訴訟の主体③被疑者・被告人と弁護人
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骨格訴えられた側が、裁判で自分を守れる状態をどう作るか
- 第一段:そもそも裁判を受けられる状態か
- 1 当事者能力:当事者になれる資格。被告人の死亡・法人の消滅 → 決定で公訴棄却(339条1項4号)。
- 2 訴訟能力:いま重要な利害を弁別し、相当な防御ができる能力(平7)。平10は、支え(弁護人・通訳人の援助・裁判所の後見的役割)を受けて能力をなお保持と判断。ここから、支えで補える分も考慮して判断する、と解説書や平28の補足意見が整理している(判旨そのものではない)。
- 3 欠けたときの出口:まず決定で公判手続を停止(314条1項)。回復の見込みがなければ、検察官が取り消さなくても、338条4号に準じて判決で公訴棄却(平28)。
- 第二段:対等に戦える状態をどう作るか
- 4 弁護人:知識・証拠収集力・身体拘束の差を埋める。単なる代理人ではなく、本人の意思に反しても使える権限がある(ただし忌避・上訴は明示の意思に反せない)。
- 5 根拠と国選:頼む権利=憲34条(拘束)・37条3項(被告人)・刑訴30条。国が付ける憲法の明文は37条3項後段(被告人)だけ。被疑者国選は刑訴法37条の2。
- 6 資格と選任:原則は弁護士。特別弁護人は第1審の簡裁・地裁だけ。家族などは本人と独立して選べる。
- 7 いつまで:起訴前の選任は第1審まで。起訴後は審級ごと。第1審の弁護人のまま控訴の申立てはできる。
- 8 補佐人:被告人の家族などが届け出てなる。被告人の明示した意思に反しない限りで動く。
⚠ 訴訟能力なし≠無罪(停止)/弁護人が付いていれば訴訟能力あり、ではない/同じ公訴棄却でも339条1項4号は決定、平28は判決/拘束された被疑者の依頼権は憲34条にあるが、国が付ける憲法の明文は無い
当事者能力:当事者になれるか
当事者能力は訴訟の当事者になれる資格です。被告人が死亡し、または法人が存続しなくなれば、決定で公訴を棄却します。
- 被告人:起訴された人です。起訴の前は被疑者と呼びます。
- 起訴:検察官が裁判所に、被疑者を裁くよう求めることです。法律上は公訴の提起といい、「公訴」は起訴によって裁判所に持ち込まれた訴えを指します。
- 当事者能力:訴訟において、当事者となりうる資格です。刑事訴訟の当事者は、訴える検察官と、訴えられる被告人です(裁判所はどちらにも属さず判断します)。
- 自然人だけでなく、法人や、法人でない社団・財団・団体にも認められます。
- 例:従業員の違反行為について会社も処罰する規定(両罰規定)があれば、会社が被告人として起訴されることがあります。
- 欠けたとき:起訴されれば、ふつうは審理して有罪・無罪を決めます。しかし被告人が死亡したとき、被告人である法人が存続しなくなったときは、決定で公訴を棄却します(339条1項4号)。有罪・無罪の判断はしません。
- 公訴棄却:有罪・無罪の中身に入らずに、手続を打ち切る裁判です。
- 決定:口頭弁論(当事者が法廷で主張し合う審理)に基づかなくてよい裁判です(43条2項)。これに対し判決は、原則として口頭弁論を経てする裁判です。この回の場面では、339条1項の決定には即時抗告(3日以内の不服申立て)、第1審の判決には控訴で争います(第3節)。
- 例:窃盗で起訴された被告人が、公判の途中で病死した → 339条1項4号の決定で公訴棄却です。
- 例:被告人は生きているが、重い精神疾患で訴訟能力を失い、回復の見込みもない → 同じ公訴棄却でも形式が違い、公判手続を停止したうえで、338条4号に準じた判決で公訴棄却です(第3節)。
339条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第三章 公判 第五節 公判の裁判(329〜350条)1項:左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。四 被告人が死亡し、又は被告人たる法人が存続しなくなつたとき。
訴訟能力:いま防御できるか
訴訟能力は「公判のいま」防御できる能力です。欠ければ罪を決めずに手続を止めます。支えで補える分も考慮して判断します。
(1) 意味と、責任能力との違い
-
訴訟能力:被告人としての重要な利害を弁別し(見分け)、それに従って相当な防御をすることのできる能力です(平7の決定)。
- 314条1項の「心神喪失の状態」とは、訴訟能力を欠く状態をいいます。
- 例:著しい精神障害がある場合、手話を習得しておらず意思疎通ができない場合などです。
-
趣旨:権利や手続の意味、法廷で行われている訴訟行為の意味を理解できないまま公判をすると、刑事裁判の公正さが損なわれます。それを避けるためです。
-
責任能力との違い:責任能力=犯行のときに、善悪を見分け、それに従って行動できた能力です。欠ければ罪が成立しません。
- 同じ「心神喪失」という語でも、314条1項(公判の今、訴訟能力を欠く状態)と刑法39条(犯行時に責任能力を欠く状態)では、見ている時点も中身も別物です。
| 責任能力 | 訴訟能力 | |
|---|---|---|
| いつを見るか | 犯行時 | 公判の今 |
| 何の問題か | 罪が成立するか(実体) | 手続を進めてよいか(手続) |
| 欠けた場合 | 心神喪失なら罰しない=無罪(心神耗弱なら減軽・刑法39条) | 原則として公判手続を停止(314条1項) |
- なぜ無罪ではなく停止か:訴訟能力は、罪があるかどうかについて何も決めていないからです。防御できる状態に戻れば、審理を続けます。
- 例:犯行時は正常だったが、起訴後に重い精神疾患になった → 責任能力には影響しません。いま防御できないので、公判手続を停止します。
- 例:犯行時は心神喪失だったが、公判の時には回復している → 公判は進められます。心神喪失が認められれば無罪です(刑法39条1項)。
- 例:「訴訟能力が無いなら無罪」は誤り → 効果はまず停止です(回復の見込みが無いときの出口は第3節)。
手話も文字も使えない被告人の事件最高裁判所決定定義刑訴法三一四条一項にいう「心神喪失の状態」とは、訴訟能力、すなわち、被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をすることのできる能力を欠く状態をいうと解するのが相当である。
(2) 判断は「本人だけ」を見ない
-
見るもの:本人の状態に、弁護人・通訳人の援助や裁判所の後見的役割(被告人が手続についていけるよう裁判所が配慮すること)で補える範囲を加え、相当な防御ができる状態に届くかです。
- 問われているのは「相当な防御ができる状態か」で、本人が1人で全部こなせるかではありません。
-
注意:弁護人が付いていれば訴訟能力あり、ではありません。補える範囲は、考慮に入れてよい材料の一つです。
-
覚える形:本人の状態だけでなく、支えで補える分も考慮に入れて判断する、と整理されます。
- 位置づけ:これは最高裁の法廷意見(判例として効く部分)が言葉にした規範ではありません。平10の結論はこの考え方で説明できる、という読み方です。平10判決を参照した解説書や、平28判決(第3節)の補足意見がこの形にまとめています。平10判決自身は、一般論を立てずに、次の事実に当てはめて結論を出しました。
-
判例を読む言葉:原審・原判決=最高裁から見て1つ下の裁判所(ここでは高裁)とその判断。上告=高裁の判断に不服な側が最高裁に見直しを求めること。破棄=上の裁判所が、不服を申し立てられた下の裁判所の判断を取り消すこと。棄却(上告・控訴の棄却)=不服申立てを理由がないとして退けること。法廷意見=判決の結論と理由として裁判官の多数が示した判断(判例として効くのはこちら)。補足意見=法廷意見に賛成した裁判官が、個人として理由を補って述べる意見。
事実平7の決定(最決平7・2・28)
- 原判決の認定では、被告人は耳が聞こえず、話せず、手話も身につけておらず、文字もほとんど分かりません。通訳を介しても黙秘権を告げられず、法廷の訴訟行為の内容を伝えるのも困難でした。
- 最高裁は、被告人に訴訟能力があることには疑いがあるとし、医師の意見を聴き(314条4項)、必要ならろう教育の専門家の意見も聴いて審理を尽くし、無いと認めれば原則として停止すべき、としました。同旨の原判断を正当とし、上告を棄却しています。
事実平10の判決(最判平10・3・12)
- 先天性の重い聴覚障害で、音声・文字の言語も、体系的な手話も十分使えない被告人。原審は訴訟能力を欠くとしました。
- 手話通訳を介して自分の立場をある程度正確に理解し、捜査段階から一貫して具体的に否認していました。黙秘権は、本人に分かる4つの動作の手話で告げられていました。
- 事実も主な争点も比較的単純な事案で、本人が内容を理解していました。
- 最高裁は、訴訟能力は著しく制限されているが欠けてはいないとし、原判決を破棄して、審理のやり直しのため原審(大阪高裁)に差し戻しました。
体系的な手話を使えない被告人の事件最高裁判所判決能力はなお保持被告人は、……訴訟能力、すなわち、被告人としての重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をする能力が著しく制限されてはいるが、これを欠いているものではなく、弁護人及び通訳人からの適切な援助を受け、かつ、裁判所が後見的役割を果たすことにより、これらの能力をなお保持していると認められる。
- 2つの判例の違い:平7は、通訳を介しても黙秘権すら伝えられない被告人で、訴訟能力に疑いがあるとされました。平10は、支えを受ければ自分の立場を理解でき、事案も単純で本人が内容を理解していた被告人で、能力をなお保持とされました。
- 例:「国選弁護人が付いているから、訴訟能力はある」は誤り → 見るのは、本人が援助を受けて、相当な防御ができる状態に届くかです。平7の被告人のように、通訳を介しても黙秘権すら伝わらなければ、弁護人がいても訴訟能力に疑いが生じます。
- 例:平10と同じ被告人が、帳簿の読み方が争点の複雑な経済事件で起訴された → 「事案が単純で、本人が内容を理解している」という事情が欠け、訴訟能力を認める材料が弱まります(結論は事案次第)。
欠けたときの出口
訴訟能力を欠けば、決定で公判手続を停止します。回復の見込みが無ければ、裁判所は検察官の公訴取消しを待たずに、338条4号に準じた判決で公訴を棄却できます。
(1) まず停止(314条1項)
- 誰が・何を:裁判所が、検察官と弁護人の意見を聴き、決定で、その状態が続く間、公判手続を停止します。停止するには医師の意見を聴きます(4項)。
- 例外:無罪・免訴・刑の免除・公訴棄却をすべきことが明らかなら、被告人の出頭を待たずに、直ちにその裁判ができます(1項ただし書)。どれも被告人に刑を科さない裁判です。
- 免訴=公訴時効の完成などのため、有罪・無罪の中身に入らずに手続を終える判決です(337条)。公訴時効=犯罪から一定の期間が過ぎると起訴できなくなる制度です。刑の免除=有罪だが刑を科さない判決です。
- 例:被告人は心神喪失の状態だが、起訴された罪の公訴時効がすでに完成していた → 免訴にすべきことが明らかなので、停止せず、出頭を待たずに免訴の判決ができます(337条4号)。
- 条文の穴:314条は停止しか定めていません。二度と回復しないとき、検察官が公訴を取り消さない限り、被告人は有罪とも無罪とも決まらないまま、手続に置かれ続けます。
314条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第三章 公判 第一節 公判準備及び公判手続(271〜316条)1項:被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる。4項:前三項の規定により公判手続を停止するには、医師の意見を聴かなければならない。
(2) 回復の見込みがないとき(平28の判決)
事実平28の判決(最判平28・12・19)
- 2人を殺害したとして起訴された約1年半後に、心神喪失で公判手続が停止されました。被告人は措置入院となり、停止は約17年続きました。
- 裁判所が公訴取消しの検討を求めても、検察官は取り消さないと繰り返し答えました。
- 第1審は、重要な訴訟条件(起訴して裁判を続けるための条件)を欠き後発的に「公訴提起の手続が…無効」になったとして、338条4号を準用し公訴を棄却しました。
- 検察官が控訴し、原審(高裁)は、訴追権限を持つ検察官が取り消さないのに裁判所が打ち切れるのは、取り消さないことが明らかに不合理な極限的な場合に限るとして、第1審を破棄し、第1審に差し戻しました。
- 最高裁は、高裁の判決を破棄したうえで、自ら、第1審に対する検察官の控訴を退けました(第1審の公訴棄却が確定)。
- 打ち切れる理由(法廷意見):回復の見込みが無いのに、形だけ係属(事件が裁判所にかかっている状態)したまま停止を続けるのは、刑訴法の目的(判決の言い方で「事案の真相を解明して刑罰法令を適正迅速に適用実現する」という1条の目的)に照らし、法の予定するところではありません。だから裁判所は、検察官が公訴を取り消すかどうかに関わりなく打ち切れます。
- 公訴棄却の2つの条文:公訴棄却には、判決でする場合を並べた338条と、決定でする場合を並べた339条があります。
- 判決にする理由(法廷意見):打切りの裁判の形式は、法に規定がありません。訴訟能力が後発的に失われ、その回復可能性の判断が問題となる場面なので、338条4号と同様に口頭弁論を経た判決によるのが相当、としました。
- 補足意見(池上裁判官)の理由づけ:回復可能性の判断は時間をかけた経過観察が要り、打切りにつながるので、特に慎重な審理が要る → 口頭弁論を開いて判決し、控訴で争えるようにする。打ち切る実質は、被告人が実質的に欠けて、裁判所・検察官・被告人がそろう基本的な訴訟の構造が成り立たなくなったこと(被告人の死亡などで公訴を棄却する339条1項4号=第1節を参照)。
- 「準じて」の意味:338条4号(起訴の手続の違反で無効なとき)にそのまま当たるのではありません。打ち切る出口の形(判決)を借りています。最高裁は第1審判決を正当としましたが、その「訴訟条件を欠き無効になった」という理由づけには触れていません。
公判停止が17年続いた事件最高裁判所判決出口被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後、訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合、裁判所は、刑訴法338条4号に準じて、判決で公訴を棄却することができると解するのが相当である。
(3) 出口の一覧
| 被告人の死亡など | 訴訟能力を欠く | 回復の見込みなし:検察官が取り消す | 回復の見込みなし:検察官が取り消さない | |
|---|---|---|---|---|
| 誰が終わらせるか | 裁判所 | (終わらない) | 検察官の公訴取消し(第1審判決まで・257条)→ 裁判所 | 裁判所が自ら |
| 条文 | 339条1項4号 | 314条1項 | 339条1項3号(公訴が取り消されたとき) | 338条4号に準じて(平28) |
| 効果 | 公訴棄却 | 公判手続の停止 | 公訴棄却 | 公訴棄却 |
| 形式 | 決定 | 決定 | 決定 | 判決(口頭弁論を経る) |
- 回復の見込みが無いときの2つの道:検察官が公訴を取り消せば、裁判所は339条1項3号の決定で公訴を棄却します。取り消さなければ、裁判所が自ら338条4号に準じた判決で公訴を棄却します。
- 例:検察官が裁判所の促しに応じて公訴を取り消した → 339条1項3号の決定。応じない → 338条4号に準じた判決。
- 例:「訴追は検察官が決めるので、公訴を取り消さない限り、裁判所は手続を終わらせられない」は誤り → 平28の原審はこれに近い立場でしたが、最高裁は否定しました。
- 不服の申立て:339条1項の決定には即時抗告ができます(2項)。判決には控訴で争います。
弁護人:なぜ要るか、どんな立場か
被疑者・被告人だけでは、検察官と実質的に対等に戦えません。だから弁護人が要り、弁護人は単なる代理人を超えた権限を持ちます。
- 弁護人選任権:被疑者・被告人が弁護人を依頼し、弁護人から有効な弁護を受けられる権利です。形だけ付いていても足りません。
| 対等でない理由 | 中身 |
|---|---|
| 相手は国家機関 | 検察官は、捜査から公訴、裁判の執行まで、刑事手続のすべての段階に関わる |
| 身体拘束 | 逮捕・勾留されると、自分で証拠を集めに行くこともできない。拘束された被疑者には、弁護人の必要性が著しく高まる |
| 知識と証拠収集力の差 | 捜査機関や、法律家である検察官と比べて、法律の知識も証拠を集める力も大きく劣ることが多い |
- だから弁護人:実質的な当事者の対等(武器対等)と防御権の実質的な保障には、専門知識を持つ法律家の補助が欠かせません。
- 立場:弁護人は単なる代理人にとどまりません。本人の「正当な利益」は何かを判断し、必要なら本人の意思から独立して動くことが求められることがあります(民事の訴訟代理人と対比して「保護者たる地位」と呼ぶこともあります)。
- 弁護人は、法律に特別の定めがある場合に限り、独立して訴訟行為ができます(41条)。
- 「補佐役」との関係:訴訟の主体は、裁判所・検察官・被告人の3者です。弁護人は被告人の補佐役とされ、3者に入りません。これは数え方の話で、弁護人の力が小さいという意味ではありません。
- ここでいう「補佐役」は一般的な言い方で、第8節の制度としての「補佐人」とは別です。
| 本人の意思との関係 | 例 |
|---|---|
| 本人の意思にかかわらずできる(固有権) | 接見交通(39条)、書類・証拠物の閲覧・謄写(40条)、証人への尋問 |
| 本人の明示・黙示の意思に反してもできる | 勾留理由開示請求、勾留取消し・保釈の請求、証拠調べの請求(298条1項)、異議 |
| 本人の明示の反対があればできない | 忌避の申立て(21条2項)、上訴(355条・356条) |
- 本人の意思とぶつかったとき:弁護人がどこまで本人の意思から離れて動けるかは、権限ごとに上の表の3段に分かれます。
- 1段目(固有権):法律が弁護人自身に与えた権限で(多くは条文が「弁護人は…できる」と書きます)、本人の意思にかかわらず行使できます。接見・記録の閲覧のように弁護人だけのものと、証人への尋問のように本人も持つものがあります。証人への尋問(157条3項・304条2項)は、条文上は被告人と並べて書かれていますが、弁護人自身に与えられた権限として固有権に分類されます。本人と並べて書かれた条文の多くは2段目なので、条文の形だけでは見分けられません(教材も、条文の書き方とのずれは説明せず、分類として挙げています=表の段で覚えます)。
- 2段目・3段目:本人に権限があることが前提で、弁護人もそれを本人と別に(独立して)行使できるものです。そのうち2段目は本人が反対していてもでき、3段目は本人がはっきり反対したらできません。
- 1段目と2段目は、どちらも本人の反対に縛られない点は同じです。違いは、弁護人自身の権限か、本人の権限を土台に、弁護人にも独立して行使することが認められたものか、です(通説的な整理)。本人も同じ権限を持っているかどうかではありません。違いが出るのは本人の権利が消えたときで、2段目は一緒に消えますが、1段目は残ります。
- 忌避=不公平な裁判をするおそれがあるなどの裁判官を、担当から外すよう求める申立てです。上訴=裁判に不服があるとき、上の裁判所に見直しを求めることです(主に判決への控訴・上告。決定への抗告も含みます)。
- 例:勾留中の被告人が「保釈は頼まなくていい」と言っている → 弁護人は、本人の意思に反しても保釈を請求できます。
- 例:「弁護人は保護者だから、被告人が『控訴しないでくれ』とはっきり言っても控訴できる」は誤り → 上訴は被告人の明示した意思に反してできません(356条)。忌避も同じです。
頼む権利の根拠と、国選
弁護人を頼む権利は、身体拘束には憲法34条、被告人には37条3項、拘束されていない被疑者には刑訴法30条が支えます。国が付けると憲法に書いてあるのは、被告人だけです。
| 被疑者(拘束なし) | 被疑者(逮捕・勾留) | 被告人 | |
|---|---|---|---|
| 頼む権利 | 刑訴30条1項(いつでも) | 憲34条(直ちに依頼する権利)+刑訴30条 | 憲37条3項前段(資格を有する弁護人)+刑訴30条。勾留中なら34条も |
| 国が付ける根拠 | なし | 刑訴37条の2のみ(勾留状が出てから。請求は勾留請求から。憲法の明文なし) | 憲37条3項後段+刑訴36条(請求)・37条(職権) |
| 国選を付ける人 | — | 裁判官 | 裁判所・裁判長 |
- 2階建て:被告人国選は、憲法が「自ら依頼できないとき」という大枠を決め(1階)、刑訴法36条が「貧困その他の事由」と具体化します(2階)。被疑者国選には、憲法の国選条項という1階がなく、法律だけで建っています。
37条(抜粋)|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)3項:刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
36条|刑事訴訟法 第一編 総則 第四章 弁護及び補佐(30〜42条)被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない。但し、被告人以外の者が選任した弁護人がある場合は、この限りでない。
- 注意:被疑者が弁護人に頼る権利そのものは、拘束されれば憲法34条が保障します。無いのは「国が付ける」という憲法の明文です。
- 例:逮捕されず、任意の取調べに呼ばれているだけの被疑者が弁護士を頼みたい → 34条は拘束が前提、37条3項は被告人の規定。根拠は刑訴30条1項です。国選は使えません。
34条|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
- 逮捕と勾留:逮捕=最初の短い身体拘束(最長72時間)。勾留=その後も拘束を続ける必要があるとき、検察官の請求で裁判官が認める、より長い身体拘束です(被疑者は原則10日・延長あり)。
- 被疑者国選(37条の2):勾留状が出ている被疑者が、貧困などで弁護人を選べないとき、請求により裁判官が付けます。勾留を請求された段階から請求できます(2項)。釈放されると選任は効力を失います(勾留の執行停止を除く・38条の2)。
- 例:逮捕されただけの被疑者 → まだ国選は請求できません。勾留が請求されれば請求でき、勾留状が出れば裁判官が付けます。その後に釈放されれば、選任は効力を失います。
誰がなれるか・誰が選ぶか
弁護人は原則として弁護士です。弁護士でない特別弁護人は、第1審の簡裁・地裁で許可を得たときだけです。私選は本人のほか家族なども独立して選べ、国選と権限の差はありません。
- 弁護士と弁護人:弁護士=資格の名前/弁護人=その事件で防御に立つ立場の名前です。
- 原則(31条1項):弁護人は弁護士の中から選びます(憲法37条3項の「資格を有する弁護人」)。
- 例外:特別弁護人(31条2項):裁判所の許可を得て、弁護士でない人を弁護人にします。例:会計の専門家、特許に詳しい弁理士。
| 場面 | 特別弁護人 |
|---|---|
| 簡易裁判所 | 許可があれば選べる |
| 地方裁判所 | 許可に加えて、他に弁護士の弁護人がいる場合に限る |
| 起訴前(捜査段階) | 選べない(最決平5・10・19) |
| 控訴審・上告審 | 選べない(387条・414条) |
- 特別弁護人を選べる場面:起訴後の第1審(簡裁・地裁)で、裁判所が許可したときだけです。地裁では、弁護士の弁護人がほかにいることも要ります。
- 例:脱税事件で税理士を弁護人にしたい → 捜査段階では選べません。起訴後、地裁で弁護士の弁護人がいて、裁判所が許可すれば選べます。控訴審では選べません。
31条|刑事訴訟法 第一編 総則 第四章 弁護及び補佐(30〜42条)1項:弁護人は、弁護士の中からこれを選任しなければならない。2項:簡易裁判所又は地方裁判所においては、裁判所の許可を得たときは、弁護士でない者を弁護人に選任することができる。ただし、地方裁判所においては、他に弁護士の中から選任された弁護人がある場合に限る。
- 私選の選任権者(30条):本人はいつでも選べます。法定代理人・保佐人(民法上、判断能力が十分でない人を支える人)・配偶者・直系の親族・兄弟姉妹も、本人と独立して選べます。
- 「独立して」=本人の同意が無くても選べ、本人が後で別の弁護人を選んでも消えない、という意味です。ただし、本人は家族が選んだ弁護人を解任できると解されています。
- 例:逮捕された息子のために父が弁護士を選び、その後に息子も別の弁護士を選んだ → 父が選んだ弁護人は、解任されない限り弁護人のままです。父は息子の意思に反して解任できません。息子は解任できると解されています。
- 国選:裁判所または裁判長が選びます(被疑者国選は裁判官)。権限は私選と国選で差がありません。
いつまで弁護人か:審級代理(32条)
起訴前の選任は第1審まで続き、起訴後の選任は審級ごとです。ただし第1審の弁護人は、選び直さずに控訴を申し立てられます。
| 時期 | 選任の効力 |
|---|---|
| 起訴前に選任 | そのまま第1審でも弁護人(32条1項) |
| 起訴後に選任 | 審級ごと(32条2項)。第1審・控訴審・上告審の段階ごとに選ぶ |
| 第1審の判決の後 | 選任の効力は判決の宣告では終わらない → 第1審の弁護人のまま控訴の申立てができる(355条・最決平4・12・14)。申立ての後、控訴審の手続を進めるには改めて選任が要る |
- 選び直しが要らない場面:起訴前に選んだ弁護人は第1審が終わるまで、第1審の弁護人は控訴の申立てまで、そのまま動けます。
- 例:勾留中に選んだ弁護人 → 起訴後も、第1審が終わるまで選び直さなくてよい(起訴前に弁護人と連署した選任届を出していれば、出し直しも要らない・刑事訴訟規則17条)。
- 例:「第1審で有罪になったら、控訴を申し立てる前に弁護人を選び直さなければならない」は誤り → 第1審の弁護人は、被告人の明示の意思に反しない限り、そのまま控訴を申し立てられます(356条)。
- 目印:駅伝のタスキ。起訴前から第1審までは同じコース、控訴審からは新しいコースです。
32条|刑事訴訟法 第一編 総則 第四章 弁護及び補佐(30〜42条)1項:公訴の提起前にした弁護人の選任は、第一審においてもその効力を有する。2項:公訴の提起後における弁護人の選任は、審級ごとにこれをしなければならない。
補佐人
補佐人は、被告人の家族などが届け出てなる支え役です。被告人の明示した意思に反しない限り、被告人ができる訴訟行為をできます。
- どんな制度か:被告人の身近な人が、法廷で被告人の側に立って手続を手伝える制度です。弁護人と違い、法律家の資格は要らず、届け出るだけでなれます。
- なれる人:被告人の法定代理人・保佐人・配偶者・直系の親族・兄弟姉妹です(42条1項)。30条2項で弁護人を選べる人と同じ顔ぶれで、起訴後の制度です。
- 例:兄は、逮捕された弟の弁護人を選べます(30条2項)。しかし捜査段階で補佐人にはなれません(42条1項は「被告人の」)。
- 届出:審級ごとに届け出ます(2項)。
- できること:被告人の明示した意思に反しない限り、被告人ができる訴訟行為をできます(3項)。例:証拠調べの請求、証人への質問、書面の提出。
- 例:補佐人の兄が証拠調べを請求しようとしても、弟がはっきり反対していればできません。弁護人なら、本人の意思に反しても請求できます。
- 保佐人と補佐人:読みが同じで別の概念です。「民法上の保佐人」が「刑訴法42条の補佐人」になれる、という関係です。
42条|刑事訴訟法 第一編 総則 第四章 弁護及び補佐(30〜42条)1項:被告人の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、何時でも補佐人となることができる。2項:補佐人となるには、審級ごとにその旨を届け出なければならない。3項:補佐人は、被告人の明示した意思に反しない限り、被告人がすることのできる訴訟行為をすることができる。但し、この法律に特別の定のある場合は、この限りでない。
| 弁護人 | 補佐人 | |
|---|---|---|
| 出発点 | 法律の専門家として選ばれる | 家族などの立場から、届け出てなる |
| 本人の意思との関係 | 意思に反してもできる権限がある(第4節) | 明示した意思に反してはできない(42条3項) |
| 時期 | 被疑者の段階から | 被告人になってから |
| 効力 | 起訴後の選任は審級ごと(32条2項) | 審級ごとに届出(42条2項) |