所有権留保
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第3章 担保物権 #149/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
車検証の名義は、自分ではなかった
図:車検証のイメージ板
- 「使用者」欄=買主Bの名前
- 「所有者」欄=売主Aの名前
- 占有=B、所有権=Aという分離を1枚で示す
ローンで車を買って、毎月きちんと払っている。車検証を見ると、所有者の欄に書いてあるのは自分の名前ではありません。この車は、いったい誰の物なのか。今日はこの問いから、所有権留保という担保の仕組みに入っていきます。先に答えを言っておくと、車を使っているのは自分でも、代金を払い終えるまでは、所有権という最後のカードを売主の側が握っています。そのカードをどこまで強く切れるのかが、今日の判例3件に共通する問いです。
占有は先に、所有権はあとで
図:所有権留保の基本形
- 売主Aは自動車を買主Bに引き渡す(占有移転)が、代金完済までは自動車の所有権をAの手元に留める旨の特約を、売買契約の際に付ける
- 占有=B、所有権=A
まず基本形です。自動車の割賦販売を考えましょう。売主のAさんは、買主のBさんに自動車を引き渡します。占有は先にBさんへ渡ります。ところが、代金を完済するまでは、自動車の所有権をAさんの手元に留める、という特約を売買契約に付けます。これが所有権留保です。なぜ、占有だけ先に渡して、所有権はあとに残すんですか。普通の担保みたいに、抵当権を設定すればいいんじゃないですか。そこが出発点です。自動車のような動産には、抵当権を設定できません。ではBさんの手元にすでに引き渡した後、Aさんに何か担保の手立てが残っているかというと、ほとんど残っていません。同時履行の抗弁は、引渡しが終わった後ではもう働きませんし、動産の先取特権も、先取特権の回で見たとおり、Bさんが車を第三者に売って引き渡してしまうと、もう追いかけられません。そこで売主は、いちばん強力な手立てを使います。自分がもともと持っている所有権そのものを、代金完済まで手放さない、という方法です。
よく整理できていますね。譲渡担保は、もとは買主(設定者)の所有物を、担保のために債権者へ移す構成です。所有権留保は逆に、もとから売主の所有物である自動車について、その所有権を移さずに、そのまま留める構成です。移す担保と、留める担保。この向きの違いが、所有権留保のいちばんの特徴です。
図:売主の地位の板
- 占有はBに渡っているが、Aは自動車の間接占有(代理占有)を有する
- 代理占有に基づき、178条の引渡しを備えているものとして、留保所有権を第三者にも対抗できる(最判昭49・7・18=第三者異議の訴えの根拠として名前出しのみ)
できます。占有改定のときと同じ理屈で、Aさんは買主Bさんを介した間接占有、つまり代理占有を持っていると扱われます。178条の引渡しを備えている以上、留保所有権を第三者にも対抗できます。たとえば、この自動車に対してBさんの一般債権者が差押えをかけてきたような場面で、Aさんが「これは自分の物だ」と主張する根拠になります。このときAさんが使うのは、譲渡担保の回で見た第三者異議の訴えです。手続の中身は民事執行の話なので、名前だけ押さえておいてください。
判例は所有権的構成をとる
図:法的性質の板
- 問題の所在=形式は所有権留保・実質は担保
- 所有権的構成=Aが所有権をそのまま持つと見る/担保的構成=Aが持つのは担保権にすぎず所有権はBに残ると見る
- 判例=所有権的構成を一貫してとる
前の回で見た、譲渡担保の法的性質が場面ごとに使い分けられていたこと、覚えていますか?所有権的構成と担保的構成の対立です。所有権留保にも、同じ対立があります。ところが所有権留保では、判例は一貫して所有権的構成をとります。理由は、もとから売主の物だったという点にあります。譲渡担保は、もともと設定者の物だった所有権を、わざわざ債権者へ移すところから始まります。だから、形式と実質のずれが最初から大きく、場面によって実質を重く見る必要が出てきます。所有権留保は逆に、売主が所有権を移さないという形式を自分で選び、買主もそれを承知で買っています。その選んだ形式を尊重するので、原則として、転売されても売主は取り戻せる、という所有権どおりの結論になります。ただ、この後の判例で見るとおり、留保所有権が代金の担保のためにあるという実質は、撤去義務や倒産の場面で顔を出します。
弁済期の前か後かで、義務の重さが変わる
図:撤去義務事案の板
- 駐車場所有者Cが、自動車の代金を立替払いして所有権を留保している信販会社Aに対し、土地所有権に基づき自動車の撤去と駐車場明渡しを求めた
- 原審=留保所有権は担保権にすぎないとして請求棄却→最高裁が破棄差戻し
ここからは、留保所有権をめぐる判例3件に入ります。1件目は、留保所有権者が負う撤去義務についてです。駐車場の土地所有者Cさんが、自分の土地に放置された自動車の撤去と、駐車場の明渡しを求めた事案です。相手は、その自動車の代金を立て替えて支払い、所有権を留保している信販会社Aさんでした。信販会社は、車を使ってもいないし、放置したのも自分ではないのに、それでも撤去する義務を負うんですか。そこが、この判決の核心です。原審は、留保所有権は実質的に担保権にすぎないから、撤去義務を負わないとして、Cさんの請求を退けました。ところが最高裁は、これを破棄して審理を差し戻しました。
判例最判平21・3・10
留保所有権者の撤去義務(規範) 動産の購入代金を立替払する者が立替金債務が完済されるまで同債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において,所有権を留保した者(以下,「留保所有権者」といい,留保所有権者の有する所有権を「留保所有権」という。)の有する権原が,期限の利益喪失による残債務全額の弁済期(以下「残債務弁済期」という。)の到来の前後で上記のように異なるときは,留保所有権者は,残債務弁済期が到来するまでは,当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても,特段の事情がない限り,当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが,残債務弁済期が経過した後は,留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはないと解するのが相当である。
判例最判平21・3・10
留保所有権者の撤去義務(理由・不法行為の要件) なぜなら,上記のような留保所有権者が有する留保所有権は,原則として,残債務弁済期が到来するまでは,当該動産の交換価値を把握するにとどまるが,残債務弁済期の経過後は,当該動産を占有し,処分することができる権能を有するものと解されるからである。もっとも,残債務弁済期の経過後であっても,留保所有権者は,原則として,当該動産が第三者の土地所有権の行使を妨害している事実を知らなければ不法行為責任を問われることはなく,上記妨害の事実を告げられるなどしてこれを知ったときに不法行為責任を負うと解するのが相当である。
まず言葉を確認すると、残債務弁済期とは、Bさんの支払が滞って、期限の回で見た期限の利益、つまり分割で払ってよい利益を失い、残りを一括で払うべき時のことです。弁済期が来るまで、留保所有権者が持っているのは、動産の交換価値を把握しているだけの状態です。担保としての性質が前面に出ている段階ですから、撤去義務は原則としてありません。ところが弁済期が経過すると、留保所有権者は、その動産を占有し処分できる権能を持つ主体に変わります。もう所有者として振る舞える段階に入るので、撤去義務を免れなくなります。決め手は、物権的請求権の相手方の回で見た物差し、つまり、誰が今その物を動かす権限を持っているかです。弁済期前は、Bさんが約束どおり車を使う権利を持っていて、留保所有権者は車を勝手に引き揚げられません。動かす権限の無い者に、どけろとは言えない。弁済期を過ぎれば、引き揚げて売ることができるので、動かせる者として撤去の責任を負います。
⭐ 論文で書く規範:留保所有権者の撤去義務(規範) 留保所有権者は、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産が第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても、特段の事情がない限り、撤去義務や不法行為責任を負わないが、残債務弁済期が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するからといって撤去義務や不法行為責任を免れない。 (出どころ=規範創出型(最判平成21年3月10日))
図:撤去義務の時間軸板
たとえば、Bさんの支払が滞り、残りを一括で払うべき残債務弁済期が来年の3月に来るとします。今年の10月の時点で、この自動車が第三者の土地に放置されていても、まだ弁済期前ですから、信販会社に撤去義務は原則として生じません。ところが、3月の弁済期を過ぎてもなお放置されたままなら、今度は撤去義務を負います。同じ「放置されている」という状態でも、弁済期をまたぐだけで結論が入れ替わります。弁済期経過後であっても、留保所有権者は、原則として、動産が第三者の土地所有権の行使を妨害している事実を知らなければ、不法行為責任を問われません。妨害の事実を告げられるなどして知ったときに、初めて不法行為責任を負います。知らないうちに勝手に責任を負わされることはない、という形の過失責任の枠です。
譲渡担保でも、弁済期の前か後かで、設定者や第三者との関係が変わる場面を見ました。ここでも同じで、「担保としての権利にとどまる段階」と「所有者として振る舞える段階」の境目が、弁済期にある、という構造は共通しています。もう1つ、この判決の射程です。最高裁が判断したのは、信販会社が代金を立て替えて所有権を留保する型でした。売主自身が留保する型に同じ結論がそのまま及ぶかまでは、この判決は述べていません。
誰の名前で、誰の債権を担保しているか
図:三者契約の板
- 上告人(買主)・販売会社・被上告人(信販会社)の三者契約
- 信販会社は買主に対する立替金債権を担保するため自動車の所有権を留保
- 買主が個人再生手続開始決定を受け、信販会社が別除権として自動車の引渡しを請求
- 買主は「登録名義は販売会社のまま、信販会社は登録を得ていない」と主張
2件目の判例です。信販会社が代金を立て替えて、自ら所有権を取得する型を見ます。買主、販売会社、信販会社の三者契約です。販売会社が買主に自動車を販売し、信販会社がその代金を立て替えて支払う。信販会社は、この立替金債権を担保するために、自動車の所有権を留保します。販売会社が持っていた留保所有権を、信販会社がそのまま引き継ぐ、というイメージでいいですか。そこが、この判決でいちばん大事なポイントです。原審はまさにそのイメージで判断しました。販売会社が留保していた所有権が、代位によって信販会社へ当然に移転する、だから販売会社が対抗要件を備えていれば、信販会社は自分で対抗要件を備える必要はない、という理屈です。この事案で買主は個人再生手続の開始決定を受け、信販会社が別除権として自動車の引渡しを求めました。別除権というのは、倒産手続の中でも、担保権者として目的物から優先的に回収できる地位のことです。買主側は、登録名義がまだ販売会社のままで、信販会社は登録を得ていないから、別除権の行使は許されないと争いました。原審は信販会社を勝たせましたが、最高裁はこれを破棄します。
判例最判平22・6・4
三者契約の法的構成 本件三者契約は,販売会社において留保していた所有権が代位により被上告人に移転することを確認したものではなく,被上告人が,本件立替金等債権を担保するために,販売会社から本件自動車の所有権の移転を受け,これを留保することを合意したものと解するのが相当であり,被上告人が別除権として行使し得るのは,本件立替金等債権を担保するために留保された上記所有権であると解すべきである。
信販会社が担保するのは、販売会社の債権ではなく、信販会社自身の立替金等債権です。だから信販会社が別除権として行使できるのは、その自分の債権を担保するために留保した、自分自身の所有権です。販売会社から代位で受け継いだものではありません。
判例最判平22・6・4
別除権行使に必要な登録 再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには,個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から,原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記,登録等を具備している必要があるのであって(民事再生法45条参照),本件自動車につき,再生手続開始の時点で被上告人を所有者とする登録がされていない限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,被上告人が,本件立替金等債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。
足りません。理由は、再生手続の中では、個別に権利行使ができない一般の債権者と、再生手続によらずに担保として優先回収できる債権者との間で、公平を図る必要があるからです。そのため、原則として再生手続開始の時点で、その担保権について登記・登録を備えている必要があります。信販会社自身が留保しているのは、販売会社とは別の、自分固有の所有権ですから、販売会社名義の登録では、信販会社自身の担保について登記・登録を備えたことにはなりません。倒産手続の細かい用語よりも、「誰の債権を担保しているかに対応する形で、誰の名義で登録するかが決まる」という一点をつかんでおいてください。ただし、最高裁が判断したのは、この事件の三者契約をどう読むか、でした。契約の組み方が違って、販売会社の権利を代位で受け継ぐと読める場合まで、同じ結論になるとは言っていません。
転売に協力しておいて、あとから取り戻すのは筋が通らない
図:サブディーラー事例の三者図
- ディーラーA→サブディーラーD→ユーザーC
- DがCに自動車を販売し(AはDC間売買の履行に協力)、CはDに代金を完済して引渡しを受けた
- その8日後、AはDに同じ自動車を所有権留保付きで売却
- Dが不払いのためAはDとの契約を解除し、留保所有権に基づきCに返還請求
3件目の判例です。ディーラーAさんが、サブディーラーのDさんに自動車を卸し、DさんがユーザーのCさんに販売する、という三層の流通です。Cさんは、Dさんから自動車を買い受けて、代金を完済し、引渡しも受けました。ディーラーのAさんは、このDさんとCさんの間の売買契約の履行に協力していて、車検手続や自動車税の手続なども代行していました。ところが話はここで終わりません。それから日が経って、Aさんは、Dさんとの間で、同じ自動車について、代金完済まで所有権を留保する旨の約定を付けて売却する契約を結びます。Dさんが割賦金の支払を怠ったため、Aさんはこの契約を解除し、留保された所有権に基づいて、すでに代金を完済しているCさんに対して、自動車の引渡しを求めました。
判例最判昭50・2・28
サブディーラー事例と権利濫用 上告人は、デイーラーとして、サブデイーラーであるDが本件自動車をユーザーである被上告人に販売するについては、前述のとおりその売買契約の履行に協力しておきながら、その後Dとの間で締結した本件自動車の所有権留保特約付売買について代金の完済を受けないからといつて、すでに代金を完済して自動車の引渡しを受けた被上告人に対し、留保された所有権に基づいてその引渡しを求めるものであり、右引渡請求は、本来上告人においてサブデイーラーであるDに対してみずから負担すべき代金回収不能の危険をユーザーである被上告人に転嫁しようとするものであり、自己の利益のために代金を完済した被上告人に不測の損害を蒙らせるものであつて、権利の濫用として許されないものと解するを相当とする。
できません。最初に、所有権留保では転売されても原則は取り戻せる、と言いました。この事件は、その原則が通らなかった例です。最高裁は、この請求を、権利濫用の回で見た1条3項の権利の濫用として退けました。Aさんは、DさんとCさんの間の売買契約の履行に協力しておきながら、その後Dさんとの間だけで所有権留保を付けています。それなのに、Dさんが払えなくなったからといって、すでに代金を完済したCさんに対して留保所有権を持ち出すのは、本来Aさんが自分でDさんに対して負うべき代金回収不能のリスクを、無関係なCさんに押し付けるものだ、という理由です。
⭐ 論文で書く規範:サブディーラー事例の権利濫用(規範) 留保所有権に基づく引渡請求は、①売主が転売の履行に協力し、②買主が代金を完済し、③所有権留保がその転売の後に付されたこと等の事情から、代金回収不能の危険を買主に転嫁し、自己の利益のために代金を完済した者に不測の損害を蒙らせるものと評価できるときは、権利の濫用(1条3項)として許されない。 (出どころ=規範創出型(最判昭和50年2月28日))
①売主が転売に協力したこと、②買主が代金を完済していること、③所有権留保がその転売の後に付されたこと、これらの事情から、代金回収不能の危険を買主に転嫁するものだと評価されて、権利濫用になりました。実は、留保を付けた順番そのものが決め手ではありません。最初から所有権留保を付けたうえで転売を容認し、買主が留保の存在を知らないまま代金を完済していた、という事案でも、同じように権利濫用が認められた判決があります。危険を誰に押し付けるのかという実質が変わらなければ、順番が入れ替わっても結論は変わらないということです。
いま見た規範の枠組みが、留保所有権の行使を権利濫用として論じるときの骨格になります。もう一つ押さえておきたいのが、転得者が所有権留保の存在を知っていたか、という第4の要素です。転得者がそれを知りながら買い受けていた場合には、権利濫用が認められず、留保所有権に基づく引渡請求が通った判決もあります。転得者が留保を知らずに代金を完済しているほど、権利濫用が認められやすくなる、という傾向です。
2025年、所有権留保も条文になった
図:新法総論板
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(令和7年法律第56号)は未施行
- 所有権留保は2条16号で正面から定義されている
- イ型=売主が留保する型(通常の割賦販売)
- ロ型=第三者(信販会社等)が代金を支払って所有権を取得する型(さっきの平22判決の構図)
ここまで見てきた判例の積み重ねが、2025年に成立した新しい法律で条文になりました。以前の回で確認したとおり、不動産の譲渡担保は新法の対象外ですが、所有権留保はこの新法で正面から定義されています。まずは定義から見ましょう。
条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律2条16号
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第2条第16号 十六 所有権留保契約 次に掲げる契約をいう。イ 動産(抵当権の目的とすることができるもの(第一号イ(1)及び(2)に掲げるものを除く。)を除く。以下同じ。)の所有権を移転することを内容とする売買その他の契約(ロにおいて「売買契約等」という。)であって、当該動産の代金の支払債務その他の金銭債務を担保するため、その金銭債務の全部の履行がされるまでの間は、当該動産の所有権を当該動産の所有権を移転すべき者に留保する旨の定めのあるもの ロ 売買契約等の当事者のうち当該売買契約等の目的である動産の所有権の移転を受けるべき者が、第三者に対し、当該動産の所有権を移転すべき者に対する当該動産の代金その他の金銭の支払を委託し、当該者が、その支払を受けたときに、当該金銭の償還債務その他の金銭債務の担保として、当該第三者に当該動産の所有権を取得させることを約する契約であって、その金銭債務の全部の履行がされるまでの間は、当該動産の所有権を当該第三者に留保する旨の定めのあるもの
ロ型は、さっき見た平成22年判決の三者契約の構図がそのまま条文になった形です。第三者、つまり信販会社が、買主に代わって代金の支払を引き受け、その支払を受けたときに、償還債務を担保として自動車の所有権を取得する。この「第三者に所有権を取得させることを約する契約」が、まさにあの三者契約でした。定義の中に、判例の構図がそのまま書き込まれています。イの冒頭、動産の定義がやけに入り組んでいますね。「抵当権の目的とすることができるものを除く」って、何を言っているんですか。ここが、今日いちばん大事な結論に関わります。「抵当権の目的とすることができるもの」というのは、不動産や、登録された船舶・航空機のような、不動産に準じて抵当権を設定できる特別な動産のことです。それを除く、と言っているだけなら、普通の動産だけが対象になりそうです。ところが、その中の「第一号イ(1)及び(2)に掲げるものを除く」という一文が付いています。これは「除くものを、さらに除く」という二重否定です。第一号イ(1)は農業用動産、(2)は登録された自動車です。つまり、いったん「抵当権の目的にできるもの」として除外の対象に入れておきながら、農業用動産と登録自動車だけは、その除外からさらに除く、つまり戻すという書き方になっています。
図:二重否定の板
- 「動産(抵当権の目的とすることができるもの(第一号イ(1)農業用動産・(2)登録自動車を除く)を除く)」=抵当権の目的にできる物は除外だが、農業用動産・登録自動車はその除外からさらに除かれる=戻される
- 結論=登録自動車は所有権留保契約の対象動産に含まれる
最初の線引きで「抵当権の目的にできる物」を丸ごと除外の輪に入れ、次の線引きで、その輪の中から農業用動産と登録自動車だけを外に出す。結果として、農業用動産と登録自動車は、除外されず、所有権留保契約の対象動産に含まれることになります。ここで一度、「自動車は新法の対象に入る」という結論を押さえておいてください。あとで、この結論をもう一段別の条文からも確認します。
対抗要件は、登録を要する動産なら登録
図:109条の板
- 1項=所有権留保の対抗要件は留保買主等から留保売主等への引渡し
- 登記・登録を要する動産(自動車など)は留保売主等名義の登記・登録
- 2項=代金債務のみを担保する型は引渡しなしで対抗できるが、登録を要する動産は2項の例外からも除外される
次は、対抗要件を定めた条文です。
条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律109条
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第109条 所有権留保契約に基づく動産の所有権の留保は、所有権留保動産の留保買主等から留保売主等への引渡し(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産にあっては、留保売主等を所有者とする登記又は登録)がなければ、第三者に対抗することができない。2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる債務(その利息、違約金、留保所有権の実行の費用及び債務の不履行によって生じた損害の賠償を含む。)のみを担保するために締結された所有権留保契約に基づく動産の所有権の留保は、所有権留保動産(登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産を除く。以下この項において同じ。)の引渡しがなくても、第三者に対抗することができる。一 第二条第十六号イに規定する所有権留保契約における所有権留保動産の代金の支払債務 二 第二条第十六号ロに規定する所有権留保契約における償還債務(所有権留保動産の代金の支払債務を履行したことによって生ずるものに限る。)
さきほどの三者契約でいえば、信販会社自身の名義での登録が要る、という判例の結論が、そのまま明文化されています。2項はさらに踏み込んでいます。代金債務だけを担保する単純な留保、つまりイ型のような場合は、本来なら引渡しなしでも対抗できる例外が認められています。ところが、登録を要する動産は、この2項の例外からも除かれます。代金債務だけの単純な留保だから登録を省略できる、ということは無い。登録を要する動産は、常に登録が要る、という形に条文上も明確化されています。
図:110条の板
- 留保買主等について再生手続開始・更生手続開始の申立てがあったとき、またはその原因となる事実が生じたときに所有権留保契約が解除される旨の特約、または解除権を付与する特約は無効
- 対象は2条16号イ(売主自身が留保する型)に限られる
もう1つ、110条も見ておきます。
条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律110条
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第110条 次に掲げる場合に所有権留保契約(第二条第十六号イに規定するものに限る。以下この条において同じ。)が解除される旨の特約又は次に掲げる場合に該当することを理由として留保売主等に対し所有権留保契約の解除権を付与する特約は、無効とする。一 留保買主等について再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てがあったとき。二 留保買主等に再生手続開始の原因となる事実又は更生手続開始の原因となる事実が生じたとき。
そうした特約を有効にしてしまうと、倒産手続に入った途端に留保所有権者だけが一方的に契約を打ち切って自動車を引き上げられることになり、他の債権者との公平が崩れます。それを防ぐための無効規定です。さっきの信販会社の三者契約、つまりロ型には、この無効規定は効かないんですか。効きません。110条が対象にしているのは、条文の冒頭にあるとおり、売主自身が留保するイ型に限られます。ロ型については、110条のような解除無効の規定は置かれていません。
自動車にも新法は効くのか——除外リストを数える
図:111条の除外リストと46条の関係を示す板
- 111条1項=前章(31条1項・38条・第一節第三款〈債権の効力〉及び第四款〈その他財産の効力〉・第二節第二款〈債権の実行〉及び第三款〈その他財産の実行〉を除く)の規定を留保所有権に準用する
- 46条は第一節第二款〈動産譲渡担保契約の効力〉の第三目にあり(直前の第二目=集合動産〈倉庫の在庫のように中身が入れ替わる動産のまとまり〉の規定40条〜45条)、除外リストのどの款にも入っていない=46条自体は準用される
- 準用の結果、31条・35条から37条まで・集合動産の規定(40条〜45条)は、登録を要する動産(登録自動車など)を目的とする留保所有権には適用されない
ここから、今日いちばんの山場です。冒頭の自動車の設例に戻ります。登録された自動車には、新法は効くのでしょうか。この問いに直接答える条文はありません。代わりに、111条が準用の除外リストという形で答えを持っています。
条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律111条1項
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第111条第1項冒頭 前章(第三十一条第一項、第三十八条、第一節第三款及び第四款並びに第二節第二款及び第三款を除く。)の規定(動産譲渡担保契約に係る部分に限る。)は、留保所有権について準用する。
ただし、いくつかの規定は除外されています。この除外リストの中を数えてみましょう。31条1項、38条、第一節の第三款と第四款、第二節の第二款と第三款。第二節は、譲渡担保権を実行する段階の規定です。第二款が債権の実行、第三款がその他財産の実行についての手続を定めています。所有権留保の対象は自動車のような特定の動産ですから、債権やその他財産の実行手続はそもそも馴染みません。だから除外されています。第一節第三款・第四款も同じ理由です。こちらは債権やその他財産についての効力の規定で、動産を対象にする所有権留保には馴染まないので、これも除外されています。
図:46条本文の確認板
- 第一節第二款「動産譲渡担保契約の効力」のうち、第二目「集合動産譲渡担保契約」に続く第三目「登記又は登録を要する動産についての適用除外」の規定
- 第一節第二款は111条の除外リストのどこにも入っていない
46条はどこにあるんですか。ここが、条文を数える作業の核心です。46条は、条文の並びとしては第一節第二款、つまり前の回で見た、倉庫の在庫のように中身が入れ替わる動産をまとめて担保にする、集合動産譲渡担保の規定(40条から45条)が置かれている款の、第三目に位置しています。この第一節第二款は、さっき数えた除外リストのどこにも入っていません。
条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律46条
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第46条 第三十一条、第三十五条から第三十七条まで及び前目の規定は、登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産を目的とする動産譲渡担保契約については、適用しない。
ただし、46条自身は、いま見たとおり除外リストの外にあります。だから46条は、111条によってそのまま留保所有権に準用されます。
図:結論の板
- 111条の除外リスト=31条1項・38条・第一節第三款(債権の効力)・第四款(その他財産の効力)・第二節第二款(債権の実行)・第三款(その他財産の実行)
- 46条の所属=第一節第二款(動産譲渡担保契約の効力)の第三目(直前の第二目=集合動産40条〜45条)=除外リストに入っていない=46条自体が留保所有権に準用される
- 46条の効果=登記・登録を要する動産(登録自動車など)を目的とする留保所有権には、31条・35条から37条まで・前目(集合動産40条〜45条)の規定を適用しない
- 結論=登録自動車の留保所有権には、集合動産の規定と占有改定の順位特例などが適用されないが、2条16号の定義・109条の対抗要件・110条の解除無効特約という新法の骨格はそのまま及ぶ
準用された結果、登録を要する動産、つまり自動車のような登録動産を目的とする留保所有権には、31条・35条から37条まで、そして集合動産の規定(40条から45条)が適用されなくなります。ただし、ここで押さえてほしいのは、これで新法の骨格まで失われるわけではないという点です。2条の定義・109条の対抗要件・110条の解除無効特約は、46条が適用除外にする規定の中に含まれていません。だから、これらは登録自動車の留保所有権にもそのまま及びます。つまり、登録された自動車にも、新法の所有権留保の規定そのものは効くけれど、引渡しを基準にする規定と集合動産の規定だけが、性質上なじまないので適用されない、ということです。では、なぜなじまないのか。31条と35条から37条は、引渡しや占有改定を基準に、対抗できるか、どちらが優先するかを決める規定です。登録自動車は、109条で見たとおり、登録でしか対抗できません。引渡しを基準にする規定は、出番がないのです。集合動産の規定も、さっきの在庫のようにまとめて押さえる仕組みで、1台ずつ登録する自動車とは噛み合いません。逆に、登録の無い動産、たとえば分割払いで買ったパソコンの所有権留保なら、46条の外なので、占有改定の順位を決める36条なども準用されます。ここで、さっき二重否定で確認した「登録自動車は所有権留保契約の対象動産に含まれる」という結論と、109条で確認した「登録動産は常に登録が要る」という結論、この2つとあわせて、冒頭の自動車の設例に戻ってください。Bさんの車検証の所有者欄にAさんの名前があるという状態は、まさに109条が求める登録そのものです。新法のもとでも、この車検証の仕組みはそのまま続きます。
図:附則の板
- 附則2条=この法律の規定は、施行日前に締結された譲渡担保契約及び所有権留保契約についても、原則として適用する(施行前に生じた効力は妨げない)
- 附則5条2項=施行日前に占有改定で対抗要件を備えていた留保所有権について、施行から2年以内に所有権留保登記をすれば、占有改定以外の方法で対抗要件を備えたものとみなす経過措置を準用
最後に、附則も確認しておきます。
条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律附則2条
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律附則第2条 この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に締結された譲渡担保契約及び所有権留保契約についても適用する。ただし、施行日前に生じた効力を妨げない。
所有権留保契約についても、この原則は変わりません。附則にはもう1つ、経過措置があります。施行日より前に、占有改定によって留保所有権の対抗要件を備えていたケースについて、施行から2年以内に所有権留保の登記をすれば、占有改定以外の方法で対抗要件を備えたものとみなす、という規定です。ここでは結論だけ押さえます。既存の所有権留保契約が、新法の登記の仕組みに乗り換えられるようにする配慮だと理解しておいてください。
所有権留保の結論を、1枚でつなぐ
図:前編まとめの対比板
- 判例法理と新法の対応関係を1行ずつ並べる
- ①撤去義務(最判平21・3・10)=弁済期前は原則撤去義務なし・弁済期後は撤去義務あり(判例法理のまま・新法に明文なし)
- ②第三者与信型(最判平22・6・4)=信販会社は自己名義の登録が必要→新法109条1項で明文化
- ③サブディーラー事例(最判昭50・2・28)=転売協力後の留保主張は権利濫用1条3項(一般法理のまま・新法に明文なし)
- ④新法の骨格(2条16号・109条・110条)は46条の適用除外に入らず、登録自動車にもそのまま及ぶ
最後に、今日見た3件の判例と新法の関係を、1枚の板でつなぎ合わせます。撤去義務の判例は、弁済期の前後で結論が分かれるという規範を打ち立てましたが、この規範自体は新法には明文化されていません。今後もこの判例法理がそのまま使われます。第三者与信型の判例は、信販会社が自己名義の登録を備える必要があるという結論を導きましたが、こちらは新法109条1項でそのまま条文になりました。サブディーラー事例の権利濫用も、撤去義務の判例と同じく、新法には明文の規定がなく、1条3項の一般法理として今後も生き続けます。そして、新法の骨格である2条16号の定義・109条の対抗要件・110条の解除無効特約は、46条が外す規定に入っていないので、登録された自動車にもそのまま及びます。
今日の冒頭の問いに戻りましょう。車検証の所有者欄に、自分ではない名前が書いてある。それは、占有はもう自分の手元にあるけれど、所有権という最後のカードを、代金を完済するまで、売主か、あるいは信販会社が握り続けている、という状態です。弁済期の前か後か、誰がそのカードを握っているか、誰に対してそれを主張するのかによって、留保所有権の強さは変わってきます。そして2025年の新法は、この積み重ねの骨格部分を明文化しつつ、引渡しを基準にする規定と集合動産の規定だけを、登録動産にはなじまないものとして外しています。
担保物権には、所有権留保のほかにも、まだ姿があるんですか。あります。契約の形式自体を売買にする売渡担保、代物弁済の予約に仮登記を付ける仮登記担保、そして債権の取立権限を委任される代理受領です。回収の仕方が、それぞれ違う形をしています。
参照条文
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律2条16号
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律109条
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律110条
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律111条1項
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律46条
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律附則2条