刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#30

勾留④勾留理由開示・取消し・準抗告

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勾留から出るための道具の全体像

勾留状が出ても、期間が過ぎるのを待つしかないわけではありません。弁護人が身柄を取り戻すために打てる手を、決定の前と後に分けて整理します。

  • 逮捕との違い:逮捕に不服があっても、被疑者が争う手段はありません。
    • 準抗告できる裁判を並べた429条1項に、逮捕が入っていないからです。判例も、逮捕には準抗告できないとしています。
  • 勾留には争う手段がある:だから、勾留の段階でどの道具を使うかが大事になります。

(1) 決定が出る前の働きかけ

逮捕された人は検察官に送られ、検察官が裁判官に勾留を請求します。この流れの途中で、2つの場面で働きかけができます。

場面誰に何を伝えるか
勾留請求の前検察官「勾留を請求しないでほしい」
請求の後・決定の前裁判官「勾留を認めないでほしい」
決定の後(道具ごとに違う)法律に用意された4つの道具を使う(次の(2))
  • 何を材料にするか:身元を引き受ける人がいること、定まった住居があること、逃げる心配が薄いことです。
    • これらを資料や意見書にまとめて提出します。
  • なぜ決定前が特に大事か:決定の前には、逮捕を争う手続も、勾留を止める手続も法律にありません。
    • 使えるのは事実上の働きかけだけなので、ここで勾留を防げるかが勝負になります。
    • 決定の後は逆に、不服申立てや、事情の変化に応じた手続が法律で用意されています。

(2) 決定が出た後の4つの道具

道具何のための道具か条文
①勾留理由開示決定の理由を知る82条
②勾留の取消し決定の後に事情が変わったことを理由に、勾留を終わらせる87条
③準抗告決定した時点の判断そのものの誤りを争う429条1項2号
④勾留の執行停止勾留の効力を残したまま、一時的に外へ出す95条
  • 被疑者にも使える理由:82条・87条・95条の主語は「被告人」と「裁判所」です。
    • 207条1項が、勾留の請求を受けた裁判官に、裁判所と同じ権限を与えています(第8節)。
    • だから被疑者の勾留では、これらの規定を裁判官が使います。

勾留理由開示(理由を知る道具)

1つ目は、なぜ勾留されているのかを、公開の法廷で説明させる制度です。

(1) 憲法34条後段を具体化した制度

  • 憲法34条後段:拘禁された人が要求すれば、その理由を、本人と弁護人が出席する公開の法廷で示さなければなりません。
  • 勾留理由開示:この後段を、刑事訴訟法で具体化した制度です。

34条|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

(2) 請求から法廷まで

段階中身
請求本人のほか、弁護人・法定代理人・保佐人・配偶者・直系の親族・兄弟姉妹・その他の利害関係人ができる(82条)
公開の法廷裁判官と裁判所書記官が列席し、被疑者と弁護人が出席する(83条)
理由を告げ、意見を聴く裁判官が勾留の理由を告げる。検察官・被疑者・弁護人・請求者は意見を述べられる(84条)

82条|刑事訴訟法 第一編 総則 第八章 被告人の召喚、勾引及び勾留(57〜98条の11)1項:勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる。2項:勾留されている被告人の弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人も、前項の請求をすることができる。3項:前二項の請求は、保釈、勾留の執行停止若しくは勾留の取消があつたとき、又は勾留状の効力が消滅したときは、その効力を失う。

(3) 注意する3つの点

  • 不服申立てそのものではない:理由を知り、意見を述べる場です。その場で勾留が取り消されるわけではありません。
    • 決定の誤りを争うのは、準抗告です(第4節)。
    • 役目:理由が分からなければ、何を争えばいいかも分かりません。後の不服申立ての準備になります。
    • 実際の姿:捜査を続ける都合から、裁判官が理由の具体的な中身まで告げないことが多いです。
    • それでも、法廷で意見を述べて記録に残せます。接見等禁止中なら、家族が法廷で本人の姿を見られる機会にもなります。
  • 最初の1回だけ:同じ勾留について開示されるのは、最初の請求の1回だけです。ほかの請求は却下されます(86条)。
  • 勾留されている間だけ:請求できるのは「勾留されている」人です。釈放された後には請求できません。
    • 請求した後に勾留の取消しや執行停止があれば、その請求も効力を失います(82条3項)。

勾留の取消し(事後の変化を理由にする道具)

2つ目は、決定の後に事情が変わり、勾留を続ける理由が無くなったときに使う道具です。

決定した時点その後の変化取り消す
勾留の理由も必要性もそろっていた(判断は正しかった)例:身元引受人が現れた→必要性が消えた時点の誤りは言わない。将来に向けて効力を失わせる
  • 勾留の取消し:勾留の理由か必要性がなくなったとき、裁判官が勾留を取り消す制度です(87条1項)。
    • 「なくなったとき」=決定の時点ではあったものが、後から消えたという意味です。
    • 「必要がなくなったら取り消す」という書き方は、勾留の要件に必要性が含まれることの根拠にもなっています。
  • 例:決定の後で、身元を引き受ける人が現れた場合です。
    • 決定が間違っていたとは言いません。その後の変化を理由に、勾留を終わらせます。
  • 誰が請求できるか:検察官、勾留されている被疑者、その弁護人・法定代理人・保佐人・配偶者・直系の親族・兄弟姉妹です。
    • 職権でもできる:請求が無くても、裁判官が自分の判断で取り消せます。
    • 取り消す要件がそろえば、「取り消さなければならない」=取り消す義務があります。
  • 不当に長い拘禁(91条1項):勾留による拘禁が不当に長くなったときも、取り消す義務があります。
    • 条文は「取り消し、又は保釈を許さなければならない」です。被疑者には保釈が無いので(第8節)、被疑者の場合は取消しになります。

87条(抜粋)|刑事訴訟法 第一編 総則 第八章 被告人の召喚、勾引及び勾留(57〜98条の11)1項:勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。

準抗告(決定時点の誤りを争う道具)

3つ目は、決定した時点の裁判官の判断そのものが誤っていた、と主張する道具です。

(1) 勾留の裁判は準抗告で争える

  • 準抗告:裁判官がした裁判に不服がある人が、その取消し・変更を裁判所に求める手続です(429条1項)。
    • 抗告:裁判所がした決定への不服申立てです。裁判官がした裁判には、抗告ではなく準抗告を使います。
  • 2号に「勾留」がある:勾留に関する裁判は、準抗告の対象です。
    • 例:勾留状を出した裁判、延長を認めた裁判、勾留や延長の請求を却下した裁判。どれも対象です。
    • 請求を却下した裁判には、検察官が準抗告します。条文は申立人を「不服がある者」とだけ書き、被疑者側に限っていません。
    • 逮捕はこの列挙に入っていません(第1節)。
  • どこに申し立てるか:簡易裁判所の裁判官の裁判なら管轄の地方裁判所、それ以外はその裁判官が所属する裁判所です。

(2) 審査するのは合議体

決定準抗告審査
単独の裁判官の裁判(勾留状の発付・延長・請求の却下)決定した時点の判断そのものの誤りを主張する合議体(複数の裁判官)が審査する(429条4項)
  • 意味:決定した本人ではない、別の目で見直す仕組みです。

429条(抜粋)|刑事訴訟法 第三編 上訴 第四章 抗告(419〜434条)1項:裁判官が次に掲げる裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消し又は変更を請求することができる。二 勾留、保釈、押収(電磁的記録提供命令(第百二条の二第一項第一号イに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)を含む。)、押収物の還付、電磁的記録提供命令(同号ロに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)又は第百二十三条の二第一項(第五百十三条第十項において読み替えて準用する場合を含む。)の規定による複写に関する裁判2項:第四百二十条第三項の規定は、前項の請求について準用する。4項:第一項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。

(3) 嫌疑が無いことは理由にできない

  • 制限:「そもそも犯罪の嫌疑が無い」ことを理由に、勾留の準抗告はできません。
    • 抗告についての制限(420条3項)を、429条2項が準抗告にも準用しています。
  • 理由:嫌疑の有無は、本案の裁判(有罪か無罪かを決める裁判)で審判すべき事項だからです。
    • 勾留の手続の中で、犯罪の有無まで決着させるわけにはいきません。

420条(抜粋)|刑事訴訟法 第三編 上訴 第四章 抗告(419〜434条)3項:勾留に対しては、前項の規定にかかわらず、犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告をすることはできない。

取消しと準抗告の違い

どちらも「勾留に不服がある」ときの道具に見えますが、争う時点が違います。この回でいちばん大事な区別です。

取消し(87条)準抗告(429条1項2号)
争う時点「今」から見る。決定した時点の判断は正しかった前提「決定したあの時」から見る。決定した時点の判断そのものが誤っていたと主張する
理由事後に、勾留の理由・必要性が消えた決定した時点の判断の誤り(例:資料の見落とし)
請求できる人検察官・被疑者・弁護人など+職権不服がある者
効果将来に向けて効力を失わせる裁判の取消し又は変更
  • 身元引受人が現れた:決定の後に起きた事情の変化です。だから取消しを使います。
  • 必要性を示す資料を、裁判官が見落としていた:決定した時点の判断の誤りです。だから準抗告を使います。
  • 注意(よくある間違い):「勾留に不服なら取消し請求」とひとくくりにしないことです。争う対象の時点で見分けます。

勾留の執行停止(効力を残したまま外へ出す道具)

4つ目は、争うのではなく、勾留を続けたまま一時的に身柄だけを外へ出す道具です。

取消し執行停止(95条)
勾留の効力失わせる残したまま。一時的に身柄だけ外へ出す
終わった後勾留そのものが終わる停止の事由が終わったら、再び勾留される
きっかけ請求または職権職権のみ。弁護人は職権の発動を促すだけ
  • 勾留の執行停止:裁判官が適当と認めるとき、被疑者を親族などに委託したり、住居を制限したりして、勾留の執行を止める制度です(95条1項)。
    • 条件を付けることもできます(95条1項後段)。
  • 例:手術のため、数日だけ入院が必要になった場合です。
    • 親族に委託したり、住居を病院に制限したりして、その間だけ執行を停止します。
    • 入院が終われば、再び勾留されます。勾留そのものは、一度も終わっていません。
  • 注意(請求権は無い):執行停止は、裁判官の職権による措置です。
    • 弁護人ができるのは、「職権を発動してほしい」と申し立てることだけです。請求する権利とまでは言えません。
    • 停止するかどうかは、裁判官の判断です。

95条(抜粋)|刑事訴訟法 第一編 総則 第八章 被告人の召喚、勾引及び勾留(57〜98条の11)1項:裁判所は、適当と認めるときは、決定で、勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、又は被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止することができる。この場合においては、適当と認める条件を付することができる。

接見等禁止の決定に不服があるとき

勾留中にかかる接見等禁止(81条)の決定にも、弁護人が取れる対応が2つあります。

  • 接見等禁止:勾留されている人と、弁護人以外の人との面会や物のやり取りを止める決定です。
準抗告一部解除の申立て
対象決定そのもの決定の一部(例:両親との面会、配偶者からの手紙)
範囲決定を全部争う範囲を狭めてもらう
位置づけ429条1項の「勾留に関する裁判」に含まれる職権発動を促すだけ。裁判官が適当と認めれば認められる
  • 準抗告で争える:接見等禁止の決定も、準抗告の対象として扱われています(429条1項2号「勾留に関する裁判」)。
  • 一部解除の例:「両親との面会だけは認めてほしい」「配偶者からの手紙だけは読ませてほしい」といった形です。

被疑者には保釈が無い

ここまでの道具に、保釈は入っていません。起訴前の被疑者には、保釈が使えないからです。

起訴前の被疑者起訴後の被告人
保釈が無い(207条1項但書)保釈が使える
  • 207条1項本文:勾留の請求を受けた裁判官は、裁判所・裁判長と同じ権限を持ちます。
  • 但書:「保釈については、この限りでない」=被疑者を勾留する裁判官には、保釈を認める権限が無いという意味です。
    • 保釈が使えるのは、起訴された後の被告人だけです。
  • この回の道具で外へ出るには:取消し・準抗告で勾留を終わらせるか、執行停止で一時的に出るかです。
    • 理由開示は理由を知る場で、それだけで外へ出られるわけではありません。

207条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。

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