制限行為能力者の重い3類型と相手方の保護
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第1章 民法総則 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
成年被後見人①:対象と原則

精神上の障害で、事理を弁識する能力を欠く常況にある人です。
条文
民法 第7条(後見開始の審判)
ずっと正常に戻らない、という重さがポイントです。本人・配偶者・四親等内の親族、それに検察官などです。この請求を受けて家裁が審判をすると、こうなります。
条文
民法 第8条(成年被後見人及び成年後見人)
あります。未成年者でも、審判を受ければ成年被後見人になれます。では、独自の場面で考えてみましょう。認知症により後見開始の審判を受けたAさん、成年後見人はBです。

条文
民法 第9条(成年被後見人の法律行為)
原則、Aの法律行為は取り消せます。9条本文です。そこが最大の違いです。成年被後見人には「同意」という発想が、そもそもありません。9条本文には同意の文言が出てきません。事理弁識能力を「常に」欠いているので、今この瞬間に後見人が「いいよ」と太鼓判を押しても、その効力を支える本人の判断力そのものが埋まらないからです。Bが事前に同意しても、Aの契約は取り消せたままです。これを事前同意は無意味、と呼んでおきましょう。
成年被後見人②:例外と代理の場面

あります。9条ただし書、日用品の購入その他日常生活に関する行為です。まさにそれです。日常のささいな行為まで取り消せると生活が成り立たなくなるので、残っている能力を尊重します。102条です。ここも自前の場面で見てみましょう。

Aには、未成年の孫Cがいて、Aはその未成年後見人でもあります。また、Aは友人Dから頼まれて、Dの代わりに契約することもあります。違います。まずDの任意代理人としてAが契約した場合。これは取り消せません。効果はD本人に帰属し、Aには不利益が及ばないからです。102条本文です。こちらは取り消せます。102条ただし書です。Cの利益に関わる判断を、判断力を欠くAに委ねてしまうとCが守られなくなるからです。そのとおりです。なお、婚姻や離婚、認知のような身分行為は単独でできます。738条・764条・780条ですが、名前だけで十分です。
成年被後見人③:後見人の権限と審判の取消し

家裁が職権で選任します。843条です。複数選任や法人選任も可能ですが、ここは名前だけで十分です。一番大きいのは、包括的な代理権です。
条文
民法 第859条(財産の管理及び代表)
Bは、Aの財産全般について法定代理人として動けます。2つだけ制限があります。1つ目がこちらです。
条文
民法 第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)
生活の場を失う重大な処分なので、家裁のチェックが入ります。遺言のような一身専属的な行為は、そもそも代理できません。取消権と追認権です。120条1項の「代理人」、122条にあたります。同意権はありません。②で見たとおり、同意という発想がこの類型にはそもそも存在しないからです。ここを混同しないでください。原因が消滅すれば、請求により家裁が審判を取り消します。10条です。治っただけでは当然に地位を失わない、という点も注意です。
被保佐人①:対象と原則の逆転

判断能力が「著しく不十分」な人です。7条より軽い状態です。
条文
民法 第11条(保佐開始の審判)
いいえ。ここが最大の誤解ポイントです。被保佐人は、原則、単独で確定的に有効な行為ができます。そのとおり、逆転します。原則が「制限」の成年被後見人に対して、被保佐人は原則が「自由」です。独自の場面で見てみましょう。保佐開始の審判を受けたEさん、保佐人はFです。Eが1人でスーパーへ行って食料品を買うのは原則どおり有効です。同意は要りません。
被保佐人②:13条1項の重要行為

13条1項が、重要な行為だけを列挙しています。原則は自由で、例外だけを狭く絞る、という設計です。元本の受領、借財や保証、不動産など重要財産の得喪、訴訟行為、贈与や和解、相続の承認放棄や遺産分割、新築や増改築、そして長期の賃貸借など、10種類が並びます。

一言一句の暗記より、深掘りしておく急所が3つあります。

1つ目、元本の受領。利息や賃料の受領はここに含まれません。元本そのものを受け取る場面だけが対象です。利息は少額で、繰り返し発生するものなので、重要性が低いからです。2つ目、借財・保証です。Eが、Fの同意なく友人の借金の保証人になったとします。同意がなければ、取り消せます。13条4項です。あります。時効が完成した後に「その債務、認めます」と承認すれば、これも13条1項2号にあたります。それは対象外です。単なる時効の更新事由にすぎず、財産を失う重大な処分とまではいえないからです。4号の訴訟行為です。ただし、相手方が起こした訴えに応訴するのは対象外です。自分から訴えるのと違って、応じないと相手方が困ってしまうので、保護の対象から外れます。
条文
民法 第13条(保佐人の同意を要する行為等)
できます。家裁の審判で対象を広げられます。13条2項です。ただし、日用品など9条ただし書にあたる行為は、追加できません。
被保佐人③:保佐人の権限と審判の取消し

家裁が職権で選任します。12条・876条の2、ここも名前だけで十分です。権限は、同意権・取消権・追認権が当然にあります。13条・120条1項・122条です。ここが核心のトラップです。保佐人には、代理権が当然にはありません。特定の行為について、別に代理権付与の審判を受けて初めて発生します。876条の4第1項です。本人以外が請求する場合は、本人の同意が必要です。876条の4第2項。成年後見人は最初から包括的な代理権が付きますが、保佐人は、同意権・取消権・追認権は自動で付くのに代理権だけは別注文が必要、というイメージです。原因消滅で、家裁が審判を取り消します。14条1項です。
被補助人①:対象と本人同意

判断能力が「不十分」な人です。被保佐人よりさらに軽い状態です。
条文
民法 第15条(補助開始の審判)
ここが核心のトラップです。独自の場面で見てみましょう。

物忘れが増えてきたGさんについて、娘のHが補助開始の審判を申し立てるとします。いいえ。本人以外の請求なので、Gの同意が必要です。そのとおりです。被補助人はまだ判断能力がかなり残っているので、自己決定を強く尊重する設計になっています。もっと自由です。むしろ、そもそも制限を受けていないのが原則です。Gは、補助人の同意なく、単独で有効に契約できます。
被補助人②:同意権付与の審判

家裁が個別に「この行為だけは補助人の同意が要る」と指定する審判があったときだけです。17条1項です。
条文
民法 第17条(補助人の同意を要する旨の審判等)
被保佐人は13条1項の10種類すべてが対象でしたが、被補助人は、その中の一部にしか同意権を及ぼせません。しかも17条2項で、本人以外の請求には15条2項と同じく本人の同意が要ります。保佐人と同じ仕組みです。家裁が同意に代わる許可を与えられます。17条3項です。そして同意も許可も得ずにした行為は17条4項により、取り消せます。
被補助人③:補助人の権限とセット要件

家裁が職権で選任します。16条・876条の7、ここも名前だけで十分です。同意権は、17条1項の審判で指定された行為についてだけです。別に代理権付与の審判が要ります。876条の9第1項です。本人以外の請求には本人の同意が要る点も、876条の4と同じです。ここが最後の核心です。取消権・追認権は同意権を持つ補助人だけが持ちます。よく考えると当然で、被補助人はそもそも単独で有効に行為できるので、取り消せる行為自体が存在しないからです。もう1つ、補助開始の審判には条件があります。
条文
民法 第15条(補助開始の審判)
同意権付与の審判か、代理権付与の審判か、少なくとも一方が無いと、補助人は何の権限も持たない空っぽの補助人になってしまうからです。原因消滅で、家裁が取り消します。18条1項です。
3類型を1枚の表に

ここで一度、全体を1枚の表にまとめましょう。判断能力は、欠く常況、著しく不十分、不十分の順に軽くなります。成年被後見人は原則制限、被保佐人・被補助人は原則自由です。制限のかかり方も、後見人は包括的、保佐人は13条1項の列挙、補助人はそのさらに一部だけ、と段々狭くなります。同意権・取消権・追認権・代理権の4つで見ると、後見人は同意権だけ無し、代理権は自動で包括的。保佐人は同意権・取消権・追認権は自動、代理権だけ別審判。補助人はその全部が、個別の審判次第、という違いです。

そうですね。未成年者は原則、法定代理人の同意が必要でした。判断能力が軽くなるほど、保護は自動から個別オーダーメイドへ変わっていく、という1本の流れとして見てください。後見・保佐・補助はすべて、後見登記等ファイルに登記されます。後見登記法4条ですが、名前だけ押さえれば十分です。
審判相互の関係(19条)

いいえ、それはできません。19条が交通整理をします。

さっきのGさんで考えましょう。最初は補助開始の審判でしたが、その後症状が進み、著しく不十分な状態、つまり保佐相当になったとします。いいえ。まず、既存の補助開始の審判を家裁が取り消してから保佐開始の審判をします。
条文
民法 第19条(審判相互の関係)
1人につき、審判は常に1つだけ。重複を防ぐ仕組みです。
相手方の保護:総論と催告

ここからは視点を変えます。制限行為能力者と契約してしまった相手方を、どう守るかという話です。あります。詐欺の取消しには、96条3項という取消し前に現れた善意無過失の第三者を守る規定がありますが、制限行為能力の取消しには、それがありません。それだけ相手方の立場が不安定になるので、民法は相手方にも武器を与えています。1つが催告権、20条です。相手方が「1か月以上の期間内に、追認するか返事をしてください」と迫れる権利です。ここに核心のトラップがあります。誰に催告したかで、返事がない場合の結果が変わるんです。

独自の場面で見てみましょう。相手方Iが、保佐人Fの同意が必要な行為について、Eと契約したとします。同意はありませんでした。
条文
民法 第20条(制限行為能力者の相手方の催告権)
Fに催告して返事がなければ、20条2項により追認したものとみなされます。E本人には「保佐人の追認を得て、報告してください」という特別な聞き方になります。被保佐人・被補助人自身には、まだ追認する権限そのものが無いからです。124条1項の話ですが、ここは名前だけで十分です。そして、その特別な催告に返事がなければ、20条4項により、今度は逆に取り消したものとみなされます。そこが核心です。追認する権限を持つ相手に聞いて黙っていれば「文句ないんだろう」で追認擬制。権限のない本人に聞いて応えがなければ「取ってこられなかったんだな」で取消擬制です。意味をなしません。そもそも自分で追認する権限がないからです。一見不利に見えますが、宙ぶらりんの状態が終わるという点では弱いながらも相手方保護になっています。20条3項です。方式を備えた通知がなければ、同じく取り消したものとみなされます。ここは名前だけで十分です。
詐術と現存利益

ウソをついて相手を信じ込ませた制限行為能力者からは保護を外す、という仕組みです。
条文
民法 第21条(制限行為能力者の詐術)
積極的に「私は成年です」と言えば、当然詐術です。そこがこの条文最大のトラップです。独自の場面で見てみましょう。

Eが、自分が保佐開始の審判を受けていることを、契約の際にただ黙っていた、という場合を考えます。
判例
制限行為能力者の詐術にあたるかどうかの基準
判例は、単なる黙秘だけでは詐術にあたらない、としています。はい、原則どおり取り消せます。黙っているだけでなく、他の言動と相まって、相手を誤信させたりその誤信を強めさせたりした場合です。例えば、Eが偽の証明書を見せたり、しっかりした受け答えをわざと装って相手を積極的に信じ込ませた場合です。なお、同意書を偽造して保護者の同意があったと信じ込ませた場合も、21条の類推適用で取り消せなくなり得ます。ここで1つ、言葉を整理しておきます。この判例の基準は「規範」です。条文に書かれていない、判例が立てた物差しなので、太字の部分は押さえておく必要があります。条文どおりの要件は「成立要件」と呼び、条文を読めば復元できます。判例が作った規範と、条文どおりの成立要件は分けて覚えてください。

いいえ。ここも制限行為能力者を守る仕組みがあります。取消しの効果は原則、初めから無かったことになり、受け取った物は全部お互いに返し合うのが原則です。121条です。ですが、Eが受け取った20万円のうち、家賃に充てた分は
条文
民法 第121条の2(原状回復の義務)
家賃に充てた分は、生活費として今も「現に利益を受けて」いるので返す必要があります。手元に利益が残っていないので、返さなくてよいことになります。相手方は全額返す原則どおりですが、制限行為能力者側は現存利益の範囲でよい、という本人保護です。
ここは論文で論点になる

今日扱った詐術21条は、答案で正面から問われることのある論点です。事案があって、問題提起をして、規範を立てて、あてはめる、という答案の型で書かれます。ただ、この解説動画では、答案の規範定式や答案構成そのものには踏み込みません。書き方の詳細は、概要欄からリンクする論文シリーズで扱います。押さえるだけで十分です。
まとめ・自己テスト・次回予告

いいえ、時間制限があります。126条です。
⭐ 論文で書く規範:取消権の期間制限(126条)
そこは取消しの一般法理として、別の回でまとめて扱います。成年被後見人は原則取消し、同意という発想自体がありません。被保佐人・被補助人は原則自由で、例外だけ狭く制限されます。判断能力が軽くなるほど、保護は個別オーダーメイドになりました。そのとおりです。相手方の保護は、催告と詐術の2本柱でした。催告は、誰に聞いたかで追認擬制と取消擬制が分かれ、詐術は、黙秘だけでは足りず、他の言動と相まって初めて成立する

という規範でした。では自己テストです。声に出さなくてもかまいません。1つ目、成年後見人が事前に同意した契約は、後で取り消せますか?2つ目、被保佐人が保佐人の同意なく友人の保証人になったら?3つ目、被補助人が単独でお茶を買った場合は?4つ目、ただ黙っていただけの制限行為能力者は、詐術にあたりますか?5つ目、相手方が被保佐人本人に直接催告して返事がなければ?完璧です。追認擬制ではなく取消擬制、方向を間違えないでください。今日で、制限行為能力者の4類型がすべてそろいました。権利能力なき社団を扱います。