訴訟と非訟・民事訴訟の目的
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第1章 民事訴訟法の概要と主体 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
ステップ1:終局的でない紛争解決手続(民事訴訟の「外」の地図)

「終局性があるかどうか」というものさしで整理するとよく分かります。一番身近なのが示談——当事者同士の話し合いによる私的合意です。費用も時間もかからない。やり直しです。示談書があっても、それだけでは強制執行できません。合意が崩れたら別の手続に頼るしかない。次に調停。民事調停(民事調停法)と家事調停(家事事件手続法)があります。調停委員会が間に入って話し合いを仲介しますが、最終的には合意が成立しないと不調になって終わります。合意が大前提の手続ですから、一方が拒否したら終わりです。さらにADR(裁判外紛争解決手続)があります。国家機関でなく民間の紛争解決機関が関与します。交通事故紛争処理センターや、各業界の相談窓口などが典型です。いずれも「合意が成立して初めて終わる」——言い換えると、一方が「やっぱり」と言えばやり直しができる。終局的拘束力、つまり既判力がありません。

非訟手続は「裁判所が関与するが、訴訟とは別の種類の手続」です。裁判所が介入するという点では訴訟と似ていますが、中身が全く違います。具体例を3つ見ましょう。まず家事審判(家事事件手続法)です。遺産分割や婚姻費用の分担など、家庭内の紛争を裁判所が裁量で処理します。白黒つけるのではなく、事情を考慮して「こうするのが妥当」という決定を出す手続です。非公開で行われ、職権主義——裁判所が積極的に事実を調べる——という原則で動きます。次に借地非訟事件(借地借家法)。例えば、借地上の建物を売りたいのに地主が承諾してくれない場合です。裁判所が地主に代わって承諾の許可を出すことができます。これが非訟手続の典型例です。最後に準司法手続。行政機関が行う紛争解決のための処分で、非訟手続に準ずるものです。重要な点です。非訟手続の決定は、後から事情が変わったときに変更・取消しができます。「今の事情ではこう」という決定であって、「永久にこう」という確定判断ではありません。ここが訴訟と非訟の根本的な違いです。
ステップ2:訴訟と非訟の区別(7項目比較と憲法的根拠)

7つの比較軸でまとめましょう。まず前半の4つです。一つ目は終局性。訴訟には既判力があって蒸し返しが禁じられます。非訟の決定は事情変更で取消・変更できます。二つ目は公開性。訴訟は公開原則です。傍聴人が見守る中で行われます。非訟は非公開が原則です。憲法82条が根拠です。
条文
日本国憲法 第82条(裁判の公開)
「裁判の対審及び判決は公開法廷で行う」——これが原則です。対審とは「原告と被告が対等に言い分を戦わせる構造」のことです。民事訴訟のような「原告 vs 被告」の形式。非訟には「対立する当事者」という構造が必ずしもありません。だから対審ではない、公開不要、ということになります。三つ目の比較軸が手続形態。訴訟は「対審」——両当事者が対等に争う。非訟は「審問」——裁判所が主体的に聴取します。四つ目が基本原理。訴訟は当事者主義——当事者が手続を主導します。非訟は職権主義——裁判所が主導します。

後半の3つを続けます。五つ目は手続の原則。訴訟では処分権主義・弁論主義・口頭主義が働きます。非訟では職権探知主義(裁判所が自ら事実を調べる)・書面主義・自由な証明が認められます。六つ目は当事者構造。訴訟は「原告と被告が対立する二当事者対立」が基本。非訟は必ずしも対立する当事者がいるわけではありません。七つ目は裁判の形式。訴訟の判断形式は判決。非訟の判断形式は決定です。判決は強い拘束力を持ち、一度確定したら取消・変更ができません。決定は、事情の変更があれば取消・変更できる余地があります。これが「終局性あり(訴訟)vs なし(非訟)」の差に対応しています。

基本は法律が定めていますが、その限界を示したのが最高裁の重要な判断です。純然たる訴訟事件——つまり「実体的な権利義務の存否を確定する裁判」は、法律が非訟手続で行うと定めていても、憲法82条・32条上、公開・対審の訴訟手続によらなければならない、という法理です。これです。
条文
日本国憲法 第32条(裁判を受ける権利)
「裁判を受ける権利」——国民が正式な司法手続で判断を受ける権利を保障しています。権利義務を白黒つける裁判(純然たる訴訟事件)は、たとえ法律が「決定でよい」「非公開でよい」と定めていても、それは違憲になりかねない——という意味で、訴訟と非訟の境界線には憲法上の意義があります。

非訟手続の典型例として押さえておきたい条文です。
条文
借地借家法 第19条第1項(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
地主(借地権設定者)が理由もなく賃借権の譲渡を承諾しないとき、裁判所がその承諾に代わる許可を出せる——という規定です。「借地権設定者に不利となるおそれがない」かどうか、「当事者間の利益の衡平」を図るかどうか——これは白黒ではなく裁量的な判断です。だからこれは非訟手続で処理できる。終局的な権利確定ではなく、事情が変われば変更の余地がある。
ステップ3:実体法と手続法(役割分担の二層構造)

よく聞かれる区別です。法律には大きく2種類あります。実体法は「どんな権利・義務が発生するか、その要件と効果を定める法律」です。民法・刑法・会社法などが実体法です。手続法は「その実体法上の権利義務を実現するための手続を定める法律」です。民訴法・刑訴法・民事執行法などが手続法です。ブロック塀の例で考えましょう。隣人がうちの土地にブロック塀をはみ出して建てた。これが不法な土地の占有として「撤去してほしい」という権利(物権的請求権)が生じます——これは民法(実体法)の話です。「実際に裁判所でその権利を主張して、強制的に撤去させるにはどうするか」——これが民訴法(手続法)の話です。「民法が決め、民訴法がそれを実現する」という二層構造です。上下ではなく役割分担です。実体法がなければ何の権利を実現するか分からない。手続法がなければ権利があっても実現できない。2つが揃って初めて機能します。建物の設計図と建設工事の関係です。設計図(実体法)がどんなに完璧でも、工事(手続法)の手順なしには建物は建たない。工事の手順がどんなに整っていても、設計図なしでは何を建てるか分からない。

覚えるポイント — 実体法 vs 手続法の役割分担
- 実体法=権利・義務の「発生要件と効果」を定める(例:民法・刑法・会社法)
- 手続法=権利・義務を「実現する手続」を定める(例:民訴法・刑訴法)
- 民法=「AはBに100万円の返還請求権を持つ」と決める
- 民訴法=「その権利を裁判所で実現する方法」を定める
- ※2つは役割分担・上下関係ではない
例えば「民訴法の条文はなぜこういう規定になっているか」という解釈問題。民訴法は手続法として、実体法が決めた権利義務を「正確に・公平に・速く実現する」ことを目的とします。だから手続の細かな要件(訴状の記載事項・期間の計算方法など)は「権利実現をスムーズにするため」という趣旨から解釈できます。目的論(次のステップ4)と組み合わせると、条文解釈の根拠がより明確になります。
ステップ4:民事訴訟の目的——多元説(権利保護・私法秩序維持・紛争解決)

いい問いです。これが目的論の出発点です。民事訴訟制度の存在意義については、学説上いくつかの考え方がありますが、現在の通説は多元説——複数の目的を複合的に把握するという考え方です。3つの目的を一つずつ見ていきましょう。権利保護です。前回の回でも確認しましたが、民法が「権利がある」と言っても、自力救済は禁止されています。お金を貸した相手の財布から勝手に取り返したら窃盗罪になりかねない。だから国家が代わりに、強制力をもって個人の権利を守る——これが権利保護という目的です。二つ目は私法秩序維持です。民法などの実体法は「社会のルール」を定めていますが、それだけでは机上の空論です。具体的な紛争を裁判所が裁くことで、そのルールが「本当に守られる」という社会的秩序が維持されます。正確です。判決の積み重ねが実体法の内容を社会に浸透させ、法的安定性を生み出します。三つ目は紛争解決です。当事者間の争いを終わらせて、平和な状態を作ること。これも重要な目的です。多元説の核心はそこです——3つを複合的に把握する、つまり優先順位をつけない。どれか一つだけに絞ると説明できない場面が出てきます。権利保護だけでは「なぜ判決に公益的な意義があるか」が説明できない。紛争解決だけでは「なぜ手続保障が重要か」が説明できない。

これは非常に多くの初学者がひっかかるポイントです。民事訴訟は「真実発見は絶対的な目的ではない」。もし裁判所が「絶対的な真実」を追求し続けたとしたら、何が起きるか考えてみましょう。「この証拠で十分かどうか分からない。もっと調べよう」「この証人が嘘をついているかもしれない。もっと尋問しよう」——どこで止まればいいか分からなくなります。裁判が終わらないということは、紛争が解決しないということです。隣人トラブルが10年たっても決着しない、そんな状況は誰にとっても不幸です。だから民事訴訟は「紛争解決 > 真実発見」という優先順位を採ります。当事者が証拠を出さなかったら、それが不利に働く(証明責任)。口頭弁論が終結したら、その後に出てきた証拠は原則として使えない。これらはすべて「真実の完全な発見より、紛争の終局的な解決を優先する」という思想から来ています。刑事訴訟は違います——これは後のステップ6(民訴 vs 刑訴比較)で詳しく見ます。刑事では「無実の人を処罰しない」という要請から、真実発見がより重く位置づけられます。民事と刑事でこの点が決定的に異なる、ということを覚えておいてください。
ステップ5:適正・公平 vs 迅速・経済の天秤——民訴2条

民訴法の条文を解釈するとき、常に2つの要請がぶつかります。一方に「適正・公平」——当事者に十分なチャンスを与えて、正しい結論を導く(慎重さ・手続保障)。他方に「迅速・経済」——速く、コストをかけずに手続を進める(速さ・効率)。民訴の条文解釈はこの2つのバランスをとることが基本です。具体例で考えましょう。「手続保障(適正・公平)」の方向では何が要求されるか。相手の言い分を聞かずに勝手に判決を出すことはできません(双方審尋主義)。秘密の裁判で一方だけを勝たせることもできません(公開原則)。では「迅速・経済」の方向では何が要求されるか。2つ覚えてください。手続安定(瑕疵の治癒)と法的安定です。まず手続安定。手続に多少のミスがあっても、後から追認すれば有効になる、という考え方です。民訴34条2項を見ましょう。
条文
民事訴訟法 第34条第2項(訴訟能力等の欠缺を看過した場合)
代理権のない人が勝手に訴訟を起こした——本来は無権代理として訴訟行為は無効です。でもその後に本人または法定代理人が追認したときは、最初から有効な訴訟行為として効力が生じます(34条2項)。なぜそんなルールが必要か——もしすべての手続の瑕疵が「ずっと無効」として後から攻撃できるとしたら、手続が安定しません。「あの手続は実は無効だった」という主張が何年後でもできてしまう。迅速・経済の要請から、一定の瑕疵は追認で治癒できる、というルールが設けられています。こちらは既判力の話につながります。一度判決が確定したら、書類の不備があっても、後から出てきた証拠があっても、簡単には覆せない。「もう決着がついた」という法的安定性を守ることで、紛争の蒸し返しを防ぎます。

この条文がこの回の核心です。よく見てください。
条文
民事訴訟法 第2条(裁判所及び当事者の責務)
ここで最重要の注意点です。短答でほぼ確実に出る引っかけです。この条文の正確な文言は「公正かつ迅速」——「公正」という字を使っています。「適正かつ迅速」は誤りです。これは旧い教材や参考書に残っている表記で、現行の条文正文ではありません。短答で「民訴2条は裁判所が適正かつ迅速に行われるよう努めなければならないと定める」という選択肢が出たら、×です。

ここが最重要の区別です。「適正・公平 vs 迅速・経済」——これは講学上の概念整理です。学者が民訴の目的の対立軸を整理するために使う言葉です。「公正かつ迅速」——これは民訴2条の条文の文言です。この2つは別物です。混同すると、条文の言葉と学説の整理をごちゃ混ぜにした不正確な答案になります。「民訴法の解釈では適正・公平と迅速・経済を調整する必要がある」——これは講学上の整理として正しい。「民訴2条は『公正かつ迅速』と定め、裁判所にその努力義務を課している」——これが条文の正確な説明。「民訴2条は『適正かつ迅速』と定める」——これは誤り。条文の文言を言い間違えている。

覚えるポイント — 民訴2条・最重要区別(短答頻出)
- 民訴2条の正文=「裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め…」
- 講学上の対立軸=「適正・公平 vs 迅速・経済」(学術的整理の概念)
- ⚠「適正かつ迅速」は短答ひっかけ=誤り
- ※条文の「公正」と講学の「適正・公平」は別物・どちらも覚える
もう一点、民訴2条の後半も確認しましょう。「当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。」これが信義誠実の原則(信義則)の明文化です。当事者側にも手続を誠実に進める義務があります。証拠を隠したり、嘘の主張を繰り返したりすることは、この信義誠実の原則に反します。訴訟は裁判所と当事者の両方で作る手続です。2条はその双方に基本姿勢を要求しているわけです。
ステップ6:民訴 vs 刑訴の比較(3軸対比)

共通点もありますし、決定的な違いもあります。共通点から見ましょう。どちらも手続法です。民法と刑法という実体法を実現するための手続を定める法律という立場では共通しています。そして憲法32条——「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない」——という権利を具体化する制度という点でも共通しています。大きく4軸で比較します。まず誰 vs 誰か。民事訴訟は「私人 vs 私人」——お金の貸し借り、隣人トラブル、離婚……個人と個人の争いです。刑事訴訟は「国家 vs 個人」——検察官が国を代表して被告人を訴追します。二つ目は基本目的。民事訴訟は「私的紛争の解決」——当事者の意思を尊重して紛争に決着をつけます。刑事訴訟は「国家の刑罰権の実現と真実発見」——被告人が本当に犯罪を犯したかどうか、その真実を徹底的に追求します。三つ目は主題(何を決めるか)。民事訴訟は「現在の権利の存否」を決めます。判決は「口頭弁論終結時において、この権利があるかどうか」を確定します。ブロック塀の撤去を求める裁判なら「今この時点でAに撤去を請求する権利があるか」が問われます。過去の事実(10年前に誰が建てたか等)は、現在の権利を証明するための材料にすぎません。一方、刑事訴訟は「過去の事実の存否」——「あの日、被告人が本当にその行為をしたのか」という過去の事実が主題です。四つ目は天秤(何のバランスをとるか)。民事訴訟の天秤は「適正・公平 ↔ 迅速・経済」——先ほど見た天秤です。刑事訴訟の天秤は「真実発見 ↔ 人権保障」——犯罪の真実を追求する一方、無実の人を処罰しないための人権保障との調整です。民事は「当事者間の紛争を解決する」という比較的穏やかな場面。刑事は「国家権力が個人の自由を奪う」という重大な場面。天秤の内容が異なるのは当然です。

覚えるポイント — 民訴 vs 刑訴 3軸比較(短答頻出)
- 誰 vs 誰:民事=私人 vs 私人 / 刑事=国家 vs 個人
- 基本目的:民事=私的紛争解決(当事者意思尊重)/ 刑事=刑罰権実現・真実発見徹底
- 主題:民事=現在の権利の存否(口頭弁論終結時)/ 刑事=過去の事実の存否
- 天秤:民事=適正・公平 ↔ 迅速・経済 / 刑事=真実発見 ↔ 人権保障
- ※どちらも手続法・憲32条を具体化(共通点)
少し掘り下げましょう。例えばAがBに100万円を貸した。口頭弁論終結前にBが返済したとします。「口頭弁論終結時点でAのBに対する返還請求権が存在するか」という観点では、返済済みならもう請求権はない。だから被告Bは「訴訟の途中で返済した」という事実を口頭弁論終結前に主張・立証できれば、Aの請求は棄却されます。この「現在の権利」という視点は、後に学ぶ「既判力の時的範囲(口頭弁論終結時を標準時とする)」と直結しています。今はこの基準があるということだけ押さえてください。目的からの逆算という学習のポイントがあります。「民訴は個人間の紛争解決の手続だから、当事者の意思が尊重される」——これが処分権主義(246条)や和解優先の態度に繋がります。「刑事は国家が個人を訴追する手続だから、人権保障が特に重要になる」——これが令状主義や黙秘権に繋がります。制度の目的から各原則・条文を理解することで、暗記でなく論理の流れで覚えられます。
まとめと次回予告


覚えるポイント — 今日のまとめ(#2 訴訟と非訟・民事訴訟の目的)
- 終局性=示談・調停・非訟(覆せる)vs 民事訴訟の確定判決(覆せない)が決定的な違い
- 訴訟 vs 非訟(7項目):終局性・公開性・手続形態・基本原理・手続原則・当事者構造・裁判形式
- 純然たる訴訟事件=憲82条・32条上、公開・対審の訴訟手続が必要(最高裁大法廷)
- 実体法 vs 手続法:民法が権利を決め、民訴法がその実現手続を定める(二層構造)
- 多元説(通説):権利保護・私法秩序維持・紛争解決の3つを複合的に把握(×真実発見)
- 🔴民訴2条正文=「公正かつ迅速」(「適正かつ迅速」は誤り・短答ひっかけ)
- 講学上の対立軸=「適正・公平 vs 迅速・経済」(条文の言葉ではない)
- 民訴 vs 刑訴:誰 vs 誰・基本目的・主題(現在の権利 vs 過去の事実)・天秤が異なる
終局性があるから丁寧な手続(適正・公平)が必要で、でも速さ・コスト(迅速・経済)との調整が必要で、その根拠が民訴2条「公正かつ迅速」——一本の縦糸で繋がっています。短答で最も問われる引っかけの一つです。何度も見返してください。条文の正文と講学上の整理——この区別も重要です。「適正・公平 vs 迅速・経済」という対立軸は正しい学術的整理ですが、それは民訴2条の文言ではない。2条は「公正かつ迅速」という言葉を使っています。「当事者」の問題——誰が訴訟を起こせるか、誰を相手に訴えるか、複数の当事者がいる場合はどうするか——を扱います。当事者能力・訴訟能力・当事者適格という3つの概念を中心に進めます。