刑法ゼロから刑法 論文

危険の現実化①(直接実現型)の書き方

月極駐車場での口論から、甲が倒れたVの頭を安全靴で2回踏みつけ、搬送先の病院で担当医が頭部CT検査を後回しにしたまま、Vが翌朝に死亡した事例で、甲に傷害致死罪(205条)が成立するかを答案に書き切る回。担当医の落ち度が挟まっていても、死因となった傷害が甲の暴行で形成され、病院の対応が危険を別の危険に変えても、もとの危険を超えて大きくしてもいないことを事実で当てはめ、危険の現実化を認める。事実を変え、取り違え手術で死因が入れ替わる場合は因果関係が否定され、傷害罪(204条)にとどまる点も確かめる。

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ゼロから刑法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

駐車場の口論から翌朝の死亡まで 図:駐車場の口論から翌朝の死亡まで

午後6時半ごろ、市内の総合病院の処置室です。頭から血を流した男性が、ベッドに寝かされています。会話はできます。担当の医師は「話せるのだから、経過を見れば足りる」と考えて、頭部CT検査を後回しにしました。頭皮の傷口を縫っただけで、時々様子を見ることにして、ベッドを離れます。この男性が、なぜここにいるのか。順に見ます。舞台は、市街地の月極駐車場です。アスファルト舗装で、出入りは自由です。平日の夕方でした。登場するのは、設備工事会社の作業員で30代の甲と、会社員で50代のVです。Vは、この駐車場の別の区画を借りていますが、この日は区画を間違えて停めていました。

午後5時40分ごろ、仕事帰りの甲は、自分が借りている区画にVの乗用車がとまっているのを見つけました。そこへVが戻ってきて、言い争いになります。5時50分ごろ、甲は「どけろ」と怒鳴りました。Vが「間違えただけだ、すぐ動かす」と言い返すと、甲は激昂します。Vの胸ぐらをつかんで足をかけ、仰向けにアスファルトの路面へ引き倒しました。そして、倒れたVの左の側頭部を、つま先に鉄芯の入った安全靴で、力いっぱい踏みつけます。2回です。甲は「痛い目にあわせてやる」と思っただけで、死なせるつもりはありませんでした。2回で止めて、Vの様子を見て、われに返っています。Vは、左耳の上から出血し、もうろうとして、立ち上がれなくなりました。甲は自分で119番に通報し、救急隊が来るまで現場にいました。6時10分ごろ、救急隊が到着します。Vは、名前を答えられる程度に、意識が戻っていました。6時30分ごろ、Vは市内の総合病院へ搬送されます。

搬送先の病院で起きたのが、最初に述べた処置室の場面です。外科の担当医は、Vが会話できることから、経過を見れば足りると考えました。この病院には、頭を強く打った患者は、意識がはっきりしていてもまず頭部CT検査を行う決まりがありました。担当医はそれを怠っています。不注意で、わざとではありません。来院から約3時間後の9時30分ごろ、Vは嘔吐して、呼びかけに反応しなくなりました。ここで初めて頭部CT検査が行われ、左の側頭部の頭蓋骨骨折と、その下に広がった急性の硬膜外血腫が見つかります。硬膜外血腫とは、頭蓋骨と脳を包む硬い膜の間に血がたまる状態で、たまった血が脳を圧迫します。緊急手術は、10時過ぎに始まりました。手術のあとも意識は戻らず、翌朝5時ごろ、Vは亡くなりました。解剖の結果です。死因は、左の側頭部の骨折部の血管からの出血でできた硬膜外血腫が、脳を圧迫して、脳の機能が失われたことでした。死因につながるような、病院での処置や投薬による新たな傷や病変の所見は、ありません。血腫は、受傷時の骨折部からの出血が続いて広がったものです。もう1つ、鑑定があります。来院直後に頭部CT検査を行い、直ちに手術をしていれば、Vは救命できた可能性が高かった、というものです。

甲とVと担当医の関係 図:甲とVと担当医の関係

関係を、図で整理します。甲はVの頭を踏みつけ、担当医は、Vの頭部CT検査を後回しにしました。問いは、これだけです。甲の罪責を論じなさい。

罪名と条文の特定

答案は、甲が何をしたかから書き出します。甲はVの頭を踏みつけ、Vは亡くなりました。人が死亡していますから、重い罪から考えます。殺人罪には、殺すつもりが要ります。この事例は、甲に死なせるつもりがなかったことを、事実として与えています。「痛い目にあわせてやる」と思っただけで、踏みつけを2回で止め、すぐ自分で119番をしています。そこで、殺人罪ではなく、傷害致死罪を考えます。条文を見ます。

条文刑法205条

刑法205条(傷害致死) 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期拘禁刑に処する。

傷害致死罪は、暴行または傷害の故意で人に傷害を負わせ、死なせてしまった場合に、より重く処罰する罪です。傷害を負わせただけなら傷害罪ですが、死亡まで生じたので、傷害致死罪になります。死なせるつもりまでは要りません。成立要件は、条文どおりです。「身体を傷害し」と、「よって人を死亡させた」の2つです。1つ目の「身体を傷害し」は、足りています。甲には、胸ぐらをつかみ、引き倒し、踏みつける暴行の故意があります。そして、Vは頭蓋骨骨折という傷害を負いました。死亡の結果も、現にあります。ここは、答案では短く通す場所です。争点は、「よって」だけです。

「よって」で止まる——問題提起

暴行と死亡の間に挟まったもの 図:暴行と死亡の間に挟まったもの

「よって」は、甲の暴行とVの死亡の間に、つながりがあることを求めています。踏みつけは、Vの死亡の原因になっています。ただし、死亡するまでの間に、担当医が頭部CT検査を後回しにした、という他人の落ち度のある行為が挟まっています。この事例の問題提起は、こうです。担当医の落ち度が挟まっていても、甲の暴行とVの死亡との間に、「よって」と言える因果関係を認めてよいか。もし間に何も挟まっていなければ、踏みつけた傷でそのまま亡くなったと言えるので、問題になりません。担当医の落ち度が挟まったからこそ、判断の基準を立てる必要が出ます。条文には、その基準が書かれていません。そこで、基準を立てます。これが規範です。

規範

規範カード|危険の現実化による因果関係の判断 図:規範カード|危険の現実化による因果関係の判断

この基準は、解釈で立てる規範です。条文から読み取る成立要件とは違います。

⭐ 論文で書く規範:因果関係の判断基準(危険の現実化) 因果関係は、実行行為に結果を帰責させることができるかという問題であるから、①条件関係を前提に、②行為の危険性が結果へと現実化したといえる場合に、因果関係が認められると解する。 (最決平2・11・20、最決平16・2・17 ほか参照)

カードの実行行為は、結果を生む現実的な危険のある行為のことで、ここでは甲の踏みつけです。カードの前半は、結果を、その行為をした人の責任として負わせてよいか、という意味です。基準は2段です。1つ目は、条件関係です。その暴行が無ければ、その結果も無い、という関係です。2つ目が、危険の現実化です。条件関係があれば、それで足りるのでしょうか。条件関係だけでは、遡りすぎます。甲がこの月極駐車場を借りていなければ、この事件は起きませんでした。それでも、駐車場を借りたことを、Vの死の責任の根拠にはできません。駐車場を借りることは、人を死なせるような危ない行為ではないからです。結果の責任を負わせてよいのは、行為の危なさが、結果につながった場合に限られます。だから、もう1段、危険の現実化という絞りが要ります。

「現実化」という言葉の意味を、確かめます。行為には、結果を生みやすい性質、つまり危険が含まれています。頭を靴で力いっぱい踏みつける行為には、頭の骨を折り、脳を傷つけて、人を死なせる危険が含まれています。ここでいう危険は、行為そのものの客観的な危なさの話で、甲が死なせるつもりだったかどうかとは別の話です。その危険が、実際の死亡という結果になって表れたか。これが、現実化です。挟まった事情があるときに、まず確かめるのは、死因を形成したのは誰の行為か、です。Vを死に至らせた原因を作ったのは、どの行為か、ということです。行為の危険は、まず傷になり、その傷が死因になって、死亡に表れます。だから、行為者の傷害が死因なら、間に事情が挟まっていても、行為の危険は、そのまま結果に現実化したと書けます。この書き方を、直接実現型といいます。この事例では、直接実現型を、2つの点で書き切ります。1点目は、甲の暴行でできた傷が、死因そのものであること。2点目は、挟まった事情が、甲の作った危険を、別の危険に変えても、もとの危険を超えて大きくしてもいないことです。どの書き方に乗るかは、死因を見た時点で決まります。答案には、そのうえで、挟まった事情が結論に響いていないことまで書きます。挟まった事情が結論に響くとすれば、死因を別のものに入れ替えるか、甲の作った危険に上乗せするか、そのどちらかです。どちらも無ければ、死亡は、甲の作った危険だけから生じたことになります。だから、2点目まで確かめて、はじめて「そのまま」現実化したと言えます。

条件関係

条件関係:甲が踏みつけなければ 図:条件関係:甲が踏みつけなければ

条件関係は、因果関係の入り口です。これが無ければ、ここで因果関係は否定され、危険の現実化には進みません。甲が踏みつけなければ、Vは頭蓋骨の骨折も血腫も負わず、翌朝に死亡することもありませんでした。条件関係は、あります。病院が適切に処置していた場合も、一緒に考えるのでしょうか。条件関係で取り除いて考えるのは、甲の暴行だけです。確かめたいのは、甲の暴行が無ければ死亡も無かったか、の1点だからです。病院が適切だったら、という現実に無かった事情まで足すと、暴行があっても助かったか、という別の問いに答えることになります。病院の対応は、次の、危険の現実化の中で評価します。条件関係があっても、間に病院の対応が挟まっていますから、ここで終わりにはできません。

あてはめ1点目 傷が死因そのものか

規範カード|危険の現実化による因果関係の判断 図:規範カード|危険の現実化による因果関係の判断

あてはめに入る前に、1つ確かめます。挟まった事情があるとき、まず確かめるのは、死因を形成したのは誰の行為か、でした。その見方を、Vの事実に当てます。Vの死因となった傷害は、甲の暴行でできたものか。ここを、事実で決めます。

Vの傷を拾う観点 図:Vの傷を拾う観点

Vの傷を、暴行の態様(部位・回数・強さ・物)、傷の内容と経過、解剖で見た死因に分けて拾うと、どうなるでしょうか。

Vの傷を事実で拾い、評価する 図:Vの傷を事実で拾い、評価する

暴行の態様から、行為の客観的な危なさとして評価します。頭は、すぐ内側に脳がある、生命に関わる部位です。そこを、鉄芯の入った安全靴で、力いっぱい踏みつけました。しかもVは、硬いアスファルトに仰向けに倒れています。靴と路面に頭を挟まれる形になり、頭に強い力が加わります。「力いっぱい」という事実だけで、強い力と評価してよいのでしょうか。強さは、使った物と、結果の傷から裏づけられます。鉄芯入りの安全靴で踏みつけて、頭蓋骨が折れています。弱い力では、そうはなりません。同じ頭への暴行でも、手のひらで軽くはたいた程度なら、骨折も血腫も生じず、重い傷とは評価できません。部位だけでなく、回数と強さと物を合わせて、評価します。傷の内容と経過です。左の側頭部の頭蓋骨が折れ、骨折部の血管から出血して、硬膜外血腫ができました。Vは、もうろうとしたあと名前を答えられるまで戻り、約3時間後に嘔吐して反応しなくなっています。

名前を答えられたなら、軽い傷だったのでしょうか。出血が続いて血腫が広がり、脳を圧迫するまでの間は、意識が保たれているように見えます。会話ができたからといって、傷が軽かったことにはなりません。この傷害は、それ自体、死亡の結果をもたらし得る重い傷害です。解剖の結果です。死因は、その血腫が脳を圧迫して、脳の機能が失われたことでした。ほかに、死因となる所見はありません。この解剖の所見で、1点目が決まります。態様と傷の内容から重い傷と言えても、実際の死因が別のところにあれば、1点目は成り立たないからです。病院の処置でできた傷が死因ということは、ないのでしょうか。解剖では、死因につながるような、病院での処置や投薬による新たな傷や病変の所見は、ありませんでした。死因を形成したのは、甲の暴行です。

点1:死因となった傷害は甲の暴行で形成された 図:点1:死因となった傷害は甲の暴行で形成された

以上で、1点目は満たされます。Vの死因となった傷害は、甲の暴行によって形成されたものです。

あてはめ2点目 挟まった事情は危険を変えたか・大きくしたか

判例が評価の前に挙げた事実 図:判例が評価の前に挙げた事実

2点目に進みます。病院の対応が、甲の作った危険を、別の危険に変えたか、もとの危険を超えて大きくしたか。病院の対応が結論に響くとすれば、この2つのどちらかだからです。これを決めるときの、事実の拾い方を、判例で確かめます。次に挙げる判例を、事実のどこを拾うかの手本にします。判例が評価の前に並べた事実は、4つです。傷の中身、治療の経過、死因、そして、間に挟まった事情です。これを甲の事例に当てると、傷の中身は頭蓋骨骨折と硬膜外血腫、治療の経過は搬送から縫合と経過観察、約3時間後の急変、死因は血腫による脳の圧迫、そして挟まった事情は、頭部CT検査の後回しです。

判例最決平16・2・17 刑集58巻2号169頁

治療拒否事件(挟まった事情があっても傷害が死因なら因果関係あり) 以上のような事実関係等によれば,被告人らの行為により被害者の受けた前記の傷害は,それ自体死亡の結果をもたらし得る身体の損傷であって,仮に被害者の死亡の結果発生までの間に,上記のように被害者が医師の指示に従わず安静に努めなかったために治療の効果が上がらなかったという事情が介在していたとしても,被告人らの暴行による傷害と被害者の死亡との間には因果関係があるというべきであり,本件において傷害致死罪の成立を認めた原判断は,正当である。

評価の部分で見るのは、2か所です。1つ目は、「それ自体死亡の結果をもたらし得る身体の損傷」です。傷そのものの重さを、先に認めています。2つ目は、「介在していたとしても」です。傷が死に至り得るほど重いので、治療の効果が上がらなかったという事情が挟まっても、結論は動きません。ただし、この決定で挟まった可能性があるとされたのは、被害者自身が医師の指示に従わなかったことです。医師の落ち度が挟まった事案ではありません。医師の落ち度が重大で、それが別の死因を作ったとなると、結論が変わりえます。そこは、あとで事実を変えて見ます。

病院の対応を拾う観点 図:病院の対応を拾う観点

病院の対応を、2つの観点に分けて見ます。別の危険に変えたか、とは、挟まった事情が、死因を別のものに入れ替えていないか、ということです。もとの危険を超えて大きくしたか、とは、甲の傷がもともと持っていた危険に、挟まった事情が上乗せしていないか、ということです。この2つの観点で、病院の対応の事実を拾うと、どうなるでしょうか。

病院の対応を事実で拾い、評価する 図:病院の対応を事実で拾い、評価する

別の危険に変えたか、から見ます。担当医がしたのは、傷口の縫合と、経過の観察だけです。死因につながるような、処置や投薬による新たな傷や病変の所見は無く、死因は、最後まで、甲の暴行でできた同じ血腫のままでした。病院の対応は、死因を別のものに入れ替えていません。変えていません。たとえば、担当医が誤って別の薬を投与し、その副作用が死因になっていたなら、死因が入れ替わったことになり、話は変わります。今回は、そうではありません。次に、もとの危険を超えて大きくしたかです。CT検査と手術が遅れた間に、血腫は広がりました。けれども、その血腫は、受傷時の骨折部からの出血が続いて広がったものです。担当医が出血を増やしたのではありません。病院の対応は、危険を取り除く機会を逃したにとどまり、超えて大きくしてはいません。たとえば、担当医の操作で新たな出血が起きていたなら、もとの危険に上乗せしたことになります。今回の血腫は、受傷時の出血だけで広がっています。適切に処置されていれば、助かった可能性が高かったのなら、病院のせいで危険が大きくなったとは言えないか、という疑問が残ります。

比べる相手を取り違えない 図:比べる相手を取り違えない

危険が大きくなったかどうかは、なにと比べるかで決まります。適切に処置されていれば救命できた可能性が高かった、という事実は、比べる相手を取り違えさせます。「適切な処置で下がるはずだった状態」と比べると、病院のせいで危険が増えたように見えてしまいます。比べる相手は、甲の暴行がもともと作った危険です。それ自体、死亡しうる傷害の危険です。甲が問われているのは、Vを助けなかったことではなく、死に至る傷を作ったことだからです。助けていれば救えたかが物差しになるのは、助けなかったことを罪に問う場面です。病院の不備は、下がるはずだった危険が、下がらなかったにとどまります。放火された家に、消防車の到着が遅れて、家が全焼した場合を考えてみてください。間に合っていれば助かった家と比べて、消防が被害を増やした、とは言いません。家を燃やしたのは、つけられた火そのものです。火の勢いを上げる油をまいた人がいたなら、もとの危険を超えて大きくしたことになりますが、遅れただけなら、そうではありません。ですから、病院の対応は、甲の作った危険を、別の危険に変えても、もとの危険を超えて大きくしてもいません。死因は入れ替わらず、危険の上乗せもありません。Vの死亡は、甲の作った危険だけから生じています。2点目も、満たされます。

結論

因果関係の結論 図:因果関係の結論

結論です。条件関係があります。死因となった傷害は甲の暴行で形成され、病院の対応は危険を変えても大きくしてもいません。甲の暴行の危険性は、Vの死亡という結果へ、そのまま現実化しました。因果関係が認められ、甲には傷害致死罪、刑法205条が成立します。死因を作ったのは、担当医に落ち度があっても、甲の暴行のままです。担当医自身の責任は別の問題で、甲の罪責の判断には持ち込みません。

事実を変える——死因が入れ替わる場面

変形:引き倒しから手術中の死亡まで 図:変形:引き倒しから手術中の死亡まで

事実を変えて、結論が動く場面を見ます。規範も、条件関係の見方も、変わりません。同じ口論で、甲は、Vの胸ぐらをつかんで引き倒しただけだったとします。踏みつけてはいません。Vは路面で左肩を打ち、全治およそ1週間の打撲を負いました。頭は打っておらず、意識もはっきりしています。肩が痛くて立ち上がれず、救急搬送されます。ところが病院で、同じ時間帯に運ばれた別の患者と取り違えられ、Vは、本来受ける必要のない開腹手術を受けました。そして、手術中の大量の出血で、亡くなります。解剖の結果、死因は手術中の出血で、肩の打撲は死因と無関係でした。

元の事例と同じように、因果関係を認めてよいでしょうか。条件関係は、あります。甲が引き倒さなければ、Vは搬送されませんでした。ただ、そこで終わりません。見るのは、死因を形成したのは誰の行為か、です。この変形では、病院の手術です。甲の暴行がつくった傷は、命に関わらない打撲にとどまり、死因とはつながっていません。直接実現型では、書けません。ほかの書き方に乗るでしょうか。死因を形成したのが挟まった事情のほうでも、その事情を通って死に至る危険が、甲の暴行に含まれていたなら、危険は現実化したと書けます。そう書ける場面は2つです。1つは、甲の暴行が、挟まった事情を呼び込んだ場合で、間接実現型といいます。もう1つは、甲の暴行が、何かが加われば死んでしまう状態を作り、そこに、ありふれた出来事が加わった場合で、危険状況設定型といいます。患者の取り違えは、甲の暴行が呼び込んだものではありません。甲の暴行が作った危険は、肩の打撲という軽い傷で、開腹手術は、その傷とは関係のない取り違えから始まっています。命に関わる状態に置かれてもいません。かといって、病院で患者が取り違えられることは、ありふれた出来事でもありません。どの書き方にも乗りません。

どの書き方にも乗らない 図:どの書き方にも乗らない

ですから、因果関係は否定されます。甲に、傷害致死罪は成立しません。引き倒すという暴行の故意があり、打撲という傷害が生じていますから、傷害罪は成立します。条文を見ます。

条文刑法204条

刑法204条(傷害) 人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

死亡の結果は、甲に負わせられません。けれども、傷害を負わせた責任は、残ります。

元の事例と変形:死因を形成したのは誰か 図:元の事例と変形:死因を形成したのは誰か

元の事例とこの変形では、何が違ったのか。分かれ目は、死因を形成したのが、甲の暴行か、病院の手術か、です。元の事例では、病院が不注意でも、死因は甲の踏みつけでできた血腫でした。この変形では、病院が、新しい死因を作っています。

完成答案

完成答案:問題の所在、規範、条件関係 図:完成答案:問題の所在、規範、条件関係

こちらが完成答案です。1枚目は、問題の所在と、規範、条件関係です。

完成答案:死因となった傷害 図:完成答案:死因となった傷害

2枚目は、死因となった傷害です。

完成答案:病院の対応の不備、小括、結論 図:完成答案:病院の対応の不備、小括、結論

3枚目は、病院の対応の不備と、小括、結論です。

参照条文

  • 刑法205条
  • 刑法204条

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