刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#20

捜査の端緒②所持品検査

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骨格条文が無いのに、なぜ鞄を調べられるのか

  • 1 出発点:所持品検査を一般に許す条文は無い → 判例は、2条1項の職務質問に付随する行為として認めた。
    • 学説の批判:質問に不可欠とはいえない。有力説は、凶器などを持つ蓋然性があるときに、外から触れる程度までしか認めない。
  • 2 3つの問い(判例の原則・例外・限度を、問う順に並べたもの)
    • ①承諾があるか → あれば、その限度で適法。
    • ②「捜索」に至るか・「強制」にわたるか → 当たれば直ちに違法(警職法2条3項)。
    • ③相当か → 必要性・緊急性と侵害を比べる(警職法1条2項)。
  • 3 問い②の物差し(解説書の整理):「捜索」=行為の中身/「強制」=行為に伴う圧力。開披を拒み続けた相手のバッグを開けた行為も、判例は適法とした。
    • 「捜索」の目印(一つの見解):①探索的な行為 ②解錠・開封。
  • 4 問い③の天秤:左=踏み込みの深さ・出方/右=嫌疑・重大性・凶器の疑い・挙動・緊急性。
  • 5 2つの事件:チャックを開けて一べつ=適法/内ポケットに手を入れて取り出す=違法(必要性は認めたが、侵害が高く捜索に類する)。
    • アタッシュケースのこじ開けは、所持品検査ではなく、逮捕の現場での捜索手続と同一視された。
  • 6 違法と証拠は別の問い:検査は違法でも、ポケットの事件は覚醒剤、自動車の事件は尿の鑑定書の証拠能力が肯定された。

⚠ 拒否に反して開けた≠強制/「捜索に類する」=捜索ではない(③で違法)/ポケットの事件を「凶器の可能性が低い・代替手段があった」で説明するのは解説書の当てはめで、判旨の理由ではない

出発点:所持品検査を許す条文は無い

条文が無いので、最高裁は所持品検査を「職務質問に付随する行為」として認めました。

(1) 条文を探しても届かない

  • 前提:所持品検査を認めた条文は、警職法2条4項と銃刀法24条の2しかありません。どちらも、対象が絞られています。
警職法2条1項警職法2条4項銃刀法24条の2第1項
対象不審な人刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者銃刀類を持つと疑う相当な理由があり、他人の生命・身体に危害を及ぼすおそれがある者
できること停止させて質問する身体に凶器が無いか調べる疑わしい物を提示させ、開示させて調べる
職務質問中のバッグ調べる権限は書いていない逮捕前なので使えない銃刀類の疑いに限られる
  • 職務質問中の相手の持ち物:2条1項は止めて質問できるだけ、2条4項は逮捕の後、銃刀法は銃刀類の疑いと危害のおそれがあるときだけです。ふつうの職務質問の場面で持ち物を調べる条文はありません。
    • 例:刃物を振り回していたという通報に合う男が、上着の膨らみを押さえてそわそわしている → 銃刀類の疑いと危害のおそれがあるので、銃刀法で膨らみの中身を出させて調べられます。
    • 例:同じ男でも、疑いが「覚醒剤を持っていそう」だけなら → 銃刀法も2条4項も使えません。判例の付随行為の枠で判断するしかありません。
    • 例:「凶器を持っていそうなら、2条4項で職務質問中に身体を調べられる」は誤り → 2条4項は逮捕されている者の規定です。

2条(質問)(抜粋)|警察官職務執行法1項:警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。4項:警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。

24条の2(銃砲刀剣類等の一時保管等)(抜粋)|銃砲刀剣類所持等取締法 第四章 雑則(21条の2〜30条の3)1項:警察官は、銃砲刀剣類等を携帯し、又は運搬していると疑うに足りる相当な理由のある者が、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して他人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれがあると認められる場合においては、銃砲刀剣類等であると疑われる物を提示させ、又はそれが隠されていると疑われる物を開示させて調べることができる。

(2) 判例の橋と、学説の2つの見方

立場所持品検査の根拠承諾なしでできる範囲
最高裁口頭の質問と密接に関連し、職務質問の効果をあげるうえで必要性・有効性がある → 質問に付随してできる場合がある次の第2節の問い②③を通れば、チャックを開けて一べつすることも認めうる
批判(学説)所持品検査は、質問の実施・継続に不可欠とまではいえない。それなのに付随行為に入れた—
有力説警察官や周りの人の安全は、質問の不可欠の前提。凶器などを持つ蓋然性があり、安全を守る必要があれば、承諾なしの検査も付随行為外から触れて確かめる程度まで
  • 線の引き方:批判と有力説は、その行為が無いと質問そのものができないか(不可欠か)で、付随行為の範囲を考えます。
    • 例:質問を続けるために、閉まりかけたホテルの部屋のドアを押し開ける → これが無いと質問そのものができない=不可欠な行為です。
    • 例:承諾なしにバッグを開けて中を見る → 見られなくても質問は続けられる=不可欠とはいえません。
    • 例:凶器の疑いが強い相手の上着を外から軽く叩く → 有力説でも判例でも許される余地があります。施錠されていないチャックを開けて中をちらっと見る → 有力説では範囲外ですが、判例の枠では認められうる行為です。

バッグのチャックを開けた事件最高裁判所判決判例が置いた橋警職法は、その二条一項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。

判断の流れ:3つの問い

判例の「原則・例外・限度」は、承諾 → 捜索・強制 → 相当性の順に問う、1本の流れです。

問い判例の言葉答え
① 承諾があるか(原則)所持人の承諾を得て、その限度で行うのが原則ある → 承諾の限度で適法 / ない → ②へ
② 「捜索」に至るか・「強制」にわたるか(例外の条件)捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、許容される場合がある当たる → 直ちに違法 / 当たらない → ③へ
③ 相当か(限度)必要性、緊急性、害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度相当 → 適法 / 相当でない → 違法
  • ①から順に問う:承諾がある部分は、①だけで適法です。承諾の外に出た部分だけを、②③で問います。
    • 例:「中を見せてください」と頼み、相手が自分でファスナーを開けて上の段を見せた → ①承諾の限度で適法。見せていない下の段に警察官が手を入れれば、承諾の外なので②③に進みます。
    • 例:巡査部長が他の警察官に「相手は承諾しているから」と車内をもう一度よく見るよう指示し、4人で座席を動かして探した。運転者は黙って眺めていた → 承諾が無ければ許容限度を超える調べ方でした。任意の承諾は無かったとする原審の判断を最高裁は是認し、違法としました(自動車の中を調べた事件)。黙って眺めていたことは、承諾とは扱われていません。
    • 例:承諾なしに、上着の外から軽く触れた → ②捜索にも強制にも当たりにくい。それでも承諾が無いので、③相当性の判断は必要です。
  • 入れ子の関係:原則を例外が開き、開いた余地を限度が締め直します。並列の3要件ではありません。
    • 例外で開く理由:職務質問・所持品検査は、犯罪の予防・鎮圧のための行政警察の活動です。承諾が無ければ一切だめとすると、動いている事態に迅速に対応できません。
    • 限度で締める理由:所持品について捜索・押収を受けない権利は、憲法35条が保障しています。捜索に至らない行為でも、受ける者の権利を害します。

バッグのチャックを開けた事件最高裁判所判決原則所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。例外しかしながら、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であつて、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。限度もつとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法三五条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であつてもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであつて、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである。

35条(抜粋)|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

  • 相当性は4つ目の要素ではない:必要性・緊急性・権衡「など」を考慮した結論が「相当と認められる限度」です。「必要性・緊急性・相当性の3要件」と並べると、相手が受ける侵害(害される個人の法益)と比べる作業が落ち、必要性・緊急性さえあれば足りるように読めてしまいます。
  • 問い②と③の分け方は、学説の分析です(最高裁の基準をこう分析する)。
    • 強制処分=相手の明示・黙示の意思に反して、重要な権利・利益を実質的に侵害・制約する処分です(解説書は、刑訴法上の強制処分と同じ考え方とします)。任意処分=それ以外の処分です。意思に反していても、重要な権利・利益の実質的な侵害・制約に至らなければ任意処分です(チャックを開けて一べつした程度は至らない、と解説書は当てはめます)。
    • 問い②は、所持品検査が強制処分に当たるかを、「捜索」(行為の中身)と「強制」(行為に伴う圧力)の2つの面から見る物差しです。どちらかに当たれば強制処分、どちらにも当たらなければ任意処分で③に進みます。判旨の「強制にわたらない限り」の「強制」は、解説書の区別では、このうち圧力の面だけを指す言葉で、強制処分そのものとは別です。
    • ②で違法=強制処分に当たる。職務質問の相手は「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り」身柄の拘束・連行・答弁の強要を受けない(警職法2条3項)。この列挙は例示と解され、強制処分に当たる行為一般が許されないので、直ちに違法です。行政警察の場面なので、捜査のように令状で正当化する道はありません。
    • ③で違法=任意処分のまま、相当性を欠く。根拠は、警察の手段は必要な最小の限度で用いるという警職法1条2項です。

2条(質問)(抜粋)|警察官職務執行法3項:前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。

1条(この法律の目的)(抜粋)|警察官職務執行法2項:この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあつてはならない。

問い②:「捜索」か、「強制」か

「捜索」は行為そのものの中身を、「強制」は行為に伴う圧力を問う、と区別して考えます。どちらか一方に当たれば違法です。

  • 前提:刑事訴訟法の捜索=人の身体・物・住居などについて、押収すべき物や人を見つけるために探す強制処分です。原則として令状が要ります(憲法35条・刑訴法218条1項)。
解説書の区別「捜索」「強制」
何を問うか行為の中身行為に伴う圧力
基準刑事訴訟法の強制処分としての捜索と同視できるか意思を制圧する強要的な言動や、抵抗を排除する有形力があったか
典型施錠されたケースをこじ開ける/中を一つ一つ探る所持品には触れず、身体を押さえつけて本人に出させる
  • 分けて問う意味:警察官が自分で探らなくても、圧力で出させれば「強制」にわたります。
    • 例:相手の両腕を後ろから押さえたまま「ポケットの物を出せ」と言い、やむなく出させた → 警察官は探っていなくても、抵抗を封じる有形力で出させたので「強制」にわたります。
    • 例:「はっきり断っているのに開ければ強制」は誤り → チャックの事件では、何度も開披を拒んでいた相手のバッグを承諾なく開けた行為が、適法とされました。判旨は強制に当たらないとは明示せず、相当性の判断に進んでいます(強制に当たらないとする当てはめは解説書による)。
      • 「強制」は、意思を制圧する言動や抵抗を排除する有形力があったかで見ます(解説書の区別による)。承諾が無いことだけでは足りません(承諾が無いことは、問い①で②③へ進む理由になっています)。
    • 例:「いいかげんに出してくれ」と強く言っただけ → ポケットの事件でもこうした言葉が使われましたが、最高裁は(証拠能力を判断する部分で)「強制等のされた事跡も認められない」としました。
  • 注意:判例は2つの言葉を並べただけで、定義していません。両者を区別しない見解もあります。

(1) 「捜索」の目印(一つの見解)

最高裁の立場は明確ではありません。学説では、事案の分析を通じて、次のどちらかがあれば「捜索」に当たるとする見解があります。

  • ①探索的な行為:物が何かを確かめるだけでなく、証拠品が無いか一つ一つ調べていく動き。
  • ②解錠・開封:鍵を開ける・封を切る動き。施錠されていないチャックを開けることは、これに当たりません。
事案行為裁判所の評価
チャックの事件施錠なしのチャックを開けて一べつ相当=適法(最高裁)。捜索に至らないことは、相当性の判断に進んだことからの理解
アタッシュケース施錠されたケースをドライバーでこじ開ける逮捕の現場での捜索手続と同一視しうる(最高裁)
ポケットの事件外から触れて分かった固い物を、内ポケットに手を入れて取り出す「捜索に類する」=捜索そのものではない。相当性を欠き違法(最高裁)
自動車の事件懐中電灯を使い、座席を動かして車内を丹念に調べる最高裁は「捜索」の語を使わず、許容限度を超え違法とした。原審は「捜索に等しい」と評価
東京高判平30・3・2投げたバッグを拾い、中身を一つずつ取り出し、封筒の中まで確かめた無令状の捜索=重大な違法で、証拠を排除(解説書の紹介による)
大阪高判平28・10・13車内の財布・ポーチのチャックを次々に開けて取り出し、中の缶まで開けた一連として手当たり次第の検索=重大な違法で、証拠を排除(解説書の紹介による)
  • 表の読み方:同じように閉じた物を開ける行為でも、施錠・封の有無と、探し回るかどうかで評価が分かれます。最高裁の言葉と、学説・下級審の言葉も分けて読みます。
    • 例:「閉じている物を開けたら捜索」は誤り → 施錠なしのチャックを開けても、捜索に至らないとされました。②に当たるのは、ダイヤル錠のスーツケースを工具で開ける、封をした封筒を切る、といった動きです。
    • 例:同じ「チャックを開ける」でも、1つ開けて一べつ(適法)と、次々に開けて中身を取り出して回る(大阪高判・違法)とで、評価が分かれます。大阪高判は「捜索」と言ったのではなく、一連として手当たり次第の検索でプライバシー侵害が高いとしました。上の見解でいえば、①探索的な行為の具体像です。
    • 例:自動車の事件の最高裁は「捜索に当たる」と言っていません。「原審を否定しなかった」を「捜索と認めた」と読み替えないようにします。

自動車の中を調べた事件最高裁判所決定最高裁が言ったこと警察官が本件自動車内を調べた行為は、被告人の承諾がない限り、職務質問に付随して行う所持品検査として許容される限度を超えたものというべきところ、右行為に対し被告人の任意の承諾はなかったとする原判断に誤りがあるとは認められないから、右行為が違法であることは否定し難い……

問い③:相当か(天秤)

左の皿(侵害)と右の皿(必要性)を比べます。判旨の「必要性、緊急性」「保護されるべき公共の利益」が右、「害される個人の法益」が左、「権衡」が比べる作業です。

  • 天秤の中身は学説の整理です。判旨が挙げた要素そのものではありません。
  • 左の皿で守られているもの:チャックの事件の判旨は「害される個人の法益」とだけ言い、何の法益かは明言していません。所持品に対するプライバシーと理解されています。ポケットの事件の判旨は、ポケットに手を入れる行為を「プライバシイ侵害の程度の高い行為」と評価しました。
  • 右の皿:職務質問は捜査ではないので、犯罪の予防まで含む、警察目的から見た広い必要性です。緊急性も、広い意味の必要性に含まれます。

(1) 踏み込みのはしご(左の皿①)

段行為扱いこの回の事案
①外から観察して、中身を質問する職務質問の一環として許される
②開けて見せるよう求め、承諾を得て確認する同上(問い①)
③承諾なしに、外から触れるここから問い②③の対象有力説の限界/ポケットの事件の前半
④承諾なしに、チャック等を開ける同上チャックの事件(適法)
⑤承諾なしに、バッグ等に手を差し入れる同上
⑥承諾なしに、着衣のポケット等に手を差し入れる同上ポケットの事件(違法)
  • 段が上がるほど左の皿は重くなり、「捜索」にも近づきます。
    • 例:同じ「承諾なし」でも、コートの外から触れる → 手提げのファスナーを開けて見る → 手提げに手を入れてかき回す → ズボンのポケットに手を入れる、の順に左の皿が重くなります。

(2) 天秤に乗せる事情

左の皿:侵害・制約の程度右の皿:所持品検査の必要性
①箇所・態様(前の表のはしご)①嫌疑の有無・程度
②警察官の出方:いきなり強く出た方が、説得を重ねてから強めたより重い②犯罪の重大性
③物件、特に凶器を持つ疑い
④不審な挙動
⑤その場で行う緊急性(代わりの手段が無いか)
  • 左②警察官の出方:同じ行為でも、そこに至るまでの経過で重さが変わります。解説書は、いきなり強権的に行った場合は、説得から入って段階的に強めた場合より、プライバシーの侵害・制約が大きいとします。
    • 例:声をかけた直後に説明なくバッグを開けた場合と、長く説得して拒まれ続けてから開けた場合 → 開け方が同じでも、前者の方が左の皿②は重くなります。
  • 右③凶器の疑い:侵害の大きい検査の相当性を認めるための、重要な要素とされています。
    • 薬物など違法な物を持つ疑いにとどまるときは、侵害の大きい検査は相当性を欠き違法とされることが多い、と整理されています。
    • 例:刃物で人を刺した直後の犯人に似た男と、薬物の前歴があるだけの男に、同じくポケットに手を入れた → 前者は右の皿③が重く相当の方向へ、後者は相当性を欠く方向へ動きます(結論は事案次第)。
  • 右⑤緊急性:その場で調べるほかに手が無いかを見ます。
    • 例:人混みの駅で爆発物の疑いがある → その場で調べるほかに手が無く、右の皿⑤は重い。落ち着いて応答している相手の薬物の疑い → なお説得を続けられ、⑤は軽い。

2つの事件を3つの問いに当てる

チャックの事件は侵害が小さく必要性が強いので適法。ポケットの事件は必要性を認めつつ、侵害が高く捜索に類するので違法です。

事実チャックの事件(最判昭53・6・20)

  • 猟銃とナイフを使った銀行強盗が起き、警察は緊急配備を敷いて検問をしていました。
  • タクシー運転手の通報に合う白い乗用車に、手配の人相に似た男2人が乗っていたので、職務質問を始めました。
  • 2人は黙秘し、バッグとアタッシュケースを開けるよう求められても拒み続けました。近くの営業所で約30分求め続けても変わらず、警察署へ同行した後も黙秘が続きました。
  • 警察官が承諾のないままボーリングバッグのチャックを開けると、大量の紙幣が見えました。施錠されたアタッシュケースはドライバーでこじ開け、帯封付きの札束が見えたので、緊急逮捕しました。

事実ポケットの事件(最判昭53・9・7)

  • 覚醒剤事犯・売春事犯の多い地域で、パトカーが近づくと車が発進しました。客引きの疑いで職務質問を始めると、車内に組の名前入りの物や賭博道具が見え、落ち着きのない態度と青白い顔色から覚醒剤の疑いも生じました。
  • 所持品の提示を拒み、そばにいた遊び人風の男たちが「お前らそんなことする権利あるんか」と食ってかかりました。本人が右の内ポケットから出したのは、目薬とちり紙だけでした。
  • 警察官が「他のポケットを触らせてもらう」と言って外から触ると(本人は何も言わなかった)、左の内ポケットに刃物ではない固い物がありました。
  • 提示を求めても黙っているので、「それなら出してみるぞ」と言い、承諾なく内ポケットに手を入れて取り出すと、覚醒剤などが見つかり、現行犯逮捕しました。
問いチャックの事件ポケットの事件
① 承諾無い(開披を拒み続けていた)無い(不服らしい態度を示し、明確な承諾は無い)
② 捜索・強制当たらない(判旨は明示せず相当性へ進んだ=解説書の当てはめ)「捜索に類する」=捜索そのものではない(通常の理解)
③ 右の皿(判旨)重大な強盗・濃厚な容疑・凶器を持つ疑いもあった・黙秘と再三の拒否 → 緊急性、必要性が強かった覚醒剤の容疑はかなり濃厚・職務質問に妨害が入りかねない → 必要性・緊急性は肯認しうる
③ 左の皿(判旨)内部を一べつしたにすぎない → 侵害はさほど大きくないプライバシー侵害の程度が高い・態様が捜索に類する
結論相当と認めうる=適法相当とは認めがたい=違法
証拠(アタッシュケース分も)排除せず違法だが、証拠能力は肯定(第6節)
  • 判旨が違法にした理由は左の皿:ポケットの事件の最高裁は、必要性・緊急性を認めたうえで、侵害の高さと捜索に類する態様を理由にしました。
    • 例:「必要性・緊急性が認められれば適法」は誤り → ポケットの事件は必要性・緊急性を認めたうえで違法です。右の皿が重くても、左の皿がそれ以上に重ければ釣り合いません。
    • 例:「侵害が重い方が必ず違法」も誤り → 相当かどうかは両方の皿の比べ合いです。ポケットに刃物のような硬い感触があり、その場で調べるほかに手が無いなら、右の皿③⑤が重くなり、天秤の傾きは変わりえます。
  • 解説書の当てはめ(判旨ではない):ポケットの事件は、凶器の可能性が低く、なお説得を続けて提示を求める手があった、として右の皿③⑤の弱さも挙げます。チャックの事件では、説得を重ねて段階的に強めた、代わりの手段も無かった、と当てはめます。答案で使うときは、判旨と区別して書きます。

バッグのチャックを開けた事件最高裁判所判決チャック開披は相当これを本件についてみると、所論のB巡査長の行為は、猟銃及び登山用ナイフを使用しての銀行強盗という重大な犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務とされていた状況の下において、深夜に検問の現場を通りかかつたA及び被告人の両名が、右犯人としての濃厚な容疑が存在し、かつ、兇器を所持している疑いもあつたのに、警察官の職務質問に対し黙秘したうえ再三にわたる所持品の開披要求を拒否するなどの不審な挙動をとり続けたため、右両名の容疑を確める緊急の必要上されたものであつて、所持品検査の緊急性、必要性が強かつた反面、所持品検査の態様は携行中の所持品であるバツグの施錠されていないチヤツクを開披し内部を一べつしたにすぎないものであるから、これによる法益の侵害はさほど大きいものではなく、上述の経過に照らせば相当と認めうる行為であるから、これを警職法二条一項の職務質問に附随する行為として許容されるとした原判決の判断は正当である。

上着のポケットに手を入れた事件最高裁判所判決ポケットに手を入れた行為は違法被告人の承諾がないのに、その上衣左側内ポケツトに手を差し入れて所持品を取り出したうえ検査した同巡査の行為は、一般にプライバシイ侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において捜索に類するものであるから、上記のような本件の具体的な状況のもとにおいては、相当な行為とは認めがたいところであつて、職務質問に附随する所持品検査の許容限度を逸脱したものと解するのが相当である。

  • 学説の批判:ポケットに手を入れるのは「捜索」そのものなのに、「捜索に類する」と曖昧に表現したので、何が「捜索」かの基準が不明確になった、という批判があります。
    • この批判に立って解説書の枠組みに当てはめると、ポケットの事件は②(捜索=強制処分)で直ちに違法になるはずです。判旨は侵害の程度の高さと「捜索に類する」態様を挙げつつ、捜索とはせず、③の相当性で違法にしました(通常の理解)。何が「捜索」に当たるかについての最高裁の立場は明確とは言いがたい、と解説書は書きます。

(1) アタッシュケースは別の受け皿

施錠されたアタッシュケースのこじ開けは、所持品検査として相当とされたのではありません。

ボーリングバッグの開披→アタッシュケースのこじ開け
所持品検査(付随行為)として適法紙幣を見つけた時点で、緊急逮捕できる要件がすでに整った逮捕の現場で時間的に接着して行われた捜索手続と同一視しうる → 証拠は排除しない
  • 逮捕に伴う捜索・差押え(220条1項2号・3項):被疑者を逮捕する場合に必要があれば、逮捕の現場で、令状が無くても捜索・差押えができる制度です。
  • こじ開けは緊急逮捕の手続より先でしたが、要件が整い、ごく接着した時間に同じ現場で逮捕したので、この捜索と同一視しうるとされました。
    • 例:バッグから何も出ず、まだ緊急逮捕の要件が整っていない段階で、施錠されたケースをこじ開けた → 判例が同一視した前提(要件が整っていた・同じ現場・時間的に接着)が欠けます。所持品検査としても、解錠を伴うので「捜索」に当たる方向です(この変形の結論を示した判例はありません)。

バッグのチャックを開けた事件最高裁判所判決アタッシュケースは別の受け皿前記ボーリングバツグの適法な開披によりすでにAを緊急逮捕することができるだけの要件が整い、しかも極めて接着した時間内にその現場で緊急逮捕手続が行われている本件においては、所論アタツシユケースをこじ開けた警察官の行為は、Aを逮捕する目的で緊急逮捕手続に先行して逮捕の現場で時間的に接着してされた捜索手続と同一視しうるものであるから、アタツシユケース及び在中していた帯封の証拠能力はこれを排除すべきものとは認められず

(2) エックス線検査とは矛盾しないか

  • 疑問:チャックを開けて中を見ても任意処分なのに、荷物に外からエックス線を当てる検査は、強制処分とされました(最決平21・9・28)。逆転していないか、という批判があります。
  • エックス線の判例:宅配便の荷物を承諾なく透視すると、形状・材質がうかがえ、内容物によっては品目まで相当程度具体的に特定できる → プライバシーを大きく侵害する、検証としての性質を持つ強制処分。検証許可状を得られたのに得ずに行ったので違法とされました。
  • 反論:エックス線は中身を特定できるので、梱包を解いて確かめたのに等しい、という点を重視した。だから両者は整合する、と読みます(判旨の文言ではなく、反論側の読み)。
  • 場面の違い:エックス線は捜査で、許可状を取る道がありました。所持品検査は行政警察の場面なので、強制処分に当たれば直ちに違法です(第2節)。

違法でも、証拠は使えることがある

所持品検査が違法かどうかと、見つかった物を証拠に使えるかどうかは、別の問いです。まず検査の適否(3つの問い)、次に違法の重さと証拠を排除すべきかを考えます。

  • ポケットの事件:許容限度を超えて違法としつつ、覚醒剤の証拠能力は肯定しました。
    • 理由:職務質問の要件も必要性・緊急性もあった。諾否の態度がはっきりしない相手に、許容限度を「わずかに超えて」行ったにすぎない。令状主義を潜脱する意図も、強制等のされた事跡も無い → 違法は重大でない。
  • 自動車の事件:最高裁が証拠能力を判断したのは、車内で見つかった覚醒剤を理由に任意同行・現行犯逮捕し(この逮捕も違法とされた)、その後に採尿して得た尿の鑑定書です(車内の覚醒剤そのものは判断していません)。
    • 前の手続(車内の検査)が違法だと、それに続いて得た証拠も使えるかが問われます。
    • 車内の検査は違法としつつ、覚醒剤の嫌疑・必要性・緊急性があり、明示の異議も無かったことなどから違法の程度は大きくないとしました。採尿手続も違法性を帯びるとしつつ、同行・採尿に任意に応じていたことなどを併せ、その違法はいまだ重大でないとして、尿の鑑定書の証拠能力を肯定しました。
  • 下級審の2件(第3節の表)は、重大な違法として証拠を排除しています。

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