民法ゼロから民法#278

寄託物の返還・混合寄託・消費寄託

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第5章 契約 #278/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

預かっている絵に「私の物だ」と言う人が来た

冒頭の設例 友人Aから預かっている絵に、見知らぬ人Eが「それは私の絵だ。私に渡せ」と言ってきた。預かっているBは、誰に返せばよいか。

記号を付けます。絵を預けた友人がA、預かっている人がB、渡せと言ってきた知らない人がEです。先に方向だけ言います。原則は、Eではなく、Aに返します。例外が使える場面は、条件が3つ揃ったときだけです。条文は660条の2項と3項です。前回は、寄託の意義と、受寄者の義務、寄託者の義務、そして物を受け取る前の解除を見ました。今日は、その続きです。第三者が権利を主張してきたときの返し方と、受け取った後の返還を見ます。絵のほかにも、あるんですよね?あります。この回の後半では、銀行に預けたお金も出てきます。預金は、実は寄託の一種です。混ぜて預ける寄託と合わせて、特殊な寄託として見ます。

寄託者による返還請求 いつでも返してと言える

絵の返還請求。BはAから絵を1年間預かる約束(返還は来年末)。半年たったところでAが「やっぱり返して」と請求→できる(662条1項)。Bがこれにより損害(有償なら残りの期間の保管料など)を受けたら、Aに賠償を請求できる(同条2項)。 図:絵の返還請求

  • BはAから絵を1年間預かる約束(返還は来年末)
  • 半年たったところでAが「やっぱり返して」と請求→できる(662条1項)
  • Bがこれにより損害(有償なら残りの期間の保管料など)を受けたら、Aに賠償を請求できる(同条2項)

1つめは、寄託者の側から見た返還です。Aが絵をBに預けるとき、返すのは来年末、と決めたとします。半年たったところで、Aが、やっぱり返して、と言いました。返してもらえるのでしょうか。条文です。

条文民法662条

民法第662条 当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。 2 前項に規定する場合において、受寄者は、寄託者がその時期の前に返還を請求したことによって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。

読み方です。1項は、返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでも返還を請求できる、です。時期を定めていなければ、もちろん、いつでも請求できます。つまり、来年末と決めていても、Aは半年で返せと言えます。そこで、軸が効きます。寄託は、預ける人のために結ばれる契約です。前回、受け取る前の解除で、寄託者はいつでも解除できると見ました。同じ筋です。預けた人のための契約ですから、預けた人が、自分の物を返せと言うのは自由にできます。ただし、受寄者には手当てがあります。2項です。寄託者が時期の前に返還を請求したことによって、受寄者が損害を受けたときは、寄託者に賠償を請求できます。たとえば、Bが保管料をもらう約束で預かっていたなら、期限まで預かれば受け取れたはずの保管料から、保管しなくて済んだ費用を差し引いた分が、損害になりえます。前回の657条の2との線引きです。657条の2は、受け取る前の解除でした。662条は、受け取った後の返還の請求です。受け取る前か後かで、条文が分かれます。

受寄者が返すとき 期限前には返せない

返還の非対称表。①返還の時期の定めなし=寄託者はいつでも請求できる(662条1項)/受寄者はいつでも返還できる(663条1項)。②定めあり(一般の寄託)=寄託者はいつでも請求できる(662条1項)・受寄者の損害は賠償(同条2項)/受寄者はやむを得ない事由がなければ期限前に返還できない(663条2項)。 図:返還の非対称表

  • ①返還の時期の定めなし=寄託者はいつでも請求できる(662条1項)/受寄者はいつでも返還できる(663条1項)
  • ②定めあり(一般の寄託)=寄託者はいつでも請求できる(662条1項)・受寄者の損害は賠償(同条2項)/受寄者はやむを得ない事由がなければ期限前に返還できない(663条2項)

2つめは、受寄者の側から見た返還です。

条文民法663条

民法第663条 当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる。 2 返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない。

読み方です。1項は、返還の時期を定めていないとき、受寄者は、いつでも返せます。2項は、返還の時期の定めがあるときです。受寄者は、やむを得ない事由がなければ、期限前に返せません。662条と並べます。時期の定めがないときは、寄託者はいつでも請求でき、受寄者もいつでも返せます。差が出るのは、定めがあるときです。寄託者は、定めがあってもいつでも請求できます。受寄者は、やむを得ない事由がなければ、期限前に返せません。寄託者の側は自由で、受寄者の側は縛られる。この非対称が、この表の核です。預ける人のための契約、という筋でつながります。絵の例です。Aが、来年末まで家を空けるので、Bに絵を預けたとします。Bが半年で、もう返します、と言ってきても、Aは受け取れません。

条文の上では、定めがあるときの受寄者が期限前に返せるのは、やむを得ない事由があるときに限られます。原則として期限前には返せない、と押さえてください。

返還の場所(664条)。原則=保管をすべき場所で返還。例外=受寄者が正当な事由によって保管する場所を変更したときは、その現在の場所で返還できる。例=倉庫Xで保管する約束の荷物を、Xが使えなくなり倉庫Yへ移した→Yで返還できる。 図:返還の場所

  • 664条
  • 原則=保管をすべき場所で返還。例外=受寄者が正当な事由によって保管する場所を変更したときは、その現在の場所で返還できる。例=倉庫Xで保管する約束の荷物を、Xが使えなくなり倉庫Yへ移した→Yで返還できる。

3つめは、返す場所です。

条文民法664条

民法第664条 寄託物の返還は、その保管をすべき場所でしなければならない。ただし、受寄者が正当な事由によってその物を保管する場所を変更したときは、その現在の場所で返還をすることができる。

読み方です。原則は、保管をすべき場所で返します。例外は、受寄者が正当な事由で保管場所を変えたときです。このときは、現在の場所で返してかまいません。たとえば、倉庫Xで保管する約束の荷物があったとします。Xが使えなくなり、受寄者が倉庫Yに移しました。この移動に正当な事由があれば、Yで返せます。

第三者が権利を主張してきたとき

設例の図。A(寄託者)→B(受寄者)「絵を預ける」。E(第三者)→B「私の絵だ、渡せ」。前回の660条1項=訴えの提起・差押え・仮差押え・仮処分があれば受寄者は遅滞なく寄託者に通知(寄託者が既に知っているときは不要)。 図:設例の図

  • A(寄託者)→B(受寄者)「絵を預ける」
  • 前回の660条1項=訴えの提起・差押え・仮差押え・仮処分があれば受寄者は遅滞なく寄託者に通知(寄託者が既に知っているときは不要)

ここからが冒頭の設例です。前回、660条の1項を見ました。第三者が、受寄者を相手に、訴えを起こしたり、差押えをしたりしたときは、受寄者は、遅滞なく寄託者に通知する、という義務でした。ただし、寄託者がもう知っているなら、通知は要りません。今日は、その続きの2項と3項です。先に、筋を1つ置きます。寄託の契約を結んだのは、AとBです。Eは、その契約の外にいます。

条文民法660条2項・3項

民法第660条 2 第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても、受寄者は、寄託者の指図がない限り、寄託者に対しその寄託物を返還しなければならない。ただし、受寄者が前項の通知をした場合又は同項ただし書の規定によりその通知を要しない場合において、その寄託物をその第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。)があったときであって、その第三者にその寄託物を引き渡したときは、この限りでない。 3 受寄者は、前項の規定により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には、寄託者にその寄託物を引き渡したことによって第三者に損害が生じたときであっても、その賠償の責任を負わない。

2項の本文から読みます。第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても、受寄者は、寄託者の指図がない限り、寄託者に返還しなければなりません。ですから、Eが、私の絵だ、渡せ、と言ってきただけでは、Bは、Eに渡しません。Aに返します。本当にEの絵だったら、Aに返すのは、まずくないですか?そこが、この条文の線の引き方です。Bが返還義務を負う相手は、契約の相手方のAです。Eが何を言っても、Eが勝手に言っただけでは、その義務は動きません。例外は、ただし書の3つが揃ったときだけです。

2項ただし書の3要件。①受寄者が前項の通知をした場合、又は同項ただし書の規定によりその通知を要しない場合 ②その寄託物をその第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。)があったとき ③その第三者にその寄託物を引き渡したとき→この限りでない(寄託者に返す義務を負わない)。なお「寄託者の指図」があれば、その指図に従う。 図:2項ただし書の3要件

  • ①受寄者が前項の通知をした場合、又は同項ただし書の規定によりその通知を要しない場合
  • ②その寄託物をその第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。)があったとき
  • ③その第三者にその寄託物を引き渡したとき→この限りでない(寄託者に返す義務を負わない)
  • なお「寄託者の指図」があれば、その指図に従う

3つの要件です。1つめ。受寄者が、1項の通知をした場合、または、1項のただし書で通知が要らない場合。2つめ。その寄託物を、その第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決があったとき。3つめ。その第三者に、実際に寄託物を引き渡したとき。この3つが揃うと、「この限りでない」、つまり、寄託者に返す義務を負わない、という扱いになります。2つめの確定判決について、2点あります。確定判決と同一の効力を有するものも含みます。たとえば、裁判上の和解です。もう1点。判決の中身は、第三者に寄託物を引き渡すべき旨を命ずるものです。条文の文言どおりに読むと、Eの権利を確認するだけの判決は、これにあたりません。

Aが、Eに渡してやって、と指図したなら、Bは、それに従えます。指図がない限り、寄託者に返す、というのが原則の形です。

流れ図。E「私の物だ」→B→(原則)Aに返還(660条2項本文)/(例外)通知(又は不要)→引渡しを命ずる確定判決(和解を含む)→Eに引渡し→Aへの返還義務を負わない(ただし書)。Aに返したことでEに損害が出ても、Bは賠償の責任を負わない(3項)。 図:流れ図

  • E「私の物だ」→B→(原則)Aに返還(660条2項本文)/(例外)通知(又は不要)→引渡しを命ずる確定判決(和解を含む)→Eに引渡し→Aへの返還義務を負わない(ただし書)
  • Aに返したことでEに損害が出ても、Bは賠償の責任を負わない(3項)

3項です。受寄者が、2項により寄託者に返さなければならない場合に、寄託者に引き渡したことで第三者に損害が生じたときも、受寄者は、その賠償の責任を負いません。Aに返すのが2項の義務である以上、Aに返したことで、Eに損害が出ても、Bは、Eに賠償しません。通知を要件に入れた理由です。通知があれば、寄託者に、自分の権利を主張する機会が確保されます。では、本当にEの絵だったら、どうなるか。Eには、裁判を起こして、Bに引き渡せという確定判決を取る道があります。その確定判決があり、BがEに渡したときが、ただし書の場面です。設例の答えです。Eが、渡せ、と言ってきただけでは、Bは、Aに返します。Eが裁判を起こしたり差押えをしてきたりしたときは、Bは、遅滞なくAに通知します。そのうえで、Eに引き渡すべき旨を命ずる確定判決が出て、BがEに渡したなら、Aへの返還義務を負わなくなります。Aに返して、Eに損害が出ても、Bは、賠償の責任を負いません。ここは、論文で論点になりうるところです。

返還を受けた後の期間制限

定着の問い(566条)。売った物が契約の内容に合っていなかったとき、買主は、いつから数えて1年以内に何をしないと救済を失うか。 図:定着の問い

  • 566条
  • 売った物が契約の内容に合っていなかったとき、買主は、いつから数えて1年以内に何をしないと救済を失うか。

4つめに入る前に、復習を1問です。売った物が契約の内容に合っていなかったとき、買主は、いつから数えて1年以内に、何をしないと、救済を失いますか?不適合を知った時から1年以内に、売主に通知します。566条でした。寄託にも、返した後の期間制限があります。条文です。

条文民法664条の2

民法第664条の2 寄託物の一部滅失又は損傷によって生じた損害の賠償及び受寄者が支出した費用の償還は、寄託者が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない。 2 前項の損害賠償の請求権については、寄託者が返還を受けた時から一年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

期間制限(664条の2)。①対象は2つ=寄託物の一部滅失又は損傷によって生じた損害の賠償/受寄者が支出した費用の償還 ②寄託者が返還を受けた時から1年以内に請求(除斥期間) ③損害賠償の請求権は、返還を受けた時から1年を経過するまで時効が完成しない(費用の償還は2項の対象外) ④566条との違い=566条は不適合を知った時から1年以内に通知/664条の2は返還を受けた時から1年以内に請求。 図:期間制限

  • 664条の2
  • ①対象は2つ=寄託物の一部滅失又は損傷によって生じた損害の賠償
  • 受寄者が支出した費用の償還 ②寄託者が返還を受けた時から1年以内に請求(除斥期間) ③損害賠償の請求権は、返還を受けた時から1年を経過するまで時効が完成しない(費用の償還は2項の対象外) ④566条との違い=566条は不適合を知った時から1年以内に通知
  • 664条の2は返還を受けた時から1年以内に請求。

読み方です。1項の対象は2つです。寄託物の一部滅失または損傷によって生じた損害の賠償。そして、受寄者が支出した費用の償還。この2つは、寄託者が返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりません。この期間は、除斥期間と説明されます。全部滅失は、この条文の文言に入っていません。2項です。損害賠償の請求権については、返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効が完成しません。猶予されるのは、損害賠償の請求権だけです。費用の償還は、2項の対象に入っていません。2つの項の関係です。1項の1年とは別に、損害賠償の請求権には、ふつうの消滅時効も進んでいます。長く預けていると、返ってくる前に、その時効が完成してしまうことがあります。2項は、返還から1年たつまでは、その時効を完成させません。

2項の猶予の理由は、返還を受けるまで、寄託者は、寄託物の状態を把握するのが難しいからだ、と説明されます。1年の期間そのものは、保管中に生じた損傷かどうかが不明確になるのを避け、債権債務の関係を早く処理するためだ、と説明されます。例です。Aが絵を預け、1年後に返してもらったら、額縁が欠けていました。気づいたのは、返還の半年後でした。返還から1年以内ですから、請求できます。また、返還から1年を経過するまでは、損害賠償の請求権の時効は、完成しません。566条との違いです。566条は、不適合を知った時から1年以内に、通知します。664条の2は、返還を受けた時から1年以内に、請求します。起算点が、知った時か、返還を受けた時か。動詞が、通知か、請求か。条文の文言が違います。使用貸借の回で見た600条も、返ってから1年以内の請求と、損害賠償だけ時効が完成しない、という同じ2段でした。

混合寄託 同じ種類・品質の物を混ぜて預かる

混合寄託。倉庫の受寄者Bに、米農家A・C・Dが、同じ種類・品質の米を各60キロ寄託。3人の承諾を得てBが混合して保管→各自「60キロ分」の返還を請求できる(665条の2第2項)。火災で60キロ滅失し残り120キロ→各自の割合(3分の1)に応じ40キロ(同条3項)。 図:混合寄託

  • 倉庫の受寄者Bに、米農家A・C・Dが、同じ種類・品質の米を各60キロ寄託
  • 3人の承諾を得てBが混合して保管→各自「60キロ分」の返還を請求できる(665条の2第2項)
  • 火災で60キロ滅失し残り120キロ→各自の割合(3分の1)に応じ40キロ(同条3項)

5つめは、特殊な寄託の1つ目、混合寄託です。ここだけ、寄託者が複数要ります。こめ農家のA、C、Dの3人が、倉庫の受寄者Bに、同じ種類と品質のこめを、各60キロ預ける場面を考えます。条文です。

条文民法665条の2

民法第665条の2 複数の者が寄託した物の種類及び品質が同一である場合には、受寄者は、各寄託者の承諾を得たときに限り、これらを混合して保管することができる。 2 前項の規定に基づき受寄者が複数の寄託者からの寄託物を混合して保管したときは、寄託者は、その寄託した物と同じ数量の物の返還を請求することができる。 3 前項に規定する場合において、寄託物の一部が滅失したときは、寄託者は、混合して保管されている総寄託物に対するその寄託した物の割合に応じた数量の物の返還を請求することができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

1項です。複数の者が寄託した物の種類と品質が同一であるとき、受寄者は、各寄託者の承諾を得たときに限り、混ぜて保管できます。この形の寄託を、混合寄託と言います。AとCとDの3人全員の承諾が要ります。ひとりでも承諾していなければ、混ぜられません。2項です。混ぜて保管したときは、寄託者は、寄託した物と同じ数量の物の返還を請求できます。Aは、60キロ分を請求できます。自分が持ち込んだこめの袋そのものでなくてかまいません。もともと同じ種類と品質の物だからです。3項です。寄託物の一部が滅失したときは、混ぜて保管されている総寄託物に対する、自分の寄託した物の割合に応じた数量を請求できます。たとえば、火災で60キロ分が滅失し、残りが120キロになったとします。3人の割合は、それぞれ3分の1ですから、各自40キロを請求できます。この場合に、損害賠償の請求を妨げない、とあります。賠償が常に出る、という意味ではありません。債務不履行の賠償は、責めに帰すべき事由があるかどうかの問題です。

混合寄託は、受寄者が米を売ったりできるのですか?違います。混合寄託は、受寄者が寄託物を消費できる契約ではありません。混ぜて保管するだけです。次に見る消費寄託は、受寄者が消費できる点が違います。

消費寄託 預金の正体

消費寄託の定義と預金の対応。受寄者が契約により寄託物を消費することができる寄託。預金者=寄託者A、銀行=受寄者B。銀行は預かった金銭を運用したり他の預金者への払戻しに使ったりできる→同じ金額(種類・品質・数量の同じ物)で返せばよい。 図:消費寄託の定義と預金の対応

  • 受寄者が契約により寄託物を消費することができる寄託
  • 預金者=寄託者A、銀行=受寄者B
  • 銀行は預かった金銭を運用したり他の預金者への払戻しに使ったりできる→同じ金額(種類・品質・数量の同じ物)で返せばよい

6つめは、特殊な寄託の2つ目、消費寄託です。受寄者が、契約により、寄託物を消費できる寄託です。典型は、預貯金の契約です。ここから、預金者をA、銀行をBと呼びます。預金者が寄託者、銀行が受寄者です。

条文民法666条

民法第666条 受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。 2 第五百九十条及び第五百九十二条の規定は、前項に規定する場合について準用する。 3 第五百九十一条第二項及び第三項の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。

1項です。受寄者が契約により寄託物を消費できる場合、受寄者は、寄託された物と、種類、品質、数量の同じ物で返します。銀行は、預かったお金を運用したり、他の預金者への払戻しに使ったりできます。ですから、預けたお札そのものではなく、同じ金額を返せばよいのです。消費寄託は、寄託の一種ですから、寄託の規定が適用されます。ただし、消費貸借にも似ています。受寄者が処分できる点と、同じ種類、品質、数量の物で返す点です。そこで、2項は、590条と592条だけを準用しています。

消費寄託の準用範囲。準用される=590条(貸主から引き渡された物が契約の内容に適合しないときの扱い)・592条(種類、品質及び数量の同じ物で返還できなくなったとき、その時における物の価額を償還。ただし402条2項の場合を除く)。預貯金の場合だけ=591条2項・3項(666条3項)。準用されない=591条1項(貸主の催告)。返還のルールは寄託の規定のまま=662条・663条。 図:消費寄託の準用範囲

  • 準用される=590条(貸主から引き渡された物が契約の内容に適合しないときの扱い)・592条(種類、品質及び数量の同じ物で返還できなくなったとき、その時における物の価額を償還。ただし402条2項の場合を除く)
  • 預貯金の場合だけ=591条2項・3項(666条3項)
  • 準用されない=591条1項(貸主の催告)
  • 返還のルールは寄託の規定のまま=662条・663条

準用の範囲を整理します。準用されるのは、590条と592条です。590条は、貸主から引き渡された物が契約の内容に適合しないときの扱いで、消費貸借の回で見ました。592条を出します。

条文民法592条

民法第592条 借主が貸主から受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることができなくなったときは、その時における物の価額を償還しなければならない。ただし、第四百二条第二項に規定する場合は、この限りでない。

読み方です。借主を受寄者と読み替えます。受け取った物と同じ種類、品質、数量の物で返せなくなったときは、その時における物の価額を償還します。例です。倉庫業者のBが、契約で、預かったこめを売ってもよい、返すときは同じ種類、品質、数量のこめで、と決めて、農家のAからこめを預かりました。Bがこめを売ってしまい、同じこめを用意できなくなりました。この場合、その時のこめの価額を償還します。準用されないものも、押さえます。591条1項、貸主が相当の期間を定めて催告する規定は、準用されません。消費寄託も寄託の一種ですから、返す時期のルールは寄託の規定のままです。つまり、寄託者は、いつでも返還を請求できます。662条です。591条の2項と3項は、預金に限って準用されます。このすぐ後で見ます。

預貯金の特則 銀行は期限前でも返せる

定着の問い(591条)。消費貸借で、返す時期を定めていたとき、借主は時期の前に返してもよかったか。貸主に損害が出たらどうなるか。 図:定着の問い

  • 591条
  • 消費貸借で、返す時期を定めていたとき、借主は時期の前に返してもよかったか。貸主に損害が出たらどうなるか。

3項に入る前に、前に見た消費貸借の復習を1問です。返す時期を定めていたとき、借主は、時期の前に返してもよかったですか? 貸主に損害が出たら、どうなりますか?借主は、時期の前でも返せます。貸主に損害が出たなら、賠償を請求できました。591条を出します。

条文民法591条

民法第591条 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。 2 借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる。 3 当事者が返還の時期を定めた場合において、貸主は、借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。

666条3項は、この2項と3項を、預金または貯金に係る契約により金銭を寄託した場合に準用しています。つまり、預金では、受寄者の銀行は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返せます。時期を定めていた場合に、銀行が時期の前に返したことで、預金者が損害を受けたときは、預金者は、銀行に賠償を請求できます。分かれ目は、誰の利益のための契約か、です。一般の消費寄託も、寄託者の利益のための契約です。預貯金の契約は違います。受寄者が預かった金銭を運用することを前提とする契約で、受寄者の金融機関にも利益が生じます。ですから、663条2項を当てはめると、受寄者に一方的に不利になります。金融機関が、自分の利益を放棄することを禁じる理由はない、と説明されます。例です。預金者Aが、銀行Bに、1年後に払い戻す約束で、定期預金をしました。銀行が、満期の前に全額お返しします、と返してきました。Bは、期限前でも返せます。666条3項で準用される591条2項です。Aが損害を受けたなら、Bに賠償を請求できます。591条3項です。

定着の問い(本編)。預金者は、定期預金でも、いつでも返してと言える。では、銀行のほうから、満期の前に返すことはできるか。 図:定着の問い

  • 本編
  • 預金者は、定期預金でも、いつでも返してと言える。では、銀行のほうから、満期の前に返すことはできるか。

ここで1問です。寄託者の預金者は、定期預金でも、いつでも返してと言えます。では、銀行のほうから、満期の前に返すことはできるでしょうか?一般の寄託なら、期限前には返せません。でも、預金は、666条3項で591条2項が準用されるので、銀行も、期限前に返せます。預金者が、いつでも請求できるのは、662条1項です。銀行が、期限前に返せるのは、666条3項による591条2項です。2つを区別してください。

預金の話の受け。預金債権の譲渡制限=466条の5。預金の払戻しと478条(受領権者としての外観を有する者への弁済)。預金を差し押さえられたときの相殺。預金担保貸付と預金者の認定。預金の取扱いの細部=預金規定(定型約款)。 図:預金の話の受け

  • 預金債権の譲渡制限=466条の5
  • 預金の払戻しと478条(受領権者としての外観を有する者への弁済)
  • 預金を差し押さえられたときの相殺
  • 預金担保貸付と預金者の認定
  • 預金の取扱いの細部=預金規定(定型約款)

預金には、今までの回の話が、いくつもつながっています。預金債権の譲渡制限の特則が、466条の5でした。預金の払戻しは、478条の、受領権者としての外観を有する者への弁済でした。預金を差し押さえられたときの相殺、預金を担保に銀行から借りる預金担保貸付けと、預金は誰のものかという預金者の認定も、債権総論の回で見ました。預金の取扱いの細部は、預金規定という約款で決まります。定型約款の回で、名前を出しました。

返還の非対称表(預貯金の行を追加)。①定めなし=寄託者いつでも請求(662条1項)/受寄者いつでも返還(663条1項)。②定めあり(一般の寄託)=寄託者いつでも請求(662条1項)/受寄者はやむを得ない事由がなければ期限前に返せない(663条2項)。③定めあり(預貯金)=寄託者いつでも請求(662条1項)/受寄者はいつでも返還できる(666条3項→591条2項)・寄託者に損害があれば賠償(591条3項)。 図:返還の非対称表

  • 預貯金の行を追加
  • ①定めなし=寄託者いつでも請求(662条1項)
  • 受寄者いつでも返還(663条1項)。②定めあり(一般の寄託)=寄託者いつでも請求(662条1項)
  • 受寄者はやむを得ない事由がなければ期限前に返せない(663条2項)。③定めあり(預貯金)=寄託者いつでも請求(662条1項)
  • 受寄者はいつでも返還できる(666条3項→591条2項)・寄託者に損害があれば賠償(591条3項)。

先ほどの非対称表に、3行目を足します。定めがある預貯金は、寄託者はいつでも請求できます。受寄者の銀行も、いつでも返せます。寄託者に損害があれば賠償です。

比較表 誰の利益のための契約か

消費貸借と消費寄託の比較。消費貸借=借主の利益のための契約/定めあり・貸主は期限まで請求できない(期限の定めの帰結)・借主はいつでも返還(591条2項)・貸主は損害の賠償請求(同条3項)/定めなし・貸主は相当の期間を定めて催告(同条1項)・借主はいつでも返還(同条2項)。消費寄託(一般)=寄託者の利益のための契約/寄託者は定めがあってもいつでも請求(662条1項)・受寄者の損害は寄託者が賠償(同条2項)/受寄者はやむを得ない事由がなければ期限前に返せない(663条2項)/定めなし・受寄者はいつでも返還(663条1項)。消費寄託(預貯金)=受寄者にも利益/寄託者いつでも請求(662条)/受寄者いつでも返還(666条3項→591条2項)・寄託者の損害は受寄者が賠償(666条3項→591条3項)。 図:消費貸借と消費寄託の比較

  • 消費貸借=借主の利益のための契約/定めあり・貸主は期限まで請求できない(期限の定めの帰結)・借主はいつでも返還(591条2項)・貸主は損害の賠償請求(同条3項)/定めなし・貸主は相当の期間を定めて催告(同条1項)・借主はいつでも返還(同条2項)
  • 消費寄託(一般)=寄託者の利益のための契約/寄託者は定めがあってもいつでも請求(662条1項)・受寄者の損害は寄託者が賠償(同条2項)/受寄者はやむを得ない事由がなければ期限前に返せない(663条2項)/定めなし・受寄者はいつでも返還(663条1項)
  • 消費寄託(預貯金)=受寄者にも利益/寄託者いつでも請求(662条)/受寄者いつでも返還(666条3項→591条2項)・寄託者の損害は受寄者が賠償(666条3項→591条3項)

軸は、誰の利益のための契約か、です。消費貸借は、借主の利益のための契約です。借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返せます。591条2項です。貸主は、時期の前に返してもらって損害を受けたら、賠償を請求できます。3項です。時期の定めがなければ、貸主は、相当の期間を定めて催告できます。1項です。一般の消費寄託は、寄託者の利益のための契約です。寄託者は、定めがあってもいつでも請求できます。受寄者は、定めがあれば、やむを得ない事由がなければ期限前に返せません。預貯金は、受寄者にも利益があります。寄託者は、寄託者のまま、いつでも請求できます。受寄者は、返還のルールでは、借主と同じ位置に立ちます。591条2項と3項の準用だからです。

預金は、返す時期のルールだけを見ると、寄託者の側は寄託の規定、受寄者の側は消費貸借の規定、591条2項と3項に寄っています。

ブロックの締め 役務を提供する4つの契約

役務提供型4契約のまとめ。雇用(623条)=労働に従事/報酬を与える(成立要件)/労働を終わった後(624条1項)/期間の定めがなければ各当事者がいつでも解約の申入れ・2週間(627条1項)。請負(632条)=ある仕事を完成/報酬を支払う(成立要件)/目的物の引渡しと同時(633条)/注文者は完成しない間いつでも損害を賠償して解除(641条)。委任(643条)=法律行為をすることを委託/特約がなければ報酬を請求できない(648条1項)/委任事務を履行した後(648条2項)/各当事者がいつでも解除(651条1項)。寄託(657条)=ある物を保管することを委託/特約がなければ報酬を請求できない(665条→648条1項)/履行後(665条→648条2項)/受取前は657条の2・受取後は寄託者がいつでも返還請求(662条)・受寄者は663条。 図:役務提供型4契約のまとめ

  • 雇用(623条)=労働に従事/報酬を与える(成立要件)/労働を終わった後(624条1項)/期間の定めがなければ各当事者がいつでも解約の申入れ・2週間(627条1項)
  • 請負(632条)=ある仕事を完成/報酬を支払う(成立要件)/目的物の引渡しと同時(633条)/注文者は完成しない間いつでも損害を賠償して解除(641条)
  • 委任(643条)=法律行為をすることを委託/特約がなければ報酬を請求できない(648条1項)/委任事務を履行した後(648条2項)/各当事者がいつでも解除(651条1項)
  • 寄託(657条)=ある物を保管することを委託/特約がなければ報酬を請求できない(665条→648条1項)/履行後(665条→648条2項)/受取前は657条の2・受取後は寄託者がいつでも返還請求(662条)・受寄者は663条

この回で、役務を提供する契約のブロックが終わります。雇用、請負、委任、寄託を、並べます。列は4つです。何を約束するか。報酬。報酬の支払時期。やめ方です。雇用は、労働に従事することを約し、報酬を与えることを約します。623条です。報酬は、労働を終わった後です。624条1項です。期間の定めがなければ、各当事者がいつでも解約の申入れができ、申入れから2週間で終わります。627条1項です。使用者の解雇は、特別法が修正する、と前に見ました。請負は、ある仕事を完成することを約し、その結果に報酬を支払うことを約します。632条です。報酬は、目的物の引渡しと同時です。633条です。注文者は、仕事が完成しない間、損害を賠償して、いつでも解除できます。641条です。委任は、法律行為をすることを委託します。643条です。特約がなければ、報酬は請求できません。648条1項です。報酬は、委任事務を履行した後です。648条2項です。各当事者が、いつでも解除できます。651条1項です。寄託は、ある物を保管することを委託します。657条です。特約がなければ、報酬は請求できません。665条が準用する648条の1項です。履行後に請求します。648条2項です。やめ方は、受け取る前は657条の2、受け取った後は、寄託者がいつでも返還を請求できます。662条です。受寄者の返還は、663条です。

雇用は、期間の定めがなければ、各当事者です。請負は、注文者です。委任は、各当事者です。寄託は、返還の時期の定めがあるときは、寄託者です。理由も並べます。請負は、注文者がもう要らない仕事を完成させ続けても意味がないので、損害の賠償を条件に、注文者がやめられる、と請負の回で見ました。委任の理由は、信頼関係が基礎にあるから、と前に見ました。寄託は、寄託者のために結ばれる契約だから、でした。雇用は、民法の文言の上では、双方が同じ条件です。この表を、頭に置いてください。

今日のまとめ

今日のまとめ。寄託者=時期の定めがあってもいつでも返還を請求(662条1項)・期限前なら受寄者の損害を賠償(同条2項)。受寄者=定めなしはいつでも返還(663条1項)・定めありはやむを得ない事由がなければ期限前に返せない(同条2項)・返す場所は保管すべき場所(664条)。第三者が権利を主張=寄託者の指図がない限り寄託者に返還(660条2項本文)・例外は通知(又は不要)+引渡しを命ずる確定判決+第三者への引渡し(ただし書)・寄託者に返して第三者に損害が出ても賠償しない(3項)。期間制限=一部滅失・損傷の賠償と費用償還は返還を受けた時から1年以内(664条の2)。混合寄託=各寄託者の承諾(665条の2)。消費寄託=準用は590条・592条(666条2項)・預貯金は591条2項・3項も(同条3項)。 図:今日のまとめ

  • 寄託者=時期の定めがあってもいつでも返還を請求(662条1項)・期限前なら受寄者の損害を賠償(同条2項)
  • 受寄者=定めなしはいつでも返還(663条1項)・定めありはやむを得ない事由がなければ期限前に返せない(同条2項)・返す場所は保管すべき場所(664条)
  • 第三者が権利を主張=寄託者の指図がない限り寄託者に返還(660条2項本文)・例外は通知(又は不要)+引渡しを命ずる確定判決+第三者への引渡し(ただし書)・寄託者に返して第三者に損害が出ても賠償しない(3項)
  • 期間制限=一部滅失・損傷の賠償と費用償還は返還を受けた時から1年以内(664条の2)
  • 混合寄託=各寄託者の承諾(665条の2)
  • 消費寄託=準用は590条・592条(666条2項)・預貯金は591条2項・3項も(同条3項)

今日の内容を整理します。寄託者は、返還の時期を定めていても、いつでも返還を請求できます。受寄者に損害が出れば、賠償します。受寄者は、定めがなければいつでも返せます。定めがあれば、やむを得ない事由がなければ、期限前に返せません。返す場所は、保管をすべき場所です。冒頭の設例です。第三者のEが、私の絵だ、と言ってきても、Bは、寄託者の指図がない限り、Aに返します。例外は、通知、引渡しを命ずる確定判決、そしてEへの引渡しの3つが揃ったときです。Aに返して、Eに損害が出ても、Bは賠償しません。返した後は、一部滅失や損傷の賠償と、費用の償還を、返還から1年以内に請求します。混合寄託は、全員の承諾があって初めて混ぜられ、同じ数量を請求できます。消費寄託の典型は預金で、準用は590条と592条です。預貯金に限って、591条の2項と3項も準用されるので、銀行は期限前でも返せます。この回で、役務を提供する契約は終わりです。次は、組合を見ます。

参照条文

  • 民法662条
  • 民法663条
  • 民法664条
  • 民法660条2項・3項
  • 民法664条の2
  • 民法665条の2
  • 民法666条
  • 民法592条
  • 民法591条

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