刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#31

事件単位の原則・一罪一逮捕一勾留

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逮捕・勾留の効力は事件ごと(事件単位の原則)

逮捕・勾留の期間は、1つの事件ごとに数えます。この「事件ごと」の中身が、この回のテーマです。

  • 軸になる答え:裁判官は、人ではなく事件ごとに審査します。だから、拘束もその事件の範囲でしかできません。
  • なぜ大事か:この前提を崩すと、勾留の期間の制限そのものが意味を失います(第6節)。

(1) 事件単位の原則とは

  • 事件単位の原則:逮捕・勾留の効力は、その逮捕・勾留の基礎となっている被疑事実にのみ及ぶ、という原則です。
    • 基礎となっている被疑事実:令状に書かれている、その事件のことです。
    • 余罪:令状に書かれた事件以外の事実です。余罪には、効力は及びません。
  • 意味:逮捕・勾留したことになるのは、令状に書かれた1つの事件についてだけです。

(2) 対立する人単位説

  • 人単位説:逮捕・勾留は、その人の身体そのものを拘束しているのだから、効力は事件を問わずその人に及ぶ、という考え方です。
    • 直感的には分かりやすい考え方ですが、通説ではありません。
事件単位の原則人単位説
効力の範囲逮捕・勾留の基礎となっている被疑事実にのみ及ぶその人の身体に及ぶ
余罪の扱い余罪には効力が及ばない余罪にも効力が及ぶ
採否通説・実務通説ではない
  • 人単位説がとれない理由:裁判官が審査していない事件まで、拘束することになるからです。

なぜ事件単位なのか(令状主義からの帰結)

事件単位の原則の根拠は、令状主義の条文にあります。2つの条文から、裁判官の審査の単位が事件であることが導かれます。

順番手がかり分かること
①憲法33条令状は「理由となつてゐる犯罪を明示する」ものでなければならない
②刑訴200条1項逮捕状には「罪名」「被疑事実の要旨」を書く
③審査の単位=事件裁判官は「その被疑事実について、拘束する理由と必要性があるか」を審査する
  • 裁判官が審査すること:「その人を拘束してよいか」ではありません。「その被疑事実について、拘束する理由と必要性があるか」です。
  • 結論:審査の単位が事件である以上、拘束できる範囲の単位も事件でなければ理屈が通りません。
    • 審査した範囲と拘束できる範囲がずれると、裁判官が審査した意味がなくなります。
  • まとめ:事件単位の原則は、令状主義から導かれる帰結です。

33条|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

200条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

拘束は事件ごとに独立する(二重逮捕・二重勾留)

事件単位の原則を当てはめると、同じ人を別々の事件で重ねて拘束できる、という結論が出ます。

  • 二重逮捕・二重勾留:A事件で勾留されている被疑者を、別のB事件でも重ねて逮捕・勾留することです。できます。
  • 違法な二重拘束ではない理由:A事件の拘束とB事件の拘束は、令状ごとに分かれて、独立に効力を持つからです。
    • A事件についての審査と、B事件についての審査は、別の手続です。
    • だから、同じ人に2つの拘束が重なっても矛盾しません。
令状裁判官が審査した事件
A事件の拘束令状①(独立)A事件
B事件の拘束令状②(独立)B事件

逮捕前置主義との組み合わせ

事件単位の原則は、「勾留の前に逮捕を経ていなければならない」という逮捕前置主義とも組み合わさります。

(1) 判断基準はあくまで「事件」

  • 逮捕前置主義の根拠:207条1項の「前三条の規定による勾留の請求」です。
    • 204条〜206条は、逮捕された被疑者について勾留を請求する手続です。だから、逮捕の手続を経ていなければ勾留を請求できません。
  • 逮捕前置主義の趣旨:捜査の初めは、犯罪の疑いも拘束の必要性も、まだ固まっていません。
    • そこで、いきなり長い勾留を認めず、まず短い逮捕を先に置きます。
    • 逮捕の間に捜査を尽くさせ、それでも長い拘束が必要なときに限って勾留を認めます。
  • 事件単位と組み合わせると:逮捕を経ているかは、今回勾留したいその事件自体について見ます。
    • 被疑者が別の事件で身柄を拘束されていても、その事件について逮捕を経ていなければ、逮捕前置主義を満たしません。
    • 理由:その事件については、短い逮捕の間に捜査を尽くす段階を踏んでいないからです。
      • 例外:逮捕した事件(A)で勾留できるときは、その勾留請求に別の事件(B)を付け加えることが許されます(第5節の③)。Bについて逮捕前置主義を満たすからではなく、被疑者に不利益がないからです。
  • 注意(誤解しやすい):「人」を拘束していればよいわけではありません。基準は常に「事件」です。

207条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。

(2) 被疑事実の同一性

逮捕のときの被疑事実と、勾留を請求するときの被疑事実の関係を整理します。

  • 原則:逮捕時の被疑事実と勾留時の被疑事実は、同一でなければなりません。
    • 理由:別の事件で逮捕していたのでは、その事件について長い勾留が本当に必要かを判断できないからです。
  • 一言一句同一でなくてよい:捜査が進んで事実の細部がはっきりしただけなら、同じ事件のままです。
    • 例:駅前のひったくりの犯行時刻が、最初は「19時ごろ」で、後で「19時5分」と分かった。同じ事件として扱われます。

被疑事実の同一性を欠くとき(3つのパターン)

A事実で逮捕した後に、同一性を欠く別のB事実が出てきたとき、どう扱えるかを3つのパターンで整理します。

  • 例:A事実=駅前のひったくり、B事実=別の日に別の店でした万引き。
パターン内容可否
①勾留の切替A事実の逮捕 → B事実だけで勾留請求不可(B事実について逮捕が先行していない)
②再逮捕による勾留A事実で逮捕した被疑者をいったん釈放 → B事実で改めて逮捕して、B事実で勾留請求可(B事実についても逮捕が先行している)
③理由の付加A事実の逮捕のまま、勾留請求でA事実+B事実を併せて理由にする可(A事実で勾留できることが前提。被疑者に不利益がない)
  • ①勾留の切替が不可な理由:B事実については、逮捕を一度も経ていません。
    • A事実の逮捕の効力は、B事実には及びません(事件単位の原則)。
    • B事実について短い逮捕の間の捜査を経ずに、いきなり長い勾留に入ることになり、逮捕前置主義を満たしません。
  • ②再逮捕による勾留が可な理由:B事実について改めて逮捕するので、B事実についても逮捕が先に置かれるからです。
  • ③理由の付加が可な理由:
    • 前提:A事実について逮捕が先行し、A事実そのもので適法に勾留できることです。
      • A事実の疑いが消えて、A事実では勾留できないときは使えません。②の方法をとります。
    • この前提があれば、勾留はA事実で認められます。そこにB事実を足しても、被疑者に不利益はありません。
    • 逆に、B事実についても逮捕し直せと求めると、かえって拘束が長くなり、被疑者に不利益です。

(1) ②より③が被疑者に有利な理由

  • ②再逮捕による勾留:B事実でもう一度逮捕すると、逮捕の時間制限が、ゼロから数え直しになります。
    • 例:司法警察員が逮捕したときは、身体を拘束された時から72時間以内に勾留請求をしなければなりません(203条1項・205条2項)。
    • その分だけ、拘束期間がかえって長くなります。
  • ③理由の付加:A事実の逮捕のまま勾留に進むので、72時間の上乗せがありません。
    • だから、被疑者にとって有利な方法として認められています。

(2) 見分け方の2点

  • 逮捕の先行:勾留の理由にする事件について、逮捕が先に行われているか。①は欠けて不可、②は満たして可です。
  • 不利益:逮捕が先行していない事実を足すなら、A事実そのもので勾留できるうえで、被疑者に不利益がないか。③はこれに当たり可です。

一罪一逮捕一勾留の原則

令状主義・事件単位の原則からは、「同じ事件で何回拘束できるか」という回数の結論も出ます。

  • 一罪一逮捕一勾留の原則:同一の被疑事実については、逮捕・勾留は1回しか認められない、という原則です。
    • 別名:実務では勾留が問題になることが多いので、「一罪一勾留の原則」とも呼ばれます。
  • 根拠:逮捕状・勾留状の請求には被疑事実が必要で、裁判官は被疑事実を単位に審査します。
    • 「審査の単位=拘束できる範囲の単位」(第2節)を、今度は回数の方向で見たものです。

(1) 趣旨:期間制限の潜脱を防ぐ

順番中身
期間の上限勾留は原則10日、延長でさらに10日(208条1項・2項)
上限の潜脱刑法上1個の犯罪を分割して、繰り返し逮捕・勾留すれば、上限を実質的に無視できてしまう
だから1回だけ同一の被疑事実については、逮捕・勾留は1回しか認められない
  • 潜脱:ルールを実質的に無視して、すり抜けることです。
  • 趣旨:この潜脱を防ぐことです。

(2) 中身は2つの禁止

禁止場面目印
再逮捕・再勾留の禁止同一の被疑事実で、逮捕・勾留を繰り返す蒸し返し
重複逮捕・重複勾留の禁止同一の被疑事実で、同時に複数の逮捕・勾留をする同時の重複
  • 二重勾留との違い:言葉は似ていますが、結論が逆です。
二重逮捕・二重勾留(第3節)重複逮捕・重複勾留
重なる拘束別々の事件の拘束が重なる同じ事件で拘束を2回重ねる
結論できる禁止

具体例:住居侵入+窃盗は分割できない

「1個の犯罪」を分割してはいけない、という結論を、人の家に侵入して物を盗んだ例で確かめます。

  • 住居侵入と窃盗の関係:侵入は盗むための手段、盗みが目的です。
    • 刑法上は、まとめて1個の犯罪(科刑上一罪)として扱われます(刑法54条1項)。
    • 「1個の犯罪」の中身は、刑法上まとめて1つの犯罪として扱われる、ということだけです。
  • 一罪の範囲:一罪一逮捕一勾留の「一罪」は、この刑法上の「1個の犯罪」の単位で考えるのが通説です。
やり方評価
だめなやり方住居侵入だけで逮捕・勾留し、終わった直後に窃盗で改めて逮捕・勾留する1個の犯罪の分割=違法
正しいやり方住居侵入と窃盗をまとめて、1回の逮捕・勾留で処理する可
  • だめな理由:住居侵入で勾留が延長込みで20日、続けて窃盗でまた20日になります。
    • 1個の犯罪なのに、勾留だけで合わせて40日になり、勾留の期間制限をすり抜けます。
  • 理由の付加との違い:理由の付加は同一性を欠く別の事件を足す場面です(第5節)。1個の犯罪の住居侵入と窃盗は、これに当たりません。

3つの柱をつなぐ考え方

この回の3つの柱は、どれも「審査した範囲を超えて拘束しない」という1つの考え方から出ています。

柱中身
1つ目事件単位の原則逮捕・勾留の効力は、その事件だけに及ぶ
2つ目逮捕前置主義との組み合わせ判断基準は「事件」。同一性を欠くとき、切替は不可、再逮捕と理由の付加は可
3つ目一罪一逮捕一勾留の原則同一の被疑事実については、逮捕・勾留は1回だけ

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