4つ目は、法規命令として働くものです。たとえば、不公正な取引方法の指定は、告示で行う、と独占禁止法72条が定めています。法律が、告示によると決めている例です。条番号は覚えなくて構いません。

判例にも、中身の違う告示が出てきます。3つ見ます。どの告示が、どう扱われたのかをつかんでください。

告示の中身——3つの判例(①生活保護基準〔最判平24・2・28 民集66巻3号1240頁〕=生活保護法8条1項が大臣の定める基準に委ねた保護基準/裁量審査で判断・告示の性質は断定していない / ②学習指導要領〔最判平2・1・18 集民159号1頁〕=学校教育法施行規則が大臣の公示する学習指導要領による/法規としての性質を有する / ③固定資産評価基準〔最判平25・7・12 民集67巻6号1255頁〕=地方税法が総務大臣の告示に委ねる/基準による価格を上回れば違法・外部に効くが、基準で価格を決めきるわけではない) 図:告示の中身——3つの判例

  • ①生活保護基準〔最判平24・2・28 民集66巻3号1240頁〕=生活保護法8条1項が大臣の定める基準に委ねた保護基準/裁量審査で判断・告示の性質は断定していない
  • ②学習指導要領〔最判平2・1・18 集民159号1頁〕=学校教育法施行規則が大臣の公示する学習指導要領による/法規としての性質を有する
  • ③固定資産評価基準〔最判平25・7・12 民集67巻6号1255頁〕=地方税法が総務大臣の告示に委ねる/基準による価格を上回れば違法・外部に効くが、基準で価格を決めきるわけではない

1つ目は、生活保護の保護基準です。生活保護法8条1項が、保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した需要を基とする、と定めています。その基準が告示で出ています。高齢の受給者への加算を廃止した改定が争われ、最高裁は、改定が大臣の裁量の範囲内かを審査して、請求を退けました。ここで注意です。この判決は、告示の性質を、法規命令だと断じたわけではありません。性質の分類を論じていないのです。位置づけとしては、国民の受給額を左右する、外向きの基準が、告示で出ている例です。裁量を審査する中身は、後の回で扱います。2つ目は、学習指導要領です。学校教育法施行規則は、高校の教育課程について、文部科学大臣が別に公示する学習指導要領による、と定めています。つまり、告示に委ねています。最高裁の判決を見ます。

判例最判平2・1・18 集民159号1頁

学習指導要領は法規としての性質を有する 高等学校学習指導要領(昭和三五年文部省告示第九四号)は法規としての性質を有するとした原審の判断は、正当として是認することができ

主語に気をつけてください。法規としての性質があると判断したのは原審で、最高裁は、その判断を是認した、という形です。なぜ法規と言えるのか。学校教育法施行規則が、教育課程の基準を大臣の告示に委ねているからだ、と説明されます。委任を受けた告示なので、外の人、ここでは教える側を、法的に縛る、という理解です。冒頭の3枚目と、同じ形です。3つ目は、固定資産評価基準です。地方税法は、総務大臣に、土地などの評価の基準を定めて告示させています。そして、市町村長に、その基準によって価格を決定するよう求めています。最高裁の判決です。

判例最判平25・7・12 民集67巻6号1255頁

評価基準による価格を上回る登録価格は違法 このような全国一律の統一的な評価基準に従って公平な評価を受ける利益は、適正な時価との多寡の問題とは別にそれ自体が地方税法上保護されるべきものということができる。したがって、土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず、その登録価格の決定は違法となるものというべきである。

登録価格が、評価基準による価格を上回れば、実際の時価を上回るかどうかに関係なく、違法になる、と言っています。公平な評価を受ける利益そのものが、法律上守られるからです。つまり、この告示は、納税者の側から見て、外に効いています。固定資産評価基準が法規命令と位置づけられるかには、議論があります。判決は法規命令かどうかを論じていませんが、基準どおりの価格は、特別の事情がなければ、適正な時価を上回らないと推認される、とも述べています。推認ですから、基準では時価を適切に算定できない特別の事情があれば、覆ります。基準が、価格を最後まで決めきるわけではないのです。3件をまとめます。生活保護基準は、国民の受給額を左右する外向きの基準。学習指導要領は、法規としての性質ありとされた例。固定資産評価基準は、外に効くが、基準で価格を決めきるわけではない例です。同じ告示という形式でも、扱われ方は一様ではありません。

行手法2条1号と8号イ——告示の扱い(2条1号「法令」=法律・法律に基づく命令〔告示を含む〕・条例・規則/2条8号イ「命令等」=法律に基づく命令〔処分の要件を定める告示を含む〕又は規則/すべての告示が命令等ではない/「告示だから法規命令」「告示だから行政規則」はどちらも誤り) 図:行手法2条1号と8号イ——告示の扱い

  • 2条1号「法令」=法律・法律に基づく命令〔告示を含む〕・条例・規則
  • 2条8号イ「命令等」=法律に基づく命令〔処分の要件を定める告示を含む〕又は規則
  • すべての告示が命令等ではない
  • 「告示だから法規命令」「告示だから行政規則」はどちらも誤り

最後に、行政手続法が告示をどう扱うかを見ます。2条1号です。

条文行政手続法2条1号

行政手続法第2条第1号  一 法令 法律、法律に基づく命令(告示を含む。)、条例及び地方公共団体の執行機関の規則(規程を含む。以下「規則」という。)をいう。

法令の定義の中で、法律に基づく命令に、告示を含む、としています。告示が、命令と同じ扱いを受けることがある、という意味です。一方、さきほどの2条8号イは、意見公募手続の対象となる命令等に含める告示を、処分の要件を定める告示、に絞っていました。すべての告示が、命令等というわけではありません。なお、告示が、個別の人に直接効く場面は、後の回で扱います。ですから、告示だから法規命令、告示だから行政規則、という決めつけは、どちらも誤りです。告示に出会ったら、2点を確かめます。1つ目は、何を定めているか。周知か、効力発生の要件か、内部の規定か、国民を縛る基準か、です。2つ目は、法律が、その告示に委ねているか、です。冒頭の3枚目に戻ります。庫内の温度の基準でした。法律が、大臣の告示に委ねた、許可の可否を決める基準です。ですから、告示という名前でも、国民を縛る外向きの基準です。同じ数字でも、業界に目安を知らせるだけの告示なら、国民を縛りません。名前では決まりません。中身で見ます。

今日のまとめ

今日の地図(保存版)(①行政が具体化のためにルールを作る・呼び名は行政基準〔行政規則は憲法41条の立法でない〕②法規命令=国民を直接縛る・法律の委任が要る/行政規則=内部基準・委任は要らない③二分は揺らぐ〔内部基準の外部化・命令等〕が答案の出発点④命令の形式=政令・府令・庁令・省令・外局の規則・人事院や会計検査院の規則/長の規則は別枠・どれも委任なしに義務は課せない⑤「命令」「規則」は多義的・告示は中身で見る〔周知/効力発生/内部規定/法規命令的〕) 図:今日の地図

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  • (①行政が具体化のためにルールを作る・呼び名は行政基準〔行政規則は憲法41条の立法でない〕②法規命令=国民を直接縛る・法律の委任が要る/行政規則=内部基準・委任は要らない③二分は揺らぐ〔内部基準の外部化・命令等〕が答案の出発点④命令の形式=政令・府令・庁令・省令・外局の規則・人事院や会計検査院の規則/長の規則は別枠・どれも委任なしに義務は課せない⑤「命令」「規則」は多義的・告示は中身で見る〔周知/効力発生/内部規定/法規命令的〕)

冒頭の問いに、答えます。同じ行政基準でも、国民を縛る力は、中身で決まります。1つ目。行政は、抽象的な法律を具体化するために、ルールを作ります。その総称を、行政基準と呼びます。行政規則は、憲法41条の立法ではないからです。2つ目。法規命令は、国民を直接縛り、法律の委任が要ります。行政規則は、行政内部の基準で、委任は要りません。見分ける物差しは、国民と行政の関係を、直接規律するかです。3つ目。二分は、揺らいでいます。内部の基準が、国民の扱いを事実上左右しますし、行政手続法は、命令等として、両方を一括して扱います。それでも、答案では、二分が出発点です。4つ目。命令の形式は、政令、内閣府令、デジタル庁令、省令、外局の規則、人事院や会計検査院の規則です。長の規則は、別枠です。どれも、法律の委任がなければ、義務や権利の制限を、設けられません。5つ目。命令も規則も、多義的です。名前では決めません。告示も、入れ物の名前で、中身は一様ではありません。

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#36単独ページ動画

執行命令と委任命令

第3章 行為形式の地図と行政基準 ㊱/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ省令の3か条

架空の屋上菜園登録制度(実在の制度とは無関係/左=架空の法律の抜粋〔屋上菜園を運営しようとする者は、国土交通大臣の登録を受けなければならない。/登録を受けるには、国土交通省令で定める資格を持つ管理責任者を置かなければならない。〕※条番号は付けない/右=国土交通省令の3か条〔1 管理責任者は、造園施工管理の資格を持つ者とする/2 登録申請書は、別記様式により窓口に提出する/3 登録申請書には、周辺の住民の同意書を添付しなければならない〕/問い=法律のどこにも住民の同意は出てこない。3は有効か) 図:架空の屋上菜園登録制度

  • 実在の制度とは無関係
  • 左=架空の法律の抜粋〔屋上菜園を運営しようとする者は、国土交通大臣の登録を受けなければならない。/登録を受けるには、国土交通省令で定める資格を持つ管理責任者を置かなければならない。〕※条番号は付けない
  • 右=国土交通省令の3か条〔1 管理責任者は、造園施工管理の資格を持つ者とする/2 登録申請書は、別記様式により窓口に提出する/3 登録申請書には、周辺の住民の同意書を添付しなければならない〕
  • 問い=法律のどこにも住民の同意は出てこない。3は有効か

前に、法規命令で国民に義務を課すには、法律の委任が要ると見ました。今日はその先です。法規命令といっても、法律との結びつき方で種類が分かれます。名前だけは前回出しました。委任命令と執行命令です。今日はその中身をはっきりさせます。最初に、架空の話をします。屋上菜園を運営するには、国の登録を受ける。そういう制度があるとします。実在の制度とは関係がありません。法律が定めているのは、2点だけです。登録を受けなければならないこと。そして、管理責任者を置くこと、その資格は省令で定めることです。住民の同意については、法律のどこにも書いてありません。この法律を受けて、国土交通省が省令を出しました。3か条あります。1か条目は、管理責任者は、造園施工管理の資格を持つ者とする。2か条目は、登録申請書は、別記様式、つまり省令の末尾に付けた書式により窓口に提出する。3か条目は、登録申請書には、周辺の住民の同意書を添付しなければならない。

同じ省令に並んでいても、法律との結びつき方が違います。法律に住民の同意は出てこないのに、3か条目は有効なのでしょうか。今日は、省令の条文を、法律との結びつき方で見分ける物差しを手に入れます。先に言っておくと、見るのは条文の形ではなく、中身です。3か条目の答えは、終盤で出します。

法規命令の3分類と、許されない独立命令

法規命令の3分類(名前/法律との結びつき/現行憲法で許されるか/執行命令=法律を前提に、実施のための事項を定める/許される/委任命令=法律の委任を受けて、権利義務の中身を定める/許される/独立命令=法律から独立して、議会を通さず出す命令/許されない〔憲法41条・国会は唯一の立法機関〕/明治憲法では緊急命令〔8条〕・独立命令〔9条〕として認められていた) 図:法規命令の3分類

  • 名前
  • 法律との結びつき
  • 現行憲法で許されるか
  • 執行命令=法律を前提に、実施のための事項を定める
  • 許される
  • 委任命令=法律の委任を受けて、権利義務の中身を定める
  • 許される
  • 独立命令=法律から独立して、議会を通さず出す命令
  • 許されない〔憲法41条・国会は唯一の立法機関〕
  • 明治憲法では緊急命令〔8条〕・独立命令〔9条〕として認められていた

まず全体像です。法規命令は、法律との結びつき方で、3つに分けられます。執行命令、委任命令、独立命令です。先に結論を言います。3つに分けますが、現行の憲法の下で許されるのは、執行命令と委任命令の2つだけです。独立命令は許されません。3種類とも有効、と覚えないでください。独立命令とは、どういうものですか。法律から独立して出される命令です。法律の根拠も委任もなく、議会を通さずに、国民の権利義務を定めてしまう命令のことです。たとえば、屋上菜園の法律が何も無いのに、大臣が省令だけで、屋上菜園を始めるには登録が要る、と決めてしまう。これが独立命令です。明治憲法では、これが認められていました。憲法の回で、議会の閉会中に法律に代わって出す緊急命令と、法律の執行とは別の目的で出す独立命令を見ました。どちらも、天皇が議会を通さずに出せたのです。

今は、なぜ出せないのでしょうか。憲法41条が、国会を国の唯一の立法機関と定めているからです。国民の権利義務を定める一般的なルールは、国会が法律で作るのが原則です。法律と関係なく、命令だけで国民の権利義務を決められるとすると、国会の立法権を行政が横取りすることになります。ですから、現行法で出会うのは、執行命令と委任命令の2つだけです。この2つを、順に見ていきます。

執行命令——実施のための細目

執行命令(定義=法律があることを前提に、その法律を実施するために必要な事項を定める命令/典型=申請書の様式・記載事項・添付書類・提出先〔手続と形式〕/根拠=憲法73条1号〔法律を誠実に執行〕・6号本文〔この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること〕/省令は国家行政組織法12条1項「法律若しくは政令を施行するため」/内閣府令は内閣府設置法7条3項/個別の委任=不要/限界=新しい義務・新しい要件は足せない) 図:執行命令

  • 定義=法律があることを前提に、その法律を実施するために必要な事項を定める命令
  • 典型=申請書の様式・記載事項・添付書類・提出先〔手続と形式〕
  • 根拠=憲法73条1号〔法律を誠実に執行〕・6号本文〔この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること〕
  • 省令は国家行政組織法12条1項「法律若しくは政令を施行するため」
  • 内閣府令は内閣府設置法7条3項
  • 個別の委任=不要
  • 限界=新しい義務・新しい要件は足せない

1つ目は、執行命令です。すでにある法律を動かすための段取り、つまり手続や形式の細目を定める命令です。典型は、申請書の様式、記載する事項、添付する書類、提出先といった、手続や形式の細目です。冒頭の2か条目、申請書は別記様式により窓口に提出する、が、これに当たります。法律に定めがなくても、省令で決めてよいのです。ここが執行命令の特徴です。個別の委任、つまり、その事柄を名指しして省令に任せる法律の規定がなくても、定められます。

条文日本国憲法73条(柱書・1号・6号)

日本国憲法第73条(柱書・1号・6号) 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。 一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。 六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

根拠は、憲法にあります。73条1号は、内閣の仕事として、法律を誠実に執行することを挙げています。6号の本文は、憲法と法律の規定を実施するために、政令を制定することを挙げています。省令は、国家行政組織法12条1項の、法律若しくは政令を施行するため、という部分が根拠です。内閣府令も、内閣府設置法7条3項に同じ形の定めがありました。どれも既に見た条文です。理由は2つです。1つは、法律を執行するのが、行政の最も基本的な仕事だからです。登録の制度を動かすには、申請書の様式も、受付の窓口も、決めなければ動きません。その段取りまで、いちいち法律に書かせるわけにはいきません。もう1つは、そうした細目が、国民に新しい負担を加えるものではないからです。法律がすでに決めた中身を、動かすための道具立てを整えるだけです。たとえで考えます。ある大会に規約があるとします。受付の場所や、記入用紙の書式は、運営が規約の改正なしに決められます。ところが、運営が、優勝資格は会員に限る、と書き足したらどうでしょう。これは、規約そのものを改正しなければ、できないことです。執行命令も同じです。法律の中身を実施する手続は、委任なしに決められます。しかし、国民に新しい義務を課したり、新しい要件を足したりすることは、できません。それは、委任がなければ許されない領域です。内閣法11条、内閣府設置法7条4項、国家行政組織法12条3項が、いずれも、委任がなければ義務を課せない、と定めていました。罰則も同じで、憲法73条6号のただし書により、法律の特別の委任がなければ置けません。

ここで1問です。法律に「省令で定める」という規定が何もないとき、省令で申請書の様式を決めてよいでしょうか。実施のための細目なので、決めてよいと思います。執行命令として、個別の委任なしに定められます。

委任命令——任されて中身を定める

委任命令(定義=法律の委任〔授権〕を受けて制定する命令/定めるもの=権利義務の中身〔要件・対象・内容〕/条文の形=「国土交通省令で定める」/根拠の筋道=憲法73条6号ただし書〔法律の特別の委任があれば、政令に罰則を設けられる〕→罰則という最も重い規制すら委任で可→権利義務の一般的な定めを委任で置くことも憲法は許す/省令=国家行政組織法12条1項「法律若しくは政令の特別の委任に基づいて」/政令=内閣法11条/例=1か条目〔管理責任者の資格〕) 図:委任命令

  • 定義=法律の委任〔授権〕を受けて制定する命令
  • 定めるもの=権利義務の中身〔要件・対象・内容〕
  • 条文の形=「国土交通省令で定める」
  • 根拠の筋道=憲法73条6号ただし書〔法律の特別の委任があれば、政令に罰則を設けられる〕→罰則という最も重い規制すら委任で可→権利義務の一般的な定めを委任で置くことも憲法は許す
  • 省令=国家行政組織法12条1項「法律若しくは政令の特別の委任に基づいて」
  • 政令=内閣法11条
  • 例=1か条目〔管理責任者の資格〕

2つ目に入る前に、前回の復習です。法規命令で国民に義務を課すために、必要だったものは何でしたか?法律の委任です。内閣法11条でした。その委任を受けて作る命令が、委任命令です。委任命令とは、法律の委任、つまり任せるという授権を受けて、行政機関が制定する命令です。定めるのは、権利義務の中身です。誰が対象か、どんな要件か、どんな内容か、といったことです。条文の形は、国土交通省令で定める、のような形が典型です。冒頭の1か条目が、これです。管理責任者の資格は、法律が、省令で定める、と任せました。だから省令は、造園施工管理の資格を持つ者、と決められます。法律が任せていなければ、省令が勝手に資格の要件を足すことは、できません。

法律が行政に任せてよいのかという問題は、憲法の回で扱いました。ここでは筋道だけ思い出します。憲法73条6号のただし書は、法律の特別の委任があれば、政令に罰則を置ける、としています。憲法自身が、委任というやり方があることを前提にしているわけです。そこから一歩進めると、罰則は、最も重い規制です。それすら委任で置けるのですから、権利義務の一般的な定めを、委任で置くことも、憲法は許していると読めます。委任命令の根拠は、政令なら内閣法11条です。省令なら、国家行政組織法12条1項の、法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、という部分です。ここで、特別の、という言葉に注意してください。何を任せるのかが分かる、個別の委任であることが前提です。ほとんど何も絞らずに任せる白紙委任は許されない、という線も、憲法の回で見ました。どこまで任せてよいかは、後の回で詳しく見ます。委任を受けて作られた命令は、委任された範囲で、国民の権利義務を直接動かします。前に見たとおり、法規命令は法令の一部です。有効であれば、裁判所もそれに従います。

見分けの物差しと、鉄道事業法66条の言い直し

見分けの物差し(問い1=法律に、個別の委任規定〔「省令で定める」型〕があるか/問い2=定める中身は、権利義務の中身〔要件・対象・内容〕か、法律を実施する手続・形式か/委任規定があり権利義務の中身を決める→委任命令/手続・形式の細目→執行命令〔委任規定の有無を問わない〕/委任規定がなく権利義務の中身を新しく決める→どちらにもなれない=法律の裏付けがない/冒頭の3か条=1か条目は委任命令・2か条目は執行命令・3か条目は次の節へ) 図:見分けの物差し

  • 問い1=法律に、個別の委任規定〔「省令で定める」型〕があるか
  • 問い2=定める中身は、権利義務の中身〔要件・対象・内容〕か、法律を実施する手続・形式か
  • 委任規定があり権利義務の中身を決める→委任命令
  • 手続・形式の細目→執行命令〔委任規定の有無を問わない〕
  • 委任規定がなく権利義務の中身を新しく決める→どちらにもなれない=法律の裏付けがない
  • 冒頭の3か条=1か条目は委任命令・2か条目は執行命令・3か条目は次の節へ

ここまでをまとめて、見分けの物差しにします。問いは2つです。1つ目は、法律に、省令で定める、という個別の委任規定があるかです。2つ目は、その条文が定めている中身が、権利義務の中身なのか、法律を実施するための手続や形式なのかです。委任規定があって、権利義務の中身を決めているなら、委任命令です。手続や形式の細目なら、委任規定の有無を問わず、執行命令です。そして、委任規定がないのに、権利義務の中身を新しく決めているなら、委任命令にも執行命令にもなれません。法律の裏付けがないからです。冒頭に当てはめます。1か条目の資格は、法律が任せた権利義務の中身ですから、委任命令です。2か条目の様式と提出先は、実施の手続ですから、執行命令です。3か条目は、少し後で扱います。ここで、第1章で見た鉄道事業法に戻ります。鉄道会社の運賃や料金を規制する法律でした。あの回では、運賃や料金を決める条文と、手続を省令に任せる条文を、どちらも法律から省令に落ちていく型として並べました。委任命令と同じ型、と整理しました。

鉄道事業法を今日の物差しで分け直す(左=16条1項〔上限認可の対象となる料金の範囲を、国土交通省令で定める〕=どの料金が規制の対象になるかという権利義務の範囲を任せている→委任命令/右=66条の全文〔この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な手続その他の事項は、国土交通省令で定める。〕=実施のための手続を任せている→執行命令の領域/66条が任せるのは「実施のため必要な」事項まで・新しい許可要件を足す根拠にはならない) 図:鉄道事業法を今日の物差しで分け直す

  • 左=16条1項〔上限認可の対象となる料金の範囲を、国土交通省令で定める〕=どの料金が規制の対象になるかという権利義務の範囲を任せている→委任命令
  • 右=66条の全文〔この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な手続その他の事項は、国土交通省令で定める。〕=実施のための手続を任せている→執行命令の領域
  • 66条が任せるのは「実施のため必要な」事項まで・新しい許可要件を足す根拠にはならない

あのときの整理を否定するのではありません。あのときは、法律から省令に落ちる、という共通点で見ました。今日は、任せている中身で分けます。すると、2つの条文は性質が違います。鉄道事業法16条1項は、上限認可、つまり運賃や料金の上限を国が審査してお墨付きを与える仕組みについて、その対象となる料金の範囲を、国土交通省令で定めるとしています。どの料金が規制の対象になるのかは、事業者の権利義務の範囲そのものです。これは委任命令です。66条は、板に全文を出しています。この法律の実施のため必要な手続その他の事項は、国土交通省令で定める、です。任せているのは、実施のための手続です。これは執行命令の領域です。66条のような規定がなくても、実施の手続は、執行命令として定められます。ですから、66条は、そのことを確かめるような規定と読めます。憲法の回では、実施に関し必要な事項は政令で定める、という言い回しを、委任のよくある形として見ました。あそこで見たのは、その形で任せてよいか、でした。今日見ているのは、その言い回しで何が任されたか、です。66条が任せたのは、実施のため必要な手続までです。

66条に、省令で定める、と書いてあるのだから、省令で何を定めてもよいのでしょうか。違います。そこが落とし穴です。66条が任せているのは、実施のため必要な事項までです。ここに、新しい許可の要件を足す根拠は、ありません。条文に、省令で定める、とあれば何でも委任命令になる、というわけではないのです。個別の法令は暗記する必要はありません。見るのは、何を任せているかです。もう1つ、題名についてです。題名に施行規則と付く省令の条文は、すべて執行命令といえるでしょうか。施行規則なので、実施の細目と考えたくなりますが、いえないのです。施行規則の中にも、委任を受けて権利義務の中身を定める条文があります。それは委任命令です。題名と、執行命令か委任命令かの区別は、一致しません。見るのは、その条文が何を根拠に、何を定めているかです。

見分けにくさ——委任の枠が見えなくなる

委任の枠が見えなくなる図(上段=委任命令〔法律が「何を任せたか」の枠を引く→命令はその枠の内側にいる→はみ出せば条文と見比べて分かる〕/下段=執行命令の形で入った新しい要件〔執行命令には見比べる枠がない→「添付書類」の顔で手続に見える→足したことに気づかれず通る〕/冒頭の3か条目=住民の同意書の添付:同意が得られなければ登録を受けられない→登録の新しい要件/見分けのコツ=その条文を取り除いたら、国民の権利義務の中身が変わるか) 図:委任の枠が見えなくなる図

  • 上段=委任命令〔法律が「何を任せたか」の枠を引く→命令はその枠の内側にいる→はみ出せば条文と見比べて分かる〕
  • 下段=執行命令の形で入った新しい要件〔執行命令には見比べる枠がない→「添付書類」の顔で手続に見える→足したことに気づかれず通る〕
  • 冒頭の3か条目=住民の同意書の添付:同意が得られなければ登録を受けられない→登録の新しい要件
  • 見分けのコツ=その条文を取り除いたら、国民の権利義務の中身が変わるか

頭の中の整理は、ここまででついたと思います。ところが、実際の条文は、委任なのか執行なのか、ぱっと見では区別がつかないことが少なくありません。ここが今日の山場です。冒頭の3か条目に戻ります。登録申請書には、周辺の住民の同意書を添付しなければならない。同意書の添付は、添付書類です。添付書類なら、手続の細目として、執行命令で自由に定めてよいのでしょうか。確かに、添付書類という形は手続です。しかし、中身を見てください。住民の同意が得られなければ、登録は受けられません。つまり、この条文は、登録を受けられるかどうかを左右する、新しい要件を足しています。2か条目と比べます。様式や提出先は、法律が定めた登録を、どう実施するかの手続です。それを取り除いても、登録を受けられる人の範囲は変わりません。3か条目は、取り除くと、登録を受けられる人の範囲が変わります。見分けのコツは、ここにあります。条文の形ではなく、その条文を取り除いたら、国民の権利義務の中身が変わるか、で見ます。変わるなら、委任が要ります。

法律が委任していれば、要件として定める余地はあります。ただ、この法律は、省令に任せたのは管理責任者の資格だけです。住民の同意は、任せられていません。ですから、3か条目は、委任命令としては根拠がありません。執行命令としても、実施の手続の範囲を超えています。新しい要件を足したものとして、法律の裏付けのない命令になります。委任がなければ義務を課せない、という内閣法11条や、国家行政組織法12条3項の考え方からも、許されないと考えます。先ほどの66条のような、実施のため必要な事項は省令で定める、という規定が法律にあれば、3か条目も有効になりませんか。なりません。66条が任せるのは、実施のため必要な手続までです。新しい要件を足すことは、含みません。なぜ、この区別が大切なのか。図で見ます。委任命令には、法律が引いた、何を任せたか、という枠があります。命令がその枠からはみ出せば、法律の条文と見比べることで分かります。ところが、執行命令には、見比べる枠がありません。新しい要件は足せない、という限界は先ほど見ましたが、その限界は、中身を見なければ働きません。新しい要件が、添付書類の顔をして入り込むと、形の上では手続に見えるので、足したことに気づかれないまま素通りしてしまいます。これが、委任の枠が見えなくなる、ということです。ですから、答案で省令の条文を見たら、形に騙されず、中身で見てください。委任の範囲を超えたかどうかを、どう判断するかは、後の回で詳しく見ます。今日は、形ではなく中身で見る、というところまでです。ここは、論文で論点になりうる、とだけ言っておきます。

なぜ委任は増えるのか——統制の2つの視点

委任が増える3つの理由と統制の2視点(理由1=国会は開かれる期間が限られ、動きが遅い/理由2=細かな技術基準や地域の違いは全国一律の法律に書きにくい/理由3=多数決で動く政治の場は、中立に決めたい事柄に向かない/批判=委任が多すぎる・任せ方が甘い・事実上の法づくりを行政が担う/それでも避けにくい流れ→要ることは認め、任せ方と歯止めを考える/2つの視点〔法律→委任→命令の流れの2か所〕=法律の側〔任せ方が適切か〕・命令の側〔任された範囲で作られたか〕) 図:委任が増える3つの理由と統制の2視点

  • 理由1=国会は開かれる期間が限られ、動きが遅い
  • 理由2=細かな技術基準や地域の違いは全国一律の法律に書きにくい
  • 理由3=多数決で動く政治の場は、中立に決めたい事柄に向かない
  • 批判=委任が多すぎる・任せ方が甘い・事実上の法づくりを行政が担う
  • それでも避けにくい流れ→要ることは認め、任せ方と歯止めを考える
  • 2つの視点〔法律→委任→命令の流れの2か所〕=法律の側〔任せ方が適切か〕・命令の側〔任された範囲で作られたか〕

ここまで、委任の枠が歯止めになることを見てきました。では、そもそも、なぜ委任命令が、これほど多いのでしょうか。法律で全部決めればよいのではないか、という素朴な疑問です。理由は3つあります。憲法の回で見た、迅速性、専門性、中立性の3つを、国会の側の事情から見直します。1つ目は、国会は開かれる期間が限られ、動きが遅いので、世の中の変化に追いつきにくいことです。2つ目は、細かな技術基準や地域ごとの違いは、全国一律の法律には書きにくいことです。3つ目は、国会は多数決で動く政治の場なので、政治から離して中立に決めたい事柄には向かないことです。たとえば、公務員の採用試験の細かな基準を、そのときの多数派が決めると、公正さが疑われます。鉄道の料金の回で、省令に任せる理由を2つ見ました。実情を知る役所のほうが的確に決められること、そして、法律に書くと見直しが間に合わないことです。冒頭の設例も同じです。管理責任者に、どの資格を求めるのがよいかは、専門的で、技術が変われば見直しも要ります。そのたびに国会で法律を改正していては、間に合いません。そこで、法律は基本的な事項を定め、詳しい中身は命令に任せることになります。

そうした批判は、実際にあります。委任が多すぎる。任せ方が甘い。任せすぎれば、事実上の法づくりを行政が担うことになり、憲法上の問題が出る、というものです。けれども、国の仕事が広がった現代では、委任が増えるのは避けにくい流れでもあります。ですから、考え方はこうです。委任が要ることは認める。そのうえで、任せ方と歯止めを考える。その統制は、2つの視点に切り分けられます。委任する法律の側と、委任された命令の側です。法律が、任せ方として適切か。そして、命令が、任された範囲で、適切に作られたか。法律から委任、委任から命令へ続く流れの、2か所を見るイメージです。それぞれの中身は、後の回で詳しく見ます。

今日のまとめ

今日の地図(保存版)(1 法規命令は執行命令・委任命令・独立命令。独立命令は憲法41条の下で許されない/2 執行命令=法律を実施する手続・形式の細目。個別の委任なしに可〔憲法73条1号・6号本文、国家行政組織法12条1項〕。新しい義務・要件は足せない/3 委任命令=委任を受けて権利義務の中身を定める。罰則すら委任で可〔73条6号ただし書〕だから一般的な定めも可/4 物差し=個別の委任の有無×中身〔権利義務か手続か〕。題名や「省令で定める」の形では決まらない。鉄道事業法16条1項は委任命令・66条は執行命令の領域/5 委任が要る中身が執行命令の形で入ると委任の枠が見えなくなる。取り除いたら権利義務の中身が変わるかで見る/6 委任の増加は避けにくい流れ。統制は法律の側と命令の側に分けて考える) 図:今日の地図

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  • (1 法規命令は執行命令・委任命令・独立命令。独立命令は憲法41条の下で許されない/2 執行命令=法律を実施する手続・形式の細目。個別の委任なしに可〔憲法73条1号・6号本文、国家行政組織法12条1項〕。新しい義務・要件は足せない/3 委任命令=委任を受けて権利義務の中身を定める。罰則すら委任で可〔73条6号ただし書〕だから一般的な定めも可/4 物差し=個別の委任の有無×中身〔権利義務か手続か〕。題名や「省令で定める」の形では決まらない。鉄道事業法16条1項は委任命令・66条は執行命令の領域/5 委任が要る中身が執行命令の形で入ると委任の枠が見えなくなる。取り除いたら権利義務の中身が変わるかで見る/6 委任の増加は避けにくい流れ。統制は法律の側と命令の側に分けて考える)

冒頭の問いに答えます。住民の同意書を添付せよ、という3か条目は、無効です。添付書類の形をしていても、登録の新しい要件を足していて、法律の委任も裏付けもないからです。今日の内容を整理します。1つ目。法規命令は、執行命令、委任命令、独立命令に分けられます。ただし、独立命令は、国会を唯一の立法機関とする憲法41条の下で許されません。出会うのは、前の2つです。2つ目。執行命令は、法律を実施するための、手続や形式の細目です。個別の委任がなくても定められます。ただし、新しい義務や要件は足せません。3つ目。委任命令は、法律の委任を受けて、権利義務の中身を定めます。罰則すら委任で置けるのだから、一般的な定めも委任で置ける、と読みます。4つ目。見分ける物差しは、個別の委任があるかと、中身が権利義務か手続か、の2つです。題名や、省令で定める、という形では決まりません。鉄道事業法の16条1項は委任命令、66条は執行命令の領域でした。5つ目。委任が要る中身が、執行命令の形で入り込むと、委任の枠が見えなくなります。条文を取り除いて、権利義務の中身が変わるかで見ます。6つ目。委任が増えるのは、避けにくい流れです。委任が要ることは認めたうえで、統制は、法律の側と命令の側に分けて考えます。

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#37単独ページ動画

白紙委任の禁止

第3章 行為形式の地図と行政基準 ㊲/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ「省令で定める」の2通りの書き方

架空の屋上菜園登録制度の続き(実在の制度とは無関係/架空の法律の抜粋・2案/【A】屋上菜園の運営者の登録に関する事項は、すべて省令で定める。/【B】登録を受けることができる管理責任者の資格は、屋上の安全を保つために必要な知識及び経験を有する者として、省令で定める。※条番号は付けない/問い=どちらも「省令に任せる」。Aは有効か。Bとの違いはどこか) 図:架空の屋上菜園登録制度の続き

  • 実在の制度とは無関係
  • 架空の法律の抜粋・2案
  • 【A】屋上菜園の運営者の登録に関する事項は、すべて省令で定める。
  • 【B】登録を受けることができる管理責任者の資格は、屋上の安全を保つために必要な知識及び経験を有する者として、省令で定める。※条番号は付けない
  • 問い=どちらも「省令に任せる」。Aは有効か。Bとの違いはどこか

前回の最後に、統制は2つの視点に切り分ける、と言いました。任せる法律の側と、任された命令の側です。今日は、その前半、任せる法律の側の問題を見ます。前回の屋上菜園の登録制度を、もう一度使います。実在の制度とは関係のない、架空の話です。国が法律を作るとき、登録の要件の書き方が、2通りあったとします。Aは、屋上菜園の運営者の登録に関する事項は、すべて省令で定める。Bは、登録を受けることができる管理責任者の資格は、屋上の安全を保つために必要な知識及び経験を有する者として、省令で定める。任せること自体は許されます。ただ、どこまで任せてよいかは別の問題です。Aは有効でしょうか。Bとの違いはどこにあるでしょうか。今日持ち帰るのは、任せ方の線です。どこから白紙になるのか。そして、最高裁がその線をどう引いてきたのか。国家公務員法の政治的行為の制限と、教科書検定が、その実例になります。先に答えを言うと、Aは白紙委任として許されない疑いが強く、Bは許されます。分かれ目は、何のために、何を、どこまで任せたかが、法律から読み取れるかどうかです。

問題の立て方——法律そのものを問う

2つの視点(法律→委任→命令の流れ/左=法律の側〔今日〕=そもそも、命令に任せる法律が憲法41条に反しないか/右=命令の側〔別の回〕=任された範囲で命令が作られたか/憲法41条=国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である/憲法では「委任立法」の名で論じる) 図:2つの視点

  • 法律→委任→命令の流れ
  • 左=法律の側〔今日〕=そもそも、命令に任せる法律が憲法41条に反しないか
  • 右=命令の側〔別の回〕=任された範囲で命令が作られたか
  • 憲法41条=国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である
  • 憲法では「委任立法」の名で論じる

最初に、問題の立て方をそろえます。法規命令に関する問題は、2か所で起こります。1か所目は、任せている法律そのものです。この法律は、命令にここまで任せて、憲法に反しないのか。2か所目は、任された命令です。命令は、法律が任せた範囲の内側で作られているのか。今日は1か所目だけです。命令が範囲を超えたかどうかは、別の問題として、後の回で扱います。ここを混ぜると、答案で何を論じているのか分からなくなります。憲法41条は、国会を、国の唯一の立法機関としています。法律が中身を命令に任せるほど、本来は国会が決めるべきことを、行政が決めることになります。極端に言えば、国会が自分の仕事を手放してしまうのです。この問題を、憲法の回では委任立法と呼びました。行政法では、同じ問題を、命令を作る側から見ます。この命令の根拠になる法律は、憲法の枠に収まっているか、という見方です。前提を確認します。任せること自体は、前に見た筋道で許されます。憲法73条6号のただし書が、罰則すら委任で置けるとしているからです。迅速性や専門性といった、任せる必要も確認しました。問題は、どこまで任せてよいか、これだけです。

白紙委任の禁止——線はどこか

屋上菜園のA・Bを3列で比べる(列=何のために/何を/どこまで/【A】すべて省令で定める=何のために:読み取れない/何を:読み取れない〔登録に関する事項すべて〕/どこまで:読み取れない→白紙委任として憲法41条違反の疑いが強い/【B】管理責任者の資格を、屋上の安全のために必要な知識・経験として省令で定める=何のために:屋上の安全/何を:管理責任者の資格/どこまで:必要な知識及び経験→個別的・具体的な委任〔許される〕) 図:屋上菜園のA・Bを3列で比べる(列=何のために/何を/どこまで/【A】すべて省令で定める=何のために:読み取れない/何を:読み取れない〔登録に関する事項すべて〕/どこまで:読み取れない→白紙委任として憲法41条違反の疑いが強い/【B】管理責任者の資格を、屋上の安全のために必要な知識・経験として省令で定める=何のために:屋上の安全/何を:管理責任者の資格/どこまで:必要な知識及び経験→個別的・具体的な委任〔許される〕)

ここで、冒頭の答えを確かめます。Aの書き方は、なぜ問題なのでしょうか。Aは、登録に関することを全部まとめて省令に任せていますよね。国会は何も決めていない気がします。線の引き方は、憲法の回で見ました。法律が、何のために、何を、どこまで任せるのかを読み取れるなら、個別的、具体的な委任として許されます。それがまったく読み取れない委任が、白紙委任です。白紙委任は、国会が立法という仕事を放棄するもので、憲法41条に反します。

⭐ 論文で書く規範:白紙委任の禁止(規範・憲法41条と判例の積み重ねで立てる) 法律による委任は、何のために・何を・どこまで任せるのかが読み取れる、個別的・具体的な委任でなければならない。白紙委任は憲法41条に反する。 (条文に書かれた要件ではなく、憲法41条の趣旨と判例から立てる規範)

この線を、Aに当てはめます。Aの条文から、何のためにが読み取れるでしょうか。登録に関する事項、としか書いていません。何をも、どこまでも、読み取れません。白紙の委任状に判を押して渡したのと同じです。白紙委任として、憲法41条違反の疑いが強いと言えます。Bはどうでしょう。任せるのは、管理責任者の資格です。何をが、はっきりしています。必要な知識及び経験、という形で、どこまでかも示しています。しかも、屋上の安全を保つために、と、何のためかまで書いています。用件と範囲を書いた委任状を渡したのに近く、個別的、具体的な委任です。

命令に任せるときは、必ず目的まで書かないといけないのですか。そこが大切な点です。後で見るとおり、判例は、条文にそこまで書くことを厳しく求めてはいません。条文だけで読み取れなくても、法律全体の趣旨から、枠が読み取れればよいのです。まずは、枠が読み取れるかどうか、が物差しだと押さえてください。前回の屋上菜園の法律を思い出してください。省令で定める資格を持つ管理責任者を置け、とだけ書いていて、何のための資格かは書いていませんでした。それでも、屋上菜園の運営を登録制にして管理責任者を置かせる、という法律全体の仕組みから、何のための資格かは読み取れます。ですから、白紙委任ではありません。Aは違います。登録制という仕組みから、目的はある程度見えるかもしれません。しかし、登録に関する事項すべて、では、要件も、手続も、取り消しも、何でも省令で決められます。前回の法律は、任せる中身を資格に限っていました。Aは、任せた中身に端がないので、何を任せたのかを、法律のどこからも絞れません。ここが線の内と外です。なぜ白紙委任はいけないのか。理由は、憲法の回で見ました。命令は国会が作ったものではないので、何を任せるかという枠を国会が決めていなければ、誰が実質的に決めたのか分からなくなります。民主的なコントロールが切れるのでした。もう1点。Bのように法律が適切でも、省令が任せた枠を超えれば、その省令は別に違法になります。それは命令の側の問題です。今日の問題は、法律そのものの書き方だけです。

再委任——さらに下へ任せてよいか

再委任の二重の枠(法律=酒税法54条〔帳簿の記載義務の主体と大枠を定め、記載事項の詳細だけを命令に任せる〕→命令=酒税法施行規則61条〔1号〜8号で記載事項を具体的に定める/9号「前各号の外、税務署長の指定する事項」〕→税務署長の指定〔各地方の実状に応じて、残りだけ〕/枠が二重にかかる/再委任は許される。ただし法律の委任の趣旨に反しない範囲で) 図:再委任の二重の枠

  • 法律=酒税法54条〔帳簿の記載義務の主体と大枠を定め、記載事項の詳細だけを命令に任せる〕→命令=酒税法施行規則61条〔1号〜8号で記載事項を具体的に定める/9号「前各号の外、税務署長の指定する事項」〕→税務署長の指定〔各地方の実状に応じて、残りだけ〕
  • 枠が二重にかかる
  • 再委任は許される。ただし法律の委任の趣旨に反しない範囲で

次は、再委任です。法律から命令に任せるのはよいとして、その命令がさらに下の機関に任せることは、できるのでしょうか。判例の事件を見ます。酒税法の帳簿の事件です。酒類の製造者などは、帳簿に一定の事実を記載しなければならず、記載を怠ると罰則がありました。法律は、誰が、何を帳簿に記載するか、という大枠を自分で定めました。そして、記載する事項の詳細だけを、命令に任せたのです。命令である施行規則は、記載事項を1号から8号まで、具体的に書きました。そのうえで9号で、前の各号のほか、税務署長の指定する事項も記載せよ、としました。つまり、残りの部分を、さらに税務署長の指定に任せたのです。

最高裁は、許されるとしました。判旨を見ます。

判例最大判昭33・7・9 刑集12巻11号2407頁

酒税法の帳簿の事件——税務署長の指定への委任 同五四条は、その帳簿の記載等の義務の主体およびその義務の内容たる製造、貯蔵又は販売に関する事実を帳簿に記載すべきこと等を規定し、ただ、その義務の内容の一部たる記載事項の詳細を命令の定めるところに一任しているに過ぎないのであつて、立法権がかような権限を行政機関に賦与するがごときは憲法上差支ないことは、憲法七三条六号本文および但書の規定に徴し明白である。そして、前記酒税法施行規則六一条は、その一号ないし八号において、帳簿に記載すべき事項を具体的且つ詳細に規定しており、同条九号は、これらの規定に洩れた事項で、各地方の実状に即し記載事項とするを必要とするものを税務署長の指定に委せたものであつて、前記酒税法施行規則においてこのような規定を置いたとしても、前記酒税法五四条の委任の趣旨に反しないものであり、違憲であるということはできない。

決め手は、枠が二重にかかっていることです。1つ目の枠は法律です。義務の主体と大枠を法律が定め、任せたのは記載事項の詳細だけでした。2つ目の枠は施行規則です。大半を自分で具体的に書き、残りだけを、各地方の実状に応じた指定に任せました。どちらの段階でも、何を、どこまで任せるのかが見えています。ですから、再委任は、法律の委任の趣旨に反しない範囲なら許されます。憲法73条6号が出てくるのは、前に見たつながりです。法律から命令への委任が許される以上、命令から下への委任も、一切禁止とはできません。受け取った範囲を全部下へ渡す再委任では、命令の段階の枠が、まるごと抜けます。法律が予定していない機関が、何の具体化もないまま中身を決めることになり、誰が実質的に決めたのか分からなくなります。法律の側から見れば、実質的に白紙委任と同じです。判例が実際に認めたのは、大半を自分で具体化して残りだけを任せた事案です。全部を丸ごと流す再委任は、法律の委任の趣旨に反するおそれが強いと考えられます。

国家公務員法102条1項はなぜ争われてきたか

国家公務員法102条1項の3層構造(法律=職員は…人事院規則で定める政治的行為をしてはならない〔骨組みだけ〕→人事院規則=何が政治的行為かを定める〔中身は丸ごとここ〕→制裁=懲戒処分〔組織内の規律〕・刑罰〔犯罪の成立〕/争点になる3つの理由=1 禁止の中身が丸ごと規則に委ねられる/2 懲戒と刑罰を区別せず、同じ規則に任せている/3 禁じられるのは政治活動の自由という重い自由/今日=任せ方だけ。政治的行為を禁じること自体の合憲性は憲法の回で扱った) 図:国家公務員法102条1項の3層構造

  • 法律=職員は…人事院規則で定める政治的行為をしてはならない〔骨組みだけ〕→人事院規則=何が政治的行為かを定める〔中身は丸ごとここ〕→制裁=懲戒処分〔組織内の規律〕・刑罰〔犯罪の成立〕
  • 争点になる3つの理由=1 禁止の中身が丸ごと規則に委ねられる
  • 2 懲戒と刑罰を区別せず、同じ規則に任せている
  • 3 禁じられるのは政治活動の自由という重い自由
  • 今日=任せ方だけ。政治的行為を禁じること自体の合憲性は憲法の回で扱った

白紙委任の主張が、いちばん争われてきた条文があります。国家公務員法102条1項です。条文の骨格だけ、見ます。

条文国家公務員法102条1項

国家公務員法第102条第1項 職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

暗記は要りません。骨格は、職員は、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない、です。法律は、政治的行為をしてはならないという骨組みだけを書きました。何が政治的行為なのかという中身は、人事院規則に任せています。さらに、この禁止に違反すると、懲戒処分の対象にもなりますし、刑罰の対象にもなりえます。疑われる理由は3つです。1つ目。禁止の中身が、丸ごと規則に委ねられています。2つ目。組織内の規律である懲戒と、犯罪の成立である刑罰を区別せず、同じ規則に任せています。3つ目。禁じられるのは、政治活動の自由という重い自由です。懲戒は、組織の中の処分です。刑罰は違います。何が犯罪になるかは、国会が法律で決めなければならない、という罪刑法定主義の要請がかかります。その刑罰の線まで、懲戒と同じ規則にまとめて任せれば、犯罪の線を規則が引くことになります。しかも、制限されるのが重い自由ほど、どこまで制限するかを国会自身が見える形で決めておく必要が大きくなります。後で見る課長補佐の事件の判決も、政治活動の自由の重要性を、読み方を絞る理由に挙げています。つまり、何が犯罪になるのかという、国会が決めるべき中心部分を、規則を作る側が決めているのではないか、という疑いです。ここで、憲法の回との切り分けをします。政治的行為を禁じること自体が、表現の自由との関係で許されるのかは、憲法の回で見ました。郵便局員の選挙ポスターの猿払事件と、年金審査官の機関紙配布の堀越事件の話です。今日はそこへは入りません。今日問うのは、禁止の中身を人事院規則に任せるという、任せ方が憲法41条に反しないか、だけです。

判例の流れ——規則の範囲から、猿払、課長補佐の事件へ

判例の流れ(時系列)(昭33最判=人事院規則は102条1項の委任の範囲を逸脱していない〔短い先例〕→昭49最大判・猿払事件=多数意見:合理的な解釈で委任の対象を読み取る/反対意見4人:刑罰の構成要件の委任としては無効→平24最判=「政治的行為」を実質的なおそれのあるものに限定して読み、白紙委任に当たらないことは明らか/手口=文言を絞って読んで、白紙委任でないと言う) 図:判例の流れ

  • 時系列
  • (昭33最判=人事院規則は102条1項の委任の範囲を逸脱していない〔短い先例〕→昭49最大判・猿払事件=多数意見:合理的な解釈で委任の対象を読み取る/反対意見4人:刑罰の構成要件の委任としては無効→平24最判=「政治的行為」を実質的なおそれのあるものに限定して読み、白紙委任に当たらないことは明らか/手口=文言を絞って読んで、白紙委任でないと言う)

判例の流れを、先に見取り図で示します。最初に、規則は委任の範囲内とした短い先例があります。次に、憲法の回で見た郵便局員の選挙ポスターの事件、猿払事件で、委任について意見が割れました。最後に、課長補佐の機関紙配布の事件で、限定して読む形が明示されました。最初の先例は、国家公務員法違反の事件です。最高裁は、人事院規則が、102条1項に基づいて、職責に照らして必要な政治的行為の制限を定めたもので、任された範囲を逸脱していない、としました。判断したのは、規則が範囲を超えたかという、命令の側の問題です。法律の任せ方が白紙委任かどうかは、正面からは判断していません。ですから、今日の本題は、次の猿払事件からです。本題は、郵便局員の選挙ポスターの事件です。大法廷の判決で、委任について、多数意見と反対意見が割れました。まず多数意見です。

判例最大判昭49・11・6 刑集28巻9号393頁

郵便局員の選挙ポスターの事件——多数意見 なお、政治的行為の定めを人事院規則に委任する国公法一〇二条一項が、公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を具体的に定めることを委任するものであることは、同条項の合理的な解釈により理解しうるところである。そして、そのような政治的行為が、公務員組織の内部秩序を維持する見地から課される懲戒処分を根拠づけるに足りるものであるとともに、国民全体の共同利益を擁護する見地から科される刑罰を根拠づける違法性を帯びるものであることは、すでに述べたとおりであるから、右条項は、それが同法八二条による懲戒処分及び同法一一〇条一項一九号による刑罰の対象となる政治的行為の定めを一様に委任するものであるからといつて、そのことの故に、憲法の許容する委任の限度を超えることになるものではない。

多数意見の読み方は、こうです。条文には、人事院規則で定める、としか書いていません。しかし、条文を合理的に解釈すれば、委任の対象は、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある行動類型を具体的に定めること、と分かる、と言うのです。枠は、解釈で読み取れます。だから、懲戒と刑罰を一様に委任していても、憲法の許容する限度を超えない、という結論になります。これに対し、4人の裁判官の反対意見がありました。

判例最大判昭49・11・6 刑集28巻9号393頁 裁判官大隅健一郎ほか3名の反対意見

郵便局員の選挙ポスターの事件——反対意見 まず一般論として、国会が、法律自体の中で、特定の事項に限定してこれに関する具体的な内容の規定を他の国家機関に委任することは、その合理的必要性があり、かつ、右の具体的な定めがほしいままにされることのないように当該機関を指導又は制約すべき目標、基準、考慮すべき要素等を指示してするものであるかぎり、必ずしも憲法に違反するものということはできず、また、右の指示も、委任を定める規定自体の中でこれを明示する必要はなく、当該法律の他の規定や法律全体を通じて合理的に導き出されるものであつてもよいと解される。……それゆえ、国公法一〇二条一項における前記のごとき無差別一体的な立法の委任は、少なくとも、刑罰の対象となる禁止行為の規定の委任に関するかぎり、憲法四一条、一五条一項、一六条、二一条及び三一条に違反し無効であると断ぜざるをえないのである。

反対意見も、委任そのものを否定してはいません。合理的な必要があり、目標、基準、考慮すべき要素が指示されていれば、よい。しかも、その指示は、条文自体に書かなくても、法律全体から導けてもよい、と言っています。ここは多数意見と共通の土台です。分かれたのは、刑罰です。公務員の規律としての委任は許される。しかし、刑罰の対象になる禁止行為を、懲戒と区別せず一体として規則に委ねた部分は、刑罰の構成要件の委任としては無効だ、というのです。理由は、刑罰は懲戒と目的も効果も違うから、より厳格な基準の指示が要る、というものです。

多数意見と反対意見の対比(多数意見=条項を合理的に解釈して、委任の対象を読み取る/懲戒と刑罰を区別して考えるか:区別せず一様に委任してよい/結論:憲法の許容する委任の限度内/反対意見4人=刑罰の対象となる禁止行為は、法律側に基準の指示が要る/懲戒と刑罰を区別して考えるか:区別する/結論:刑罰の構成要件の委任としては憲法41条等に違反して無効/共通の土台=指示は法律全体から導けてもよい) 図:多数意見と反対意見の対比

  • 多数意見=条項を合理的に解釈して、委任の対象を読み取る
  • 懲戒と刑罰を区別して考えるか:区別せず一様に委任してよい
  • 結論:憲法の許容する委任の限度内
  • 反対意見4人=刑罰の対象となる禁止行為は、法律側に基準の指示が要る
  • 懲戒と刑罰を区別して考えるか:区別する
  • 結論:刑罰の構成要件の委任としては憲法41条等に違反して無効
  • 共通の土台=指示は法律全体から導けてもよい

同じ条文なのに、結論が分かれたのはなぜですか。見ている物差しが違うからです。多数意見は、条文を合理的に解釈すれば、委任の枠は読み取れる、と考えます。反対意見は、刑罰だから、条文の側にもっとはっきりした基準の指示が要る、と考えます。しかも、刑罰の部分では法律全体を読んでも基準が見つからない、としました。この対立が、今日の核心の1つです。次が、課長補佐の機関紙配布の事件です。憲法の回で、年金審査官が無罪になった堀越事件を見ました。そのとき、同じ日に、同じ枠組みで判断されたもう一つの事件があり、管理職的な地位にあった被告人は有罪だった、と触れました。それがこの事件です。課長補佐が、政党の機関紙を配布して、起訴されました。白紙委任の主張を明示的に退けたのは、堀越事件ではなく、こちらの事件です。弁護側は、政治的行為の人事院規則への委任は白紙委任で、憲法41条などに反する、と主張しました。最高裁の判断です。

判例最判平24・12・7 刑集66巻12号1722頁

課長補佐の機関紙配布の事件——白紙委任に当たらないことは明らか このような本法102条1項の文言,趣旨,目的や規制される政治活動の自由の重要性に加え,同項の規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると,同項にいう「政治的行為」とは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し,同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。……また,既にみたとおり,本法102条1項が人事院規則に委任しているのは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為の行為類型を規制の対象として具体的に定めることであるから,同項が懲戒処分の対象と刑罰の対象とで殊更に区別することなく規制の対象となる政治的行為の定めを人事院規則に委任しているからといって,憲法上禁止される白紙委任に当たらないことは明らかである。

順に読みます。まず、政治的行為とは、政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるもの、と絞って読みます。この言い回しは、憲法の回の堀越事件で見た限定の定式と同じです。次に、102条1項が委任したのは、そのような行為の類型を具体的に定めることだ、とします。だから、懲戒と刑罰を区別せずに委任していても、白紙委任に当たらないことは明らかだ、という結論です。猿払事件の多数意見との違いは、どこまで読み込んだかです。多数意見は、委任の対象を、合理的な解釈で読み取りました。ただ、処罰される政治的行為の範囲そのものを絞ったわけではありません。憲法の回で見たとおり、範囲を絞る限定解釈は、こちらの事件と堀越事件で出てきたものです。この判決は、実質的に認められる、という限定を、はっきり言葉にしました。この事件は有罪で、上告は棄却されています。最高裁の手口は、条文を絞って読んで、白紙委任ではないと言う、ことです。

判例の手口と、利率の事件

判例の手口(条文だけ見ると基準の指示が見えない→趣旨・目的・法律全体から委任の枠を読み取る→枠が読み取れるから白紙委任ではない/酒税法の事件=法律が義務の大枠を定め、詳細だけ任せる/猿払=合理的な解釈で委任の対象を読み取る/平24=「政治的行為」そのものを絞って読む/利率の事件=制度の趣旨から枠を読む/共通=法律全体の趣旨から委任の枠が読み取れるか/条文に明示の限定がなくても、解釈で枠を読み取れば足りる) 図:判例の手口

  • 条文だけ見ると基準の指示が見えない→趣旨・目的・法律全体から委任の枠を読み取る→枠が読み取れるから白紙委任ではない
  • 酒税法の事件=法律が義務の大枠を定め、詳細だけ任せる
  • 猿払=合理的な解釈で委任の対象を読み取る
  • 平24=「政治的行為」そのものを絞って読む
  • 利率の事件=制度の趣旨から枠を読む
  • 共通=法律全体の趣旨から委任の枠が読み取れるか
  • 条文に明示の限定がなくても、解釈で枠を読み取れば足りる

判例の手口を、整理します。条文だけ見ると、人事院規則で、としか書いていません。基準の指示は見えません。そこで、趣旨や目的、法律全体から、委任の枠を読み取ります。枠が読み取れるので、白紙委任ではない。こう進みます。つまり、条文に明示の限定がなくても、解釈で枠を読み取れれば足りる、というのが判例の姿勢です。もう1つ、この姿勢がよく出ている事件を、軽く見ます。退職一時金の利子の事件です。ずっと前に旧電電公社を退職して、退職一時金を受け取った人が、後に年金を受けられる立場になりました。法律の附則は、重複して受けた分を、利子を付けて返還させる仕組みを定め、その利率を政令に任せていました。下級審は、利率を決める基準も示さずに、包括的に政令に任せたもので無効だ、としました。判旨には、予定運用収入という言葉が出てきます。年金の財源を運用して得られると見込まれる収入のことです。

判例最判平27・12・14 民集69巻8号2348頁

退職一時金の利子の事件——利率を政令に任せた附則 このような同条の趣旨等に照らすと,同条4項は,退職一時金に付加して返還すべき利子の利率について,予定運用収入に係る利率との均衡を考慮して定められる利率とする趣旨でこれを政令に委任したものと理解することができる。……したがって,国公共済法附則12条の12第4項及び厚年法改正法附則30条1項は,退職一時金に付加して返還すべき利子の利率の定めを白地で包括的に政令に委任するものということはできず,憲法41条及び73条6号に違反するものではないと解するのが相当である。

ここで1問です。条文に、予定運用収入との均衡、とは書いていません。それなのに、なぜ白地で包括的な委任ではない、と言えたのでしょうか。重複支給の調整であり、予定運用収入に相当する額を付けて返してもらう、という制度の趣旨から、利率は、予定運用収入に係る利率との均衡で定める趣旨だと読み取りました。条文にない限定を、趣旨から補ったわけです。4つの事件の共通点は、法律全体の趣旨から、委任の枠が読み取れるかどうかです。酒税法の事件は、法律が義務の大枠を定め、詳細だけを任せていました。猿払は、条文を合理的に解釈して、委任の対象を読み取りました。課長補佐の事件は、さらに、政治的行為そのものを絞って読みました。利率の事件は、制度の趣旨から枠を読みました。

教科書検定——委任か執行かの境目

教科書検定の三層(法律=学校教育法34条1項〔検定を経た教科用図書を使用しなければならない〕=短い/省令=教科用図書検定規則〔検定の手続〕/告示=教科用図書検定基準〔審査の内容・基準〕/法律の条文は短いのに、制度の中身はほとんど省令・告示にある/中学校・高等学校は34条を準用) 図:教科書検定の三層

  • 法律=学校教育法34条1項〔検定を経た教科用図書を使用しなければならない〕=短い
  • 省令=教科用図書検定規則〔検定の手続〕
  • 告示=教科用図書検定基準〔審査の内容・基準〕
  • 法律の条文は短いのに、制度の中身はほとんど省令・告示にある
  • 中学校・高等学校は34条を準用

最後の実例は、教科書検定です。その前に、前回の復習です。委任が要る中身が、執行命令の形で定められると、何が抜け落ちるのでしたか?委任の枠が見えなくなる、でした。委任命令は、法律の委任を受けて、権利義務の中身を定めます。法律が引いた枠があるので、はみ出せば条文と見比べて分かります。執行命令は、法律を実施する手続や形式の細目で、個別の委任なしに定められます。こちらには、見比べる枠がありません。その実例が、これから見る教科書検定です。条文を見ます。

条文学校教育法34条1項

学校教育法第34条第1項 小学校においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない。

法律に書いてあるのは、これだけです。検定を経た教科書を使え。中学校と高等学校は、この条文を準用しています。どんな観点で、どんな基準で検定するのかは、法律に書いていません。それは、検定規則という省令と、検定基準という告示が定めています。条文は一文なのに、制度の中身は、ほとんど下位の法令にあるのです。高等学校用の教科書の検定をめぐって争われた事件です。最高裁は、この仕組みに法律の委任があるかを判断しました。なお、事案は昔の検定なので、判旨は当時の学校教育法の条文で書かれています。判旨の二一条一項が、今の34条1項にあたります。高校への準用は、当時は五一条、今は62条です。八八条は、今の88条とは別の規定です。判旨に出てくる旧検定規則、旧検定基準も、当時の検定規則と検定基準のことです。

判例最判平5・3・16 民集47巻5号3483頁

教科書検定の事件——検定の根拠と、審査の基準を定める省令・告示 学校教育法五一条によって高等学校に準用される同法二一条一項は、文部大臣が検定権限を有すること、学校においては検定を経た教科書を使用する義務があることを定めたものであり、検定の主体、効果を規定したものとして、本件検定の根拠規定とみることができる。……右旧検定規則、旧検定基準は、前記のとおり、右の関係法律から明らかな教科書の要件を審査の内容及び基準として具体化したものにすぎない。そうだとすると、文部大臣が、学校教育法八八条の規定(「この法律に規定するもののほか、この法律施行のため必要な事項で、地方公共団体の機関が処理しなければならないものについては政令で、その他のものについては監督庁が、これを定める」)に基づいて、右審査の内容及び基準並びに検定の施行細則である検定の手続を定めたことが、法律の委任を欠くとまではいえない。

教科書検定の判旨と注意点(判旨の流れ=1 34条1項〔旧21条1項〕は検定の主体と効果を定めた根拠規定/2 審査の内容・基準は検定規則・検定基準が定める/3 教科書の要件〔正確・中立公正/学校の目的・教育の目標・教科の内容に合う/心身の発達の段階に応じる/児童・生徒が使いやすい〕は教育基本法・学校教育法から明らか→規則・基準はその具体化/4 旧88条〔施行に必要な事項は監督庁が定める〕に基づく→法律の委任を欠くとまではいえない/注意1=最高裁は執行命令とも委任命令とも言っていない/注意2=執行命令の体裁でも中身は審査の基準→委任と執行の線が引きにくく、枠が確かめにくい/評価=法律の条文に基準がほとんど無く、白紙委任に近づく危うさ〔判例の結論ではない〕) 図:教科書検定の判旨と注意点

  • 判旨の流れ=1 34条1項〔旧21条1項〕は検定の主体と効果を定めた根拠規定
  • 2 審査の内容・基準は検定規則・検定基準が定める
  • 3 教科書の要件〔正確・中立公正/学校の目的・教育の目標・教科の内容に合う/心身の発達の段階に応じる/児童・生徒が使いやすい〕は教育基本法・学校教育法から明らか→規則・基準はその具体化
  • 4 旧88条〔施行に必要な事項は監督庁が定める〕に基づく→法律の委任を欠くとまではいえない
  • 注意1=最高裁は執行命令とも委任命令とも言っていない
  • 注意2=執行命令の体裁でも中身は審査の基準→委任と執行の線が引きにくく、枠が確かめにくい
  • 評価=法律の条文に基準がほとんど無く、白紙委任に近づく危うさ〔判例の結論ではない〕

判旨の流れを整理します。まず、法律の条文は、検定の主体と効果を定めた、検定の根拠規定とみることができる。次に、審査の内容や基準は、検定規則と検定基準が定めている。ただし、教科書がどんなものでなければならないかは、法律から読み取れる、とします。内容が正確で、中立・公正であること。学校の目的や教育の目標、教科の内容に合っていること。子どもの心身の発達の段階に応じていること。そして、児童や生徒が使いやすいこと。こうした要件は、教育基本法と学校教育法の関係する条文から、おのずと明らかだ、というのです。検定規則と基準は、それを審査の基準に具体化したものにすぎない。最後に、八八条です。この法律の施行に必要な事項は監督庁が定める、という一般的な規定で、文部大臣はこれに基づいて検定規則と基準を定めた、と見ます。だから、法律の委任を欠くとまではいえない、と結論しました。ここでも、法律全体から枠を読み取っています。注意点が2つあります。1つ目。最高裁は、この規則と基準を、執行命令とも委任命令とも言っていません。委任を欠くとまではいえない、とやわらかく言っただけです。ですから、最高裁が執行命令と判断した、とは言えません。2つ目。ここで前回とつなげます。検定規則や基準は、手続や細目を定めた、執行命令の体裁に見えます。しかし中身は、検定に合格できるかを決める審査の基準です。出版社の権利や利益に関わる中身です。つまり、委任命令と執行命令は、実際には線を引きにくいのです。

執行命令の形で定められていると、個別の委任は要らない建前なので、法律のどこにその枠があるのかを、そもそも問われにくくなります。何を、どこまで任せたのかという枠が見えなくなり、命令の中身がどの法律の枠に支えられているのかを、確かめられなくなるおそれがあります。前回の、委任の枠が見えなくなる、の実例です。白紙委任との関係も見ておきます。最高裁は、委任を欠くとまではいえない、としました。白紙委任だとは言っていません。枠は、関係する法律から読み取れる教科書の要件にある、という理解です。ただ、検定の基準そのものは、法律の条文にほとんど書かれておらず、省令と告示が中身を作っています。そのため、法律の側から見ると、白紙委任に近づく危うさがある、という評価もできます。判例の結論ではなく、仕組みへの評価です。なお、教科書検定の裁量や審査の中身は、別の回で扱います。

判例は緩い、それでも論点を立てる意味

判例は緩い、それでも立てる意味(事実=これまでの最高裁判決に、白紙委任を理由に法律を違憲無効とした例は見当たらない〔猿払の反対意見4人は少数〕/判例が緩い理由=1 委任が必要な場面が多い/2 条文を絞って読めば枠が見つかることが多い/3 人事院のように独立性・中立性のある機関への委任は濫用のおそれが小さいと見られる〔反対意見が言及した事情〕/批判=委任の中身は、読み手が条文から予測できる程度に法律が決めておくべき。条文で枠を明示するのが本来の姿/答案の動き方=委任条項の文言と法律全体から、何のために・何を・どこまでが読み取れるか→読み取れれば合憲/新規の「すべて命令で定める」型は、限定解釈で絞れるかが勝負/刑罰・重い自由に関わる委任は、より厳格に見る余地) 図:判例は緩い、それでも立てる意味

  • 事実=これまでの最高裁判決に、白紙委任を理由に法律を違憲無効とした例は見当たらない〔猿払の反対意見4人は少数〕
  • 判例が緩い理由=1 委任が必要な場面が多い
  • 2 条文を絞って読めば枠が見つかることが多い
  • 3 人事院のように独立性・中立性のある機関への委任は濫用のおそれが小さいと見られる〔反対意見が言及した事情〕
  • 批判=委任の中身は、読み手が条文から予測できる程度に法律が決めておくべき。条文で枠を明示するのが本来の姿
  • 答案の動き方=委任条項の文言と法律全体から、何のために・何を・どこまでが読み取れるか→読み取れれば合憲
  • 新規の「すべて命令で定める」型は、限定解釈で絞れるかが勝負
  • 刑罰・重い自由に関わる委任は、より厳格に見る余地

ここまで見て、気づいたことがあると思います。最高裁が、白紙委任を理由に法律を違憲とした例はあるでしょうか。出てきた判例は、どれも合憲でした。これまでの最高裁判決では、白紙委任を理由に法律を違憲無効とした例は見当たりません。国家公務員法102条1項でも、無効とした4人の反対意見は、少数にとどまりました。なぜ判例は緩いのでしょうか。理由は3つ考えられます。1つ目。委任が必要な場面が多い、ということ。憲法の回と前回で、迅速性、専門性、中立性を見ました。2つ目。条文を絞って読めば、枠が見つかることが多い、ということ。3つ目。人事院のように、独立性や中立性のある機関への委任は、濫用のおそれが小さいと見られやすいことです。政治から距離を置いた機関なら、規則がほしいままに作られるおそれは小さい、という考え方です。なお、3つ目は、猿払の反対意見が、公務員関係の規律としての委任を認める理由の中で触れた事情です。多数意見の根拠として示されたものではありません。

それでも、論点として立てる価値は残ります。判例の緩さには批判があるからです。法律による行政の原理から見れば、委任の中身は、読み手が条文から予測できる程度に法律が決めておくべきです。条文の側で枠を明示するのが、本来の姿です。今の判例の緩さは、その姿から離れている、という批判です。答案での動き方を整理します。委任条項の文言と、法律全体の趣旨から、何のために、何を、どこまでが読み取れるかを検討します。読み取れれば、個別的、具体的な委任として合憲です。まったく読み取れなければ、白紙委任です。問題文に、すべて命令で定める、型の新しい条文が出たら、限定解釈で絞れるかが勝負になります。絞れるなら合憲、絞れないなら憲法41条違反です。刑罰や重い自由の制限に関わる委任は、より厳格に見る余地があります。猿払の反対意見の筋です。ただし、多数意見と、課長補佐の事件は、懲戒と刑罰を殊更には区別していません。現に違憲判断がなくても、白紙委任の線は、憲法上の限界として存在します。ここは、論文で論点になりうるところです。

今日のまとめ

今日の地図(保存版)(1 今日の問題=命令に任せる法律の側が憲法41条に反しないか。命令の出来ばえは別/2 白紙委任〔すべて命令で〕は不可。何のために・何を・どこまでが読み取れる個別的・具体的な委任なら可/3 再委任も、法律の委任の趣旨に反しない範囲なら可〔酒税法の帳簿の事件〕/4 国公法102条1項=禁止の中身を人事院規則に。猿払は合理的解釈で許容、反対意見4人は刑罰部分は無効。平24は限定して読み、白紙委任に当たらないことは明らか/5 判例は文言を絞り、法律全体の趣旨から枠を読む。明示の限定は厳しく求めない。違憲無効とした例は見当たらない。批判=委任の中身は条文から予測できる程度に法律で決めるべき/6 教科書検定=法律は一語、中身は省令・告示。委任か執行か曖昧だと委任の枠が見えなくなる) 図:今日の地図

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  • (1 今日の問題=命令に任せる法律の側が憲法41条に反しないか。命令の出来ばえは別/2 白紙委任〔すべて命令で〕は不可。何のために・何を・どこまでが読み取れる個別的・具体的な委任なら可/3 再委任も、法律の委任の趣旨に反しない範囲なら可〔酒税法の帳簿の事件〕/4 国公法102条1項=禁止の中身を人事院規則に。猿払は合理的解釈で許容、反対意見4人は刑罰部分は無効。平24は限定して読み、白紙委任に当たらないことは明らか/5 判例は文言を絞り、法律全体の趣旨から枠を読む。明示の限定は厳しく求めない。違憲無効とした例は見当たらない。批判=委任の中身は条文から予測できる程度に法律で決めるべき/6 教科書検定=法律は一語、中身は省令・告示。委任か執行か曖昧だと委任の枠が見えなくなる)

冒頭の問いに答えます。Aは、白紙委任として憲法41条違反の疑いが強い書き方です。Bは、何のために、何を、どこまでが読み取れる、個別的、具体的な委任で、許されます。今日の内容を整理します。1つ目。今日の問題は、命令に任せる法律の側が、憲法41条に反しないかです。命令が範囲を超えたかは、別の問題です。2つ目。すべて命令で定める、という白紙委任は許されません。何のために、何を、どこまで任せるかが読み取れる、個別的、具体的な委任なら許されます。3つ目。再委任も、法律の委任の趣旨に反しない範囲なら許されます。酒税法の帳簿の事件が、その実例です。4つ目。国家公務員法102条1項は、禁止の中身を人事院規則に任せています。猿払事件の多数意見は、合理的な解釈で、委任の対象を読み取りました。反対意見の4人は、刑罰の部分は無効としました。課長補佐の事件では、限定して読み、白紙委任に当たらないことは明らかとしました。5つ目。判例は、文言を絞り、法律全体の趣旨から枠を読みます。明示の限定は厳しく求めません。これまで違憲無効とした例は見当たりませんが、委任の中身は条文から予測できる程度に法律で決めておくべきだ、という批判があります。6つ目。教科書検定は、法律は一文で、中身は省令と告示にあります。委任か執行かが曖昧だと、委任の枠が見えなくなります。

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