行政基準とは何か
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第3章 行為形式の地図と行政基準 ㉟/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
同じ役所から届いた3枚の紙
図:同じ省から出た3枚の紙
- 架空の許可制度=冷凍保管施設の許可
- ①官報に載った施行令〔許可を受ける施設の床面積の下限〕②職員の机にだけ回覧された審査の手順書〔記載漏れは電話で確認してから受理〕③大臣告示〔許可の判断に使う庫内温度の数値の基準〕
- 問い=国民を縛る力は同じか
今日が、その1回目です。前回は、行政の活動を型に分けると、手続も争い方も、型ごとに決まる、という表を作りました。ここからは、その型の中身に入っていきます。最初に、架空の話をします。ある省が、冷凍保管施設の許可制度を運用しているとします。実在の制度とは関係がありません。許可を受けたい事業者の机に、同じ省から出た紙が、3枚並びました。1枚目は、官報に載った、その法律の施行令です。許可を受ける施設は、床面積が最低でもこれだけ必要だ、と定めています。2枚目は、省の職員の机にだけ回覧された、審査の手順書です。申請書に記載漏れがあれば、まず申請者に電話で確認してから受理する、といった手順が書いてあります。3枚目は、大臣の告示です。許可の判断に使う、庫内の温度の数値の基準が載っています。法律は、この温度の基準を、大臣が告示で定める、と任せています。
3枚とも、行政が作った、一般的なルールです。ここまでは共通しています。けれど、国民を縛る力は、まるで違います。第3章の最初の回で、型は、名前ではなく、中身で決まる、と言いました。行政基準の中でも、同じことが言えます。同じ行政基準の中に、国民を直接縛るものと、縛らないものが、混ざっています。今日は、その見分ける物差しを手に入れます。1枚目と2枚目は、途中で分類できるようになります。3枚目の告示は、最後に答えを出します。
なぜ行政がルールを作るのか
図:行政基準——なぜ作る・呼び名
- 法律は抽象的=「安全な施設」→行政が床面積・庫内温度の数値にして具体化
- かつての呼び名=行政立法〔名前だけ前に出た〕→行政基準〔別名=行政準則〕
- 理由=行政規則は国民を直接縛らない内部のルール→憲法41条の「立法」ではない
- 処分=個別・具体、行政基準=一般・抽象
まず、そもそも、なぜ行政がルールを作るのか、という素朴な疑問から始めます。権力分立の基本形は、国会が法律を作り、行政がそれを執行する、というものでした。ただ、これは単純化した説明です。法律は、細かいところまでは決めきれないのです。たとえば、法律が、冷凍保管施設は安全でなければならない、とだけ書いたとします。では、安全とは、床面積がどれだけで、庫内の温度が何度までを指すのか。法律には書いてありません。そこを数値にして、初めて、許可の審査ができます。その数値を決めるのが、行政の側です。行政の役割が広がって、国民生活の細かいところまで、行政が決めるようになりました。この現象は、第1章で、行政国家現象として見ました。行政が作るルールは、数が多く、内容も詳しく、国民生活への影響は、法律に劣りません。だから、どう分類して、どう統制するかが、問題になります。今日は分類と形式を見ます。統制は、後の回です。
行政立法という名前は、前に出てきました。ただ、今の学説では、行政立法ではなく、行政基準と呼ぶことが増えています。理由があります。このあと見る行政規則は、国民を直接縛らない、役所の内部のルールです。ところが、憲法41条は、国会を、唯一の立法機関としています。第1章で、ここでいう立法は、少なくとも、国民の権利義務に関わる一般的な定め、つまり法規を含む、と見ました。内部のルールまで立法と呼ぶと、国会だけができる立法を、行政がしているように聞こえて、ずれてしまいます。そこで、行政が定める一般的な基準を、広く行政基準と呼びます。行政準則という別名もあります。注意が1つあります。今も、行政立法という呼び名は使われます。問題文で出てきても、同じものを指すと思ってください。行政手続法は、また別の言葉で、命令等と呼んでいます。これは、あとで見ます。位置づけを一言、足します。第3章の最初の回の、2段構えを思い出してください。処分は、特定の人に当てはめる、個別・具体の決定でした。行政基準は逆で、不特定多数に当てはまる、一般・抽象の定めです。
法規命令と行政規則——二分と物差し
図:行政基準の位置
- 法律→〔法律の委任が要る〕→法規命令→国民を直接縛る
- 法律→〔委任は要らない〕→行政規則→行政の内部だけ
- 点線枠=行政基準全体
行政基準は、大きく2つに分かれます。ここが、今日の中心です。1つ目は、法規命令です。法規とは、国民の権利義務に関わる一般的な定めのことです。その定めを置く行政基準が、法規命令です。行政の外にいる国民を直接縛るので、第2章で見た言葉では、外部法です。国民を直接縛る、と言い換えて構いません。2つ目は、行政規則です。行政の内部で使う基準です。国民の権利義務を、直接には動かしません。同じく、内部法の側です。見分ける物差しは、1つだけです。国民と行政の関係を、直接規律するか、です。名前では決めません。施行令だから、通達だから、基準だから、ではなく、中身で見ます。
図:法規命令と行政規則の比較
- 国民を直接縛るか=法規命令〔縛る・外部法〕
- 行政規則〔縛らない・内部法〕
- 法律の委任=要る
- 要らない
- 裁判所=有効なら従う
- 内容に縛られず自分で判断
- 例=施行令・施行規則
- 通達・審査基準・処分基準・行政指導指針
冒頭の紙に当てはめます。1枚目の施行令です。床面積が足りない施設には、許可が下りません。事業者の権利に直接関わります。国民を直接縛るので、法規命令です。2枚目の審査の手順書です。電話で確認してから受理する、という段取りは、職員が従う手順です。事業者に義務を課すものではありません。国民を直接縛らないので、行政規則です。代表は、通達です。上級の機関が、下級の機関に宛てて、仕事の進め方を指示するものでした。第2章で、国家行政組織法14条2項として見ました。通達それ自体は法的な効力を持たない、という話も、前に出ています。第3章の最初の回で、通達は、行政基準の一種であり、同時に、内部行為の代表だ、と言いました。課長が部下に配った窓口の運用ルールも、2枚目の手順書も、同じです。組織の内側のやりとりとして見れば内部行為、内側に向けた一般的なルールとして見れば行政規則です。ほかに、申請を許可するかどうかの判断に使う審査基準、不利益処分をするかどうかの判断に使う処分基準、行政指導をするときの共通の指針なども、行政規則です。通達の法的な力は、後の回で詳しく見ます。
図:二分の実益
- 法律の委任=法規命令で義務・権利制限をするには要る〔内閣法11条・憲法73条6号ただし書〕
- 行政規則は要らない
- 裁判所=法規命令は法令の一部→有効なら従う
- 行政規則は法令ではない→内容に縛られず自分で判断
- 形が省令でも委任がなければ義務は課せない
二分の、いちばん大きな実益は、法律の委任が要るかどうかです。国民に新しく義務を課したり、権利を制限したりするのは、法律の仕事でした。法律の法規創造力として、第1章で見ました。行政が勝手にやると、国会の役割を奪ってしまいます。ですから、法規命令で国民の権利を制限するには、法律の委任が要ります。内閣法11条です。
条文内閣法11条
内閣法第11条 政令には、法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない。
政令の条文ですが、府令や省令も、同じ考え方です。あとで確かめます。憲法73条6号のただし書も、同じ筋でした。政令には、法律の特別の委任がなければ、罰則を設けられない、という定めです。行政規則は、委任がなくても作れます。国民を直接縛らないからです。職員の手順書を作るのに、国会の許しは要りません。むしろ、審査基準のように、行政手続法が、定めることを求めている場合もあります。もう1つ、裁判所との関係です。法規命令は、法令の一部です。裁判所は、法令に従って裁判をします。ですから、有効な法規命令なら、裁判所もそれに従います。冒頭の例なら、床面積の下限は、裁判所も前提にして判断します。行政規則は、行政の内部の基準で、法令ではありません。ですから、裁判所は、2枚目の手順書のような内容に縛られず、法律と施行令に照らして、自分で判断できます。なお、法規命令にも、種類があります。法律から任されて中身を定める委任命令と、法律を実施するための手続などの細目を定める執行命令です。違いと限界は、後の回で扱います。ここで1問です。省の大臣が、法律の委任なしに、省令で、国民に新しい義務を課したら、どうなるでしょうか。
形が省令でも、委任がなければ、国民に義務を課す力はありません。大事なのは、形があるかどうかではなく、法律の裏付けがあるかどうかです。
二分の揺らぎ——内部基準の外部化と「命令等」
図:二分の揺らぎ
- 理論=行政規則は国民を直接縛らない
- 現実=公表された審査基準・手順書が、申請者の許可の可否を左右する→内部法の外部化
- 行政手続法2条8号「命令等」=イ法律に基づく命令・規則
- ロ審査基準
- ハ処分基準
- ニ行政指導指針→法規命令と行政規則を一括して意見公募手続へ
- 解釈基準〔解釈通達〕は列挙にない
本題の前に、前回の復習です。前回の、型ごとの事前の手続と事後の争い方の表で、行政基準を定めるときの事前の手続は、何でしたか?意見公募手続です。広く国民の意見を募る手続でした。今日は、その意見公募手続の対象が、どこまでかという、入口の話にだけ触れます。中身は、後の回です。さて、行政規則は、理論上は、国民を直接縛りません。ところが、現実は、それほど単純ではありません。気にしなくて済まないのが、現実です。冒頭の制度で考えます。省が、法律の言う安全な施設を具体化して、非常用の電源を備えていること、という審査の基準を定め、公表したとします。施行令には、そんな定めはありません。それでも職員は、基準どおりに審査します。すると、非常用の電源が無い事業者は、事実上、許可をもらえません。法的には内部のルールでも、外の国民の扱いを決めてしまうのです。これを、内部法の外部化と呼びます。内部の基準が、外へ効いてくる、という意味です。通達でも起こります。課税の取扱いを定めた解釈の通達は、その典型です。結論です。二分は、考えを整理する出発点として有用です。しかし、現実には、境目が相対化しています。それでも、答案では、二分が出発点になります。法規命令か行政規則かで、委任が要るか、裁判所が従うかが、変わるからです。この相対化は、法律の中にも表れています。行政手続法2条8号です。意見公募手続の対象を決める定義で、命令等を定めています。
条文行政手続法2条8号
行政手続法第2条第8号 八 命令等 内閣又は行政機関が定める次に掲げるものをいう。 イ 法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。次条第二項において単に「命令」という。)又は規則 ロ 審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。) ハ 処分基準(不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。以下同じ。) ニ 行政指導指針(同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項をいう。以下同じ。)
イは、法律に基づく命令、つまり法規命令です。ロの審査基準、ハの処分基準、ニの行政指導指針は、行政規則です。法規命令と行政規則が、命令等という一つの包みに、まとめて入っています。同じ意見公募手続に乗せる、という意味です。二分の相対化を、法律のレベルでも認めたもの、と読めます。全部ではありません。ここは大事です。ロからニに並んでいるのは、審査基準、処分基準、行政指導指針の3つだけです。解釈基準、つまり解釈の通達は、ここに列挙されていません。行政規則は全部が対象、とは言えません。前回の表は、政令や省令を例に、行政基準の事前の手続を整理したものです。行政規則まで広げると、対象は、ここに並ぶものに限られます。審査基準などの中身は、後の回で見ます。
命令の形式の一覧——政令から規則まで
図:命令の形式の一覧①国の命令
- 政令=内閣・憲法73条6号・内閣法11条
- 内閣府令=内閣総理大臣・内閣府設置法7条3項
- デジタル庁令=内閣総理大臣・デジタル庁設置法7条3項
- 省令=各省大臣・国家行政組織法12条1項
- 外局の規則その他の特別の命令=委員会・庁の長官・国家行政組織法13条1項
- 人事院規則=人事院・国家公務員法16条1項
- 会計検査院規則=会計検査院・会計検査院法38条
次は、法規命令の入れ物を、一覧にします。誰が、どんな名前で、ルールを定めるのかです。その前に、言葉を整理します。命令とは、法令用語として、行政機関が定める一般的なルールの形式の総称です。法律と合わせて、法令と呼ばれます。行政手続法の定義では、法令に、条例や規則まで含みます。個別の人に命じる処分の命令とは、別のものです。次の節で、改めて比べます。板の上から順に見ます。条番号を暗記する必要はありません。誰が定めるのか、という見取り図をつかんでください。政令は、内閣が定めます。閣議で決めます。根拠は、憲法73条6号と、さきほどの内閣法11条です。冒頭の1枚目の、施行令が、これです。内閣府には、内閣府令があります。内閣総理大臣が、内閣府の事務について発します。条文を見ます。
条文内閣府設置法7条3項・4項
内閣府設置法第7条第3項・第4項 3 内閣総理大臣は、内閣府に係る主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、内閣府の命令として内閣府令を発することができる。 4 内閣府令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。
4項が要点です。内閣府令にも、政令と同じ縛りがあります。法律の委任がなければ、罰則も、義務も、権利の制限も置けません。デジタル庁にも、同じ型の定めがあります。内閣総理大臣が、デジタル庁令を発します。板で指すだけにとどめます。省には、省令があります。各省の大臣が、その省の事務について発します。これは、第2章で国家行政組織法12条1項として見ました。同じ12条の3項に、省令には法律の委任がなければ罰則や義務などを置けない、という定めもあります。内閣府令の4項と、同じ内容です。外局は、省に属しながら、ある程度独立して仕事をする、委員会や庁でした。外局には、委員会や庁の長官が定める規則その他の特別の命令があります。これも、国家行政組織法13条1項で、前に見ました。法律に別の定めがあるときに、できる形です。そのほかに、内閣の所轄の下に置かれた人事院と、内閣に対し独立の地位を持つ会計検査院が定める規則があります。人事院規則と、会計検査院規則です。それぞれ、国家公務員法と会計検査院法に根拠があります。
図:命令の形式の一覧②別枠と序列と共通の縛り
- 長の規則は国の命令ではない=普通地方公共団体の長・地方自治法15条1項
- 序列=政令が最上位、府令・省令がその下、外局の規則がさらに下
- 人事院規則・会計検査院規則は別枠
- どの形式も法律の委任がなければ義務・権利制限・罰則は設けられない
- 題名と種類は一致しない=施行令は政令、施行規則は府令・省令・外局の規則のどれか
板の下の段です。まず、線の下に、長の規則が別に置いてあります。地方公共団体の長が、地方自治法15条1項に基づいて定める規則です。第1章では、地方公共団体の自主法として、国の法とは別の枠に置きました。国の命令とは区別します。条例との関係は、第2章で見ました。基本は、政令が最上位です。さきほどの内閣府設置法の条文にも、政令を施行するため、また政令の委任に基づいて府令を発する、とありました。府令や省令は、政令を施行する形で定められるので、政令の下に位置づけます。外局の規則は、省の下に置かれた委員会や庁の長官が定めるので、さらにその下、と考えます。人事院規則と会計検査院規則は、省や外局とは別の系統の機関が定める規則なので、別枠です。序列を、一列で言い切らないようにしてください。共通点も大事です。どの形式の命令も、法律の委任がなければ、罰則を設け、義務を課し、国民の権利を制限することはできません。政令に罰則を置けるのも、法律の特別の委任があるときだけです。さきほどの、委任の要否を、形式ごとに確かめたことになります。もう1つ、実用的な知識です。題名と種類は、一致するとは限りません。何々法施行令は、政令です。ところが、何々法施行規則は、府令のこともあれば、省令のことも、外局の規則のこともあります。題名だけでは決まりません。種類は、法令番号で分かります。何々省令第何号、と書いてあるからです。ここで1問です。何々法施行規則は、行政規則ですか?
名前が規則なので、行政規則だと思いかけましたが、違いますよね。府令や省令なら、国民を直接縛る法規命令のはずです。名前に規則とあっても、国民を直接縛るなら、法規命令です。次の節で、この混同を整理します。
つまずき——「命令」「規則」の多義性
図:「命令」と「規則」の多義性
- 命令=①法令用語の命令〔一般的なルールの形式・今日の主題〕②処分としての命令〔特定の人に作為・不作為を命じる=営業停止命令・是正命令〕
- 規則=施行規則〔府省令〕・外局の規則・人事院規則・会計検査院規則・長の規則→法規命令または自主法
- 学問上の行政規則=内部基準〔実定法の語ではない〕
- 名前で決めず、誰がどんな根拠で定め、国民を直接縛るかで見る
この分野には、言葉のつまずきが2つあります。順に整理します。1つ目は、命令です。命令には、意味が2つあります。第1章で、紛らわしいと一度触れました。1つは、今日の主題の、法令用語としての命令です。政令や省令のような、行政機関が定める一般的なルールの形式です。もう1つは、処分としての命令です。特定の人に、あることをしなさい、あるいはしてはいけない、と命じるものです。営業停止命令や、違反の是正命令が、この例です。見るのは、一般的か、特定の相手か、です。不特定多数に向けたルールの形式なら、法令用語の命令です。特定の人に向けて、これをしなさいと命じているなら、処分としての命令です。法令に命令とあるときは、後者のことも、よくあります。2つ目は、規則です。規則も、多義的です。何々法施行規則と呼ばれる、府令や省令。これは、法規命令です。外局の委員会や庁の長官が定める規則も、法規命令です。人事院規則と会計検査院規則も、命令の一種で、法規命令です。ここまでの国の規則は、どれも、国民を直接縛り得ます。地方公共団体の長が定める規則は、国の命令ではなく、自主法です。第2章で見たとおり、住民に義務を課すには、原則として、長の規則ではなく、条例が要ります。一方で、学問上の行政規則は、法的な性質に着目した言葉です。国民を直接縛らない、内部の基準を指します。実定法の用語ではありません。法令の題名に行政規則と書いてあるわけではないのです。
さらに、名前が規則でも、内部の取扱いを定めるだけのものがあります。たとえば、補助金の交付の手続を定める、内部の規程です。組織の編成を定める、組織規則もあります。これらは、国民を直接縛らない内部のものです。誰が、どんな根拠で定め、国民を直接縛るのか、で見ます。何々施行規則は行政規則、と答案に書くと、誤りになります。ついでに、要綱や、ガイドラインや、手順書と呼ばれるものも、国民を直接縛らない内部の基準です。学問上は、行政規則に分類します。
告示——入れ物の名前で中身は決まらない
図:告示の4つの顔
- 告示=大臣・委員会・庁の長官が公示が必要なときに発する形式〔国家行政組織法14条1項〕=中身は決まっていない
- ㋐事実の周知
- ㋑処分の効力発生の要件=帰化の許可は告示の日から効力〔国籍法10条〕
- ㋒行政内部の規定の公示
- ㋓法規命令として機能=不公正な取引方法の指定は告示〔独占禁止法72条〕
最後に、冒頭の3枚目、大臣の告示です。告示は、第2章で、国家行政組織法14条1項として見ました。大臣や委員会や庁の長官が、所掌事務について、公示が必要なときに発する形式です。国民に知らせる形、と説明しました。内閣府やデジタル庁にも、同じ趣旨の定めがあります。ここで大事なのは、告示は、知らせる形であって、中身が決まっていない、という点です。入れ物の名前なのです。中身は、大きく4つに分かれます。1つ目は、単に事実を周知するものです。2つ目は、処分の効力が生じる要件になるものです。たとえば、帰化の許可は、官報に告示され、その告示の日から効力が生じます。国籍法10条です。3つ目は、行政内部の規定を公示するものです。4つ目は、法規命令として働くものです。たとえば、不公正な取引方法の指定は、告示で行う、と独占禁止法72条が定めています。法律が、告示によると決めている例です。条番号は覚えなくて構いません。
判例にも、中身の違う告示が出てきます。3つ見ます。どの告示が、どう扱われたのかをつかんでください。
図:告示の中身——3つの判例
- ①生活保護基準〔最判平24・2・28 民集66巻3号1240頁〕=生活保護法8条1項が大臣の定める基準に委ねた保護基準/裁量審査で判断・告示の性質は断定していない
- ②学習指導要領〔最判平2・1・18 集民159号1頁〕=学校教育法施行規則が大臣の公示する学習指導要領による/法規としての性質を有する
- ③固定資産評価基準〔最判平25・7・12 民集67巻6号1255頁〕=地方税法が総務大臣の告示に委ねる/基準による価格を上回れば違法・外部に効くが、基準で価格を決めきるわけではない
1つ目は、生活保護の保護基準です。生活保護法8条1項が、保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した需要を基とする、と定めています。その基準が告示で出ています。高齢の受給者への加算を廃止した改定が争われ、最高裁は、改定が大臣の裁量の範囲内かを審査して、請求を退けました。ここで注意です。この判決は、告示の性質を、法規命令だと断じたわけではありません。性質の分類を論じていないのです。位置づけとしては、国民の受給額を左右する、外向きの基準が、告示で出ている例です。裁量を審査する中身は、後の回で扱います。2つ目は、学習指導要領です。学校教育法施行規則は、高校の教育課程について、文部科学大臣が別に公示する学習指導要領による、と定めています。つまり、告示に委ねています。最高裁の判決を見ます。
判例最判平2・1・18 集民159号1頁
学習指導要領は法規としての性質を有する 高等学校学習指導要領(昭和三五年文部省告示第九四号)は法規としての性質を有するとした原審の判断は、正当として是認することができ
主語に気をつけてください。法規としての性質があると判断したのは原審で、最高裁は、その判断を是認した、という形です。なぜ法規と言えるのか。学校教育法施行規則が、教育課程の基準を大臣の告示に委ねているからだ、と説明されます。委任を受けた告示なので、外の人、ここでは教える側を、法的に縛る、という理解です。冒頭の3枚目と、同じ形です。3つ目は、固定資産評価基準です。地方税法は、総務大臣に、土地などの評価の基準を定めて告示させています。そして、市町村長に、その基準によって価格を決定するよう求めています。最高裁の判決です。
判例最判平25・7・12 民集67巻6号1255頁
評価基準による価格を上回る登録価格は違法 このような全国一律の統一的な評価基準に従って公平な評価を受ける利益は、適正な時価との多寡の問題とは別にそれ自体が地方税法上保護されるべきものということができる。したがって、土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず、その登録価格の決定は違法となるものというべきである。
登録価格が、評価基準による価格を上回れば、実際の時価を上回るかどうかに関係なく、違法になる、と言っています。公平な評価を受ける利益そのものが、法律上守られるからです。つまり、この告示は、納税者の側から見て、外に効いています。固定資産評価基準が法規命令と位置づけられるかには、議論があります。判決は法規命令かどうかを論じていませんが、基準どおりの価格は、特別の事情がなければ、適正な時価を上回らないと推認される、とも述べています。推認ですから、基準では時価を適切に算定できない特別の事情があれば、覆ります。基準が、価格を最後まで決めきるわけではないのです。3件をまとめます。生活保護基準は、国民の受給額を左右する外向きの基準。学習指導要領は、法規としての性質ありとされた例。固定資産評価基準は、外に効くが、基準で価格を決めきるわけではない例です。同じ告示という形式でも、扱われ方は一様ではありません。
図:行手法2条1号と8号イ——告示の扱い
- 2条1号「法令」=法律・法律に基づく命令〔告示を含む〕・条例・規則
- 2条8号イ「命令等」=法律に基づく命令〔処分の要件を定める告示を含む〕又は規則
- すべての告示が命令等ではない
- 「告示だから法規命令」「告示だから行政規則」はどちらも誤り
最後に、行政手続法が告示をどう扱うかを見ます。2条1号です。
条文行政手続法2条1号
行政手続法第2条第1号 一 法令 法律、法律に基づく命令(告示を含む。)、条例及び地方公共団体の執行機関の規則(規程を含む。以下「規則」という。)をいう。
法令の定義の中で、法律に基づく命令に、告示を含む、としています。告示が、命令と同じ扱いを受けることがある、という意味です。一方、さきほどの2条8号イは、意見公募手続の対象となる命令等に含める告示を、処分の要件を定める告示、に絞っていました。すべての告示が、命令等というわけではありません。なお、告示が、個別の人に直接効く場面は、後の回で扱います。ですから、告示だから法規命令、告示だから行政規則、という決めつけは、どちらも誤りです。告示に出会ったら、2点を確かめます。1つ目は、何を定めているか。周知か、効力発生の要件か、内部の規定か、国民を縛る基準か、です。2つ目は、法律が、その告示に委ねているか、です。冒頭の3枚目に戻ります。庫内の温度の基準でした。法律が、大臣の告示に委ねた、許可の可否を決める基準です。ですから、告示という名前でも、国民を縛る外向きの基準です。同じ数字でも、業界に目安を知らせるだけの告示なら、国民を縛りません。名前では決まりません。中身で見ます。
今日のまとめ
図:今日の地図
- 保存版
- (①行政が具体化のためにルールを作る・呼び名は行政基準〔行政規則は憲法41条の立法でない〕②法規命令=国民を直接縛る・法律の委任が要る/行政規則=内部基準・委任は要らない③二分は揺らぐ〔内部基準の外部化・命令等〕が答案の出発点④命令の形式=政令・府令・庁令・省令・外局の規則・人事院や会計検査院の規則/長の規則は別枠・どれも委任なしに義務は課せない⑤「命令」「規則」は多義的・告示は中身で見る〔周知/効力発生/内部規定/法規命令的〕)
冒頭の問いに、答えます。同じ行政基準でも、国民を縛る力は、中身で決まります。1つ目。行政は、抽象的な法律を具体化するために、ルールを作ります。その総称を、行政基準と呼びます。行政規則は、憲法41条の立法ではないからです。2つ目。法規命令は、国民を直接縛り、法律の委任が要ります。行政規則は、行政内部の基準で、委任は要りません。見分ける物差しは、国民と行政の関係を、直接規律するかです。3つ目。二分は、揺らいでいます。内部の基準が、国民の扱いを事実上左右しますし、行政手続法は、命令等として、両方を一括して扱います。それでも、答案では、二分が出発点です。4つ目。命令の形式は、政令、内閣府令、デジタル庁令、省令、外局の規則、人事院や会計検査院の規則です。長の規則は、別枠です。どれも、法律の委任がなければ、義務や権利の制限を、設けられません。5つ目。命令も規則も、多義的です。名前では決めません。告示も、入れ物の名前で、中身は一様ではありません。
参照条文
- 内閣法11条
- 行政手続法2条8号
- 内閣府設置法7条3項・4項
- 行政手続法2条1号