民法ゼロから民法#20

取消し②——遡及的無効121条と追認122〜124条

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第1章 民法総則 ⑳/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

これまでの想起と、今日の地図——壊す武器と、戻す物差し

これまでの想起と今日の地図

本題の前に、二つだけ思い出してみましょう。

一つ目。取消しというのは、どんな状態の行為を、誰が、どうやって壊す仕組みだったでしょうか。答え合わせです。一応は有効に成立した行為を、取消権を持つ人が、意思表示で壊す——それが取消しでした。誰でもできるわけではなく、決まった人だけに許された武器です。

二つ目。無効な行為で受け取ったものは、どう扱われたでしょうか。答え合わせです。元どおりに戻す義務がありました。原則は全部返還で、一定の人だけ、現に残っている分——現存利益——でよい、という縮減がありましたね。

この二つを土台にして、今日は5つ見ていきます。取消しの遡及効、取消し後の返還関係、追認の効果、追認という言葉の使い分け、そして追認の要件です。

遡及的無効——121条

取消しの時間軸

まず、取り消したときに何が起きるかを、条文から確認します。

条文民法121条

民法 第121条(取消しの効果) 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす

「初めから無効」——取消しの意思表示をした時から将来に向けて、ではありません。契約をした、その瞬間まで遡ります。ここが、今日いちばん最初の踏み外しポイントです。

なぜ、わざわざ過去まで遡らせるのでしょうか。取消しというのは「そもそも、この人にこの契約を負わせるべきではなかった」という、後からの評価です。制限行為能力、錯誤、詐欺、強迫——原因はいろいろですが、どれも意思決定の途中に欠陥があった、という共通点があります。欠陥は契約をした瞬間からあったものなので、契約締結前の状態まで戻すのが、いちばん筋が通っています。

具体例で確認しましょう。Aさんが、強迫を受けてBさんに絵画を30万円で売る契約を結んだとします。強迫が止んだ後、Aさんが取消しの意思表示をしました。121条どおりなら、契約は初めから無かったことになります。絵画はAさんに、30万円はBさんに、それぞれ戻ります。契約をした日まで、まるごと巻き戻るイメージです。

「みなす」という言葉にも注目してください。反証を許さない、という意味です。実際にその期間、何が起きていたとしても、法律上は無効だったものとして扱われます。

もし、取消しより前に、絵画がさらに別の人へ渡っていたら、どうなるでしょうか。取消しより「前」に出てきた人の扱いは、詐欺・強迫の回で決着させました。強迫には、その人を守る規定が無いので、取り消したAさんが勝ちます。

では、取消しの「後」に出てきた人はどうなるでしょうか。こちらは話が変わります。取消しの後に絵画を手に入れた人がいる場合は、どちらが先に対抗要件をそなえたか、という別の争いになります。対抗要件は目的物によって違い、絵画のような動産なら引渡し(178条)、不動産なら登記(177条)です。そちらは対抗要件を扱う回で、正面から見ていきます。今日は、取消しの前と後でこの境目があることだけ押さえておいてください。

取消し後の法律関係——同じ物差し、取消し特有の縮減

無効 vs 取消し 効果対比

契約が巻き戻った後、実際に何を返すのでしょうか。ここは、無効のときに立てた物差しが、そのまま動きます。121条の2です。受け取った物を返す、現物が無理なら価額で返す、という1項の原則がそのまま当てはまります。条文自体が、取消しによって遡って無効になった行為にも121条の2が適用される、と明記しています。詳しい中身は、無効の回で丁寧に見たとおりです。

今日新しく効いてくるのは、第3項です。行為の時に意思能力を有しなかった者、そして行為の時に制限行為能力者であった者は、その行為によって現に利益を受けている限度——現存利益——において返還すればよい、という縮減です。意思無能力者は、能力の回で見た、判断する力そのものを欠いた人でした。この第3項は無効と取消し両方に効く条文ですが、実際にいちばん出番があるのは取消しの場面です。制限行為能力者の契約は、たいてい「取り消せる」形で保護されているので、取消権を使った瞬間、この第3項が本領を発揮します。

具体例で見てみましょう。17歳のAさんが、保護者の同意なくBさんから5万円でゲーム機一式を買ったとします。そのうち3万円分の付属品はもう開けて使ってしまい、残り2万円分の本体は未開封のまま手元にあります。Aさんが取消しの意思表示をすると、返す義務を負うのは、手元に残っている2万円分だけです。使った3万円分までは、弁償しなくていいのです。

なぜ、返す範囲までここまで軽くするのでしょうか。取消権という保護だけでは、足りないからです。もし全額の弁償を求められるなら、契約から離脱しても損失は変わらず、取消権があっても意味がなくなってしまいます。取消権と、返還範囲の縮減は、セットで初めて機能する保護なのです。

同時履行と、2本の武器——請求権競合

同時履行と2本の返還請求

さっきの絵画の例で、AさんとBさんは同時に返すのでしょうか。片方だけ先に返す必要はありません。双方の返還義務は、同時履行の関係に立つ、と判例が示しています。相手が返すまで、自分も返さなくていい、という仕組みで、これは以前、無効の場面でも見た533条の話です。

533条は本来、双務契約から生じる債務どうしの規定です。双務契約は、無効の回で見た、互いが義務を負い合う契約でした。取消しでは契約はもう消えているので、533条を直接使うことはできません。それでも、片方だけ先に手放すのは不公平だ、という利益状況は双務契約とまったく同じです。だから、条文の趣旨を借りてくる——これを類推適用と呼びます。無効の回と同じ理屈が、取消しの場面でもそのまま動きます。

Aさんは、絵画を取り戻すのに、どんな手段があるでしょうか。2つあります。1つは、121条の2に基づく返還請求。もう1つは、所有権に基づく返還請求です。遡及効を徹底すると、絵画の所有権は最初からずっとAさんのもとにあった、ということになるからです。契約の後始末としての請求権と、物そのものへの権利に基づく請求権、どちらを使ってもかまいません。

これは判例で決まっているわけではありません。こちらは判例というより、遡及効の構造から素直に導かれる、通説——学説の中で、多くの学者が支持している見解——の理解です。

追認122条——武器を捨てると決めたら

追認122条とは

ここからは逆のケース——取り消さないと決めた場合を見ていきます。

条文民法122条

民法 第122条(取り消すことができる行為の追認) 取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない

追認したら、契約が有効になるのでしょうか。「有効になる」のではありません。取り消すことができる行為は、もともと一応有効です。無効ではありません。追認によって起きるのは、「取り消せなくなる」ということ、つまり有効が確定する、という変化です。もう二度と、取消しという武器を使えなくする、ということです。

なぜ、そんな効果になるのでしょうか。追認の法的な性質が、取消権の放棄だからです。取消権者が「もうこの武器は使いません」と表明する行為、それが追認の正体です。

具体例で見てみましょう。未成年のAさんが、親の同意なくBさんから自転車を購入したとします。取消権がある状態です。成人した後、Aさんが「もうこれでいい」と述べたとします。これが追認です。以後、Aさんはこの契約を取り消せません。有効な契約として確定します。

武器を、自分の意思で手放した——この「放棄」という性質から、今日残り全部の話が出てきます。

「追認」は3つある——遡及の有無で並べる

「追認」3種の弁別

追認という言葉は、実は民法には3つの場面で出てきます。無効な行為の追認(119条)、取り消すことができる行為の追認(122条)、そして無権代理の追認(116条)です。同じ「追認」という言葉なのに、働きはまったく違います。1つずつ確認しましょう。

まず119条、無効な行為の追認です。119条本文は、追認しても効力を生じません。ただし書は、無効だと知って追認したら、新たな行為をしたものとみなす、という内容でした。ここで大事なのは、追認した時から、将来に向けてだけ効くという点です。過去には遡りません。たとえば、意思能力を欠いた状態で結んだ売買が無効だったとします。後から当事者どうしで「これでいこう」と決めても、有効になるのは決めたその時からで、無効だった期間まで遡ることはありません。

次に122条、取り消すことができる行為の追認——今日見た規定です。こちらは、もともと一応有効なので、そもそも「遡るかどうか」という問題自体が立ちません。有効な状態が、そのまま確定するだけです。さっきの自転車の例で言えば、成人したAさんが「もうこれでいい」と言った瞬間、契約は取り消せなくなります。もともと有効だったものが、そのまま固まるだけです。

最後に116条、無権代理の追認です。代理権のない人が結んだ契約を、本人が後から自分の契約として認める場合で、中身は代理の回で扱いますが、こちらは契約の時に遡って効力を生じる、とされています。たとえば、代理権のないCさんが、本人のDさんの代理人だと名乗って、相手方のEさんと契約したとします。Dさんが後から「それでいい」と認めると、その契約は、Cさんが結んだ時点に遡って、Dさんの契約になります。119条ただし書とは逆に、こちらは遡るのです。

なぜ、こんなに違うのでしょうか。同じ「追認」という言葉でも、それぞれの制度が守ろうとしている利益が違うからです。119条は、もともと無効なものを、当事者の意思で今から作り直す制度で、過去は治せません。122条は、もともと有効だったものを、確定させるだけの制度で、遡る必要自体がありません。116条は、他人がした行為を、自分の行為として遡って引き受ける制度です。

言葉だけで覚えると、絶対に混同します。丸暗記ではなく、この表で3つとも並べて、毎回ここに立ち返ってください。

旧122条ただし書の削除——古い教材との食い違い

旧ただし書の削除

さっきの122条に、ただし書は無いのでしょうか。今の条文にはありません。ただ、これは要注意ポイントです。

実は改正前は、122条に「追認によって、第三者の権利を害することはできない」というただし書がありました。改正でこれが削除されています。

なぜ、わざわざ削除したのでしょうか。追認によって、第三者の権利が害される場面が、そもそも想定できなかったからです。追認は、もともと一応有効だった行為の効力を、そのまま確定させるだけの行為です。だから、追認によって誰かが新しく不利益を受ける、という状況そのものが起きません。

さっきの絵画の例で考えてみましょう。Aさんが取り消す前に、Bさんがその絵画を別の人に売っていたとします。ここでAさんが追認すると、その人の立場はどうなるでしょうか。悪くなりません。むしろAさんがもう取り消せなくなる分、その人の地位は安定します。探しても、追認で不利益を受ける第三者が見つからないのです。無かった不利益を防ぐための規定は、意味がなかった、ということです。

古い教材や、古い過去問には、まだこのただし書が載っています。今の民法にただし書は無い、とはっきり覚えておいてください。

124条——追認が効くための、二重の関門

124条の二重の関門

では、追認が実際に効力を持つための条件を見ていきます。

条文民法124条

民法 第124条(追認の要件) 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。 2 次に掲げる場合には、前項の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。 一 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。 二 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。

条文には、2つの条件が書かれています。取消しの原因となっていた状況が消滅した後であること、そして取消権を持っていると知った後であること。この両方がそろわないと、追認は効力を生じません。

これは丸暗記するしかないのでしょうか。そうではありません。追認の性質——さっき見た、取消権の放棄——を思い出してください。放棄が本当に意味を持つには、何が必要でしょうか。自由に決められる状態であることです。脅されたままの状態や、まだ未成年のままの状態で「もう構わない」と言っても、それは本当の自由な放棄になっていません。これが1つ目の条件です。

もう1つは、自分がその武器を持っている、と分かっていることです。持っていると知らないものは、手放しようがありません。この2つが、そのまま条文の2つの要件になっています。

具体例で確認しましょう。強迫を受けていたAさんが、まだ強迫者の影響下にあるうちに、「もう構わない」と言ったとします。1つ目の条件を満たしていないので、追認は効力を生じません。取消権は、まだ残っています。

では、強迫から解放された後はどうでしょうか。強迫から解放されたAさんが、自分に取消権があると知らないまま、代金を追加で払ったとします。これは2つ目の条件を満たしていないので、この時点では法律上の追認の意思表示としては成立しません。

状況の消滅とは、具体的には何が消えることを指すのでしょうか。錯誤や詐欺、強迫で契約した場合は、その錯誤や詐欺、強迫の影響が無くなったことを指します。制限行為能力者の場合は、行為能力者になったことです。

では、両方の門を通った例も見てみましょう。強迫がすっかり止み、しかも自分にこの契約を取り消す権利があると分かったうえで、Aさんが「もう構わない」と言ったとします。二重の関門を、両方通っています。有効な追認です。以後、Aさんはこの契約を取り消せません。

どちらの門も、通らないと意味がありません。この2つの門を、一本道のチェックポイントとしてイメージしてください。両方そろって初めて追認が効き、片方でも欠ければ、取消権はそのまま残ります。

124条2項の例外——なぜ成年被後見人だけ外れるのか

124条2項の例外

さっきの二重の関門に、例外はあるのでしょうか。あります。124条2項に、2つの例外が定められています。

1つ目は、保護者——法定代理人や保佐人、補助人——が追認をするときです。保護者が自分で追認するなら、状況の消滅を待つ必要はありません。保護者自身が判断しているので、本人の状態がどうかは関係ないからです。

2つ目は、制限行為能力者本人が、保護者の同意を得て追認するときです。これも、状況の消滅を待たなくてかまいません。ただし、これには限定が付いています。成年被後見人を除く、という限定です。

なぜ、成年被後見人だけこの例外が使えないのでしょうか。理由は、以前見た9条——成年被後見人の行為は原則取り消せる、という条文——から考えられます。同意を得て本人が追認する、という2号の枠組みは、保護者が同意すれば本人が正しく動ける、という前提に立っています。成年被後見人だと、この前提が崩れます。保護者が同意していても、本人がその同意どおりに行動できる保証がないので、この枠組み自体が機能しないのです。被保佐人や被補助人であれば、判断能力が欠ける程度が軽いので、保護者の同意さえあれば、本人が追認することに意味があります。

具体例で見てみましょう。保佐人の同意を得ずに、自分名義の土地を売る契約を結んだ被保佐人のAさんがいたとします。不動産の処分は、以前見た13条1項に挙げられた行為なので、保佐人の同意が要ります。同意がないから、取り消せる状態です。Aさんがまだ行為能力者になる前でも、保佐人の同意を得て追認すれば、有効です。

一方、成年被後見人のDさんが同じ立場だったらどうなるでしょうか。保護者の同意があっても、D自身の追認はこの例外の対象外です。Dさんの保護者が、代わりに追認するしかありません。保護者単独の追認は、1つ目の例外として、誰についても常に使えます。

仕上げ——追認の相手方と、要件を欠いた追認

追認の相手方・要件を欠く追認

追認の意思表示は、誰に対してするのでしょうか。取消しの意思表示と同じです。123条に定めがあり、相手方が確定していれば、その人に対してします。取消しでも追認でも、同じ仕組みが使われているのです。

もし、124条の門を通らないまま「追認します」と言ってしまったら、どうなるでしょうか。その追認は、効力を生じません。つまり、取消権はまだ残っています。追認したつもりでも、門を通っていなければ、効いていないのです。本人は「もう終わった話」だと思っていても、法律上はまだ取り消せる、ということで、実務でも意外と見落とされやすいところです。

今日見た追認は、意思表示でするものばかりでしたが、他のやり方もあるのでしょうか。あります。行動から追認したとみなされる場合もあります。ただし、その中身は次回まとめて扱います。今日は、意思表示による追認だけに絞って見てきました。

今日の地図(保存版)

まとめ

今日のポイントをまとめます。取消しは、初めから無効だったとみなす——これが遡及効でした。契約前の状態まで、まるごと巻き戻ります。返す範囲は、無効のときと同じ物差しですが、意思能力を欠いていた人と制限行為能力者は、現存利益で足りる、という縮減がありました。同時履行の関係と、121条の2に基づく請求・所有権に基づく請求という2本の返還請求権の話もありましたね。

追認については、有効になるのではなく、取り消せなくなる——有効が確定する、という効果でした。追認という言葉は、119条・122条・116条の3つの制度で、全部働きが違いましたね。そして、追認が効くための二重の関門と、その例外も見ました。

これは全部、取消権者の意思決定をどう扱うかという1つの視点から出ています。今日見た内容は、次回の法定追認にも、そのままつながっていきます。

参照条文

  • 民法121条
  • 民法122条
  • 民法124条

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