行政法ゼロから行政法#38

委任の範囲を超えた命令

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第3章 行為形式の地図と行政基準 ㊳/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

法律は適法でも、命令が問題になる

架空の屋上菜園登録制度の続き(実在の制度とは無関係/架空の法律の抜粋=登録を受けることができる管理責任者の資格は、屋上の安全を保つために必要な知識及び経験を有する者として、省令で定める。※条番号は付けない/この法律は枠のある委任で適法/大臣が作った省令3案=(ア)屋上の防水と転落防止の講習を修了した者に限る/(イ)その菜園がある市区町村に3年以上住んでいる者に限る/(ウ)屋上菜園の運営者は、果樹を植えてはならない/問い=任された範囲を超えるのはどれか) 図:架空の屋上菜園登録制度の続き

  • 実在の制度とは無関係
  • 架空の法律の抜粋=登録を受けることができる管理責任者の資格は、屋上の安全を保つために必要な知識及び経験を有する者として、省令で定める。※条番号は付けない
  • この法律は枠のある委任で適法
  • 大臣が作った省令3案=(ア)屋上の防水と転落防止の講習を修了した者に限る
  • (イ)その菜園がある市区町村に3年以上住んでいる者に限る
  • (ウ)屋上菜園の運営者は、果樹を植えてはならない
  • 問い=任された範囲を超えるのはどれか

今日は、任された範囲を超えた命令を見ます。前回の最後に、予告していたテーマです。統制は、任せる法律の側と、任された命令の側に切り分けるのでした。前回は法律の側、つまり白紙委任を見ました。前回のまとめで、命令が範囲を超えたかは別の問題、と言いましたね。今日は、その別の問題の本番です。前回の屋上菜園の法律を、もう一度使います。実在の制度とは関係のない、架空の話です。法律には、こう書いてあったとします。登録を受けることができる管理責任者の資格は、屋上の安全を保つために必要な知識及び経験を有する者として、省令で定める。前回見たとおり、これは枠のある委任で、法律としては適法です。この法律を受けて、大臣が省令を作ります。案が3通りあったとします。アは、屋上の防水と転落防止の講習を修了した者に限る。イは、その菜園がある市区町村に3年以上住んでいる者に限る。ウは、屋上菜園の運営者は、果樹を植えてはならない。

法律が適法でも、その先で作られた命令が、任された範囲を超えることはあります。ここで問いです。アイウのうち、任された範囲を超えるのは、どれでしょうか。先に答えを言うと、範囲を超えるのはイとウです。分かれ目は、法律が、その事項を命令の判断に委ねたと読めるかどうかです。なぜそうなるのかは、4つの事件を読んでから確かめます。今日持ち帰るのは三つです。命令が無効になる理由。範囲を超えたかを見分ける手がかり。そして、最高裁が実際に線を引いた4つの事件です。命令が無効とされたものが3つ、適法とされたものが1つあります。

命令の側の問題——なぜ無効になるのか

2つの視点(左=法律の側〔前回〕=任せる法律そのものが憲法41条に反しないか→反すれば法律が違憲/右=命令の側〔今日〕=任された範囲の内側で命令が作られたか→超えれば命令が法律に違反して無効/今日の語=「委任の範囲を超える」「委任の趣旨を逸脱する」) 図:2つの視点

  • 左=法律の側〔前回〕=任せる法律そのものが憲法41条に反しないか→反すれば法律が違憲
  • 右=命令の側〔今日〕=任された範囲の内側で命令が作られたか→超えれば命令が法律に違反して無効
  • 今日の語=「委任の範囲を超える」「委任の趣旨を逸脱する」

本題の前に、前回の復習です。法律の側の問題として、すべて命令で定める、という型はなぜ許されないのでしたか?国会が立法という仕事を手放すことになって、憲法41条に反するから、でした。今日は、法律の側は適法だと決めて進めます。そのうえで、命令がどうなるかを問います。問いを置きます。命令が範囲を超えたとき、その命令が無効になるのは、憲法に違反するからでしょうか。無効になる理由は、憲法違反ではなく、法律に違反するからです。

法律の優位の流れ(法律=この事項を、この目的で、ここまで任せる〔任せた枠〕→命令=枠の内側なら有効な法規/枠の外なら無効〔法律に反するから〕→命令に基づく処分=命令が無効なら根拠を欠き、違法/無効の理由は憲法違反ではなく法律違反) 図:法律の優位の流れ

  • 法律=この事項を、この目的で、ここまで任せる〔任せた枠〕→命令=枠の内側なら有効な法規
  • 枠の外なら無効〔法律に反するから〕→命令に基づく処分=命令が無効なら根拠を欠き、違法
  • 無効の理由は憲法違反ではなく法律違反

たとえ話をします。大家さんが管理人さんに、共用部の掃除の当番表を作っておいて、と任せたとします。管理人さんが当番表を作るのは、任された仕事です。ところが、当番表の代わりに、住人は犬を飼ってはならない、と決めたら、どうでしょう。それは、頼まれていない決めごとですね。住人は従わなくていいと思います。その決めごとが無効なのは、管理人さんが憲法に違反したからではありません。大家さんが任せた範囲を超えたからです。命令も同じで、法律が、この事項をこの目的でここまで、と任せたから、有効な法規になれます。その枠の外で作った命令は、国会が決めた法律の定めに反します。行政は法律の定めから外れてはならない、という法律の優位を、前に見ました。その適用です。ちなみに、憲法の回で、憲法に反するかと、任された範囲に収まるかは、別々に確かめる問いで、別の階にある、と言いました。今日は、そのうち委任の範囲の階の話です。憲法に反するかを問う前に、法律に反しないかを問います。この考え方は、行政手続法に、命令を作る側への一般原則として書かれています。条文を見ます。

条文行政手続法38条1項

行政手続法第38条第1項 命令等を定める機関(閣議の決定により命令等が定められる場合にあっては、当該命令等の立案をする各大臣。以下「命令等制定機関」という。)は、命令等を定めるに当たっては、当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない。

骨格だけ言い直します。命令等を定める機関は、命令等を定めるときは、根拠となる法令の趣旨に適合させなければならない。命令等という言葉は、前に見たとおりです。行政手続法は、無効という効果までは書いていません。命令が根拠の法律の趣旨に合わなければ無効になるのは、法律の優位に反するからです。さらに、無効な命令に基づいてされた処分は、根拠を欠くことになり、違法です。この点は、事件の中で確かめます。

命令を作る側にも任された幅がある

任された幅(法律=この枠の中で具体化せよ→命令を作る機関=枠の内側に任された幅がある〔任された幅=裁量〕/審査の形=「法律の通りか」ではなく「任された幅を超えていないか=委任の趣旨を逸脱・濫用していないか」/幅がある≠無制限) 図:任された幅

  • 法律=この枠の中で具体化せよ→命令を作る機関=枠の内側に任された幅がある〔任された幅=裁量〕
  • 審査の形=「法律の通りか」ではなく「任された幅を超えていないか=委任の趣旨を逸脱・濫用していないか」
  • 幅がある≠無制限

少しでも違えば無効、というわけではありません。法律は、中身の具体化を命令に任せました。具体化を任された以上、命令を作る機関には、一定の任された幅があります。法律にそのまま書いてあることしか書けないなら、任せる意味がありません。さっきの管理人さんで言えば、掃除当番は住人の中から順に回す、と決めるのはどうでしょう。大家さんが言っていないことですが、当番表の中身そのものです。任された幅の内側なので、有効です。ですから、審査の形は、法律の通りかどうか、ではありません。任された幅を超えていないか、つまり委任の趣旨を逸脱したり、濫用したりしていないか、という形になります。ただし、幅があることと、無制限であることは違います。最高裁は、後で見る刀剣の事件で、こう言っています。法の委任の趣旨を逸脱しない範囲内において、所管行政庁に専門技術的な観点からの一定の裁量権が認められている。ここでいう裁量権が、さっきから言っている、任された幅のことです。幅は、委任の趣旨の内側にあるのです。もう一つ大事なことがあります。幅の広さは、一律ではありません。専門的な判断を任せたのか、国民の権利を制限する中身を任せたのか。任せ方と対象によって、幅の広さは変わります。これは、後の事件で効いてきます。

範囲を超えたかを見分ける手がかり

判断の手がかり(4件を読み比べて整理した読み筋/1 授権規定の文言=何について、どんな目的・基準で任せているか/2 法律全体の趣旨・仕組み=周りの規定、制度の目的、列挙の趣旨から、命令に任せたと読めるか/3 命令が制約するものの性質=自由の制限か、給付の範囲の線引きか、原則禁止の例外の範囲か/重い自由の制限ほど、任せたと読める範囲は狭い方向/+専門技術性=専門的判断を任せた授権では、命令を作る側の幅が広い方向) 図:判断の手がかり

  • 4件を読み比べて整理した読み筋
  • 1 授権規定の文言=何について、どんな目的・基準で任せているか
  • 2 法律全体の趣旨・仕組み=周りの規定、制度の目的、列挙の趣旨から、命令に任せたと読めるか
  • 3 命令が制約するものの性質=自由の制限か、給付の範囲の線引きか、原則禁止の例外の範囲か
  • 重い自由の制限ほど、任せたと読める範囲は狭い方向
  • 専門技術性=専門的判断を任せた授権では、命令を作る側の幅が広い方向

では、範囲を超えたかどうかは、何を見て判断するのでしょうか。これから4つの事件を読みます。その前に、見る場所を先に示します。ここで挙げる3つは、最高裁がそう挙げたものではありません。4つの事件を読み比べて整理した、学習用の読み筋です。1つ目は、授権規定の文言です。法律は何について、どんな目的や基準で命令に任せているのか。たとえば、面会の態様の制限を任せたのか、鑑定の基準を任せたのか、という違いです。2つ目は、法律全体の趣旨と仕組みです。授権規定の一文だけでなく、周りの規定や制度の目的、列挙された類型の趣旨から、法律がその事項を命令に任せたと読めるかを見ます。3つ目は、命令が制約するものの性質です。国民の自由を制限する命令なのか、給付の範囲を線引きする命令なのか。重い自由の制限ほど、任せたと読める範囲は狭く読む方向になります。おまけとして、専門技術性があります。専門的、技術的な判断が必要な事項を任せた授権では、命令を作る側の幅が広くなる方向です。今は地図として眺めてください。4つの事件で、3つのうちどれが効いたのかを一言ずつ確かめ、最後の表で1つにまとめます。どの事件も、同じ順番で読みます。事案、法律の仕組み、命令がしたこと、判旨、なぜその結論か、です。

無効の例①——農地の売払いの事件

農地の売払いの事件の線(入れ子の図/外の枠=法が売払いの対象と予定している土地〔買収の目的が消えた農地〕/内の枠=政令が売払いを認めた場合〔公用・公共用などに供する緊急の必要があり、かつ確実な土地〕/内の枠の外に残された部分=法が予定していたのに政令が外した部分→委任の範囲を超えて無効/注=法=農地法、令=農地法施行令、自創法=自作農創設特別措置法) 図:農地の売払いの事件の線

  • 入れ子の図
  • 外の枠=法が売払いの対象と予定している土地〔買収の目的が消えた農地〕
  • 内の枠=政令が売払いを認めた場合〔公用・公共用などに供する緊急の必要があり、かつ確実な土地〕
  • 内の枠の外に残された部分=法が予定していたのに政令が外した部分→委任の範囲を超えて無効
  • 注=法=農地法、令=農地法施行令、自創法=自作農創設特別措置法

1つ目は、農地の売払いの事件です。最高裁の大法廷が判断しました。事案です。戦後の農地改革で、国は地主から農地を強制的に買い上げました。その土地が、のちに、農地として使い続ける意味を失ったとします。そのときは、国は元の所有者に売り払わなければならない、と当時の農地法が定めていました。買収した目的が消えたなら、元の持ち主に返す、という仕組みです。売払いの対象になる土地の条件は、政令に任されていました。ところが政令は、売払いを認める場合を、公共の用に供する緊急の必要があり、かつ確実な土地、にだけ限りました。県知事が、その条件に当たらない買収農地を第三者に売り渡し、元の所有者が争いました。

任されたのは、対象を定める基準です。でも、売払いの制度の趣旨は、買収の目的が消えたなら、元の所有者に回復を保障することでした。法律は、長く続く恒久の制度として作られています。年月がたてば、まちが広がるなどして、農地として残す意味を失う土地が、少しずつ出てきます。ですから、緊急の必要がなくても、近く農地以外にするのが相当な土地は、当然に出てきます。法律は、そういう土地も売払いの対象と予定していました。政令は、法が予定した対象を、狭めて外したのです。判旨を見ます。大事なのは、法律が予定している対象、という言葉です。判旨に出てくる、法は農地法、令はその施行令、自創法は農地改革のときの法律のことです。

判例最大判昭46・1・20 民集25巻1号1頁

農地の売払いの事件——政令が売払いの対象を狭めた 同項は、その規定の体裁からみて、売払いの対象を定める基準を政令に委任しているものと解されるが、委任の範囲にはおのずから限度があり、明らかに法が売払いの対象として予定しているものを除外することは、前記法八〇条に基づく売払制度の趣旨に照らし、許されないところであるといわなければならない。……当該買収農地自体、社会的、経済的にみて、すでにその農地としての現況を将来にわたつて維持すべき意義を失い、近く農地以外のものとすることを相当とするもの(法七条一項四号参照)として、買収の目的である自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする状況にあるといいうるものが生ずるであろうことは、当然に予測されるところであり、法八〇条は、もとよりこのような買収農地についても旧所有者への売払いを義務付けているものと解されなければならないのである。……したがつて、同条の認定をすることができる場合につき、令一六条が、自創法三条による買収農地については令一六条四号の場合にかぎることとし、それ以外の前記のような場合につき法八〇条の認定をすることができないとしたことは、法の委任の範囲を越えた無効のものというのほかはない。

順に読みます。授権の文言は、売払いの対象を定める基準でした。これは、基準を任せたにすぎません。そして、明らかに法が売払いの対象として予定しているものを外すことは許されない、と言います。委任の範囲には、おのずから限度がある、という一文が、この事件の核心です。結論は、無効でした。効果も確認します。政令が無効なので、売払いの対象になる事実があれば、元の所有者は、その政令に妨げられずに売払いを求められます。最高裁は、前の裁判所の判決を取り消し、審理をやり直させるために、事件を差し戻しました。この判決は、売払いの基準を政令に任せること自体は認めています。否定したのは、法が予定した対象を外すことだけです。基準の決め方に幅があることは、次の刀剣の事件で見ます。先ほどの3つの手がかりのうち、2つ目の、法律全体の趣旨と仕組みが決め手でした。売払制度の趣旨から、外された対象も法が予定していたと読めたのです。

適法の例②——刀剣の登録の事件

刀剣の登録の事件の線(法=銃砲刀剣類所持等取締法〔刀剣の所持は原則禁止/登録を受けた美術品として価値のある刀剣類は例外〕→法の文言は外国の刀剣を除外していない→規則=銃砲刀剣類登録規則が、鑑定の対象を「日本刀」に限った→適法〔委任の趣旨を逸脱しない〕/外国で買ったサーベルの登録申請が拒否された) 図:刀剣の登録の事件の線

  • 法=銃砲刀剣類所持等取締法〔刀剣の所持は原則禁止/登録を受けた美術品として価値のある刀剣類は例外〕→法の文言は外国の刀剣を除外していない→規則=銃砲刀剣類登録規則が、鑑定の対象を「日本刀」に限った→適法〔委任の趣旨を逸脱しない〕
  • 外国で買ったサーベルの登録申請が拒否された

2つ目は、刀剣の登録の事件です。今日の4件では、ここだけが、命令が適法とされました。前回の人事院規則の短い先例も、規則を範囲内としていました。今日は、理由までくわしく読めるこの事件で、適法の側を見ます。事案です。外国で買った刀剣、サーベルの登録を申請したところ、拒否されました。銃砲刀剣類所持等取締法、略して銃刀法は、刀剣の所持を原則として禁じています。例外として、登録を受けた、美術品として価値のある刀剣類は、所持できます。この登録の鑑定の基準などは、規則に任されていました。ところが、登録規則は、鑑定の対象を日本刀に限りました。法律の文言は、外国の刀剣を除外していません。

法律に書いていない限定を足したのに、適法なのですか。そこが、この事件の大事なところです。法律に無い限定を足しているのに、適法とされました。限定を足したことが、それだけで違法になるわけではない、ということです。判旨を見ます。

判例最判平2・2・1 民集44巻2号369頁

刀剣の登録の事件——登録の鑑定の基準を日本刀に限った規則 その趣旨は、どのような刀剣類を我が国において文化財的価値を有するものとして登録の対象とするのが相当であるかの判断には、専門技術的な検討を必要とすることから、登録に際しては、専門的知識経験を有する登録審査委員の鑑定に基づくことを要するものとするとともに、その鑑定の基準を設定すること自体も専門技術的な領域に属するものとしてこれを規則に委任したものというべきであり、したがって、規則においていかなる鑑定の基準を定めるかについては、法の委任の趣旨を逸脱しない範囲内において、所管行政庁に専門技術的な観点からの一定の裁量権が認められているものと解するのが相当である……法一四条一項の文言上は外国刀剣を除外してはいないものの、右鑑定の基準としては、日本刀であって、美術品として文化財的価値を有するものに限る旨の要件が定められていることが明らかである。……規則が文化財的価値のある刀剣類の鑑定基準として、前記のとおり美術品として文化財的価値を有する日本刀に限る旨を定め、この基準に合致するもののみを我が国において前記の価値を有するものとして登録の対象にすべきものとしたことは、法一四条一項の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めたものというべきであるから、これをもって法の委任の趣旨を逸脱する無効のものということはできない。

判旨のそれぞれを、手がかりに当てはめます。1つ目、授権の文言は、鑑定の基準でした。任されたのは、基準そのものを設定することです。2つ目、法律全体の趣旨と仕組みは、文化財として価値のある刀剣を、登録の対象として残すことにありました。日本刀は、古くから美術品として鑑賞されてきました。ですから、文化財的な価値を見る基準を日本刀に絞ることは、登録制度の目的に沿います。最後に3つ目、制約されるものは、原則禁止の例外を開く、登録の範囲です。刀剣の所持は、もともと禁じられています。日本刀に絞っても、外国の刀剣に登録の道が開かれないだけです。原則禁止の例外を広げるかどうかの話です。だから、この手がかりは、幅を狭める方向に働きません。そして、おまけの専門技術性が高いのです。どんな刀剣に文化財的な価値があるかは、専門的な検討を要します。だから、最高裁は、専門技術的な観点からの一定の裁量権を認めました。日本刀に限ることは、法の趣旨に沿う合理性のある基準で、委任の趣旨を逸脱しない、としました。

判断した裁判官の全員が、同じ意見だったのですか。違います。2人の裁判官が反対しました。登録の対象の範囲は、登録制度の基本にかかわる事項だから、法が定めるべきだ、という意見です。鑑定の基準を定めることと、登録の対象を定めることは別で、後者は規則に任されていない、と読みました。多数意見との分かれ目は、基準という言葉の中に、対象の限定まで読み込めるかどうかです。授権の文言の読み方で、割れたわけです。この事件で押さえたいのは、効いた手がかりが、1つ目の文言と、専門技術性だという点です。

無効の例③——幼い子との面会の事件

幼い子との面会の事件の線(当時の監獄法=被勾留者との面会を原則許可〔45条〕/命令に任せたのは面会の立会い・場所・時間・回数など「態様」の制限〔50条〕→当時の監獄法施行規則=「14歳未満の者には在監者との接見を許さない」と原則禁止にし、例外は拘置所長の裁量〔120条・124条〕→許可と不許可の線そのものを引き直した→被勾留者と幼年者との接見を許さない限度で無効/注=法=当時の監獄法、規則=同施行規則〔当時のもの〕) 図:幼い子との面会の事件の線

  • 当時の監獄法=被勾留者との面会を原則許可〔45条〕
  • 命令に任せたのは面会の立会い・場所・時間・回数など「態様」の制限〔50条〕→当時の監獄法施行規則=「14歳未満の者には在監者との接見を許さない」と原則禁止にし、例外は拘置所長の裁量〔120条・124条〕→許可と不許可の線そのものを引き直した→被勾留者と幼年者との接見を許さない限度で無効
  • 注=法=当時の監獄法、規則=同施行規則〔当時のもの〕

3つ目は、幼い子との面会の事件です。当時の監獄法と、その施行規則が舞台です。今の法律ではなく、当時の法律の話であることに注意してください。事案です。刑事裁判の途中で、拘置所に勾留されている人がいました。この人が、養子縁組をした相手の家族の、14歳未満の子との面会を申請しました。拘置所長は、当時の監獄法施行規則を理由に、許可しませんでした。法律の仕組みです。当時の監獄法は、勾留されている人との面会を、原則として許していました。命令に任せたのは、面会の立会い、場所、時間、回数といった、態様についての必要な制限です。命令がしたことです。在監者は、拘置所などに収容されている人のことで、接見は、面会のことです。施行規則は、14歳未満の者には在監者との接見を許さない、と定めました。つまり、原則許可を、原則禁止に引き直しました。例外は、拘置所長の裁量とされていました。

最高裁は、面会の態様を整えることと、許可の線を引き直すことを、区別しました。判旨を見ます。

判例最判平3・7・9 民集45巻6号1049頁

幼い子との面会の事件——14歳未満の者との接見を許さないとした規則 被勾留者には一般市民としての自由が保障されるので、法四五条は、被勾留者と外部の者との接見は原則としてこれを許すものとし、例外的に、これを許すと支障を来す場合があることを考慮して、(ア)逃亡又は罪証隠滅のおそれが生ずる場合にはこれを防止するために必要かつ合理的な範囲において右の接見に制限を加えることができ、また、(イ)これを許すと監獄内の規律又は秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が認められる場合には、右の障害発生の防止のために必要な限度で右の接見に合理的な制限を加えることができる、としているにすぎないと解される。……命令(法務省令)をもって、面会の立会、場所、時間、回数等、面会の態様についてのみ必要な制限をすることができる旨を定めているが、もとより命令によって右の許可基準そのものを変更することは許されないのである。……それ自体、法律によらないで、被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法五〇条の委任の範囲を超えるものといわなければならない。……規則一二〇条(及び一二四条)は、結局、被勾留者と幼年者との接見を許さないとする限度において、法五〇条の委任の範囲を超えた無効のものと断ぜざるを得ない。

判旨の言葉に注目してください。命令で任されたのは、面会の態様についてのみの制限です。許可基準そのものを変更することは、許されない。つまり、面会をいつ、どう行うかを整えることは任された。しかし、誰となら会えて、誰とは会えないのか、という線そのものを引き直すことは、任されていないのです。手がかりでは、1つ目の文言、態様についてのみ、が効きました。そして3つ目、制約されるものが、被勾留者の接見の自由、という重い自由だったことが効いています。判旨は、被勾留者にも一般市民としての自由が保障される、と言っていました。自由を制限する命令ほど、任せたと読める範囲は狭くなるのです。無効の範囲にも注意してください。規則全体が無効になったのではありません。被勾留者と幼年者との接見を許さないとする限度で、無効です。一つだけ付け加えます。この事件では、規則が無効でも、拘置所長に国家賠償法上の過失は無いとされ、損害賠償は認められませんでした。規則が範囲を超えていると、規則に従う拘置所長がすぐに見抜けたとはいえない、とされたからです。命令の無効と、国家賠償が認められるかは、別の問いです。

無効の例 ④——児童扶養手当の事件

児童扶養手当の事件の線(児童扶養手当法4条1項の列挙=1号〜4号〔父母が婚姻を解消した児童/父が死亡した児童/父が一定の障害の状態にある児童/父の生死が明らかでない児童〕+5号「その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」→施行令=(父から認知された児童を除く。)の括弧書き→認知された児童だけが外された→括弧書きだけが無効/注=法=児童扶養手当法、施行令=同施行令〔平成10年政令第224号による改正前のもの〕、婚姻外懐胎児童=母が婚姻によらないで懐胎した児童、本件括弧書=「(父から認知された児童を除く。)」) 図:児童扶養手当の事件の線

  • 児童扶養手当法4条1項の列挙=1号〜4号〔父母が婚姻を解消した児童/父が死亡した児童/父が一定の障害の状態にある児童/父の生死が明らかでない児童〕+5号「その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」→施行令=(父から認知された児童を除く。)の括弧書き→認知された児童だけが外された→括弧書きだけが無効
  • 注=法=児童扶養手当法、施行令=同施行令〔平成10年政令第224号による改正前のもの〕、婚姻外懐胎児童=母が婚姻によらないで懐胎した児童、本件括弧書=「(父から認知された児童を除く。)」

4つ目は、児童扶養手当の事件です。憲法の回でも見ました。憲法の回では、憲法に反するかと、任された範囲に収まるかは、別の階にある、と言いました。今日は、委任の範囲の階に立って読みます。事案を一言でいうと、結婚しないまま子を育てる母が受けていた手当が、子が父に認知されたことを理由に、打ち切られました。根拠は、政令の括弧書きで、父から認知された児童を除く、というものでした。法律の仕組みです。法律は、手当の対象になる児童を、類型で並べました。離婚した児童、父が死亡した児童、父が一定の障害の状態にある児童、父の生死が明らかでない児童です。そして最後に、その他これらに準ずる状態にある児童で政令で定めるもの、という項目を置きました。並べた類型に共通するのは、父による現実の扶養を期待できない、という点です。判旨を見ます。

判例最判平14・1・31 民集56巻1号246頁

児童扶養手当の事件——認知された児童を除く括弧書き 同号による委任の範囲については、その文言はもとより、法の趣旨や目的、さらには、同項が一定の類型の児童を支給対象児童として掲げた趣旨や支給対象児童とされた者との均衡等をも考慮して解釈すべきである。……婚姻外懐胎児童が認知により法律上の父がいる状態になったとしても、依然として法4条1項1号ないし4号に準ずる状態が続いているものというべきである。そうすると、施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において、法4条1項1号ないし4号に準ずる状態にある婚姻外懐胎児童を支給対象児童としながら、本件括弧書により父から認知された婚姻外懐胎児童を除外することは、法の趣旨、目的に照らし両者の間の均衡を欠き、法の委任の趣旨に反するものといわざるを得ない。……施行令1条の2第3号が父から認知された婚姻外懐胎児童を本件括弧書により児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲から除外したことは法の委任の趣旨に反し,本件括弧書は法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。

冒頭の一文が、この回の手がかりと重なります。委任の範囲は、文言はもとより、法の趣旨や目的、列挙した類型の趣旨や均衡も考慮して解釈する、と言っています。授権の文言は、準ずる状態、でした。認知は、法律上の父を生みます。法律の上では、父に子を養う義務も生まれます。しかし、義務があることと、父が実際に生活費を出してくれることは別です。結婚していない父が、認知したからといって、子を養うようになるとは限りません。判決も、認知されれば、通常は父による現実の扶養を期待できる、とはいえない、と見ています。法律が並べた類型と同じ状態が続いているのに、認知された児童だけを外すのは、線の引き方が不均衡です。だから、法の委任の趣旨に反する、となりました。手がかりでは、2つ目の、列挙の趣旨と均衡が決め手でした。この事件は、自由の制限ではなく、給付の範囲の線引きです。それでも無効になりました。そして、無効になったのは政令全体ではなく、括弧書きだけです。

1人の裁判官が反対しました。誰を準ずるとするかは、政令を作る側の幅に任されていて、認知された児童を別に扱う合理性はある、という意見です。幅をどこまで広く見るかで、意見が割れたのです。

4件の比較——何が結論を分けたか

4件の比較表(列=農地の売払い/刀剣の登録/幼い子との面会/児童扶養手当、行=法が任せたこと〔売払いの対象を定める基準/鑑定の基準/面会の態様の制限/「準ずる状態」の児童の指定〕・法の趣旨と仕組み〔回復を保障する売払制度/文化財的価値に着目した登録/面会は原則許可/現実の扶養を期待できない児童の類型〕・命令がしたこと〔予定した対象を除外/法に無い限定を足した/原則禁止に引き直した/認知された児童を除外〕・制約されるもの〔回復を求める地位/原則禁止の例外の範囲/被勾留者の接見の自由/給付の範囲〕・専門技術性〔低い/高い/低い/中〕・結論〔無効/適法/無効(限度で)/無効(括弧書き)〕) 図:4件の比較表(列=農地の売払い/刀剣の登録/幼い子との面会/児童扶養手当、行=法が任せたこと〔売払いの対象を定める基準/鑑定の基準/面会の態様の制限/「準ずる状態」の児童の指定〕・法の趣旨と仕組み〔回復を保障する売払制度/文化財的価値に着目した登録/面会は原則許可/現実の扶養を期待できない児童の類型〕・命令がしたこと〔予定した対象を除外/法に無い限定を足した/原則禁止に引き直した/認知された児童を除外〕・制約されるもの〔回復を求める地位/原則禁止の例外の範囲/被勾留者の接見の自由/給付の範囲〕・専門技術性〔低い/高い/低い/中〕・結論〔無効/適法/無効(限度で)/無効(括弧書き)〕)

ここまでの4件を、一度に並べます。表を出す前に、問いです。4件のうち、命令が適法とされたのはどれでしたか。そして、他の3件と何が違ったでしょうか?表で確かめましょう。無効の3件を見てください。農地では、法が売払いの対象と予定していたものを、政令が外しました。面会では、法が原則許可としていた線を、規則が原則禁止に引き直しました。児童扶養手当では、法が並べた類型と同じ状態の児童を、政令が外しました。共通するのは、法律が自分で決めていた線を、命令が引き直した、という点です。一方、刀剣では、法律が任せたのは、専門的な判断が必要な鑑定の基準でした。そして、日本刀に限るという限定は、法の趣旨に沿っていました。法律に無い限定を足しても、趣旨に沿い、専門技術的な幅の内側なら、直ちに違法にはなりません。ですから、見分けるときの読み筋は、1つにまとまります。法律が、その事項を命令の判断に委ねたと読めるか。読めなければ、範囲を超えています。もう一つ、傾向があります。権利や自由を制約する中身ほど、委任の文言から読める範囲は狭く読まれます。面会の事件が、その例でした。

答案での動き方とつまずきどころ

答案の型とつまずき3つ(答案の手順=1 問題の立て方:命令が法の委任の趣旨・範囲を超えないか〔超えれば法律違反で無効〕/2 授権規定の特定と文言/3 法律全体の趣旨・仕組み〔周りの規定・列挙の趣旨・均衡〕/4 命令が何をどこまで制約するか〔権利の制限か給付か、法の定めた線を引き直していないか〕/5 あてはめ→超えれば無効、その命令に基づく処分は根拠を欠き違法/6 専門技術的な事項なら任された幅を考慮/つまずき=1 白紙委任と混同〔範囲を超えた命令=命令の違法/白紙委任=法律の違憲〕/2 無効の理由は法律違反であり憲法違反ではない/3 法に無い限定を足しても直ちに違法ではない〔刀剣〕) 図:答案の型とつまずき3つ

  • 答案の手順=1 問題の立て方:命令が法の委任の趣旨・範囲を超えないか〔超えれば法律違反で無効〕
  • 2 授権規定の特定と文言
  • 3 法律全体の趣旨・仕組み〔周りの規定・列挙の趣旨・均衡〕
  • 4 命令が何をどこまで制約するか〔権利の制限か給付か、法の定めた線を引き直していないか〕
  • 5 あてはめ→超えれば無効、その命令に基づく処分は根拠を欠き違法
  • 6 専門技術的な事項なら任された幅を考慮
  • つまずき=1 白紙委任と混同〔範囲を超えた命令=命令の違法/白紙委任=法律の違憲〕
  • 2 無効の理由は法律違反であり憲法違反ではない
  • 3 法に無い限定を足しても直ちに違法ではない〔刀剣〕

答案での動き方を整理します。覚えるのは、この規範です。委任命令が、法律の委任の趣旨や範囲を逸脱していれば、法律に違反して無効である。逸脱したかは、授権規定の文言、法律全体の趣旨と仕組み、命令が制約するものの性質から、法律がその事項を命令に委ねたと読めるかで判断する。これは、条文に書いてある要件ではありません。法律の優位と、行政手続法38条1項の趣旨、そして判例の積み重ねから立てる規範です。手順は次のとおりです。まず、命令が委任の趣旨や範囲を超えないか、という問題を立てます。次に、授権規定を特定して、文言を確かめます。法律全体の趣旨や仕組みを見ます。命令が何を、どこまで制約するのかを見ます。そして、あてはめて、超えていれば無効、その命令に基づく処分は根拠を欠いて違法、と結びます。専門技術的な事項なら、任された幅も考慮します。つまずきどころが3つあります。1つ目は、白紙委任との混同です。命令が範囲を超えたという主張は、命令の違法です。白紙委任だという主張は、法律の違憲です。答案では、どちらを論じているかを1行で書き分けてください。2つ目。命令が無効になるのは、法律に違反するからで、憲法違反だからではありません。3つ目。法律に無い限定を足しても、それだけで違法ではありません。刀剣の事件がその例です。ただし、これは法律が任せた事項の内側での話です。前々回の住民の同意書のように、任されていない事項に新しい要件を足せば、無効です。

今日の内容は、論文で論点になりうるところです。

今日のまとめ

今日の地図(保存版)(1 命令の側の問題=命令が委任の趣旨を超えれば法律違反で無効〔憲法違反ではない〕/2 任された幅があるから審査は「逸脱・濫用」の形/3 読み筋=授権規定の文言・法律全体の趣旨と仕組み・制約されるものの性質+専門技術性/4 4件=無効〔農地の売払い・幼い子との面会・児童扶養手当〕、適法〔刀剣の登録〕/5 分かれ目=法律がその事項を命令に委ねたと読めるか/6 白紙委任〔法律の側〕とは問いが違う) 図:今日の地図

  • 保存版
  • (1 命令の側の問題=命令が委任の趣旨を超えれば法律違反で無効〔憲法違反ではない〕/2 任された幅があるから審査は「逸脱・濫用」の形/3 読み筋=授権規定の文言・法律全体の趣旨と仕組み・制約されるものの性質+専門技術性/4 4件=無効〔農地の売払い・幼い子との面会・児童扶養手当〕、適法〔刀剣の登録〕/5 分かれ目=法律がその事項を命令に委ねたと読めるか/6 白紙委任〔法律の側〕とは問いが違う)

冒頭の答えを、理由と一緒に確かめます。任された範囲を超えるのは、イとウでした。アは、講習の修了です。屋上の安全のために必要な知識を確かめる手段ですから、法律の目的の範囲内です。法律に無い限定を足していますが、趣旨に沿っています。刀剣の事件と同じ型です。イは、居住年数です。任されたのは、屋上の安全を保つために必要な知識及び経験を有する者の資格でした。何年住んでいるかは、安全の知識とは関係がありません。任された事項の内側の話ですが、任された目的とは無関係な資格を足しています。安全の知識と経験が十分にある人でも、住んで3年に満たなければ、管理責任者になれません。法律が資格者として予定した人を、趣旨と関係のない理由で外してしまうのです。外す型で、農地や児童扶養手当の事件と同じです。ウは、果樹の禁止です。任されたのは、管理責任者の資格です。菜園の運営内容そのものを規制するのは、任された事項の外です。任されていない事項に踏み込む型です。態様だけを任されたのに、許可の線まで引き直した面会の事件と同じです。つまり、範囲を超えるパターンは2通りあります。任された事項の外へ出るものと、事項の内側にいながら趣旨から外れるものです。今日の内容を整理します。1つ目。命令の側の問題です。命令が、法律の委任の趣旨を超えれば、法律に違反して無効です。憲法違反だから無効になるのではありません。2つ目。命令を作る側にも、任された幅があります。ですから、審査は、委任の趣旨の逸脱や濫用という形になります。

3つ目。見分ける読み筋は、授権規定の文言、法律全体の趣旨と仕組み、命令が制約するものの性質です。専門技術性があれば、幅は広くなります。4つ目。4つの事件のうち、農地の売払い、幼い子との面会、児童扶養手当は無効、刀剣の登録は適法でした。5つ目。分かれ目は、法律が、その事項を命令の判断に委ねたと読めるかです。法律が自分で決めていた線を、命令が引き直せば、範囲を超えます。6つ目。白紙委任は法律の側の問題で、範囲を超えたかは命令の側の問題です。問いが違います。

参照条文

  • 行政手続法38条1項

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