刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#8

捜査法の見取り図

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骨格違法な捜査があったら、何が起きるのか

  • 1 捜査の論点の流れ:①強制処分か任意処分か → ②任意なら限度を超えていないか → ③違法だとしてどうなるか。この回は③。
  • 2 背骨:違法な捜査それ自体に効果を結びつけた一般的な条文は、刑訴法に無い → 違法は、別の制度の判断に入り込んで初めて効果を持つ。
    • 319条1項は自白だけの規定。違法収集証拠排除法則は判例の法理。
  • 3 刑訴法の中の出口(いまの刑事手続の中で争う):押収への準抗告=物/勾留の3経路=身柄(却下は重大な違法のとき)/証拠排除=証拠。
  • 4 刑訴法の外の出口(刑法・国家賠償法などの要件で判断):公務執行妨害の不成立=訴追の土台/国家賠償=損害(都道府県警察の捜査なら原則都道府県)/懲戒・職権濫用の罪=公務員個人の規律。
  • 5 公訴棄却:違法な捜査を理由に起訴を無効とすることに、判例は慎重 → 実務は証拠排除で対処。
  • 6 捜査構造論:糾問的捜査観(取調べ中心・令状は許可状)/弾劾的捜査観(対等な準備・令状は命令状)。
  • 7 犯罪捜査規範:国家公安委員会規則。法律ではない。

⚠ 違法≠必ず無罪(排除 → 立証不能 → 無罪)/検察官が自分で起訴(公訴)を「取消し」→裁判所が棄却、と、取り消していないのに裁判所が違法捜査を理由に起訴を無効として「棄却」できるか、は別の話/逮捕が違法でも、勾留が止まるのは重大な違法のとき

捜査の論点:3つの問いの流れ

捜査の論点は、強制か任意か → 任意なら限度 → 違法ならどうなるか、の順に問います。この回は3つ目を扱います。

問い何を判断するか
① 強制処分か任意処分か強制処分なら、法律に定めがあるか・令状があるかを問う(形式的判断)
② 限度を超えていないか任意処分の場合。必要性などと比べて相当かを、比例原則で問う(実質的判断)
③ 違法だとして、どうなるか違法な捜査への対処(第2節〜第6節)
  • なぜ①から問うのか:①の答えで、その先の道筋が枝分かれするからです。
    • 任意処分でも自由ではありません。②の限度の判断を受けます。
    • 比例原則は強制処分にもかかります(令状があっても必要な限度は問われる)。表の②は、任意処分ではこれが中心の問いになる、という意味です。
    • 例:任意同行した相手が急に部屋を出ようとしたので、警察官が手首をつかんで引き留めた → ①意思を制圧する強制手段に当たるか → 当たらなければ②必要性・緊急性も考えて相当か → どちらかで違法なら③へ。実際の事件の結論は第5節(1)の【事実】です。

違法な捜査に効果を結びつける一般的な条文は無い

「違法な捜査をしたら、こうなる」という一般的な条文は無く、違法は別の制度の判断に入り込んで初めて効果を持ちます。

  • この回の背骨:違法な捜査それ自体に効果を結びつけた一般的な条文は、刑事訴訟法にありません。
  • でも「何も起きない」わけではない:違法は単独では姿を現さず、必ず別の制度の判断に入り込みます(第3節の6つの出口)。
  • 319条1項:任意にされたものでない疑いのある自白を、証拠にできないと定めます。
    • 強制・拷問・脅迫など、取調べのやり方に関わる規定ですが、「自白」という特定の証拠だけの規定です。違法な捜査全般の一般規定ではありません。
    • 例:違法な捜索で押収された帳簿について、「319条により証拠にできない」と主張する → 319条は自白の規定なので使えません。帳簿の扱いは、次の違法収集証拠排除法則で判断します。

319条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第三章 公判 第四節 証拠(317〜328条)1項:強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。

  • 違法収集証拠排除法則(第4節(3)):刑訴法に明文の規定は無く、判例が解釈で認めた法理です。

1つの違法から、6つの出口

1つの捜索が違法だったと仮定すると、6つの出口の候補が開きます。どれが実際に動くかは、制度ごとの要件で決まります。

事実この回の事例(捜索差押えの現場)

  • ある会社が、補助金の申請書類を偽って、補助金をだまし取った疑い(詐欺)があります。
  • ①警察官が捜索差押許可状を得て、会社役員の自宅を捜索し、経理帳簿を差し押さえます(後に詐欺を立証する中心的な証拠)。
  • ②役員が制止を振り切ろうとして、令状を執行していた警察官を突き飛ばします。
  • ③警察官は役員を公務執行妨害の現行犯として逮捕します。もみ合いで役員は転倒し、負傷します。
  • ④検察官が、裁判官に役員の勾留(逮捕に続けて身柄の拘束を続ける手続)を請求します。
  • 仮定:もし①の捜索そのものが違法だったら?
問い出口守るもの
中①押収された帳簿は、戻ってくるか準抗告(430条)帳簿という物を取り戻す
中②身柄は、勾留されたままか勾留の3経路身柄を取り戻す
中③帳簿は、証拠として使えるか証拠排除違法に集めた証拠を、公判の認定から外す
外①突き飛ばしは、本当に公務執行妨害か公務執行妨害の不成立(刑法)公務執行妨害という訴追の土台を崩す(職務の適法性が欠ければ、役員はこの罪では有罪にならない)
外②負傷した役員は、賠償を求められるか国家賠償(国家賠償法)損害を埋める
外③令状を執行した警察官は、処分されるか懲戒・職権濫用の罪(地方公務員法・国家公務員法・刑法)公務員個人の規律を正す
  • 刑訴法の中の出口:いま動いている刑事手続の中身にかかわり(物・身柄を取り戻す、証拠を認定から外す)、その手続の中でそのまま争えます。
  • 刑訴法の外の出口:手続の外側にあるものを守り、刑法・国家賠償法などの別の法律の要件で判断されます。
    • 国家賠償は民事の裁判、懲戒は所属する組織の手続、職権濫用の罪は警察官を訴追する刑事手続です。公務執行妨害の不成立は、その罪で起訴された役員自身の刑事裁判で、刑法の要件として争われます。
  • 守るものが違う:制度ごとに物差しが違うので、同じ1つの違法でも返ってくる答えが違います(第2節の背骨の現れ)。

刑訴法の中の出口

準抗告は物を、勾留の3経路は身柄を取り戻します。証拠排除は違法に集めた証拠を公判の認定から外しますが、それで必ず無罪になるわけではありません。

(1) 準抗告(押収された帳簿を取り戻す)

  • 押収に対する準抗告:捜査機関がした押収(差押え・領置など)の処分に不服がある人が、裁判所に、その処分の取消し・変更を求める手続です(430条)。
  • 請求先:検察官・検察事務官の処分なら所属する検察庁に対応する裁判所(1項)、司法警察職員(警察官など)の処分なら職務執行地を管轄する地方裁判所・簡易裁判所(2項)です。
    • 事例では、押収したのは警察官なので、2項です。
  • 認められると:処分が取り消され、帳簿は直ちに還付(返還)されます。=帳簿という「物」を取り戻す出口です。
    • 例:警察官が、令状の差し押さえる物に当たらない私物のアルバムまで持ち帰った → 持ち主は、その差押えの取消しを、2項で請求できます。認められれば、アルバムは直ちに返されます。
  • 条文で見る所:「押収」「不服がある者」「取消し又は変更を請求することができる」の3か所です。
    • 例:「令状の範囲を超えて家の中を探された。その捜索を取り消してほしい」→ 430条が挙げるのは押収などの処分で、捜索そのものは挙がっていません。争えるのは、その捜索で差し押さえられた物の押収です。

430条(抜粋)|刑事訴訟法 第三編 上訴 第四章 抗告(419〜434条)1項:検察官又は検察事務官のした第三十九条第三項の処分又は押収(電磁的記録提供命令(第百二条の二第一項第一号イに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)を含む。)、押収物の還付、電磁的記録提供命令(同号ロに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)、第二百十八条第三項の規定による命令若しくは第二百二十二条第一項若しくは第五百十三条第六項において準用する第百二十三条の二第一項の規定による複写に関する処分に不服がある者は、その検察官又は検察事務官が所属する検察庁の対応する裁判所にその処分の取消し又は変更を請求することができる。2項:司法警察職員のした前項の処分に不服がある者は、司法警察職員の職務執行地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所にその処分の取消し又は変更を請求することができる。

(2) 勾留の3経路(身柄を取り戻す)

  • 逮捕前置主義:被疑者の勾留は、逮捕に引き続いて求める仕組みです。
    • 事例で勾留の場面で争われるのは、その前の逮捕(公務執行妨害の現行犯逮捕)の違法です。捜索の違法がこの逮捕の違法につながるかには、まず突き飛ばしの時の職務が適法だったか(第5節(1))がかかわります。
    • 鎖にすると:捜索が違法 → 職務の適法性が欠ける方向 → 公務執行妨害が成立しない方向 → その罪での現行犯逮捕の適法性も争われうる → 却下は重大な違法のときに限る(下の線引き)。
  • なぜ逮捕の違法が勾留に響くか:かつては、適法な逮捕が勾留の前提だから、違法な逮捕は当然に影響する、と説明されました。
    • 現在の学説は、逮捕に準抗告が無いのは勾留の段階で審査する前提だから、重大な違法があれば釈放されているべきだった、将来の違法な逮捕を防ぐ、といった理由で説明します。
  • 線引き:逮捕に、令状主義の精神に反するような重大な違法があるときに限って、勾留請求を却下する、と考えるのが一般です(勾留請求を却下するかの場面の線引き)。
    • 令状主義=逮捕・捜索などの強制処分には、原則として裁判官が出す令状が要る、という原則です(憲法33条・35条)。
    • 例(事例とは別の事件):朝に「任意同行」した被疑者を深夜まで取り調べ、少なくとも午後7時以降の約5時間が、逮捕状によらない実質的な逮捕(形は任意でも、実際は身体を拘束していた)とされた。その後に逮捕して勾留を請求した → 実質的な逮捕の時から数えても、勾留請求までの制限時間(203条・205条)は守られていた。それでも、約5時間の令状によらない逮捕はそれ自体が重大な瑕疵で、制限時間を守ったことでは治らないとされ、勾留請求の却下が支持されました(富山地決昭54・7・26)。
    • 例:逮捕状の記載にささいな誤記があっただけ → これで勾留請求を退けるのは適切でない、とされます。
経路誰が・何をするか
勾留請求の却下裁判官が、勾留請求そのものを退ける。却下に対しては、検察官が準抗告で争える
勾留決定への準抗告いったん勾留が決まっても、役員や弁護人が、その決定に準抗告する
勾留取消し(87条)勾留された後に、勾留の取消しを請求する
  • 勾留取消しの条文:87条の文言は「勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたとき」です。被告人の規定で、被疑者には207条1項を通して働きます。
    • 準抗告が「勾留の裁判そのものが誤りだった」と争うのに対し、勾留取消しは、条文上は勾留の後に理由・必要が無くなった場合の手続です。ただ実際には、逮捕・勾留の手続の違法を理由に請求されることもあります。
  • 準抗告は共通の手段:押収の準抗告は「物」に、勾留の準抗告は「身柄の拘束」に対してです。勾留は裁判官がする裁判なので、準抗告の根拠は429条1項2号です(捜査機関の処分は430条)。

(3) 証拠排除(帳簿は証拠として使えるか)

  • 違法収集証拠排除法則:違法な手続で集めた証拠を、公判で証拠から排除することがある、という法理です。
    • 基準:違法があればいつでも排除、ではありません。判例(最判昭53・9・7)は、証拠物の押収等の手続に、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、将来の違法な捜査の抑制の見地から証拠として許容することが相当でないときに、証拠能力を否定するとしています。
      • 例:令状なしに役員宅に入り込み、帳簿を持ち去った → 排除される方向です。押収品目録の記載にささいな誤りがあっただけ → 排除されない方向です。
  • 守るのは認定の正確さではない:違法に押収しても、帳簿の中身の証拠としての価値は変わりません。
    • それでも使わせないのは、手続の適正、司法への信頼、将来の違法な捜査の抑止という、事実認定以外の利益のためと説明されます。
段階何が起きるか
① 違法な捜索帳簿の押収に、違法な手続があった
② 証拠排除違法収集証拠排除法則により、帳簿が証拠として使えなくなる
③ 立証不能帳簿以外に有力な証拠が無ければ、詐欺を立証できない
④ 無罪/公訴取消し検察官は、自分から公訴を取り消すか(257条)、起訴を維持して無罪判決を受けるかを迫られる。取り消せば、裁判所は決定で公訴を棄却する(339条1項3号)
  • 言葉:公訴=起訴。公訴棄却=有罪・無罪の判断に入らずに、手続を打ち切る裁判(第6節)。

  • 間に2段階が挟まる:「違法」と「無罪」の間に、証拠排除と立証不能があります。排除された証拠が重要であるほど、無罪や公訴取消しに近づきます。

    • 例:帳簿が排除されても、共犯者の供述や、取引の振込記録などで詐欺を立証できれば、帳簿抜きでも有罪はありえます。
    • 例:帳簿しか証拠が無ければ、検察官は公訴を取り消すか、無罪判決を受けることになります。

刑訴法の外の出口

公務執行妨害の不成立は訴追の土台を崩し、国家賠償は損害を埋め、懲戒・職権濫用の罪は警察官個人の規律を正します。

(1) 公務執行妨害の不成立(突き飛ばしは犯罪か)

  • 公務執行妨害罪(刑法95条1項):公務員が職務を執行するに当たり、その公務員に暴行・脅迫を加えると成立する罪です。
  • 職務の適法性:この罪が成立するには、妨害された公務員の職務が適法でなければなりません。
    • 例:役員宅の捜索が令状どおりなら → 突き飛ばしは適法な職務への暴行で、公務執行妨害が成立する方向です。
    • 例:令状に書かれていない隣の倉庫を、令状なしに探している最中の突き飛ばしなら → 職務の適法性が欠ける方向に動きます。

95条(公務執行妨害及び職務強要)(抜粋)|刑法 第二編 罪 第五章 公務の執行を妨害する罪(95〜96条の6)1項:公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

段階中身
① 捜索が違法帳簿を差し押さえた捜索そのものに、違法があった
② 職務が適法と言えない突き飛ばしより前から続いていた捜索が違法なので、職務の適法性が欠ける方向になる(どの程度の違法で欠けるかは刑法の論点)
③ 公務執行妨害は不成立職務の適法性を欠くので、公務執行妨害罪は成立しない。暴行の事実自体は残るが、暴行罪が成立するかは別に問題になる
④ 訴追の土台が崩れる検察側が組み立てた、公務執行妨害という訴追の土台が崩れる=職務の適法性が欠ければ、役員はこの罪では有罪にならない。詐欺の訴追は、これとは別に証拠で判断される
  • 働く方向:第4節の3つと同じく、被疑者(役員)の側を助ける出口です。物や身柄を取り戻すのではなく、罪の成立そのものを崩します。だから、公務執行妨害の事件では、先行する捜査の適法・違法が争われることがあります。

事実手首をつかんだ事件(最決昭51・3・16)

  • 酒酔い運転の疑いで警察署に任意同行された男が、呼気検査を拒み続け、急に立ち上がって出入口へ向かいました。
  • 巡査が両手で男の左手首をつかむと、男は振り払い、巡査の襟首をつかんで肩章を引きちぎり、顔を殴りました。男は公務執行妨害の現行犯で逮捕されました。
  • 第一審は、手首をつかんだのは任意捜査の限界を超えた違法な行為で、公務に当たらないとしました。正当防衛として、暴行罪も成立しないとしました。
  • 原審は第一審を誤りとし、説得のための相当な実力行使だとして、公務執行妨害罪の成立を認めました。
  • 最高裁は、つかんだ行為は強制手段に当たらず、説得のための抑制でその程度もさほど強くないので、捜査として許される範囲を超えていないとしました → 公務の適法性は否定できず、公務執行妨害罪の成立を認めた原判決を正当としました。

(2) 国家賠償(負傷した役員は賠償を求められるか)

  • 国家賠償:公権力を行使する公務員が、職務の中で、故意・過失によって違法に損害を加えたとき、国や公共団体が賠償する制度です。
  • 事例では:捜索・逮捕の過程で、過剰な有形力の行使などの違法があり、役員が負傷したなら、賠償を求められます。
    • 仮定した捜索の違法そのものでも、1条の要件(故意・過失、違法、損害など)を満たせば賠償を求められます(例:令状の範囲外の私物を壊された)。
  • 賠償するのは:公務員個人ではなく、国又は公共団体です。

1条(抜粋)|国家賠償法1項:国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

違法な行為をした人賠償の相手
警察官(都道府県警察)都道府県
検察官・検察事務官国
  • なぜ警察官なら都道府県か(最判昭54・7・10・交通犯罪の捜査の事案):警察法・地方自治法は、警察の管理・運営を都道府県の事務としています。
    • だから都道府県警察の警察官の捜査は、原則としてその都道府県の公権力の行使です。
      • 例:都道府県警察の警察官の交通犯罪の捜査で損害を受けたとして、国に賠償を求めた → 最高裁は、責任を負うのは原則として都道府県で、国ではないとして、国の責任を否定した原審を是認しました。
    • 例外:検察官が自ら行う捜査で、検察官の指揮を受けて警察官が補助した場合(刑訴法193条3項)のような場合です。このときは原則から外れる、と判決は述べます(誰が賠償するかまでは判断していません)。
    • 警察官を任免・指揮監督する警視総監・本部長が国家公務員でも、国の公権力の行使にはならない、としました。どの団体の事務を執行したかで決めています。
  • 手続への影響:国家賠償の判決が捜査を直接止めるわけではありません。ただ、裁判で違法と認められたやり方を続ければ、また違法とされることが見えているので、事実上、同じやり方の捜査は続けられなくなります。

(3) 警察官個人の処分(懲戒・職権濫用の罪)

違法な捜索をした警察官自身には、2つの筋があります。

筋中身
① 懲戒処分地方公務員法・国家公務員法が種類を定める。免職・停職・減給・戒告の4種類
② 刑事罰(職権濫用の罪)刑法193〜196条。違法な捜査が、これらの罪に当たるとき。不起訴なら付審判請求ができる
  • 公務員職権濫用罪(193条):どの公務員にも当てはまる罪です。捜査が違法だったことそのものは処罰していません。
    • 職権を濫用して、人に義務のないことを行わせた、権利の行使を妨害した、と言えることが必要です。
    • 例:捜索の範囲を超えて、役員に寝室の金庫を開けるよう迫り、開けさせた → 職権を濫用して「義務のないことを行わせ」た方向です(193条)。
    • 例:差押調書の記載を誤っただけ → 手続に違法があっても、人に何かを行わせた・権利の行使を妨げたとは言いにくく、193条の方向には動きにくいです。

193条(公務員職権濫用)|刑法 第二編 罪 第二十五章 汚職の罪(193〜198条)公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、二年以下の拘禁刑に処する。

  • 特別公務員の罪(194〜196条):主に裁判・検察・警察の職務を行う者(補助する者を含む)が対象の、より重い罪です。
    • 職権を濫用して逮捕・監禁する(194条)、職務を行うに当たり被疑者などに暴行する(195条1項)、それで人を死傷させる(196条)ことを処罰します。
  • 付審判請求(262条1項):193〜196条の罪について告訴・告発した人が、検察官の不起訴に不服があるとき、事件を裁判所の審判に付するよう請求する手続です。

違法な捜査を理由に公訴棄却できるか

判例は、違法な捜査を理由に起訴を無効とすることに慎重です。だから実務は、公訴棄却ではなく証拠排除で対処しています。

  • 公訴棄却の例:被告人が死亡したとき(339条1項4号)。検察官が公訴を取り消したとき(同項3号)。
  • ここでの問い:検察官が取り消していないのに、「違法な捜査 → 起訴が無効 → 公訴棄却」という筋で、裁判所が打ち切れるか、です。
    • 公訴提起の手続が規定に違反して無効なら、判決で公訴を棄却します(338条4号)。

(1) 逮捕手続の違法と公訴提起

  • 判旨(最判昭41・7・21):逮捕の手続に違法があったとしても、公訴の提起が憲法31条に違反して無効になるとはいえない、としました。
    • 憲法31条=適正手続の保障。違法な逮捕に続く起訴はこれに反して無効だ、という主張を退けたものです。
  • 違法を仮定した判断:判決は「所論の違法があつたとしても」と述べるだけで、違法があったかどうかは認定していません。
    • 逮捕の際に警察官が暴行を加えてけがをさせた、という事案の紹介は教材によるもので、判決文には事実の記載がありません。

逮捕手続の違法は公訴提起の効力に影響するか最高裁判所判決本件逮捕の手続に所論の違法があつたとしても本件公訴提起の手続が憲法三一条に違反し無効となるものとはいえないことは、当裁判所の判例(中略)の趣旨に徴し明らかであるから、本件公訴の提起を有効であるとした原判決は、正当であり、所論違憲の主張は理由がない。

(2) 捜査の遅延と公訴提起(2つの別の判断)

事実少年事件の捜査が遅れた事件(最判昭44・12・5)

  • 19歳の少年が、自動二輪車の運転中に幼児に接触し、けがをさせました(業務上過失傷害)。
  • 実況見分調書などの不備で書類が警察内で2回差し戻され、年末で検察庁の受理も遅れ、少年が20歳になった後に略式命令が請求されました。家庭裁判所の審判を受ける機会が失われました。
  • 原判決(第一審を維持)は、捜査手続の違法が重大で、それを前提に初めて起訴できる場合は、起訴は無効になるとしました。
  • 最高裁は、原判決と第一審判決を破棄し、簡易裁判所に差し戻しました。
何についての判断か中身本件では
説示①捜査そのものが違法かの基準捜査に長くかかって審判の機会が失われた、それだけで違法とは言えない。ことさら遅らせた等の極めて重大な職務違反があれば、違法となることがある極めて重大な職務違反は無い → 捜査は違法でない
説示②捜査の違法が、公訴提起の効力を失わせるか仮に違法でも、当然には失わせない。理由は、公訴提起が検察官の極めて広範な裁量にかかる判断であること(判決の理由はこれだけ)「仮りに」違法があるとしても、という仮定の判断
  • 2つは別の判断:説示①の「極めて重大な職務違反」は、捜査そのものが違法かの基準で、説示②(公訴提起の効力)の基準ではありません。
    • 例:捜査官が、少年審判を受けさせないために、20歳の誕生日を待ってわざと送致を遅らせた → 説示①の「ことさら捜査を遅らせ」に当たり、捜査は違法となる方向です。ただし、起訴まで無効になるかは、判決は述べていません。
  • 「当然には失わせない」の読み方:「絶対に失わせない」とは言っていません。ただ、どんな場合に失わせるかの基準は、判決自身は示していません。
    • 基本書の読み:最高裁が説示①で「極めて重大な職務違反」に言及したことを手がかりに、捜査の違法が重大なら公訴棄却も考えられる、と読みます。判決文の言葉ではありません。①を②(公訴棄却)の話につなげるのは、判決ではなく基本書です。
    • 公訴権濫用論:検察官の公訴の提起が権限の濫用といえるときは、その公訴は無効で、公訴棄却の判決で打ち切るべきだ、とする主張です。基本書は、違法な捜査に基づく起訴をこの主張の類型の1つとして扱い、上の読み(違法が重大なら公訴棄却も)をここにつなげます。
    • 問われているのは、前の手続(捜査)の違法が後の手続(検察官の起訴)に及ぶかです。基本書は、当然には及ばないので、公訴提起が直ちに違法になるわけではない、と説明します。
  • だから実務は:公訴棄却という強い出口ではなく、証拠排除の出口で対処しています。事例でも、捜索が違法というだけで起訴が無効になるとは考えにくく、まず動くのは準抗告や証拠排除です。
    • 例:「違法な捜査があった事件は、公訴棄却で終わる」は誤り → 違法な捜査を理由に裁判所が起訴を無効として打ち切ることを、判例は認めてきませんでした。

捜査手続の違法性の判断基準と、公訴提起の効力について最高裁判所判決もつとも、捜査官において、家庭裁判所の審判の機会を失わせる意図をもつてことさら捜査を遅らせ、あるいは、特段の事情もなくいたずらに事件の処理を放置しそのため手続を設けた制度の趣旨が失われる程度に著しく捜査の遅延をみる等、極めて重大な職務違反が認められる場合においては、捜査官の措置は、制度を設けた趣旨に反するものとして、違法となることがあると解すべきである。仮りに捜査手続に違法があるとしても、それが必ずしも公訴提起の効力を当然に失わせるものでないことは、検察官の極めて広範な裁量にかかる公訴提起の性質にかんがみ明らかであつて

捜査構造論(糾問的捜査観と弾劾的捜査観)

捜査を糾問的・弾劾的のどちらで捉えるかのモデルで、受忍義務への馴染み方や令状の性質が分かれます。

(1) 「主義」と「捜査観」を混同しない

  • 糾問主義/弾劾主義:審理(法廷での裁き方)の構造の対立です。糾問主義=裁く人が自ら訴追もする(二面)、弾劾主義=訴追する人と裁く人が別(三面)。現行法は弾劾主義です。
  • 糾問的捜査観/弾劾的捜査観:響きは同じでも別のもので、捜査という活動を、取調べ中心の手続とみるか、対等な当事者の準備とみるかの対立です。現行法は、どちらか一方には決まっていません。

(2) 2つの捜査観と、そこから出る帰結

  • 捜査構造論:平野龍一が示した、捜査手続の基本的な考え方を、2つの捜査観の対比で整理したモデルです。
糾問的捜査観弾劾的捜査観
捉え方捜査は、捜査機関が被疑者の取調べを中心に事実を解明する手続捜査は公判の準備。被疑者側と捜査機関は、対等な主体として準備をする
被疑者の位置づけ客体(調べられる対象)主体(防御を準備する当事者)
① 取調べ受忍義務肯定する見方に馴染む否定する見方に馴染む
② 接見交通権捜査の必要があれば、広く制限してよい制限は最小限にとどめるべき
③ 令状の性質許可状命令状
  • 取調べ受忍義務:逮捕・勾留されている被疑者が、取調べの場に出頭し、そこにとどまる義務です。
    • 前提:在宅のまま呼び出された被疑者は、出頭を拒め、出頭後もいつでも帰れます(198条1項ただし書)。
    • 実務:ただし書の「逮捕又は勾留されている場合を除いては」の反対解釈から、逮捕・勾留中の被疑者には、取調べの場に出頭し、とどまる義務を認めます。
    • 学説:黙秘権の侵害につながるとして否定する見解が通説です。
    • 判例:出頭・滞留の義務があると解しても、直ちに供述を拒否する自由を奪うことにはならない、と述べるにとどまります(最大判平11・3・24)。
    • 例:事例で逮捕された役員 → 実務の立場では取調べの場にとどまる義務があり、通説の立場ではその義務はありません。どの立場でも、話す義務はありません(198条2項)。

198条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。2項:前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。

  • 接見交通権:身体を拘束された被疑者が、弁護人と会う権利です。
    • 被疑者を「客体」とする整理と接見交通権の行は、講義用の解説書による整理です(基本書のコラムは、捉え方・受忍義務・令状の性質を挙げます)。
  • 令状の性質が分かれる理由:強制処分の権限が、もともと誰にあると考えるかが違うからです。
    • 弾劾的捜査観:権限は裁判官にあり、捜査機関は執行するだけ → 令状は、裁判官が出す命令状です。
    • 糾問的捜査観:権限は捜査機関にあり、裁判官は行使してよいかを確認するだけ → 令状は、求めに応じて出す許可状です。
    • 違い:一般に、許可状=「してよい」(使うかは捜査機関が決める)、命令状=「せよ」(捜査機関は執行役)と説明されます。
  • モデルとしての意義:弾劾的捜査観を徹底すると、徹底した捜査は難しくなり、あっさり起訴して、事実は法廷で明らかにする(公判中心主義が実現する)、という構想を描き出した点に意義があったとされます。

犯罪捜査規範とは何か

犯罪捜査規範は、国家公安委員会が定めた規則で、法律ではありません。

  • 犯罪捜査規範:警察官が捜査で守るべきことを定めた規則です。定めたのは警察庁ではなく、国家公安委員会(警察庁を管理する委員会・警察法5条)です。

  • 位置づけ:①法律ではない(国会でなく行政委員会の規則)/②違反=直ちに違法、ではない/③判断材料にはなる(違法かどうかを判断する材料の1つにはなり得る)。

  • 論拠として引かれる場面(例):住人が「どうぞ家の中を見てください」と言っている → それでも犯罪捜査規範108条は、承諾が得られそうでも捜索許可状を得て行うよう定めます。承諾による家宅捜索はすべきでない、とする立場の根拠の1つです。

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