刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#32

再逮捕・再勾留①禁止の原則と例外

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再逮捕・再勾留禁止の原則

一旦釈放した被疑者を、同じ事件でもう一度拘束できるかを整理します。

  • 再逮捕・再勾留:一度釈放した被疑者を、同一の被疑事実について、もう一度逮捕・勾留することです。
  • 原則:原則として許されません(再逮捕・再勾留禁止の原則)。
  • 位置づけ:一罪一逮捕一勾留の原則の中身の1つです。
    • 一罪一逮捕一勾留の原則が禁止しているのは、同一の被疑事実の不当な蒸し返しです。
    • その蒸し返しのうち、「一旦釈放されたあと」に拘束し直す場面を扱うのが、この原則です。

(1) なぜ原則禁止なのか(期間制限の潜脱)

順番中身
身体拘束期間の上限逮捕は最大で72時間程度、勾留は原則10日+延長で10日(208条)
再逮捕・再勾留の無制限な許容期間が切れたら釈放し、翌日また同じ被疑事実で逮捕する。これを繰り返せる
だから原則禁止事実上、拘束に終わりが無くなってしまう(潜脱)
  • 潜脱:ルールを実質的に無視して、すり抜けることです。
  • 趣旨:再逮捕・再勾留禁止の原則は、この期間制限の潜脱を防ぐための原則です。
    • 1個の犯罪を分割して拘束を繰り返すのと同じ心配が、「釈放して、また拘束する」という時間の方向で出てきます。

例外を許す条文上の根拠

再逮捕・再勾留は、完全に禁止されているわけではありません。例外を認める手がかりが条文にあります。

  • なぜ例外が要るのか:釈放したあとで、新しい証拠が見つかることがあります。一律に禁止すると、捜査の実態に合いません。
条文中身
199条3項逮捕状を請求する検察官・司法警察員は、同一の犯罪事実で前に逮捕状の請求・発付があったとき、その旨を裁判所に通知しなければならない
刑事訴訟規則142条1項8号逮捕状請求書に、同一の犯罪事実(または現に捜査中の他の犯罪事実)で前に逮捕状の請求・発付があった旨と、その犯罪事実を記載しなければならない
再逮捕は条文の前提どちらも、同一の被疑事実でもう一度逮捕状を請求する場面がありうることを前提にしている
  • 通説の根拠:この2つの条文から、条文自体が同一の被疑事実での再逮捕を想定している、と理解します。

199条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)3項:検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。

(1) 再勾留には明文の規定が無い

  • 明文なし:勾留については、199条3項のような条文がありません。
  • それでも再勾留は認められる:再逮捕と同様に、例外的に認められると考えられています。
    • 再勾留だけ禁じる理由が無い:再逮捕を認めながら、再勾留だけ認めない合理的な理由はありません。
    • 逮捕と勾留は切り離せない:後で見る東京地決も、再勾留を禁じる規定が無いことと、逮捕と勾留が密接に結びついていることを挙げています。

例外を認める物差し(比較衡量)

どんなときに例外が認められるかは、2つの程度を天秤にかけて決めます。

  • 入口(事情変更):釈放したあとに事情が変わり、もう一度拘束しても単なる蒸し返しとはいえないことが前提です。
  • 判断枠組み:そのうえで、再逮捕・再勾留の必要性の程度と、被疑者が被る不利益の程度とを比較衡量する、という考え方があります。
    • 必要性と不利益を量る点で、比例原則と同じ型の検討です。
被疑者が被る不利益の程度再逮捕・再勾留の必要性の程度
①先行した勾留期間の長さ(長く拘束されていたほど、もう一度拘束される負担が大きい)
②犯罪の重大性
③新しく発見された証拠の重要性
④逃亡・罪証隠滅のおそれの程度
  • なぜ比較衡量なのか:どちらか一方だけでは決められないからです。
    • 捜査側:捜査の必要は、釈放したあとで変わることがあります。
    • 被疑者側:もう一度拘束される側には、蒸し返しの不利益があります。
  • 結論:原則は禁止です。この天秤で必要性が不利益に見合うときだけ、例外として認めます。
  • 不利益の大小で天秤が変わる:
    • 不利益が小さい場合:被疑者が逃げてしまったときや、20日の満了前に勾留の理由が無くなって釈放し、その後に新証拠が出たときです。不利益は大きくないので、必要性があれば認められます。
    • 不利益が大きい場合:20日いっぱい勾留して釈放したあとは、上の②〜④を検討し、それに見合う必要性があるときに限られます。
  • 目印:図書館の貸出期間です。返した直後に同じ本を借り直せたら、期間の上限は意味を失います。

東京地決(爆発物使用事件の再勾留)

20日間の勾留のあとの再勾留について、判断の基準を示した裁判例です。

(1) 事案

  • 最初の拘束:過激派による連続爆弾事件で、被疑者が爆発物取締罰則違反の5件の事実で逮捕され、20日間勾留されました。
  • 釈放:嫌疑が不十分なまま、勾留期間が満了して釈放されました。
  • 再逮捕:その後、共犯者の供述から、5件のうち1件の事実だけで、被疑者を再逮捕しました。
  • 再勾留の請求:検察官が、その1件で再勾留を請求しました。
  • 却下と準抗告:最初の裁判官は「同一の被疑事実の勾留は通じて20日が上限」として請求を却下しました。検察官の準抗告を受けた東京地裁が、この却下を取り消しました。

(2) 考慮した6つの事情

裁判所は、次の6つの事情を考慮するとしました。

  • 事案の軽重
  • 検察官の意図
  • 釈放後の事情変更:釈放したあとに、どんな事情の変化があったか
  • 先行した勾留の期間:どれだけの期間、拘束していたか
  • その期間中の捜査経過:その間に、捜査がどこまで進んだか
  • その他の諸般の事情

(3) 再勾留が許される場合

  • 2つの条件:次の2つがそろわない限り、再勾留は認められません。
    1. 強制捜査を断念させることが首肯し難い:捜査をあきらめさせるのは納得できないほど、必要性が高いこと
    2. 不当な蒸し返しでない:身柄拘束の不当な蒸し返しに当たらないこと
  • 事情変更だけでは足りない:決定は、釈放後に事情が変わったというだけで拘束し直すことは許されない、という原則から出発しています。
  • 首肯し難い:納得しがたい、という意味です。
  • 不当な蒸し返し:一罪一逮捕一勾留の原則が禁止したいものと、同じ言葉です。

爆発物使用事件の再勾留東京地方裁判所決定蒸し返しでない場合の再勾留社会通念上捜査機関に強制捜査を断念させることが首肯し難く、また身柄拘束の不当なむしかえしでないと認められる場合に限るとすべきであると思われる。

(4) あてはめ

決定が考慮した事情を、天秤の両側に分けて並べます。

事情天秤のどちら側か中身
先行した勾留の対象不利益前の20日間の勾留は、併合罪の関係にある5件全体についてのもの。今回の1件のためだけに使われた期間ではない
犯罪の重大性必要性対象は爆発物の使用で、決定は「重大事犯」とした(参考:法定刑は死刑、無期拘禁刑、または7年以上の拘禁刑=爆発物取締罰則1条)
新証拠の重要性必要性共犯者の供述という、重要な新証拠が見つかった
逃亡・罪証隠滅のおそれ必要性被疑者の黙秘と犯行の組織性(検察官の申立ての理由。決定はそのとおりと認めた)
  • 結論:重大事犯を十分に捜査させずに放置するのは納得できず、不当な蒸し返しに当たらないとして、例外的に再勾留が認められました。

再勾留の期間(通じて20日を超えてよいか)

再勾留を認めると、期間についてもう1つの問題が出てきます。

  • 問題:先に20日間勾留した事件で再勾留を認めると、同じ被疑事実全体で見て、通じて20日を超える拘束になります。
  • 緊張関係:期間制限を守るための原則に例外を認めたら、その例外が期間制限そのものを破ってよいのか、という問題です。
東京地決の立場通算20日説
結論通じて20日を超えてもよい。再勾留の期間は、当初の勾留と同様に考える通じて20日を超えられない。すでに20日勾留していれば、再勾留の請求は却下
先行した勾留期間の扱い後の勾留の延長や取消しの判断で、重く見るにとどまる20日の上限に通算して数える
考え方先に20日勾留した事件では、例外をより一層限定的に認める。そのうえで許すべき事案なら、期間は当初の勾留と同じに扱う同一の被疑事実の勾留は、回数を分けても通じて20日が上限(この事件で却下した最初の裁判官の立場)
批判結局、法定の拘束期間を超えることを認めない。それでは、例外として再勾留を認める意味が乏しい
  • 評価:この批判から、期間に上限を設けず、延長や取消しの判断で調整する東京地決の考え方を妥当とする見方があります。
  • 押さえる視点:期間制限を守る原則の例外が、期間制限そのものとどう緊張するか、です。

先行する逮捕が違法だった場合

ここまでは、適法に拘束され、釈放されたあとの話でした。先行する逮捕そのものが違法で、そのために釈放された場合を整理します。

先行する逮捕何が問題になるか
適法だった場合ここまでの比較衡量がそのまま働く(不利益=先行した勾留期間の長さ)
違法だった場合重大な違法があれば、勾留請求は却下される。釈放後、同じ比較衡量がそのまま使えるか
  • 前提(重大な違法):逮捕に令状主義の精神に反するような重大な違法があれば、勾留請求そのものが却下されます。
    • 例:任意同行と言いながら、実質的には逮捕していた場合
  • この節の問い:違法な逮捕で釈放された被疑者を、同一の被疑事実で再逮捕・再勾留できるか、です。

(1) 学説と通説

  • 一切認めない見解:先行する逮捕が違法なら、再逮捕は一切認めない、という学説です。
  • 通説:例外的な場合に再逮捕を認めます。
    • 理由:違法の程度が軽くても重くても、その後の強制捜査をすべて封じるのは行き過ぎだからです。
  • 判断の物差し:適法な釈放のあとと同じ比較衡量で決めることができます(被疑者が被る不利益の程度と、再逮捕・再勾留の必要性の程度)。
    • 違法な逮捕のあとでは、「違法の程度」が、被疑者が被る不利益の重さに効いてきます。

(2) 違法の程度で2つに分ける

①逮捕手続選択の誤りにすぎない場合②違法の程度が極めて重大な場合
具体例緊急逮捕をすべきところを、誤って現行犯逮捕した。緊急逮捕の要件なら満たしていた嫌疑が極めて薄いのに逮捕した。検察官送致までの制限時間を守らなかった
不利益の程度大きいとまではいえない非常に大きい
再逮捕の可否比較衡量により、必要性の程度に照らして例外的に認められうる認められない
  • ①に入るかの分かれ目:選んだ手続とは別の逮捕手続なら、実際には要件を満たしていたかです。
    • 注意:後で見る京都地決が勾留請求を却下した重大な違法は、逮捕に踏み切ったことより、緊急逮捕状を請求せずに拘束を続けた点です。
    • ただ、それは勾留請求を却下するかの物差しです。再逮捕を許すかは、この分かれ目を含めた比較衡量で決まります。
  • ②で再逮捕を許さない理由:違法の程度が極めて重大だと、被疑者が被る不利益の程度が非常に大きくなり、必要性と釣り合わないからです。
  • 目印:①は貸出カードの種類を間違えただけ(正規のカードは持っていた)、②は手続を通さずに無断で持ち出した、です。
  • まとめ:物差しは同じ比較衡量です。変わるのは、違法の程度による重さの見立てです。

京都地決の事件のその後

違法な現行犯逮捕のあと、同じ被疑事実で再逮捕・再勾留が認められたとされる例です。

  • 京都地決:恐喝未遂の被害者の供述だけを頼りにした現行犯逮捕が違法とされ、勾留請求の却下が維持された決定です。

(1) 身体拘束の経過

この事件には、次のような続きがあるとされています。

順番出来事
①逮捕現行犯逮捕(違法と判断された)
②却下勾留請求が却下された
③釈放被疑者が釈放された
④再逮捕同一の被疑事実で、捜査機関が緊急逮捕した
⑤認容当初の現行犯逮捕から72時間以内に、再度の勾留請求をした。これが認められた

(2) 比較衡量で考えてみる

  • 確かめられていない点:再度の勾留請求を認めた裁判が、どんな理由を示したかは確かめられていません。
  • ここでは、比較衡量をこの経過に当てはめると、どう考えられるかを整理します。
見るところ天秤のどちら側か当てはめ
違法の中身不利益却下した京都地決自身が、緊急逮捕の要件はそろっていたと認めている。手続の種類を取り違えた場面で、「手続選択の誤り」の側に入る
拘束の長さ不利益最初に身体を拘束した時点から数えて72時間以内に、再度の勾留請求がされている。拘束が延びていない
事件の重さと身柄の必要必要性恐喝未遂は軽い犯罪ではない。被疑者が否認していれば、逃亡・罪証隠滅のおそれも問題になる
  • 不利益の側:上の2つからは、被疑者の不利益はそれほど大きくない、と考えられます。
  • 必要性の側:必要性はそれなりに大きく、例外として認める方向に傾きます。

72時間の数え方(48時間ではなく)

京都地決の事件の「72時間以内」は、48時間のルールと混同しやすい数字です。

  • 逮捕後の時間制限
    • 203条:司法警察員が逮捕したら、身体を拘束された時から48時間以内に、検察官に送致します。
    • 205条:送致を受けた検察官は、受け取った時から24時間以内に勾留を請求します。全体で、身体を拘束された時から72時間を超えられません。
    • 204条:検察官が自分で逮捕したときは、身体を拘束された時から48時間以内に勾留を請求します。
204条の48時間この事件の72時間
場面検察官が自分で逮捕したとき違法を見つけて釈放し、逮捕し直したとき
起算点その逮捕の時点から当初の違法な逮捕の時点から(203条・205条の72時間)
配慮通常の身体拘束期間の制限拘束時間が伸びないようにする
  • 実務の扱い:送致を受けた検察官や検察事務官が、逮捕手続の選択の誤りなどの違法を見つけることがあります。
    • そのとき、勾留請求の前に一旦被疑者を釈放し、改めて通常逮捕や緊急逮捕で逮捕し直す例があります。
  • なぜ当初の時点から数えるのか:逮捕し直した時点から数えると、その分だけ拘束時間が長くなるからです。
    • 当初の時点から数えれば、被疑者の拘束時間は、かえって長くなりません。
  • 発想:被疑者の不利益は、逮捕し直す前の時点から通しで測ります。

205条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。2項:前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。

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