刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#33

再逮捕・再勾留②常習一罪と同時処理・重複勾留

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常習犯の賭博を、何度でも逮捕できるか

同じ人が賭博を何度も繰り返したとき、行為ごとに逮捕・勾留し直せるかが、この回の問いです。

  • 一罪一逮捕一勾留の原則:同一の被疑事実については、逮捕・勾留は1回だけ、という原則です。
    • 例:住居侵入と窃盗(科刑上一罪)のように刑法上一罪として扱われるなら、分割して逮捕・勾留できません。
  • 常習賭博罪:賭博を繰り返す習癖のある人を罰する規定です(刑法186条1項)。
    • 何回賭けても、その習癖の現れとして、刑法上はまとめて「一罪」(包括一罪)になります。
  • 問題:行為は何度もあるのに罪は1個です。では、行為ごとに何度でも逮捕できるのでしょうか。
  • 答えの先取り:原則として、行為ごとに分けて逮捕・勾留することはできません。
    • 例外:最初の逮捕・勾留の時点で、まとめて処理できなかった行為なら、話が変わります(第4節)。

186条(常習賭博及び賭博場開張等図利)(抜粋)|刑法 第二編 罪 第二十三章 賭博及び富くじに関する罪(185〜187条)1項:常習として賭博をした者は、三年以下の拘禁刑に処する。

「一罪」をどこで数えるか(2つの立場)

「同一の被疑事実なら1回だけ」の「一罪」を何を単位に数えるかで、2つの立場があります。

令状記載基準説罪数基準説(通説)
数える単位逮捕状・勾留状に書かれた被疑事実実体法(刑法)上の罪数
常習犯への帰結行為ごとに、何度でも逮捕・勾留できる実体法上一罪だから、行為ごとの逮捕・勾留は許されない
  • 通説の根拠①(刑罰権は1個):実体法上1個の犯罪からは、国が処罰できる権利(刑罰権)も1個しか生まれません。
    • 逮捕・勾留は、その1個の刑罰権を実現するための手段です。だから、これも1回しか使えません。
    • 何度も使えるとすると、処罰は1回なのに拘束だけが繰り返され、拘束期間の上限が意味を失います。
  • 通説の根拠②(蒸し返しと同じ):一罪をいくつかに切り分けて身柄を取り直せるなら、蒸し返しと同じことが起きます。
  • 通説の帰結:常習犯(包括一罪)も、住居侵入・窃盗のような科刑上一罪も、「一罪」として分割できません。
    • 住居侵入で逮捕・勾留した後に、窃盗で改めて逮捕・勾留することは許されません。
    • 科刑上一罪:数個の罪に当たるものの、最も重い刑で処断されるものです(刑法54条1項)。

通説を徹底すると、捜査が止まる

通説をそのまま当てはめると、保釈された後に新しい賭博をした場合に困ったことが起きます。

  • 保釈:起訴された後の被告人について、勾留の効力は残したまま、身柄だけを外に出す制度です。起訴前の被疑者には使えません。
順番起きること
①起訴・保釈常習賭博で起訴され、保釈された。勾留の効力は続いている
②保釈中に新たな賭博が発覚同じ常習としてまた賭博をした。この行為も、同じ常習賭博という一罪の一部と扱われる
③重複逮捕・重複勾留になるすでに勾留されている事実と重なるので、新しい行為で逮捕・勾留することは許されない
  • 不都合:通説を機械的に当てはめるだけでは、正当な捜査の必要に応えられません。
    • この不都合を解消する道具が、次の「同時処理の可能性」です。

同時処理の可能性(線引きの基準)

どの行為なら一罪一勾留の原則が及び、どの行為なら及ばないかを、1つの基準で分けます。

(1) 同時処理義務(多数説)

  • 同時処理義務:当初の逮捕・勾留の時点で、まとめて処理できたはずの被疑事実は、検察官がまとめて処理しなければならない、という義務です。
  • 同時処理の可能性がなかった事実:その義務は負わせられません。まとめて処理できなかった以上、蒸し返しとも言えないからです。
    • だから、一罪一勾留の原則は及ばず、新しく発覚した事実で逮捕・勾留することも許されます。
当初の逮捕・勾留の時点で同時処理義務一罪一勾留の原則
まとめて処理できたはずの事実負う及ぶ
同時処理の可能性がなかった事実負わない及ばない(逮捕・勾留し直せる)

(2) 前の行為が後で判明したとき(仙台地決と有力説)

保釈後の新しい行為と違い、当初の逮捕・勾留より前の行為が後から分かった場合は、同時処理が可能だったかの判断が難しくなります。ここで基準が2つに分かれます。

  • 仙台地決:多数説と同じ立場に立つ裁判例です。捜査機関に犯罪自体が発覚していれば、同時処理の可能性があった、という基準で判断しました。

  • 有力説:判断基準を明確にするため、「前か後か」の時点で割り切ります。

    • 当初の逮捕・勾留より前の犯罪 → 発覚していたかを問わず、直ちに同時処理の可能性があったとして、原則を適用します。
    • 当初の逮捕・勾留より後に生じた行為 → まだ無かったので、処理できません。
  • 目印(督促):督促の時点で既にあった未払いを、黙って2回目の督促に回すのは抜け道です。督促の後に新しく生じた未払いなら、話は別です。

モデル事案で確かめる

同時処理の可能性の基準を、2つの場面に当てはめます(場面②は有力説による)。

  • 事案:ある被疑者が、常習として賭博を繰り返していた。警察がその一部を把握して逮捕し、20日間勾留した後、起訴・保釈された。
場面当初の逮捕・勾留の時点で結論
①新しい行為(保釈後に発生)まだ発生していない同時処理の可能性がない → 原則は適用されない
②前の行為が発覚(保釈後に判明)既に存在していた有力説では同時処理の可能性がある → 原則、重複禁止が適用

(1) 場面①:保釈後の新しい行為

  • 同時処理の可能性:この行為は、当初の逮捕・勾留の時点ではまだ発生していません。発生していないものは処理できないので、そもそも可能性がなかったことになります。
  • 結論:一罪一勾留の原則は適用されず、重複逮捕・重複勾留の禁止も及びません。この新しい行為で再逮捕・再勾留できます。

(2) 場面②:逮捕・勾留より前の行為

  • 原則:当初の逮捕・勾留より前からあった行為なので、有力説によれば、直ちに同時処理の可能性があったことになります。
    • だから、重複逮捕・重複勾留の禁止が適用されます。
    • 仙台地決の基準なら、当初の時点で捜査機関にその行為が発覚していたかで判断することになります。
    • 例外:比較衡量による例外がありえます。再逮捕・再勾留の禁止に例外が認められるのと同じように、重複禁止にも例外が認められると考えられています。
  • 比較衡量:再逮捕・再勾留の必要性の程度と、被疑者が被る不利益の程度を比べます。
比較衡量の要素見方の例
①先行した勾留期間の長さ最初の勾留が20日間めいっぱい続いていたなら、被疑者の不利益は大きい
②犯罪の重大性法定刑が軽い罪ほど、もう一度拘束する必要性は小さく評価される
③逃亡・罪証隠滅のおそれが相当に大きいか保釈中に実際に証拠を隠そうとした・逃亡を企てた事実があれば、おそれが相当に大きいと言え、必要性の側が重くなる
  • ②の法定刑:賭博は50万円以下の罰金または科料です(刑法185条)。常習として賭博をすると、3年以下の拘禁刑に重くなります(186条1項)。
  • ③の注意:見るのは、逃亡・罪証隠滅のおそれの程度です。実際に図った事実は、おそれが相当に大きいことを示す事情の例です。
  • まとめ:原則は重複禁止でも、事情次第で結論が動きます。

仙台地決の結末(勾留取消しの理由は手続の違法)

ここまでの枠組みは、常習賭博が問題になった、仙台地方裁判所の決定の事案をめぐって論じられてきたものです。この決定は多数説の立場に立ち、発覚の有無で同時処理の可能性を判断しました(第4節)。ただ、勾留が取り消された直接の理由は、逮捕状請求の手続の違法でした。

順番中身
①請求書の記載漏れ再逮捕のときの逮捕状請求書に、199条3項・刑訴規則142条1項8号に基づく記載が欠けていた
②逮捕状の無効逮捕状も違法・無効とされた
③逮捕前置の不存在勾留の前に置くべき有効な逮捕が無いので、勾留も違法・無効
④結論勾留が取り消された(逮捕手続に根本的な瑕疵がある場合=重大な違法に当たる)
  • 199条3項:同じ犯罪事実で、同じ被疑者に前に逮捕状の請求・発付があったとき、請求する検察官・司法警察員は、その旨を裁判所に通知しなければなりません。
  • 刑訴規則142条1項8号:逮捕状の請求書に、同一の犯罪事実(または現に捜査中の他の犯罪事実)で前に逮捕状の請求・発付があったときは、その旨とその犯罪事実を書く、という規定です。
  • なぜこの記載が大事か:この記載があって初めて、裁判官は同じ事件の再逮捕だと分かり、蒸し返しでないかを審査できます。
  • 逮捕前置主義:勾留するには、その前に有効な逮捕を経ていなければならない、という原則です。
    • 逮捕が無効とされたので、この事案ではその先の勾留も取り消されました。

199条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)3項:検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。

(1) どんな違法なら勾留まで止まるか

  • 原則:逮捕に違法があっても、いつでも勾留まで止まるわけではありません。止まるのは、重大な違法のときだけです。
事件番号の書き間違い199条3項・規則142条1項8号の記載漏れ
違法の中身手続の中身に触れない裁判官が再逮捕だと分からず、蒸し返しかどうかを審査しにくくなる
評価軽微な違法逮捕手続に根本的な瑕疵がある=重大な違法
勾留止まらない取り消された
  • 注意:一罪一勾留の原則の問題と、請求書の記載漏れは別の問題です。前者で再逮捕が許される場面でも、手続に重大な違法があれば、勾留は取り消されえます。

対比:実体法上は数罪(併合罪)なら

ここまでは、常習犯のように実体法上「一罪」とされる場合の話でした。実体法上は数罪になる場合と比べます。

  • 併合罪:確定裁判を経ていない2個以上の罪の関係を、こう呼びます(刑法45条)。実体法上は数罪です。
実体法上一罪(常習犯)併合罪(社会通念上別個独立の行為)
「一罪」の枠枠の中枠の外
同時処理義務原則として及ぶ(可能性があれば)原則としてない(通説の基準からの帰結)
ただし比較衡量による例外あり実質的に蒸し返しと言えるほど事情が重なれば、後の勾留請求が制限される場合もある

(1) クリーン・コントロールド・デリバリー事件(最高裁判所決定)

併合罪の関係にある2つの被疑事実について、同時処理義務があるかが問題になった決定です。

  • 事案:薬物に関する被疑事実(規制薬物として取得した大麻の代替物の所持)で勾留された被疑者について、その後、もう1つの被疑事実(大麻の営利目的輸入)で勾留請求がされました。
    • 2つの事実は、社会通念上別個独立の行為で、併合罪の関係にあります。
  • 準抗告審(原決定):両事実の実質的同一性(中身としては同じ事件と言えるほど重なっていること)や、一罪関係に立つ場合との均衡などから、前の勾留中に同時処理が義務付けられていた、として勾留を認めませんでした。
  • 最高裁(法廷意見):検察官の特別抗告は、433条の抗告理由に当たらないとして退けました。そのうえで職権で、原決定が実質的同一性や一罪関係との均衡等のみから同時処理義務を説示した点は是認できないとしました。
    • 否定したのは、その理由だけで義務を導いた点です。併合罪なら同時処理義務は一切ない、とまでは述べていません。
    • 411条の準用まではしない:411条は本来、上告審の条文です。原審に誤りがあり、取り消さなければ著しく正義に反するときに取り消せる、という規定です。
    • 「準用すべきとまでは認められない」=理由づけに誤りはあっても、取り消すほどの不正義ではない、という意味です。
  • 三浦守裁判官の補足意見:両事実は併合罪の関係にあるからこそ、後の被疑事実には、前の事実より相当幅広い捜査が必要になる、と述べています。
    • 後の事実をずっと広く調べる必要があるなら、前の事件の限られた拘束期間のうちにまとめて済ませておけ、とは言えません。
    • そのため、原決定の説示は刑訴法60条1項・426条の解釈適用を誤ったもの、としています。
    • 取り消さない事情も、補足意見が挙げています。証拠や捜査の状況に加えて、被疑者がすでに釈放されて相当の日数がたっていることです。
  • 押さえる点:通説の基準では、併合罪は「一罪」ではないので、原則として同時処理義務はありません。
    • ただし、同時処理が可能だったのに実質的に蒸し返していると言えれば、後の勾留請求が制限されることもありえます。
    • 法廷意見の「のみから」という限定は、この余地を残す趣旨とも読めます。

クリーン・コントロールド・デリバリー事件最高裁判所決定原決定が,本件勾留の被疑事実である大麻の営利目的輸入と,本件勾留請求に先立つ勾留の被疑事実である規制薬物として取得した大麻の代替物の所持との実質的同一性や,両事実が一罪関係に立つ場合との均衡等のみから,前件の勾留中に本件勾留の被疑事実に関する捜査の同時処理が義務付けられていた旨説示した点は是認できないが,いまだ同法411条を準用すべきものとまでは認められない。(三浦守裁判官の補足意見)本件の被疑事実と前件の被疑事実とは,一連のものであって密接に関連するが,社会通念上別個独立の行為であるから,併合罪の関係にあるものと解されるところ,両事実の捜査に重なり合う部分があるといっても,本件の被疑事実の罪体や重要な情状事実については,前件の被疑事実の場合より相当幅広い捜査を行う必要があるものと考えられる。

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