手続の全体像——1つの事件が動く順路と登場人物
1つの事件が通る順路を、捜査→公訴の提起→公判→裁判→確定・執行の5区間で1本の時間軸に落とす。逮捕48時間・検察官24時間・通じて72時間、勾留10日+延長10日という期限を条文で確定し、起訴を境に被疑者が被告人へ変わる切れ目、そして無罪推定がなぜ身柄拘束と矛盾しないのかまでを整理する。
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第1章 総論 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
手続は5つの区間に分かれる

この道筋は、大きく5つの区間に分かれています。難しく考えなくて大丈夫です。捜査、公訴の提起、公判、裁判、確定・執行。この5つです。捜査は、犯人と証拠を探す区間。公訴の提起は、検察官が「裁判にかけます」と決める区間。公判は、法廷で争う区間。裁判は、結論を出す区間。確定・執行は、その結論を実際に動かす区間です。ちょうど、捜査が始まったところです。これからこの5つを、駅前の事件と一緒に歩いていきます。
捜査はどこから始まるか

実は、そこが最初の誤解ポイントです。捜査は「事件が起きた時」ではなく、「捜査機関が知った時」に始まります。駅前の事件で言えば、殴打が起きた瞬間ではなく、110番通報が入り、警察が「事件がある」と認知した瞬間が、捜査の始まりです。これを端緒と呼びます。
条文刑事訴訟法189条2項
刑事訴訟法第189条第2項 司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。
189条2項に、「犯罪があると思料するとき」、つまり「犯罪があると考えたとき」に捜査する、と書かれています。この「思料した時点」が、まさに認知の瞬間です。通報以外にも、職務質問がきっかけになることも、被害者自身の告訴がきっかけになることもあります。名前だけ触れておきます。
捜査は何を集めるのか

捜査で集めるものは、大きく2つです。犯人と証拠です。駅前の事件なら、通行人の目撃証言、防犯カメラの映像、被害者の供述、現場の見分結果——これが証拠にあたります。同時に進みます。担当するのは、第一次的には司法警察職員、つまり警察官です。必要があれば、検察官も自分で捜査に乗り出せます。できます。ただ、その位置づけの詳しい話は、第2章に送ります。検察官も」という役割分担だけ、押さえてください。どこまで踏み込んで調べてよいか、という任意と強制の線引きも、第2章でじっくり扱います。犯人を確保し、証拠を固めたら、次は身柄をどう扱うか、という問題に移ります。ここからが、今日いちばんの山場です。
身柄はどこで動くか①:逮捕

駅前の事件に戻りましょう。目撃証言と防犯カメラ映像がそろい、警察は「殴った人」を特定しました。証拠がそろえば、裁判官に逮捕状を請求し、認められれば通常逮捕ができます。あります。逮捕状を使う通常逮捕のルートで進めます。要件の詳しい話は、第2章に送ります。まったく終わりません。ここからが、時間との勝負です。

逮捕された被疑者は、48時間以内に、警察官から検察官に送られなければなりません。この、警察官から検察官へ引き継ぐ手続を「送致」と呼びます。
条文刑事訴訟法203条1項
刑事訴訟法第203条第1項 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
短いです。しかも、ただ送るだけではありません。「弁解の機会を与え」「留置の必要がなければ釈放する」とも書かれています。送る前に、まず本人の言い分を聞く義務があるんです。この段階では、逮捕による身柄拘束を、そのまま続けておく、という意味です。いいえ、まだ時計は止まりません。検察官も、今度は24時間以内に、裁判官へ勾留を請求するか、決めなければなりません。逮捕の次に来る、もっと長い身柄拘束です。中身は、このあとすぐ見ます。
条文刑事訴訟法205条1項
刑事訴訟法第205条第1項 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
そこには、もう1つ歯止めがあります。
条文刑事訴訟法205条2項
刑事訴訟法第205条第2項 前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
逮捕から数えて、最大でも72時間。3日を超えて、裁判官の判断なしに身柄を拘束することは、絶対にできません。この72時間が、逮捕という段階の上限です。そこに、今日いちばん大事な理由があります。図書館の貸し出しを思い浮かべてください。本を借りるとき、返却期限が決まっていますよね。期限が来たら、自分で返すか、正当な理由があれば司書に延長を申し出て、認めてもらう。無期限に借りたままにはできません。逮捕された人は、まだ有罪と決まっていない人です。だから、拘束は最小限・一時的なものでなければいけません。もし期限がなければ、警察や検察官の判断だけで、いつまでも拘束を続けられてしまいます。そのとおりです。そして、期限が来るたびに、「このまま続けてよいか」を、当事者ではない第三者——裁判官——に判断してもらう。これがもう1つの歯止めです。
身柄はどこで動くか②:勾留

検察官が「まだ拘束が必要だ」と判断すると、裁判官に勾留を請求します。逮捕は、身柄を確保する最初の一時的な措置。勾留は、その後、より長い期間、身柄を拘束する措置です。ここで初めて、裁判官が直接、拘束の是非を判断します。

条文刑事訴訟法208条1項
刑事訴訟法第208条第1項 第二百七条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
あります。まず10日以内です。この間に、検察官が起訴するかどうかを決めます。
条文刑事訴訟法208条2項
刑事訴訟法第208条第2項 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
裁判官が「やむを得ない事由がある」と認めれば、さらに10日、延長できます。ただし、これも上限です。合わせて、最大20日までしか勾留できません。それでも、期限も、裁判官の審査も、必ず挟まる。無期限の拘束にはならない設計です。そこも、よくある誤解ポイントです。保釈は、起訴された後にしか使えません。逮捕・勾留の段階では、保釈という選択肢自体がないんです。保釈の中身は、公判の回で詳しく扱います。持ち帰ってください。
呼び名が変わる瞬間——被疑者と被告人

いま「起訴の後」という言葉が出ました。実は、この一点を境に、変わるものがもう1つあります。前回、名前だけ出てきた被疑者と被告人。その、切り替わる瞬間がここです。起訴される前が被疑者、起訴された後が被告人です。同じ人を指しますが、この一点を境に、呼び方が切り替わります。起訴されて初めて、法廷で争う当事者という立場になるからです。捜査の対象だった人が、訴えられた本人という立場に変わる、ということです。「被告」は、実は民事訴訟で使う言葉です。刑事手続では使いません。刑事では、必ず「被告人」と呼びます。ニュースなどでも混同されがちですが、刑事の場では「被告人」が正しい呼び方です。
起訴するかを決めるのは誰か

では、逮捕・勾留のあと、誰が「裁判にかけるか」を決めるんでしょうか。
条文刑事訴訟法247条
刑事訴訟法第247条 公訴は、検察官がこれを行う。
条文の言葉では「公訴の提起」、ふだんの言い方では「起訴」。同じことを指しています。短いですが、2つのことを言っています。1つ目、訴えるのは国家であって、被害者個人ではないということ。これを国家訴追主義と呼びます。できません。私人が刑事裁判を起こす、ということは現行法上ありません。2つ目、その国家の代わりに動く機関は、検察官だけだということ。これを起訴独占主義と呼びます。できません。駅前の事件でも、「裁判にかけます」と決められるのは検察官だけです。「国家が」「検察官だけが」訴追する。この2つの側面が、247条という同じ条文に詰まっています。いいえ。ここが、今日2つ目の誤解ポイントです。
条文刑事訴訟法248条
刑事訴訟法第248条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
有罪にできる見込みがあっても、犯人の性格や年齢、境遇、犯罪の軽さ、犯行後の反省の様子などを考慮して、あえて起訴しないという選択ができます。これを起訴便宜主義と呼びます。まさにそれです。248条を根拠に、検察官が「今回は起訴しない」と決める処分を、起訴猶予と呼びます。駅前の事件で考えてみましょう。もし初犯で、被害者に深く謝罪し、示談も成立していたらどうでしょうか。そうも思えます。でも、機械的にすべて起訴すると、更生の機会を奪ったり、裁判所や当事者の負担を増やしたりする場合があります。個別の事情に応じて柔軟に判断できる余地を、あえて残しているんです。です。どんな基準で選ぶのか、不起訴にどんな種類があるのかは、公訴の提起を正面から扱う回で見ます。一言だけ触れておくと、検察官が不起訴と決めても、それに納得できない被害者などが検察審査会に申し立てる制度があります。中身は、また別の回で扱います。
公判は何をする場か

検察官が起訴を決めると、事件は次の区間、公判に進みます。

大きく4つの手続が、順番に進みます。冒頭手続、証拠調べ、弁論、そして判決です。気持ちは分かりますが、それぞれの中身は、第4章でじっくり扱います。並び順だけ、押さえてください。先に何が争われているかを固めないと、どの証拠を調べるべきかが決まらないからです。冒頭手続で争点を絞ってから証拠調べに入る、という順序には、必然性があるんです。そのとおりです。しかも、法廷で取り調べられた証拠だけで、裁判所は判断します。捜査段階で集めた資料も、法廷に出されて、初めて判断材料になります。前回の公判中心主義が、時間軸の上ではこの位置に来ます。あります。伝聞法則や自白法則など、証拠には特別なルールがいくつもあって、第5章でまとめて扱います。ルールの一覧と、扱う回の番号は、板にまとめておきます。検察官と、被告人・弁護人が主張と証拠を出し合い、裁判所が判断する。この構造を当事者主義と呼びますが、詳しくは第1章の別の回で扱います。認めるか否認するかで、自白調書の扱いなど、手続の中身は変わります。でも、今日見ている時間軸の枠組み自体は変わりません。捜査、起訴、公判、判決という流れは、認めても否認しても同じです。
登場人物の役割

ここで一度、この道筋に出てくる登場人物を、整理しておきましょう。司法警察職員、検察官、被疑者・被告人、弁護人、裁判所。それから、被害者です。弁護人は、被疑者や被告人の側に立って防御する、法律の専門家です。大きく三面で捉えると分かりやすいです。請求する側——検察官。防御する側——被疑者・被告人と弁護人。判断する側——裁判所です。殴ったとされる人と、弁護人が防御する側。検察官が「この人を裁判にかけてください」と求める、請求する側です。そして、裁判所が判断する側になります。被害者は、この三面構造の当事者ではありません。ただ、証拠の重要な情報源になったり、検察審査会の申立てをしたりと、手続に深く関わります。そこは、別の回でじっくり扱います。「誰が誰に何を求めているか」という見取り図だけ、持ち帰ってください。なお、事件によっては、裁判所の判断に裁判員が加わることもあります。今回の駅前の事件は、その対象にはなりません。対象になる事件では、公判の前に争点を整理する準備手続が必須になります。ここも、名前だけ触れておきます。
無罪推定の原則

ここで、この道筋全体を貫く、もう1つの大原則の話をします。無罪推定の原則です。その言葉に近いですが、もう少し丁寧に見ていきましょう。無罪推定には、2つの意義があります。1つ目、有罪が確定するまで、刑罰は先取りされないということ。違います。ここが、今日いちばんの核心です。逮捕・勾留は、あくまで手続を進めるための一時的な処分であって、刑罰そのものではありません。刑罰は、判決が確定して初めて科されます。事実がはっきりしないとき、被告人に不利益な事実は認定されないということです。例えば、目撃証言が食い違っていて、「本当にこの人が殴ったのか」に合理的な疑いが残ったとします。この場合、有罪とは認定されません。証拠から見て疑いの余地がなければ、有罪と認定されます。疑いが残る限り、不利益な事実として決めつけないという一線が、ここにあります。この呼び方は聞いたことがある人も多いと思いますが、中身——立証の負担を誰が負うか、という挙証責任の話は、別の回でじっくり扱います。押さえてください。

実定法上の根拠は、憲法31条です。
条文日本国憲法31条
日本国憲法第31条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
「法律の定める手続によらなければ」刑罰を科されない、と定めています。逆に言えば、手続を経て有罪が確定するまで、刑罰は科されない、ということです。あります。日本が締結した条約や、確立された国際法規は、憲法98条2項によって誠実に遵守することが求められています。無罪推定は、国際人権規約や世界人権宣言でも、明文で掲げられている原則です。そして、2つ目の意義——「疑わしきは被告人の利益に」と呼ばれる部分について、最高裁も「刑事裁判における鉄則」と呼んでいます。間違って有罪にしてしまったら、奪った時間は後から返せないからです。だから、疑いが残るうちは不利益に扱わない、という一線を先に引いておく。これが、刑事手続の出発点なんです。
無罪推定と身柄拘束は矛盾しないのか

さて、ここで、今日いちばん大事な疑問に答えます。無罪推定の原則と、逮捕・勾留による身柄拘束は、矛盾しないのか、という疑問です。答えの鍵は、さっき見た無罪推定の意義①にあります。逮捕・勾留は、刑罰ではないということです。逮捕・勾留は、捜査や裁判を成り立たせるために、身柄を一時的に確保しておく手続上の処分です。「この人はもう罰せられた」という意味を持つ処分ではありません。そのとおりです。刑罰ではないとはいえ、重い人権制約であることに変わりはありません。だから、3つの歯止めがかけられています。1つ目、期限です。48時間、24時間、72時間、10日、延長10日——今日ずっと見てきた、あの数字です。無期限には拘束できません。要件です。誰でも拘束してよいわけではなく、逃亡や証拠隠滅のおそれなど、決められた条件を満たさなければなりません。中身は、第2章でじっくり扱います。裁判官の審査です。勾留を続けるかどうかは、検察官の判断だけでは決まりません。刑事訴訟法207条により、勾留の請求も、必ず裁判官が判断します。捜査する側とは別の、第三者の目が入るということです。この3つがそろっているからこそ、「まだ有罪と決まっていない人」を、必要な範囲でだけ、一時的に拘束することが許されるんです。真相を明らかにするために、ある程度の身柄拘束は必要です。でも、無罪推定の原則がある以上、その拘束には歯止めが要る。この綱引きの、具体的な現れが、今日見てきた時間の数字なんです。では、ここで少し振り返ってみましょう。逮捕された人が、検察官の手に渡るまでの制限時間は、何時間でしたか。そのとおりです。そして、その先には何が待っていましたか。完璧です。この数字が、無罪推定という原則を支える、具体的な仕組みでした。
判決から先

話を、道筋の続きに戻しましょう。公判が終わると、裁判所が判決を出します。判決に不服があれば、控訴、さらに上告という形で、上級の裁判所に争うことができます。中身は、別の回でじっくり扱います。そのとおりです。同じ人物が、最後まで、この道筋を歩き続けます。

判決が確定します。確定すると、同じ事件で再び裁判にかけることは、原則としてできません。いつまでも判決を蒸し返せるとしたら、被告人も被害者も、事件から前に進めません。手続には、どこかで終わりが要るんです。原則はそうです。ただ、極めて例外的に、確定した判決をもう一度見直す制度もあります。この先の名前と、詳しく扱う回は、板にまとめておきます。刑が執行されます。これが、道筋の最後の区間です。
もう一度、時間軸を通しで

では最後に、今日見てきた道筋を、もう一度、最初から通してみましょう。110番通報が入り、警察がそれを認知した瞬間、捜査が始まりました。検察官が24時間以内に勾留請求を判断。逮捕から通じて72時間以内に、裁判官が勾留を認めれば、10日、さらに延長10日、身柄拘束が続きます。起訴された瞬間、呼び名は被疑者から被告人に変わり、事件は公判に進みます。争わなければ確定し、刑が執行されます。素晴らしいです。今日渡した時間の目盛りが、これから第2章以降で学ぶ、あらゆる条文の「置き場所」になります。
今日の地図(保存版)

手続は、捜査→公訴の提起→公判→裁判→確定・執行という、5つの区間で進みます。逮捕は48時間・24時間・72時間、勾留は10日+延長10日という期限で縛られていました。呼び名は、起訴を境に被疑者から被告人へ変わります。そして、無罪推定の2つの意義——刑罰の先取り禁止と、不利益な事実は認定しないという原則が、この道筋のすべての場面を支えていました。
次回は、今回名前だけ触れた当事者主義——検察官と被告人・弁護人が、法廷でどう向き合うのか、その構造を見ていきます。
参照条文
- 刑事訴訟法189条2項
- 刑事訴訟法203条1項
- 刑事訴訟法205条1項
- 刑事訴訟法205条2項
- 刑事訴訟法208条1項
- 刑事訴訟法208条2項
- 刑事訴訟法247条
- 刑事訴訟法248条
- 日本国憲法31条