刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#7

捜査とは何か

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骨格捜査は、何のために・いつから・何を・どうやって集める活動か

  • 1 目的:起訴するかを正しく決め、公判をやり抜くための準備。道具は2本=証拠の発見・収集と犯人の発見・確保(189条2項「犯人及び証拠」)。
    • 事実の認定は証拠による(317条)。起訴の判断も証拠で決まる → 証拠集めが中心。
  • 2 始まり:「犯罪があると思料するとき」=犯罪の嫌疑があるとき。端緒はそのきっかけ。
    • 担い手:司法警察職員が第一次的/検察官は必要と認めるとき自ら(補充的)/検察事務官は検察官の指揮を受けて。
  • 3 証拠の集め方は対象で決まる:物・現場の状態・専門知識・団体の情報・言葉(・通信)。多くの対象に、任意の手段と強制の手段の両方がある。
  • 4 犯人の確保:逮捕は全事件の平均で10人に3人=多くは在宅事件。身柄を取るなら、逮捕(通常・現行犯・緊急)→ 必要なら勾留。
  • 5 強制の縛り:入口の目安=相手の同意・承諾なしにできるのが強制(とりあえずの整理。基準は別の論点)。強制には法律の定め(197条1項ただし書)と、原則として裁判官の令状が要る。
  • 6 将来の犯罪:条文は「あった」ではなく「あると思料する」。発生が高度に見込まれ、ある程度特定できるなら、特に任意捜査は認めてよい(刑訴法の規律も及ぶ)とする見解がある。おとり捜査の決定がヒント。

⚠ 110番が入った瞬間=捜査の開始ではない(嫌疑が要る)/「するものとする」を「必ず捜査する義務」と言い切らない/実況見分は同意が無くても公道などでできる/照会に強制の手段は無い・通信傍受(当事者のいずれの同意も無い傍受)は強制

捜査の目的と2本の柱

捜査は、起訴するかを正しく決め、公判をやり抜くための準備活動です。そのために証拠と犯人を集めます。

  • 捜査:捜査機関が、起訴・不起訴を正しく判断し、公判を遂行するために、証拠を見つけて集め、犯人を見つけて確保する活動です。
    • 起訴=検察官が裁判所に、被疑者を裁くよう求めること(公訴の提起)。公判=起訴の後、法廷で証拠を調べ、有罪・無罪と刑を決める手続です。
    • 犯人を懲らしめるための活動ではありません。公判で有罪か無罪かをきちんと決められるようにする準備です。
  • 2本の柱:189条2項の「犯人及び証拠」がそのまま柱です。
    • 犯人だけ捕まえても、証拠が無ければ有罪にできません。証拠だけそろっても、犯人が分からなければ起訴できません。

(1) なぜ証拠集めが中心か(317条まで)

段階誰が・何をするか
捜査捜査機関が、証拠を集める
起訴の判断検察官が、集めた証拠をもとに起訴するかを判断する。実務では判断が厳密で、起訴のハードルは高い
公判の遂行集めた証拠で立証し、公判をやり抜く
有罪・無罪の判断裁判所は、証拠に基づいてしか事実を認定できない(317条)
  • 最後は証拠で決まる:裁判所は証拠でしか事実を認定できず、検察官もそれを見越して起訴するかを決めます。だから捜査の段階から、起訴と公判を見据えて証拠を集めます。手段も、対象ごとに細かく用意されています(第3節)。
    • 例:防犯カメラに似た人物が映っているだけで、本人は否認し、ほかに証拠が無い → 有罪を立証できる見込みが立たず、起訴されない方向に働きます。「あの人が犯人らしい」だけでは有罪にできません。

317条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第三章 公判 第四節 証拠(317〜328条)事実の認定は、証拠による。

捜査はいつ・誰が始めるか

犯罪の嫌疑が生じたとき(「思料するとき」)に始まります。最初に動くのは司法警察職員です。

  • 始まる条件:「犯罪があると思料するとき」=犯罪があると考えたとき、つまり犯罪の嫌疑があるときです。嫌疑が無ければ、捜査を始められません。
    • 例:「近いうちに誰かが何かしそうだ」とだけ書いた匿名の投稿 → 嫌疑と言える中身が無く、捜査は始まりません。「昨夜〇〇の店で刃物を見せてレジの金を奪った」と具体的なら、嫌疑を生む端緒になりえます。
  • 端緒:捜査機関が「思料する」に至ったきっかけです。
    • 申告(110番など)、職務質問、検視、告訴、告発、自首、現行犯逮捕などがあります。
    • 端緒(きっかけ)と、思料(嫌疑があること)は別のものです。
    • 捜査機関が行う現行犯逮捕は、きっかけであると同時に、それ自体が捜査(犯人の確保・第4節)でもあります。犯行の最中や直後(準現行犯なら、行い終わってから間がない時)に嫌疑が生じ、その場で捜査が始まる場面です。
    • 例:「110番が入った瞬間が捜査の始まり」は誤り → 110番(申告)は端緒にすぎません。内容がいたずらと分かれば、嫌疑は生じません。
捜査機関立場条文の書き方
司法警察職員第一次的に捜査する。多くは警察官。海上保安官のように、特定の分野を担当する人もいる「捜査するものとする」(189条2項)
検察官二次的・補充的。必要と認めるときに、自ら捜査できる「捜査することができる」(191条1項)
検察事務官検察官の指揮を受けて捜査する「捜査をしなければならない」(191条2項)
  • 「第一次的」「補充的」:条文の言葉ではなく、189条2項と191条1項の書き方からの整理です。
    • 例:深夜のコンビニ強盗の通報 → 現場に駆けつけ捜査を始めるのは、まず警察官です。検察官は、必要と認めれば自ら捜査に加わります。
  • 「するものとする」:司法警察職員の捜査の責務を示す書き方ですが、どこまで強い義務かは条文からは言い切れません。
    • 同じ章で、検察事務官については「捜査をしなければならない」(191条2項)と、はっきり義務の形で書いています。189条2項は「しなければならない」とは書いていません。
    • 例:「110番の通報を受けた以上、警察は必ず捜査を始めなければならない」と書く → 誤り。通報だけでは嫌疑があるとは限らず(始まる条件)、義務の強さも条文からは言い切れません。

189条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)2項:司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。

191条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:検察官は、必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができる。2項:検察事務官は、検察官の指揮を受け、捜査をしなければならない。

証拠の集め方:対象ごとに、任意と強制

何を集めるか(対象の性質)で手段が決まります。多くの対象に、任意の手段と強制の手段が両方あります。

  • 任意捜査/強制捜査:入口の整理として、相手の同意・承諾を得て行うのが任意、同意・承諾がなくても行えるのが強制です。ただし、これはとりあえずの整理で、同意が無くても任意とされる活動があります(公道で現場を見るなど)。どこからが強制かの基準は、別の論点として詰めます(学説には、重要な権利・利益を侵害・制約するかで分ける定式があります)。
対象任意の手段強制の手段
物領置(221条)差押え・捜索・電磁的記録提供命令(218条1項)
現場の状態実況見分(犯罪捜査規範104条)検証(218条1項)
専門知識鑑定嘱託(223条1項)嘱託に伴う鑑定留置(224条)・鑑定処分(225条)
団体の情報公務所等への照会(197条2項)―(照会を強制する手段は無い)
言葉(供述)取調べ(198条1項・223条1項)第1回公判期日前の証人尋問(226条・227条)
通信―(この回では扱わない)通信傍受(222条の3・通信傍受法)

(1) 物:探す・取る・データを出させる

  • 押収:捜査機関が、物の占有を取得する処分です。
    • 領置:犯人などが遺留した物や、持ち主などが任意に提出した物を取得します(221条)。取得に強制力を使いません。
      • 例:犯人が逃げるときに現場に落としたカッターナイフ → 遺留物の領置。
    • 差押え:相手が渡したくなくても、強制的に取得します(裁判官の令状=218条1項)。
      • 例:被害者が、犯人とのやり取りが残る自分のスマートフォンを自分から渡した → 任意提出物の領置。持ち主が渡すのを拒んだ → 令状による差押え。
  • 捜索:どこにあるか分からない物を、見つけるための強制処分です。物を取得する処分ではありません。差押えの前に行うことがあります。
    • 覚え方:見つけるのが捜索、持っていくのが押収。
    • 例:カッターナイフを落とした犯人について、後日、自宅に隠してあった別の凶器を、令状で探して取得 → 探すのが捜索、取得するのが差押え。
  • 電磁的記録提供命令:データを保管する者などに、必要なデータを提供させる命令です。記録媒体に記録させて出させるほか、回線を通じた提供もできます。正当な理由なく従わないと、刑罰があります(222条の2)。
    • 改正前の名前は記録命令付差押え:必要なデータを別の媒体に記録・印刷させ、その媒体を差し押さえる形でした。教科書にこの名前があれば改正前の記述です。
      • 例:「改正前の記録命令付差押えは、サーバーを丸ごと差し押さえる制度だった」は誤り → 旧制度も、必要なデータを記録させた媒体を差し押さえる仕組みです。変わったのは、差押えの形をやめて「提供」を命じる形にしたこと、回線での提供ができるようになったことが主な点です。従わないときの罰則も置かれています(222条の2)。

(2) 現場の状態:検証と実況見分

  • 押収できない理由:防犯カメラの位置や店内の破損の様子のような「状態」は、占有を移せる物ではないからです。
    • そこで、五官の作用(目・耳・舌・鼻・皮膚の感覚)で、場所・物・人の身体の性質・形状・状態を認識する処分が別にあります。「五官」は条文の言葉ではなく、定義の言葉です。
    • 例:空き巣事件で、窓ガラスに残った靴跡を写真に撮って残す → 靴跡という物を取得するのではなく、状態を記録している=押収ではなく検証か実況見分。
検証実況見分
性質強制処分(裁判官の令状=218条1項)任意処分(令状は要らない)
できる場面実況見分では足りないとき(住人が立入りを拒む場所など)公道など第三者の権利を侵すおそれがない場所、または相手方の承諾がある場合
行為の中身五官の作用で、状態を認識し記録する同じ
  • 中身は同じ行為です。強制で行えば検証、任意で行えば実況見分と呼び分けます。
    • 実況見分で足りるなら実況見分、足りなければ検証、という順に考えます(任意捜査の原則)。
    • 例:歩道に残った血痕の位置と大きさを測って撮影する → 公道で誰の権利も侵さないので、誰の同意が無くても実況見分でよい。同じ測定を、住人が立入りを拒む私有地の中で行う → 令状による検証。
    • 例:「同意があるかどうかだけで呼び名が変わる」は不正確 → 公道のように、同意が無くても実況見分でよい場所があります。
  • 犯罪捜査規範:警察官が捜査で守るべきことを定めた国家公安委員会規則です。法律ではありません。104条は、実況見分を関係者の立会いのもとで行い、調書に図面・写真を付けることなどを定めています。

(3) 専門知識:鑑定嘱託と、それに伴う処分

鑑定嘱託鑑定留置鑑定処分
中身専門家に鑑定を依頼する鑑定のため、被疑者の身体を一定期間拘束しておく鑑定に必要な身体検査・死体の解剖など
例血痕のDNA型の鑑定を、科学捜査研究所に頼む責任能力が疑われる被疑者の精神鑑定死因を調べるための解剖
性質任意(令状は要らない)強制(裁判官が鑑定留置状で行う)強制(裁判官の許可状が要る)
条文223条1項224条225条
  • 鑑定嘱託が任意なのは:専門家が任意に応じるものだからです。断られたら、別の専門家に頼めば足ります。
  • 鑑定留置・鑑定処分は、嘱託に付いてくる:どちらも223条1項の鑑定の嘱託が前提です。
    • 鑑定留置は、逮捕・勾留とは別枠の身体拘束です。検察官などが裁判官に請求します(224条)。
    • 鑑定処分を行うのは、鑑定の嘱託を受けた専門家です。検察官などが許可を請求し、裁判官が許可状を出します(225条)。
      • 例:警察が大学の法医学者に、死因の鑑定を嘱託した(任意)。解剖が必要になった → 司法警察員(司法警察職員のうち司法巡査でない者。鑑定処分の許可は検察官・検察事務官・司法警察員が請求する=225条2項)などが裁判官に許可を請求し、許可状を受けて法医学者が解剖します。

(4) 団体の情報と言葉:照会・取調べ・証人尋問

  • 公務所等への照会:役所・銀行・会社などの団体に、必要な事項を問い合わせて回答してもらう手段で、任意捜査とされています(197条2項)。実務では「捜査関係事項照会」と呼ばれます。
    • 例:コンビニの本社に来店記録を照会したが、回答が来ない → 照会では回答を強制できません。必要なら、裁判官の令状を得て、差押えや電磁的記録提供命令という強制の手段に移ることができます(令状の要件は別に満たす必要があります)。
  • 取調べ:被疑者と、被害者・目撃者など被疑者以外の者から話を聞き、供述という証拠を集めます(198条1項・223条1項)。
    • 逮捕・勾留されていない被疑者は、出頭を拒め、出頭後もいつでも退去できます(198条1項ただし書)。被疑者以外の者も同じです(223条2項)。
    • 被疑者には、あらかじめ、話したくないことは話さなくてよいと告げます(198条2項)。
  • 第1回公判期日前の証人尋問:被疑者以外の者の取調べは任意で、出頭を拒め、いつでも退去できます(223条2項)。そこで、出頭・供述を拒まれたときや、公判で話が変わるおそれがあるときのために、検察官が裁判官に証人尋問を請求する手続があります。
226条227条
場面捜査に欠かせない知識を持つと明らかな人が、取調べで出頭・供述を拒んだ取調べで任意に話した人が、公判で話を変えるおそれがあり、その供述が犯罪の証明に欠かせない
  • 226条と227条の違い:話すのを拒んだ人から話を聞くのが226条、すでに話した人の供述を公判前に固めておくのが227条です。
    • 例:事件の解明に欠かせない唯一の目撃者が、警察の呼び出しに一切応じない → 226条。警察では詳しく話したが、被疑者と親しく公判で話を変えそうで、その供述が有罪の立証に欠かせない → 227条。
  • 共通点:第1回の公判期日前に限り、検察官だけが請求できます(司法警察職員はできない)。対象は被疑者以外の者です。
    • 例:「被疑者が取調べで黙るなら、証人尋問に呼べばよい」は誤り → 226条・227条は、被疑者以外の者の取調べ(223条1項)が前提です。
  • 強制である理由:請求を受けた裁判官は、証人の尋問について裁判所と同じ権限を持ちます(228条1項)。証人は、正当な理由なく出頭しないと勾引(強制的に連れてこられる)や過料・刑罰、正当な理由なく証言を拒むと過料・刑罰があります(150〜152条・160条・161条)。応じるかを本人が選べません。

226条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる者が、第二百二十三条第一項の規定による取調に対して、出頭又は供述を拒んだ場合には、第一回の公判期日前に限り、検察官は、裁判官にその者の証人尋問を請求することができる。

(5) 動かない証拠と、ズレうる証拠

客観的証拠(動かない証拠)供述証拠(ズレうる証拠)
中身防犯カメラの映像・証拠物・記録した現場の状況など。時間が経っても変わらない人の記憶や発言にもとづく証拠(証言・自白など)
弱点そもそも存在しないことがある見間違い・記憶違い・忘却・嘘が混じりうる
それでも要る場面―「なぜこの店を狙ったのか」「共犯者と何を話し合ったのか」は、本人に聞かなければ分からないことが多い
  • 客観的証拠が重視されますが、それだけでは事件の全部は見えません。供述証拠に頼らざるをえない場面は少なくありません。

犯人の確保:在宅事件と身柄事件

多くの事件は、身柄を取らずに進みます。取るときは逮捕し、必要ならさらに勾留します。

  • 被疑者:捜査の対象になった人の、起訴される前の呼び名です。まだ犯人と決まった人ではありません。
在宅事件身柄事件
身体の拘束しない(逮捕・勾留されていない被疑者の事件)する(逮捕・勾留したまま捜査する)
取調べ任意。出頭を拒め、途中で帰れる出頭を拒める・退去できるという定め(198条1項ただし書)は、「逮捕又は勾留されている場合を除いては」とされ、条文上の保障は無い。この取調べに応じる義務があるか(取調受忍義務)は争いがあり、別の論点。供述しなくてよいと告げられる点(198条2項)は同じ
  • 逮捕は例外:全事件の平均で、逮捕されるのは被疑者10人に3人くらいです。「捜査=逮捕」ではありません。
    • 例:住所も勤め先もはっきりしていて、呼び出しのたびに警察署へ来るので、逮捕されていない → 在宅事件。取調べは任意です。
  • 身柄を取る理由:逃げられると公判を開けず、証拠を消されると立証できないからです。勾留の理由にも、住居不定・罪証隠滅・逃亡のおそれが挙がっています(207条1項・60条1項)。
  • 逮捕:捜査機関が実力で被疑者の身体の自由を拘束し、引き続き一定時間その状態を続ける強制処分です(現行犯人は、私人も逮捕できる=213条)。
  • 勾留:逮捕に続いて、より長期にわたり身体を拘束する強制処分です。
類型どんなとき
通常逮捕裁判官があらかじめ発した逮捕状で逮捕する(199条1項)
現行犯逮捕現行犯人(いま罪を行っている者・行い終わった直後の者)と準現行犯人を、令状なしで逮捕する。誰でもできる(212条・213条)
緊急逮捕死刑・無期・長期3年以上の拘禁刑の罪を犯したと疑う十分な理由があり、急速を要し逮捕状を求められないとき、理由を告げて逮捕する。直ちに逮捕状を求め、出なければ直ちに釈放(210条1項)
  • 原則は逮捕状:逮捕は、裁判官があらかじめ発した逮捕状による通常逮捕が基本です。現行犯逮捕と緊急逮捕は、逮捕状を先に取らずに逮捕できる場面です。
    • 例:コンビニ強盗が逃げきった後、防犯カメラから犯人が特定された → 逮捕状を取って通常逮捕。
  • 現行犯人:いま罪を行っている者・行い終わった直後の者です。犯人であることが目の前で明らかなので、令状なしで、誰でも逮捕できます。
    • 例:レジから金をつかんだ瞬間に取り押さえた → 現に罪を行っている現行犯人。店員でも逮捕状なしで逮捕できます。
  • 準現行犯人:次の4つのどれか(犯人として追呼されている・贓物や、明らかに犯罪に使ったと思われる凶器などを持っている・身体や服に犯罪の顕著な跡がある・誰何されて逃げようとする)に当たり、罪を行い終わってから間がないと明らかな者です(212条2項)。
    • 例:通報で駆けつけた警察官が、30分後、数百メートル先で、店の売上金の袋を持った男を見つけた → 贓物の所持(212条2項2号)。行い終わってから間がないと明らかなら準現行犯人として逮捕できます。
  • 緊急逮捕:重い罪で、逮捕状を待っていては間に合わない場面のための手続です。逮捕した後、直ちに逮捕状を求めます(出なければ直ちに釈放)。
    • 例:防犯カメラで特定された強盗犯を、逮捕状を取る前に捜査員が偶然路上で見つけ、取る時間が無い → 強盗罪は長期3年以上の罪で、疑う十分な理由も急ぐ事情もあるので、緊急逮捕ができます。疑いが暴行罪(2年以下の拘禁刑など)だけなら、緊急逮捕はできません。

強制捜査にだけかかる縛り

強制処分は、法律に特別の定めがなければできず、原則として裁判官の令状が要ります。

  • 縛りがある理由:捜査に必要な取調べ(ここでは、話を聞くことに限らず、捜査の活動全般の意味)は、任意の手段なら原則としてできます(197条1項本文。それでも、必要性と、それに見合う相当性という限界があると解されています)。ただ、逮捕・勾留や捜索・差押えのような強制処分は、相手の同意・承諾なしに重要な権利・利益を侵害・制約できるので、別に縛りがかかります。
  • 法律の根拠:強制処分は、法律に特別の定めがある場合でなければできません(197条1項ただし書)。

197条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:捜査については、その目的を達するため必要な取調べをすることができる。ただし、強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない。

  • 令状:差押え・捜索・電磁的記録提供命令・検証は、裁判官の令状で行います(218条1項)。ただし、逮捕の現場での差押え・捜索・検証は令状なしでできます(220条)。こうした例外があるので「原則として」令状です。
    • 例:「強制処分にはいつも令状が要る」は誤り → 被疑者を逮捕する場合、逮捕の現場での差押え・捜索・検証は令状なしでできます。

218条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索、電磁的記録提供命令又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

  • 取調べと証人尋問の違い:同じ「話を聞く」でも、逮捕・勾留されていない人の取調べなら、出頭を拒め、いつでも退去できます(198条1項ただし書・223条2項)。証人尋問は、正当な理由なく来なければ勾引・過料・刑罰があり、応じるかを選べません。逮捕・勾留も、相手の意思にかかわらず身体を拘束します。
  • 任意=同意を得た、ではない:同意の有無は、ひとまずの整理です。相手がいない・誰の権利も侵さない場面の任意捜査もあります。
    • 例:「任意捜査はすべて相手の同意を得て行う」は誤り → 落としたカッターナイフの領置も、公道での実況見分も、誰の同意も得ていませんが任意捜査です。

将来の犯罪への捜査は許されるか

189条2項は「あると思料するとき」なので、発生が高度に見込まれ、ある程度特定できる犯罪なら捜査しうるとする見解があります。おとり捜査の決定は将来の犯罪に触れていませんが、判例も否定していないと評価する見解があります。

  • 問題になる場面:特に、通信傍受とおとり捜査です。
  • 条文の書き方:「犯罪があったとき」ではなく、「犯罪があると思料するとき」です。過去の犯罪に限った書き方ではありません。
  • 否定する立場:捜査は過去の犯罪を対象にする、という立場を徹底すれば、否定されえます。
  • 肯定する見解
    • 漠然と「いつか誰かが何かするだろう」という段階は別です。
    • 発生が高度に見込まれ、被疑事実をある程度特定できるなら、捜査の必要性は既に起きた犯罪と変わりません。特に任意捜査なら、認めない理由はありません。
    • 一方で、刑訴法による規律を及ぼす必要性も高い、とします。
    • ここでの規律とは、第5節で見た刑訴法の縛り(強制処分なら法律の根拠と、原則として令状。任意の手段でも、必要性・相当性の限界があると解されています)を指すと読めます。捜査と認めることは、こうした縛りをかけることでもあります。
  • 法律の手当て:通信傍受法は、将来の犯罪に向けた傍受を明文で定めています。
    • 例:薬物の密売グループが売買を重ね、今後も引き続き同じ種類の罪が犯されると疑う十分な理由がある → 一定の要件のもとで、これから行われる犯罪に関する通話も、傍受令状で傍受できます(通信傍受法3条1項2号)。法律が、将来の犯罪に向けた捜査を明文で予定している例です。

事実おとり捜査の決定

  • 薬物の前科がある男が、自分から、知人(捜査協力者)に大麻樹脂の買手の紹介を頼みました。それまで協力者からの働きかけはありませんでした。
  • 麻薬取締官は、男の住居や隠し場所をつかめず、ほかの方法では検挙が難しいので、買手を装って取引の場を用意しました。
  • 男が大麻樹脂を持ち込んだところを、あらかじめ発付を受けていた捜索差押許可状で捜索し、現行犯逮捕しました → 適法なおとり捜査とされました。
  • おとり捜査の決定:捜査機関や協力者が、身分や意図を隠して犯罪を実行するよう働きかけ、相手が実行に出たところで現行犯逮捕などをする手法について、少なくとも次の3つの事情がある場面では、197条1項に基づく任意捜査として許されるとし、本件の捜査を適法としました。
  • 決定が挙げた3つの事情
    • ① 直接の被害者がいない薬物犯罪などの捜査であること
    • ② 通常の捜査方法だけでは摘発が難しいこと
    • ③ 機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者が相手であること
      • 例:薬物と無縁だった人に、協力者が何度も執拗に頼み込み、初めて薬物を用意させた → この③の場面から外れる方向です。外れた場合の結論は、この決定からは言い切れません。
  • 3つがそろう場面なら任意捜査として許される、と示したものです。1つ欠ければ直ちに違法、とまでは言っていません。
  • 言ったことと、読み取れること
    • 3つの事情は「おとり捜査が許されるか」についての場面です。「将来の犯罪を捜査できるか」の条件ではありません。決定は「将来の犯罪も捜査できる」とは述べていません。
    • 決定は、おとり捜査を、働きかけに応じて相手が犯罪の実行に出たところで検挙する手法と定義しています。本件でも、男はすでに買手を求めてはいましたが、取締官が取引の場を用意した時点では、その場に大麻樹脂を持ち込む行為はまだ行われていません。この定義からすると、働きかけの時点では、取引の場での実行はまだ先にある、と読めます。
    • 肯定する見解は、決定がそうした活動を任意捜査と認めたことから、判例も将来の犯罪の捜査を否定していない、と評価します(決定自身の言葉ではありません)。答案では、決定が言ったこと(おとり捜査が許されるか)と、見解の評価(将来の犯罪を捜査できるか)を混ぜません。

おとり捜査は、任意捜査として許されるか最高裁判所決定少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである。

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