逮捕③緊急逮捕
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逮捕3類型の最後の1つ
逮捕状がまだ無いのに、先に捕まえてよい場面があります。それが緊急逮捕です。
- 場面の例:3日前の空き巣で盗まれた指輪を、今、質店に持ち込んだ男がいます。
- 逮捕状はまだ無く、取りに行くあいだに逃げられてしまいます。
- 答え:罪が重いこと・嫌疑が濃いこと・待てない事情があることが中身の柱です。そのうえで理由を告げて捕まえます(4つの要件は第2節)。
- そのかわり、逮捕した後に直ちに逮捕状を求め、裁判官の審査を受けます。
- その審査では、捕まえた時点で要件がそろっていたかと、逮捕の後の手続を守ったかが問われます。
(1) 3類型は「裁判官の審査」のタイミングで分かれる
| 型 | 裁判官の審査 |
|---|---|
| 通常逮捕(199条) | 事前に審査する(先に逮捕状を出してから逮捕) |
| 現行犯逮捕・準現行犯逮捕(212条) | 審査しない(令状なしで逮捕) |
| 緊急逮捕(210条) | 後から審査する(逮捕の後に逮捕状を求める) |
- 緊急逮捕の位置:審査を省くのでも、先に取るのでもありません。審査を後回しにするだけで、消してはいません。
210条の骨格:逮捕する時点と、逮捕した後
210条1項は長い条文ですが、逮捕する時点の要件と、逮捕した後の手続の2つの塊に分かれます。
- 誰が:検察官・検察事務官・司法警察職員が、緊急逮捕できます。
| 逮捕する時点の要件 | 逮捕した後の手続 |
|---|---|
| ①重い罪(死刑・無期・長期3年以上の拘禁刑に当たる罪) | ①直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をする |
| ②罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由 | ②逮捕状が発せられないときは、直ちに釈放する |
| ③急速を要し、逮捕状を求めることができない | |
| ④理由を告げて逮捕する |
- 前半の役割:裁判官を待たずに捕まえてよい根拠です。
- 後半の役割:飛ばした審査を必ず取り戻す仕掛けです。
- 両方そろって初めて適法:前半の要件を満たしても、後半の手続をしなければ違法です。
- 2項(200条の準用):緊急逮捕の後に出る逮捕状も、書く中身は通常逮捕の逮捕状と同じです。
- 200条は、被疑者の氏名・住居、罪名、被疑事実の要旨など、逮捕状に書く事項の決まりです。
210条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。2項:第二百条の規定は、前項の逮捕状についてこれを準用する。
憲法33条と合憲性
令状なしで先に捕まえる以上、令状主義を定めた憲法33条とぶつからないかが問題になります。
- 問題の所在:憲法33条が令状の例外として書いているのは、「現行犯として逮捕される場合」だけです。
- 緊急逮捕という言葉は出てきません。文面だけ見ると、緊急逮捕は例外に入っていません。
- そのため、緊急逮捕は違憲だとする見方もあります。
- 最高裁の結論:合憲です。
33条|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
(1) 合憲とした理由は、210条の要件に対応している
判決は、まず210条の要件を全部並べ、その厳格な制約の下で、次の3つを条件に合憲としました。
| 最高裁が挙げた理由 | 対応する210条の要件 |
|---|---|
| 罪状の重い一定の犯罪のみに限ること | 重い罪の限定 |
| 緊急やむを得ない場合に限ること | 急速を要すること |
| 逮捕後直ちに裁判官の審査を受け、逮捕状の発行を求めること | 直ちに逮捕状を求める手続 |
- 前提に入る要件:十分な理由(濃い嫌疑)と理由の告知も、判決が並べた「厳格な制約」に含まれています。
- 表の3つだけが合憲の条件で、嫌疑や告知は関係ない、という読み方は誤りです。
- 指輪の男に当てはめると:空き巣という重い罪で、男は店を出ようとしている。捕まえた後、すぐ裁判官に逮捕状を求める。この形です。
- なぜ憲法と両立するのか:憲法33条が令状を求めるのは、捕まえる前に中立な第三者(裁判官)の目を通すためです。
- 緊急逮捕は、その目を消すのではなく、すぐ後ろにずらすだけです。
- しかも、ずらしてよい場面を、重い罪と待てない事情に絞っています。
- =210条の要件の厳しさが、憲法33条とのつじつまを合わせています。
- 注意(どんな逮捕も合憲ではない):この判決が認めたのは、条件をそろえた緊急逮捕という仕組みです。
- 条件を欠いた一つひとつの逮捕まで、正しいとしたわけではありません。それを確かめるのが、第10節の裁判官の審査です。
緊急逮捕の合憲性最高裁判所大法廷判決罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急已むを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることを条件とし、被疑者の逮捕を認めることは、憲法三三条規定の趣旨に反するものではない。
現行犯逮捕との違い
令状が要らない点は同じでも、緊急逮捕と現行犯逮捕は中身が違います。
- 現行犯逮捕:いま罪を行っている者、行い終わった者(現行犯人)を、令状なしで逮捕します(212条1項)。
- 準現行犯逮捕:罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者を、現行犯人とみなして逮捕します(212条2項)。
- なぜ現行犯は令状が要らないのか:目の前で罪が行われていて、人違いのおそれが小さいからです。
- 指輪の男は:空き巣から3日たっているので、現行犯にも準現行犯にも当たりません。
| 現行犯逮捕 | 緊急逮捕 | |
|---|---|---|
| 罪の限定 | 原則無し。ただし軽微な罪(刑法の罪なら30万円以下の罰金・拘留・科料に当たる罪)は、住居・氏名が不明か逃亡のおそれがあるときだけ(217条) | 死刑・無期・長期3年以上の拘禁刑に当たる罪だけ |
| 理由の告知 | 不要(その場で明白だから) | 必要 |
| 事後の令状請求 | 無し | 必ず必要(裁判官の審査が山場) |
- 3つの違いの意味:緊急逮捕は、犯行を見ていない分を、罪の重さ・理由の告知・事後の審査で埋め合わせています。
- いちばん大きな違いは、事後の令状請求です。逮捕の後も手続が続くのは、緊急逮捕だけです。
要件①重い罪:法定刑で測る
罪が重いかどうかは、実際に科される刑ではなく、法定刑で測ります。
- 法定刑:法律がその罪について定めている刑の幅です。
- 長期:法定刑の上限のことです。
| 罪 | 長期 | 緊急逮捕 |
|---|---|---|
| 窃盗罪(空き巣・刑法235条) | 10年 | できる(3年以上) |
| 暴行罪(刑法208条) | 2年 | できない |
(1) 設例:留守の時間帯を教えただけの人
- 事例:空き巣に入る家が留守になる時間帯だけを教えた人がいます。実行にも共謀にも加わっていません。
- 犯罪になるか:なります。実行を手助けした幇助犯で、従犯として扱われます。
- 従犯の刑:正犯の刑を減軽します(刑法63条)。
- 緊急逮捕の判断:減軽前の法定刑、つまり正犯の法定刑で行います。
- この判断では、従犯であることは無視して構いません。窃盗罪の長期10年で判断するので、重い罪に入ります。
- 差が出るのは長期3年の罪:窃盗罪の従犯は、減軽しても長期5年です(刑法68条3号=長期を2分の1)。どちらで測っても対象に入ります。
- 例えば住居侵入罪(刑法130条)は長期3年です。その従犯は、減軽すれば長期1年6月になります。
- それでも正犯の法定刑(長期3年)で測るので、緊急逮捕の対象に入ります。
- なぜ減軽後の刑で測らないのか:刑を軽くするのは、刑を決めるときの話です。
- 捕まえる時点では、その人が手助け役(従犯)なのか、実行した側(正犯)なのかは、まだ決まっていません。
- だから、罪そのものに法律が定めた刑で線を引きます。
- 従犯かどうかの確定:逮捕の時点で、誰が従犯かまで確定していなくてかまいません。
- 求められるのは「疑うに足りる理由」の段階で、有罪の確定までは求められていません。
63条(従犯減軽)|刑法 第一編 総則 第十一章 共犯(60〜65条)従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。
要件②十分な理由:相当な理由より濃い嫌疑
210条は、嫌疑について「十分な理由」を求めています。通常逮捕の「相当な理由」より、濃い嫌疑です。
| 通常逮捕 | 緊急逮捕 | |
|---|---|---|
| 条文の言葉 | 相当な理由(199条1項) | 十分な理由(210条1項) |
| 中身 | この人がこの犯罪をした、と絞られたうえで、疑いに理由があること | それより濃い嫌疑 |
(1) どこまで濃ければ足りるか
- 不要なもの:有罪判決や公訴提起が確実だというレベルまでは求められません。
- 必要な程度:何らかの証拠に基づいて、特定の犯罪の犯人だと捜査機関が確信をもてる程度です。
| 指輪の男の場合 | 十分な理由 |
|---|---|
| 防犯カメラに、似た服装の人が映っていただけ | 足りない(疑う理由はあっても、確信までは持てない) |
| 被害届どおりの指輪を持ち込み、カメラの顔とも一致した | 足りる(確信をもてる程度) |
- なぜ濃い嫌疑を求めるのか:裁判官の審査を先送りする分だけ、現場に求める嫌疑の濃さも上がるからです。
- 令状審査の前に、現場の判断でそれだけの濃さを用意しなければなりません。
要件③急速を要し:待てない事情
「急速を要し」は、次の2つが両方そろって初めて認められます。
- ①逃亡・罪証隠滅の可能性が高い:すぐに逮捕しなければ、被疑者が逃げるか、証拠を隠したり壊したりする(罪証を隠滅する)可能性が高いことです。
- ②時間的な余裕が無い:逮捕状を請求する時間的な余裕が無いことです。
- なぜ①だけでは足りないのか:時間さえあれば、通常逮捕で済むはずだからです。
- 緊急逮捕は、あくまで通常逮捕が間に合わない場合の手段です。
| 指輪の男の場合 | 急速を要するか |
|---|---|
| 代金を受け取って店を出ようとしている。逮捕状を取りに行く間に、行方が分からなくなる | 要する |
| 名前も住所も分かっていて、逃げる様子も無い | 要しない(逮捕状を取りに行けるので、通常逮捕を使う) |
要件④理由の告知
210条は、逮捕のときに「理由を告げて」逮捕すると定めています。
- 告げる中身:①被疑事実の要旨と、②急速を要する事情の2つです。
- 両方そろって、初めて足ります。片方だけではいけません。
- 程度:詳細な事実関係までは求められません。
- 逮捕される人が、どんな事実で、なぜ急ぐのかを理解できる程度で足ります。
- なぜ告知が要るのか:現行犯逮捕は、罪がその場で明白なので告知が不要でした。
- 緊急逮捕は、現場を見ていない分を、告知で補います。
逮捕の後:「直ちに」逮捕状を求める
逮捕した後は、「直ちに」裁判官に逮捕状を求めなければなりません。誰が請求するかは、法律と実務の決まりで層が分かれます。
| 層 | 内容 |
|---|---|
| 刑事訴訟法210条(法律) | 請求できる者に制限は無い。検察事務官や司法巡査でも請求できる |
| 犯罪捜査規範120条(実務の決まり) | 指定司法警察員か、その逮捕に当たった警察官が請求する |
- 通常逮捕との違い:通常逮捕の逮捕状を請求できるのは、検察官と司法警察員です(199条2項)。
- 警察官である司法警察員は、公安委員会が指定する警部以上の者に限られます。
- なぜ緊急逮捕では広げるのか:請求は「直ちに」しなければならないからです。
- 請求できる人の到着を待っていたら、時間がたってしまいます。
- 犯罪捜査規範:法律ではなく、実務の決まりです。法律より一段低い層です。
- 法律上は制限が無く、実務では誰が請求するかを決めて整えている、という関係なので、矛盾しません。
- 「直ちに」:請求するまでに、無駄な時間が無かったと言えることです。
- 請求には、十分な理由と逮捕の必要性を示す資料を付けます。逮捕後にそれを作る時間は認められますが、必要最小限に限られます。
- 釈放・逃走した後も請求は必要:逮捕後に被疑者を釈放した場合や、被疑者が逃走した場合でも、請求しなければなりません。
- 捕まえたこと自体は、もう起きています。その逮捕が正しかったかを、裁判官に確かめてもらう必要があるからです。
- 犯罪捜査規範120条3項が書いているのは、釈放した場合です。逃走した場合は、この項には書かれていません。
120条(緊急逮捕状の請求)(抜粋)|犯罪捜査規範 第五章 逮捕(118〜136条の3)1項:刑訴法第210条第1項の規定による逮捕状(以下「緊急逮捕状」という。)の請求は、指定司法警察員又は当該逮捕に当たつた警察官がこれを行うものとする。ただし、指定司法警察員がいないときは、他の司法警察員たる警察官が請求しても差し支えない。3項:被疑者を緊急逮捕した場合は、逮捕の理由となつた犯罪事実がないこと若しくはその事実が罪とならないことが明らかになり、又は身柄を留置して取り調べる必要がないと認め、被疑者を釈放したときにおいても、緊急逮捕状の請求をしなければならない。
裁判官の2段階審査
逮捕状の請求を受けた裁判官は、2段階で審査します。2つの段は、見ている時点が違います。
| 段 | 何を審査するか | いつの事情で判断するか |
|---|---|---|
| 第1段 | 緊急逮捕そのものの適法性(210条の要件と手続) | 要件は逮捕した時点の事情だけ(逮捕後の事情で補えない) |
| 第2段 | 逮捕状発付の理由・必要性(通常逮捕と同じ要件) | 逮捕状を発付する時点の事情 |
- 結論:どちらか一方でも崩れれば、逮捕状は出ません。逮捕状が出なければ、直ちに釈放です。
(1) 第1段:要件は逮捕の瞬間の事情で判断する
- 逮捕後の事情は見てはいけない:逮捕した時点では十分な理由が無かったのに、逮捕後の取調べで自白した場合でも、逮捕状は出ません。
- 逮捕の時点で要件を欠いていた以上、後から嫌疑が固まっても救われません。
- 手続もここで見る:理由を告げたか、直ちに請求したかも、緊急逮捕の適法性に含まれます。
- 要件がそろっていても、告知を欠いたり請求が遅れたりすれば、緊急逮捕は認められません。
- 理由①(条文):210条は、十分な理由がある場合に、逮捕できると書いています。理由が要るのは、捕まえるその時です。
- 理由②(要件を絞った意味):後の自白で足りるなら、薄い疑いのまま先に捕まえて、取調べで固めることができてしまいます。
- それでは、要件を重い罪・濃い嫌疑・待てない事情に絞った意味がなくなります。
(2) 第2段:発付の時点で、通常逮捕と同じ理由と必要性を見る
- 審査の中身:第1段が適法でも、裁判官は続けて、逮捕状を発付する時点で、逮捕の理由と逮捕の必要性があるかを審査します。
- 逮捕の必要性:通常逮捕で見るものと同じで、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあるかです。
- なぜ発付の時点で見るのか:逮捕状は、ここから先も身柄を確保しておくための根拠になるからです。
- これから先の根拠なので、出す時点で、理由と必要性が残っていなければなりません。
「急速を要し」でも逃亡のおそれが出てきましたが、「逮捕の必要性」とは問うことが違います。
| 急速を要し(第1段) | 逮捕の必要性(第2段) | |
|---|---|---|
| 問うこと | 逃亡などのおそれが差し迫っていて、逮捕状を待つ時間が無いか | そもそも身柄を押さえる意味があるか |
(3) 2つの設例:結論は同じでも、崩れる段階が違う
| 設例 | 事情 | 結論 |
|---|---|---|
| ① | 逮捕した時点では十分な理由が無かったが、逮捕後の取調べで自白した | 第1段で否定(逮捕状は出ない) |
| ② | 逮捕した時点では逮捕の理由も必要性もあったが、逮捕後に消えた | 第2段で否定(逮捕状は出ない) |
- 設例①の例:カメラの顔と照らし合わせる前に、質店の前にいたというだけで指輪の男を捕まえ、取調べで空き巣を認めた場合です。
- 捕まえた瞬間には、確信をもてる程度の嫌疑がありませんでした。
- 設例②の例(理由が消える):指輪の男を適法に捕まえた後、本当の犯人が別に見つかり、男は何も知らずに指輪を預かっていただけだと分かった場合です。
- 逮捕の瞬間は適法でしたが、発付する時点では、もう逮捕の理由がありません。
- 設例②の例(必要性だけが消える):男の身元と住所が確かめられ、指輪も押収されて、逃げるおそれも証拠を隠すおそれも、明らかに無くなった場合です。
- 答案では:同じ「逮捕状が出ない」でも、どちらの段階(時点)で崩れたのかを書き分けます。
緊急執行との区別
名前は似ていますが、緊急執行と緊急逮捕は別物です。分かれ目は、逮捕状の発付が終わっているかどうかです。
- 緊急執行(201条2項・73条3項の準用):逮捕状はもう出ているのに、手元に持っていないため示せず、急速を要するとき、被疑事実の要旨と逮捕状が出ている旨を告げて逮捕する仕組みです。
| 緊急執行 | 緊急逮捕 | |
|---|---|---|
| 令状の発付 | もう終わっている(手元に無くて示せないだけ) | まだ終わっていない(令状がまだ無い) |
| 事後の手続 | できる限り速やかに令状を示すだけ | あらためて令状を請求する |